説明

III族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤

【課題】 優れた発光効率、逆耐電圧特性および静電耐圧特性等を有するIII族窒化物半導体発光素子の製造に適したIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤を提供すること。
【解決手段】 表面粗さ(Ra)が1nm以下の基板と該基板上に直接積層されたIII族窒化物半導体層とからなり、該III族窒化物半導体層は互いに接する複数の層からなり、該複数の層の少なくとも一層は転位密度が1×107cm-2以下の層であるIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体用エピタキシャル基盤およびそれを利用したIII族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上に形成されたIII族窒化物半導体は、短波長の可視光を放射する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等のpn接合型構造のIII族窒化物半導体発光素子を構成するための機能材料として利用されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、近紫外帯、青色帯、或いは緑色帯の発光を呈するLEDを構成するに際し、窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGaYN:0≦X,Y≦1、X+Y=1)は、基板上に数μm形成し(以下、下地層という)、結晶性を改善するとともに光取り出しを容易にする働きを有する。さらに、n形またはp形のクラッド層を構成するためにも利用されている(例えば、特許文献2参照)。一方、窒化ガリウム・インジウム(GaYInZN:0≦Y,Z≦1、Y+Z=1)は、発光層を構成するために利用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
従来のIII族窒化物半導体発光素子において、下地層には、GaNもしくはAlNのバッファー層を介して形成される窒化ガリウム(GaN)や基板と下地層の中間的格子定数を有するAlGaNをバッファー層として、窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGaYN:0≦X,Y≦1、X+Y=1)を形成するのが一般的である。この場合のバッファー層は、基板と下地層との歪を緩和する役割をはたし、下地層成長開始直後に転位を終端することを助ける働きをする。これにより、下地層上部への転位の伝播を抑制している。さらに、GaYInZN(0≦Y,Z≦1、Y+Z=1)等からなる発光層との格子定数差が小さくなるように、発光層への転位の伝播と格子定数差による歪を低減している。
【0004】
しかしながら、バッファー層により、転位伝播を抑制した下地層においてもその転位密度は1×109cm-2程度と大きく、III族窒化物半導体発光素子の特性向上には、低転位化が不可欠である。そのため、バッファー層の形成条件や下地層の形成方法が検討されてきた。
【0005】
そのための方法として、従来から、基板に凹凸を付ける加工を施したり(例えば、特許文献4参照)、基板上に絶縁膜を形成したり(例えば、特許文献5参照)、基板上に成長した積層物を加工したり(例えば、特許文献6参照)、堆積物上に絶縁膜を形成して(例えば、特許文献7参照)、その形状を利用して横方向の結晶成長を促進し、転位を終端させる方法が試みられてきた。しかし、この方法は基板もしくは基板上の堆積層を加工するため、絶縁膜形成、フォトリソグラフィーおよびエッチングなどのパターンニングの工程が煩雑であり、最終的に形成された膜についてもその形状に対応した転位の分布が存在した。
【0006】
また、あらかじめエピタキシャル成長前にピットを形成する処理をする加工方法を用いる場合もあった(例えば、特許文献8および9参照)。しかし、この方法であっても一度成長した結晶を一旦成長炉から取り出し、その成長膜にピット形成の加工を施した後、発光層等のデバイスの機能を発揮する層を再度成長するため、工程が煩雑であった。
【0007】
基板もしくは堆積層を加工しない方法としては、アンドープの下地層で生じた凹凸をその上にP型ドーピング層もしくはn型ドーピング層を成長することで平坦化する方法(例えば、特許文献10および11参照)や、ピットを埋めるために成長を一時中断する方法(例えば、特許文献12参照)など、下地層にピットを形成して、そのピットを埋めることで転位の方向を変え転位を終端させることなどが行われてきた。
【0008】
一方、III族窒化物半導体に発生するピットに関しては、温度や圧力などの成長条件の他に,不純物を高濃度にドーピングすると、ピットが形成することが知られている。(例えば、非特許文献1参照)。これを利用した方法として、相当高濃度のSiをドーピングしてピットを形成する方法がある(例えば、特許文献13参照)。
【0009】
本発明は、この不純物添加によるピット形成を利用したものであるが、添加する不純物元素の種類、添加する不純物の濃度および層構造を制御することで、転位密度が小さいIII族窒化物半導体積層物を得るものである。
【0010】
【特許文献1】特開2000−332364号公報
【特許文献2】特開2003−229645号公報
【特許文献3】特公昭55−3834号公報
【特許文献4】特開2000−331947号公報
【特許文献5】特開2002−16001号公報
【特許文献6】特開2004−35275号公報
【特許文献7】特開2002−289527号公報
【特許文献8】特開2003−124128号公報
【特許文献9】特開2002−261027号公報
【特許文献10】特開2000−353821号公報
【特許文献11】特開2000−357820号公報
【特許文献12】特開2002−367908号公報
【特許文献13】特開2004−47764号公報
【非特許文献1】Japan Journal of Applied Physics Vol.31(1992) pp.2883-2888
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、基板もしくは基板上の堆積層を加工することなく平坦な基板上に、通常のエピタキシャル成長方法を用いて半導体層のみを積層することによって、転位密度が1×107cm-2以下という低転位密度のIII族窒化物半導体層を提供することである。また、それを用いて、発光効率に優れたIII族窒化物半導体発光素子およびランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の発明を提供する。
(1)表面粗さ(Ra)が1nm以下の基板と該基板上に直接積層されたIII族窒化物半導体層とからなり、該III族窒化物半導体層は互いに接する複数の層からなり、該複数の層の少なくとも一層は転位密度が1×107cm-2以下の層であるIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0013】
(2)III族窒化物半導体層の互いに接する複数の層の少なくとも1組が不純物原子高濃度層と不純物原子低濃度層であり、該不純物原子高濃度層が基板側に存在する上記1項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0014】
(3)不純物原子高濃度層と不純物原子低濃度層が交互に周期的に存在する上記2項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0015】
(4)周期数が1〜10である上記3項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0016】
(5)不純物が、Si、Ge、Sn、S、Se、MgおよびZnからなる群から選ばれた1種または2種以上の組み合わせである上記2〜4項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0017】
(6)不純物がGeである上記5項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0018】
(7)不純物原子高濃度層の表面(基板と反対側の面)にピットが1×105cm-2〜5×108cm-2の範囲で存在する上記2〜6項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0019】
(8)不純物原子高濃度層の不純物濃度が5×1017〜4×1019cm-3である上記2〜7項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0020】
(9)不純物原子高濃度層の厚さが0.1〜10μmである上記2〜8項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0021】
(10)不純物原子低濃度層の不純物濃度が不純物原子高濃度層の不純物濃度より低く、かつ2×1019cm-3以下である上記2〜9項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0022】
(11)不純物原子低濃度層が不純物を故意にドーピングされていない上記10項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0023】
(12)不純物原子低濃度層の厚さが0.1〜10μmである上記2〜11項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0024】
(13)不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層の全体の厚さが1〜1000μmである上記2〜12項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【0025】
(14)上記1〜13項のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤上に、III族窒化物半導体からなる、n型層、発光層およびp型層をこの順序で有し、該n型層およびp型層に負極および正極がそれぞれ設けられてなるIII族窒化物半導体発光素子。
【0026】
(15)上記14項に記載の発光素子からなるランプ。
【発明の効果】
【0027】
本発明のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤は、III族窒化物半導体層の転移密度が1×107cm-2以下と極めて小さい。従って、このエピタキシャル基盤を用いて、発光効率に優れたIII族窒化物半導体発光素子を作製することが可能である。すなわち、電流注入型の発光素子では、キャリアをトラップして非発光中心となる結晶欠陥を低減することにより、例えば、LED素子では発光効率の向上、逆耐電圧の向上および静電耐圧の向上が期待できる。また、レーザー素子においては、閾値電流の低減が可能になる。
【0028】
さらに、このエピタキシャル基盤は、基板もしくは基板上の堆積層を加工することなく平坦な基板上に、通常のエピタキシャル成長方法を用いて半導体層のみを積層することによって得られるので、製造コストが極めて安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本願発明においてIII族窒化物半導体層が積層される基板としては、融点が比較的高く、耐熱性のあるサファイア(α−Al23単結晶)や酸化亜鉛(ZnO)或いは酸化ガリウム・リチウム(組成式LiGaO2)等の酸化物単結晶材料、珪素単結晶(シリコン)や立方晶或いは六方晶結晶型の炭化珪素(SiC)等のIV族半導体単結晶からなる基板等が挙げられる。また、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)およびリン化ガリウム(GaP)等のIII−V族化合物半導体単結晶材料も利用できる。発光層からの発光を透過できる、光学的に透明な単結晶材料は基板として有効に利用できる。
【0030】
また、基板の表面については、機械的および/または化学的に研磨された滑らかな表面でなければならない。通常、凹凸の指標として用いられる表面粗さ(Ra)が1nm以下のものが好ましい。
【0031】
本発明においては、表面粗さ(Ra)が1nm以下の平坦な基板をそのまま用いることができる。また、一旦成長した堆積層を成長炉から取り出して加工することもなく、一連の成長過程において、III族窒化物半導体層の転位密度を低減することを特長としている。
【0032】
すなわち、平坦な表面を有する基板上に積層する半導体積層物の一部に、不純物を高濃度にドープすることによりピットを発生させる層と、不純物濃度が低いかもしくはアンドープの半導体からなるそのピットを埋める層を有することを特徴としている。不純物低濃度層もしくはアンドープ層がピット部に生じた成長面と平行ではない斜面を埋めながら成長する過程で、ピットの斜面に出てくる転位が横方向に曲げられ終端する。その結果、上部に伝播する転位が減少する。これを周期的に繰り返すことにより、転位密度はさらに減少する。
【0033】
この方法を用いることで、基板もしくはその上の堆積層を加工したり、成長途中で熱処理により表面を加工するなどの煩雑な加工は必要なくなり、簡便でしかも大きな低転位化の効果が得られる。また、この方法は、ピットを形成するためにドープする不純物元素の種類によらず効果があり、導電型もn型ドーパントでもp型ドーパントでもどちらでも用いることが出来る。
【0034】
その効果は、成長面中にピットが占める面積が大きいほど高く、ほぼ全面をピットが覆ってしまう方が効果が大きい。しかし、全面をピットで覆ったとしても一つ一つのピットが小さいと効果は小さくある程度の大きさが必要である。ピットの大きさが大き過ぎるとそのピットを埋め、さらに、埋め込んだ層が平坦になるのが困難になるので、ピットの大きさと密度には最適値がある。
【0035】
しかし、ピットはその後の埋め込み成長で埋められてしまうので、ピット形成層とピット埋め込み層が同一物質で形成されると、成長終了後のピットの大きさや密度は確認できない。そこで、ピットの大きさがピットを形成する層の層厚に依存していることから、ピット形成層、即ち不純物原子高濃度層の層厚を規定してもよい。その場合、あらかじめ、ピット密度を確認し、表面全面をピットが覆うような条件で成長することが重要である。このピット形成状態をコントロールするには、反射率のその場観察装置が有効である。ピット形成に伴って反射率が低下し、ほぼ全面がピットで覆われたところで反射率は最低と成る。
【0036】
全面がピットで覆われてしまうとそれ以上は縦方向には成長しないので、同じ条件でエピタキシャル成長を継続しても、ピットの斜面に不純物が析出したり、新たな欠陥が形成する。従って、ピット形成後は、速やかに、ピット埋め込み層の形成を開始する方が好ましい。この時期を監視するための手段として、反射率その場観察装置は重要である。
【0037】
転位密度は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で概算できる。これは、資料を極薄膜に加工し、それに電子線を照射したときの電子線の回折像を調べる方法で、結晶内の転位の伝播の様子およびその密度を測定できる。また、転位密度だけであればエッチピット密度の測定から推定することも出来る。これは、エピ表面を薬品処理することで、転位が存在する部分に選択的に反応し、転位の種類や密度に相当する形状や数のピットが表面に形成される。さらには、カソードルミネッセンス(CL)を用いることができる。電子線を照射することにより、結晶が励起されバンドギャップに相当するエネルギーの光を発することを利用する方法であるが、転位の位置は他の部位に比べて発光が弱いため、発光のコントラストにより転位の位置がわかる。本発明においては、エッチピットの形成により転位密度を測定する方法を用いている。
【0038】
ピットを形成するための不純物原子高濃度層およびそれらを埋める不純物原子低濃度層は、III族窒化物半導体層の気相成長時に不純物のドーピング源の気相成長反応系への供給量を変化することにより形成する。例えば、不純物のドーピング源を気相成長反応系へ多量に一定時間供給した後、気相成長反応系へ不純物を供給せずにアンドープの層すなわち故意に添加する不純物原子濃度がゼロの層を一定時間成長することにより形成する。
【0039】
この不純物ドーピング源の気相成長反応系への供給量を増減させれば、ピットが形成される層とそのピットを埋める層を周期的に形成できる。本発明における不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層からなるIII族窒化物半導体積層物は、このように不純物原子濃度の高い層と不純物原子濃度の低い層が交互に周期的に積層されていることが好ましい。
【0040】
不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層からなる上記のIII族窒化物半導体積層物は、必要に応じて従来周知のバッファー層を介して基板に直接設けることができる。バッファー層を設けることにより、III族窒化物半導体積層物で発生するピットの密度を制御することができる。バッファー層は、例えば、窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGaYInZN:0≦X,Y,Z≦1で且つ、X+Y+Z=1)等から構成できる。また、従来周知の下地層を基板上に設け、その上に上記のIII族窒化物半導体積層物を設けてもよい。さらには、上記のIII族窒化物半導体積層物を基板上に設け、その上に従来周知の下地層を設けて本発明のエピタキシャル基盤としてもよい。
【0041】
下地層を設ける場合、下地層はAlXGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。その膜厚は0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なAlXGa1―XN層が得られやすい。下地層の膜厚の上限は、本発明を得る上では特に限定されないが、厚すぎるとコストが上昇するので、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは8μm以下であり、特に好ましくは5μm以下である。
【0042】
下地層にはn型不純物を1×1017〜1×1019/cm3の範囲内であればドープしても良いが、アンドープ(<1×1017/cm3)の方が良好な結晶性の維持という点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。
【0043】
不純物原子を高濃度に含むピットを形成する層の膜厚は、0.1μm以上10μm以下が適する。好ましくは、0.3μm以上5μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以上3μm以下である。膜厚が0.1μm未満になると、ピットが十分大きくならず、転位がその部分に当たる確立が低くなるので、転位を終端させる効果が小さい。逆に、10μmを越えるとットが大きくなり過ぎ、不純物原子が低濃度の層で埋まりきらず、平坦性が悪くなる。その結果、例えば、本発明のエピタキシャル基盤上に積層される発光層の平坦性も悪くなり、発光素子の特性が悪化する。
【0044】
また、不純物原子を高濃度に含むピットを形成する層のピット密度は、1×105cm-2以上5×108cm-2以下が適する。好ましくは、1×106cm-2以上1×108cm-2以下であり、さらに好ましくは、5×106cm-2以上5×107cm-2以下である。この範囲にコントロールするとピットがピット形成層、即ち不純物原子高濃度層のほぼ全面に広がり、転位がこのピットに入り、方向を曲げる確率が最大になる。
【0045】
ピット密度は、例えば、微分干渉顕微鏡や蛍光顕微鏡で測定できる。高濃度層でピットを形成した状態のエピタキシャル膜を50〜500倍で観察すれば、ピット密度を算出できる。
【0046】
また、不純物原子を低濃度に含む層の膜厚は、不純物原子を高濃度に含む層と同様に、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.3μm以上5μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上3μm以下が特に好ましい。膜厚が0.1μm未満になると高濃度層で形成されるピットを十分埋められず平坦性が損なわれる。また、10μmを超えてもその効果は大きくならない。
【0047】
さらに、不純物原子を低濃度に含む層は、ピットを埋める際に転位を横方向に進行させることを促進するため、成長温度を上げる、成長圧力を下げる、および成長速度を下げるなどの成長パラメータを変化させてもよい。
【0048】
本発明では、互に接触している高濃度層と低濃度層の一組を一周期という。各周期の高濃度層の膜厚と低濃度層の膜厚の合計、すなわち、1周期の膜厚は、0.2μm以上20μm以下が適する。好ましくは、0.6μm以上10μm以下、さらに好ましくは、1μm以上6μm以下である。20μmを超えると、ピットを埋めきれず平坦性が悪くなるか、もしくは、周期を繰り返した時のトータル膜厚が厚くなり加工するのに不利である。また、0.2μm未満にするためには、n型不純物原料の供給量を頻繁に変更せねばならず、作業効率が低下する。
【0049】
1周期中において高濃度層が低濃度層より厚い場合、ピット形成の抑制が十分でなく、平坦性が十分に得られない。一方、1周期中において低濃度層が高濃度層と同等かそれ以上厚い場合は、平坦性が良好になる。従って、低濃度層の厚さは高濃度層の厚さ以上とすることが好ましい。
【0050】
不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層全体の層厚は、1μm以上1000μm以下が好ましく、2μm以上100μm以下がさらに好ましく、4μm以上20μm以下が特に好ましい。層厚が1μm以下になると転位が終端する確立が低下し効果が小さくなり、また、1000μm以上にしても得られる効果に大差なく、コストが上昇するのみである。
【0051】
上記の1周期の厚さおよび全体の厚さから、積層させる周期数は1以上で50以下が好ましく、1以上で10以下がさらに好ましく、1以上で5以下が特に好ましい。例えば、厚さ2μmの高濃度層および厚さ2μmの低濃度層の繰り返しを一周期として、3周期に亘り積層させて、合計で厚さを12μmとするIII族窒化物半導体積層物を形成する。
【0052】
周期数を増加するにしたがって転位密度は減少する。しかし、ピットの発生は転位密度の減少と共に減少するので、周期数の増加と共に不純物原子高濃度層で形成されるピットの数も減少する。従って、周期数を増加するにしたがって、転位密度の減少効果は得られ難くなる。さらには、層全体が厚くなることにより、クラック等の発生する可能性がある。従って、効果的な各層の厚さと全体の厚さとの関係から最適な周期数を決定できる。
【0053】
ピットを形成するための不純物として、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、すず(Sn)、硫黄(S)、Se(セレン)、Te(テルル)、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)等を利用できる。
【0054】
この中では、Geが特に好ましい。ピット形成が他の不純物に比べ容易であり、また、そのため、ピット密度も制御し易い特長がある。
【0055】
高濃度層の不純物原子の濃度は、使用する不純物の種類およびその化合物により異なる。濃度が低いとピットを生じさせることが出来ず効果が得られない。また、高濃度にし過ぎるとピットが多すぎて平坦部が残らず、低濃度層で埋めた時に平坦性を回復できない場合がある。通常は、5×1017cm-3から4×1019cm-3以下とするのが好ましい。高濃度層の不純物原子濃度は、III族窒化物半導体積層物全体に亙って必ずしも一定でなくても良く、各周期毎に濃度が連続的もしくは不連続に変化していても良い。また、一つ一つの層内部で不純物原子濃度が変化していてもよい。さらには、不純物元素は1種でなくても良く、2種類以上の元素を組み合わせても良い。
【0056】
低濃度層の不純物原子の濃度は、高濃度層の不純物原子の濃度より低濃度であり、かつ、2×1019cm-3以下とすることが望ましい。濃度が低いほどピットを埋める効果が大きいためである。下限に関しては低ければ低い程よく、むしろ故意にドーピングしない方が好ましい。不純物原子濃度をより小とするため、低濃度層をアンドープのIII族窒化物半導体層から構成すると、高濃度層の表面に発生するピットを埋め尽くす効果がさらに高まり、表面の平坦な半導体層を得るのに好ましい。
【0057】
また、低濃度層においても高濃度層と同様、低濃度層の不純物原子濃度は、半導体層全体に亙って必ずしも一定でなくても良く、各周期毎に濃度が連続的もしくは不連続に変化していても良い。また、一つ一つの層内部で不純物原子濃度が変化していてもよい。さらには、不純物元素は1種でなくても良く、2種類以上の元素を組み合わせても良い。この場合、n型不純物とp型不純物の組み合わせであっても構わない。
【0058】
不純物原子の濃度は、例えば、2次イオン質量分析法(SIMS)で測定できる。これは、試料の表面に1次イオンを照射することにより、イオン化して飛び出した元素を質量分析する手法であり、特定の元素の深さ方向の濃度分布を観察かつ定量できる。III族窒化物半導体層中に存在するGe元素についてもこの手法が有効である。その際に各層の厚さも算出できる。
【0059】
基板上に積層するIII族窒化物半導体としては、例えば一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされるIII族窒化物半導体が多数知られており、本発明においても、それら周知のIII族窒化物半導体を含めて一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされるIII族窒化物半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0060】
III族窒化物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P、AsおよびBなどの元素を含有することもできる。さらに、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0061】
III族窒化物半導体の成長方法は特に限定されず、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、などIII族窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。好ましい成長方法としては、膜厚制御性、量産性の観点からMOCVD法である。MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H2)または窒素(N2)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N24)などが用いられる。
【0062】
ドープする不純物の原料としては、それぞれの元素の水素化物、例えば、モノシラン(SiH4)、ジシラン(SiH6)、ゲルマン(GeH4)、硫化水素(H2S)、セレン化水素(H2Se)、テルル化水素(H2Te)等、およびそれぞれの元素の有機化合物、例えば、テトラメチルシリコン((CH34Si)、テトラエチルシリコン((C254Si)、テトラメチルゲルマニウム((CH34Ge)、テトラエチルゲルマニウム((C254Ge)、ジエチルセレン((C252Se)、ジイソプロピルセレン((C372Se)、ジエチルサルファイド((C252S)、ジイソプロピルサルファイド((C372S)、テトラメチルティン((CH34Sn)、テトラエチルティン((C254Sn)、ジメチルテルル((CH32Te)、ジエチルテルル((C252Te)、シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)、ジエチルジンク((C252Zn)等を利用できる。また、MBE法では、元素状(金属)もドーピング源として利用できる。
【0063】
MOCVD法では、上記原料を用いて基板上に、目的に応じたIII族窒化物半導体層を900℃〜1250℃の温度範囲で成長させることが好ましい。
【0064】
本発明のエピタキシャル基盤を用いてIII族窒化物半導体素子を作製する場合、当該基盤のIII族窒化物半導体層上に、目的とする半導体素子に応じて各種のIII族窒化物半導体層および電極等を順次積層すればよい。上述したように、本発明のエピタキシャル基盤の少なくとも上層のIII族窒化物半導体層は転位密度が1×107cm-2以下と非常に小さいので、その上に積層されるIII族窒化物半導体層も結晶性に優れ、高性能な半導体素子が得られる。
【0065】
例えば、目的とする素子が発光素子の場合、本発明のエピタキシャル基盤上に、III族窒化物半導体からなる、n型層、発光層、およびp型層をこの順序で積層し、n型層およびp型層にそれぞれ負極および正極を設ければよい。
【0066】
n型層は通常nコンタクト層およびnクラッド層から構成される。nコンタクト層はクラッド層を兼ねることができる。
【0067】
nコンタクト層は、AlXGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。n型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017〜1×1019/cm3、好ましくは1×1018〜1×1019/cm3の濃度で含有すると、負極との良好なオーミック接触の維持、クラック発生の抑制、良好な結晶性の維持の点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。膜厚は特に限定されないが、通常0.1〜10μmであり、0.5〜8μmが好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。
【0068】
nクラッド層はAlGaN、GaN、GaInNなどで形成することが可能である。GaInNとする場合には、活性層のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。nクラッド層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.005〜0.5μmであり、より好ましくは0.005〜0.1μmである。nクラッド層のn型ドープ濃度は1×1017〜1×1020/cm3が好ましく、より好ましくは1×1018〜1×1019/cm3である。ドープ濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0069】
n型層上に積層される発光層としては、III族窒化物半導体、好ましくはGa1-sInsN(0<s<0.4)のIII族窒化物半導体からなる発光層が通常用いられる。発光層の膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚、即ち臨界膜厚が挙げられ、例えば好ましくは1〜10nmであり、より好ましくは2〜6nmである。膜厚が上記範囲であると発光出力の点で好ましい。また、発光層は、上記のような単一量子井戸(SQW)構造の他に、上記Ga1-sInsNを井戸層として、この井戸層よりバンドギャップエネルギーが大きいAlcGa1-cN(0≦c<0.3かつb>c)障壁層とからなる多重量子井戸(MQW)構造としてもよい。また、井戸層および障壁層には、不純物をドープしてもよい。
【0070】
p型層は、通常、pクラッド層およびpコンタクト層から構成される。しかし、pコンタクト層がpクラッド層を兼ねてもよい。pクラッド層としては、発光層のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、AldGa1-dN(0<d≦0.4、好ましくは0.1≦d≦0.3)のものが挙げられる。pクラッド層が、このようなAlGaNからなると、発光層へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。pクラッド層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。pクラッド層のp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cm3が好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cm3である。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。
【0071】
pコンタクト層としては、少なくともAleGa1-eN(0≦e<0.5、好ましくは0≦e≦0.2、より好ましくは0≦e≦0.1)を含んでなるIII族窒化物半導体層である。Al組成が上記範囲であると、良好な結晶性の維持および正極との良好なオーミック接触の点で好ましい。p型ドーパントを1×1018〜1×1021/cm3の濃度で、好ましくは5×1019〜5×1020/cm3の濃度で含有していると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましい。p型不純物としては、特に限定されないが、例えば好ましくはMgが挙げられる。膜厚は、特に限定されないが、0.01〜0.5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜0.2μmである。膜厚がこの範囲であると、発光出力の点で好ましい。
【0072】
nコンタクト層およびpコンタクト層にはそれぞれ負極および正極をこの技術分野でよく知られた慣用の手段で設ける。それぞれの構造も従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
【0073】
本発明のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤を用いて半導体発光素子を作製し、例えば当業界周知の手段により透明カバーを設けてランプを作製できる。また、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子と蛍光体を有するカバーを組み合わせて白色のランプを作製することもできる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
図1は、本実施例で作製したIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤の断面構造を模式的に示した図である。
【0076】
サファイアからなる基板上にIII族窒化物半導体を積層した構造体は、一般的な減圧MOCVD手段を利用して以下の手順で形成した。先ず、(0001)−サファイアからなる基板1を、高周波(RF)誘導加熱式ヒータで成膜温度に加熱される半導体用高純度グラファイト製のサセプタ上に載置した。載置後、ステンレス鋼製の気相成長反応炉内に窒素ガスを流通し、炉内をパージした。
【0077】
気相成長反応炉内に、窒素ガスを8分間に亘って流通させた後、誘導加熱式ヒータを作動させ、基板1の温度を、10分間で室温から600℃に昇温した。基板1の温度を600℃に保ったまま、水素ガスと窒素ガスを流通させて、気相成長反応炉内の圧力を1.5×104パスカル(Pa)とした。この温度及び圧力下で2分間、放置して、基板1の表面をサーマルクリーニングした。サーマルクリーニングの終了後、気相成長反応炉内への窒素ガスの供給を停止した。水素ガスの供給は継続させた。
【0078】
その後、水素雰囲気中で、基板1の温度を1120℃に昇温させた。1120℃で温度が安定したのを確認した後、トリメチルアルミニウム(TMA)の蒸気を随伴する水素ガスを8分30秒間、気相成長反応炉内へ供給した。これにより、気相成長反応炉の内壁に以前より付着していた窒素を含む堆積沈着物の分解により生じる窒素原子と反応させて、サファイア基板1上に、厚さ数nmの窒化アルミニウム(AlN)薄膜からなるバッファー層2を付着させた。TMAの蒸気を随伴する水素ガスの気相成長反応炉内への供給を停止しAlNの成長を終了させた後、4分間待機し、気相成長炉内に残ったTMAを完全に排出した。
【0079】
続いて、アンモニア(NH3)ガスを気相成長反応炉内に供給し、4分が経過した後、アンモニアガスの流通を続けながら、サセプタの温度を1040℃に降温した。サセプタの温度が1040℃になったのを確認した後、暫時、温度が安定するのを待ち、トリメチルガリウム(TMG)の気相成長反応炉内への供給を開始し、アンドープのGaNからなる下地層3を15分に亘って成長させた。下地層3の厚さは0.5μmとした。
【0080】
次に、テトラメチルゲルマニウム((CH34Ge)が入ったステンレス容器内の圧力を200kPa(2000mbar)に保持した状態で水素ガスを40sccm(標準状態換算におけるcm3/分)流通して、テトラメチルゲルマニウムを反応炉に供給した。Geの供給量を制御することにより、GaN結晶中に取り込まれるGeの量をコントロールでき、結果としてピット密度をコントロールできる。この場合は、60分間流通しGeドープGaNからなるピット形成層、即ち不純物原子高濃度層4を2μm成長した。その後、1時間(CH34Geの流通を停止してアンドープGaNのピット埋め込み層、即ち不純物原子低濃度層5を2μm成長して、ピットを埋めた。このサイクルを2回繰り返し、Ge濃度が周期的に変化する全体の厚さが8.0μmの不純物原子高濃度層と不純物原子低濃度層を形成した。
【0081】
不純物原子低濃度層5の成長を終了した後、誘導加熱式ヒータへの通電を停止して、基板1の温度を、室温迄、約20分間で降温した。降温中は、気相成長反応炉内の雰囲気を窒素のみから構成した。基板1の温度が室温まで降温したのを確認して、積層構造体を気相成長反応炉より外部へ取り出した。
【0082】
得られたエピタキシャル基盤を250℃の硫酸と燐酸の混合液に30分浸漬処理した。この表面をAFM(原子間力顕微鏡)で、エッチピットとして観察される転位の密度を測定したところ、8×106cm-2であった。さらに不純物原子高濃度層4のGe原子濃度を2次イオン質量分析法(SIMS)で測定したところ、1×1019cm-3であった。
【0083】
また、2周期目の不純物原子高濃度層4の成長を終了した段階で、別途気相成長反応炉から取り出したサンプルについて、ピット密度を蛍光顕微鏡で測定したところ、1×107cm-2であった。
【0084】
(実施例2〜3および比較例1〜4)
不純物原子高濃度層4を成長させる際の、テトラメチルゲルマニウム((CH34Ge)が入ったステンレス容器内に供給する水素ガスの流量を変更したことを除いて、実施例1と同様にエピタキシャル基盤を作製した。
【0085】
得られたエピタキシャル基盤について実施例1と同様に評価した。その結果を実施例1の結果と併せて表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
また、得られたエピタキシャル基盤の転位密度と2周期目の不純物原子高濃度層4で形成されたピット密度との関係を図2に示す。不純物原子高濃度層4でのピット密度が小さいと、転位がピット面に当たって方向を変える確率が小さいため、不純物原子低濃度層5表面での転位密度低減効果が小さい。また、ピット密度が大き過ぎると、ピットどうしが結合してしまって平坦部がなくなることから、不純物原子低濃度層5での埋め込みがうまくいかず、平坦性が悪くなると共に、転位の低減効果も悪くなる。
【0088】
(実施例4)
実施例1で作製したエピタキシャル基盤上にさらにIII族窒化物半導体層を積層させ、III族窒化物半導体発光素子を作製した。図3は、本実施例で作製したIII族窒化物半導体発光素子の断面構造を模式的に示した図である。
【0089】
不純物原子高濃度層5の形成までは実施例1と同じである。その上に1120℃でGeドープGaNからなるnコンタクト層6を積層した後、1060℃で、アンドープIn0.03Ga0.97Nからなるnクラッド層7を積層した。このnクラッド層7の層厚は12.5nmとした。一方、nコンタクト層6は、Ge原子高濃度層とGe原子低濃度層が交互に100回繰り返して積層された構造であり、全層厚は2μmとした。
【0090】
次に、基板1の温度を730℃として、多重量子井戸構造発光層8をnクラッド層7上に設けた。多重量子井戸構造発光層8はGaNからなる障壁層8aとIn0.25Ga0.75Nよりなる井戸層8bの繰り返し構造であり、障壁層8aからはじまり同じく障壁層8aで終了するものである。ここでは、障壁層8aが6層であり井戸層8bが5層の多重量子井戸構造としている。すなわち、多重量子井戸構造発光層8にあっては、先ず、GaN障壁層8aをnクラッド層7に接合させて設け、最上層もGaN障壁層8aとした。
【0091】
GaN障壁層8aは、トリエチルガリウム(TEG)をガリウム源として成長させた。層厚は8nmとし、アンドープとした。In0.25Ga0.75N井戸層8bは、トリエチルガリウム(TEG)をガリウム源とし、トリメチルインジウム(TMI)をインジウム源として成長させた。層厚は、2.5nmとし、アンドープとした。
【0092】
多重量子井戸構造からなる発光層8上には、マグネシウム(Mg)をドーピングしたp型Al0.07Ga0.93Nからなるpクラッド層9を形成した。層厚は10nmとした。pクラッド層9上には、更に、Mgをドーピングしたp型GaNからなるpコンタクト層10を形成した。Mgのドーピング源には、ビスーシクロペンタジエニルMgを用いた。Mgは、pコンタクト層10の正孔濃度が8×1017cm-3となる様に添加した。pコンタクト層10の層厚は100nmとした。
【0093】
p型GaNコンタクト層10の成長を終了した後、誘導加熱式ヒータへの通電を停止して、基板1の温度を、室温迄、約20分間で降温した。降温中は、気相成長反応炉内の雰囲気を窒素のみから構成した。基板1の温度が室温まで降温したのを確認して、積層構造体を気相成長反応炉より外部へ取り出した。この時点で、上記のp型GaNコンタクト層10は、p型キャリア(Mg)を電気的に活性化するためのアニール処理を行わなくても、既に、p型の伝導性を示した。
【0094】
次いで、公知のフォトリソグラフィー技術及び一般的なドライエッチング技術を利用して、n型オーミック電極11を形成する予定の領域に限り、Geドープn型GaN層6のGe原子高濃度層を露出させた。露出させたGe原子高濃度層の表面に、チタンおよび金を積層した(半導体側がチタン)負極11を形成した。残置した積層構造体の表面をなすp型GaNコンタクト層10の表面の全域には、一般的な真空蒸着手段、及び公知のフォトリソグラフィー手段等を利用して、半導体側から順に、ニッケルおよび金を積層させた正極12を形成した。
【0095】
然る後、350μm角の正方形のLEDチップに切断し、リードフレーム上に載置し、金導線をリードフレームに結線して、リードフレームよりLEDチップへ素子駆動電流を流せる様にした。
【0096】
リードフレームを介して負極11および正極12間に順方向に素子駆動電流を流した。順方向電流を20mAとした際の順方向電圧は3.5Vであった。また、20mAの順方向電流を流した際の出射される青色帯発光の中心波長は460nmであった。また、一般的な積分球を使用して測定される発光の強度は、6mWに達し、高い強度の発光をもたらすIII族窒化物半導体発光素子が得られた。さらに、逆方向電流が10μA流通する電圧は30V以上と良好であり、マシンモデルによる静電耐圧特性も500V以上と良好であった。
【0097】
(比較例5)
下地層の厚さを8.5μmとして、不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層を設けなかったことを除いて、実施例1と同様にIII族窒化物半導体積層構造体を作製した。得られた積層構造体表面の転位密度は、2×109cm-2であった。
【0098】
この積層構造体の上に、実施例4と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。実施例4と同様に順方向および逆方向の電圧および発光強度を測定したところ、順方向電圧は実施例4と同じ3.5Vであったが、発光強度は5mWと実施例4に比べると低い強度であった。さらに、逆方向電流が10μA流通する電圧は15V程度であり、マシンモデルによる静電耐圧特性も200Vと実施例4より劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によって得られるエピタキシャル基盤はIII族窒化物半導体層の転位密度が極めて小さいので、III族窒化物半導体素子、例えばIII族窒化物半導体発光素子用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1で作製した本発明のエピタキシャル基盤の断面構造を模式的に示した図である。
【図2】不純物原子高濃度層のピット密度と不純物原子低濃度層の転位密度との関係を示した図である。
【図3】実施例4で作製したIII族窒化物半導体発光素子の断面構造を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2 バッファー層
3 下地層
4 不純物原子高濃度層
5 不純物原子低濃度層
6 nコンタクト層
7 nクラッド層
8 発光層
9 pクラッド層
10 pコンタクト層
11 負極
12 正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さ(Ra)が1nm以下の基板と該基板上に直接積層されたIII族窒化物半導体層とからなり、該III族窒化物半導体層は互いに接する複数の層からなり、該複数の層の少なくとも一層は転位密度が1×107cm-2以下の層であるIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項2】
III族窒化物半導体層の互いに接する複数の層の少なくとも1組が不純物原子高濃度層と不純物原子低濃度層であり、該不純物原子高濃度層が基板側に存在する請求項1に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項3】
不純物原子高濃度層と不純物原子低濃度層が交互に周期的に存在する請求項2に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項4】
周期数が1〜10である請求項3に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項5】
不純物が、Si、Ge、Sn、S、Se、MgおよびZnからなる群から選ばれた1種または2種以上の組み合わせである請求項2〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項6】
不純物がGeである請求項5に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項7】
不純物原子高濃度層の表面(基板と反対側の面)にピットが1×105cm-2〜5×108cm-2の範囲で存在する請求項2〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項8】
不純物原子高濃度層の不純物濃度が5×1017〜4×1019cm-3である請求項2〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項9】
不純物原子高濃度層の厚さが0.1〜10μmである請求項2〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項10】
不純物原子低濃度層の不純物濃度が不純物原子高濃度層の不純物濃度より低く、かつ2×1019cm-3以下である請求項2〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項11】
不純物原子低濃度層が不純物を故意にドーピングされていない請求項10に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項12】
不純物原子低濃度層の厚さが0.1〜10μmである請求項2〜11のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項13】
不純物原子高濃度層および不純物原子低濃度層の全体の厚さが1〜1000μmである請求項2〜12のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体素子用エピタキシャル基盤上に、III族窒化物半導体からなる、n型層、発光層およびp型層をこの順序で有し、該n型層およびp型層に負極および正極がそれぞれ設けられてなるIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項15】
請求項14に記載の発光素子からなるランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−313771(P2006−313771A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134926(P2005−134926)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】