説明

車両用ハイブリッド駆動装置

【課題】発進クラッチが遮断されたモータ駆動走行モードから充電制動走行モードへ移行した場合でも、効率良くバッテリーを充電できるとともに大きな制動力が得られるようにする。
【解決手段】発進クラッチ26が遮断されたモータ駆動走行モードでの走行中にブレーキペダルが踏込み操作された場合に、前輪側要求制動力に対応する必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max を超える時には、その発進クラッチ26を締結し、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御して上記前輪側要求制動力を発生させるとともに、得られた電気エネルギーでバッテリー46を充電する。これにより、2つのモータジェネレータMG1およびMG2を有効に用いてバッテリー46を効率よく充電できるとともに、大きな制動力が得られるようになり、エネルギー効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ハイブリッド駆動装置に係り、特に、制動要求時に回転機を発電制御(回生制御ともいう)してバッテリーを充電するとともに所定の制動力を発生させる充電制動走行モードの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) エンジンと、(b) そのエンジンに機械的に連結された第1回転機と、(c) 前記エンジンおよび前記第1回転機と駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断続装置と、(d) その断続装置の遮断時でも車両を走行させることができるように配設された第2回転機と、を有する車両用ハイブリッド駆動装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、第1回転機および第2回転機として、何れも電動モータおよび発電機として用いることができるモータジェネレータが用いられているとともに、断続装置として摩擦係合式の発進クラッチが用いられている一方、(e) 前記第2回転機を発電制御しバッテリーを充電するとともに所定の制動力を発生させる充電制動走行モードを備えている。また、特許文献2には、制動要求に応じて前記第2回転機を発電制御してバッテリーを充電するとともに制動力を発生させる一方、その第2回転機の発電制御だけでは制動力が不足する場合に、前記第1回転機を発電制御してバッテリーを充電するとともに制動力を発生させ、それでも制動力が不足する場合は車輪に設けられた機械式ブレーキ装置を作動させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−59787号公報
【特許文献2】特開2005−151633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2に記載の技術によれば、第1回転機および第2回転機を用いて効率良くバッテリーを充電できるとともに、それ等の発電制御で大きな制動力を発生させることができるが、特許文献1のように断続装置を有するハイブリッド車両において、その断続装置が遮断された状態で前記第2回転機を力行制御して走行するモータ駆動走行モードから、制動要求に応じて前記充電制動走行モードへ移行した場合、断続装置が遮断されて第1回転機が動力伝達経路から切り離されているため、第2回転機の発電制御だけでは制動力が不足する場合でも、第1回転機を発電制御してバッテリーを充電したり制動力を発生させたりすることができず、エネルギー効率の点で必ずしも十分に満足できないという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、断続装置が遮断されたモータ駆動走行モードから充電制動走行モードへ移行した場合でも、効率良くバッテリーを充電できるとともに大きな制動力が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) エンジンと、(b) そのエンジンに機械的に連結された第1回転機と、(c) 前記エンジンおよび前記第1回転機と駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断続装置と、(d) その断続装置の遮断時でも車両を走行させることができるように配設された第2回転機と、を有する車両用ハイブリッド駆動装置において、(e) 前記断続装置が遮断された状態で前記第2回転機を力行制御して走行するモータ駆動走行モードでの走行中に制動要求があった場合に、その断続装置を接続し、前記第1回転機および前記第2回転機を何れも発電制御してバッテリーを充電するとともに制動力を発生させる充電制動走行手段を有することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両用ハイブリッド駆動装置において、(a) 前記制動要求に伴って前記断続装置を接続し、前記第1回転機を発電制御することによってその第1回転機の発電制御による制動力が得られるようになるまでの応答遅れの間、車輪に設けられた機械式ブレーキを作動させて制動力の不足分を補完することを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両用ハイブリッド駆動装置において、前記充電制動走行手段は、要求制動力に応じて求められる必要発電トルクが前記第2回転機の最大発電トルク以下の場合は、前記断続装置が遮断された状態でその第2回転機のみを発電制御する第1充電制動走行モードを実行し、その必要発電トルクが前記第2回転機の最大発電トルクを超えた場合は、前記断続装置を接続してその第2回転機および前記第1回転機を共に発電制御する第2充電制動走行モードを実行することを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車両用ハイブリッド駆動装置において、前記充電制動走行手段は、前記断続装置を接続するのに先立ってその断続装置の前後の回転速度が同期するように前記第1回転機を力行制御することを特徴とする。
上記同期とは、断続装置の前後の回転速度が、該断続装置を接続した後の回転速度と同じになるようにすることである。
【0010】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの車両用ハイブリッド駆動装置において、(a) 前記断続装置は、摩擦係合させられることによって前記動力伝達を可能とする摩擦係合装置を備えており、(b) 前記充電制動走行手段は、前記摩擦係合装置の係合トルクを徐々に増大させることを特徴とする。
【0011】
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかの車両用ハイブリッド駆動装置において、(a) 前記第1回転機と前記駆動輪との間の動力伝達経路には前記断続装置と直列に変速機が設けられており、(b) 前記充電制動走行手段は、前記変速機の変速比が小さいハイギヤ側で前記断続装置を接続した後、前記第1回転機の発電制御で所定の制動力が得られるようにその変速機をローギヤ側へ変速することを特徴とする。
【0012】
上記ハイギヤ側およびローギヤ側は相対的なもので、必ずしも変速範囲の中央値を基準とする大小関係ではなく、断続装置を接続した後に接続前よりも変速比を大きくすることを意味する。言い換えれば、第1回転機が比較的低回転の状態で断続装置を接続し、その接続後に第1回転機の回転速度を所定の回転速度まで増大させることを意味する。
【0013】
第7発明は、第1発明〜第6発明の何れかの車両用ハイブリッド駆動装置において、(a) 前記断続装置は、摩擦係合させられることによって前記動力伝達を可能とする摩擦係合装置を備えており、(b) 前記充電制動走行手段は、前記摩擦係合装置が完全に締結された後に前記第1回転機を発電制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような車両用ハイブリッド駆動装置においては、断続装置が遮断されたモータ駆動走行モードでの走行中に制動要求があった場合に断続装置を接続し、第1回転機および第2回転機を何れも発電制御してバッテリーを充電するとともに制動力を発生させるため、バッテリーを効率よく充電できるとともに大きな制動力が得られるようになり、エネルギー効率が向上する。
【0015】
第2発明では、制動要求に伴って断続装置を接続し、第1回転機を発電制御することによってその第1回転機の発電制御による制動力が得られるようになるまでの応答遅れの間、車輪に設けられた機械式ブレーキを作動させて制動力の不足分を補完するため、制動力不足を回避しつつ断続装置を接続する際にショックを生じないように接続制御を適切に行うことができる。
【0016】
第3発明は、要求制動力に応じて求められる必要発電トルクが第2回転機の最大発電トルクを超えた場合には、断続装置を接続して第1回転機および第2回転機を共に発電制御する第2充電制動走行モードを実行するが、必要発電トルクが第2回転機の最大発電トルク以下の場合は、断続装置が遮断された状態で第2回転機のみを発電制御する第1充電制動走行モードを実行するため、その第1充電制動走行モードでは断続装置の接続制御や機械式ブレーキによる補完制御などが不要となり、優れたエネルギー効率を維持しつつ充電制動走行制御を簡略化できる。
【0017】
第4発明では、断続装置を接続するのに先立ってその断続装置の前後の回転速度が同期するように第1回転機を力行制御するため、断続装置を接続する際の各部のイナーシャによるショックが防止されるとともに、その断続装置の接続に続いて第1回転機の発電制御を速やかに実行し、その発電制御による制動力が速やかに得られるようになる。
【0018】
第5発明は、断続装置が摩擦係合装置を備えている場合で、その断続装置を接続する際には摩擦係合装置の係合トルクを徐々に増大させるため、断続装置を接続する際の各部の回転速度変化に伴うイナーシャによるショックが抑制される。
【0019】
第6発明は、断続装置と直列に変速機が設けられている場合で、その変速機の変速比が小さいハイギヤ側、すなわち第1回転機の回転速度が比較的低回転の状態で断続装置を接続するため、第1回転機の回転速度の変化幅(上昇幅)が小さく、断続装置を接続する際の各部の回転速度変化に伴うイナーシャによるショックを抑制しつつ断続装置を短時間で接続できる。そして、その後ローギヤ側へダウンシフトされることにより、第1回転機の発電制御で所望の制動力が得られるようになる。
【0020】
第7発明は、断続装置が摩擦係合装置を備えている場合で、その摩擦係合装置が完全に締結された後に第1回転機を発電制御するため、その発電制御に起因して摩擦係合装置が滑りを生じる恐れが無く、例えば発電制御による制動力変化に起因するショックが抑制されるように、その発電制御を高い精度で適切に行うことができる。すなわち、摩擦係合装置が完全に締結される前に第1回転機の発電制御を行おうとすると、その摩擦係合装置が滑りを生じないように発電トルクを制御する必要があるため、制御が複雑になって制御性が悪くなり、発電制御による制動力変化でショックを生じる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例である車両用ハイブリッド駆動装置の概略構成図である。
【図2】図1の車両用ハイブリッド駆動装置が備えている制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】エンジン駆動走行とモータ駆動走行とを切り換える駆動力源切換制御で用いられる駆動力源マップの一例を示す図である。
【図4】図1の車両用ハイブリッド駆動装置で可能な種々の走行モードを説明する図である。
【図5】図2の充電制動走行手段によって実行される信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】制動要求に伴って第2回転機を力行制御から発電制御に切り換えて充電制動走行へ移行する際に、第2回転機が最大発電トルクを超える場合を説明する図である。
【図7】断続装置として用いることができる前後進切換装置の一例を示す骨子図である。
【図8】本発明が好適に適用される他の車両用ハイブリッド駆動装置を説明する概略構成図である。
【図9】制動要求時に常に発進クラッチを締結し、第1回転機および第2回転機を共に発電制御する場合の実施例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記エンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関などで、回転機は、電気エネルギーで動力を発生する電動モータや、回転駆動されることにより発電する発電機、或いは電動モータおよび発電機の両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータである。第1回転機は、充電制動走行モードで発電機として用いられる可能性があるため、発電機またはモータジェネレータが用いられる。この第1回転機を、エンジンを始動する際のスタータモータとして使用したり走行用の駆動力源として使用したりする場合は、モータジェネレータが用いられる。第2回転機は、電動モータおよび発電機として用いられるもので、実質的にモータジェネレータが用いられる。第1回転機および第2回転機として何れもモータジェネレータが用いられる場合でも、例えばシリーズHEV(Hybrid Electric Vehicle ;ハイブリッド電気自動車)走行などで第1回転機を発電機として用いる機会が多い場合、その第1回転機の方が発電効率等の発電性能に優れたモータジェネレータを採用することが望ましいなど、それぞれの使用態様に応じて適切な性能を有するモータジェネレータが選択される。
【0023】
車両用ハイブリッド駆動装置は、例えばエンジンにより前後輪の何れか一方が回転駆動されるように構成されるが、遊星歯車装置等の前後輪分配装置を介して前後輪の両方がエンジンによって回転駆動されるように構成することも可能である。第1回転機は、エンジンと同軸上に配設されてクランク軸等に一体的に連結されても良いが、減速或いは増速する変速歯車やプーリ、スプロケット等を介してエンジンのクランク軸等に連結することもできるなど、種々の態様が可能である。第2回転機は、例えば上記エンジンおよび第1回転機と駆動輪との間の動力伝達経路(断続装置よりも駆動輪側)に配設され、エンジンによって回転駆動される車輪と同じ車輪を回転駆動するように構成されるが、エンジンが前後輪の何れか一方を回転駆動する場合、前後輪の他方を回転駆動するように第2回転機を設けることも可能である。
【0024】
断続装置は、単なるクラッチであっても良いが、クラッチやブレーキを有する前後進切換装置や、変速比が異なる複数の変速段を有するとともに動力伝達を遮断する遮断状態(ニュートラル)とすることができる遊星歯車式或いは平行軸式等の有段変速機などでも良い。クラッチやブレーキとしては、係合トルクを連続的に変化させることができる油圧式、電磁式等の摩擦係合装置が好適に用いられる。
【0025】
断続装置が遮断された状態で第2回転機を力行制御して走行するモータ駆動走行モードは、エンジンを停止しバッテリーからの電気エネルギーのみで第2回転機を力行制御して走行するEV(Electric Vehicle;電気自動車)走行モードや、エンジンにより第1回転機を回転駆動するとともに、その第1回転機を発電制御して得られた電気エネルギーで第2回転機を力行制御して走行するシリーズHEV走行モードなどである。
【0026】
上記モータ駆動走行モードから充電制動走行モードへ移行する際の制動要求は、例えば運転者のブレーキ操作であるが、所定の車速で自動的に走行するオートクルーズ走行時に下り坂などで所定車速を維持するための制動要求なども含む。油圧ブレーキ等の機械式ブレーキはブレーキ操作部材(ペダルなど)と切り離して配設されており、シミュレーション装置等によりブレーキ操作部材の操作力や操作ストロークを電気的に検出し、マップや演算式等により要求制動力を求めるとともに、その要求制動力に応じてマップや演算式等により必要発電トルクを算出し、その必要発電トルクで第1回転機や第2回転機を発電制御する。ブレーキ操作部材の操作力や操作ストロークから必要発電トルクを直接求めることもできる。
【0027】
第3発明では、上記必要発電トルクが第2回転機の最大発電トルク以下であれば、第2回転機の発電制御のみで充電制動走行を行い、必要発電トルクが第2回転機の最大発電トルクを超えた場合は、断続装置を接続するとともに第1回転機および第2回転機を共に発電制御して充電制動走行を行うが、第1発明の実施に際しては、必要発電トルクの大きさに拘らず常に断続装置を接続して第1回転機および第2回転機を共に発電制御する(第3発明の第2充電制動走行モード)ようにしても良い。その場合は、第1回転機および第2回転機の発電トルクの割合を適当に設定することができる。
【0028】
要求制動力に応じて求められる必要発電トルクは、発電制御による制動力だけで要求制動力が全て得られるように定められても良いが、例えば第1回転機および第2回転機が何れも前後輪の何れか一方側に配置されている場合、前後輪の他方を機械式ブレーキで制動することにより、要求制動力を前後輪に適当に分配することもできる。すなわち、要求制動力を予め前後輪に所定の分配比で分配し、一方が第1回転機および第2回転機の発電制御によって得られ、他方が機械式ブレーキによって得られるようにしても良く、その場合は発電制御で得るべき制動力に対応する発電トルクが必要発電トルクになる。エンジンおよび第1回転機が前後輪の何れか一方を回転駆動するように配設され、第2回転機が前後輪の他方を回転駆動するように配設されている前後輪駆動車両の場合は、要求制動力の全てを発電制御で得られるようにするとともに、第1回転機および第2回転機の発電トルクの割合を適当に設定することにより、前後輪を所定の制動力配分で制動することができる。
【0029】
制動要求に伴って断続装置を接続し、第1回転機を発電制御することによってその発電制御による制動力が得られるようになるまでには所定の遅れ時間(応答遅れ)を有するため、その間は車輪に設けられた油圧式等の機械式ブレーキを作動させて制動力の不足分を補完することが望ましい。第1回転機および第2回転機を何れも最大発電トルクにしても必要発電トルクに達しない場合にも、機械式ブレーキを併用すれば良い。機械式ブレーキは、前輪および後輪の制動力を独立に制御できることが望ましい。
【0030】
第4発明では、断続装置を接続するのに先立って、その断続装置の前後の回転速度が同期するように第1回転機を力行制御し、第5発明では、摩擦係合装置の係合トルクを徐々に増大させて断続装置を接続するようになっており、両者を併用して実施することもできるが、何れか一方を実施するだけでも接続時のショックが抑制される。
【0031】
第6発明では、変速機の変速比が小さいハイギヤ側で断続装置を接続した後、変速機をローギヤ側へ変速して所定の制動力が得られるようになっており、例えば変速比が1より小さいオーバードライブ状態で断続装置を接続し、その後第1回転機の発電制御で所定の制動力が得られる変速比までダウンシフトするように構成される。第1回転機の発電トルクおよびダウンシフト後の変速比は、例えば第1回転機の発電効率特性等に基づいて効率良く発電が行われるように、予め定められたデータマップ等により設定される。他の発明の実施に際しては、変速機を一定の変速比に維持したまま断続装置を接続するとともに第1回転機を発電制御するようにしても良いし、変速機が無くても良いなど、種々の態様が可能である。第6発明の変速機は、遊星歯車式等の有段の変速機であっても良いし、ベルト式等の無段変速機であっても良い。
【0032】
第7発明では、摩擦係合装置が完全に締結された後に第1回転機を発電制御するが、他の発明の実施に際しては、摩擦係合装置の係合トルクを増大させつつ発電制御の発電トルクを徐々に増大させるようにしても良い。摩擦係合装置が完全に締結したか否かは、摩擦係合装置の係合力そのもので締結する場合は、前後の回転速度が一致(同期)したか否かによって判断することができるが、第1回転機により同期制御が行われる場合には、油圧等の係合力が最大値(ライン圧など)になったか否かによって判断することが望ましい。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である車両用ハイブリッド駆動装置10の概略構成図で、エンジン12と、エンジン12のクランク軸14に連結された第1モータジェネレータMG1と、入力軸18を介して第1モータジェネレータMG1に連結された自動変速機20と、自動変速機20の出力軸24と第1歯車25との間に設けられて動力伝達を接続遮断する発進クラッチ26と、第1歯車25と噛み合う第2歯車28が設けられたカウンタシャフト30と、カウンタシャフト30に連結された第2モータジェネレータMG2と、カウンタシャフト30に設けられた第3歯車32と、その第3歯車32と噛み合う第4歯車34が設けられた差動歯車装置36と、差動歯車装置36に左右の車軸38L、38Rを介して連結された左右の前駆動輪40L、40Rとを備えている。エンジン12は、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関にて構成されており、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2は何れも電動モータおよび発電機として用いることができる。第1モータジェネレータMG1は第1回転機に相当し、第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当する。
【0034】
自動変速機20は、本実施例ではベルト式無段変速機が用いられており、入力側プーリおよび出力側プーリを備えている。入力側プーリは、前記エンジン12および第1モータジェネレータMG1と同心に配設されており、出力側プーリは、前記発進クラッチ26および第1歯車25と同心に配設されている。発進クラッチ26は油圧式の摩擦係合装置で、出力軸24と第1歯車25との間の動力伝達を接続遮断する断続装置として機能する。
【0035】
以上のように構成された車両用ハイブリッド駆動装置10は、駆動力源を切り換えるハイブリッド制御や自動変速機20の変速制御を行うために、図2に示す制御系統を備えている。電子制御装置50はマイクロコンピュータを備えて構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うもので、アクセル操作量センサ52、エンジン回転速度センサ54、MG1回転速度センサ56、MG2回転速度センサ58、車速センサ60、SOCセンサ62、およびブレーキ操作センサ64からそれぞれアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θacc 、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2、車速V、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の電源であるバッテリー46のSOC(蓄電残量)、ブレーキ操作部材であるブレーキペダルの踏込み操作力SBRを表す各信号が供給される。この他、各種の制御に必要な種々の情報がセンサ等から供給されるようになっている。SOCは、例えばバッテリー46の充電量および放電量を逐次計算することによって求められる。また、ブレーキ操作センサ64は、ブレーキペダルに接続されたシミュレーション装置によって踏込み操作力SBRを検出するもので、本実施例では車輪に配設された油圧式等の機械式ブレーキ66等を踏込み操作力SBRに応じて電気的に制御する。機械式ブレーキ66は、前後輪の制動力を独立に制御できるものである。
【0036】
電子制御装置50は、基本的にハイブリッド制御手段70および変速制御手段80を機能的に備えており、前記エンジン12や第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、発進クラッチ26、変速機20、機械式ブレーキ66等を制御する。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、インバータ44を介して制御されるようになっている。ハイブリッド制御手段70は、図4に示すように複数種類の走行モードを切り換えて走行するもので、エンジン駆動走行手段72、モータ駆動走行手段74、充電制動走行手段76、および走行モード切換手段78を備えている。図4の走行モードは一例で、必要に応じて他の走行モードを設定することもできる。
【0037】
エンジン駆動走行手段72は、エンジン12を駆動力源として用いて前駆動輪40L、40Rを回転駆動して前進走行するエンジン駆動走行に関するもので、エンジン走行モード、パラレルHEV走行モード、シリーズパラレルHEV走行モード、および充電走行モードの4種類の走行モードを備えている。何れの走行モードでも発進クラッチ26は締結されている。エンジン走行モードはエンジン12を作動させて走行するものであり、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は何れもトルクが0でフリー回転させられる。パラレルHEV走行モードは、エンジン12を作動させるとともに第2モータジェネレータMG2を力行制御して走行するもので、第1モータジェネレータMG1のトルクは0でフリー回転させられる。但し、第2モータジェネレータMG2の代わりに第1モータジェネレータMG1を力行制御しても良いし、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を共に力行制御するようにしても良い。シリーズパラレルHEV走行モードは、エンジン12を作動させるとともに第2モータジェネレータMG2を力行制御して走行する一方、第1モータジェネレータMG1を発電制御して、得られた電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2に供給する。パラレルHEV走行モードおよびシリーズパラレルHEV走行モードでは、エンジン走行モードに比較して大きな駆動力を速やかに発生させることができ、アクセル操作量θacc が急増した加速要求時や高速走行時等に実施されるとともに、バッテリー46のSOCが比較的多い場合にパラレルHEV走行モードとし、SOCが比較的少ない場合はシリーズパラレルHEV走行モードとする。また、充電走行モードでは、エンジン12を作動させて駆動走行するとともに、第1モータジェネレータMG1を発電制御してバッテリー46を充電するとともに、第2モータジェネレータMG2のトルクを0としてフリー回転させる。上記力行制御は、モータジェネレータMG1、MG2を電動モータとして用いることを意味し、発電制御は、モータジェネレータMG1、MG2を発電機として用いることを意味する。
【0038】
モータ駆動走行手段74は、第2モータジェネレータMG2のみを駆動力源として用いて前駆動輪40L、40Rを回転駆動して走行するモータ駆動走行に関するもので、前進走行および後進走行が可能であり、それぞれEV走行モード、シリーズHEV走行モードの2種類の走行モードを備えている。何れの走行モードでも発進クラッチ26は解放されており、EV走行モードでは、エンジン12を停止するとともに第1モータジェネレータMG1のトルクを0とし、第2モータジェネレータMG2を力行制御して走行する。シリーズHEV走行モードでは、そのEV走行時にエンジン12を作動させて第1モータジェネレータMG1を回転駆動するとともに、その第1モータジェネレータMG1を発電制御し、得られた電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2に供給する。第2モータジェネレータMG2の回転方向を逆転させることにより、前進走行および後進走行を行うことができる。前進走行および後進走行共に、バッテリー46のSOCが所定値以下になったらEV走行モードからシリーズHEV走行モードに切り換えられ、SOCの所定値は、第1モータジェネレータMG1によりエンジン12をクランキングして始動することが可能なSOCの範囲内で、例えばその下限値が設定される。
【0039】
充電制動走行手段76は、車両の走行中に制動要求があった場合の走行制御に関するもので、第1充電制動走行モードおよび第2充電制動走行モードを備えている。第1充電制動走行モードは、発進クラッチ26を解放した状態で、エンジン12を停止するとともに第1モータジェネレータMG1のトルクを0とし、第2モータジェネレータMG2を発電制御することにより、バッテリー46を充電するとともに所定の制動力を発生させる。第2充電制動走行モードは、発進クラッチ26を締結するとともにエンジン12を停止した状態で、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御することにより、バッテリー46を充電するとともに所定の制動力を発生させる。第1充電制動走行モードは、要求制動力に応じて求められる必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max 以下の場合に実行され、第2充電制動走行モードは、必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max を超えた場合に実行される。すなわち、発進クラッチ26が解放されているEV走行モードまたはシリーズHEV走行モードで、例えば図6に示すA点で第2モータジェネレータMG2が力行制御されている時に、ブレーキペダルが踏込み操作されてB点で示す必要発電トルクTyoukyuが要求された場合、第2モータジェネレータMG2による発電制御だけではThusoku分だけ不足するため、その場合は発進クラッチ26を締結して第2充電制動走行モードとし、第1モータジェネレータMG1を発電制御するのである。要求制動力は、前記ブレーキ操作センサ64によって検出される踏込み操作力SBRに基づいて、予め定められたマップや演算式に従って求められ、その要求制動力のうち予め定められた前後輪分配比に従って分配された前輪側制動力を全て第2モータジェネレータMG2の発電制御で発生させるのに必要な発電トルクが必要発電トルクTyoukyuとして求められる。なお、後輪側制動力は、前記機械式ブレーキ66によって発生させられる。
【0040】
走行モード切換手段78は、例えば図3に示す駆動力源マップに従ってエンジン駆動走行手段72によるエンジン駆動走行とモータ駆動走行手段74によるモータ駆動走行とを切り換えるとともに、ブレーキペダルが踏込み操作されて制動要求があった場合、すなわち所定値以上の踏込み操作力SBRを表す信号が供給された場合は充電制動走行手段76による充電制動走行に切り換える。図3の要求出力トルクTOUTは、前記アクセル操作量θacc 等に基づいて求められ、駆動力源マップは、実線Aよりも低車速側、低要求出力トルク側がモータ走行領域とされ、モータ駆動走行手段74によって所定の走行モードが実行される。また、実線Aよりも高車速側、高要求出力トルク側がエンジン走行領域とされ、エンジン駆動走行手段72によって所定の走行モードが実行される。
【0041】
変速制御手段80は、エンジン12を駆動力源として用いて走行するエンジン駆動走行時にベルト式無段変速機20の変速制御を行うもので、基本的にはスロットル弁開度θacc 等の要求駆動力や車速Vをパラメータとして予め定められた変速マップに従って目標入力回転速度(変速比γに相当)を求め、実際の入力回転速度(入力軸18の回転速度でエンジン回転速度NEに対応する)がその目標入力回転速度となるように変速制御を行う。
【0042】
前記充電制動走行手段76はまた、発進クラッチ26が解放されているEV走行モードまたはシリーズHEV走行モードから、発進クラッチ26を締結して第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御する第2充電制動走行モードへ移行する際の制御に関連して、MG1同期制御機能、機械式ブレーキ補完制御機能、および変速制御機能を備えており、図5のフローチャートに従って信号処理を実行する。図5のステップS8は機械式ブレーキ補完制御機能に相当し、ステップS9およびS13は変速制御機能に相当し、ステップS10はMG1同期制御機能に相当する。
【0043】
図5のステップS1では、車両走行中にブレーキペダルが踏込み操作されて所定値以上の踏込み操作力SBRを表す信号が供給され、前記走行モード切換手段78によって充電制動走行モードが選択されたか否かを判断する。充電制動走行モードが選択された場合はステップS2を実行し、踏込み操作力SBRに基づいて要求制動力を求めるとともに、予め定められた前後輪分配比に従って前輪側要求制動力を算出し、その前輪側要求制動力を前駆動輪40L、40Rに直結されている第2モータジェネレータMG2の発電制御で発生させるのに必要な発電トルクを必要発電トルクTyoukyuとして算出する。次のステップS3では、その必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max 以下か否かを判断し、Tyoukyu≦TMG2max の場合はステップS4以下を実行し、Tyoukyu>TMG2max の場合はステップS6以下を実行する。第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max は、図6に示されるように回転速度NMG2が高くなるに従って小さくなり、その回転速度NMG2或いは車速Vをパラメータとして定められる。
【0044】
Tyoukyu≦TMG2max の場合に実行するステップS4では、第2モータジェネレータMG2の発電トルクTMG2を必要発電トルクTyoukyuに設定し、その必要発電トルクTyoukyuで第2モータジェネレータMG2を発電制御することにより、この第2モータジェネレータMG2の発電制御だけで前記前輪側要求制動力を発生させるとともに、得られた電気エネルギーでバッテリー46を充電する。また、ステップS5では、充電制動走行モードへ切り換える前の走行モード時の発進クラッチ26が締結か解放かに拘らず、その発進クラッチ26を解放する。すなわち、ここでは発進クラッチ26を解放して第2モータジェネレータMG2のみを発電制御する第1充電制動走行モードを実行する。なお、後輪側要求制動力は、機械式ブレーキ66によって発生させられる。
【0045】
一方、Tyoukyu>TMG2max の場合に実行するステップS6以下では、発進クラッチ26を締結するとともに第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御する第2充電制動走行モードを実行する。ステップS6では、第2モータジェネレータMG2の発電トルクTMG2を最大発電トルクTMG2max に設定し、その最大発電トルクTMG2max で第2モータジェネレータMG2を発電制御する。ステップS7では、発進クラッチ26が解放状態か否かを判断し、解放状態の場合はステップS8以下を実行するが、締結状態であれば直ちにステップS12およびS13を実行する。ステップS12およびS13では、必要発電トルクTyoukyuから最大発電トルクTMG2max を差し引いた差トルク(Tyoukyu−TMG2max )に相当する制動力が得られる第1モータジェネレータMG1の発電トルクTMG1xおよび自動変速機20の変速比γxを、第1モータジェネレータMG1の発電効率特性等に基づいて最大効率で発電が行われるように設定し、その発電トルクTMG1xで第1モータジェネレータMG1を発電制御するとともに自動変速機20の変速比γがγxとなるように変速制御を行う。これにより、第2モータジェネレータMG2による発電制御と合わせて、前記前輪側要求制動力を発生させることができるとともに、得られた電気エネルギーでバッテリー46を効率良く充電することができる。上記差トルク(Tyoukyu−TMG2max )は前記図6に記載の不足トルクThusokuに相当する。
【0046】
発進クラッチ26が解放状態の場合、すなわち充電制動走行モードへ移行する前の走行モードがEV走行モードまたはシリーズHEV走行モードの場合には、ステップS12で第1モータジェネレータMG1を発電制御するのに先立って発進クラッチ26を締結する必要があり、第1モータジェネレータMG1の発電制御で制動力が発生させられるようになるまでに所定の遅れ時間(応答遅れ)を有するため、ステップS8では機械式ブレーキ66を作動させて前輪側要求制動力の不足分を補完する。すなわち、第1モータジェネレータMG1の発電制御で発生させるべき制動力で、前記差トルク(Tyoukyu−TMG2max )に相当する制動力分を機械式ブレーキ66により前輪側に発生させる。
【0047】
ステップS9では、前記自動変速機20の変速比γを1より小さいハイギヤ側、この実施例では最小変速比γmin までアップシフトし、ステップS10では、発進クラッチ26の前後の回転速度が一致するように車速Vに応じて第1モータジェネレータMG1を同期制御(力行制御)し、発進クラッチ26が同期したらステップS11でその発進クラッチ26を締結する。自動変速機20の変速比γが最小変速比γmin とされるため、入力軸18の同期回転速度が最小となり、第1モータジェネレータMG1による同期制御を短時間で速やかに行うことができる。また、同期した状態で発進クラッチ26を締結するため、例えば発進クラッチ26の係合トルク(油圧)を油圧回路の切換などで一気に増大させることにより、ショックを抑制しつつ発進クラッチ26を速やかに締結することができる。なお、第1モータジェネレータMG1による同期制御を行わず、発進クラッチ26の係合トルクで出力軸24や入力軸18等の回転速度を上昇させる場合は、イナーシャによるショックを抑制するために係合トルクを徐々に増大させることが望ましい。
【0048】
その後、発進クラッチ26が完全に締結した後に、前記ステップS12およびS13を実行し、第1モータジェネレータMG1を所定の発電トルクTMG1xで発電制御するとともに、自動変速機20の変速比γがγxとなるようにダウンシフトを行う。発進クラッチ26が完全に締結したか否かは、本実施例では同期制御が行われることから、係合トルクすなわち油圧が最大値(ライン圧など)に達したか否かを油圧センサによる検出値や経過時間などから判断する。第1モータジェネレータMG1による同期制御を行わず、発進クラッチ26の係合トルクで出力軸24や入力軸18、第1モータジェネレータMG1等の回転速度を上昇させる場合は、その第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1等が同期回転速度に達したか否かによって発進クラッチ26が完全に締結したか否かを判断するようにしても良い。また、前記ステップS8の機械式ブレーキ66による補完制御は、ステップS12の第1モータジェネレータMG1の発電制御、およびステップS13の自動変速機20のダウンシフトによる制動力増加に拘らず、制動力が過大になったり急な制動力変化によるショックが発生したりしないように、その発電制御および変速制御による制動力の増加に対応して機械式ブレーキ66の制動力を徐々に減少させる。
【0049】
上記ステップS6以下の制御は第2充電制動走行モードに相当する。その場合に、第1モータジェネレータMG1を最大発電トルクTMG1max にしても所定の前輪側要求制動力を得ることができない場合は、その不足分を機械式ブレーキ66によって発生させれば良い。また、この第2充電制動走行モードでも、後輪側要求制動力は機械式ブレーキ66によって発生させられる。
【0050】
このような本実施例の車両用ハイブリッド駆動装置10においては、発進クラッチ26が遮断されたEV走行モードまたはシリーズHEV走行モードでの走行中にブレーキペダルが踏込み操作された場合に、前輪側要求制動力に対応する必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max を超える時には、その発進クラッチ26を締結し、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御して上記前輪側要求制動力を発生させるとともに、得られた電気エネルギーでバッテリー46を充電する。これにより、2つのモータジェネレータMG1およびMG2を有効に用いてバッテリー46を効率よく充電できるとともに、大きな制動力が得られるようになり、エネルギー効率が向上する。
【0051】
また、本実施例では制動要求に伴って発進クラッチ26を締結し、第1モータジェネレータMG1を発電制御することによってその第1モータジェネレータMG1の発電制御による制動力が得られるようになるまでの応答遅れの間、車輪に設けられた機械式ブレーキ66を作動させて前輪側要求制動力の不足分を補完するため、制動力不足を回避しつつ発進クラッチ26を締結する際にショックを生じないように締結制御を適切に行うことができる。
【0052】
また、本実施例では前輪側要求制動力に応じて求められる必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max を超えた場合には、発進クラッチ26を締結して第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を共に発電制御する第2充電制動走行モードを実行するが、必要発電トルクTyoukyuが第2モータジェネレータMG2の最大発電トルクTMG2max 以下の場合は、発進クラッチ26が解放された状態で第2モータジェネレータMG2のみを発電制御する第1充電制動走行モードを実行するため、その第1充電制動走行モードでは発進クラッチ26の締結制御や機械式ブレーキ66による補完制御などが不要となり、優れたエネルギー効率を維持しつつ充電制動走行制御を簡略化できる。
【0053】
また、本実施例では発進クラッチ26を締結するのに先立ってその発進クラッチ26の前後の回転速度が同期するように第1モータジェネレータMG1を力行制御するため、発進クラッチ26を締結する際の各部のイナーシャによるショックが防止されるとともに、その発進クラッチ26の締結に続いて第1モータジェネレータMG1の発電制御を速やかに実行し、その発電制御による制動力が速やかに得られるようになる。
【0054】
また、本実施例はエンジン12および第1モータジェネレータMG1と発進クラッチ26との間に自動変速機20が設けられている場合で、その自動変速機20の変速比γが最小変速比γmin とされた状態、すなわち第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1が車速Vに応じて最低回転速度とされた状態で発進クラッチ26を締結するため、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1の変化幅(上昇幅)が小さく、発進クラッチ26を締結する際の各部の回転速度変化に伴うイナーシャによるショックを抑制しつつ発進クラッチ26を短時間で締結できる。本実施例では、第1モータジェネレータMG1を用いて同期制御が行われるため、発進クラッチ26の油圧を一気に増大させて短時間で締結できる。
【0055】
また、本実施例では発進クラッチ26が完全に締結された後に第1モータジェネレータMG1を発電制御するため、その発電制御に起因して発進クラッチ26が滑りを生じる恐れが無く、例えば発電制御による制動力変化に起因するショックが抑制されるように、その発電制御を高い精度で適切に行うことができる。すなわち、発進クラッチ26が完全に締結される前に第1モータジェネレータMG1の発電制御を行おうとすると、その発進クラッチ26が滑りを生じないように発電トルクTMG1を制御する必要があるため、制御が複雑になって制御性が悪くなり、発電制御による制動力変化でショックを生じる可能性がある。
【実施例2】
【0056】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0057】
図7は、前記発進クラッチ26の代わりに設けられる前後進切換装置90を説明する骨子図で、ダブルピニオン型の遊星歯車装置92、前進クラッチC1、および後進ブレーキB1を備えて構成される。具体的には、遊星歯車装置92のサンギヤは前記出力軸24に連結され、キャリアは第1歯車25に連結されるとともに前進クラッチC1を介して出力軸24に選択的に連結されるようになっており、リングギヤは後進ブレーキB1を介して選択的に回転不能に固定される。そして、前進クラッチC1および後進ブレーキB1が共に解放されると、出力軸24と第1歯車25との間の動力伝達が遮断され、前進クラッチC1が締結されるとともに後進ブレーキB1が解放されると、出力軸24の回転をそのまま第1歯車25に伝達する前進駆動状態となり、前進クラッチC1が解放されるとともに後進ブレーキB1が締結されると、出力軸24の回転を逆転させて第1歯車25に伝達する後進駆動状態となる。前進クラッチC1や後進ブレーキB1は、例えば油圧式の摩擦係合装置によって構成される。
【0058】
上記前後進切換装置90は、エンジン12および第1モータジェネレータMG1と前駆動輪40L、40Rとの間の動力伝達を接続遮断できる断続装置としても機能し、前記図5のフローチャートに従って充電制動走行制御が行われる場合、前進走行時には前進クラッチC1を前記発進クラッチ26と同様に締結解放制御し、後進走行時には後進ブレーキB1を発進クラッチ26と同様に締結解放制御すれば良い。
【0059】
なお、この実施例では、エンジン12を駆動力源として用いて後進走行することが可能である。また、ダブルピニオン型の遊星歯車装置92の代わりにシングルピニオン型の遊星歯車装置を用いて構成することもできるなど、種々の態様が可能である。また、この前後進切換装置90を第1モータジェネレータMG1と自動変速機20との間に配設することもできる。
【実施例3】
【0060】
図8の車両用ハイブリッド駆動装置100は前後輪駆動車両用のもので、前記実施例1の車両用ハイブリッド駆動装置10において第2モータジェネレータMG2を取り除いた前輪駆動装置102と、後輪駆動装置120とを備えている。後輪駆動装置120は、第2モータジェネレータMG2により第5歯車122および第6歯車124を介して差動歯車装置126を回転駆動することにより、左右の車軸128L、128Rを介して左右の後駆動輪130L、130Rを回転駆動する。
【0061】
このような車両用ハイブリッド駆動装置100においては、前記図5の代わりに図9に示すフローチャートに従って、常に発進クラッチ26を締結するとともに第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御する前記第2充電制動走行モードで充電制動走行制御が行われる。図9のステップR1では、前記ステップS1と同様に前記走行モード切換手段78によって充電制動走行モードが選択されたか否かを判断する。充電制動走行モードが選択された場合はステップR2を実行し、踏込み操作力SBRに基づいてマップや演算式等により要求制動力を求める。ステップR3では、予め定められた前後輪分配比に従って前輪側要求制動力および後輪側要求制動力を算出し、その後輪側要求制動力を、後駆動輪130L、130Rに直結されている第2モータジェネレータMG2の発電制御で発生させるのに必要な発電トルクTMG2xを算出する。また、前輪側要求制動力を、前駆動輪40L、40Rに自動変速機20を介して連結されている第1モータジェネレータMG1の発電制御で発生させるのに必要な発電トルクTMG1xおよび自動変速機20の変速比γxを、第1モータジェネレータMG1の発電効率特性等に基づいて最大効率で発電が行われるように設定する。
【0062】
ステップR4では、発進クラッチ26が締結状態か否かを判断し、解放状態の場合はステップR7以下を実行するが、締結状態であればステップR5およびR6を実行する。ステップR5では、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を、それぞれステップR3で設定された発電トルクTMG1x、TMG2xで発電制御する。また、ステップR6では、自動変速機20の変速比γを、ステップR3で設定された変速比γxにするように変速制御を行う。これにより、第1モータジェネレータMG1の発電制御で前輪側要求制動力が発生させられ、第2モータジェネレータMG2の発電制御で後輪側要求制動力が発生させられ、それ等の発電制御で得られた電気エネルギーでバッテリー46が効率良く充電される。
【0063】
発進クラッチ26が解放状態の場合、すなわち充電制動走行モードへ移行する前の走行モードがEV走行モードまたはシリーズHEV走行モードの場合には、ステップR7で第2モータジェネレータMG2をステップR3で設定された発電トルクTMG2xで発電制御する。これにより、後輪側要求制動力が発生させられるとともに、その発電制御で得られた電気エネルギーでバッテリー46が充電される。また、ステップR8〜R12では、前記図5のステップS8〜S12と同様にして機械式ブレーキ66による制動力の補完制御や自動変速機20のアップシフト、第1モータジェネレータMG1による同期制御、発進クラッチ26の締結制御、第1モータジェネレータMG1の発電制御が行われ、続いて前記ステップR6の変速制御が行われる。これにより、前輪側についても、制動力が過不足したり発進クラッチ26の締結時にショックが発生したりすることが無いように、前輪側要求制動力が発生させられるとともに、発電制御で得られた電気エネルギーでバッテリー46が効率良く充電される。
【0064】
本実施例においても、前記実施例1と同様の作用効果が得られる。特に、本実施例では第1充電制動走行モードを備えておらず、常に発進クラッチ26を締結するとともに第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を何れも発電制御して充電制動走行制御を行うため、一層優れたエネルギー効率が得られる。
【0065】
なお、第1モータジェネレータMG1を最大発電トルクTMG1max にしても所定の前輪側要求制動力を得ることができない場合や、第2モータジェネレータMG2を最大発電トルクTMG2max にしても所定の後輪側要求制動力を得ることができない場合には、それ等の制動力の不足分を機械式ブレーキ66によって発生させる。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10、100:車両用ハイブリッド駆動装置 12:エンジン 20:自動変速機(変速機) 26:発進クラッチ(断続装置、摩擦係合装置) 46:バッテリー 50:電子制御装置 66:機械式ブレーキ 76:充電制動走行手段 90:前後進切換装置(断続装置) MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) C1:前進クラッチ(摩擦係合装置) B1:後進ブレーキ(摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
該エンジンに機械的に連結された第1回転機と、
前記エンジンおよび前記第1回転機と駆動輪との間の動力伝達を接続遮断する断続装置と、
該断続装置の遮断時でも車両を走行させることができるように配設された第2回転機と、
を有する車両用ハイブリッド駆動装置において、
前記断続装置が遮断された状態で前記第2回転機を力行制御して走行するモータ駆動走行モードでの走行中に制動要求があった場合に、該断続装置を接続し、前記第1回転機および前記第2回転機を何れも発電制御してバッテリーを充電するとともに制動力を発生させる充電制動走行手段を有する
ことを特徴とする車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記制動要求に伴って前記断続装置を接続し、前記第1回転機を発電制御することによって該第1回転機の発電制御による制動力が得られるようになるまでの応答遅れの間、車輪に設けられた機械式ブレーキを作動させて制動力の不足分を補完する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記充電制動走行手段は、要求制動力に応じて求められる必要発電トルクが前記第2回転機の最大発電トルク以下の場合は、前記断続装置が遮断された状態で該第2回転機のみを発電制御する第1充電制動走行モードを実行し、該必要発電トルクが前記第2回転機の最大発電トルクを超えた場合は、前記断続装置を接続して該第2回転機および前記第1回転機を共に発電制御する第2充電制動走行モードを実行する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記充電制動走行手段は、前記断続装置を接続するのに先立って該断続装置の前後の回転速度が同期するように前記第1回転機を力行制御する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記断続装置は、摩擦係合させられることによって前記動力伝達を可能とする摩擦係合装置を備えており、
前記充電制動走行手段は、前記摩擦係合装置の係合トルクを徐々に増大させる
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記第1回転機と前記駆動輪との間の動力伝達経路には前記断続装置と直列に変速機が設けられており、
前記充電制動走行手段は、前記変速機の変速比が小さいハイギヤ側で前記断続装置を接続した後、前記第1回転機の発電制御で所定の制動力が得られるように該変速機をローギヤ側へ変速する
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記断続装置は、摩擦係合させられることによって前記動力伝達を可能とする摩擦係合装置を備えており、
前記充電制動走行手段は、前記摩擦係合装置が完全に締結された後に前記第1回転機を発電制御する
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両用ハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255700(P2011−255700A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129258(P2010−129258)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】