説明

窒化物半導体素子および窒化物半導体素子の製造方法

【課題】表面リーク電流を低減することができる、III族窒化物半導体を用いた窒化物半導体素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】この電界効果トランジスタは、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5が、順に積層された窒化物半導体積層構造部2を備えている。ゲート絶縁膜9が形成されている。このゲート絶縁膜9は、窒化物半導体積層構造部2の表面全域に接して形成された窒化シリコン膜20と、この窒化シリコン膜20の上に形成された酸化シリコン10膜とを備えている。ゲート絶縁膜9の上には、ゲート絶縁膜9を挟んで領域12に対向するようにゲート電極11が形成されている。また、窒化物半導体積層構造部2の引き出し部6の表面には、ドレイン電極7が接触形成されている。一方、窒化物半導体積層構造部2のn型GaN層5の頂面には、ソース電極13が接触形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、III族窒化物半導体を用いた窒化物半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーアンプ回路、電源回路、モータ駆動回路などには、シリコン半導体を用いたパワーデバイスが用いられている。
しかし、シリコン半導体の理論限界から、シリコンデバイスの高耐圧化、低抵抗化および高速化は限界に達しつつあり、市場の要求に応えることが困難になりつつある。
そこで、高耐圧、高温動作、大電流密度、高速スイッチングおよび低オン抵抗といった特徴を有する、窒化物半導体素子の開発が検討されている。
【0003】
図5は、III族窒化物半導体を用いた、従来の電界効果トランジスタ(窒化物半導体素子)の構造を説明するための図解的な断面図である。
この電界効果トランジスタは、サファイア基板81と、このサファイア基板81の側から順に積層された、アンドープGaN層82、n型GaN層83、p型GaN層84およびn型GaN層85からなる、npn構造の積層構造部93とを備えている。積層構造部93には、n型GaN層85の表面からn型GaN層83の途中までドライエッチングされることにより、メサ形状のメサ積層部92が形成されている。このメサ積層部92の両側面は、積層構造部93の積層界面に対して所定の傾斜角度で傾斜した傾斜面91となっている。積層構造部93の表面(傾斜面91を含む)には、SiO(酸化シリコン)からなるゲート絶縁膜86が形成されている。ゲート絶縁膜86には、n型GaN層85およびn型GaN層83をそれぞれ部分的に露出させるコンタクトホールが形成されている。このコンタクトホールから露出したn型GaN層85上には、ソース電極88が形成されている。ソース電極88は、n型GaN層85に電気的に接続されることになる。一方、コンタクトホールから露出したn型GaN層83上には、ドレイン電極89が形成されている。ドレイン電極89は、n型GaN層83に電気的に接続されることになる。また、ゲート絶縁膜86上には、傾斜面91と対向する部分において、ゲート電極87が形成されている。そして、ソース電極88、ドレイン電極89およびゲート電極87は、隣接する各電極との間にポリイミドからなる層間絶縁膜90が介在されることにより、互いに絶縁されている。
【0004】
このような構造を有する電界効果トランジスタにおいて、ゲート絶縁膜86は、たとえば、CVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)、PVD法(Physical Vapor Deposition:物理気相成長法)、ECRスパッタ法(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴スパッタ法)などプラズマを利用した方法で、積層構造部93の表面にSiOを堆積させることにより形成されている。
【特許文献1】特開2003−163354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲート絶縁膜86に用いられるSiOは、バンドギャップが大きいため、トンネル現象によるゲートリーク電流を低減することができる。それゆえ、SiOは、ゲート絶縁膜の材料として好適に使用されている。
ところが、従来の電界効果トランジスタにおいて、GaNからなる積層構造部93の表面付近では、ドライエッチングにより傾斜面91を形成する工程およびプラズマを利用してゲート絶縁膜86を形成する工程において、GaN結晶格子の窒素原子(N原子)が欠けることにより、窒素空格子点が生じている。そのため、積層構造部93の表面と酸素を主元素とするSiOからなるゲート絶縁膜86との界面において多数の表面電荷(界面電荷)が発生し、界面の表面準位(界面準位)が大きくなってしまう。積層構造部93の表面とゲート絶縁膜86との界面の表面準位が大きいと、トランジスタのオフ状態において、積層構造部93の表面を流れる表面リーク電流(オフリーク電流)が大きいという問題がある。
【0006】
そこで、この発明の目的は、表面リーク電流を低減することができる、III族窒化物半導体を用いた窒化物半導体素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1記載の発明は、III族窒化物半導体の表面に、酸素を含む絶縁膜を成膜する工程と、前記絶縁膜の成膜工程前に、前記III族窒化物半導体を窒素雰囲気下に置く工程と、を含む、窒化物半導体素子の製造方法である。
この方法によれば、III族窒化物半導体が、その表面への酸素を含む絶縁膜の成膜開始前に、窒素雰囲気下に置かれる。そのため、絶縁膜を成膜する工程において、III族窒化物半導体の表面に生じている窒素空格子点に窒素を導入して、窒素空格子点を補償することができる。それゆえ、III族窒化物半導体表面における窒素空格子点密度を低減することができる。また、成膜条件を適宜の条件とすることにより、III族窒化物半導体の表面に窒素を含む絶縁膜を成膜することもできる。これらの結果、III族窒化物半導体の表面における表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができるので、表面リーク電流を低減することができる。
【0008】
なお、前記酸素を含む絶縁膜を成膜する工程は、プラズマを発生させるプラズマ発生工程と、ターゲットに電圧を印加し、前記ターゲットに前記プラズマを衝突させる工程と、前記プラズマの衝突時に、前記III族窒化物半導体を酸素雰囲気下に置く工程と、を含んでいてもよい。この場合、前記III族窒化物半導体を窒素雰囲気下に置く工程は、前記プラズマの発生時に、前記III族窒化物半導体を窒素雰囲気下に置く工程であることが好ましい。
【0009】
また、III族窒化物半導体とは、III族元素と窒素とを化合させた半導体であり、AlN(窒化アルミニウム)、GaN(窒化ガリウム)、InN(窒化インジウム)が代表例である。一般には、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)と表すことができる。
また、請求項2記載の発明は、III族窒化物半導体からなる、n型の第1層、p型不純物を含む第2層、およびn型の第3層が順に積層された窒化物半導体構造を形成する窒化物半導体構造形成工程と、前記第1、2および第3層に跨る壁面を形成する壁面形成工程と、前記壁面における前記第1、第2および第3層に跨る領域に、酸素を含むゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と、前記ゲート絶縁膜形成工程前に、前記窒化物半導体構造を窒素雰囲気下に置く工程と、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記第2層に対向するように、ゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、を含む、窒化物半導体素子の製造方法である。
【0010】
この方法によれば、n型の第1層、p型不純物を含む第2層およびn型の第3層が順に積層されることによって、npn構造の窒化物半導体構造が形成される。窒化物半導体構造には、第1〜第3層に跨る壁面が形成され、この壁面には、第1〜第3層に跨る領域に、酸素を含むゲート絶縁膜が形成される。一方、ゲート絶縁膜の形成前には、窒化物半導体構造が窒素雰囲気下に置かれる。そして、ゲート絶縁膜を挟んで第2層に対向するように、ゲート電極が形成される。なお、第3層に電気的に接続されるようにソース電極が形成され、第1層に電気的に接続されるようにドレイン電極が形成されてもよい。
【0011】
窒化物半導体構造が、ゲート絶縁膜の形成前に窒素雰囲気下に置かれるため、ゲート絶縁膜形成工程において、窒化物半導体構造の表面(壁面を含む)に生じている窒素空格子点に窒素を導入して、窒素空格子点を補償することができる。それゆえ、窒化物半導体積層構造表面における窒素空格子点密度を低減することができる。また、成膜条件を適宜の条件とすることにより、窒化物半導体構造の表面に窒素を含む絶縁膜を成膜することもできる。そのため、たとえば、ソース電極およびドレイン電極が形成された場合において、窒化物半導体構造の表面におけるソース電極とドレイン電極との間(ソース−ドレイン間)の領域の表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができる。その結果、ソース電極−ドレイン電極間に流れる表面リーク電流を低減することができる。むろん、III族窒化物半導体によって窒化物半導体素子を構成していることにより、シリコン半導体を用いたデバイスに比較して、高耐圧、高温動作、大電流密度、高速スイッチングおよび低オン抵抗といった特徴を享受することもできる。
【0012】
次に、この窒化物半導体素子の動作について説明する。たとえば、まず、ソース−ドレイン間に、ドレイン電極側が正となるバイアス電圧が与えられる。これにより、第1および第2層の界面のpn接合部には、逆方向電圧が与えられ、その結果、第3層と第1層との間、すなわち、ソース−ドレイン間は、遮断状態(逆バイアス状態)となる。この状態から、ゲート電極に対して、ソース電極を基準電位として正となる所定の電圧値(ゲート閾値電圧)以上のバイアス電圧を印加すると、第2層における壁面とゲート絶縁膜との界面近傍(チャネル領域)に電子が誘起されて、反転層(チャネル)が形成される。そして、この反転層を介して、ソース−ドレイン間が導通することにより、この窒化物半導体素子の動作が実現される。
また、前記ゲート絶縁膜形成工程は、請求項3に記載されているように、SiO、HfO、Ga、AlおよびSiONの群から選択される少なくとも1種を含むゲート絶縁膜を形成する工程であることが好ましい。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、前記壁面形成工程によって露出した前記第2層の半導体表面部に、前記第2層とは導電特性の異なる第4層を形成する第4層形成工程をさらに含み、前記ゲート絶縁膜形成工程が、前記ゲート絶縁膜を前記第4層に接するように形成する工程である、請求項2または3に記載の窒化物半導体素子の製造方法である。
この方法によれば、壁面形成工程によって露出した第2層の半導体表面部に、第2層と導電特性の異なる第4層が形成される。そして、ゲート絶縁膜が、この第4層に接するように配置され、ゲート電極は、ゲート絶縁膜を挟んで第4層と対向する。
【0014】
これによって、前述の窒化物半導体素子の動作時において、反転層(チャネル)は、第4層に形成される。そのため、この第4層が、たとえば第2層のアクセプタ濃度より低いアクセプタ濃度を有するp型半導体であると、反転層が第2層に形成される場合に比べて、ゲート閾値電圧を低く抑えることができる。そのため、良好な窒化物半導体素子を実現することができる。
【0015】
なお、第4層は、前述のように、第2層のアクセプタ濃度より低いアクセプタ濃度を有するp型半導体であってもよいし、たとえば、n型半導体、i型半導体、ならびにn型不純物およびp型不純物を含む半導体のうちのいずれかであってもよい。第4層をn型半導体とする場合には、窒化物半導体素子のノーマリオフ動作を実現するため、n型不純物の濃度および第4層の層厚を適宜制御することができる。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、III族窒化物半導体と、前記III族窒化物半導体の表面に形成された酸素を含む絶縁膜と、を含み、前記III族窒化物半導体の表面において前記絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、前記絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子である。
請求項5記載の窒化物半導体素子は、たとえば、請求項1に記載の方法により作製することができる。そして、請求項5の構成によれば、III族窒化物半導体の表面において絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い。そのため、III族窒化物半導体の表面における絶縁膜の形成されている領域の窒素空格子点密度を低減することができるので、III族窒化物半導体表面における表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができる。その結果、表面リーク電流を低減することができる。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、III族窒化物半導体からなる、n型の第1層、この第1層に積層されたp型不純物を含む第2層、およびこの第2層に積層されたn型の第3層を備え、前記第1、第2および第3層に跨る壁面を有する窒化物半導体構造部と、前記壁面における前記第1、第2および第3層に跨る領域に形成された、酸素を含むゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記第2層に対向するゲート電極と、前記第3層に電気的に接続されたソース電極と、前記第1層に電気的に接続されたドレイン電極と、を含み、前記窒化物半導体構造部の表面において前記ゲート絶縁膜の形成された領域の窒素濃度が、前記ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子である。
【0018】
請求項6記載の窒化物半導体素子は、たとえば、請求項2に記載の方法により作製することができる。そして、請求項6の構成によれば、窒化物半導体構造部の表面におけるゲート絶縁膜が形成された領域の窒素濃度が、ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い。そのため、窒化物半導体構造部の表面におけるソース電極とドレイン電極との間の領域の窒素空格子点密度を低減することができる。そのため、ゲート絶縁膜が形成された領域(ソース電極とドレイン電極との間の領域)の表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができる。その結果、ソース電極−ドレイン電極間に流れる表面リーク電流を低減することができる。
【0019】
また、請求項7記載の発明は、p型不純物を含むIII族窒化物半導体からなる窒化物半導体層と、この窒化物半導体層の表層において所定の間隔を隔てて位置する、第1n型領域および第2n型領域と、前記窒化物半導体層の表面における前記第1n型領域から前記第2n型領域に跨る領域に形成された、酸素を含むゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜を挟んで、前記第1n型領域と前記第2n型領域との間の領域で前記窒化物半導体層に対向するゲート電極と、前記第1n型領域に電気的に接続されたドレイン電極と、前記第2n型領域に電気的に接続されたソース電極と、を含み、前記窒化物半導体層の表面において前記ゲート絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、前記ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子である。
【0020】
この構成によれば、p型不純物を含むIII族窒化物半導体からなる窒化物半導体層の表層に、所定の間隔を隔てて第1n型領域および第2n型領域が位置している。これによって、窒化物半導体層には、その表面に沿ってnpn接合が形成されている。この窒化物半導体層の表面において、第1n型領域から第2n型領域に跨る領域には、酸素を含むゲート絶縁膜が配置されている。また、ゲート絶縁膜を挟んで、第1n型領域および第2n型領域の間の領域(p型領域)においてゲート絶縁膜と対向する部分がチャネル領域を形成し、このチャネル領域にゲート電極が対向している。また、第1n型領域に電気的に接続されるようにドレイン電極が設けられ、第2n型領域に電気的に接続されるようにソース電極が設けられている。そして、窒化物半導体層の表面において、ゲート絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い。
【0021】
そのため、窒化物半導体層の表面におけるソース電極とドレイン電極との間の領域の窒素空格子点密度を低減することができる。それゆえ、ゲート絶縁膜が形成された領域(ソース電極とドレイン電極との間の領域)の表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができる。その結果、ソース電極−ドレイン電極間に流れる表面リーク電流を低減することができる。
【0022】
さらに、請求項8記載の発明は、前記ゲート絶縁膜は、III族窒化物半導体の表面に形成された窒化シリコン膜と、この窒化シリコン膜の上に形成された酸素を含む酸化膜とを含む、請求項6または7に記載の窒化物半導体素子である。
この構成によれば、III族窒化物半導体と酸化膜との間に窒化シリコン膜が介在されている。III族窒化物半導体と酸化膜との間に窒化シリコン膜が介在される構成であれば、III族窒化物半導体の表面における表面電荷の発生を一層抑制することができるので、さらなるリークの低減が可能になる。さらに、窒化シリコン膜の厚みは、十分に薄い方が好ましい。たとえば、1nm程度、より具体的には、0.5nm〜3nmであることが好ましい。窒化シリコン膜の厚みがこの範囲であれば、窒化シリコン膜と酸化膜との界面(絶縁膜界面)に電荷がチャージされてしまっても、その電荷は、窒化シリコン膜を容易に通り抜けることができる。その結果、絶縁膜界面が電荷のチャージ状態に維持されることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
この発明の第1の実施形態に係る電界効果トランジスタの構造を説明するための図解的な断面図である。
この電界効果トランジスタ(窒化物半導体素子)は、基板1と、この基板1の上に成長させられたGaN化合物半導体(III族窒化物半導体)からなる窒化物半導体積層構造部2と、を備えている。
【0024】
基板1としては、たとえば、サファイア基板などの絶縁性基板や、GaN基板、ZnO基板、Si基板、GaAs基板およびSiC基板などの導電性基板を適用することができる。
窒化物半導体積層構造部2は、n型GaN層3(第1層)と、p型GaN層4(第2層)と、n型GaN層5(第3層)とを備え、これら各GaN層は、この順に積層されている。窒化物半導体積層構造部2は、断面台形(メサ形状)となるようにn型GaN層4からn型GaN層2が露出する深さまで積層界面を横切る方向にエッチングされている。そして、n型GaN層3は、窒化物半導体積層構造部2の両側から、窒化物半導体積層構造部2の積層界面に沿う横方向(以下、この実施形態において、この方向を「幅方向」とする。)に引き出された引き出し部6を有している。
【0025】
一方、窒化物半導体積層構造部2の幅方向中間付近には、引き出し部6が形成されるにともない、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5に跨る壁面8が形成されている。
p型GaN層4における壁面8付近の半導体表面部には、領域12(第4層)が形成されている。この領域12は、p型GaN層4とは異なる導電特性を有する半導体、たとえば、p型GaN層4のアクセプタ濃度より低いアクセプタ濃度を有するp型半導体からなる。また、領域12の、壁面8と直交する方向における厚みは、たとえば、数nm〜100nmである。なお、領域12は、p型GaN層4とは異なる導電特性を有する半導体であれば、p型半導体に限られず、たとえば、n型不純物を含むn型半導体、不純物をほとんど含まないi型半導体、およびn型およびp型の不純物を含む半導体などであってもよい。この領域12には、ゲート電極11(後述)に適切なバイアス電圧が与えられることにより、窒化シリコン膜20(後述)との界面近傍において、n型GaN層3とn型GaN層5とを導通させる反転層が形成される。
【0026】
窒化物半導体積層構造部2は、基板1の上に、たとえば、いわゆるMOCVD成長(Metal Oxide Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相成長)によって形成されている。たとえば、主面がc面(0001)の基板1を用いると、この基板1の上にエピタキシャル成長によって成長させられる窒化物半導体積層構造部2、すなわち、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5は、やはりc面(0001)を主面として積層されることになる。それゆえ、窒化物半導体積層構造部2の積層界面およびn型GaN層5の頂面は、c面(0001)となる。そのため、窒化物半導体積層構造部2が、その積層界面を横切る方向にエッチングされることにより形成される壁面8は、たとえば、c面(0001)に対して15°〜90°の範囲で傾斜した面(c面以外の面)となる。より具体的には、壁面8は、たとえば、m面(10-10)またはa面(11-20)の非極性面や、(10-13)、(10-11)、(11-22)などのセミポーラ面となる。
【0027】
また、窒化物半導体積層構造部2は、その表面が窒素で補償されている。通常、GaNからなる窒化物半導体積層構造部2の表面付近では、GaN結晶格子の窒素原子(N原子)が欠けることにより、窒素空格子点が生じている。これに対し、この実施形態のように、窒化物半導体積層構造部2の表面が窒素で補償されている構成では、窒化物半導体積層構造部2の表面付近に窒素空格子点がほとんど存在しない状態となっている。窒素で補償されているGaN表面は、窒素で補償されていないGaN表面より、その窒素濃度が高く、表面電荷がチャージされにくい。たとえば、窒素で補償されていないGaN表面における表面電荷密度は、1×1012cm−2・eV−1〜1×1013cm−2・eV−1であり、この実施形態のように、窒素で補償されているGaN表面における表面電荷密度は、1×1011cm−2・eV−1〜1×1012cm−2・eV−1である。
【0028】
窒化物半導体積層構造部2の引き出し部6の表面には、ドレイン電極7が接触形成されている。ドレイン電極7は、n型GaN層3と電気的に接続されることになる。一方、窒化物半導体積層構造部2のn型GaN層5の頂面には、ソース電極13が接触形成されている。ソース電極13は、n型GaN層5と電気的に接続されることになる。
ドレイン電極7およびソース電極13としては、たとえば、Ti/Al(下層/上層)からなる積層構造を適用することができる。その他、ドレイン電極7およびソース電極13は、たとえば、MoもしくはMo化合物(たとえば、モリブデンシリサイド)、TiもしくはTi化合物(たとえば、チタンシリサイド)、またはWもしくはW化合物(たとえば、タングステンシリサイド)で構成してもよい。ドレイン電極7およびソース電極13をこのような材料で構成することにより、ドレイン電極7およびソース電極13から、これらの電極にバイアス電圧を与えるための配線(図示せず)に対して良好なコンタクトをとることができる。
【0029】
さらに、窒化物半導体積層構造部2の表面には、ゲート絶縁膜9が形成されている。このゲート絶縁膜9は、窒化物半導体積層構造部2の表面全域に接して形成された窒化シリコン膜20と、この窒化シリコン膜20の上に形成された酸化シリコン膜10とを備えている。窒化シリコン膜20の膜厚は、十分薄いことが好ましく、たとえば、0.5nm〜3nmである。また、酸化シリコン膜10の膜厚は、たとえば、50nm〜200nmである。酸化シリコン膜10の膜厚は、所望のゲート耐圧によって適宜変更される。なお、図1には表われていないが、窒化シリコン膜20と酸化シリコン膜10との間に、窒化シリコン膜20よりさらに膜厚の薄い、SiON(酸窒化シリコン)からなる絶縁膜が介在されていてもよい。
【0030】
さらに、ゲート絶縁膜9の上には、ゲート絶縁膜9を挟んで領域12に対向するようにゲート電極11が形成されている。ゲート電極11としては、たとえば、Pt(白金)、Al(アルミニウム)、Ni/Au(ニッケル/金の合金)、Ni/Ti/Au(ニッケル/チタン/金の合金)、Pd/Au(パラジウム/金の合金)、Pd/Ti/Au(パラジウム/チタン/金の合金)、Pd/Pt/Au(パラジウム/白金/金の合金)、ポリシリコンなどの導電性材料を適用することができる。
【0031】
次に図1に示す電界効果トランジスタの動作について説明する。
ソース電極13とドレイン電極7との間には、ドレイン電極7側が正となるバイアス電圧が与えられる。これにより、n型GaN層3とp型GaN層4との界面のpn接合には逆方向電圧が与えられ、その結果、n型GaN層5とn型GaN層3との間、すなわち、ソース−ドレイン間は、遮断状態(逆バイアス状態)となる。この状態から、ゲート電極11に対して、ソース電極13を基準電位として正となる所定の電圧値(ゲート閾値電圧)以上のバイアス電圧を印加すると、領域12の表面近傍に電子が誘起されて、反転層(チャネル)が形成される。そして、この反転層を介して、n型GaN層3とn型GaN層5との間が導通する。こうして、ソース−ドレイン間が導通することになる。これにより、この電界効果トランジスタのトランジスタ動作が実現される。このとき、領域12がp型GaN層4よりアクセプタ濃度の低いp型半導体からなるため、より低いゲート閾値電圧で領域12に電子を誘起させることができる。領域12のp型不純物濃度を適切に定めておけば、ゲート電極11に適切なバイアスを与えたときにソース−ドレイン間が導通する一方で、ゲート電極11にバイアスを与えないときにはソース−ドレイン間が遮断状態となる。つまり、ノーマリオフ動作が実現される。
【0032】
図2A〜図2Fは、図1の電界効果トランジスタの製造方法を工程順に示す図解的な断面図である。
この電界効果トランジスタの製造に際しては、まず、図2Aに示すように、基板1の上に、たとえば、c面(0001)を成長主面としたMOCVD成長によって、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5が順に成長させられる。なお、n型GaN層3およびn型GaN層5を成長させるときのn型不純物としては、たとえばSiを用いればよい。また、p型GaN層4を成長させるときのp型不純物としては、たとえば、Mg、Cなどを用いればよい。
【0033】
次に、図2Bに示すように、トレンチ14が形成される。トレンチ14は、c面(0001)に対して15°〜90°の範囲で傾斜した面方位を有する壁面8が切り出されるように、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5がストライプ状にエッチングされることにより形成される。このエッチングは、n型GaN層5からp型GaN層4を貫通して、n型GaN層3の途中に至る深さまで行なわれる(窒化物半導体積層構造形成工程、壁面形成工程)。
【0034】
より具体的には、たとえば、公知のフォトリソグラフィ技術により、トレンチ14を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成された後、このフォトレジストをマスクとしてドライエッチングが行なわれる。このドライエッチングは、たとえば、塩素系ガス(たとえば、Cl、BCl、CCl、SiClなど)を用いて行なわれる。これにより、基板1上に、複数本(図2では2本のみ示す)の窒化物半導体積層構造部2がストライプ状に形成されるとともに、n型GaN層3の延長部からなる引き出し部6、ならびに、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5からなる壁面8が同時に形成される。
【0035】
なお、ドライエッチングの後、必要に応じて、ドライエッチングによってダメージを受けたトレンチ14の壁面8および底面を改善するためのウェットエッチング処理を行なってもよい。ウェットエッチングには、HF(フッ酸)やHCl(塩酸)などを用いることが好ましい。これにより、Si系の酸化物やGaの酸化物などが除去され、トレンチ14の壁面8および底面を均すことができるので、ダメージの少ない面を得ることができる。なお、ウェットエッチング処理に代えて、低ダメージのドライエッチング処理を適用することもできる。
【0036】
次いで、窒化物半導体積層構造部2が形成された基板1が、ECRスパッタ(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴スパッタ)装置に入れられる。そして、ECRスパッタ装置内に、たとえば、30eV程度のエネルギーを有するArプラズマが発生させられるとともに、窒素ガス(Nガス)が導入されて、装置内が窒素雰囲気にされる(窒素雰囲気下に置く工程)。なお、窒素雰囲気とは、たとえば、高温窒素ガス中や窒素プラズマ中など、窒素分子、窒素原子、窒素ラジカルおよび窒素との化合物などが照射される環境などのことを指す。装置内が窒素雰囲気にされることにより、窒化物半導体積層構造部2の表面付近が窒化される。次いで、Arプラズマが窒化物半導体積層構造部2の表面に数秒間照射される。このArプラズマが照射されることにより、図2Cに示すように、p型GaN層3における壁面8付近の領域が変質してp型GaN層3とは異なる導電特性を有する、たとえばp型GaN層3よりアクセプタ濃度の低いp型半導体の領域12が形成される(第4層形成工程)。
【0037】
その後は、ターゲット(この実施形態では、Si)に、負電圧が印加されるとともにArプラズマが加速衝突される。これにより、ターゲット(Si)粒子が弾き飛ばされ、装置内の窒素ガス(Nガス)と反応し、SiN(窒化シリコン)となって窒化物半導体積層構造部2の表面に堆積する。こうして、窒化物半導体積層構造部2の表面全域に窒化シリコン膜が形成される。このArプラズマの加速衝突によって、SiNは、たとえば、0.5nm〜3nm堆積される。
【0038】
次いで、ターゲットに対するArプラズマの加速衝突を継続した状態で、ECRスパッタ装置内へ導入するガスが窒素ガス(Nガス)から酸素ガス(Oガス)に切り換えられる。これにより、Arプラズマに弾き飛ばされるターゲット(Si)粒子は、装置内の酸素ガス(Oガス)と反応し、SiO(酸化シリコン)となって窒化物半導体積層構造部2の表面全域を覆う窒化シリコン膜の表面に堆積する。こうして、この窒化シリコン膜の表面全域に酸化シリコン膜が形成される。なお、窒素ガス(Nガス)から酸素ガス(Oガス)への切り換え直後における装置内には、窒素ガス(Nガス)が残存している場合があるので、上記酸化シリコン膜における上記窒化シリコン膜との界面付近には、非常に薄いSiON(酸窒化シリコン)膜が形成される場合がある。
【0039】
そして、これら絶縁膜が形成された後には、図2Dに示すように、絶縁膜の不要部分(ゲート絶縁膜9以外の部分)がエッチングにより除去されることにより、窒化シリコン膜20と酸化シリコン膜10とを備えるゲート絶縁膜9が形成される(ゲート絶縁膜形成工程)。
次いで、公知のフォトリソグラフィ技術により、ドレイン電極7およびソース電極13を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成される。そして、このフォトレジスト上から、ドレイン電極7およびソース電極13の材料として用いられるメタル(たとえば、TiおよびAl)が、スパッタ法により、Ti/Alの順にスパッタされる。その後は、フォトレジストが除去されることにより、メタルの不要部分(ドレイン電極7およびソース電極13以外の部分)がフォトレジストとともにリフトオフされる。これらの工程により、図2Eに示すように、引き出し部6の表面にドレイン電極7が接触形成されるとともに、n型GaN層5の頂面にソース電極13が接触形成される。ドレイン電極7およびソース電極13が形成された後には、熱アロイ(アニール処理)が行なわれることにより、ドレイン電極7とn型GaN層3との接触およびソース電極13とn型GaN層5との接触が、オーミック接触となる。
【0040】
続いて、公知のフォトリソグラフィ技術により、ゲート電極11を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成される。そして、このフォトレジスト上から、ゲート電極11の材料として用いられるメタル(たとえば、前述した導電性材料)が、スパッタ法によりスパッタされる。その後は、フォトレジストが除去されることにより、メタルの不要部分(ゲート電極11以外の部分)がフォトレジストとともにリフトオフされる。これらの工程により、図2Fに示すように、壁面8ならびにn型GaN層3およびn型GaN層5における壁面8の縁部に対向するゲート電極11が形成される(ゲート電極形成工程)。こうして、図1に示す構造の電界効果トランジスタを得ることができる。
【0041】
なお、基板1上に形成された複数の窒化物半導体積層構造部2は、それぞれ単位セルを形成している。複数の窒化物半導体積層構造部2のゲート電極11、ドレイン電極7およびソース電極13は、それぞれ、図示しない位置で共通接続されている。ドレイン電極7は、隣接する窒化物半導体積層構造部2間で共有することができる。
以上のように、この実施形態によれば、ECRスパッタ装置内でゲート絶縁膜9を形成する際、まず、装置内にArプラズマが発生させられるとともに、装置内が窒素雰囲気にされて、窒化物半導体積層構造部2が窒素雰囲気下に置かれる。そのため、窒化物半導体積層構造部2のGaN結晶格子に窒素空格子点が生じていても、窒化物半導体積層構造部2の表面付近を窒化して、窒素空格子点を窒素ガス(Nガス)の窒素原子(N原子)で補償することができる。さらに、装置内が窒素雰囲気の状態で、ターゲット(Si)粒子がArプラズマで弾き飛ばされる。そのため、このターゲット(Si)粒子と装置内の窒素ガス(Nガス)とが反応して生じるSiNを、窒化物半導体積層構造部2の表面に堆積させることができる。これらの結果、窒化物半導体積層構造部2の表面におけるソース電極13とドレイン電極7との間(ソース−ドレイン間)の部分の窒素空格子点密度を低減することができるとともに、当該部分に窒化シリコン膜20を接して形成することができる。それゆえ、ソース電極−ドレイン電極間における領域の表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができるので、表面リーク電流を低減することができる。むろん、GaN(III族窒化物半導体)によって電界効果トランジスタを構成していることにより、シリコン半導体を用いたデバイスに比較して、高耐圧、高温動作、大電流密度、高速スイッチングおよび低オン抵抗といった特徴を享受することもできる。
【0042】
また、この実施形態では、p型GaN層4における壁面8付近の半導体表面部に領域12が形成されており、この領域12には、ゲート絶縁膜9を挟んでゲート電極11が対向している。そのため、電界効果トランジスタの動作時において、反転層(チャネル)は、領域12におけるゲート絶縁膜9との界面近傍に形成される。さらに、この領域12は、たとえば、p型半導体、n型半導体、i型半導体、n型およびp型の不純物を含む半導体である。そのため、反転層(チャネル)の形成に必要なゲート電圧値を小さくすることができる。その結果、リーチスルーブレークダウンが起こらないようにp型GaN層4のアクセプタ濃度を高くしたまま、ゲート閾値電圧を下げることができる。したがって、良好なトランジスタ動作を行なうことができ、良好なパワーデバイスを実現することができる。
【0043】
さらに、この実施形態によれば、窒化シリコン膜20の膜厚は、十分薄く、たとえば、0.5nm〜3nmである。窒化シリコン膜20と酸化シリコン膜10とが積層される構成であれば、窒化物半導体積層構造部2から、窒化シリコン膜20と酸化シリコン膜10との界面(絶縁膜界面)に電荷がチャージされてしまうおそれがある。しかし、この実施形態のように、窒化シリコン膜20の膜厚が、0.5nm〜3nm程度であれば、絶縁膜界面に電荷がチャージされても、その電荷は、窒化シリコン膜20を容易に通り抜けることができる。その結果、絶縁膜界面が電荷のチャージ状態に維持されることを防止することができる。
【0044】
図3は、この発明の第2の実施形態に係る電界効果トランジスタの構造を説明するための図解的な断面図である。
この電界効果トランジスタ(窒化物半導体素子)は、基板15と、この基板15の上に成長させられたGaN化合物半導体(III族窒化物半導体)からなるp型不純物を含むp型GaN層16と、を備えている。
【0045】
基板15としては、たとえば、サファイア基板などの絶縁性基板や、GaN基板、ZnO基板、Si基板、GaAs基板およびSiC基板などの導電性基板を適用することができる。
p型GaN層16には、基板15とは反対側の表層において、平面視ストライプ状の複数本のn型領域17(第2n型領域)およびn型領域18(第1n型領域)が形成されている。各n型領域は、上記ストライプ方向と直交する幅方向(以下、この実施形態において、この方向を「幅方向」とする。)において所定の間隔を隔てて位置しており、n型領域17とn型領域18とが交互に形成されている。
【0046】
また、p型GaN層16は、その表面が窒素で補償されている。すなわち、第1の実施形態で示した窒化物半導体積層構造部2と同様に、p型GaN層16の表面付近に窒素空格子点がほとんど存在しない状態となっている。窒素で補償されているGaN表面は、窒素で補償されていないGaN表面より、その窒素濃度が高く、表面電荷がチャージされにくい。たとえば、窒素で補償されていないGaN表面における表面電荷密度は、1×1012cm−2・eV−1〜1×1013cm−2・eV−1であり、この実施形態のように、窒素で補償されているGaN表面における表面電荷密度は、1×1011cm−2・eV−1〜1×1012cm−2・eV−1である。
【0047】
p型GaN層16の表面には、n型領域17,18のストライプ方向に沿う、平面視ストライプ状の複数本(図3では、3本)のゲート絶縁膜19が形成されている。各ゲート絶縁膜19は、n型領域17の幅方向における縁部からn型領域18の幅方向における縁部に跨って形成されている。隣接するゲート絶縁膜19の間の部分は、n型領域17,18を露出させるコンタクトホール27,28である。
【0048】
ゲート絶縁膜19は、p型GaN層16の表面に接して形成された窒化シリコン膜25と、この窒化シリコン膜25の上に形成された酸化シリコン膜24とを備えている。窒化シリコン膜25の膜厚は、十分に薄いことが好ましく、たとえば、0.5nm〜3nmである。また、酸化シリコン膜24の膜厚は、たとえば、50nm〜200nmである。酸化シリコン膜24の膜厚は、所望のゲート耐圧によって適宜変更される。なお、図3には表われていないが、窒化シリコン膜25と酸化シリコン膜24との間に、窒化シリコン膜25よりさらに膜厚の薄い、SiON(酸窒化シリコン)からなる絶縁膜が介在されていてもよい。
【0049】
さらに、ゲート絶縁膜19の上には、ゲート絶縁膜19を挟んでn型領域17とn型領域18の間の領域でp型GaN層16に対向する、ゲート電極21が形成されている。ゲート電極21としては、たとえば、Pt(白金)、Al(アルミニウム)、Ni/Au(ニッケル/金の合金)、Ni/Ti/Au(ニッケル/チタン/金の合金)、Pd/Au(パラジウム/金の合金)、Pd/Ti/Au(パラジウム/チタン/金の合金)、Pd/Pt/Au(パラジウム/白金/金の合金)、ポリシリコンなどの導電性材料を適用することができる。
【0050】
p型GaN層16の表面においてゲート電極21に対向した部分は、チャネル領域26である。このチャネル領域26には、ゲート電極21に適切なバイアス電圧が与えられることにより、n型領域17,18間を電気的に導通させる反転層(チャネル)が形成される。
コンタクトホール27から露出するn型領域17には、ソース電極22が接触形成されている。ソース電極22は、n型領域17と電気的に接続されることになる。一方、コンタクトホール28から露出するn型領域18には、ドレイン電極23が接触形成されている。ドレイン電極23は、n型領域18と電気的に接続されることになる。
【0051】
ソース電極22およびドレイン電極23としては、たとえば、Ti/Al(下層/上層)からなる積層構造を適用することができる。その他、ソース電極22およびドレイン電極23は、たとえば、MoもしくはMo化合物(たとえば、モリブデンシリサイド)、TiもしくはTi化合物(たとえば、チタンシリサイド)、またはWもしくはW化合物(たとえば、タングステンシリサイド)で構成してもよい。ソース電極22およびドレイン電極23をこのような材料で構成することにより、ソース電極22およびドレイン電極23から、これらの電極にバイアス電圧を与えるための配線(図示せず)に対して良好なコンタクトをとることができる。
【0052】
次に、図3に示す電界効果トランジスタの動作について説明する。
ソース電極22とドレイン電極23との間には、ドレイン電極23側が正となるバイアス電圧が与えられる。これにより、n型領域18とp型GaN層6におけるp型の領域との界面のpn接合には逆方向電圧が与えられ、その結果、n型領域17とn型領域18との間、すなわち、ソース−ドレイン間は、遮断状態(逆バイアス状態)となる。この状態から、ゲート電極21に対して、ソース電極22を基準電位として正となる所定の電圧値(ゲート閾値電圧)以上のバイアス電圧を印加すると、p型GaN層16のチャネル領域26の表面近傍に電子が誘起されて、反転層(チャネル)が形成される。そして、この反転層を介して、n型領域17とn型領域18との間が導通する。こうして、ソース−ドレイン間が導通することになる。すなわち、ゲート電極21に所定のバイアスを与えたときにソース−ドレイン間が導通し、ゲート電極21にバイアスを与えないときにはソース−ドレイン間が遮断状態となる。つまり、ノーマリオフ動作が実現される。
【0053】
図4A〜図4Eは、図3の電界効果トランジスタの製造方法を工程順に示す図解的な断面図である。
この電界効果トランジスタの製造に際しては、まず、図4Aに示すように、基板15の上に、たとえば、c面(0001)を成長主面としたMOCVD成長によって、p型GaN層16が成長させられる。なお、p型GaN層16を成長させるときのp型不純物としては、たとえば、Mg、Cなどを用いればよい。
【0054】
次いで、p型GaN層16の表面に、公知のフォトリソグラフィ技術により、n型領域17,18を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成される。フォトレジストが形成された後には、このフォトレジストをマスクとして、公知のイオン注入技術により、p型GaN層16の表面にn型不純物がイオン注入される。こうして、図4Bに示すように、p型GaN層16の表層に、n型領域17,18がストライプ上に形成される。なお、n型領域17,18を形成するときのn型不純物としては、たとえば、Siを用いればよい。
【0055】
次いで、p型GaN層16が形成された基板15が、ECRスパッタ(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴スパッタ)装置に入れられる。そして、ECRスパッタ装置内に、たとえば、30eV程度のエネルギーを有するArプラズマが発生させられるとともに、窒素ガス(Nガス)が導入されて、装置内が窒素雰囲気にされる(窒素雰囲気下に置く工程)。装置内が窒素雰囲気にされることにより、p型GaN層16の表面付近が窒化される。
【0056】
その後は、ターゲット(この実施形態では、Si)に、負電圧が印加されるとともにArプラズマが加速衝突される。これにより、ターゲット(Si)粒子が弾き飛ばされ、装置内の窒素ガス(Nガス)と反応し、SiN(窒化シリコン)となってp型GaN層16の表面に堆積する。こうして、p型GaN層16の表面全域に窒化シリコン膜が形成される。このArプラズマの加速衝突によって、SiNは、たとえば、0.5nm〜3nm堆積される。
【0057】
次いで、ターゲットに対するArプラズマの加速衝突を継続した状態で、ECRスパッタ装置内へ導入するガスが窒素ガス(Nガス)から酸素ガス(Oガス)に切り換えられる。これにより、Arプラズマに弾き飛ばされたターゲット(Si)粒子は、装置内の酸素ガス(Oガス)と反応し、SiO(酸化シリコン)となってp型GaN層16の表面全域を覆う窒化シリコン膜の表面に堆積する。こうして、この窒化シリコン膜の表面全域に酸化シリコン膜が形成される。なお、窒素ガス(Nガス)から酸素ガス(Oガス)への切り換え直後における装置内には、窒素ガス(Nガス)が残存している場合があるので、上記酸化シリコン膜における上記窒化シリコン膜との界面付近には、非常に薄いSiON(酸窒化シリコン)膜が形成される場合がある。
【0058】
そして、これら絶縁膜が形成された後には、図4Cに示すように、絶縁膜の不要部分(ゲート絶縁膜19以外の部分)がエッチングにより除去され、コンタクトホール27,28が形成されることにより、窒化シリコン膜25と酸化シリコン膜24とを備えるゲート絶縁膜19が形成される(ゲート絶縁膜形成工程)。
次いで、公知のフォトリソグラフィ技術により、ドレイン電極23およびソース電極22を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成される。そして、このフォトレジスト上から、ドレイン電極23およびソース電極22の材料として用いられるメタル(たとえば、TiおよびAl)が、スパッタ法により、Ti/Alの順にスパッタされる。その後は、フォトレジストが除去されることにより、メタルの不要部分(ドレイン電極23およびソース電極22以外の部分)がフォトレジストとともにリフトオフされる。これらの工程により、図4Dに示すように、n型領域17にソース電極22が接触形成されるとともに、n型領域18にドレイン電極23が接触形成される。ソース電極22およびドレイン電極23が形成された後には、熱アロイ(アニール処理)が行なわれることにより、ソース電極22とn型領域17との接触およびドレイン電極23とn型領域18との接触が、オーミック接触となる。
【0059】
続いて、公知のフォトリソグラフィ技術により、ゲート電極21を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジスト(図示せず)が形成される。そして、このフォトレジスト上から、ゲート電極21の材料として用いられるメタル(たとえば、前述した導電性材料)が、スパッタ法によりスパッタされる。その後は、フォトレジストが除去されることにより、メタルの不要部分(ゲート電極21以外の部分)がフォトレジストとともにリフトオフされる。これらの工程により、図4Eに示すように、ゲート絶縁膜19を挟んでn型領域17とn型領域18の間の領域でp型GaN層16に対向するゲート電極21が形成される(ゲート電極形成工程)。こうして、図3に示す構造の電界効果トランジスタを得ることができる。
【0060】
なお、p型GaN層16に形成された一対のn型領域17およびn型領域18とp型GaN層16の幅方向においてこれら領域の間の部分とは、それぞれ単位セルを形成している。複数の単位セルのゲート電極21、ドレイン電極23およびソース電極22は、それぞれ、図示しない位置で共通接続されている。
そして、この第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様に、ECRスパッタ装置内でゲート絶縁膜19を形成する際、p型GaN層16の表面の窒素空格子点を窒素原子(N原子)で補償することができるとともに、SiNを、p型GaN層16の表面に堆積させることができる。これらの結果、p型GaN層16の表面におけるソース電極22とドレイン電極23との間(ソース−ドレイン間)の部分の窒素空格子点密度を低減することができるとともに、当該部分に、窒化シリコン膜25を接して形成することができる。それゆえ、ソース電極−ドレイン電極間における領域の表面電荷の発生を抑制して、表面準位を低減することができるので、表面リーク電流を低減することができる。むろん、GaN(III族窒化物半導体)によって電界効果トランジスタを構成していることにより、シリコン半導体を用いたデバイスに比較して、高耐圧、高温動作、大電流密度、高速スイッチングおよび低オン抵抗といった特徴を享受することもできる。
【0061】
さらに、窒化シリコン膜25の膜厚が、0.5nm〜3nm程度であるので、窒化シリコン膜25と酸化シリコン膜24との界面が電荷のチャージ状態に維持されることを防止することもできる。
以上、この発明の複数の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の実施形態で実施することもできる。
【0062】
たとえば、第1の実施形態では、窒化物半導体積層構造部2は、少なくともn型のIII族窒化物半導体層、p型不純物を含むIII族窒化物半導体層およびn型のIII族窒化物半導体層を備えていればよく、たとえば、n型GaN層3、p型GaN層4およびn型GaN層5に加え、基板1とn型GaN層3との間にn型AlGaN層などが接触して形成される構成であってもよい。
【0063】
また、前述の実施形態では、ソース電極13,22は、n型GaN層5およびn型領域17にそれぞれ接触して形成されるとしたが、ソース電極13とn型GaN層5およびソース電極22とn型領域17とを、それぞれ電気的に接続させることができれば、n型GaN層5およびn型領域17に接触していなくてもよい。また、ドレイン電極7,23についても、ドレイン電極7とn型GaN層3およびドレイン電極23とn型領域18とを、それぞれ電気的に接続させることができれば、n型GaN層3およびn型領域18に接触していなくてもよい。
【0064】
また、前述の実施形態では、窒化物半導体積層構造部2およびp型GaN層16を成長させる方法として、MOCVD成長が適用されたが、たとえば、LPE(Liquid Phase Epitaxy:液相エピタキシャル成長)、VPE(Vapor Phase Epitaxy:気相エピタキシャル成長)、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシャル成長)などの成長方法が適用されてもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、ゲート絶縁膜9,19が、窒化シリコン膜20,25と酸化シリコン膜10,24との積層構造であるとして説明したが、ゲート絶縁膜9,19は、窒化シリコン膜20,25を備えず、酸化シリコン膜10,24の単層からなる構成でもよい。
また、第2の実施形態(図3)において、n型領域18におけるチャネル領域26との界面付近には、不純物濃度の低いn型の領域が形成されていてもよい。これにより、電界効果トランジスタの耐圧性能を向上させることができる。
【0066】
さらに、前述の実施形態では、ゲート絶縁膜9,19における酸素を含む絶縁膜として、酸化シリコン膜10,24が適用されたが、酸化シリコン膜10,24に代えて、たとえば、HfO(酸化ハフニウム)、Ga(酸化ガリウム)、Al(酸化アルミニウム)およびSiON(酸窒化シリコン)などを含む絶縁膜を適用することもできる。
【0067】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電界効果トランジスタの構造を説明するための図解的な断面図である。
【図2A】図1の電界効果トランジスタの製造方法を工程順に示す図解的な断面図である。
【図2B】図2Aの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図2C】図2Bの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図2D】図2Cの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図2E】図2Dの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図2F】図2Eの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図3】この発明の第2の実施形態に係る電界効果トランジスタの構造を説明するための図解的な断面図である。
【図4A】図3の電界効果トランジスタの製造方法を工程順に示す図解的な断面図である。
【図4B】図4Aの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4C】図4Bの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4D】図4Cの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図4E】図4Dの次の工程を示す図解的な断面図である。
【図5】従来の電界効果トランジスタの構造を説明するための図解的な断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 窒化物半導体積層構造部
3 n型GaN層
4 p型GaN層
5 n型GaN層
6 引き出し部
7 ドレイン電極
8 壁面
9 ゲート絶縁膜
10 酸化シリコン膜
11 ゲート電極
12 領域
13 ソース電極
15 基板
16 p型GaN層
17 n型領域
18 n型領域
19 ゲート絶縁膜
20 窒化シリコン膜
21 ゲート電極
22 ソース電極
23 ドレイン電極
24 酸化シリコン膜
25 窒化シリコン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体の表面に、酸素を含む絶縁膜を成膜する工程と、
前記絶縁膜の成膜工程前に、前記III族窒化物半導体を窒素雰囲気下に置く工程と、を含む、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
III族窒化物半導体からなる、n型の第1層、p型不純物を含む第2層、およびn型の第3層が順に積層された窒化物半導体構造を形成する窒化物半導体構造形成工程と、
前記第1、2および第3層に跨る壁面を形成する壁面形成工程と、
前記壁面における前記第1、第2および第3層に跨る領域に、酸素を含むゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と、
前記ゲート絶縁膜形成工程前に、前記窒化物半導体構造を窒素雰囲気下に置く工程と、
前記ゲート絶縁膜を挟んで前記第2層に対向するように、ゲート電極を形成するゲート電極形成工程と、を含む、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜形成工程が、SiO、HfO、Ga、AlおよびSiONの群から選択される少なくとも1種を含むゲート絶縁膜を形成する工程である、請求項2に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記壁面形成工程によって露出した前記第2層の半導体表面部に、前記第2層とは導電特性の異なる第4層を形成する第4層形成工程をさらに含み、
前記ゲート絶縁膜形成工程が、前記ゲート絶縁膜を前記第4層に接するように形成する工程である、請求項2または3に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
III族窒化物半導体と、
前記III族窒化物半導体の表面に形成された酸素を含む絶縁膜と、を含み、
前記III族窒化物半導体の表面において前記絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、前記絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子。
【請求項6】
III族窒化物半導体からなる、n型の第1層、この第1層に積層されたp型不純物を含む第2層、およびこの第2層に積層されたn型の第3層を備え、前記第1、第2および第3層に跨る壁面を有する窒化物半導体構造部と、
前記壁面における前記第1、第2および第3層に跨る領域に形成された、酸素を含むゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を挟んで前記第2層に対向するゲート電極と、
前記第3層に電気的に接続されたソース電極と、
前記第1層に電気的に接続されたドレイン電極と、を含み、
前記窒化物半導体構造部の表面において前記ゲート絶縁膜の形成された領域の窒素濃度が、前記ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子。
【請求項7】
p型不純物を含むIII族窒化物半導体からなる窒化物半導体層と、
この窒化物半導体層の表層において所定の間隔を隔てて位置する、第1n型領域および第2n型領域と、
前記窒化物半導体層の表面における前記第1n型領域から前記第2n型領域に跨る領域に形成された、酸素を含むゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を挟んで、前記第1n型領域と前記第2n型領域との間の領域で前記窒化物半導体層に対向するゲート電極と、
前記第1n型領域に電気的に接続されたドレイン電極と、 前記第2n型領域に電気的に接続されたソース電極と、を含み、
前記窒化物半導体層の表面において前記ゲート絶縁膜が形成されている領域の窒素濃度が、前記ゲート絶縁膜が形成されていない領域の窒素濃度より高い、窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜は、III族窒化物半導体の表面に形成された窒化シリコン膜と、この窒化シリコン膜の上に形成された酸素を含む酸化膜とを含む、請求項6または7に記載の窒化物半導体素子。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−32796(P2009−32796A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193410(P2007−193410)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】