説明

新規な水素化シリコンゲルマニウム、その製造法および使用法

本発明は、水素化シリコンゲルマニウム化合物、それらの合成法、それらの成膜法、およびそれらの化合物を用いて作製された半導体構造を提供する。これらの化合物は、式:SiHn1(GeHn2)yによって定義される。式中、yは2,3または4であり;n1は、0,1,2または3であって原子価を満たし;n2は、化合物中の各Ge原子に関して独立に0,1,2または3であって原子価を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学、オプトエレクトロニクス、シリコンゲルマニウム合金、半導体構造、ならびに関連する方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高Ge含有量を有するSi(100)上のヘテロエピタキシャルGe1−xSi層は、ソーラーセル、MEMS、量子カスケードレーザや、高速変調器および光検出器を含むSiフォトニクス(非特許文献1,2)などの主要技術において多くの用途を有するために興味深い(非特許文献3)。しかし、これらの材料は、このIR光デバイスにおける大きな可能性にもかかわらず、それほど開発が進んでいない。さらに、これらの材料は、高移動性成長、ひずみSiGeデバイスチャンネルを得るための仮想的な基板として役立つだけでなく、Si技術を用いたIII−V族系デバイスのモノリシック集積化への有力な経路ともみなされている(非特許文献4,5)。これらの材料を得るための現在最善の経路は複雑で問題が多く、Ge1−xSiエピ層とSi基板との間のミスフィットひずみを緩和して、それぞれ平坦な表面を作り出すために、厚い(>10μm)組成的に傾斜した膜の高温成長と、化学機械的平坦化工程とを必要とをする(非特許文献6)。
【0003】
これらの問題を回避するために、本発明者らは、最近、傾斜組成を必要とせずに、Si上にデバイス品質のひずみ緩和Geリッチ膜を作製する新規化学蒸着(CDV)へテロエピタキシーを開発した(非特許文献7,8)。本発明者らの方法は、(HGe)SiH4−x(x=1−4)ファミリー化合物などのSi−Ge直接結合を有する単一ソースの水素化物前駆体の成膜を含む。これらの化合物は、市販の出発物質を利用した簡易な方法により半導体等級純度で普通に合成される(非特許文献7)。これらの化合物は、その物理的および化学的性質、例えば高揮発性および易反応性などのために、CVDやガスソース分子線エピタキシー(GSMBE)による低温膜成長における試薬として特に有用である。本発明者らの初期の成長実験では、対応前駆体SiHGeH、(HGe)SiH,(HGe)SiHおよび(HGe)Siの組成と正確に一致する、Si0.50Ge0.50、Si0.33Ge0.67、Si0.25Ge0.75およびSi0.20Ge0.80の組成を有する単結晶膜を得た(非特許文献8)。本発明者らの結果は、前駆体のSi−Ge構造全体を膜に組み込むことにより、組成、構造およびひずみを原子レベルで正確に制御できることを証明している。得られた膜は、従来のガスソースを用いて既に報告されているものよりはるかに高品質であり、はるかに低い温度で成長し、CMOS技術に適合する。
【0004】
この組成範囲内では、Si0.50Ge0.50半導体系は、高電子移動度を示す完全ひずみSiチャンネルを金属酸化物シリコン電界効果トランジスタ(MOSFETS)に組み込むのに理想的な格子次元を有するために、特に重要である。したがって、これらの材料は、高速デバイスにそのまま工学応用するのに理想的に適合している。しかし、本発明者らは、実験で、必要なデバイス品質特性(表面平坦性、低欠陥密度)を有する化学量論的Si0.50Ge0.50が、〜450℃の極大温度近くで、ハイスループットデバイス製造には低過ぎて実用的ではない0.2nm/分の成長速度でしか成長し得ないことに気付いた。HGeSiH経由では低温下には極めてわずかな膜成長しか観測されず、一方、〜500℃を超えると、基板との熱的ミスマッチのために、表面が粗く、転位密度が高い膜ができた。
【0005】
GeSiHに比べて反応性が高く、デバイス製造特性が改善された新規化合物の合成は、当技術分野において大きな価値を有する。
【非特許文献1】Mooney P.M.、Chu J.O.、Annu. Rev. Mater. Sci.、2000年、第30巻、p.335
【非特許文献2】Tromp R.M.、Ross F.M.、Annu. Rev. Mater. Sci.、2000年,第30巻、p.431
【非特許文献3】Kuo Y−H、Kyu Y.、Ge Y.、Ren S.、Roth J.E.、Kamins T.I.、Miller D.A.B.、Harris J.S.、Nature、2005年,第437巻,p.1334
【非特許文献4】Lee M.L.、Pitera A.J.、Fitzgerald E.A.、J. Vac. Sci.Technol.、2004年、B、第22巻、第1号、p.158
【非特許文献5】E.Kasper、S.Heim、Appl. Surf. Sci、2004年、第224巻,p.3
【非特許文献6】Currie M.T.、Samavedam S.B.、Langdo T.A.、Leitz C.W.、Fitzgerald E.A.、Appl. Phys. Lett.、1998年、第72巻、第14号、p.1718
【非特許文献7】Ritter C.J.、Hu C.、Chizmeshya A.V.G.、Tolle J.、Klewer D.、Tsong I.S.T.、Kouvetakis J.、J. of the Am. Chem. Soc.、2005年、第127巻、第27号、p.9855−9864
【非特許文献8】Hu C.−W.、Menendez J.、Tsong I.S.T.、Tolle J.、Chizmeshya A.V.G.、Ritter Cole、Kouvetakis J.、Applied Physics Letters、2005年、第87巻、第18号、p.181903/1−3
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、1つの態様において、式I:SiHn1(GeHn2
〔式中、
yは2,3または4であり;
n1は、0,1,2または3であって、原子価を満たし;
n2は、化合物中の各Ge原子に関して独立に0,1,2または3であって、原子価を満たす〕
の水素化シリコンゲルマニウムを含む化合物を提供する。
【0007】
第2態様において、本発明は、基板と、1種以上の式Iの化合物を含むガス状前駆体を基板表面近くに導入して形成されたSi−Ge層とを備えた半導体構造を提供する。
さらなる態様において、本発明は、基板と、1種以上の式Iの化合物の骨格を含むSi−Ge層とを備えた半導体構造を提供する。
【0008】
第3態様において、本発明は、1種以上の式Iの水素化シリコンゲルマニウムを合成する方法を提供する。この方法は、水素化シリコンゲルマニウムが形成される条件下に、ノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランおよびトリフラート置換ジシランからなる群から選択される化合物と、GeHリガンドを含む化合物とを結合させる工程を含む。
【0009】
第4態様において、本発明は、反応チャンバ内で、基板上にSi−Ge材料を成膜する方法を提供する。この方法は、基板上にSi−Ge材料を含む層が形成される条件下に、1種以上の式Iの化合物を含むガス状前駆体を反応チャンバに導入する工程を含む。
【0010】
第5態様において、本発明は、基板上にエピタキシャルSi−Ge層を成膜する方法を提供する。この方法は、1種以上の式Iの化合物を含むガス状前駆体を基板表面または基板表面近くに導入する工程と、基板上にエピタキシャルSi−Geが形成される条件下に
ガス状前駆体を脱水素化する工程とを含む。
【0011】
本発明は、1つの態様において、式I:SiHn1(GeHn2
〔式中、
yは2,3または4であり;
n1は、0,1,2または3であって、原子価を満たし;
n2は、化合物中の各Ge原子に関して独立に0,1,2または3であって、原子価を満たす〕
の水素化シリコンゲルマニウムを含むか、式Iの水素化シリコンゲルマニウムからなる化合物を提供する。
【0012】
本明細書において、「原子価を満たす」という表現は、本発明の化合物中の各SiおよびGe原子の4価を維持することを意味する。
本明細書で論証するように、式Iの化合物は、例えば、完全に結晶性のエピタキシャル微細構造、滑らかな形態、および均一なひずみ緩和状態を含めた半導体用に望ましい特性を有する化学量論的SiGe膜を生成する制御成膜に使用可能である。式Iの化合物は、長期間にわたって極めて安定であり、したがって、産業上で利用可能な有望な分子源であることが本明細書で論証される。
【0013】
上述のように、この第1態様の1つの実施形態では、yは2であり;代替実施形態では、yは3であり;さらなる代替実施形態においては、yは4である。
一定の好適な実施形態では、n1は、1,2または3であって、原子価を満たす。それらの好適な実施形態では、yが2のとき、n1は1または3である。それらの好適な実施形態では、yが3のとき、n1は2または3である。
【0014】
一定の他の実施形態では、yが3のとき、化合物中の少なくとも1つのGe原子に関して、n2は2である。
一定のさらなる実施形態では、yが3のとき、n1は1または2である。
【0015】
本発明のこの態様に係る化合物としては、n型、g型およびiso型の化合物やそれらの組み合わせを含むが、それらには限定されない立体配座型の化合物が挙げられる。
典型的な式Iの水素化シリコンゲルマニウムは、テーブル1に記載する化合物を含むか、そのような化合物からなる。化合物中のSiおよびGe原子はすべて4価である。ダッシュは、直線状異性体のSi原子とGe原子の結合を表わす。イソブテン様およびイソペンタン様異性体では、角括弧内のSi原子とGe原子は角括弧の左側のSiまたはGeと直接結合し、いくつかの化合物では、一番右側の角括弧の外側の丸括弧内のSi原子またはGe原子は角括弧内の最後のSiまたはGeに直接結合している。
【0016】
例えば、図1は化合物n−Ge−Si−Ge−Geを示している。テーブル1に示すように、この化合物はGeH−SiH−GeH−GeHとも称される。
【0017】
【表1】

上述のように、これらの化合物はそれぞれn型またはg型、およびそれらの立体異性体を含む。
【0018】
好ましい実施形態において、水素化シリコンゲルマニウムは、GeH−SiH−GeH−GeHである。
第1態様はさらに、式1による水素化シリコンゲルマニウムの組み合わせを含む組成物を提供する。
【0019】
他の実施形態において、本発明の化合物はほぼ単離されている。本明細書において、本発明の「ほぼ単離された」(substantially isolated)化合物とは、前駆体および他の混入物質から、少なくとも75%、好ましく80%、85%、90%、95%、98%、またはそれ以上単離された、本発明の1種の化合物、または組み合
わせにおいては本発明の2種以上の化合物である。
【0020】
第2態様において、本発明は、基板と、基板表面近くに、1種以上の式Iの水素化シリコンゲルマニウム化合物を含むか、それらの化合物からなるガス状前駆体を導入して形成されたSi−Ge層とを備えた半導体構造を提供する。
【0021】
本明細書に示すように、式Iの水素化シリコンゲルマニウム化合物は、均一な組成およびひずみプロファイルと、低貫通転位密度と、原子的に平坦な表面とを示すSiGe半導体合金を先例のない低温で製造するのに特に有用である。制御成膜により、前駆体のSi/Ge含有量を反映し、完全に結晶性のエピタキシャル微細構造、滑らかな形態、および均一ひずみ緩和状態を含めた半導体用に望ましい特性を有する化学量論的SiGe膜ができた。
【0022】
この態様において、基板は、シリコン、ゲルマニウム、シリコン・オン・インシュレータ、Ge:Sn合金、SiO、サファイア、石英、Si:Ge合金、Si:C合金、ステンレス鋼、ポリイミドまたは他のポリマーフィルム、例えばフレキシブルディスレイの製造に使用するものなどを含むがそれらには限定されない半導体またはフラットパネルディスプレイ用に適した任意の基板であってよい。好ましい実施形態において、基板はSi(100)を含む。
【0023】
好ましい実施形態において、本発明のこの態様の半導体基板は、1マイクロメートル未満の厚さ、より好ましくは50〜500nmの範囲の厚さを有するSiGe膜を含むSiGe層を有する。他の好ましい実施形態では、この第2態様の半導体基板は、10/cm以下の貫通欠陥密度を有するSiGe膜を含むSiGe層を有する。他の好ましい実施形態において、本発明のこの態様の半導体基板は、ほぼ原子的に平坦な表面形態を有するSiGe膜を含む。
【0024】
さまざまな実施形態において、ガス状前駆体は、テーブル1に記載されている、それぞれ、n型またはg型の1種以上の化合物およびそれらの立体異性体を含むか、そのような化合物からなる。
【0025】
第2態様の半導体基板の好ましい実施形態において、ガス状前駆体は、GeH−SiH−GeH−GeHを含むか、GeH−SiH−GeH−GeHからなる。
【0026】
この半導体構造は、必要に応じて、例えば、ホウ素、リン、ヒ素、アンチモンなどのドーパントの添加を含むがそれには限定されない他の特徴をさらに含み得る。これらの実施形態は、能動素子として用いる半導体基板用に特に好ましい。上記のようなドーパントの半導体基板への添加は、当技術分野では標準的な方法で実施し得る。
【0027】
他の実施形態において、半導体構造は、所与の用途向けに、必要に応じて、可変量の炭素またはスズをさらに含み得る。半導体基板への炭素またはスズの添加は、当技術分野では標準的な方法で実施できる。炭素は、半導体構造内のドーパントの移動度、より特定的にはホウ素の移動度を低下させるのに用い得る。Snを加えると、Si系レーザおよび高感度赤外光検出器の形成につながる、直接発光および吸光などの新規な光学特性を有する材料を得ることができる。
【0028】
他の態様において、本発明は、基板と、1種以上の式Iの化合物の骨格を含むか、そのような骨格からなるSi−Ge層とを備えた半導体構造を提供する。好ましい実施形態は上述の通りである。
【0029】
本発明は、他の態様において、不活性ガス中に1種以上の式Iの化合物を含む組成物を提供する。そのような不活性ガスとしては、H、He、Nおよびアルゴンが挙げられるが、それらには限定されない。好ましい実施形態は上述の通りである。
【0030】
半導体基板製造用の前駆体として式Iの化合物を用いることにより、半導体基板は、本発明の化合物の骨格を含むか、そのような骨格からなるSi−Ge層を有する。成膜用にSi源とGe源を別々に使用するのではなく、本発明の化合物を用いることにより、得られるSi−Ge層は、Si原子とGe原子が数個の(または多数の)SiおよびGe原子クラスタの混和物として存在し、結果的に不均一な結合および局所的に応力が加えられた形状をもたらし得る従来のSi−Ge膜のランダム性とは対照的に、極めて明確で均一な結合配列とひずみ補正されたSi−Ge原子パターンを有する。不整合へテロエピタキシーアプリケーションにおいて、これらの材料は、(大部分のデバイスアプリケーションでは許容できないレベルの)大量の転位と、ひずみ不均一性と、高度の表面粗さとを示す。従来のものと比べて本発明者らの化合物、膜および方法の明白かつ重要な利点は、全Si−Ge分子核を組み込むことにより、結晶全体にわたって非常に均一な結合配列の形成が促進され、結果として、(表面リップルのない)平坦な表面形態を有する緩和された(または均一に応力が加えられた)膜が得られる。極めて重要な利点は、Si原子とGe原子の表面移動度を低減させかつ質量分離(mass segregation)を防止することによって、原子レベルで極めて均一な組成およびひずみプロファイルをもたらす、先例のない低成長温度である。
【0031】
また、大量のSi/Ge核をそのまま膜に組み込むと、従来の低質量化合物に比べて、表面拡散が低く、付着係数が高くなる。この高い反応性が、前駆体の質量に伴って規則的に増大する高成長速度を促進させる。
【0032】
さらに、ガス状前駆体のSi/Ge骨格全体を格子に組み込むことは、シランとゲルマンを別々に蒸着する方法や、固体SiおよびGe源の分子線エピタキシーによっては達成し得ない、形態、調節可能な組成、および構造の精密制御を可能にするので、SiGeナノスケール系(量子ドットおよびワイヤ)の形成においては特に重要である。組成および対応形態の精密制御は、いずれも最終的にこれらのナノスケール材料の物性を決定するので、極めて重要な問題である。個々のナノ構造内およびナノ構造間に組成変異が存在すると、デバイスの光学特性や電子特性、および性能に有意な影響を与える。MBEの場合、平均濃度は、材料の成長に利用する流束比に基づいて割り当てられる。CVDアプローチでは、ナノ構造サイズのスケールの局所的組成分布は、さまざまな分子源の反応をサンプル中のすべての部位で同時に制御することができないので、もっと不明確である。したがって、どちらの技術も、制御可能な組成、ひずみおよびサイズを有するSi−Geナノスケール構造の規則的な成長(systematic growth)を保証することはできない。
【0033】
そのような高精細パターンは、中性子回折など、当技術分野では標準的な方法を用いて決定することができる。
本発明の化合物の骨格を含むSi−Ge層の一例は、図13に見られる。この図は、濃度GeSi(Si0.50Ge0.50)(e)のダイヤモンド立方晶Si−Ge格子に向う途中の相互結合(GeH(SiHモノマー(a−d)に基づく、本発明の典型的な一連の巨大分子重合単位を示している。この材料は、構造的かつ組成的構成要素として(GeH(SiHからなるGe−Si−Si−Ge分子核を有する。
【0034】
図14および15は、SiGe膜のランダム2D(1層)クラスタの分子単位の成長を
概略的に示している。図14は、Si原子とGe原子がランダムに分布した組成物Si0.50Ge0.50の2次元島の仮想成長シーケンスを示している。概略プロセスが(111)成長面に対して法線方向に見られるが、このプロセスは、n−GeSiSiGe分子の規則的付加およびH分子の同時除去を含む。図15も同様であるが、概略プロセスは、(001)成長面に対して法線方向に見られる。
【0035】
当業者には、本発明の1種以上の他の重合化合物を基礎とする本発明の他の巨大分子重合単位からも、使用化合物中のGeおよびSiそれぞれの濃度に基づく所望のGeおよびSi濃度を有するSi−Ge格子が得られることが認められる。したがって、本明細書の教示に基づき、当業者は、本発明の式Iに係る1つ以上の化合物を用いて、同様のSi−Ge層を調整することが可能である。
【0036】
上述のように、本発明の化合物は、式Iの化合物を用いた元素の均質混合によるランダム合金の形成に使用し得る。得られるSi−Ge骨格構造は、本発明の出発化合物の重合単位からなり、重合は脱水素化を必要とする。
【0037】
この態様の好ましい実施形態は、本発明の第2態様に関して上述した通りである。
第3態様において、本発明は、1種以上の式Iの水素化シリコンゲルマニウムを合成する方法を提供する。この方法は、水素化シリコンゲルマニウムが形成される条件下に、ノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランおよびトリフラート置換ジシランからなる群から選択される化合物と、GeHリガンドを含んでなる化合物とを結合させる工程を含む。
【0038】
上述のように、この態様は、式Iの化合物の製造法を提供する。本明細書に記載の合成経路は、工業用途および製造プロセスに適した半導体等級の材料を得るために、高収率一段階置換反応を利用する。
【0039】
この第3態様の1つの実施形態において、GeHリガンドを含む化合物は、KGeH、NaGeH、およびMRGeH(ここで、Mは4族元素、Rは有機リガンドである)からなる群から選択される。
【0040】
この第3態様のさらなる実施形態において、この方法は、GeHリガンドを含む化合物とノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランとを結合させる工程を含み、ノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランは(SO(SiHを含む。他の実施形態では、ペルフルオロアルキルスルホニルおよびアルキルスルホニル置換シラン(またはゲルマン)全系を用い得る。より好ましくは、GeHリガンドを含む化合物はKGeHである。さらに好ましくは、この方法は、
(a) −50〜−30℃(より好ましくは−40℃)で溶媒中のKGeHからなるスラリーに(SO(SiHを添加して混合物を形成する工程、
(b) 混合物を−20〜0℃(より好ましくは約−10℃)に温める工程、
(c) 窒素下に混合物を攪拌する工程、
(d) 混合物を25〜45℃(より好ましくは約35℃)に加熱する工程、および
(e) 混合物を蒸留して、GeH−SiH−GeH−GeHを形成する工程
を含む。
【0041】
この第3態様の代替実施形態において、この方法は、GeHリガンドを含む化合物とトリフラート置換ジシランとを結合させる工程を含み、トリフラート置換ジシランは(SOCF(SiHを含む。より好ましくは、GeHリガンドを含む化合物はKGeHである。さらに好ましくは、この方法は、
(a) −40〜−10℃(より好ましくは約−30℃)で溶媒中のKGeHからなる
スラリーに(SOCF(SiHを添加して混合物を形成する工程、
(b) 場合により、混合物を10〜35℃(より好ましくは約23℃)に温める工程、(c) 窒素下に混合物を攪拌する工程、および
(d) 混合物を蒸留してGeH−SiH−GeH−GeHを形成する工程
を含む。
【0042】
この実施形態において、(SOCF(SiHとKGeHとの低温(T<−10℃)反応により、主に(HGe)(SiHと、不純物レベルの(GeH(SiHGeH)〔GeH−SiH−GeH−GeHとも称される〕が得られる。これらの種は、蒸留により分離できる。低温経路とは対照的に、T≧22℃での(SOCF(SiHとKGeHとの反応では、主に位置異性体(GeH(SiHと(GeHSiH(SiH)との組み合わせがさまざまな割合で得られる〔少量の(GeH(SiHGeH)も生成するが、これは、(SOCF(SiHと(GeH(SiHGeH)の混合物から分別蒸留することにより全体(bulk)から容易に分離される〕。
【0043】
第4態様において、本発明は、反応チャンバ内で基板上にSi−Ge材料を成膜する方法を提供する。この方法は、基板上にSi−Ge材料を含む層が形成される条件下に、1種以上の式Iの化合物を含むかそのような化合物からなるガス状前駆体をチャンバに導入する工程を含む。
【0044】
第5態様において、本発明は、基板上にエピタキシャルSi−Ge層を成膜する方法を提供する。この方法は、基板上にエピタキシャルSi−Geが形成される条件下に、1種以上の式Iの化合物を含むかそのような化合物からなるガス状前駆体を基板表面近くに導入する工程と、ガス状前駆体を脱水素化する工程とを含む。
【0045】
この態様において、基板は、シリコン、ゲルマニウム、シリコン・オン・インシュレータ、Ge:Sn合金、SiO、サファイア、石英、Si:Ge合金、Si:C合金、ステンレス鋼、ポリイミドまたはフレキシブルディスプレイの製造に用いられる他のポリマーフィルムを含むがそれらには限定されない、半導体またはフラットパネルディスプレイ用に適した任意の基板であってよい。好ましい実施形態において、基板はSi(100)を含む。
【0046】
ガス状前駆体の実施形態は、本発明の前の態様に関して上述した通りである。例えば、これらの方法は、ホウ素、リン、ヒ素およびアンチモンなどのドーパントの添加を含むがそれには限定されない、基板上にドーパントを添加する工程をさらに含み得る。これらの実施形態は、能動素子として用いる半導体基板に特に好ましい。そのようなドーパントの半導体基板への添加は、当技術分野では標準的な方法を用いて実施できる。
【0047】
別の実施形態において、これらの方法は、半導体基板に可変量の炭素またはスズを添加する工程を含む。半導体基板への炭素またはスズの添加は、当技術分野では標準的な方法により実施できる。炭素は、半導体構造内のドーパントの移動度、特にホウ素の移動度を低下させるのに用い得る。Snを添加すると、Si系レーザや高感度赤外光検出器の形成につながる、直接発光および吸光などの新規な光学特性を有する材料を得ることができる。
【0048】
本明細書で明らかにされているように、本発明の水素化シリコンゲルマニウムは、基板上に、均一な組成およびひずみプロファイルと、低貫通転位密度と、原子的に平坦な表面とを示すデバイス品質層を成膜するのに用いた。
【0049】
本発明の第4および第5態様の好ましい実施形態において、ガス状前駆体導入工程は、ガス状前駆体をほぼ純粋な形態で導入する工程を含む。さらなる好ましい実施形態において、ガス状前駆体導入工程は、ガス状前駆体を単一ガスソースとして導入する工程を含む。
【0050】
第4および第5態様の別の実施形態において、ガス状前駆体導入工程は、ガス状前駆体を不活性キャリアガスと混合して導入する工程を含む。この実施形態において、不活性ガスは、例えば、HまたはNであり得る。
【0051】
これらの態様において、ガス状前駆体は、ガスソース分子線エピタキシー、化学蒸着、プラズマ化学蒸着、レーザ支援化学蒸着、および原子層堆積を含むがそれらには限定されない任意の適当な技術を用いて成膜できる。
【0052】
第4および第5態様の好ましい実施形態において、ガス状前駆体は、300〜450℃、より好ましくは350〜450℃の温度で導入する。この低温/高速成長プロセスに付随する実用面での利点としては、(i)前処理Siウエハに適合する短い成膜時間、(ii)高周波数デバイスに応用するための選択的成長、および(iii)薄相を得るために特に重要である極くわずかなドーパント質量分離が挙げられる。
【0053】
第4および第5態様のさまざまな他の実施形態において、ガス状前駆体は、約1.33×10−6〜約1.33×10Pa(10−8〜1000Torr)の分圧で導入する。1つの好ましい実施形態において、ガス状前駆体は、約1.33×10−6〜約1.33×10−3Pa(10−8〜10−5Torr)(UHV縦型炉技術に対応)で導入する。別の好ましい実施形態では、ガス状前駆体は、LPCVD条件に対応する約1.33×10−6〜約1.33×10Pa(10−8〜100Torr)で導入する。
【0054】
さまざまな他の好ましい実施形態において、Si−Ge材料は、平坦表面を有するひずみ緩和層として基板上に形成され;Si−Ge材料の組成はほぼ均一であり;かつ/またはガス状前駆体のSiおよびGe骨格全体がSi−Ge材料またはエピタキシャルSi−Geに組み込まれる。
【0055】
実施例
ブタン様(GeH(SiH〔GeH−SiH−SiH−GeH)とも称される〕(1)、(GeHSiH(SiH)〔SiH[(GeH(SiH)]とも称される〕(2)および(GeH(SiHGeH)〔上記ではGeH−SiH−GeH−GeHと称されている〕(3)の水素化Si−Geの合成と共に、GeリッチSi1−xGeオプトエレクトロニクス合金の低温合成における応用をここで明らかにする。これらの化合物の組成、振動、構造および熱化学特性を、FTIR、多核NMR、質量分析、ラザフォード後方散乱分析、および密度汎関数理論(DFT)シミュレーションで調べた。これらの分析では、線状の(GeH(SiH(1)および(GeH(SiHGeH)(3)化合物は、22℃で相互転換するようには見えない古典的なノルマル配座異性体とゴーシュ配座異性体との混合物として存在する。これらのサンプルにおける配座比は、計算分子スペクトルを合わせて、個々の配座異性体の汎強度、周波数スケールおよび混合係数を変えて観測したものを再現する新規フィッティング法を用いて決定した。次いで、(GeH(SiH(1)種を、前駆体のSi/Ge含有量を正確に反映するSi0.50Ge0.50半導体合金の製造に利用した。ガスソースMBEにより、先例のない低温350〜450℃でSi(100)上に直接デバイス品質層を成長させたが、この層は、均一な組成およびひずみプロファイル、低貫通転位密度および原子的に平坦な表面を示す。低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)分析により、この前駆体がSi(100)表面上で高反応性であり、
離脱速度は、分子構造内に強力なSi−H結合が存在するにもかかわらず、Geの離脱速度に匹敵することが実証された。
【0056】
結果および考察
主生成物1,2−ジゲルミルジシラン、(HGe)(SiH(1)の合成は、KGeHと、それぞれ式1および2で示すようなナノフルオロブタンスルホン酸置換ジシランおよびトリフラート置換ジシラン(CSO(SiH(4)および(SOCF(SiH(5)とを反応させることにより達成された。出発物質(4)および(5)は、対応するスルホン酸HSOおよびHSOCFと1,2−(p−トリル)(SiH(それぞれ、式3および4)を反応させて調製した。
【0057】
(SO(SiH+2KGeH→(HGe)(SiH+2KSO (1)
(SOCF(SiH+2KGeH→(HGe)(SiH+2KSOCF (2)
(p−トリル)(SiH+2HSO→(SO(SiH+2(トルエン) (3)
(p−トリル)(SiH+2HSOCF→(SOCF(SiH+2(トルエン) (4)。
【0058】
(式1)で表される経路は、一貫して、純粋な単層(HGe)(SiH(1)を無色の自然発火性液体として生成する。この場合、予想通り、GeHによるSOの置換は(SO(SiHの1,2置換部位でのみ生じる。しかし、(式2)で表される経路は、反応条件に応じて、(GeH(SiH(1)と、イソブタン類似体(GeHSiH(SiH)(2)と、Geリッチ誘導体(GeH(SiHGeH)(3)とを含む生成物混合物(図2)を生成する。特に、(SOCF(SiH(5)とKGeHとの低温(T<−10℃)反応(式2)では、主として(1)と不純物レベルの(3)とが生じた。これらの種を蒸留して単離し、さまざまな分光法を用いて、微量の低揮発性分画〔22℃で〜約133Pa(1Torr)の蒸気圧〕を、異核HSi−GeH核を有するGeリッチ誘導体(3)と断定した(図1)。低温経路とは対照的に、≧22℃で(SOCF(SiH(5)とKGeHとを反応させると、主として、可変比率の位置異性体(1)と(2)の組み合わせが生成する〔少量の(3)も生成するが、これは、(1)と(2)の混合物からの分別蒸留により全体から容易に単離される〕。この場合、GeHによるSOCFの置換は、予想通り、最初に、(SOCF(SiH(5)の1置換部位で生じる。第2置換も同様に、1,2−ジゲルミルジシラン、(HGe)(SiH(1)ではなく、ゲルミルジシラン、SiHSiHGeHと安定なゲルミレン中間体(GeH)を生成する。次いで、SiHSiHGeHにGeHを挿入すると、式6に示すように(GeHSiH(SiH)(3)が生成し得る。類似の挿入機構(次の部で詳細に説明する)が、トリシランSiH−SiH−SiHにSiHを挿入したときの気相i−Si10の光化学的生成で観測された(式7):
−SiH−SiH−GeH+GeH→SiH−SiH−GeH+GeH→(GeHSiH(SiH) (6)
SiH−SiH−SiH+SiH→(SiHSiH(SiH) (7)。
【0059】
(5)の合成は、(式4)によって表され、これは前にどこかに示されている。その(p−トリル)(SiH出発物質は、(p−トリル)SiHClと粉末リチウム
とのカップリング反応により生成された10。現在の研究において、本発明者らは、カップリング剤として入手が容易なナトリウムフラグメントを用いる、より便利な類似アプローチを採用する。化合物(5)は、完全な取扱いと精製が難しい高反応性液体として得られる。その結果、そのKGeHとの反応は複雑で、上述のような生成物混合物を生成する。それに対し、新規調製化合物(4)は、反応副生成物および他の汚染物質から完全に単離される強固な分子固体として容易に結晶化されるので、(式1)の次の工程で高純度(HGe)(SiHが得られる。新規合成化合物(1)、(2)、(3)および(4)の組成、振動および構造特性を以下に示す。
【0060】
(HGe)(SiH(1): (HGe)(SiH(1)種を、(式1,2)に示す反応で表すように調製、単離し、分別蒸留〔22℃で、〜約1.07×10−約2.67×10Pa(〜8−20Torr)の蒸気圧〕して精製する。そのFTIR、29Si NMR(プロトンカップリング型)および質量スペクトルは、図1に示すようなブタン様構造を有する1,2−ジゲルミルジシランを示す。IRスペクトルは、それぞれ、2147および2073cm−1でのSi−HおよびGe−H伸縮モードと、分子の曲げモードに対応する910〜442cm−1での一連の吸収バンドとを示す。これらの同定は、以前、シリルゲルマンの(HGe)4−xSiH(x=1−4)について行われたものと一致している(非特許文献7)。IRフルスペクトルについてのさらに詳細な解釈は量子化学計算から得られ、そのデータは、(1)のブタン様のノルマル配座異性体とゴーシュ配座異性体との固定した組み合わせを示している(詳細については以下の部を参照)。H NMRスペクトルは、それぞれ、Si−HプロトンとGe−Hプロトンに対応する3.29ppmの4重線と3.11ppmの3重線とを示し、これは、HGe−SiH−SiH−GeHの分子構造と一致する。この構造は、2D H COSYおよびH−29Si HMQC NMR実験でさらに確認される。2D H COSYスペクトルは、それぞれ、3.29および3.11ppmのSi−HおよびGe−H共鳴と相関する交差ピークを示したが、これはH−Si−Ge−H連結性を示している。プロトンデカップリング型H−29Si HMQCスペクトルは、3.29ppmのH原子が−105ppmのSi原子に直接結合していることを示した。質量スペクトルは、親イオンすなわち(SiGe)に対応する最高質量ピークとして210−196amuの同位体エンベロープを示した。関連フラグメンテーションパターンは提案構造と一致している。(1)の存在を、350℃での化合物のシングルソースMBE蒸着(式8)により生成した単結晶膜をラザフォード後方散乱(RBS)分析してさらに確認した。この膜のSi/Ge元素含有量は、一貫して、分子のSiGe核の組成を正確に反映する1:1であった。
【0061】
(HGe)(SiH(気体)→2SiGe(膜)+5H(気体) (8)。
(GeHSiH(SiH)(2): (2)のイソブタン様構造は、29SiおよびH NMR研究で決定した。プロトンNMR共鳴は、−SiHに由来する3.049ppmを中心とする多重線と、それぞれ、(−GeHおよび−SiHプロトンに対応する3.213および3.404ppmを中心とする2つの2重線として存在する。−SiH、(−GeHおよび−SiHの積分ピーク強度比は、予想通り、それぞれ1:6:3である。このスペクトルにおけるピーク強度、ピークの結合パターンおよび位置を総合すると、Si中心が四面体的に2つのGeH基、1つのSiH基および単一H原子に結合しているイソブタン様構造を指し示している。この構造を、2D H COSYおよびH−29Si HMQC NMR測定によりさらに確認する。2D
H COSYスペクトルは、それぞれ、3.049、3.213および3.404ppmでの中心SiHと末端のGeHおよびSiH共鳴に相関する交差ピークを示しており、これは、HSi−SiH−(GeHの連結性を示し、提案イソブタン構造と一致する。プロトンデカップリング型H−29Si HMQCスペクトルは、3.0
49および3.404ppmのH原子が、それぞれ、−121および−93ppmのSi原子に直接結合していることを示した。この分子の中心Si原子に由来する29Si化学シフト(Cでは−121ppm)は、SiH(GeH(CDClでは−113ppm)およびSi(GeH(CDClでは−128ppm)に関して検出されたものと類似している。HSiGeHの末端Si原子に由来する29Si化学シフト(−93ppm)と末端SiH基(−92ppm)の化学シフトとの間にもほぼ一致した知見が得られる。
【0062】
(HGe)(SiH(1)と(GeHSiH(SiH)(2)とを含むサンプルのガスクロマトグラフ質量分析実験(GCMS)は、GCカラムでわずかに異なる保持時間を示した2種の主要分画の存在を示したが、これは、わずかに異なる沸点を有する(1)と(2)の混合物と一致する。さらに、これらの分画は、ほぼ同一の質量スペクトルを示した。最高質量ピークは、(1)と(2)の(SiGe)親イオンに対応する210−196amu範囲で観測される。IR分光法を用いてこの混合物サンプルの特性をさらに明らかにした。そのスペクトルは、ほぼ、個々の(1)および(2)成分の単純な混合物である。(2)のスペクトルは、沸点が近似しているために本発明者らの蒸留法では(1)から純粋な形で完全に単離し得ないために、理論的に決定した。さらに、実測スペクトルと計算スペクトルとを必要とするフィッティング法を用いて、IR実験スペクトルにおける各化合物の貢献度を決定した。
【0063】
(GeH(SiHGeH)(3): 化合物(3)は式で表される反応の副生成物である。その気相IRスペクトルは、それぞれ2145および2073cm−1を中心とするSi−HおよびGe−H伸縮バンドを示している。このスペクトルにおけるGe−Hピークの強度は、Ge−H結合の数がSi−H結合より多いためにSi−Hより有意に強力である。そのH NMRスペクトルは、3.23、3.12ppmの2つの3重線を隠す3.30および3.03ppmの2つの6重線セットを示した。この6重線−3重線−3重線−6重線配列の積分ピーク強度比は2:3:3:2である。このNMRスペクトルにおけるピークの積分強度、結合パターンおよび位置を総合すると、中心SiHGeH核が2つの末端GeH部分と結合しているHGe−SiH−GeH−GeH分子構造を指し示している。具体的に言えば、3.30および3.03ppmの6重線は、それぞれ、中心−SiHGeH−のSiHおよびGeHプロトンに関連し、一方、3.23、3.13ppmの3重線は末端GeHプロトンに対応し得る。この場合のSiHおよびGeH NMR周波数は、以前に公表した(HGe)SiHおよびGeHGeHSiH化合物のものと関連している(非特許文献7)。3.30ppmの6重線がSiHプロトンであるとの同定は、−98.2ppmで検出された単一の29Si共鳴に直接カップリングしていることを示す、H−29Si HMQC NMRスペクトルによりさらに裏付けられた。さらに、Ge−Si−Ge−Ge骨格構成成分の特定の順序付けを明確に確立するために、2D H COSY NMRスペクトルを用いた。交差ピークは、3.30、3.23、3.13および3.03ppmの1つのSi−Hおよび3つのGe−H共鳴に相関する。これらは、それぞれ、SiH、GeHに結合したGeH(末端)、SiHに結合したGe−H(末端)およびGeHに対応する。その質量スペクトルは、親イオン、(SiGe)に対応する最高質量ピークとして256−238amuの同位体エンベロープおよび分子構造と一致するフラグメンテーションパターンを示した。
【0064】
(CSO(SiH(4): 化合物(4)は融点68℃の無色の自然発火性固体として、収率95%で単離される。この化合物は、エーテル、CHCl、CHClには溶けやすいが、トルエンには溶けにくい。そのH NMRスペクトルは、SiHに由来する5.08ppm(δSi−H)を中心とする1重線と29Si付随ピークとを示した。これらは、272Hzの1結合Si−Hカップリングを含む3重線
と3.6HzのH−H3結合カップリングを含む3重線という3重線を示している。これは、−SiHSiH−核と一致する第2のSiH基の存在を示唆している。さらに、プロトンデカップリングH−29Si HMQCは、5.08ppmのプロトン共鳴が−30.1ppmのSi原子に直接結合していることを示した。これらの値は、トリフラート類似体(SOCF(SiH(5)に関して観測されたものと一致する10。化合物(4)を、FTIR、質量分析、C、H、F元素分析によりさらに特性決定したが、そのデータは提案構造と完全に一致する(実験の部を参照)。
【0065】
分子特性のアブイニシオシミュレーション
構造および熱化学特性: 本発明者らは、上述の(GeH(SiH、(GeHSiH(SiH)および(GeH(SiHGeH)の同定を裏付けるために、これらの化合物の構造、エネルギーおよび振動傾向をシミュレートした。先の研究(非特許文献7)において、本発明者らは、B3LYPハイブリッド密度汎関数法(DFT)シミュレーションが、(HGe)SiH4−x分子ファミリー水素化物の基底状態構造、熱化学および振動特性の優れた根拠を与えることを実証した。特に、6−311G++(2d,2p)基底系を用いると、生じた典型的な結合距離および周波数のずれ(それぞれ、0.4%および1.4%程度)は小さかった。したがって、実測IRスペクトルと計算IRスペクトルとを一致させようとする本発明者らの最初の試みは、同じ手順と、基本構造がn−ブタン様であるという仮説とに基づいていた。このアプローチは、実測した主要なスペクトル特徴のほとんどには厳密にマッチしたが、計算IRパターンでは、いくつかの強力な低周波数特徴が不明なまま残った。先のB3LYPアプローチが成功したことを考慮して、本発明者らは、n−ブタン様分子構造だけでは合成化合物のスペクトルを説明し得ないとの結論を下した。したがって、本発明者らは、末端GeH基がGe−Si−Si−Ge(またはGe−Si−Ge−Ge)骨格平面から回転したゴーシュ配座異性体およびイソブタン様位置異性体i−Si(SiGeGe)を含むように計算を拡大した(図1)。これらの異性体は、テトラシランおよび関連分子で先に公表したものと全く同様であり、後の論考において、本発明者らは、それらを簡単に、図1に示すようなn−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe、n−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGeならびにi−Si(SiGeGe)と称する。本発明者らの結果は、主要生成物および微量不純物化合物のいずれの実測スペクトルも、n型、g型、およびi型配座の線形混合によって完全に説明されることを示唆している。
【0066】
初期の基底関数収束試験は、配座/位置異性体の計算特徴における差を完全に解消するには、(HGe)SiH4−x水素化物に関する、特に計算振動特性に関して先の研究に用いたものよりさらに厳しい処理が必要であることを示した。したがって、本研究に記載のすべての計算は、Gaussian03コードで実施されるようなB3LYP/6−311G++(3df、2pd)レベルで実施した11
【0067】
「厳密な」収束基準を用いて得た構造最適化の結果を図12に示す。この図は、n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe、n−GeSiGeGe、g−GeSiGeGeおよびi−Si(SiGeGe)に関する結合長、結合角および結合ねじれ角データを記載している。すべての分子において、その骨格構造は、それらの直線型配座よりわずかに(0.002×10−10m)長い/短いSi−Si/Si−Ge結合を示すゴーシュ配座を有する典型的なSi−SiおよびSi−Ge結合を示す。イソブタン様異性体i−Si(SiGeGe)において、Si−Si結合長(2.351×10−10m)は他の異性体における結合長の中間であるのに対し、Si−Ge結合は値2.400×10−10mまで広がる。Si−Si値、2.350〜2.352×10−10mはすべて、バルクシリコンで検出された値a√3/4=2.352×10−10m〔ここで、a(5.431×10−10m)はダイヤモンド構造の結晶性Siの格子定数である〕に近い(〜0.1%)。n−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGeで検出されたGe−Ge値、
2.446×10−10mも、バルクゲルマニウムの値(2.449×10−10m)に近い。異核骨格Si−Geの結合長は、2.396〜2.400×10−10mの範囲に分布しており、Si−Si値とGe−Ge値の平均(2.399×10−10m)である。
【0068】
Si−HおよびGe−H結合長は、もっぱら、それぞれ1.486×10−10mおよび1.539×10−10mの値を有するn−およびg−GeSiSiGe異性体の中心SiH部分および末端GeH基として出現する。対応GeSiGeGe異性体では、SiH部分に関連するSi−H結合はほぼ同じ値、1.485×10−10mを有するが、GeH部分は、予想通り、GeH末端基におけるよりわずかに長いGe−H結合(1.542〜1.548×10−10m)を示す。i−Si(SiGeGe)異性体は、そのユニークな構造のために、末端のSiH基とGeH基がどちらも単一のSiH部分を有する。ここで、末端GeH基に関連するGe−H結合長は、他の異性体のGeH基のものと同じ値(1.539×10−10m)を有するが、対応末端基Si−H結合長はわずかに収縮している(1.483×10−10m)。最長のSi−H結合長は中心SiH部分に関連し、1.488×10−10mの値を有する。総合すると、これらの結合長傾向は、以前、(HGe)SiH4−N(N=3,4)分子ファミリーのうちの最も重いメンバーで知見された傾向と一致する。
【0069】
さらに、図12に示すデータは、金属間骨格結合角ならびに水素−金属結合に関与する結合角が、研究したすべての異性体間でほぼ変わらないことも示している。唯一の例外は、直線型n−GeSiSiGe異性体ではいくつかの値を有し、他のすべてでは唯一の値を有するH−Ge−Si結合分布に認められる。直線分子におけるGe−Si−Si−Ge結合ねじれ角は180度であり、これは、金属原子が共通面に限局しているのに対し、ゴーシュ配座は、それぞれ、Ge−Si−Si−GeおよびGe−Si−Ge−Geにおいて、66度および64度のねじれ角を示すことを示唆している。また、このデータから、i−Si(SiGeGe)異性体の金属間および金属−水素結合長が、平均して、他の配座/位置異性体に関して予測されたものより理想的な四面体値に近いことも明らかである。
【0070】
図12にはさらに、総基底状態電子エネルギーEと、その298Kでのゼロ点エネルギー(EZPE)、熱エネルギー(ECORR)、エンタルピー(HCORR)および自由エネルギー(GCORR)について補正された値を含めた分子の熱化学エネルギーも記載されている。GeSi10分子の場合、本発明者らの計算は、i−Si(SiGeGe)異性体が、室温下には、n−GeSiSiGeに比べて0.0008ハートリーすなわち約2.0kJ/mol(注:300KにおけるkT〜2.4kJ/mol)の自由エネルギー差でわずかに有利であることを示唆している。一方、後者分子の自由エネルギーは、g−GeSiSiGeの自由エネルギーより約2.8kJ/molだけ安定している。GeSiGeGe不純物化合物の場合、n−GeSiGeGe異性体の自由エネルギーはそのゴーシュ配座の自由エネルギーより0.0020ハートリー(5.3kJ/mol)低い。
【0071】
振動スペクトル: 実測FTIRスペクトルの解釈を容易にするために、本発明者らは、B3LYP/6−311G++(3df,2pd)レベルでのB3LYP DFT関数を用いて、主要生成物の配座異性体n−GeSiSiGeおよびg−GeSiSiGeと位置異性体i−Si(SiGeGe)、ならびに微量種n−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGeの振動周波数および強度を計算した。周波数スペクトルの計算には対称性を課さず、研究したすべての分子は、基底状態構造が動的に安定であることを示す調和周波数の正の絶対スペクトルを示した。
【0072】
GeSi10分子: 図2は、実験的広がりをシミュレートするために、幅〜20cm−1のガウス分布により重畳した、n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGeおよびi−Si(SiGeGe)の計算スペクトルのプロットを示している。高周波数領域も低周波数領域も示されている。また、通常、このレベルの理論を用いる際に出るわずかな周波数の過大評価の調整に用いられる周波数スケーリングは、これらのプロットに示す計算スペクトルには適用されていないことにも留意すべきである。高周波数スペクトル特徴(図2)の解釈は単純である:n−GeSiSiGe〔図2(d)〕のn、n、g−GeSiSiGe〔図2(e)〕のg11およびg12、およびi−Si(SiGeGe)〔図2(f)〕のi11およびi12で示される低周波数ピークペアは、それぞれ、対称および反対称Ge−H伸縮振動に対応する。同様に、対称および反対称Si−H伸縮振動は、それぞれ、n−GeSiSiGe〔図2(d)〕ではn、n、g−GeSiSiGe〔図2(e)〕ではg13およびg14、およびi−Si(SiGeGe)〔図2(f)〕ではi14およびi15で示されている。(Si−HまたはGe−Hの)対称バンドと反対称バンドとの間の計算された分裂(13−14cm−1)は全ての異性体でほぼ等しいが、これらのバンドはすべて、ゴーシュ異性体の周波数では全体的に低い(〜4−5cm−1)。これらの特徴に加えて、図2(f)に示す位置異性体i−Si(SiGeGe)の高周波数スペクトルも、2077cm−1近傍の単一の振動特徴〔図2(f)のi13で示される〕を示しており、これは、中心Si−Hの伸縮振動に対応する。
【0073】
図2にも示す低周波数の非骨格成分の振動構造はもっと複雑であり、面内および面外の対称、反対称Si−H/Ge−H縦揺れ振動を含む。n−GeSiSiGeのスペクトルとg−GeSiSiGeのスペクトルと〔それぞれ、図2の(a)部と(b)部〕の最も有意な違いは、直線型異性体の4つの際立った特徴(n−n)がそのゴーシュ異性体では事実上分裂していることである。例えば、分子骨格と平行な高対称Si−H縦揺れ振動に対応するn−GeSiSiGeで最も強いバンド、nは、ゴーシュ異性体では、Si−Si結合に平行な極めて強いSi−H縦揺れを示すg、gおよびgで示される3つのバンドに分裂している。これらのうち、gは、分子中の最も「混み合って」いないプロトンに関連し、したがって、最高強度を示す。g−GeSiSiGeスペクトルのgで示される強度が小さい肩部は、モードgの反対称対応部分である。最後に、n−GeSiSiGeの925cm−1近傍の顕著な特徴、nは、対称的なH−Si−H曲げ運動に関連するSi−Si軸に垂直なSi−H縦揺れ振動に対応する。ゴーシュ異性体では、このバンドは、gとg10で示されている対称対応部分と反対称対応部分とに分裂している。数バンドのみが両異性体に共通なようである。具体的に言えば、430cm−1近傍の特徴(n:g)(末端Ge−Hプロトンの非対称縦揺れ)、800cm−1近傍の特徴(n:g)(Si−Si結合と平行な対称末端Ge−H縦揺れ)および876cm−1近傍の特徴(n:g)(Si−Ge結合に垂直な末端Ge−H縦揺れ)。図2(b)にgで示されている強度の小さいバンドは、対称末端Ge−H縦揺れに関連し、n−GeSiSiGe分子ではピークを示さない(silent)対応部分を有する。
【0074】
図2(c)に示すi−Si(SiGeGe)の低周波数スペクトルは、その分子の高対称性のゆえに若干単純な構造を有する。g−GeSiSiGeで検出された最低周波数縦揺れモード{g、g}は、i−Si(SiGeGe)では、それぞれ、非対称ペア{i、i}および{i、i}に事実上分裂している。800cm−1近傍にそびえる特徴(iおよびi)は、末端GeH基の同相および逆相対称Ge−H縦揺れに対応し、特徴iは、これらの振動に対する非対称類似体である。SiH末端基において、Si−H縦揺れ振動(i10)は〜951cm−1で生じる。最後に、特徴iおよびiはi−Si(SiGeGe)分子に特有であり、SiH部分の垂直Si−H縦揺れに関連する。
【0075】
SiGe10分子: n−およびg−(GeH(SiHGeH)異性体に関し、本発明者らは、実測IRスペクトルとn−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGe配座の〜1:3混合物について計算したものとを直接比較してNMR特性決定を確認した(詳細な説明は次の部で述べる)。実験的広がりをシミュレートするために、幅〜20cm−1のガウス分布により重畳したn型異性体とg型異性体の計算IRスペクトルを図3に示す。高周波数領域も低周波数領域も示す(周波数スケーリングは適用していない)。n−GeSiGeGeまたはg−GeSiGeGe配座に由来するシミューレートスペクトルのピークは、それぞれNおよびGで示されている。
【0076】
高周波数Si−H伸縮バンドは、GeSiSiGe類似体で検出されたものに類似しており、ゴーシュ異性体では、対称バンドと反対称バンドとの間では13−14cm−1の計算分裂と、低周波数側への系統的な全面的〜4−5cm−1のシフトを示す。ここで、(N11:G17)および(N10:G16)は、それぞれ、非対称および対称Si−H伸縮に対応する。しかし、これらの異性体の対応Ge−H伸縮振動に関する単純な比較は、GeSiGeGe異性体の低対称性により無効にされる。例えば、n−GeSiGeGeの非対称Ge−H伸縮(N)は、ゴーシュ異性体ではコントリビューションG12、G14、G15に分裂しており、n−GeSiGeGeの対称Ge−H伸縮、Nは、バンドG11とG13に分裂している。
【0077】
本発明者らは、このスペクトルの低周波数域において、700cm−1を越えたところでn型異性体とg型異性体のモード帰属間に強力な対応を見出す。具体的に言えば、n−GeSiGeGeにおける非対称H−Si−H縦揺れ振動、Nは、g−GeSiGeGeでは、731cm−1近傍の周波数を有するGとして出現する。本発明者らの前の論考におけるように、本発明者は、そのような異性体配座間の対応ペアを(N:G)と指定する。末端GeH基に関連する強力なGe−H縦揺れ振動(N:G)は、808cm−1近傍に出現する。同様に、866cm−1のH−Ge−H「はさみ」(scissor)モードは(N:G)と指定し、それらのH−Si−H対応物(N:G10)は936cm−1に出現する(GeSiSiGe異性体における対応モードの周波数は〜925cm−1であった)。(N:G)で示されている特徴は、末端GeH基に関連する非対称「はさみ」様振動からなる。
【0078】
n型異性体とg型異性体のIRスペクトル間の最も顕著な違いは700cm−1以下で認められる。n−GeSiGeGeにおける最も強いスペクトル特徴(N)は、分子骨格に平行なGeH部分に結合したプロトンの高対称縦揺れに関連する。ゴーシュ異性体では、このモードは、GeH部分の個々のプロトンの組み合わせの非対称Ge−H縦揺れに対応する、G、G、Gで示されている3つの特徴に分裂している。最後に、分子の両端部の末端GeHプロトンの協奏的な対称縦揺れからなるn型異性体のモードNは、対称縦揺れが2つのGeH末端基で独立に生じるゴーシュ異性体では、2つのモードGとGに分裂している。
【0079】
異性体混合物の解析: 実測スペクトルにおける配座異性体と位置異性体のモル濃度を予測するために、本発明者らは、既知の純位相候補スペクトルの標準化混合物を結合分子の未知実測スペクトルにあてはめる、X線スペクトルの「多相」フィッティング法で一般に用いられるアプローチを採用する。本発明者らは、Si−Ge水素化物に関する本発明者らの前の研究のときと同じ手順を用いて、10ジゲルミル−ジシリル位置/配座異性体(他のところで後述)のスペクトルを計算した。これらの計算スペクトルは、通常実験で供給される未知の純異性体候補スペクトルの代理としての役を果たす。本発明者らが計算したスペクトルと合成化合物のスペクトルを比較すると、SiGe10ファミリーの配座異性体{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}と位置異性体{i−Si(SiGeGe)、g−GeSiSiGe}の単純混合物の存在が示唆される。解析を進
めるために、先ず、すべての必要な理論スペクトル(n型、g型およびiso型異性体、図2参照)を細かい周波数グリッド(1cm−1間隔)上で計算し、次いで、低周波数域(0−1600cm−1)と高周波数域(1600−2600cm−1)とに分ける。本発明者らは、{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}ペアの低周波数スペクトルを{I(ω)、I(ω)}で示し、{i−Si(SiGeGe)、g−GeSiSiGe}の低周波数スペクトルを{I(ω)、I(ω)}で示す。次いで、分光計により離散周波数グリッド{ω}上で生成した合成化合物の対応実測スペクトル、Iexp(ω)を目的関数の構築に用いる(式9)。例えば、{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}混合物の場合:
【0080】
【数1】

式中、γはn型のスペクトルとg型のスペクトルの標準化混合物、βは理論スペクトルの汎振幅、ηは理論スペクトルに適用した共通周波数スケール係数である。{i−Si(SiGeGe)、g−GeSiSiGe}組み合わせの処理にも同じ手順を用いる。いずれの場合にも、理論スペクトルは、三次スプラインを用いて任意周波数で評価し、目的関数の最小化にはロバストシンプレックス法を用いた。{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}ペアの場合、これは、η=0.984のスケール係数およびγ=0.392の混合(すなわち、〜39%のn−GeSiSiGe)をもたらす。この最適化スケール係数は、この理論レベルでの前の(HGe)SiH4−x水素化物の研究(非特許文献7)およびSi、GeおよびHGeSiH分子の研究12に用いた値0.989に極めて近似している。図4(a)に示すように、このスケール係数を用いて得られた低周波数混合物の理論スペクトル(ω<1600cm−1)は、実測スペクトルと驚くほど良く一致している。{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}の合成高周波数スペクトルをシミュレートするために、本発明者らは、低周波数挙動由来の混合物パラメータ、γ=0.392を用い、スケール係数をη′=(0.9909η)=0.975に低下させる。この低周波数と高周波数のスケール係数比は、以前、関連分子のスケーリング挙動を見事に説明することが判明した12。図4(b)は、低周波数スペクトルにフィッティングを用いて得た最適化パラメータも正確かつ独立に高周波数挙動を再現することを示しており、これは、本発明者らの方法の完全性を裏付けるものである。前述の低周波数解析を位置異性体組み合わせ{i−Si(SiGeGe)、g−GeSiSiGe}に適用すると、η=0.985およびγ=0.678(すなわち、〜68%のi−Si(SiGeGe)をもたらす。このサンプルスペクトルを図5の計算混合物と比較すると、振動構造が大部分混合物手順を用いて説明されることが示唆される。
【0081】
GeSiGeGe不純物化合物に関する対応結果を図6に示す。上記化合物に全く類似したフィッティング法を適用すると、この場合、混合物パラメータγ=0.235(すなわち、23.5%のn−GeSiGeGe)が得られるが、これは、この気相ではゴーシュ配座(g−GeSiGeGe)が優勢であることを示している。GeSiSiGe解析の場合と同様に、本発明者らは、低周波数スペクトルから得たフィッティングパラメータ(ω<1600cm−1)が低下周波数スケール係数0.975を用いる高周波数伸縮バンドを見事に説明することに気付く〔図6(b)〕。
【0082】
本発明者らは、配座異性体に関して導出された比率が異なるサンプル間でほぼ不変であることに気付いた。この観測結果を解明するために、本発明者らは、ブタン様GeSiSiGeのポテンシャルエネルギー曲面(PES)をGe−Si−Si−Ge骨格のねじれ
角の関数として計算した。直線型配座はねじれ角180度に対応し、ゴーシュ変形は〜66度で生じる(図12参照)。各ねじれ角固定値を求めるために、すべての残りの構造的自由度を最適化して、「緩和」PESを得た。図7は、DFT B3LYP/6−311G++(3df、2pd)でのブタン、テトラシランおよびGeSiSiGeのねじれPESと、アブイニシオCCSD/LANL2DZレベルの理論を対比している。いずれの場合にも、直線型またはトランス型配座の値が参照エネルギーとして選択されている。このプロットで、3種の分子はすべて極めて近似したエネルギー−ねじれプロファイルを示し、180度での汎最小値、〜120度でのn−g障壁(En−g)、66度近傍のゴーシュ配座(E)での局所最小値およびエクリプス(eclipse)鞍点(E)に対応する最大値を示す。本発明者らは、DFT B3LYP/6−311G++(3df、2pd)を用いて、GeSiSiGeのΔEn−g=0.942、ΔE=0.362およびΔE=1.628kcal/molを得るが、その対応テトラシラン値は、それぞれ、0.895、0.360および1.591kcal/molである。このレベルの理論では、GeSiSiGeおよびブタン様テトラシランの配座エネルギー構造はほぼ同一である。これは、それらの極めて近似した結合性を考えれば予想外というわけではない。本発明者らは、同レベルの記述で、ブタンに関する類似PESは、テトラシランおよびGeSiSiGeのものと同じ質的形態を共有するが、ΔEn−g=3.235、ΔE=0.884およびΔE=5.713kcal/molという有意に大きな回転障壁を有することに気付く。
【0083】
ΔEn−gおよびΔEに関する本発明者らのB3LYP/6−311G++(3df、2pd)テトラシラン値は、同一分子に関してアルビンショーン(Albinsson)ら13によってMP2/6−31レベルで計算されたものと質的に異なることに注目すべきである。具体的に言えば、後著者らは、対称n−g障壁と、ゴーシュ型および直線型配座エネルギーの近同一性とを予測している(ΔEn−g〜0.588、ΔE〜−0.04およびΔE〜1.236kcal/mol)。残念ながら、本発明者らの2種のアプローチにおける基底系およびモデル化学はどちらも異なるために、この相違の原因は不明瞭である。したがって、本発明者らは、CCSD/LANL2DZレベルで一連のブタン、テトラシランおよびGeSiSiGeに関する一連の結合クラスタの計算を実施した。図7に実線で示すその結果は、B3LYP系DFT計算(図中の破線)と極めて一致しており、これは、直線型ブタン様配座が、ΔE〜0.2−0.4kcal/molのゴーシュ値を有する基底状態構造であることを示唆している。さらに、GeSiSiGeのゴーシュ型配座と直線型配座を連結する障壁の大きさはCCSD/LANL2DZ計算では0.36kcal/mol(〜188K)に減少している。このテトラシランおよびGeSiSiGeにおけるねじれ障壁の小さな値は、実験で観測された簡易低温配座相互変換と一致する。
【0084】
注目すべきは、図5に示す位置異性体スペクトルに関して得た68%という値が1つの特定のサンプルに特有なことである。サンプル間で不変比率を示した配座異性体とは異なり、位置異性体の比率は、特定の反応条件に敏感に依存する。これは、{i−Si(SiGeGe)、g−GeSiSiGe}混合物がいったん分離されてしまうと、位置異性体間に相互変換は起らないことを示唆している。トリシラン(Si)とシリレン(SiH)を生成する光化学マトリックス分離実験中に近縁テトラシランSi10系で鎖の切断と自発異性化が観測される13。その場合、n−Si10との混合物であると認められたi−Si10の形成は、トリシランのSi−H結合へのSiH挿入に続いて起ると考えられる。ヤシンスキー(Jasinski)らによって詳細に論じられているように、この挿入反応は、小さな負の活性化エネルギーと極めて高い衝突効率とを有する気相ポリシラン化学に特徴的なメカニズムの1つである14。本発明者らは、T>22℃でのトリフラート置換ジシランを含み、i−Si(SiGeGe)の縮合をもたらす本発明者らの合成経路(式2参照)に類似の低エネルギーゲルミレン挿入反応チャンネ
ルが存在すると推測する。1つの妥当と思われるメカニズムは、(SOCF(SiH(5)の1置換部位におけるGeHによる−SOCFの置換、次いで、−SiH−SiH−GeH中間体の中心SiH部位のSi−H結合におけるGeHの挿入が関与し得る。
【0085】
成膜研究
成長プロセスをin situ実時間で観測できる低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)を備えた超高真空システムで清浄なSi(100)基板上での成膜実験を実施した。(HGe)(SiHガス状前駆体を、Si表面上、約1.33×10−3〜約1.33×10−6Pa(10−5〜10−8Torr)の範囲の分圧で完全にHを排除して反応させた。初期に、LEEMを用いて反応成長速度を調べ、Si表面からのH脱離に関する化合物の活性化エネルギー(Eact)を測定した。通常のシランおよびゲルマンの場合、Eactは、原(pristine)Si上よりも(Si1−xGeを含む)Ge含有表面上の方がはるかに低い。したがって、正確なEact測定は、Ge含有表面上に成長し、高成長速度を有する後続層ではなく、(純粋Si上に直接成長する)第1単層の成長速度を測定することによってのみ得ることができる。この点で、LEEMは特にユニークである。というのは、LEEMはその動的イメージングが、Si1−xGeエピ層からSi(001)−(2x1)表面を区別し、したがって、第1Si1−xGe単層の成長速度対温度を測定することによってSi上でのEactを正確に測定するための明確な手段を提供するからである。
【0086】
比較のために、同じ方法でGeとHGeSiHの成長速度も測定した。上記の場合と(HGe)(SiHの場合、第1単層は、原Si上での成長を完了するのに後続単層より長い時間がかかった。図8は、第1層の成長速度の温度依存性プロットを示すグラフである。関係式R〜exp(−E/kT)を用いて活性化エネルギーを測定した。このデータは、一次H脱離速度と一致し、それぞれ、HGeSiH、Geおよび(HGe)(SiHに関して、1.95、1.66および1.42eVのEactを得た。これは、後者が、HGeSiHより反応性が高いだけでなく、分子構造中に強力なSi−H結合が存在するにもかかわらず純粋なGeより反応性が高いことを示している。したがって、これは、対応前駆体のものを反映する化学量論Si0.50Ge0.50を有する厚い層(100〜500nm)の低温(300〜400℃)急速成長に適したユニークな高反応性種である。本発明者らは、以下に、成膜手順とこの膜の形態、微細構造、組成およびひずみに関する主要結果を説明する。
【0087】
350〜500℃の範囲で(HGe)(SiHの脱水素化によるSi0.5Ge0.5膜の合成を調べた。平坦層をもたらす最高温度は〜450℃である。成長速度は〜4nm/分であり、350℃では2nm/分に低下する。300℃未満〔約1.33×10−3Pa(10−5Torr)〕では化合物の反応性が低下するために感知され得る成長は観測されなかった。500℃では、15nm/分もの高成長速度で粗表面と欠陥微細構造を有する厚い膜ができた。これらの膜の組成およびヘテロエピタキシャル性をランダムおよびチャネリングラザフォード後方散乱法(RBS)で調べたが、いずれの場合も、基板と整列する高化学量論的材料を示す。結晶性度を測定する整列対ランダムピーク高(χmin)は、界面での15%から表面での6%に低下し、これは、膜の厚さにわたる劇的な転位密度の低下を示している。これを高解像度XTEMで確認すると、整合SiGe/Si界面と完全単結晶層微細構造が明らかにされた。TEMサンプル調査では、顕微鏡写真で、〜10/cmの貫通転位密度の上限を示す〜2.5μmの視野内層を貫通する欠陥は全く示されなかった(図9)。格子ミスマッチによる欠陥のほとんどは界面領域近くに集中している。実際、これらの多くは、SiGe/Si界面で始まるようであり、基板内下方に広がる傾向を示す(図9)。偶発的な〜150nm間隔のエッジ転位もSi表面上の段近辺に観測される(図10)。これらは、界面の平面に平行であり、膜と
基板の間の応力緩和を提供し得る。エッジ転位の存在は異常である。というのは、SiGe系材料は、通常、(111)貫通転位および積層欠陥を示すからである。X線回折(XRD)により、0.1度もの低さのモザイクスプレッドと比較的ひずみの無い微細構造を有する高度に整列した層が明らかにされた。数種のAr+レーザ線で実施したラマン散乱実験で、濃度とひずみに高度の縦方向均一性が示された(非特許文献8)。ラマン解析の結果、それぞれXRDで得たものと類似の200および500nmの厚さを有する膜に関して、組成はRBS値とよく合致し、ひずみ緩和は75%および95%であることが示された。
【0088】
原子間力顕微鏡(AFM)研究から、50および750nmの厚さを有する膜は、10×10μmの面積に関して、図11(a)に示すようなT<450℃で成長したサンプルの高平坦表面を示す、それぞれ0.5および1.5nmのRMS値を有することが明らかになる。T>450℃で成長した層の場合、そのAFM画像〔図11(b)〕は、ひずみ緩和時に生じたミスフィット転位に起因する古典的な「クロスハッチ」表面パターンを示す。欠陥誘起界面もバルク合金散乱もこれらのサンプルにおける電子移動度をかなり低下させ、デバイス性能を劣化させることが明らかにされている15。しかし、超低圧下の従来のCVD法は、高品質電気特性をもたらす有意に低いクロスハッチングパターンを有するSi1−xGe材料を生成することが知られている。通常、低次シランおよびゲルマン(SiH、Si、GeH、Ge)を用いるこれらの方法とは対照的に、本発明の経路は、反応性が高く、より質量の大きな(HGe)(SiH化合物を利用する。膜にSiGe分子ユニットを直接組み込むことにより、従来の低質量化合物に比べて表面拡散が低くなる。さらに、反応性が高いと、低い成長温度が可能になり、〜約1.33×10−3Pa(〜10−5Torr)の圧力下での高成長速度を促進し、クロスハッチ表面形態のないデバイス品質膜を得ることができる。
【0089】
十分デバイス処理温度内の範囲である450〜750℃で、膜の熱特性を調べた。アニールしたサンプルについて、XRD格子定数、RBSχmin値およびAFM粗度を測定し、成長させた材料の対応値と比較した。200nm程の薄さのサンプルは、750℃でのアニーリング後にも表面粗度が増大せず、これは、本発明者らのサンプル表面の平面性が熱に強いことを示している。XRDおよびRBS整列スペクトルは、アニーリング前も後もほぼ同一であった。この結果も、T<450℃での成長させた層における完全緩和を裏付けている。
【0090】
結論
本発明者らは、分子式(GeH(SiH(1)、(GeHSiH(SiH)(2)および(GeH(SiHGeH)(3)を有するブタン様化合物ならびにそれらの配座異性体の合成を示した。量子化学シミュレーションを含めた多くの分光法および分析法により、これらの生成物の詳細な特性決定を行った。22℃での生成物サンプル中の個々の配座異性体の比率を得るために、ノルマル計算スペクトルとゴーシュ計算スペクトルの混合物に基づいて、新規フィッティング法を開発した。(1)の制御成膜により、完全結晶性のエピタキシャル微細構造、平滑形態、および均一なひずみ緩和状態を含めた半導体用に望ましい特性を有する化学量論的SiGe膜が生成された。この低温(〜350−450℃)急速成長に関連するユニークな実用上の利点としては、(i)前処理Siウエハに適合した短い成膜時間、(ii)高周波数デバイス応用に適した選択的成長、および(iii)薄相には特に重要であるドーパントの極くわずかな質量分離が挙げられる。最後に、本発明者らは、これらの化合物が、長期間にわたって極めて安定であり、分解の形跡を示し、したがって、産業上の潜在用途に対する実行可能な分子源となることを知見した。
【0091】
実験の部
すべての操作は、不活性条件下に、標準的なシュレンクおよびドライボックス技術を用いて実施した。使用前に、無水CaClまたはナトリウムベンゾフェノンケチルから空気を含まない乾燥溶媒を蒸留した。NMRスペクトルはすべて、400MHzで動作するVarian INOVA 400分光計またはGemini 300分光計上で収集した。サンプルをCDClまたはCに溶かし、示したように、すべての核を直接または間接にTMSのプロトンシグナルまたは残留溶媒ピークと関連づけた。IRスペクトルは、KBr窓を有する10cmガスセルを用いて記録した。元素分析は、デザート・アナリティクス(Desert Analytics)〔米国アリゾナ州ツーソン所在〕で実施した。ガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)データは、JEOL JMS−GC Mate IIスペクトロメーターを用いて得た。粉末リチウム〔アルドリッチ(Aldrich)社〕、リチウムテトラヒドロアルミネート(アルドリッチ社)、トリクロロ(p−トリル)シラン〔ジェレスト(Gelest)社〕、トリフルオロメタンスルホン酸〔アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社〕、ノナフルオロブタン−1−スルホン酸(アルドリッチ社)および電子等級ゲルマンガス〔ボルタイクス社(Voltaix,Inc.)〕は、受け入れたまま使用した。出発物質のp−トリルシラン、クロロ(p−トリル)シラン、1,2−ビス(p−トリル)ジシランおよび1,2−ビス(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジシランは、文献手順に従って調製し、それらの純度をNMR分光法で調べた。カリウムゲルミルは、ナトリウム−カリウム(80%K)合金を用いてモノグリム中で合成した。粉末リチウムを用いたカップリング反応は、窒化リチウムの形成を防ぐためにN雰囲気下ではなくヘリウム環境下に実施した。
【0092】
(p−トリル)(SiH: ジ−n−ブチルエーテル(120ml)およびトルエン(40ml)にモノクロロ(p−トリル)シラン(10.0g、63.8mmol)を溶かした溶液を、ナトリウム片(1.68g、146.2mmol)と共に125℃で5時間攪拌した。混合物を濾過し、濾液を蒸留して溶媒および他の不純物を除去した。残る無色の液体生成物(4.40g、〜60%)をNMRで調べてその正体および純度を測定し、続けて精製せずに用いた。
【0093】
(CSO(SiH: −40℃で、トルエンに1,2−(p−トリル)ジシラン(3.18g、13.1mmol)を溶かした溶液15mlに、CSOH(7.9g、26.3mmol)のサンプルを添加した。低温下にて、直ちに無色沈殿物が形成された。反応フラスコを23℃に温め、1〜2時間攪拌した。この無色固体を濾別し、真空乾燥した。トルエン濾液を−20℃で繰り返し濃縮、冷却し、追加生成物を得た。収量=7.9g(95%)。Mp=68℃。H NMR(300MHz、CDCl):δ5.078(s、SiH=272Hz、Si−HHH=3.6Hz)。29Si NMR(79.5MHz、CDCl):δ−30.1。C18Siの計算値:C、14.59;H、0.61;F、51.95。実測値:C、14.27;H、0.87;F、51.74。
【0094】
(HGe)(SiH、方法A: −40℃で、ジエチルエーテル(15ml)によるKGeH(2.00g、20.9mmol)のスラリーに(CSO(SiH(4.67g、9.5mmol)の溶液20mlを加えた。次いで、反応物を−10℃に温め、窒素下に12時間攪拌した後、35℃でさらに1時間加熱した。−20、−50および−196℃に維持したUトラップに数回通して揮発物を分別蒸留した。−50℃トラップは純粋な(HGe)(SiH(260mg、26%収率)を保持したが、−196℃トラップには溶媒と微量のGeHおよびSiHが入っていた。蒸気圧:約933Pa(7.0Torr)(23℃)。IR(ガス、cm−1):2147(s)、2073(vs)、910(w)、879(w)、799(s)、740(vw)、682(s)、651(m)、442(vw)。H NMR(400MHz、C、7.15ppm):δ3.106(t、J=4.1Hz、6H、Ge−H
)、δ3.290(q、J=3.9Hz、4H、Si−H)。29Si NMR(79.5MHz、C):δ−105.0〔この値は(HGe)SiHについて観測された−102.45に近い〕。GCMS:m/z 210−196(SiGe)、180−170(SiGe8−x)、152−143(Ge6−x)、140−126(SiGeH8−z)、107−98(HSiGeH)、77−72(GeH)、62−58(Si6−x)、32−28(SiH)。
【0095】
(HGe)(SiH、方法B: −30℃で、ジエチルエーテル(30ml)によるKGeH(2.40g,20.9mmol)のスラリーに(CFSO(SiH(3.39g、9.5mmol)のサンプルを加えた。次いで、混合物を23℃に温め、窒素下に5時間攪拌した。揮発物を分別蒸留し、−50℃トラップで(HGe)(SiH生成物を純粋形態で回収した(0.250g、収率〜13%)。
【0096】
(SiHGeH)(GeH: この化合物は、(HGe)(SiH合成における副生成物として得られ、静真空下に−20および−50℃に維持したUトラップを介して繰り返し蒸留して単離し、それぞれ、SiHGeH(GeHと(HGe)(SiHを回収した。蒸気圧:約133Pa(1.0Torr)(22℃)。IR(ガス、cm−1)。2145(m)、2073(vs)、910(w)、878(w)、793(vs)、723(w)、679(w)、615(s)、443(vw)。H NMR(400MHz、C、7.15ppm):δ3.30(sept、J=3.9Hz、2H、Si−H)、δ3.23(t、J=4.6Hz、3H、Ge−H)、δ3.13(t、J=3.90Hz、3H、Ge−H)、δ3.03(sept、J=4.0Hz、2H、Ge−H)。29Si NMR(79.5MHz、C):δ−98.2。GCMS:m/z 256−240(SiGe10−x)、230−212(SiGe8−x)、184−169(SiGe8−x)、154−141(Ge6−x)、136−128(SiGeH8−x)、108−98(SiGeH6−x)、77−70(GeH4−x)、32−28(SiH)。
【0097】
参照文献
【0098】

【表2】


【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】配座異性体ペア{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}、{n−GeSiGeGe、g−GeSiGeGe}と位置異性体i−Si(GeSiSi)の分子構造の図。
【図2】n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGeおよびi−Si(GeSiSi)の計算IRスペクトル図。低周波数域と高周波数域は、それぞれパネル{(a)、(b)、(c)}および{(d)、(e)、(f)}に示されている。ここに示すスペクトルには経験的周波数スケーリングは適用されていない。n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGeおよびi−Si(GeSiSi)の個々のスペクトル特徴は、それぞれ、「n」、「g」および「i」で表示されている。対応分子構造は低周波数プロットに挿入図として描かれている。
【図3】n−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGeの計算IRスペクトル図。低周波数スペクトル域と高周波数スペクトル域は、それぞれ、パネル{(a)、(b)}および{(c)、(d)}に示されている。n−GeSiGeGeおよびg−GeSiGeGe異性体のスペクトル特徴は、それぞれ、「N」および「G」で表示されている。ここに示すスペクトルには経験的周波数スケーリングは適用されていない。対応分子構造は低周波数プロットに挿入図として描かれている。
【図4】(GeH(SiH(1)の実験スペクトルと、{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}組み合わせの理論スペクトル重ね合わせとの比較図:(a)低周波数域(500〜1100cm−1)および(b)高周波数Si−H/Ge−H域(1900〜2300cm−1)。0.984および0.975の周波数スケール係数が、それぞれ低周波数域および高周波数域の理論スペクトルに適用されている。理論スペクトルは、39%のn−GeSiSiGeと61%のg−GeSiSiGeの混合物からなる。
【図5】混合物(GeH(SiH(1)の実験スペクトルと、{i−Si(GeSiSi)、g−GeSiSiGe}組み合わせの理論スペクトル重ね合わせとの比較図:(a)低周波数域(500〜1100cm−1)および(b)高周波数Si−H/Ge−H域(1900〜2300cm−1)。0.985および0.976の周波数スケール係数が、それぞれ低周波数域および高周波数域の理論スペクトルに適用されている。理論スペクトルは、68%のi−Si(GeSiSi)と32%のg−GeSiSiGeの混合物からなる。
【図6】(GeH(SiHGeH)(3)の実験スペクトルと、{n−GeSiGeGe、g−GeSiGeGe}組み合わせの理論スペクトル重ね合わせとの比較図:(a)低周波数域(500〜1100cm−1)および(b)高周波数Si−H/Ge−H域(1900〜2300cm−1)。0.985および0.976の周波数スケール係数が、それぞれ低周波数域および高周波数域の理論スペクトルに適用されている。理論スペクトルは、23%のn−GeSiGeGeと77%のg−GeSiGeGeの混合物からなる。
【図7】ブタン(黒)、テトラシラン(赤)およびGeSiSiGe(青)の分子骨格ねじれ角の関数としての緩和ポテンシャルエネルギー曲面の図。実線および破線は、それぞれ、CCSD/LANL2DZおよびB3LYP/6−311G++(3df、2pd)計算に対応している。
【図8】3種の前駆体:HGeSiH、Geおよび(HGe)(SiH(1)の第1層成長速度の時間依存性を示す図。これらの化合物の活性化エネルギーは、それぞれ、1.95、1.66および1.42eVである。
【図9】350℃下にSi(100)上に成長したSi0.50Ge0.50層のXTEM顕微鏡写真を示す図。〜2.5μmの視野内には貫通欠陥は観測されなかったが、これは<10/cmの転位密度を示している。
【図10】400℃下にSi(100)上に成長したSi0.50Ge0.50層の回折コントラスト高解像度XTEM顕微鏡写真を示す図。この膜は、ほぼひずみがなく(〜85%)、貫通欠陥のない原子的に平滑な表面を示す(上)。Si(100)とのミスマッチは、界面に位置する転位により調整されている(左下)。界面で始まる欠陥は、下向きにSi(100)基板内に貫入する傾向を示す(右下)。
【図11】(a)2.3nmのRMS粗度を有するクロスハッチパターン形態を示すSi(100)上のSi0.50Ge0.50のAFM画像を示す図。(b)0.5nmのRMS粗度を有するひずみ緩和完全平面膜のAFM画像。
【図12】配座異性体ペア{n−GeSiSiGe、g−GeSiSiGe}、{n−GeSiGeGe、g−GeSiGeGe}と位置異性体i−Si(GeSiSi)の計算熱化学特性(300K)および構造特性を示す図。結合長、結合角およびエネルギーの単位は、それぞれ、オングストローム、度およびハートリーである。
【図13A】濃度GeSi(Si0.50Ge0.50)を有するダイヤモンド立方晶Si−Ge格子(e)に至るまでの相互結合(GeH(SiHモノマー(a−d)に基づく典型的な一連の巨大分子重合単位を示す図。この材料には、構造および組成構成要素として(GeH(SiHからなるGe−Si−SiGe分子核が組み込まれている。
【図13B】濃度GeSi(Si0.50Ge0.50)を有するダイヤモンド立方晶Si−Ge格子(e)に至るまでの相互結合(GeH(SiHモノマー(a−d)に基づく典型的な一連の巨大分子重合単位を示す図。この材料には、構造および組成構成要素として(GeH(SiHからなるGe−Si−SiGe分子核が組み込まれている。
【図14】Si原子とGe原子がランダムに分布した組成物Si0.50Ge0.50の2次元島の仮説成長シーケンスを示す図。概略プロセスは、(111)成長面に対する垂線に沿って見られ、n−GeSiSiGe分子の規則的付加とH分子の同時除去を含む。凡例:濃い円はGe;薄い円はSi;小さな白い円はH。
【図15】Si原子とGe原子がランダムに分布した組成物Si0.50Ge0.50の2次元島の仮説成長シーケンスを示す図。概略プロセスは、(001)成長面に対する垂線に沿って見られ、n−GeSiSiGe分子の規則的付加とH分子の同時除去を含む。凡例:濃い円はGe;薄い円はSi;小さな白い円はH。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I SiHn1(GeHn2
〔式中、
yは2,3または4であり;
n1は、0,1,2または3であって、原子価を満たし;
n2は、化合物中の各Ge原子に関して独立に0,1,2または3であって、原子価を満たす〕
の化合物。
【請求項2】
n1は2または3である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
yが3のとき、化合物中の少なくとも1つのGe原子に関して、n2は2である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
yが3のとき、n1は1または2である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
yは2である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
yは3である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
yは4である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
水素化シリコンゲルマニウムはテーブル1に記載されたものである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
水素化シリコンゲルマニウムは、GeH−SiH−GeH−GeHである請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の2種以上の化合物を含んでなる組成物。
【請求項11】
基板と、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の化合物または請求項10に記載の組成物を含んでなるガス状前駆体を基板表面近くに導入して形成されたSiGe層と、
を備えた半導体構造。
【請求項12】
基板と、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の化合物または請求項10に記載の組成物の骨格を含んでなるSi−Ge層とを備えた半導体構造。
【請求項13】
基板はシリコンを含んでなる、請求項11または12に記載の半導体基板。
【請求項14】
基板はSi(100)を含んでなる、請求項11乃至13のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項15】
ガス状前駆体は、テーブル1に記載されている1種以上の化合物を含んでなる、請求項11乃至14のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項16】
SiGe層は、1マイクロメートル未満の厚さを有するSiGe膜を含んでなる、請求項11乃至15のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項17】
SiGe層は、50〜500nmの範囲の厚さを有するSiGe膜を含んでなる、請求項11乃至16のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項18】
SiGe層は、10/cm以下の貫通欠陥密度を有するSiGe膜を含んでなる、請求項11乃至17のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項19】
SiGe層は、ほぼ原子的に平坦な表面形態を有するSiGe膜を含んでなる、請求項11乃至18のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項20】
ガス状前駆体はGeH−SiH−GeH−GeHを含んでなる、請求項11乃至19のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項21】
半導体基板は、さらにドーパントを含む、請求項11乃至20のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項22】
半導体基板は、さらに炭素、スズまたはその両方を含む、請求項11乃至21のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項23】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の化合物を合成する方法であって、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の化合物が形成される条件下に、ノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランおよびトリフラート置換ジシランからなる群から選択される化合物と、GeHリガンドを含んでなる化合物とを結合させる工程を含む方法。
【請求項24】
GeHリガンドを含んでなる化合物は、KGeH、NaGeHからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
GeHリガンドを含んでなる化合物とノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランとを結合させる工程を含んでなり、ノナフルオロブタンスルホン酸置換ジシランは(SO(SiHを含んでなる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
GeHリガンドを含んでなる化合物とトリフラート置換ジシランとを結合させる工程を含んでなり、トリフラート置換ジシランは(SOCF(SiHを含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
反応チャンバ内で基板上にSi−Ge材料を成膜する方法であって、基板上にSi−Ge材料を含んでなる層が形成される条件下に、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の1つ以上の化合物を含んでなるガス状前駆体を反応チャンバに導入する工程を含んでなる方法。
【請求項28】
基板上にエピタキシャルSi−Ge層を成膜する方法であって、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の1つ以上の化合物を含んでなるガス状前駆体を基板表面近くに導入する工程;および
基板上にエピタキシャルSi−Geが形成される条件下に前記前駆体を脱水素化する工程
を含んでなる方法。
【請求項29】
ガス状前駆体を導入する工程は、ガス状前駆体をほぼ純粋な形態で導入する工程を含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
ガス状前駆体を導入する工程は、ガス状前駆体を単一のガスソースとして導入する工程を含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項31】
ガス状前駆体を導入する工程は、ガス状前駆体を不活性キャリアガスと混合して導入する工程を含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項32】
不活性キャリアガスはHを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
不活性キャリアガスはNを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
ガスソース分子線エピタキシーによりガス状前駆体を成膜する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項35】
化学蒸着によりガス状前駆体を成膜する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項36】
300〜450℃の温度でガス状前駆体を導入する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項37】
約1.33×10−6〜約1.33×10Pa(10−8〜1000Torr)の分圧下にガス状前駆体を導入する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項38】
平坦表面を有するひずみ緩和または均一ひずみ層として基板上にSi−Ge材料を形成する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項39】
Si−Ge材料の組成はほぼ均一である、請求項27または28に記載の方法。
【請求項40】
プラズマ化学蒸着によりガス状前駆体を成膜する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項41】
レーザ化学蒸着によりガス状前駆体を成膜する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項42】
原子層堆積によりガス状前駆体を成膜する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項43】
ガス状前駆体のSiおよびGe骨格全体をSi−Ge材料またはエピタキシャルSi−Geに組み込む、請求項27または28に記載の方法。
【請求項44】
ガス状前駆体はテーブル1に記載されている1種以上の化合物を含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項45】
ガス状前駆体はGeH−SiH−GeH−GeHを含んでなる、請求項27乃至44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
基板はシリコンを含んでなる、請求項27乃至45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
基板はSi(100)を含んでなる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の1種以上の化合物を不活性ガス中に含んでなる組成物。
【請求項49】
不活性ガスは、H,He,Nおよびアルゴンからなる群から選択される、請求項4
8に記載の組成物。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−517315(P2009−517315A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542428(P2008−542428)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/045156
【国際公開番号】WO2007/062096
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507080994)アリゾナ ボード オブ リージェンツ ア ボディー コーポレート アクティング オン ビハーフ オブ アリゾナ ステイト ユニバーシティ (17)
【氏名又は名称原語表記】ARIZONA BOARD OF REGENTS,a body corporate acting on behalf of ARIZONA STATE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】