説明

半導体装置およびその作製方法

【課題】高い電界効果移動度を有し、しきい値電圧のばらつきが小さく、かつ高い信頼性を有する酸化物半導体を用いたトランジスタを有する半導体装置を提供する。
【解決手段】加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板と、該絶縁体基板上に設けられた酸化物半導体膜と、を有し、該酸化物半導体膜にチャネルが形成されるトランジスタを有する半導体装置である。加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板は、絶縁体基板の少なくとも酸化物半導体膜が設けられる側に、酸素イオン注入を行うことで作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トランジスタなどの半導体素子を含む回路を有する半導体装置に関する。例えば、電源回路に搭載されるパワーデバイス、メモリ、サイリスタ、コンバータ、イメージセンサなどを含む半導体集積回路、液晶表示パネルに代表される電気光学装置、発光素子を有する発光表示装置などを部品として搭載した電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において半導体装置は、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電気光学装置、発光表示装置、半導体回路および電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0003】
液晶表示装置に代表されるように、ガラス基板などに形成されるトランジスタの多くは非晶質シリコン、多結晶シリコンなどによって構成されている。非晶質シリコンを用いたトランジスタは、電界効果移動度が低いもののガラス基板の大面積化に対応することができる。また、多結晶シリコンを用いたトランジスタは、電界効果移動度が高いもののガラス基板の大面積化には適していないという欠点を有している。
【0004】
シリコンを用いたトランジスタのほかに、近年は酸化物半導体を用いてトランジスタを作製し、電子デバイスや光デバイスに応用する技術が注目されている。例えば、酸化物半導体として、酸化亜鉛、In−Ga−Zn−O系酸化物を用いてトランジスタを作製し、表示装置の画素のスイッチング素子などに用いる技術が特許文献1および特許文献2で開示されている。
【0005】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、非晶質シリコンを用いたトランジスタと比較すると高い電界効果移動度を有するため表示装置の性能を著しく向上させることができると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−123861号公報
【特許文献2】特開2007−96055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、高い電界効果移動度を有するが、信頼性の面で十分でないことがあった。
【0008】
そこで、高い電界効果移動度を有する酸化物半導体膜を用いたトランジスタを提供することを課題の一とする。また、しきい値電圧のばらつきが小さい酸化物半導体膜を用いたトランジスタを提供することを課題の一とする。また、高い信頼性を有する半導体装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板と、該絶縁体基板上に設けられた酸化物半導体膜と、を有し、該酸化物半導体膜にチャネルが形成されるトランジスタを有する半導体装置である。
【0010】
酸化物半導体膜における酸素欠損に起因してトランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまうことがある。酸化物半導体膜における酸素欠損は、深い準位を形成するとされており、その一部が電子を生成、またはホールを捕獲する。絶縁体基板から酸化物半導体膜に酸素が十分に供給されることにより、しきい値電圧がマイナス方向へシフトする要因の一つである、酸化物半導体膜における酸素欠損を低減することができる。
【0011】
また、絶縁体基板から酸素が供給されること(過酸素化ともいう。)で、酸化物半導体膜と絶縁体基板との界面準位密度を低減することができる。この結果、トランジスタの動作などに起因して、酸化物半導体膜と絶縁体基板との界面にキャリアが捕獲されることを抑制することができ、電気的特性の劣化の少ないトランジスタを得ることができる。
【0012】
加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板は、絶縁体基板の少なくとも酸化物半導体膜が設けられる側に、酸素イオン注入を行うことで作製することができる。
【0013】
例えば、本発明の一態様に係る半導体装置は、加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板と、絶縁体基板上に設けられた酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜と接して設けられた一対の電極と、酸化物半導体膜および一対の電極を覆って設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜を介して酸化物半導体膜と重畳して設けられたゲート電極と、を有する。
【0014】
または、本発明の一態様に係る半導体装置は、加熱処理により酸素を放出する絶縁体基板と、絶縁体基板上に設けられた低抵抗領域および高抵抗領域を有する酸化物半導体膜と、酸化物半導体膜上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜を介して酸化物半導体膜と重畳して設けられたゲート電極と、を有する。
【0015】
酸化物半導体膜の低抵抗領域は、酸化物半導体膜の一部に対して、低抵抗化処理として例えばイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理を行うことで形成できる。
【0016】
酸化物半導体膜の低抵抗化処理の際、ゲート電極をマスクとしてイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理を行うと、低抵抗領域と高抵抗領域とを作り分けるためのフォトリソグラフィ工程が不要となり、コストが低減し、生産性が向上する。
【0017】
また、低抵抗化されない酸化物半導体膜の領域を高抵抗領域とする。
【0018】
前述の酸化物半導体膜は、スパッタリング法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法またはパルスレーザー堆積(PLD:Pulse Laser Deposition)法によって形成することができる。
【0019】
前述の酸化物半導体膜は、絶縁体基板上に酸化物半導体膜を成膜した後に加熱処理すること、または/および酸化物半導体膜を加熱処理しつつ成膜することで、酸素欠損に起因する準位を低減することができる。なお、酸化物半導体膜を加熱処理しつつ成膜し、かつ成膜後に加熱処理を行うと好ましい。
【発明の効果】
【0020】
このようにして、高い電界効果移動度を有し、しきい値電圧のばらつきが小さく、かつ高い信頼性を有する酸化物半導体にチャネルが形成されるトランジスタを有する半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】半導体装置の一例を示す上面図および断面図。
【図2】半導体装置の一例を示す上面図および断面図。
【図3】半導体装置の一例を示す上面図および断面図。
【図4】半導体装置の一例を示す上面図および断面図。
【図5】半導体装置の作製方法の一例を示す断面図。
【図6】半導体装置の作製方法の一例を示す断面図。
【図7】半導体装置の作製方法の一例を示す断面図。
【図8】半導体装置の作製方法の一例を示す断面図。
【図9】半導体装置の作製方法の一例を示す断面図。
【図10】本発明の一態様であるトランジスタを用いた液晶表示装置の一例を示す回路図。
【図11】本発明の一態様に係るトランジスタを用いた半導体記憶装置の一例を示す回路図および電気的特性を示す図。
【図12】本発明の一態様に係るトランジスタを用いた半導体記憶装置の一例を示す回路図および電気的特性を示す図。
【図13】本発明の一態様に係るトランジスタを用いたCPUの具体例を示すブロック図およびその一部の回路図。
【図14】本発明の一態様に係る電子機器の一例を示す斜視図。
【図15】ガラス基板への16Oイオン注入の深さ方向分布を示す計算結果。
【図16】ガラス基板の酸素放出を示すTDS結果。
【図17】本発明の一態様に係る酸化物半導体の結晶構造を説明する図。
【図18】本発明の一態様に係る酸化物半導体の結晶構造を説明する図。
【図19】本発明の一態様に係る酸化物半導体の結晶構造を説明する図。
【図20】本発明の一態様に係る酸化物半導体の結晶構造を説明する図。
【図21】計算によって得られた電界効果移動度のゲート電圧Vgs依存性を説明する図。
【図22】計算によって得られたドレイン電流Idsおよび電界効果移動度のゲート電圧Vgs依存性を説明する図。
【図23】計算によって得られたドレイン電流Idsおよび電界効果移動度のゲート電圧Vgs依存性を説明する図。
【図24】計算によって得られたドレイン電流Idsおよび電界効果移動度のゲート電圧Vgs依存性を説明する図。
【図25】計算に用いたトランジスタの上面図および断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更しうることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0023】
以下、本発明の説明を行うが、本明細書で用いる用語について簡単に説明する。まず、トランジスタのソースおよびドレインについては、本明細書においては、一方をドレインと呼ぶとき他方をソースと呼び、電位の高低によって、それらを区別しない。従って、本明細書において、ソースとされている部分をドレインと読み替えることもできる。また、単にソースと記載する場合、ソース電極およびソース領域のいずれかを示す。また、単にドレインと記載する場合、ドレイン電極およびドレイン領域のいずれかを示す。
【0024】
電圧は、ある電位と、基準の電位(例えばソース電位、グラウンド電位)との電位差のことを示す場合が多い。よって、電圧と電位とを言い換えることが可能である。
【0025】
本明細書においては、「接続する」と表現される場合であっても、現実の回路においては、物理的な接続部分がなく、配線が延在しているだけの場合もある。また、抵抗素子などの、回路の動作に著しい作用を与えない素子が間に含まれていても構わない。
【0026】
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜上用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。また、本明細書において発明を特定するための事項として固有の名称を示すものではない。
【0027】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置であるトランジスタの一例について図1を用いて説明する。
【0028】
図1(A)はトランジスタの上面図である。図1(A)に示した一点鎖線A−Bにおける断面は、図1(B)に示すA−B断面に対応する。
【0029】
ここでは、図1(B)に示すA−B断面について詳細に説明する。
【0030】
図1に示すトランジスタは、基板100と、基板100上の酸化物半導体膜106と、酸化物半導体膜106上にあり、酸化物半導体膜106と少なくとも一部が接する一対の電極116と、酸化物半導体膜106および一対の電極116上のゲート絶縁膜112と、ゲート絶縁膜112を介して酸化物半導体膜106と重畳するゲート電極104と、を有する。
【0031】
基板100は、加熱処理により酸素を放出する基板を用いる。
【0032】
「加熱処理により酸素を放出する」とは、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離ガス分光法)分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が3.0×1014atoms/cm以上、1.0×1015atoms/cm以上、3.0×1015atoms/cm以上、5.0×1015atoms/cm以上、または1.0×1016atoms/cm以上であることをいう。
【0033】
なお、酸素の放出量は、TDS分析において、基板温度が150℃以上700℃以下、好ましくは200℃以上650℃以下、さらに好ましくは250℃以上470℃以下の範囲で測定する。これは、例えば、基板温度が150℃未満で起こる酸素の放出が、主として基板表面に吸着した、比較的安定性の低い酸素起因と推定されるためである。また、基板温度を700℃以下の範囲とすることで、トランジスタの作製工程に即した酸素の放出量を評価していることになる。
【0034】
ここで、TDS分析を用いた酸素の放出量の測定方法について、以下に説明する。
【0035】
TDS分析したときの気体の全放出量は、放出ガスのイオン強度の積分値に比例する。そしてこの積分値と標準試料との比較により、気体の全放出量を計算することができる。
【0036】
例えば、標準試料である所定の密度の水素を含むシリコンウェハのTDS分析結果、および絶縁膜のTDS分析結果から、絶縁膜の酸素分子の放出量(NO2)は、数式1で求めることができる。ここで、TDS分析で得られる質量電荷比(m/z)32で検出されるガスの全てが酸素分子由来と仮定する。m/z=32のものとしてほかにCHOHがあるが、存在する可能性が低いものとしてここでは考慮しない。また、酸素原子の同位体であるm/z=17の酸素原子およびm/z=18の酸素原子を含む酸素分子についても、自然界における存在比率が極微量であるため考慮しない。
【0037】
【数1】

【0038】
H2は、標準試料から脱離した水素分子を密度で換算した値である。SH2は、標準試料をTDS分析したときのイオン強度の積分値である。ここで、標準試料の基準値を、NH2/SH2とする。SO2は、絶縁膜をTDS分析したときのイオン強度の積分値である。αは、TDS分析におけるイオン強度に影響する係数である。数式1の詳細に関しては、特開平6−275697公報を参照する。なお、上記絶縁膜の酸素の放出量は、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置EMD−WA1000S/Wを用い、標準試料として1×1016atoms/cmの水素原子を含むシリコンウェハを用いて測定した。
【0039】
また、TDS分析において、酸素の一部は酸素原子として検出される。酸素分子と酸素原子の比率は、酸素分子のイオン化率から算出することができる。なお、上述のαは酸素分子のイオン化率を含むため、酸素分子の放出量を評価することで、酸素原子の放出量についても見積もることができる。
【0040】
なお、NO2は酸素分子の放出量である。酸素分子の放出量を酸素原子の放出量に換算すると、酸素分子の放出量の2倍が酸素原子の放出量となる。
【0041】
なお、酸化物半導体膜における酸素欠損に起因してトランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまうことがある。酸化物半導体膜における酸素欠損は、深い準位を形成するとされており、その一部が電子を生成、またはホールを捕獲する。本発明の一態様に係るトランジスタにおいては、基板100から酸化物半導体膜106に酸素が十分に供給され、しきい値電圧がマイナス方向へシフトする要因である、酸化物半導体膜106における酸素欠損を低減することができる。
【0042】
また、基板100から酸素が供給されることで、酸化物半導体膜106と基板100との界面準位密度を低減することができる。この結果、トランジスタの動作などに起因して、酸化物半導体膜106と基板100との界面にキャリアが捕獲されることを抑制することができ、電気的特性の劣化の少ないトランジスタを得ることができる。
【0043】
なお、基板100から酸素が放出されることで、基板100に含まれる加熱処理により放出する酸素の量が低下することがあるが、基板100上にトランジスタが設けられているため、酸素の外方拡散が抑制され、その変化は僅かとなる。
【0044】
基板100は、材料に大きな制限はないが、少なくとも、絶縁性を有する絶縁体基板である。また、後の加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有する。例えば、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などを、基板100として用いてもよい。なお、後の加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有すればプラスチック基板を用いてもよい。
【0045】
基板100は、トランジスタの作製面の平坦性が高いと、後に形成する酸化物半導体膜106が結晶性を有しやすくなるため好ましい。
【0046】
具体的には、平均面粗さ(Ra)が1nm以下、好ましくは0.3nm以下である基板100を用いる。なお、Raは、JIS B 0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている算術平均粗さを曲面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」で表現でき、数式2にて定義される。
【0047】
【数2】

【0048】
ここで、測定面とは、粗さ計測の対象となる面であり、座標((x,y,f(x,y))(x,y,f(x,y))(x,y,f(x,y))(x,y,f(x,y))の4点で表される四角形の領域とし、指定面をxy平面に投影した長方形の面積をS、指定面の平均高さをZとする。Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価可能である。
【0049】
酸化物半導体膜106として、例えば、二元系金属の酸化物であるIn−Zn−O系材料、Sn−Zn−O系材料、Al−Zn−O系材料、Zn−Mg−O系材料、Sn−Mg−O系材料、In−Mg−O系材料、In−Ga−O系材料、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn−O系材料、In−Al−Zn−O系材料、In−Sn−Zn−O系材料、Sn−Ga−Zn−O系材料、Al−Ga−Zn−O系材料、Sn−Al−Zn−O系材料、In−Hf−Zn−O系材料、In−La−Zn−O系材料、In−Ce−Zn−O系材料、In−Pr−Zn−O系材料、In−Nd−Zn−O系材料、In−Sm−Zn−O系材料、In−Eu−Zn−O系材料、In−Gd−Zn−O系材料、In−Tb−Zn−O系材料、In−Dy−Zn−O系材料、In−Ho−Zn−O系材料、In−Er−Zn−O系材料、In−Tm−Zn−O系材料、In−Yb−Zn−O系材料、In−Lu−Zn−O系材料、In−Ni−Zn−O系材料、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系材料、In−Hf−Ga−Zn−O系材料、In−Al−Ga−Zn−O系材料、In−Sn−Al−Zn−O系材料、In−Sn−Hf−Zn−O系材料、In−Hf−Al−Zn−O系材料を用いることができる。
【0050】
例えば、In−Ga−Zn−O系材料とは、In、GaおよびZnを主成分として有する酸化物という意味であり、In、GaおよびZnの原子数比は問わない。
【0051】
酸化物半導体膜106としてIn−Zn−O系材料を用いる場合、原子数比で、In/Zn=0.5以上50以下、好ましくはIn/Zn=1以上20以下、さらに好ましくはIn/Zn=1.5以上15以下とする。Znの原子数比を前述の範囲とすることで、トランジスタの電界効果移動度を向上させることができる。ここで、化合物の原子数比がIn:Zn:O=X:Y:Zのとき、Z>1.5X+Yとすると好ましい。
【0052】
酸化物半導体膜106として、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される材料を用いてもよい。ここで、Mは、Zn、Ga、Al、Mn、Sn、HfおよびCoから選ばれた一または複数の金属元素を示す。例えば、Mとして、Ga、GaおよびAl、GaおよびMnまたはGaおよびCoなどを用いてもよい。
【0053】
酸化物半導体膜106は、トランジスタのオフ電流を低減するため、バンドギャップが2.5eV以上、好ましくは2.8eV以上、さらに好ましくは3.0eV以上の材料を選択する。ただし、酸化物半導体膜に代えて、バンドギャップが前述の範囲である半導体性を示す材料を用いても構わない。
【0054】
酸化物半導体にとって不純物である水素は、一部がドナーとなりキャリアを生成する。そのため、酸化物半導体膜106中の水素濃度は、5×1018atoms/cm未満、好ましくは1×1018atoms/cm以下、より好ましくは5×1017atoms/cm以下、さらに好ましくは1×1016atoms/cm以下とする。
【0055】
アルカリ金属は酸化物半導体を構成する元素ではないため、不純物である。アルカリ土類金属も、酸化物半導体を構成する元素ではない場合において、不純物となる。特に、アルカリ金属のうちナトリウム(Na)は、酸化物半導体膜に接する絶縁膜中に拡散してNaとなる。また、Naは、酸化物半導体膜内において、酸化物半導体を構成する金属と酸素の結合を分断する、または、その結合中に割り込む。その結果、例えば、しきい値電圧がマイナス方向にシフトすることによるノーマリオン化、電界効果移動度の低下などの、トランジスタ特性の劣化が起こり、加えて、特性のばらつきも生じる。従って、酸化物半導体膜中の上記不純物の濃度を低減することが望ましい。具体的に、Na濃度は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)において、5×1016atoms/cm以下、好ましくは1×1016atoms/cm以下、さらに好ましくは1×1015atoms/cm以下とする。同様に、リチウム(Li)濃度の測定値は、5×1015atoms/cm以下、好ましくは1×1015atoms/cm以下とする。同様に、カリウム(K)濃度の測定値は、5×1015atoms/cm以下、好ましくは1×1015atoms/cm以下とする。
【0056】
酸化物半導体膜106は、水素、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などが低減され、極めて不純物濃度の低い酸化物半導体膜である。そのため、酸化物半導体膜106をチャネル領域に用いたトランジスタはオフ電流を小さくできる。
【0057】
以上に示した酸化物半導体膜106を用いることでトランジスタのオフ電流を小さくできる。例えば、チャネル長が3μm、チャネル幅が1μmのときのトランジスタのオフ電流を1×10−18A以下、または1×10−21A以下、または1×10−24A以下とすることができる。
【0058】
なお、In−Sn−Zn−O系材料を用いたトランジスタでは高い電界効果移動度が比較的容易に得られる。具体的には、トランジスタの電界効果移動度を31cm/Vs以上、40cm/Vs以上、60cm/Vs以上、80cm/Vs以上または100cm/Vs以上とすることができる。なお、In−Sn−Zn−O系材料以外(例えばIn−Ga−Zn−O系材料)でも、欠陥密度を低減することにより電界効果移動度を高めることができる。
【0059】
以下にトランジスタの電界効果移動度について図21乃至図24を用いて説明する。
【0060】
酸化物半導体に限らず、トランジスタの電界効果移動度は、様々な理由によって本来の得られるはずの電界効果移動度よりも低く測定される。電界効果移動度を低下させる要因としては半導体内部の欠陥や半導体と絶縁膜との界面における欠陥がある。ここでは、Levinsonモデルを用い、半導体内部に欠陥がないと仮定した場合の電界効果移動度を理論的に導き出す。
【0061】
本来のトランジスタの電界効果移動度をμとし、半導体中に何らかのポテンシャル障壁(粒界など)が存在すると仮定したときに測定される電界効果移動度μは数式3で表される。
【0062】
【数3】

【0063】
ここで、Eはポテンシャル障壁の高さであり、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。なお、Levinsonモデルでは、ポテンシャル障壁の高さEが欠陥に由来すると仮定し、ポテンシャル障壁の高さは数式4で表される。
【0064】
【数4】

【0065】
ここで、eは電気素量、Nはチャネル内の単位面積あたりの平均欠陥密度、εは半導体の誘電率、nはチャネルの単位面積あたりのキャリア密度、Coxは単位面積当たりのゲート絶縁膜容量、Vgsはゲート電圧、tはチャネルの厚さである。なお、厚さが30nm以下の半導体層であれば、チャネルの厚さは半導体層の厚さと同一として差し支えない。
【0066】
線形領域におけるドレイン電流Idsは、数式5で表される。
【0067】
【数5】

【0068】
ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅であり、ここでは、LおよびWは10μmとする。また、Vはドレイン電圧である。
【0069】
数式5の両辺の対数を取ると、数式6で表される。
【0070】
【数6】

【0071】
数式6の右辺はゲート電圧Vgsの関数であるため、縦軸をln(Ids/Vgs)、横軸を1/Vgsとして実測値をプロットして得られるグラフの直線の傾きから欠陥密度Nが求められる。即ち、トランジスタのVgs−Ids特性から半導体中の欠陥密度Nが得られる。
【0072】
半導体中の欠陥密度Nは半導体の成膜時の基板加熱温度に依存する。半導体として、In、SnおよびZnの比率が、In:Sn:Zn=1:1:1[原子数比]のIn−Sn−Zn−Oターゲットを用いて成膜した酸化物半導体を用いた場合、酸化物半導体中の欠陥密度Nは1×1012/cm程度となる。
【0073】
上述した酸化物半導体中の欠陥密度Nをもとに、数式3および数式4を用いて計算すると、本来のトランジスタの電界効果移動度μは120cm/Vsとなる。従って、酸化物半導体中および酸化物半導体と接するゲート絶縁膜との界面に欠陥がない、理想的なトランジスタの電界効果移動度μは120cm/Vsとわかる。ところが、欠陥の多い酸化物半導体では、トランジスタの電界効果移動度μは30cm/Vs程度である。
【0074】
また、半導体内部に欠陥がなくても、チャネル領域とゲート絶縁膜との界面散乱によってトランジスタの輸送特性は影響を受ける。ゲート絶縁膜界面からxだけ離れた場所における電界効果移動度μは、数式7で表される。
【0075】
【数7】

【0076】
ここで、Dはゲート電極による電界強度、Bは定数、lは界面散乱の影響が生じる深さである。Bおよびlは、トランジスタの電気的特性の実測より求めることができ、上記酸化物半導体を用いたトランジスタの電気的特性の実測からは、B=4.75×10cm/s、l=10nmが得られる。Dが増加すると、即ちゲート電圧Vgsが高くなると、数式7の第2項が増加するため、電界効果移動度μは低下することがわかる。
【0077】
酸化物半導体中および酸化物半導体と接するゲート絶縁膜との界面に欠陥のない、理想的なトランジスタの電界効果移動度μを計算した結果を図21に示す。なお、計算にはシノプシス社製Sentaurus Deviceを使用し、酸化物半導体のバンドギャップを2.8eV、電子親和力を4.7eV、比誘電率を15、厚さを15nmとした。さらに、ゲートの仕事関数を5.5eV、ソースおよびドレインの仕事関数を4.6eVとした。また、ゲート絶縁膜の厚さは100nm、比誘電率を4.1とした。また、チャネル長およびチャネル幅はともに10μm、ドレイン電圧Vdsは0.1Vとした。
【0078】
図21で示されるように、ゲート電圧Vgsが1V近傍で電界効果移動度μは100cm/Vs以上のピークを有するが、ゲート電圧Vgsがさらに高くなると、界面散乱の影響が大きくなり、電界効果移動度μが低下することがわかる。
【0079】
このような理想的なトランジスタを微細化した場合について、計算した結果を図22乃至図24に示す。なお、計算には図25に示した構造のトランジスタを仮定している。
【0080】
次に、図25に示すトランジスタの構造について説明する。図25(A)はトランジスタの上面図である。図25(A)に示す一点鎖線A−Bに対応する断面図が図25(B)である。
【0081】
図25(B)に示すトランジスタは、基板100上に設けられた下地絶縁膜3002と、下地絶縁膜3002の周辺に設けられた保護膜3020と、下地絶縁膜3002および保護膜3020上に設けられた、高抵抗領域3006aおよび低抵抗領域3006bを含む酸化物半導体膜3006と、酸化物半導体膜3006上に設けられたゲート絶縁膜3012と、ゲート絶縁膜3012を介して酸化物半導体膜3006に重畳して設けられたゲート電極3004と、ゲート電極3004の側面に接して設けられた側壁絶縁膜3024と、酸化物半導体膜3006上にあり、少なくとも酸化物半導体膜3006と一部を接して設けられた一対の電極3016と、ゲート電極3004、側壁絶縁膜3024および一対の電極3016を覆って設けられた保護絶縁膜3018と、保護絶縁膜3018に設けられた開口部を介して一対の電極3016と接して設けられた配線3022と、を有する。
【0082】
ここで、低抵抗領域3006bの抵抗率を2×10−3Ωcm、ゲート電極3004の幅を33nm、側壁絶縁膜3024の幅を5nm、チャネル幅を40nmとする。なお、チャネル領域を便宜上高抵抗領域3006aという名称で記載しているが、ここではチャネル領域を真性半導体と仮定している。
【0083】
計算にはシノプシス社製Sentaurus Deviceを使用した。図22は、図25(B)に示される構造のトランジスタのドレイン電流Ids(実線)および電界効果移動度μ(点線)のゲート電圧Vgs依存性である。なお、ドレイン電流Idsはドレイン電圧Vdsを1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧Vdsを0.1Vとして計算している。ここで、ゲート絶縁膜の厚さが15nmとした場合を図22(A)に、10nmとした場合を図22(B)に、5nmとした場合を図22(C)にそれぞれ示す。
【0084】
図22より、ゲート絶縁膜が薄くなるほど、オフ状態(ここではゲート電圧Vgsが−3Vから0Vの範囲を指す。)でのドレイン電流Idsが低下する。一方、電界効果移動度μのピーク値やオン状態(ここではゲート電圧Vgsが0Vから3Vの範囲を指す。)でのドレイン電流Idsには目立った変化がない。図22より、ゲート電圧Vgsが1V近傍でドレイン電流Idsは半導体装置であるメモリなどに必要とされる10μAを超えることがわかる。
【0085】
同様に、図25(C)で示されるトランジスタについて計算を行っている。図25(C)で示されるトランジスタは、高抵抗領域3007aおよび低抵抗領域3007bを有する酸化物半導体膜3007を有する点で、図25(B)で示されるトランジスタとは異なる。具体的には、図25(C)で示されるトランジスタは、側壁絶縁膜3024と重畳する酸化物半導体膜3007の領域が高抵抗領域3007aに含まれる。即ち、該トランジスタは側壁絶縁膜3024の幅だけオフセット領域を有するトランジスタである。なお、オフセット領域の幅をオフセット長(Loff)ともいう(図25(A)参照。)。なお、Loffは便宜上左右で同じ幅としている。
【0086】
図25(C)で示されるトランジスタにおいて、Loffを5nmとし、ドレイン電流Ids(実線)および電界効果移動度μ(点線)のゲート電圧Vgs依存性を図23に示す。なお、ドレイン電流Idsは、ドレイン電圧Vdsを1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧Vdsを0.1Vとして計算している。ここで、ゲート絶縁膜の厚さが15nmとした場合を図23(A)に、10nmとした場合を図23(B)に、5nmとした場合を図23(C)にそれぞれ示す。
【0087】
また、図24は、図25(C)に示されるトランジスタの構造から、Loffを15nmとしたもののドレイン電流Ids(実線)および電界効果移動度μ(点線)のゲート電圧Vgs依存性である。なお、ドレイン電流Idsは、ドレイン電圧Vdsを1Vとし、電界効果移動度μはドレイン電圧Vdsを0.1Vとして計算している。ここで、ゲート絶縁膜の厚さが15nmとした場合を図24(A)に、10nmとした場合を図24(B)に、5nmとした場合を図24(C)にそれぞれ示す。
【0088】
図23および図24に示した計算結果より、図22と同様に、いずれもゲート絶縁膜が薄くなるほどオフ状態(ここではゲート電圧Vgsが−3Vから0Vの範囲を指す。)でのドレイン電流Idsが低下する。一方、電界効果移動度μのピーク値やオン状態(ここではゲート電圧Vgsが0Vから3Vの範囲を指す。)でのドレイン電流Idsには目立った変化がないとわかる。
【0089】
なお、電界効果移動度μのピークは、図22では80cm/Vs程度であるが、図23では60cm/Vs程度、図24では40cm/Vs程度と、Loffが増加するほど低下することがわかる。また、オフ状態でのドレイン電流Idsも同様の傾向となることがわかる。一方、オン状態のドレイン電流IdsはLoffの増加に伴って低下するが、オフ状態のドレイン電流Idsの低下に比べるとはるかに緩やかである。また、いずれの計算結果からもゲート電圧Vgsが1V近傍で、ドレイン電流Idsはメモリなどに必要とされる10μAを超えることがわかる。
【0090】
以上でトランジスタの電界効果移動度についての説明を終了する。
【0091】
酸化物半導体膜106は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)または非晶質などの状態をとる。
【0092】
好ましくは、酸化物半導体膜106は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0093】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部および非晶質部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0094】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0095】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0096】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0097】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気的特性の変動を低減することが可能である。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0098】
CAAC−OS膜の結晶構造の一例について図17乃至図20を用いて詳細に説明する。なお、特に断りがない限り、図17乃至図20は上方向をc軸方向とし、c軸方向と直交する面をab面とする。なお、単に上半分、下半分という場合、ab面を境にした場合の上半分、下半分をいう。また、図17において、丸で囲まれたOは4配位のOを示し、二重丸で囲まれたOは3配位のOを示す。
【0099】
図17(A)に、1個の6配位のInと、Inに近接の6個の4配位の酸素原子(以下4配位のO)と、を有する構造を示す。ここでは、金属原子が1個に対して、近接の酸素原子のみ示した構造を小グループと呼ぶ。図17(A)の構造は、八面体構造をとるが、簡単のため平面構造で示している。なお、図17(A)の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがある。図17(A)に示す小グループは電荷が0である。
【0100】
図17(B)に、1個の5配位のGaと、Gaに近接の3個の3配位の酸素原子(以下3配位のO)と、Gaに近接の2個の4配位のOと、を有する構造を示す。3配位のOは、いずれもab面に存在する。図17(B)の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがある。また、Inも5配位をとるため、図17(B)に示す構造をとりうる。図17(B)に示す小グループは電荷が0である。
【0101】
図17(C)に、1個の4配位のZnと、Znに近接の4個の4配位のOと、を有する構造を示す。図17(C)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。または、図17(C)の上半分に3個の4配位のOがあり、下半分に1個の4配位のOがあってもよい。図17(C)に示す小グループは電荷が0である。
【0102】
図17(D)に、1個の6配位のSnと、Snに近接の6個の4配位のOと、を有する構造を示す。図17(D)の上半分には3個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図17(D)に示す小グループは電荷が+1となる。
【0103】
図17(E)に、2個のZnを含む小グループを示す。図17(E)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には1個の4配位のOがある。図17(E)に示す小グループは電荷が−1となる。
【0104】
ここでは、複数の小グループの集合体を中グループと呼び、複数の中グループの集合体を大グループ(ユニットセルともいう。)と呼ぶ。
【0105】
ここで、これらの小グループ同士が結合する規則について説明する。図17(A)に示す6配位のInの上半分の3個のOは、下方向にそれぞれ3個の近接Inを有し、下半分の3個のOは、上方向にそれぞれ3個の近接Inを有する。図17(B)に示す5配位のGaの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Gaを有し、下半分の1個のOは上方向に1個の近接Gaを有する。図17(C)に示す4配位のZnの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Znを有し、下半分の3個のOは、上方向にそれぞれ3個の近接Znを有する。この様に、金属原子の上方向の4配位のOの数と、そのOの下方向にある近接金属原子の数は等しく、同様に金属原子の下方向の4配位のOの数と、そのOの上方向にある近接金属原子の数は等しい。Oは4配位なので、下方向にある近接金属原子の数と、上方向にある近接金属原子の数の和は4になる。従って、金属原子の上方向にある4配位のOの数と、別の金属原子の下方向にある4配位のOの数との和が4個のとき、金属原子を有する二種の小グループ同士は結合することができる。例えば、6配位の金属原子(InまたはSn)が下半分の4配位のOを介して結合する場合、4配位のOが3個であるため、5配位の金属原子(GaまたはIn)、または4配位の金属原子(Zn)のいずれかと結合することになる。
【0106】
これらの配位数を有する金属原子は、c軸方向において、4配位のOを介して結合する。また、このほかにも、層構造の合計の電荷が0となるように複数の小グループが結合して中グループを構成する。
【0107】
図18(A)に、In−Sn−Zn−O系材料の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。図18(B)に、3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図18(C)は、図18(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示す。
【0108】
図18(A)においては、簡単のため、3配位のOは省略し、4配位のOは個数のみ示し、例えば、Snの上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがあることを丸枠の3として示している。同様に、図18(A)において、Inの上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがあり、丸枠の1として示している。また、同様に、図18(A)において、下半分には1個の4配位のOがあり、上半分には3個の4配位のOがあるZnと、上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがあるZnとを示している。
【0109】
図18(A)において、In−Sn−Zn−O系材料の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnが、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に3個の4配位のOがあるZnと結合し、そのZnの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に1個の4配位のOがあるZn2個からなる小グループと結合し、この小グループの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0110】
ここで、3配位のOおよび4配位のOの場合、結合1本当たりの電荷はそれぞれ−0.667、−0.5と考えることができる。例えば、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Sn(5配位または6配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+4である。従って、Snを含む小グループは電荷が+1となる。そのため、Snを含む層構造を形成するためには、電荷+1を打ち消す電荷−1が必要となる。電荷−1をとる構造として、図17(E)に示すように、2個のZnを含む小グループが挙げられる。例えば、Snを含む小グループが1個に対し、2個のZnを含む小グループが1個あれば、電荷が打ち消されるため、層構造の合計の電荷を0とすることができる。
【0111】
具体的には、図18(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Sn−Zn−O系材料の結晶(InSnZn)を得ることができる。なお、得られるIn−Sn−Zn−O系材料の層構造は、InSnZnO(ZnO)(mは自然数。)とする組成式で表すことができる。
【0112】
また、このほかにも、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系材料や、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn−O系材料、In−Al−Zn−O系材料、Sn−Ga−Zn−O系材料、Al−Ga−Zn−O系材料、Sn−Al−Zn−O系材料や、In−Hf−Zn−O系材料、In−La−Zn−O系材料、In−Ce−Zn−O系材料、In−Pr−Zn−O系材料、In−Nd−Zn−O系材料、In−Sm−Zn−O系材料、In−Eu−Zn−O系材料、In−Gd−Zn−O系材料、In−Tb−Zn−O系材料、In−Dy−Zn−O系材料、In−Ho−Zn−O系材料、In−Er−Zn−O系材料、In−Tm−Zn−O系材料、In−Yb−Zn−O系材料、In−Lu−Zn−O系材料、In−Ni−Zn−O系材料や、二元系金属の酸化物であるIn−Zn−O系材料、Sn−Zn−O系材料、Al−Zn−O系材料、Zn−Mg−O系材料、Sn−Mg−O系材料、In−Mg−O系材料や、In−Ga−O系材料の材料などを用いた場合も同様である。
【0113】
例えば、図19(A)に、In−Ga−Zn−O系材料の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。
【0114】
図19(A)において、In−Ga−Zn−O系材料の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInが、4配位のOが1個上半分にあるZnと結合し、そのZnの下半分の3個の4配位のOを介して、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるGaと結合し、そのGaの下半分の1個の4配位のOを介して、4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0115】
図19(B)に3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図19(C)は、図19(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示している。
【0116】
ここで、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Ga(5配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+3であるため、In、ZnおよびGaのいずれかを含む小グループは、電荷が0となる。そのため、これらの小グループの組み合わせであれば中グループの合計の電荷は常に0となる。
【0117】
また、In−Ga−Zn−O系材料の層構造を構成する中グループは、図19(A)に示した中グループに限定されず、In、Ga、Znの配列が異なる中グループを組み合わせた大グループも取りうる。
【0118】
具体的には、図19(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Ga−Zn−O系材料の結晶を得ることができる。なお、得られるIn−Ga−Zn−O系材料の層構造は、InGaO(ZnO)(nは自然数。)とする組成式で表すことができる。
【0119】
n=1(InGaZnO)の場合は、例えば、図20(A)に示す結晶構造を取りうる。なお、図20(A)に示す結晶構造において、図17(B)で説明したように、GaおよびInは5配位をとるため、GaがInに置き換わった構造も取りうる。
【0120】
また、n=2(InGaZn)の場合は、例えば、図20(B)に示す結晶構造を取りうる。なお、図20(B)に示す結晶構造において、図17(B)で説明したように、GaおよびInは5配位をとるため、GaがInに置き換わった構造も取りうる。
【0121】
以上で、CAAC−OS膜の結晶構造についての説明を終了する。
【0122】
再び図1の説明に戻る。ゲート電極104は、単層または積層構造とすればよく、Al、Ti、Cr、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Mo、Ag、TaおよびW、それらの窒化物、酸化物ならびに合金から一種以上選択し、単層でまたは積層で用いればよい。
【0123】
なお、図1ではゲート電極104が酸化物半導体膜106を完全に覆う形状ではないが、ゲート電極104が酸化物半導体膜106を完全に覆う形状とすることで酸化物半導体膜106の光による劣化、電荷の発生を抑制しても構わない。
【0124】
一対の電極116は、トランジスタの動作に伴いソース電極およびドレイン電極として機能する。
【0125】
一対の電極116は、ゲート電極104と同様の材料を用いればよい。
【0126】
一対の電極116にCuを含む膜を用いると、一対の電極116と同一層で配線が設けられる場合、配線の抵抗を低減され、大型表示装置においても配線遅延の発生を低減することができる。一対の電極116にCuを用いる場合、基板100の材質によっては密着性が悪くなるため、基板100と密着性のよい膜との積層構造にすることが好ましい。基板100と密着性のよい膜として、Ti、Mo、Mn、CuまたはAlなどを含む膜を用いればよい。例えば、Ti膜、窒化チタン膜、Ti−Mo合金膜またはCu−Mn−Al合金膜を用いてもよい。
【0127】
ゲート絶縁膜112は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムまたはYSZ(酸化イットリウムで安定化した酸化ジルコニウム)などを、単層で、または積層して用いればよい。また、ゲート絶縁膜112は、加熱処理により酸素を放出する膜を用いると好ましい。加熱処理により酸素を放出する膜を用いることで、酸化物半導体膜106に生じる欠陥を修復することができ、トランジスタの電気的特性の劣化を抑制できる。
【0128】
酸化窒化シリコンとは、その組成において、窒素よりも酸素の含有量が多いものを示し、例えば、酸素が50原子%以上70原子%以下、窒素が0.5原子%以上15原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が0原子%以上10原子%以下の範囲で含まれるものをいう。また、窒化酸化シリコンとは、その組成において、酸素よりも窒素の含有量が多いものを示し、例えば、酸素が5原子%以上30原子%以下、窒素が20原子%以上55原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が10原子%以上25原子%以下の範囲で含まれるものをいう。但し、上記範囲は、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)や、水素前方散乱法(HFS:Hydrogen Forward scattering Spectrometry)を用いて測定した場合のものである。また、構成元素の組成は、その合計が100原子%を超えない値をとる。
【0129】
図1に示すトランジスタは、基板100に加熱処理により酸素を放出する基板を用いることで、酸化物半導体膜106の下地膜を設けなくても良好な電気的特性を有するトランジスタとすることができる。
【0130】
また、下地膜を設けない構造とすることで、基板と下地膜との界面準位が生じない。そのため、該界面準位に起因するトランジスタの電気的特性の劣化を低減することができ、信頼性の高いトランジスタを得ることができる。
【0131】
ただし、基板100上に下地膜を設ける構造を除外するものではない。例えば、基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けても構わない。具体的には、基板100上に1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上50nm以下の酸化シリコン膜または酸化窒化シリコン膜を設けてもよい。
【0132】
または、酸素透過性の低い材料でも、極薄膜であれば酸素を透過することがある。具体的には、前述の酸素透過性のある膜に代えて、1nm以上15nm未満、好ましくは1nm以上10nm未満の酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化ハフニウムおよび酸化タンタル、酸化タングステンから選ばれた一種以上を含む膜を用いても構わない。
【0133】
このように、加熱処理により酸素を放出する基板上に酸素透過性のある下地膜を設けた場合、基板と下地膜との界面準位密度は、加熱処理により放出された酸素で低減される。
【0134】
また、下地膜を有することで、基板100から酸化物半導体膜106への不純物の拡散を防ぐことができる。
【0135】
次に、図1に示すトランジスタの作製方法について、図5を用いて説明する。
【0136】
まず、基板100のトランジスタの作製面に、酸素イオンを注入する(図5(A)参照。)。
【0137】
酸素イオン注入は、酸素イオンの注入濃度のピーク深さが10nm以上120nm未満、好ましくは40nm以上70nm以下となるように、酸素イオン注入の条件を決めればよい。酸素イオンの注入濃度のピーク深さを前述の範囲とすることで、酸素の放出温度を200℃以上700℃以下、好ましくは250℃以上550℃以下とすることができる。
【0138】
例えば、酸素イオン注入は以下の条件で行う。加速電圧は5keV以上50keV未満、好ましくは20keV以上30keV以下とする。酸素イオンの注入量は、3.0×1014ions/cm以上、好ましくは1.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは3.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは5.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは1.0×1016ions/cm以上とする。なお、酸素イオンの注入量が多すぎると生産性の低下へと繋がるため、例えば、1.0×1017ions/cm以下とする。ただし、加速電圧が5keV未満の範囲を除外するものではない。ビーム電流が安定する場合は、加速電圧を5keV未満とすることもできる。
【0139】
または、酸素イオン注入は、酸素イオンの注入濃度のピーク深さが120nm以上1000nm以下、好ましくは200nm以上500nm以下となるように、酸素イオン注入の条件を決めればよい。酸素イオンの注入濃度のピーク深さを前述の範囲とすることで、酸素の放出温度を250℃以上1000℃以下、好ましくは350℃以上700℃以下とすることができる。なお、酸素イオンの注入濃度のピーク深さを前述の範囲よりも深くしても構わないが、酸素放出温度が基板100の歪み点以上となってしまう可能性もありうる。そのため、工程の最大加熱温度を考慮して、適宜酸素イオンの注入濃度のピーク深さを選択すればよい。
【0140】
例えば、酸素イオン注入は以下の条件で行う。加速電圧は50keV以上500keV以下、好ましくは100keV以上300keV以下とする。酸素イオンの注入量は、3.0×1014ions/cm以上、好ましくは1.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは3.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは5.0×1015ions/cm以上、さらに好ましくは1.0×1016ions/cm以上とする。なお、酸素イオンの注入量が多すぎると生産性の低下へと繋がるため、例えば、1.0×1017ions/cm以下とする。
【0141】
なお、加速電圧を高めるために酸素イオンの価数を調整しても構わない。例えば、加速電圧が5keV以上320keV以下であれば、価数が1である酸素イオン(O)を用い、加速電圧が10keV以上640keV以下であれば、価数が2である酸素イオン(O2+)を用い、加速電圧が15keV以上960keV以下であれば、価数が3である酸素イオン(O3+)を用いればよい。ただし、この加速電圧の範囲は目安であり、示した範囲外の加速電圧と酸素イオンの価数との組み合わせを適用しても構わない。
【0142】
基板100に注入された酸素イオンは、加熱処理を行うことで、注入された酸素イオンの量とほぼ等量を酸素分子または酸素原子として放出することができる。
【0143】
基板100に対し酸素イオンを注入することで、基板100からの水の放出量が低減する。これは、酸素イオン注入時に、基板100表面にある水をスパッタリングすることが一因である。水は、酸化物半導体膜を用いたトランジスタの信頼性を低下させる要因となるため、低減されると好ましい。
【0144】
また、基板100に対し酸素イオン注入することで、基板100からの炭素の放出量が低減する。これは、酸素イオン注入時に、基板100表面にある有機物をスパッタリングすることが一因である。炭素は、酸化物半導体膜の結晶化を阻害する要因となりうるため、低減されると好ましい。
【0145】
酸素イオンの注入深さは、加熱処理による酸素の放出しやすさに影響する。そのため、加速電圧によって、加熱処理による酸素の放出しやすさを調整できる。酸素の放出しやすさは、一側面から見ると、酸素を放出する温度と換言できる。従って、酸素イオンの注入深さが深いほど、即ち酸素イオンの注入時の加速電圧が高いほど、酸素を放出する温度が高くなる。同様に、酸素イオンの注入深さが浅いほど、即ち酸素イオンの注入時の加速電圧が低いほど、酸素を放出する温度が低くなる。ただし、酸素の放出しやすさは、酸素を放出する温度にのみ依存するものではない。例えば、酸素を放出するまでの時間への寄与もある。
【0146】
酸素を放出する温度を高めると、高温を要するトランジスタの作製において、工程途中における酸素の放出を抑制できる。また、酸素を放出する温度を低めると、トランジスタの作製において、低温でも酸化物半導体膜への酸素供給が可能となる。
【0147】
酸素の放出温度を調整することが可能なため、トランジスタの作製時において、工程の選択性が高まる。具体的には、工程における最大加熱温度を自由に選択することが可能となり、結果、トランジスタの電気的特性のばらつきが抑えられ、高い歩留まりおよび高い生産性にてトランジスタを得ることができる。また、トランジスタの信頼性を高めることができる。
【0148】
なお、基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けても構わない。酸素透過性のある下地膜は、スパッタリング法、MBE法、PLD法またはALD法などを用いて成膜すればよい。酸素透過性のある下地膜は、酸素イオン注入前に成膜してもよい。または、酸素イオン注入後に成膜してもよい。酸素透過性のある下地膜を設けた後に酸素イオン注入を行う場合、基板100の所望の深さに酸素イオンが注入されるよう、酸素イオン注入の加速電圧を大きくすると好ましい。
【0149】
基板100は、平坦性が高いほど好ましい。そのため、基板100の平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理として、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)または逆スパッタリング法などがある。
【0150】
逆スパッタリング法とは、通常のスパッタリングにおいては、スパッタターゲットにイオンを衝突させるところを、逆に、被処理面にイオンを衝突させることによって被処理面を改質する方法のことをいう。被処理面にイオンを衝突させる方法としては、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)雰囲気下で被処理面側に高周波電圧を印加して、被処理面付近にプラズマを生成する方法などがある。なお、希ガス雰囲気に代えて窒素または酸素などによる雰囲気を適用してもよい。逆スパッタリング法は、スパッタリング装置に限定されず、プラズマCVD装置、ドライエッチング装置などで同様の処理を行うことができる。
【0151】
なお、基板100は、あらかじめ不純物の低減処理を行っておくとよい。不純物の低減処理は、例えば、加熱処理、プラズマ処理および薬液処理などから一種以上行うと好ましい。なお、不純物の低減処理は不純物濃度の低い環境で行う。
【0152】
次に、酸化物半導体膜136を成膜する(図5(B)参照。)。酸化物半導体膜136は、スパッタリング法、MBE法、PLD法またはALD法などを用いて成膜すればよい。好ましくは、スパッタリング法を用いる。
【0153】
スパッタリング法を用いて酸化物半導体膜136を成膜する方法について以下に説明する。例えば、酸化物半導体膜106に適用できる前述の材料を含むターゲットを用い、成膜ガスに、希ガス、窒素および酸素のいずれか一種以上を含ませて成膜する。
【0154】
ここで、酸化物半導体膜136を結晶化度の高いCAAC−OS膜または多結晶膜とするためには、基板100の平坦性が十分高いうえで、成膜電力を高くすること、成膜圧力を低くすること、T−S間距離を短くすることおよび基板加熱温度(Tsub)を高くすることが重要である。
【0155】
具体的には、単位面積あたりの成膜電力を5W/cm以上50W/cm以下、成膜圧力を0.01Pa以上0.4Pa以下、好ましくは0.05Pa以上0.3Pa以下、T−S間距離を10mm以上200mm以下、好ましくは20mm以上80mm以下、Tsubを100℃以上500℃以下、好ましくは150℃以上450℃以下とする。
【0156】
また、酸化物半導体膜136中の不純物濃度を極力低減すると好ましい。酸化物半導体膜136中の不純物濃度を低減するためには、材料の純度を高めること、成膜室の内部リークおよび外部リークを低減することなどが効果的である。
【0157】
酸化物半導体膜136の成膜後、第1の加熱処理を行うと好ましい。第1の加熱処理を行うと、酸化物半導体膜136の結晶化度が高まる、または/および酸化物半導体膜136中の不純物濃度を低減することができる。
【0158】
第1の加熱処理は、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気または乾燥空気雰囲気において、150℃以上650℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下、さらに好ましくは300℃以上450℃以下の温度で行えばよい。第1の加熱処理は、抵抗加熱方式、ランプヒータ方式、加熱ガス方式などを適用すればよい。
【0159】
酸化性雰囲気とは、酸化性ガスを含む雰囲気をいう。酸化性ガスとは、酸素、オゾンまたは亜酸化窒素などであって、水、水素などが含まれないことが好ましい。例えば、熱処理装置に導入する酸素、オゾン、亜酸化窒素の純度を、8N(99.999999%)以上、好ましくは9N(99.9999999%)以上とする。酸化性雰囲気には、酸化性ガスと不活性ガスが混合されていてもよい。その場合、酸化性ガスが少なくとも10ppm以上含まれる雰囲気とする。
【0160】
不活性雰囲気とは、窒素、希ガスなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気をいう。具体的には、酸化性ガスなどの反応性ガスが10ppm未満である雰囲気とする。
【0161】
減圧雰囲気とは、処理室の圧力が10Pa以下の雰囲気をいう。
【0162】
乾燥空気雰囲気とは、露点−40℃以下、好ましくは露点−50℃以下の雰囲気をいう。
【0163】
次に、酸化物半導体膜136を加工して島状の酸化物半導体膜106を形成する(図5(C)参照。)。なお、「加工する」とは、例えば、フォトリソグラフィ法によって形成したレジストマスクを用い、エッチング処理を行って、所望の形状の膜を得ることをいう。
【0164】
次に、酸化物半導体膜106上に導電膜を成膜し、加工して、酸化物半導体膜106と少なくとも一部が接する一対の電極116を形成する。次に、酸化物半導体膜106および一対の電極116上にゲート絶縁膜112を成膜する(図5(D)参照。)。一対の電極116となる導電膜およびゲート絶縁膜112は、前述の材料を用い、スパッタリング法、プラズマCVD法、PLD法、ALD法、蒸着法または印刷法などを用いて成膜すればよい。
【0165】
次に、ゲート絶縁膜112上に導電膜を成膜し、加工して酸化物半導体膜106と重畳するゲート電極104を形成することで、図1に示すトランジスタを作製する。ゲート電極104となる導電膜は、前述の材料を用い、スパッタリング法、プラズマCVD法、PLD法、ALD法、蒸着法または印刷法などを用いて成膜すればよい。
【0166】
こうして得られたトランジスタに対し、第2の加熱処理を行うと好ましい。第2の加熱処理は、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気または乾燥空気雰囲気において、第1の加熱処理よりも低い温度で行えばよい。第2の加熱処理を行うことで、トランジスタの作製工程で生じた酸化物半導体膜106における酸素欠損に起因する準位、および基板100と酸化物半導体膜106との界面準位密度を低減することができる。
【0167】
以上のように、加熱処理により酸素を放出する基板上に酸化物半導体膜があることで、優れた電気的特性を有する信頼性の高いトランジスタを作製することができる。
【0168】
続いて、図1に示すトランジスタとは異なる構造のトランジスタについて図2を用いて説明する。
【0169】
図2はトランジスタの上面図および断面図である。図2(A)に示した一点鎖線A−Bにおける断面は、図2(B)に示すA−B断面に対応する。
【0170】
以下に、図2(B)に示すA−B断面について詳細に説明する。
【0171】
図2に示すトランジスタは、基板100と、基板100上の一対の電極216と、一対の電極216上にあり、一対の電極216と少なくとも一部が接する酸化物半導体膜206と、酸化物半導体膜206および一対の電極216上のゲート絶縁膜212と、ゲート絶縁膜212を介して酸化物半導体膜206と重畳するゲート電極204と、を有する。
【0172】
なお、一対の電極216、酸化物半導体膜206、ゲート絶縁膜212およびゲート電極204は、それぞれ一対の電極116、酸化物半導体膜106、ゲート絶縁膜112およびゲート電極104と同様の材料により設ければよい。
【0173】
なお、図2ではゲート電極204が酸化物半導体膜206を完全に覆う形状ではないが、ゲート電極204が酸化物半導体膜206を完全に覆う形状とすることで酸化物半導体膜206の光による劣化、電荷の発生を抑制しても構わない。
【0174】
図2に示すトランジスタは、基板100に加熱処理により酸素を放出する基板を用いることで、酸化物半導体膜206の下地膜を設けなくても良好な電気的特性を有するトランジスタとすることができる。
【0175】
また、下地膜を設けない構造とすることで、基板100と下地膜との界面準位が生じない。そのため、該界面準位に起因するトランジスタの電気的特性の劣化を低減することができ、信頼性の高いトランジスタを得ることができる。
【0176】
ただし、基板100上に下地膜を設ける構造を除外するものではない。
【0177】
次に、図2に示すトランジスタの作製方法について、図6を用いて説明する。
【0178】
まず、基板100のトランジスタの作製面に、酸素イオンを注入する(図6(A)参照。)。酸素イオン注入方法については、図5の説明を参照する。
【0179】
なお、基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けても構わない。酸素透過性のある下地膜は、酸素イオン注入前に成膜してもよい。または、酸素イオン注入後に成膜してもよい。
【0180】
次に、基板100上に一対の電極216を形成する(図6(B)参照。)。
【0181】
ここでは一対の電極216の形成前に酸素イオン注入する場合について説明しているが、これに限定されない。例えば、一対の電極216の形成後に基板100に酸素イオンを注入しても構わない。
【0182】
次に、一対の電極216上に酸化物半導体膜を成膜する。酸化物半導体膜の成膜後、第1の加熱処理を行うと好ましい。次に、前述の酸化物半導体膜を加工して、一対の電極216と少なくとも一部が接する酸化物半導体膜206を形成する(図6(C)参照。)。
【0183】
なお、酸化物半導体膜206において、一対の電極216と重畳しない領域がチャネル形成領域となる。
【0184】
次に酸化物半導体膜206および一対の電極216上にゲート絶縁膜212を成膜する(図6(D)参照。)。
【0185】
次に、ゲート絶縁膜212を介して酸化物半導体膜206と重畳するゲート電極204を形成することで、図2に示すトランジスタを作製する。
【0186】
こうして得られたトランジスタに対し、第2の加熱処理を行うと好ましい。第2の加熱処理を行うことで、トランジスタの作製工程で生じた酸化物半導体膜206における酸素欠損に起因する準位、および基板100と酸化物半導体膜206との界面準位密度を低減することができる。
【0187】
以上のように、加熱処理により酸素を放出する基板上に酸化物半導体膜のチャネル形成領域があることで、優れた電気的特性を有する信頼性の高いトランジスタを作製することができる。
【0188】
続いて、図1および図2に示すトランジスタとは異なる構造のトランジスタについて図3を用いて説明する。
【0189】
図3はトランジスタの上面図および断面図である。図3(A)に示した一点鎖線A−Bにおける断面は、図3(B)に示すA−B断面に対応する。
【0190】
以下に、図3(B)に示すA−B断面について詳細に説明する。
【0191】
図3(B)に示すトランジスタは、基板100と、基板100上の高抵抗領域306aおよび低抵抗領域306bを有する酸化物半導体膜306と、酸化物半導体膜306上のゲート絶縁膜312と、ゲート絶縁膜312を介して酸化物半導体膜306と重畳するゲート電極304と、ゲート電極304およびゲート絶縁膜312上の保護膜318と、保護膜318上にあり、ゲート絶縁膜312および保護膜318に設けられた開口部を介して低抵抗領域306bと接して設けられた配線322と、を有する。
【0192】
なお、酸化物半導体膜306、ゲート電極304およびゲート絶縁膜312は、それぞれ酸化物半導体膜106、ゲート電極104およびゲート絶縁膜112と同様の材料により設ければよい。
【0193】
高抵抗領域306aは、ゲート電極304と概略同一の上面形状としてもよい。なお、低抵抗領域306bは、酸化物半導体膜306の主成分以外に、水素、ヘリウム、ホウ素、窒素、フッ素、ネオン、アルミニウム、リン、アルゴン、ヒ素、クリプトン、インジウム、スズ、アンチモンおよびキセノンから選ばれた一種以上を含んでもよい。
【0194】
保護膜318は、ゲート絶縁膜112と同様の材料により設ければよい。または、保護膜318は、樹脂材料などを用いて形成してもよい。また、複数の材料を積層することで設けてもよい。
【0195】
配線322は、一対の電極116と同様の材料により設ければよい。
【0196】
なお、図3(B)に示すトランジスタのゲート電極304に側壁絶縁膜320を設け、図3(C)に示すトランジスタとしても構わない。図3(C)に示すトランジスタは、側壁絶縁膜320と重畳する酸化物半導体膜306の領域が高抵抗領域306aに含まれる点が図3(B)に示すトランジスタと異なる。このような構造とすることで、図3(C)に示すトランジスタは、ホットキャリア劣化などのトランジスタの劣化を低減することができる。
【0197】
図3に示すトランジスタは、基板100に加熱処理により酸素を放出する基板を用いることで、酸化物半導体膜306の下地膜を設けなくても良好な電気的特性を有するトランジスタとすることができる。
【0198】
また、下地膜を設けない構造とすることで、基板100と下地膜との界面準位が生じない。そのため、該界面準位に起因するトランジスタの電気的特性の劣化を低減することができ、信頼性の高いトランジスタを得ることができる。
【0199】
ただし、基板100上に下地膜を設ける構造を除外するものではない。
【0200】
次に、図3に示すトランジスタの作製方法について、図7を用いて説明する。
【0201】
まず、基板100のトランジスタの作製面に、酸素イオン注入する(図7(A)参照。)。酸素イオン注入方法については、図5の説明を参照する。
【0202】
なお、基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けても構わない。酸素透過性のある下地膜は、酸素イオン注入前に成膜してもよい。または、酸素イオン注入後に成膜してもよい。
【0203】
次に、基板100上に酸化物半導体膜を成膜する。酸化物半導体膜の成膜後、第1の加熱処理を行うと好ましい。次に、前述の酸化物半導体膜を加工して、酸化物半導体膜106を形成する(図7(B)参照。)。
【0204】
次に、酸化物半導体膜106および基板100上に、ゲート絶縁膜312を成膜する。次に、ゲート絶縁膜312を介して酸化物半導体膜306と重畳するゲート電極304を形成する(図7(C)参照。)。
【0205】
なお、図3(C)に示すトランジスタを作製するためには、ゲート電極304の形成後に側壁絶縁膜320を形成すればよい。
【0206】
側壁絶縁膜320は、ゲート電極304を覆う絶縁膜を成膜した後、該絶縁膜に対し異方性の高いエッチングを行うことで、自己整合的に形成すればよい。異方性の高いエッチングとしては、例えば、ドライエッチング法を用いると好ましい。ドライエッチング法に用いるエッチングガスとしては、例えば、トリフルオロメタン、オクタフルオロシクロブタン、テトラフルオロメタンなどのフッ素を含むガスが挙げられる。エッチングガスには、希ガスまたは水素を添加してもよい。ドライエッチング法は、基板に高周波電圧を印加する、反応性イオンエッチング法(RIE法)を用いると好ましい。
【0207】
次に、ゲート電極304をマスクとして酸化物半導体膜106の一部に、低抵抗化処理を行う。低抵抗化処理は、例えば、水素、ヘリウム、ホウ素、窒素、フッ素、ネオン、アルミニウム、リン、アルゴン、ヒ素、クリプトン、インジウム、スズ、アンチモンおよびキセノンから選ばれた一種以上を含む雰囲気でイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理を行えばよい。その後、第3の加熱処理を行うことにより、酸化物半導体膜306のイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理された領域に低抵抗領域306bを形成する。なお、高抵抗領域306aは、イオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理により低抵抗化されていない領域である(図7(D)参照。)。なお、側壁絶縁膜320を有する場合は、ゲート電極304および側壁絶縁膜320をマスクとしてイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理を行えばよい。第3の加熱処理は、第1の加熱処理と同様の方法で行えばよい。
【0208】
なお、ゲート絶縁膜312は、前述のイオン注入、イオンドーピングまたはプラズマ処理の前にゲート電極304と同様の上面形状に加工しても構わない。その場合、酸化物半導体膜106の一部が露出するため、酸化物半導体膜106の一部を直接プラズマに曝すことになる。
【0209】
次に、酸化物半導体膜306およびゲート電極304上に保護膜318を形成し、低抵抗領域306bをそれぞれ露出する開口部をゲート絶縁膜312および保護膜318に形成する。次に、酸化物半導体膜306と接する配線322を形成することで、図3に示すトランジスタを作製する。
【0210】
こうして得られたトランジスタに対し、第2の加熱処理を行うと好ましい。第2の加熱処理を行うことで、トランジスタの作製工程で生じた酸化物半導体膜306における酸素欠損に起因する準位、および基板100と酸化物半導体膜306との界面準位密度を低減することができる。
【0211】
以上のように、加熱処理により酸素を放出する基板上に酸化物半導体膜があることで、優れた電気的特性を有する信頼性の高いトランジスタを作製することができる。
【0212】
続いて、図3に示すトランジスタとは異なる構造のトランジスタについて図4を用いて説明する。
【0213】
図4はトランジスタの上面図および断面図である。図4(A)に示した一点鎖線A−Bにおける断面は、図4(B)に示すA−B断面に対応する。
【0214】
以下に、図4(B)に示すA−B断面について詳細に説明する。
【0215】
図4(B)に示すトランジスタは、溝部を有する基板101と、基板101の溝部を埋めて設けられた絶縁膜302と、基板101および絶縁膜302上に設けられた高抵抗領域306aおよび低抵抗領域306bを有する酸化物半導体膜306と、酸化物半導体膜306および絶縁膜302上に設けられたゲート絶縁膜312と、ゲート絶縁膜312を介して酸化物半導体膜306と重畳するゲート電極304と、ゲート絶縁膜312およびゲート電極304上に設けられた保護膜318と、ゲート絶縁膜312および保護膜318に設けられた開口部を介して低抵抗領域306bと接して設けられた配線322と、を有する。
【0216】
なお、図4(B)に示すトランジスタは、酸化物半導体膜306下に絶縁膜302を有する点で図3(B)に示すトランジスタと異なる。
【0217】
基板101は、基板100と同様の方法および材料を用いて形成すればよい。
【0218】
絶縁膜302は、酸化物半導体膜306の、特に低抵抗領域306b下に設けられる。
【0219】
絶縁膜302は、少なくとも加熱処理により酸素を放出する絶縁膜ではない。好ましくは、第1の加熱処理および第2の加熱処理により基板101から放出された酸素を、低抵抗領域306bまで透過させない絶縁膜である。即ち、酸素透過性が低い絶縁膜または酸素透過性のない絶縁膜である。または、150℃以上650℃以下の温度範囲における酸素の拡散係数が、基板101の拡散係数以下となる絶縁膜である。
【0220】
絶縁膜302は、例えば、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化ハフニウムおよび酸化タンタル、酸化タングステンから選ばれた一種以上を含む材料を用いればよい。好ましくは、安価であり酸素透過性の低い酸化アルミニウムを含む材料を用いる。なお、絶縁膜302は、単層でも積層でも構わない。
【0221】
絶縁膜302は、厚さが15nm以上300nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下とすればよい。述べるまでもないが、絶縁膜302は、厚さが厚いほど酸素透過性が低くなる。ただし、厚くしすぎることで生産性の低下を招く懸念があるため、適当な厚さを選択するとよい。
【0222】
絶縁膜302が低抵抗領域306b下に設けられることで、低抵抗領域306bへ酸素が供給されること(加酸素化ともいう。)による高抵抗化が抑制され、低抵抗を保つことができる。そのため、図4(B)に示すトランジスタは高いオン電流を有する。
【0223】
なお、高抵抗領域306aは、加熱処理により基板101から酸素が供給されるため、図4(B)に示すトランジスタは高い信頼性を有する。
【0224】
図4(C)に示すトランジスタは、基板100と、基板100上に設けられた絶縁膜303と、基板100および絶縁膜303上に設けられた高抵抗領域307aおよび低抵抗領域307bを有する酸化物半導体膜307と、酸化物半導体膜307および絶縁膜303上に設けられたゲート絶縁膜313と、ゲート絶縁膜313を介して酸化物半導体膜307と重畳するゲート電極305と、ゲート絶縁膜313およびゲート電極305上に設けられた保護膜319と、ゲート絶縁膜313および保護膜319に設けられた開口部を介して低抵抗領域307bと接して設けられた配線323と、を有する。
【0225】
なお、絶縁膜303、酸化物半導体膜307、ゲート絶縁膜313、ゲート電極305、保護膜319および配線323は、それぞれ絶縁膜302、酸化物半導体膜306、ゲート絶縁膜312、ゲート電極304、保護膜318および配線322と同様の材料により設ければよい。
【0226】
図4(C)に示すトランジスタは、基板100上に絶縁膜303を設ける点で、図4(B)に示すトランジスタと異なる。
【0227】
絶縁膜303が低抵抗領域307b下に設けられることで、低抵抗領域307bへ酸素が供給されること(加酸素化ともいう。)による高抵抗化が抑制され、低抵抗を保つことができる。そのため、図4(C)に示すトランジスタは高いオン電流を有する。
【0228】
図4に示すトランジスタは、基板101に加熱処理により酸素を放出する基板を用いることで、酸化物半導体膜307の下地膜を設けなくても良好な電気的特性を有するトランジスタとすることができる。
【0229】
また、下地膜を設けない構造とすることで、基板101と下地膜との界面準位が生じない。そのため、該界面準位に起因するトランジスタの電気的特性の劣化を低減することができ、信頼性の高いトランジスタを得ることができる。
【0230】
ただし、基板101上に下地膜を設ける構造を除外するものではない。
【0231】
次に、図4(B)に示すトランジスタの作製方法について、図8を用いて説明する。
【0232】
まず、基板100を加工して、溝部を有する基板101を形成する(図8(A)参照。)。
【0233】
次に、基板101のトランジスタの作製面に、酸素イオンを注入する(図8(B)参照。)。酸素イオン注入方法については、図5の説明を参照する。
【0234】
なお、基板101上に酸素透過性のある下地膜を設けても構わない。酸素透過性のある下地膜は、酸素イオン注入前に成膜してもよい。または、酸素イオン注入後に成膜してもよい。
【0235】
なお、ここでは基板101を形成してから酸素イオン注入する場合について説明しているが、これに限定されない。例えば、基板100に酸素イオンを注入した後で、基板100を加工して基板101を形成しても構わない。その場合、基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けてから酸素イオン注入を行ってもよいし、酸素イオン注入を行ってから基板100上に酸素透過性のある下地膜を設けてもよい。
【0236】
または、基板100上に酸素透過性を有する下地膜を設けた後で、基板100を加工して、基板101を形成し、その後酸素イオンを注入してもよい。
【0237】
次に、基板101上に絶縁膜を成膜し、該絶縁膜の凸部を選択的にエッチングし(研磨ともいう。)、基板101の溝部を埋める絶縁膜302を形成する(図8(C)参照。)。研磨は、CMP処理などを用いて行えばよい。なお、ここでは、基板101の上面の一部と、絶縁膜302の上面が一つの連続した面を形成するように設けられるが、これに限定されない。例えば、図8(C)に示す断面図において、基板101の上面の高さが、絶縁膜302の上面の高さよりも高くても構わないし、低くても構わない。
【0238】
以降の工程は図7の説明を参酌すればよい。以上のようにして、図4(B)に示すトランジスタを作製する。
【0239】
次に、図4(C)に示すトランジスタの作製方法について、図9を用いて説明する。
【0240】
まず、基板100に酸素イオンを注入する(図9(A)参照。)。酸素イオン注入方法については、図5の説明を参照する。
【0241】
次に、基板100上に絶縁膜を成膜し、該絶縁膜を加工して絶縁膜303を形成する(図9(B)参照。)。
【0242】
ここでは絶縁膜303となる絶縁膜の成膜前に酸素イオンを注入する場合について説明しているが、これに限定されない。例えば、絶縁膜303となる絶縁膜が成膜後または絶縁膜303の形成後に基板100に対して酸素イオン注入しても構わない。
【0243】
次に、酸化物半導体膜を成膜し、該酸化物半導体膜を加工して酸化物半導体膜107を形成する。
【0244】
次に、酸化物半導体膜107および絶縁膜303上にゲート絶縁膜313を成膜する。次に、ゲート絶縁膜313を介して酸化物半導体膜107と重畳するゲート電極305を形成する(図9(C)参照。)。
【0245】
なお、ゲート電極305の形成後に側壁絶縁膜を形成しても構わない。側壁絶縁膜は、図3(C)に示すトランジスタの側壁絶縁膜320の説明を参酌すればよい。
【0246】
次に、ゲート電極305をマスクとして酸化物半導体膜107の一部に対して、低抵抗化処理を行うことで、高抵抗領域307aおよび低抵抗領域307bを有する酸化物半導体膜307を形成する(図9(D)参照。)。
【0247】
次に、酸化物半導体膜307およびゲート電極305上に保護膜319を形成し、低抵抗領域307bをそれぞれ露出する開口部をゲート絶縁膜313および保護膜319に形成する。次に、酸化物半導体膜307と接する配線323を形成することで、図4(C)に示すトランジスタを作製する。
【0248】
こうして得られたトランジスタに対し、第2の加熱処理を行うと好ましい。第2の加熱処理を行うことで、トランジスタの作製工程で生じた酸化物半導体膜307における酸素欠損に起因する準位、および基板101と酸化物半導体膜307との界面準位密度を低減することができる。
【0249】
以上のように、加熱処理により酸素を放出する基板上に酸化物半導体膜のチャネル形成領域があることで、優れた電気的特性を有する信頼性の高いトランジスタを作製することができる。
【0250】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0251】
(実施の形態2)
本実施の形態では実施の形態1に示すトランジスタを用いて作製した液晶表示装置について説明する。なお、本実施の形態では液晶表示装置に本発明の一形態を適用した例について説明するが、これに限定されるものではない。例えば、発光装置の一つであるEL(Electro Luminescence)表示装置に本発明の一形態を適用することも、当業者であれば容易に想到しうるものである。
【0252】
図10にアクティブマトリクス駆動方式の液晶表示装置の回路図を示す。液晶表示装置は、ソース線SL_1乃至SL_a、ゲート線GL_1乃至GL_bおよび複数の画素2200を有する。画素2200は、トランジスタ2230と、キャパシタ2220と、液晶素子2210と、を含む。こうした画素2200が複数集まって液晶表示装置の画素部を構成する。なお、単にソース線またはゲート線を指す場合には、ソース線SLまたはゲート線GLと記載することもある。
【0253】
トランジスタ2230は、本発明の一態様である実施の形態1で示すトランジスタを用いる。実施の形態1で示すトランジスタは電気的特性が良好な酸化物半導体を用いたトランジスタであるため、表示品位の高い表示装置を得ることができる。
【0254】
ゲート線GLはトランジスタ2230のゲートと接続し、ソース線SLはトランジスタ2230のソースと接続し、トランジスタ2230のドレインは、キャパシタ2220の一方の容量電極および液晶素子2210の一方の画素電極と接続する。キャパシタ2220の他方の容量電極および液晶素子2210の他方の画素電極は、共通電極と接続する。なお、共通電極はゲート線GLと同一層かつ同一材料で設けてもよい。
【0255】
また、ゲート線GLは、ゲート駆動回路と接続される。ゲート駆動回路は、実施の形態1で示すトランジスタを含んでもよい。
【0256】
また、ソース線SLは、ソース駆動回路と接続される。ソース駆動回路は、実施の形態1で示すトランジスタを含んでもよい。
【0257】
なお、ゲート駆動回路およびソース駆動回路のいずれかまたは両方を、別途用意された基板上に形成し、COG(Chip On Glass)、ワイヤボンディング、またはTAB(Tape Automated Bonding)などの方法を用いて接続してもよい。
【0258】
また、トランジスタは静電気などにより破壊されやすいため、保護回路を設けることが好ましい。保護回路は、非線形素子を用いて構成することが好ましい。
【0259】
ゲート線GLにトランジスタ2230のしきい値電圧以上になるように電圧を印加すると、ソース線SLから供給された電荷がトランジスタ2230のドレイン電流となってキャパシタ2220に蓄積される。1行分の充電後、該行にあるトランジスタ2230はオフ状態となり、ソース線SLから電圧が掛からなくなるが、キャパシタ2220に蓄積された電荷によって必要な電圧を維持することができる。その後、次の行のキャパシタ2220の充電に移る。このようにして、1行からb行の充電を行う。ドレイン電流は、トランジスタにおいてドレインからチャネルを介してソースに流れる電流のことである。ドレイン電流はゲート電圧がしきい値電圧よりも大きいときに流れる。
【0260】
なお、トランジスタ2230にオフ電流の小さなトランジスタを用いる場合、電圧を維持する期間を長くすることができる。この効果によって、動きの少ない画像(静止画を含む。)では、表示の書き換え周波数を低減でき、さらなる消費電力の低減が可能となる。また、キャパシタ2220の容量をさらに小さくすることが可能となるため、充電に必要な消費電力を低減することができる。
【0261】
以上のように、本発明の一態様によって、表示品位が高く、消費電力の小さい液晶表示装置を提供することができる。
【0262】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0263】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で示すトランジスタを用いて、半導体記憶装置を作製する例について説明する。
【0264】
揮発性半導体記憶装置の代表的な例としては、記憶素子を構成するトランジスタを選択してキャパシタに電荷を蓄積することで、情報を記憶するDRAM(Dynamic Random Access Memory)、フリップフロップなどの回路を用いて記憶内容を保持するSRAM(Static Random Access Memory)がある。
【0265】
不揮発性半導体記憶装置の代表例としては、トランジスタのゲートとチャネル領域との間にノードを有し、当該ノードに電荷を保持することで記憶を行うフラッシュメモリがある。
【0266】
上述した半導体記憶装置に含まれるトランジスタの一部に実施の形態1で示すトランジスタを適用することができる。
【0267】
まずは、実施の形態1で示すトランジスタを適用した半導体記憶装置を構成するメモリセルについて図11を用いて説明する。
【0268】
メモリセルは、ビット線BLと、ワード線WLと、センスアンプSAmpと、トランジスタTrと、キャパシタCと、を有する(図11(A)参照。)。
【0269】
キャパシタCに保持された電圧の時間変化は、トランジスタTrのオフ電流によって図11(B)に示すように徐々に低減していくことが知られている。当初V0からV1まで充電された電圧は、時間が経過するとdata1を読み出す限界点であるVAまで低減する。この期間を保持期間T_1とする。即ち、2値メモリセルの場合、保持期間T_1の間にリフレッシュをする必要がある。
【0270】
ここで、トランジスタTrに実施の形態1で示すトランジスタを適用すると、オフ電流が小さいため、保持期間T_1を長くすることができる。即ち、リフレッシュの頻度を少なくすることが可能となるため、消費電力を低減することができる。例えば、高純度化されオフ電流が1×10−21A以下、好ましくは1×10−24A以下となった酸化物半導体膜を用いたトランジスタでメモリセルを構成すると、電力を供給せずに数日間から数十年間に渡ってデータを保持することが可能となる。
【0271】
以上のように、本発明の一態様によって、信頼性が高く、消費電力の小さい半導体記憶装置を得ることができる。
【0272】
次に、実施の形態1で示すトランジスタを適用した半導体記憶装置を構成するメモリセルについて図11とは異なる例を図12を用いて説明する。
【0273】
図12(A)は、メモリセルの回路図である。メモリセルは、トランジスタTr_1と、トランジスタTr_1のゲートと接続するワード線WL_1と、トランジスタTr_1のソースと接続するソース線SL_1と、トランジスタTr_2と、トランジスタTr_2のソースと接続するソース線SL_2と、トランジスタTr_2のドレインと接続するドレイン線DL_2と、キャパシタCと、キャパシタCの一端と接続する容量線CLと、キャパシタCの他端、トランジスタTr_1のドレインおよびトランジスタTr_2のゲートと接続するノードNと、を有する。
【0274】
なお、図12(A)に示すメモリセルは、ノードNの電位に応じて、トランジスタTr_2のしきい値電圧が変動することを利用したものである。例えば、図12(B)は容量線CLの電圧VCLと、トランジスタTr_2を流れるドレイン電流I_2との関係を説明する図である。
【0275】
ここで、ノードNは、トランジスタTr_1を介して電圧を調整することができる。例えば、ソース線SL_1の電位を電源電位VDDとする。このとき、ワード線WL_1の電位をトランジスタTr_1のしきい値電圧Vthに電源電位VDDを加えた電位以上とすることで、ノードNの電圧をHIGHにすることができる。また、ワード線WL_1の電位をトランジスタTr_1のしきい値電圧Vth以下とすることで、ノードNの電位をLOWにすることができる。
【0276】
そのため、N=LOWで示したVCL−Ids_2カーブと、N=HIGHで示したVCL−Ids_2カーブのいずれかを得ることができる。即ち、N=LOWでは、VCL=0Vにてドレイン電流Ids_2が小さいため、データ0となる。また、N=HIGHでは、VCL=0Vにてドレイン電流Ids_2が大きいため、データ1となる。このようにして、データを記憶することができる。
【0277】
ここで、トランジスタTr_1に実施の形態1で示すトランジスタを適用すると、該トランジスタはオフ電流を極めて小さくすることができるため、ノードNに蓄積された電荷がトランジスタTr_1のソースおよびドレイン間を意図せずにリークすることを抑制できる。そのため、長期間に渡ってデータを保持することができる。また、本発明の一態様に係るトランジスタTr_1はしきい値電圧が制御されるため、書き込みに必要な電圧を低減することが可能となり、フラッシュメモリなどと比較して消費電力を低減することができる。
【0278】
なお、トランジスタTr_2に、実施の形態1で示すトランジスタを適用しても構わない。
【0279】
以上のように、本発明の一態様によって、長期間の信頼性が高く、消費電力の小さい半導体記憶装置を得ることができる。
【0280】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0281】
(実施の形態4)
実施の形態1で示すトランジスタまたは実施の形態3に示した半導体記憶装置を少なくとも一部に用いてCPU(Central Processing Unit)を構成することができる。
【0282】
図13(A)は、CPUの具体的な構成を示すブロック図である。図13(A)に示すCPUは、基板1190上に、演算回路(ALU:Arithmetic logic unit)1191、ALUコントローラ1192、インストラクションデコーダ1193、インタラプトコントローラ1194、タイミングコントローラ1195、レジスタ1196、レジスタコントローラ1197、バスインターフェース(Bus I/F)1198、書き換え可能なROM1199、およびROMインターフェース(ROM I/F)1189を有している。基板1190は、半導体基板、SOI基板、ガラス基板などを用いる。ROM1199およびROMインターフェース1189は、別チップに設けてもよい。もちろん、図13(A)に示すCPUは、その構成を簡略化して示した一例にすぎず、実際のCPUはその用途によって多種多様な構成を有している。
【0283】
バスインターフェース1198を介してCPUに入力された命令は、インストラクションデコーダ1193に入力され、デコードされた後、ALUコントローラ1192、インタラプトコントローラ1194、レジスタコントローラ1197、タイミングコントローラ1195に入力される。
【0284】
ALUコントローラ1192、インタラプトコントローラ1194、レジスタコントローラ1197、タイミングコントローラ1195は、デコードされた命令に基づき、各種制御を行う。具体的にALUコントローラ1192は、ALU1191の動作を制御するための信号を生成する。また、インタラプトコントローラ1194は、CPUのプログラム実行中に、外部の入出力装置や、周辺回路からの割り込み要求を、その優先度やマスク状態から判断し、処理する。レジスタコントローラ1197は、レジスタ1196のアドレスを生成し、CPUの状態に応じてレジスタ1196の読み出しや書き込みを行う。
【0285】
また、タイミングコントローラ1195は、ALU1191、ALUコントローラ1192、インストラクションデコーダ1193、インタラプトコントローラ1194、およびレジスタコントローラ1197の動作のタイミングを制御する信号を生成する。例えばタイミングコントローラ1195は、基準クロック信号CLK1を元に、内部クロック信号CLK2を生成する内部クロック生成部を備えており、クロック信号CLK2を上記各種回路に供給する。
【0286】
図13(A)に示すCPUでは、レジスタ1196に、記憶素子が設けられている。レジスタ1196の記憶素子には、実施の形態3に示す半導体記憶装置を用いることができる。
【0287】
図13(A)に示すCPUにおいて、レジスタコントローラ1197は、ALU1191からの指示に従い、レジスタ1196における保持動作を行う。即ち、レジスタ1196が有する記憶素子において、フリップフロップによるデータの保持を行うか、キャパシタによるデータの保持を行う。フリップフロップによってデータが保持されている場合、レジスタ1196内の記憶素子への、電源電圧の供給が行われる。キャパシタによってデータが保持されている場合、キャパシタへのデータの書き換えが行われ、レジスタ1196内の記憶素子への電源電圧の供給を停止することができる。
【0288】
電源停止に関しては、図13(B)または図13(C)に示すように、記憶素子群と、電源電位VDDまたは電源電位VSSの与えられているノード間に、スイッチング素子を設けることにより行うことができる。以下に図13(B)および図13(C)の回路の説明を行う。
【0289】
図13(B)および図13(C)では、記憶素子への電源電位の供給を制御するスイッチング素子に実施の形態1に示すトランジスタ用いた構成の一例を示す。
【0290】
図13(B)に示す記憶装置は、スイッチング素子1141と、記憶素子1142を複数有する記憶素子群1143とを有している。具体的に、それぞれの記憶素子1142には、実施の形態3に示す記憶素子を用いることができる。記憶素子群1143が有するそれぞれの記憶素子1142には、スイッチング素子1141を介して、ハイレベルの電源電位VDDが供給されている。さらに、記憶素子群1143が有するそれぞれの記憶素子1142には、信号INの電位と、ローレベルの電源電位VSSの電位が与えられている。
【0291】
図13(B)では、スイッチング素子1141として、酸化物半導体などのバンドギャップの大きい半導体を活性層に有するトランジスタを用いており、該トランジスタは、そのゲートに与えられる信号SigAによりスイッチングが制御される。
【0292】
なお、図13(B)では、スイッチング素子1141がトランジスタを一つだけ有する構成を示しているが、これに限定されず、トランジスタを複数有していてもよい。スイッチング素子1141が、スイッチング素子として機能するトランジスタを複数有している場合、上記複数のトランジスタは並列に接続されていてもよいし、直列に接続されていてもよいし、直列と並列が組み合わされて接続されていてもよい。
【0293】
また、図13(C)には、記憶素子群1143が有するそれぞれの記憶素子1142に、スイッチング素子1141を介して、ローレベルの電源電位VSSが供給されている、記憶装置の一例を示す。スイッチング素子1141により、記憶素子群1143が有するそれぞれの記憶素子1142への、ローレベルの電源電位VSSの供給を制御することができる。
【0294】
記憶素子群と、電源電位VDDまたは電源電位VSSの与えられているノード間に、スイッチング素子を設け、一時的にCPUの動作を停止し、電源電圧の供給を停止した場合においてもデータを保持することが可能であり、消費電力の低減を行うことができる。例えば、パーソナルコンピュータのユーザーが、キーボードなどの入力装置への情報の入力を停止している間でも、CPUの動作を停止することができ、それにより消費電力を低減することができる。
【0295】
ここでは、CPUを例に挙げて説明したが、DSP(Digital Signal Processor)、カスタムLSI、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのLSIにも応用可能である。
【0296】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0297】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態1乃至実施の形態4を適用した電子機器の例について説明する。
【0298】
図14(A)は携帯型情報端末である。図14(A)に示す携帯型情報端末は、筐体9300と、ボタン9301と、マイクロフォン9302と、表示部9303と、スピーカ9304と、カメラ9305と、を具備し、携帯型電話機としての機能を有する。本発明の一態様は、表示部9303およびカメラ9305に適用することができる。また、図示しないが、本体内部にある演算装置、無線回路または記憶回路に本発明の一態様を適用することもできる。
【0299】
図14(B)は、ディスプレイである。図14(B)に示すディスプレイは、筐体9310と、表示部9311と、を具備する。本発明の一態様は、表示部9311に適用することができる。本発明の一態様を適用することで、表示部9311のサイズを大きくしたときにも表示品位の高いディスプレイとすることができる。
【0300】
図14(C)は、デジタルスチルカメラである。図14(C)に示すデジタルスチルカメラは、筐体9320と、ボタン9321と、マイクロフォン9322と、表示部9323と、を具備する。本発明の一態様は、表示部9323に適用することができる。また、図示しないが、記憶回路またはイメージセンサに本発明の一態様を適用することもできる。
【0301】
本発明の一態様を用いることで、電子機器の性能を高め、かつ信頼性を高めることができる。
【0302】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例1】
【0303】
本実施例では、酸素イオンを注入したガラス基板を試料とし、酸素の放出量を評価した。
【0304】
酸素の放出量は、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置EMD−WA1000S/Wを用い、標準試料として1×1016atoms/cmの水素原子を含むシリコンウェハを用いて測定した。
【0305】
試料は、ガラス基板である厚さ0.7mmの旭硝子社製無アルカリガラスAN100を、10mm×10mmに加工したものを用いた。
【0306】
酸素イオン注入条件は、25keVの加速電圧で、16イオンを1.0×1016ions/cm注入した。
【0307】
図15は、1.0×1016ions/cm16を5keVまたは25keVの加速電圧で注入した計算結果である。計算には、TRIM(Transport of Ion in Matter)を用いた。なお、被注入層の密度を2.51g/cmと仮定した。
【0308】
図15に示すように、加速電圧を高めるほど16Oの注入深さのピーク位置は深くなり、加速電圧によって16Oの注入深さを調整できることがわかる。
【0309】
16Oの注入深さは、加熱処理による酸素の放出しやすさに影響する。即ち、加速電圧によって、加熱処理による酸素の放出しやすさを調整できることが計算により示唆された。
【0310】
図16は、m/z=32(図16(A)参照。)、m/z=18(図16(B)参照。)およびm/z=12(図16(C)参照。)の質量電荷比で検出されるガスのTDS分析結果である。なお、図16(A)乃至図16(C)において、点線は酸素イオン注入を行っていないガラス基板のTDS分析結果を示し、実線は酸素イオン注入を行ったガラス基板のTDS分析結果を示す。
【0311】
酸素イオン注入を行っていないガラス基板から、基板温度250℃以上470℃以下の範囲において、m/z=32の質量電荷比で検出されるガスのTDS分析結果において特異的な放出は検出されなかった。一方、酸素イオン注入を行ったガラス基板から、前述の温度範囲において、m/z=32の質量電荷比で検出されるガスのTDS分析結果においてピークが検出された。なお、本実施例では、分析装置および試料の都合上、基板温度470℃までの範囲においてTDS分析を行っているが、酸素イオン注入条件によっては470℃よりも高温でピークが検出されることがある。仮に、470℃よりも高温でピークが検出されたとしても大きな問題ではない。
【0312】
酸素イオン注入を行ったガラス基板のみで放出が検出されていることから、基板温度250℃以上470℃以下の範囲において、m/z=32の質量電荷比で検出されるガスの検出されるピークがほとんど酸素原子および酸素分子に起因しているとわかる。
【0313】
TDS分析結果から導出した酸素の放出量は、酸素原子に換算して6.6×1015atoms/cmであった。測定範囲外である基板温度470℃よりも高温での放出量も考慮すると、この値は、ほぼ酸素イオン注入量と等量と見なすことができる。即ち、酸素イオン注入によってガラス基板に添加された酸素は、加熱処理によってほとんど放出されるとわかる。従って、酸素イオン注入量によって基板からの酸素放出量を調整できることがわかる。なお、放出される酸素は、注入した酸素イオンと同一とは限らず、注入した酸素イオンがガラス基板中の酸素と置換していることもありうる。
【0314】
また、酸素イオン注入を行っていないガラス基板と比べ、酸素イオン注入を行ったガラス基板は、基板温度190℃以上300℃以下の範囲において、m/z=18の質量電荷比で検出されるガスの放出量が少ない結果が得られた。即ち、酸素イオン注入を行うことで、加熱処理によるm/z=18(HOと推定。)の質量電荷比で検出されるガスの放出量が低減することがわかる。
【0315】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタにおいて、水は水素を含むため不純物となり、しきい値電圧の変動要因になる。酸素イオン注入を行うことで、ガラス基板からの水の放出量が低減するため、トランジスタの電気的特性を向上させることができる。
【0316】
同様に、酸素イオン注入を行っていないガラス基板と比べ、酸素イオン注入を行ったガラス基板は、基板温度100℃以上450℃以下の範囲において、m/z=12の質量電荷比で検出されるガスの放出量が少ない結果が得られた。即ち、酸素イオン注入を行うことで、加熱処理によるm/z=12(Cと推定。)の質量電荷比で検出されるガスの放出量が低減することがわかる。
【0317】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタにおいて、炭素は主成分でなく、不純物となる。炭素の濃度によっては酸化物半導体膜の結晶化を阻害するため、CAAC−OS膜または多結晶膜である酸化物半導体膜を形成するためには、炭素の濃度が低減されるほど好ましい。酸素イオン注入を行うことで、ガラス基板からの炭素の放出量が低減するため、トランジスタの信頼性を向上させることができる。
【0318】
本実施例に示したように、基板に酸素イオン注入を行うことで、基板からの酸素放出量が増大し、かつ水および炭素の放出量が低減することがわかる。
【符号の説明】
【0319】
100 基板
101 基板
104 ゲート電極
106 酸化物半導体膜
107 酸化物半導体膜
112 ゲート絶縁膜
116 一対の電極
136 酸化物半導体膜
204 ゲート電極
206 酸化物半導体膜
212 ゲート絶縁膜
216 一対の電極
302 絶縁膜
303 絶縁膜
304 ゲート電極
305 ゲート電極
306 酸化物半導体膜
306a 高抵抗領域
306b 低抵抗領域
307 酸化物半導体膜
307a 高抵抗領域
307b 低抵抗領域
312 ゲート絶縁膜
313 ゲート絶縁膜
318 保護膜
319 保護膜
320 側壁絶縁膜
322 配線
323 配線
1141 スイッチング素子
1142 記憶素子
1143 記憶素子群
1189 ROMインターフェース
1190 基板
1191 ALU
1192 ALUコントローラ
1193 インストラクションデコーダ
1194 インタラプトコントローラ
1195 タイミングコントローラ
1196 レジスタ
1197 レジスタコントローラ
1198 バスインターフェース
1199 ROM
2200 画素
2210 液晶素子
2220 キャパシタ
2230 トランジスタ
3002 下地絶縁膜
3004 ゲート電極
3006 酸化物半導体膜
3006a 高抵抗領域
3006b 低抵抗領域
3007 酸化物半導体膜
3007a 高抵抗領域
3007b 低抵抗領域
3012 ゲート絶縁膜
3016 一対の電極
3018 保護絶縁膜
3020 保護膜
3022 配線
3024 側壁絶縁膜
9300 筐体
9301 ボタン
9302 マイクロフォン
9303 表示部
9304 スピーカ
9305 カメラ
9310 筐体
9311 表示部
9320 筐体
9321 ボタン
9322 マイクロフォン
9323 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温脱離ガス分光法により質量電荷比32が検出される絶縁体基板と、
前記絶縁体基板上に設けられた酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜と少なくとも一部が接して設けられた一対の電極と、
前記酸化物半導体膜および前記一対の電極を覆って設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳して設けられたゲート電極と、を有し、
前記質量電荷比32で検出されるガスの放出量は、酸素原子に換算すると3.0×10−14atoms/cm以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の電極は、前記絶縁体基板と前記酸化物半導体膜との間に設けられることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記一対の電極は、前記酸化物半導体膜と前記ゲート絶縁膜との間に設けられることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
昇温脱離ガス分光法により質量電荷比32が検出される絶縁体基板と、
前記絶縁体基板上に設けられた低抵抗領域および高抵抗領域を有する酸化物半導体膜と、
前記酸化物半導体膜上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳して設けられたゲート電極と、を有し、
前記質量電荷比32で検出されるガスの放出量は、酸素原子に換算すると3.0×10−14atoms/cm以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記絶縁体基板と前記酸化物半導体膜の前記低抵抗領域との間に絶縁膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記ゲート絶縁膜は、加熱処理により酸素を放出する絶縁膜であることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記絶縁体基板上に、前記酸化物半導体膜の下地となる下地膜が設けられることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
絶縁体基板に酸素イオン注入し、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に酸化物半導体膜を形成し、
前記酸化物半導体膜と少なくとも一部が接する一対の電極を形成し、
前記酸化物半導体膜および前記一対の電極を覆うゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳するゲート電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項9】
絶縁体基板に酸素イオン注入し、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に一対の電極を形成し、
前記一対の電極と少なくとも一部が接する酸化物半導体膜を形成し、
前記酸化物半導体膜および前記一対の電極を覆うゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳するゲート電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項10】
絶縁体基板に酸素イオン注入し、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に酸化物半導体膜を形成し、
前記酸化物半導体膜を覆うゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳するゲート電極を形成し、
前記ゲート電極をマスクとして前記酸化物半導体膜の低抵抗化処理を行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項11】
絶縁体基板に酸素イオン注入し、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に酸化物半導体膜を形成し、
前記酸化物半導体膜を覆うゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記酸化物半導体膜と重畳するゲート電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に一対の電極を形成した後、前記一対の電極と少なくとも一部が接する前記酸化物半導体膜を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項13】
請求項11において、
前記酸素イオン注入された絶縁体基板上に前記酸化物半導体膜を形成した後、前記酸化物半導体膜と少なくとも一部が接する一対の電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項14】
請求項11乃至請求項13のいずれか一において、
前記酸化物半導体膜は、前記ゲート電極の形成後、前記ゲート電極をマスクとして前記酸化物半導体膜の低抵抗化処理を行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項15】
請求項8乃至請求項14のいずれか一において、
前記酸素イオン注入として、3.0×1014ions/cm以上の酸素イオン注入することを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−38396(P2013−38396A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−149650(P2012−149650)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】