説明

窒化インジウム層の実現方法

本発明は、電子工学、光学または光電子工学での応用を目的とする構造体に関するものであり、該構造体は、周期表の第II族の少なくとも一つの元素および/または周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2で構成された合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による、主として結晶質の層を含み、該構造体はさらに、InNの層を含んでいる。他方、本発明は窒化インジウム層の実現方法と、基板を形成するプレート、並びに、窒化インジウムの成長に該プレートを応用することにも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化インジウム(InN)の実現方法に関するものである。
【0002】
窒化物半導体(InN、GaN、AlN)はこの十年の間、非常に多くの研究の対象となってきた。これらの物質をベースに、非常に性能の良い電子工学部品が実際に実現され、生産され、そして商用化されてきた。
【0003】
窒化インジウムInNに関しては、製造の難しさのために、あまり認知されることなく、あまり利用されることがないままであった。
【0004】
近年では、この物質の製造を向上させ、その物理的特性を解明するために新たな努力が払われてきた。禁制帯エネルギー(「ギャップ」)といった基本的特徴が全面的に見直され、電子工学部品に関するこの物質の潜在能力が確認された。
【0005】
したがって、たとえば、光学および光電子工学において、発光ダイオード(LED)および半導体レーザー(LD)の発光スペクトルおよび検出スペクトルは赤外線まで拡大することができており(遠隔通信用、分析用、画像用など)、電子工学では、高温かつ高出力で作動するトランジスタが見出され、マイクロ波装置を生み出している(通信用、レーダー用など)。
【背景技術】
【0006】
現状でのInNの実現は、有機金属気相エピタキシー(「MOVPE」、英語の「MetalOrganic Vapor Phase Epitaxy」の頭字語)や分子線エピタキシー(「MBE」、英語の「Molecular Beam Epitaxy」の頭字語)といった結晶成長技術を用いている。
【0007】
このような結晶成長を行うための結晶基板の選択が難しく、該結晶基板は、とりわけ結晶構造と格子パラメータに関し、堆積させようとする物質に十分に近い物理的パラメータを有していなければならない。
【0008】
したがって、GaNの基板を利用することができる。しかし、MOVPEによってGaNの基板にInNを堆積させることには、表面に均一には行われず、島状のInNの塊をもたらすように不均質に行われる傾向がある(たとえばApplied Physics Letters 83、14(2003)、2919のO.Briot et al.の論文を参照)。
【0009】
また、サファイア基板(六角形状のAl23)を利用することもできる。この場合、より均質なInNの堆積が得られる。しかし、InNの層とサファイア基板の間にある格子パラメータの差はおよそ25%であり、これは、十分な結晶品質をしたInNの層を得るには依然として大きすぎる差であって、内部に制約と欠点があることで、該層の電子工学的特性が劣化する。
【0010】
偽基板、すなわち、緩衝層が上にエピタキシー成長された結晶基板を含んだプレートもテストされており、該緩衝層はInNの成長に対して基板の役割を果たす。
【0011】
InNでの核形成層もテストされており、該層は、InNの有用な層を後で成長させるために、欠点(転位など)を抑え、良質の表面を有している(たとえばJpn.J.Appl.Phys.、Part2 40、L91(1991)のY.Saitoの論文を参照)。
【0012】
InNの層が上にエピタキシー成長されたAlNでの核形成層もテストされている(たとえば、Appl.Phys.Letter79、1489(2001)のH.Lu et al.の論文を参照)。
【0013】
低温で形成されたGaNとInNでの核形成層もテストされている(たとえば、Jpn.J.Appl.Phys.、Part2 41、L540(2002)のM.Higashiwaki et T.Matsuiの論文を参照)。
【0014】
偽基板または核形成層を利用するこれらの技術は、実施するには長く、複雑で、コストがかかりうるものである。
【0015】
他方では、該技術では最終的に得られるInNの層の構造に関して最適な結果が得られておらず、該構造には特に欠点と制約が残っている。
【特許文献1】米国特許第6284395号明細書
【特許文献2】米国特許第6121639号明細書
【非特許文献1】O.Briot et al.、Applied Physics Letters 83、14(2003)、2919
【非特許文献2】Y.Saito、Jpn.J.Appl.Phys.、Part2 40、L91(1991)
【非特許文献3】H.Lu et al.、Appl.Phys.Letter79、1489(2001)
【非特許文献4】M.Higashiwaki et T.Matsui、Jpn.J.Appl.Phys.、Part2 41、L540(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の第一の目的は従来技術に存在するものより高い結晶品質をもったInNの層を実現することであり、該層はとりわけ転位のような内部の結晶学的欠点が少ないものである。
【0017】
本発明の第二の目的は、前記第一の目的が達成しようとする品質に沿った品質を有するInNの層を得ることを可能にする、InNの結晶成長に対する基板を見出すことである。
【0018】
本発明の第三の目的は、基板の実現時および/またはInNの層の実現時に実施することのできる化学エッチング処理を単純化するために、この基板が酸素をほとんど含まない、または含まないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、第一の特徴によると、電子工学、光学または光電子工学での応用を目的とした構造体を提案することによって状況を改善しようとするものであり、該構造体は、周期表の第II族の少なくとも一つの元素および/または周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による層を含んでおり、該構造体がさらにInNの層を含んでいることを特徴としている。
【0020】
この構造体のその他の可能な特徴は、
−InNの層が合金II−IV−N2による層の上にあること、
−該構造体がさらに、合金II−IV−N2の下に、AlN、GaN、SiCまたはSiによる担持層を具備していること、
−該構造体がさらに、この担持層の下に、結晶基板を具備していること、
−II−IV−N2の層が、担持層とInNの層の間における緩衝層となるために十分な厚みを有し、とりわけ、その内部に結晶学的欠点を閉じこめること、
−合金II−IV−N2の化学式が、(Mg、Ca、Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2という可能な組み合わせから選択されること、
−合金II−IV−N2および/または合金InNがさらに少なくとも一つのドーピング元素を含んでいることである。
【0021】
第二の特徴によると、本発明は窒化インジウムの層の実現方法を提案するものであり、該方法は、第II族の少なくとも一つの元素、および/または、第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による層の上に、InNの層を結晶成長させる過程を含んでいることを特徴としている。
【0022】
この方法のその他の可能な特徴は、
−InNの成長が約700℃以下の温度で行われること、
−該方法がさらに、AlN、GaN、SiCまたはSiによる担持層の上でII−IV−N2による層を結晶成長させる予備過程を含んでいること、
−該方法がさらに、結晶物質の基板上でこの担持層を結晶成長させる初期過程を含んでいること、
−結晶成長がMOVPEとMBEという技術から選択されることである。
【0023】
第三の特徴によると、本発明は、周期表の第II族の少なくとも一つの元素、および/または、周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による上層を含んだプレートを提案するものであり、該プレートは、この上層が緩衝層を構成するために十分な厚みを有していることを特徴としている。
【0024】
このプレートのその他の可能な特徴は、
−合金II−IV−N2の化学式が、(Mg、Ca、Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2という可能な組み合わせから選択されること、
−上層の厚みが約0.1マイクロメートルと5マイクロメートルの間に含まれること、
−プレートがさらに、合金II−IV−N2の下に、AlN、GaN、SiCまたはSiによる担持層を具備していること、
−プレートがさらに、担持層の下に、結晶基板を具備していることである。
【0025】
第四の特徴によると、本発明は、周期表の第II族の少なくとも一つの元素、および/または、周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、およびN2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)を上部に具備したプレートを、InNの結晶成長用の基板として利用することを提案するものである。
【0026】
本発明による構造体は、光学、光電子工学またはマイクロ電子工学での応用を目的としている。
【0027】
本発明による構造体は、InNの層と、II族の少なくとも一つの元素、および/または、IV族の少なくとも一つの元素およびN2から構成される合金とを含んでおり、この合金はII−IV−N2と表記される。
【0028】
好ましくは、本発明による構造体は合金II−IV−N2の上に直接InNの層を含んでいる。合金II−IV−N2はこのとき、InNの成長に対する基板または偽基板を形成する。
【0029】
合金II−IV−N2は、(Mg、Ca、Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2という可能な組み合わせのセットによって得られるさまざまな合金から選択される。
【0030】
近年では、II−IV−N2タイプのかかる三元素合金で形成された、窒化物質の新たなクラスに関心を寄せる研究チームはあまりない。これらの研究では、ZnSiN2およびZnGeN2の半導体特性と電子工学的特性を利用することが問題になっている。ここで、ZnSiN2とZnGeN2という物質は電子工学部品または光電子工学部品を構成することを目的としている。とりわけ、米国特許第6284395号明細書および米国特許第6121639号明細書を参照することができる。
【0031】
本発明はこれらの物質II−IV−N2をその固有の電子工学的特性のために活性層として用いるのではなく、窒化インジウムをベースとする層または構造体を成長させるための基板として利用する。
【0032】
実際、本出願人は合金II−IV−N2に堆積させたInNの層が、従来技術よりもかなり向上した結晶品質と、物理的特性および電子工学的特性を有することを明らかにした(特に以下の実験結果を参照)。
【0033】
この結果は、物質II−IV−N2がInNに近い物質であり、したがって近い物理的特性を有していることに起因していると考えられる。
【0034】
本出願人は特に、二つの物質の格子パラメータが非常に近いことを観察した。つまり、六角形状のInNの格子パラメータはおよそa=3.54Å、c=5.71Åである(特に、Journal of Applied Physics、vol.94、5(2003)のA.G.Bhuiyan et al.「Indium nitride (InN):a review on growth,characterization,and properties」の図15を参照)。合金II−IV−N2の格子パラメータはほとんど知られておらず、「Combinatorial design of semiconductor chemistry for bandgap engineering:virtual combinatorial experimentation」(Applied Surface Science 223(2004)148−158)においてC.Suh et K.Rajanによってなされているように、どちらかと言えばシミュレーションによって計算されている。
【0035】
基板の選択に対する決定的基準は格子パラメータであり、該基準によってエピタキシー成長するべき層との「格子の不一致」(百分率表示)を予測することができるため、合金II−IV−N2による基板の選択は、該合金の格子パラメータがそれぞれInNの格子パラメータと近似していれば、特に有効だと考えられる。
【0036】
InNがZnSiN2と約9%の格子の不一致を有し、ZnGeN2とは約10%の格子の不一致を有することを確認することができる。
【0037】
これらの格子の不一致は従来技術で知られていたものを下回っている。
【0038】
他方、合金II−IV−N2は、熱条件が変化したときにInNと良好な機械的親和性を有している。
【0039】
本出願人はさらに、熱重量分析による測定時に、ZnSiN2が700℃でその機械的側面と結晶学的側面を保持することを確認した。ところが、InNのエピタキシーは従来的に約700℃未満の温度で行われるので、合金II−IV−N2は安定した基板ということになる。
【0040】
合金II−IV−N2がほとんど酸素を含まず、あるいは含んでいないため、エッチングの化学的処理を実施することができ(所望の構造体の実現時に、たとえば表面のつや出しまたは洗浄の範囲において)、酸素を含有した物質(加工するのにより固い)に用いられる器具よりも、用いられる器具の摩耗や劣化のおそれがずっと少ない。
【0041】
物質II−IV−N2自体がエピタキシーによって他の基板に堆積させられているので、ここで述べるのは、窒化インジウムおよび窒化インジウムに関連する物質および構造体を堆積させるための「偽基板」である。これらの合金II−IV−N2のうち、ZnSiN2とZnGeN2が実際に研究され、それらの格子パラメータがGaNの格子パラメータと近いことが明らかになっている。したがって、この二つの物質をGaNあるいはサファイアに堆積させることで、これらの物質をベースとした電子工学装置を形成することが目的とされてきた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1または図2では、合金II−IV−N2は好ましくは層2の形を呈しており、該層は、基板を形成する結晶物質のプレート3の上に、結晶成長によって実現されている。
【0043】
図1では、このプレート3は塊(「バルク」)であってよく、サファイア(Al23)、Si(111)またはSiCといった物質で構成することができる。
【0044】
図2では、このプレート3は、結晶物質の基板3aと担持層3bで構成することができ、基板はたとえばサファイアまたはSiCとすることができ、担持層3bは、基板に事前にエピタキシー成長されたGaN、AlN、SiCまたはSi(111)とすることができる。
【0045】
プレート3のエピタキシー面は加工することにより、合金II−IV−N2の結晶成長のために物理的特性を向上させることができる。以下の一つまたは複数の技術を実施することができる。すなわち、ポリッシング、化学エッチング、または当業者に既知であるその他の技術である。
【0046】
たとえば、プレート3がサファイア製である場合、80℃前後で、H2SO4:H3PO4(3:1)のようなエッチング溶液で表面を洗浄し、そして脱イオン化水で表面を水洗いすることができる。
【0047】
II−IV−N2の堆積はMOVPEまたはMBEといった複数のエピタキシー技術によって行うことができる。
【0048】
MOVPEはより容易な工業化のために用いられることが多く、(Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2タイプの化合物にうまく適用される。
【0049】
MBEはMgおよびCaを含んだ物質の準備により良く対応し、これらの種類はMOVPEで利用するのに容易な先駆物質は持っていない。
【0050】
MOVPEでは、一般に用いられる技術は、プレート3の表面において、合金元素(II、IVおよびN2)の先駆物質間の化学反応を促進することである。従来的に用いられているII族元素の先駆物質は、Znを得るためのジメチル亜鉛(DMZn)またはジエチル亜鉛(DEZn)、Cdを得るためのジメチルカドミウム(DMCd)、Snを得るためのテトラメチルスズ(TMSn)、そして鉛を得るためのテトラエチル鉛およびテトラメチル鉛(TMPb、TEPb)である。従来的に用いられているIV族元素の先駆物質は、SiおよびGeのそれぞれを得るためのシラン(SiH4)と水素化ゲルマニウム(GeH4)である。従来的に用いられているN2の先駆物質はアンモニア(NH3)または窒素源である。
【0051】
成長は従来的には約1100℃未満の温度で行われる。
【0052】
特に、約450℃と約800℃の間に含まれる温度でエピタキシー成長することができる。
【0053】
約20mbarと大気圧の間に含まれる全圧力を用いることができる。
【0054】
IIおよびIV族元素の全体とアンモニアの間におけるモル流量比は一般に1500と50000の間に含まれる。
【0055】
層2の成長にMBEを用いる場合には、カルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)は固体ソースの形状で用いられる。窒素はアンモニア流の利用によってまたは窒素プラズマによって導入される。
【0056】
InNの偽基板を構成するII−IV−N2の層2は数ミクロンに達しうる厚みを有しており、特徴的には約0.1μmと約5μmの間に含まれる厚み、より特徴的には約1μmと約5μmの間、さらに特徴的には約2μmと約5μmの間、さらに特徴的には約3μmと約5μmの間に含まれる厚みを有している。
【0057】
層2の自由面が高品質のInNの層を続いて実現するために十分な結晶品質を有するために、十分な厚みになることが望ましい。実際、II−IV−N2の層2と、隣接するプレート3との間の境界面には、重大なものとなりうる結晶の欠点が従来的に集中しており、該欠点の存在は主として向かい合う二つの物質間にありうる格子の差異に関連しているのだが、これらの欠点は段階的に厚みの中で減少していくものである。したがってここでは、II−IV−N2の層2は、プレート3と形成すべきInNの層の間で緩衝層として機能するのだが、なぜなら、該層2は、InNの格子パラメータに格子パラメータを適合させるだけではなく、その内部に欠点を閉じこめるからである。
【0058】
特徴的な形状の場合、特殊な処理(熱処理および/または特別な化学処理など)を実施することで、プレート3との境界面の近傍でだけに欠点を閉じこめるようにすることができる。
【0059】
たとえば、サファイアによるプレート3の表面の窒化を行い、次に、低温で(典型的には約400℃)ZnSiN2を小さな厚みの上に堆積させ、最後に高温で(つまり約400℃を超え、好ましくは400℃と700℃の間)再結晶化処理を行った後で、最終的な層2を実現するためにZnSiN2の第二の堆積を行うことができる。このとき、層2の結晶の主要な欠点は最初に堆積された厚みの中に閉じこめられることになる。
【0060】
本発明による技術を用いることで、本出願人は、非常に滑らかかつ高品質で、20−30Å RMS前後に位置する粗度を有した合金II−IV−N2の表面を得ることに成功した。
【0061】
したがって、合金II−IV−N2のこのような層2は初期の基板を形成するプレート3の上にエピタキシー成長されている。
【0062】
いったん先述した技術の一方または他方で偽基板10が形成されれば、図3にあるように、InNの層1を合金II−IV−N2の上で成長させられる。
【0063】
堆積の前に、エッチングおよび/またはポリッシングといった化学処理および/または機械的処理を行うことができるのだが、該処理は、表面がMOVPEまたはMBEによるエピタキシーに適応できるように、該表面を十分洗浄し、つや出しすることに適している。
【0064】
MOVPEまたはMBEはこの目的で用いることができる。
【0065】
MOVPEによるInNのエピタキシーの場合、たとえば、先駆物質としてトリメチルインジウム(InN用)とアンモニア(窒素用)を用いることができる。N2雰囲気のような不活性雰囲気で反応を行うことが好ましい。
【0066】
MBEによるInNのエピタキシーの場合、たとえば、インジウムの塊の固体ソースと、分子がたとえばプラズマ高周波で分離されることになる窒素(N2)またはアンモニア(NH3)のような気体ソースを用いることができる。
【0067】
成長温度は約700℃以下とすることができ、好ましくは約400℃と約650℃の間である。また、該温度は偽基板10の製造に用いられる温度よりも少し低く、このことによって、該偽基板を劣化させないようにすることができる。つまり、物質II−IV−N2は窒化インジウムの成長と熱的に適合するのである。
【0068】
図4では、X線回折スペクトルが、ZnSiN2の層2を含んだ偽基板10に約550℃でエピタキシー成長されたInNの層についてさまざまなピークを示している。X軸は、構造体20(ここでは偽基板10とInNの層1で構成されている)での回折に続く、入射X線のビームの屈折角を示し、Y軸は測定された電磁界の強度を表している。
【0069】
InNの層に関連したピークが小さく(約400アーク秒)、偽基板の回折ピークより小さいことが確認される。これはとりわけ、偽基板とInNの間にある格子の不一致が小さいことで、エピタキシーの質に有利に作用していることを証明している。結晶品質が低いために、ZnSiN2のトラックがInNのものよりもかなり大きくなっていることに注意するべきである。
【0070】
本発明によって実現されたInN層の(回折したX線の)トラックの幅は、先行技術のトラックより2倍から3倍小さくなっている。
【0071】
このことは、本発明によって実現されたInNの層1の特性、とりわけ電子工学的特性が、先行技術のInNの層の特性に比べて大幅に向上したことを証明している。
【0072】
さらに、本発明によると、所望の電子工学的特性に達するために、InNの層1および/またはII−IV−N2の層2に適切な仕方でドーピングすることができる。たとえば、ケイ素でInNの層1にドーピングすることができる。たとえば、ガリウムでII−IV−N2の層2にドーピングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】II−IV−N2の層と結晶物質のプレートとからなる偽基板を表す図。
【図2】II−IV−N2の層と、結晶物質の基板と担持層で構成されるプレートとからなる偽基板を表す図。
【図3】InNの層と、II−IV−N2の層と、結晶物質のプレートとからなる構造体を表す図。
【図4】ZnSiN2の層を含んだ偽基板にエピタキシー成長されたInNの層についてさまざまなピークを示しているX線回折スペクトル図表。
【符号の説明】
【0074】
1 InNの層
2 II−IV−N2の層
3 結晶物質のプレート
3a 基板
3b 担持層
10 偽基板
20 構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子工学、光学または光電子工学での応用を目的とした構造体であり、周期表の第II族の少なくとも一つの元素、および/または、周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による層(2)を含んだ構造体であって、さらにInNの層(1)を含んでいることを特徴とする構造体。
【請求項2】
InNの層(1)が合金II−IV−N2の層(2)の上にあることを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
さらに、合金II−IV−N2の下に、AlN、GaN、SiCまたはSiからなる担持層(3、3b)を具備していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
さらに、担持層(3b)の下に、結晶基板(3a)を具備していることを特徴とする、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
合金II−IV−N2の層(2)が、担持層(3、3b)とInNの層(1)の間で緩衝層となるのに十分な厚みを有し、とりわけ、その内部に結晶学的欠点を閉じこめるようになっていることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
合金II−IV−N2の化学式が、(Mg、Ca、Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2の可能な組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載の構造体。
【請求項7】
合金II−IV−N2および/または合金InNがさらに少なくとも一つのドーピング元素を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか一つに記載の構造体。
【請求項8】
第II族の少なくとも一つの元素、および/または、第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による層(2)に、InNによる層(1)を結晶成長させる過程を含んでいることを特徴とする、窒化インジウム原子層の実現方法。
【請求項9】
InNの成長が約700℃以下の温度で行われ、特に約400℃と約650℃の間で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
さらに、AlN、GaN、SiCまたはSiによる担持層(3、3b)に合金II−IV−N2の層(2)を結晶成長させる予備過程を含んでいることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらに、結晶物質による基板(3a)に担持層(3b)を結晶成長させる初期過程を含んでいることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
結晶成長がMOVPEおよびMBEの技術から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
InN層の成長に基板としての役割を果たすことを目的とするプレート(10)であり、プレート(10)が、周期表の第II族の少なくとも一つの元素、および/または、周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)による上層(2)を含み、この上層が緩衝層を構成するのに十分な厚みを有していることを特徴とするプレート(10)。
【請求項14】
合金II−IV−N2の化学式が、(Mg、Ca、Zn、Cd)−(C、Si、Ge、Sn、Pb)−N2という可能な組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項13に記載のプレート(10)。
【請求項15】
上層(2)の厚みが約0.1マイクロメートルと5マイクロメートルの間に含まれることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載のプレート(10)。
【請求項16】
さらに、合金II−IV−N2の下に、AlN、GaN、SiCまたはSiによる担持層(3、3b)を具備していることを特徴とする、請求項13〜請求項15のいずれか一つに記載のプレート(10)。
【請求項17】
さらに、担持層(3b)の下に、結晶質の基板(3a)を具備していることを特徴とする、請求項16に記載のプレート(10)。
【請求項18】
周期表の第II族の少なくとも一つの元素、および/または、周期表の第IV族の少なくとも一つの元素、および、N2の合金(この合金はII−IV−N2と表記される)を上部に具備したプレート(10)の、InNの結晶成長用の基板としての利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−513327(P2008−513327A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531794(P2007−531794)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002275
【国際公開番号】WO2006/032756
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【出願人】(506075252)ユニベルシテ モンペリエ ドゥー (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER II
【Fターム(参考)】