薄膜トランジスタの半導体層用酸化物およびスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタ
【課題】薄膜トランジスタの半導体層に酸化物半導体を用いたとき、薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性が良好な薄膜トランジスタの半導体層用酸化物を提供する。
【解決手段】本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含んでいる。
【解決手段】本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタの半導体層用酸化物および上記酸化物を成膜するためのスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。
【0003】
酸化物半導体のなかでも特に、インジウム、ガリウム、亜鉛、および酸素からなるアモルファス酸化物半導体(In−Ga−Zn−O、以下「IGZO」と呼ぶ場合がある。)は、非常に高いキャリア移動度を有するため、好ましく用いられている。例えば非特許文献1および2には、In:Ga:Zn=1.1:1.1:0.9(原子%比)の酸化物半導体薄膜を薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層(活性層)に用いたものが開示されている。また、特許文献1には、In、Zn、Sn、Gaなどの元素と、Moと、を含み、アモルファス酸化物中の全金属原子数に対するMoの原子組成比率が0.1〜5原子%のアモルファス酸化物が開示されており、実施例には、IGZOにMoを添加した活性層を用いたTFTが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−164393号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】固体物理、VOL44、P621(2009)
【非特許文献2】Nature、VOL432、P488(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層として用いる場合、キャリア濃度が高いだけでなく、TFTのスイッチング特性(トランジスタ特性)に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流(ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流)が高く、(2)オフ電流(ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流)が低く、(3)SS(Subthreshold Swing、サブスレッショルド スィング、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧)値が低く、(4)しきい値(ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧であり、しきい値電圧とも呼ばれる)が時間的に変化せず安定である(基板面内で均一であることを意味する)、などが要求される。前述した特許文献1に記載のMoを含むIGZO半導体について、本発明者らが上記特性を調べたところ、IGZOに比べてオン電流の低下やSS値の上昇が見られることが分った。
【0007】
更に、IGZOなどの酸化物半導体層を用いたTFTは、電圧印加や光照射などのストレスに対する耐性(ストレス耐性)に優れていることが要求される。例えば、ゲート電圧に正電圧または負電圧を印加し続けたときや、光吸収が始まる青色帯を照射し続けたときに、しきい値電圧が大幅に変化(シフト)するが、これにより、TFTのスイッチング特性が変化することが指摘されている。また、液晶パネル駆動の際や、ゲート電極に負バイアスをかけて画素を点灯させる際などに液晶セルから漏れた光がTFTに照射されるが、この光がTFTにストレスを与えて特性劣化の原因となる。特にしきい値電圧のシフトは、TFTを備えた液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置自体の信頼性低下を招くため、ストレス耐性の向上(ストレス印加前後の変化量が少ないこと)が切望されている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性が良好であり、特にストレス印加前後のしきい値電圧変化量が小さく安定性に優れた薄膜トランジスタ半導体層用酸化物、および上記酸化物の成膜に用いられるスパッタリングターゲット、並びに上記酸化物を用いた薄膜トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むところに要旨を有するものである。
【0010】
好ましい実施形態において、
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり;
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり;
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり;
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である。
【0011】
本発明には、上記酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタも包含される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、上記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である。
【0013】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、上記のいずれかに記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むところに要旨を有するものである。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物は、薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れ、特にストレス印加後のしきい値電圧変化が小さいため、TFT特性およびストレス耐性に優れた薄膜トランジスタを提供することができた。その結果、上記薄膜トランジスタを用いれば、信頼性の高い表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1において酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタを説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、実施例1においてアモルファス相を示すIGZOの構成を示す図である。
【図3】図3は、実施例1においてIGZOを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図4】図4は、実施例1においてIGZO−Niを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図5】図5は、実施例1においてIGZO−Siを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図6】図6は、実施例1においてIGZO−Hfを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図7】図7は、実施例1においてIGZO−Alを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図8】図8は、実施例1においてIGZO−Snを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図9】図9は、実施例1においてIGZO−Taを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図10】図10は、実施例1においてIGZO−Cuを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図11】図11は、実施例1においてIGZO−Laを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図12】図12は、実施例1においてIGZO−Moを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図13】図13は、実施例2においてIGZOを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図14】図14は、実施例2においてIGZO−Siを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物(IGZO)をTFTの活性層(半導体層)に用いたときのTFT特性およびストレス耐性を向上させるため、種々検討を重ねてきた。その結果、IGZO中に、Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を含むIGZO−XをTFTの半導体層に用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。後記する実施例に示すように、上記X群に属する元素(X群元素)を含む酸化物半導体を備えたTFTは、特許文献1に記載のMoや、X群元素以外の元素を用いた場合に比べ、TFT特性およびストレス耐性に優れていることが分った。
【0018】
すなわち、本発明に係る薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層用酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素(X群元素で代表させる場合がある。)と、を含むところに特徴がある。本明細書では、本発明の酸化物をIGZO−Xで表わす場合がある。
【0019】
まず、本発明の酸化物を構成する母材成分である金属(In、Ga、Zn)について説明する。
【0020】
上記金属(In、Ga、Zn)について、各金属間の比率は、これら金属を含む酸化物(IGZO)がアモルファス相を有し、且つ、半導体特性を示す範囲であれば特に限定されない。IGZO自体は公知であり、アモルファス相を形成し得る各金属の比率(詳細には、InO、GaO、ZnOの各モル比)は、例えば前述した非特許文献1に記載されている。本明細書では、この図を図2として示している。図2に記載のアモルファス相の範囲を大幅に外れ、ZnOやIn2O3の比率が極端に高くなって結晶相が形成されると、ウエットエッチングによる加工が困難になったり、トランジスタ特性を示さなくなるなどの問題が生じる。
【0021】
代表的な組成として、In:Ga:Znの比(原子%比)が例えば2:2:1、1:1:1のものが挙げられる。
【0022】
また、上記金属(In、Ga、Zn)について、本発明の酸化物(IGZO−X)を構成する金属(In+Ga+Zn)に占める各金属の比率は、所望のTFT特性などが得られるように適切に制御することが好ましい。具体的にはZnについて、上記金属に占めるZnの比率は70原子%以下であることが好ましい。Znの比率が70原子%を超えると酸化物半導体膜が結晶化し、粒界捕獲順位が発生するためキャリア移動度が低下し、SS値が大きくなるなどトランジスタ特性が低下する。Znのより好ましい比率は40原子%以下であり、更に好ましくは30原子%以下である。また、Znの下限は、アモルファス構造にすることなどを考慮すると、上記金属に占めるZnの比率を10原子%以上とすることが好ましい。Znのより好ましい比率は15原子%以上であり、更に好ましくは20原子%以上である。
【0023】
Zn以外の上記金属(In、Ga)は、Znが上記範囲内に制御され、且つ、各金属の比率が前述した範囲を満足するように適宜制御すれば良い。具体的には、上記金属(In+Ga+Zn)に占めるInの好ましい比率は、おおむね10原子%以上70原子%以下であり、更に好ましくは25原子%以上である。また、上記金属(In+Ga+Zn)に占めるGaの好ましい比率は、おおむね25原子%以上70原子%以下である。
【0024】
本発明の酸化物は、IGZO中にX群元素を含んでいる。Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種のX群元素をIGZO中に添加することにより、電圧や光などに対するストレス耐性が向上する。また、X群元素の添加によるドレイン電流値の大きな低下はみられず、キャリア密度に対する悪影響も見られなかった(後記する実施例を参照)。また、X群元素の添加によるウエットエッチング時のエッチング不良などの問題も見られないことを実験により確認している。これらは単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましいX群元素の種類はSi、Ni、Hf、Geであり、より好ましくはSi、Niである。
【0025】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することにより電圧や光などのストレスに対するストレス耐性などが向上するものと考えられる。
【0026】
本発明の酸化物(IGZO−X)を構成する全金属(In、Ga、Zn、X群元素)に含まれるX群元素の好ましい比率[X/(In+Ga+Zn+X)]は、キャリア密度や半導体の安定性などを考慮して決定され、X群元素の種類によっても若干相違する。X群元素として、Al、Ge、Hf、Ta、Wの各元素を用いたときの好ましい比率(百分率)は0.1〜10原子%であり、より好ましくは2.0〜6.0原子%である。また、X群元素として、Si、Snの各元素を用いたときの好ましい比率は0.1原子%以上、より好ましくは1原子%以上、更に好ましくは2.0原子%以上、より更に好ましくは4.0原子%以上であって、好ましくは15原子%以下、より好ましくは8.0原子%以下である。また、X群元素としてNiを用いたときの好ましい比率は0.1〜5原子%であり、より好ましくは0.1〜1.5原子%である。X群元素の添加比率が少なすぎると、酸素欠損の発生抑制効果が十分に得られない。一方、X群元素の添加比率が多すぎると半導体中のキャリア密度が低下するため、オン電流が減少してしまう。
【0027】
以上、本発明の酸化物について説明した。
【0028】
上記酸化物は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある。)を用いて成膜することが好ましい。塗布法などの化学的成膜法によって酸化物を形成することもできるが、スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0029】
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、所望の酸化物と同一組成のスパッタリングターゲットを用いることが好ましく、これにより、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成の薄膜を形成することができる。具体的にはターゲットとして、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物ターゲットを用いることができる。また、好ましい態様として、上記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%であることが好ましい。
【0030】
あるいは、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコスパッタ法(Co−Sputter法)を用いて成膜しても良く、これにより、同一基板面内にX元素の含有量が異なる酸化物半導体膜を成膜することができる。例えば後記する実施例に示すように、In:Ga:Znが所定原子比(例えば原子%で、2:2:1)のターゲットと、上記組成のターゲット上にX群元素の純金属チップを装着したターゲットの二つを用意し、コスパッタ法によってIGZO−Xの酸化物を成膜することができる。
【0031】
上記ターゲットは、例えば粉末焼結法方法によって製造することができる。
【0032】
上記ターゲットを用いてスパッタリングするに当たっては、基板温度を室温とし、酸素添加量を適切に制御して行なうことが好ましい。酸素添加量は、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すれば良いが、おおむね、酸化物半導体のキャリア濃度が1015〜1016cm-3となるように酸素量を添加することが好ましい。本実施例における酸素添加量は添加流量比でO2/(Ar+O2)=2%とした。
【0033】
また、上記酸化物をTFTの半導体層としたときの、酸化物半導体層の好ましい密度は5.8g/cm3以上である(後述する。)が、このような酸化物を成膜するためには、スパッタリング成膜時のガス圧、スパッタリングターゲットへの投入パワー、基板温度などを適切に制御することが好ましい。例えば成膜時のガス圧を低くするとスパッタ原子同士の散乱がなくなって緻密(高密度)な膜を成膜できると考えられるため、成膜時の全ガス圧は、スパッタの放電が安定する程度で低い程良く、おおむね0.5〜5mTorrの範囲内に制御することが好ましく、1〜3mTorrの範囲内であることがより好ましい。また、投入パワーは高い程良く、おおむねDCまたはRFにて2.0W/cm2以上に設定することが推奨される。成膜時の基板温度も高い程良く、おおむね室温〜200℃の範囲内に制御することが推奨される。
【0034】
上記のようにして成膜される酸化物の好ましい膜厚は30nm以上200nm以下であり、より好ましくは30nm以上80nm以下である。
【0035】
本発明には、上記酸化物をTFTの半導体層として備えたTFTも包含される。TFTは、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、上記酸化物の半導体層、ソース電極、ドレイン電極を少なくとも有していれば良く、その構成は通常用いられるものであれば特に限定されない。
【0036】
ここで、上記酸化物半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。酸化物半導体層の密度が高くなると膜中の欠陥が減少して膜質が向上し、また原子間距離が小さくなるため、TFT素子の電界効果移動度が大きく増加し、電気伝導性も高くなり、光照射に対するストレスへの安定性が向上する。上記酸化物半導体層の密度は高い程良く、より好ましくは5.9g/cm3以上であり、更に好ましくは6.0g/cm3以上である。なお、酸化物半導体層の密度は、後記する実施例に記載の方法によって測定したものである。
【0037】
以下、図1を参照しながら、上記TFTの製造方法の実施形態を説明する。図1および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば図1には、ボトムゲート型構造のTFTを示しているがこれに限定されず、酸化物半導体層の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型のTFTであっても良い。
【0038】
図1に示すように、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。酸化物半導体層4上にはソース・ドレイン電極5が形成され、その上に保護膜(絶縁膜)6が形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。
【0039】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極として、電気抵抗率の低いAlやCuの金属、これらの合金を好ましく用いることができる。また、ゲート絶縁膜としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが代表的に例示される。そのほか、Al2O3やY2O3などの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0040】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、上述したように、薄膜と同組成のスパッタリングターゲットを用いたDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により成膜することが好ましい。あるいは、コスパッタ法により成膜しても良い。
【0041】
酸化物半導体層4をウエットエッチングした後、パターニングする。パターニングの直後に、酸化物半導体層4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上するようになる。
【0042】
プレアニールの後、ソース・ドレイン電極5を形成する。ソース・ドレイン電極の種類は特に限定されず、汎用されているもの用いることができる。例えばゲート電極と同様AlやCuなどの金属または合金を用いても良いし、後記する実施例のように純Tiを用いても良い。
【0043】
ソース・ドレイン電極5の形成方法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、リフトオフ法によって形成することができる。あるいは、上記のようにリフトオフ法によって電極を形成するのではなく、予め所定の金属薄膜をスパッタリング法によって形成した後、パターニングによって電極を形成する方法もあるが、この方法では、電極のエッチングの際に酸化物半導体層にダメージが入るため、トランジスタ特性が低下する。そこで、このような問題を回避するために酸化物半導体層の上に予め保護膜を形成した後、電極を形成し、パターニングする方法も採用されており、後記する実施例では、この方法を採用した。
【0044】
次に、酸化物半導体層4の上に保護膜(絶縁膜)6をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。酸化物半導体膜の表面は、CVDによるプラズマダメージによって容易に導通化してしまう(おそらく酸化物半導体表面に生成される酸素欠損が電子ドナーとなるためと推察される。)ため、上記問題を回避するため、後記する実施例では、保護膜の成膜前にN2Oプラズマ照射を行った。N2Oプラズマの照射条件は、下記文献に記載の条件を採用した。
J. Parkら、Appl. Phys. Lett., 1993,053505(2008)
【0045】
次に、常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。透明導電膜およびドレイン電極の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。ドレイン電極としては、例えば前述したソース・ドレイン電極で例示したものを用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
実施例1
前述した方法に基づき、図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、TFT特性およびストレス耐性を評価した。
【0048】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてTi薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜SiO2(200nm)を順次成膜した。ゲート電極は純Tiのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタ法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrにて成膜した。また、ゲート絶縁膜はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0049】
次に、表1に記載の種々の組成の酸化物薄膜を、スパッタリングターゲット(後記する。)を用いてスパッタリング法によって成膜した。酸化物薄膜としては、IGZO中にX群元素を含むIGZO−X(本発明例)のほか、比較のため、IGZO(従来例)、およびX群元素以外の元素としてIGZO中にCu、La、またはMoを含むものも成膜した。スパッタリングに使用した装置は(株)アルバック製「CS−200」であり、スパッタリング条件は以下のとおりである。
基板温度:室温
ガス圧:5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
膜厚:50〜150nm
使用ターゲットサイズ:φ4インチ×5mm
【0050】
IGZO(従来例)の成膜に当たっては、In:Ga:Znの比(原子%比)が2:2:1であるスパッタリングターゲットを用い、RFスパッタリング法を用いて成膜した。また、IGZO中に他の元素を含む酸化物薄膜の成膜に当たっては、組成の異なる二つのスパッタリングターゲットを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。詳細にはスパッタリングターゲットとして、In:Ga:Znの比(原子%比)が2:2:1であるスパッタリングターゲットと、上記スパッタリングターゲット上にX群元素またはCu、La、Moの純金属チップを装着したターゲットの二つを用いた。
【0051】
このようにして得られた酸化物薄膜中の金属元素の各含有量は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)法によって分析した。
【0052】
上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」を使用した。本実施例では、実験を行なった酸化物薄膜について光学顕微鏡観察によりウェットエッチング性を評価した。評価結果より実験を行なった全ての組成でウエットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0053】
酸化物半導体膜をパターニングした後、膜質を向上させるためプレアニール処理を行った。プレアニールは、100%酸素雰囲気、大気圧下にて、350℃で1時間行なった。
【0054】
次に、純Tiを使用し、リフトオフ法によりソース・ドレイン電極を形成した。具体的にはフォトレジストを用いてパターニングを行った後、Ti薄膜をDCスパッタリング法により成膜(膜厚は100nm)した。ソース・ドレイン電極用Ti薄膜の成膜方法は、前述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0055】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物半導体層を保護するための保護膜を形成した。保護膜として、SiO2(膜厚200nm)とSiN(膜厚200nm)の積層膜(合計膜厚400nm)を用いた。上記SiO2およびSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行なった。本実施例では、N2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO2、およびSiN膜を順次形成した。SiO2膜の形成にはN2OおよびSiH4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0056】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。次に、DCスパッタリング法を用い、キャリアガス:アルゴンおよび酸素ガスの混合ガス、成膜パワー:200W、ガス圧:5mTorrにてITO膜(膜厚80nm)を成膜し、図1のTFTを作製した。製膜パワーを200W、ガス圧を5mTorrとし、アルゴンおよび酸素ガスを使用した。
【0057】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、ストレス印加前後における(1)トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、Id−Vg特性)、並びに(2)しきい値電圧、SS値、およびキャリア移動度の変化を調べた。
【0058】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はAgilent Technology社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30〜30V(測定間隔:1V)
【0059】
(2)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。
ゲート電圧:−20V
基板温度:60℃
光ストレス
波長:400nm
照度(TFTに照射される光の強度):0.1μW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製LED(NDフィルターによって光量を調整)
ストレス印加時間:3時間
【0060】
ここで、しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値電圧と定義し、ストレス印加前後のしきい値電圧の変化量(シフト量)を測定した。
【0061】
また、ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値をSS値とした。また、キャリア移動度(電界効果移動度)は、Id∝(Vg−Vth)(Vth=しきい値電圧)の関係が成り立つ領域(線形領域)についてId∝(Vg−Vth)の傾きから算出した。
【0062】
これらの結果を表1に示す。表1には、ストレス印加前後のしきい値電圧シフト量、並びにストレス印加前後におけるキャリア移動度およびSS値の各値を記載した。なお、表1において、例えばInGaZnO−0.1at%Si(No.5)とは、酸化物半導体を構成する全金属(In+Ga+Zn+Si)中に占めるSiの原子%が0.1原子%であることを意味する。
【0063】
また、一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図3〜12に示す。図3〜9では、ストレス印加前の結果を破線で示し、ストレス印加後の結果を実線で示している。
【0064】
【表1】
【0065】
まず、従来例のIGZOを用いた結果について考察する。
【0066】
図3に示すように、ストレス印加前(図3中、破線)では、ゲート電圧Vgが−3V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた。Vg=−30VのときのIdをオフ電流Ioff(A)、Vg=30VのときのIdをオン電流Ion(A)とすると、Ion/Ioffの比は8桁以上である。また、ストレス印加前のSS値は0.4V/decade、キャリア移動度は12.5cm2/Vsであった(表1を参照)。
【0067】
これに対し、ストレス印加後では、SS値は0.4V/decade、キャリア移動度は12.7cm2/Vsであり(表1を参照)、これらの値はストレス印加前後で殆ど変化しなかったが、図3に示すようにしきい値電圧が大きく変化しており、0時間(ストレスなし)〜3時間(ストレス印加)におけるしきい値電圧シフト量は−6.2Vであった(表1を参照)。
【0068】
本実施例では、上記No.1の結果を基準とし、各結果がNo.1と同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0069】
表1中、No.5〜7(X群元素=Si)、8〜10(X群元素=Ni)、11〜13(X群元素=Hf)、14〜16(X群元素=Sn)、17〜18(X群元素=Al)、19〜20(X群元素=Ge)、21〜22(X群元素=Ta)、23〜24(X群元素=W)は、本発明で規定するX群元素を所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり、いずれもNo.1に比べ、しきい値電圧シフト量の絶対値が低くなっており、且つ、ストレス印加前後のキャリア移動度およびSS値も同等か小さくなっていた。このうちNo.10(X群元素=Ni)、6(X群元素=Si)、12(X群元素=Hf)、17(X群元素=Al)、15(X群元素=Sn)、22(X群元素=Ta)のTFT特性の結果を、それぞれ図4〜9に示す。
【0070】
一方、表1中、No.2〜4、および図10〜12は、本発明で規定するX群元素以外の元素(Cu、La、Mo)を添加したときの結果を示している。No.12は、前述した特許文献1を模擬したものである。これらの元素を添加したときは、ストレス印加前のドレイン電流値が低くなった(図10〜12を参照)が、これは、上記元素の添加によって半導体中のキャリア密度が低下したためと考えられる。なお、ストレス印加前のTFT特性が劣化していたため、ストレス印加は行なわなかった。
【0071】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、従来のIGZOを用いたときと遜色のないTFT特性が得られることが確認された。また、ウエットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0072】
実施例2
酸化物薄膜を表2に記載の組成とした以外は、実施例1と同様にして図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製した。
【0073】
各TFTについて、以下のようにして光照射ストレス有無における(1)トランジスタ特性、(2)しきい値電圧、およびSS値を調べた。
【0074】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はAgilent Technology株式会社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30→30V→−30V(測定間隔:0.25V)
測定温度 :60℃
【0075】
(2)光照射ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+電圧変化)
本実施例では、液晶及び有機ELディスプレイ等の表示装置のパネル駆動時の環境を模擬して、ゲート電圧を変化させながら、光を照射しなかった場合(暗状態:ストレス印加なし)と光を照射した場合(明状態:ストレス印加)のTFT特性、しきい値電圧、及びSS値(V/dec)を調べた。ストレス印加条件は以下の通りである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。具体的な測定方法は、ゲート電圧を下記のように変化させて、光を照射しなかった場合(暗状態)と光を照射した場合(明状態)におけるId−Vg特性のヒステリシスの有無を調べた。
ゲート電圧:−30→30V→−30V(測定間隔:0.25V)
基板温度 :60℃
光照射ストレス
波長 :400nm
照度(TFTに照射される光の強度):6.5μW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製青色LED電球(LED電球に印加する電流を調整することで、光強度を調整)
【0076】
なお、しきい値電圧の測定、及びSS値の算出は実施例1と同様にして行った。
【0077】
これらの結果を表2に示す。表2には、Forward SweepとReverseSweepにおけるしきい値電圧シフト量(ΔVth(V))、及びForward SweepにおけるSS値(V/dec)の各値を記載した。また一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図13、及び図14に示す。図13、及び図14では、暗状態の結果を白抜き点(○)を有するラインで示し、明状態の結果を黒塗り点(●)を有するラインで示している。また図中、左側の矢印(上向き)は電圧を−30Vから30Vに上げる過程(Forward Sweep)を示しており、右側の矢印(下向き)は30Vから−30Vに下げる過程(Reverse Sweep)を示している。
【0078】
【表2】
【0079】
まず、従来例のIGZO(No.1)を用いた結果について考察する。
【0080】
図13に示すように、暗状態(図13中、白抜き○ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、しきい値電圧シフト量は1.0Vであった。一方、明状態(図13中、黒塗り●ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が大きく、Id−Vg特性の立ち上がりがゆるやかになっており、Reverse Sweepとのしきい値電圧シフト量は3.8Vであった。これはIGZOのバンドギャップに近い青色光の照射によって電子と正孔が励起され、ゲート電極に印加されたバイアスにより正孔がゲート絶縁膜と半導体層界面にトラップされたためと推測される。
【0081】
本実施例では、上記IGZO(No.1)の結果を基準とし、各結果がNo.1とほぼ同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0082】
表2中、No.2(X群元素=Si)、No.3(X群元素=Hf)、No.4(X群元素=Ni)は、本発明で規定するX群元素を所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり(IGZOはいずれもIn:Ga:Zn=2:2:1)、No.1に比べてしきい値電圧シフト量の絶対値が小さくなっており、且つSS値も小さくなっていた。このうち、No.2のTFT特性の結果を図14に示す。
【0083】
図14に示すように、暗状態(図14中、白抜き○ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、しきい値電圧シフト量は1.3Vであった。一方、明状態(図14中、黒塗り●ライン)でも、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、Id−Vg特性の立ち上が急峻になっており、Reverse Sweepとのしきい値電圧シフト量は1.3Vであった。このことからIGZOにSi(X群元素)を加えることで、光照射に対するTFT特性の変動が抑えられており、光照射に対するストレス耐性が向上することがわかる。
【0084】
またNo.2と同様にForward SweepとReverse Sweepにおけるしきい値電圧シフト量、及びSS値に殆ど変化がなかったNo.3、No.4についても、光照射に対するTFT特性の変動抑制効果を有しており、光照射ストレス耐性が向上していることがわかる。
【0085】
以上の実験結果より、InGaZnOの酸化物半導体を用いたトランジスタ基板は、酸化物半導体のバンドギャップに近い青色光の照射によって受ける影響は大きいが(No.1)、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば(No.2〜4)、光照射に対する影響を抑制することができる。
【0086】
なお、実施例2では一部元素についてのみの実験結果を示したが、本発明者らは他のX群元素についても同様にNo.1よりも優れた結果が得られることを確認している。
【0087】
実施例3
本実施例では、表1のNo.6に対応する組成の酸化物(InGaZnO−5原子%Si、In:Ga:Zn=2:2:1)を用い、スパッタリング成膜時のガス圧を1mTorrまたは5mTorrに制御して得られた酸化物膜(膜厚100nm)の密度を測定すると共に、前述した実施例1と同様にして作成したTFTについて、移動度およびストレス試験(光照射+負バイアスを印加)後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を調べた。膜密度の測定法方は以下のとおりである。
【0088】
(酸化物膜の密度の測定)
酸化物膜の密度は、XRR(X線反射率法)を用いて測定した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
【0089】
・分析装置:(株)リガク製水平型X線回折装置SmartLab
・ターゲット:Cu(線源:Kα線)
・ターゲット出力:45kV−200mA
・測定試料の作製
ガラス基板上に各組成の酸化物を下記スパッタリング条件で成膜した(膜厚100nm)後、前述した実施例1のTFT製造過程におけるプレアニール処理を模擬して、当該プレアニール処理と同じ熱処理を施したしたものを使用
スパッタガス圧:1mTorrまたは5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
成膜パワー密度:DC2.55W/cm2
熱処理:大気雰囲気にて350℃で1時間
【0090】
これらの結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3より、本発明で規定するX群元素のSiを含む酸化物は、いずれも5.8g/cm3以上の高い密度が得られた。詳細には、ガス圧=5mTorrのとき(No.2)の膜密度は5.92g/cm3であったのに対し、ガス圧=1mTorrのとき(No.1)の膜密度は6.11g/cm3であり、より高い密度が得られた。また、膜密度の上昇に伴い、電界効果移動度が向上し、さらにストレス試験によるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少した。
【0093】
以上の実験結果より、酸化物膜の密度はスパッタリング成膜時のガス圧によって変化し、当該ガス圧を下げると膜密度が上昇し、これに伴って電界効果移動度も大きく増加し、ストレス試験(光照射+負バイアスストレス)におけるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少することが分かった。これは、スパッタリング成膜時のガス圧を低下させることにより、スパッタリングされた原子(分子)の動乱が抑えられ、膜中の欠陥が少なくなって移動度や電気伝導性が向上し、TFTの安定性が向上したためと推察される。
【0094】
なお、表3には、X群元素としてSiの結果を示しているが、上述した酸化物膜の密度と、TFT特性における移動度やストレス試験後のしきい値電圧変化量の関係は、他のX群元素を用いたときも同様に見られた。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 酸化物半導体層
5 ソース・ドレイン電極
6 保護膜(絶縁膜)
7 コンタクトホール
8 透明導電膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタの半導体層用酸化物および上記酸化物を成膜するためのスパッタリングターゲット、並びに薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。
【0003】
酸化物半導体のなかでも特に、インジウム、ガリウム、亜鉛、および酸素からなるアモルファス酸化物半導体(In−Ga−Zn−O、以下「IGZO」と呼ぶ場合がある。)は、非常に高いキャリア移動度を有するため、好ましく用いられている。例えば非特許文献1および2には、In:Ga:Zn=1.1:1.1:0.9(原子%比)の酸化物半導体薄膜を薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層(活性層)に用いたものが開示されている。また、特許文献1には、In、Zn、Sn、Gaなどの元素と、Moと、を含み、アモルファス酸化物中の全金属原子数に対するMoの原子組成比率が0.1〜5原子%のアモルファス酸化物が開示されており、実施例には、IGZOにMoを添加した活性層を用いたTFTが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−164393号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】固体物理、VOL44、P621(2009)
【非特許文献2】Nature、VOL432、P488(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層として用いる場合、キャリア濃度が高いだけでなく、TFTのスイッチング特性(トランジスタ特性)に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流(ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流)が高く、(2)オフ電流(ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流)が低く、(3)SS(Subthreshold Swing、サブスレッショルド スィング、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧)値が低く、(4)しきい値(ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧であり、しきい値電圧とも呼ばれる)が時間的に変化せず安定である(基板面内で均一であることを意味する)、などが要求される。前述した特許文献1に記載のMoを含むIGZO半導体について、本発明者らが上記特性を調べたところ、IGZOに比べてオン電流の低下やSS値の上昇が見られることが分った。
【0007】
更に、IGZOなどの酸化物半導体層を用いたTFTは、電圧印加や光照射などのストレスに対する耐性(ストレス耐性)に優れていることが要求される。例えば、ゲート電圧に正電圧または負電圧を印加し続けたときや、光吸収が始まる青色帯を照射し続けたときに、しきい値電圧が大幅に変化(シフト)するが、これにより、TFTのスイッチング特性が変化することが指摘されている。また、液晶パネル駆動の際や、ゲート電極に負バイアスをかけて画素を点灯させる際などに液晶セルから漏れた光がTFTに照射されるが、この光がTFTにストレスを与えて特性劣化の原因となる。特にしきい値電圧のシフトは、TFTを備えた液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置自体の信頼性低下を招くため、ストレス耐性の向上(ストレス印加前後の変化量が少ないこと)が切望されている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性が良好であり、特にストレス印加前後のしきい値電圧変化量が小さく安定性に優れた薄膜トランジスタ半導体層用酸化物、および上記酸化物の成膜に用いられるスパッタリングターゲット、並びに上記酸化物を用いた薄膜トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る薄膜トランジスタの半導体層用酸化物は、薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むところに要旨を有するものである。
【0010】
好ましい実施形態において、
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり;
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり;
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり;
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり;
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である。
【0011】
本発明には、上記酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタも包含される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、上記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である。
【0013】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、上記のいずれかに記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むところに要旨を有するものである。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物は、薄膜トランジスタのスイッチング特性およびストレス耐性に優れ、特にストレス印加後のしきい値電圧変化が小さいため、TFT特性およびストレス耐性に優れた薄膜トランジスタを提供することができた。その結果、上記薄膜トランジスタを用いれば、信頼性の高い表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1において酸化物半導体を備えた薄膜トランジスタを説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、実施例1においてアモルファス相を示すIGZOの構成を示す図である。
【図3】図3は、実施例1においてIGZOを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図4】図4は、実施例1においてIGZO−Niを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図5】図5は、実施例1においてIGZO−Siを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図6】図6は、実施例1においてIGZO−Hfを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図7】図7は、実施例1においてIGZO−Alを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図8】図8は、実施例1においてIGZO−Snを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図9】図9は、実施例1においてIGZO−Taを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図10】図10は、実施例1においてIGZO−Cuを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図11】図11は、実施例1においてIGZO−Laを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図12】図12は、実施例1においてIGZO−Moを用いたときのストレス印加前のTFT特性を示す図である。
【図13】図13は、実施例2においてIGZOを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【図14】図14は、実施例2においてIGZO−Siを用いたときのストレス印加前後のTFT特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物(IGZO)をTFTの活性層(半導体層)に用いたときのTFT特性およびストレス耐性を向上させるため、種々検討を重ねてきた。その結果、IGZO中に、Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を含むIGZO−XをTFTの半導体層に用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。後記する実施例に示すように、上記X群に属する元素(X群元素)を含む酸化物半導体を備えたTFTは、特許文献1に記載のMoや、X群元素以外の元素を用いた場合に比べ、TFT特性およびストレス耐性に優れていることが分った。
【0018】
すなわち、本発明に係る薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層用酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素(X群元素で代表させる場合がある。)と、を含むところに特徴がある。本明細書では、本発明の酸化物をIGZO−Xで表わす場合がある。
【0019】
まず、本発明の酸化物を構成する母材成分である金属(In、Ga、Zn)について説明する。
【0020】
上記金属(In、Ga、Zn)について、各金属間の比率は、これら金属を含む酸化物(IGZO)がアモルファス相を有し、且つ、半導体特性を示す範囲であれば特に限定されない。IGZO自体は公知であり、アモルファス相を形成し得る各金属の比率(詳細には、InO、GaO、ZnOの各モル比)は、例えば前述した非特許文献1に記載されている。本明細書では、この図を図2として示している。図2に記載のアモルファス相の範囲を大幅に外れ、ZnOやIn2O3の比率が極端に高くなって結晶相が形成されると、ウエットエッチングによる加工が困難になったり、トランジスタ特性を示さなくなるなどの問題が生じる。
【0021】
代表的な組成として、In:Ga:Znの比(原子%比)が例えば2:2:1、1:1:1のものが挙げられる。
【0022】
また、上記金属(In、Ga、Zn)について、本発明の酸化物(IGZO−X)を構成する金属(In+Ga+Zn)に占める各金属の比率は、所望のTFT特性などが得られるように適切に制御することが好ましい。具体的にはZnについて、上記金属に占めるZnの比率は70原子%以下であることが好ましい。Znの比率が70原子%を超えると酸化物半導体膜が結晶化し、粒界捕獲順位が発生するためキャリア移動度が低下し、SS値が大きくなるなどトランジスタ特性が低下する。Znのより好ましい比率は40原子%以下であり、更に好ましくは30原子%以下である。また、Znの下限は、アモルファス構造にすることなどを考慮すると、上記金属に占めるZnの比率を10原子%以上とすることが好ましい。Znのより好ましい比率は15原子%以上であり、更に好ましくは20原子%以上である。
【0023】
Zn以外の上記金属(In、Ga)は、Znが上記範囲内に制御され、且つ、各金属の比率が前述した範囲を満足するように適宜制御すれば良い。具体的には、上記金属(In+Ga+Zn)に占めるInの好ましい比率は、おおむね10原子%以上70原子%以下であり、更に好ましくは25原子%以上である。また、上記金属(In+Ga+Zn)に占めるGaの好ましい比率は、おおむね25原子%以上70原子%以下である。
【0024】
本発明の酸化物は、IGZO中にX群元素を含んでいる。Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなる群(X群)から選択される少なくとも一種のX群元素をIGZO中に添加することにより、電圧や光などに対するストレス耐性が向上する。また、X群元素の添加によるドレイン電流値の大きな低下はみられず、キャリア密度に対する悪影響も見られなかった(後記する実施例を参照)。また、X群元素の添加によるウエットエッチング時のエッチング不良などの問題も見られないことを実験により確認している。これらは単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましいX群元素の種類はSi、Ni、Hf、Geであり、より好ましくはSi、Niである。
【0025】
上記X群元素の添加による特性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、X群元素は、酸化物半導体中で余剰電子の原因となる酸素欠損の発生抑制効果があると推察される。X群元素の添加により、酸素欠損が低減され、酸化物が安定な構造を有することにより電圧や光などのストレスに対するストレス耐性などが向上するものと考えられる。
【0026】
本発明の酸化物(IGZO−X)を構成する全金属(In、Ga、Zn、X群元素)に含まれるX群元素の好ましい比率[X/(In+Ga+Zn+X)]は、キャリア密度や半導体の安定性などを考慮して決定され、X群元素の種類によっても若干相違する。X群元素として、Al、Ge、Hf、Ta、Wの各元素を用いたときの好ましい比率(百分率)は0.1〜10原子%であり、より好ましくは2.0〜6.0原子%である。また、X群元素として、Si、Snの各元素を用いたときの好ましい比率は0.1原子%以上、より好ましくは1原子%以上、更に好ましくは2.0原子%以上、より更に好ましくは4.0原子%以上であって、好ましくは15原子%以下、より好ましくは8.0原子%以下である。また、X群元素としてNiを用いたときの好ましい比率は0.1〜5原子%であり、より好ましくは0.1〜1.5原子%である。X群元素の添加比率が少なすぎると、酸素欠損の発生抑制効果が十分に得られない。一方、X群元素の添加比率が多すぎると半導体中のキャリア密度が低下するため、オン電流が減少してしまう。
【0027】
以上、本発明の酸化物について説明した。
【0028】
上記酸化物は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある。)を用いて成膜することが好ましい。塗布法などの化学的成膜法によって酸化物を形成することもできるが、スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0029】
スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、所望の酸化物と同一組成のスパッタリングターゲットを用いることが好ましく、これにより、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成の薄膜を形成することができる。具体的にはターゲットとして、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物ターゲットを用いることができる。また、好ましい態様として、上記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であることが好ましく;上記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%であることが好ましい。
【0030】
あるいは、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコスパッタ法(Co−Sputter法)を用いて成膜しても良く、これにより、同一基板面内にX元素の含有量が異なる酸化物半導体膜を成膜することができる。例えば後記する実施例に示すように、In:Ga:Znが所定原子比(例えば原子%で、2:2:1)のターゲットと、上記組成のターゲット上にX群元素の純金属チップを装着したターゲットの二つを用意し、コスパッタ法によってIGZO−Xの酸化物を成膜することができる。
【0031】
上記ターゲットは、例えば粉末焼結法方法によって製造することができる。
【0032】
上記ターゲットを用いてスパッタリングするに当たっては、基板温度を室温とし、酸素添加量を適切に制御して行なうことが好ましい。酸素添加量は、スパッタリング装置の構成やターゲット組成などに応じて適切に制御すれば良いが、おおむね、酸化物半導体のキャリア濃度が1015〜1016cm-3となるように酸素量を添加することが好ましい。本実施例における酸素添加量は添加流量比でO2/(Ar+O2)=2%とした。
【0033】
また、上記酸化物をTFTの半導体層としたときの、酸化物半導体層の好ましい密度は5.8g/cm3以上である(後述する。)が、このような酸化物を成膜するためには、スパッタリング成膜時のガス圧、スパッタリングターゲットへの投入パワー、基板温度などを適切に制御することが好ましい。例えば成膜時のガス圧を低くするとスパッタ原子同士の散乱がなくなって緻密(高密度)な膜を成膜できると考えられるため、成膜時の全ガス圧は、スパッタの放電が安定する程度で低い程良く、おおむね0.5〜5mTorrの範囲内に制御することが好ましく、1〜3mTorrの範囲内であることがより好ましい。また、投入パワーは高い程良く、おおむねDCまたはRFにて2.0W/cm2以上に設定することが推奨される。成膜時の基板温度も高い程良く、おおむね室温〜200℃の範囲内に制御することが推奨される。
【0034】
上記のようにして成膜される酸化物の好ましい膜厚は30nm以上200nm以下であり、より好ましくは30nm以上80nm以下である。
【0035】
本発明には、上記酸化物をTFTの半導体層として備えたTFTも包含される。TFTは、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、上記酸化物の半導体層、ソース電極、ドレイン電極を少なくとも有していれば良く、その構成は通常用いられるものであれば特に限定されない。
【0036】
ここで、上記酸化物半導体層の密度は5.8g/cm3以上であることが好ましい。酸化物半導体層の密度が高くなると膜中の欠陥が減少して膜質が向上し、また原子間距離が小さくなるため、TFT素子の電界効果移動度が大きく増加し、電気伝導性も高くなり、光照射に対するストレスへの安定性が向上する。上記酸化物半導体層の密度は高い程良く、より好ましくは5.9g/cm3以上であり、更に好ましくは6.0g/cm3以上である。なお、酸化物半導体層の密度は、後記する実施例に記載の方法によって測定したものである。
【0037】
以下、図1を参照しながら、上記TFTの製造方法の実施形態を説明する。図1および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば図1には、ボトムゲート型構造のTFTを示しているがこれに限定されず、酸化物半導体層の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型のTFTであっても良い。
【0038】
図1に示すように、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。酸化物半導体層4上にはソース・ドレイン電極5が形成され、その上に保護膜(絶縁膜)6が形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。
【0039】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極として、電気抵抗率の低いAlやCuの金属、これらの合金を好ましく用いることができる。また、ゲート絶縁膜としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが代表的に例示される。そのほか、Al2O3やY2O3などの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。
【0040】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、上述したように、薄膜と同組成のスパッタリングターゲットを用いたDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により成膜することが好ましい。あるいは、コスパッタ法により成膜しても良い。
【0041】
酸化物半導体層4をウエットエッチングした後、パターニングする。パターニングの直後に、酸化物半導体層4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上するようになる。
【0042】
プレアニールの後、ソース・ドレイン電極5を形成する。ソース・ドレイン電極の種類は特に限定されず、汎用されているもの用いることができる。例えばゲート電極と同様AlやCuなどの金属または合金を用いても良いし、後記する実施例のように純Tiを用いても良い。
【0043】
ソース・ドレイン電極5の形成方法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、リフトオフ法によって形成することができる。あるいは、上記のようにリフトオフ法によって電極を形成するのではなく、予め所定の金属薄膜をスパッタリング法によって形成した後、パターニングによって電極を形成する方法もあるが、この方法では、電極のエッチングの際に酸化物半導体層にダメージが入るため、トランジスタ特性が低下する。そこで、このような問題を回避するために酸化物半導体層の上に予め保護膜を形成した後、電極を形成し、パターニングする方法も採用されており、後記する実施例では、この方法を採用した。
【0044】
次に、酸化物半導体層4の上に保護膜(絶縁膜)6をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。酸化物半導体膜の表面は、CVDによるプラズマダメージによって容易に導通化してしまう(おそらく酸化物半導体表面に生成される酸素欠損が電子ドナーとなるためと推察される。)ため、上記問題を回避するため、後記する実施例では、保護膜の成膜前にN2Oプラズマ照射を行った。N2Oプラズマの照射条件は、下記文献に記載の条件を採用した。
J. Parkら、Appl. Phys. Lett., 1993,053505(2008)
【0045】
次に、常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。透明導電膜およびドレイン電極の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。ドレイン電極としては、例えば前述したソース・ドレイン電極で例示したものを用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
実施例1
前述した方法に基づき、図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、TFT特性およびストレス耐性を評価した。
【0048】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてTi薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜SiO2(200nm)を順次成膜した。ゲート電極は純Tiのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタ法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrにて成膜した。また、ゲート絶縁膜はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0049】
次に、表1に記載の種々の組成の酸化物薄膜を、スパッタリングターゲット(後記する。)を用いてスパッタリング法によって成膜した。酸化物薄膜としては、IGZO中にX群元素を含むIGZO−X(本発明例)のほか、比較のため、IGZO(従来例)、およびX群元素以外の元素としてIGZO中にCu、La、またはMoを含むものも成膜した。スパッタリングに使用した装置は(株)アルバック製「CS−200」であり、スパッタリング条件は以下のとおりである。
基板温度:室温
ガス圧:5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
膜厚:50〜150nm
使用ターゲットサイズ:φ4インチ×5mm
【0050】
IGZO(従来例)の成膜に当たっては、In:Ga:Znの比(原子%比)が2:2:1であるスパッタリングターゲットを用い、RFスパッタリング法を用いて成膜した。また、IGZO中に他の元素を含む酸化物薄膜の成膜に当たっては、組成の異なる二つのスパッタリングターゲットを同時放電するCo−Sputter法を用いて成膜した。詳細にはスパッタリングターゲットとして、In:Ga:Znの比(原子%比)が2:2:1であるスパッタリングターゲットと、上記スパッタリングターゲット上にX群元素またはCu、La、Moの純金属チップを装着したターゲットの二つを用いた。
【0051】
このようにして得られた酸化物薄膜中の金属元素の各含有量は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)法によって分析した。
【0052】
上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」を使用した。本実施例では、実験を行なった酸化物薄膜について光学顕微鏡観察によりウェットエッチング性を評価した。評価結果より実験を行なった全ての組成でウエットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。
【0053】
酸化物半導体膜をパターニングした後、膜質を向上させるためプレアニール処理を行った。プレアニールは、100%酸素雰囲気、大気圧下にて、350℃で1時間行なった。
【0054】
次に、純Tiを使用し、リフトオフ法によりソース・ドレイン電極を形成した。具体的にはフォトレジストを用いてパターニングを行った後、Ti薄膜をDCスパッタリング法により成膜(膜厚は100nm)した。ソース・ドレイン電極用Ti薄膜の成膜方法は、前述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0055】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物半導体層を保護するための保護膜を形成した。保護膜として、SiO2(膜厚200nm)とSiN(膜厚200nm)の積層膜(合計膜厚400nm)を用いた。上記SiO2およびSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行なった。本実施例では、N2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO2、およびSiN膜を順次形成した。SiO2膜の形成にはN2OおよびSiH4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0056】
次にフォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。次に、DCスパッタリング法を用い、キャリアガス:アルゴンおよび酸素ガスの混合ガス、成膜パワー:200W、ガス圧:5mTorrにてITO膜(膜厚80nm)を成膜し、図1のTFTを作製した。製膜パワーを200W、ガス圧を5mTorrとし、アルゴンおよび酸素ガスを使用した。
【0057】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、ストレス印加前後における(1)トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、Id−Vg特性)、並びに(2)しきい値電圧、SS値、およびキャリア移動度の変化を調べた。
【0058】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はAgilent Technology社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30〜30V(測定間隔:1V)
【0059】
(2)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスをかけながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。
ゲート電圧:−20V
基板温度:60℃
光ストレス
波長:400nm
照度(TFTに照射される光の強度):0.1μW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製LED(NDフィルターによって光量を調整)
ストレス印加時間:3時間
【0060】
ここで、しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値電圧と定義し、ストレス印加前後のしきい値電圧の変化量(シフト量)を測定した。
【0061】
また、ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値をSS値とした。また、キャリア移動度(電界効果移動度)は、Id∝(Vg−Vth)(Vth=しきい値電圧)の関係が成り立つ領域(線形領域)についてId∝(Vg−Vth)の傾きから算出した。
【0062】
これらの結果を表1に示す。表1には、ストレス印加前後のしきい値電圧シフト量、並びにストレス印加前後におけるキャリア移動度およびSS値の各値を記載した。なお、表1において、例えばInGaZnO−0.1at%Si(No.5)とは、酸化物半導体を構成する全金属(In+Ga+Zn+Si)中に占めるSiの原子%が0.1原子%であることを意味する。
【0063】
また、一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図3〜12に示す。図3〜9では、ストレス印加前の結果を破線で示し、ストレス印加後の結果を実線で示している。
【0064】
【表1】
【0065】
まず、従来例のIGZOを用いた結果について考察する。
【0066】
図3に示すように、ストレス印加前(図3中、破線)では、ゲート電圧Vgが−3V付近からドレイン電流Idが増加し始めており、スイッチング動作が見られた。Vg=−30VのときのIdをオフ電流Ioff(A)、Vg=30VのときのIdをオン電流Ion(A)とすると、Ion/Ioffの比は8桁以上である。また、ストレス印加前のSS値は0.4V/decade、キャリア移動度は12.5cm2/Vsであった(表1を参照)。
【0067】
これに対し、ストレス印加後では、SS値は0.4V/decade、キャリア移動度は12.7cm2/Vsであり(表1を参照)、これらの値はストレス印加前後で殆ど変化しなかったが、図3に示すようにしきい値電圧が大きく変化しており、0時間(ストレスなし)〜3時間(ストレス印加)におけるしきい値電圧シフト量は−6.2Vであった(表1を参照)。
【0068】
本実施例では、上記No.1の結果を基準とし、各結果がNo.1と同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0069】
表1中、No.5〜7(X群元素=Si)、8〜10(X群元素=Ni)、11〜13(X群元素=Hf)、14〜16(X群元素=Sn)、17〜18(X群元素=Al)、19〜20(X群元素=Ge)、21〜22(X群元素=Ta)、23〜24(X群元素=W)は、本発明で規定するX群元素を所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり、いずれもNo.1に比べ、しきい値電圧シフト量の絶対値が低くなっており、且つ、ストレス印加前後のキャリア移動度およびSS値も同等か小さくなっていた。このうちNo.10(X群元素=Ni)、6(X群元素=Si)、12(X群元素=Hf)、17(X群元素=Al)、15(X群元素=Sn)、22(X群元素=Ta)のTFT特性の結果を、それぞれ図4〜9に示す。
【0070】
一方、表1中、No.2〜4、および図10〜12は、本発明で規定するX群元素以外の元素(Cu、La、Mo)を添加したときの結果を示している。No.12は、前述した特許文献1を模擬したものである。これらの元素を添加したときは、ストレス印加前のドレイン電流値が低くなった(図10〜12を参照)が、これは、上記元素の添加によって半導体中のキャリア密度が低下したためと考えられる。なお、ストレス印加前のTFT特性が劣化していたため、ストレス印加は行なわなかった。
【0071】
以上の実験結果より、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば、従来のIGZOを用いたときと遜色のないTFT特性が得られることが確認された。また、ウエットエッチング加工も良好に行なわれたことから、X群元素を添加した酸化物は、アモルファス構造であると推察される。
【0072】
実施例2
酸化物薄膜を表2に記載の組成とした以外は、実施例1と同様にして図1に示す薄膜トランジスタ(TFT)を作製した。
【0073】
各TFTについて、以下のようにして光照射ストレス有無における(1)トランジスタ特性、(2)しきい値電圧、およびSS値を調べた。
【0074】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性の測定はAgilent Technology株式会社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧 :0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧 :−30→30V→−30V(測定間隔:0.25V)
測定温度 :60℃
【0075】
(2)光照射ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+電圧変化)
本実施例では、液晶及び有機ELディスプレイ等の表示装置のパネル駆動時の環境を模擬して、ゲート電圧を変化させながら、光を照射しなかった場合(暗状態:ストレス印加なし)と光を照射した場合(明状態:ストレス印加)のTFT特性、しきい値電圧、及びSS値(V/dec)を調べた。ストレス印加条件は以下の通りである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。具体的な測定方法は、ゲート電圧を下記のように変化させて、光を照射しなかった場合(暗状態)と光を照射した場合(明状態)におけるId−Vg特性のヒステリシスの有無を調べた。
ゲート電圧:−30→30V→−30V(測定間隔:0.25V)
基板温度 :60℃
光照射ストレス
波長 :400nm
照度(TFTに照射される光の強度):6.5μW/cm2
光源:OPTOSUPPLY社製青色LED電球(LED電球に印加する電流を調整することで、光強度を調整)
【0076】
なお、しきい値電圧の測定、及びSS値の算出は実施例1と同様にして行った。
【0077】
これらの結果を表2に示す。表2には、Forward SweepとReverseSweepにおけるしきい値電圧シフト量(ΔVth(V))、及びForward SweepにおけるSS値(V/dec)の各値を記載した。また一部の例について、ストレス印加前後のドレイン電流−ゲート電圧特性(Id−Vg特性)の結果を図13、及び図14に示す。図13、及び図14では、暗状態の結果を白抜き点(○)を有するラインで示し、明状態の結果を黒塗り点(●)を有するラインで示している。また図中、左側の矢印(上向き)は電圧を−30Vから30Vに上げる過程(Forward Sweep)を示しており、右側の矢印(下向き)は30Vから−30Vに下げる過程(Reverse Sweep)を示している。
【0078】
【表2】
【0079】
まず、従来例のIGZO(No.1)を用いた結果について考察する。
【0080】
図13に示すように、暗状態(図13中、白抜き○ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、しきい値電圧シフト量は1.0Vであった。一方、明状態(図13中、黒塗り●ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が大きく、Id−Vg特性の立ち上がりがゆるやかになっており、Reverse Sweepとのしきい値電圧シフト量は3.8Vであった。これはIGZOのバンドギャップに近い青色光の照射によって電子と正孔が励起され、ゲート電極に印加されたバイアスにより正孔がゲート絶縁膜と半導体層界面にトラップされたためと推測される。
【0081】
本実施例では、上記IGZO(No.1)の結果を基準とし、各結果がNo.1とほぼ同等かそれよりも小さいときを合格とした。
【0082】
表2中、No.2(X群元素=Si)、No.3(X群元素=Hf)、No.4(X群元素=Ni)は、本発明で規定するX群元素を所定範囲で含む酸化物半導体を用いた例であり(IGZOはいずれもIn:Ga:Zn=2:2:1)、No.1に比べてしきい値電圧シフト量の絶対値が小さくなっており、且つSS値も小さくなっていた。このうち、No.2のTFT特性の結果を図14に示す。
【0083】
図14に示すように、暗状態(図14中、白抜き○ライン)では、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、しきい値電圧シフト量は1.3Vであった。一方、明状態(図14中、黒塗り●ライン)でも、Forward SweepとReverse Sweepの特性差が小さく、Id−Vg特性の立ち上が急峻になっており、Reverse Sweepとのしきい値電圧シフト量は1.3Vであった。このことからIGZOにSi(X群元素)を加えることで、光照射に対するTFT特性の変動が抑えられており、光照射に対するストレス耐性が向上することがわかる。
【0084】
またNo.2と同様にForward SweepとReverse Sweepにおけるしきい値電圧シフト量、及びSS値に殆ど変化がなかったNo.3、No.4についても、光照射に対するTFT特性の変動抑制効果を有しており、光照射ストレス耐性が向上していることがわかる。
【0085】
以上の実験結果より、InGaZnOの酸化物半導体を用いたトランジスタ基板は、酸化物半導体のバンドギャップに近い青色光の照射によって受ける影響は大きいが(No.1)、本発明で規定するX群元素を所定量含む酸化物半導体を用いれば(No.2〜4)、光照射に対する影響を抑制することができる。
【0086】
なお、実施例2では一部元素についてのみの実験結果を示したが、本発明者らは他のX群元素についても同様にNo.1よりも優れた結果が得られることを確認している。
【0087】
実施例3
本実施例では、表1のNo.6に対応する組成の酸化物(InGaZnO−5原子%Si、In:Ga:Zn=2:2:1)を用い、スパッタリング成膜時のガス圧を1mTorrまたは5mTorrに制御して得られた酸化物膜(膜厚100nm)の密度を測定すると共に、前述した実施例1と同様にして作成したTFTについて、移動度およびストレス試験(光照射+負バイアスを印加)後のしきい値電圧の変化量(ΔVth)を調べた。膜密度の測定法方は以下のとおりである。
【0088】
(酸化物膜の密度の測定)
酸化物膜の密度は、XRR(X線反射率法)を用いて測定した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
【0089】
・分析装置:(株)リガク製水平型X線回折装置SmartLab
・ターゲット:Cu(線源:Kα線)
・ターゲット出力:45kV−200mA
・測定試料の作製
ガラス基板上に各組成の酸化物を下記スパッタリング条件で成膜した(膜厚100nm)後、前述した実施例1のTFT製造過程におけるプレアニール処理を模擬して、当該プレアニール処理と同じ熱処理を施したしたものを使用
スパッタガス圧:1mTorrまたは5mTorr
酸素分圧:O2/(Ar+O2)=2%
成膜パワー密度:DC2.55W/cm2
熱処理:大気雰囲気にて350℃で1時間
【0090】
これらの結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3より、本発明で規定するX群元素のSiを含む酸化物は、いずれも5.8g/cm3以上の高い密度が得られた。詳細には、ガス圧=5mTorrのとき(No.2)の膜密度は5.92g/cm3であったのに対し、ガス圧=1mTorrのとき(No.1)の膜密度は6.11g/cm3であり、より高い密度が得られた。また、膜密度の上昇に伴い、電界効果移動度が向上し、さらにストレス試験によるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少した。
【0093】
以上の実験結果より、酸化物膜の密度はスパッタリング成膜時のガス圧によって変化し、当該ガス圧を下げると膜密度が上昇し、これに伴って電界効果移動度も大きく増加し、ストレス試験(光照射+負バイアスストレス)におけるしきい値電圧シフト量ΔVthの絶対値も減少することが分かった。これは、スパッタリング成膜時のガス圧を低下させることにより、スパッタリングされた原子(分子)の動乱が抑えられ、膜中の欠陥が少なくなって移動度や電気伝導性が向上し、TFTの安定性が向上したためと推察される。
【0094】
なお、表3には、X群元素としてSiの結果を示しているが、上述した酸化物膜の密度と、TFT特性における移動度やストレス試験後のしきい値電圧変化量の関係は、他のX群元素を用いたときも同様に見られた。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 酸化物半導体層
5 ソース・ドレイン電極
6 保護膜(絶縁膜)
7 コンタクトホール
8 透明導電膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、
前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層用酸化物。
【請求項2】
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である請求項3に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である請求項5に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項1】
薄膜トランジスタの半導体層に用いられる酸化物であって、
前記酸化物は、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層用酸化物。
【請求項2】
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化物を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記半導体層の密度は5.8g/cm3以上である請求項3に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の酸化物を形成するためのスパッタリングターゲットであって、In、Ga、およびZnよりなる群から選択される少なくとも一種の元素と;Al、Si、Ni、Ge、Sn、Hf、Ta、およびWよりなるX群から選択される少なくとも一種の元素と、を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記X群の元素としてAlを含むとき、Al/(In+Ga+Zn+Al)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSiを含むとき、Si/(In+Ga+Zn+Si)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてNiを含むとき、Ni/(In+Ga+Zn+Ni)×100=0.1〜5原子%であり、
前記X群の元素としてGeを含むとき、Ge/(In+Ga+Zn+Ge)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてSnを含むとき、Sn/(In+Ga+Zn+Sn)×100=0.1〜15原子%であり、
前記X群の元素としてHfを含むとき、Hf/(In+Ga+Zn+Hf)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてTaを含むとき、Ta/(In+Ga+Zn+Ta)×100=0.1〜10原子%であり、
前記X群の元素としてWを含むとき、W/(In+Ga+Zn+W)×100=0.1〜10原子%である請求項5に記載のスパッタリングターゲット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−124446(P2012−124446A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8322(P2011−8322)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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