説明

半導体装置とその製造方法

【課題】微結晶シリコン膜を活性層とするTFTの閾値ドリフトを小さくする。
【解決手段】シリコンを含む半導体装置の製造方法であって、シリコンを含む原料ガスを水素ガスで600倍以上に希釈する工程と、前記希釈した原料ガスと水素ガスの混合ガスに高周波電力を加えて放電させる工程と、前記放電により分解した原料ガス中のシリコンを基板に堆積させる工程と、前記混合ガスの圧力を600Pa以上に制御する工程とを含み、前記原料ガスの水素ガスによる希釈率がD、前記混合ガスの圧力がP(Pa)のとき、前記高周波電力の電力密度Pw(W/cm)をPw(W/cm)×D(倍)/P(Pa)の値が0.083以上、かつ0.222以下となる範囲に設定することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性シリコン層を活性層とする半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄膜半導体を画素の駆動に用いるアクティブマトリクス型の表示装置が知られている。この表示装置に使用される薄膜トランジスタ(TFT)には駆動能力のみならず、耐久性も求められる。これは、TFTを直流駆動した場合は、しきい値がずれる場合があり、それに伴いTFTの特性バラツキが生じ、輝度ムラが発生する場合がある。
【0003】
表示装置の能動素子には薄膜シリコン半導体が用いられており、薄膜のシリコンとしては、アモルファス(非晶質)シリコン膜、微結晶シリコン膜、多結晶シリコン膜などがある。
【0004】
非晶質シリコン膜を活性層とするTFTは大面積化が容易で生産コストを低く抑えることが可能であるが、電流ストレス耐性が低く、長時間電流が流れることで閾値電圧がドリフトしてしまう。一方、多結晶シリコン膜を活性層とするTFTは、駆動能力が高く電流ストレス耐性が高いものの、結晶化のためのレーザアニールやイオンドーピングのプロセスが必要なため製造コストが高い。
【0005】
微結晶シリコン膜を活性層とするTFTは、製造プロセスが非晶質シリコンTFTと同等であるため低コスト化が可能である。しかし、多結晶シリコン膜に比べて結晶粒のサイズが小さく、その結果移動度も低い。電流ストレス耐性は多結晶TFTに近いものが得られる場合もあるが、結晶性や結晶粒径が製造条件によって異なり、一様に高いというわけではない。
【0006】
微結晶シリコンTFTに対しては、チャネルを形成する活性層の結晶性を高めることにより、駆動能力と耐久性の向上が図られてきた。活性層の成膜条件として、シリコンを含む原料ガスの水素、アルゴンなどによる希釈率を大きくする(原料ガスに対する希釈ガスの比率を高くする)ことが有効である。特許文献1には、水素希釈率(SiH4/H2)200以上で結晶核を形成する微結晶シリコン層の形成方法が記載されている。
【0007】
ただし、希釈率を大きくすると成膜速度が遅くなるので、製造スループットが小さくなり製造コストを引き上げる。特許文献1では、ゲート絶縁層から10nmまでは高い倍率でシリコン膜を形成し、以後は低い倍率で成膜を行う。
【0008】
また、特許文献2には、ボトムゲート・逆スタガ型のTFTとして、高結晶性半導体層とコンタクト層の間に、バッファ半導体層、低結晶性半導体層、あるいは結晶性変化半導体層、といった中間層を挟み、結晶性が連続的につながった半導体装置を作製するために、それぞれの半導体層の作製条件として、成膜圧力と水素希釈率について述べられている。
【0009】
また、特許文献3には、好適なシリコンの範囲として、原料ガスの水素希釈倍率500倍から3000倍、アルゴンガス流量比5%から40%、圧力3Torr以上の条件で成膜する方法が提案されている。さらに、プラズマを維持するためにRF電力密度を0.2W/cm2から0.8W/cm2とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8‐97427号公報
【特許文献2】特開2008‐124392号公報
【特許文献3】米国特許7833885号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非晶質シリコン膜を活性層とするTFTと同様、微結晶シリコンTFTにも閾値電圧のドリフトが見られる。これは、チャネル付近の非晶質シリコンの存在によるものであると考えられている。微結晶シリコン膜も、全体積にわたって微結晶となっているわけではなく、酸化シリコンや窒化シリコンなどの絶縁体の上に成膜する場合、成膜の初期には結晶シリコン粒と非晶質シリコンが混在した膜になっている。ボトムゲート型のトランジスタでは、ゲート絶縁膜とその上に形成されたシリコン膜の界面近くでチャネルが形成されるので、界面付近の非晶質シリコンの混在比率を低くすることが重要な課題となる。
【0012】
CVD法で微結晶シリコン膜を形成する際に、原料ガスの希釈率を高くすることで非晶質の混在比率を下げることができる。希釈率だけでなく、ガス圧力やプラズマ形成のためのRF電力も、非晶質の混在を減らし、結晶比率を高める要因である。
【0013】
しかし、RF電力を最適値に定めても、希釈率やガス圧力が変わるとRF電力の最適値も変化する。このため、さまざまな希釈率やガス圧力の条件下で、その都度RF電力の最適値を決める必要がある。
【0014】
本発明の目的は、希釈率、ガス圧力、RF電力の各条件の相互関係を見出し、希釈率とガス圧力が変化しても、最適なRF電力の範囲を容易に決定できるようにすること、それによって電流ストレス耐性に優れた微結晶シリコンTFTの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
シリコンを含む半導体装置の製造方法であって、
シリコンを含む原料ガスを水素ガスで600倍以上に希釈する工程と、
前記希釈した原料ガスと水素ガスの混合ガスに高周波電力を加えて放電させる工程と、
前記放電により分解した原料ガス中のシリコンを基板に堆積させる工程と、
前記混合ガスの圧力を600Pa以上に制御する工程と
を含み、
前記原料ガスの水素ガスによる希釈率がD、前記混合ガスの圧力がP(Pa)のとき、前記高周波電力の電力密度Pw(W/cm)を
Pw(W/cm)×希釈倍率(倍)/圧力(Pa)
の値が0.083以上、かつ0.222以下となる範囲に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力密度が希釈倍率とガス圧力の値に応じた最適範囲に設定されるので、精密な成膜条件設定が可能となり、ボトムゲート型TFTにおいてチャネル形成領域となるゲート絶縁膜近くにも、結晶比率の高い微結晶シリコン膜が形成され、電流ストレスに対して閾値ドリフトの少ないTFTを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】RFプラズマCVD装置の概略構成を示す図である。
【図2】TFT製造に用いられる枚葉式製造装置の概略構成を示す図である。
【図3】ボトム型TFTの断面図である。
【図4】希釈率を変えたときの閾値ドリフトの測定結果である。
【図5】圧力を変えたときの閾値ドリフトの測定結果である。
【図6】2種類の希釈率について、電力密度を変えたときの閾値ドリフトの測定結果である。
【図7】微結晶シリコン膜の堆積過程を説明する図である。
【図8】微結晶シリコン膜の成膜速度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.TFTの製造方法]
本発明のTFTを形成するシリコン膜はCVD(化学気相成長)法を用いて成膜される。ガラス基板にシリコン他の半導体薄膜を形成する方法としては、RFプラズマCVD法が知られている。RFプラズマCVD法は、半導体薄膜の原料ガスを成膜室内に導入し、高周波電力を加えて放電させ、プラズマ化する。プラズマ中で遊離したイオン同士が反応して、基板に薄膜として堆積する。シリコンの薄膜を得るには、シラン(SiH)等のシリコン原子を含有する原料ガスを、水素(H)、アルゴン(Ar)などで希釈して成膜室に導入し、プラズマにより分解した原料ガス中のシリコンを基板上に堆積させる。
【0019】
図1はRFプラズマCVD装置の概略構成図である。
【0020】
成膜室100には、プラズマ放電を生起させるアノード電極101とカソード電極102が対向して設置され、電源103からRF周波数(13.6MHz)の交流電力が供給される。基板110はアノード電極101上に置かれ、ヒータ105で加熱される。
【0021】
加熱温度は、半導体膜の形成条件によって適宜調整されるが、微結晶シリコンを形成する場合、基板温度で100℃以上300℃以下が用いられる。さらには150℃以上250℃以下がより好適に用いられる。
【0022】
原料ガスと希釈ガスはガス供給バルブ107、108を介してミキシングボックス109内に導入され、ガス流量を調節できるマスフローコントローラ111によって一定の流量に制御され、混合される。混合ガスは配管106を通して成膜室100内に供給され、成膜室内で放電を受けてプラズマ化され、反応して基板上に堆積する。反応に寄与しなかった残りのガスはバルブ104を通って排気される。
【0023】
配管106は中空のカソード電極102に混合ガスを供給する。混合ガスは、カソード電極のアノード側に開けたガス吹き出し孔から放出される。カソード電極102から均一に膜が形成されるよう、ガス吹き出し孔は複数開けられ、また配管106の接続箇所から各吹き出し孔までの距離がなるべく均等になっていることが望ましい。
【0024】
また、カソード電極は、基板上に均一に微結晶シリコン膜を形成させるために、基板より大きな面積を有するものを用い、その形状も適宜調整される。
【0025】
図1の装置においては、マスフローコントローラ111の流量比によって希釈率が調節できる。また、RF電力は電源103の出力により調節される。成膜室100の混合ガス圧力はバルブ104で調整される。
【0026】
図2はトランジスタなどの半導体装置を製造する枚葉式CVD装置の概略図である。
【0027】
枚葉式CVD装置200は、ロードロック室201、加熱室202、3つの成膜室203からなり、全て真空環境下に置かれる。成膜室203は図1に示したものと同じであるが、シリコン膜、ゲート絶縁膜など形成する膜によって供給するガスの種類や数が異なっている。これらの間をアーム機構205で搬送された基板110が出入りして、順に膜が作られていく。
【0028】
[2.TFTの構造]
図3はボトムゲート型薄膜トランジスタ(TFT)の断面図である。
【0029】
基板300の上にゲート電極301がパタンニングされ、これにゲート絶縁膜302を介して微結晶シリコン膜からなる活性層303が対向している。活性層303はオーミックコンタクト層304によってソース・ドレイン電極305に接続されて、その間隙のゲート絶縁層側にチャネルが形成される。TFTは全体がパッシベーション層306で覆われている。
【0030】
図3とは異なる構造として、活性層303のチャネルとは反対側に、窒化シリコン、酸化シリコン、あるいは窒化シリコンと酸化シリコンの積層からなるエッチングストップ層が設けられることもある。
【0031】
TFTの基板300には、高融点ガラス、石英、セラミック等の材料を用いることができる。ゲート電極と301しては、Mo、Ti、W、Ni、Ta、Cu、Al、あるいはそれらの合金をスパッタや真空蒸着法等によって成膜したものが用いられる。複数の金属層を積層することもある。
【0032】
ゲート電極がパタンニングされたところで、基板300は図2のRFプラズマCVD装置に送られ、ゲート絶縁膜302、活性層303、コンタクト層304が連続して成膜される。
【0033】
ゲート絶縁層302には窒化シリコン膜が好適に使用されるが、酸化シリコン層、酸化シリコンと窒化シリコンの積層、もしくは酸窒化シリコン層でも良い。酸化シリコンと窒化シリコンの積層を用いる場合には、活性層側に窒化シリコンを用いるのが望ましい。窒化シリコンはSiH、NH、N、H等の混合ガスを、酸化シリコンはSiH、NO、TEOS、O等の混合ガスが適宜選択して用いられる。
【0034】
ゲート絶縁層302の厚さは、50〜300nmの厚さが好適である。
【0035】
ゲート絶縁層302上には微結晶シリコンからなる活性層303が形成されるが、それに先立って、ゲート絶縁膜302との界面に密着性向上のための界面処理を行うことが望ましい。界面処理の方法は様々な方法があり、ゲート絶縁膜302の表面に酸化シリコン膜を形成してもよく、ゲート絶縁膜を酸素雰囲気に暴露して表面を酸化処理しても良い。
【0036】
微結晶シリコンからなる活性層303は、原料ガスとしてSiHが好適に用いられる。また希釈ガスとしてはHガスが好適に用いられる。
【0037】
活性層303が形成された後、同じ成膜室を用いて不純物半導体からなるコンタクト層304を形成する。コンタクト層304は、n型の不純物を高濃度に含有するもので非晶質であっても結晶性であってもよい。コンタクト層304は、活性層303とソース電極およびドレイン電極を形成する金属層305とのオーミックコンタクトをとるための層で、厚みは10〜300nm、望ましくは20〜100nmである。
【0038】
コンタクト層304が形成された基板206は、ロードロック室を経て取り出される。その後、コンタクト層304上に金属層305を形成し、フォトリソグラフィによりソース電極及びドレイン電極を形成する。さらにチャネルの裏側に当たる部分のコンタクト層も除去する。金属層305は、Mo、Ti、W、Ni、Ta、Cu、Al、あるいはそれらの合金またはそれらの積層構造体からなる。
【0039】
その後、再び枚葉式CVD装置200に投入され、窒化シリコンからなるパッシベーション層306を形成してTFTが完成する。表示装置に応用するときは、パッシベーション層306にコンタクトホールを形成し、そこに表示素子を接続させる。
【0040】
[3.成膜条件についての実験結果]
プラズマCVD法により得られるシリコン膜の性質は、主として、(1)シリコン原子を含有する原料ガスの希釈率D(倍)、(2)成膜室のガス圧力P(Pa)、(3)放電を持続させるRF交流の電力密度Pw(W/cm)、の3つの成膜条件によって影響を受ける。
【0041】
本発明者は、(1)−(3)の条件を変えていくつかの微結晶シリコン膜を作り、閾値ドリフトの小さい膜が得られる条件をしらべた。以下、その手順と結果について説明する。
【0042】
まず、いろいろな条件で微結晶シリコンを成膜する際の、共通の下地層を以下のようにして作成した。
【0043】
形成ガラス基板300上にRFスパッタ法により、100nmのMoからなるゲート電極301を堆積させ、パターニングを行った。その後、CVD装置成膜室203内で、表1のゲート絶縁層作成条件1の処方により、ゲート絶縁層302を200nm堆積した。
【0044】
【表1】

【0045】
電力密度Pw(W/cm)は、電源103が出力する電力(W)を、アノード電極とカソード電極の対向面積(cm)で割った量である。
【0046】
次いで、ゲート絶縁層302の表面を酸素雰囲気に暴露して酸化処理した。このときの処理条件を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
(1)希釈率
以上の手順により形成した下地に、まず、圧力と電力密度は固定し、原料ガスの希釈率を変化させて微結晶シリコン膜を形成した。表3に作成条件を示す。シランガスを水素で希釈し、その倍率を200から1000の範囲で振った。
【0049】
【表3】

【0050】
希釈率は(H流量/SiH流量)で定義した。表3の希釈率の範囲は、水素ガスの流量を固定しシランガスの流量を変化させて得たものである。希釈率が高い程シランガスの流量は少なくなる。また、希釈率が200倍以上と高いので、圧力はほぼ水素ガスの流量で決まっており、希釈率によらず一定と見做してある。
【0051】
希釈率を振って微結晶シリコン膜からなる活性層303を成膜した後、その上にコンタクト層304、ソース電極およびドレイン電極305をそれぞれプラズマCVD法およびRFマグネトロンスパッタ法により形成し、ドライエッチングによりパターニングをおこなった。
【0052】
以上の工程により作製したTFTについて電流ストレス耐性を測定した。結果を図4に示す。測定には、Agilent社製4155C半導体パラメータアナライザを使用し、25℃に保たれたステージ上で測定した。ストレス耐性は、Vd=Vg=0Vとし、W/L=1に規格化したドレイン電流Id=0.1μAを流し続けて、初期と一定の時間後のVdsの変化を測定することにより評価した。以下、このVdsの変化量を閾値ドリフトとし、ΔVdsと書く。閾値ドリフトΔVdsの許容範囲は150時間後で0.3V未満である。
【0053】
希釈率600倍未満の場合、電流ストレス150時間後のΔVdsは一点鎖線で示す許容限度の0.3Vを超えるのに対し、600倍以上の場合、ΔVdsは0.3V未満であった。希釈率を上げることでΔVdsが低くなったのは、非晶質シリコンの比率が下がり、結晶シリコンの比率が上がったためと考えられる。
【0054】
(2)圧力
次に、電力密度Pwと希釈率を固定し、300Paから1100Paの範囲の幾つかの圧力で微結晶シリコン膜を堆積させた。表4にその条件をしめす。下地層は共通のものを用いた。原料ガスはシラン、希釈ガスは水素である。
【0055】
【表4】

【0056】
この微結晶シリコン膜を用いて(1)の場合と同じ工程でTFTを作成し、同様に電流ストレス耐性について評価を行った。
【0057】
結果を図5に示す。圧力が600Pa以上の場合、ΔVdsは0.3V未満であったのに対し、圧力が600Pa未満である場合、膜が堆積しないという結果となった。圧力が低いと、膜のエッチングが進むという結果である。
【0058】
(3)電力密度
圧力と希釈率を表5に示す値に固定し、電力密度Pwを0.067〜0.267W/cmの範囲で変えて微結晶シリコン膜を堆積させた。下地層は共通のものを用いた。原料ガスと希釈ガスは(1)(2)と同じである。
【0059】
【表5】

【0060】
さらに、希釈率を表5の値よりも下げて600倍とし、電力密度Pwを0.077〜0.400W/cmの範囲で変えて微結晶シリコン膜を堆積させた。圧力は同じである。条件を表6に示す。下地層は共通のものを用い、原料ガスと希釈ガスも(1)(2)と同じである。
【0061】
【表6】

【0062】
表5と表6の条件で成膜した微結晶シリコン膜を用いて(1)(2)と同じ工程でTFTを作成し、同様に電流ストレス耐性について評価を行った。
【0063】
結果を図6に示す。図6は横軸に電力密度、縦軸に閾値ドリフトを示している。黒い丸は(a)希釈率1000倍、黒い三角は(b)希釈率600倍の場合である。
【0064】
希釈率の大小にかかわらず電力密度がちいさい領域で閾値ドリフトが大きくなるが、希釈率が大きい方が、より小さい電力密度まで小さい閾値ドリフトを保つ。一方、電力密度が高すぎると膜ができなくなる。
【0065】
希釈率が1000倍のとき、RF電力密度が0.083W/cm以上の条件で得られた微結晶シリコン膜では、電流ストレスを150時間加え続けたも、ΔVdsは0.3V未満であった。電力密度が0.077W/cmでは非晶質シリコンの混在比率が高まり、閾値ドリフトが大きくなる。
【0066】
電力密度が大きいほうでは、0.222W/cm以上の場合、微結晶シリコン膜が形成されなかった。これは、Hによるエッチング効果が大きくなりシリコン膜の堆積ができないためと考えられる。電力密度が大きすぎても、成膜条件としては適さないことがわかった。
【0067】
(b)の希釈率600倍の場合は、電力密度が0.140W/cm以上で、電流ストレス150時間後のΔVdsが0.3V未満になった。また、RF電力が0.367W/cm以上では、結晶性シリコン膜の堆積ができなかった。
【0068】
このように、閾値ドリフトが少ないシリコン膜を形成するためには、電力密度をある範囲に設定する必要があり、電力密度が低すぎても逆に高すぎても良好なシリコン膜ができない。また、電力密度の適正範囲は希釈率によって変化し、希釈率が小さいと範囲が、上限、下限とも低いほうにシフトする。
【0069】
電力密度Pの範囲は、(a)1000倍希釈では
0.083W/cm≦P≦0.222W/cm
であり、(b)600倍希釈では
0.140W/cm≦P≦0.367W/cm
であった。
【0070】
電力密度の最適範囲の上限と下限は希釈率Dに依存しているが、電力密度P(W/cm)と希釈率D(倍)の積をとると,(a)、(b)ともに、ほぼ
83≦P*D≦222
となり、さらに圧力P(Pa)(今の場合はP=1000Pa)で割って
0.83≦P*D/P≦0.222
が成り立つ。P*D/Pという量の意味については以下で説明する。
【0071】
[4.成膜過程]
微結晶シリコン膜の成膜過程ついては以下のように考えられている。
【0072】
RFプラズマCVD法による微結晶シリコン膜の堆積においては、(A)シランが分解して基板上に非晶質シリコン層と結晶性シリコン層とが堆積する過程と、(B)水素ガスが分解して、ラジカルとなった水素が基板に堆積したシリコン層(主に非晶質シリコン)をエッチングする過程とが競合していると考えられる。図7は、これを電力密度との関係で模式的に表したものである。
【0073】
図7において、横軸は電源103から投入される電力密度、縦軸は、シリコンの堆積速度とエッチング速度であって、実線が、シランガスの水素ガスによる希釈率が、(a)1000倍、(b)600倍、(c)300倍の場合の微結晶シリコンの堆積速度、点線が水素ガスによる堆積膜のエッチング速度である。
【0074】
基板上には非晶質シリコン層と結晶性シリコン層の両方が堆積される。電力密度が低いとシランは分解されず、シリコン層は堆積されない。電力密度が高くなるとシランの分解が生じてシリコン層の堆積が生じ、電力密度とともに堆積速度は速くなる。
【0075】
電力密度がある程度高くなると堆積速度はそれ以上増加せず一定になる。これは、シランガスがほぼ100%分解されてシリコンの供給が飽和に達したためである。飽和に達した後、堆積シリコンの量は供給されるシランガスの濃度で決まるから、飽和堆積速度はシランガスの濃度が高いほど、すなわちシランガスの希釈率が小さいほど大きな値となる。
【0076】
これに対し、水素ガスの分解により生じる水素イオンの量は、水素の供給が実際上無限大であると考えられるので、電力密度が高くなると増加する一方である。したがって、シリコン層のエッチング過程におけるエッチング速度は、電力密度とともに速くなっていく。
【0077】
電力密度の低いところでは、シリコン層の中でも、結合力の弱い非晶質シリコン層がより多くエッチングされる。したがって、堆積したシリコン膜から非晶質部分が選択的に排除され、結晶性の高い良質な微結晶シリコン膜が形成されることになる。
【0078】
実際に基板に微結晶シリコン膜として成長する速度は、(A)の堆積速度と(B)のエッチング速度の差である。図8は堆積速度の実測結果である。図8の(a)、(b)、(c)は、それぞれ図7の(a)、(b)、(c)の希釈率に対応している。
【0079】
図8の結果は、図7の堆積速度とエッチング速度の差と定性的に一致している。堆積速度は、電力密度とともに初めは増加し、やがて減少する。速度のピーク値は希釈率が低いほうで大きい。結晶比率の高いシリコン膜は、非晶質シリコンがエッチングされ、結晶性シリコンが選択的に堆積する領域で得られる。これは、ほぼ堆積速度のピークに近いところにあたり、図8で(a)‘と(b)’に示した範囲である。
【0080】
(1)の実験結果に示したように、希釈率が(c)の300倍の条件では閾値ドリフトが大きくなってしまう。これは、図8に示すように堆積速度が速すぎて結晶比率の高いシリコン膜が得られないためである。
【0081】
[5.最適成膜条件]
以下、各成膜条件の最適範囲について説明する。
【0082】
(i) 希釈率
微結晶シリコン層の堆積初期の段階では、基板上にごく微小なシリコン結晶粒が形成され、これが核となって結晶が成長する。小さな核は水素イオンによりエッチングされて消滅する確率が高いが、希釈率が低いと、発生する核の数も多いので、エッチングされずに成長する核の数が多い。その結果、結晶粒径の小さな粒界の多い微結晶シリコン層が成長することになる。
【0083】
成膜速度を低く抑えることにより、結晶粒径が大きく欠陥の少ない微結晶シリコンが形成できる。希釈率を600倍以上にすると十分低い成膜速度になる。この条件で成膜すると、成膜の初期段階から、結晶比率が高く、かつ結晶粒径の大きなシリコン膜が得られる。ボトムゲートのTFTでは、ゲート絶縁層界面からチャネルが形成される深さ付近までの領域のシリコン膜の性質がTFT性能を決定する。粒径が大きな微結晶シリコンは、電子の移動度を下げる要因となる結晶粒界や欠陥が少ない。それにより電流ストレスに対して耐性の高い、すなわち閾値ドリフトの少ないTFTが製造できる。
【0084】
(3)の実験では、1000倍希釈と600倍希釈の条件下で電力密度を変化させて閾値ドリフトを評価した。希釈率を上げると最適な電力密度範囲が低いほうにシフトした。図8の(1)´、(2)´の曲線も電力密度が低いほうにシフトしており、電力密度に対して成膜速度が最大に近くなるときに、閾値ドリフトが少ないという推論を支持している。
【0085】
1000倍希釈の場合の好ましい領域は、600倍希釈のそれと比較してより低パワー側にシフトしている。この理由は、より欠陥の少ない膜を形成するためには、水素ラジカルの効果が不可欠であるため、低希釈率時には、水素ラジカルをより活性化させるために電力密度を高くする必要があるが、高希釈率時にはむしろ水素ラジカルによるエッチングがはじまるため、パワーを下げた方が望ましい結果となると考えられる。
【0086】
一方、高希釈率時には低パワーでも水素ラジカルが必要な分供給されるが、低希釈時には、不足してしまい、非晶質シリコンの比率が高くなることから、TFTの電流ストレス耐性は低くなると考えられる。
【0087】
図8に示すように、実効成膜速度のピーク値は、希釈率が低いほど大きい。(1)の実験結果(図4)によれば、希釈率が低くなると閾値ドリフトが大きくなるが、これは、低希釈率下の条件では非晶質シリコンの比率が高くなるためである。
【0088】
(ii) 圧力について
(2)の実験結果および図5に示されるように、600Paより低い成膜圧力で成膜を行うと、シリコン膜を形成できない。これは、微結晶シリコンを成膜するような、水素希釈率と電力密度条件下では、平均自由工程の長いイオンが基板に衝突することによりシリコン成長初期に形成された結晶性シリコンの成長核をエッチングしてしまい、シリコンの成長を阻害してしまうためと考えられる。低圧下ではプラズマ中のイオンの平均自由工程が長くなり、より加速されたイオンは基板に衝突し堆積した微結晶シリコン膜にダメージを与え、さらにはエッチングが進み膜堆積が阻害される。
【0089】
すなわち、ガス圧力が低くなるとシリコン膜が生成されないのは、低圧力でシランガスの分圧が低下し、成膜工程よりも加速された水素イオンによるエッチング効果の方が支配的になる結果である。希釈率について、シランガスの流量が小さい(希釈率が大きい)とき、シランガスの流量が大きい(希釈率が小さい)時よりも低パワー側からエッチングが始まるが、ガス圧力が低いときもこれと同じ現象が生じている。
【0090】
実質的に微結晶シリコンを堆積させるための条件としては、成膜圧力は600Pa以上であることが望ましいと言える。
【0091】
(iii) 電力密度について
図8に示されるように、それぞれの水素希釈率における実効的な成膜速度は、電力密度がある範囲にあるときに大きくなる。その下限は、シランの分解が十分な速度で生じるような電力密度であり、上限は水素によるエッチングが主過程となり、シリコン膜が形成できないところである。
【0092】
成膜速度が最大となるのは、(A)の過程が飽和するところである。図8に示すように、最大成膜速度に近い速度で微結晶シリコン膜が成長する電力密度の範囲は、希釈率が高くなるにつれて低いほうにシフトする。
【0093】
上記(3)の実験で、電流ストレス耐性の高いTFTが得られた電力密度範囲を、図8に、希釈率1000倍のとき(1)”、希釈率600倍のとき(2)”として示した。(希釈率300倍では電流ストレス耐性の高いTFTは得られなかったので、図8には記入していない。)電力密度に対して成膜速度が最大に近くなるときに、閾値ドリフトの少ない微結晶シリコン膜が得られることがわかる。
【0094】
電力密度が低い場合、非晶質シリコン成分が多くなり、閾値ドリフトが大きくなってしまう。電力密度の下限は、基板上に堆積した非晶質シリコンが水素イオンによって効率よくエッチングされ、結晶性シリコンの成長が促進されるための条件から決められる。下限以下の電力密度では水素の分解が不十分で、そのため非晶質シリコンの堆積が支配的になる。
【0095】
希釈率及び圧力が変化しても、水素イオンによる非晶質シリコンのエッチング過程が支配的になるところが電力密度の下限を決めることに変わりはない。(圧力を一定にして)希釈率を半分にすると、シランガス流量が2倍になるから、非晶質シリコン層の堆積速度も2倍となり、それをエッチングするための水素の分解に2倍の電力密度が投入される必要がある。希釈率を半分にすると水素ガスの流量も1/2になるが、希釈率はもともと数100倍という大きな値なので、水素ガスは大量に存在し、実質的に無限大の流量であると考えることができる。したがって、水素イオンの分解速度は水素ガスの供給量によらず、電力密度だけで決まっていると考えてよい。
【0096】
一方、(希釈率は一定のままで)圧力が2倍になったとすると、やはりシランガス流量が2倍になるから、必要な電力密度は2倍になる。すなわち、電力密度の適正範囲の下限は希釈率に反比例し、圧力に比例する。
【0097】
一方、電力密度が高すぎると、シリコン膜の堆積自体が生じない。これは、水素イオン量が過剰になり、非晶質シリコンだけでなく結晶シリコンもエッチングされてしまうことによる。水素イオンが少ないときは、非晶質シリコンと結晶シリコンのエッチング速度の比により、非晶質シリコンが選択的にエッチングされるが、水素イオン濃度が増えると、結晶シリコンのエッチング速度が堆積速度を上回り、全く膜が形成されない状況になる。
【0098】
このように電力密度の上限は、水素ラジカルによる堆積膜の非選択的なエッチングが支配的になる条件により決まる。
【0099】
上限付近で生じる堆積とエッチングの過程が、希釈率と圧力によってどのようになるかを考察すると、ます、圧力はそのままで希釈率が半分になると、シランガス流量が2倍になり、シリコンの堆積速度も2倍になる。したがってそれをエッチングする電力密度も2倍必要である。また、希釈率がそのままで圧力が2倍になってもやはりシリコン膜の堆積速度が2倍になるから、電力密度も2倍必要である。すなわち、希釈率1/2または圧力2倍になり、同時に電力密度が2倍になったならば、水素イオン(あるいは水素ラジカル)により堆積膜が全てエッチングされる。これが電力密度の上限付近で生じている状況である。
【0100】
[6.結論]
以上(i)−(iii)の考察から、閾値ドリフトが十分低い微結晶シリコン膜を得るためには、電力密度を圧力と希釈率に応じた適正な値に設定して成膜すればよいことがわかった。すなわち、電力密度は、
電力密度(W/cm)×希釈率(倍)/圧力(Pa)
が決められた範囲の値になるように設定される。その値は、(3)の実験結果から、0.083以上、かつ0.222以下の範囲である。
【0101】
希釈率は、600倍以上にすることにより結晶粒径の大きなシリコン膜が得られる。
【0102】
圧力は、平均自由行程の長い分子の基板衝突によるエッチングが生じない程度に高くする必要があり、600Pa以上に設定される。
【符号の説明】
【0103】
100 成膜室
103 RF交流電源
104 圧力調整バルブ
106 配管
107、108 ガス供給バルブ
109 ミキシングボックス
110 基板
111 マスフローコントローラ
200 CVD装置
203 CVD成膜室
206 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含む半導体装置の製造方法であって、
シリコンを含む原料ガスを水素ガスで600倍以上に希釈する工程と、
前記希釈した原料ガスと水素ガスの混合ガスに高周波電力を加えて放電させる工程と、
前記放電により分解した原料ガス中のシリコンを基板に堆積させる工程と、
前記混合ガスの圧力を600Pa以上に制御する工程と
を含み、
前記原料ガスの水素ガスによる希釈率がD、前記混合ガスの圧力がP(Pa)のとき、前記高周波電力の電力密度Pw(W/cm)を
Pw(W/cm)×D(倍)/P(Pa)
の値が0.083以上、かつ0.222以下となる範囲に設定することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記シリコンを基板に堆積させる工程に先立って、前記基板にゲート電極とゲート絶縁膜を形成する工程を有する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記シリコンを基板に堆積させる工程に先立って、前記ゲート絶縁膜の表面を酸素雰囲気に暴露する工程を有する請求項2に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26396(P2013−26396A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159076(P2011−159076)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】