説明

車両用駆動装置

【課題】 エンジンの出力を電動機および出力軸へ分配する差動作用が作動可能な差動機構を備える車両用駆動装置において、その駆動装置を小型化できたり、或いはまた燃費を向上させる。
【解決手段】 切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を備えることで、変速機構10が無段変速状態と有段変速状態とに切り換えられて、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。また、エンジン回転速度Nを増速して差動部11へ入力する増速部32が備えられることにより、エンジン出力Pを低下させることなく差動部11へ入力されるエンジントルクTを低下させられ得るので、エンジントルクTの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機M1のトルク容量が小さくされて、一層第1電動機M1の小型化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動作用が作動可能な差動機構と電動機とを備える車両用駆動装置に係り、特に、電動機などを小型化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動機構と、その差動機構の出力軸と駆動輪との間に設けられた第2電動機とを、備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置がそれである。このようなハイブリッド車両用駆動装置では、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、その差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、そのエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより変速比が連続的に変更される変速機として機能させられ、例えば電気的な無段変速機として機能させられ、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させることが可能となり、燃費が向上させられる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−127681号公報
【特許文献2】特表2005−500481号公報
【特許文献3】特開2001−339805号公報
【特許文献4】特開平8−183356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に示すようなハイブリッド車両用駆動装置では、電気的な無段変速機として機能させるために、第1電動機においてエンジントルクに応じた反力トルクを発生させる必要がある。そうすると、エンジンの高出力化に伴い、第1電動機が受け持つべきエンジントルクの最大値に対する反力トルクが大きくされて、言い換えれば、第1電動機のトルク容量がエンジントルクの最大値に対する反力トルクに対応させる為に大きくされて、第1電動機を大型化する必要が生じる可能性があった。
【0005】
また、別の考え方として、一般に、無段変速機は車両の燃費を良くする装置として知られている一方、有段式自動変速機のような歯車式伝動装置は伝達効率が良い装置として知られている。しかし、それ等の長所を兼ね備えた動力伝達機構は未だ存在しなかった。例えば、上記特許文献1に示すようなハイブリッド車両用駆動装置では、第1電動機から第2電動機への電気エネルギの電気パスすなわち車両の駆動力の一部を電気エネルギで伝送する伝送路を含むため、エンジンの高出力化に伴ってその第1電動機を大型化させねばならないとともに、その第1電動機から出力される電気エネルギにより駆動される第2電動機も大型化させねばならないので、駆動装置が大きくなるという問題があった。或いは、エンジンの出力の一部が一旦電気エネルギに変換されて駆動輪に伝達されるので、高速走行などのような車両の走行条件によってはかえって燃費が悪化する可能性があった。上記動力分配機構が電気的に変速比が変更される変速機例えば電気的CVTと称されるような無段変速機として使用される場合も、同様の課題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの出力を電動機および出力軸へ分配する差動作用が作動可能な差動機構を備える車両用駆動装置において、その駆動装置を小型化できたり、或いはまた燃費を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部を備えた車両用駆動装置であって、(b) 前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、そのエンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構を、含むことにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、エンジンと差動機構との間の動力伝達経路に、エンジン回転速度を増速して差動機構へ入力する増速機構が備えられることにより、その増速機構を介してエンジン回転速度とエンジントルクとの積で定められるエンジン出力が差動機構へ入力されるため、そのエンジン出力を低下させることなく差動機構へ入力されるエンジントルクを低下させられ得るので、無段変速部を電気的な無段変速機として作動させる為の第1電動機が受け持つべきエンジントルクの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機のトルク容量が小さくされて、第1電動機の小型化が可能になる。よって、駆動装置全体として小型化が可能になる。
【0009】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部を備えた車両用駆動装置であって、(b) 前記差動機構に備えられ、前記無段変速部を電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と前記無段変速部を電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、(c) 前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、そのエンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構とを、含むことにある。
【0010】
このようにすれば、差動状態切換装置により車両の駆動装置内の無段変速部が、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とその電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とに選択的に切り換えられることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域では、上記無段変速部が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行では無段変速部が非無段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また例えば、高出力走行において上記無段変速部を非無段変速状態とすると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0011】
また、前記無段変速状態と前記非無段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部を備えた上記車両用駆動装置において、エンジンと差動機構との間の動力伝達経路に、エンジン回転速度を増速して差動機構へ入力する増速機構が備えられることにより、その増速機構を介してエンジン出力が差動機構へ入力されるため、そのエンジン出力を低下させることなく差動機構へ入力されるエンジントルクを低下させられ得るので、無段変速部を電気的な無段変速機として作動させる為の第1電動機が受け持つべきエンジントルクの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機のトルク容量が小さくされて、一層第1電動機の小型化が可能になる。よって、エンジン出力を低下させることなく駆動装置全体として一層小型化が可能になる。
【0012】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有する差動部を備えた車両用駆動装置であって、(b) 前記差動機構に備えられ、前記差動部を差動作用が働く差動状態とその差動作用をしない非差動状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、(c) 前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、そのエンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構とを、含むことにある。
【0013】
このようにすれば、差動状態切換装置により差動作用が作動可能な差動状態とその差動作用が作動されない非差動状態例えばロック状態とに差動部が選択的に切り換えられることから、電気的に変速比が変更させられる変速機の燃費改善効果と機械的に動力を伝達する歯車式伝動装置の高い伝達効率との両長所を兼ね備えた駆動装置が得られる。例えば、車両の低中速走行および低中出力走行となるようなエンジンの常用出力域では、上記差動部が差動状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行ではその差動部が非差動状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジンの出力が駆動輪へ伝達されて電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されるので、燃費が向上させられる。また例えば、高出力走行において上記差動部を非差動状態とすると、電気的に変速比が変更させられる変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、電動機が発生すべき電気的エネルギ換言すれば電動機が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできてその電動機或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0014】
また、前記差動状態と前記非差動状態とに切換え可能に構成される差動部を備えた上記車両用駆動装置において、エンジンと差動機構との間の動力伝達経路に、エンジン回転速度を増速して差動機構へ入力する増速機構が備えられることにより、その増速機構を介してエンジン出力が差動機構へ入力されるため、そのエンジン出力を低下させることなく差動機構へ入力されるエンジントルクを低下させられ得るので、差動部を差動作用が作動可能な例えば電気的な差動装置として作動させる為の第1電動機が受け持つべきエンジントルクの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機のトルク容量が小さくされて、一層第1電動機の小型化が可能になる。よって、エンジン出力を低下させることなく駆動装置全体として一層小型化が可能になる。
【0015】
また、請求項4にかかる発明では、前記伝達部材と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速部をさらに含むものである。このようにすれば、前記無段変速部或いは差動部の変速比と自動変速部の変速比とに基づいて駆動装置の総合変速比が形成され、その自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。また、これによって、例えば無段変速部における無段変速制御の効率が一層高められる。或いはまた、前記第2電動機が前記伝達部材に連結され、且つ自動変速部がその設定可能な変速比が1より大きい減速変速機であると、第2電動機の出力トルクは自動変速部の出力軸に対して低トルクの出力でよいので、第2電動機が小型化され得る。
【0016】
また、請求項5にかかる発明では、前記増速機構に備えられ、その増速機構の変速比を切り換え可能に構成する増速状態切換装置をさらに含むものである。このようにすれば、エンジン回転速度を増速して差動機構へ入力する必要があるときのみ、増速機構の変速比を切り換えられ得る。
【0017】
また、請求項6にかかる発明では、前記増速状態切換装置は、前記増速機構をエンジン回転速度が増速される変速比となる増速状態と、エンジン回転速度が増速されない変速比となる非増速状態とに切り換えるものであって、前記無段変速部が無段変速状態のときには、或いは前記差動部が差動状態のときには、前記増速機構を増速状態へ切り換えるものであり、前記無段変速部が非無段変速状態のときには、或いは前記差動部が非差動状態のときには、前記増速機構を非増速状態へ切り換えるものである。このようにすれば、少なくとも第1電動機を作動させる必要があるときには、すなわち第1電動機がエンジントルクに対する反力トルクを発生する必要があるときには、差動機構へ入力されるエンジントルクが低下させられるので、第1電動機の小型化が可能になる。また、例えば、第1電動機がエンジントルクに対する反力トルクを発生する必要がない無段変速部の非無段変速状態のときには、或いは差動部が非差動状態のときには、増速機構を非増速状態とすることができるので、増速機構の増速状態に比較して駆動装置の低速側ギヤ段においてより大きな変速比が得られたり、或いはまた自動変速部への入力回転速度がより低回転速度とされて自動変速部の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ここで、好適には、前記無段変速部は、前記差動状態切換装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで電気的な無段変速作動可能な無段変速状態とされ、その差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされることで電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば有段変速状態とされるものである。このようにすれば、無段変速部が、無段変速状態と非無段変速状態とに切り換えられる。
【0019】
また、好適には、前記差動部は、前記差動状態切換装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることでその差動状態とされ、その差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされることでその非差動状態とされるものである。このようにすれば、差動部が、差動状態と非差動状態とに切り換えられる。
【0020】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記差動状態切換装置は、前記差動状態とするためにその第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とし、前記非差動状態例えばロック状態とするためにその第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いはその第2要素を非回転状態とするものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成される。
【0021】
また、好適には、前記差動状態切換装置は、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるために前記第1要素乃至第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するクラッチおよび/または前記第2要素を非回転状態とするために前記第2要素を非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられるように構成される。
【0022】
また、好適には、前記差動機構は、前記クラッチおよび前記ブレーキの解放により前記第1回転要素乃至第3回転要素を相互に相対回転可能な差動状態とされて電気的な差動装置とされ、前記クラッチの係合により変速比が1である変速機とされるか、或いは前記ブレーキの係合により変速比が1より小さい増速変速機とされるものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成されると共に、単段または複数段の定変速比を有する変速機としても構成され得る。
【0023】
また、好適には、前記差動機構動は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成され得る。
【0024】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0025】
また、前記無段変速部の無段変速状態において、無段変速部と前記自動変速部とで無段変速機が構成され、無段変速部の非無段変速状態において、無段変速部と自動変速部とで有段変速機が構成され得る。
【0026】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。また、変速機構10は、更に、エンジン8と差動部11との間の動力伝達経路でエンジン8のクランク軸9を介して直列に連結されている増速機構としての増速部32を更に備えている。
【0028】
この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、増速部32に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図5参照)との間に設けられて、エンジン8からの出力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。
【0029】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と増速部32とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0030】
差動部11は、第1電動機M1と、増速部32を介して入力軸14に入力されたエンジン8からの出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1はエンジントルクTに応じた反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0031】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0032】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されるとすなわち解放状態へ切り換えられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ回転可能とされ且つそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、入力軸14の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
【0033】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されるとすなわち係合状態へ切り換えられると、動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に連結されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、入力軸14の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0034】
次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合されて第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0035】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない非無段変速状態例えば電気的な無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動しないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。上記非連結状態には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が完全に解放されている状態以外に、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が半係合(スリップ)状態である場合も含めて良い。
【0036】
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0037】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0038】
増速部32は、例えば「0.300」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の増速部遊星歯車装置34と、等速クラッチC00および増速ブレーキB00とを主体的に備えている。この増速部遊星歯車装置34は、増速部サンギヤS0、増速部遊星歯車P0、その増速部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する増速部キャリヤCA0、増速部遊星歯車P0を介して増速部サンギヤS0と噛み合う増速部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。増速部サンギヤS0の歯数をZS0、増速部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0039】
この増速部32においては、増速部キャリヤCA0はクランク軸9すなわちエンジン8に連結され、増速部リングギヤR0は入力軸14に連結されている。また、増速ブレーキB00は増速部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、等速クラッチC00は増速部サンギヤS0と増速部キャリヤCA0との間に設けられている。
【0040】
そして、等速クラッチC00が係合されて増速部サンギヤS0と増速部キャリヤCA0とが一体的に連結されると、増速部32は増速部遊星歯車装置34の3要素である増速部サンギヤS0、増速部キャリヤCA0、増速部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされる。よって、エンジン回転速度Nと入力軸14の回転速度とが一致する状態となるので、増速部32は変速比γZが「1」に固定された変速機として機能する等速状態例えばエンジン回転速度Nが増速されない変速比γZとなる非増速状態とされる。
【0041】
また、等速クラッチC00に替えて増速ブレーキB00が係合されて増速部サンギヤS0がケース12に連結されると、増速部32は増速部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされる。よって、増速部リングギヤR0は増速部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、増速部32は増速機構として機能するものであり、増速部32は変速比γZが「1」より小さい値例えば0.77程度に固定された増速変速機として機能する増速状態例えばエンジン回転速度Nが増速される変速比γZとなる増速状態とされる。つまり、この増速部32は、増速ブレーキB00が係合されることにより、エンジン回転速度Nを増速して動力分配機構16すなわち差動部11へ入力する。
【0042】
このように、本実施例では、等速クラッチC00および増速ブレーキB00は、増速部32の変速比γZを切り換え可能に構成する増速状態切換装置として機能している。また、エンジン8から差動部11への動力伝達経路に、増速ブレーキB00の係合によってエンジン回転速度Nを増速して差動部11へ入力する増速部32が備えられることにより、その増速部32を介してエンジン回転速度NとエンジントルクTとの積で定められるエンジン出力Pが差動部11へ入力されるため、そのエンジン出力Pを低下させることなく差動部11へ入力されるエンジントルクTを低下させられ得る。
【0043】
ところで、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される差動部11の無段変速状態において、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられるために、第1電動機M1がその第1電動機M1に分配されたエンジントルクTに応じた反力トルクを発生させている。
【0044】
そこで、本実施例では、差動部11が無段変速状態のときには、増速部32は増速状態へ切り換えられる。これによって、少なくとも第1電動機M1が作動させられる差動部11の無段変速状態では、増速部32が非増速状態(等速状態)とされてエンジントルクTがそのまま差動部11に入力される場合に比較して、差動部11に入力されるエンジントルクTが小さくされる。従って、差動部11を電気的な無段変速機として作動させる為の第1電動機M1が受け持つべきエンジントルクTの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクTの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機M1のトルク容量が小さくされて、第1電動機M1の小型化が可能になる。
【0045】
前記等速クラッチC00、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、増速ブレーキB00、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0046】
以上のように構成された変速機構10において、特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な非無段変速状態(定変速状態)を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0047】
具体的には、差動部11が非無段変速状態とされて変速機構10が有段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ等速クラッチC00、第1クラッチC1、第2クラッチC2、増速ブレーキB00、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置の解放と変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置の係合とにより変速比が自動的に切り換えられるように、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第6速ギヤ段(第6変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速機構10の総合変速比γT(=クランク軸回転速度N/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。この変速機構10の総合変速比γTは、増速部32の変速比γZと差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γT(=クランク軸回転速度N/出力軸回転速度NOUT)である。
【0048】
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、等速クラッチC00、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、等速クラッチC00、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、等速クラッチC00、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、等速クラッチC00、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、等速クラッチC00、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられ、増速ブレーキB00、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ6が第5速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.542」程度である第6速ギヤ段が成立させられる。また、増速ブレーキB00、第2クラッチC2、および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の値例えば「2.135」程度である後進ギヤ段が成立させられる。この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0049】
また、差動部11が無段変速状態とされて変速機構10が無段変速機として機能する場合には、増速ブレーキB00が係合されて増速部32が増速機構として機能し、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0050】
例えば、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、増速ブレーキB00が係合され、且つ切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速(第5速、第6速における自動変速部20の係合装置の係合作動は第4速に同じ)の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0051】
図3は、増速機構として機能する増速部32と、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置34、24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち増速部32に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XZが入力軸14に連結された増速部32の出力回転速度すなわち増速部リングギヤR0の回転速度を示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0052】
また、増速部32の3つの要素に対応する3本の縦線YZ1、YZ2、YZ3は、左側から順に増速部第2回転要素(増速部第2要素)REZ2に対応する増速部サンギヤS0、増速部第1回転要素(増速部第1要素)REZ1に対応する増速部キャリヤCA0、増速部第3回転要素(増速部第3要素)REZ3に対応する増速部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は増速部遊星歯車装置34のギヤ比ρ0に応じて定められている。
【0053】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。
【0054】
さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。
【0055】
図3の共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、増速部32では縦線YZ1とYZ2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線YZ2とYZ3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0056】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、増速部32において、増速部遊星歯車装置34の増速部第1回転要素REZ1(増速部キャリヤCA0)がクランク軸9(エンジン8)に連結されるとともに等速クラッチC00を介して増速部第2回転要素(増速部サンギヤS0)REZ2と選択的に連結され、増速部第2回転要素REZ2が増速ブレーキB00を介してケース12に選択的に連結され、増速部第3回転要素(増速部リングギヤR0)REZ3が入力軸14に連結されて、クランク軸9の回転(エンジン回転速度N)を入力軸14を介して差動部11へ伝達する(入力させる)ように構成されている。
【0057】
この状態で、等速クラッチC00の係合により増速部サンギヤS0と増速部キャリヤCA0とが連結されると、増速部32は上記3回転要素REZ1、REZ2、REZ3が一体回転する等速状態(非増速状態)とされるので、縦線YZ2と横線X2の交点を通る斜めの直線LZ0は横線X2と一致させられ、その直線LZ0と縦線YZ3との交点で示される増速部リングギヤR0の回転速度すなわち入力軸14の回転速度は、エンジン回転速度Nと同じ回転で差動部11へ入力される。或いは、増速ブレーキB00の係合により増速部サンギヤS0の回転が停止させられると、増速部32は増速機構として機能する増速状態とされるので、直線LZ0は図3に示す状態となり、入力軸14の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で差動部11へ入力される。
【0058】
また、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0059】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により、少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される車速Vに拘束される第1リングギヤR1の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度すなわち入力軸14の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、入力軸14と同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合により第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第2回転要素RE2の回転が停止させられて少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって差動部11が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18の回転速度は、入力軸14の回転速度よりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0060】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0061】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、等速クラッチC00および切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度とされた入力軸14の回転速度と同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力が入力軸14の回転速度よりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。さらに、等速クラッチC00に替えて増速ブレーキB00が係合させられると、入力軸14の回転速度がエンジン回転速度よりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、増速ブレーキB00、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L6と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第6速の出力軸22の回転速度が示される。
【0062】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0063】
電子制御装置40には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)を表す信号、蓄電装置60(図5参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0064】
また、上記電子制御装置40からは、電子スロットル弁94のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置96によるエンジン8への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置98によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0065】
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(関係、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、等速クラッチC00および増速ブレーキB00と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを除いた変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を油圧制御回路42へ出力する。油圧制御回路42は、その指令に従って、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置を解放すると共に、変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路42内の電磁弁を作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0066】
ハイブリッド制御手段52は、無段変速制御手段として機能するものであり、変速機構10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0067】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて例えば記憶手段56に記憶された図示しないエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
【0068】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁94を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置96による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置98による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせて、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0070】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、前記図6の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図6中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0071】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図6の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図6から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクT域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。よって、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図6の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTとされる程大きくアクセルペダルが踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
【0072】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させられる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電容量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度Nが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52は車両走行中にエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速V(駆動輪38)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0076】
増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された前記図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が、或いは前記有段変速制御手段54により判断された変速機構10の変速されるべき変速段が、増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段或いは第6速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0077】
切換制御手段50は、車両状態に基づいて前記係合装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10(差動部11)の切り換えるべき変速状態を判断して、すなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
【0078】
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0079】
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0080】
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0081】
また、切換制御手段50は、車両状態に基づいて増速状態切換装置(等速クラッチC00、増速ブレーキB00)の係合/解放を切り換えることにより、増速部32の増速状態と非増速状態とを選択的に切り換える。
【0082】
例えば、切換制御手段50は、前記図6の切換線図から車両状態に基づいて変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であると判定した場合には、エンジン出力Pが同じであっても差動部11へ入力されるエンジントルクTが小さくされるために増速部32が増速状態とされるように、等速クラッチC00を解放させ且つ増速ブレーキB00を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。
【0083】
また、切換制御手段50は、前記図6の切換線図から車両状態に基づいて変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であると判定した場合には、エンジントルクTがそのまま差動部11へ入力されるために増速部32が非増速状態例えば等速状態とされるように、増速ブレーキB00を解放させ且つ等速クラッチC00を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。但し、切換制御手段50は、有段制御領域内であると判定した場合であっても、増速側ギヤ段判定手段62により第6速ギヤ段が判定された場合には、その第6速ギヤ段が得られるために増速部32が増速状態とされるように、等速クラッチC00を解放させ且つ増速ブレーキB00を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。
【0084】
ここで前記図6について詳述すると、図6は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0085】
また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0086】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには例えば切換ブレーキB0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクT1を越えたときには例えば切換クラッチC0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。
【0087】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の故障や機能低下、すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段50は、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下が発生したか否かを判定し、その故障や機能低下が発生したときには変速機構10を有段変速状態とする。
【0088】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度Gや、例えばアクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0089】
また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、前記判定トルクT1は、例えば車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジン8の高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0090】
図7は、エンジン回転速度NとエンジントルクTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有し、例えば記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図7の切換線図からエンジン回転速度NとエンジントルクTとに基づいて、それらのエンジン回転速度NとエンジントルクTとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図7は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図7の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
【0091】
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0092】
同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度Nが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTおよびエンジン回転速度Nから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
【0093】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0094】
また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0095】
つまり、前記所定値TE1が第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTの切換判定値として予め設定されると、エンジントルクTがその所定値TE1を超えるような高出力走行では、差動部11が有段変速状態とされるため、第1電動機M1は差動部11が無段変速状態とされているときのようにエンジントルクTに対する反力トルクを受け持つ必要が無いので、第1電動機M1の大型化が防止されつつその耐久性の低下が抑制される。言い換えれば、本実施例の第1電動機M1は、その最大出力がエンジントルクTの最大値に対して必要とされる反力トルク容量に比較して小さくされることで、すなわちその最大出力を上記所定値TE1を超えるようなエンジントルクTに対する反力トルク容量に対応させないことで、小型化が実現されている。
【0096】
尚、上記第1電動機M1の最大出力は、この第1電動機M1の使用環境に許容されるように実験的に求められて設定されている第1電動機M1の定格値である。また、上記エンジントルクTの切換判定値は、第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTの最大値またはそれよりも所定値低い値であって、第1電動機M1の耐久性の低下が抑制されるように予め実験的に求められた値である。
【0097】
また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図8に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度Nの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度Nの変化が楽しめる。
【0098】
図9は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち変速機構10の変速状態の切換制御作動と増速部32の切換制御作動とを説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0099】
先ず、前記切換制御手段50に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、実際の車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速となったか否かが判定される。
【0100】
上記S1の判断が否定される場合は同じく切換制御手段50に対応するS2において、実際のエンジントルクTが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域となったか否か、或いは駆動トルク或いは自動変速機20の出力トルクTOUTが予め設定された判定トルクT1以上の高トルク(高駆動力)となったか否かが判定される。
【0101】
上記S2の判断が否定される場合は同じく切換制御手段50に対応するS3において、第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パス(電気エネルギ伝達経路)に関連する機器の故障や機能低下が発生したか否かが判定される。
【0102】
上記S3の判断が否定される場合は前記切換制御手段50、ハイブリッド制御手段52、および有段変速制御手段54に対応するS4において、差動部11を無段変速状態として無段変速可能とされるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号が出力されるとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された無段変速時の変速が許可される。例えば、ハイブリッド制御手段52により目標出力を充足するために必要なエンジン出力を発生する変速機構10のトータル変速比γTの目標値が定められ、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0が制御される。また、例えば図6に示すような変速線図に従って有段変速制御手段54により自動変速部20が自動変速される。また、同時に、エンジン出力Pが同じであっても差動部11へ入力されるエンジントルクTが小さくされるために増速部32が増速状態とされるように、等速クラッチC00を解放させ且つ増速ブレーキB00を係合させる指令が油圧制御回路42へ出力される。
【0103】
このように、無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各変速段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各変速段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各変速段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。また、増速部32が増速状態とされるので、エンジントルクTの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機M1のトルク容量が小さくされて、第1電動機M1の小型化が可能になる。
【0104】
前記S1、S2、S3の判断のうちで少なくとも1つが肯定される場合は前記有段変速制御手段54に対応するS5において、変速機構10がいずれの変速段とされるかが、例えば図6に示す変速線図から車両状態に基づいて判断される。次いで、前記増速側ギヤ段判定手段68に対応するS6において、上記S5において判断された変速機構10の変速されるべき変速段が、増速側ギヤ段すなわち第5速ギヤ段或いは第6速ギヤ段であるか否かが判定される。
【0105】
上記S6の判断が肯定される場合は前記切換制御手段50および有段変速制御手段54に対応するS8において、差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7程度の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令が油圧制御回路42へ出力される。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御が不許可すなわち禁止とする信号が出力されるとともに、有段変速制御手段54に対しては、S5において判断された変速段に従って変速機構10全体として第5速ギヤ段或いは第6速ギヤ段とされるように自動変速部20を第4速ギヤ段に変速させる信号が出力される。また、同時に、S6にて第5速ギヤ段が判定された場合には、エンジントルクTがそのまま差動部11へ入力されるために増速部32が等速状態とされるように、増速ブレーキB00を解放させ且つ等速クラッチC00を係合させる指令が油圧制御回路42へ出力される。或いは、S6にて第6速ギヤ段が判定された場合には、その第6速ギヤ段が得られるために増速部32が増速状態とされるように、等速クラッチC00を解放させ且つ増速ブレーキB00を係合させる指令が油圧制御回路42へ出力される。
【0106】
前記S6の判断が否定される場合には前記切換制御手段50および有段変速制御手段54に対応するS7において、差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御が不許可すなわち禁止とする信号が出力されるとともに、有段変速制御手段54には、S5において判断された変速段に従って第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速部20を自動変速することを許可する信号が出力される。また、同時に、エンジントルクTがそのまま差動部11へ入力されるために増速部32が等速状態とされるように、増速ブレーキB00を解放させ且つ等速クラッチC00を係合させる指令が油圧制御回路42へ出力される。
【0107】
このように、S7およびS8において、差動部11が有段変速状態に切り換えられて差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0108】
上述のように、本実施例によれば、エンジン8と差動部11との間の動力伝達経路に、エンジン回転速度Nを増速して差動部11(動力分配機構16)へ入力する増速機構としての増速部32が備えられることにより、その増速部32を介してエンジン出力Pが差動部11へ入力されるため、エンジン出力Pを低下させることなく差動部11へ入力されるエンジントルクTを低下させられ得るので、差動部11を差動作用が作動可能な例えば電気的な無段変速機(差動装置)として作動させる為の第1電動機M1が受け持つべきエンジントルクTの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクTの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機M1のトルク容量が小さくされて、一層第1電動機M1の小型化が可能になる。よって、エンジン出力Pを低下させることなく変速機構10全体として一層小型化が可能になる。
【0109】
また、本実施例によれば、伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に自動変速部20が備えられるので、自動変速部20の変速比γを利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。また、これによって、例えば差動部11における無段変速制御の効率が一層高められる。或いはまた、自動変速部20は単独での設定可能な変速比γが1以上となる減速変速機であるので、第2電動機M2の出力トルクは自動変速部20の出力軸22に対して低トルクの出力でよいので、第2電動機M2が小型化され得る。
【0110】
また、本実施例によれば、増速部32は、その変速比γZを切り換え可能に構成する増速状態切換装置としての等速クラッチC00および増速ブレーキB00を備えるので、エンジン回転速度Nを増速して差動部11へ入力する必要があるときのみ、その変速比γZを切り換えられ得る。
【0111】
また、本実施例によれば、その増速状態切換装置は、増速ブレーキB00の係合により増速部32をエンジン回転速度Nが増速される変速比γZとなる増速状態と、等速クラッチC00の係合によりエンジン回転速度Nが増速されない変速比γZとなる非増速状態とに切り換えるものであって、差動部11が無段変速状態(差動状態)のときには、増速部32を増速状態へ切り換えるものである。これによって、差動部11を無段変速機として機能させられ得るために少なくとも第1電動機M1を作動させる必要があるときには、すなわち第1電動機M1がエンジントルクTに対する反力トルクを発生する必要があるときには、差動部11へ入力されるエンジントルクTが低下させられるので、第1電動機M1の小型化が可能になる。また、例えば、第1電動機M1がエンジントルクTに対する反力トルクを発生する必要がない差動部11の非無段変速状態(非差動状態)のときには、増速部32を非増速状態とすることができるので、増速部32の増速状態に比較して変速機構10の低速側ギヤ段においてより大きな変速比γTが得られたり、或いはまた自動変速部20への入力回転速度NINがより低回転速度とされて自動変速部20の耐久性が向上する。
【0112】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0113】
図10は本発明の他の実施例における変速機構70の構成を説明する骨子図、図11はその変速機構70の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図12はその変速機構70の変速作動を説明する共線図である。
【0114】
変速機構70は、差動部11と、自動変速部20と、エンジン8と差動部11との間の動力伝達経路でエンジン8のクランク軸9を介して直列に連結されている増速機構としての増速部72とを備え、前述の実施例と同様に、エンジン8と一対の駆動輪38との間に設けられて、エンジン8からの出力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。この変速機構70は、前述の実施例の変速機構10と比較して、増速部72に増速状態切換装置としての等速クラッチC00および増速ブレーキB00が備えらていないことが相違するのみで、その他の構成等は同じである。以下、その相違する部分について主に説明する。
【0115】
増速部72は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の増速部遊星歯車装置74を主体的に備えている。この増速部遊星歯車装置74は、増速部サンギヤS0、増速部遊星歯車P0、その増速部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する増速部キャリヤCA0、増速部遊星歯車P0を介して増速部サンギヤS0と噛み合う増速部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。増速部サンギヤS0の歯数をZS0、増速部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0116】
この増速部72においては、増速部キャリヤCA0はクランク軸9すなわちエンジン8に連結され、増速部サンギヤS0はケース12に連結され、増速部リングギヤR0は入力軸14に連結されている。
【0117】
このように、増速部72は増速部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて、増速部リングギヤR0は増速部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、増速部72は変速比γZが「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する増速状態例えばエンジン回転速度Nが増速される変速比γZとなる増速状態とされる。つまり、この増速部72は、エンジン回転速度Nを増速して動力分配機構16すなわち差動部11へ入力する増速機構として機能する。
【0118】
このように、本実施例では、エンジン8から差動部11への動力伝達経路に、エンジン回転速度Nを増速して差動部11へ入力する増速部72が備えられることにより、その増速部72を介してエンジン出力Pが差動部11へ入力されるため、そのエンジン出力Pを低下させることなく差動部11へ入力されるエンジントルクTを低下させられ得る。
【0119】
また、上述したようにこの増速部72には前記増速部32と異なり等速クラッチC00および増速ブレーキB00が備えられておらず、常時、エンジン回転速度Nが増速されて差動部11へ入力される。従って、差動部11が無段変速状態とされて変速機構70が無段変速機として機能する場合はもちろんであるが、非無段変速状態とされて変速機構70が有段変速機として機能する場合であっても、入力軸14の回転速度は常にエンジン回転速度Nが増速された回転速度となるため、図11の係合作動表に示されるように、変速機構70の各変速段における総合変速比γTが、前記図2に示す各変速段における総合変速比γTより小さくされている。
【0120】
具体的には、図11において、第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段、後進ギヤ段、およびニュートラル「N」の各変速段は、図2における第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段、後進ギヤ段、およびニュートラル「N」に相当するものであり、図2に示す実施例と異なり、等速クラッチC00および増速ブレーキB00を除いた他のクラッチCおよびブレーキBの係合作動によって形成される。尚、図2における第5速ギヤ段と第6速ギヤ段とは、等速クラッチC00および増速ブレーキB00を除くと同じ係合作動によって形成されるため、図2における第6速ギヤ段は図11において形成されない(或いは図11の第5速ギヤ段に相当する)。
【0121】
例えば、変速機構70が有段変速機として機能する場合には、図11の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.366」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.536」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.003」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.497」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.263」程度である後進ギヤ段が成立させられる。この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0122】
また、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、常に増速部72が増速機構として機能し、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構70のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0123】
例えば、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速(第5速における自動変速部20の係合装置の係合作動は第4速に同じ)の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構70全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0124】
図12は、増速機構として機能する増速部72と、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構70において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図12の共線図は、増速部72が等速クラッチC00および増速ブレーキB00が備えておらず、差動部11に入力される増速部72の出力回転速度を示す横線XZが常にエンジン回転速度が増速された回転速度とされていることが、前記図3の共線図と主に相違するのみで、その他の差動部11や自動変速部20においての共線図は同じである。以下、その相違する部分について主に説明する。
【0125】
上記図12の共線図を用いて表現すれば、増速部72において、増速部遊星歯車装置74の増速部第1回転要素REZ1(増速部キャリヤCA0)がクランク軸9(エンジン8)に連結され、増速部第2回転要素(増速部サンギヤS0)REZ2がケース12に選択的に連結され、増速部第3回転要素(増速部リングギヤR0)REZ3が入力軸14に連結されて、クランク軸9の回転(エンジン回転速度N)を入力軸14を介して差動部11へ伝達する(入力させる)ように構成されている。従って、増速部72は増速機構として機能する増速状態とされるので、直線LZ0は図12に示す状態となり、入力軸14の回転速度は、常に、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で差動部11へ入力される。
【0126】
本実施例の変速機構70においても、増速機構として機能する増速部72と、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成されるので、増速部32に増速状態切換装置としての等速クラッチC00および増速ブレーキB00が備えられることによる前述の実施例における効果を除けば、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【0127】
例えば、本実施例によれば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構70が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構70が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0128】
また、出力トルクTOUTが判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構70が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0129】
また、本実施例によれば、エンジン8と差動部11との間の動力伝達経路に、エンジン回転速度Nを増速して差動部11(動力分配機構16)へ入力する増速機構としての増速部72が備えられることにより、その増速部72を介してエンジン出力Pが差動部11へ入力されるため、エンジン出力Pを低下させることなく差動部11へ入力されるエンジントルクTを低下させられ得るので、差動部11を差動作用が作動可能な例えば電気的な無段変速機(差動装置)として作動させる為の第1電動機M1が受け持つべきエンジントルクTの最大値に対する反力トルクが小さくされて、言い換えれば、エンジントルクTの最大値に対する反力トルクに対応させる為の第1電動機M1のトルク容量が小さくされて、一層第1電動機M1の小型化が可能になる。よって、エンジン出力Pを低下させることなく変速機構70全体として一層小型化が可能になる。
【0130】
また、本実施例によれば、伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に自動変速部20が備えられるので、自動変速部20の変速比γを利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。また、これによって、例えば差動部11における無段変速制御の効率が一層高められる。或いはまた、自動変速部20は単独での設定可能な変速比γが1以上となる減速変速機であるので、第2電動機M2の出力トルクは自動変速部20の出力軸22に対して低トルクの出力でよいので、第2電動機M2が小型化され得る。
【実施例3】
【0131】
図13は、手動操作により動力分配機構16の差動状態(非ロック状態)と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10、70の無段変速状態と有段変速状態との切換えを選択するための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された無段変速走行指令釦或いは有段変速走行に対応する有段と表示された有段変速走行指令釦がユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10、70を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10、70を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。
【0132】
前述の実施例では、例えば図6の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10、70の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、その自動切換制御作動に替えて或いは加えて例えばスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10、70の変速状態が手動切換制御される。つまり、切換制御手段50は、スイッチ44の無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかの選択操作に従って優先的に変速機構10、70を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10、70が無段変速状態とされるように手動操作により選択する。またユーザは有段変速機の変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10、70が有段変速状態とされるように手動操作により選択する。
【0133】
また、スイッチ44に無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチ44がその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、変速機構10、70の変速状態の自動切換制御作動が実行されればよい。
【0134】
例えば、自動切換制御作動に替えてスイッチ44が手動操作されたことにより変速機構10、70の変速状態が手動切換制御される場合には、前述の実施例の図9に示すフローチャートのステップS1乃至S3において、スイッチ44が手動操作によって動力分配機構16の差動状態すなわち変速機構10、70の無段変速状態が選択されていることに基づいて動力分配機構16が差動状態すなわち差動部11が無段変速状態とされているか否かが判定される。
【0135】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0136】
例えば、前述の実施例の変速機構10、70は、動力分配機構16が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切換可能に構成されたが、変速機構10、70が有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち差動部11が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機(電気的な差動装置)としての機能のみを有する差動部11であっても本実施例は適用され得る。
【0137】
また、前述の実施例では、差動部11が無段変速状態のときに増速部32が増速状態へ切り換えられたが、一律に切り換えるのではなく必要なときだけ増速状態とされれば良い。例えば、無段変速状態のときであっても、エンジントルクTが小さいときには、例えば第1電動機M1のトルク容量が対応可能なエンジントルクTより小さいときには、増速部32が非増速状態とされても良い。或いはまた、差動部11が非無段変速状態のときも通常は増速部32が増速状態とされ、自動変速部20への入力回転速度NINが予め定められた所定値高いときに、増速部32が非増速状態とされても良い。
【0138】
また、前述の実施例の変速機構10、70は、差動部11(動力分配機構16)が電気的な無段変速機として作動可能な差動状態とそれを非作動とする非差動状態(ロック状態)とに切り換えられることで無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成され、この無段変速状態と有段変速状態との切換えは差動部11が差動状態と非差動状態とに切換えられることによって行われていたが、例えば差動部11が差動状態のままであっても差動部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させることにより有段変速機として機能させられ得る。言い換えれば、差動部11の差動状態/非差動状態と、変速機構10、70の無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、差動部11は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切換可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(差動部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
【0139】
また、前述の実施例の変速機構10(変速機構70)では、第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段(第5速ギヤ段)の全ての前進変速段において、第1クラッチC1が係合されることから、この第1クラッチC1を備えず、第8回転要素(第3リングギヤR3、第4サンギヤS4)RE8が第1クラッチC1を介して伝達部材18に直結されても良い。この場合には、後進ギヤ段は、例えば差動部11の無段変速状態においてブレーキB3のみが係合されると共に伝達部材18の回転速度が前進変速段と反対の回転すなわち負の回転速度とされることにより形成される。或いはまた、後進ギヤ段は、例えば差動部11の無段変速状態において第2クラッチC2のみが係合されると共に伝達部材18の回転速度が前進変速段と反対の回転すなわち負の回転速度とされることにより形成される。
【0140】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0141】
また、前述の実施例では、エンジン8は増速部32、72と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0142】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されてもよい。
【0143】
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0144】
また、前述の実施例の変速機構10、70では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
【0145】
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0146】
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20内の回転部材に連結されていてもよい。
【0147】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機、手動操作により変速段が切り換えられる同期噛み合い式の手動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20の変速が実行されてもよい。或いは、自動変速部20は必ずしも備えられてなくとも本発明は適用され得る。
【0148】
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配設されてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0149】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0150】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0151】
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ44に中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。また、スイッチ44に替えて或いは加えて、手動操作に因らず運転者の音声に反応して少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられる装置や足の操作により切り換えられる装置等であってもよい。
【0152】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の実施例の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、変速機構の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図7】無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係を示す図であって、図6の破線に示す無段制御領域と有段制御領域との境界をマップ化するための概念図でもある。
【図8】有段式変速機におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度の変化の一例である。
【図9】図5の電子制御装置の制御作動すなわち変速機構の変速状態の切換制御作動と増速部の切換制御作動とを説明するフローチャートである。
【図10】本発明の他の実施例におけるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図11】図10の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図12】図10の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【図13】切換装置としてのシーソー型スイッチであって変速状態を選択するためにユーザによって操作される変速状態手動選択装置の一例である。
【符号の説明】
【0154】
8:エンジン
10、70:変速機構(駆動装置)
11:差動部(無段変速部)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材
20:自動変速部
32、72:増速部(増速機構)
38:駆動輪
M1:第1電動機
M2:第2電動機
C0:切換クラッチ(差動状態切換装置)
B0:切換ブレーキ(差動状態切換装置)
C00:等速クラッチ(増速状態切換装置)
B00:増速ブレーキ(増速状態切換装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部を備えた車両用駆動装置であって、
前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、該エンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構を、含むことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部を備えた車両用駆動装置であって、
前記差動機構に備えられ、前記無段変速部を電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と前記無段変速部を電気的な無段変速作動しない非無段変速状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、
前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、該エンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構と
を、含むことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有する差動部を備えた車両用駆動装置であって、
前記差動機構に備えられ、前記差動部を差動作用が働く差動状態と該差動作用をしない非差動状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、
前記エンジンと前記差動機構との間の動力伝達経路上に設けられて、該エンジンの回転速度を増速して前記差動機構へ入力する増速機構と
を、含むことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項4】
前記伝達部材と前記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速部をさらに含むものである請求項1乃至3のいずれかの車両用駆動装置。
【請求項5】
前記増速機構に備えられ、該増速機構の変速比を切り換え可能に構成する増速状態切換装置をさらに含むものである請求項1乃至4のいずれかの車両用駆動装置。
【請求項6】
前記増速状態切換装置は、前記増速機構をエンジン回転速度が増速される変速比となる増速状態と、エンジン回転速度が増速されない変速比となる非増速状態とに切り換えるものであって、
前記無段変速部が無段変速状態のときには、或いは前記差動部が差動状態のときには、前記増速機構を増速状態へ切り換えるものであり、前記無段変速部が非無段変速状態のときには、或いは前記差動部が非差動状態のときには、前記増速機構を非増速状態へ切り換えるものである請求項5の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−298066(P2006−298066A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120218(P2005−120218)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】