説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】HV−MT車について、内燃機関トルクを利用して、電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリを効率良く充電すること。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関(EG)とモータ(MG)とを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機と、摩擦クラッチとを備える。シフト位置が「ニュートラル」にあり、摩擦クラッチが接合状態にあり、アクセル開度が「0」であり、バッテリ残量SOCが閾値TH未満である場合に充電条件が成立する。充電条件が成立すると、EGトルクを利用したバッテリの充電が行われる。具体的には、EGトルクを利用してMGが発電機として駆動され、MGの発電により得られた電気エネルギを利用してバッテリが充電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、摩擦クラッチを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力源として内燃機関と電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、ハイブリッド車両であって、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)が開発されてきている。ここにいう「手動変速機」とは、運転者により操作されるシフトレバーのシフト位置に応じて複数の変速段のうちの1つが選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション、MT)である。また、ここにいう「摩擦クラッチ」とは、内燃機関の出力軸と手動変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化するクラッチである。以下、内燃機関の出力軸のトルクを「内燃機関トルク」と呼び、電動機の出力軸のトルクを「電動機トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0004】
HV−MT車では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、電動機の出力軸が変速機の入力軸に接続される構成について考察する。
【0005】
HV−MT車では、電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリの残量(蓄積されている(化学)エネルギの量)が少なくなった場合、バッテリを充電する必要がある。バッテリを充電するためには、何らかの発電手段を利用してバッテリ充電用の電気エネルギを発生する必要がある。
【0006】
ここで、上述のように電動機の出力軸が変速機の入力軸に接続される構成では、摩擦クラッチが接合状態にある場合、内燃機関トルクが摩擦クラッチを介して電動機の出力軸に伝達され得る。換言すれば、内燃機関トルクを利用して電動機を発電機として回転駆動することによって、バッテリ充電用の電気エネルギを発生することができる。
【0007】
他方、摩擦クラッチが接合状態にある場合であって、且つ、変速機の変速段が走行用の変速段に選択されている場合(即ち、電動機の出力軸と変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されている場合)、内燃機関トルクの一部が車両の駆動輪に伝達されて、車両の駆動のために消費されてしまう。この場合、内燃機関トルクを利用して発電機としての電動機を効率良く回転駆動することができず、従って、バッテリ充電用の電気エネルギを効率良く発生することができない。
【0008】
本発明は、上述の問題に対処するためになされたものであり、その目的は、HV−MT車を対象とする動力伝達制御装置であって、内燃機関トルクを利用して、電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリを効率良く充電することができるものを提供することにある。
【0009】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用される。この動力伝達制御装置は、変速機と、摩擦クラッチと、制御手段とを備える。
【0010】
変速機は、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて複数の変速段のうちの1つが選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機である。前記変速機は、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記変速機の入力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0011】
摩擦クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作に応じて、動力が伝達される状態である接合状態と動力が伝達されない状態である分断状態とを選択的に実現する。より具体的には、前記接合状態として、滑りを伴わずに動力が伝達される完全接合状態と、滑りを伴いながら動力が伝達される半接合状態とが存在する。運転者によるクラッチ操作部材の操作がなされていない場合には、前記摩擦クラッチは完全接合状態を実現する。
【0012】
制御手段は、前記内燃機関の出力軸の駆動トルク(内燃機関トルク)、及び前記電動機の出力軸の駆動トルク(電動機トルク)を制御する。
【0013】
この動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、充電条件の成立に基づいて、前記内燃機関トルクを利用して前記電動機を発電機として駆動し、前記電動機の発電により得られた電気エネルギを利用して前記電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリを充電するように構成されたことにある。
【0014】
ここで、前記充電条件には、前記検出されたシフト位置が前記電動機の出力軸と前記変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されない状態に対応する位置である「駆動力非要求位置」にあると判定されたこと、及び、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量に基づいて前記摩擦クラッチが前記接合状態(即ち、完全接合状態又は半接合状態)にあると判定されたこと、が含まれる。「駆動力非要求位置」は、運転者が駆動力を要求しない状態に対応するシフト位置であるということができる。典型的には、「駆動力非要求位置」は、前記変速機の入力軸・出力軸間で動力伝達系統が実現されない状態に対応する。この場合、「駆動力非要求位置」は、例えば、ニュートラル(N)位置である。
【0015】
上記構成によれば、摩擦クラッチが接合状態にあり、且つ、電動機の出力軸と変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されない状態で、内燃機関トルクを利用して電動機が発電機として駆動され得る。従って、内燃機関トルクの一部が車両の駆動輪に伝達されないので、内燃機関トルクの一部が車両の駆動のために消費されない。よって、内燃機関トルクを利用して発電機としての電動機が効率良く回転駆動され得、バッテリ充電用の電気エネルギが効率良く発生され得る。即ち、(車両が走行中であろうと停止中であろうと)運転者が駆動力を要求しない状態において、内燃機関トルクを利用して、電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリを効率良く充電することができる。
【0016】
前記充電条件には、バッテリに蓄積されているエネルギの量が所定値未満であると判定されたことが含まれることが好適である。これにより、バッテリに蓄積されているエネルギの量が少なくなったときにバッテリが充電されることが確実に担保される。
【0017】
加えて、前記充電条件には、運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作がなされていないと判定されたことが含まれることが好適である。これにより、「運転者が駆動力を要求しない状態にてバッテリが充電される」ことがより一層確実に担保され得る。
【0018】
前記充電条件が成立したときに内燃機関が稼働している場合、既に発生している内燃機関トルクを利用して電動機の駆動を直ちに開始できる。一方、前記充電条件が成立したときに内燃機関が停止している場合、前記内燃機関を始動して内燃機関トルクを発生する必要がある。この場合、内燃機関の始動(即ち、内燃機関の出力軸の回転駆動)は、スタータモータを利用して行われ得る。
【0019】
ところで、シフト位置が「駆動力非要求位置」にある場合であっても、摩擦クラッチが分断状態にあるときには、内燃機関トルクを利用して電動機を回転駆動することができない。この場合、電動機の代わりに「内燃機関トルクによって駆動されるオルタネータ」を内燃機関トルクを利用して駆動し、前記オルタネータの発電により得られた電気エネルギを利用して前記バッテリを充電するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を搭載したHV−MT車の概略構成図である。
【図2】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、アクセル開度とMGトルク基準値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、クラッチ戻しストロークとMGトルク制限値との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】EGトルクを利用してバッテリが充電される場合における作動の一例を示したタイムチャートである。
【図5】「シフトレバーのシフト位置がニュートラルにある」との判定方法の一例を説明するための図である。
【図6】「シフトレバーのシフト位置がニュートラルにある」との判定方法の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備えたハイブリッド車両であり、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと摩擦クラッチC/Tとを備える。即ち、この車両は、上述したHV−MT車である。
【0023】
エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0024】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて複数の変速段のうちの1つが選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。
【0025】
M/Tは、変速段として、例えば、前進用の5つの変速段(1速〜5速)、後進用の1つの変速段(リバース)、並びに、「ニュートラル」を備えている。前進用及び後進用の変速段が選択されている場合、M/Tの入力軸・出力軸間で動力伝達系統が実現される。一方、「ニュートラル」が選択されている場合、M/Tの入力軸・出力軸間で動力伝達系統が実現されない。
【0026】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0027】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向位置)が変化する周知のクラッチである。
【0028】
C/Tの状態としては、完全接合状態、半接合状態、及び、完全分断状態が存在する。完全接合状態とは、滑りを伴わずに動力を伝達する状態を指す。半接合状態とは、滑りを伴いながら動力を伝達する状態を指す。完全接合状態及び半接合状態は、「接合状態」に対応する。完全分断状態とは、動力を伝達しない状態を指す。以下、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態からのクラッチペダルCPの戻し方向の操作量を「クラッチ戻しストローク」と呼ぶ。
【0029】
クラッチ戻しストロークは、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態にて「0」となり、クラッチペダルCPが開放されている(操作されていない)状態にて最大となる。クラッチ戻しストロークが「0」から増大するにつれて、C/Tは、完全分断状態から半接合状態を経て完全接合状態へと移行する。
【0030】
C/Tの接合状態(摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0031】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、周知のギヤ列等を介してM/Tの入力軸に動力伝達可能に接続されている。以下、E/Gの出力軸のトルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸のトルクを「MGトルク」と呼ぶ。
【0032】
M/Gは、バッテリBATから供給される電気エネルギを利用して回転駆動トルク(=MGトルク)を発生する。このMGトルクの大きさは、インバータINVを制御することによって調整され得る。MGトルクは、M/Tを介して車両の駆動輪に伝達される。一方、M/Gは、外部から回転駆動されることによって発電機として機能し、M/Gの発電により得られた電気エネルギを利用してバッテリBATが充電され得る。バッテリBATの充電速度(単位時間あたりの充電量)は、インバータINVを制御することによって調整され得る。
【0033】
なお、バッテリBATの充電は、EGトルクによって回転駆動されるオルタネータALTの発電により得られた電気エネルギを利用してもなされ得る。この場合も、バッテリBATの充電速度(単位時間あたりの充電量)は、インバータINVを制御することによって調整され得る。
【0034】
本装置は、クラッチペダルCPのクラッチ戻しストロークを検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、車輪の速度を検出する車輪速度センサS5と、を備えている。
【0035】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S5、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータINVを制御することによりMGトルクの大きさ、並びに、バッテリBATの充電速度を制御する。
【0036】
EGトルクとMGトルクとの配分は、上述のセンサS1〜S5、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて調整される。EGトルク及びMGトルクの大きさはそれぞれ、主としてアクセル開度に基づいて調整される。特に、MGトルクは、本例では、以下のように調整される。
【0037】
即ち、先ず、図2に示すマップと、現在のアクセル開度とに基づいて、「MGトルク基準値」が決定される。MGトルク基準値は、アクセル開度が大きいほど、より大きい値に決定される。MGトルク基準値のアクセル開度に対する特性は、アクセル開度以外の種々の状態(例えば、EGトルクとMGトルクとの配分)に応じて変化し得る。
【0038】
また、図3に示すマップと、現在のクラッチ戻しストロークとに基づいて、「MGトルク制限値」が決定される。MGトルク制限値は、ミート開始点とリリース開始点とを利用して規定される。ミート開始点とは、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークであり、リリース開始点とは、C/Tが完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークである。
【0039】
この例では、クラッチ戻しストロークが「0」から「ミート開始点」の範囲(即ち、C/Tの完全分断状態に対応する範囲。図3の「範囲a」を参照)ではMGトルク制限値が「0」に維持され、クラッチ戻しストロークが「リリース開始点」より大きい範囲(即ち、C/Tの完全接合状態に対応する範囲。図3の「範囲c」を参照)ではMGトルク制限値が「最大値」に維持され、クラッチ戻しストロークが「ミート開始点」と「リリース開始点」との間(即ち、C/Tの半接合状態に対応する範囲。図3の「範囲b」を参照)ではクラッチ戻しストロークが「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれてMGトルク制限値が「0」から増大する。ここで、MGトルク制限値の上記「最大値」とは、例えば、現在の上記「MGトルク基準値」と等しい値に設定され得る。なお、図2及び図3に示すマップは、ECU内のメモリの所定領域に更新可能に記憶されている。
【0040】
そして、MGトルクの大きさは、通常、前記決定された「MGトルク基準値」と「MGトルク制限値」とのうちで小さい方の値(以下、「MGトルク最終基準値」と呼ぶ)に調整される。なお、シフトレバーSLのシフト位置がニュートラルの場合にはMGトルクの大きさは「0」に維持される。
【0041】
以上のように、MGトルクの大きさは、通常、クラッチ戻しストロークに基づいて決定される「MGトルク制限値」を超えない範囲内において、アクセル開度等に基づいて決定される「MGトルク基準値」に基づく値(=MGトルク最終基準値)に調整される。このようにMGトルクの大きさをMGトルク最終基準値に一致するように調整することにより、HV−MT車のMGトルクを利用した運転フィーリングを、「通常MT車」のEGトルクを利用した運転フィーリングに近づけることができる。通常MT車とは、手動変速機と摩擦クラッチとを備え且つ動力源として内燃機関のみを搭載した従前から広く知られた車両を指す。
【0042】
(EGトルクを利用したバッテリの充電)
図1に示したHV−MT車では、バッテリBATの残量SOC(蓄積されている(化学)エネルギの量、State of Charge)が少なくなった場合、バッテリBATを充電する必要がある。本装置では、M/Gの出力軸がM/Tの入力軸に接続されている。この構成では、C/Tが接合状態にある場合、EGトルクがC/Tを介してM/Gの出力軸に伝達される。
【0043】
即ち、本装置では、EGトルクを利用してM/Gを発電機として回転駆動することによって、バッテリ充電用の電気エネルギを発生することができる。係る知見に基づき、本装置は、バッテリBATの充電を行う。
【0044】
以下、このことについて、図4を参照しながら説明する。図4に示す例では、時刻t1以前にて、車両が、E/Gが停止した状態で、バッテリBATに蓄積されたエネルギを消費しながらMGトルクのみを利用して「2速」で走行している。時刻t1以前では、MGトルク>0、EGトルク=0、アクセル開度>0であり、C/Tは完全接合状態にある。MGトルクを利用した走行に起因して、バッテリ残量SOCが徐々に低下している。
【0045】
時刻t1以降、運転者が駆動力を要求しなくなることに起因して、シフト位置を「2速」から「ニュートラル」に変更するため、アクセルペダルAP、クラッチペダルCP、及びシフトレバーSLが連携しながら操作される。
【0046】
この例では、クラッチペダルCPの操作に着目すると、時刻t1にてクラッチペダルCPの操作が開始され、時刻t2にてクラッチ戻しストロークが範囲cから範囲bに移行し(C/Tが完全接合状態から半接合状態に移行し)、時刻t3にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲aに移行し(C/Tが半接合状態から完全分断状態に移行し)、時刻t3以降、C/Tが完全分断状態に維持されている。
【0047】
アクセルペダルAPの操作に着目すると、時刻t2にてアクセル開度が「0」に向けて減少を開始し、時刻t3からアクセル開度が「0」に維持されている。これに伴い、MGトルクも、時刻t2にて「0」に向けて減少を開始し、時刻t3から「0」に維持されている。この結果、バッテリ残量SOCは、時刻t3以降では既に閾値TH未満となっている。閾値THは、M/Gを安定して回転駆動するために必要とされるバッテリ残量の下限値等に相当する。
【0048】
シフトレバーSLの操作に着目すると、「2速」から「ニュートラル」へのシフト操作は、C/Tが完全分断状態にある時刻t3以降に実行されている。
【0049】
この例では、「2速」から「ニュートラル」へのシフト操作の完了後、クラッチ戻しストロークが範囲aから範囲bを経て範囲cに戻される。この結果、時刻t4にてC/Tが完全分断状態から接合状態(具体的には、半接合状態)に移行している。即ち、時刻t4にて、シフト位置が「ニュートラル」にあり、C/Tが接合状態にあり、アクセル開度が「0」であり、バッテリ残量SOCが閾値TH未満となっている。
【0050】
本装置は、シフト位置が「ニュートラル」にあり、C/Tが接合状態にあり、アクセル開度が「0」であり、バッテリ残量SOCが閾値TH未満であると判定されたことに基づいて、充電条件が成立する。本装置は、充電条件が成立すると、EGトルクを利用したバッテリBATの充電を行う。具体的には、EGトルクを利用してM/Gを発電機として駆動し、M/Gの発電により得られた電気エネルギを利用してバッテリBATが充電される。このバッテリBATの充電は、C/Tが完全分断状態に戻されるまで継続される。
【0051】
図4に示す例では、時刻t4にて充電条件が成立する。従って、時刻t4以降、EGトルクを利用してM/Gを発電機として駆動することによってバッテリBATの充電が行われる。図4に示す例では、時刻t4以前にてE/Gが停止している。従って、時刻t4以降においてEGトルクを発生するため、時刻t4にてE/Gが始動される。E/Gの始動は、スタータモータ(図示せず)を利用して行われる。この結果、時刻t4以降、バッテリ残量SOCが増大していく。
【0052】
図4に示す例では、バッテリ残量SOCが閾値THを超えた後、クラッチ戻しストロークが範囲cから範囲bを経て範囲aに再び戻される。この結果、時刻t5にてC/Tが半接合状態から完全分断状態に移行している。従って、時刻t5にて、バッテリBATの充電が終了する。これに伴い、E/Gが再び停止される。
【0053】
このように、本装置によれば、摩擦クラッチC/Tが接合状態にあり、且つ、シフト位置がニュートラルにある(即ち、M/Gの出力軸とM/Tの出力軸との間で動力伝達系統が実現されない)状態で、EGトルクを利用してM/Gが発電機として駆動される。従って、EGトルクの一部が車両の駆動輪に伝達されないので、EGトルクの一部が車両の駆動のために消費されない。よって、EGトルクを利用して発電機としてのM/Gが効率良く回転駆動され得る。この結果、バッテリ充電用の電気エネルギが効率良く発生され得る。即ち、車両が走行中であろうと停止中であろうと、運転者が駆動力を要求しない状態において、EGトルクを利用してバッテリBATを効率良く充電することができる。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、摩擦クラッチC/Tが接合状態にあり、且つ、シフト位置がニュートラルにある状態で、EGトルクを利用してM/Gが発電機として駆動されることによってバッテリ充電用の電気エネルギが発生される。これに対し、C/Tが分断状態にある場合にはEGトルクを利用してM/Gが駆動され得ない。この場合、M/Gの代わりにオルタネータALTをEGトルクを利用して駆動し、オルタネータALTの発電により得られた電気エネルギを利用してバッテリBATを充電するように構成され得る。
【0055】
また、上記実施形態では、充電条件として、「シフト位置がニュートラルにあり、C/Tが接合状態にあり、アクセル開度が「0」であり、バッテリ残量SOCが閾値TH未満であると判定されたこと」が採用されているが、これらのうち、「アクセル開度が「0」であること」及び「バッテリ残量SOCが閾値TH未満であること」の何れか一方又は両方が省略されてもよい。
【0056】
また、上述した図4に示す例では、E/Gが停止した状態で充電条件が成立する場合(時刻t4を参照)が示されているが、E/Gが稼働した状態で充電条件が成立する場合も発生し得る。この場合、充電条件の成立後にE/Gの稼働を継続するとともに、既に発生しているEGトルクを利用して発電機としてのM/Gの駆動を直ちに開始できる。
【0057】
また、上記実施形態では、バッテリBATの充電が、C/Tの完全分断状態から半接合状態への移行時点(図4の時刻t4を参照)で開始され、C/Tの半接合状態から完全分断状態への移行時点(図4の時刻t5を参照)で終了しているが、バッテリBATの充電が、C/Tの半接合状態から完全接合状態への移行時点で開始され、C/Tの完全接合状態から半接合状態への移行時点(図4の時刻t5を参照)で終了してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、「C/Tが接合状態にある」との判定が、クラッチ戻しストローク(クラッチ操作量センサS1の検出結果)に基づいてなされているが、「C/Tが接合状態にある」との判定が、「エンジンE/Gの出力軸の回転速度と手動変速機M/Tの入力軸の回転速度とが一致している」との判定に基づいてなされてもよい。
【0059】
以下、「シフト位置がニュートラルにある」との判定を行う方法について付言する。図5及び図6に示すように、複数の変速段(図5及び図6では、1速〜5速、リバース)に対応するシフトレバーのそれぞれのシフト操作が、シフトレバーの位置を、セレクト操作(車両左右方向の操作)によって対応するセレクト位置に移動し、その後、シフト操作(車両前後方向の操作)によって対応するセレクト位置から対応するシフト位置に移動することにより達成される場合(即ち、シフトパターンとして所謂「Hパターン」が採用される場合)を想定する。
【0060】
この場合、「シフト位置がニュートラルにある」との判定は、図5及び図6に示すように、セレクト操作におけるシフトレバーの移動量(セレクトストローク)が所定量(例えば、ゲート幅)を超えたことに基づいてなされ得る。具体的には、先ず、セレクト操作におけるシフトレバーの移動量が所定量を超えたとき、セレクト操作時におけるシフトレバーのシフト操作方向の位置が「N」と設定される。「セレクト操作時におけるシフトレバーのシフト操作方向の位置」とは、例えば、シフトレバーの移動量が所定量を超えた時点でのシフトレバーのシフト操作方向の位置そのもの、セレクト操作中におけるシフトレバーのシフト操作方向の位置の推移の平均値等である。次いで、シフトレバーのシフト操作方向の位置が「N±α」となる領域が「N領域」と設定される。そして、シフトレバーのシフト操作方向の位置が「N領域」の範囲内にあることに基づいて、「シフト位置がニュートラルにある」との判定がなされ得る。なお、「N領域」は、セレクト操作中におけるシフトレバーのシフト操作方向の位置の変動範囲(最大・最小)に基づいて設定されてもよい。
【0061】
或いは、「シフト位置がニュートラルにある」との判定は、手動変速機M/Tの出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の割合(減速比)が既知の複数の変速段の減速比(1速〜5速、リバースのそれぞれの減速比)の何れとも一致しないことに基づいてなされてもよい。
【符号の説明】
【0062】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、S4…ブレーキ操作量センサ、S5…車輪速度センサ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて複数の変速段のうちの1つが選択される変速機であって、前記入力軸に前記電動機の出力軸が接続された変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作に応じて、動力が伝達される状態である接合状態と動力が伝達されない状態である分断状態とを選択的に実現する摩擦クラッチと、
前記クラッチ操作部材の操作量を検出する第1検出手段と、
前記シフト操作部材のシフト位置を検出する第2検出手段と、
前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関トルク、及び前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記制御手段は、
前記検出されたシフト位置が前記電動機の出力軸と前記変速機の出力軸との間で動力伝達系統が実現されない状態に対応する位置である駆動力非要求位置にあると判定されたこと、及び、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量に基づいて前記摩擦クラッチが前記接合状態にあると判定されたこと、を含む充電条件の成立に基づいて、前記内燃機関トルクを利用して前記電動機を発電機として駆動し、前記電動機の発電により得られた電気エネルギを利用して前記電動機に電気エネルギを供給するためのバッテリを充電するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記充電条件は、
前記バッテリに蓄積されているエネルギの量が所定値未満であると判定されたことを含む、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記充電条件は、運転者により操作される前記車両を加速させるための加速操作部材の操作がなされていないと判定されたことを含む、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記充電条件が成立したときに前記内燃機関が停止している場合、前記内燃機関を始動して前記内燃機関トルクを発生するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記駆動力非要求位置はニュートラル位置である、車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記複数の変速段に対応する前記シフト操作部材のそれぞれのシフト操作が、前記シフト操作部材の位置を、前記車両の左右方向の操作であるセレクト操作によって対応するセレクト位置に移動し、その後、前記車両の前後方向の操作であるシフト操作によって前記対応するセレクト位置から対応するシフト位置に移動することにより達成されるように構成され、
前記制御手段は、
前記セレクト操作において前記シフト操作部材の移動量が所定量を超えたことに基づいて、前記検出されたシフト位置が前記ニュートラル位置にあると判定するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記複数の変速段に対応する前記シフト操作部材のそれぞれのシフト操作が、前記シフト操作部材の位置を、前記車両の左右方向の操作であるセレクト操作によって対応するセレクト位置に移動し、その後、前記車両の前後方向の操作であるシフト操作によって前記対応するセレクト位置から対応するシフト位置に移動することにより達成されるように構成され、
前記制御手段は、
前記変速機の出力軸の回転速度に対する前記変速機の入力軸の回転速度の割合である減速比が既知の前記複数の変速段の減速比の何れとも一致しないことに基づいて、前記検出されたシフト位置が前記ニュートラル位置にあると判定するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記検出されたシフト位置が前記駆動力非要求位置にあると判定されたこと、及び、前記検出されたクラッチ操作部材の操作量に基づいて前記摩擦クラッチが前記分断状態にあると判定されたこと、を含む第2の充電条件の成立に基づいて、前記内燃機関トルクによって駆動されるオルタネータを前記内燃機関トルクを利用して駆動し、前記オルタネータの発電により得られた電気エネルギを利用して前記バッテリを充電するように構成された、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162215(P2012−162215A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25700(P2011−25700)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】