説明

半導体装置の製造方法、半導体装置、及び半導体製造装置

【課題】有機シリカ膜を成膜したのちのプラズマ反応室の内壁のクリーニング時間を短縮する。
【解決手段】まずプラズマ反応室内壁をプリコート膜で被覆する(プリコート工程)。次いで基板上に、シリコン炭素組成比(C/Si)が1以上である有機シリカ膜を成長させる(基板処理工程)。次いで、基板を取り出した後、プラズマ反応室内壁に付着した有機シリカ膜とプリコート膜とをプラズマを用いて除去する(クリーニング工程)。プリコート膜としては、基板上に成膜された有機シリカ膜よりも少なくとも炭素含有率が低い有機シリカ膜である高酸素含有プリコート膜を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機シリカ膜を基板上に成膜する工程を有する半導体装置の製造方法、半導体装置、及び半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業の集積回路分野の製造技術において、さらなる高集積化かつ高速化が要求されている。集積化を実現するために半導体装置の微細化が進むにつれ、配線が近接化することによる寄生容量の増大による配線遅延や、消費電力の増加が問題となっている。これらの課題を回避するため、炭化水素基や空孔の導入による層間絶縁膜の低誘電率(Low−k)化が進められている。Low−k化が進められた層間絶縁膜は主に、シリコン、酸素、炭素、水素からなる、有機シリカ膜(SiOCH膜)である。これらの有機シリカ膜の成膜方法として、プラズマCVD法やプラズマ重合法が用いられている。
【0003】
プラズマ重合法においては、不飽和炭化水素基を有する有機シリカ分子からなる原料ガスを用いている。具体的には、原料ガスとキャリアガス(He)の混合ガスあるいはそれに酸化剤ガスを添加したものをプラズマ中の導入し、主に不飽和炭化水素基を活性化させ、そのプラズマ重合反応により原料中のシリカ骨格構造を保有した有機シリカ膜を成膜する。例えば、環状シロキサン構造を持つ有機シリカ化合物分子を出発原料ガスした場合、環状シロキサン構造を保持した多孔質有機シリカ膜が成長する。
【0004】
この際、特に出発原料である有機シリカ分子に嵩高い炭化水素側鎖が結合している場合、半導体基板の加熱による熱エネルギーとプラズマエネルギーにより重合反応を促進させることが肝要である。加熱された半導体基板上へ成膜を行う場合、有機シリカと半導体基板との界面において十分な重合反応が生じ、緻密かつ密着性に優れた多孔質構造の有機シリカ膜の成長が可能となるといったプラズマ重合法に特有の効果が生じる。基板温度は、一般的には200℃〜450℃である。
【0005】
プラズマCVD法あるいはプラズマ重合法を用いて有機シリカ膜の成膜を行う場合、プラズマ反応室内の雰囲気・環境を安定化させる目的で、半導体基板(ウエハ)上に絶縁膜を成膜する前に、プラズマ反応室内壁を絶縁膜で被覆するプリコート膜の成長工程が必要となる。プラズマ反応室内壁はステンレス鋼等の導電性金属で形成されており、特殊な場合を除き加熱されていない。
【0006】
プリコート膜を成長していない場合、絶縁膜成長中にプラズマ反応室の金属内壁が絶縁膜で覆われる。すなわち、プラズマ反応室の内壁が導電性から絶縁性に変化することからプラズマ反応室内のプラズマ電位分布が変化し、それに伴い特にプラズマ重合法では、重合反応度が変化するため膜厚方向で膜物性が変化する場合があった。そこで、半導体基板への有機シリカ膜成長時のプラズマ電位分布の変化を抑制するため、上記したようにプリコート膜の成長工程を行うことが一般になされている。また、プリコート膜の成長を予め行うことで、有機シリカ膜を成膜する際に、プラズマ反応室内壁を発生源とするパーティクルや金属不純物が膜中に取り込まれたり、半導体基板裏面に付着したりすることを防止できることも知られている。
【0007】
プリコート膜は、有機シリカ膜を1枚もしくは複数枚成膜した半導体基板を取り出した後、プラズマクリーニング工程により除去される。除去後には、再度プリコート膜成長工程を行うことでプラズマ反応室内壁をコーティングし、以下、上記の工程を繰り返しながら、複数の半導体基板上に有機シリカ膜を連続して成膜を行う。
【0008】
プラズマ反応室内から発生するパーティクルを防止する例としては特許文献1を挙げることができる。特許文献1では、クリーニング終了後にプラズマ反応室壁面の導入窓から導入したμ波でμ波プラズマを生成することにより、プラズマ反応室内壁面にプリコートを行う。または、クリーニング終了後にプラズマ反応室壁面にRFを印加してRFプラズマを生成することにより、プラズマ反応室内壁面にプリコートを行う。または、クリーニング終了後に基板電極にRFを印加してRFプラズマを生成することにより、プラズマ反応室内壁面にプリコートを行う。成膜ガスとしては酸素ガス、Ar、SiHガスが用いられている。また、このプリコート膜の除去のためのクリーニングにおいてはNFガスが用いられている。
【0009】
また、プラズマ反応室内に堆積された膜の剥がれを防止する例として、特許文献2を挙げることができる。特許文献2では、減圧CVD装置の石英反応管内に、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を含むプリコート膜が堆積される。ストレス緩衝層となるシリコン酸化膜と、密着性を良くするシリコン窒化膜を積層することにより、石英反応管内壁からの膜ストレス起因の膜剥離等に起因する膜剥離を抑制し、パーティクル発生を抑制している。また、これらの積層膜は熱分解したNFガスを用いたガスクリーニングによって除去される。
【0010】
また、プラズマ反応室内に堆積された膜は、クリーニングにより除去するが、このクリーニングに用いるクリーニングガスを効率的に活用する観点では、特許文献3を挙げることができる。プロセスチャンバー外でプラズマ等によって活性化されたNFガスは、ガス配管を経由してプロセスチャンバーに供給されるまでに、配管側壁等に衝突することによって、エネルギーを失って活性状態ではなくなってしまう(失活)。特許文献3では、プラズマ源を複数用いることで、一旦不活性になったクリーニングガスを再度活性化することができるようになっている。これによってガスのクリーニング効率を高めることができる。特許文献3には、例として、NFをクリーニングガスに用いた場合について記載されている。
【0011】
SiO膜あるいはSiN膜をプリコート膜に用いる場合、クリーニングガスにはNFあるいはNFとアルゴン(Ar)の組合せが用いられることが一般的である。これらのガスと、リモートプラズマを用いて、NFガスを活性化し、NFのプラズマから生成するフッ素ラジカルによって、SiO膜あるいはSiN膜に含まれるシリコン原子をSiFとして除去する。酸素原子あるいは窒素原子については、それぞれ酸素ガス、あるいは窒素ガスとしてそれぞれの膜が除去され、クリーニングが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−123271号公報
【特許文献2】特開2008−117987号公報
【特許文献3】特開2005−101309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、炭素/シリコン比が1以下(C/Si≦1)の一般的な有機シリカ膜を半導体基板上へ成長する場合、プラズマ反応室内壁のプリコート膜として同一組成の有機シリカ膜を成膜することを考えた。この場合、半導体基板上へ有機シリカ膜を成長させる時には、プラズマ反応室内壁に同じく有機シリカ膜が堆積していることになる。従って、半導体基板上への有機シリカ膜成長後において、プラズマ反応室内壁には有機シリカ膜の単層膜が成長することとなる。C/Si≦1の一般的な有機シリカの場合、NFを用いてプラズマ反応室内壁のプラズマクリーニングを行うことができる。有機シリカ中のシリコンはフッ素ラジカルとの反応によってSiFと酸素になって除去され、さらに、炭素はCOあるいはCOとなって除去されると考えられる。このとき、炭素と結合する酸素は有機シリカ(SiOCH膜)を構成する酸素から供給される。一般的に、SiOCH膜として知られている有機シリカ膜の多くは炭素/シリコン組成比(C/Si比)が1より小さく、酸素/シリコン組成比(O/Si)が1.5より大きい。このような低炭素組成の有機シリカ膜であれば、NFガスによるクリーニングは、シリコン酸化膜と同様に行うことが可能である。
【0014】
ここで本発明者らは、プラズマ重合法において、炭素組成に富んだ有機シリカ膜(SiOCH)、具体的にはC/Si>1であるような有機シリカ膜を成長する場合、プラズマ反応室内のクリーニングには、以下に述べるような課題があることを見出した。
【0015】
炭素組成に富んだ、具体的にはC/Si>1であるような有機シリカ膜に対して、NFを用いたプラズマクリーニングを行うと、膜中の炭素をCOあるいはCOとして除去するためには、相対的に酸素が不足する。その結果、クリーニング速度が低下し、クリーニング所要時間が長くなる。
【0016】
この酸素不足を補うために、クリーニングガスであるNFに酸素を添加することも可能であるが、有機シリカ膜の炭素組成増加に合わせて酸素添加量を増やしていくと、今度は、NFガスが失活しやすい。詳細には、添加された酸素と衝突することによって活性化したNFガスが失活することとなり、これによってクリーニング速度の上昇効果が得られなくなり、ついにはクリーニング速度が却って低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、プラズマ重合法によって炭素組成に富んだ(C/Si>1)有機シリカ膜、特に多孔質構造を有する炭素組成に富んだ有機シリカ膜を成膜する場合において、有機シリカ膜よりも炭素組成が低い高酸素含有プリコート膜を用いることを考えた。
【0018】
すなわち本発明によれば、プラズマ反応室内壁をプリコート膜で被覆するプリコート工程と、
基板上に、シリコン炭素組成比(C/Si)が1以上である有機シリカ膜を成長させる基板処理工程と、
前記基板を取り出した後、前記プラズマ反応室内壁に付着した前記有機シリカ膜と前記プリコート膜とをプラズマを用いて除去するクリーニング工程と
を備え、
前記プリコート膜として、前記有機シリカ膜よりも少なくとも炭素含有率が低い有機シリカ膜である高酸素含有プリコート膜を用いる半導体装置の製造方法が提供される。
【0019】
基板上への該有機シリカ膜成長後において、プラズマ反応室内壁には、高酸素含有プリコート膜上に炭素組成に富んだ有機シリカ膜が堆積した積層膜が形成されている。高酸素含有プリコート膜は、炭素組成に富んだ有機シリカ膜よりも酸素含有量が多い。このため、高酸素含有プリコート膜が酸素供給源となり、結果としてプラズマによるクリーニング時間を大幅に短縮することができる。
【0020】
本発明によれば、上記した半導体装置の製造方法を用いて製造された有機シリカ膜が層間絶縁膜として用いられていることを特徴とする半導体装置が提供される。
【0021】
本発明によれば、上記した半導体装置の製造方法を実施する半導体製造装置であって、
基板を加熱する機構を有するプラズマ反応室と、
炭素組成に富んだ有機シリカ膜を成長するための環状有機シリカ化合物をガス化してプラズマ反応室へ供給する成膜ガス供給部と、
プリコート膜を成長するためのシランガスと酸化剤ガスをプラズマ反応室へ供給するプリコート原料ガス供給部と、
クリーニングガスをプラズマ反応室へ供給するクリーニングガス供給部と、
排気システムと、
を備えている半導体製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、プラズマによるクリーニング時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る半導体製造装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る方法により形成された有機シリカ膜に含まれる空孔の径分布を示す図である。
【図3】有機シリカ膜の成膜速度とNO添加量の関係を示す図である。
【図4】本実施形態における有機シリカ膜のフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果を示す図である。
【図5】実施例1と比較例それぞれにおけるクリーニングの状態を、発光分光器を用いてモニタした結果を示す図である。
【図6】実施例2と実施例1それぞれにおけるクリーニングの状態を、発光分光器を用いてモニタした結果を示す図である。
【図7】実施例3においてクリーニングの状態を発光分光器を用いてモニタした結果を示す図である。
【図8】実施例4と比較例それぞれにおけるクリーニングの状態を、発光分光器を用いてモニタした結果を示す図である。
【図9】実施例5に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図10】実施例6に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0025】
実施形態に係る半導体装置の製造方法は、以下の工程を有する。まずプラズマ反応室内壁をプリコート膜で被覆する(プリコート工程)。次いで基板上に、シリコン炭素組成比(C/Si)が1以上である有機シリカ膜を成長させる(基板処理工程)。次いで、基板を取り出した後、プラズマ反応室内壁に付着した有機シリカ膜とプリコート膜とをプラズマを用いて除去する(クリーニング工程)。プリコート膜としては、基板上に成膜された有機シリカ膜よりも少なくとも炭素含有率が低い有機シリカ膜、あるいはシリカ(SiO)膜である高酸素含有プリコート膜を用いる。
【0026】
上記した方法において、基板上への該有機シリカ膜成長後では、プラズマ反応室内壁には、高酸素含有プリコート膜上に炭素組成に富んだ有機シリカ膜が堆積した積層膜が形成されている。高酸素含有プリコート膜の一例はシリカ膜(SiO、C/Si=0、O/Si=2)である。これにより、プラズマ反応室内壁のクリーニング工程において、炭素組成に富んだ有機シリカ膜の単層膜よりも、該積層膜の方がプラズマによるクリーニング時間が大幅に短縮する。このプラズマクリーニング時間の短縮により、高価なクリーニングガス、例えば三弗化窒素(N3)-アルゴン(Ar)-酸素(O)、の使用量を削減することができ、この結果、有機シリカ膜を用いた半導体装置の製造コストを大幅に削減できる。以下、詳細に説明を行う。
【0027】
[発明の原理]
炭素組成に富んだ有機シリカ膜をNFでクリーニングする場合には、NFのフッ素と有機シリカ膜の炭素が再結合して、CF系の堆積物を形成する。NFでは効率的にCF系の堆積物除去できないため、これによって、クリーニング速度が低下する。例えば、プリコートにも本成膜と同様に炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いた場合には、常にプラズマ反応室内部の表面は炭素組成に富んだ有機シリカ膜で覆われており、全面除去には非常に長い時間がかかってしまう。これに対して本実施形態では、高酸素含有プリコート膜を用いることで炭素組成に富んだ有機シリカ膜のプラズマクリーニング時間を短縮化させている。
【0028】
プラズマ反応室内壁のプラズマクリーニング工程においては、NFラジカルが供給された部位から、プラズマ反応室内壁に成長された炭素組成に富んだ有機シリカ膜が順次エッチングにより除去され、膜厚が減少し、ついには、高酸素含有プリコート膜が露出する。この際、プラズマ反応室内壁のNFガスクリーニングによる堆積膜のエッチング速度には分布がある。このため、クリーニングレートの高いところから高酸素含有プリコート膜の露出が開始される。つまり、クリーニングの過程で、プラズマ反応室内壁が、炭素組成に富んだ有機シリカ膜と、高酸素含有プリコート膜が混在している状態になる。
【0029】
プラズマ反応室内で部分的に炭素が含まれていないシリコン酸化膜が露出している、あるいは炭素組成に富んだ有機シリカ膜の下層にシリコン酸化膜の層が存在することで、この面あるいは層が酸素供給源となり、実効的にクリーニングガス中の酸素濃度を高めることになる。しかも、この酸素はNFによるエッチングによってシリコン酸化膜が分解されることによって供給されることから、供給時に活性状態にあり、有機シリカ膜中の炭素の引き抜き効果が高い。しかもプラズマ反応室内で供給されることから、NFラジカルの供給経路には影響がなく、NFの活性度を下げることがない。この効果は、リアクタ内に残存している炭素組成に富んだ有機シリカ膜が除去されればされるほど、プラズマ反応室内壁における高酸素含有プリコート膜の占める面積が増大することとなり、その結果、炭素組成に富んだ有機シリカ膜の除去速度は高速化する。
【0030】
これらの相乗効果によって、炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いている場合でも、単にエッチングガスへの酸素添加量を増やす場合よりも効率の高いクリーニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。
【0031】
プラズマクリーニングの高速化効果は、半導体基板上に成膜する有機シリカ膜の炭素組成が高いほど、また、プリコート膜中の酸素含量が多いほど顕著となる。この意味において、高酸素含有プリコート膜としては、シリカ膜(SiO、C/Si=0、O/Si=2)が最適材料のひとつとなる。シリカ膜は一般に、シランガス(SiH)あるいはテトラエトキシオルソシロキサン(TEOS)ガスと酸化剤ガス(例えば、NOやO)の混合ガスを用いたプラズマCVD法により、安価かつ高速に成長することができる。
【0032】
上記した効果は、シリカ膜(シリコン酸化膜)をプリコートして用いた場合だけでなく、基板上への本成膜に用いた有機シリカ膜よりも大幅に炭素組成が低い、好ましくは炭素/シリコン組成比が1前後より小さければ、さらに劇的にクリーニング時間を短縮する効果が発現する。
【0033】
以下、実施形態に基づいて図面を用いて説明する。なお本発明は、以下の実施形態によって何ら限定されるものではない。以下、上記したプリコート工程を単にプリコートと記載する。また、基板処理工程を本成膜と記載する。また、上記したクリーニング工程を単にクリーニングと記載する。
【0034】
まず、図1は、実施形態に係る半導体装置の製造方法を実施する、半導体製造装置の構成を説明する模式図である。本装置は原料モノマー原料供給システム(成膜ガス供給部)と、そこから供給された気化原料モノマーをプラズマ反応室201へ導入するための配管と、プリコート膜あるいは本成膜の添加ガスを制御導入する配管と、高周波電源によりプラズマを励起して成膜を行うプラズマ反応室201と、プラズマ反応室201外でクリーニングガスのプラズマを励起するプラズマ源(リモートプラズマ)と、励起されたクリーニングガスをプラズマ反応室201へ導入するための配管と、それぞれの未反応ガス、あるいはクリーニングによる生成物を排出するための排気システムからなる。
【0035】
具体的には、プラズマ反応室201は、排気配管207、排気バルブ222及び冷却トラップ208を介して真空ポンプ209に接続されている。これにより、真空ポンプ209を運転させることでプラズマ反応室201内を減圧させることができる。また、プラズマ反応室201と真空ポンプ209の間に設置されるスロットルバルブ(図示せず)を用いることで、プラズマ反応室201内の圧力を制御することができる。プラズマ反応室201の内部には加熱機能を有するウエハステージ203が設けられている。本成膜を行う際には、ウエハステージ203上に基板210が配置される。
【0036】
まず、プリコート工程について説明する。本実施形態においてプリコート膜は炭素組成が小さいことが望ましいことから、最も組成が小さい実施の形態として、ここではシリコン酸化膜をプリコート膜として用いる場合について示す。
【0037】
プリコートに際しては、プラズマ反応室201を真空状態にしたのちに、原料ガスとしてSiHとNOを、添加ガス流量コントローラ236,234を介してプラズマ反応室201に導入する。プラズマ反応室201内には設定した流量でSiHとNOが導入される。その後、プラズマ反応室201内が設定圧力に安定した後に、シャワーヘッド204とウエハステージ203間に高周波を印加してプラズマ反応室201内にプラズマを生成する。これによって、プラズマ反応室201内にプリコート膜であるシリコン酸化膜が堆積される。プリコート膜の厚さはプラズマ反応室201内部からの汚染を防止する膜厚である必要があり、50nm以上であることが好ましい。一方、プリコート膜を厚くしすぎるとプリコート成膜時間やクリーニング時間が長くなるため、プリコート膜の膜厚は200nm以上500nm以下とすることがより好ましい。当然のことながら、プラズマが生成している空間内に存在する、シャワーヘッド204、ウエハステージ203を含む半導体基板保持部等に優先的にシリコン酸化膜が堆積される。
【0038】
また、本実施形態は平行平板型のプラズマ装置である。この装置はプラズマ反応室201の内壁、シャワーヘッド204、半導体基板保持部など、いずれの部分についても加熱されており、プリコート膜の成膜時にはプラズマから得られるエネルギーだけでなく、ヒータ等の熱源から得られるエネルギーも受けて成膜される。
【0039】
プラズマ反応室201の内壁に所望のシリコン酸化膜がコーティングされたのち、高周波電力および原料ガスの導入を終了し、残留ガス等の真空引きを行って、次工程となる本成膜の準備を行う。
【0040】
プリコート膜は炭素組成が本成膜のプリコート膜に対して小さいことが肝要であることから、シリコン酸化膜以外でも、炭素組成の低い、具体的にはC/Si<1であるようなSiOCH膜であってもよい。このようなSiOCH膜の成膜については、後に示す環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物原料を用いるとともに、SiHとNOのうち少なくともどちらか一方を同時に供給することで形成してもよい。またプリコート膜は、後述する環状有機シリカ化合物からなる原料ガスを、酸化剤ガスを添加してプラズマに導入することにより成膜されてもよい。ここまでがプリコートの工程である。
【0041】
引き続き、本成膜の工程について説明する。炭素組成の低い膜でプリコートを終えたプラズマ反応室201へ、ウエハ搬送室(図示せず)から、プラズマ反応室201内のウエハステージ203に基板210が導入される。基板210のうち本成膜が行われる下地は、半導体装置上に形成された導体、半導体及び絶縁膜あるいは基板210のいずれかとする。本実施形態では、基板210、例えばシリコン基板とする。
【0042】
本実施形態の原料モノマーである環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物原料(液体)は、原料リザーバタンク226から圧送ガスにより加圧圧送され気化器216内において気化し、バルブ221と気化原料供給配管215を介して、キャリアガス(例えば希ガス)と共にプラズマ反応室201内へ供給される。環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物は液体流量コントローラ223によって流量調整がされている。なお液体流量コントローラ223と原料リザーバタンク226の間にはバルブ225が設けられており、液体流量コントローラ223と気化器216の間にはバルブ224が設けられている。
【0043】
気化した原料モノマーは、飽和蒸気圧を超えない限り気相を保持できる。気化器216からプラズマ反応室201までの供給配管はバルブを含めヒータにより加熱され、また、流路断面積の大きな気化原料供給配管215とバルブ221を用いることにより、圧力が局所的に上昇することなく、原料の再液化を防止することができる。また、気化器216をプラズマ反応室201に近づけた装置レイアウトを取ることにより相互の配管距離を短縮し、配管による圧力損失を少なくすることで、気化可能な蒸気圧を大きくすることが可能となり、原料供給能力を拡大することが出来る。
【0044】
プラズマ反応室201に導入された環状有機シリカ化合物ガス及びキャリアガスは、多数の貫通孔を具有しプラズマ反応室201内に設置されたシャワーヘッド204で分散される。シャワーヘッド204上部には図示しないガス分散板が設けられることもある。
【0045】
シャワーヘッド204には、給電線211とマッチングコントローラ212とを介して高周波電源(RF(Radio−Frequency)電源)213が接続され、接地線206を介して接地されたウエハステージ203との間に高周波電力(RF電力)が供給される。これにより、プラズマが発生する。このプラズマは、希ガスプラズマ又は希ガスを主成分としたプラズマである。そしてこのプラズマ中に出発原料ガスが導入されることになる。
【0046】
基板210の表面で基板加熱部からの熱エネルギーを受けると同時に、シャワーヘッド204とウエハステージ203間に印加されるRF電力により発生するプラズマのエネルギーを受けて、原料モノマーが重合反応して基板210表面上にプラズマ重合膜すなわちLow−k膜が成膜される。特に、環状シリキサン骨格中にシリコン原子に飽和炭化水素基と不飽和炭化水素基からなる2つの側鎖が結合された嵩高い有機シリカ分子を出発原料としてプラズマ重合を行う場合、プラズマエネルギーと熱エネルギーの両方により重合反応を促進させることが肝要である。これにより基板210との界面層においても十分に重合反応が進行した有機シリカ膜を成長させることが可能となり、密着性が大きく改善する。すなわち、基板210の加熱は非常に好ましく、ウエハステージ203はヒータにより加熱されており、その温度は200℃〜450℃が好ましい。また有機シリカ膜は、空孔が分散された多孔質構造を有しているのが好ましい。
【0047】
当然のことながら、ウエハ上だけでなく、プラズマが生成している空間内には有機シリカ(SiOCH)膜が成膜される。プラズマ反応室201の内壁は先に述べたプリコートによってシリコン酸化膜でコーティングされていることから、リアクタ側壁、シャワーヘッド204、あるいはウエハステージ203のうちウエハが載っていない領域において、シリコン酸化膜上に有機シリカ(SiOCH)膜が堆積する。この有機シリカ(SiOCH)膜は詳細を後述するとおり、炭素組成に富んだ膜となっており、その組成比C/Siは1以上、例えば2より大きい。また当然のことながら、SiHとNOを原料ガスとしたプリコートで堆積されたシリコン酸化膜の炭素組成はゼロであり、組成比C/Siは1より小さい。
【0048】
また、ウエハステージ203のうち、本成膜時にウエハが載っていた部分については、基板210の存在によってマスクされることとなり、炭素組成に富んだ有機シリカ膜は堆積しない。したがって、ウエハステージ203上では、クリーニング増速効果を表すSiOが最初から露出している状態で、本成膜工程が終了する。
【0049】
有機シリカ膜と下地との密着性をさらに強固なものとするために、本成膜前に下地表面をプラズマ処理することもできる。この処理により下地上の吸着分子を除去し、かつ下地の硬質化を実現することで、密着強度の向上が期待できる。
【0050】
さらに、本成膜時の初期に、高周波電源213からのRF出力を変化させたり、原料ガス以外の励起種(例えばキャリアガスなど)の割合を変化させたりすることで、膜組成や膜構造に変調を与えることが可能である。また高周波ばかりではなく1MHz以下の低周波を同時に印加する2周波を使った成膜を、本成膜初期に行うことで同様に膜組成や膜構造に変調を与えることができる。低周波電源(図示せず)は、図1に示す高周波電源213と同様にシャワーヘッド204に接続しても良いし、ウエハステージ203に接続しても良い。このような変調により下地と接触する部分の硬質化が可能であり、下地との密着性を増加させることができる。膜の硬質化の方法にはRF出力の増加や、原料ガス以外の励起種の割合を増やすことなどが、その一例として挙げられる。
【0051】
このような膜組成や膜構造の変調は本成膜の終期に同様に適用することも可能である。このような変調により上下層との密着性をあげることが可能である。ここでいう成膜の初期とは、例えば高周波入力をオンした後30秒以内、より好ましくは15秒以内をさす。また成膜の終期とは、例えば高周波入力をオフする前30秒以内、より好ましくは15秒以内をさす。
【0052】
未反応の原料は、プラズマ反応室201が真空ポンプ209により減圧されていることから、気相のままヒータにより加熱されている排気配管207を経て冷却トラップ208へ到達する。冷却トラップ208内では、温度が低いため原料モノマーは気相を保つことができずに、冷却トラップ208内で液化あるいは固化される。真空ポンプ209には原料モノマーが送られることなく、冷却トラップ208内で回収される。
【0053】
基板210上に所望の有機シリカ膜が成膜されたのち、高周波電力の投入および原料ガスの導入を終了し、残留ガス等の真空引きを行って、次工程となるクリーニングの準備を行う。
【0054】
ここで、有機シリカ膜の成膜原料の詳細について説明する。
【0055】
本成膜の工程における、原料モノマーである環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物としては、化学式(3)で示すSi−O環状構造を有する有機シロキサンを用いることが好適である。
【0056】
【化3】

(3)
【0057】
化学式(3)において、R1,R2は、水素又は炭素数1〜4の炭化水素基であり、R1及びR2は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。nは、2〜5とする。
【0058】
また、化学式(3)のR1,R2は、炭素数2〜4の直鎖状不飽和炭化水素基又は炭素数3〜4の分枝鎖状飽和炭化水素基を少なくとも1つ用いるとことが好適である。また、nは、3又は4とすると好ましい。さらには多孔質絶縁膜の空孔径を小さくする観点からはn=3が望ましい。すなわち、n>4になると環状構造が不安定となり、プラズマ中で分解してその骨格構造を保持しにくいこと、蒸気圧が増大し気化しにくくなるためである。n=2の場合はシリカ骨格が4角形と不安定となり、プラズマ中で分解しやすくなる。構造安定性と気化特性の観点からはn=3および4の環状有機シリカは同等の性質を示すが、n=3の方が環状構造内の内孔径が小さい。この環状有機シリカの内孔径は、該原料より得られる多孔質絶縁膜の空孔径に対応する。従って、より微細な空孔が求められるULSI多層銅配線の層間絶縁膜としては、n=3がより望ましい。
【0059】
具体的には、化学式(3)で示す有機シロキサンとして、不飽和炭化水素基がビニル基を有するもの、たとえば化学式(1)で示すトリビニルシクロトリシロキサン誘導体、などが例示される。
【化1】

(1)
【0060】
化学式(1)において、R1〜3は、水素又は炭素数2〜4の飽和炭化水素基であり、R1〜3は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R1〜3に相当する飽和炭化水素基としては、エチル基(−CHCH)またはプロピル基(−CHCHCH)を挙げることができる。
【0061】
R1〜3に相当する飽和炭化水素基は、炭素原子を3つ以上含みかつ分岐構造を有することが好ましく、その例として、イソプロピル基(−CH(CH)またはターシャリーブチル基(−C(CH)を挙げることができる。
【0062】
環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物として、より好ましくは、式(2)で示す1,3,5−トリイソプロピル−1,3,5−トリビニル−シクロトリシロキサンを用いることができる。
【化2】

(2)
【0063】
本発明では、環状有機シリカ化合物を構成するシリコン原子に結合する側鎖の片方が、炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基を有する環状有機シリカ化合物を原料として用いている。飽和炭化水素基の側鎖にメチル基よりも立体障害の大きな、炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基である環状有機シリカを用いることにより、炭素原子が1つの飽和炭化水素基である環状有機シリカを用いた場合よりも、得られる膜密度を低減させることができ、その結果、得られる有機シリカ膜の比誘電率を2.6以下と小さくすることができる。
【0064】
また、有機シリカ膜の空孔は、Si−Oからなる環状シロキサンの3量体構造を膜内に有することで、従来よりも空孔径の小さい多孔質絶縁膜が得られる。図2に示すように、小角X線散乱法により測定した空孔径は、最大値2nm以下かつ最大頻度空孔径1nm以下と小さくすることができる。
【0065】
本実施形態で用いているような環状有機シリカ化合物中のシリコン原子1個あたりに不飽和炭化水素基と、炭素数が2つ以上の飽和炭化水素基と、の2つの側鎖が結合したような特に嵩密度の大きい環状シリカ分子を十分に重合反応させるには、十分なエネルギーが必要である。このため、本実施形態では、プラズマエネルギーと、ウエハステージより与えられる熱エネルギーと、を基に、プラズマ重合反応を行うことが好ましい。即ち、プラズマエネルギーと熱エネルギーとの相乗作用によりプラズマ重合反応を促進させている。また、側鎖として、不飽和結合を含んでいると、付加反応が促進され、成膜速度が向上し、網目状のネットワーク構造を有する多孔質膜が形成できるようになる。
【0066】
特徴的なことは、この重合反応の促進により原料中の炭素を離脱させて活性化させている点にある。例えば、後述の実施例1に示した、環状シロキサン3量体(6員環)原料を用いた場合、膜中元素の組成分析結果から、膜中の炭素比は原料のC/Si比=5に比べ、多孔質絶縁膜中のC/Si比=2.52と、原料中と比較して炭素は1〜2個少なくなることが確認された。このように、重合反応の促進により重合反応を十分に行わせ、原料中の炭素を離脱させて活性化させているために、膜中のC/Si比は原料C/Si=5よりも1以上少なくなる。その結果として、比誘電率の低い絶縁膜を安定して得ることが可能となる。
【0067】
半導体装置製造工程における種々のプロセスによって有機シリカ膜表面から炭素が引き抜かれる減少が発生することがあるが、炭素組成が高い場合、シリコン原子に接続している炭化水素基に含まれる炭素が、シリコン原子から離れている炭素から引き抜きが生じることから、急激な炭素の引き抜きを抑制できる。これによって膜の奥深くまで各プロセスによる炭素の引き抜きは発生しにくくなり、結果として、nmレベルの極膜表面のみに炭素の引き抜きが発生するにとどまり、有機シリカ膜としての特性や性能が維持されることになる。いわゆるダメージ耐性の高い膜であるということができる。
【0068】
特に環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物は、少なくとも炭素数3個以上を有する炭化水素基と不飽和炭化水素基の双方を含むことが好ましい。このようにシロキサン構造が不飽和炭化水素基と炭素原子数が3以上の炭化水素基の双方を含むことで、不飽和炭化水素基の強い結合エネルギーにより脱炭素速度を低下させ、かつ、炭素数の多い炭化水素基によって炭化水素成分を多く保ち、炭素組成に富んだ有機シリカ膜とすることができる。
【0069】
また、配管には、ガス流量コントローラ218及びバルブ220を介してキャリアガスが導入可能である。キャリアガスとしては、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、などの希ガスを用いることができる。
【0070】
ここで肝要なことは、該環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるプラズマが必要不可欠である。希ガス、He、Ne、Ar,Krのプラズマは不飽和炭化水素の選択活性に有効である。
【0071】
さらに、この希ガスに酸化剤ガスを混ぜた混合ガスのプラズマが不飽和炭化水素基の選択活性化を促進させ、多孔質絶縁膜の成長速度を著しく向上させる。正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCO又はCOとして引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。
【0072】
また、例えば添加ガス流量コントローラ234及びバルブ233を介して、酸素(O)、二酸化炭素(CO:図示せず)、一酸化炭素(CO:図示せず)、一酸化二窒素(NO)及び二酸化窒素(NO:図示せず)、アルコール(図示せず)、フェノール(図示せず)のいずれか、又はこれらのうちから選択される複数の混合ガスである酸化性ガスを添加することができる。ここで用いるアルコールは、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノーマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノーマルブチルアルコール、イソブチルアルコールのいずれかである。
【0073】
これらの酸化剤ガスを添加することにより、有機シリカ(SiOCH)膜の化学組成を一定に保ちつつ、その成長速度を高速化させることが可能である。図3に、酸化剤ガス添加の一例として、成膜速度とNO添加量との関係を示す。
【0074】
横軸はNOの供給量(sccm)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。図示されるように、NOの添加量の増加に伴い、成膜速度が増加する。これはスループットの向上と、原料コストを低減する上で重要な効果である。換言すると、成膜時にNOを添加することによってスループットと原料利用効率とを改善できる。表1に示すX線光電子分光(XPS)法により得られる膜中元素の組成分析結果から、酸素、炭素および水素組成比がやや上昇する傾向が認められるが、NOガスの添加により膜組成が大きく変化していないことが確認される。先に述べたように、(式2)の環状シロキサン3量体(6員環)原料を用いた場合、膜中元素の組成分析結果から、膜中の炭素比は原料のC/Si比=5に比べ、多孔質絶縁膜中のC/Si比=2.52と、原料と比較して炭素は1〜2個少なくなる。また、NOを80sccm添加した場合にもC/Si比=2.32と、同様に原料中と比較して炭素は1〜2個少なくなっていることが確認される。
【0075】
【表1】

【0076】
また、図4に示したフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果からも、NOを添加してもその吸収スペクトルに大きな変化はなく、膜構造・組成に大きな変化がないことを示唆している。
【0077】
炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基である環状有機シリカ化合物の蒸気に対して、酸化剤ガスであるNOを添加することで、単に環状有機シリカ化合物からなる多孔質絶縁膜の成長速度を増大させるたけでなく、膜物性・組成をほぼ一定に保ちながら比誘電率を低減させることが可能である。
【0078】
引き続き、クリーニングの工程について説明する。
【0079】
これまで述べてきたとおり、プリコート工程と本成膜工程を経過することで、プラズマ反応室201の内壁、シャワーヘッド204、ウエハ保持部などには、炭素組成が異なるSiOCH膜が積層されている。本実施の形態では、下層の膜は炭素組成ゼロのシリコン酸化膜が形成されている。本実施形態では、このような堆積状態になっていることを想定し、以下、クリーニング構成の説明を行う。
【0080】
クリーニングに際してはプラズマ反応室201内を一旦真空状態にしたのちに、本実施例ではクリーニングガスとして、弗化物ガスとAr、例えばNFとArを、ガス流量制御器と誘導結合型のリモートプラズマ源を介して、NFガスを活性化した上で配管239を介してプラズマ反応室201へ導入する。本実施の形態では、炭素濃度の高い有機シリカ(SiOCH)膜のクリーニング速度改善のため、併せて酸素についてもガス流量制御器を介した後に、プラズマ反応室201へ導入した。酸素の添加量はNFの活性度を下げないために、Arの濃度の10%未満に設定した。またNFのガス濃度は同様の理由で20〜25%の範囲となるようにそれぞれのガス流量を設定した。本実施形態では具体的にNF=1.2SLM、Ar=5.0SLM、O=0.45SLM、とする。
【0081】
クリーニングプラズマはラジカル発生効率の高いリモートプラズマを用いるが、平行平板である容量結合型や、誘導結合型でもよい。またNFガス単体の活性化は配管ヒータ等による熱を用いてもよい。特に、クリーニングガスとして、C、C、C、C10、C、及びCのいずれかを用いる場合、あるいはこれらのうちの少なくとも一つのガスと、酸素などの酸化剤ガスの混合ガスを用いる場合も、同様である。
【0082】
プラズマ反応室201の上部から導入された上記クリーニングガスは、本成膜の原料と同様にシャワーヘッド204で分散される。その後プラズマ反応室201内に堆積したプリコート膜と有機シリカ膜が、炭素濃度の高い表面側より順次エッチングがなされ、除去される。
【0083】
この際、リモートプラズマを用いることから、プラズマ反応室201の内壁に堆積した積層されたプリコート膜と有機シリカ膜は比較的均一にクリーニングが進行する。しかしながら先に述べた通り、プリコート膜および本成膜で堆積された有機シリカ膜は、シャワーヘッド204、基板保持部(例えばウエハステージ203)に優先的に厚く堆積されている。これにより、まず炭素濃度の高い有機シリカ(SiOCH)膜が薄く堆積された領域から、下層のシリコン酸化膜が露出する。
【0084】
一方、先に述べた通りウエハステージ203上のうち基板210が載る部分については、プリコート膜のみが堆積しており、炭素組成に富んだ有機シリカ膜は堆積していない。したがって、本実施形態では、ウエハステージ203上では、クリーニング開始時点でSiOが露出している。
【0085】
炭素組成に富んだ有機シリカ膜をNFでクリーニングする場合には、NFのフッ素と有機シリカ膜の炭素が再結合して、CF系の堆積物を形成する。NFでは効率的にCF系の堆積物除去できないため、これによって、クリーニング速度が低下する。例えば、プリコートにも本成膜と同様に炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いた場合には、常にプラズマ反応室内部の表面は炭素組成に富んだ有機シリカ膜で覆われており、全面除去には非常に長い時間がかかる。
【0086】
しかしながら、本実施形態のように、プラズマ反応室201内で部分的に炭素が含まれていないシリコン酸化膜が露出していることで、この面が酸素供給源となり、実効的にクリーニングガス中の酸素濃度を高めることになる。しかも、この酸素はNFによるエッチングによってシリコン酸化膜が分解されることによって供給されることから、供給時に活性状態にあり、有機シリカ膜中の炭素の引き抜き効果が高い。しかもプラズマ反応室201内で供給されることから、NFラジカルの供給経路には影響がなく、NFの活性度を下げることがない。これらの相乗効果によって、炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いている場合でも、単に酸素添加量を増やす以上の非常に効率の高いクリーンニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。この効果はシリコン酸化膜をプリコートとして用いた場合だけでなく、本成膜に用いた有機シリカ膜よりも大幅に炭素組成が低い、例えば炭素/シリコン組成比が2より小さい膜で効果が有り、なお好ましくは炭素/シリコン組成比が1前後より小さければ、さらに劇的にクリーニング時間を短縮する効果が発現する。
【0087】
次に、本実施形態をまとめる。
【0088】
炭素組成に富んだ有機シリカ膜をプリコート膜として使用した場合、NFのフッ素と有機シリカ膜の炭素が再結合して、CF系の堆積物を形成されることがある。NFでは効率的にCF系の堆積物除去できないため、このような堆積物が形成された場合、プラズマクリーニング速度がさらに低下してしまう。
【0089】
また、炭素組成に富んだ有機シリカ膜は、プラズマ耐性に優れプロセスダメージを低減させる効果があるが、その一方炭素組成に富むことで一般に密着性が劣化する。このため、炭素組成に富んだ有機シリカ膜自体をプリコート膜として採用した場合、プラズマ反応室201の内壁からのプリコート膜剥離が生じて発塵源となる場合が認められる。特に、プラズマ重合法の場合、プラズマ反応室内壁は加熱されておらず、一般に200℃以下と低温のため、重合反応が十分に進行せずにプリコート膜である有機シリカ膜の密着性が低下し、発塵源となる場合があった。さらに、プラズマ重合法による多孔質構造でかつ炭素組成に富んだ有機シリカ膜を成長させる場合、プラズマ反応室内壁と密着性がさらに劣化し、この膜自体をプリコート膜として利用することは困難であった。
【0090】
上記した技術課題に対して、特許文献1から3に記載されている手法を用いたとしても、プラズマ重合法により、炭素組成に飛んだ有機シリカ膜を連続成長させる場合、炭素の存在に起因する課題を解決することは出来なかった。
【0091】
すなわち、プラズマ重合法により炭素組成に富んだ有機シリカ膜、特に多孔質構造を有する炭素組成に富んだ有機シリカ膜を成長するには、1)プラズマ反応室内のプリコート膜の成長工程、2)プラズマ重合法による有機シリカ膜の成長工程、3)プラズマ反応室内壁のプラズマクリーニング工程、からなる一連の工程が必要であるが、特に、3)のプラズマ反応室内壁のプラズマクリーニング工程が遅く、全体のスループットを低下させていた。
【0092】
これに対して本実施形態では、プラズマ重合法で炭素組成に富んだ(C/Si>1)有機シリカ膜あるいは多孔質構造を有する有機シリカ膜を半導体基板上に連続して成長する製造方法において、プラズマ反応室内壁を覆うプリコート膜として、有機シリカ膜よりも炭素組成が低い高酸素含有プリコート膜、例えば、シリカ膜(SiO、C/Si=0、O/Si=2)を用いる。プラズマクリーニング工程では、プラズマ反応室内壁に成膜された炭素組成に富んだ有機シリカ膜と高酸素含有プリコート膜とからなる積層膜を除去する。我々は、高酸素含有プリコート膜を用いることで、プラズマ反応室内壁に成長した炭素組成に富んだ有機シリカ膜のプラズマクリーニング速度を大きく増大できることを見出した。
【0093】
これにより、クリーニング時間ならびに一連の成膜工程に要する時間の短縮化、つまり、スループットを向上することができる。さらに、プラズマクリーニング時間の短縮によって、クリーニングに使用するガスの使用量を削減することが可能となり、コストの削減が可能となる。また、膜密度が高くかつ密着性に富む炭素組成が低い高酸素含有プリコート膜を用いることによって、本成膜を行うに際してのパーティクルの発生や、金属汚染の発生防止に対しても有効となる。
【0094】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0095】
以下に実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
本実施例では、プリコートにシリコン酸化膜を、本成膜にはトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサン(式2)を用いた有機シリカ(SiOCH)膜を、クリーニングには、NF/Ar/Oをクリーニングガスとして用いた。
【0097】
まず、プリコート工程においては、プリコート膜としてシリコン酸化膜を堆積するためSiHとNOを、ガス流量制御器を介してプラズマ反応室201へ供給した。ガス流量はそれぞれ180sccmと2000sccmである。
【0098】
引き続きシャワーヘッド204とウエハステージ203の間にRF電力450Wを印加することによって、プラズマ反応室201の内壁に200nm程度のシリコン酸化膜を堆積した。このシリコン酸化膜の炭素/シリコン比は零である。
【0099】
このプリコート工程が終了した後、本成膜を行うために、ウエハ搬送室より下地となる半導体基板をプラズマ反応室201へ搬送した。このとき、半導体基板は350℃に加熱されたウエハステージ203上に成膜されたシリコン酸化膜の上に設置された。
【0100】
本成膜工程においては、原料としてトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサン、キャリアガスとして、ヘリウムを用い、気化制御器を介してプラズマ反応室201へ供給した。供給量はそれぞれ、1.4g/minと300sccmであった。引き続き、プリコート工程と同様にシャワーヘッド204とウエハステージ203の間にRF電力250Wを印加する。これによって、熱エネルギーとプラズマエネルギーを受けて、原料がプラズマ重合反応を生じることとなり、半導体基板上に200nmの有機シリカ(SiOCH)膜を堆積させた。この有機シリカ(SiOCH)膜の炭素/シリコン比は2.52である。また比誘電率は2.53であり、小角X線散乱法による空孔径分布の最頻値(ピーク)は0.44nmであった。当然のことながら、半導体基板上だけでなく、有機シリカ(SiOCH)膜はウエハステージやシャワーヘッド204上にも堆積された。但し、半導体基板の存在により、ウエハステージ203上の大部分には成膜されなかった。
【0101】
このようにして本成膜終了後、半導体基板をプラズマ反応室201より取り出す。
【0102】
次に行われるクリーニング工程では、クリーニングガスとしてNF、Ar、Oを用いて、プリコート工程と本成膜工程によってプラズマ反応室201内に堆積された。本実施例では各ガスの供給量は、NF=1.2SLM、Ar=5.0SLM、O=0.45SLM、とした。NF、Arは3kWの電力が印加されたリモートプラズマ源によって励起された後にプラズマ反応室201に供給された。
【0103】
クリーニングの状態を、SiFの発光を発光分光器によってモニタすることにより確認した。分解生成物であるSiFの発光が認められなくなることにより、プラズマ反応室201内の堆積物が除去されたものと判断できる。結果を図5a)に示す。比較として、プリコート膜として本成膜工程と同様の炭素組成に富んだ膜を用いた場合について図5b)に示す。さらに比較のため、クリーニングガスに酸素を添加しなかった場合について図5c)に示す。
【0104】
プリコート膜に炭素が含まれないシリコン酸化膜を用いた場合は、クリーニングは約40秒で終了していることがわかる。一方、プリコート工程も本成膜も炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いた場合にはクリーニング時間が130秒を要しており、シリコン酸化膜をプリコート膜に用いることでクリーニング速度が約3倍になっていることがわかる。プリコート工程も本成膜も炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いた場合で、クリーニングガスとして酸素を添加せず、NF3とArのみでクリーニングを行った場合には、クリーニング時間が240秒を要しており、酸素を添加することでクリーニング速度が約2倍になっていることがわかる。つまり、酸素を添加してクリーニングを高速化する効果よりも、プリコート膜に炭素組成が低い高酸素含有膜を用いてクリーニングを高速化する方が高速化に効果的であることがわかる。
【0105】
この理由はプラズマ反応室201内で部分的に炭素が含まれていないシリコン酸化膜が露出していることで、シリコン酸化膜がクリーニングによって分解・除去されることで、酸素供給源となり、実効的にクリーニングガス中の酸素濃度を高めたためである。この酸素はNFによるエッチングによってシリコン酸化膜が分解されることによって供給されることから、供給時にすでに活性状態にあり、有機シリカ(SiOCH)膜中の炭素の引き抜き効果が高く、有機シリカ(SiOCH)膜のクリーニング速度を高める貢献をする。しかもプラズマ反応室内で供給されることから、NFラジカルの供給経路には影響がなく、NFの活性度を下げることがない。
【0106】
一方、炭素組成に富んだ有機シリカ(SiOCH)膜をプリコート工程にも本成膜工程にも用いた場合は、クリーニングによって除去される膜は炭素組成に富んだ有機シリカ膜のみとなる。この場合、クリーニング中にNFのフッ素と有機シリカ膜の炭素が再結合して、CF系の堆積物を形成する。NFでは効率的にCF系の堆積物を除去できないため、クリーニング速度が低下する。常にプラズマ反応室201の内部の表面は炭素組成に富んだ有機シリカ膜で覆われていることから、全面除去には非常に長い時間がかかったと考えられる。
【0107】
このように、本成膜工程に炭素組成の高い膜を用いる場合には、プリコート膜に炭素組成の低い膜を用いることによって、クリーニング速度を著しく高めることが可能となる。これはこの組み合わせ特有の現象である。炭素組成に富んだ有機シリカ(SiOCH)膜を用いている場合でも、単に酸素添加量を増やす以上の非常に効率の高いクリーンニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。
【0108】
(実施例2)
本実施例では、プリコートに本成膜で形成される有機シリカ膜よりも炭素組成が低い高酸素含有膜を、本成膜にはトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンを用いた有機シリカ(SiOCH)膜を、クリーニングには、NF/Ar/Oをクリーニングガスとして用いた。
【0109】
まず、プリコート工程においては、プリコート膜として炭素組成が低い高酸素含有有機シリカ膜を堆積するため、トリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンと、SiHとNOを、ガス流量制御器を介してプラズマ反応室201へ供給した。トリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンの流量は1.0g/min、キャリアガスであるHeのガス流量は1.0SLM、SiHとNOのガス流量はそれぞれ70sccmと700sccmであった。
【0110】
引き続きシャワーヘッド204とウエハステージ203の間にRF電力250Wを印加することによって、プラズマ反応室201の内壁に200nm程度のシリコン酸化膜を堆積した。この有機シリカ膜の炭素/シリコン比は0.95であった。
【0111】
プリコート工程終了後、本成膜を行うために、ウエハ搬送室より下地となる半導体基板をプラズマ反応室へ搬送した。このとき、半導体基板は350℃に加熱されたウエハステージ上に成膜されたシリコン酸化膜の上に設置された。
【0112】
本成膜工程においては、実施例1と同様の成膜を行った。この有機シリカ(SiOCH)膜の炭素/シリコン比は2.5であった。また比誘電率は2.53であり、小角X線散乱法による空孔径分布の最頻値(ピーク)は0.44nmであった。本成膜終了後、半導体基板をプラズマ反応室より取り出した。
【0113】
クリーニング工程では、クリーニングガスとしてNF、Ar、Oを用いて、プリコート工程と本成膜工程によってプラズマ反応室内に堆積された膜を除去した。本実施例でも各ガスの供給量は、NF=1.2SLM、Ar=5.0SLM、O=0.45SLM、とした。NF、Arは3kWの電力が印加されたリモートプラズマ源によって励起された後にプラズマ反応室に供給した。
【0114】
クリーニングの状態をSiFの発光を発光分光器によってモニタすることにより確認した。分解生成物であるSiFの発光が認められなくなることにより、プラズマ反応室内の堆積物が除去されたものと判断できる。結果を図6に示す。
【0115】
プリコート膜として、炭素組成が低い(C/Si<1)高酸素含有有機シリカ膜を用いた場合は、クリーニングは約42秒で終了していることがわかる。この理由は実施例1と同様に、プラズマ反応室内で部分的に炭素組成が低い(C/Si<1)高酸素含有有機シリカ膜が露出していることで、実施例1と同様に、該有機シリカ膜がクリーニングによって分解・除去されることで、酸素供給源となり、実効的にクリーニングガス中の酸素濃度を高めたためである。
【0116】
したがって、本成膜工程に炭素組成の高い膜を用いる場合には、プリコート膜に炭素組成の低い膜を用いることによって、クリーニング速度を著しく高めることが可能であることが確認される。これはこの組み合わせ特有の現象である。炭素組成に富んだ有機シリカ(SiOCH)膜を用いている場合でも、単に酸素添加量を増やす以上の非常に効率の高いクリーンニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。
【0117】
(実施例3)
本実施例では、プリコートにシリコン酸化膜を、本成膜にはトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンを用いた有機シリカ(SiOCH)膜を、クリーニングには、NF/Ar/Oをクリーニングガスとして用いた。
【0118】
まず、プリコート工程においては、実施例1と同様に、プラズマ反応室201の内壁に200nm程度のシリコン酸化膜を堆積した。このシリコン酸化膜の炭素/シリコン比はゼロである。
【0119】
プリコート工程終了後、本成膜を行うために、ウエハ搬送室より下地となる半導体基板をプラズマ反応室201へ搬送する。このとき、半導体基板は350℃に加熱されたウエハステージ203上に成膜されたシリコン酸化膜の上に設置される。
【0120】
本成膜工程においては、原料としてトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサン、キャリアガスとして、ヘリウムを用い、気化制御器を介してプラズマ反応室201へ供給した。供給量はそれぞれ、1.4g/minと500sccmであった。同時に、本実施例では、添加ガスとしてNOを80sccm供給した。
【0121】
引き続き、プリコート工程と同様にシャワーヘッド204とウエハステージ203の間にRF電力250Wを印加することによって、熱エネルギーとプラズマエネルギーを受けて、原料がプラズマ重合反応を生じることとなり、半導体基板上に200nmの有機シリカ(SiOCH)膜を堆積させた。この有機シリカ(SiOCH)膜の炭素/シリコン比は2.32である。また比誘電率は2.55であり、小角X線散乱法による空孔径分布の最頻値(ピーク)は0.38nmであった。
【0122】
当然のことながら、半導体基板上だけでなく、有機シリカ(SiOCH)膜はウエハステージ203やシャワーヘッド204上にも堆積する。但し、ウエハの存在により、ウエハステージ203の上の大部分には成膜されない。このようにして本成膜終了後、半導体基板をプラズマ反応室201より取り出す。
【0123】
クリーニング工程では、クリーニングガスとしてNF、Ar、Oを用いて、プリコート工程と本成膜工程によってプラズマ反応室内に堆積された膜を除去した。本実施例でも各ガスの供給量は、NF=1.2SLM、Ar=5.0SLM、O=0.45SLM、とした。NF、Arは3kWの電力が印加されたリモートプラズマ源によって励起された後にプラズマ反応室に供給した。
【0124】
クリーニングの状態をSiFの発光を発光分光器によってモニタすることにより確認した。分解生成物であるSiFの発光が認められなくなることにより、プラズマ反応室内の堆積物が除去されたものと判断できる。結果を図7に示す。
【0125】
実施例1同様、クリーニングは約40秒で終了していることがわかる。本実施例における有機シリカ膜のC/Si組成比は2.3であり、実施例1同様、本成膜工程に炭素組成の高い膜を用いる場合には、プリコート膜に炭素組成の低い膜を用いることによって、クリーニング速度を著しく高めることが可能となる。これはこの組み合わせにより新たに発現した特有の現象である。炭素組成に富んだ有機シリカ(SiOCH)膜を用いている場合でも、単に酸素添加量を増やす以上の非常に効率の高いクリーンニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。
【0126】
(実施例4)
本実施例では、プリコートにシリコン酸化膜を、本成膜にはトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンを用いた有機シリカ(SiOCH)膜を、クリーニングには、NF/Ar/Oをクリーニングガスとして用いた。また、本成膜1枚毎にクリーニングを行うのではなく、本成膜を3枚の半導体基板に対して実施する毎に、クリーニングを行うものとした。
【0127】
まず、プリコート工程においては、実施例1と同様にプリコート膜として、プラズマ反応室201の内壁に200nm程度のシリコン酸化膜を堆積した。このシリコン酸化膜の炭素/シリコン比はゼロである。
【0128】
プリコート工程終了後、本成膜を行うために、ウエハ搬送室より下地となる半導体基板をプラズマ反応室201へ搬送する。このとき、半導体基板は350℃に加熱されたウエハステージ203上に成膜されたシリコン酸化膜の上に設置される。
【0129】
本成膜工程においても、実施例1と同様に、半導体基板上に200nmの有機シリカ(SiOCH)膜を堆積させた。この有機シリカ(SiOCH)膜の炭素/シリコン比は2.52である。また比誘電率は2.53であり、小角X線散乱法による空孔径分布の最頻値(ピーク)は0.44nmである。
【0130】
当然のことながら、半導体基板上だけでなく、有機シリカ(SiOCH)膜はウエハステージ203やシャワーヘッド204上にも堆積する。但し、ウエハの存在により、ウエハステージ203上の大部分には成膜されない。このようにして本成膜終了後、半導体基板をプラズマ反応室201より取り出す。
【0131】
本実施例では、クリーニングを行わずに、再びプリコートを行って、プラズマ反応室201内の主な表面状態を再度初期状態にする。また、本成膜についても同様に行う。本実施例では、この工程を都合3回繰り返し、プリコート3回、本成膜を3回、それぞれ行った。
【0132】
3回のプリコート/本成膜の繰り返しを行った後に、クリーニングを行った。クリーニング工程は、やはり実施例1と同様に行った。
【0133】
クリーニングの状態をSiFの発光を発光分光器によってモニタすることにより確認した。分解生成物であるSiFの発光が認められなくなることにより、プラズマ反応室内の堆積物が除去されたものと判断できる。結果を図8f)に示す。比較として、プリコート工程を本成膜工程と同様の炭素組成に富んだ膜を用いた場合について図8g)に示す。
【0134】
プリコート膜に炭素が含まれないシリコン酸化膜を用いた場合は、クリーニングは約112秒で終了していることがわかる。3回のプリコートと本成膜を繰り返していることにより、実施例1のおおむね2.8倍の時間を要している。一方、プリコート工程も本成膜も炭素組成に富んだ有機シリカ膜を用いた場合にはクリーニング時間が383秒を要しており、やはり、シリコン酸化膜をプリコート膜に用いることでクリーニング速度が約3倍以上向上していることがわかる。プリコート膜に炭素組成が低い高酸素含有膜を用いてクリーニングを高速化する効果は、枚用毎よりもが高いことがわかる。
【0135】
したがって、本成膜工程に炭素組成の高い膜を用いる場合には、プリコート膜に炭素組成の低い膜を用いることによって、クリーニング速度を著しく高めることが可能となる。これはこの組み合わせにより発現した特有の現象である。炭素組成に富んだ有機シリカ(SiOCH)膜を用いている場合でも、単に酸素添加量を増やす以上の非常に効率の高いクリーンニングが行われることになり、劇的なクリーニング時間の短縮効果が得られる。
【0136】
なお、本実施例では、本成膜3枚実施毎に、クリーニングを行うものとしたが、4枚以上の成膜毎のクリーニングの実施においても、特に、本成膜における有機シリカ膜の膜質には影響がなく、パーティクルの発生やメタルコンタミの発生がなければ問題はない。
【0137】
(実施例5)
上記した方法を用いて製造した半導体装置の一例を図面を参照して以下に説明する。ただし、本実施の形態に関して前述した従来例と同一の部分は、同一の名称を使用して詳細な説明は省略する。
【0138】
図9は、本発明のひとつの実施の形態の多層配線中に容量素子を備えた半導体装置を示す断面図である。この半導体装置は、論理回路とメモリ回路とを混載したものである。メモリ回路には、容量素子を有するメモリ素子のほかにメモリの周辺回路も含まれる。図9(a)はメモリ回路領域の断面図である。また図9(b)は論理回路領域の代表的な断面図を示す。
【0139】
本実施形態の半導体装置は、半導体基板(シリコン基板5)と、配線および絶縁膜により構成された配線層が複数積層された多層配線構造と、この多層配線構造内に埋め込まれた、下部電極91、容量絶縁膜92、および上部電極93により構成された容量素子90と、を備えるものである。容量素子90は少なくとも2層以上の配線層にわたって設けられているため、この多層配線構造の配線層数を変えずに、容量素子90が貫く配線層数を変化させて所望の容量を得ることができる。また、容量素子90が埋め込まれたメモリ回路領域の多層配線と論理回路領域の多層配線は同層に形成される。このため、新たに論理回路領域の多層配線を設ける必要がない。これにより、多層配線構造をコンパクトに設けることができる。
【0140】
つぎに本実施形態の半導体装置の製造方法について簡単に説明する。本実施形態の半導体装置は、さらに、シリコン基板5の表面近傍に形成された第一の拡散層(拡散層7)と、シリコン基板5の表面近傍に形成された第二の拡散層(拡散層7)と、ゲート絶縁膜と、ゲート電極8と、を備える。そして、本実施形態の半導体装置は、これらのシリコン基板5、第一の拡散層、第二の拡散層、ゲート絶縁膜、およびゲート電極8により電界効果トランジスタ(MOSトランジスタ)9を構成するものである。MOSトランジスタ9のゲート絶縁膜は、高誘電率ゲート絶縁膜であればよい。例えば高誘電率ゲート絶縁膜として、SiONなどシリコン酸窒化物あるいはHf酸窒化物などのHfを含む高誘電率ゲート絶縁膜などを用いることができる。具体的には、Hf酸化物、Hfシリケート、およびそれらに窒素が導入された高誘電率絶縁膜を用いることができる。ゲート絶縁膜は、単層またはこの種類で構成された多層でもよい。
【0141】
またゲート電極材は、ポリシリコンあるいはその上面層がNi、Co、Ti、Ptなど金属シリサイドで覆われされたものである。さらには、ゲート電極の一部にTi、Ta、Alあるいはそれらの導電性窒化物を含むメタルゲート電極であってもよい。特に、メタルゲート電極の場合、ロジック部のトランジスタの駆動電流を向上させるといった効果のみならず、メタルゲート電極はDRAM部のワード線を構成しているので、このワード線の抵抗を低減する効果もあり、多層配線層に容量素子部を埋め込んだeDRAM構造と組み合わせることで、より高速動作が可能となる。
【0142】
なお図9において、ビット線19はロジック回路領域の第1層配線15と同時に同一層に形成され、ビット線だけの配線層は存在しない。本実施形態に示す構造により、多層配線層数を有効に活用可能である。
【0143】
コンタクト層間絶縁膜1はシリコン酸化膜からなり、コンタクトプラグ4はタングステンからなり、コンタクトバリアメタル膜3は窒化チタン/チタンの積層膜からなる。
【0144】
また、第1層の層間絶縁膜11および第2層の層間絶縁膜21は実施例3の手法により有機シリカ膜を堆積したが、実施例1〜4のいずれかの方法によって成膜してもよい。第1層配線バリアメタル膜13はタンタル/窒化タンタル積層膜からなり、第1層配線15は銅からなる。また、各配線層上のキャップ膜はSiCN膜からなる。
【0145】
第2層配線25を形成する手法について簡単に記載する。第1層配線15を形成し、第1層配線のキャップ膜20を成膜した後に、第2層の層間絶縁膜21として前記有機シリカ膜を成膜する。この有機シリカ(SiOCH)膜の炭素/シリコン比は2.32である。また比誘電率は2.55であり、小角X線散乱法による空孔径分布の最頻値(ピーク)は0.38nmである。
【0146】
引き続き加工時のマスクとしてシリコン酸化膜(図示せず)を成膜する。さらにリソグラフィとドライエッチングを用いたいわゆるデュアルダマシンプロセスによって第2層配線の開口部を形成する。このとき開口部の一部は第1層配線15に電気的に接続するためのビアホールを含んでいる。これらの開口部にスパッタリング法によって第2層配線バリアメタル膜23を堆積し、引き続いて銅めっきのシード層となる銅を堆積する。さらにめっき法によって銅を埋め込む。ここで用いる銅にはアルミニウムや銀などの金属の添加物を含んでいてもよい。この第2層配線の開口部に第2層配線バリアメタル膜23と銅が残るように余分なバリアメタル膜と銅をCMPなどの手法を用いて除去し、第2層配線25を形成する。この工程中にマスクとしてのシリコン酸化膜は除去され、第2層の層間絶縁膜21上には残らない。その後、第1層と同様に第2層配線25のキャップ膜30を成膜する。ここで、容量素子の開口部以外の容量絶縁膜の下部に部分的にシリコン酸化膜が設けられていてもよい。
【0147】
本実施の形態では層間絶縁膜およびキャップ膜は単層の絶縁膜を用いているが、それぞれ、複数種の絶縁膜の積層構造でもよい。たとえば、層間絶縁膜は炭素組成に富んだ有機シリカ膜と他のSiOCH膜、キャップ膜はSiC膜とSiCN膜の積層構造などでもよい。またCu拡散バリア性を備えたSiOCH膜でもよい。
【0148】
さらに第3層配線35および第4層配線45を形成する。形成方法は第2層配線25と同様に実施例3の手法により有機シリカ膜の堆積を行った。ただし、実施例1〜4のいずれかの方法によって成膜してもよい。次に第4層配線45のキャップ膜50を堆積した後に、ハードマスク絶縁膜94を成膜する。さらにシリンダ加工レジスト膜(図示せず)をリソグラフィによって形成する。ここでハードマスク絶縁膜94はシリコン酸化膜を用いたが、他の絶縁膜との積層構造でもよい。またレジスト膜との間に反射防止膜を備えるなどの多層構造としてもよい。いずれの場合も容量素子形成過程で第4層配線45のキャップ膜50を保護する効果をもつ絶縁膜であることが好ましい。具体的には、シリコン酸化膜のほか、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが挙げられる。
【0149】
引き続いてドライエッチングによって容量素子開口部を形成する。このとき、第2層配線25の酸化を防止するため、第2層配線25のキャップ膜30はエッチングしない。さらにシリンダ加工レジスト膜をアッシングにより除去し、容量素子の下部電極を下層の配線となる第2層配線25に接続するため、第2層配線25のキャップ膜30をドライエッチングによってエッチバックする。一連の工程で、開口部側壁は工程のプラズマ処理や薬液処理を受けるが、各層の層間絶縁膜である有機シリカ膜は、炭素組成が高いことから、特にシリコン原子に接続している炭化水素基に含まれる炭素が、シリコン原子から離れている炭素から引き抜きが生じ、急激な炭素の引き抜きを抑制できる。結果として、有機シリカ(SiOCH)膜としての特性や性能が維持される。
【0150】
引き続いて容量素子の下部電極となる下部電極膜91を成膜し、リソグラフィとドライエッチングによって下部電極構造を形成する。さらに引き続いて、容量絶縁膜92と上部電極膜93を成膜し、さらにシリンダ内埋設メタル膜99としてタングステンを成膜する。上部電極加工レジスト膜(図示せず)をリソグラフィによって形成し、これをマスクにドライエッチングによってシリンダ内埋設メタル99、容量絶縁膜92と上部電極膜93をエッチングする。
【0151】
ここで容量素子90に用いる材料としては、上部電極膜93及び下部電極膜91には、Ti、TiN、Ta、TaN、Ruまたはこれらの積層構造等が挙げられる。また、容量絶縁膜92としては二酸化ジルコニウム(ZrO)やジルコニウムアルミネート(ZrAlOx)、二酸化ジルコニウムにTb、Er、Ybなどのランタノイドを添加した膜などが挙げられる。
【0152】
このハードマスク絶縁膜94は上述のアッシングおよびエッチングの工程において、特に論理回路部のハードマスク膜の下層に存在するキャップ膜、ひいてはさらにその下層にある銅配線を保護する役目を担っている。特に層間絶縁膜やキャップ膜が酸素プラズマや容量膜のエッチングプロセス耐性が無い場合には、ハードマスク膜がないと、論理回路部の銅配線が酸化するなどにより、抵抗の上昇や信頼性の劣化が起こり、論理回路部の性能劣化や動作不良を引き起こすことになる。
【0153】
次に、下部電極加工の際と同様にアッシングによって上部電極加工レジスト膜を除去する。さらに上部電極をマスクとして、ハードマスク絶縁膜94をエッチバックし、第4層配線45のキャップ膜50を露出させる。
【0154】
その後、第5層の層間絶縁膜51を成膜する。この際、メモリ回路部では容量素子90の存在によって、論理回路部との間に段差が生じるため、これをCMPなどの手法によって平坦化を行う。その後、第5層配線55の開口部を形成するためのマスクに用いるハードマスク絶縁膜を成膜する。以後の形成プロセスは、第2層配線25を形成するときの手法と同様に行うことにより、第5層配線55を形成する。
【0155】
このとき、メモリ回路部においては、シリンダ内埋設メタル99が配線溝加工時のストッパとして機能し、溝深さが制限されるとともに、その直上に上部容量配線(メモリ回路領域に形成された第5層配線55)が同時に形成される。プレート線配線として上部容量配線が直接接続された構造が得られる。これはプレート線配線として容量素子間を接続するだけでなく、その素子間の電気抵抗低減を実現する。さらに第6層配線65を同様に形成し、引き続いて上層配線を形成し、半導体集積回路を完成させる。
【0156】
本実施例では、これらのメモリ回路部および論理回路部の構造を、容量素子90を多層配線構造に埋め込んだ、ビルトイン型構造のメモリ回路部および論理回路部とすることで、容量素子90の存在によって設計パラメーターが変化することが無い。すなわち、同一半導体基板上にメモリ回路部が存在していても、論理回路部の多層配線の構造・材料にはまったく変化を及ぼさないことから、論理回路部のみの場合と完全に互換性のある設計パラメーターを用いることが可能となる。別な言い方をすれば、本混載回路チップにおいて、通常の論理回路部のみの論理回路チップとまったく同等の論理演算能力を維持しつつ高速メモリ機能を発現させることができる。
【0157】
(実施例6)
以下、実施例6について説明する。図10は、実施例6にかかる半導体装置の断面図である。この半導体装置は、磁気トンネル接合素子(MTJ)100を備えている。図10(a)は磁気抵抗メモリ回路領域の断面図である。また図10(b)は論理回路領域の代表的な断面図を示す。
【0158】
本実施形態の半導体装置は、半導体基板(シリコン基板5)と、シリコン基板5に形成され、配線(第3層配線35、第4層配線45、第5層配線55、第6層配線65)および絶縁膜(第3層の層間絶縁膜31、第4層の層間絶縁膜41、第5層の層間絶縁膜51、第6層の層間絶縁膜61)により構成された配線層(第3層配線35と第3層の層間絶縁膜31、第4層配線45と第4層の層間絶縁膜41、第5層配線55と第5層の層間絶縁膜51、第6層配線65と第6層の層間絶縁膜61)が複数積層された多層配線構造と、この多層配線構造内に埋め込まれた、磁気トンネル接合素子(MTJ)100を備えるものである。さらに、本実施形態の半導体装置は、MTJが、いわゆるローカル配線中に設けられたことを特徴とするものである。MTJは耐熱性が低く、高温環境下に置かれると磁化保持特性が劣化することから、配線工程のプロセス温度は上限温度が設定される。本発明の炭素組成に富んだ有機シリカ膜の成膜は200Cから成膜可能であり、多層配線中に埋め込まれたMTJの磁化特性に影響を与えることなく成膜を行うことが可能である。
【0159】
この多層配線構造おいて、磁気抵抗メモリ回路領域と論理回路領域との配線層は同層に設けられているものである。つまり、メモリ回路領域の第3層配線層、第4層配線層、第5層配線層と論理回路領域の第3層配線層、第4層配線層、第5層配線層とは同層になる。
【0160】
つぎに本実施形態の半導体装置の製造方法について簡単に説明する。本実施形態の半導体装置は、実施例5と同様に、シリコン基板5上にMOSトランジスタ9が形成されている。MOSトランジスタは拡散層7、ゲート電極8、等からなる。磁気抵抗メモリ領域におけるビット線19は第3層配線35と同一層に形成されている。
【0161】
また、第1層の層間絶縁膜11および第2層の層間絶縁膜21は本実施例では実施例3の手法により有機シリカ膜を堆積したが、実施例1〜4のいずれかの方法によって成膜してもよい。
【0162】
次に、第2層配線25中に、磁気トンネル接合素子を形成する手法の概要について説明する。
【0163】
第1層配線15を形成し、SiCN膜からなる第1層配線のキャップ膜20を成膜した後に、磁気トンネル接合素子100と、第1層配線15との接続部プラグ分の有機シリカ膜を成膜する。さらにハードマスクしてシリコン酸化膜を形成した。第1層配線15上に、リソグラフィとドライエッチングにより磁気トンネル接合素子(MTJ)100との接合部となる開口部を形成し、バリアメタルと銅を堆積した上でCMPを行い、MTJとの接続プラグを形成する。その後MTJのハード膜、ハードマスク膜成膜、リソグラフィとドライエッチングの繰り返し、さらには有機シリカ膜の堆積とエッチバックの繰り返し、によって、MTJを第2層の層間絶縁膜21中に形成する。
【0164】
引き続き加工時のマスクとしてシリコン酸化膜(図示せず)を成膜する。さらにリソグラフィとドライエッチングを用いたいわゆるデュアルダマシンプロセスによって第2層配線の開口部を形成する。このとき開口部の一部は第1層配線15に電気的に接続するためのビアホールと、MTJの参照層への接続孔を含んでいる。
【0165】
これらの開口部にスパッタリング法によって第2層配線バリアメタル膜23を堆積し、引き続いて銅めっきのシード層となる銅を堆積する。さらにめっき法によって銅を埋め込む。ここで用いる銅にはアルミニウムや銀などの金属の添加物を含んでいてもよい。この第2層配線の開口部にバリアメタル膜23と銅が残るように余分なバリアメタル膜と銅をCMPなどの手法を用いて除去し、第2層配線25を形成する。この工程中に前記シリコン酸化膜は除去され、第2層の層間絶縁膜21上には残らない。その後、第1層と同様にSiCN膜からなる第2層配線のキャップ膜30を成膜する。
【0166】
以後の工程で、この第2層配線の開口部と同様にして、リソグラフィとドライエッチングを用いたいわゆるデュアルダマシンプロセスによって第3層配線〜第6層配線それぞれの開口部を形成することができる。図10に示す第3層配線バリアメタル膜33、第4層配線バリアメタル膜43、第5層配線バリアメタル膜53および第6層配線バリアメタル膜63は、第1層配線バリアメタル膜13または第2層配線バリアメタル膜23と同様にして形成できる。図10に示す第5層配線のキャップ膜60および第6層配線のキャップ膜70は、第2層配線のキャップ膜30と同様にして形成できる。
【0167】
本実施の形態では層間絶縁膜およびキャップ膜は単層の絶縁膜を用いているが、それぞれ、複数種の絶縁膜の積層構造でもよい。たとえば、層間絶縁膜は炭素組成に富んだ有機シリカ膜と他のSiOCH膜、キャップ膜はSiC膜とSiCN膜の積層構造などでもよい。
【0168】
さらに第3層配線35および第4層配線45および第5層配線55を形成する。各層間絶縁膜の形成方法は第2層配線25と同様に実施例3の手法により有機シリカ膜の堆積を行った。配線形成プロセスは、第2層配線の開口部を形成以降の手法と同様に行った。さらに第6層配線65を同様に形成し、引き続いて上層配線を形成し、半導体集積回路を完成させる。
【0169】
本実施形態では、これらのメモリ回路部および論理回路部の構造を、MTJ100を多層配線構造に埋め込んだ、ビルトイン型構造のメモリ回路部および論理回路部とすることで、ビルトイン型の論理回路部はMTJ100の存在によって設計パラメーターが変化することが無い。すなわち、同一半導体基板上にビルトイン型のメモリ回路部が存在していても、論理回路部の多層配線の構造・材料にはまったく変化を及ぼさないことから、論理回路部のみの場合と完全に互換性のある設計パラメーターを用いることが可能となる。別な言い方をすれば、容量素子を有するメモリ回路部と論理回路部からなる混載回路チップにおいて、通常の論理回路部のみの論理回路チップとまったく同等の論理演算能力を維持しつつ高速メモリ機能を発現させることが可能となる。
【符号の説明】
【0170】
1 コンタクト層間絶縁膜
2 エッチストップ膜
3 コンタクトバリアメタル膜
4 コンタクトプラグ
5 シリコン基板
6 素子分離STI
7 拡散層
8 ゲート電極
9 MOSトランジスタ
11 第1層の層間絶縁膜
13 第1層配線バリアメタル膜
15 第1層配線
17 行デコード配線
18 列デコード配線
19 ビット線
20 第1層配線のキャップ膜
21 第2層の層間絶縁膜
23 第2層配線バリアメタル膜
25 第2層配線
30 第2層配線のキャップ膜
31 第3層の層間絶縁膜
33 第3層配線バリアメタル膜
35 第3層配線
40 第3層配線のキャップ膜
41 第4層の層間絶縁膜
43 第4層配線バリアメタル膜
45 第4層配線
50 第4層配線のキャップ膜
51 第5層の層間絶縁膜
53 第5層配線バリアメタル膜
54 ハードマスク絶縁膜
55 第5層配線
60 第5層配線のキャップ膜
61 第6層の層間絶縁膜
63 第6層配線バリアメタル膜
65 第6層配線
70 第6層配線のキャップ膜
84 シリンダ加工マスク絶縁膜
88 容量素子開口部A
89 容量素子開口部B
90 容量素子
91 下部電極膜
92 容量絶縁膜
93 上部電極膜
94 ハードマスク絶縁膜
98 容量素子開口部
99 シリンダ内埋設メタル
100 磁気トンネル接合素子
201 プラズマ反応室
203 ウエハステージ
204 シャワーヘッド
206 接地線
207 排気配管
208 冷却トラップ
209 真空ポンプ
210 基板
211 給電線
212 マッチングコントローラ
213 高周波電源
214 接地線
215 気化原料供給配管
216 気化器
218 ガス流量コントローラ
220 バルブ
221 バルブ
222 排気バルブ
223 液体流量コントローラ
224 バルブ
225 バルブ
226 原料リザーバタンク
227 バルブ
228 クリーニングガス流量コントローラ
229 バルブ
230 クリーニングガス流量コントローラ
231 バルブ
232 クリーニングガス流量コントローラ
233 バルブ
234 添加ガス流量コントローラ
235 バルブ
236 添加ガス流量コントローラ
237 バルブ
238 添加ガス流量コントローラ
239 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ反応室内壁をプリコート膜で被覆するプリコート工程と、
基板上に、シリコン炭素組成比(C/Si)が1以上である有機シリカ膜を成長させる基板処理工程と、
前記基板を取り出した後、前記プラズマ反応室内壁に付着した前記有機シリカ膜と前記プリコート膜とをプラズマを用いて除去するクリーニング工程と
を備え、
前記プリコート膜として、前記有機シリカ膜よりも少なくとも炭素含有率が低い有機シリカ膜である高酸素含有プリコート膜を用いる半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記有機シリカ膜は、空孔が分散された多孔質構造を有する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記基板処理工程において、環状シロキサン構造を持つ環状有機シリカ化合物を気化した出発原料ガスを、希ガスプラズマ中又は希ガスを主成分としたプラズマ中に導入することで、前記有機シリカ膜を成長させる請求項1および2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記環状シロキサン構造を構成する環状有機シリカ化合物中のシリコン原子のそれぞれに、飽和炭化水素基の側鎖と不飽和炭化水素基の側鎖との両方が結合している請求項3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記不飽和炭化水素基がビニル基を有する請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記飽和炭化水素基が炭素原子を2つ以上含む請求項4又は5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記飽和炭化水素基が炭素原子を3つ以上含みかつ分岐構造を有する請求項4〜6のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基が、エチル基(−CHCH)またはプロピル基(−CHCHCH)である請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記炭素原子を3つ以上含みかつ分岐構造を有する飽和炭化水素基が、イソプロピル基(−CH(CH)またはターシャリーブチル基(−C(CH)である請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記環状有機シリカ化合物が、シリコン3個と酸素3個からなる6員環構造(環員数n=3)である請求項3〜9のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記環状有機シリカ化合物が、下記式(1)で表される「1,3,5−トリビニル−シクロトリシロキサン誘導体」であることを特徴とする請求項3〜10のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【化1】

(1)
【請求項12】
前記環状有機シリカ化合物が、下記式(2)で表される「1,3,5−トリイソプロピル−1,3,5−トリビニル−シクロトリシロキサン」である請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【化2】

(2)
【請求項13】
前記希ガスがヘリウムであることを特徴とする請求項3〜12のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記希ガスを主成分としたプラズマは、酸化剤ガスを添加した希ガスを主成分として生成される請求項3〜12のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記酸化剤ガスが、NO、酸素、二酸化炭素、アルコール、フェノールのいずれか、またはこれらのうちから選択される複数の混合ガスである請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記アルコールが、メチルアルコール、エチルアルコール、ノーマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノーマルブチルアルコール、イソブチルアルコールのいずれかであることを特徴とする請求項15に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記高酸素含有プリコート膜はシリコン酸化膜である請求項1〜16のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記高酸素含有プリコート膜は、前記環状有機シリカ化合物からなる出発原料ガスを、酸化剤ガスを添加して前記プラズマに導入することにより成膜される請求項3〜16のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記クリーニング工程において、弗化物ガスとアルゴンを主成分とするエッチングガスを用いる請求項1〜18のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項20】
前記弗化物ガスは三弗化窒素(NF)を含む請求項19記載の半導体装置の製造方法。
【請求項21】
前記弗化物ガスはC、C、C、C10、C、Cのいずれかを含む請求項19に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項22】
前記クリーニング工程において、前記エッチングガスに酸化剤ガスを添加する請求項19〜21のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項23】
前記酸化剤ガスは酸素である請求項22に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれかに記載の半導体装置の製造方法を用いて製造された有機シリカ膜が層間絶縁膜として用いられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれかに記載の半導体装置の製造方法を実施する半導体製造装置であって、
基板を加熱する機構を有するプラズマ反応室と、
炭素組成に富んだ有機シリカ膜を成長するための環状有機シリカ化合物をガス化してプラズマ反応室へ供給する成膜ガス供給部と、
プリコート膜を成長するためのシランガスと酸化剤ガスをプラズマ反応室へ供給するプリコート原料ガス供給部と、
クリーニングガスをプラズマ反応室へ供給するクリーニングガス供給部と、
排気システムと、
を備えている半導体製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−146596(P2011−146596A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7355(P2010−7355)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】