説明

車両およびその制御方法

【課題】電動機の発熱を抑制すると共にその際の車両の移動距離が長くなるのを抑制する。
【解決手段】モータが略回転停止していてモータの温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*を設定し(S340)、目標電気角θe*の変化にモータのロータの電気角θeが追従するようd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し(S350〜S370)、設定したd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に基づいてモータを制御する。これにより、モータなどの過度の温度上昇を抑制することができると共にその際の車両の前後方向の移動距離が長くなるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両としては、モータからの動力を用いて走行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、登坂路でアクセル開度を一定に保持しながら停止しているとき、即ち、モータの各相コイルのうちの特定の一相にだけ電流が集中して流れる電流集中状態に車両があるときは、モータから出力するトルクを所定の割合で減少させて車両を後退させて電流集中状態から一旦離脱することによりモータやその駆動回路の発熱の抑制している。
【特許文献1】特開平11−215687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
こうした車両では、モータから出力するトルクを減少させて車両を後退させた後にはモータから出力するトルクを増加させて車両を停止させていると考えられる。このため、アクセル開度がある程度の時間に亘って一定に保持されたときには、車両が停止と後退とを繰り返すことになり、車両が最初に後退を始めてからの車両の移動距離が比較的長くなることがある。
【0004】
本発明の車両およびその制御方法は、電動機の発熱を抑制すると共にその際の車両の移動距離が長くなるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の車両は、
駆動輪に連結された駆動軸に動力を出力可能な電動機と、
前記電動機が略回転停止していて該電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、該回転停止温度上昇条件が成立したときの前記電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を前記電動機の電気角が所定の周期で変化するよう該電動機を制御する周期的変化制御を実行する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の車両では、電動機が略回転停止していて電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、回転停止温度上昇条件が成立したときの電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を電動機の電気角が所定の周期で変化するよう電動機を制御する周期的変化制御を実行する。即ち、回転停止温度上昇条件が成立したときには、電動機の電気角が所定の角度範囲を所定の周期で変化する(電動機の電気角の所定の角度範囲に対応する距離を車両が所定の周期で移動する)よう電動機を制御するのである。これにより、電動機の各相のうち特定の相に電流が集中して流れることによる電動機などの発熱を抑制することができると共に車両の移動距離が長くなるのを抑制することができる。ここで、「回転停止温度上昇条件」は、電動機が略回転停止していて電動機から所定トルク以上のトルクが出力されている状態が所定時間に亘って継続したときに成立する条件であるものとすることもできる。また、「所定の角度範囲」は、初期電気角と、電動機の相電流の状態が初期電気角における状態とは異なる状態となる所定の電気角と、を境界とする範囲であるものとすることもできる。
【0008】
こうした本発明の車両において、前記制御手段は、前記周期的変化制御として、前記所定の角度範囲を前記所定の周期で変化する目標電気角を設定し、前記電動機の電気角が該設定した目標電気角の変化に追従するトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機の電気角を、所定の角度範囲を所定の範囲で変化する目標電気角の変化に追従させることができる。
【0009】
電動機の電気角が目標電気角の変化に追従するトルクが電動機から出力されるよう電動機を制御する態様の本発明の車両において、前記制御手段は、前記駆動軸に要求される要求トルクに基づいて前記電動機のトルク指令を設定し、前記周期的変化制御を実行する際、前記設定したトルク指令に基づいてd軸,q軸の電流指令の仮の値である仮電流指令を設定し、該設定したd軸の仮電流指令と該設定したq軸の仮電流指令との比と前記q軸とに基づく角度である仮電流指令角度を設定し、該設定した仮電流指令角度を前記電動機の電気角と前記目標電気角とに基づいて補正した角度である電流指令角度を設定し、該設定した電流指令角度に基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定し、該設定したd軸,q軸の電流指令に基づいて前記電動機を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、仮電流指令角度を補正して設定した電流指令角度に基づいてd軸,q軸の電流指令を設定して電動機を制御することにより、電動機の電気角を目標電気角の変化に追従させることができる。
【0010】
仮電流指令角度を補正して設定した電流指令角度に基づいてd軸,q軸の電流指令を設定して電動機を制御する態様の本発明の車両において、前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行する際、前記電動機に通電すべき電流の大きさの仮の値である仮電流指令大きさを前記d軸,前記q軸の仮電流指令に基づいて設定し、該設定した仮電流指令大きさを前記電動機の電気角と前記目標電気角とに基づいて補正した大きさである電流指令大きさを設定し、該設定した電流指令大きさと前記設定した電流指令角度とに基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機の電気角を目標電気角の変化により精度よく追従させることができる。
【0011】
また、仮電流指令角度を補正して設定した電流指令角度に基づいてd軸,q軸の電流指令を設定して電動機を制御する態様の本発明の車両において、前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中であって前記目標電気角が前記車両が登坂路を下る方向である車両下り方向に変化していて且つ前記目標電気角が前記所定の角度範囲内の前記車両下り方向側の境界を含む第2の所定の角度範囲内にあるときには、前記設定した仮電流指令大きさよりも大きな電流指令大きさと前記設定した電流指令角度とに基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機の電気角が所定の角度範囲の車両下り方向側の境界を超えてしまうのを抑制することができる。
【0012】
電動機の電気角が目標電気角の変化に追従するトルクが電動機から出力されるよう電動機を制御する態様の本発明の車両において、前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中であって前記目標電気角が前記車両が登坂路を下る方向である車両下り方向に変化しているときに前記電動機の電気角が前記目標電気角の変化に追従しなくなったときには前記周期的変化制御を中断し、該中断後に前記目標電気角が前記車両が登坂路を上る方向である車両上り方向に変化していて該目標電気角が前記電動機の電気角に比して前記車両上り方向側の角度となったときに前記周期的変化制御を再開する手段であるものとすることもできる。この場合、前記制御手段は、前記回転停止温度上昇条件が成立したときであって前記周期的変化制御の実行を中断しているときには、前記電動機に電流が流れないよう該電動機を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、電動機に無駄な電流を流すのを抑制することができ、電動機などの発熱や温度上昇をより抑制することができる。
【0013】
また、電動機の電気角が目標電気角の変化に追従するトルクが電動機から出力されるよう電動機を制御する態様の本発明の車両において、前記制御手段は、前記回転停止温度上昇条件が成立したときには、前記駆動軸に要求されるトルクに基づくトルクと、前記電動機の電気角と前記目標電気角との差分を打ち消すためのトルクと、の和を前記電動機のトルク指令に設定し、該設定したトルク指令で前記電動機が駆動されるよう該電動機を制御する手段であるものとすることもできる。
【0014】
本発明の車両において、前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中に前記電動機の電気角が前記所定の角度範囲から外れたときには前記周期的変化制御を終了する手段であるものとすることもできるし、前記回転停止温度上昇条件が成立したときのアクセル操作量である初期アクセル操作量に対して該アクセル操作量が所定量以上大きくなったときには前記周期的変化制御を終了する手段であるものとすることもできる。
【0015】
本発明の車両の制御方法は、
駆動輪に連結された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える車両の制御方法であって、
前記電動機が略回転停止していて該電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、該回転停止温度上昇条件が成立したときの前記電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を前記電動機の電気角が所定の周期で変化するよう該電動機を制御する周期的変化制御を実行する、
ことを特徴とする。
【0016】
この本発明の車両の制御方法では、電動機が略回転停止していて電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、回転停止温度上昇条件が成立したときの電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を電動機の電気角が所定の周期で変化するよう電動機を制御する周期的変化制御を実行する。即ち、回転停止温度上昇条件が成立したときには、電動機の電気角が所定の角度範囲を所定の周期で変化する(電動機の電気角の所定の角度範囲に対応する距離を車両が所定の周期で移動する)よう電動機を制御するのである。これにより、電動機の各相のうち特定の相に電流が集中して流れることによる電動機などの発熱を抑制することができると共に車両の移動距離が長くなるのを抑制することができる。ここで、「回転停止温度上昇条件」は、電動機が略回転停止していて電動機から所定トルク以上のトルクが出力されている状態が所定時間に亘って継続したときに成立する条件であるものとすることもできる。また、「所定の角度範囲」は、初期電気角と、電動機の相電流の状態が初期電気角における状態とは異なる状態となる所定の電気角と、を境界とする範囲であるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の第1実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。第1実施例の電気自動車20は、図示するように、駆動輪30a,30bにデファレンシャルギヤ31を介して連結された駆動軸32に動力を入出力可能なモータ22と、モータ22を駆動するインバータ24を介してモータ22と電力のやりとりを行なうバッテリ26と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット40と、を備える。
【0019】
図2は、第1実施例の電気自動車20の電気系を中心とする構成図である。モータ22は、永久磁石が埋め込まれたロータ22aと三相コイルが巻回されたステータ22bとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ24は、6つのトランジスタTr1〜Tr6と、トランジスタTr1〜Tr6に逆方向に並列接続された6つのダイオードD1〜D6と、により構成されている。トランジスタTr1〜Tr6は、バッテリ26が接続された正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ22の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、正極母線と負極母線との間に電圧が作用している状態で対をなすトランジスタTr1〜Tr6のオン時間の割合を制御することにより三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ22を回転駆動することができる。
【0020】
電子制御ユニット40は、CPU42を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU42の他に処理プログラムを記憶するROM44と、データを一時的に記憶するRAM46と、図示しない入出力ポートと通信ポートとを備える。電子制御ユニット40には、モータ22のロータ22aの回転位置を検出する回転位置検出センサ23からのロータ22aの回転位置θm,モータ22の三相コイルのU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ22U,22Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ26の温度を検出する図示しない温度センサからのバッテリ温度,イグニッションスイッチ50からのイグニッション信号,シフトレバー51の操作位置を検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジションSP,アクセルペダル53の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル55の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ58からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット40からは、モータ22を駆動制御するためのインバータ24のスイッチング素子(トランジスタTr1〜Tr6)へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット40は、回転位置検出センサ23からの信号に基づいてロータ22aの電気角θeやモータ22の回転数Nmも演算している。また、実施例の電気自動車20では、シフトポジションセンサ52により検出するシフトポジションSPとしては、駐車ポジション(Pポジション)や中立ポジション(Nポジション),ドライブポジション(Dポジション),リバースポジション(Rポジション)などがある。
【0021】
次に、こうして構成された第1実施例の電気自動車20の動作、特に、登坂路でアクセルペダル53が踏み込まれた状態で車両が停止している際の動作について説明する。図3は、電子制御ユニット40により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0022】
駆動制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット40のCPU42は、まず、アクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度Accや車速センサ58からの車速V,モータ22のロータ22aの電気角θe,モータ22の回転数Nm,電流センサ22U,22Vからのモータ22の三相コイルのU相,V相に流れる相電流Iu,Ivなど制御に必要なデータを入力すると共に(ステップS100)、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTd*を設定し(ステップS110)、設定した要求トルクTd*をモータ22のトルク指令Tm*に設定する(ステップS120)。ここで、ロータ22aの電気角θeやモータ22の回転数Nmは、回転位置検出センサ23により検出されたロータ22aの回転位置θmに基づいて演算されてRAM46の所定アドレスに書き込まれたものを読み込むことにより入力するものとした。なお、ロータ22aの電気角θeやモータ22の回転数Nmは、シフトポジションSPに応じた走行方向(シフトポジションSPがDポジションのときには前進方向)に車両が走行する際のロータ22aの回転方向を正方向とした。要求トルクTd*は、第1実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTd*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM44に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTd*を導出して設定するものとした。図4に要求トルク設定用マップの一例を示す。
【0023】
続いて、モータ22の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0として電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに次式(1)により座標変換(3相−2相変換)し(ステップS130)、条件成立フラグFの値を調べる(ステップS140)。ここで、条件成立フラグFは、初期値として値0が設定され、モータ22が略回転停止していてモータ22などの温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときに値1が設定されるフラグである。なお、d軸はモータ22のロータ22aに埋め込まれた永久磁石により形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ22を正回転させる方向に電気角をπ/2だけ進角させた方向である。
【0024】
【数1】

【0025】
条件成立フラグFが値0のときには、モータ22の回転数Nmの絶対値を閾値Nrefと比較すると共に(ステップS150)、前回このルーチンが実行されたときに設定されたモータ22のトルク指令(前回Tm*)を閾値Trefと比較し(ステップS160)、モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上のときには、この状態が所定時間に亘って継続したか否かを判定する(ステップS170)。このステップS150〜S170の処理は、前述の回転停止温度上昇条件が成立したか否かを判定する処理である。ここで、閾値Nrefは、モータ22が略回転停止しているか否か(車両が停止しているか否か)を判定するために用いられるものであり、例えば、50rpmや100rpmなどを用いることができる。また、閾値Trefは、モータ22からある程度のトルクが出力されるか否かを判定するために用いられるものであり、モータ22の特性などにより定められる。さらに、所定時間は、例えば、モータ22やインバータ24の発熱を許容できる時間として定められ、モータ22やインバータ24の仕様などにより設定することができる。まず、登坂路でアクセルペダル53が踏み込まれて保持されている状態で車両が停止しているとき(モータ22が回転停止しているとき)を考えると、モータ22が回転停止している状態でモータ22から比較的大きいトルクを出力すると、モータ22の三相コイルのうち特定の相にだけ大きな電流が流れるため、モータ22やインバータ24の温度上昇が促進されやすく、モータ22やインバータ24の温度が過度に上昇する可能性がある。次に、平坦地で車両が発進する際にアクセルペダル53が比較的大きく踏み込まれたときを考えると、このときにもモータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上となることがあるが、この場合、この状態は比較的短時間であるため、モータ22やインバータ24はそれほど温度上昇しないと考えられる。ステップS150〜S170の処理は、登坂路でアクセルペダル53が踏み込まれて保持されている状態で車両が停止していて、モータ22やインバータ24の温度が過度に上昇する可能性があるか否かを判定する処理である。
【0026】
モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nrefより大きいときや、モータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref未満のとき,モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が未だ所定時間に亘って継続していないときには、条件成立フラグFに値0を設定すると共に(ステップS180)、モータ22のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する(ステップS200)。ここで、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*は、第1実施例では、トルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係(例えば、電流指令Id*の二乗と電流指令Iq*の二乗との和の平方根(以下、電流指令大きさIreという)を比較的小さくしてトルク指令Tm*に対応するトルクをモータ22から出力できる関係)を予め定めて電流指令設定用マップとしてROM44に記憶しておき、トルク指令Tm*が与えられると記憶したマップから対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を導出して設定するものとした。電流指令設定用マップの一例を図5に示す。図5の例では、トルク指令Tm*がトルクT3のときにこのトルク指令Tm*に対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する際の様子を示している。なお、図5には、トルク指令Tm*や電流指令Id*,Iq*の他に、電流指令大きさIreと、三相コイルに通電される電流によってステータ22bに形成される磁界の方向(ステータ磁界の方向)のq軸に対する角度としての電流指令角度θreと、についても図示した。第1実施例では、永久磁石がロータ22aに埋め込まれたモータ22を用いるものとしたから、永久磁石によるトルクの他にリラクタンストルクが発生することを考慮して、図示するように、電流指令角度θreは値0〜πとなるが、永久磁石がロータ22aの外表面に貼り付けられたモータ22を用いる場合には、リラクタンストルクが発生しないため、電流指令角度θreは値0またはπ/2となる。
【0027】
続いて、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*と電流Id,Iqとを用いて次式(2)および式(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し(ステップS270)、電気角θeを用いてd軸およびq軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に式(4)および式(5)により座標変換(2相−3相変換)し(ステップS280)、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ24のトランジスタTr1〜Tr6をスイッチングするためのPWM信号に変換してインバータ24のトランジスタTr1〜Tr6に出力することによりモータ22を駆動制御して(ステップS290)、駆動制御ルーチンを終了する。ここで、式(2)および式(3)中、「Kp1」および「Kp2」は比例係数であり、「Ki1」および「Ki2」は積分係数である。この場合、ロータ22aの電気角θeとトルク指令Tm*とに対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を用いてモータ22を制御することになる。
【0028】
【数2】

【0029】
ステップS150〜S170でモータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が所定時間に亘って継続したとき、即ち、回転停止温度上昇条件が成立したときには、条件成立フラグFに値1を設定し(ステップS210)、このときの電気角である初期電気角θsetに現在のロータ22aの電気角θeを設定すると共にこのときのアクセル開度である初期開度Asetに現在のアクセル開度Accを設定し(ステップS220)、このときからの時間である条件成立後時間tをリセットして計時を開始する(ステップS230)。
【0030】
そして、アクセル開度Accと初期開度Asetとの差分を開度差分ΔAccに設定すると共に(ステップS240)、設定した開度差分ΔAccを閾値Arefと比較する(ステップS250)。ここで、閾値Arefは、運転者による走行用の駆動要求が変化したか否かを判定するために用いられるものであり、車両の仕様などにより定められる。開度差分ΔAccが閾値Aerfより小さいときには、運転者による走行用の駆動要求は変化していないと判断し、図6に例示する電流指令設定処理によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し(ステップS260)、ステップS270〜S290の処理を実行して駆動制御ルーチンを終了する。図6の電流指令設定処理については後述する。
【0031】
一方、ステップS250で開度差分ΔAccが閾値Aref以上のときには、運転者による走行用の駆動要求が変化したと判断し、条件成立フラグFに値0を設定し(ステップS180)、ステップS200以降の処理を実行する。そして、次回以降にこの電流指令設定処理が実行されたときには、ステップS140で条件成立フラグFが値0であり、ステップS150以降の処理を実行する。
【0032】
次に、図6の電流指令設定処理について説明する。電流指令設定処理では、まず、モータ22のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpを設定する(ステップS300)。ここで、d軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpは、図5の電流指令設定用マップの「Id*」,「Iq*」を「Idtmp」,「Iqtmp」に置き換えたものを用いてトルク指令Tm*に基づいて設定するものとした。
【0033】
こうしてd軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpを設定すると、設定したd軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpに基づいて電流指令大きさIreの仮の値である仮電流指令大きさIretmpを次式(6)により計算すると共に(ステップS310)、d軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpに基づいて電流指令角度θreの仮の値である仮電流指令角度θreを式(7)により計算する(ステップS320)。
【0034】
【数3】

【0035】
続いて、条件成立後時間tに角周波数ωを乗じた値(ω・t)を値0〜2πの範囲内となるよう換算して位相ωpを計算し(ステップS330)、計算した位相ωpを用いて次式(8)によりロータ22aの目標電気角θe*を設定する(ステップS340)。ここで、位相ωpは、ロータ22aの電気角θeが所定の角度範囲(後述の初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲)を所定の周期C(例えば、0.5秒や1秒,2秒など)で変化するようモータ22を制御する周期的変化制御を実行する際に用いる目標電気角θe*を設定するのに用いられるものである。また、角周波数ωは、目標電気角θe*が所定の角度範囲を所定の周期Cで変化するようにするために用いられるものであり、(2π/C)により表わされる。こうして計算される目標電気角θe*は、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期(例えば、0.5秒や1秒,2秒など)で正弦波状に変化する。位相ωpと目標電気角θe*との関係の一例を図7に示す。なお、所定電気角(θset−π)は、初期電気角θsetに比してロータ22aが負回転する側(登坂路でアクセル開度Accが保持されているときを考えれば、車両が坂路を下る側)の電気角となる。
【0036】
【数4】

【0037】
そして、仮電流指令角度θretmpとロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて次式(9)により電流指令角度θreを計算し(ステップS350)、仮電流指令大きさIretmpとロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて式(10)により電流指令大きさIreを計算し(ステップS360)、電流指令大きさIreと電流指令角度θreとを用いて式(11),(12)によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算して(ステップS370)、電流指令設定処理を終了する。ここで、式(9),(10)は、ロータ22aの電気角θeを目標電気角θe*の変化に追従させるための式であり、式(10)中、「Kp3」は比例項のゲインである。式(11),(12)は、電流指令大きさIreを電流指令角度θreを用いてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に換算する式である。d軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpとd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係の一例を図8に示す。こうして設定したd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を用いてモータ22を制御することにより、モータ22から出力されるトルクが変化してロータ22aおよびロータ22aに連結された駆動輪30a,30bが回転して車両が前後方向に移動するから、モータ22のロータ22aの電気角θeを目標電気角θe*の変化に追従させることができる。このようにモータ22を制御する制御が前述の周期的変化制御に相当する。このようにしてロータ22aの回転によって電気角θeが変化すれば、モータ22の三相コイルの特定の相にだけ大きな電流が流れるのを抑制することができ、モータ22やインバータ24の過度の温度上昇を抑制することができる。しかも、図7に例示したように、第1実施例では、目標電気角θe*については初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期(例えば、0.5秒や1秒,2秒など)で変化させるものとしたから、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を所定の周期Cで変化する、即ち、車両が初期電気角θsetに相当する位置〜所定電気角(θset−π)に相当する位置の範囲(例えば、数cm程度)を所定の周期Cで前後方向に移動することになり、アクセル開度Accがある程度の時間に亘って保持されたときでも車両の前後方向の移動距離が長くなるのを抑制することができる。
【0038】
【数5】

【0039】
以上説明した第1実施例の電気自動車20によれば、モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が所定時間に亘って継続した回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するから、モータ22やインバータ24の過度の温度上昇を抑制することができると共にその際の車両の前後方向の移動距離が長くなるのを抑制することができる。
【0040】
第1実施例の電気自動車20では、回転停止温度上昇条件が成立したときには、仮電流指令角度θretmpとロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて前述の式(9)により電流指令角度θreを計算し、仮電流指令大きさIretmpとロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて式(10)により電流指令大きさIreを計算し、電流指令大きさIreと電流指令角度θreとを用いて式(11),(12)によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算するものとしたが、仮電流指令角度θretmpとロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて式(9)により電流指令角度θreを計算し、仮電流指令大きさIretmpと電流指令角度θreとを用いて、式(11),(12)の「Ire」を「Iretmp」に置き換えたものによりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算するものとしてもよい。この場合のd軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpとd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係の一例を図9に示す。この場合でも、ロータ22aの電気角θeを目標電気角θe*の変化にある程度追従させることができる。
【実施例2】
【0041】
次に、本発明の第2実施例としての電気自動車20Bについて説明する。第2実施例の電気自動車20Bは、図1を用いて説明した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第2実施例の電気自動車20Bのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0042】
第2実施例の電気自動車20Bでは、電子制御ユニット40は、図6の電流指令設定処理に代えて図10の電流指令設定処理を実行する。図10の電流指令設定処理は、ステップS360の処理に代えてステップS400〜S420の処理を実行する点を除いて図6の電流指令設定処理と同一である。したがって、図6の電流指令設定処理と同一の処理については同一のステップ番号を付し詳細な説明は省略する。
【0043】
図10の電流指令設定処理では、ステップS350で電流指令角度θreを計算すると、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるか否かを判定する(ステップS400)。登坂路でアクセル開度Accが保持されているときを考えれば、位相ωpが値0〜πの範囲内にあるときには、ロータ22aが負回転する方向(車両が坂路を下る方向)に目標電気角θe*は変化する。このため、目標電気角θe*が初期電気角θsetから所定電気角(θset−π)に向けて変化していて且つ所定電気角(θset−π)に近いときには、目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようモータ22を制御する周期的変化制御の実行により、車重の車両前後方向の分力(車重分力)によって電気角θeが所定電気角(θset−π)を超えて小さくなってしまう可能性がある。ステップS400の位相ωpがπ/2以上でπ以下であるか否かの判定は、この可能性の有無を判定する処理である。位相ωpがπ/2以上でπ以下でないときには、この可能性は低いと判断し、仮電流指令大きさIretmpを電流指令大きさIreに設定し(ステップS410)、電流指令大きさIreと電流指令角度θreとを用いて式(11),(12)によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算して(ステップS370)、電流指令設定処理を終了する。一方、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるときには、電気角θeが所定電気角(θset−π)を超えて小さくなってしまう可能性があると判断し、値1より大きな補正係数Kad(例えば、値1.1や値1.2など)を仮電流指令大きさIretmpに乗じて電流指令大きさIreを計算し(ステップS420)、電流指令大きさIreと電流指令角度θreとを用いて式(11),(12)によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算して(ステップS370)、電流指令設定処理を終了する。このように、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるときには、仮電流指令大きさIretmpよりも大きな電流指令大きさIreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御することにより、仮電流指令絶対値Iretmpに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するものに比してモータ22から出力されるトルク(車両が坂路を上る方向のトルク)が大きくなるから、ロータ22aが負回転する(車両が坂路を下る方向に移動する)際に車重分力によってロータ22aの回転数Nmの絶対値が大きくなるのを抑制することができ、ロータ22aの電気角θeが所定電気角(θset−π)を超えて小さくなるのを抑制することができる。
【0044】
以上説明した第2実施例の電気自動車20Bによれば、周期的変化制御を実行する際に、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるときには、トルク指令Tm*に基づく仮電流指令大きさIretmpよりも大きな電流指令大きさIreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するから、ロータ22aの電気角θeが所定電気角(θset−π)を超えて小さくなるのを抑制することができる。
【0045】
第2実施例の電気自動車20Bでは、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるときには、補正係数Kad(例えば、値1.1や値1.2など)を仮電流指令大きさIretmpに乗じて電流指令大きさIreを計算するものとしたが、仮電流指令大きさIretmpよりも大きな電流指令大きさIreを設定するものであればよく、例えば、正の所定値ΔIreを仮電流指令大きさIretmpに加えて電流指令大きさIreを計算するものとしてもよい。
【0046】
第2実施例の電気自動車20Bでは、位相ωpがπ/2以上でπ以下であるときに、仮電流指令大きさIretmpより大きな電流指令大きさIreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定するものとしたが、ロータ22aの電気角θeが所定電気角(θset−π)を超えて小さくなるのを抑制することができる位相ωpの範囲で仮電流指令大きさIretmpより大きな電流指令大きさIreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定するものであればよく、例えば、位相ωpが2π/3以上でπ以下であるときや位相ωpが値0より大きくπ以下であるときなどに、仮電流指令大きさIretmpより大きな電流指令大きさIreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定するものとしてもよい。
【実施例3】
【0047】
次に、本発明の第3実施例としての電気自動車20Cについて説明する。第3実施例の電気自動車20Cは、図1を用いて説明した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第3実施例の電気自動車20Cのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0048】
第3実施例の電気自動車20Cでは、電子制御ユニット40は、図6の電流指令設定処理に代えて図11の電流指令設定処理を実行する。図11の電流指令設定処理は、ステップS500〜S550の処理を追加した点を除いて図6の電流指令設定処理と同一である。したがって、図6の電流指令設定処理と同一の処理については同一のステップ番号を付し詳細な説明は省略する。
【0049】
図11の電流指令設定処理では、ステップS350で目標電気角θe*を設定すると、位相ωpが値0より大きくπ以下であるか否かを判定し(ステップS500)、位相ωpが値0より大きくπ以下であるときには、目標電気角θe*とロータ22aの電気角θeとの差分Δθeを計算すると共に(ステップS510)、計算した差分Δθeを閾値θrefと比較する(ステップS520)。ここで、ステップS500の判定は、ロータ22aが負回転する方向(車両が坂路を下る方向)に目標電気角θe*が変化しているか否かを判定する処理である。また、ステップS520の閾値θrefは、ロータ22aの電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しているか否かを判定するために用いられるものであり、車両の仕様などにより定められる。車両が坂路を下る方向に車止めなどの障害物があるときには、ロータ22aが負回転している(車両が坂路を下っている)最中にロータ22aの電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しなくなることがある。ステップS500,S520の判定は、ロータ22aが負回転する方向(車両が坂路を下る方向)に目標電気角θe*が変化しているときに電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しているか否かを判定する処理である。
【0050】
差分Δθeが閾値θref以下のときには、ロータ22aの電気角θeは目標電気角θe*の変化に追従していると判断し、電流指令角度θreと電流指令大きさIreとを計算すると共に(ステップS350,S360)、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算して(ステップS370)、電流指令設定処理を終了する。この場合、周期的変化制御を実行することになる。
【0051】
一方、ステップS520で差分Δθeが閾値θrefより大きいときには、電気角θeは目標電気角θe*の変化に追従していないと判断し、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に共に値0を設定して(ステップS530)、電流指令設定処理を終了する。この場合、モータ22の各相には電流を流さない、即ち、周期的変化制御を中断することになる。これにより、車止めなどの障害物によって車両が坂路を下る方向に移動しないにも拘わらず周期的変化制御を実行するのを抑制することができ、モータ22に無駄な電流を流すのを抑制できる。この結果、モータ22やインバータ24の発熱や温度上昇をより抑制することができる。
【0052】
ステップS500で位相ωpが値0より大きくπ以下でないとき、即ち、位相ωpがπより大きく2π(値0)以下のときには、前回のd軸,q軸の電流指令(前回Id*),(前回Iq*)が値0であるか否かを判定する(ステップS540)。この判定は、周期的変化制御を中断しているか否かを判定する処理である。前回のd軸,q軸の電流指令(前回Id*),(前回Iq*)が値0でないときには、周期的変化制御を中断していないと判断し、ステップS350〜S370の処理を実行して電流指令設定処理を終了する。
【0053】
一方、前回のd軸,q軸の電流指令(前回Id*),(前回Iq*)が値0であるときには、目標電気角θe*を電気角θeと比較する(ステップS550)。この比較は、一旦中断した周期的変化制御を再開するか否かを判定する処理である。目標電気角θe*が電気角θe以下のときには、周期的変化制御を再開しないと判断し、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に共に値0を設定して(ステップS530)、電流指令設定処理を終了し、目標電気角θe*が電気角θeより大きいときには、周期的変化制御を再開すると判断し、ステップS350〜S370の処理を実行して電流指令設定処理を終了する。
【0054】
図12は、ロータ22aが負回転する方向(車両が坂路を下る方向)に車止めなどの障害物があるときの、目標電気角θe*と電気角θeと周期的変化制御の実行の有無の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図示するように、回転停止温度上昇条件が成立した時刻t0以降は、周期的変化制御の実行によりロータ22aの電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従し、車止めなどの障害物によって時刻t1に電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しなくなると周期的変化制御の実行を中断する。そして、目標電気角θe*が電気角θeより大きくなった時刻t2に周期的変化制御の実行を再開すると、ロータ22aの電気角θeは再び目標電気角θe*の変化に追従する。このようにモータ22を制御することにより、車両が坂路を下る方向に移動しないにも拘わらずモータ22に無駄な電流を流すのを抑制することができ、モータ22やインバータ24の発熱や温度上昇をより抑制することができる。
【0055】
第3実施例の電気自動車20Cによれば、周期的変化制御を実行している最中に電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しなくなったときには、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に共に値0を設定してモータ22を制御するから、車止めなどの障害物によって車両が坂路を下る方向に移動しないにも拘わらずモータ22に無駄な電流を流すのを抑制でき、モータ22やインバータ24の発熱や温度上昇をより抑制することができる。
【0056】
第3実施例の電気自動車20Cでは、周期的変化制御を実行している最中に電気角θeが目標電気角θe*の変化に追従しなくなったときには、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に共に値0を設定してモータ22を制御するものとしたが、回転停止温度上昇条件が成立していないときと同様にモータ22を制御するものとしてもよい。この場合、図11の電流指令設定処理のステップS530の処理に代えて、d軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpをそのままd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に設定する処理を実行するものとすればよい。この場合でも、車止めなどの障害物によって車両が坂路を下る方向に移動しないにも拘わらず周期的変化制御を実行するのを抑制することができる。周期的変化制御を実行するときには、トルク指令Tm*に対応する仮電流指令角度θretmpとは異なる電流指令角度θreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するため、トルク指令Tm*に対応するトルクとは異なるトルクがモータ22から出力される。この変形例では、車止めなどの障害物によって車両が坂路を下る方向に移動しないときには、周期的変化制御を中断してトルク指令Tm*に対応するトルクがモータ22から出力されるようモータ22を制御することにより、このときにアクセルペダル53が大きく踏み込まれて開度差分ΔAccが閾値Aref以上になったときに、よりスムーズに走行を開始することができる。
【0057】
第3実施例の電気自動車20Cでは、周期的制御を実行するときには、前述の式(9)により電流指令角度θreを計算し、式(10)により電流指令大きさIreを計算し、電流指令大きさIreと電流指令角度θreとを用いて式(11),(12)によりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算するものとしたが、式(9)により電流指令角度θreを計算し、仮電流指令大きさIretmpと電流指令角度θreとを用いて、式(11),(12)の「Ire」を「Iretmp」に置き換えたものによりd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を計算するものとしてもよい。この場合でも、ロータ22aの電気角θeを目標電気角θe*の変化にある程度追従させることができる。
【実施例4】
【0058】
次に、本発明の第4実施例としての電気自動車20Dについて説明する。第4実施例の電気自動車20Dは、図1を用いて説明した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第4実施例の電気自動車20Dのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0059】
第4実施例の電気自動車20Dでは、電子制御ユニット40は、図3の駆動制御ルーチンに代えて図13の駆動制御ルーチンを実行する。図13の駆動制御ルーチンでは、電子制御ユニット40のCPU42は、まず、図3の駆動制御ルーチンのステップS100の処理と同様に、アクセル開度Accや車速V,ロータ22aの電気角θe,モータ22の回転数Nm,モータ22の三相コイルのU相,V相に流れる相電流Iu,Ivなど制御に必要なデータを入力すると共に入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて図4の要求トルク設定用マップを用いて駆動軸32に出力すべき要求トルクTd*を設定する(ステップS600,S610)。
【0060】
続いて、条件成立フラグFの値を調べ(ステップS620)、条件成立フラグFが値0のときには、図3の駆動制御ルーチンのステップS150〜S170の処理と同様に、モータ22の回転数Nmの絶対値を閾値Nrefと比較すると共にモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)を閾値Trefと比較し、モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上のときにはこの状態が所定時間に亘って継続したか否かを判定する(ステップS630〜S650)。
【0061】
モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nrefより大きいときや、モータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref未満のとき,モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が未だ所定時間に亘って継続していないときには、条件成立フラグFに値0を設定すると共に(ステップS660)、設定した要求トルクTd*をモータ22のトルク指令Tm*に設定する(ステップS680)。
【0062】
そして、図3の駆動制御ルーチンのステップS130,S200,S270〜S290の処理と同様に、ステップS770〜810の処理を実行して駆動制御ルーチンを終了する。即ち、モータ22の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0として電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに前述の式(1)により座標変換(3相−2相変換)し(ステップS770)、モータ22のトルク指令Tm*に基づいて図5の電流指令設定用マップを用いてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し(ステップS780)、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*と電流Id,Iqとを用いて式(2)および式(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し(ステップS790)、電気角θeを用いてd軸およびq軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に式(4)および式(5)により座標変換(2相−3相変換)し(ステップS800)、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ24のトランジスタTr1〜Tr6をスイッチングするためのPWM信号に変換してインバータ24のトランジスタTr1〜Tr6に出力することによりモータ22を駆動制御して(ステップS810)、駆動制御ルーチンを終了する。
【0063】
ステップS630〜S650でモータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が所定時間に亘って継続した回転停止温度上昇条件が成立したときには、条件成立フラグFに値1を設定し(ステップS690)、現在のロータ22aの電気角θe,現在のアクセル開度Accをそれぞれ初期電気角θset,初期開度Asetに設定し(ステップS700)、条件成立後時間tをリセットして計時を開始し(ステップS710)、アクセル開度Accと初期開度Asetとの差分を開度差分ΔAccに設定すると共に(ステップS720)、設定した開度差分ΔAccを閾値Arefと比較する(ステップS730)。
【0064】
開度差分ΔAccが閾値Aerfより小さいときには、図6の電流指令設定処理のステップS330,S340の処理と同様に、位相ωpを設定すると共に設定した位相ωpに基づいて目標電気角θe*を計算し(ステップS740,S750)、要求トルクTd*とロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*とを用いて次式(13)によりトルク指令Tm*を計算し(ステップS760)、ステップS770〜S810の処理を実行して駆動制御ルーチンを終了する。ここで、式(13)は、ロータ22aの電気角θeと目標電気角θe*との差分を打ち消すためのフィードバックの関係式であり、式(13)中、「Kp4」は比例項のゲインである。このようにモータ22を制御することにより、第1実施例の電気自動車20と同様の効果を奏することができる。即ち、モータ22のロータ22aの電気角θeを目標電気角θe*の変化に追従させることができ、モータ22の三相コイルの特定の相にだけ大きな電流が流れるのを抑制することができ、モータ22やインバータ24の過度の温度上昇を抑制することができると共に、アクセル開度Accがある程度の時間に亘って保持されたときでも車両の前後方向の移動距離が長くなるのを抑制することができる。
【0065】
【数6】

【0066】
ステップS730で開度差分ΔAccが閾値Aref以上のときには、運転者による走行用の駆動要求が変化したと判断し、条件成立フラグFに値0を設定し(ステップS660)、ステップS660以降の処理を実行する。そして、次回以降にこの電流指令設定処理が実行されたときには、ステップS620で条件成立フラグFが値0であり、ステップS630以降の処理を実行する。
【0067】
以上説明した第4実施例の電気自動車20Dによれば、回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようモータ22のトルク指令Tm*を設定してモータ22を制御するから、モータ22やインバータ24の過度の温度上昇を抑制することができると共にその際の車両の前後方向の移動距離が長くなるのを抑制することができる。
【0068】
第1実施例〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、周期的変化制御を実行している最中にロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲から外れたときについては考慮していないが、このときには、周期的変化制御の実行を終了するものとしてもよい。この場合、例えば、図3の駆動制御ルーチンにおいて、ステップS250で開度差分ΔAccが閾値Aref未満のときに、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset以下で且つ所定電気角(θset−π)以上であるか否かを判定し、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset以下で且つ所定電気角(θset−π)以上であるときにはステップS260以降の処理を実行し、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θsetより大きいときや、ロータ22aの電気角θeが所定電気角(θset−π)より小さいときには、ステップS180以降の処理を実行するものとしてもよい。周期的変化制御を実行するときには、トルク指令Tm*に対応する仮電流指令角度θretmpとは異なる電流指令角度θreに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するため、トルク指令Tm*に対応するトルクとは異なるトルクがモータ22から出力される。このため、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲から外れたときには、運転者に違和感を与えないようにするために、周期的変化制御を終了して、トルク指令Tm*に対応するトルクがモータ22から出力されるようにすることが望ましい。このことを考慮して、この変形例では、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲から外れたときには、周期的変化制御を終了するものとした。
【0069】
第1実施例〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、アクセル開度Accと初期開度Asetとの差分である開度差分ΔAccが閾値Aref以上となったときに周期的変化制御を終了するものとしたが、これに代えてまたは加えて、要求トルクTd*と周期的変化制御の実行を開始するときの要求トルクTd*である初期要求トルクTsetとの差分であるΔTdが閾値Tdref以上となったときに周期的変化制御を終了するものとしてもよい。ここで、閾値Tdrefは、運転者による走行用の駆動要求が変化したか否かを判定するために用いられるものであり、車両の仕様などにより定められる。
【0070】
第1実施例〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、回転停止温度上昇条件が成立したときには、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で正弦波状に変化するようモータ22を制御するものとしたが、正弦波状に変化するようモータ22を制御するものに限られず、例えば、ロータ22aの電気角θeが初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で所定量ずつ変化するようモータ22を制御するものなどとしてもよい。
【0071】
第1実施例〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、目標電気角θe*が変化する範囲は、初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲としたが、これに限られず、初期電気角θsetまたは初期電気角θsetよりも若干正側の電気角と、モータ22の相電流の状態が初期電気角θsetにおける状態とは異なる状態となる電気角と、を境界とする範囲であればよく、例えば、初期電気角θset〜所定電気角(θset−π/2)の範囲としたり、初期電気角θset〜所定電気角(θset−2π/3)の範囲としたりするものとしてもよい。なお、目標電気角θe*が変化する範囲は、車両の前後方向の移動距離をできるだけ短くするためには、できるだけ狭い方が望ましい。
【0072】
第1実施例〜第4実施例では、駆動軸32に動力を出力するモータ22を備える電気自動車20〜20Dについて説明したが、図14の変形例の電気自動車120に例示するように、駆動軸32に遊星歯車機構126を介してエンジン122とモータ124とを接続した電気自動車120に適用するものとしてもよい。この電気自動車120では、エンジン122とモータ124とモータ22の制御としては、要求トルクTd*に対応する要求動力とバッテリ26の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン122から出力されるようにエンジン122を制御すると共にエンジン122から出力される動力の全部またはその一部が遊星歯車機構126とモータ124とモータ22とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータ124およびモータ22を制御するエンジン運転モードや、エンジン122の運転を停止して要求動力に見合う動力をモータ22から駆動軸32に出力するようモータ22を制御するモータ運転モードなどがある。ここで、電気自動車20〜20Cに代えて電気自動車120に第1実施例〜第3実施例の制御を適用する場合には、モータ運転モードでは図3の駆動制御ルーチンのステップS120の処理と同様にモータ22のトルク指令Tm*を設定し、エンジン運転モードでは要求トルクTd*とその要求トルクTd*のうちエンジン122から遊星歯車機構126を介して駆動軸32に出力されるトルク(直達トルク)Terとの差分のトルクをモータ22のトルク指令Tm*に設定すればよい。なお、トルク指令Tm*を用いたモータ22の制御は、第1実施例〜第3実施例の制御と同様に行なうことができる。また、電気自動車20Dに代えて電気自動車120に第4実施例の制御を適用する場合には、モータ運転モードでは図13の駆動制御ルーチンのステップS680,S760の処理と同様にモータ22のトルク指令Tm*を設定し、エンジン運転モードではステップS680,S760で要求トルクTd*に代えて要求トルクTd*と直達トルクTerとの差分のトルクを用いてモータ22のトルク指令Tm*を設定すればよい。なお、トルク指令Tm*を用いたモータ22の制御は、第4実施例の制御と同様に行なうことができる。
【0073】
また、こうした自動車に適用するものに限定されるものではなく、列車など自動車以外の車両の形態としても構わない。さらに、こうした車両の制御方法の形態としてもよい。
【0074】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ22が「電動機」に相当し、モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が所定時間に亘って継続した回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御する図3の駆動制御ルーチンを実行する電子制御ユニット40が「制御手段」に相当する。また、回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようモータ22のトルク指令Tm*を設定してモータ22を制御する図13の駆動制御ルーチンを実行する電子制御ユニット40も「制御手段」に相当する。
【0075】
ここで、「電動機」としては、モータ22に限定されるものではなく、駆動輪に連結された駆動軸に動力を出力可能なものであれば如何なるものとしても構わない。また、「モータ22の回転数Nmの絶対値が閾値Nref以下でモータ22の前回のトルク指令(前回Tm*)が閾値Tref以上の状態が所定時間に亘って継続した回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定してモータ22を制御するものに限定されるものではなく、回転停止温度上昇条件が成立したときには、位相ωpの変化に伴って初期電気角θset〜所定電気角(θset−π)の範囲を位相ωpの2πの周期で変化する目標電気角θe*の変化にロータ22aの電気角θeが追従するようモータ22のトルク指令Tm*を設定してモータ22を制御するものとするなど、電動機が略回転停止していて電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、回転停止温度上昇条件が成立したときの電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を電動機の電気角が所定の周期で変化するよう電動機を制御する周期的変化制御を実行するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0076】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0077】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、車両の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】第1実施例の電気自動車20の電気系を中心とする構成図である。
【図3】電子制御ユニット40により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】電流指令設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】電流指令設定処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】位相ωpと目標電気角θe*との関係の一例を示す説明図である。
【図8】d軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpとd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係の一例を示す説明図である。
【図9】変形例のd軸,q軸の仮電流指令Idtmp,Iqtmpとd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係の一例を示す説明図である。
【図10】第2実施例の電流指令設定処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】第3実施例の電流指令設定処理の一例を示すフローチャートである。
【図12】ロータ22aが負回転する方向(車両が坂路を下る方向)に車止めなどの障害物があるときの、目標電気角θe*と電気角θeと周期的変化制御の実行の有無の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図13】第4実施例の駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図14】変形例の電気自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0080】
20,20B,20C,20D,120 電気自動車、22 モータ、22U,22V 電流センサ、22a ロータ、22b ステータ、23 回転位置検出センサ、24 インバータ、26 バッテリ、30a,30b 駆動輪、31 デファレンシャルギヤ、32 駆動軸、40 電子制御ユニット、42 CPU、44 ROM、46 RAM、50 イグニッションスイッチ、51 シフトレバー、52 シフトポジションセンサ、53 アクセルペダル、54 アクセルペダルポジションセンサ、55 ブレーキペダル、56 ブレーキペダルポジションセンサ、58 車速センサ、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、D1〜D6 ダイオード、Tr1〜Tr6 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に連結された駆動軸に動力を出力可能な電動機と、
前記電動機が略回転停止していて該電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、該回転停止温度上昇条件が成立したときの前記電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を前記電動機の電気角が所定の周期で変化するよう該電動機を制御する周期的変化制御を実行する制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
前記制御手段は、前記周期的変化制御として、前記所定の角度範囲を前記所定の周期で変化する目標電気角を設定し、前記電動機の電気角が該設定した目標電気角の変化に追従するトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する手段である請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記制御手段は、前記駆動軸に要求される要求トルクに基づいて前記電動機のトルク指令を設定し、前記周期的変化制御を実行する際、前記設定したトルク指令に基づいてd軸,q軸の電流指令の仮の値である仮電流指令を設定し、該設定したd軸の仮電流指令と該設定したq軸の仮電流指令との比と前記q軸とに基づく角度である仮電流指令角度を設定し、該設定した仮電流指令角度を前記電動機の電気角と前記目標電気角とに基づいて補正した角度である電流指令角度を設定し、該設定した電流指令角度に基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定し、該設定したd軸,q軸の電流指令に基づいて前記電動機を制御する手段である請求項2記載の車両。
【請求項4】
前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行する際、前記電動機に通電すべき電流の大きさの仮の値である仮電流指令大きさを前記d軸,前記q軸の仮電流指令に基づいて設定し、該設定した仮電流指令大きさを前記電動機の電気角と前記目標電気角とに基づいて補正した大きさである電流指令大きさを設定し、該設定した電流指令大きさと前記設定した電流指令角度とに基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定する手段である請求項3記載の車両。
【請求項5】
前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中であって前記目標電気角が前記車両が登坂路を下る方向である車両下り方向に変化していて且つ前記目標電気角が前記所定の角度範囲の前記車両下り方向側の境界を含む第2の所定の角度範囲内にあるときには、前記設定した仮電流指令大きさよりも大きな電流指令大きさと前記設定した電流指令角度とに基づいて前記d軸,前記q軸の電流指令を設定する手段である請求項3記載の車両。
【請求項6】
前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中であって前記目標電気角が前記車両が登坂路を下る方向である車両下り方向に変化しているときに前記電動機の電気角が前記目標電気角の変化に追従しなくなったときには前記周期的変化制御を中断し、該中断後に前記目標電気角が前記車両が登坂路を上る方向である車両上り方向に変化していて該目標電気角が前記電動機の電気角に比して前記車両上り方向側の角度となったときに前記周期的変化制御を再開する手段である請求項2または3記載の車両。
【請求項7】
前記制御手段は、前記回転停止温度上昇条件が成立したときであって前記周期的変化制御の実行を中断しているときには、前記電動機に電流が流れないよう該電動機を制御する手段である請求項6記載の車両。
【請求項8】
前記制御手段は、前記回転停止温度上昇条件が成立したときには、前記駆動軸に要求されるトルクに基づくトルクと、前記電動機の電気角と前記目標電気角との差分を打ち消すためのトルクと、の和を前記電動機のトルク指令に設定し、該設定したトルク指令で前記電動機が駆動されるよう該電動機を制御する手段である請求項2記載の車両。
【請求項9】
前記制御手段は、前記周期的変化制御を実行している最中に前記電動機の電気角が前記所定の角度範囲から外れたときには前記周期的変化制御を終了する手段である請求項1ないし8のいずれか1つの請求項に記載の車両。
【請求項10】
前記制御手段は、前記回転停止温度上昇条件が成立したときのアクセル操作量である初期アクセル操作量に対して該アクセル操作量が所定量以上大きくなったときには前記周期的変化制御を終了する手段である請求項1ないし9のいずれか1つの請求項に記載の車両。
【請求項11】
前記所定の角度範囲は、前記初期電気角と、前記電動機の相電流の状態が前記初期電気角における状態とは異なる状態となる所定の電気角と、を境界とする範囲である請求項1ないし10のいずれか1つの請求項に記載の車両。
【請求項12】
前記回転停止温度上昇条件は、前記電動機が略回転停止していて該電動機から所定トルク以上のトルクが出力されている状態が所定時間に亘って継続したときに成立する条件である請求項1ないし11のいずれか1つの請求項に記載の車両。
【請求項13】
駆動輪に連結された駆動軸に動力を出力可能な電動機を備える車両の制御方法であって、
前記電動機が略回転停止していて該電動機の温度上昇が想定される回転停止温度上昇条件が成立したときには、該回転停止温度上昇条件が成立したときの前記電動機の電気角である初期電気角を含む所定の角度範囲を前記電動機の電気角が所定の周期で変化するよう該電動機を制御する周期的変化制御を実行する、
ことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−22179(P2010−22179A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183013(P2008−183013)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】