説明

気相成長装置

【課題】チャンバー内に原料供給管が設置される気相成長装置において、p型不純物のメモリー効果を抑えるとともに、不純物ドーピングを確実に行える気相成長装置を得る。
【解決手段】本発明の気相成長装置は、チャンバー本体3と、チャンバー蓋5と、チャンバー本体3内に設置されて薄膜が成長する基板9が載置されるサセプタ11と、サセプタ11に対向配置される対向面部材13とを備え、サセプタ11に基板9を載置した状態で基板9を加熱し、対向面部材13とサセプタ11とで形成される反応室に気相原料を導入する複数の原料導入流路37、39、41とを備えた気相成長装置であって、複数の原料導入流路の少なくとも一つの流路39をドーピング原料が供給されるドーピング原料導入流路とし、該ドーピング原料導入流路の流路壁に隣接させて熱媒体を通流させる熱媒体ジャケット43を設けると共に熱媒体の温度を制御する温度制御装置を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を加熱しながら気相原料を供給して基板上に薄膜を成長させる気相成長装置、特にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MOCVD装置における気相原料としては、III族元素(Ga、Al、In)の原料ガスであるMOガス、V族元素(N)の原料ガスであるNHガスがあげられる。
窒化ガリウム(GaN)薄膜を成長する際、特に発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)形成する場合にあっては、通常SiやMg等の不純物をドーピングすることによりGaN薄膜に導電性を持たせることが知られている。
【0003】
一般に不純物はn型不純物とp型不純物とに分類されるが、n型不純物の原料としてはSiH4(シラン)やSi2H6(ジシラン)が用いられ、p型不純物の原料としてはCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)やDEZn(ジエチルジンク)が用いられている。これらの不純物原料は、NH3や他のMOガスと一緒に水素または窒素をキャリアガスとして反応室に導入される。
【0004】
分解温度の異なる気相原料を、原料導入管(原料ガスノズル)を介して反応室内に導入する場合、これらの気相原料を反応室内に供給される以前に混合すると、これらの混合されたガス同士が反応室内に導入される前に相互に反応してしまうことで、良好な薄膜形成ができない。
【0005】
そこで、分解温度の異なる気相原料が反応室内に導入する以前に混合されないように、複数の原料導入管を設けて、分解温度がそれぞれ異なる原料ガスをそれぞれ別々に反応室内に導入して、かつ、不純物ドーピングが確実に行えるように、導入管の各々に加熱ヒーター等の温度制御手段を設け、各々の原料導入管内の気相原料の温度が別個に制御できるような技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
MOCVD装置においては、成膜時に反応室内に導入された原料ガスやキャリアガス等が、ヒーターによって加熱された基板およびサセプタによって間接的に昇温され、熱化学反応が促進することによって基板上に薄膜が形成される。
そして、薄膜形成の効率化を図りつつ均質な薄膜形成を実現するものとして、基板が載置されるサセプタを回転させるとともに、該サセプタの回転に伴って基板を載置する基板載置部材(基板トレイ)を回転させることにより成膜中の基板を自公転させる機構を備えた気相成長装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
図6は特許文献2に開示された気相成長装置70の断面図である。特許文献1に開示された気相成長装置70は、上部中央にガス導入管71を配設した偏平円筒状のチャンバー72内に、円盤状のカーボンからなるサセプタ73と、該サセプタ73の外周部分の同心円上に等間隔で配置された複数の基板ホルダー74と、サセプタ73の上方に対向配置されてチャンバー72内を上下に区画し、サセプタ73側に反応室75を形成する仕切板76とを備えている。
【0008】
チャンバー72は、反サセプタ側の上方が開口したチャンバー本体77と、該チャンバー本体77の周壁上部にOリングを介して気密に装着されるチャンバー蓋78とに分割形成されている。チャンバー本体77の底部中央部には、サセプタ73を回転させるための回転駆動軸79が設けられ、該回転駆動軸79でサセプタ73を回転させることにより、基板80を保持した基板ホルダー74がサセプタ73の中心に対して公転するとともに、サセプタ73の外周に設けられた自転歯車機構によって自転する仕組みになっている。
【0009】
また、基板ホルダー74の下方には、基板80を加熱するためのヒーター81がリング状に配設され、サセプタ73の外周側にはリング状の排気通路82が設けられている。
仕切板76は、周方向及び径方向に複数に分割形成されており、外周側に配置される大径リング状の外周側仕切板76aと、その内周側で周方向に分割された複数の扇形の分割体を組み合わせた小径リング状の内周側仕切板76bとで形成されている。外周側仕切板76aは、その外周縁がチャンバー本体77の周壁内周に載置された状態で所定位置に固定される。
【0010】
チャンバー蓋78は、外周部に設けた複数のブラケット86aを介して昇降手段86に取り付けられ、ガス導入管71の上部に設けた上部フランジ71aとの間に円筒状のベローズ87を気密に取り付けており、昇降手段86を上昇方向に作動させてベローズ87を縮ませながらチャンバー蓋78を上昇させることにより、チャンバー本体77の開口を開放できるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6-069132号公報
【特許文献2】特開2008-262967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ドーピングに用いるp型不純物原料(以下、「ドーピング原料」という場合あり)はCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)やDEZn(ジエチルジンク)のように蒸気圧が非常に低い有機金属である。そのため、p型不純物原料の供給元においては、恒温槽に収容して温度を常温よりも高く、例えば35℃〜45℃(成膜条件にも左右される)に維持しているケースが多い。
供給元(恒温槽)から供給されるp型不純物原料は、原料供給管を通って反応室に供給される。気相成長装置内における原料供給管として、例えば特許文献2の気相成長装置70の場合には、ガス導入管71が相当し、チャンバー蓋78の中心を上部から下方に向かって延出されて設置されている。このガス導入管71は、サセプタ73を加温するヒーター81の影響を受けて、ガス導入管71の出口(反応室側)では100℃程度まで加熱されるが、反応室側から離れるにしたがって温度が低下して、最も低いところで常温〜40℃程度である。
【0013】
このため、恒温槽で常温より高く維持されたp型不純物原料を反応室に供給する際、ガス導入管71における低温部においてp型不純物原料が凝縮して、管内壁に付着することが考えられる。
p型不純物原料が管内壁に付着すると、p型不純物原料を必要としない薄膜層の成長時に、付着したp型不純物原料が管壁から離脱して、反応室に供給されてしまうことが生ずる(メモリー効果)。
【0014】
このように、p型不純物原料の供給元の温度と原料供給管(ガス導入管71)の温度差がメモリー効果の原因となっていると推察されることから、メモリー効果を防止するために、原料供給管の周囲にヒーターを巻くことにより加熱することも考えられる。
しかしながら、特許文献2に開示されたような、チャンバー蓋の中心軸に沿って原料供給管(ガス導入管)がチャンバー内に設置されるような装置においては、ヒーターを巻くこともできず、それ故、何らの対策も採られていないのが現状である。
【0015】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、原料供給管がチャンバー内に設置される気相成長装置において、p型不純物のメモリー効果を抑えるとともに、不純物ドーピングを確実に行うことのできる気相成長装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る気相成長装置は、チャンバー本体と、該チャンバー本体に設けられて前記チャンバー本体を開閉するチャンバー蓋と、前記チャンバー本体内に設置されて薄膜が成長する基板が載置されるサセプタと、該サセプタに対向配置される対向面部材とを備え、前記サセプタに前記基板を載置した状態で前記基板を加熱し、前記対向面部材と前記サセプタとで形成される反応室に気相原料を導入する複数の原料導入流路とを備えた気相成長装置であって、
前記複数の原料導入流路の少なくとも一つの流路をドーピング原料が供給されるドーピング原料導入流路とし、該ドーピング原料導入流路の流路壁に隣接させて熱媒体を通流させる熱媒体ジャケットを設けると共に前記熱媒体の温度を制御する温度制御装置を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記サセプタを回転させる回転軸を有し、前記複数の原料導入流路は該回転軸と同軸に設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、前記複数の原料導入流路は径方向に3重に設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記温度制御装置は、熱媒体の温度を40〜80℃の範囲で制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、ドーピング原料導入流路の流路壁に隣接させて熱媒体を通流させる熱媒体ジャケットを設けると共に前記熱媒体の温度を制御する温度制御装置を設けたことにより、ドーピング原料が流路壁に付着するのを防止でき、それによってドーピング原料のメモリー効果を抑えるとともに、不純物ドーピングを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る気相成長装置の概略構成図である。
【図2】図1の破線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図である。
【図3】気相成長装置によって形成された膜構造の一例を示す概略図である。
【図4】比較例のSIMS分析結果である。
【図5】実施例のSIMS分析結果である。
【図6】従来の気相成長装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明の一実施の形態に係る気相成長装置の説明図であり、従来例を示した図6における破線で囲んだA部に相当する部分を示している。また、図2(a)は図1の破線で囲んだB部を拡大して示す図であり、図2(b)は図2(a)の矢視A−A図である。
以下、本発明の一実施様態に係る気相成長装置を図1、図2を用いて説明する。
【0023】
本実施の形態に係る気相成長装置1は、図1、図2に示すように、チャンバー本体3とチャンバー蓋5からなるチャンバー7と、チャンバー本体3に設置されて薄膜が形成される基板9が載置されるサセプタ11と、該サセプタ11に対向配置される対向面部材13と、サセプタ11を回転駆動する回転軸15と、回転軸15の内部に回転軸15と同軸に配設されて気相原料を導入する原料導入管17とを備えている。
以下、気相成長装置1の主な構造を詳細に説明する。
【0024】
<チャンバー>
チャンバー7は、全体形状が偏平円筒状をしており、下部側のチャンバー本体3と、チャンバー本体3を開閉するチャンバー蓋5とを備えている。
チャンバー本体3の中心部には、原料導入路が設置され、サセプタ11に載置された基板9に気相原料を供給できるようになっている。原料導入路の詳細は後述する。
チャンバー本体3の外周縁部は本体部フランジ19となっており、チャンバー蓋5の蓋部フランジ21と当接してチャンバー7を気密に閉止できるようになっている(図1参照)。
【0025】
チャンバー本体3の外縁部であって蓋部フランジ21の内側には、供給された原料ガスの排出流路となるリング状の溝部23が形成されている。そして、溝部23の外壁上端部が対向面部材13の支持部25となっている。
チャンバー本体3には、サセプタ11が公転(回転)可能に設置されており、サセプタ11における基板載置部29の下方には、基板9を加熱するためのヒーター27が設置されている。
なお、ヒーター27の加熱による影響を受けることを好まない部分もあるため、チャンバー7内においては、そのような部分に水冷ジャケットを設けている。
【0026】
チャンバー蓋5は、図示しない昇降機構によってチャンバー本体3に対して昇降するようになっている。また、チャンバー蓋5の外周縁部には、蓋部フランジ21が形成され、この蓋部フランジ21が本体部フランジ19に対向配置されている。
【0027】
<サセプタ>
サセプタ11は全体形状が円板状をしており、上述したように、チャンバー7内に公転可能に設置されている。サセプタ11には自転可能な複数の基板載置部29が設けられ、この基板載置部29に薄膜が形成される基板9が載置されている。
サセプタ11は、図示しない駆動機構によって全体が公転(回転)し、この公転に連動して基板載置部29が自転する機構になっている。
【0028】
<対向面部材>
対向面部材13は、全体形状が略円板状をしており、外周端部には下方に向かって延出する脚部31が形成されている。この脚部31をチャンバー本体3部の支持部25に載置することにより、対向面部材13は、サセプタ11との間に反応室32を形成する。
対向面部材13は、サセプタ11の基板載置部29に載置された基板9に対して対向配置される基板対向面部33と、基板対向面部33の周縁部を支持する基板対向面支持部35から構成されている。
基板対向面部33は、その周縁部が基板対向面支持部35に支持され、上方に持ち上げることによって基板対向面支持部35から取り外しができるようになっている。
【0029】
<原料導入管>
原料導入管17は、サセプタの回転軸15の内部に配設された例えばステンレス製の部材によって形成されている。原料導入管17には、図2に示すように、最も中心部から径方向外側に向かって、第1流路37、第2流路39、第3流路41という3つの流路が形成されている。そして、第2流路39と第3流路41の間には熱媒体が通流する熱媒体ジャケット43が設けられており、第2流路39及び第3流路41を通流する気相原料の温度制御ができるようになっている。ドーピングに用いるp型不純物原料を第2流路39又は第3流路41に通流させ、温度制御をすることにより、p型不純物原料が原料導入路内で凝縮するのを抑制でき、その結果メモリー効果を防止できる。
【0030】
熱媒体ジャケット43は、その内部に仕切壁45を有し、仕切壁45によって仕切られた一方の流路から他方の流路へと熱媒体が通流する。図2に示す例では、熱媒体は、図中の矢印で示すように、熱媒体ジャケット43の入り口から入った熱媒体は内側の流路を図中下から上に流れ、上端部で折り返して外側の流路を上から下へと流れて出口へと出てゆく。熱媒体ジャケット43の外側において熱媒体が流れる流路の途中には、熱媒体の温度を調整する温度調整装置が設けられており、熱媒体温度を40℃〜80℃の範囲で調整できるようになっている。なお、熱媒体温度を40℃以上に調整可能としているのは、ドーピングに用いるp型不純物原料が流路内で凝縮して流路壁に付着するのを防止できるようにするには、熱媒体温度を40℃以上にするのが好ましいためである。
【0031】
なお、熱媒体としては、例えば水あるいは溶媒などを使用し、温度調整装置としては、例えば、チラー等を用いることができる。
【0032】
上記のように構成された気相成長装置の動作を説明する。
気相成長装置1を使用して基板9に薄膜を成長させる場合、図1に示すように、基板載置部29に基板9を載置し、対向面部材13をサセプタ11に対向配置し、チャンバー蓋5を閉める。そして、サセプタ11を公転させると共に基板載置部29を自転させ、ヒーター27によって基板9を加熱し、この状態で原料導入路に気相原料を流す。
【0033】
ドーピングに用いるp型不純物原料は、第2流路39に流し、熱媒体を図2(a)の矢印で示すように、熱媒体ジャケット43の内側の流路を図中下から上に流し、上端部で折り返して、上から下へと流すようする。このようにすることで、第2流路39を流れるp型不純物原料に対してこれが凝縮しない温度に温度制御することができる。なお、熱媒体ジャケット43に流す熱媒体の温度は、原料導入路を流すドーピング原料の種類に応じて調整するようにする。これによって、第2流路39を流れるドーピング原料が流路内において凝縮して管壁に付着するのが防止され、メモリー効果を抑制できる。
【実施例】
【0034】
熱媒体ジャケット43によって原料導入路を通流するp型不純物原料の温度制御を行うことによるメモリー効果低減の効果を確認するため、図1、図2に示した気相成長装置によって成膜実験を行った。
図3は本実験によって形成された膜構造の一例を示す概略図であり、サファイア基板上に、ud-GaN層(第1層)、Mg-AlGaN層(第2層)、Mg-GaN層(第3層)、ud-GaN層(第4層)を成長させたものである。
【0035】
各薄膜層の成長時に供給する気相原料と供給流路を以下に示す。
(1)ud-GaN層(第1層)
第1流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス
第2流路……H2+N2+MO
第3流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス

(2)Mg-AlGaN層(第2層)、
第1流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス
第2流路……H2+N2+MO+p型不純物原料
第3流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス

(3)Mg-GaN層(第3層)
第1流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス
第2流路……H2+N2+MO+p型不純物原料
第3流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス

(4)ud-GaN層(第4層)
第1流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス
第2流路……H2+N2+MO
第3流路……N2+NH3の混合ガスorN2+NH3+H2の混合ガス

なお、MOは、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)等の有機金属原料ガスであり、p型不純物原料ガスは、Cp2Mg、DEZn等である。
【0036】
図3に示す膜構造において、第2層のMg-GaN層及び第3層のMg-GaN層の成長にはp型不純物原料として、例えばCp2Mg等を供給するが、第4層であるud-GaN層の成長にはp型不純物原料を必要としないため、これを供給しない。このため、Mg-GaN層の成長の際に供給されるp型不純物原料がud-GaN層の成長時に、できる限り混入されないことが好ましい。
そこで、p型不純物原料が原料導入路内で凝縮しないように、熱媒体の温度を約60℃に制御した場合(実施例)と、熱媒体の通流を行わず温度制御をしない場合(比較例)の2つの態様をおこなった。2つの実験結果におけるSIMS分析結果を、図4(比較例)、図5(実施例)に示す。
なお、SIMS分析とは、形成された薄膜中の微量元素濃度を薄膜の厚さ(深さ)方向に測定することが可能な評価方法であり、図4、図5のグラフにおいて縦軸(左)は濃度(atoms/cc)であり、横軸は形成された薄膜の厚さ(測定位置)(μm)である。
【0037】
図4に示す比較例においては、Mg-GaN層(第3層)の次に成長させたud-GaN層(第4層)においてCp2Mgを供給していないにも関わらずMgの濃度が増加している。これは、Mgのメモリー効果によるものである。
これに対して、図5に示す実施例においては、比較例と比較すると、Mg-GaN層(第3層)の次に成長させたud-GaN層(第4層)において明らかにMg濃度が低減している。これは、メモリー効果を抑えることができたことに他ならない。
比較例と実施例により、ジャケット付き原料ノズルを用いることで、メモリー効果を抑えることができることがわかった。
【0038】
なお、上記の実施の形態においては、図2(a)に示すように、第2流路39にドーピング原料を流し、第2流路39と第3流路41の間に熱媒体ジャケット43を設け、かつ熱媒体を第2流路39に隣接する流路側へ導入するようにしたので、温度制御された熱媒体が温度制御をしたい第2流路39側に最初に通流するので、正確な制御が可能になる。また、導入された熱媒体は第2流路39の管壁によって熱交換して温度が幾分か低下して、第3流路41側の流路から出てゆくことになる。
【0039】
なお、上記の実施の形態においては、熱媒体ジャケット43を第2流路39と第3流路41の間に設けているが、熱媒体ジャケット43を設ける位置はこれに限られるものではなく、温度制御をしたい気相原料を通流させる流路に隣接させて設けるようにすればよく、例えば、第1流路37にドーピング原料を流す場合には第1流路37と第2流路39の間に熱媒体ジャケット43を設けるようにしてもよい。
【0040】
また、上記の実施の形態においては、図2(a)に示したように、熱媒体ジャケット43の内側流路側に熱媒体を導入し、外側流路側へ出すような流れであったが、熱媒体を外側流路側に導入し、内側流路側へ出すような流れにしてもよい。この場合には、第3流路41内に流す気相原料の温度制御に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、特に化合物半導体を成膜する半導体製造装置に関し、詳しくは、前記半導体製造装置が有する反応室内に不純物原料ガスを導入する気相成長装置に関する。
【符号の説明】
【0042】
1 気相成長装置 3 チャンバー本体 5 チャンバー蓋
7 チャンバー 9 基板 11 サセプタ
13 対向面部材 15 係合保持機構 17 原料ガス導入ノズル
19 本体部フランジ 21 蓋部フランジ 23 溝部
25 支持部 27 ヒーター 29 基板載置部
31 脚部 32 反応室 33 基板対向面部
35 基板対向面部支持部 37 第1流路 39 第2流路
41 第3流路 43 熱媒体ジャケット 45 仕切壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー本体と、該チャンバー本体に設けられて前記チャンバー本体を開閉するチャンバー蓋と、前記チャンバー本体内に設置されて薄膜が成長する基板が載置されるサセプタと、該サセプタに対向配置される対向面部材とを備え、前記サセプタに前記基板を載置した状態で前記基板を加熱し、前記対向面部材と前記サセプタとで形成される反応室に気相原料を導入する複数の原料導入流路とを備えた気相成長装置であって、
前記複数の原料導入流路の少なくとも一つの流路をドーピング原料が供給されるドーピング原料導入流路とし、該ドーピング原料導入流路の流路壁に隣接させて熱媒体を通流させる熱媒体ジャケットを設けると共に前記熱媒体の温度を制御する温度制御装置を設けたことを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記サセプタを回転させる回転軸を有し、前記複数の原料導入流路は該回転軸と同軸に設けられていることを特徴とする請求項1記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記複数の原料導入流路は径方向に3重に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記温度制御装置は、熱媒体の温度を40〜80℃の範囲で制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の気相成長装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−232236(P2010−232236A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75370(P2009−75370)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(509054005)大陽日酸イー・エム・シー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】