説明

パワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】出力軸に伝達されるトルクが反転することにより生じるショックを低減する。
【解決手段】ECUは、MG(2)を用いた回生制動が不可能であると、MG(2)を用いた回生制動を制限するステップ(S120)と、エンジンにおいて燃料噴射を停止するフューエルカットを実行するステップ(S130)と、アップシフトを行なうと判断され(S140にてYES)、かつエンジンおよびMG(1)により出力軸に伝達されるトルクが車両を減速させるトルクであると(S150にてYES)、フューエルカットから復帰するようにエンジンを制御するステップ(S160)と、車両を減速させないトルクが出力軸に伝達されるように、エンジンおよびMG(1)を制御するステップ(S170)と、変速機がアップシフトを行なうように制御するステップ(S180)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関し、特に、車輪に連結された出力軸にトルクを伝達する駆動源と、変速機を介して出力軸にトルクを伝達する回転電機とを有するパワートレーンを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータ等の回転電機から出力されたトルクによりエンジンをアシストしたり、車両を走行させたりするハイブリッド車が知られている。このようなハイブリッド車においては、回転電機から出力されたトルクを、複数の変速段(変速比)を有する変速機を介して車輪に伝達するものもある。
【0003】
ところで、回転電機から出力されたトルクを変速機を介して車輪に伝達するようにした場合、変速機における変速の際、トルクが伝達されない状態が一時的に生じ得る。そこで、トルクが連続的に伝達されるように構成されたハイブリッド車が提案されている。
【0004】
特開2002−225578号公報(特許文献1)は、複数の駆動力源の動力を車輪に伝達する経路の少なくとも一部が共通化されているとともに、複数の駆動力源のうちの所定の駆動力源(回転電機)から出力された動力を車輪に伝達する経路に、2つの回転部材の間の動力伝達状態を変更する動力伝達状態制御装置(変速機)が設けられているハイブリッド車を開示する。動力伝達状態制御装置は、所定の駆動力源以外の駆動力源の動力を車輪に伝達する経路以外の経路に配置されている。動力伝達状態制御装置は、2つの回転部材同士の変速比および2つの回転部材の間の動力の伝達経路の少なくとも一方を変更できるように構成される。
【0005】
この公報に記載のハイブリッド車によれば、所定の駆動力源の動力を車輪に伝達するにあたり、2つの回転部材の間の動力の伝達状態を変更する場合でも、所定の駆動力源以外の駆動力源の動力が車輪に伝達される。これにより、車輪に伝達されるトルクの低下が抑制される。
【特許文献1】特開2002−225578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に、ハイブリッド車においては、減速時に回転電機を発電機として作動せしめて、電気エネルギを回収する回生制動が行なわれる。しかしながら、バッテリなどのSOC(State Of Charge)が高い状態であれば、発電された電力を蓄電することができないため、回転電機を用いた発電、すなわち回生制動が制限される。回転電気を用いた発電が制限された状態においては、車両の制動力を確保するために、たとえばエンジンにおいてフューエルカットが行なわれる。このような状態において、特開2002−225578号公報に記載のハイブリッド車のように回転電機と出力軸との間に変速機が設けられた車両において、変速機の変速を行ない、回転電機の出力軸回転数が減少されると、回転電機のイナーシャトルクが出力軸に作用し得る。このとき、変速機と車輪との間に設けられるディファレンシャルギヤなどにおけるバックラッシュが詰められる(ギヤ間の隙間が詰められる)。そのため、ギヤ同士が衝突し、ショックが発生し得る。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ショックを低減することができるパワートレーンの制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係るパワートレーンの制御装置は、車輪に連結された出力軸にトルクを伝達する駆動源と、変速機を介して出力軸にトルクを伝達する回転電機とを有するパワートレーンの制御装置である。この制御装置は、回転電機を用いた発電を制限するための手段と、回転電機を用いた発電が制限されている状態において、車両を減速させるトルクが駆動源から出力軸に伝達されている場合、車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されるように駆動源を制御するための制御手段と、車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されている状態において変速するように変速機を制御するための手段とを含む。第5の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第1の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0009】
第1または第5の発明によると、変速機を介して出力軸にトルクを伝達する回転電機を用いた発電が制限される。回転電機を用いた発電が制限されている状態において、車両を減速させるトルクが駆動源から出力軸に伝達されている場合、車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されるように駆動源が制御される。車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されている状態において変速するように変速機が制御される。
これにより、変速機の変速により回転電機の回転数が減少されて、車両を加速する方向、すなわち減速させない方向への回転電機のイナーシャトルクが出力軸に作用した場合に、出力軸に作用するトルクの向きが反転することがないようにすることができる。そのため、変速機と車輪との間に設けられるディファレンシャルギヤなどのバックラッシュが詰められる際に発生するショックを低減することができる。その結果、ショックを低減することができるパワートレーンの制御装置または制御方法を提供することができる。
【0010】
第2の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1の発明の構成に加え、車両には、車両に制動力を付与する制動機構が設けられる。制御装置は、車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されるように駆動源が制御された場合、制動機構による制動力が増大するように制御するための手段をさらに含む。第6の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第2の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0011】
第2または第6の発明によると、車両には、車両に制動力を付与する制動機構が設けられる。車両を減速させないトルクが駆動源から出力軸に伝達されるように駆動源が制御された場合、制動機構による制動力が増大される。これにより、ショックの低減と車両の減速とを両立することができる。
【0012】
第3の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1または2の発明の構成に加え、駆動源は、内燃機関および回転電機のうちの少なくともいずれか一方を含む。第7の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第3の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0013】
第3または第7の発明によると、内燃機関および回転電機のうちの少なくともいずれか一方が駆動源として用いられるパワートレーンにおいてショックを低減することができる。
【0014】
第4の発明に係るパワートレーンの制御装置においては、第1または2の発明の構成に加え、駆動源は、内燃機関を含む。制御手段は、回転電機を用いた発電が制限されている状態において、内燃機関における燃料噴射が停止していることにより車両を減速させるトルクが駆動源から出力軸に伝達されている場合、内燃機関における燃料噴射を再開して車両を減速させないトルクが内燃機関から出力軸に伝達されるように内燃機関を制御するための手段を含む。第8の発明に係るパワートレーンの制御方法は、第4の発明に係るパワートレーンの制御装置と同様の要件を備える。
【0015】
第4または第8の発明によると、内燃機関が駆動源として用いられる。回転電機を用いた発電が制限されている状態において、内燃機関における燃料噴射が停止していることにより車両を減速させるトルクが駆動源から出力軸に伝達されている場合、内燃機関における燃料噴射を再開して車両を減速させないトルクが内燃機関から出力軸に伝達されるように内燃機関が制御される。これにより、内燃機関を用いて、車両を減速させないトルクを出力軸に伝達することができる。そのため、変速機と車輪との間に設けられるディファレンシャルギヤなどのバックラッシュが詰められる際に発生するショックを低減することができる。
【0016】
第9の発明に係るプログラムは、第5〜8のいずれかの発明に係るパワートレーンの制御方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、第10の発明に係る記録媒体は、第5〜8のいずれかの発明に係るパワートレーンの制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0017】
第9または第10の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第5〜8のいずれかの発明に係るパワートレーンの制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載したハイブリッド車のパワートレーンについて説明する。なお、本実施の形態に係る制御装置は、たとえば、ECU(Electronic Control Unit)1000のROM(Read Only Memory)1002に記憶されたプログラムをECU1000実行することにより実現される。
【0020】
図1に示すように、パワートレーンは、エンジン100と、MG(Motor Generator)(1)200と、これらエンジン100とMG(1)200との間でトルクを合成もしくは分配する動力分割機構300と、MG(2)400と、変速機500とを主体として構成されている。
【0021】
エンジン100は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、たとえば、マイクロコンピュータを主体とするECU1000によって行なわれる。
【0022】
MG(1)200は、一例として三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを生じるように構成される。インバータ210を介してバッテリなどの蓄電装置700に接続されている。インバータ210を制御することにより、MG(1)200の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。その制御は、ECU1000によって行なわれる。なお、MG(1)200のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0023】
動力分割機構300は、外歯歯車であるサンギヤ(S)310と、そのサンギヤ(S)310に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(R)320と、これらサンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリア(C)330とを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。エンジン100のクランクシャフトがダンパ110を介して第1の回転要素であるキャリア(C)330に連結されている。
【0024】
これに対して第2の回転要素であるサンギヤ(S)310にMG(1)200のロータ(図示せず)が連結されている。したがってサンギヤ(S)310がいわゆる反力要素となっており、また第3の回転要素であるリングギヤ(R)320が出力要素となっている。そして、そのリングギヤ(R)320が、変速機500の出力軸600に連結されている。変速機500の出力軸600は、ディファレンシャルギヤ602を介して車輪604に連結されている。
【0025】
図2に、動力分割機構300の共線図を示す。図2に示すように、キャリア(C)330に入力されるエンジン100の出力するトルクに対して、MG(1)200による反力トルクをサンギヤ(S)310に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)320に現れる。その場合、MG(1)200のロータがそのトルクによって回転し、MG(1)200は発電機として機能する。また、リングギヤ(R)320の回転数(出力回転数)を一定とした場合、MG(1)200の回転数を大小に変化させることにより、エンジン100の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン100の回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、MG(1)200を制御することによって行なうことができる。その制御は、ECU1000によって行なわれる。
【0026】
走行中にエンジン100を停止させていれば、MG(1)200が逆回転しており、その状態からMG(1)200を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリア(C)330に連結されているエンジン100にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、MG(1)200によってエンジン100を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。その場合、出力軸600にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、MG(2)400の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン100の始動を円滑におこなうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0027】
図1に戻って、MG(2)400は、一例として三相交流回転電機であって、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成される。インバータ410を介してバッテリなどの蓄電装置700接続されている。インバータ410を制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。なお、MG(2)400のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0028】
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。それぞれ外歯歯車である第1サンギヤ(S1)510と第2サンギヤ(S2)520とが設けられており、その第1サンギヤ(S1)510に第1のピニオン531が噛合するとともに、その第1のピニオン531が第2のピニオン532に噛合し、その第2のピニオン532が各サンギヤ510,520と同心円上に配置されたリングギヤ(R)540に噛合している。
【0029】
なお、各ピニオン531,532は、キャリア(C)550によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ(S2)520が第2のピニオン532に噛合している。したがって第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R)540とは、第2のピニオン532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0030】
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。これらのブレーキ561,562は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合要素であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキ561,562は、油圧による係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ(S2)520に前述したMG(2)400が連結される。キャリア(C)550が出力軸600に連結される。
【0031】
したがって、上記の変速機500は、第2サンギヤ(S2)520がいわゆる入力要素であり、またキャリア(C)550が出力要素となっており、B1ブレーキ561を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定される。B1ブレーキ561に替えてB2ブレーキ562を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定される。
【0032】
この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
【0033】
図3に、変速機500の共線図を示す。図3に示すように、B2ブレーキ562によってリングギヤ(R)540を固定すれば、低速段Lが設定され、MG(2)400の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸600に付加される。これに対してB1ブレーキ561によって第1サンギヤ(S1)510を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、MG(2)400の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸600に付加される。
【0034】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸600に付加されるトルクは、MG(2)400の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキ561,562でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸600に付加されるトルクは、MG(2)400の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0035】
このハイブリッド車には、図4に示すように、前述した各ブレーキ561,562に対して油圧を給排してその係合・解放の制御をおこなう油圧制御装置800が設けられている。
【0036】
この油圧制御装置800は、機械式オイルポンプ810と電動オイルポンプ820と、これらのオイルポンプ810,820で発生させた油圧をライン圧に調圧(調整)するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧を各ブレーキ561,562に対して給排し、かつ適宜の箇所に潤滑のためのオイルを供給する油圧回路830とを備えている。
【0037】
機械式オイルポンプ810は、エンジン100によって駆動されて油圧を発生するポンプであって、たとえばダンパ110の出力側に同軸上に配置され、エンジン100からトルクを受けて動作するようになっている。これに対して電動オイルポンプ820は、モータ(図示せず)によって駆動されるポンプであって、ケーシング(図示せず)の外部などの適宜の箇所に取り付けられ、バッテリなどの蓄電装置から電力を受けて動作し、油圧を発生するようになっている。電動オイルポンプ820は、所望の油圧を発生するように、ECU1000により制御される。たとえば、電動オイルポンプ820の回転数等がフィードバック制御される。
【0038】
油圧回路830は、複数のソレノイドバルブや切換バルブあるいは調圧バルブ(それぞれ図示せず)を備え、調圧や油圧の給排を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、ECU1000により行なわれる。油圧回路内を流通する作動油の温度(以下、油温とも記載する)は、油温センサ1010により検出され、検出結果を表す信号がECU1000に送信される。
【0039】
なお、各オイルポンプ810,820の吐出側には、それぞれのオイルポンプ810,820の吐出圧で開き、これとは反対方向には閉じる逆止弁812,822が設けられ、かつ油圧回路830に対してこれらのオイルポンプ810,820は互いに並列に接続されている。
【0040】
ライン圧を調圧するソレノイドバルブ832は、吐出量を増大させてライン圧を第1油圧P(1)まで高くする高圧状態と、これとは反対に吐出量を第2油圧P(2)まで減じてライン圧を低くする低圧状態の二つの状態にライン圧を制御する。
【0041】
上述したパワートレーンは、エンジン100とMG(2)400との二つの動力源を備えているので、これらを有効に利用して低燃費で排ガス量の少ない運転がおこなわれる。またエンジン100を駆動する場合であっても、MG(1)200によって最適燃費となるようにエンジン100の回転数が制御される。さらに、コースト時には車両の有する慣性エネルギーが電力として回生される。そして、MG(2)400を駆動してトルクアシストする場合、車速が遅い状態では変速機500を低速段Lに設定して出力軸600に付加するトルクを大きくし、車速が増大した状態では、変速機500を高速段Hに設定してMG(2)400の回転数を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストが実行される。
【0042】
上述したハイブリッド車は、エンジン100の動力による走行、エンジン100とMG(2)400とを使用した走行、MG(2)400のみを使用した走行のいずれもが可能である。これらの走行形態は、アクセル開度などの駆動要求量、車速、エンジン回転数、シフトレバー(図示せず)の位置(シフトポジション)などに基づいて判断され、選択される。
【0043】
図1に示すように、アクセル開度センサ1020によりアクセル開度が検出される。車速センサ1030により車速が検出される。エンジン回転数センサ1040によりエンジン回転数が検出される。シフトポジションセンサ1050によりシフトポジションが検出される。
【0044】
さらに、MG(1)回転数センサ1060によりMG(1)200の回転数が検出される。MG(2)回転数センサ1070によりMG(2)400の回転数が検出される。電流センサ1080により蓄電装置700の充放電電流値が検出される。温度センサ1090により蓄電装置700の温度が検出される。
【0045】
図5を参照して、ハイブリッド車に制動力を付与するブレーキシステム900について説明する。ブレーキペダル902は、マスターシリンダ904に連結されている。ブレーキペダル902を操作すると、ブレーキ操作量に応じた油圧がマスターシリンダ904で発生する。
【0046】
マスターシリンダ904で発生した油圧は、ECU1000により制御されるブレーキアクチュエータ906を介して各車輪に設けられたキャリパ911〜914に供給される。すなわち、ブレーキペダル902が操作された場合は、マスターシリンダ904で発生した油圧をキャリパ911〜914に供給するようにブレーキアクチュエータ906が制御される。各キャリパ911〜914に油圧が供給されることにより、車両に制動力が付与される。
【0047】
各キャリパ911〜914には、ブレーキペダル902の操作量に応じた油圧の他、ブレーキアクチュエータ906において発生した油圧が供給される。ブレーキアクチュエータ906は、ソレノイドバルブと、ポンプ908とを含む。
【0048】
ソレノイドバルブの開閉が制御されることにより、ポンプ908で発生した油圧を各キャリパ911〜914に供給したり、各キャリパ911〜914から油圧を排出したりして、ブレーキ油圧、すなわち各車輪の制動力が制御される。各キャリパ911〜914の作動量は油圧に応じた作動量になる。なお、油圧で作動するキャリパの代わりに、電力で作動するキャリパを設けるようにしてもよい。
【0049】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の機能について説明する。なお、以下に説明する機能は、ハードウェアにより実現するようにしてもよく、ソフトウェアにより実現するようにしてもよい。
【0050】
ECU1000は、発電制限部1100と、フューエルカット実行部1110と、変速判断部1120と、トルク判断部1130と、フューエルカット復帰部1140と、トルク制御部1150と、制動力増大部1160と、変速部1170とを含む。
【0051】
発電制限部1100は、たとえば蓄電装置700の充放電電流値から算出されるSOCがしきい値Aより高い場合、温度がしきい値Bより高い場合、温度がしきい値Cより低い場合などにおいて、MG(2)400を用いた回生制動を制限する。すなわち、MG(2)400を用いた発電が制限される(行なわれない)。
【0052】
フューエルカット実行部1110は、MG(2)400を用いた回生制動が制限された場合、エンジン100において燃料噴射を停止するフューエルカットを実行する。変速判断部1120は、変速機500において変速を行なうか否かを判断する。
【0053】
トルク判断部1130は、MG(2)400を用いた回生制動が制限され、かつフューエルカットが実行された状態において、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが車両を減速させるトルクであるか、減速させないトルクであるかを判断する。すなわち、車両を加速させる方向のトルクを正値、車両を減速させる方向のトルクを負値として表わすと、トルク判断部1130は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが負値であるか「0」以上であるかを判断する。
【0054】
エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクは、たとえばエンジン回転数およびMG(1)200の回転数などをパラメータとしたマップにしたがって算出される。なお、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクを算出する方法には、周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではさらなる詳細な説明は繰返さない。
【0055】
フューエルカット復帰部1140は、変速機500のアップシフトを行なうと判断され、かつエンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが負値であると、フューエルカットから復帰するようにエンジン100を制御する。
【0056】
トルク制御部1150は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるように、すなわち、車両を減速させないトルクがエンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるように、エンジン100およびMG(1)200を協調させて制御する。エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクは、「0」以上になるまで漸増される(車両を減速させる方向のトルクは漸減される)。
【0057】
なお、エンジン100のみを用いて出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるようにしてもよく、MG(1)200のみを用いて出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるようにしてもよい。
【0058】
変速部1160は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるように、エンジン100およびMG(1)200が制御された状態において、変速機500が変速(アップシフト)を行なうように制御する。
【0059】
制動力増大部1170は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるように、エンジン100およびMG(1)200が制御された状態において、ブレーキシステム900による制動力が増大するように、ブレーキアクチュエータ906を制御する。
【0060】
図7を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは予め定められた周期で繰返される。
【0061】
ステップ(以下、ステップをSと略す)110にて、ECU1000は、MG(2)400を用いた回生制動が不可能であるか否かを判断する。たとえば蓄電装置700のSOCがしきい値Aより高い場合、温度がしきい値Bより高い場合、温度がしきい値Cより低い場合などにおいて、MG(2)400を用いた回生制動が不可能であると判断される。
【0062】
MG(2)400を用いた回生制動が不可能であると(S110にてYES)、処理はS120に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、この処理は終了する。S120にて、ECU1000は、MG(2)400を用いた回生制動を制限する。S130にて、ECU1000は、エンジン100において燃料噴射を停止するフューエルカットを実行する。
【0063】
S140にて、ECU1000は、変速機500においてアップシフトを行なうか否かを判断する。アップシフトを行なうと判断されると(S140にてYES)、処理はS150に移される。もしそうでないと(S140にてNO)、この処理は終了する。
【0064】
S150にて、ECU1000は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが車両を減速させるトルクであるか否か、すなわち、出力軸600に伝達されるトルクが負値であるか否かを判断する。エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが負値であると(S150にてYES)、処理はS160に移される。もしそうでないと(S150にてNO)、この処理は終了する。
【0065】
S160にて、ECU1000は、フューエルカットから復帰するようにエンジン100を制御する。S170にて、ECU1000は、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるまで漸増するように、すなわち、車両を減速させないトルクがエンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるように、エンジン100およびMG(1)200を制御する。
【0066】
S180にて、ECU1000は、変速機500がアップシフトを行なうように制御する。S190にて、ブレーキシステム900による制動力が増大するように、ブレーキアクチュエータ906を制御する。
【0067】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の動作について説明する。なお、以下の説明においては、降坂路を走行中にアクセル開度が低開度である、すなわち駆動力が負であるものの車両が加速していき、低速段Lから高速段Hに変速する場合を想定する。
【0068】
MG(2)400を用いた回生制動が不可能であると(S110にてYES)、MG(2)400を用いた回生制動が制限される(S120)。
【0069】
この場合において、車両の制動力を確保するため、エンジン100において燃料噴射を停止するフューエルカットが実行される(S130)。これにより、エンジン100を負荷として用いて、ハイブリッド車を減速させる方向のトルクを出力軸600に伝達することができる。そのため、エンジン100を利用して車両に制動力を付与することができる。
【0070】
このとき、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが負値になり得る。この状態で、図8の時間T(1)において変速機500においてアップシフトがなされ、MG(2)400の回転数が低下されると、ハイブリッド車を加速させる方向へのMG(2)400のイナーシャトルクが出力軸600に伝達され得る。
【0071】
このとき、出力軸600に伝達されるトルクが負値から正値に反転する。出力軸600に伝達されるトルクが負値から正値に反転すると、変速機500と車輪604との間に設けられたディファレンシャルギヤ602などのバックラッシュが急激に詰められて、ショックが発生し得る。
【0072】
そこで、変速機500においてアップシフトを行なうと判断され(S140にてYES)、かつエンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが負値であると(S150にてYES)、図9の時間T(2)において、フューエルカットから復帰するようにエンジン100が制御される(S160)。さらに、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるまで漸増するように、エンジン100およびMG(1)200が制御される(S170)。
【0073】
この状態で、図9の時間T(3)において変速機500がアップシフトを行なうように制御される(S180)。これにより、アップシフト時において出力軸600に伝達されるトルクが負値から正値に反転しないようにすることができる。そのため、アップシフト時に発生し得るショックを低減することができる。
【0074】
ところで、エンジン100およびMG(1)200により出力軸600に伝達されるトルクが「0」以上になるまで漸増するように、エンジン100およびMG(1)200が制御されると、エンジン100による車両の制動力が不足し得る。そこで、ブレーキシステム900による制動力が増大するように、ブレーキアクチュエータ906が制御される(S190)。これにより、車両の制動力を確保することができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、MG(2)を用いた回生制動が制限された状態で、MG(2)と出力軸との間に設けられた変速機においてアップシフトを行なうと判断され、かつエンジンおよびMG(1)により出力軸に伝達されるトルクが負値であると、エンジンがフューエルカットから復帰する。さらに、エンジン100およびMG(1)200により出力軸に伝達されるトルクが「0」以上になるまで漸増するように、エンジンおよびMG(1)が制御される。エンジン100およびMG(1)200により出力軸に伝達されるトルクが「0」以上である状態で、変速機がアップシフトを行なうように制御される。これにより、アップシフト時において出力軸に伝達されるトルクが負値から正値に反転しないようにすることができる。すなわち、出力軸に伝達されるトルクの方向が反転しないようにすることができる。そのため、変速機と車輪との間に設けられたディファレンシャルギヤなどのバックラッシュが詰められる際に発生し得るショックを低減することができる。
【0076】
なお、本発明が適用される車両は、動力分割機構300を介してトルクを出力軸600に伝達するエンジン100およびMG(1)と、変速機500を介してトルクを出力軸600に伝達するMG(2)とを備えたハイブリッド車に限らない。その他、変速比を変化し得る変速機を介してトルクを出力軸に伝達するモータと、このモータとは異なる駆動源を備えた車両であって、同様の課題を有しうる車両に本発明を適用することができる。
【0077】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】ハイブリッド車のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】動力分割機構の共線図である。
【図3】変速機の共線図(その1)である。
【図4】ハイブリッド車の油圧制御装置を示す図である。
【図5】ハイブリッド車のブレーキシステムを示す図である。
【図6】ECUの機能ブロック図である。
【図7】ECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図8】MG(2)の回転数、トルクおよび加速度の推移を示すタイミングチャート(その1)である。
【図9】MG(2)の回転数、トルクおよび加速度の推移を示すタイミングチャート(その2)である。
【符号の説明】
【0079】
100 エンジン、110 ダンパ、210,410 インバータ、200 MG(1)、300 動力分割機構、310 サンギヤ(S)、320 リングギヤ(R)、330 キャリア(C)、400 MG(2)、500 変速機、510 第1サンギヤ(S1)、520 第2サンギヤ(S2)、531 第1のピニオン、532 第2のピニオン、540 リングギヤ(R)、550 キャリア(C)、561 B1ブレーキ、562 B2ブレーキ、600 出力軸、602 ディファレンシャルギヤ、604 車輪、700 蓄電装置、800 油圧制御装置、810 機械式オイルポンプ、812,822 逆止弁、820 電動オイルポンプ、830 油圧回路、832 ソレノイドバルブ、900 ブレーキシステム、902 ブレーキペダル、904 マスターシリンダ、906 ブレーキアクチュエータ、908 ポンプ、911,912,913,914 キャリパ、1000 ECU、1010 油温センサ、1020 アクセル開度センサ、1030 車速センサ、1040 エンジン回転数センサ、1050 シフトポジションセンサ、1100 発電制限部、1110 フューエルカット実行部、1120 変速判断部、1130 トルク判断部、1140 フューエルカット復帰部、1150 トルク制御部、1160 変速部、1170 制動力増大部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に連結された出力軸にトルクを伝達する駆動源と、変速機を介して前記出力軸にトルクを伝達する回転電機とを有するパワートレーンの制御装置であって、
前記回転電機を用いた発電を制限するための手段と、
前記回転電機を用いた発電が制限されている状態において、車両を減速させるトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている場合、前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されるように前記駆動源を制御するための制御手段と、
前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている状態において変速するように前記変速機を制御するための手段とを含む、パワートレーンの制御装置。
【請求項2】
前記車両には、前記車両に制動力を付与する制動機構が設けられ、
前記制御装置は、前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されるように前記駆動源が制御された場合、前記制動機構による制動力が増大するように制御するための手段をさらに含む、請求項1に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項3】
前記駆動源は、内燃機関および回転電機のうちの少なくともいずれか一方を含む、請求項1または2に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項4】
前記駆動源は、内燃機関を含み、
前記制御手段は、前記回転電機を用いた発電が制限されている状態において、前記内燃機関における燃料噴射が停止していることにより車両を減速させるトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている場合、前記内燃機関における燃料噴射を再開して前記車両を減速させないトルクが前記内燃機関から前記出力軸に伝達されるように前記内燃機関を制御するための手段を含む、請求項1または2に記載のパワートレーンの制御装置。
【請求項5】
車輪に連結された出力軸にトルクを伝達する駆動源と、変速機を介して前記出力軸にトルクを伝達する回転電機とを有するパワートレーンの制御方法であって、
前記回転電機を用いた発電を制限するステップと、
前記回転電機を用いた発電が制限されている状態において、車両を減速させるトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている場合、前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されるように前記駆動源を制御するステップと、
前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている状態において変速するように前記変速機を制御するステップとを含む、パワートレーンの制御方法。
【請求項6】
前記車両には、前記車両に制動力を付与する制動機構が設けられ、
前記制御方法は、前記車両を減速させないトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されるように前記駆動源が制御された場合、前記制動機構による制動力が増大するように制御するステップをさらに含む、請求項5に記載のパワートレーンの制御方法。
【請求項7】
前記駆動源は、内燃機関および回転電機のうちの少なくともいずれか一方を含む、請求項5または6に記載のパワートレーンの制御方法。
【請求項8】
前記駆動源は、内燃機関を含み、
前記駆動源を制御するステップは、前記回転電機を用いた発電が制限されている状態において、前記内燃機関における燃料噴射が停止していることにより車両を減速させるトルクが前記駆動源から前記出力軸に伝達されている場合、前記内燃機関における燃料噴射を再開して前記車両を減速させないトルクが前記内燃機関から前記出力軸に伝達されるように前記内燃機関を制御するステップを含む、請求項5または6に記載のパワートレーンの制御方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラム。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−143404(P2008−143404A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334381(P2006−334381)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】