説明

Si含有膜の成膜方法、絶縁膜、並びに半導体デバイス

【解決手段】プラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法において、成膜原料として用いるシラン化合物として、反応性基として水素原子又はアルコキシ基を有すると共に、分子中には2個以上のケイ素原子を含有し、かつ2個以上のケイ素原子は飽和炭化水素基を介して結合され、かつ、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上であり、全てのケイ素原子は2以上の炭素原子と直接の結合を有するシラン化合物を用いるプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法。
【効果】有効な成膜速度が得られると共に、膜の疎水性の確保と、ケイ素原子の求核反応に対する反応性の抑制を同時に達成することができ、膜の化学的安定性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にロジックULSIにおける多層配線技術において用いられる低誘電率層間絶縁膜材料として有用であり、CVD法によって成膜されるSi含有膜の成膜方法、この方法により得られた絶縁膜、並びに半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子産業の集積回路分野の製造技術において、高集積化かつ高速化の要求が高まっている。シリコンULSI、特にロジックULSIにおいては、MOSFETの微細化による性能よりも、それらをつなぐ配線の性能が課題となっている。即ち、多層配線化に伴う配線遅延の問題を解決するために配線抵抗の低減と配線間及び層間容量の低減が求められている。
【0003】
これらのことから、現在、集積回路の大部分に使用されているアルミニウム配線に代えて、より電気抵抗が低く、マイグレーション耐性のある銅配線の導入が必須となっており、スパッタリング法によるシード形成後、銅メッキを行うプロセスが実用化されている。
【0004】
配線間及び層間容量の低減を達成するための低誘電率層間絶縁膜材料としては、さまざまな提案がある。従来、無機系では、二酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素、燐ケイ酸ガラス、有機系では、ポリイミドが用いられてきたが、最近では、より均一な層間絶縁膜を得る目的で予めテトラエトキシシランモノマーを加水分解、即ち、重縮合させてSiO2を得、Spin on Glass(無機SOG)と呼ぶ塗布材として用いる提案や、有機アルコシキシシランモノマーを重縮合させて得たポリシロキサンを有機SOGとして用いる提案がある。
【0005】
また、絶縁膜形成方法としては、大きな分類として、絶縁膜ポリマー溶液をスピンコート法等で塗布、成膜を行う塗布型のものと、化学気相成長(CVD)法、特にプラズマ中で原料を励起、反応させて成膜するプラズマ化学気相成長(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:以下、プラズマCVD、もしくはPECVDと略す)法の二つの方法が提案されている。
【0006】
プラズマCVD法の提案としては、例えば、特許文献1(特開2002−110670号公報)において、トリメチルシランと酸素とからプラズマCVD法により、酸化トリメチルシラン薄膜を形成する方法が、また、特許文献2(特開平11−288931号公報)では、メチル、エチル、n−プロピル等の直鎖状アルキル、ビニルフェニル等のアルケニル及びアリール基を有するアルコキシシランからプラズマCVD法により、酸化アルキルシラン薄膜を形成する方法が提案されている。
【0007】
また、更に低い誘電率を得るための新たなプラズマCVDによるSi含有膜の形成方法として、側鎖にラジカル重合性有機基を持つシラン化合物を使用し、CVD条件下、重合性有機基を重合させてSi含有膜を形成する方法(特許文献4:国際公開第2005/53009号パンフレット)や、ケイ素原子間が炭化水素基で結ばれたシラン類を原料として用いる方法(特許文献5:米国特許出願公開第2005/0194619号明細書)が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−110670号公報
【特許文献2】特開平11−288931号公報
【特許文献3】特開2000−302791号公報
【特許文献4】国際公開第2005/53009号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0194619号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、より低い誘電率が得られるよう空孔率を高く設計された膜では、エッチング工程や洗浄工程でのプロセスダメージが問題になっている。
例えば特許文献4で提案されたような材料は、有機側鎖をよく保存した低い誘電率を持つ膜が得られるが、膜中に残存する不飽和結合が後工程でのプロセスダメージによって膜の物性を不安定化するという問題がある。
また、空孔率の高い材料では、特にアルカリ性の水による処理でダメージを起こし易く、このダメージは絶縁膜表面の親水化から広がり、Si−O結合を持つSiへの求核攻撃によって膜の持つ誘電率が上昇してしまうものと考えられている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来CVD法による酸化ケイ素系膜の成膜に用いられてこなかったSi含有膜形成材料を用いることによって、新規なSi含有膜の成膜方法、並びにこの成膜方法によって得られたSi含有膜からなる絶縁膜及びこの絶縁膜を用いる半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ケイ素原子に結合する反応性基(アルコキシ基)に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上であり、2個以上のケイ素原子を含有すると共に、全てのケイ素原子は2以上の炭素原子と直接の結合を有するシラン化合物をプラズマCVD法の原料として用いることにより、有効な成膜速度をもって、従来の膜よりも疎水性が向上されると共に化学的安定性が向上されたSi含有膜が容易に得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、プラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法において、成膜原料として用いるシラン化合物として、反応性基として水素原子又はアルコキシ基を有すると共に、分子中には2個以上のケイ素原子を含有し、かつ2個以上のケイ素原子は環状構造を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基を介して結合され、かつ、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上であり、全てのケイ素原子は2以上の炭素原子と直接の結合を有するシラン化合物を用いることを特徴とするプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法である(請求項1)。
このようなシラン化合物を用いてプラズマCVD法によって酸化ケイ素膜を成膜すると、膜の成長速度を落とすことなく、疎水性の高い、後工程のプロセスに対しても安定な酸化ケイ素膜を得ることができる。
【0013】
上記シラン化合物が1分子中に含む炭素原子の数は20以下であることが好ましい(請求項2)。
目安として炭素数が20以下のものを選択することにより、CVD工程時に有効な蒸気圧を得ることができる。
【0014】
上記シラン化合物の好ましい一態様として、下記一般式(1)
【化1】


(但し、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、Xはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Yは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の(q+1)価の飽和炭化水素基を示し、Zは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の2価の飽和炭化水素基を示す。また、mはそれぞれ独立に1又は2、nはそれぞれ独立に1又は2、pは0〜2の整数、qは1〜3の整数を表す。但し分子全体が含む炭素数は20を超えず、R、Y、Zに含まれる炭素数と全ケイ素原子数の比は3以上である。)
で示されるシラン化合物を挙げることができる(請求項3)。
【0015】
また、更に具体的態様として、下記一般式(2)
3-mmSi−(CH2k−SiRm3-m (2)
(但し、R、X、mの定義は一般式(1)でした定義と同一であり、kは2〜6の整数であると共に、Rとケイ素間のメチレン鎖に含まれる全炭素数と分子に含まれる全ケイ素数の比は3以上であり、かつ全炭素数は20以下である。)
で示されるシラン化合物を挙げることができる(請求項4)。
【0016】
また、本発明は、上述のSi含有膜の成膜方法を用いて成膜することにより得られたことを特徴とする絶縁膜である(請求項5)。
本発明の成膜方法により得られる絶縁膜は化学的安定性が高く、特にアルカリ性の洗浄液等に対する耐性を示す。
【0017】
更に、本発明は上記の絶縁膜を有する半導体デバイスである(請求項6)。
上記の絶縁膜を持つ半導体デバイスは、製造工程において絶縁膜が物性変化を起こしにくいため、信頼性の高い半導体デバイスとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のCVD法を大きく変更することなく、有効な成膜速度が得られると共に、膜の疎水性の確保と、ケイ素原子の求核反応に対する反応性の抑制を同時に達成することができ、膜の化学的安定性を確保することができる。
また、本発明の成膜方法を、多層配線絶縁膜の成長方法として利用することにより、配線信号遅延の少ない半導体集積回路を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明のSi含有膜形成方法に用いる成膜材料であるシラン化合物は、反応性基として水素原子又はアルコキシ基を有すると共に、分子中には2個以上のケイ素原子を含有し、かつ2個以上のケイ素原子は環状構造を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基を介して結合され、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上であり、全てのケイ素原子は2以上の炭素原子と直接の結合を有するシラン化合物である。
【0020】
上述のように、すでに種々材料を用いたCVD法によるSi含有膜の成膜方法が提案されているが、それらのほとんどはケイ素原子間を酸素を介して結合するようにデザインをされたものである。これはケイ素−酸素間の結合エネルギーが比較的大きいことから、CVD工程において、安定で有効な成膜速度が得易いためと考えられる。
【0021】
これに対し、特許文献5は、より低い誘電率を得るために複数のケイ素原子の間を炭化水素基で結んだ化合物を用いることを提案しているが、本発明者は、このようなケイ素間に炭化水素基による結合を有する骨格は化学的安定性の確保にも利用可能であると考えた。即ち、膜の3次元構造を形成するために膜中の主なケイ素原子は3あるいは4個結合を有する必要があり、上述のように、一般的には、これは酸素原子による結合である。しかし、ケイ素原子に結合する酸素原子は、分極作用によってケイ素原子の求核反応に対する反応性を高めてしまう。そこで、もし酸素原子による結合を炭化水素基による結合に置き換えてやれば、ケイ素原子の求核物質に対する反応性を抑制することができることになる。即ち、成膜原料として使用するシラン化合物に、分子中には2個以上のケイ素原子を含有し、かつ2個以上のケイ素原子は環状構造を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基により架橋された構造を持たせることによって、ケイ素原子が有する酸素との結合数が2である場合にも3次元構造を形成させることができる。また、結合する酸素原子数が減少することによって、ケイ素原子の分極率を減少させ、求核反応に対する反応性を抑制することができる。
【0022】
一方、化学的安定性を確保するためには、バルクとしての疎水性の設計も重要である。バルクとしての疎水性を向上させることで、アルカリ性水溶液との界面での反応性が下がるだけでなく、空孔を通じた浸透による膜質変化を防止することができる。このバルクの疎水性を確保するためには、ケイ素原子の持つ側鎖及び結合置換基として飽和炭化水素基を選択することが有利である。また、飽和炭化水素基を選択することによって、炭素とケイ素の比で、バルクのおよその疎水性に関する物性を推定することができるようになる。
【0023】
本発明の目的である水溶液処理に対する耐性を確保するために必要な疎水性は、原料として用いるシラン化合物を、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上のものから選択するということを目安とすることができ、4以上であれば、より確実に疎水性を確保できる。
【0024】
なお、プラズマCVD反応に使用する材料としては、一定以上の蒸気圧があることが必要であり、上述のシラン化合物が有する炭素数が20以下のものであれば、一般的に適用可能である。
また、プラズマCVD反応中、ケイ素原子に結合する飽和炭化水素置換基はよく保存されることが好ましく、ケイ素原子と直接結合する炭素原子はラジカルを発生し易い分岐構造を持たないことが好ましい。
【0025】
本発明のプラズマCVD法による成膜方法に使用するシラン化合物としては、下記一般式(1)
【化2】


(但し、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、Xはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Yは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の(q+1)価の飽和炭化水素基を示し、Zは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の2価の飽和炭化水素基を示す。また、mはそれぞれ独立に1又は2、nはそれぞれ独立に1又は2、pは0〜2の整数、qは1〜3の整数を表す。但し分子全体が含む炭素数は20を超えず、R、Y、Zに含まれる炭素数と全ケイ素原子数の比は3以上である。)
で示されるシラン化合物を挙げることができる。
【0026】
上記一般式(1)中、m及びnが1以上であることによって、式(1)における各ケイ素原子に結合する酸素原子数は最高でも2となって求核反応性が抑制される。また、反応性基Xはアルコキシ基あるいは水素であるが、これらはいずれもプラズマCVD法による膜中では酸素原子による架橋となる部分である。また、分子全体としては、R、Y、Zに含まれる炭素数と全ケイ素原子数の比は3以上になるよう設計される。
【0027】
上述のように、RとY及びZに含まれるケイ素原子と直接結合する炭素原子は、分岐を持たないことが好ましく、R、Y及びZが炭素数2以上の置換基である場合には、ケイ素原子と直接結合する炭素原子は−CH2−の構造としてケイ素原子と結合していることが好ましい。
【0028】
Rの好ましい具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルを挙げることができ、ブチル以下は直鎖だけではなく、分岐を持つ異性体でもよいが、ケイ素と直接結合する部分はメチレン(−CH2−)の構造であることが好ましい。また、全てのRがエチルあるいはそれ以上炭素原子を含む置換基を選択した場合には、Y及びZの構造に依存することなく、反応性置換基の炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]を3以上とすることができ、同様にプロピル以上のものを選択すれば4以上とすることができる。
【0029】
Y及びZの好ましい具体例としては、ジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレンを挙げることができ、トリメチレン以下のものは、全体として炭素数が10以下であれば、炭素上にアルキル置換基を有していてもよいが、ケイ素と直接結合する部分はメチレン(−CH2−)の構造であることが好ましい。更に、ジエチレンシクロヘキサンやジエチレンシクロペンタンのような中間に環状飽和炭化水素骨格を有するような置換基も好ましい置換基である。
【0030】
上記一般式(1)で示されるシラン化合物の、好ましいより具体的な構造として、下記一般式(2)
3-mmSi−(CH2k−SiRm3-m (2)
(但し、R、X、mの定義は一般式(1)でした定義と同一であり、kは2〜6の整数であると共に、Rとケイ素間のメチレン鎖に含まれる全炭素数と分子に含まれる全ケイ素数の比は3以上であり、かつ全炭素数は20以下である。)
で示されるシラン化合物を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(2)で示されるシラン化合物の好ましい具体例としては、1,2−ビス(エチルジメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(プロピルジメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ブチルジメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ペンチルジメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(へキシルジメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジメチルメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジエチルメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジプロピルメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ジブチルメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(エチルジエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(プロピルジエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(ブチルジエトキシシリル)エタン、1,3−ビス(エチルジメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(プロピルジメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ブチルジメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ペンチルジメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(へキシルジメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ジメチルメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ジエチルメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ジプロピルメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(エチルジエトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(プロピルジエトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(ブチルジエトキシシリル)プロパン、1,4−ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(エチルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(プロピルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ブチルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ペンチルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(へキシルジメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ジメチルメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ジエチルメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ジプロピルメトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(メチルジエトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(エチルジエトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(プロピルジエトキシシリル)ブタン、1,4−ビス(ブチルジエトキシシリル)ブタン、1,5−ビス(メチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(エチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(プロピルジメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(ブチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(ペンチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(ジメチルメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(ジエチルメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(ジプロピルメトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(メチルジエトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(エチルジエトキシシリル)ペンタン、1,5−ビス(プロピルジエトキシシリル)ペンタン、1,6−ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(エチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(プロピルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ブチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ペンチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(へキシルジメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジメチルメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジエチルメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(ジプロピルメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(メチルジエトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(エチルジエトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(プロピルジエトキシシリル)ヘキサン、1,7−ビス(メチルジメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(エチルジメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(プロピルジメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(ブチルジメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(ペンチルジメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(ジメチルメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(ジエチルメトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(メチルジエトキシシリル)ヘプタン、1,7−ビス(エチルジエトキシシリル)ヘプタン、1,8−ビス(メチルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(エチルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(プロピルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ブチルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ペンチルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジメチルメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエチルメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(メチルジエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(エチルジエトキシシリル)オクタンを挙げることができる。
【0032】
本発明においては、上述のシラン化合物を原料として、CVD反応装置内にガスとして導入し、CVD法、特にプラズマ励起化学気相成長法によりSi含有膜を形成する。この際、有機基がよく保存され、反応性基であるアルコキシ基あるいは水素原子のみが活性化されるように、やや低めのエネルギー領域を選択することが好ましい。300mmウェハを用いた平行平板型のプラズマCVD装置を用いた場合の電極間へ印加する高周波電力、即ちRF Power(プラズマ励起電力)は、300W以下、好ましくは200W以下、より好ましくは100W以下で行われることが好ましい。これは、低エネルギーでの反応ほど、原料に含まれるそれぞれの結合強度の違いを反映し易く、反応性基に対する選択性を高めるためと考えられる。なお、その下限は通常20W以上、特に50W以上である。
【0033】
その他の条件については、よく知られている一般のCVD法を用いることができ、例えば上述のシラン化合物の気化方法は、例えば、減圧による方法、キャリアガスでバブリング送気する方法や気化装置を用いる方法等が知られており、それらから選択、あるいは組み合わせて行うことができる。シラン化合物のフィード量を制御するために、液体マスフローなどにより一定流量で気化装置に送液し、気化装置で気化する方法が好ましい。
【0034】
また、反応装置内の圧力及び温度や被成膜基板の温度は、原料や原料ガスの組成等に応じて適宜選択されるが、通常減圧下、特に0.01〜1,000Paの範囲であることが好ましく、被成膜基板は−50℃〜500℃で成膜することが好ましい。成膜時間は、上記反応条件や目標膜厚に応じて適宜選択されるが、20〜2,000秒であることが好ましく、厚さ50〜2,000nm、特に100〜300nmのSi含有膜(絶縁膜)を形成することが好ましい。
【0035】
プラズマ源は、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ、誘導結合プラズマ、ヘリコン波プラズマ等のプラズマ源が知られているが、いずれを用いてもよい。
【0036】
Si含有膜を形成する際、上述のシラン化合物を気化させて生成したガスを、CVD反応装置内に導入するが、この際該ガス以外のガスを併せて導入してもよい。導入するガスとしては、例えば、モノシラン、ジシラン等の水素化シラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン等のアルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等の直鎖状シロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、トリメチルシラノール等のシラノール、酸素、窒素、アンモニア、アルゴン・ヘリウム等の希ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化窒素、オゾン、亜酸化窒素、モノメチルアミン等のアミンなどがある。これらのガスは上述のシラン化合物に対し10〜99質量%含有させることができる。
【0037】
上記の方法で成膜されたSi含有膜は、低誘電率絶縁膜として用いることができる。上述のように本発明のSi含有膜は、多孔質性を持つにも拘わらず、バルクとしての疎水性が高く、また膜中のケイ素原子の分極が小さいために求核反応に対して抑制された反応性を有することから、化学的安定性が高く、特にアルカリ性の洗浄液を用いた場合にも物性の変化を起こしにくい材料である。このため、本発明のSi含有膜を絶縁膜として用いることにより、後工程のプロセスダメージの問題に対し、信頼性の高い半導体装置(デバイス)を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下に合成例、実施例及び比較例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
[合成例1]1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタンの合成
ビニルメチルジメトキシシラン198gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメトキシメチルシラン159gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、減圧蒸留により1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタンを得た。沸点は8.7×103Paで126℃であった。
【0040】
[合成例2]1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンの合成
塩化プロピル47.1gと金属マグネシウム14.6gよりTHF(テトラヒドロフラン)中でプロピルグリニヤールを調整しておき、別のフラスコに用意した1,2−(ビスメチルジメトキシシリル)エタン71.5gのTHF溶液に滴下した。3時間加熱熟成の後、生成した塩を瀘別し、濃縮後、減圧蒸留により1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンを得た。沸点は0.13×103Paで105℃であった。
【0041】
[合成例3]1,6−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサンの合成
1,5−ヘキサジエン41.1gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加し、ジメトキシメチルシラン106.2gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、減圧蒸留により1,6−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサンを得た。沸点は0.13×103Paで120℃であった。
【0042】
[実施例1]1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンのプラズマCVD成膜
図1に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いて、合成例2で合成した1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンをシリコン基板上に成膜した。
なお、図1中、1は装置本体(チャンバー)、2は原料ガス導入管、3は不活性ガス導入管、4はサンプル、5は上部電極、6は下部電極、7は排気管である。
成膜条件は、不活性ガスとしてアルゴンガスを10ml/minで、供給し、気化させた1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンをチャンバー内圧が5Paとなるように供給し続け、基板温度150℃、RF電源電力30W、RF電源周波数13.56MHzの条件で成膜した。結果は、成膜速度5nm/minであった。
【0043】
[実施例2,3]
実施例1の条件のうち、チャンバー内圧力をそれぞれ20Pa(実施例2)、50Pa(実施例3)となるようにした他は、全て実施例1と同一の条件で1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンによる成膜を行った。結果は、実施例2が成膜速度12nm/min、実施例3が成膜速度20nm/minであった。
【0044】
[実施例4及び比較例1]
実施例2で行った成膜の原料を、合成例3で調製した1,6−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサン(実施例2)、合成例1で調製した1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタン(比較例1)とした他は、全て実施例2の条件によって成膜を行った。結果は、実施例4が成膜速度13nm/min、比較例1が成膜速度15nm/minであった。
【0045】
なお、得られた膜の物性測定は、比誘電率は、495−CVシステム(日本SSM社製)を使用し、自動水銀プローブを用いたCV法で測定した。弾性率(ヤング率)は、ナノイデンター(ナノインスツルメンツ社製)を使って測定した。
また、各膜に対して、UV照射装置(Axcelis Technology社製Rapid Cure UV Source)を用いて、300秒間のUV照射を行った後の膜の機械強度を測定した。
上記測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示した結果より、本発明のプラズマCVD法による成膜方法によって、低い誘電率を持つSi含有膜が実用的な速度で成膜されること、機械強度も、やや大きいアルキル基が導入されることによって成膜直後の膜ではやや低めの値を示すものの、紫外線のような高エネルギー線照射を併用することで十分に高いものが得られることが判明した。なお、この紫外線照射は、電子線等の高エネルギー線の照射に置き換えることができることは明白である。
【0048】
[実施例5〜8及び比較例2]洗浄液耐性試験
洗浄液としてヒドロキシルアミンを含有する半導体用洗浄液EKC−518(デュポン社製)を用い、上記で得た実施例1〜4及び比較例1のそれぞれの成膜基板を、室温で10分間浸漬して、洗浄液に対する耐性試験を行った。
得られた基板を純水でリンスした後、乾燥し、比誘電率を測定して、浸漬前後の比誘電率の変化を測定した。
実施例1〜4の膜(実施例5〜8)では、比誘電率がそれぞれ2.7、2.6、2.6、2.6であり、変化量がそれぞれ0.0、0.0、0.1、0.0であったのに対し、比較例1の膜(比較例2)では、比誘電率が3.2と0.4上昇してしまうことが明らかになった。
【0049】
この結果から、本発明のプラズマCVD法によって成膜されたSi含有膜は、3次元構造を形成しているケイ素原子に結合する酸素の数が従来のものよりも低くなり、またバルクの疎水性が高いものとされることから、特に後工程で、上述のような洗浄液を用いた場合にも、比誘電率が上がってしまうという問題がよく抑制されていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】平行平板容量結合型PECVD装置の概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1 装置本体(チャンバー)
2 原料ガス導入管
3 不活性ガス導入管
4 サンプル
5 上部電極
6 下部電極
7 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法において、成膜原料として用いるシラン化合物として、反応性基として水素原子又はアルコキシ基を有すると共に、分子中には2個以上のケイ素原子を含有し、かつ2個以上のケイ素原子は環状構造を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基を介して結合され、かつ、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が3以上であり、全てのケイ素原子は2以上の炭素原子と直接の結合を有するシラン化合物を用いることを特徴とするプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法。
【請求項2】
上記シラン化合物が1分子中に含む炭素原子の数は20以下である請求項1記載のSi含有膜の成膜方法。
【請求項3】
上記シラン化合物が、下記一般式(1)
【化1】


(但し、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、Xはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Yは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の(q+1)価の飽和炭化水素基を示し、Zは環状構造を含んでいてもよい炭素数2〜10の直鎖状、分岐状又は環状の2価の飽和炭化水素基を示す。また、mはそれぞれ独立に1又は2、nはそれぞれ独立に1又は2、pは0〜2の整数、qは1〜3の整数を表す。但し分子全体が含む炭素数は20を超えず、R、Y、Zに含まれる炭素数と全ケイ素原子数の比は3以上である。)
で示されるシラン化合物である請求項2記載のSi含有膜の成膜方法。
【請求項4】
上記シラン化合物が、下記一般式(2)
3-mmSi−(CH2k−SiRm3-m (2)
(但し、R、X、mの定義は一般式(1)でした定義と同一であり、kは2〜6の整数であると共に、Rとケイ素間のメチレン鎖に含まれる全炭素数と分子に含まれる全ケイ素数の比は3以上であり、かつ全炭素数は20以下である。)
で示されるシラン化合物である請求項3記載のSi含有膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のSi含有膜の成膜方法を用いて成膜することにより得られたことを特徴とする絶縁膜。
【請求項6】
請求項5記載の絶縁膜を有する半導体デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2010−67810(P2010−67810A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233035(P2008−233035)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】