説明

プラズマプロセス用装置

【技術課題】 基板に損傷や表面汚染を与えることなく、エッチングや成膜が行え、チャンバや電極等の構造は同一であるにも拘らず、導入するガスやプラズマ励起周波数を変えることにより、エッチングや成膜にも応用可能であり、生産性に優れるとともに、低価格で高性能なプラズマプロセス用装置を提供すること。
【解決手段】 容器内105に対向するように設けられ夫々平板状に形成された第1及び第2電極102,104と、プラズマに対して安定な材料から成り第1電極102上を覆うように設けられる保護部材101と、第2電極104上に被処理物103を取り付けるための保持手段と、第1電極102に接続される第1の高周波電源111と、第2電極104に接続される第2の高周波電源110と、容器105内に所望のガスを導入するためのガス供給手段とを少くとも備え、第1の高周波電源の周波数が前記第2の高周波電源の周波数より高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、各種のプラズマプロセス、例えばリアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマ化学気相堆積(PCVD)等を行うために用いられる装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、低温で各種プロセスを進行させるために、減圧された容器内でプラズマを発生させ、該プラズマ雰囲気中で集積回路の基板等の被処理物の各種プロセスを行うようにした装置技術が多く開発されている。例えば、集積回路の各種薄膜(Al,W,Ta等の導電性薄膜、 poly−Si,Si等の半導体薄膜、あるいはSiO2,Si34,Al23等の絶縁薄膜)を、異方性をもたせてエッチングするようにしたRIE(Reactive Ion Etching)法、その他Al(CH33,AlH(CH32等を原料ガスとし、これをプラズマ中にてAl(CH32やAl(CH3)に分解し、これを基板に吸着させた後、表面反応によりAlを堆積させるPCVD成膜等がある。
【0003】前記RIE法とは、真空容器内に励起活性種を生成するもの、例えば、CF42,CCl4,Cl2,CF2Cl2等のガス(以下、励起活性種源ガスという)を導入し、基体の保持手段としてのサセプタに直流または高周波電力を加え、グロー放電を起こさせてプラズマを発生させ、プラズマ中に生成したイオンと励起活性種とを同時に被エッチング面に作用せしめ、物理的かつ化学的にエッチングを行なう方法であり、この方法によればマスク材料であるホトレジストとの選択比を大きく保ちながら異方性エッチングを実現できる。
【0004】高周波入力によるグロー放電でも、基体表面はプラズマに対し直流的には負にバイアス(これを自己バイアスという)されるが、この自己バイアス電圧とプラズマ電位の差の電位によって加速されたイオンが基体表面に衝突して基体表面に吸着している励起活性種との作用により基体の表面をエッチングする。
【0005】図12は、従来用いられている代表的なリアクティブイオンエッチング装置の断面構造の模式図を示すものである。503は被エッチング面を有する基体、例えば半導体ウエーハあるいはガラス、石英、金属等から成る基体、504はサセプタ電極である。サセプタ電極504には整合回路を介して高周波電力が供給されており、真空容器(チャンバ)505は通常安全のためにアースされている。ここで、高周波電源(RF電源)は、その出力周波数が13.56MHzのものを用いるのが普通である。なお、サセプタ電極504の上方に対向させて平板状電極を設けた構造のものも多い。
【0006】実際の装置では、上記構成以外に、真空容器505内の真空引き用及びガス排気用の排気ユニット、真空容器505内へのガスの導入口、基体503の出し入れのための機構等を備えているが、同図では説明を簡略にするため省略されている。
【0007】半導体ウエーハ等の基体503及びサセプタ電極504の表面は、サセプタ電極504に加えられたRF電力のためにプラズマに対し直流的に負の自己バイアスがかかり、この電圧で加速されたイオンが基体表面に作用し表面反応を促進して基体の被エッチング面がエッチングされる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記RIE装置の場合、一般に、エッチング速度を高める場合には、高周波電力を大きくすることによりプラズマ密度を高める必要がある。
【0009】しかし、従来の装置においては、高周波電力を大きくすると、電極の自己バイアスも大きくなり、同時にプラズマ電位も高くなる。その結果、基板には、この大きな自己バイアスとプラズマ電位の差の電圧によって加速された大きなエネルギーを有するイオンが照射される。従って、下記のような問題を生じさせる。
【0010】■照射イオンエネルギーが大きくなるとレジストのエッチングをも行ってしまい、パターン寸法の変化をもたらし、その結果、微細加工が正確に行えなくなってしまう。特に、レジストの厚さが、0.5μm程度あるいはそれ以下となるような今後の高集積化素子においてかかる現象は顕著に表われる。
【0011】■大きなエネルギーをもったイオンが照射されるため、下地材料に損傷(ダメージ)を与え、かかかる材料により構成された素子の性能及び信頼性の低下を招来させる。特に、リーク電流増大、耐圧劣化といった重大な障害を引き起こすことになる。
【0012】■プラズマ電位が通常+50〜100V程度となるため、チャンバ内表面にプラズマ電位で決まるイオンが衝突することになり、この高いエネルギーのイオン衝突により、チャンバ内表面がスパッタされ、チャンバ構成材料、たとえばFe,Ni,Cr,Cu等が基板表面を汚染する。すなわち、高エネルギーイオン衝突による、チャンバ構成材料の基板表面汚染である。基板表面がこうした重金属で汚染されると、次の高温工程で基板表面に欠陥を生じたり、リーク電流を大きくしたりするため、デバイスの特性を著しく劣化させる。
【0013】また、従来の装置では高周波電源の周波数として13.56MHzのものを使用しているが、13.56MHzというようにプラズマ励起周波数が低いと、チャンバ内ガス圧力や高周波電力が一定でも電極に生じる直流の自己バイアスは、負で大きくなる。図7は、対向する電極間隔を3cm、円板電極直径を10cm、Arガス圧力を5×10-3Torr、高周波電力を50Wとしたときにおける、電流・電圧特性を示すものである。同図において横軸は電極に印加する直流負電圧、縦軸は電極に流れる電流である。電流が負の値であることは、電子が電極に流れ込むことを意味し、電流が正であることは、正のイオンが電極に流れ込んでいることを意味する。電流が0のときの負電圧が、電極の自己バイアスに相当する。これは、通常、電極にはコンデンサを介して高周波電力が供給され、直流電流は流れないからである。
【0014】図7から理解できるように、電極の自己バイアスは、高周波電力の周波数が14MHz,40.68MHz,100MHzのときに、夫々、−400V,−260V,−90Vとなる。すなわち、電極構造やガス圧力及び電力が一定に保たれても、電極の負の自己バイアスは周波数が高くなるにつれて、次第に小さくなっていく。
【0015】図8はその詳細を示したものである。すなわち、チャンバ内のArガス圧力が7×10-3Torr、高周波電力が100W、電極間隔が3cm、電極直径が10cmのときに、プラズマ励起の高周波電力の高周波を10MHzから210MHzまで変化させた場合、電極の自己バイアスがどのように変化するかを示したものであり、周波数が高くなると、負の自己バイアスは急激に小さくなる。図8には、プラズマ電位も同時に示されており、このプラズマ電位は、周波数が10MHz〜210MHzと変っても、ほとんど+20Vに保たれている。
【0016】LSIの超微細化・超高集積化が進むと、コンタクトホールやヴィアホールのアスペクト比は次第に大きくなって行く。すなわち、細くて深い穴を制御性よくかつ再現性よくエッチングすることが要求される。エッチング室のガス圧力を低く(例えば、10-3Torr台)設定して、分子の平均自由行程を長くすることが必要である。ガス圧力が低くなった状態でも、十分に高濃度のプラズマを生成しスループットを高くするためには、放電励起の周波数は高い方が望ましい。ただし、サセプタ電極504の直径に比べて放電励起の周波数の波長が短くなることは望ましくない。高次モードの放電が起って、電極内に均一な密度のプラズマが励起されず均一なエッチング性能が得られないからである。
【0017】すなわち、従来の装置においては、プラズマ密度、すなわちイオン照射量及び照射イオンエネルギーを夫々独立にかつ直接的に制御することができず、前記励起活性種源ガスの圧力、流量、高周波電力等の条件を適宜組合せて間接的に制御せざるを得ない。
【0018】さらに、プラズマ中で被処理物以外に損傷を与えることなく高速度で被処理物の処理を行い得るように構成すべき装置としては、上記RIE装置以外に、PCVD装置、O2プラズマレジストアッシャー、ドライ洗浄装置等が挙げられるが、従来、これらの装置は基本的な部分で共通の使用条件を有するにも拘らず、各別に設計され生産されていた。同時に、前述した■,■,■の欠点を有していた。
【0019】上記問題点は本発明者によって見い出されたものであり、本発明者は、従来の装置に生ずる上記問題点を解決すべく鋭意研究を行ない、その解決手段を見い出すに至った。
【0020】本発明は、基板(基体)に損傷や表面汚染を与えることなく、基板のエッチングや基板上への成膜が行え、しかも、チャンバや電極等の構造は同一であるにも拘らず、導入するガスやプラズマ励起周波数を変えることにより、エッチングや成膜にも応用可能であり、生産性に優れるとともに、低価格で高性能なプラズマプロセス用装置を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記損傷及び表面汚染の回避、高速処理を図りつつ、各種プラズマプロセスに適用可能な汎用性のある装置の提供を行なうべく、減圧可能な容器内に設置された二枚の対向する電極間にプラズマを発生させ、該プラズマ中で被処理物の処理を行うように構成されたプラズマプロセス用装置において、前記容器内に対向するように設けられ夫々平板状に形成された第1及び第2の電極と、少くとも前記プラズマに対して安定な材料から成り前記第1の電極上を覆うように設けられる保護部材と、前記第2の電極上に被処理物を取り付けるための保持手段と、前記第1の電極に接続される第1の高周波電源と、前記第2の電極に接続される第2の高周波電源と、前記容器内に所望のガスを導入するためのガス供給手段とを少くとも備え、前記第1の高周波電源の周波数が前記第2の高周波電源の周波数より高く設定されたことを特徴とする。
【0022】
【作用】例えば、RIE装置に用いる場合には、被処理物としての例えば被エッチング薄膜を形成した基板を容器内の第2の電極上に取付け、該容器内を減圧して所定のガス供給手段から前記被エッチング薄膜に応じ、塩素系ガス、フッ素系ガス、これらの混合ガス等を導入する。そして、第1の電極には第1の周波数(100〜250MHz)の高周波電力を供給して電極間にプラズマを発生させ、前記第2の電極には前記第1の周波数より低い第2の周波数(10〜50MHz)の高周波電力を供給し、第2の電極の自己バイアスを制御する。すなわち、第1の電極に供給される第1の周波数の高周波電力により、発生するプラズマ密度や基板に照射されるイオン照射量を制御する。
【0023】一方、第2の電極に供給される第2の周波数の高周波電力によりその自己バイアスにより、基板表面に入射するイオンのエネルギーを制御する。第1の電極に供給される高周波電力はプラズマを発生させる役割を担うからその電力は通常大きい。しかし、周波数を高くしてあるから第1の電極の負の自己バイアスは十分小さくできる。したがって、第1の電極に照射されるイオンエネルギーは十分小さくなって、表面がスパッタされることがなく、基板表面は汚染されない。第2の電極に誘起される負の自己バイアスは、基板表面に照射されるイオンエネルギーを最適値に制御するから、損傷、汚染の問題はもちろん伴なわない。
【0024】また、PCVD装置に用いる場合には、被処理物たる堆積膜を形成すべき基板を前記第2の電極上に保持させる。前記第1の周波数と第2の周波数との大小関係は前記RIE装置の場合と同様に設定するが、容器内に導入されるガスは、例えばSi成膜の場合、SiH4,SiH2Cl2,Si26等を、SiO2成膜の場合SiH4とO2あるいはSi26とO2との混合ガス等を導入する。この場合も、RIEについて記述したのと同様な理由で被処理物の基板の損傷回避や被処理物の汚染等を防止できる。
【0025】さらに、従来技術では基板表面の損傷、汚染の問題が不可避であるレジストアッシャーにも適用できる。例えば、微細パターン加工に不可欠のホトレジストは、通常H2SO4とH22の混合液を用いたウェット工程で剥離されるが、イオン注入用のマスク材として使用されたときには高エネルギーイオン照射を受けてレジストが硬化するため、通常のウェット工程では剥離できない。そのため、O2プラズマを用いてO3やOラジカルを発生させ、イオンエネルギーを利用してイオン注入されたレジストを除去する必要があった。
【0026】レジストアッシャーに用いる場合、先のRIEやPCVDの説明でも触れたように、基板を第2電極に設置し、第2の周波数の高周波電力により第2電極の自己バイアスを制御すれば、基板表面に損傷や汚染を与えることなくレジストの剥離が行える。
【0027】このように、使用時に若干の条件設定の変更はあるものの、各種のプラズマプロセス用の装置に広く適用できる。
【0028】
【実施例】以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。
【0029】図1は本発明を基板表面をエッチングするためのRIE装置に適用した場合における第1の実施例を示すものである。ここでは、半導体基板上に形成された薄膜をエッチングする場合について説明する。
【0030】真空容器(チャンバ)105内には、上方の平板状電極107と下方の平板状サセプタ電極104とが対向するように配設されており、該真空容器105は金属から成りアースに接続されている。真空容器105の内表面は、フッ素系あるいは塩素系等の腐食性ガスのプラズマに対して安定なもの、すなわち該プラズマに晒されても腐食されないよう酸化膜、チッ化膜あるいはフッ化膜で覆われている。前記電極107は、導電性材料からなる母材102と母材102の表面に形成されたSiO2,Si34,Al23,AlNなどからなる保護部材としての保護層101とにより構成されている。
【0031】該保護層101は放電により生じたプラズマにより母材102がエッチングされることを防止するためのものであり、例えば、Si,SiO2,石英、SiC,Si34,Al23,AlNその他の材料から成る。また、略化学量論比を満足するフッ化物よりなる不動態膜により構成してもよい。この不動態膜は、優れた耐エッチング特性を示し、その不動態膜の形成は例えば次のように行えばよい。すなわち、母材(例えばステンレス、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム合金その他の金属あるいは合金よりなる母材)を、電解研磨技術などにより表面を加工変質層を伴なわない鏡面に仕上げた後、高純度不活性雰囲気中において所定の温度でベーキングし、吸着している水分を脱離する。ベーキング後、高純度フッ素にて所定の温度でフッ化処理し、フッ化処理後高純度不活性雰囲気中においてフッ化時の温度よりやや高い温度で熱処理を行うと略化学量論組成比を満たす不動態膜が母材上に形成される。
【0032】なお、前記保護層101をSiにより構成しておけば、保護層101がエッチングされてもサセプタ電極104上の基板103にはSiが混入することとなるので、該基板103に与える影響を最小限にすることができる。
【0033】サセプタ電極104には整合回路108を介して第2の周波数f2の高周波電力を出力する高周波電源110が接続されている。本実施例では100MHzの高周波電力を供給する例を示している。サセプタ電極104の電位制御には、望ましくは、前記第2の周波数f2は10〜50MHzが適している。また、電極107には整合回路109を介して、サセプタ電極104に供給される前記周波数f2より大きな周波数である第1の周波数f1の高周波電力を出力する高周波電源111が接続されている。本実施例では250MHzの高周波電力を加えた例を示している。なお、後に詳述するが二つの前記周波数f1,f2は整数倍の関係にないことが望ましい。
【0034】さらに、電極107およびサセプタ電極104にはそれぞれ第1の高周波(本例では250MHz)、第2の高周波(本例では100MHz)のみがそれぞれ入力されるようにバンドエリミネーター(Band Eliminator)112,113が設けられている。すなわち、第1の高周波f1はサセプタ電極104においてはアースに短絡されており、第2の高周波f2は電極102においてアースに短絡されている。前記電極107及び104に用いられる前記バンドエリミネーター112,113は、基本的には、例えば図2に示すタンク回路102bのような構成にすればよい。L1,C1の並列回路は、f1={1/2π(L111/2}の共振周波数でインピーダンスが最大となり(図3)、それ以外の周波数に対しては、ほとんど短絡となるため、所定の周波数(この場合はf1=250MHz)の高周波のみ選択して電極に供給することができる。
【0035】ここに示した図2の構成はあくまでも基本的な原理を示すものであり種々の改善のための変更を加えてもよいことはいうまでもない。例えば、図4は改善の一例である。
【0036】前記回路102bはインダクタンスL1を介して直流的には接地となっているが、これを直流的に浮遊状態(floating)としたい場合には、例えば図4の102dのようにコンデンサCsを付加し、直流成分をカットすればよい。この場合、回路102dの共振周波数が周波数f1からずれないようにCsの値はf1 ・L1 ≫1/f1 sを満たすよう十分大きな値とする必要がある。
【0037】この場合、f0={1/2π(L1s1/2}の周波数に対し、L1,Csの直列回路はインピーダンスが0となり、周波数f0の高周波に対し短絡となる。この周波数f0をサセプタ電極104に加えられる周波数f2に等しくしておくと、電極107に周波数f2の高周波が重畳するのを有効に防止することができる。すなわち、サセプタ電極104に入る高周波電力の電界が、サセプタ電極104から電極107に垂直に終端するようにしても、電極107は周波数f2の高周波に対してはアースに短絡されているから、電極107の電圧が周波数f2の電力で変動することはない。
【0038】以上はバンドエリミネーター112について述べたが、バンドエリミネーター113についても同様な構成とすれば、サセプタ電極104の電圧が、電極107に供給される周波数f1によって変動することがない。すなわち、図4の回路において、インダクタンスL1をインダクタンスL2,コンデンサC1をコンデンサC2,コンデンサCSをコンデンサCS2として、f2=1/2π(L2C21/2とし、f2L2≫1/f2CS2とする。
【0039】また、f1=1/2π(L2 CS21/2とする。
【0040】プラズマを形成するイオンの生成を行うべく、真空容器105に導入される前記励起活性種源ガスの放電は周波数f1の高周波により行なわれる。イオン密度を濃くするために、周波数f1の電力を大きくしても、サセプタ電極104の電圧に影響を与えることはない。
【0041】同様のことが、サセプタ電極104に供給する周波数f2の高周波電力に関してもいえる。周波数f2の高周波電力を変化させても、f2の電力は電極107においてはアースに短絡されているからである。
【0042】その一例が図5に示されており、同図には、第1の電極と第2の電極の間隔が3cm、その直径が10cm、ガス圧力が7×10-3Torrの状態で、f1=100MHz、その入力電力を150Wに一定に保ち、f2=30,40,50MHzとして、その電力を変えたときの、第1の電極及び第2の電極の直流の自己バイアスがプロットされている。第1の電極の自己バイアスは、約−25Vで第2の電極に供給される周波数及び電力に影響されない。第2の電極の電位は、高周波入力がないときは、約10Vであるが、周波数f2の高周波電力が大きくなるにつれ、直線的に低下し、ある電力以上では負電圧になる。周波数f2が低いほど、同じ電力変化に対する自己バイアス電圧の変化は大きい。いずれにしろ、対向する電極の電位にまったく影響を与えることなく、電極の直流電位(自己バイアス)を高周波電力及びその周波数により制御できることが、図5で明白である。
【0043】以上のような構成とすることにより、電極107、サセプタ電極104には、他方に供給させる高周波が重畳することを有効に防止し、それぞれに供給させるべき高周波のみを供給することができるので、自己バイアスプラズマ密度、及び照射されるイオンエネルギーの制御を容易かつ正確に行うことが可能となる。
【0044】なお、電極107の裏面に設けられた円筒状磁石106により電極107の表面に略々平行な磁界が生じ、電子はこの磁界にまきついてサイクロトロン運動をする。前記両電極107,104の間に垂直な高周波電界が存在すると、このサイクロトロン運動する電子に有効にエネルギーが与えられ、高周波電力が有効に高密度プラズマを発生させる。したがって、本装置では、入力される二つの高周波電力の電界が殆ど垂直に、それぞれサセプタ電極104、電極107に終端するように設定されている。
【0045】なお、106はマグネトロン放電のための永久磁石である。実際には、強磁性体を用いた電磁石の方が好ましい。さらに装置には真空容器105内を真空に引く排気ユニットや、ガスを導入する機構、さらに基板103を出し入れする機構が設けられているが、これらは説明を簡略化するため省略してある。
【0046】本実施例の装置では、従来の装置とは異なり、サセプタ電極104の他に電極107を設けてあるため、電極107には電力の大きな高周波電源を供給することにより高密度のプラズマを発生させることができ、ひいては高速のエッチングを行うことができる。ただ、電力の大きな高周波を電極107に供給すると、自己バイアスも大きくなり電極をスパッタエッチングするおそれが生ずる。かかるエッチングを防止するためには、電極107に供給する高周波電源111の周波数f1を、周波数f2より大きくし自己バイアスを小さくする(周波数を大きくすると自己バイアスは小さくなる。図8R>8参照)と共に、電極107の母材102の表面には保護層101を設けておく。
【0047】一方、前記サセプタ電極104に生ずる自己バイアスは、図5に示すように前記高周波電源110の電力および周波数により制御することができるので、被エッチング薄膜の材料を勘案し、適宜高周波電源110の電力、周波数を選択して、サセプタ電極104に供給すればよい。
【0048】結局、本実施例の装置を用いれば、電極107に供給される高周波電力により高密度のプラズマを発生させるとともに(プラズマ密度、すなわちイオン密度は電力により制御される)、基板表面に照射されるイオンエネルギーをサセプタ電極104に供給する周波数f2の高周波電力により所望の値に制御することができるため、基板103等への損傷を防ぎつつ高速のRIEを行うことができることとなる。
【0049】次に、電極107およびサセプタ電極104に供給される高周波電力と周波数の影響について述べる。
【0050】図6は、図1に示す装置を用いて電極104の電流、電圧特性を測定する回路構成を示すものである。前記電極104に接続される高周波フィルタ203は、例えば図2に示したバンドエリミネーター102bのように,サセプタ電極104に供給される高周波の周波数f2の点でだけインピーダンスが高く、その周波数からずれた周波数に対してはほとんど短絡となるように構成されており、該高周波フィルタ203には直流電源201、電流計202が直列に接続されている。そして、高周波フィルタ203と電流計202との接続点には、直流電源201及び電流計202を高周波的には短絡するために、並列にコンデンサ206が接続されている。
【0051】かかる状態で、例えばArガスを真空容器105内に5×10-3Torrの圧力で導入し、50Wの高周波電力で放電を起し、電極104に印加する直流電圧Vとその結果流れる電流の関係をグラフにしたものが図7である。この場合、高周波電源110の周波数は可変とし、例えば14MHz,40.68MHz及び100MHzの3つの周波数に変化させている。なお、正電荷を有するイオンが電極104に流れ込む電流を正の値としている。
【0052】例えば、100MHzの特性をみると、前記直流電圧Vが約−95V(この値を自己バイアス電圧VSBとする)のとき、直流電流I=0となり、V>VSBではI<0,V<VSBではI>0となっている。前記自己バイアス電圧VSBは、電極104がフローティング状態で高周波放電させたときに発生する直流バイアス電圧である。すなわち、電極104がこの電位にあるときは、プラズマから電極104に流れ込むイオンと電子の数が相等しくなるため互いに打ち消し合い直流電流が0となる。
【0053】他方、外部から印加した直流バイアス電圧により電極104の電位を制御すると電流が流れる。例えば前記直流電圧Vと自己バイアス電圧VSBとの間に、V>VSBの関係が成立するとより多くの電子が流れ込みI<0となる。
【0054】一方、V<VSBの関係の場合、電子に対するポテンシャルバリヤが高くなって電子の流入数が減少するためイオン電流の方が大きくなり正の電流が流れる。さらに、直流電圧Vを負の方に大きくすると、V=V0で電流値は飽和し、ほぼ一定値となる。これはイオンのみの電流値に等しい。
【0055】以上のことから、V=VSB近辺におけるI−V特性曲線の傾きは電子のエネルギー分布の巾に対応している。すなわち、傾きが大きいことは電子のエネルギーの分布の巾が狭いことを意味している。図7から明らかなように14MHzに比べ、100MHzの場合はエネルギー分布が約1/10程度に小さくなっている。一方、イオンのエネルギー分布の巾をΔEionとし、電子のエネルギー分布の巾をΔEeとしたとき両者の間には略々比例関係があるので、イオンのエネルギー分布の巾も同様に約1/10に減少しているといえる。
【0056】さらに、VSBの値も同じ50Wの高周波電力であるのに14MHzの場合の−400Vに対し100MHzでは約−95Vと絶対値で1/4以下に小さくなっている。100MHz放電で電力を5Wまで下げると、VSBの値は、−25Vに減少する。すなわち、周波数と電力を制御することにより、自己バイアスは広範囲に制御できるのである。
【0057】従来のRIE法では、下地基板に損傷が生じ、デバイスの特性が劣化していたが、これは次の理由による。
【0058】従来例では、電極107を低い周波数13.56MHzで放電させていたため、|Vsub|=400V〜6000Vとなり、この高電圧で加速されたイオンが基板に衝突していた。
【0059】しかるに、本発明の第1実施例では、電極107には250MHzの高周波を用いて放電を行っているため、従来の13.56MHzの場合にくらべてΔEionは1/20以下と小さくすることができる。本発明の装置では放電は電極107に加えられる周波数f1の高周波電力により維持され、これにより高密度のプラズマを発生させると共に、供給する周波数をサセプタ電極104に供給する周波数f2より大きな周波数f1(250MHz)としているため、発生した高密度プラズマ中のイオンエネルギーの分布幅も小さく(平均エネルギーの値とは差のあるエネルギーを有するイオンの数が少なく)なっている。さらに、後述するように、電極に平行な方向の磁界強度を可能な限り強くなるように磁気回路が設計されているので、50Wの高周波電力の入力で自己バイアス電圧は−30V以下であり、プラズマ密度が略々10倍以上に改善されている。図5によれば、高周波電力を100Wとし、f1=210MHzで自己バイアスは−10V程度であるから、f1=250MHzでは、自己バイアスは−5V以下である。
【0060】電極107の自己バイアスが、−5V以下と低いうえに、保護層101を有するので電極107の母材102はまったくスパッタされない。したがって、サセプタ電極104に印加する高周波の電力ないし周波数f2を、自己バイアスが基板に損傷を与えない程度に小さく制御することがきわめて容易となり、かつ所望のエッチング速度が得られるように周波数f1 の電力を設定しておけば基板表面に損傷を与えるような大きなエネルギーを有するイオンが照射されることがなくなり、薄膜、レジスト膜あるいは下地基板への損傷を生ずることなく高速かつ選択性の高いエッチングを行うことが可能となる。
【0061】すなわち、前記自己バイアス電圧VSBは高周波電源の周波数が高くなるほどまた、高周波電力が小さくなるほど低くなる。したがって、薄膜ないし下地基板の品質を損傷せずに、かつ、高速エッチングに必要なイオンエネルギー及びイオン照射量になるように周波数および電力をサセプタ電極104に供給するように選択すればよい。
【0062】一方、前記電極102には周波数250MHzの高周波電力が加えられているため、小さな自己バイアス電圧が生じており、また、保護層101が形成されているため母材102がエッチングされるのを防止できる。さらに、図1の実施例では永久磁石106が装着されているが、これにより、電極107の近傍でマグネトロン放電(電子が磁力線に巻きついてサイクロトロン運動しながら高周波電界からエネルギーを受けて中性の励起活性種源ガス分子を効率よくイオン化する)が起り、イオン濃度が高まってさらにエッチング速度を大きくできる。
【0063】以上述べたように本発明による2周波励起RIE装置によれば、大きなエッチング速度を維持しつつ、基板に損傷を生じない高品質な薄膜や基板のエッチングが高選択比で可能となった。
【0064】また、図6に示すようにサセプタ電極104に直流バイアス電圧を加えることによってサセプタ電極104に流入するイオンのエネルギーを制御することも可能である。かかる直流バイアス電圧を印加してサセプタ電極104の電位を制御し、結果として基板の表面電位を制御する方法は、エッチングする薄膜や基板(基体)が導電性材料である場合に有効である。
【0065】以上、電極107及びサセプタ電極104に供給する高周波電力の周波数を夫々100MHz,250MHzに設定する場合についてのみ述べたが、周波数の選定はこれに限られないことは言うまでもない。
【0066】要するに、RIE装置の場合、電極107に供給される第1の周波数f1をサセプタ電極104に供給される第2の周波数f2に比べて高くすればよい。実際の値はそれぞれの目的に応じて異るものであり、必要とすべきエッチング速度や形成された膜の段差部での被覆形状等を考慮して決めればよい。また、エッチングすべき材料も絶縁物に限ることなく、導電性材料でもよい。
【0067】また、電極107の裏面に設置した磁石106は図1に示した構成に限られるものではない。例えば図9は、本発明の第2の実施例を示すものであるが、本実施例の場合、強力な競争路形磁石409を設け、磁界の均一性を上げるために走査を行なう構成にしている。この場合、磁石409の走査系410を真空容器105の外部に設けておけば、反応系が機械的な動作から生じる発塵により汚染されるのを防ぐことができて好都合である。
【0068】さらに、サセプタ電極104側にも磁石を設置してRIEの効率を上げるようにしてもよい。また、ここで使う磁石は、図1に示す磁石106のように静止して取り付けられていてもよく、また、前記走査系410に取付られた磁石409のように移動可能なものであってもかまわない。
【0069】また、基板103への損傷をさらに小さくするため例えば次のような方法をとることも可能である。例えば、Siなどの基板103の表面に形成されたSiO2などの絶縁膜をエッチングする場合、まず数μm程度の膜が形成されている間はサセプタ電極104に供給するRF電力を大きくして高速でエッチングし、基板103の表面が露出し始める寸前から、RF電力を小さく切りかえる方式である。こうすれば基板103が露出し始めてからは十分に低い自己バイアス状態でエッチングを行えるため基板表面への損傷をほとんど0とすることが可能である。
【0070】基板103の表面に照射するイオンの運動エネルギーが大きすぎれば如何なる材料でも損傷を生じる。材料に損傷が生じ始めるのは、各材料の原子間結合力に関連して決まる損傷発生の臨界エネルギーに比べ照射イオンの運動エネルギーが若干大きくなったときである。原子間結合力は、通常絶縁物の方が半導体より大きい。基板103や、絶縁物の材料の性質を考慮した上で照射イオンのエネルギーを決めればよい。
【0071】図10は第3の実施例を示すもので基板103への損傷を無くし、且つ基板103の表面に照射するイオンのエネルギーを自由に選択できる方法を示している。図1の第1の実施例と比較して異る点は、サセプタ電極104に対し、f2,f3という2つの異る周波数を切り換えて入力できるようになっている点であり、それに応じてバンドエリミネーター401も変更して構成されている。402及び403はLCの共振回路であり、それぞれf2,f3の共振周波数を有している。
【0072】
f2=1/2π(L2C21/2f3=1/2π(L3C31/22つの共振回路402,403を直列に接続したバンドエリミネーター401は、f2,f3の2つの周波数に対してのみインピーダンスが大きくなり、これ以外の周波数に対しては実質的に短絡となっているため、これら2種類の高周波に対してのみ選択的にサセプタ電極104に電力を供給する機能をもっている。
【0073】例えば、f1=250MHzとし、f2=100MHz、f3=40MHzとする。そして、例えばまず最初の数0.5〜1μm程度の膜が形成されている間は、サセプタ電極104に加える高周波の周波数をf3(40MHz)とすると、自己バイアスは図5に示すように0〜−100Vと大きくなり、大きなエッチング効果が得られる。表面が100Å程度になった時点で周波数をf3(100MHz)に切り換えて薄い膜(例えば10Å〜100Å)をエッチングする。このようにすれば基板表面が露出し始めたときは100MHzに対応する小さな自己バイアス値(約−10〜−20V)で基板表面をイオンが照射するため基板の損傷はほとんど生じない。
【0074】このような方法は、RIE法により堆積した薄膜の表面形状の平担度をコントロールする場合特に重要になってくる。なぜなら周波数を変化させることにより最も有効なエッチング用のイオンのエネルギーをコントロールでき、最適のエネルギー値で基板103の損傷を生じさせることなく選べるからである。
【0075】ここではf2,f3の2つの異る周波数の場合についてのみ述べたが、例えばf2,f3,f4という3つの値を用いてもよいことはいうまでもない。ただし、この場合、最初に印加する周波数f4はf4>f2,f3として、後になるほど最も高周波のものを用い損傷を小さくすることが重要である。
【0076】また、複数の周波数を用いる場合、これらは放電励起用の周波数f1 も含め、f1,f2,f3,・・・・は互いに高調波の関係にないように選ぶのが望ましい。放電空間は非線型であり、従ってf1,f2,f3,・・・・の高調波が放電条件によっては全く違った状態で重畳してしまうことがあり条件の設定が一義的でなくなるからである。
【0077】なお、図10における共振回路402,403に代えて、図11に示す共振回路を用いても同様の作用をもたらすことができる。ただ、図11においてはCS ≫C2 ,C3とする必要がある。
【0078】次に、上述したRIE装置の基本的構成部分である対向する平行平板電極間にプラズマを作って行う、各種のプロセスにも共通する高性能化の概念を説明する。
【0079】放電プラズマプロセス高性能化の必要条件は、(1)基体表面にダメージ(損傷)を与えないこと、(2)真空容器や電極材料のスパッタによる基板表面への汚染がないことの2要件である。もちろん、そのほかにも高速エッチング,高速成膜が行えること、できるだけ少ない高周波電力で、できるだけ高密度のプラズマを実現すること等、具体的なエッチング,成膜高性能化の要求があることはいうまでもない。
【0080】要件(1),(2)が実現されるためには、放電により形成されるプラズマのプラズマ電位が、真空容器や電極材料がスパッタされない程度の値、すなわち+30V以下、望ましくは+20V以下であることが要求される。真空容器は通常接地された状態で使用されるが、真空容器内表面に入射するイオンのエネルギーは、プラズマ電位程度のエネルギーになる。電極102やサセプタ電極104は、通常高周波電力の供給により直流的には負電圧が加わるので、正電荷を持ったイオンが入射するが、そのエネルギーはそれぞれ所要の目的を持ったエネルギー値に制御される。いずれにしても、対向電極間に形成されるプラズマ電位が+5〜+20V程度の範囲に抑え込まれていることが不可欠の条件になる。基板表面を照射する個々のイオンのエネルギーには、エッチング、成膜の目的に応じて基板表面材料に対してそれぞれ最適値が存在する。個々のイオンエネルギーをそれぞれの材料の最適値に調整するのは、サセプタ電極104に供給される周波数f2の高周波電力を調整して、サセプタ電極104の自己バイアス電圧−Vs(V)を、VOP=VP +VS となるように設定すればよい。プラズマから基板表面の間でイオンが衝突しなければ、基板表面照射イオンエネルギーは、プラズマ電位と基板表面電位の差のポテンシャルで決まるからである。
【0081】ただし、VOP:イオンの最適照射電位,VP:プラズマ電位,−VS:サセプタ電極の自己バイアスである。
【0082】なお、かかる設定条件は、対向電極間に形成されるプラズマの電位が低い正電圧に抑えられているときに限り適用できる。すなわち、VP <VOPが成立していなければならない。サセプタ電極104に高周波電力を印加して実現される自己バイアスは常に負電圧方向に作用するからである。従って、VSP>VP ,VOP>VP が満足されるような、低い正電圧にプラズマ電位VPを設定するのである。ただし、VSPは真空容器や電極材料のスパッタ開始電圧である。
【0083】上述の結論として、プラズマ応用装置の高性能化は、プラズマ電位を低い正電圧(VSP>VP ,VOP>VP )に設定することにある。プラズマ電位が正電圧で高くなる理由は、主としてプラズマ空間から、質量がイオンにくらべて軽い負電荷を持った電子が逃げてしまい、正電荷を持ったイオンが過剰になり、プラズマが正電荷を持つことに依存する。換言すれば、プラズマ電位を正の低い電位に保つには、プラズマ空間から電子ができるだけ逃げないようにする必要がある。同時に、高周波電力によりできるだけ有効に放電・イオン化が起ることが重要である。
【0084】次に、こうした条件を実現する直流磁場分布及び高周波電界分布について、図13を用いて説明する。図13(a)は、対向する平板状電極107、サセプタ電極104に対する直流磁界分布601(点線)、高周波電界分布(実線)602を示す。図13(a)には、理想状態の一例が示されている。すなわち、対向する両電極107,104の極板に平行に直流磁界が存在し、極板間に垂直に高周波電界が存在する。極板間に存在する電子は、直流磁界に巻きついて円運動(サイクロトロン運動)する。円運動する電子の運動方向に高周波電界が存在するから、電界から効率よく電子の運動へエネルギーが変換される。エネルギーを得た電子は、極板間にサイクロトロン運動することによって閉じ込められているから、中性の分子や原子と効率よく衝突し、その分子や原子をイオン化する。電極107、サセプタ電極104は高周波入力により、通常自己バイアスは負電圧となる。したがって、負電荷を持った電子は両電極に入射することはない。したがって、垂直方向に対しては電子は両電極間に閉じ込められることになる。しかし、両電極の平行な方向の端部は単なる空間であるから、該端部からは電子が外部に流れ出す。この横方向の電子の逃げを抑えるには、図13(b)のように直流磁界Bの強度を分布させればよい。すなわち、直流磁界Bの強度は極板の中心から極板端部近傍までは距離rに対し一定になるようにし、端部近傍で磁界強度を強くする。これにより、磁界強度が強くなった部分で、電子は反射されて、一定磁界強度部分に閉じ込められるのである。
【0085】図14は、図13に示された考え方を適用した第4の実施例を示すものである。なお、図1に示す第1の実施例の構成部分と同一のものは同じ番号を付して重複した説明を省略する。
【0086】電極間に放電を励起させるための周波数f1の高周波電力は、同軸コネクタ710を通して供給される。716は電極102まで高周波電力を導く内導体であり、712はテーパ状に形成された同軸ケーブルの外導体でありAl合金、ステンレス、Ti等の金属製真空容器105に接続されている。図1に示す第1の実施例では、直流磁界は永久磁石106により形成させていたが、図14の第2実施例では電磁石により形成させている。715は、電磁石を構成する透磁率μ及び飽和磁束密度の高い磁性体、714は直流電流を供給する電線である。電磁石は、内導体716と電極の母材102により完全に囲われているため、高周波の周波数f1の電界や磁界に晒されることはない。
【0087】サセプタ電極104の自己バイアスを制御する周波数f2の高周波電力は、同軸コネクタ711を介して供給される。717は同軸ケーブルの内導体、713は外導体である。なお、インダクタンスL1及びコンデンサC1の直列回路、インダクタンスL2及びコンデンサC2の直列回路は、夫々周波数f1,f2の高周波を短絡するための回路である。
【0088】708,709は、これら短絡回路を構成する絶縁物基板であり、例えばテフロン(登録商標)含浸絶縁物から成る。内導体716,717と外導体712,713を短絡する回路は、円筒同軸の構成に適合するように、円錐状に形成されている。図15(a),(b)は前記短絡回路の例を示すものである。前記短絡回路1,2は、中央部に内導体716,717を挿通するための穴805,806を設け、基板はテフロン含浸絶縁物により円板状に形成されている。図15に示す例では、4個の直列共振回路が互いに90度の角度間隔で放射状に配置された例が示されている。801,803はインダクタンス、802,804は積層セラミックなどの高周波コンデンサである。斜線部は前記絶縁物の基板に残されたCu薄膜である。該薄膜は、通常35〜70μm程度の厚さである。絶縁物基板の厚さは、高周波電力にもよるが、1〜3mm程度である。図15(a)では、インダクタンス801は直線の線を有するインダクタンスが使われており、コンデンサはチップコンデンサである。図15(b)では、インダクタンス803は電線を所要巻数だけ巻回して成るコイルが用いられ、コンデンサ804は平板コンデンサを用いている。
【0089】説明を図14に戻す。高周波電力、特に電極間に放電を形成する周波数f1の電力が、効率よく電極間に閉じ込められるために、電極102、サセプタ電極104は絶縁物のセラミック706,707により、夫々真空容器105から浮いた状態で構成されている。電極間隔に比し電極から真空容器までの距離は遠く離間している。これは電極102に入射した周波数f1の高周波電力の電界を、殆どサセプタ電極104に終端させるためである。周波数f1の高周波電流は、サセプタ電極104に終端した後、内導体717、短絡回路(L1,C1)、真空容器105を介して外導体712に流れ出す。
【0090】電極間隔は、ガス圧力にもよるが通常2〜10cm程度である。電極面積は、基板103より大きく設定されるから、基板103としてのウエハの直径が6インチ,8インチ,10インチであれば、少なくとも、電極の直径は夫々20cm,25cm,30cmより大きなものにする必要がある。
【0091】図16は、第5の実施例を示すもので比較的実際の構造に近いものである。本実施例の場合、両電極107,104の間隔が狭くなっているので、高周波電界の殆どが対向する電極間に閉じ込められることになる。
【0092】サセプタ電極104に供給される周波数f1の高周波電力に対する短絡が不十分な場合には、図17R>7に示す第6の実施例のように、サセプタ電極104と真空容器105との間に直接的に短絡回路を設ければよい。本実施例の構成の要点は、対向する2枚の電極間に、可能な限り強い磁界を設ける点にある。
【0093】図16、図17に示す実施例のように、コイル722と磁性体715で構成される電磁石であると、その磁力線分布は図18に示すように下方向に拡がった分布になる。
【0094】図19に示す第7の実施例のように、両電極104,107の裏面にそれぞれ完全反磁性を示す超伝導体あるいは超伝導薄膜731,732を設けると、磁力線はこの超伝導体731,732の外側には漏れないから、両電極間にのみ存するようになる。
【0095】基板103を冷却する必要があるときは、例えば液体窒素温度で超伝導現象を示す酸化物超伝導体を電極裏面に1μm程度以上スパッタ成膜等でコーティングすることにより極めて大きな磁界閉じ込め効果を生じさせ得る。図20に示す第8の実施例はかかる磁界閉じ込め効果を示すものである。
【0096】同様に、両電極間に磁界を閉じ込めて強い平行方向の磁界を発生させるには、電極102側だけではなく、サセプタ電極104側にもまったく同様に電磁石(721,723)を設ければよい。図21はかかる原理に基づいて構成された第9の実施例を示すものである。電磁石(715,722),(721,723)は、いずれも高周波電力供給用の内導体716,717により実質的に囲われている。コイル722,723に電流を供給するための電線は、内導体716,717を貫通して外部に引き出されている。
【0097】本第9の実施例において、電極102,104に完全反磁性体の超伝導体をコーティングすればさらに好ましいものになる。本実施例は放電プラズマが形成される真空容器は、容器本体706,707がセラミックにて形成され、外部容器105’が金属で形成されている。外部容器105’は、アースと高周波電流を流す役割をはたす。このように構成すれば、第1,9,10図に示す各実施例の装置に見られた、電極102と真空容器間の放電が無くなり、高周波電力は電極102,104間に殆ど閉じ込められることになり、少ない高周波電力で高密度のプラズマを電極間に形成することができる。
【0098】内導体716,717に囲われる電磁石を永久磁石により形成して差し支ないことはいうまでもない。永久磁石を構成する材料は通常比透磁率が低く、4〜5以下である。
【0099】したがって、図21に示す第9の実施例で、コイル722,723を除去し、図22に示す第10実施例のようにドーナツ状の完全反磁性超伝導体751,752をはめ込むとよい。この場合、超伝導体751,752をはめ込んだ磁性体715,721は永久磁石から成る。
【0100】以上、チャンバ材料のスパッタ汚染を完全に抑え、基板にいっさい損傷を生じないRIE装置について説明したが、真空容器内に導入されるガスは、エッチングされる材料によって異り、塩素系(Cl2,SiCl4,CH2Cl2,CCl4等)、フッ素系(F2,CH22,CF4,SiF4等)および混合ガス系(CF2Cl2等)が用いられ、キャリアガスAr,He,添加ガスH2,O2が加えられる。
【0101】高周波放電に使う高周波電源の出力周波数f1の波長は、少なくともウエーハの直径の2倍より大きいことが均一エッチングの立場から要求される。望ましくは周波数f1は、100MHz(波長3m)〜1GHz(波長30cm)程度である。
【0102】しかし、例えば、2.45GHzのようなマイクロ波を用いたような場合には電磁波の波長が基板たるウエーハ径にくらべて小さくなり、エッチング量のバラツキの原因となることがあるため好ましくない。
【0103】以上本発明の実施例は主としてSiO2やSi膜のエッチングについて述べてきたが、これに限る必要はもちろんない。例えば、PSG膜、BPSG膜、ASG膜、シリコン窒化膜、Al23膜、AlN膜、Al,W,Mo,Ta,Tiあるいはこれらの合金等よりなる膜及び基板のエッチングに用いてもよい。
【0104】また、励起活性種源ガスは被エッチング薄膜の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、poly−Si薄膜の場合、Cl2,CCl4,CCl22,Cl2等を、Si薄膜の場合、Cl2,CCl22,CF4等を、SiO2薄膜の場合、CF4/H2,C26等を、Al薄膜の場合、CCl4,SiCl4,BCl3,Cl2等を、Mo薄膜、W薄膜、Ti薄膜、Ta薄膜等の場合はF2,Cl2,CF4等を適宜用いればよい。また、H2,O2,N2を添加ガスとして加えることも有効である。
【0105】また、これらが形成される基板103も、絶縁性のものに限らず、導電性のものあるいは半導体でもよい。
【0106】さらに、例えばポリイミド膜やレジストなどの高分子材料のエッチングについても適用できることはいうまでもない。また、エッチングを行なう基板も半導体ウエーハに限らないことはいうまでもない。また、リアクティブイオンエッチング以外のスパッタエッチングにも利用できる。
【0107】次に、上記各実施例の構成を有する装置は、上記RIEだけではなく、PCVD、ドライ洗浄、レジストアッシング、レジストのドライ現像等にも、使用条件の一部の変更により容易に使用できる。
【0108】まず、プラズマCVD(PCVD)であるが、Si成膜には、SiH4,Si26,SiH2Cl2等の原料ガスをあるいはこれに、Ar,He,H2等のガスを加えて、Al成膜には、H2+Al(CH33,H2+AlH(CH32等のガスを、SiO2成膜には、SiH4+O2,SiH2Cl2+O2等を、Si34成膜には、SiH4+NH3+H2等のガスを供給する。第1,7,9,10,12,14,15図に示す実施例で、こうした原料ガスを高周波電源f1により放電させプラズマ状態にする。高密度のプラズマが電極間に形成されるが、高周波f1が150〜250MHzと高く保たれているから、電極102に現われる自己バイアスは、−10〜−2Vと低く電極がスパッタされることはない。さらに、成膜に必要な基板表面照射イオンエネルギーは、f1より低い周波数f2(例えば、10〜80MHz)の高周波電力で制御される。照射イオンエネルギーは成膜に必要な最適値にf2の電力により制御され、照射イオン密度は、f1の電力により制御される。例えば、Si成膜の場合、(Ar+SiH4)を供給するガスとすると、ArとSiH4の混合比を調節することが重要である。特に、室温から400℃程度の低温で、高品質なSi成膜を行うためには、イオン照射によるSi表面の活性化が決め手になるからである。たとえば、1個のSi原子が正規の格子位置におさまる間に、最適のエネルギーを持った照射イオンの数が、通常1個以上は必要だからである。たとえば、Si原子1個に10個のイオン照射あるいは50個のイオン照射ということになるからである。通常は、Ar量の方がSiH4よりは十分多く設定される。他の成膜の時も、まったく同様である。基板表面を照射するイオンは、成膜に直接寄与する原子あるいは分子である必要はない。成膜に寄与する原子、分子と基板表面照射イオンは、まったく別のものである方が、イオンによる基板照射量と成膜速度を独立に制御できて、高品質成膜に適している。
【0109】一方、レジスト剥離は上述したように通常は、混合液(H2SO4+H22)を用いたウェットプロセスで行われるが、イオン注入工程を経たレジストは混合液(H2SO4+H22)には溶解しない。そのため、酸素(O2)プラズマ中で、強力な酸化反応により除去している。
【0110】ただし、従来の装置では、高エネルギーイオン照射による損傷、およびチャンバ内表面のスパッタによる基板表面の金属汚染の問題が存在し、レジスト剥離を有名無実化していた。
【0111】しかし、本発明の装置(第1,7,9,10,12,14,及び15図に示すもの)を適用すれば酸素プラズマを完全に制御でき、無損傷、金属汚染のない、レジスト剥離が実現される。O2中に若干のCl2を加えておけば、レジスト中に含まれる金属成分も同時に除去される。レジスト剥離時に、Si表面がO2プラズマで薄く酸化されるが、該薄い酸化膜は、N2,Ar中に0.6%程度のHFガスを混入させた気相エッチングで容易に除去できる。酸化膜が除去されたSi表面はフッ素によりターミネイトされているが、このフッ素は、2〜10eV程度に加速された(Ar+H2)プラズマで簡単に除去される。
【0112】次に、ドライ洗浄であるが、有機物汚染は1〜15eV程度に加速されたO2イオンやO3により洗浄される。ベア・シリコンの表面に形成される薄い酸化膜(SiO2)は、前述したように、N2,Ar中0.5〜0.6%程度のHFガスで除去できる。金属成分は、1〜15eVに加速されたCl2イオンにより除去できる。本発明の装置が十分適用できる。
【0113】
【発明の効果】本発明によれば、減圧可能な容器内にプラズマを発生させ、該プラズマ中で被処理物の処理を行うように構成されたプラズマプロセス用装置において、前記容器内に対向するように設けられ夫々平板状に形成された第1及び第2の電極と、少くとも前記プラズマに対して安定な材料から成り前記第1の電極上を覆うように設けられる保護部材と、前記第2の電極上に被処理物を取り付けるための保持手段と、前記第1の電極に接続される第1の高周波電源と、前記第2の電極に接続される第2の高周波電源と、前記容器内に所望のガスを導入するためのガス供給手段とを少くとも備え、前記第1の高周波電源の周波数が前記第2の高周波電源の周波数より高く設定されたことを特徴とするもので、RIE、プラズマ化学気相堆積、レジストアッシャー、ドライ洗浄等の各種プラズマプロセスを、被処理物の基体等への損傷や汚染を与えることなく、また、処理雰囲気の汚染を生じさせることなく行うことができ、高品質の半導体装置を提供できる。
【0114】また、構造上の基本的な構成部分は変更することなく、特定の設定条件、例えば高周波電源の出力周波数の大きさ、導入するガスの種類等わずかな仕様を変更するだけで各種プラズマプロセスの装置に適用できるので、各装置の規格化が可能となり、半導体装置製造の一貫した統一性のある操業の実現を可能にする。
【0115】さらに、各装置が共通の構成部分を有することにより、構成部品の製造、管理、保守等が容易になると共に、装置全体の高性能化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す装置の概略構成模式図である。
【図2】図1のバンドエリミネータの例を示す回路図である。
【図3】図2のバンドエリミネータの共振特性を示すグラフである。
【図4】図2のバンドエリミネータの他の例を示す回路図である。
【図5】第2の電極への高周波電力に対する第1,第2の電極の電位の変化を示すグラフである。
【図6】電極の電流電圧特性を測定するための装置を示す概略構成模式図である。
【図7】電極の電流、電圧特性の実験例を示すグラフである。
【図8】周波数の変化に対する自己バイアス電圧の変化を示すグラフである。
【図9】第2の実施例を示す概略構成模式図である。
【図10】第3の実施例を示す概略構成模式図である。
【図11】バンドエリミネーターの他の例を示す回路図である。
【図12】従来例の概略構成を示す模式図である。
【図13】(a)は平行平板電極構造であり、(b)は高周波電界及び直流磁界の分布図である。
【図14】本発明の第4の実施例を示す要部断面図である。
【図15】(a)短絡回路の例を示す回路図であり、(b)は短絡回路の他の例を示す回路図である。
【図16】本発明の第5の実施例を示す断面図である。
【図17】本発明の第6の実施例を示す断面図である。
【図18】磁界分布(磁力線)図である。
【図19】本発明の第7の実施例を示す断面図である。
【図20】第8の実施例を示すもので電極裏面に超伝導薄膜が設けた場合のられたときの磁力線分布図である。
【図21】本発明の第9の実施例を示す断面図である。
【図22】本発明の第10の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
101…保護層(保護部材)、
102…母材、
103…基板(被処理物)、
104…サセプタ電極(第2の電極)、
105…真空容器、
107…電極(第1の電極)、
110…第2の高周波電源、
111…第1の高周波電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 減圧可能な容器内にプラズマを発生させ、該プラズマ中で被処理物の処理を行うように構成されたプラズマプロセス用装置において、前記容器内に対向するように設けられ夫々平板状に形成された第1及び第2の電極と、少くとも前記プラズマに対して安定な材料から成り前記第1の電極上を覆うように設けられる保護部材と、前記第2の電極上に被処理物を取り付けるための保持手段と、前記第1の電極に接続される第1の高周波電源と、前記第2の電極に接続される第2の高周波電源と、前記容器内に所望のガスを導入するためのガス供給手段とを少くとも備え、前記第1の高周波電源の周波数が前記第2の高周波電源の周波数より高いことを特徴とするプラズマプロセス用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図11】
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【図15】
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【図18】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図20】
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【図8】
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【図10】
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【図13】
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【図16】
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【図14】
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【図17】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2002−176037(P2002−176037A)
【公開日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−257046(P2001−257046)
【分割の表示】特願平9−319019の分割
【出願日】平成1年5月12日(1989.5.12)
【出願人】(000205041)
【Fターム(参考)】