説明

単結晶炭化シリコン膜の製造方法及び単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法

【課題】結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を得ることが可能な単結晶炭化シリコン膜の製造方法及び単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板11上に単結晶炭化シリコン膜14を形成する単結晶炭化シリコン膜14の製造方法であって、シリコン基板11の表面に炭化シリコン膜12を形成する第1の工程と、炭化シリコン膜12の表面にマスク材13を形成する第2の工程と、マスク材13に開口部13hを形成し、炭化シリコン膜12の一部を露出させる第3の工程と、原料ガスを含むガス雰囲気中でシリコン基板11を加熱し、炭化シリコン膜12を基点として単結晶炭化シリコンをエピタキシャル成長させ、炭化シリコン膜12及びマスク材13を覆う単結晶炭化シリコン膜14を形成する第4の工程と、を含み、原料ガスを含むガス雰囲気の圧力は、5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶炭化シリコン膜の製造方法及び単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンは、大口径、高品質かつ安価であることから、多くの材料の単結晶を成長させる基板として利用されてきた。
これらの材料の中でも、バンドギャップが2.2eV(300K)と高いワイドバンドギャップ半導体材料である立方晶炭化シリコン(3C−SiC)は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料として期待されており、特に、安価なシリコン基板上に単結晶成長(ヘテロエピタキシー)させることができる点からも、非常に有用と考えられている。
【0003】
ところで、立方晶炭化シリコンの格子定数は0.436nmであり、立方晶シリコンの格子定数(0.543nm)と比べて20%程度も小さい。また、立方晶炭化シリコンと立方晶シリコンとでは8%程度の熱膨張係数の差がある。このため、単結晶成長させた立方晶炭化シリコン中に多くのボイドやミスフィット転移が生じ易く、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を得ることが難しかった。
【0004】
このような問題を解決するための技術が検討されており、例えば、特許文献1では、炭化シリコンの成長用基板の表面にマスク層を形成した後、マスク層に開口部を形成して基板表面を露出させて単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長を行い、開口部の高さを開口部の幅の21/2以上とし且つ形成する単結晶炭化シリコンの厚さを超える高さとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−181567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時に、マスク層の表面に残存した炭化シリコン膜を基点として結晶欠陥を含む膜が成長することがある。この場合、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を得ることができない惧れがある。
【0007】
本発明の一態様は、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を得ることが可能な単結晶炭化シリコン膜の製造方法及び単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の単結晶炭化シリコン膜の製造方法は、シリコン基板上に単結晶炭化シリコン膜を形成する単結晶炭化シリコン膜の製造方法であって、 シリコン基板の表面に炭化シリコン膜を形成する第1の工程と、前記炭化シリコン膜の表面にマスク材を形成する第2の工程と、前記マスク材に開口部を形成し、前記炭化シリコン膜の一部を露出させる第3の工程と、原料ガスを含むガス雰囲気中で前記シリコン基板を加熱し、前記炭化シリコン膜を基点として単結晶炭化シリコンをエピタキシャル成長させ、前記炭化シリコン膜及び前記マスク材を覆う単結晶炭化シリコン膜を形成する第4の工程と、を含み、前記原料ガスを含むガス雰囲気の圧力は、5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下であることを特徴とする。
【0009】
この製造方法によれば、5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下の圧力範囲においてマスク材の表面には炭化シリコン膜が形成されず、当該マスク材の表面からは結晶欠陥を含む膜の成長が生じない。これは、ガス雰囲気の圧力が相当低いため、マスク材の表面に吸着した分子が再び離脱する可能性が高まることによる。すなわち、マスク材の表面は、開口部から露出した炭化シリコン膜を基点に成長してきた結晶欠陥を含まない単結晶炭化シリコン膜によって覆われる。よって、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0010】
また、本発明の単結晶炭化シリコン膜の製造方法において、前記単結晶炭化シリコン膜は立方晶炭化シリコン膜であり、前記シリコン基板の表面がミラー指数(100)で表される結晶面を成しており、前記マスク材の高さを前記開口部の幅の√2倍以上の高さとしてもよい。
【0011】
この製造方法によれば、シリコン基板と炭化シリコン膜との界面で発生し、単結晶炭化シリコン膜の上層に伝播する面欠陥が、マスク材の側壁に到達し、消滅する。ここで、エピタキシャル膜の下地が立方晶の(100)面に相当する場合は、面欠陥が(111)面として挿入される。そのため、面欠陥は、マスク材の高さが開口部の幅の√2倍となった時点で、マスク材の側壁に到達して消滅する。よって、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0012】
また、本発明の単結晶炭化シリコン膜の製造方法において、前記原料ガスとして、モノメチルシランを含むガスを用いてもよい。
【0013】
この製造方法によれば、単一のガスを用いて、シリコン基板上に、結晶欠陥の発生が抑制された単結晶炭化シリコン膜を成長させることができる。よって、高品質の単結晶炭化シリコン膜を容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明の単結晶炭化シリコン膜の製造方法において、前記原料ガスとして、ジクロロシラン及びエチレンを含むガスを用いてもよい。
【0015】
この製造方法によれば、2種類の混合ガスを用いて、シリコン基板上に、結晶欠陥の発生が抑制された単結晶炭化シリコン膜を成長させることができる。よって、高品質の単結晶炭化シリコン膜を容易に形成することができる。
【0016】
本発明の単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法は、本発明の単結晶炭化シリコン膜の製造方法を含むことを特徴とする。
【0017】
この製造方法によれば、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することが可能な単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の単結晶炭化シリコン膜付き基板を示す断面図である。
【図2】同、単結晶炭化シリコン膜付き基板の要部断面図である。
【図3】同、単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法を示す過程図である。
【図4】図3に続く単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法を示す過程図である。
【図5】ガス雰囲気の圧力とマスク材の表面における炭化シリコン膜の堆積レートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造における縮尺や数等が異なっている。
【0020】
図1は、本発明の本発明の一実施形態の単結晶炭化シリコン膜付き基板を示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、単結晶炭化シリコン膜付き基板1は、シリコン基板11と、シリコン基板11の表面に形成された炭化シリコン膜12と、炭化シリコン膜12の表面に形成された、開口部13hを有するマスク材13と、開口部13hから露出した炭化シリコン膜12及びマスク材13を覆って形成された単結晶炭化シリコン膜14と、を備えている。
【0022】
シリコン基板11は、例えば、CZ法(チョクラルスキー法)により引上げられたシリコン単結晶インゴットをスライス、研磨して形成された基板である。このシリコン基板11の表面はミラー指数(100)で表される結晶面を成している。なお、結晶面の結晶軸が数度傾いたオフセット基板を用いてもよい。
【0023】
なお、本実施形態では、シリコン基板11としてシリコン単結晶基板を用いるがこれに限らない。例えば、石英、サファイア、ステンレスからなる基板上に単結晶シリコン膜を形成したものでもよい。本願明細書において、シリコン単結晶基板、また例えば、石英、サファイア、ステンレスからなる基板上に単結晶シリコン膜を形成したものをシリコン基板という。このような単結晶シリコンの格子定数は0.543nmである。
【0024】
炭化シリコン膜12は、シリコン基板11の表面に形成されている。炭化シリコン膜12は、炭化珪素(3C−SiC)の単結晶層または多結晶層である。炭化シリコン膜12は、シリコン基板11の表面を炭化処理することにより、単結晶炭化シリコン膜14を形成する際のシリコン11基板表面からのシリコンの昇華を抑制するとともに、シリコン基板11と単結晶炭化シリコン膜14との格子不整合を緩和し、単結晶炭化シリコン膜14に転移欠陥が生じるのを抑制する機能を有するものである。炭化シリコン膜12の厚みは、少なくとも1原子層分の厚みで形成されていればよく、例えば2nm以上30nm以下の厚みとされている。
【0025】
マスク材13は、炭化シリコン膜12の表面に形成されている。マスク材13には、炭化シリコン膜12の表面を露出する複数の開口部13hが形成されている。マスク材13は、例えば酸化シリコン(SiO)を含んで構成されている。なお、マスク材13は、窒化シリコンや酸化アルミニウムを含んで構成されていてもよい。
【0026】
単結晶炭化シリコン膜14は、開口部13hから露出した炭化シリコン膜12及びマスク材13を覆って形成されている。単結晶炭化シリコン膜14は、立方晶炭化珪素(3C‐SiC)がエピタキシャル成長して形成された半導体膜である。3C‐SiCは、バンドギャップ値が2.2eV以上と広く、熱伝導率や絶縁破壊電界が高いため、パワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体として好適である。このような3C−SiCからなる単結晶炭化シリコン膜14の格子定数は0.436nmである。
【0027】
図2は、単結晶炭化シリコン膜付き基板を示す要部断面図である。図2において、符号Hはマスク材13の高さであり、符号Wはマスク材13の開口部13hの幅であり、符号ARは無欠陥領域であり、符号12Saは積層欠陥(面欠陥)であり、符号12Sbは会合欠陥であり、符号θはシリコン基板11の表面と面欠陥12Saとのなす角度である。
【0028】
ここで、マスク材13の高さHとは、シリコン基板11の表面に直交する方向におけるマスク材13の長さ(マスク材13の上面と下面との間の距離)である。開口部13hの幅Wとは、シリコン基板11の表面に平行な方向における開口部13hの長さ(開口部13hを挟んで互いに対向するマスク材13の側壁の間の距離)である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の単結晶炭化シリコン膜付き基板1においては、マスク材13の直上に単結晶炭化シリコン膜14が会合して形成された会合欠陥12Sbが存在する。しかし、単結晶炭化シリコン膜14において会合欠陥12Sbを除いた領域は、結晶欠陥が存在せず、無欠陥領域ARとなっている。
【0030】
このような無欠陥領域ARは、マスク材13の高さHと開口部13hの幅Wとの関係が所定の関係を満たすことにより形成される。本実施形態において、マスク材13の高さHは開口部13hの幅Wの√2倍以上の高さとなっている。例えば、マスク材13の高さHは800nmであり、開口部13hの幅は500nmである。なお、シリコン基板11の表面と面欠陥12Saとのなす角度θは54.7°である。
【0031】
(単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法)
図3及び図4は、本実施形態の単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法を示す過程図である。なお、以下の説明においては、シリコン基板11の温度を単に「基板温度」いう場合がある。
【0032】
先ず、シリコン基板11を用意し、洗浄したシリコン基板11をエピタキシャル成長用のCVD(Chemical Vapor Depodition)装置のチャンバー(図示略)内に収容する(図3(a)参照)。
【0033】
次に、チャンバー内を真空雰囲気にして、モノメチルシランガス(SiHCH)を供給圧力1.0×10−2Paで導入し、そのままシリコン基板11を、基板温度を概ね1050℃、処理時間120分の条件で熱処理する。ここで、概ね1050℃とは、基板温度の設定誤差を含む温度範囲の温度であり、例えば1040℃以上1060℃以下の範囲である。
【0034】
この熱処理により、シリコン基板11の表面に、膜厚200nm程度の炭化シリコン膜12を形成する(図3(b)参照、第1の工程)。
【0035】
次に、炭化シリコン膜12の表面にマスク材13を形成する(図3(c)参照、第2の工程)。ここでは、高密度プラズマCVD装置を用いて炭化シリコン膜12の表面にシリコン酸化膜を800nm程度堆積させることにより、炭化シリコン膜12の表面にマスク材13を形成する。
【0036】
次に、マスク材13をパターニングして開口部13hを形成し、炭化シリコン膜12の表面の一部を露出させる(図3(d)参照、第3の工程)。例えば、マスク材13の上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法によりレジストを所望のパターン、例えばラインアンドスペースにパターニングする。このようにパターニングされたレジストをマスクとして、マスク材13にエッチングを施す。
【0037】
これにより、マスク材13は所望のパターン形状にパターニングされることとなり、このマスク材13の開口部13hでは炭化シリコン膜12の表面の一部が露出することとなる。なお、開口部13hの幅は500nm程度とし、マスク材13の高さ(H=800nm)が開口部13hの幅(W=500nm)の√2倍以上の高さとなるようにする。
【0038】
ところで、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時に、マスク材の表面に残存した炭化シリコン膜を基点として結晶欠陥を含む膜が成長することがある。この場合、当該結晶欠陥を含む膜から結晶欠陥が伝播したり、不完全な結晶領域が生成されたりすることにより、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を得ることができないという問題があった。
【0039】
そこで、本発明においては、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時においてガス雰囲気の圧力をマスク材の表面からは結晶欠陥を含む膜の成長が生じないような所定の範囲内に調整する単結晶炭化シリコン膜の製造方法を採用している。以下、本工程の詳細について説明する。
【0040】
炭化シリコン膜12の表面の一部を露出させた後に、チャンバー内に原料ガスとしてモノメチルシランガス(SiHCH)のみを導入して、チャンバー内のガス雰囲気の圧力を2.5×10−3Paに調整し、そのまま基板温度を概ね1030℃まで下降させる。
【0041】
なお、このときの基板温度は、900℃以上かつ1100℃以下の範囲内の温度とし、この基板温度を保持する。
【0042】
ここで、基板温度が900℃未満であると、原料ガスによるシリコン基板11の表面の炭化が不十分なものとなり、その結果、炭化シリコン膜12の表面に結晶性のよい単結晶炭化シリコン膜14を形成することができないという問題を生じるため好ましくない。一方、基板温度が1100℃を超えると、ガス雰囲気の圧力が極めて低いこととの関係上、単結晶シリコンが蒸発してしまうという問題を生じるため好ましくない。
【0043】
また、このときのガス雰囲気の圧力は、5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下の範囲内の圧力とし、この圧力を保持する。
【0044】
ここで、ガス雰囲気の圧力が5.0×10−4Pa未満であると、シリコン基板11の形成材料が蒸発してしまうという問題を生じるため好ましくない。一方、ガス雰囲気の圧力が0.5Paを超えると、マスク材13の表面に炭化シリコン膜が形成されてしまい、マスク層の表面に残存した炭化シリコン膜を基点として結晶欠陥を含む膜が成長してしまうという問題があり、好ましくない。
【0045】
また、チャンバー内に導入する原料ガスとしては、ジクロロシランガス(SiHCl)及びエチレンガス(C)の混合ガスを用いることもできる。また、この他にも、四塩化珪素、トリクロロシラン(SiHCl)、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、その他の有機シランガスを混合したものを用いることもできる。さらに、原料ガスのキャリアガスとして、アルゴン、水素、これらを混合したものを用いることもできる。
【0046】
これにより、炭化シリコン膜12の開口部13hから露出した部分を基点として単結晶炭化シリコンをエピタキシャル成長させ、開口部13hから露出した炭化シリコン膜12及びマスク材13を覆う単結晶炭化シリコン膜14を形成する(図4(a)参照、第4の工程)。
【0047】
本発明においては、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時においてガス雰囲気の圧力を所定の範囲内に調整しているため、マスク材13の表面からは結晶欠陥を含む膜の成長が生じない。マスク材13の表面は、炭化シリコン膜12の開口部13hから露出した部分を基点として成長し、開口部13hからマスク材13の上方に向かう方向に成長した単結晶炭化シリコンによって覆われる。すなわち、マスク材13の上方においては横方向結晶成長(ELO:Epitaxial Lateral Overgrowth)状態となる。
【0048】
これにより、マスク材13の表面には、積層欠陥の無い単結晶炭化シリコン膜14が形成される(図4(b)参照)。例えば、最終的に形成される単結晶炭化シリコン膜14の厚みは2μm程度である。なお、マスク材13の中央付近の直上には単結晶炭化シリコン膜14が会合して形成された会合欠陥12Sbが存在する。しかし、単結晶炭化シリコン膜14において会合欠陥12Sbを除いた領域は、結晶欠陥が存在せず、無欠陥領域ARとなっている。
【0049】
以上の工程により、本実施形態の単結晶炭化シリコン膜付き基板1を製造することができる。
【0050】
本実施形態の単結晶炭化シリコン膜14の製造方法及び単結晶炭化シリコン膜付き基板1の製造方法によれば、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時におけるガス雰囲気が5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下の圧力範囲においてマスク材13の表面には炭化シリコン膜が形成されず、当該マスク材13の表面からは結晶欠陥を含む膜の成長が生じない。これは、ガス雰囲気の圧力が相当低いため、マスク材13の表面に吸着した分子が再び離脱する可能性が高まることによる。すなわち、マスク材13の表面は、開口部13hから露出した炭化シリコン膜12を基点に成長してきた結晶欠陥を含まない単結晶炭化シリコン膜14によって覆われる。よって、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0051】
また、この製造方法によれば、シリコン基板11と炭化シリコン膜12との界面で発生し、単結晶炭化シリコン膜14の上層に伝播する面欠陥12Saが、マスク材13の側壁に到達し、消滅する。ここで、エピタキシャル膜の下地が立方晶の(100)面に相当する場合は、面欠陥12Saが(111)面として挿入される。そのため、面欠陥12Saは、マスク材13の高さHが開口部13hの幅Wの√2倍となった時点で、マスク材13の側壁に到達して消滅する。よって、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0052】
また、この製造方法によれば、原料ガスとして、モノメチルシランを含むガスを用いているので、単一のガスにより、シリコン基板11上に、結晶欠陥の発生が抑制された単結晶炭化シリコン膜14を成長させることができる。よって、高品質の単結晶炭化シリコン膜を容易に形成することができる。
【0053】
また、原料ガスとして、ジクロロシラン及びエチレンを含むガスを用いることもできる。この製造方法によれば、2種類の混合ガスを用いて、シリコン基板11上に、結晶欠陥の発生が抑制された単結晶炭化シリコン膜を成長させることができる。よって、高品質の単結晶炭化シリコン膜を容易に形成することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
「実施例1」
本願発明者は、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時におけるガス雰囲気の圧力とマスク材の表面における炭化シリコン膜の堆積レートとの間には一定の関係があることを実験により見出した。
図5は、本願発明者が行った実験結果であり、単結晶炭化シリコンのエピタキシャル成長時におけるガス雰囲気の圧力とマスク材の表面における炭化シリコン膜の堆積レートとの関係を示すグラフである。なお、図5において、破線は原料ガスとしてモノメチルシランガスを用いたときのグラフであり、実線は原料ガスとしてジクロロシランガス及びエチレンガスの混合ガスを用いたときのグラフである。
【0056】
図5に示すように、原料ガスとしてモノメチルシランガスを用いたとき、原料ガスとしてジクロロシランガス及びエチレンガスの混合ガスを用いたとき、のいずれの場合においても、雰囲気ガスの圧力が0.5Pa以下においてはマスク材の表面に炭化シリコン膜が堆積されないことが分かる。これは、ガス雰囲気の圧力が相当低いため、マスク材の表面に吸着した分子が再び離脱する可能性が高まることによる。
【0057】
一方、雰囲気ガスの圧力が0.5Paを超えると、マスク材の表面に炭化シリコン膜が堆積されてしまうことが分かる。雰囲気ガスの圧力が0.5Paを超えたときのマスク材の表面における炭化シリコン膜の堆積レートは、原料ガスとしてモノメチルシランガスを用いたときよりもジクロロシランガス及びエチレンガスの混合ガスを用いたときのほうが大きくなっている。
【0058】
なお、ガス雰囲気の圧力が5.0×10−4Pa未満であると、シリコン基板11の形成材料が蒸発してしまう。
【0059】
このように、原料ガスとしてモノメチルシランガスを用いたとき、原料ガスとしてジクロロシランガス及びエチレンガスの混合ガスを用いたとき、のいずれの場合においても、雰囲気ガスの圧力が5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下の圧力範囲においてはマスク材の表面には炭化シリコン膜が形成されないことが確認される。これにより、マスク材の表面は、開口部から成長してきた結晶欠陥を含まない単結晶炭化シリコン膜によって覆われる。したがって、結晶欠陥の少ない高品質なエピタキシャル膜を形成することができる。
【0060】
なお、本発明の単結晶炭化ケイ素膜付き基板は、次世代における低損失のパワーデバイス用半導体材料としても利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…単結晶炭化シリコン膜付き基板、11…シリコン基板、12…炭化シリコン膜、13…マスク材、13h…開口部、14…単結晶炭化シリコン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上に単結晶炭化シリコン膜を形成する単結晶炭化シリコン膜の製造方法であって、
シリコン基板の表面に炭化シリコン膜を形成する第1の工程と、
前記炭化シリコン膜の表面にマスク材を形成する第2の工程と、
前記マスク材に開口部を形成し、前記炭化シリコン膜の一部を露出させる第3の工程と、
原料ガスを含むガス雰囲気中で前記シリコン基板を加熱し、前記炭化シリコン膜を基点として単結晶炭化シリコンをエピタキシャル成長させ、前記炭化シリコン膜及び前記マスク材を覆う単結晶炭化シリコン膜を形成する第4の工程と、を含み、
前記原料ガスを含むガス雰囲気の圧力は、5.0×10−4Pa以上かつ0.5Pa以下であることを特徴とする単結晶炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記単結晶炭化シリコン膜は立方晶炭化シリコン膜であり、
前記シリコン基板の表面がミラー指数(100)で表される結晶面を成しており、
前記マスク材の高さを前記開口部の幅の√2倍以上の高さとすることを特徴とする請求項1に記載の単結晶炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスとして、モノメチルシランを含むガスを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスとして、ジクロロシラン及びエチレンを含むガスを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶炭化シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の単結晶炭化シリコン膜の製造方法を含むことを特徴とする単結晶炭化シリコン膜付き基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35731(P2013−35731A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174881(P2011−174881)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】