説明

半導体装置の製造方法

【課題】 シャロートレンチアイソレーション法により素子分離絶縁膜を形成した後に、従来の方法で自然酸化膜除去のための水素熱処理を行うと、所望のトランジスタ特性が得られない場合がある。
【解決手段】 シリコン基板を、水素を含む還元性雰囲気中で、温度が930℃〜1030℃の範囲内であり、時間が0秒よりも長くかつ30秒以下の条件で第1の熱処理を行う。第1の熱処理後、水素を含む還元性雰囲気中に配置したまま、温度が第1の熱処理時の基板温度よりも低く、かつ900℃〜980℃の範囲の基板温度に、0秒よりも長くかつ30秒よりも短い時間維持して第2の熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含む還元性雰囲気中で熱処理を行うことにより自然酸化膜を除去する工程を含む半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2種類の厚さを有するゲート絶縁膜を形成する従来の方法について説明する。まず、シリコン基板の表層部に、シャロートレンチアイソレーション法により、素子分離絶縁膜を形成する。素子分離絶縁膜により、複数の活性領域が画定される。活性領域の表面を熱酸化することにより、相対的に厚いゲート絶縁膜となる第1のゲート絶縁膜を形成する。
【0003】
相対的に厚いゲート絶縁膜を形成すべき活性領域をレジストパターンで覆い、相対的に薄いゲート絶縁膜を形成すべき活性領域上の第1のゲート絶縁膜をフッ酸等で除去する。硫酸と過酸化水素水との混合液(SPM薬液)を用いてレジストパターンを除去する。その後、アンモニア水と過酸化水素水との混合液(SC−1洗浄液)及び塩酸と過酸化水素水との混合液(SC−2洗浄液)を用いて、基板表面の洗浄を行う。
【0004】
活性領域の表面を熱酸化することにより、第1のゲート絶縁膜が形成されていない活性領域に、相対的に薄い第2のゲート絶縁膜を形成する。
【0005】
洗浄中に、相対的に薄いゲート絶縁膜を形成すべき活性領域の表面に、自然酸化膜が形成される。第2のゲート絶縁膜を形成する前に、水素雰囲気中において、900℃〜1050℃で熱処理(水素熱処理)を行うことにより、この自然酸化膜を除去する方法が知られている。
【0006】
また、水素雰囲気中で、シリコンウエハを、温度1200℃〜1350℃の条件で熱処理を行うことにより、結晶成長時に導入されるクリスタルオリジネイテッドパーティクル(COP)を低減させることができる。引き続いて、900℃〜1200℃で熱処理を行うことにより、マイクロラフネスやヘイズを低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−87960号公報
【特許文献2】特開2004−152965号公報
【特許文献3】特開平11−354529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水素を含む還元性雰囲気中で熱処理を行うことにより、自然酸化膜を除去し、マイクロラフネスを低減させることができる。ところが、シャロートレンチアイソレーション法により素子分離絶縁膜を形成した後に、従来の方法で自然酸化膜除去のための水素熱処理を行うと、所望のトランジスタ特性が得られない場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によると、
シリコン基板を、水素を含む還元性雰囲気中で、温度が930℃〜1030℃の範囲内であり、時間が0秒よりも長くかつ30秒以下の条件で第1の熱処理を行う工程と、
前記第1の熱処理後、水素を含む還元性雰囲気中に配置したまま、温度が前記第1の熱処理時の基板温度よりも低く、かつ900℃〜980℃の範囲の基板温度に、0秒よりも長くかつ30秒よりも短い時間維持して第2の熱処理を行う工程と
を有する半導体装置の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によると、
シリコン基板を、水素を含む還元性雰囲気中で、温度が950℃〜1050℃の範囲内であり、時間が0秒よりも長くかつ60秒以下の条件で第1の熱処理を行う工程と、
前記第1の熱処理後、水素を含む還元性雰囲気中に配置したまま、第2の熱処理として、−20℃/sよりも遅い第1の降温レートで前記シリコン基板の温度を低下させる工程と、
前記第2の熱処理後、前記第1の降温レートよりも速い第2の降温レートで、前記シリコン基板の温度を低下させる工程と
を有する半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
第1の熱処理と第2の熱処理とに分けて、水素雰囲気中で熱処理することにより、所望のトランジスタ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】実施例による半導体装置の製造方法の、製造途中段階における装置の断面図(その1)である。
【図1−2】実施例による半導体装置の製造方法の、製造途中段階における装置の断面図(その2)である。
【図1−3】実施例による半導体装置の製造方法の、製造途中段階における装置の断面図(その3)である。
【図1−4】実施例による半導体装置の製造方法の、製造途中段階における装置の断面図(その4)である。
【図1−5】実施例による半導体装置の製造方法の、製造途中段階における装置の断面図(その5)及び製造された半導体装置の断面図である。
【図2】(2A)は、実施例による方法で製造した製造途中段階における活性領域と素子分離絶縁膜との境界近傍の断面図であり、(2B)は、従来例による方法で製造した製造途中段階における活性領域と素子分離絶縁膜との境界近傍の断面図である。
【図3】実施例で用いる急速加熱急速冷却装置の概略図である。
【図4】実施例及び変形例による方法で採用される水素熱処理時の基板温度の時刻暦を示すグラフである。
【図5】自然酸化膜が形成されたシリコン基板を水素熱処理したときの残膜の厚さと、水素熱処理時間との関係を、熱処理温度ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1A〜図1Oを参照して、実施例による半導体装置の製造方法について説明する。
【0014】
図1Aに示すように、シリコン基板10を洗浄した後、その表面に、酸化シリコンからなる厚さ約10nmのバッファ膜11を形成する。バッファ膜11の形成には、例えばドライ酸化やパイロジェニック酸化が用いられる。バッファ膜11の上に、窒化シリコンからなる厚さ約80nm〜130nmのマスク膜12を形成する。マスク膜12の形成には、例えば化学気相成長(CVD)が用いられる。
【0015】
図1Bに示すように、素子分離絶縁領域となる領域のマスク膜12及びバッファ膜11を除去する。マスク膜12をエッチングマスクとして、シリコン基板10の表層部をエッチングすることにより、素子分離溝14を形成する。素子分離溝14の内面を熱酸化することにより、厚さ約5nmの酸化シリコン膜(図示せず)を形成する。
【0016】
図1Cの構造に至るまでの工程について説明する。シリコン基板10の上に、高密度プラズマを用いた化学気相成長(HDP−CVD)により、素子分離溝14の深さよりも厚い酸化シリコン膜を堆積させる。化学機械研磨(CMP)を行うことにより、マスク膜12の上面よりも上に堆積している酸化シリコン膜を除去する。素子分離溝14内には、酸化シリコンからなる素子分離絶縁膜15が残る。窒素雰囲気中で、温度約900℃の条件で熱処理を行うことにより、素子分離絶縁膜15を緻密化させる。
【0017】
緻密化後、フッ酸と熱リン酸を用いて、マスク膜12及びバッファ膜11を除去する。
【0018】
図1Dに示すように、シリコン基板10のシリコン表面が露出した活性領域16A〜16Cが形成される。その後、フッ酸、SC−1洗浄液、及びSC−2洗浄液を用いた洗浄を行う。
【0019】
図2Aに、素子分離絶縁膜15と活性領域16Bとの界面を拡大した断面図を示す。素子分離絶縁膜15の縁には歪が発生しているため、素子分離絶縁膜15の縁の近傍は、中央部分に比べて、フッ酸等によるエッチング速度が速くなる。このため、フッ酸処理を行うと、素子分離絶縁膜15の縁の近傍が、中央部分に比べて深くエッチングされ、ディボット20が発生する。ディボット20は、フッ酸処理が繰り返される度に深くなる。
【0020】
図1Eに示すように、酸化シリコンからなる厚さ約10nmの保護膜21を形成する。図1Fに示すように、NMOSFETを形成すべき活性領域16A、16Bの表層部にp型不純物、例えばボロン(B)を注入することにより、p型ウェル25を形成する。PMOSFETを形成すべき活性領域16Cにn型不純物、例えばリン(P)または砒素(As)を注入することにより、n型ウェル26を形成する。さらに、チャネルドープ及びしきい値制御用の不純物注入を行う。これらの不純物注入後、窒素雰囲気中で、温度900℃〜1050℃の条件で、活性化アニールを行う。活性化アニール後、フッ酸により、保護膜21を除去する。
【0021】
図1Gに示すように、活性領域16A〜16Cに、シリコン基板10のシリコン表面が露出する。
【0022】
図1Hに示すように、活性領域16A〜16Cの表面を、温度800℃の条件でウェット酸化することにより、相対的に厚いゲート絶縁膜となる厚さ7nmの第1のゲート絶縁膜30を形成する。
【0023】
図1Iに示すように、シリコン基板10の上に、レジストパターン31を形成する。レジストパターン31には、平面視において、相対的に薄いゲート絶縁膜を形成すべき活性領域16Bを内包する開口31Aが形成されている。レジストパターン31は、相対的に厚い第1のゲート絶縁膜30を形成すべき活性領域16A、16Cを覆っている。
【0024】
図1Jに示すように、フッ酸を用いて、開口31A内に露出している第1のゲート絶縁膜30(図1I)を除去する。
【0025】
図1Kに示すように、SPM薬液を用いてレジストパターン31を除去する。さらに、SC−1洗浄液及びSC−2洗浄液を用いた洗浄を行う。これらの洗浄後には、活性領域16Bの表面に自然酸化膜33が形成されている。
【0026】
図1Lに示すように、自然酸化膜33を除去するために、水素ガス雰囲気中で熱処理(水素熱処理)を行う。
【0027】
図3に、この熱処理に用いられる急速加熱急速冷却装置の概略図を示す。チャンバ102内にウエハ保持台104が配置されている。ウエハ保持台104によって、アニール対象のシリコン基板10が保持される。ウエハ保持台104で保持されたシリコン基板10の上方に、複数の加熱用のランプ103が配備されている。加熱用ランプ103を点灯させることにより、シリコン基板10を急速加熱することができる。
【0028】
チャンバ102に、ガス導入口109及びガス排出口110が設けられている。ガス源106がバルブ108を介してガス導入口109に接続される。ガス源は、水素ガス源、窒素ガス源、及び酸素ガス源等を含む。ガス種ごとに設けられたバルブ108を調節することにより、チャンバ102内に、水素ガス、窒素ガス、酸素ガス、またはこれらの混合ガスを供給することができる。チャンバ102内に導入されたガスは、ガス排出口110からチャンバ外へ排出される。ガス排出口110には、排気ポンプ111が取り付けられており、チャンバ102内を大気圧よりも低い圧力まで減圧することができる。
【0029】
図4Aに、水素熱処理時における基板温度の時刻暦の一例を示す。なお、図4Aに示した温度の時刻暦は、プログラムされた温度の目標値であり、現実の基板温度は、必ずしも図4Aに示したように直線的に変動するわけではなく、図4Aに示された折れ線で近似される時刻暦を辿る。
【0030】
まず、チャンバ102内にシリコン基板10を装填し、水素ガスを供給することにより、チャンバ102内を水素ガス100%の雰囲気にする。基板温度を、Tまで上昇させ、600℃以下の温度Tの状態を一定時間維持する。温度Tの状態を一定時間維持するのは、シリコン基板10の温度を面内で均一にするためである。その後、基板温度をTまで上昇させる。基板温度Tは、例えば1000℃である。時刻tで基板温度がTに到達すると、基板温度Tの状態を、例えば時刻tまで5秒間維持する。温度Tで一定時間維持する処理を、「第1の熱処理」ということとする。
【0031】
第1の熱処理後、時刻tにおいて基板温度がTになるように、基板温度を降下させる。基板温度Tは、たとえば950℃である。基板温度Tの状態を、例えば時刻tまで10秒間維持する。基板温度Tで一定時間維持する処理を、「第2の熱処理」ということとする。第2の熱処理後、基板温度を常温域まで低下させる。基板温度をTからTまで低下させるときの降温レートは、基板温度をTから常温域まで低下させるときの降温レートよりも遅い。
【0032】
第1の熱処理及び第2の熱処理により、図1Lに示したように、活性領域16Bの表面に形成されていた自然酸化膜33(図1K)が除去される。
【0033】
図1Mに示すように、活性領域の表面を熱酸化する。第1のゲート絶縁膜30が形成されていない活性領域16Bの表面に、相対的に薄い第2のゲート絶縁膜35が形成される。この熱酸化は、第1及び第2の熱処理を行った図3に示した装置を用い、導入ガスを水素から酸素に切り替えることにより行う。第2のゲート絶縁膜35の厚さは、例えば1〜2nmの範囲内である。なお。第1のゲート絶縁膜30が形成されている活性領域16A、16Cの表面においては、殆ど酸化は進まない。
【0034】
第2のゲート絶縁膜35を形成した後、NOまたはNO雰囲気中で、第1のゲート絶縁膜30及び第2のゲート絶縁膜35の窒化処理を行う。
【0035】
図1Nに示すように、活性領域16A〜16Cの上に、多結晶シリコンからなるゲート電極36を形成する。
【0036】
図1Oに示すように、活性領域16A、16B内に、それぞれNMOSFET50、51を形成し、活性領域16C内に、PMOSFET52を形成する。以下、これらのMOSFET形成手順を簡単に説明する。
【0037】
PMOSFETが配置される活性領域16Cをレジストパターンで覆い、ゲート電極36をマスクとして、NMOSFET50、51のエクステンション部形成のためのイオン注入を行う。不純物には、リンまたは砒素が用いられる。なお、ゲート絶縁膜の厚さが異なる2種類のNMOSFET50、51のエクステンション部形成のためのイオン注入を、別々に行ってもよい。
【0038】
PMOSFETを形成すべき活性領域16Cを覆っていたレジストパターンをアッシング及びウェット処理により除去する。NMOSFETを形成すべき活性領域16A、16Bを、新たなレジストパターンで覆い、ゲート電極36をマスクとして、PMOSFET52のエクステンション部形成のためのイオン注入を行う。不純物には、例えばボロンが用いられる。ゲート絶縁膜の厚さの異なる2種類のPMOSFETが形成される場合には、エクステンション部形成のためのイオン注入を、ゲート絶縁膜の厚さごとに、別々に行ってもよい。
【0039】
NMOSFETを形成すべき活性領域16A、16Bを覆っていたレジストパターンを、アッシング及びウェット処理により除去する。次に、温度900℃〜1050℃、時間60秒以下の条件でラピッドサーマルアニール(RTA)を行うことにより、エクステンション部に注入されている不純物を活性化させる。
【0040】
ゲート電極36の側面上に、サイドウォールスペーサ40を形成する。その後、ソース及びドレインを形成するための不純物注入を、NMOSFETとPMONFETとで別々に行う。なお、ゲート絶縁膜の厚さが異なる2種類のNMOSFETごとに、別々にソース及びドレイン形成のためのイオン注入を行ってもよい。同様に、ゲート絶縁膜の厚さが異なる2種類のPMOSFETごとに、別々にソース及びドレイン形成のためのイオン注入を行ってもよい。温度900℃〜1050℃、時間60秒以下の条件でラピッドサーマルアニール(RTA)を行うことにより、ソース及びドレインに注入されている不純物を活性化させる。
【0041】
ソース及びドレインの表面、及びゲート電極の上面に、CoSi等の高融点金属シリサイド膜41を形成する。高融点金属シリサイド膜41は、例えば基板全面にCoSi膜をスパッタリングにより堆積させ、500℃で30秒間の熱処理を行うことにより形成される。余分なCoSi膜は、硫酸、塩酸、過酸化水素水、アンモニア水等を用いた洗浄(RCA洗浄)により除去される。
【0042】
NMOSFET50、51、及びPMOSFET52の上に、ダマシン法またはデュアルダマシン法を用いて多層配線層(図示せず)を形成する。
【0043】
次に、図4Aに示した温度Tでの第1の熱処理と、温度Tでの第2の熱処理とに分けて自然酸化膜を除去した効果について説明する。
【0044】
図5に、自然酸化膜が形成されているシリコン基板を、水素雰囲気中で熱処理した後に残っている酸化膜の厚さの測定結果を示す。横軸は、水素雰囲気中での熱処理の時間を単位「秒」で表し、縦軸は、残膜の厚さを単位「nm」で表す。残膜の厚さは、エリプソメータを用いて測定した。なお、自然酸化膜は薬液処理により形成し、熱処理前の自然酸化膜の厚さは、0.7nmであった。図中のアスタリスク、三角、菱形、正方形、丸記号は、それぞれ熱処理温度を950℃、970℃、990℃、1000℃、及び1010℃とした場合の測定結果を示す。残膜の厚さが0.1nm以下の試料においては、自然酸化膜がほぼ完全に除去されていると考えられる。
【0045】
1000℃で10秒間の熱処理を行うと、自然酸化膜がほぼ完全に除去される。自然酸化膜が除去された状態で、シリコン表面が1000℃程度の高温に晒されると、シリコン原子のマイグレーションが生じる。
【0046】
図2Bに、水素雰囲気中で、1000℃で10秒間の熱処理を行った後の、活性領域16Bと素子分離絶縁膜15との境界近傍の断面図の一例を示す。ディボット20が発生していると、活性領域16Bの縁の近傍のシリコン原子がマイグレーションすることにより、活性領域16Bの表面の断面形状が変化して、丸みを帯びてしまう。この現象は、シリコンウエハを水素雰囲気中で熱処理することにより、シリコン原子をマイグレーションさせてCOPを消滅させる現象と類似している。活性領域の表面の断面形状が変化すると、ゲート幅等が変化し、所望のトランジスタ特性が得られなくなる。
【0047】
実施例においては、第1の熱処理を、T=1000℃で5秒間行う。図5に示した評価結果から、1000℃で5秒間の水素熱処理では、自然酸化膜が完全に除去されることは無く、0.18nm程度の厚さの自然酸化膜が活性領域の表面に残っている。活性領域の表面に自然酸化膜が残っている状態では、シリコン原子のマイグレーションは生じにくい。
【0048】
上記実施例では、第1の熱処理後、温度T=950℃で10秒間の第2の熱処理を行う。図5に示した評価結果から、950℃で10秒間の水素熱処理により、自然酸化膜の厚さが約0.25nm減少していることがわかる。すなわち、第2の熱処理時に、自然酸化膜の厚さが約0.25nmだけ薄くなる。第1の熱処理後に残っている自然酸化膜の厚さが約0.18nmであるため、第2の熱処理において、自然酸化膜がほぼ完全に除去される。なお、シリコン原子のマイグレーションは、基板温度が低いほど生じにくい。例えば、基板温度が950℃程度であれば、シリコン原子のマイグレーションは生じにくい。このため、活性領域の表面の断面形状を維持したまま、自然酸化膜をほぼ完全に除去することができる。なお、例えば、エリプソメータによる膜厚の測定結果が0.1nm未満である場合に、「ほぼ完全に除去」されているということができる。
【0049】
活性領域の表面の断面形状を維持しつつ、自然酸化膜を除去するためには、活性領域の表面に自然酸化膜が残っている時点で、第1の熱処理を終了させることが好ましい。具体的には、図5に示したように、エリプソメータによる残膜の厚さの測定結果が0.1nmよりも厚い状態で第1の熱処理を終了させることが好ましい。例えば、第1の熱処理を1010℃で行う場合には、熱処理時間を4秒以下にすることが好ましく、990℃で行う場合には、熱処理時間を8秒以下にすることが好ましく、970℃で行う場合には、熱処理時間を17秒以下にすることが好ましい。
【0050】
第1の熱処理温度を高くすると、処理時間を短くすることができる。第1の熱処理の温度を1030℃よりも高くすると、極短い時間で自然酸化膜が除去されてしまうため、自然酸化膜が残っている状態で第1の熱処理を終了させる制御が困難である。また、第1の熱処理の温度が低すぎると、自然酸化膜が殆ど除去されないか、または第1の熱処理時間を極端に長くしなければならなくなる。このため、第1の熱処理温度は、930℃〜1030℃の範囲内とすることが好ましい。
【0051】
第2の熱処理の温度は、できる限り低温にすることが好ましい。具体的には、シリコン表面のシリコン原子がマイグレーションし難い温度、より具体的には、980℃以下にすることが好ましい。また、第2の熱処理の温度が低すぎると、自然酸化膜が殆ど除去されなくなってしまう。このため、第2の熱処理の温度は、900℃以上にすることが好ましい。
【0052】
第1及び第2の熱処理の時間は、0秒よりも長ければよい。また、生産性の観点から、30秒以下にすることが好ましい。なお、第1及び第2の熱処理の温度及び時間は、シリコン表面に形成されている自然酸化膜の厚さによって適切に選択することが好ましい。
【0053】
上記実施例では、活性領域と素子分離絶縁膜との境界近傍において、活性領域の表面の断面の変形を抑制することができる。このため、活性領域に形成するMOSFETの特性が所望の特性からずれてしまうことを抑制できる。
【0054】
図4Bに、上記実施例の変形例による水素処理時の基板温度の時刻暦を示す。第1の熱処理が終了するまでの基板温度の時刻暦は、図4Aの場合と同一である。図4Bに示した例においては、第1の熱処理後、時刻tからtの期間、基板温度を緩やかに降温させている。時刻tにおいて基板温度がTに達した時点で、降温レートを速くしている。
【0055】
基板温度を緩やかに降温させている期間t〜tに、図4Aに示した温度Tでの第2の熱処理と同等の現象が生じる。すなわち、この期間に、自然酸化膜の残膜が除去される。このように、第2の熱処理は、必ずしも基板温度を一定に維持する必要はない。緩やかに基板温度が低下している期間に、第1の熱処理後に残っている自然酸化膜が除去されればよい。この第2の熱処理時における降温レートは、自然酸化膜がほぼ完全に除去されるように設定すればよい。一例として、降温レートを−20℃/sよりも遅くすることが好ましい。また、降温レートが遅すぎると、自然酸化膜が完全に除去された後も、基板温度が1000℃以上に維持されていることが懸念される。このため、降温レートは、−5℃/sよりも速くすることが好ましい。
【0056】
なお、降温レートは、自然酸化膜が完全に除去される時点で、基板温度ができるだけ低温になるように、具体的には980℃以下になるように設定することが好ましい。これにより、シリコン原子のマイグレーションを防止することができる。
【0057】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0058】
10 シリコン基板
11 バッファ膜
12 マスク膜
14 素子分離溝
15 素子分離絶縁膜
16A、16B、16C 活性領域
20 ディボット
21 保護膜
25 p型ウェル
26 n型ウェル
30 第1のゲート絶縁膜
31 レジストパターン
31A 開口
33 自然酸化膜
35 第2のゲート絶縁膜
36 ゲート電極
40 サイドウォールスペーサ
41 高融点金属シリサイド膜
50、51 NMOSFET
52 PMOSFET
102 チャンバ
103 加熱用ランプ群
104 ウエハ保持台
106 ガス源
108 バルブ
109 ガス導入口
110 ガス排出口
111 排気ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を、水素を含む還元性雰囲気中で、温度が930℃〜1030℃の範囲内であり、時間が0秒よりも長くかつ30秒以下の条件で第1の熱処理を行う工程と、
前記第1の熱処理後、水素を含む還元性雰囲気中に配置したまま、温度が前記第1の熱処理時の基板温度よりも低く、かつ900℃〜980℃の範囲の基板温度に、0秒よりも長くかつ30秒よりも短い時間維持して第2の熱処理を行う工程と
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項2】
シリコン基板を、水素を含む還元性雰囲気中で、温度が950℃〜1050℃の範囲内であり、時間が0秒よりも長くかつ60秒以下の条件で第1の熱処理を行う工程と、
前記第1の熱処理後、水素を含む還元性雰囲気中に配置したまま、第2の熱処理として、−20℃/sよりも遅い第1の降温レートで前記シリコン基板の温度を低下させる工程と、
前記第2の熱処理後、前記第1の降温レートよりも速い第2の降温レートで、前記シリコン基板の温度を低下させる工程と
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の熱処理を行う前の前記シリコン基板の表面に、自然酸化膜が形成されており、
前記第1の熱処理は、前記自然酸化膜が完全には除去されない温度及び時間の条件で行い、前記第2の熱処理において、前記第1の熱処理後に残っている自然酸化膜を除去する請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱処理を行う前に、さらに、
前記シリコン基板の表層部に、シャロートレンチアイソレーション法による素子分離絶縁膜を形成することにより活性領域を画定する工程を含み、
前記第2の熱処理後、前記活性領域の表層部を酸化することにより、第1のゲート絶縁膜を形成する工程を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記活性領域を画定する工程において、複数の活性領域を画定し、
前記第1の熱処理を行う前に、さらに、
複数の活性領域の表面を酸化することによって第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、
一部の前記活性領域の表面に形成されている前記第2のゲート絶縁膜を除去する工程と
を含み、
前記第2のゲート絶縁膜を除去した後、前記第1の熱処理を行う請求項4に記載の半導体装置の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−272798(P2010−272798A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125377(P2009−125377)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】