説明

車両の減速制御装置

【課題】コーナや登降坂路を含む道路環境に対する減速制御において、運転者の期待に対して、より合った制動力を付与することが可能な車両の減速制御装置を提供する。
【解決手段】車両前方の道路環境を検出する手段(S101)と、前記道路環境に基づいて目標車速又は必要減速度を設定する手段(S104)と、前記目標車速又は必要減速度に基づいて車両の減速制御を行う手段(S106)と、前記減速制御による減速度に対する運転者の不満足感を検出または推定する不満足感検出/推定手段(S112)とを備え、前記不満足感検出/推定手段による検出又は推定結果に基づいて、前記目標車速又は必要減速度を補正する(S113)。前記不満足感検出/推定手段は、車両の駆動力を操作するための手段と運転者との位置関係を検出する手段を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の減速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平10−269499号公報(特許文献1)には、カーブ手前でドライバの意思に応じて違和感なく自動減速を実施可能な車両の車速制御装置として、以下の技術が開示されている。即ち、車両前方の道路のカーブの存在を検出するカーブ検出手段と、カーブの曲率半径Rを検出する曲率半径検出手段と、ドライバの運転状態(スポーティ度)を検出するドライバ状態検出手段と、ドライバの運転状態情報に基づき、カーブをトレース可能な車両の許容横加速度を設定する許容横加速度設定手段と、曲率半径情報と許容横加速度とに基づき、カーブでの車両の許容旋回速度を演算する許容旋回速度演算手段と、車両がカーブに進入する前に許容旋回速度に向け車速を低減させ車両を減速制御する減速手段とを備えている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−269499号公報
【特許文献2】特開2004−210255号公報
【特許文献3】特開平6−36187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばコーナや登降坂路のような道路環境を走行するときに、車速が適正となるように車両の減速制御を行う技術が知られている。ここで、減速制御中に運転者によるアクセル操作又はブレーキ操作があった場合には、運転者は、その減速制御による制動力(減速度)に対して過不足を感じていると検出することができる。そのため、次回の減速制御において、運転者が制動力の過不足をなるべく感じないように減速制御による制動力を補正することが考えられる。しかしながら、このように運転者によるアクセル操作又はブレーキ操作が実際に検出されるときには、運転者の減速制御による制動力に対する不満は大きいと考えられる。減速制御に対する運転者の微妙な不満を検出することで、減速制御において、運転者の期待に対して、より合った制動力を付与することが必要とされている。
【0005】
本発明は、コーナや登降坂路を含む道路環境に対する減速制御において、運転者の期待に対して、より合った制動力を付与することが可能な車両の減速制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の減速制御装置は、車両前方の道路環境を検出する手段と、前記道路環境に基づいて目標車速又は必要減速度を設定する手段と、前記目標車速又は必要減速度に基づいて車両の減速制御を行う手段と、前記減速制御による減速度に対する運転者の不満足感を検出または推定する不満足感検出/推定手段とを備え、前記不満足感検出/推定手段による検出又は推定結果に基づいて、前記目標車速又は必要減速度を補正することを特徴としている。
【0007】
本発明の車両の減速制御装置は、車両前方の道路環境を検出する手段と、前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、前記減速制御による減速度に対する運転者の不満足感を検出または推定する不満足感検出/推定手段とを備え、前記不満足感検出/推定手段による検出又は推定結果に基づいて、前記減速制御による減速度の変化割合を補正することを特徴としている。
【0008】
本発明の車両の減速制御装置において、前記不満足感検出/推定手段は、車両の駆動力を操作するための手段と運転者との位置関係を検出する手段を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の車両の減速制御装置は、車両前方の道路環境を検出する手段と、前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、アクセルペダルと運転者との距離を検出又は推定する手段と、前記アクセルペダルと前記運転者との距離が予め設定された所定値以上である場合には、前記所定値未満である場合に比べて、より大きな減速度、又はより変化割合の大きな減速度が発生するように補正することを特徴としている。
【0010】
本発明の車両の減速制御装置は、車両前方の道路環境を検出する手段と、前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、ブレーキペダルと運転者との距離を検出又は推定する手段と、前記ブレーキペダルと前記運転者との距離が予め設定された設定値未満である場合には、前記設定値以上である場合に比べて、より大きな減速度、又はより変化割合の大きな減速度が発生するように補正することを特徴としている。
【0011】
本発明の車両の減速制御装置において、前記補正は、前記減速制御の実行中にリアルタイムで行われることを特徴としている。
【0012】
本発明の車両の減速制御装置において、前記補正は、次回の前記減速制御のときに行われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コーナや登降坂路を含む道路環境に対する減速制御において、運転者の期待に対して、より合った制動力を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態について説明する。
【0016】
図2に示すように、内燃機関としてのエンジン11には、トルクコンバータ12を有する自動変速機13が連結されており、エンジン11の駆動力は、このトルクコンバータ12を介して自動変速機13に入力され、デファレンシャルギヤ14及びドライブシャフト15を介して駆動輪16に伝達される。また、自動変速機13は、A/T油圧制御装置17により車両の運転状態に応じて変速比が自動的に制御される。ブレーキ装置18は、ブレーキ油圧制御装置19によって制御されて、車両を制動する。
【0017】
車両には、エンジン11や自動変速機13やブレーキ装置18などを制御する電子制御ユニット(ECU)20が設けられている。ECU20は、エンジン11、自動変速機13(A/T油圧制御装置17)及びブレーキ装置18(ブレーキ油圧制御装置19)の総合的な制御を行う。ECU20は、旋回横加速度算出部20aを備えている。旋回横加速度算出部20aは、旋回横加速度Gyを算出する。
【0018】
車両には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ21が設けられている。アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセル開度を示す信号は、ECU20に出力される。エンジン11の吸気管22には、スロットルコントロールバルブ23が設けられている。スロットルコントロールバルブ23は、スロットルアクチュエータ24により開閉可能とされている。ECU20は、スロットルアクチュエータ24にスロットルコントロールバルブ23を動作させる。ECU20は、スロットルコントロールバルブ23によるスロットル開度が、アクセル開度に応じたものとなるようにスロットルアクチュエータ24を制御する。
【0019】
吸気管22には、スロットルコントロールバルブ23をバイパスするバイパス通路25が設けられている。バイパス通路25には、エンジン11のアイドル回転数を制御するためにスロットルコントロールバルブ23の全閉時の吸気量を制御するアイドルスピードコントロールバルブ(ISCバルブ)26が設けられている。スロットルコントロールバルブ23の全閉状態(アイドル状態)及びスロットル開度を検出するアイドルスイッチ付スロットル開度センサ27が設けられている。アイドルスイッチ付スロットル開度センサ27によって検出されたアイドル状態及びスロットル開度のそれぞれを示す信号は、ECU20に出力される。
【0020】
エンジン11には、エンジン回転数(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。エンジン回転数センサ28により検出されたエンジン回転数を示す信号は、ECU20に出力される。
車速センサ29は、車速に比例する自動変速機13の出力軸の回転数を検出する。車速センサ29により検出された車速を示す信号は、ECU20に出力される。
【0021】
シフトポジションセンサ30は、運転者が操作するシフトレバーの位置(シフトポジション)を検出する。シフトポジションセンサ30により検出されたシフトポジションを示す信号は、ECU20に出力される。
加速度センサ31は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。加速度センサ31により検出された減速度を示す信号は、ECU20に出力される。
【0022】
ブレーキ操作量センサ32は、ブレーキ装置18の操作量を検出する。ブレーキ操作量センサ32により検出されたブレーキ装置18の操作量を示す信号は、ECU20に出力される。ステアリング舵角センサ33は、運転者により操作されるステアリングの舵角を検出する。ステアリング舵角センサ33により検出されたステアリングの舵角を示す信号は、ECU20に出力される。方向指示器スイッチ34は、運転者により操作され、方向指示器(図示せず)により指示される方向を特定するための操作が行われる。方向指示器により指示される方向を示す信号は、ECU20に出力される。
【0023】
運転モード設定スイッチ35は、運転者により操作され、運転モードを設定するための操作が行われる。運転者により、運転モード設定スイッチ35が操作されることで、スポーツ走行指向又は通常走行指向の運転モードが設定され、その設定された運転モードを示す信号がECU20に出力される。
【0024】
フットポジションセンサ36は、運転者の足の位置を検出する。フットポジションセンサ36により検出された運転者の足の位置を示す信号は、ECU20に出力される。図3−1は、フットポジションセンサ36、アクセルペダル37及び運転者の右足Fを示す側面図であり、図3−2は同平面図である。図3−2において、符号38はブレーキペダルである。
【0025】
ECU20は、変速マップを有しており、スロットル開度、車速などに基づいて、自動変速機13の変速段を決定し、この決定された変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御することができる。また、ECU20には、図1に示すフローチャートの制御ステップが記述されたプログラムが格納されている。
【0026】
ナビゲーション装置50は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、ECU60と、操作部51と、表示部52と、スピーカ53と、位置検出部54と、地図データベース55と、運転履歴記録部56とを備えている。ナビゲーション装置50のECU60は、ECU20と双方向の通信が可能である。
【0027】
ナビゲーション装置50は、運転者に車両の現在地周りの道路情報を知らせて、車両の目的地までの走行経路を誘導する。操作部51には、目的地などの指示データが入力される。表示部52には、現在地周辺の地図情報、現在位置、目的位置、経路などの情報が表示される。スピーカ53からは、案内音声が出力される。
【0028】
ECU60は、入力された情報に基づいて、ナビゲーション処理等の各種演算処理を行う。ECU60のROMには、目的地までの経路の検索、経路中の走行案内、特定区間の決定等を行うための各種プログラムが格納されている。
【0029】
位置検出部54は、GPSレシーバ、地磁気センサ、距離センサ、ビーコンセンサ、ジャイロセンサとを備えており、自車の位置を検出し、その検出した自車の位置を示すデータをECU60に出力する。
【0030】
地図データベース55には、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、コーナ、登降坂、高速道路など)が記憶されている。地図データベース55は、地図データファイル、交差点データファイル、ノードデータファイル、道路データファイルを備えている。これら各ファイルには、経路探索を行うとともに、探索した経路に沿って案内図を表示するための各種データが格納されている。ECU60は、地図データベース55を参照して、必要な情報を読み出す。
【0031】
運転履歴記録部56には、車両が走行した走行路、及び車両が走行路を走行した日時などの情報が記録される。ECU60は、必要に応じて、運転履歴記録部56から運転履歴のデータを読み出す。
【0032】
ECU60は、操作部51から入力された目的地などの指示データ及び位置検出部54により検出された自車位置に基づいて、地図データベース55から必要な地図情報を検索し、その検索により得られた経路の情報を表示部52に表示させる。ECU60は、操作部51から入力された目的地などの指示データが入力されていない場合には、自車位置の周辺の道路情報を表示部52に表示する。
【0033】
ECU60は、コーナ検出部61を備えている。コーナ検出部61は、地図データベース55に格納されたデータに基づいて、先方の道路にコーナがあるか否かを検出する。
【0034】
車両には、カメラ71と、道路状況検出部72が設けられている。カメラ71は、車両の前方の道路状況を撮像する。道路状況検出部72は、カメラ71により撮像されたデータに基づいて、車両の前方の道路状況を検出する。道路状況検出部72による検出結果は、ECU20に出力される。
【0035】
図1及び図2を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0036】
[ステップS101]
ステップS101において、ナビゲーション装置50のECU60のコーナ検出部61は、位置検出部54と地図データベース55からのデータに基づいて、現在位置の前方にコーナがあるか否かを検出する。その判定の結果、肯定的に判定された場合にはステップS102に進み、そうでない場合には本制御フローはリターンされる。
【0037】
[ステップS102]
ステップS102において、ECU20は、自車の現在の車速V、コーナR、コーナまでの距離Lを求める。ECU20は、車速センサ29から入力したデータに基づいて、自車の現在の車速Vを求める。また、ECU20は、位置検出部54と地図データベース55からのデータに基づいて、コーナR、コーナまでの距離Lを求める。ステップS102の次にステップS103が行われる。
【0038】
[ステップS103]
ステップS103では、ECU20により、旋回横加速度Gyが読み込まれる。旋回横加速度Gyは、車両がコーナを旋回するときの横加速度の値(目標値)である。旋回横加速度Gyの初期値は、予め設定された値である。前回までの制御サイクルのステップS109〜ステップS113において、旋回横加速度算出部20aにより、旋回横加速度Gyが更新されている場合には、ステップS103では、最新の旋回横加速度Gyが読み込まれる。ステップS103の次に、ステップS104が行われる。
【0039】
[ステップS104]
ステップS104では、ECU20により、コーナのコーナ旋回車速Vreq及び必要減速度Greqが算出される。コーナ旋回車速Vreqは、旋回横加速度Gyでコーナを旋回するためにコーナの入口にて求められる車速(目標車速)である。コーナ旋回車速Vreq[m/s]は、上記ステップS102で求めたコーナRと、上記ステップS103で読み込まれた旋回横加速度Gyに基づいて、下記式[数1]により求められる。
【0040】
【数1】



ここで、運転者指向(スポーツ走行指向かノーマル走行指向か)により、旋回横加速度Gyが異なり、運転者指向に応じて旋回横加速度Gyを設定することが知られている。
【0041】
ECU20は、上記ステップS102で求めた自車速Vと、コーナまでの距離Lと、コーナ旋回車速Vreqに基づいて、下記式[数2]より、必要減速度Greqを求める。ステップS104の次に、ステップS105が行われる。
【数2】

【0042】
[ステップS105]
ステップS105において、ECU20は、運転者の減速意図が検出されたか否かを判定する。ステップS105において、運転者の減速意図とは、アクセルOFF(アクセルを緩める)、ブレーキON、マニュアルダウンシフト、方向指示器の操作、オーバードライブのOFFなどの減速のための操作により、エンジンブレーキを増加させたり、減速度を増加させる動作を意味している。方向指示器の操作に関しては、コーナがある分岐路へ経路を取ることの意思表示として、その分岐路方向への方向指示器の操作の有無が検出される。
【0043】
アクセルOFFの操作の有無は、スロットル開度センサ27からの信号に基づいて、アクセルがOFFの状態(全閉)か否かが判定されることができる。また、ブレーキONの操作の有無は、ブレーキ操作量センサ32からの信号に基づいて、判定されることができる。マニュアルダウンシフトの操作の有無は、シフトポジションセンサ30からの信号に基づいて判定されることができる。方向指示器の操作の有無は、方向指示器スイッチ34からの信号に基づいて判定されることができる。
【0044】
これらの判定の結果、運転者の減速意図が検出された場合(ステップS105−Y)には、ステップS106に進み、そうでない場合(ステップS105−N)には、本制御フローはリターンされる。なお、本例では、運転者の減速意図として、アクセルOFFが検出されることができる。
【0045】
なお、ステップS105においては、カメラ71により撮像されたデータに基づいて、道路状況検出部72が車両Xの前方の道路状況を検出し、その検出結果によって、ECU20は、ステップS105の判定結果として、異なる内容の判定をすることができる。
【0046】
即ち、道路状況検出部72の判定の結果、車両が前車(図示せず)に追いついたことを理由として、運転者の減速意図(減速操作)が検出されたと判定される場合には、ECU20により、ステップS105の判定結果は否定的なもの(ステップS105−N)とされることができる。
【0047】
[ステップS106]
ステップS106において、ECU20は、減速制御を実施する。ECU20は、上記ステップS104で求めた必要減速度Greqが車両に作用するように、エンジン11、A/T油圧制御装置17及びブレーキ油圧制御装置19の少なくともいずれか一方を制御する。即ち、エンジン11のトルクダウン、自動変速機13のダウンシフト、ブレーキ装置18の作動、又は、自動変速機13及び自動変速機13の協調制御によって、車両に必要減速度Greqが作用するように制御する。ステップS106の次に、ステップS107に進む。
【0048】
[ステップS107]
ステップS107において、ECU20は、運転者の加速意図が検出されたか否かを判定する。運転者の加速意図は、アクセルONの操作の有無に基づいて判定される。アクセルONの操作の有無は、スロットル開度センサ27からの信号に基づいて、アクセルがONの状態か否かが判定されることができる。その判定の結果、アクセルがONの状態であると判定されれば、ステップS108に進み、そうでない場合には、ステップS110に進む。
【0049】
[ステップS108]
ステップS108において、ECU20は、減速制御を中止する。ステップS107においてアクセルがONであると判定された場合には、運転者は減速度が大き過ぎると感じていることになるので、減速制御を中止する。ステップS108の次に、ステップS109に進む。
【0050】
[ステップS109]
ステップS109において、ECU20の旋回横加速度算出部20aは、現在の旋回横加速度Gyに予め設定された値αを加算し、その加算結果を新たな旋回横加速度Gyとして記憶する。ステップS107においてアクセルがONであると判定された場合には、運転者は減速度が大き過ぎると感じていることになるので、旋回横加速度Gyを大きくして必要減速度Greqが小さくなるようにするためである。ステップS109の次には、本制御フローはリターンされる。
【0051】
[ステップS110]
ステップS110において、ECU20は、ブレーキがONにされているか否かを判定する。ブレーキONの操作の有無は、ブレーキ操作量センサ32からの信号に基づいて、判定される。その判定の結果、ブレーキがONにされていると判定された場合には、ステップS111に進み、そうでない場合には、ステップS112に進む。
【0052】
[ステップS111]
ステップS111において、ECU20の旋回横加速度算出部20aは、現在の旋回横加速度Gyから予め設定された所定値βを減算し、その減算結果を新たな旋回横加速度Gyとして記憶する。ステップS110においてブレーキがONであると判定された場合には、運転者は減速度が小さ過ぎると感じていることになるので、旋回横加速度Gyを小さくして必要減速度Greqが大きくなるようにするためである。ステップS111の次には、本制御フローはリターンされる。
【0053】
[ステップS112]
ステップS112において、ECU20は、運転者による減速度に対する不満足感の有無を検出する。運転者による減速度に対する不満足感の有無は、例えばフットポジションセンサ36の検出結果に基づいて判定されることができる。具体的には、図3−1及び図3−2に示すように、フットポジションセンサ36により検出されたアクセルペダル37と運転者の右足Fとの間の距離が予め設定された所定値以上であれば、運転者は減速度に対する不満足感を有していると検出することができる。
【0054】
コーナ前におけるアクセルOFF操作後の自動減速制御中に(ステップS105−Y→ステップS106)、運転者が減速に満足している場合には、アクセルペダル37上で足Fを待機させる(図4−1参照)。一方、運転者が減速に少し不足感を持つ場合には、アクセルペダル37上でブレーキペダル38を踏もうか迷いが生じる。ブレーキペダル38とアクセルペダル37との間には、段差(床面からの高さの差)があるため、アクセルペダル37上に在る足Fでブレーキペダル38を踏むためには、足Fを持ち上げてアクセルペダル37から足Fを離してブレーキペダル38の方向(横方向)に足Fを動かす必要がある。
【0055】
このことから、アクセルペダル37と足Fとの間の距離が所定値以上であれば、ブレーキペダル38を踏もうとする動作があったとして、運転者は減速度不足で不満足感を有していると検出することができる。運転者が減速に対して満足している場合にはアクセルペダル37から足Fがあまり離れず、所定値以上足Fが離れた場合にはブレーキペダル38を踏もうとする動作があったことになる。この場合、上記所定値は、ブレーキペダル38の高さに基づいて設定されることができる。ステップS112の判定の結果、運転者による減速度に対する不満足感があると判定されれば、ステップS113に進み、そうでない場合には、本制御フローはリターンされる。
【0056】
[ステップS113]
ステップS113において、ECU20の旋回横加速度算出部20aは、現在の旋回横加速度Gyから予め設定された所定値γを減算し、その減算結果を新たな旋回横加速度Gyとして記憶する。ステップS112において運転者による減速度に対する不満足感があると判定された場合には、運転者は減速度が少し減速不足を感じていることになるので、旋回横加速度Gyを小さくして必要減速度Greqが大きくなるようにするためである。但し、β>γとして、減速度の増加量を補正する。ステップS113の次には、本制御フローはリターンされる。
【0057】
上記ステップS112において、運転者による減速度に対する不満足感の検出方法は、上記の方法に限定されない。図4−1に示すように、運転者が減速に対して満足している場合には、アクセルOFF操作後に、足Fはアクセルペダル37上で待機しているのに対して、図4−2に示すように、運転者が減速に対して不満足感を有している場合には、ブレーキペダルを踏もうかどうか迷って、足Fがアクセルペダル37上で上下に移動することがある。そこで、フットポジションセンサ36による足Fの位置の検出の結果、足Fとアクセルペダル37との距離が所定量以上離れた回数が所定回数(2〜3回)以上である場合に、運転者による減速度に対する不満足感が有ると検出することができる。
【0058】
また、運転者が減速に対して不満足感を有している場合には、ブレーキペダルを踏もうかどうか迷って、足Fがブレーキペダルに近づくことがある。そこで、フットポジションセンサ36による足Fの位置の検出の結果、足Fとブレーキペダルとの距離が予め設定された設定量以下である場合に、運転者による減速度に対する不満足感が有ると検出することができる。
【0059】
さらに、上記ステップS112において、運転者による減速度に対する不満足感の検出方法は、フットポジションセンサ36を用いた方法に限定されない。例えば、脈拍や発汗量等の生理的な指標、ステアリング把持力の強弱等に基づいて、運転者による減速度に対する不満足感を検出することができる。
【0060】
従来の減速制御においては、旋回横加速度Gyを固定して(運転者指向に応じて旋回横加速度Gyを変えることは除く)、コーナ旋回車速Vreq及び必要減速度Greqを算出して、その算出結果に基づいて減速制御が実行されていた。本実施形態では、下記の検出結果に依存して、上記旋回横加速度Gyを変更することで、減速制御の結果として出力される減速度を調整する。
【0061】
コーナ前におけるアクセルOFF操作後の減速制御中に運転者が行う動作(1)〜(3)に応じて異なる制御を行う。
(1)運転者が減速に少し不足感を持つ場合には、その運転者による減速度に対する不満足感を検出して、減速度を足す補正を行う(ステップS112−Y→ステップS113)。
(2)運転者が確実に減速不足を感じて、ブレーキをONにした場合には、減速度を上記(1)の場合に比べて多く足す補正を行う(ステップS110−Y→ステップS111)。
(3)運転者が減速が過剰であると感じて、アクセルをONにした場合には、減速制御を中止するとともに、減速度を減らす補正を行う(ステップS107−Y→ステップS108→ステップS109)。
【0062】
本実施形態によれば、減速度に対する運転者の微妙な不満足感を改善することができ、常にフィーリングの良い減速制御が実現できる。
【0063】
(第1実施形態の変形例)
次に、図5を参照して、第1実施形態の変形例について説明する。
本変形例では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0064】
上記第1実施形態(図1)では、リアルタイムに旋回横加速度Gyが補正されたが、本変形例(図5)では、次回の減速制御時に、それまでに記憶された旋回横加速度Gyに基づいて減速制御が行われる。即ち、本変形例では、前回の減速制御時に学習した旋回横加速度Gyの値に基づいて、今回の減速制御が行われる。
【0065】
減速制御中である場合(減速制御中フラグF1=1)には、ステップS302にて否定的に判定されるため、旋回横加速度Gyの読み込みは行われない。減速制御前(減速制御中フラグF1=0、ステップS302−Y)に読み込んだ旋回横加速度Gyの値に基づいて、コーナ旋回車速Vreq及び必要減速度Greqが算出され、その算出結果に基づいて、減速制御が実行される。減速制御が中止された場合(ステップS301−N、ステップS310−Y)に、減速制御中フラグF1が0にリセットされる(ステップS321、ステップS312)。
【0066】
また、旋回横加速度Gyを小さな値にする補正(ステップS316、ステップS319)が行われた場合には、Gy更新設定フラグF2が1にセットされ(ステップS317、ステップS320)、同じコーナに対する減速制御中は、それ以降、更に旋回横加速度Gyを小さな値にする補正は行われない(ステップS314−Y)。
【0067】
(第2実施形態)
次に、図6及び図7を参照して、第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0068】
上記第1実施形態(図1)では、運転者による減速度に対する不満足感が検出された場合には、旋回横加速度Gyを小さな値に変更して(ステップS113)、必要減速度Greqを大きな値に変更することで(ステップS103、ステップS104)、運転者による不満足感の低減を図った。
【0069】
これに対して、第2実施形態では、図7−1及び図7−2に示すように、運転者による減速度に対する不満足感が検出された場合(図7−2)には、そうでない場合(図7−1)に比べて、減速度の出力勾配(減速度の変化率)ΔGを大きく設定して(ΔG2>ΔG1)、初期減速度を少し大きな値に設定する。第2実施形態では、運転者による減速度に対する不満足感が検出された場合(ステップS212−Y)であっても、そうでない場合(ステップS212−N)に比べて、最終的なコーナ旋回車速Vreq及び必要減速度Greqは、変更することなく、制動力の付与の態様を変更することで、運転者の減速感に対するフィーリングを向上させる。
【0070】
図6を参照して、第2実施形態の動作について説明する。
【0071】
ステップS203では、減速度出力勾配ΔGが読み込まれ、減速度の出力勾配が設定される。これは、図7−1及び図7−2に示すように、減速度の出力勾配ΔG1、ΔG2を減速制御毎に設定するためである。減速度の不満足感が検出された場合(ステップS212−Y)には、減速度の勾配ΔGを少し大きくして(ΔG2)、減速が少し早く行われるように設定する(T3<T2)。アクセルがONにされて(ステップS207−Y)、減速制御が中止された場合(ステップS208)には、減速度出力勾配ΔGは初期化されて(ステップS209)、ΔG1にリセットされる。
【0072】
上記実施形態では、以下の技術事項が開示される。
(項1)コーナの手前で車両を減速制御する車両の駆動力制御装置において、運転者の減速度に対する不満足を検出し、その検出結果に基づいて、減速制御のゲイン(旋回横加速度Gy)を補正する。
(項2)コーナの手前で車両を減速制御する車両の駆動力制御装置において、運転者の減速度に対する不満足を検出し、その検出結果に基づいて、減速制御の減速出力勾配(ΔG)を変更する。
【0073】
なお、上記実施形態では、車両前方のコーナを通過するときに適切な車速となるような減速制御(コーナ制御)を対象として説明したが、本発明の適用対象は、コーナ制御に限定されない。本発明は、車両前方の登降坂のような道路環境に対する減速制御に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3−1】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態のフットポジションセンサ、アクセルペダル及び運転者の右足を示す側面図である。
【図3−2】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態のフットポジションセンサ、アクセルペダル及び運転者の右足を示す平面図である。
【図4−1】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態において、運転者が減速に対して満足しているときの運転者の足の状態を示す側面図である。
【図4−2】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態において、運転者が減速に対して不満足であるときの運転者の足の状態を示す側面図である。
【図5】本発明の車両の減速制御装置の第1実施形態の変形例の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の車両の減速制御装置の第2実施形態の変形例の動作を示すフローチャートである。
【図7−1】本発明の車両の減速制御装置の第2実施形態において、運転者が減速に対して満足しているときの減速度の勾配を示すタイムチャートである。
【図7−2】本発明の車両の減速制御装置の第2実施形態において、運転者が減速に対して不満足であるときの減速度の勾配を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0075】
11 エンジン
13 自動変速機
17 A/T油圧制御装置
18 ブレーキ装置
19 ブレーキ油圧制御装置
20 ECU
21 アクセルポジションセンサ
27 スロットル開度センサ
28 エンジン回転数センサ
29 車速センサ
30 シフトポジションセンサ
31 加速度センサ
32 ブレーキ操作量センサ
33 ステアリング舵角センサ
34 方向指示器スイッチ
35 運転モード設定スイッチ
36 フットポジションセンサ
50 ナビゲーション装置
54 位置検出部
55 地図データベース
56 運転履歴記録部
60 ECU
61 コーナ検出部
71 カメラ
72 道路状況検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の道路環境を検出する手段と、
前記道路環境に基づいて目標車速又は必要減速度を設定する手段と、
前記目標車速又は必要減速度に基づいて車両の減速制御を行う手段と、
前記減速制御による減速度に対する運転者の不満足感を検出または推定する不満足感検出/推定手段とを備え、
前記不満足感検出/推定手段による検出又は推定結果に基づいて、前記目標車速又は必要減速度を補正する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項2】
車両前方の道路環境を検出する手段と、
前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、
前記減速制御による減速度に対する運転者の不満足感を検出または推定する不満足感検出/推定手段とを備え、
前記不満足感検出/推定手段による検出又は推定結果に基づいて、前記減速制御による減速度の変化割合を補正する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の減速制御装置において、
前記不満足感検出/推定手段は、車両の駆動力を操作するための手段と運転者との位置関係を検出する手段を含む
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項4】
車両前方の道路環境を検出する手段と、
前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、
アクセルペダルと運転者との距離を検出又は推定する手段と、
前記アクセルペダルと前記運転者との距離が予め設定された所定値以上である場合には、前記所定値未満である場合に比べて、より大きな減速度、又はより変化割合の大きな減速度が発生するように補正する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項5】
車両前方の道路環境を検出する手段と、
前記道路環境に対応して車両の減速制御を行う手段と、
ブレーキペダルと運転者との距離を検出又は推定する手段と、
前記ブレーキペダルと前記運転者との距離が予め設定された設定値未満である場合には、前記設定値以上である場合に比べて、より大きな減速度、又はより変化割合の大きな減速度が発生するように補正する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両の減速制御装置において、
前記補正は、前記減速制御の実行中にリアルタイムで行われる
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両の減速制御装置において、
前記補正は、次回の前記減速制御のときに行われる
ことを特徴とする車両の減速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公開番号】特開2007−50795(P2007−50795A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237901(P2005−237901)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】