説明

半導体層構造の成長方法

【課題】半導体層構造を構成する全ての半導体層に低抵抗領域を形成することなく、改善された抵抗率を持つ領域を含む層を有する半導体層構造を成長させることができる成長方法を提供する。
【解決手段】半導体層構造の成長方法は、第1の半導体層11(11a,11b,11c)を成長させる工程と、第1の半導体層11中に水素を導入する工程とを含む。その後、第1の半導体層11の上に少なくとも1つの他の半導体層12を成長させ、それによって半導体層構造を形成する。その後、第1の半導体層11の選択された部分の電気抵抗を変化させるように、第1の半導体層11の選択された部分11aをアニールする。第1の半導体層11の上に成長された少なくとも1つの他の半導体層12の電気抵抗は、上記アニールによって有意の変化を受けない。本発明は、例えば半導体層構造内の1つの半導体層に電流開口部を形成するのに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層構造の成長方法に関するものであり、特に、改善された抵抗率を持つ領域を含む層を有する半導体層構造の成長方法に関するものである。上記成長方法は、例えば、(Al,Ga,In)N材料系などのような窒化物材料系による半導体層構造の成長に適用できる。本発明の半導体層構造は、広範囲の電子/光電子デバイス、例えば、半導体レーザダイオード(以下、適宜「LD」と略記する)(エッジ放出LDおよび垂直LDの両方を含む)や発光ダイオード(以下、適宜「LED」と略記する)(共振空洞LEDを含む)に組み込むことができる。
【背景技術】
【0002】
(Al,Ga,In)N材料系は、一般式AlGaIn1−x−yN(0≦x≦1かつ0≦y≦1)で表される材料を含んでいる。本出願書類においては、(Al,Ga,In)N材料系のうち、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムのモル分率が0でないものをAlGaInN、アルミニウムのモル分率が0であり、ガリウムおよびインジウムのモル分率が0でないものをInGaN、インジウムのモル分率が0であり、ガリウムおよびアルミニウムのモル分率が0でないものをAlGaN、…などと記す。(Al,Ga,In)N材料系で製造されたデバイスは、青紫色波長領域(およそ380〜450nmの範囲内の波長に対応)の光を発することができるので、(Al,Ga,In)N材料系による半導体発光デバイスの製造には、現在、相当な関心が寄せられている。
【0003】
(Al,Ga,In)N材料系で製造された半導体発光デバイスは、例えば、非特許文献1に記載されている。さらに、(Al,Ga,In)N材料系で製造された半導体発光デバイスは、特許文献1にも記載されている。特許文献1は、有機金属気相成長(以下、「MOCVD」と略記する)の成長技術を用いて、(Al,Ga,In)N材料系による発光デバイスを製造する方法を教示している。MOCVD(有機金属気相エピタキシーあるいはMOVPEとも呼ばれる)は、一般には、大気圧の装置内で行われるが、時には、僅かな減圧(典型的には約10kPa)の装置内で行われることもある。エピタキシャル成長に使用されるアンモニアと少なくとも1つのIII族元素を提供する化学種とが、エピタキシャル成長が起こる基板表面に対して実質的に平行な方向に供給され、これによって、基板表面に隣接し、かつ基板表面を横切って流れる境界層が形成される。このガス状の境界層内において、エピタキシーによって堆積されるべき窒素および他の元素を生成する分解が起こり、その結果、気相平衡によってエピタキシャル成長が促進される。
【0004】
他の公知の半導体成長技術は、分子線エピタキシー(MBE)である。MBEは、MOCVDとは対照的に、高真空環境中で実行される。(Al,Ga,In)N材料系に適用されるMBEの場合には、超高真空(UHV)環境、典型的には約1×10−3Paの環境が使用される。窒素前駆体は、供給導管によってMBE成長室に供給され、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムの少なくとも1つを供給する化学種が、場合によっては適切なドーパントと共に、加熱されたエフュージョンセル(effusion cell)内の適切なソースから供給される。エフュージョンセルには、エピタキシャル成長期間にMBE成長室へ供給される化学種の量を制御するための、制御可能なシャッターが取り付けられている。エフュージョンセルからの、シャッターで制御された出口および窒素供給導管は、エピタキシャル成長が起こる基板表面に対向している。エフュージョンセルから供給された窒素前駆体および化学種は、MBE成長室を端から端まで移動し、基板に到達する。基板では、エピタキシャル成長が、堆積速度によって促進される形で起こる。
【0005】
現在、高品質の窒化物半導体層の成長は、大部分がMOCVD処理を用いて行われている。しかしながら、最近では、MBEによって高品質の窒化物光電子デバイスを製造する方法も示されている。例えば、特許文献2には、MBEを用いて、(Al,Ga,In)N材料系による半導体発光デバイスを製造する方法が教示されている。
【0006】
多くの場合、光電子半導体デバイスや電子半導体デバイスの構造は、電流開口部を持つ層を含むことが望ましい。そのような層は、一般に、低い電気抵抗を持つ部分を除いて高い電気抵抗を持っている。上記層の高抵抗部分は、電流の流れを阻止する一方、低い電気抵抗を持つ部分は、電流を通し、それゆえ「電流開口部」を形成している。上記電流開口部は、デバイス内での電流の空間的制限(電流狭窄)を提供する。光電子デバイスの場合には、デバイスにおける電流開口部に対応する領域で光が生成されるように、デバイスを設計できる。
【0007】
図1は、垂直空洞半導体レーザデバイスのための公知の構造を示す概略図である。上記構造は、基板1、複数のミラー層からなる第1の積層構造(スタック)2、光生成のための活性領域3、および複数のミラー層からなる第2の積層構造4を有している。上記ミラー層は、例えば、適切な半導体または誘電体の層とすることができる。第1の積層構造2および第2の積層構造4は各々、活性領域3によって放射された光のためのブラッグミラーを形成する。複数のミラー層からなる第2の積層構造4を含むレーザ構造上部は、基板1と複数のミラー層からなる第1の積層構造2との幅および厚みよりも遥かに小さい幅および厚みを有している。その結果、上記構造は、「段(step)」を有している。電気コンタクト5が段の上面上に配置され、第2のコンタクト(図示しない)が基板1の下側に配置されている。
【0008】
図1のレーザデバイスにおいて、活性領域3は、複数の半導体層(ミラー層)からなる第2の積層構造4より広い。そのため、光の生成を、活性領域3のうちで、複数の半導体層からなる第2の積層構造4の直下にある部分に制限することが望ましい。なぜなら、活性領域3のうちで、複数の半導体層からなる第2の積層構造4の直下にない部分で生成される光は、レーザデバイスの光出力に寄与しないからである。そのために、上記レーザデバイスに電流阻止層(電流開口層)6が設けられている。電流阻止層6は、コンタクト(p型コンタクト)5と活性領域3との間に設けられ、高い電気抵抗を持つ部分7と低い電気抵抗を持つ部分(低抵抗部)8とを有している。低い電気抵抗を持つ部分8は、電流開口部を形成している。低抵抗部8は、複数の半導体層からなる第2の積層構造(上側積層構造)4の断面と実質的に同一のサイズおよび形状を持ち、複数の半導体層からなる第2の積層構造4と位置合わせされている。電流阻止層6を通る電流の流れは、低い電気抵抗を持つ部分8に制限され、その結果、活性領域3を通る電流の流れは、図1中に矢印で示すように、活性領域3における、電流開口層(電流阻止層)6の低抵抗部8と位置合わせされた部分に制限される。したがって、動作時の光の生成は、活性領域3のうち、複数の半導体層からなる第2の積層構造4の直下にある部分に実質的に制限される。
【0009】
窒化物半導体の垂直空洞デバイスにおいては、電気伝導半導体ブラッグミラーを成長させるのが困難であり、それゆえブラッグミラーによる電流注入が実用的でないので、電流開口部が特に有用である。しかしながら、当業者であれば誰でも理解できるように、電流開口部の使用は、垂直空洞デバイスに制限されるものではなく、エッジ放出レーザなどのような他の窒化物光電子デバイス、あるいはトランジスタのような電子デバイスにおいても有用である。
【0010】
他のIII−V族半導体材料系中に電流開口部を形成する方法としては、例えばガリウム砒素をベースにしたデバイス中においてAlAs層をウェット酸化することによる方法などが存在するが、III族窒化物材料系によるデバイス中に電流開口部を形成する既存の方法は、満足のいかないものである。
【0011】
非特許文献2には、AlGaN/GaN層の光電気化学(PEC)ウェットエッチングを用いて、電子トランジスタ中に空隙電流開口部を形成する方法が報告されている。
【0012】
非特許文献3には、III族窒化物デバイスにおいて、AlInNを陽極酸化することによって電流開口層の高抵抗領域を形成する方法が提案されている。
【0013】
特許文献3には、異なる波長を持つ複数のレーザによるp型半導体層の選択的アニールを用いて電流開口部を形成する方法が開示されている。この方法は、異なるバンドギャップを持つ複数のp型半導体層を必要とする。上記複数のp型半導体層は全て、初期状態で高抵抗である。電流開口部は、互いに異なるバンドギャップを持つ2つのp型半導体層を積層し、かつ、バンドギャップ選択的なレーザアニールを行うことにより、形成できる。
【0014】
非特許文献4には、フォトニックデバイスを作製するためのIII−V族半導体の水素化方法が報告されている。非特許文献4には、表面層中に電流狭窄領域を形成するために、プラズマソースからの水素拡散または水素注入を用いて、表面層中のドーパントを成長後に水素化する方法が論じられている。
【0015】
特許文献4には、一連の積層された複数のAlGaAs/GaAs層の各々に対して内部に低抵抗領域を形成する方法が開示されている。原子状水素を用いて、上記複数のAlGaAs/GaAs層中の浅いドナーを中和すると共に高抵抗層を形成し、次いで、熱アニール処理を用いてn導電型抵抗層の部分を形成する。
【0016】
非特許文献4および特許文献4には、水素を用いて、ドープされた半導体層中の自由キャリア濃度を変化させる技術が記載されている。この技術については、他の報告もある。
【0017】
例えば非特許文献5には、成長処理中に原子状水素を添加しながらマグネシウムによるp型ドープを行うGaNのMBE成長法が報告されている。上記材料はフォトルミネセンス実験を用いて研究され、添加された水素によって、成長された材料中のp型ドーパントが補償されることを示す証拠が見出された。
【0018】
非特許文献6には、成長後の水素プラズマ処理を用いることで、MBE成長されたp型GaN層の中のキャリア濃度を一桁低減できることが報告されている。
【0019】
非特許文献7には、MOCVD成長されMgがドープされたGaNの抵抗率を低下させるために低エネルギー電子線照射を使用する方法が報告されている。現在知られているように、MOCVDによって成長されMgがドープされたGaNは、MOCVDによる成長時に起こる意図しない水素の導入のために、高抵抗となる。
【0020】
特許文献5には、MOCVDによって成長された半導体層構造がn型GaNコンタクト層の上面の一部の直上に配置された窒化物半導体発光素子の製造方法が記載されている。第1の電極は、n型GaNコンタクト層の上面の他の部分の直上に配置されている。上記層構造は、n型AlGaNクラッド層、n型GaNガイド層、活性層、p型GaNガイド層、p型AlGaNクラッド層、およびp型GaNコンタクト層を含んでいる。第2の電極は、p型GaNコンタクト層の直上に配置されている。特許文献5の方法では、逆バイアス電圧を第1の電極と第2の電極との間に印加することで、上記層構造を貫くように電流を流す。その結果、上記複数のp型半導体層における、電流が流れた部分にあるMg(p型ドーパント)が活性化される。上記電圧の印加によって、さらに、上記複数のn型半導体層における、電流が流れた部分の結晶から、上記複数のn型半導体層中の水素が分離する。それゆえ、低抵抗領域が上記複数の層の内部(層構造を貫く電流の経路に対応する)に形成される一方、上記複数の層における、電流が流れない部分は、高抵抗を持ったままとなる。
【特許文献1】米国特許第5,777,350号(1998年7月7日公開)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0163179号(2005年7月28日公開)
【特許文献3】米国特許第6,258,614号(2001年7月10日公開)
【特許文献4】米国特許第4,610,731号(1986年9月9日公開)
【特許文献5】米国特許第6,242,761号(2001年6月5日公開)
【特許文献6】米国特許第6,043,140号(2000年3月28日公開)
【特許文献7】米国再発行特許第RE38,613号(2004年10月5日公開)
【非特許文献1】S. Nakamura et al., Jap. J. Appl. Phys., Vol. 35, pp.L74-L76 (1996) (1995年12月13日公開用論文受理)
【非特許文献2】Y. Gao et al., Electr. Lett., Vol. 39, pp.148-149 (2004)
【非特許文献3】J. Dorsaz et al., Appl. Phys. Lett., Vol. 87, 072102, (2005) (2005年8月8日公開)
【非特許文献4】B. Theys, Defect and Diffusion Forum, Vols. 157-159, pp.191-210, (1998)
【非特許文献5】M. A. L. Johnson et al., Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol. 449, pp.215-220 (1997)
【非特許文献6】M. S. Brandt et al., Appl. Phys. Lett., Vol. 64, pp.2264-2266 (1994) (1994年2月3日公開用論文受理)
【非特許文献7】H. Amano et al., Jap. J. Appl. Phys., Vol. 28, pp.L2112-L2114 (1989) (1989年11月8日公開用論文受理)
【非特許文献8】Y. Kamiura et al., Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 37, pp.L970-L971 (1998) (1998年7月15日公開用論文受理)
【非特許文献9】S. Figge et al., phys. stat. sol. (a) Vol. 200, No.1, pp.83-86 (2003) (2003年11月19日公開)
【非特許文献10】M. Takeya et al., Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 40, pp.6260-6262 (2001) (2001年8月22日公開用論文受理)
【非特許文献11】P. Kozodoy et al., Appl. Phys. Lett. Vol. 73, pp.975-977 (1998) (1998年6月12日公開用論文受理)
【非特許文献12】G. Hatakoshi et al., Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 38, pp.2764-2768 (1999) (1999年2月25日公開用論文受理)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
非特許文献2の方法は、原理的には半導体レーザダイオードなどのような光電子デバイスの製造に適用できる。しかしながら、これは、レーザダイオードの光学モードに近いエッチング材料を必要とする。これは、レーザダイオードの信頼性の低下および寿命の短縮を招くと考えられる。
【0022】
また、窒化物半導体層構造において窒化物に酸化層を使用することは失敗に終わることがこれまで報告されており、非特許文献3で提案された処理がどれ程うまくいくのかは現在のところ不明である。特に、酸化層を備えるデバイスの信頼性および寿命に悪影響を与える可能性がある。
【0023】
また、特許文献3の方法は、適切なバンドギャップを持つ複数のp型半導体層と、それらに対応する複数のレーザとを用いなければならない点で、窒化物光電子デバイスを設計する際の自由度を制限する。この方法には、バンドギャップ選択的でないアニール処理、例えば電子ビームアニールを使用できない。他の欠点は、全てのp型半導体層が初期状態で高抵抗であるので、例えば500nmの典型的な厚みを持つ(LDの)クラッド層の場合には、全てのp型半導体層をアニールしなければならないということである。クラッド層は、厚く、活性領域に近接しているため、全てのp型半導体層をアニールすることは、LDの活性領域の意図しない加熱および劣化を引き起こす可能性がある。
【0024】
また、電子デバイスや光電子デバイスの大多数においては、電流開口部は、デバイス表面ではなくデバイス内部に配置される。非特許文献4の方法は、そのようなデバイス内部に配置された電流開口部を提供できない。
【0025】
また、特許文献4の方法は、一連の複数の層の何れもがアニール処理中に加熱されるので、デバイス構造の内部に埋め込まれた電流開口部を提供できない。
【0026】
また、特許文献5の方法では、逆バイアス電圧の印加により、各p型半導体層における電流が流れる部分でp型ドーパントが活性化され、各n型半導体層における電流が流れる部分の結晶から水素が遊離するので、半導体層構造を構成する全ての半導体層に低抵抗領域が形成される。
【0027】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体層構造を構成する全ての半導体層に低抵抗領域を形成することなく、改善された抵抗率を持つ領域を含む層を有する半導体層構造を成長させることができる成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の第1の態様は、半導体層構造を成長させる方法であって、
(a)第1の半導体層を成長させる工程と、
(b)上記第1の半導体層中に水素を導入する工程と、
(c)上記第1の半導体層の上に少なくとも1つの他の半導体層を成長させ、それによって半導体層構造を形成する工程と、
(d)上記第1の半導体層の選択された部分をアニールし、それによって上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を変化させる工程とを含み、
上記アニール工程(d)が、上記少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に(significantly)変化させない半導体層構造の成長方法を提供する。
【0029】
第1の半導体層中に水素を導入することは、水素が導入されていない場合に第1の半導体層が有する抵抗とは第1の半導体層の抵抗が異なることを意味する。例えば、第1の半導体層が、ドープされたp型半導体層として成長される場合、水素の導入は、上記半導体層中のp型ドーパントを不動態化するという効果を奏する。第1の半導体層の抵抗は、水素が導入されていない場合に第1の半導体層が有する抵抗よりも有意に大きくなる。この場合、第1の半導体層の選択された部分をアニールすることは、第1の半導体層の選択された部分にあるp型ドーパントを活性化し、その結果として第1の半導体層の選択された部分の抵抗を低下させるという効果を奏する。第1の半導体層におけるアニールされない領域の抵抗は変化しないが、アニールされていない領域は高抵抗を維持する。したがって、改善された電気抵抗を持つ領域が、第1の半導体層内に形成される。
【0030】
アニール工程が少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させないようにすることで、上記半導体層構造中の(第1の半導体層の)上に積層された層のいずれの層の抵抗も変化させることなく、上記半導体層構造内に埋め込まれた1つの層内に改善された電気抵抗を持つ領域を形成することができる。改善された電気抵抗を持つ領域は第1の半導体層内に形成されるが、この第1の半導体層の上には少なくとも1つの他の層が工程(c)で成長されているので、この第1の半導体層は、上記デバイスの表面層ではない。
【0031】
第1の半導体層内への改善された電気抵抗を持つ領域の形成は、電流開口部を持つ電流阻止層を得るのに使用できる。
【0032】
上記少なくとも1つの他の半導体層中に水素を導入しないことで、上記アニール工程(d)が上記少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させないようにしてもよい。これは、大量の水素を含まない雰囲気中で上記複数の半導体層を成長させる場合、例えば、分子線エピタキシーによって上記複数の半導体層を成長させる場合である。さらに、特許文献6に記載されているように、大量の水素を含まない雰囲気中でMOCVD成長を行ってもよい。水素が少なくとも1つの他の半導体層に導入されないので、少なくとも1つの他の半導体層中のp型ドーパントは何れも不動態化されない。したがって、第1の半導体層の選択された部分がアニールされたときに、少なくとも1つの他の半導体層の抵抗を変化させない。
【0033】
それに代えて、上記第1の半導体層中に導入される水素の濃度よりも低い濃度の水素を、上記少なくとも1つの他の半導体層中に導入してもよい。上記方法は、(e)上記少なくとも1つの他の半導体層で所望の電気抵抗が得られるように上記半導体層構造をアニールする工程をさらに含み、該工程(e)が上記アニール工程(d)の前に行われることで、上記アニール工程(d)が少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させない方法であってもよい。
【0034】
これは、水素を含む雰囲気中で上記複数の半導体層を成長させる場合、例えば、有機金属気相成長によって上記複数の半導体層を成長させる場合である。MOCVDは、通常、高濃度の水素バックグラウンド中で行われ、MOCVDによって成長された如何なる半導体層も、p型ドーパントを不動態化するような有意の水素含有量を持つであろう。周知のように、ドーパントを活性化するためには、通常、MOCVDによって成長されドープされた半導体層をアニールすることが必要である。
【0035】
水素を含む雰囲気中で上記複数の半導体層を成長させる場合、本発明は、第1の半導体層に追加の水素を導入することにより達成される。これにより、第1の半導体層の水素濃度は、MOCVD成長処理中に水素バックグラウンドの結果として必然的に発生する水素濃度より大きくなる。追加の水素は、少なくとも1つの他の半導体層中に導入されないことが好ましい。これにより、上記少なくとも1つの他の半導体層の水素濃度は、MOCVD成長処理中に水素バックグラウンドの結果として必然的に発生する水素濃度と等しくなる。上記半導体層構造がアニールされると、少なくとも1つの他の半導体層中のドーパントが活性化され、その結果、少なくとも1つの他の半導体層が低抵抗を持つ。しかしながら、アニール工程の継続時間および温度は、第1の半導体層中のドーパントが完全には活性化されないように選択される。
【0036】
第1の半導体層の選択された部分をその後にアニールすることは、第1の半導体層の選択された部分に存在するp型ドーパントを完全に活性化し、それによって第1の半導体層の選択された部分の抵抗を低下させるという効果を奏する。しかしながら、第1の半導体層におけるアニールされない領域は、引き続き不動態化されたドーパントを含み、それゆえ、高抵抗を維持する。したがって、この場合にもまた、電流開口部が、第1の半導体層内に形成される。
【0037】
上記第1の半導体層中に水素を導入する工程(b)が、上記第1の半導体層の電気抵抗を上昇させるものであり、上記第1の半導体層の選択された部分をアニールするアニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を低下させるものであってもよい。
【0038】
上記工程(a)が、上記第1の半導体層中にp型ドーパントを導入する工程を含んでいてもよい。
【0039】
上記第1の半導体層中に水素を導入する工程(b)が、上記第1の半導体層の電気抵抗を低下させるものであり、上記第1の半導体層の選択された部分をアニールするアニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を上昇させるものであってもよい。
【0040】
上記工程(a)が、上記第1の半導体層中にp型ドーパントおよびn型ドーパントを導入する工程を含んでいてもよい。
【0041】
上記工程(b)が、上記工程(a)と同時に行われてもよい。それに代えて、上記工程(b)が、上記工程(a)の後に行われてもよい。
【0042】
上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分をレーザビームを用いてアニールする工程を含んでいてもよい。上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分を電子ビームを用いてアニールする工程を含んでいてもよい。上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分に電流を通す工程を含んでいてもよい。上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分の電流密度が5kA/cm以上となるように電流を通す工程を含んでいてもよい。
【0043】
上記第1の半導体層の選択された部分が、上記第1の半導体層のほぼ全領域であってもよい。電流開口部を形成するときには、1つの低抵抗率領域(電流開口部として機能する)と少なくとも1つの高抵抗率領域とが第1の半導体層内に形成されるように、第1の半導体層の一部だけが抵抗率の変化を受ける必要がある。しかしながら、他の適用においては、第1の半導体層の抵抗率をその全領域にわたって変化させることが望ましいかもしれない。全領域にわたって抵抗率を変化させることは、第1の半導体層の全領域をアニールすることによって実現できる。
【0044】
上記第1の半導体層および上記少なくとも1つの他の半導体層が、窒化物半導体層であってもよい。上述したように、既存の、窒化物材料系への電流開口部の形成方法は、満足のいくものではない。本発明は、改善された、窒化物半導体層への電流開口部の形成方法を提供する。
【0045】
上記第1の半導体層が、(Al,Ga,In)N層であってもよい。上記少なくとも1つの他の半導体層が、(Al,Ga,In)N層であってもよい。
【0046】
上記工程(b)が、原子状水素を供給する工程を含んでいてもよい。原子状水素(H)は、分子状水素(H)よりも、半導体層中のドーパントを不動態化する効果が大きい。
【0047】
上記工程(b)が、それに代えて、水素同位体を供給する工程を含んでいてもよい。半導体層中のドーパントを不動態化するのに、重水素などのような他の水素同位体が使用できることは、公知である。(本出願書類で使用する用語「水素同位体」は、Hを除外し、H(重水素)およびHなどのような水素の他の同位体を指すものとする。本出願書類で使用する用語「水素」は、断りのない限り、水素の全ての同位体を包含し、それゆえH、Hなどを包含するものとする。さらに、本出願書類で使用する用語「水素」は、断りのない限り、分子状水素(H)および原子状水素(H)の両方を含むものとする。)
上記工程(a)および上記工程(c)が、上記第1の半導体層および上記少なくとも1つの他の半導体層を分子線エピタキシーによって成長させる工程を含んでいてもよい。
【0048】
それに代えて、上記工程(a)および上記工程(c)が、上記第1の半導体層および上記少なくとも1つの他の半導体層を有機金属気相成長によって成長させる工程を含んでいてもよい。
【0049】
上記少なくとも1つの他の半導体層が、ドープされたp型半導体層であってもよい。
【0050】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る方法によって成長された半導体層構造を提供する。
【0051】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る半導体層構造を含む半導体レーザダイオードを提供する。
【0052】
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様に係る半導体層構造を含む半導体発光ダイオードを提供する。
【発明の効果】
【0053】
本発明に係る半導体層構造の成長方法は、以上のように、第1の半導体層の選択された部分をアニールする工程が、第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を変化させ、少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させない。それゆえ、半導体層構造を構成する全ての半導体層に低抵抗領域を形成することなく、改善された抵抗率を持つ領域を含む層を有する半導体層構造を成長させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の実施形態について、一例として図面を参照しながら以下に説明する。
【0055】
本発明について、窒化物材料系、特に(Al,Ga,In)N材料系中の半導体層構造の成長を例に挙げて説明する。しかしながら、本発明は、(Al,Ga,In)N材料系への使用にも、窒化物材料系への使用にも、制限されるものではない。
【0056】
図4は、本発明の成長処理の一実施形態を示す。図4は、水素バックグラウンドが低濃度または0の状態で、上記半導体層構造の成長が行われる実施形態を示す。図4の方法は、例えば、分子線エピタキシーを用いた成長処理に適用できる。MBEは、高真空条件下で、かつ、MBE成長室中に水素バックグラウンドが実質的に存在しない状態で行われる。
【0057】
図4の方法において、電流開口部の形成がなされるべき層は、工程2で基板上に成長される。この層を、「電流阻止」層と呼び、図2中では「11」という符号を付けている。電流阻止層11は、窒化物半導体層である。図2の実施形態では、電流阻止層11を、GaNまたはAlGaNの層として示している。しかしながら、本発明は、電流阻止層11がこれらの特定の組成であるものに限定されるものではない。
【0058】
注目すべきは、上記成長処理が、図4の工程2が行われる前に行われる複数の工程を含むことである。例えば、適切な基板が、処理され、洗浄され、MBE装置の成長室内へ導入される。電流阻止層11が成長される前に、少なくとも1つの窒化物半導体層を基板1の上に成長させることができる。図2は、半導体レーザダイオードの成長に適用した適用例を示す。図2の半導体層構造は、光生成のための活性領域3と、基板1と活性領域3との間で配置された少なくとも1つの層とを含んでいる。この少なくとも1つの層は、図2では「9」として包括的に示している。さらに、電流阻止層11を成長させる前に、少なくとも1つの窒化物半導体層を活性領域3の上に成長させることができる。この少なくとも1つの層は、図2では「10」として包括的に示している。
【0059】
上記基板を用意し洗浄する工程、少なくとも1つの下層9を成長させる工程、活性領域3を成長させる工程、および活性領域3と電流阻止層11との間に少なくとも1つの介在半導体層10を成長させる工程には、完全に従来の工程を用いることができるので、これ以上説明しない。少なくとも1つの下層9、活性領域3、および少なくとも1つの介在半導体層10の組成および厚みは、成長されるデバイス構造に依存する。
【0060】
図2の実施形態において、電流阻止層11は、p型のドープされた窒化物半導体層として成長される。窒化物半導体層のp型ドープは、通常、窒化物半導体層中に自由電荷キャリアの存在をもたらし、それによって低い電気抵抗を与える。しかしながら、本発明の方法においては、水素が電流阻止層11中に導入される。これは、p型ドーパントを不動態化する効果を奏する。その結果、電流阻止層11は、高い抵抗率を持つ。
【0061】
電流阻止層11を成長させる工程の間に成長室内に原子状水素を導入することによって、電流阻止層11のMBE成長中に上記水素を電流阻止層11中に導入することができる。p型ドーパントを不動態化する効果は、原子状水素(H)の方が分子状水素(H)よりも遥かに大きい。
【0062】
原子状水素は、成長室に水素ガスを供給し、水素ガスを原子状水素へと分解させることによって、MBE成長室内に生成できる。上記水素ガスから原子状水素への分解は、水素ガスの熱分解によって、あるいは、プラズマ、例えば無線周波数プラズマ、持続波プラズマ、マイクロ波プラズマ、ECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマソースなどを用いることによって、行うことができる。
【0063】
それに代えて、原子状水素は、MBE成長室にアンモニア(NH)を導入し、原子状水素が生成されるようにアンモニアを分解することによっても、生成できる。しばしば、アンモニアが、窒化物材料のMBE成長における窒素前駆体として使用される場合がある。本発明をそのような場合に適用する際には、アンモニアを水素の供給源としても使用すれば、特に簡便な方法とすることができる。アンモニアガスもまた、熱分解によって分解することができる。あるいは、成長室内の原子状水素の濃度を十分に確保するために、(成長表面で生じる熱分解に加えて)アンモニアの付加的な分解機構を用いてもよい。付加的な分解機構は、例えば、無線周波数プラズマ、持続波プラズマ、マイクロ波プラズマ、ECRプラズマソースなどのようなプラズマを用いたものとすることができる。
【0064】
もし、水素ガスが成長室に供給され、成長室内で分解されなければ、分子状水素が電流阻止層11中に導入される。原理的には分子状水素を電流阻止層11中に導入してもよいが、上述したように、分子状水素は、ドーパントを不動態化させる効果が遥かに小さい。
【0065】
さらに他の変形例として、水素同位体を電流阻止層11中に導入してもよい。非特許文献6には、水素(H)の代わりに重水素(H)を用いてGaN中のp型ドーパントを不動態化できることが報告されている。したがって、ドーパントを不動態化するために重水素の形態の水素を電流阻止層11中に導入してもよい。これを実現するために、重水素ガスを成長室に供給し、重水素ガスを分解させて原子状重水素を生成させることができる。原理的には、他の水素同位体を使用してもよい。
【0066】
さらに、本発明は、水素と水素同位体との混合物(例えばHとHとの混合物)を用いても、異なる原子量を持つ水素同位体の混合物を用いても実現できる。
【0067】
電流阻止層11の成長が完了すると、成長された材料中への水素の有意の導入を防止するために、成長室への成分の供給を変更する。例えば、MBE成長室への水素、アンモニア、重水素などの供給を中止することができる。ただし、窒化物材料のMBE成長のための水素および窒素の両方の供給源としてアンモニアを用いる場合、MBE成長のための窒素を供給するためにアンモニアの供給を続けなければならない。この場合、一旦MBE成長は継続するが、水素の有意の導入が起こらないように、電流阻止層11の成長が完成するとアンモニアの供給速度を低下させることができる。それに代えて、アンモニアの付加的な分解機構を用いる場合、この付加的な分解機構を、有意な水素の導入を防止するために停止してもよい(それでもまだ、成長表面では、アンモニアの熱分解が起こり窒素を供給する)。
【0068】
その後、少なくとも1つの他の窒化物半導体層を電流阻止層11の上に成長させることで、上記デバイス構造(半導体層構造)を完成する。上記少なくとも1つの他の窒化物半導体層は、図2中では「12」として包括的に示している。他の窒化物半導体層12は、ドープされたp型半導体層とすることができる(一般に、典型的なデバイス構造においては、活性領域3より下の半導体層がドープされたn型半導体層であり、活性領域3の上の半導体層がドープされたp型半導体層である)。
【0069】
原理的には、電流阻止層11中に水素を導入する工程は、電流阻止層11の成長中に行わなくてもよい。原理的には、電流阻止層11が成長されると、MBE成長処理を終了し、成長室から上記半導体層構造を取り出し、成長室の外部で、例えば水素拡散処理や水素注入処理などを用いて水素または水素同位体を電流阻止層11中に導入してもよい。その後、上記ウェーハ(半導体層構造)は、他の窒化物半導体層12の成長を可能とするために、成長室に戻される。
【0070】
電流阻止層11の上に成長された少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中にも、活性領域3と電流阻止層11の間に成長された少なくとも1つの介在半導体層10中にも、意図的には水素が導入されない。介在半導体層10は、ドープされたp型半導体層であれば、低い電気抵抗を持つ。少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の成長は、図4中では工程3として示している。
【0071】
次に、工程4で、上記半導体層構造に対して、電流阻止層11の選択された部分をアニールする選択的アニール処理が施される。選択的アニール処理は、電流阻止層11におけるアニールされた部分のp型ドーパントを活性化し、それによって電流阻止層11の選択された部分の抵抗を低下させるという効果を奏する。しかしながら、電流阻止層11におけるアニールされない複数の部分は、これらの部分にあるドーパントがアニール処理中に活性化されないため、高抵抗に維持される。上記アニール工程の結果を図3に示す。図3は、電流阻止層11の選択された部分11aのアニールを示している。電流阻止層の11aの選択された部分の抵抗が、アニール処理の結果として低下される一方、アニールされていない部分11b,11cの電流阻止層11は、高抵抗に維持される。したがって、電流阻止層11の抵抗が、選択的に変化される。
【0072】
上記アニール工程は、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の抵抗率に実質的に影響を与えない。成長処理中に水素が他の窒化物半導体層12中に導入されず、その結果、他の窒化物半導体層12中のドーパントが完全に活性化される。それゆえ、上記アニール処理は、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12におけるアニールされた少なくとも1つの部分の自由キャリア濃度に影響を与えない。同様に、少なくとも1つの下地の窒化物半導体層(介在半導体層)10は、上記アニール工程に影響されない。
【0073】
その後、上記半導体層構造に処理工程を施すことで、所望のデバイス構造を形成することができる。例えば、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12に対してその横方向の範囲が縮小されるように選択エッチングを行うことにより、図1に示すデバイス構造に類似したデバイス構造を作成することができる。電気コンタクトも、上記半導体層構造上に配置できる。これらの他の処理工程には、従来の処理工程を用いることができるので、これ以上説明しない。
【0074】
上記アニール工程は、レーザビームを用いて行うことができる。電流阻止層11の選択された部分11aの全体にわたってレーザビームを走査することによって、(電流阻止層11の他の部分11b,11cを加熱することなく)電流阻止層11の選択された部分11aを局所的に加熱することができる。これにより、電流阻止層11の選択された部分11aのドーパントを活性化することができる。それに代えて、アニール工程を、電子ビームを用いて行うこともできる。電子ビームも、レーザビームと同様に、(電流阻止層11の他の部分11b,11cを加熱することなく)電流阻止層11の選択された部分11aを局所的に加熱し、かつ電流阻止層11の選択された部分のドーパントを活性化するために、電流阻止層11の選択された部分11aの全体にわたって走査される。
【0075】
特許文献3で提案されている方法とは対照的に、本発明に係るアニール処理は、バンドギャップ特異的なアニール処理ではない。したがって、アニール処理に使用されるレーザの波長や、アニール処理に使用される電子ビームのエネルギーは、電流阻止層11のバンドギャップによって制約を受けることがない。
【0076】
さらに他の変形例として、アニール処理は、電流阻止層11の選択された部分11aに電流を導く一方、電流阻止層11の他の部分11b,11cに電流を通さないことによって行うことができる。これは、(電流阻止層11の他の部分11b,11cを加熱することなく)ジュール加熱の結果として電流阻止層11の選択された部分11aの局所的な加熱をもたらし、前記の場合と同様に、電流阻止層11の選択された部分のp型ドーパントの活性化をもたらす。電流阻止層11の選択された部分11aの中の局所的な加熱は、電流阻止層11の選択された部分11aを熱アニールの生じる温度まで加熱するのに足る程度のものである。
【0077】
MgがドープされたGaNの熱アニールが生じる温度は、典型的には550℃以上である(例えば、非特許文献8参照)。注意すべきは、電流阻止層11の選択された部分11aを流れる電流によって発生されるジュール加熱の結果として、電流阻止層11の選択された部分11aが加熱されるときに、熱伝導によって電流阻止層11の他の選択されていない部分へ熱が伝わることである。それゆえ、電流阻止層11の選択されていない部分で発生するアニールを防止するために、アニール工程において電流阻止層11の選択された部分11aを加熱する温度は、高くなり過ぎないようにすることが好ましい。電流阻止層11の選択された部分11aを、550℃から650℃までの範囲内の温度、例えば約600℃に加熱すれば、電流阻止層11の他の部分の有意なアニールを招くことなく、電流阻止層11の選択された部分11aの十分なアニールを確保できるはずである。
【0078】
電流阻止層11の選択された部分11aを550℃から650℃までの範囲内の温度に加熱するためには、電流阻止層11の選択された部分11aの電流密度が5kA/cmの桁であることが必要である。非特許文献9には、5kA/cmの電流密度を用いて約600℃のデバイス温度を得られることが示されている。そのような電流密度を得るためには、順方向にバイアスがかけられるように、上記デバイス構造に電圧を印加する必要がある(すなわち、p型電極の電位が、n型電極の電位よりも正の電位でなければならない)。そのような電流密度を逆バイアス電圧の印加によって得ることは不可能である。また、逆バイアス電圧の印加によってそのような電流密度を得ようと試みることは、デバイスの破壊を招く。電流阻止層11の選択された部分11aを550℃から650℃までの範囲内の温度に加熱して電流阻止層11の選択された部分11aの熱アニールを実現するためには、典型的には、約5分から約60分までの範囲内の時間にわたって電流を供給しなければならない。必要とされる持続時間の厳密な値は、電流阻止層11の選択された部分11aの電流密度に依存し、電流密度が高いほど必要とされる持続時間は短くなる。
【0079】
電流阻止層11の選択された部分11aをアニールすることは、電流阻止層11の選択された部分11aの電気抵抗を低下させるという効果を奏する。p型ドープされたGaNの熱アニールが、Mg−H複合体の熱分解と結晶からの水素の除去とをもたらすことは周知である(例えば、非特許文献10参照)。Mg−H複合体は、水素存在下での結晶成長時に形成される。また、Mgドーパントを活性化し、低い抵抗率を達成するためには、Mg−H複合体を解離させることが必要である。これは、レーザビーム、電子ビーム、またはジュール加熱の何れによってアニールが発生される場合にも起こる。
【0080】
電流阻止層11の選択された部分11aをアニールすることは、電流阻止層11の選択された部分11aの抵抗率を、2以上の低下倍率で低下させる(すなわち、アニール前の値の50%以下に低下させる)という効果を奏する(例えば非特許文献7参照)。さらに、電流阻止層11の選択された部分11aの抵抗率の低下は、典型的には、これよりも遥かに大きく、電流阻止層11の選択された部分11aの抵抗率は、典型的には、一桁低下する。非特許文献7には、水素を除去すると、p型ドープされたGaNの抵抗率が10Ω・cm超から35Ω・cmまで低下することが示されている。
【0081】
注目すべきは、特許文献5の方法が、半導体層構造に逆バイアス電圧を印加する工程を含むことである。周知のように、逆バイアス電圧を印加することによって得ることが可能な電流密度は、非常に低い。得られる最大電流密度は、1A/cm未満、おそらく何桁も小さい値になる(非特許文献11参照)。得られるジュール熱は、非特許文献12の方法に従って計算することができ、非常に小さいことが分かる。そのジュール熱によってもたらされる、電流路に沿った温度の上昇は、0.01℃未満である。特許文献5の方法を用いて、熱アニールを実現するのに十分なジュール加熱を達成することはできない。
【0082】
本発明によれば、以上のようにして、半導体層の最上層でない層に電流開口部を設けることが可能となる。図2および図3の実施形態では、電流阻止層11における照射される選択された部分11aは、低い電気抵抗を有しており、それゆえ、電流阻止層11の上に位置する電極からの電流を活性領域3へ通すことができる電流開口部を形成する。少なくとも1つの他の窒化物半導体層12が電流阻止層11の上に配置されているので、電流阻止層11は、上記半導体層構造の表面に位置しない。それゆえ、本発明によれば、半導体層構造内の所望の位置に電流開口部を形成することが可能となる。
【0083】
なお、上記半導体層構造に電流を通して電流阻止層11の選択された部分11aのジュール加熱を起こすことによって、アニール工程が行われる実施形態においては、アニール工程に必要な電気コンタクトが、最終のデバイス中における所望の電気コンタクトと同じものでなくてもよい。例えば、図1に示す中央の電流開口部を形成するためには、ジュール加熱によってアニールする工程に、コンタクトとして図1に示すデバイスの上側コンタクト5を使用できない可能性がある。なぜなら、ジュール加熱によってアニールする工程にコンタクト5を使用すれば、環状の電流開口部が得られるからである。
【0084】
図1に示すデバイス構造を作製するためには、上記複数の層の成長後に、まず、電流阻止層11中の所望の電流開口部を規定する第1のコンタクト群を堆積することが必要である。第1のコンタクト群は、例えば、電流阻止層11に形成される所望の電流開口部11に概ね対応する、位置、サイズ、および形状を持つ、デバイス構造の上面上の1つのコンタクトと、電流阻止層11に形成される所望の電流開口部11に概ね対応する、基板1の下面上の1つのコンタクトとを含むものとすることができる。これにより、第1のコンタクト群は、電流阻止層11を通る明確に規定された電流路を与える。アニール工程では、順バイアス電圧をこれら第1のコンタクト群に印加することで、電流阻止層11の所望の領域11a内に電流の流れとジュール加熱とを発生させる。アニール工程を完了した後、第1のコンタクト群を取り除き、最終のデバイスのための適切なコンタクト、例えば、図1に示すコンタクト5に類似した環状のコンタクト、および(デバイス抵抗を最小限にするために)基板1下面の全領域を覆うコンタクトを堆積する。それに代えて、デバイスの上面だけでなくデバイスの下面を通しても光を取り出すことを所望する場合、環状のコンタクトを基板1の下面上に配置してもよい。
【0085】
それに代えて、基板1の下面上のコンタクトを、アニール工程と完成デバイスとの両方に使用することも可能である。そのような場合、アニール工程の後に上側コンタクトを取り除き、完成デバイスに適した、代わりの上側コンタクトを堆積させることが必要なだけである。したがって、デバイス構造の製造方法は、上記半導体層構造に電流を通すことによりアニール工程が行われる実施形態に係る図1に示すデバイス構造と類似の製造方法であって、次の複数の工程、すなわち、
(1)上記半導体層構造を成長させる工程と、
(2)上面の中心にコンタクトを堆積させ、基板1の下面にコンタクトを堆積させる工程と、
(3)順バイアス電圧を印加することで電流阻止層11の所望の部分をアニールし、それによって電流開口部を形成する工程と、
(4)上記上面からコンタクトを取り除く工程と、
(5)少なくとも1つの上層(少なくとも1つの他の窒化物半導体層)12をエッチングすることで、上側ブラッグ・スタックを形成する工程と、
(6)エッチング工程で露出された上面に環状のコンタクト5を堆積させる工程とを必須とする。
【0086】
原理的には、それに代えて、工程(2)の前に工程(5)を実行することができる。
【0087】
所望であれば、工程(4)は、基板1の下面からコンタクトを取り除く工程をさらに含んでいてもよく、また、工程(6)は、基板1の下面に新しいコンタクトを配置する工程をさらに含んでいてもよい。
【0088】
アニール工程の間に少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の抵抗が有意に変化することを防止するためには、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中に、水素がほとんど導入されないか、あるいは全く導入されないように、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12を成長させなければならない。このような他の窒化物半導体層12の成長は、ここで述べるように、MBEによって他の窒化物半導体層12を成長させることによって実現できる。それに代えて、キャリアガスとしてHを使用せず、水素を放出しない窒素源を使用するMOCVD処理(特に、窒素源としてアンモニアを使用しないことを必須とするMOCVD処理)を用いて少なくとも1つの他の窒化物半導体層12を成長させることによっても、上記のような他の窒化物半導体層12の成長を実現できる。適切な無水素MOCVD処理は、特許文献7に記載されている。
【0089】
アニール工程の間に少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の抵抗が有意に変化するのを防止することは、顕著な利点をもたらす。このことは、デバイスの最上部の半導体層が低い抵抗率を有し、かつ、埋め込まれた電流開口部、すなわち、それ以外は高抵抗率でありデバイス構造内に「埋め込まれている」層内低抵抗開口部を含むデバイスの製造を可能にする。最上層の全領域を低抵抗率とすることができるので、この最上層は、デバイスの全体的な抵抗への寄与が非常に小さい。
【0090】
対照的に、特許文献5の方法では、半導体層構造を構成する全ての半導体層に低抵抗領域が形成される。p型半導体層では、Mg(p型ドーパント)が、各p型半導体層における電流が流れる部分で活性化される。その結果、全てのp型半導体層に、低抵抗領域が形成される。その上、逆バイアス電圧の印加は、さらに、各n型半導体層における電流が流れる部分の結晶から、各n型半導体層中の水素を遊離させる。その結果、全てのn型半導体層に低抵抗領域が形成される。実際には、(MOCVDまたはMBEの何れによって成長させるかに係わらず)意図的にドープされていない窒化物半導体材料が常にそうであるように、活性領域は、ドープされたn型半導体である。そのため、逆バイアス電圧の印加は、活性層中への低抵抗領域の形成も招く。
【0091】
さらに、特許文献5のデバイスのような、全ての層が高抵抗であり、低抵抗電流開口部を持つデバイスにおいては、デバイスの全体的な抵抗が比較的高くなる。各層における電流開口部の領域が小さいほど、デバイスの全体的な抵抗が高くなる。
【0092】
本発明のさらなる利点は、完成デバイス上の上側コンタクトを電流開口部の上に配置する必要がなく、(図1に示すように)側部に配置できることである。このようなことが可能なのは、埋め込まれた電流開口部が、上記半導体層構造を通る所望の電流路に電流を制限するからである。この特徴は、光が、電流開口部の真下で生成され、デバイスの上面を通して取り出される必要のあるデバイス、例えば垂直空洞放射レーザおよびLEDなどにおいては、特に利点となる。図1に示すように、側部にコンタクトを配置することによって、コンタクトは、電流開口部の真下で生成され、デバイスの上面を通して放射される光を吸収しない。
【0093】
本発明の方法は、電流開口部を形成するために、光電気化学エッチング(PEC)や酸化処理に頼らなくてよい。PECエッチングまたは酸化処理の使用は、上記半導体層構造の材料を変化させるか、あるいはエッチングする可能性があり、それゆえ、完成デバイスの信頼性および寿命に悪影響を与える可能性がある。本発明は、光電気化学エッチングまたは酸化処理を使用しないので、この欠点を抱えていない。
【0094】
電流阻止層11中に十分な原子状水素を導入し、それによってp型ドーパントを不動態化することで、電流阻止層11に高い電気抵抗を持たせることができる。したがって、電流阻止層11は、比較的薄い厚み、例えば10nmと200nmの間の厚みにすることができる。さらに、電流阻止層11は、半導体層構造中の任意の適切な位置に配置でき、特に、デバイスの活性領域3から離しておくことができる。電流阻止層11を薄くすることは、アニール処理時間を短くしておくことができ、それによってアニール工程中の半導体層構造の加熱を軽減できることを意味している。電流阻止層11を薄くしておくことができるという特徴、および電流阻止層11を活性領域3から離して配置することができるという特徴は、アニール工程中における活性領域3の意図的でない加熱を最小限に抑えることができることを意味している。これによって、アニール工程中に活性領域3が劣化する危険性が低減される。
【0095】
電流阻止層11における、アニール工程中に加熱される領域11aを適切に選択することによって、電流阻止層11中の電流開口部に、任意の所望のサイズおよび形状を付与することができる。例えば、レーザビームの照射によってアニールが行われる場合、レーザビームによって走査される電流阻止層11の領域を選択することで、任意の所望のサイズおよび形状を電流開口部に付与することができる。例えば、電流開口部は、断面が円形でも長方形でもよい。
【0096】
図2および図3の実施形態において、電流阻止層11は、p型半導体層として成長される。しかしながら、電流阻止層11は、これに制限されるものではなく、これに代えて、p型ドーパントおよびn型ドーパントの両方を含む補償層として成長させてもよい。p型ドーパントのドーピング濃度およびn型ドーパントのドーピング濃度が適切に選択される場合、電流阻止層11が、p型ドーパントがn型ドーパントを実質的に相殺する点で「補償され」、その結果、電流阻止層11が自由電荷キャリアを含まない。その後は、電流阻止層11が、高い電気抵抗を持つ。
【0097】
電流阻止層11の成長中または成長後に電流阻止層11中へ水素を導入することは、前記と同様に、p型ドーパントを不動態化する効果を奏する。結果として、p型ドーパントはもはやn型ドーパントを補償することがなく、電流阻止層11は、全体がn型になり、その結果、成長後でアニール工程の前に、低い電気抵抗を持つ。
【0098】
アニール工程が行われる場合、アニール処理は、前記と同様に、電流阻止層11の照射された部分のp型ドーパントを活性化する効果を奏する。これは、p型ドーパントがn型ドーパントを補償することを可能にする。したがって、アニール処理は、電流阻止層11のアニールされた部分の抵抗を上昇させる効果を奏する。アニールされない部分の抵抗は、前記と同様に、アニール工程によって変化されず、低く維持される。したがって、この実施形態では、選択的アニール工程によって、電流阻止層11に高抵抗領域が形成され、電流阻止層11のアニールされない領域が、低抵抗を維持して電流開口部を形成するという効果が得られる。この実施形態では、図3に示す電流阻止層11の領域11bおよび11cがアニールされ、領域11aが、アニールされず、それゆえ低抵抗を維持して電流開口部を形成する。
【0099】
図5は、本発明の他の実施形態を示すフローチャートである。図5の方法は、高濃度の水素バックグラウンドの存在下で半導体層構造が成長される場合に適用可能である。図5の方法は、例えばMOCVD成長の場合に適用可能である。周知のように、MOCVD成長は、通常、高濃度の水素バックグラウンドの存在下で行われ、その結果、MOCVDによって成長された半導体層には必然的に水素が導入される。したがって、p型のドープされた窒化物半導体層がMOCVDによって成長される場合、導入された水素が窒化物半導体層中のp型ドーパントを不動態化するので、窒化物半導体層は、内在的に高い電気抵抗を有する。さらに、公知のように、MOCVDによって成長されたp型半導体層は、ドーパントを活性化するためにアニールすることを必要とする。
【0100】
したがって、図5の方法では、半導体層構造中の電流阻止層11を形成するための窒化物半導体層が、工程2で、基板1の上に成長される。この実施形態では電流阻止層11がp型半導体として成長されるものとして説明するが、電流阻止層11は、それに代えて、補償されたp型ドープおよびn型ドープされた半導体層であってもよい。
【0101】
電流阻止層11は、通常、MOCVD成長室中の水素バックグラウンドの結果として、水素を包含する。しかしながら、工程2では、追加の水素が、電流阻止層11中に導入される。それゆえ、電流阻止層11の水素含有量は、反応室(成長室)中に必然的に存在するバックグラウンドから発生する水素含有量よりも多い。
【0102】
図4の方法と同様に、反応室内に原子状水素または水素同位体を供給することによって、電流阻止層11の成長中に追加の水素を電流阻止層11中へ導入することができる。これは、図4の工程2に関して上述した複数の方法のいずれでも実現できる。それに代えて、反応室から電流阻止層11を取り除き、追加の水素を、例えば水素注入処理または水素拡散処理により導入することによって、成長後に追加の水素を電流阻止層11中へ導入してもよい。
【0103】
図4の方法の場合のように、図5の工程2で電流阻止層11が成長される前に、複数の工程、例えば、適切な基板を用意し洗浄する工程、および基板の上に少なくとも1つの半導体層を成長させる工程を行うことができる。これらの工程を、図5中では「1」として包括的に示している。これらの工程は、従来の工程であるので、これ以上説明しない。
【0104】
図5の工程3では、少なくとも1つの他の窒化物半導体層が電流阻止層11の上に成長される。この少なくとも1つの他の窒化物半導体層は、図2の半導体層構造中に「12」として示された少なくとも1つの層に相当する。工程3で成長された少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の厚みおよび組成は、成長されるデバイス構造に依存する。少なくとも1つの他の窒化物半導体層12は、ドープされたものとすることができ、多くのデバイスでは、ドープされたp型半導体である。
【0105】
工程12で成長された少なくとも1つの他の窒化物半導体層12は、成長室中に存在する通常の水素バックグラウンドの結果として、水素を含む。したがって、電流阻止層11および他の窒化物半導体層12は全て水素を含むが、電流阻止層11は、他の窒化物半導体層12より多い水素含有量を持つ。
【0106】
少なくとも1つの他の窒化物半導体層12が水素を含むので、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中の全てのp型ドーパントが不動態化される。したがって、図5の方法は、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中のp型ドーパントを活性化するために半導体層構造をアニールする工程を含んでいる。この工程は、従来のアニール工程であり、選択的アニール工程ではない。例として、アニール工程4は、成長室内の成長温度を上昇させることにより、in-situ(成長室内)アニール工程として、成長室内で行うことができる。それに代えて、半導体層構造を成長室から取り除いた後、アニール工程を行ってもよい。アニール工程4は、任意の適切な技術を用いて行うことができる。
【0107】
アニール工程である工程4は、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中のp型ドーパントを活性化する効果を奏する。しかしながら、電流阻止層11のより多い水素含有量の結果として、電流阻止層11中のp型ドーパントが完全には活性化されないように、アニール工程の条件が選択される。したがって、図5の工程4により、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12が低い抵抗率を有し、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中のp型ドーパントが、アニール工程4中に、完全に活性化されるか、あるいはほとんど完全に活性化されるという効果が得られる。しかしながら、電流阻止層11は、依然として高抵抗を持つ。なぜなら、電流阻止層11がより多い水含有量を有することは、電流阻止層11中のp型ドーパントがアニール工程中に完全には活性化されないことを意味するからである。それゆえ、図5の方法によって、高濃度の水素バックグラウンドを有する従来のMOCVD成長処理を用いて本発明を実施することが可能となる。(特許文献6の成長処理などのような、高濃度の水素バックグラウンドを有していないMOCVD成長処理の場合には、図4の方法を用いて本発明を実施することができる。)
図5の方法は、工程5として、選択的アニール工程をさらに含んでいる。図5の選択的アニール工程5は、図4の選択的アニール工程4に対応する工程であり、電流阻止層11の選択された部分11aをアニールする一方、電流阻止層11の他の部分11b,11cをアニールしない工程を含んでいる。選択的アニール工程5の結果として、電流阻止層11の選択された領域(部分)11aのp型ドーパントが、完全に活性化され、それによって、電流阻止層11の選択された領域(部分)11aが低い抵抗を持つ。しかしながら、電流阻止層11のアニールされない部分11b,11cのp型ドーパントは完全には活性化されないので、電流阻止層11のこれら部分11b,11cの抵抗は、高く維持される。したがって、図5の方法によって、前記と同様に、半導体層構造内に埋め込まれ、かつ、アニールされた部分11aに対応する電流開口部を含む電流阻止層11が得られる。
【0108】
少なくとも1つの他の窒化物半導体層12中のp型ドーパントが、完全に活性化されるか、あるいはほぼ完全に活性化されるので、第1のアニール工程(図5の工程4)では、選択的アニール工程は、少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の抵抗に、(影響を与えるとしても)僅かな影響しか与えない。少なくとも1つの他の窒化物半導体層12の抵抗は、低く維持される。
【0109】
上記の説明では、電流阻止層11がドープされたp型半導体層である実施形態を例に挙げて、図5の方法を説明した。上記の方法も、補償ドープ層であり、p型ドーパントおよびn型ドーパントの両方を含む電流阻止層11を用いた場合に適用できる。上述したように、補償ドープ層中へ水素を導入する結果として、p型ドーパントが水素によって不動態化され、それゆえにn型ドーパントを補償することがないので、抵抗率が低くなる。図5の選択的アニール工程の後、結果として、前記と同様に、(p型ドーパントが活性化され、それゆえn型ドーパントを補償できるので)電流阻止層11のアニールされた領域が高い抵抗を持つ一方、(p型ドーパントが不動態化され、n型ドーパントを補償しないので)アニールされない電流阻止層11の領域は低い抵抗を持つ。
【0110】
本発明は、任意の窒化物半導体系に適用して、デバイス構造内に改善された抵抗率を持つ領域を含む層を必要とするデバイス構造を提供することができる。本発明は、例えば、エッジ放出レーザダイオード、垂直空洞レーザダイオード、発光ダイオード、共振空洞光ダイオード、種々の電子デバイスなどの成長に適用できる。
【0111】
電流阻止層11、少なくとも1つの介在窒化物半導体層10、および/または、少なくとも1つの他の窒化物窒化物層12中へ導入する適切なp型ドーパントの一例は、マグネシウムである。電流阻止層11が、補償されたp型ドープおよびn型ドープされた半導体層として成長させられる実施形態において、適切なp型ドーパントの一例はマグネシウムであり、適切なn型ドーパントはシリコンである。
【0112】
上記の説明では、窒化物半導体系、特に(Al,Ga,In)N系を例に挙げて、本発明を説明した。しかしながら、本発明は、窒化物半導体系を用いたものに制限されるものではなく、他の材料系にも適用できる。本発明は、原理的には、ドーパントがアニールにより活性化でき、かつ、水素の導入によって不動態化できる材料系であれば任意の材料系に適用できる。
【0113】
上記の説明では、電流阻止層11の一部だけをその抵抗率を変化させるためにアニールし、電流阻止層11の少なくとも1つの他の部分をアニールしない方法を例に挙げて、本発明を説明した。しかしながら、原理的には、電流阻止層11の全領域、または、ほぼ全領域をアニールしてもよい。これによって、電流阻止層11の上に積層された窒化物半導体層12の抵抗率に影響を与えることなく、電流阻止層11の全領域(または、ほぼ全領域)にわたって電流阻止層11の抵抗率を変化させることができる。
【0114】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、例えば、エッジ放出レーザダイオード、垂直空洞レーザダイオード、発光ダイオード、共振空洞光ダイオード、種々の電子デバイスなどの成長に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】電流開口部を含む垂直空洞半導体レーザデバイスの概略断面図である。
【図2】本発明の方法によって半導体層構造を製造する際における一工程の様子を示す概略断面図である。
【図3】本発明の方法によって半導体層構造を製造する際における一工程の様子を示す概略断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る方法を示す概略のフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る方法を示す概略のフローチャートである。
【符号の説明】
【0117】
11 電流阻止層(第1の半導体層)
11a 選択された部分
11b 他の部分
11c 他の部分
12 他の窒化物半導体層(他の半導体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層構造を成長させる方法であって、
(a)第1の半導体層を成長させる工程と、
(b)上記第1の半導体層中に水素を導入する工程と、
(c)上記第1の半導体層の上に少なくとも1つの他の半導体層を成長させ、それによって半導体層構造を形成する工程と、
(d)上記第1の半導体層の選択された部分をアニールし、それによって上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を変化させるアニール工程とを含み、
上記のアニール工程(d)が、上記少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させない半導体層構造の成長方法。
【請求項2】
上記少なくとも1つの他の半導体層中に水素を導入しないことで、上記アニール工程(d)が上記少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させない請求項1記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項3】
上記第1の半導体層中に導入される水素の濃度よりも低い濃度の水素を、上記少なくとも1つの他の半導体層中に導入する請求項1記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項4】
(e)上記少なくとも1つの他の半導体層で所望の電気抵抗が得られるように上記半導体層構造をアニールする工程をさらに含み、該工程(e)が上記アニール工程(d)の前に行われることで、上記アニール工程(d)が少なくとも1つの他の半導体層の電気抵抗を有意に変化させない請求項3記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項5】
上記第1の半導体層中に水素を導入する工程(b)が、上記第1の半導体層の電気抵抗を上昇させるものであり、上記第1の半導体層の選択された部分をアニールするアニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を低下させるものである請求項1ないし4の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項6】
上記工程(a)が、上記第1の半導体層中にp型ドーパントを導入する工程を含む請求項5記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項7】
上記第1の半導体層中に水素を導入する工程(b)が、上記第1の半導体層の電気抵抗を低下させるものであり、上記第1の半導体層の選択された部分をアニールするアニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分の電気抵抗を上昇させるものである請求項1ないし4の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項8】
上記工程(a)が、上記第1の半導体層中にp型ドーパントおよびn型ドーパントを導入する工程を含む請求項7記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項9】
上記工程(b)が、上記工程(a)と同時に行われる請求項1ないし8の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項10】
上記工程(b)が、上記工程(a)の後に行われる請求項1ないし8の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項11】
上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分をレーザビームを用いてアニールする工程を含む請求項1ないし10の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項12】
上記アニール工程(d)が、上記第1の半導体層の選択された部分を電子ビームを用いてアニールする工程を含む請求項1ないし11の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項13】
上記アニール工程(d)が、上記半導体層構造に順バイアス電圧を印加することで、上記第1の半導体層の選択された部分に電流を通す工程を含む請求項1ないし11の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項14】
上記第1の半導体層の選択された部分の電流密度が5kA/cm以上となるように電流を通す工程を含む請求項13記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項15】
上記第1の半導体層の選択された部分が、上記第1の半導体層のほぼ全領域である請求項1ないし14の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項16】
上記第1の半導体層が、窒化物半導体層である請求項1ないし15の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項17】
上記少なくとも1つの他の半導体層が、窒化物半導体層である請求項16に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項18】
上記第1の半導体層が、(Al,Ga,In)N層である請求項16または17に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項19】
上記少なくとも1つの他の半導体層が、(Al,Ga,In)N層である請求項17記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項20】
上記工程(b)が、原子状水素を供給する工程を含む請求項1ないし19の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項21】
上記工程(b)が、水素同位体を供給する工程を含む請求項1ないし19の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項22】
請求項1、請求項2、もしくは、請求項2に直接的または間接的に従属する場合の請求項5ないし21の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法であって、
上記工程(a)および工程(c)が、上記第1の半導体層および上記少なくとも1つの他の半導体層を分子線エピタキシーによって成長させる工程を含む半導体層構造の成長方法。
【請求項23】
請求項1、請求項3、請求項4、もしくは、請求項3または4に直接的または間接的に従属する場合の請求項5ないし21の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法であって、
上記工程(a)および工程(c)が、上記第1の半導体層および上記少なくとも1つの他の半導体層を有機金属気相成長によって成長させる工程を含む半導体層構造の成長方法。
【請求項24】
上記少なくとも1つの他の半導体層が、ドープされたp型半導体層である請求項1ないし23の何れか1項に記載の半導体層構造の成長方法。
【請求項25】
請求項1ないし24の何れか1項に記載の成長方法によって成長された半導体層構造。
【請求項26】
請求項25に記載の半導体層構造を含む半導体レーザダイオード。
【請求項27】
請求項25に記載の半導体層構造を含む半導体発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−142410(P2007−142410A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307124(P2006−307124)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】