説明

計測装置

【課題】装置の高コスト化を抑えながら、被検面の形状を高精度に計測することができる技術を提供する。
【解決手段】被検物を保持する保持面を含む保持部と、被検面と被検面の形状を計測するための基準となる基準位置との間の距離を計測する距離計測部と、基準位置が被検面に沿うように距離計測部を駆動する駆動部と、駆動部によって駆動される距離計測部の基準位置を測定する位置測定部と、距離計測部によって計測された被検面と基準位置との間の距離と位置測定部によって測定された基準位置とに基づいて被検面の形状を算出する処理部と、を有し、位置測定部は、距離計測部に配置されて互いに異なる測定軸を有するレーザ干渉計と、レーザ干渉計のそれぞれからの光をそれぞれ反射する基準ミラーとを含み、レーザ干渉計の原点と基準ミラーとの間の距離を測定することで基準位置を測定し、基準ミラーの法線が保持面を含む面に交差するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物の被検面の形状を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラーなどの光学素子や金型などの被検物の形状(表面形状)を計測する際に3次元計測装置(以下、「計測装置」とする)が従来から使用されている。計測装置は、一般に、計測ヘッド(プローブ)と被検物との距離を一定に維持しながら計測ヘッドを駆動(走査)し、計測ヘッドと基準面との位置関係から被検物の形状を計測する(特許文献1及び2参照)。
【0003】
図7は、従来の計測装置(特許文献1に開示された計測装置)の構成を示す概略図である。かかる計測装置は、互いに直交する3軸(即ち、X軸、Y軸及びZ軸)方向に駆動可能なステージ601にZアーム623を介して取り付けられた計測ヘッド602によって、定盤630の上に保持された被検物603を計測する。定盤630には、基準ミラー604、605及び606が互いに直交するように配置されている。また、ステージ601には、レーザ干渉計610、611及び612と、レーザ干渉計からのレーザ光を基準ミラーに反射させる反射ミラー613及び614が配置されている。
【0004】
図7に示す計測装置では、レーザ干渉計611が基準ミラー606までの距離を測定することで計測ヘッド602のZ軸方向の位置を決定する。また、レーザ干渉計610が反射ミラー613を経由して基準ミラー604までの距離を測定し、レーザ干渉計612が反射ミラー614を経由して基準ミラー605までの距離を測定することで計測ヘッド602のXY平面における位置を決定する。この際、各レーザ干渉計の測定軸(レーザ光軸)620、621及び622の交点を計測基準点に一致させることで、計測ヘッド602の姿勢が変化してもアッベ誤差が生じないようにしている。また、3つの測定軸620、621及び622を互いに直交させ、測定軸622と、計測ヘッド602の計測軸と、ステージ601のZ軸とを重ねている。
【0005】
また、特許文献2に開示された技術では、計測ヘッドに追従して駆動される5つのレーザ干渉計を計測ヘッドの周辺に配置して計測ヘッドの姿勢変化を測定している。これにより、計測基準点を含むXY平面内に反射ミラーを配置することなく、アッベ誤差を補正しながら被検物の形状を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3678887号公報
【特許文献2】特開平10−019504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の計測装置では、計測基準点を計測する3つのレーザ干渉計のうち2つのレーザ干渉計の測定軸620及び621が計測ヘッド602の計測軸及びステージ601のZ軸に直交している。そのため、レーザ干渉計からの光を、基準ミラー604に向けて反射する反射ミラー613と基準ミラー605に向けて反射する反射ミラー614とが計測基準点を含むXY平面内に配置されることになる。
【0008】
例えば、被検物603の形状を計測する際に計測ヘッド602の横方向へのストロークが必要となる場合(例えば、被検物603が大口径レンズなどである場合)を考える。この場合、被検物603と反射ミラー613及び614との干渉を防止するために、計測ヘッド602(の計測位置)と反射ミラー613及び614のそれぞれとの間の距離を被検物603のX軸方向及びY軸方向の幅よりも長くしなければならない。具体的には、Zアーム623をX軸方向及びY軸方向に長くすることが必要となる。
【0009】
しかしながら、上述したように、計測ヘッドとレーザ干渉計の間に存在する部材(例えば、Zアーム)を長く(大型化)すると、環境温度の変化によって部材が変形(膨張又は収縮)し、計測ヘッドとレーザ干渉計との相対位置が変化しやすくなってしまう。また、計測ヘッドに対するレーザ干渉計の固有振動数が低くなるため、計測ヘッドの駆動時の慣性力、ステージガイドからの振動、床からの振動などによって、計測ヘッドとレーザ干渉計との間の姿勢差が生じやすくなってしまう。従って、従来の計測装置では、計測ヘッドの横方向へのストロークが必要となる場合に、被検物の形状を高精度に計測することができないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された技術では、高価なレーザ干渉計が5つも必要となり、計測装置の高コスト化を招いてしまう。
【0011】
そこで、本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、装置の高コスト化を抑えながら、被検面の形状を高精度に計測することができる技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての計測装置は、被検物の被検面の形状を計測する計測装置であって、前記被検物を保持する保持面を含む保持部と、前記被検面の形状を計測するための基準となる基準位置を含み、前記被検面と前記基準位置との間の距離を計測する距離計測部と、前記基準位置が前記被検面に沿うように前記距離計測部を駆動する駆動部と、前記駆動部によって駆動される前記距離計測部の前記基準位置を測定する位置測定部と、前記距離計測部によって計測された前記被検面と前記基準位置との間の距離と前記位置測定部によって測定された前記基準位置とに基づいて前記被検面の形状を算出する処理部と、を有し、前記位置測定部は、前記距離計測部に配置されて互いに異なる測定軸を有する第1のレーザ干渉計、第2のレーザ干渉計及び第3のレーザ干渉計と、前記第1のレーザ干渉計、前記第2のレーザ干渉計及び前記第3のレーザ干渉計のそれぞれからの光をそれぞれ反射する第1の基準ミラー、第2の基準ミラー及び第3の基準ミラーとを含み、前記第1のレーザ干渉計の原点と前記第1の基準ミラーとの間の距離、前記第2のレーザ干渉計の原点と前記第2の基準ミラーとの間の距離及び前記第3のレーザ干渉計の原点と前記第3の基準ミラーとの間の距離を測定することで前記基準位置を測定し、前記第1の基準ミラー、前記第2の基準ミラー及び前記第3の基準ミラーは、前記第1の基準ミラー、前記第2の基準ミラー及び前記第3の基準ミラーの法線が前記保持面を含む面に交差するように配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、装置の高コスト化を抑えながら、被検面の形状を高精度に計測する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一側面としての計測装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す計測装置の構成を示す概略側面図である。
【図3】図1に示す計測装置の計測ヘッドの近傍を示す図である。
【図4】図1に示す計測装置の計測ヘッドの構成の一例を示す概略図である。
【図5】図1に示す計測装置の各レーザ干渉計の測定原理を説明するための図である。
【図6】図1に示す計測装置の計測ヘッドの構成の一例を示す概略図である。
【図7】従来の計測装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の一側面としての計測装置1の構成を示す概略斜視図である。図2は、計測装置1の構成を示す概略側面図である。図3(a)は、計測装置1の計測ヘッド141の近傍を示すXZ平面図である。図3(b)は、計測装置1の計測ヘッド141の近傍を示すXY平面図である。図3(c)は、計測装置1の計測ヘッド141の近傍を示すXZ平面図である。
【0018】
計測装置1は、光学素子や金型などの被検物の被検面の形状(表面形状)を計測する3次元計測装置である。基台100の上には、X軸方向に沿ってX軸ステージガイド110が固定されている。X軸ステージガイド110には、X軸ステージ111がX軸方向に駆動(スライド)可能に支持されている。X軸ステージ111は、X軸ステージ駆動用モータ112及びボールネジ113によって駆動される。
【0019】
X軸ステージ111の上には、Y軸方向に沿ってY軸ステージガイド120が固定されている。Y軸ステージガイド120には、Y軸ステージ121がY軸方向に駆動(スライド)可能に支持されている。Y軸ステージ121は、Y軸ステージ駆動用モータ122及びボールネジ123によって駆動される。
【0020】
Y軸ステージ121の上には、Z軸方向に沿ってZ軸ステージガイド130が固定されている。Z軸ステージガイド130には、Z軸ステージ131がZ軸方向に駆動(スライド)可能に支持されている。Z軸ステージ131は、Z軸ステージ駆動用モータ132及びボールネジ133によって駆動される。
【0021】
Z軸ステージ駆動用モータ132には、かかるモータの回転角を検出するエンコーダ134が設けられている。また、Z軸ステージ131には、Zアーム140を介して計測ヘッド141が取り付けられている。計測ヘッド141は、後述するように、被検物103の被検面103aの形状を計測するための基準となる基準点(基準位置)142を含み、被検面103aと基準点142との間の距離を計測する距離計測部として機能する。
【0022】
X軸ステージ111、Y軸ステージ121及びZ軸ステージ131は、各ステージガイド、各駆動用モータ、各ボールネジなどと協同して、計測ヘッド141をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に3次元的に駆動することができる。また、X軸ステージ111、Y軸ステージ121及びZ軸ステージ131は、本実施形態では、被検面103aを計測する際に、基準点142が被検面103aに沿うように計測ヘッド141を駆動する駆動部として機能する。
【0023】
ベース定盤150の上には、被検物103を保持する保持面102を含む保持部101が配置される。保持部101は、例えば、保持面102において被検物103を静電吸着する静電チャックで構成される。保持部101は、被検物103の被検面103aを計測ヘッド141に対向させて被検物103を保持する。
【0024】
ベース定盤150の上に固定されたフレーム151には、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182が配置されている。第1の基準ミラー180は、第1の反射ミラー170を介して第1のレーザ干渉計160から照射される光を反射する。第2の基準ミラー181は、第2の反射ミラー171を介して第2のレーザ干渉計161から照射される光を反射する。第3の基準ミラー182は、第3の反射ミラー172を介して第3のレーザ干渉計162から照射される光を反射する。第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162は、Zアーム140を介して計測ヘッド141に配置され、互いに異なる測定軸を有する。また、各レーザ干渉計は、第1のレーザ干渉計160の測定軸190、第2のレーザ干渉計161の測定軸191及び第3のレーザ干渉計162の測定軸192が計測ヘッド141の基準点142で交差するように配置される。
【0025】
第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162と、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182とは、計測ヘッド141の基準点142の位置を測定する位置測定部として機能する。具体的には、各レーザ干渉計の原点と各基準ミラーとの間の距離を測定することで、計測ヘッド141の基準点142の位置が測定(決定)される。なお、かかる距離は、第1のレーザ干渉計160の原点と第1の基準ミラー180との間の距離、第2のレーザ干渉計161の原点と第2の基準ミラー181との間の距離及び第3のレーザ干渉計162の原点と第3の基準ミラー182との間の距離を含む。
【0026】
本実施形態では、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182は、それらの全ての法線が保持面102を含む面に交差し、且つ、互いに直交するように配置されている。また、各基準ミラーは、各レーザ干渉計からの光が照射される範囲内に反射面が位置するように配置される。例えば、各基準ミラーは、正方形形状の反射面を有し、反射面の対角線のうち1つの対角線がZ軸方向に沿うように配置される。
【0027】
ここで、本実施形態における第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の配置について具体的に説明する。X軸ステージ111の駆動方向、Y軸ステージ121の駆動方向及びZ軸ステージ131の駆動方向にXYZ座標を定義する。この場合、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182は、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182のそれぞれの法線ベクトル(X,Y,Z)が以下で表されるように配置される。このように、Zアーム140(計測ヘッド141)の駆動範囲に第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182を配置しないことで、計測装置1の大型化を防止することができる。
【0028】
【数1】

【0029】
なお、ベース定盤150、フレーム151、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182は、熱膨張係数の低い材料(例えば、熱膨張係数5ppm/Kのグラナイト材料など)で構成するとよい。これにより、環境温度の変化に起因する計測誤差を低減させることができる。
【0030】
変位センサ200は、計測ヘッド141の変位を検出する。変位センサ200によって検出された計測ヘッド141の変位は、ならい制御部201に変位信号として入力される。ならい制御部201は、変位センサ200からの変位信号が一定となるようにZ軸ステージ131の位置を制御するための制御信号を生成し、かかる制御信号をモータ用アンプ202に入力する。モータ用アンプ202は、ならい制御部201からの制御信号に基づいて、Z軸ステージ駆動用モータ132を駆動する。
【0031】
また、エンコーダ134によって検出されたZ軸ステージ駆動用モータ132の回転角は、Z軸ステージ131のZ軸方向の位置を制御する位置制御部203に回転角信号として入力される。位置制御部203は、エンコーダ134からの回転角信号(即ち、Z軸ステージ駆動用モータ132の回転角)に基づいて、Z軸ステージ131の位置を制御するための制御信号を生成し、かかる制御信号をモータ用アンプ202に入力する。モータ用アンプ202は、位置制御部203からの制御信号に基づいて、Z軸ステージ駆動用モータ132を駆動する。
【0032】
モータ用アンプ202に入力される制御信号(即ち、ならい制御部201又は位置制御部203からの制御信号)は、スイッチ204によって切り替えられる。かかるスイッチ204のスイッチ動作は、処理部209によって制御される。処理部209は、CPUやメモリなどを含み、計測装置1の各部(全体の動作)を制御する。また、処理部209は、本実施形態では、計測ヘッド141によって計測された被検面103aと基準点142との間の距離と上述した位置測定部によって測定された基準点142の位置とに基づいて被検面103aの形状を算出する。
【0033】
図4を参照して、計測ヘッド141の構成について説明する。図4に示す計測ヘッド141は、被検面103aと基準点142とが非接触の状態で被検面103aと142との間の距離を計測する非接触式の計測ヘッド(光プローブ)である。照明光学系は、ビームエキスパンダ401、ビームスプリッタ402及び対物レンズ410によって構成されている。受光光学系は、対物レンズ410、ビームスプリッタ402、結像レンズ405及びアパーチャ407によって構成されている。
【0034】
ビームエキスパンダ401からの光は、ビームスプリッタ402によって透過光と反射光とに分割される。透過光は、参照面404側に進み、反射光は、被検面103a側に進む。参照面404側に進んだ透過光は、参照面404で反射されて参照光となる。参照光は、ビームスプリッタ402で反射され、結像レンズ405側に進む。
【0035】
一方、被検面103a側に進んだ反射光は、対物レンズ410に入射する。対物レンズ410に入射した光は、対物レンズ410の集光点411を曲率中心とする球面波に変換され、被検面103aで反射される。なお、本実施形態では、対物レンズ410の集光点411を計測ヘッド141の基準点142と定義している。被検面103aで反射された光のうち被検面103aの法線方向に反射された光は、被検光として、対物レンズ410及びビームスプリッタ402を透過して結像レンズ405側に進む。
【0036】
参照光と被検光は干渉パターンを形成し、結像レンズ405を介して光検出部408に入射する。なお、対物レンズ410の集光点411と共役な位置に配置されたアパーチャ407(の開口部)によって、被検面103aで反射された光のうち被検面103aの法線方向に反射された光のみが光検出部408に入射し、その他の光は遮光される。
【0037】
光検出部408は、アバランシェフォトダイオードやピンフォトダイオードなどのフォトダイオードで構成され、参照光と被検光との干渉パターンを光電変換して干渉信号として検出する。光検出部408で検出された干渉信号は、ケーブル(不図示)を介して、演算部420に入力される。演算部420は、光検出部408からの干渉信号を解析して参照光と被検光との間の光路長差を算出し、被検面103aと集光点411(基準点142)との間の距離を求める。
【0038】
図5を参照して、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162の測定原理について説明する。なお、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162の測定原理は全て同じであるため、ここでは、第1のレーザ干渉計160を例に説明する。
【0039】
発振周波数が安定化され、垂直偏光成分と水平偏光成分とで周波数の異なるレーザ光50は、偏光ビームスプリッタ(PBS)51によって、垂直偏光成分と水平偏光成分とに分離される。PBS51で分離された一方の成分の光は、PBS51を透過してコーナーキューブ52aで反射され、PBS51を再び透過して光ファイバ53に入射する。
【0040】
PBS51で分離された他方の成分の光は、PBS51で反射され、λ/4板55によって直線偏光が円偏光に変換され、光ビーム54aを形成する。光ビーム54aは、第1の基準ミラー180で反射され、λ/4板55によって円偏光が直線偏光に変換される。かかる光は、λ/4板55を2回通過することによって直線偏光の偏光方向が90°回転しているため、PBS51を透過してコーナーキューブ52bで反射される。
【0041】
コーナーキューブ52bで反射された光は、PPB51を再び透過し、λ/4板55によって直線偏光が円偏光に変換され、光ビーム54bを形成する。光ビーム54bは、第1の基準ミラー180で反射され、λ/4板55によって円偏光が直線偏光に変換される。かかる光は、λ/4板55を2回通過することによって直線偏光の偏光方向が90°回転しているため、PBS51で反射されて光ファイバ53に入射する。
【0042】
光ファイバ53では、第1の基準ミラー180で反射された光とコーナーキューブ52aで反射された光とが合成されて干渉パターンが形成される。かかる干渉パターンをフォトダイオードなどで構成された光検出部で干渉信号として検出し、かかる干渉信号を解析して両者の光路長差を算出することで、第1のレーザ干渉計160の原点と第1の基準ミラー180との間の距離が得られる。
【0043】
処理部209による被検面103aの形状の算出について説明する。計測ヘッド141からの光の集光点(即ち、対物レンズ410の集光点411)の位置座標(X,Y,Z)は、以下の式1で表される。
【0044】
【数2】

【0045】
上述したように、式1の右辺は、計測ヘッド141の基準点142の位置座標と等しい。(l,l,l)は、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162のそれぞれの測定値である。
【0046】
処理部209は、計測ヘッド141の基準点142の位置座標(X,Y,Z)から、被検面103aと基準点142の位置との間の距離だけ離れ、且つ、設計上の被検面103aの法線方向に被検面103aの表面があるもとして形状を算出する。
【0047】
以下、計測装置1の動作について説明する。なお、被検物103は、保持部101(保持面102)に保持されているものとする。
【0048】
まず、Z軸ステージ131を駆動して(即ち、計測ヘッド141を駆動して)、計測ヘッド141のZ軸方向の位置を被検面103aから所定の距離だけ離れた位置に制御する。次に、X軸ステージ111及びY軸ステージ121を駆動して、被検面103aの計測ポイントの上に計測ヘッド141を駆動する(S2)。そして、変位センサ200からの変位信号を観察し、計測ヘッド141と被検面103aとの間の距離が所定の距離になるまで計測ヘッド141を駆動する(S3)。なお、これまでの駆動は、位置制御部203からの制御信号に基づいて行われる。
【0049】
次いで、変位センサ200からの変位信号が一定となるように、各ステージを駆動して計測ヘッド141の位置を制御する(S4)。かかる駆動は、ならい制御部201からの制御信号に基づいて行われる。
【0050】
次に、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162のそれぞれの測定値を式1に代入して、計測ヘッド141の基準点142の位置(座標)を求める(S5)。そして、計測ヘッド141の基準点142の位置と、被検面103aと基準点142との間の距離を処理部209のメモリに保存する。
【0051】
次いで、被検面103aの全ての被計測領域において計測を実行したかどうか(即ち、計測ヘッド141によって被検面103aの全ての領域を走査したかどうか)を判定する(S6)。被検面103aの全ての被計測領域において計測を実行していない場合には、S4に戻る。また、被検面103aの全ての被計測領域において計測を実行した場合には、各ステージを駆動して、計測ヘッド141を被検面103aの上から退避させる(S7)。なお、かかる駆動は、位置制御部203からの制御信号に基づいて行われる。
【0052】
そして、処理部209のメモリに保存された計測ヘッド141の基準点142の位置、及び、被検面103aと基準点142との間の距離に基づいて、被検面103aの形状を算出する(S8)。
【0053】
計測装置1においては、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の全ての法線が保持面102を含む面に交差するように、各基準ミラーが配置されている。換言すれば、計測装置1では、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182を計測ヘッド141の基準点142を含むXY平面内に配置する必要がない。従って、計測装置1では、被検面の形状を計測する際に計測ヘッドの横方向へのストロークが必要となる場合にも、計測ヘッドとレーザ干渉計やミラーとの間の距離を被検物103の幅よりも短くすることができる(Zアームを大型化する必要がない)。
【0054】
その結果、環境温度の変化に起因する部材の変形(膨張又は収縮)が低減され、計測ヘッドとレーザ干渉計との相対位置を維持することが可能となる。また、計測ヘッドに対するレーザ干渉計の固有振動数を高くすることができるため、計測ヘッドの駆動時の慣性力、ステージガイドからの振動、床からの振動などに起因する計測ヘッドとレーザ干渉計との間の姿勢差が生じにくくなる。従って、計測装置1は、計測ヘッドの横方向へのストロークが必要となる場合であっても、被検物の形状を高精度に計測することができる。
【0055】
なお、上述したように、本実施形態では、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182は、それらの全ての法線が保持面102を含む面に交差し、且つ、互いに直交するように配置されている。但し、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の配置は、これに限定されるものではない。例えば、直径100mmのガラス平面基板上に、高さ(Z軸方向)1mm程度の複数の凸レンズを配列させた光学素子が被検物103である場合を考える。この場合、第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の有効面積(反射面の合計の面積)は、例えば、第1の配置パターン及び第2の配置パターンに応じて、以下のようになる。
(第1の配置パターン)第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の全ての法線が保持面102を含む面に対して45°となるように配置する場合:6.7×10mm
(第2の配置パターン)第1の基準ミラー180、第2の基準ミラー181及び第3の基準ミラー182の全ての法線が保持面102を含む面に対して30°となるように配置する場合:4.8×10mm
第1の配置パターンに比べて、第2の配置パターンは、基準ミラーの有効面積を約30%低減することができる。高い精度が要求される基準ミラーは高価であるため、有効面積を低減することによって計測装置1のコストを抑えることができる。このように、被検物103(被検面103a)の計測範囲を限定することができる場合には、保持面102を含む面に対する基準ミラーの法線の角度を適切に設定するとよい。
【0056】
また、計測ヘッド141は、非接触式の計測ヘッドに限定されるものではない。例えば、図6に示すように、被検面103aと基準点142を含む接触部材(基準部材)311とが接触した状態で被検面103aと基準点142との間の距離を計測する接触式の計測ヘッド141Aであってもよい。計測ヘッド141Aは、被検面103aの反射率が低く、被検面103aと基準点142との間の距離を非接触式の計測ヘッドで計測できない場合や被検面103aに形成された穴の底を計測する場合などに有効である。
【0057】
計測ヘッド141Aにおいて、基準点142は、球体形状を有する接触部材311を予め定められた接触圧力で被検面103aに押し付けた状態での接触部材311の中心位置で定義される。
【0058】
図6(a)は、接触部材311を予め定められた接触圧力で被検面103aに押し付けた状態を示している。また、図6(b)は、計測ヘッド141Aを駆動した際に、シャフト312が被検面103aから受ける力によって、筐体300に対してZ軸方向に変位した状態を示している。シャフト312は、筐体300に対して、平行板バネ310a、310b、310c及び310dを介してZ軸方向のみに変位可能に支持される。シャフト312の下端には、球体形状が高い精度で保証された接触部材311が取り付けられており、シャフト312の上端には、ミラー320が取り付けられている。変位センサ321は、例えば、レーザ干渉計を含み、ミラー320の位置を検出する。換言すれば、変位センサ321は、接触部材311の相対位置変化、即ち、基準点142の位置変化量322を検出する。
【0059】
処理部209による被検面103aの形状の算出について説明する。接触部材311の中心(即ち、基準点142)の位置座標(X,Y,Z)は、以下の式2で表される。但し、レーザ干渉計は、相対値を出力するため、厳密には、計測開始位置や装置の原点などを基準とした相対座標である。
【0060】
【数3】

【0061】
式2の右辺の第1項は、上述した計測ヘッド141Aの基準点142である。(l,l,l)は、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162のそれぞれの測定値である。式2の右辺の第2項のAは、変位センサ321の光軸方向をZ軸方向とするローカル座標軸を、計測装置1の座標軸に変換する回転行列であって、計測ヘッド141Aの姿勢変化に相当する。式2の右辺の第2項の(0,0,Z)は、計測ヘッド141Aの基準点142からの接触部材311の相対位置変化であって、基準点142の位置変化量322に相当する。本実施形態では、Z軸方向のみを計測しているため、基準点142の位置変化量322は、Z軸方向の成分のみに値を有する。
【0062】
ここでは、式2の右辺の第2項のAを計測せず、単位ベクトルとみなしている。従って、Aが単位ベクトル以外の値を有すると、計測ヘッド141Aの姿勢変化による誤差、即ち、アッベ誤差が発生する。但し、実際には、計測ヘッド141Aの姿勢変化は10秒程度、Zは3μm程度であるため、アッベ誤差が発生したとしてもその量は0.15nm程度であり、無視することができる。
【0063】
処理部209は、接触部材311の中心の位置座標(X,Y,Z)から、接触方向に設計上の接触部材の半径だけ離れた位置に被検面103aの表面があるものとして形状を算出する。
【0064】
計測ヘッド141Aを用いた場合における計測装置1の動作について説明する。計測装置1の動作は、上述した計測装置1の動作と比較して、S3、S4及びS5の動作が異なる。
具体的には、S3では、Z軸ステージ131を駆動して(即ち、計測ヘッド141Aを駆動して)、被検面103aに接触部材311が接触するまで計測ヘッド141Aを駆動(下降)する。S4では、変位センサ321からの出力をモニターし、計測ヘッド141Aと被検面103aとの距離が所定の距離となるように、Z軸ステージ131を駆動(下降)する。S5では、第1のレーザ干渉計160、第2のレーザ干渉計161及び第3のレーザ干渉計162のそれぞれの測定値を式2に代入して、計測ヘッド141Aの基準点142の位置(座標)を求める。そして、計測ヘッド141Aの基準点142の位置変化量322と、基準点142の位置とを処理部209のメモリに保存する。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物の被検面の形状を計測する計測装置であって、
前記被検物を保持する保持面を含む保持部と、
前記被検面の形状を計測するための基準となる基準位置を含み、前記被検面と前記基準位置との間の距離を計測する距離計測部と、
前記基準位置が前記被検面に沿うように前記距離計測部を駆動する駆動部と、
前記駆動部によって駆動される前記距離計測部の前記基準位置を測定する位置測定部と、
前記距離計測部によって計測された前記被検面と前記基準位置との間の距離と前記位置測定部によって測定された前記基準位置とに基づいて前記被検面の形状を算出する処理部と、
を有し、
前記位置測定部は、前記距離計測部に配置されて互いに異なる測定軸を有する第1のレーザ干渉計、第2のレーザ干渉計及び第3のレーザ干渉計と、前記第1のレーザ干渉計、前記第2のレーザ干渉計及び前記第3のレーザ干渉計のそれぞれからの光をそれぞれ反射する第1の基準ミラー、第2の基準ミラー及び第3の基準ミラーとを含み、前記第1のレーザ干渉計の原点と前記第1の基準ミラーとの間の距離、前記第2のレーザ干渉計の原点と前記第2の基準ミラーとの間の距離及び前記第3のレーザ干渉計の原点と前記第3の基準ミラーとの間の距離を測定することで前記基準位置を測定し、
前記第1の基準ミラー、前記第2の基準ミラー及び前記第3の基準ミラーは、前記第1の基準ミラー、前記第2の基準ミラー及び前記第3の基準ミラーの法線が前記保持面を含む面に交差するように配置されていることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記距離計測部は、前記被検面と前記基準位置とが非接触の状態で前記被検面と前記基準位置との間の距離を計測する非接触式の計測ヘッドを含むことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記距離計測部は、前記被検面と前記基準位置を含む基準部材とが接触した状態で前記被検面と前記基準位置との間の距離を計測する接触式の計測ヘッドを含むことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177620(P2012−177620A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40837(P2011−40837)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】