説明

走行制御装置

【課題】定速走行制御と追従走行制御とを切り替える時に各制御による制御値を滑らかに推移させながらも制御性能を悪化させない走行制御装置を提供すること。
【解決手段】積分制御を含むフィードバック制御により車速Vを目標車速V*に制御する定速走行制御、及び、積分制御を含むフィードバック制御により車間距離Xを目標車間距離X*に制御する追従走行制御を有する走行制御装置100は、追従走行制御に関する制御値Vx及び定速走行制御に関する制御値V*の二つの対応する制御値を切り替えて何れか一方の制御値を出力させる制御切り替え手段SW1と、制御切り替え手段SW1が出力する制御値Vtに基づいて車輌における制駆動力を制御する制駆動力制御手段14と、制御切り替え手段SW1による切り替え時に二つの対応する制御値を等しくして走行制御を継続させる走行制御手段1と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速を目標車速に制御する定速走行制御、及び、車間距離を目標車間距離に制御する追従走行制御を切り替えながら実行する走行制御装置に関し、特に、目標車速に関する制御値と目標車間距離に関する制御値とを切り替える時に各制御による制御値を滑らかに推移させる走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の目標車速で定速走行するよう車速を制御する車速制御部と、自車輌と先行車輌との車間距離が所定の目標車間距離となるよう制御する車間距離制御部とを備え、車間距離制御部による制御と車速制御部による制御との切り替えを、最終的に出力する制御量に段差を生じさせないよう、滑らかに実行させる走行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この走行制御装置は、車間距離制御部による制御量及び車速制御部による制御量のそれぞれに個々の制御比率を積算した上で足し合わせて要求制御量とし、状況に応じて個々の制御比率を変更しながら、その要求制御量に基づいて走行制御用アクチュエータを制御する。
【0004】
この走行制御装置は、車間距離が大きい程、車速制御部による制御量の制御比率を相対的に高くなるように設定し、自車輌と先行車輌との相対速度が接近方向に大きい程、車間距離制御部による制御量の制御比率を相対的に高くなるように設定する。
【0005】
また、車速制御部による設定車速と車間距離制御部による設定車速とのうちの小さい方を目標車速とし、現在の車速を目標車速に移行させる際に加速度を所定値以下に制限することで、車間距離制御部による制御と車速制御部による制御との切り替えを滑らかに実行させる車速制御装置も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
このようにして、上述の走行制御装置又は車速制御装置は、制御切り替え時の車輌に対するショックを防止する。
【特許文献1】特開平7−17294号公報
【特許文献2】特開平11−227494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の走行制御装置は、他車輌が車線変更により自車輌の前方に割り込んだ場合等、車速制御部から車間距離制御部への切り替えが急激に行われる場合であってもショック低減を優先させ過渡的な車間距離制御性能を悪化させてしまう。
【0008】
また、特許文献2に記載の車速制御装置は、緩慢な車速変化のみを許容するので、車速を迅速に変化させる必要がある場合に対応できず、制御性能を悪化させてしまう。
【0009】
上述の点に鑑み、本発明は、定速走行制御と追従走行制御とを切り替える時に各制御による制御値を滑らかに推移させながらも制御性能を悪化させない走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、第一の発明に係る走行制御装置は、積分制御を含むフィードバック制御により車速を目標車速に制御する定速走行制御、及び、積分制御を含むフィードバック制御により車間距離を目標車間距離に制御する追従走行制御を有する走行制御装置であって、前記追従走行制御に関する制御値及び前記定速走行制御に関する制御値の二つの対応する制御値を切り替えて何れか一方の制御値を出力させる制御切り替え手段と、前記制御切り替え手段が出力する制御値に基づいて車輌における制駆動力を制御する制駆動力制御手段と、前記制御切り替え手段による切り替え時に前記二つの対応する制御値を等しくして走行制御を継続させる走行制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第二の発明は、第一の発明に係る走行制御装置であって、前記走行制御手段は、前記制御切り替え手段による切り替え時に前記定速走行制御又は前記追従走行制御の積分制御初期値を算出し該積分制御初期値を用いて走行制御を継続させる、ことを特徴とする。
【0012】
また、第三の発明は、第一又は第二の発明に係る走行制御装置であって、前記制御切り替え手段は、前記追従走行制御に関する制御値として目標車間距離を達成するための車速の値を第一の入力として取得し、かつ、前記定速走行制御に関する制御値として予め登録された目標車速の値を第二の入力として取得する、ことを特徴とする。
【0013】
また、第四の発明は、第一又は第二の発明に係る走行制御装置であって、前記制御切り替え手段は、前記追従走行制御に関する制御値として目標車間距離を達成するためのエンジン制駆動力制御値を第一の入力として取得し、かつ、前記定速走行制御に関する制御値として目標車速を達成するためのエンジン制駆動力制御値を第二の入力として取得する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述の手段により、本発明は、定速走行制御と追従走行制御とを切り替える時に各制御による制御値を滑らかに推移させながらも制御性能を悪化させない走行制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【実施例1】
【0016】
(1)実施例の概要
本発明に係る走行制御装置は、定速走行制御及び追従走行制御を切り替えながら自車輌の走行を制御するACC(Auto Cruise Control)に利用される。
【0017】
「定速走行制御」とは、自車輌の走行速度が予め設定された目標車速になるようアクセル開度、ブレーキ量、シフト位置等を自動的に制御する走行制御内容のことをいい、「追従走行制御」とは、自車輌と先行車輌との間の車間距離が予め設定された目標車間距離になるようアクセル開度、ブレーキ量、シフト位置等を自動的に制御する走行制御内容のことをいう。
【0018】
また、走行制御装置は、定速走行制御を実行している際に先行車輌を検出した場合、走行制御内容を定速走行制御から追従走行制御に切り替えて走行制御を継続させ、一方で、追従走行制御を実行している際に先行車輌が存在しなくなった場合、走行制御内容を追従走行制御から定速走行制御に切り替えて走行制御を継続させる。
【0019】
また、走行制御装置は、PID(Proportional-Integral-Derivative)制御を用いた制御回路の出力値(制御値)に基づいて制御された物理量を各種センサで取得し、取得した物理量の値をその制御回路にフィードバックして入力値を変化させ、物理量の値を目標値に近づけるようにする。
【0020】
「制御値」とは、エンジン駆動力、アクセル開度、ブレーキ量、車速、シフト位置等の制御対象となる物理量を所望の値に制御するため、それら制御対象を制御するモータやアクチュエータ等の制御装置に入力させる値である。
【0021】
また、「PID制御」とは、フィードバック制御の一つであり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、及び、その微分の三つの要素によって行う方法のことであり、偏差に比例して入力値を変化させる比例制御、偏差が継続している時間に比例して入力値を変化させる積分制御、急激な制御値の変化が起こった場合にその変化の大きさに比例して入力値を変化させる微分制御を組み合わせた制御方法である。
【0022】
「制御回路」には、例えば、目標車速と実際の車速との間の差である車速偏差を入力値とし、エンジン制駆動力制御値を出力値とする車速制御器、及び、目標車間距離と実際の車間距離との間の差である車間距離偏差を入力値とし、車速制御器の入力値となる値を算出するための目標車速を出力値とする車間距離制御器がある。
【0023】
なお、「エンジン制駆動力制御値」とは、エンジンの制駆動力を制御するアクセル制御装置、ブレーキ制御装置、シフト位置制御装置等の制駆動力制御装置を所定の状態で駆動させ所望とするエンジン駆動力を得るための値である。
【0024】
また、走行制御装置は、制御切り替えスイッチにより、定速走行制御のために設定された目標車速を車間距離制御器が出力する目標車速に切り替え、車間距離制御器が出力する目標車速と実際の車速に基づいて算出された車速偏差を車速制御器に入力して、エンジン制駆動力制御値を得る。
【0025】
制御切り替えスイッチは、車間距離が所定値未満となった場合に、定速走行制御のために設定された目標車速を車間距離制御器が出力する目標車速に切り替え、定速走行制御から追従走行制御への走行制御内容の切り替えを実現させる。
【0026】
車間距離制御器は、定速走行制御が行われている間、出力値となる目標車速が定速走行制御のために設定された目標車速に等しくなるよう、積分制御の初期値(定速走行制御から追従走行制御への走行制御内容の切り替えが行われた時点における偏差積分量は、偏差が未だ継続していないためゼロであり、PID制御における積分制御の項の値は初期値そのものとなる。)をバックグラウンドで周期的に演算し、制御切り替えスイッチによる目標車速の切り替えが行われた時点で、定速走行制御のために設定された目標車速と同じ目標車速を出力値として提供できるようにする。なお、PID制御における積分制御の項の値は、その初期値に偏差積分量を加算させながら時間経過と共に変化する。
【0027】
また、車間距離制御器は、制御切り替えスイッチによる目標車速の切り替えが行われた時点で初めて演算を行い、定速走行制御のために設定された目標車速と同じ目標車速を出力値として提供するようにしてもよい。
【0028】
その後、車間距離制御器は、PID制御により実際の車間距離が目標車間距離になるよう入力値となる車間距離偏差を変化させながら(厳密には、エンジン制駆動力を変化させて実際の車間距離を変化させることで車間距離偏差をゼロに収束させる。)目標車速を出力し、車速制御器は、車間距離制御器が出力した目標車速と実際の車速との車速偏差を入力値として変化させながら(厳密には、エンジン制駆動力を変化させて実際の車速を変化させることで車速偏差をゼロに収束させる。)エンジン制駆動力制御値を出力する。
【0029】
このように、走行制御装置は、定速走行制御から追従走行制御への走行制御内容の切り替えが行われた場合にも、車速制御器の入力値となる車速偏差を算出するための目標車速をステップ状に変化させることなく連続的に変化させるので、車速制御器の出力値であるエンジン制駆動力制御値を急激に変化させて車輌の挙動が不安定(例えば、エンジンの制駆動力が急変することによる急加速や急減速といったショックを発生させる。)になるのを防止することができる。
(2)実施例の詳細
図1は、本発明に係る走行制御装置の構成例を示すブロック図であり、走行制御装置100は、制御部1、車間距離センサ2、車速センサ3、記憶装置4、アクセル制御装置5、ブレーキ制御装置6及びシフト位置制御装置7から構成される。
【0030】
制御部1は、車間距離センサ2、車速センサ3及び記憶装置4からデータを取得してアクセル制御装置5、ブレーキ制御装置6及びシフト位置制御装置7に出力する制御信号を演算するための電子回路である。
【0031】
車間距離センサ2は、走行制御装置100が搭載された車輌(以下、「自車」という。)とそれ以外の車輌(以下、「他車」という。)との間の距離を測定するためのセンサであり、例えば、自車のフロントバンパー下部に取り付けられたレーザレーダ、ミリ波レーダ、画像センサ(ステレオカメラ)又は超音波センサ等であって、測定したデータを制御部1に出力する。なお、車間距離センサ2は、測定した車間距離の時間的変化から自車と他車との間の相対速度を算出し制御部1に出力するようにしてもよい。
【0032】
車速センサ3は、自車の走行速度を測定するセンサであり、例えば、各車輪に取り付けられ各車輪とともに回転する磁石による磁界の変化をMR(Magnetic Resistance)素子が磁気抵抗として読み取り、これを回転速度に比例したパルス信号として取り出すことで車輪の回転速度および車輌の走行速度を測定し、測定したデータを制御部1に出力する。
【0033】
記憶装置4は、走行制御装置100が定速走行制御又は追従走行制御を実行するために必要な各種データを記憶するための装置であり、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶媒体であって定速走行制御のための目標車速や追従走行制御のための目標車間距離を記憶する。記憶装置4は、制御部1の問い合わせに応じて各種データを制御部1に出力する。なお、定速走行制御のための目標車速又は追従走行制御のための目標車間距離の値は、タッチパネルやエスカッションスイッチ等の入力手段を介して変更可能に記憶される。
【0034】
アクセル制御装置5、ブレーキ制御装置6及びシフト位置制御装置7は、自車の走行速度を自動制御するための制駆動力制御装置であり、例えば、制御部1が出力する制御信号に基づいてモータやアクチュエータを駆動させることでアクセル開度、ブレーキ制動力又はシフト位置を調節して自車の走行速度を変化させる。
【0035】
図2は、制御部1の構成例を示すブロック図であり、制御部1は、目標車間距離取得部10、実車間距離取得部11、目標車速取得部12、実車速取得部13、制駆動力制御部14、演算器P1、P2、車間距離制御器C1、車速制御器C2及び制御切り替えスイッチSW1から構成される。
【0036】
目標車間距離取得部10は、追従走行制御のための目標車間距離を取得するための手段であり、例えば、記憶装置4に記憶された値を読み出すことで目標車間距離X*を取得する。
【0037】
実車間距離取得部11は、自車と自車の前方を走行する他車との間の実際の車間距離(以下、「実車間距離」という。)を取得するための手段であり、例えば、自車に搭載された車間距離センサ2が測定したデータに基づいて実車間距離Xを取得する。
【0038】
目標車速取得部12は、定速走行制御のための目標車速を取得するための手段であり、例えば、記憶装置4に記憶された値を読み出すことで目標車速V*を取得する。
【0039】
実車速取得部13は、自車の実際の走行速度(以下、「実車速」という。)を取得するための手段であり、例えば、自車に搭載された車速センサ3が測定したデータに基づいて実車速Vを取得する。
【0040】
制駆動力制御部14は、自車に搭載された制駆動力制御装置に制御信号を出力するための手段であり、例えば、入力として取得した最終制御値Ftに基づいてアクセル制御装置5、ブレーキ制御装置6、又は、シフト位置制御装置7のそれぞれに各制駆動力制御装置に対応する制御信号を出力する。
【0041】
演算器P1は、目標車間距離X*と実車間距離Xとを入力として取得し目標車間距離X*と実車間距離Xとの間の差である車間距離偏差Xeを出力する回路であり、演算器P2は、最終目標車速Vtと実車速Vとを入力として取得し最終目標車速Vtと実車速Vとの間の差である車速偏差Veを出力する回路である。
【0042】
車間距離制御器C1は、車間距離偏差Xeを入力として取得し追従走行制御のための目標車速Vxを出力するPID制御器であり、車速制御器C2は、車速偏差Veを入力として取得し所望とする車速を得るための最終制御値Ftを出力するPID制御器である。
【0043】
図3は、PID制御器の構成例を示す図であり、図3(A)が車間距離制御器C1を示し、図3(B)が車速制御器C2を示す。
【0044】
車間距離制御器C1は、車間距離偏差Xeを入力として取得し、比例ゲインKp1(第一項)、微分ゲインKd1と車間距離偏差Xeの微分dXe/dtの値との積(第二項)、及び、積分ゲインKi1と車間距離偏差Xeの積分∫Xedtの値に初期値αを加えた値との積(第三項)の三つの項を加算した値を追従走行制御のための目標車速Vxとして出力する。なお、上述の関係を表す数式(1)は、以下のようになる。
【0045】
【数1】

なお、第二項における車間距離偏差Xeの微分dXe/dtの値は、車間距離センサ2が測定した自車と他車との間の相対速度Vrをそのまま用いるようにしてもよい。
【0046】
また、車速制御器C2は、車速偏差Veを入力として取得し、比例ゲインKp2(第一項)、微分ゲインKd2と車速偏差Veの微分dVe/dtの値との積(第二項)、及び、積分ゲインKi2と車速偏差Veの積分∫Vedtの値との積(第三項)の三つの項を加算した値を制駆動力制御部14が制駆動力制御装置に出力するための最終制御値Ftとして出力する。なお、上述の関係を表す数式(2)は、以下のようになる。
【0047】
【数2】

なお、比例ゲインKp1、Kp2、微分ゲインKd1、Kd2、積分ゲインKi1、Ki2は、最適レギュレータ法や極配置法によって、制御切り替え時の状況に応じた最適な値が設定されており、制御切り替え時の制御性能を損なうことは無いものとする。
【0048】
制御切り替えスイッチSW1は、目標車速取得部12が取得した定速走行制御のための目標車速V*と車間距離制御器C1が出力する追従走行制御のための目標車速Vxとを入力として取得し、何れか一方を最終目標車速Vtとして出力するためのスイッチであり、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値未満となった場合に、出力となる最終目標車速Vtを定速走行制御のための目標車速V*から追従走行制御のための目標車速Vxに切り替える。
【0049】
制御部1は、目標車間距離取得部10が取得した目標車間距離X*と実車間距離取得部11が取得した実際の車間距離Xとに基づいて演算器P1により車間距離偏差Xeを算出して車間距離制御器C1に入力させ、車間距離制御器C1は、PID制御により追従走行制御のための目標車速Vxを制御切り替えスイッチSW1の入力端子E2に入力させる。
【0050】
また、制御部1は、目標車速取得部12が取得した定速走行制御のための目標車速V*を制御切り替えスイッチSW1の入力端子E1に入力させ、制御切り替えスイッチSW1は、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値以上の場合に、最終目標車速Vtとして定速走行制御のための目標車速V*を出力し、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値未満の場合に、最終目標車速Vtとして追従走行制御のための目標車速Vxを出力する。
【0051】
さらに、制御部1は、制御切り替えスイッチSW1が出力した最終目標車速Vtと実車速取得部13が取得した実車速Vとに基づいて演算器P2により車速偏差Veを算出して車速制御器C2に入力し、車速制御器C2は、PID制御により最終制御値Ftを制駆動力制御部14に入力させる。
【0052】
なお、制御部1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)等を備えたコンピュータであってもよく、目標車間距離取得部10、実車間距離取得部11、目標車速取得部12、実車速取得部13、制駆動力制御部14、演算器P1、P2、車間距離制御器C1、車速制御器C2及び制御切り替えスイッチSW1のそれぞれに対応するプログラムをNVRAMに記憶し、それらプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させるようにしてもよい。
【0053】
次に、走行制御装置100が走行制御内容を切り替える処理の流れについて説明する。なお、図4は、切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【0054】
最初に、制御部1は、実車間距離取得部11により車間距離センサ2を介して実車間距離Xを取得し、かつ、実車速取得部13により車速センサ3を介して実車速Vを取得する(ステップS1)。
【0055】
その後、制御部1は、実車間距離取得部11が取得した実車間距離Xに基づいて走行制御内容の切り替えを行うか否かを判定する(ステップS2)。
【0056】
実車間距離Xが所定値以上となった場合、制御部1は、追従走行制御から定速走行制御に走行制御内容を切り替え(ステップS2の追従走行→定速走行)、定速走行制御のための目標車速V*に切り替え時点における追従走行制御のための目標車速Vxを設定する(ステップS3)。
【0057】
その後、制御部1は、制御切り替えスイッチSW1における接続を入力端子E2から入力端子E1に切り替え(ステップS4)、定速走行制御のための目標車速V*(現在、Vxに設定されている。)を最終目標車速Vtとして、演算器P2により車速偏差Veを演算し最終制御値Ftを得るようにする。ここで、制御部1は、定速走行制御のための目標車速をVxから当初のV*に所定間隔で徐々に近づけるよう設定を変更させながら、実車速Vが定速走行制御のための目標車速V*に到達するよう制御する。
【0058】
なお、制御部1は、定速走行制御のための目標車速V*に切り替え時点における追従走行制御のための目標車速Vxを設定することなく、追従走行制御から定速走行制御に走行制御内容を切り替えるようにしてもよい。
【0059】
この場合、制御部1は、所定の制御範囲内で最終制御値Ftを変化させながら(最終制御値Ftの変化率を制限することをいう。)実車速Vを定速走行制御のための目標車速V*に到達させるようにする。
【0060】
一方、実車間距離Xが所定値未満となった場合、制御部1は、定速走行制御から追従走行制御に走行制御内容を切り替え(ステップS2の定速走行→追従走行)、追従走行制御のための目標車速Vxに定速走行制御のための目標車速V*を設定し、車間距離制御器C1の第三項における初期値αを算出する(ステップS5)。なお、定速走行制御のための目標車速V*は、制御切り替えスイッチSW1による制御の切り替えが行われるまで最終目標車速Vtとして使用されていた値である。
【0061】
初期値αは、数式(1)のVxにV*を代入することで以下の数式(3)により導出される。なお、切り替えた時点における車間距離偏差Xeの積分∫Xedtの値はゼロである。
【0062】
【数3】

仮に初期値αが算出されなかった場合(初期値αがゼロであるか、或いは、無意味な値が設定されている場合をいう。)、制御切り替えスイッチSW1によって制御が切り替えられた時点における追従走行制御のための目標車速Vxは、異常な値となってしまう場合があり、異常な目標車速Vxに基づいて導出される最終制御値Ftも異常な値となり自車の挙動を不安定にしてしまう。
【0063】
従って、上述のように初期値αを導出することにより、制御部1は、定速走行制御から追従走行制御に走行制御内容が切り替えられた場合にも、自車の挙動が不安定となるのを防止することができる。
【0064】
その後、制御部1は、制御切り替えスイッチSW1における接続を入力端子E1から入力端子E2に切り替え(ステップS6)、追従走行制御のための目標車速Vx(現在、V*となっている。)を最終目標車速Vtとして演算器P2により車速偏差Veを演算し車速制御器C2により最終制御値Ftを得るようにする。
【0065】
その後、制御部1は、車間距離制御器C1におけるPID制御により、車間距離偏差Xeをゼロに収束させるよう追従走行制御のための目標車速Vxを変化させ、車速制御器C2におけるPID制御により、車速偏差Veをゼロに収束させるよう最終制御値Ftを変化させながら自車を走行させるようにする。
【0066】
以上の構成により、走行制御装置100は、積分制御の初期値を算出することにより走行制御内容の切り替え時点に制御値が不連続に変化しないようにするので、制御値が不連続に変化した場合に自車の挙動を安定化させるために走行制御内容の切り替え時点における状況に応じてフィードバック制御の時定数(制御開始後の応答速度を決定するための定数である。)を変更したり、他の調整パラメータを変更したりする必要なしに走行制御内容切り替え時における自車の挙動を安定化させることができる。
【0067】
また、走行制御装置100は、フィードバック制御の時定数を変更したり、他の調整パラメータを変更したりすることなく走行制御内容の切り替え時点における制御値が不連続に変化しないようにするので、走行制御内容切り替え時における自車の挙動を安定化させながらも制御性能を損なうことなく応答速度を向上させることができる。
【0068】
また、走行制御装置100は、車速制御器C2を内側ループ(制駆動力制御部14に直接的に接続させている。)とし、車間距離制御器C1を外側ループ(制駆動力制御部14に間接的に接続させている。)とすることで、走行制御内容切り替え時における自車の挙動を安定化させながらも、速度制御の応答性をより向上させることができる。
【実施例2】
【0069】
次に、本発明に係る走行制御装置の別の実施例について説明する。なお、図5は、制御部の別の構成例を示すブロック図である。
【0070】
図5に示すように、走行制御装置100Aの制御部1Aは、制御切り替えスイッチSW2に対し車間距離制御器C3と車速制御器C4とを並列に接続する(以下、この構成を「独立フィードバック構成」という。)点において、車間距離制御器C1、制御切り替えスイッチSW1及び車速制御器C2の順で三者を直列に接続する(以下、この構成を「二重フィードバック構成」という。)制御部1(図2参照。)と相違する。
【0071】
制御部1Aは、目標車間距離取得部10が取得した目標車間距離X*と実車間距離取得部11が取得した実際の車間距離Xとに基づいて演算器P1により車間距離偏差Xeを算出して車間距離制御器C3に入力させ、車間距離制御器C3は、PID制御により追従走行制御のための制御値Fxを制御切り替えスイッチSW2の入力端子E4に入力させる。
【0072】
また、制御部1Aは、目標車速取得部12が取得した定速走行制御のための目標車速V*と実車速取得部13が所得した実際の車速Vとに基づいて演算器P2により車速偏差Veを算出して車速制御器C4に入力させ、車速制御器C4は、PID制御により定速走行制御のための制御値Fvを制御切り替えスイッチSW2の入力端子E3に入力させる。
【0073】
制御切り替えスイッチSW2は、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値以上の場合に、最終制御値Ftとして定速走行制御のための制御値Fvを出力し、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値未満の場合に、最終制御値Ftとして追従走行制御のための制御値Fxを出力して、最終制御値Ftを制駆動力制御部14に入力させる。
【0074】
図6は、PID制御器の構成例を示す図であり、図6(A)が車間距離制御器C3を示し、図6(B)が車速制御器C4を示す。
【0075】
車間距離制御器C3は、図3(A)における車間距離制御器C1と同様、車間距離偏差Xeを入力として取得し、追従走行制御のための制御値Fxを出力する。なお、車間距離制御器C3における制御を表す数式(4)は、以下のようになる。
【0076】
【数4】

また、車速制御器C4は、図3(B)における車速制御器C2と同様、車速偏差Veを入力として取得し、定速走行制御のための制御値Fvを出力する。なお、車速制御器C4における制御を表す数式(5)は、以下のようになる。
【0077】
【数5】

なお、比例ゲインKp3、Kp4、微分ゲインKd3、Kd4、積分ゲインKi3、Ki4は、最適レギュレータ法や極配置法によって、制御切り替え時の状況に応じた最適な値が設定されており、制御切り替え時の制御性能を損なうことは無いものとする。
【0078】
制御切り替えスイッチSW2は、車間距離制御器C3が出力する追従走行制御のための制御値Fxと車速制御器C4が出力する定速走行制御のための制御値Fvとを入力として取得し、何れか一方を最終制御値Ftとして出力するためのスイッチであり、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値未満となった場合に、出力となる最終制御値Ftを定速走行制御のための制御値Fvから追従走行制御のための制御値Fxに切り替える。
【0079】
その際、制御部1Aは、追従走行制御のための制御値Fxに定速走行制御のための制御値Fvを設定し、車間距離制御器C3の第三項における初期値βを算出する。なお、定速走行制御のための制御値Fvは、制御切り替えスイッチSW2による制御の切り替えが行われるまで最終制御値Ftとして実際に使用されていた値である。
【0080】
初期値βは、数式(4)のFxにFvを代入することで以下の数式(6)により導出される。なお、切り替えた時点における車間距離偏差Xeの積分∫Xedtの値はゼロである。
【0081】
【数6】

このようにして、制御部1Aは、定速走行制御から追従走行制御に走行制御内容が切り替えられた場合にも最終制御値Ftを連続的に変化させることで、自車の挙動が不安定となるのを防止することができる。
【0082】
一方、車間距離センサ2が測定した実車間距離Xが所定値以上となった場合、制御切り替えスイッチSW2は、出力となる最終制御値Ftを追従走行制御のための制御値Fxから定速走行制御のための制御値Fvに切り替える。
【0083】
その際、制御部1Aは、定速走行制御のための制御値Fvに追従走行制御のための制御値Fxを設定し、車速制御器C4の第三項における初期値γを算出する。なお、追従走行制御のための制御値Fxは、制御切り替えスイッチSW2による切り替えが行われるまで最終制御値Ftとして実際に使用されていた値である。
【0084】
初期値γは、数式(5)のFvにFxを代入することで以下の数式(7)により導出される。なお、切り替えた時点における車速偏差Veの積分∫Vedtの値はゼロである。
【0085】
【数7】

このように、制御部1Aは、定速走行制御から追従走行制御に走行制御内容が切り替えられた場合と同様、追従走行制御から定速走行制御に走行制御内容が切り替えられた場合にも最終制御値Ftを連続的に変化させることで、自車の挙動が不安定となるのを防止することができる。
【0086】
以上の構成により、走行制御装置100Aは、積分制御の初期値を算出することにより走行制御内容の切り替え時点に制御値が不連続に変化しないようにするので、走行制御内容切り替え時における自車の挙動を安定化させながらも制御性能を損なうことなく応答速度を向上させることができる。
【0087】
また、走行制御装置100Aは、独立フィードバック構成を採用するので、車間距離制御器C3又は車速制御器C4の何れか一方が故障した場合にも所定の走行制御を継続させることができる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0089】
例えば、上述の実施例では、制御部1Aが、制御切り替えスイッチSW2に対し車間距離制御器C3と車速制御器C4とを並列に接続する独立フィードバック構成を採用し、制御部1が、車間距離制御器C1、制御切り替えスイッチSW1及び車速制御器C2の順で三者を直列に接続する二重フィードバック構成を採用するが、独立フィードバック構成と二重フィードバック構成とを組み合わせるようにしてもよい。
【0090】
また、上述の実施例は、定速走行制御と追従走行制御とを切り替える時点の自車の挙動を安定化させるが、自車の前方を走行する他車が車線変更によって自車の走行する車線を逸脱し、さらにその他車の前方を走行していた別の他車が先行車輌となった場合等、実車間距離Xが不連続に変化した時点の自車の挙動を安定化させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る走行制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】制御部の構成例を示すブロック図(その1)である。
【図3】PID制御器の構成例を示す図(その1)である。
【図4】走行制御装置が走行制御内容を切り替える処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】制御部の構成例を示すブロック図(その2)である。
【図6】PID制御器の構成例を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0092】
1、1A 制御部
2 車間距離センサ
3 車速センサ
4 記憶装置
5 アクセル制御装置
6 ブレーキ制御装置
7 シフト位置制御装置
10 目標車間距離取得部
11 実車間距離取得部
12 目標車速取得部
13 実車速取得部
14 制駆動力制御部
100、100A 走行制御装置
C1、C3 車間距離制御器
C2、C4 車速制御器
E1〜E4 入力端子
Ft 最終制御値
Fv 定速走行制御のための制御値
Fx 追従走行制御のための制御値
Kd1〜Kd4 微分ゲイン
Ki1〜Ki4 積分ゲイン
Kp1〜Kp4 比例ゲイン
P1、P2 制御器
X 実車間距離
Xe 車間距離偏差
X* 目標車間距離
V 実車速
Ve 車速偏差
Vx 追従走行制御のための目標車速
Vt 最終目標車速
V* 定速走行制御のための目標車速
α、β 車間距離偏差積分の初期値
γ 車速偏差積分の初期値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積分制御を含むフィードバック制御により車速を目標車速に制御する定速走行制御、及び、積分制御を含むフィードバック制御により車間距離を目標車間距離に制御する追従走行制御を有する走行制御装置であって、
前記追従走行制御に関する制御値及び前記定速走行制御に関する制御値の二つの対応する制御値を切り替えて何れか一方の制御値を出力させる制御切り替え手段と、
前記制御切り替え手段が出力する制御値に基づいて車輌における制駆動力を制御する制駆動力制御手段と、
前記制御切り替え手段による切り替え時に前記二つの対応する制御値を等しくして走行制御を継続させる走行制御手段と、
を備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記走行制御手段は、前記制御切り替え手段による切り替え時に前記定速走行制御又は前記追従走行制御の積分制御初期値を算出し該積分制御初期値を用いて走行制御を継続させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記制御切り替え手段は、前記追従走行制御に関する制御値として目標車間距離を達成するための車速の値を第一の入力として取得し、かつ、前記定速走行制御に関する制御値として予め登録された目標車速の値を第二の入力として取得する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記制御切り替え手段は、前記追従走行制御に関する制御値として目標車間距離を達成するためのエンジン制駆動力制御値を第一の入力として取得し、かつ、前記定速走行制御に関する制御値として目標車速を達成するためのエンジン制駆動力制御値を第二の入力として取得する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−155815(P2008−155815A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348209(P2006−348209)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】