説明

排気浄化装置

【課題】追加デバイスを用意することなく、吸着材から脱離した未燃成分を適切に浄化する排気浄化装置を提供する。
【解決手段】排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられたバイパス通路を備える。バイパス通路上に設けられ、低温時に排気ガスにおける未燃成分を吸着し、吸着された未燃成分が高温時に脱離する吸着材を備える。排気通路のバイパス通路が合流する部分よりも下流に設けられ、排気ガスにおける未燃成分を浄化する排気ガス浄化触媒を備える。フューエルカットが行われた間に内燃機関の燃焼室に吸入された空気量の積算値である積算フューエルカット空気量に基づいて、吸着材に吸着された未燃成分の脱離量を調整する脱離量調整部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における排気浄化装置に関し、特に吸着材に吸着された未燃成分を浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の冷間始動後など排気ガス浄化触媒が活性化するまでの間、HCなど排気ガスの未燃成分をバイパス通路に設けた吸着材に吸着させ、暖機完了後に脱離させて吸着材の下流に設けられた排気ガス浄化触媒(三元触媒)で浄化する排気浄化装置が提案されている。この排気ガス浄化触媒は、酸素を吸蔵する酸素吸蔵機能を有する。この排気浄化装置では、脱離した未燃成分を浄化するのに必要な量の酸素を、排気ガス浄化触媒に供給する必要がある。
【0003】
特許文献1は、排気ガス浄化触媒に酸素を供給するため、エアインジェクション装置など二次空気導入手段を排気通路上に設けた排気浄化装置を開示する。
【特許文献1】特開平06−93840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、二次空気供給装置という追加デバイスを用意する必要がある。
【0005】
したがって本発明の目的は、追加デバイスを用意することなく、吸着材から脱離した未燃成分を適切に浄化する排気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられたバイパス通路と、バイパス通路上に設けられ、低温時に排気ガスにおける未燃成分を吸着し、吸着された未燃成分が高温時に脱離する吸着材と、排気通路のバイパス通路が合流する部分よりも下流に設けられ、排気ガスにおける未燃成分を浄化する排気ガス浄化触媒と、フューエルカットが行われた間に内燃機関の燃焼室に吸入された空気量の積算値である積算フューエルカット空気量に基づいて、吸着材に吸着された未燃成分の脱離量を調整する脱離量調整部とを備える。
【0007】
排気ガスが通過することにより吸着材の温度が上昇すると、吸着材に吸着された未燃成分は脱離する。また、積算フューエルカット空気量が増えると、排気ガス浄化触媒への酸素供給量、すなわち吸着材から脱離した未燃成分を浄化(酸化)できる量が増える。そのため、積算フューエルカット空気量に応じて、吸着材に吸着された未燃成分の脱離量を調整することにより、吸着材から脱離した未燃成分を、排気ガス浄化触媒において適切に浄化させることが可能になる。なお、脱離した未燃成分を浄化させるのに必要な酸素は、フューエルカットを用いて排気ガス浄化触媒に供給するため、エアインジェクション装置など、別途空気を送り込む追加デバイスを用意する必要はない。
【0008】
好ましくは、脱離量調整部は、積算フューエルカット空気量の増加に伴って、脱離量を多くする。
【0009】
さらに好ましくは、吸着材から脱離した未燃成分が排気ガス浄化触媒において浄化されていないと判断された場合には、脱離量調整部は、脱離量が多くならないようにする。
【0010】
通常、吸着材に吸着された未燃成分の脱離量が、積算フューエルカット空気量に対応して調整されることで、排気ガス浄化触媒において適切に未燃成分を浄化させることが可能である。しかし、積算フューエルカット空気量から想定される排気ガス浄化触媒への酸素供給量は、吸着材から脱離した未燃成分を浄化するのに十分な量だけ確保されないことも起こり得る。かかる場合には、脱離した未燃成分は、排気ガス浄化触媒で浄化されずに排出されてしまう。このため、脱離未燃成分を抑えるように、すなわち脱離量が多くならないように調整される。
【0011】
さらに好ましくは、排気浄化装置を含む車両は、内燃機関による車両駆動と、電動モータによる車両駆動が可能であり、積算フューエルカット空気量と燃焼室に吸入された空気量の積算値である積算空気量との関係に基づいて、電動モータは、内燃機関を駆動するモータリングを行って、フューエルカットを行う。
【0012】
減速時など車両の運転状態に応じて行われるフューエルカットが行われない運転状況が続き、積算フューエルカット空気量の値から想定される排気ガス浄化触媒に供給される酸素量が増加する速さが、積算空気量が増加する速さに比べて速くない場合は、吸蔵酸素量が、脱離未燃成分を浄化するのに十分な量だけ確保されないため、脱離量を多く出来ない。このため、吸着材から脱離した未燃成分を早く浄化することが出来ない。かかる場合に、電動モータを使って強制的にフューエルカットを行うことで、積算フューエルカット空気量を早く増加させ、すなわち排気ガス浄化触媒に供給させる酸素量を早く増加させる。これにより、未燃成分の脱離量を増加させても適切に浄化が行えるため、脱離完了を早めることが可能になる。
【0013】
また、好ましくは、内燃機関から排気通路に排気ガスが大量に排出される状態であると判断された場合は、脱離量調整部は、脱離量を少なくする。
【0014】
内燃機関への負荷が大きく、回転数が高い場合など、内燃機関から排気通路に排気ガスが大量に排出されると、吸着材に大量の排気ガスが流れ込み、吸着材の温度が急激に上昇する。温度が急激に上昇すると、吸着された未燃成分が、排気ガス浄化触媒で十分に浄化できない程度に大量に脱離するおそれがある。このため、このような状態の時には、脱離量調整部は、脱離量を少なくして、脱離制御のロバスト性を向上させる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、追加デバイスを用意することなく、吸着材から脱離した未燃成分を適切に浄化する排気浄化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図1〜8を用いて説明する。本実施形態における車両1は、内燃機関10による車両駆動と、電動モータ35による車両駆動が可能なハイブリッド車である。すなわち、この車両1は、ECUなどの制御部5、内燃機関10、内燃機関10の回転力に基づいて発電する発電機31、発電機31で発電された電力を蓄えるバッテリ33、発電機31またはバッテリ33の電力で駆動する電動モータ35、発電機31で発電された電力の電動モータ35やバッテリ33への印加とバッテリ33に蓄電された電力の電動モータ35への印加とを選択的に行うインバータ37、内燃機関10の回転力を発電機31と減速機43を介した車輪47とに分配する動力分配機構39、電動モータ回転軸41、減速機43、及びドライブシャフト45、車輪47を備える(図1参照)。
【0017】
制御部5は、CPU、制御プログラムを格納したROM、及び各種データを格納するRAM等を有し、吸着材温度センサ21a等の各種センサからの信号が入力され、また制御信号を出力して車両1の各部を制御する。制御部5は、特に、エアフローメータ13で測定される吸入空気量Gaに関する情報などに基づいて、切替弁19の弁開度制御を行う。切替弁19の弁開度制御の詳細については後述する。
【0018】
内燃機関10は、機関本体11、吸気通路12、エアフローメータ13、排気通路15、空燃比センサ16、前段触媒17、Oセンサ18、切替弁(脱離量調整部)19、排気通路15に設けられたバイパス通路20、吸着材21、吸着材温度センサ21a、排気通路15のバイパス通路20が合流する部分よりも下流に設けられた主触媒22、排気ガスセンサ23、及びクランクシャフト25を有する。
【0019】
内燃機関10の通常運転中、機関本体11の各シリンダーの燃焼室には、吸気通路12から吸気弁(不図示)を介して、空気が吸入される(図1の点線矢印参照)。エアフローメータ13は、吸気通路12に流れる空気流量、即ち吸入空気量Gaを測定するために使用される。吸入空気量Gaは、電子制御スロットル弁(不図示)を制御するために使用される他、本実施形態では、吸入空気量Gaを時間積分した値が、エアフローメータ13を通過した空気量の積算値、すなわち積算空気量gs、及びフューエルカットが行われている間にエアフローメータ13を通過した空気量の積算値、すなわち積算フューエルカット空気量fgsとして、切替弁19の弁開度制御に使用される。なお、積算フューエルカット空気量fgsの値は、フューエルカットが行われるたびに更新され、制御部5のRAMなどに記録される。積算空気量gsの値は、エアフローメータ13に空気が通過する間随時更新され、制御部5のRAMなどに記録される。
【0020】
インジェクタから噴射された燃料は、吸入された空気と混ざって混合気を形成する。制御部5からの点火信号に基づく点火プラグの点火によって、混合気は燃焼する。混合気の燃焼による爆発力に応じたピストンの往復運動により、クランクシャフト25が回転せしめられる。
【0021】
燃焼室から排出された排気ガスは、排気弁(不図示)を介して排気通路15、及びバイパス通路20を通って排出される(図1の実線矢印参照)。排気通路15に設けられた空燃比センサ16により、排気ガスの空燃比(A/F)が検出され、これに基づいて、空燃比フィードバック補正(インジェクタから噴射する燃料量の調整、酸化還元量の最適化)が行われる。また、排気ガスは、排気通路15に設けられた上流の前段触媒17、及び下流の主触媒22により浄化される。また、前段触媒17と、切替弁19の間に配置されたOセンサ18により、前段触媒17の出口におけるOの量(前段触媒17による排気ガス浄化後の空燃比)が検出され、これに基づいて、前述の空燃比フィードバック補正におけるフィードバック補正量が調整される。
【0022】
但し、フューエルカット中は、インジェクタからの燃料噴射が停止されるため、排気ガスは形成されず、吸入された空気が、排気通路15またはバイパス通路20を流れる。本実施形態におけるフューエルカットは、減速時など車両1の運転状態に応じて行われる通常フューエルカットの他、後述する積算フューエルカット空気量fgsを増やして主触媒22に吸蔵される酸素を増やすために後述する一定条件下(図5のステップS34参照)で行われる強制フューエルカットを含む。主触媒22に吸蔵された酸素は、HCなど排気ガス中の未燃成分を浄化(酸化)するために使用される。特に、本実施形態では、フューエルカットの下で吸入され主触媒22に吸蔵された酸素は、主に吸着材21から脱離した未燃成分を浄化するために使用される。
【0023】
切替弁19は、機関本体11の燃焼室から排出された排気ガス(通常運転中)、または燃焼室を通過した空気(フューエルカット中)の一部又は全部の流路を、排気通路15からバイパス通路20に切り替える弁である。切替弁19の弁開度aは、内燃機関10の運転状態に基づいて制御される。切替弁19の弁開度aが最小値:0度の場合、すなわち全閉状態の場合は、排気ガスまたは空気の全部は、排気通路15を流れて主触媒22に到達する。切替弁19の弁開度aが最小値:0より大きく、最大値:Amax(=90度)より小さい場合(0度<a<Amax)、排気ガスまたは空気の一部はバイパス通路20を流れて主触媒22に到達し、残りは排気通路15を流れて主触媒22に到達する。切替弁19の弁開度aが最大値:Amaxの場合、すなわち全開状態の場合は、排気ガスまたは空気の全部は、バイパス通路20を流れて主触媒22に到達する。
【0024】
バイパス通路20上に設けられた吸着材21は、ゼオライトなどで構成され、HCなど排気ガス中の未燃成分を低温時に吸着し、高温時に脱離する特性を有する。具体的には、冷間始動時など吸着材21が低温である場合に、バイパス通路20を流れる排気ガス中に含まれる未燃成分は、吸着材21に吸着される。暖機が完了し吸着材21が排気ガスにより十分に温められた状態である場合には、吸着された未燃成分が脱離し、バイパス通路20を流れる排気ガスまたは空気と共に、主触媒22に到達する。
【0025】
吸着材温度センサ21aは、吸着材21の温度Tを測定するために使用される。本実施形態では、吸着材温度センサ21aは吸着材21に接触するように取り付けられて、温度Tを測定する。但し、別の形態、例えば、吸着材21の下流に設けてかかる部分における排気ガス温度を測定して、これに基づいて吸着材21の温度Tを算出(または推定)する形態であってもよい。吸着材21の温度Tが、350℃程度に設定された温度閾値Tに達すると、吸着材21に吸着された未燃成分は完全に脱離する(図4のステップS19参照)。
【0026】
内燃機関10の冷間始動時であって、暖機が完了するまでの間(図8のt11〜t12参照)は、前段触媒17、及び主触媒22が活性温度以上に温められておらず、排気ガスを十分に浄化することが出来ないため、かかる期間中は、吸着材21に未燃成分を吸着するため、切替弁19は全開状態(a=90度)にされる。このため、機関本体11から排出される排気ガスの総てが、バイパス通路20を流れる。この期間は、排気ガスの温度が高くなっておらず、排気ガスによって吸着材21はあまり温められない。このため、排気ガスに含まれる未燃成分は、温度が低い状態の吸着材21に吸着され、この時点では主触媒22に到達しない。
【0027】
暖機完了後(図8のt12参照)は、一旦、切替弁19は全閉状態(a=0度)にされ、機関本体11から排出される排気ガスの総てが、バイパス通路20を介さずに、排気通路15を流れる。機関本体11から排出された排気ガスは吸着材21に到達しないため、吸着材21の温度上昇は抑えられて、吸着された未燃成分は脱離しない状態で保持される。
【0028】
全閉状態にされた後、吸着材21に吸着された未燃成分を脱離させるパージ制御が開始される。パージ制御の手順は、図4〜7のフローチャートを使って後述する。パージ制御では、切替弁19の弁開度aは少しずつ大きくされる。具体的には、切替弁19は、積算フューエルカット空気量fgsの増加に伴って弁開度aが大きくなるように制御される(図2、及び図4のステップS11〜S18参照)。本実施形態では、フューエルカットとして、内燃機関10の運転状態に応じて通常フューエルカットが行われる他、吸気で得られた空気中の酸素を早く排気ガス浄化触媒22に吸蔵させるための強制フューエルカットが一定条件下で行われる(図5のステップS31〜S34参照)。
【0029】
暖機完了後は、バイパス通路20に流れる排気ガスの温度が高くなっており、高い温度の排気ガスが通過することにより吸着材21の温度Tが上昇し、吸着材21に吸着された未燃成分が脱離する。切替弁19の弁開度aが大きくなると、吸着材21に流れる排気ガスの増加に伴い、吸着材21の温度Tが高くなり脱離する未燃成分の量が増加する。一方、脱離した未燃成分を主触媒22で浄化させるには、脱離した未燃成分を浄化できるだけの酸素が主触媒22に供給されている必要がある。このため、本実施形態では、積算フューエルカット空気量fgsの値から想定される主触媒22への酸素供給量の増加に対応して、切替弁19の弁開度aを大きくする。これにより、主触媒22で浄化できる量を超えないように、吸着材21から脱離する未燃成分の量が調整される。
【0030】
但し、内燃機関10への負荷が大きく、且つ内燃機関10の回転数が高い場合などには、一時的に切替弁19は全閉状態(a=0)にされる(図6のステップS52参照)。かかる場合には、機関本体11から排気ガスが大量に排出されるため、吸着材21に大量の排気ガスが流れ込むと吸着材21の温度Tが急激に上昇する。温度が急激に上昇すると、吸着された未燃成分が、主触媒22で十分に浄化できない程度に大量に脱離するおそれがある。また、大量に流れる排気ガスにより、切替弁19の弁開度aを調整する精度を維持することが困難になるおそれがある。このため、このような状態の時には、切替弁19を全閉状態にして、排気ガスがバイパス通路20に流れないようにして脱離量をゼロにし、脱離制御のロバスト性を向上させる。
【0031】
また、主触媒22によって脱離した未燃成分の浄化が十分に行われていない場合には、かかる浄化が十分に行われる状態になるまで切替弁19の弁開度aは同じ状態か少し閉じた状態で維持される(図7のステップS72参照)。通常、切替弁19の弁開度aは、積算フューエルカット空気量fgsに対応して調整されることで、主触媒22において適切に未燃成分を浄化させることが可能である。しかし、積算フューエルカット空気量fgsから想定される主触媒22への酸素供給量が、吸着材21から脱離した未燃成分を浄化する量だけ確保されないことも起こり得る。かかる場合には、脱離した未燃成分は、主触媒22で浄化されずに排出されてしまう。このため、未燃成分の脱離を抑えるように、すなわち切替弁19の弁開度aが大きくならないように調整される。この時、全閉状態にせず、現状の弁開度aを維持するのは、排気ガスを一定量通過させて、吸着材21の温度を一定に保つためである。
【0032】
吸着材21から脱離した未燃成分が主触媒22において浄化されたか否かは、主触媒22の下流に設けられた排気ガスセンサ23からの情報(排気ガス成分に関する情報)に基づいて、排気ガス中に含まれる未燃成分が少ないか否かによって判断される。但し、排気ガスセンサ23に代えてOセンサを配置して、かかるOセンサからの情報(主触媒22から排出されるO量に関する情報)に基づいて、浄化されたか否かを判断してもよい。
【0033】
次に、内燃機関10などによって発生した回転力を車輪47などに伝達する動作について説明する。
【0034】
クランクシャフト25の回転力は、動力分配機構39に伝達され、動力分配機構39で、発電機31と電動モータ回転軸41とに分配して伝達される。電動モータ回転軸41の回転力は、内燃機関10からの伝達された回転力の他、電動モータ35の回転力にも基づく。減速機43は、内燃機関10及び電動モータ35の少なくとも一方の回転力に基づく電動モータ回転軸41の回転力を減速してドライブシャフト45に伝達し、車輪47を回転させ、車両1を走行させる。
【0035】
車両1の発進時や低負荷時等は、内燃機関10からの回転力の伝達を遮断するか、内燃機関10の運転を停止させ、バッテリ33からの電力で電動モータ35を回転させ、電動モータ35の回転力で車輪47を回転させて車両1を走行させる。
【0036】
特に、低負荷の定常運転状態であるなど、一定条件下では、強制フューエルカットが行われる。この場合、電動モータ35の回転力で内燃機関10が駆動され、空気が吸気通路12から排気通路15を介して主触媒22に取り込まれ、空気中の酸素が主触媒22に吸蔵される。
【0037】
車両1の中負荷時、すなわち通常走行時は、内燃機関10の回転力を発電機31及び車輪47に分配して伝達し、発電機31で発生した電力で電動モータ35を回転させ、電動モータ35の回転力を車輪47に伝達する。この場合、内燃機関10の回転力、及び発電機31からの電力供給に基づく電動モータ35の回転力によって車輪47を回転させて車両1を走行させる。
【0038】
車両1の加速時等の高負荷時は、内燃機関10の回転力を発電機31及び車輪47に分配して伝達し、発電機31で発生した電力及びバッテリ33からの電力で電動モータ35を回転させ、電動モータ35の回転力を車輪47に伝達する。この場合、内燃機関10の回転力、及び発電機31及びバッテリ33からの電力供給に基づく電動モータ35の回転力によって車輪47を回転させて車両1を走行させる。
【0039】
車両1の減速時は、車輪47の回転力を電動モータ35に伝達して回生発電を行い、得られた電力をバッテリ33に蓄電する。また、この間、通常フューエルカットが行われ、車輪47の回転力で内燃機関10が駆動され、空気が吸気通路12から排気通路15を介して主触媒に取り込まれ、空気中の酸素が主触媒22に吸蔵される。
【0040】
強制フューエルカットが行われる一定条件は、第1条件:通常フューエルカットが行われない運転状況が続くなどで、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示し、これにより積算フューエルカット空気量fgsの値から想定される主触媒22に供給される酸素量が増加する速さが、積算空気量gsが増加する速さに比べて速くないこと、言い換えると、切替弁19が弁開する速さが、積算空気量gsが増加する速さに比べて速くないことと、第2条件:電動モータ35の回転力だけに基づいて車両1が走行している低負荷の定常運転状態である等、内燃機関10による車両駆動の必要が無いことである。
【0041】
第1条件を満たしているか否かは、積算フューエルカット空気量fgsが、第1基準値F(gs)より小さいか否かで判断される(図5のステップS31参照)。積算フューエルカット空気量fgsが、第1基準値F(gs)より小さい場合には、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示すと判断される。第2条件を満たしているか否かは、一定時間あたりの吸入空気量Ga(g/s)の変化量ΔGaが変化量閾値ΔGaより少ないか否かで判断される(図5のステップS33参照)。
【0042】
第1基準値F(gs)は、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示すか否かを判断するために用いられ、例えば関係式:fgs=F(gs)=P×gs+Q1で表される(P、Q1は定数、図3参照)。
【0043】
強制フューエルカットは、第1基準値F(gs)よりも大きい第2基準値F(gs)と積算フューエルカット空気量fgsとの差異値ftgt(=F(gs)−fgs)だけ、空気が機関本体11の燃焼室に吸気されるように電動モータ35の回転力で内燃機関10を駆動する(モータリングする)ことにより行われる(図5のステップS34参照)。
【0044】
第2基準値F(gs)は、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を満たす状態を解消させるために用いられ、例えば関係式:fgs=F(gs)=P×gs+Q2で表される(Q2はQ1より大きい定数、図3参照)。
【0045】
ある時点tにおける積算空気量gsに基づいて算出される第1基準値F(gs)が、積算フューエルカット空気量fgsよりも大きい場合(fgs<F(gs))は、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示す状態であると判断される。この場合、差異値ftgt(=F(gs)―fgs)だけ、空気が機関本体11の燃焼室に吸気されるようにモータリングが行われる。モータリングによって積算フューエルカット空気量fgs、及び積算空気量gsが差異値ftgtだけ増加し、その結果、積算フューエルカット空気量fgsが、第1基準値F(gs)に近づく。これを繰り返すことにより、積算フューエルカット空気量fgsは、第1基準値F(gs)以上に大きな値を示すようになる。
【0046】
次に、吸着材21に吸着された未燃成分を脱離させるパージ制御の手順について図4〜図7のフローチャートを用いて説明する。まず、パージ制御のメインルーチンについて図4のフローチャートを用いて説明する。冷間始動時に行われる未燃成分の吸着材21への吸着のため切替弁21が全開状態にされ、その後切替弁19が全閉状態にされた後(図8のt12以降)、図4のフローチャートに示すパージ制御が開始される。
【0047】
なお、後述する図7のステップS72で弁開禁止状態にされている場合には、ステップS74で解除されるまでステップS12、S14、S16、及びS18の動作は行われない。また、図4に示すメインルーチンでは、4段階に分けて、切替弁19の弁開度aを広げる手順を説明するが、段階の数はこれに限られない。また、積算フューエルカット空気量fgs、及び積算空気量gsの値はパージ制御開始時にリセットされる。
【0048】
なお、第1〜第4目標値B1〜B4は、B1<B2<B3<B4の関係になるように設定され、弁開度の値は、Amin<A2<A3<Amaxの関係になるように設定される。
【0049】
パージ制御が開始されると、ステップS11で、積算フューエルカット空気量fgsが、第1目標値B1よりも多くなったか否かが判断される。多くなった場合はステップS12に進められる。多くなっていない場合はステップS11が繰り返し行われる。ステップS12で、切替弁19の弁開度aが第1弁開度Aminに設定され、切替弁19が全閉状態(a=0度)から少し開いた状態にされる。これにより、吸着材21に流れる排気ガスにより、吸着材21の温度Tが緩やかに上昇し、吸着された未燃成分の脱離が始まる。積算フューエルカット空気量fgsの増加に伴って、主触媒22における酸素供給量が増加しており、吸着材21から脱離した未燃成分は、主触媒22において浄化される。
【0050】
ステップS13で、積算フューエルカット空気量fgsが、第2目標値B2よりも多くなったか否かが判断される。多くなった場合はステップS14に進められる。多くなっていない場合はステップS13が繰り返し行われる。ステップS14で、切替弁19の弁開度aが第2弁開度A2に設定される。
【0051】
ステップS15で、積算フューエルカット空気量fgsが、第3目標値B3よりも多くなったか否かが判断される。多くなった場合はステップS16に進められる。多くなっていない場合はステップS15が繰り返し行われる。ステップS16で、切替弁19の弁開度aが第3弁開度A3に設定される。
【0052】
ステップS17で、積算フューエルカット空気量fgsが、第4目標値B4よりも多くなったか否かが判断される。多くなった場合はステップS18に進められる。多くなっていない場合はステップS17が繰り返し行われる。ステップS18で、切替弁19の弁開度aが最大値Amaxに設定され、切替弁19が全開状態にされる。
【0053】
このように、積算フューエルカット空気量fgsの増加に対応して、切替弁19の弁開度aが徐々に大きくされ、これによりバイパス通路20に流れる排気ガスが増え、吸着材21の温度Tが上昇し、吸着材21に吸着された未燃成分の脱離量は増える。この間、積算フューエルカット空気量fgsの増加に対応して、主触媒22における酸素供給量も増加しているため、吸着材21から脱離した未燃成分は、主触媒22において浄化される。
【0054】
ステップS19で、吸着材21の温度Tが、温度閾値Tを超えたか否かが判断される。超えていない場合は、吸着材21に吸着された未燃成分の脱離が完了していないとして、ステップS19が繰り返し行われる。超えた場合は、吸着材21に吸着された未燃成分の脱離が完了したとして、ステップS20に進められる。ステップS20で、切替弁19の弁開度aが最小値:0度に設定され、切替弁19が全閉状態にされる。その後、パージ制御は終了する。なお、図8は、メインルーチンのステップS11〜S19までを実行した場合の実験例であり、ステップS20の閉弁動作を省略している。
【0055】
なお、上述のメインルーチンの途中で、すなわち吸着材21に吸着された未燃成分の脱離が完了しない状態で、車両1の運転が終了することも考えられる。この場合であって、次に車両1の内燃機関10が冷間始動された場合には、メインルーチンは最初の手順(ステップS11)から始められる。また、次に車両1が暖機された状態で始動された場合には、前回途中で終了したステップから始められる。
【0056】
次に、パージ制御中に強制フューエルカットを行う手順について図5のフローチャートを使って説明する。強制フューエルカット制御は、図4に示すメインルーチンの進行中に常時行われる。
【0057】
強制フューエルカット制御が開始されると、ステップS31で、第1条件の判断として、積算フューエルカット空気量fgsが、第1基準値F(gs)より小さいか否かが判断される。小さくない場合は、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示す状態でないとして、ステップS31が繰り返し行われる。小さい場合は、積算フューエルカット空気量fgsと積算空気量gsとが一定の関係を示す状態であるとして、ステップS32に進められる。ステップS32で、強制フューエルカットの下で吸気する空気量として、第2基準値F(gs)と、積算フューエルカット空気量fgsとの差異値ftgtが算出される。
【0058】
ステップS33で、第2条件の判断として、エアフローメータ13で測定される吸入空気量Gaに基づいて、機関本体11の燃焼室に吸入される空気の量(吸入空気量Ga)の一定時間あたりの変化量ΔGaが算出され、この値が変化量閾値ΔGaより小さいか否かが判断される。小さくない場合は、車両1が定常運転状態でないなど、強制フューエルカットを行う状態にないとしてステップS33が繰り返し行われる。小さい場合は、ステップS34に進められる。
【0059】
ステップS34で、強制フューエルカット、すなわち、ステップS32で算出された差異値ftgtだけの空気が機関本体11の燃焼室に吸入されるように、電動モータ35の回転力で内燃機関10が駆動され(モータリングされ)、その後ステップS31に戻される。
【0060】
次に、パージ制御中に脱離制御のロバスト性向上のために切替弁19を閉弁する手順について図6のフローチャートを使って説明する。切替弁19の閉弁制御は、図4に示すメインルーチンの進行中に常時行われる。
【0061】
閉弁制御が開始されると、ステップS51で、機関本体11の負荷が大きく、且つ機関本体11の回転数が高い状態であるか否かが判断される。少なくとも一方を満たさない場合は、切替弁19を閉弁する必要がないとして、ステップS51が繰り返し行われる。両方を満たす場合には、ステップS52で、切替弁19の弁開度aが最小値:0度に設定され、切替弁19が全閉状態にされる。
【0062】
ステップS53で、機関本体11の負荷が小さく、且つ機関本体11の回転数が低くなったか否かが判断される。少なくとも一方を満たさない場合は、閉弁状態を解除すべきでないとしてステップS53が繰り返し行われる。両方を満たす場合は、ステップS54で、切替弁19の閉弁状態が解除されて、ステップS52で全閉状態にされる前の弁開度aに設定される。その後、ステップS51に戻される。なお、ステップS53における負荷の閾値や、回転数の閾値は、ステップS51における負荷の閾値や、回転数の閾値に比べて低めの値に設定される。
【0063】
次に、パージ制御中に主触媒22において脱離した未燃成分の浄化が十分に行われているか否かを確認する手順について図7のフローチャートを使って説明する。浄化確認制御は、図4に示すメインルーチンの進行中に常時行われる。
【0064】
浄化確認制御が開始されると、ステップS71で、排気ガスセンサ23からの情報に基づいて、吸着材21から脱離した未燃成分が主触媒22において浄化されたか否かが判断される。排気ガスセンサ23において測定される排気ガス成分に未燃成分が多く、主触媒22における浄化が十分に行われていない場合は、ステップS72に進められる。未燃成分が少なく、浄化が十分に行われている場合は、ステップS73に進められる。
【0065】
ステップS72で、切替弁19の弁開度aを大きくする制御を禁止する弁開禁止状態にされる。これにより、図4に示すメインルーチンにおけるステップS12、S14、S16、及びS18の動作は禁止される。
【0066】
ステップS73で、弁開禁止状態にされているか否かが判断される。されていない場合は、ステップS71に戻される。されている場合は、ステップS74で、弁開禁止状態が解除された後、ステップS71に戻される。これにより、図4に示すメインルーチンにおけるステップS12、S14、S16、及びS18の動作が可能な状態にされる。
【0067】
これらの制御により、積算フューエルカット空気量fgsの増加に応じて、吸着材21に吸着された未燃成分の脱離量を制御して、主触媒22において適切に未燃成分を浄化させるパージ制御を行うことが可能になる。なお、吸着材21から脱離した未燃成分を浄化させるのに必要な酸素はフューエルカットを用いて主触媒22に供給するため、エアインジェクション装置など、別途空気を送り込む追加デバイスを用意する必要はない。
【0068】
また、本実施形態では、積算フューエルカット空気量fgsだけでなく、機関本体11の運転状態、主触媒22の下流における排気ガス成分に基づいて、切替弁19の弁開度制御を行うため、未燃成分の脱離量の急激な増加などにも対応して、主触媒22の浄化率の低下を防止し、未燃成分の浄化を適切に行うことが可能になる。
【0069】
また、本実施形態では、通常フューエルカットに加えて、強制フューエルカットを行って、主触媒22に吸蔵される酸素を出来るだけ早く増加させる。このため、車両1の運転状況に左右されずに、主触媒22の浄化率の低下を防止し、吸着材21に吸着された未燃成分の脱離を早期に完了させることが可能になる。早期に脱離を完了させることにより、バイパス通路20に排気ガスが流れる時間を短くできるため、吸着材21の熱的劣化を抑制できると共に、バイパス通路20を排気ガスが通過する時の排気抵抗増大による燃費悪化を抑制できる。
【0070】
また、本実施形態では車両1が、内燃機関10による車両駆動と、電動モータ35による車両駆動が可能なハイブリッド車である形態を説明したが、内燃機関10による車両駆動だけが可能な車両であってもよい。この場合、車両1の走行中は内燃機関10が常に運転状態にあるため、かかる走行中の強制フューエルカットによる早期脱離完了の効果は得られないが、他の発明の効果を得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態における車両の構成図である。
【図2】積算フューエルカット空気量と切替弁の弁開度の関係を示す図である。
【図3】積算空気量と、積算フューエルカット空気量との関係を示す図である。
【図4】パージ制御を行うメインルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図5】メインルーチン実行中に並行して実行される強制フューエルカットの手順を示すフローチャートである。
【図6】メインルーチン実行中に並行して実行される閉弁制御の手順を示すフローチャートである。
【図7】メインルーチン実行中に並行して実行される浄化確認制御の手順を示すフローチャートである。
【図8】パージ制御におけるフューエルカット積算空気量、切替弁の弁開度、車両の速度の時間的関係を示す実験例である。
【符号の説明】
【0072】
1 車両
5 制御部
10 内燃機関
11 機関本体
12 吸気通路
13 エアフローメータ
15 排気通路
16 空燃比センサ
17 前段触媒
18 Oセンサ
19 切替弁
20 バイパス通路
21 吸着材
21a 吸着材温度センサ
22 主触媒
23 排気ガスセンサ
25 クランクシャフト
31 発電機
33 バッテリ
35 電動モータ
37 インバータ
39 動力分配機構
41 電動モータ回転軸
43 減速機
45 ドライブシャフト
47 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたバイパス通路と、
前記バイパス通路上に設けられ、低温時に排気ガスにおける未燃成分を吸着し、吸着された未燃成分が高温時に脱離する吸着材と、
前記排気通路の前記バイパス通路が合流する部分よりも下流に設けられ、排気ガスにおける未燃成分を浄化する排気ガス浄化触媒と、
フューエルカットが行われた間に前記内燃機関の燃焼室に吸入された空気量の積算値である積算フューエルカット空気量に基づいて、前記吸着材に吸着された未燃成分の脱離量を調整する脱離量調整部とを備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記脱離量調整部は、前記積算フューエルカット空気量の増加に伴って、前記脱離量を多くすることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記吸着材から脱離した未燃成分が前記排気ガス浄化触媒において浄化されていないと判断された場合には、前記脱離量調整部は、前記脱離量が多くならないようにすることを特徴とする請求項1または2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記排気浄化装置を含む車両は、前記内燃機関による車両駆動と、電動モータによる車両駆動が可能であり、
前記積算フューエルカット空気量と前記燃焼室に吸入された空気量の積算値である積算空気量との関係に基づいて、前記電動モータは、前記内燃機関を駆動するモータリングを行って、前記フューエルカットを行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記内燃機関から前記排気通路に排気ガスが大量に排出される状態であると判断された場合は、前記脱離量調整部は、前記脱離量を少なくすることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−209718(P2009−209718A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51822(P2008−51822)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】