説明

手動変速機を備えた車両の制御装置

【課題】過給装置を有する内燃機関を搭載した車両において、良好な発進制御性を維持できる制御装置を提供する。
【解決手段】ターボチャージャを有するエンジン、手動変速機、エンジンと手動変速機との間に配設されたクラッチ装置を備えた車両に対し、車両発進時、ターボチャージャによる吸気の過給が行われているか否かを判断し、過給が行われている場合には、その過給圧が高いほど、アクセル開度に対するスロットル開度の制御ゲインを小さくする。また、クラッチ装置が完全解放状態である場合には、半クラッチ状態である場合に比べて、アクセル開度に対するスロットル開度の制御ゲインを小さくする。これにより、吸気の過給時における車両発進時の挙動を抑制し、良好な発進制御性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手動変速機を備えた車両の制御装置に係る。特に、本発明は、車両発進時における内燃機関の制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば下記の特許文献1や特許文献2に開示されているように、手動変速機(マニュアルトランスミッション)を搭載した車両においては、エンジン(内燃機関)と手動変速機との間にクラッチが設けられ、このクラッチを継合・解放することによってエンジンと手動変速機との間で駆動力の伝達状態が調整されるようになっている。
【0003】
例えば車両の発進時には、クラッチ解放操作(クラッチペダルの踏み込み操作)によってクラッチを解放させた状態で手動変速機を例えば第1速段にシフト操作し、アクセルペダルの踏み込み操作を行いながらクラッチ継合操作(クラッチペダルの踏み込み解除操作)を行い、これに伴って、エンジンの駆動力を手動変速機を経て駆動輪に向けて徐々に伝達させていくようにする。
【0004】
このような車両の発進時において、アクセル開度のみに応じてスロットル開度を決定してしまうと(アクセル開度に従ってスロットル開度を一義的に決定してしまうと)、クラッチ継合状態によっては、アクセル開度の僅かな変化が車両の挙動に大きく影響を与えてしまうことがある。この点に鑑み、クラッチの状態に応じてエンジントルクの指令値をなまし処理することが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−308538号公報
【特許文献2】特開2006−233911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、過給装置(例えばターボチャージャ)を有するエンジンを搭載した車両にあっては、この過給装置による吸気の過給状態によっても、車両発進時におけるアクセル開度の僅かな変化が車両の挙動に大きく影響を与えてしまうことがある。一例を挙げると、車両発進時にクラッチが半継合状態(所謂、半クラッチ状態)にある場合に、アクセルペダルの踏み込みに伴ってエンジン回転数が上昇していき、排気圧力の上昇に伴うターボチャージャの作動によって吸気の過給圧が高くなると、エンジントルクが急速に上昇し、ターボチャージャによる過給開始の前後で、車両発進特性が大きく変化してしまって、発進制御性が大きく変化してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の発明者らは、この点に鑑み、車両の発進時におけるエンジン制御を過給装置の過給状態に応じて変更することにより、良好な発進制御性を維持可能とすることに着目し本発明に至った。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過給装置を有する内燃機関を搭載した車両において、良好な発進制御性を維持できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
−発明の概要−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の概要は、過給装置による過給状態に応じて内燃機関の出力特性を調整し、過給状態にある場合には、車両の挙動が生じやすいことを考慮して、過給状態にない場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定するようにしている。
【0010】
−解決手段−
具体的に、本発明は、過給装置を備えた内燃機関、手動変速機、これら内燃機関と手動変速機との継合及び離脱を行うクラッチ装置を備え、クラッチ装置の状態に応じて内燃機関の出力特性を変更可能とする車両の制御装置を対象とする。この車両の制御装置に対し、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給中は、吸気の非過給時に比べて内燃機関の出力特性を低く設定する出力特性制御手段を備えさせている。
【0011】
尚、本発明における「車両発進時」とは、「車両停車状態から発進する時点」だけでなく、「車両発進直後であって未だクラッチ装置が半継合(半クラッチ)状態である期間」も含む概念となっている。
【0012】
この特定事項により、車両発進時において、過給装置による吸気の過給が行われている場合には、吸気の過給が行われていない場合に比べて内燃機関の出力特性は低く設定される。つまり、過給装置による吸気の過給が行われていることで内燃機関の出力としては大きく得られる可能性がある状況であっても、この内燃機関の出力特性を低く設定することで、車両発進時における内燃機関の出力が急速に大きくなることに起因する車両の挙動(例えば急発進など)を抑制し、良好な発進制御性が維持できるようにしている。つまり、車両発進時に、過給装置による吸気の非過給状態から過給状態に遷移した場合の発進制御性の大幅な変化を抑制することで、発進制御性の維持を図っている。
【0013】
上記出力特性制御手段の構成として具体的には以下のものが挙げられる。つまり、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほど内燃機関の出力特性を低く設定する構成としている。
【0014】
これにより、過給装置による吸気の過給圧力が徐々に変化していく状況であっても、それに対応して内燃機関の出力特性を適切に調整することができ、車両の発進制御性のいっそうの安定化を図ることが可能になる。
【0015】
上記内燃機関の出力特性を低く設定するための具体的な手段として、具体的には、スロットルバルブ開度の調整、燃料噴射弁からの燃料噴射量の調整、排気還流量の調整、過給装置をバイパスする排気ガスの流量の調整等が挙げられる。
【0016】
具体的に、運転者によるアクセル開度に応じたスロットルバルブの開度を調整するものにあっては、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどスロットルバルブの開度を小さく設定する構成とされる。
【0017】
また、運転者によるアクセル開度に応じた燃料噴射弁からの燃料噴射量を調整するものにあっては、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほど燃料噴射弁からの燃料噴射量を少なく設定する構成とされる。
【0018】
また、内燃機関の排気ガスを吸気系に還流する排気還流量を調整するものにあっては、この排気還流量を調整するためのEGRバルブを備えさせ、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどEGRバルブの開度を大きくして排気還流量を多く設定する構成とされる。
【0019】
また、過給装置をバイパスする排気ガスの流量を調整するものにあっては、この排気ガスの流量を調整するためのウエストゲートバルブを備えさせ、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどウエストゲートバルブの開度を大きくして上記過給装置をバイパスする排気ガスの流量を多く設定する構成とされる。
【0020】
これら内燃機関の出力特性を低く設定するための手段としては、何れか一つを利用しても良いし、複数を組み合わせて利用してもよい。
【0021】
また、クラッチ装置の状態に応じて内燃機関の出力特性を変更する具体的な構成としては、クラッチ装置の状態が半継合状態である場合には、完全継合状態である場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定している。また、クラッチ装置の状態が完全解放状態である場合には、半継合状態である場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定している。
【0022】
これは、クラッチ装置のトルク容量が小さいほど(クラッチ装置の状態が完全継合状態である場合よりも半継合状態である場合の方が、また、クラッチ装置の状態が半継合状態である場合よりも完全解放状態である場合の方が)アクセル開度の変化に対する内燃機関の吹け上がりが大きくなりやすいため、内燃機関の出力特性を低く設定し、これによって内燃機関の吹け上がりを抑制し、燃料消費量の削減やドライバビリティの悪化を改善している。
【0023】
更に、上記内燃機関の回転数が所定回転数以上または吸気系における過給装置下流側の吸気圧が所定値以上である場合には、過給装置による吸気の過給中であると判定する構成としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、車両発進時、過給装置による過給状態に応じて内燃機関の出力特性を調整し、過給状態にある場合には、過給状態にない場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定するようにしている。これにより、車両発進時の挙動を抑制し、発進制御性の大幅な変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る車両に搭載されたパワートレーンの概略構成を示す図である。
【図2】エンジン及びその吸排気系の構成を示す図である。
【図3】クラッチ装置の概略構成を示す図である。
【図4】6速手動変速機のシフトパターンの概略を示す図である。
【図5】エンジンECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】車両発進時制御の動作手順を示すフローチャート図である。
【図7】過給時目標スロットル開度設定マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に本発明を適用した場合について説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る車両に搭載されたパワートレーンの概略構成を示している。この図1において、1はエンジン(内燃機関;走行用駆動源)、MTは手動変速機、6はクラッチ装置、9はエンジンECU(Electronic Control Unit)である。
【0028】
図1に示すパワートレーンでは、エンジン1で発生した回転駆動力(トルク)が、クラッチ装置6を介して手動変速機MTに入力され、この手動変速機MTで適宜の変速比(運転者のシフトレバー操作によって選択された変速段での変速比)により変速されて、プロペラシャフトPS及びデファレンシャルギヤDFを介して左右の後輪(駆動輪)T,Tに伝達されるようになっている。尚、本実施形態に係る車両に搭載されている手動変速機MTは、前進6速段、後進1速段の同期噛み合い式手動変速機である。
【0029】
以下、エンジン1の全体構成、クラッチ装置6及び制御系などについて説明する。
【0030】
−エンジン1の全体構成−
図2はエンジン1及びその吸排気系の概略構成を示す図である。尚、この図2ではエンジン1の1気筒の構成のみを示している。
【0031】
本実施形態におけるエンジン1は、例えば4気筒ガソリンエンジンであって、燃焼室11を形成するピストン12及び出力軸であるクランクシャフト13を備えている。上記ピストン12はコネクティングロッド14を介してクランクシャフト13に連結されており、ピストン12の往復運動がコネクティングロッド14によってクランクシャフト13の回転へと変換されるようになっている。
【0032】
上記クランクシャフト13には、外周面に複数の突起(歯)16を有するシグナルロータ15が取り付けられている。このシグナルロータ15の側方近傍にはクランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)81が配置されている。このクランクポジションセンサ81は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト13が回転する際にシグナルロータ15の突起16に対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0033】
エンジン1のシリンダブロック17には、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ82が配置されている。
【0034】
エンジン1の燃焼室11には点火プラグ2が配置されている。この点火プラグ2の点火タイミングはイグナイタ21によって調整される。このイグナイタ21は上記エンジンECU9によって制御される。
【0035】
エンジン1の燃焼室11には吸気通路3と排気通路4とが接続されている。吸気通路3と燃焼室11との間には吸気バルブ31が設けられている。この吸気バルブ31を開閉駆動することにより、吸気通路3と燃焼室11とが連通または遮断される。また、排気通路4と燃焼室11との間には排気バルブ41が設けられている。この排気バルブ41を開閉駆動することにより、排気通路4と燃焼室11とが連通または遮断される。これら吸気バルブ31及び排気バルブ41の開閉駆動は、クランクシャフト13の回転が伝達される吸気カムシャフト(図示省略)及び排気カムシャフト41aの各回転によって行われる。
【0036】
上記吸気通路3には、エアクリーナ32、熱線式のエアフローメータ83、吸気温センサ84(エアフローメータ83に内蔵)、吸気圧センサ80、及び、エンジン1の吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ33が配置されている。このスロットルバルブ33はスロットルモータ34によって駆動される。スロットルバルブ33の開度はスロットル開度センサ85によって検出される。
【0037】
また、上記吸気通路3には燃料噴射用のインジェクタ(燃料噴射弁)35が配置されている。このインジェクタ35には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、インジェクタ35の開弁に伴って吸気通路3に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室11に導入される。燃焼室11に導入された混合気(燃料+空気)は、エンジン1の圧縮行程を経た後、点火プラグ2にて点火されて燃焼する。この燃焼室11内での混合気の燃焼によりピストン12が往復運動してクランクシャフト13が回転する。
【0038】
エンジン1の排気通路4には2つの三元触媒42,43が配設されている。これら三元触媒42,43は、酸素を貯蔵(吸蔵)するO2ストレージ機能(酸素貯蔵機能)を有しており、この酸素貯蔵機能により、空燃比が理論空燃比からある程度まで偏移したとしても、HC,CO及びNOxを浄化することが可能となっている。
【0039】
上記排気通路4における上流側の三元触媒42の上流側には空燃比センサ(A/Fセンサ)86が、下流側の三元触媒43の上流側には酸素センサ(O2センサ)87がそれぞれ配置されている。
【0040】
更に、このエンジン1には、過給装置(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気通路3内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気通路4内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。
【0041】
また、上記吸気通路3におけるスロットルバルブ33の上流側には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ36が設けられている。
【0042】
一方、排気通路4には、排気ガスの一部をターボチャージャ5のタービンホイール52をバイパスして流すための排気バイパス通路47が設けられており、この排気バイパス通路47にはウエストゲートバルブ48が設けられている。このウエストゲートバルブ48が開放されると、排気ガスの一部がターボチャージャ5のタービンホイール52をバイパスして排気バイパス通路47に流れることになる。これにより、ターボチャージャ5自体の回転数が制御され、安定した過給圧(ブースト圧)が得られるようになっている。
【0043】
また、上記吸気通路3と排気通路4とは排気還流通路(EGR通路)44によって接続されている。このEGR通路44は、排気の一部を適宜吸気通路3に還流させて燃焼室11へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路44には、電子制御によって無段階に開閉されて、このEGR通路44を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ45と、EGR通路44を通過(還流)する排気ガスを冷却するためのEGRクーラ46とが設けられている。これらEGR通路44、EGRバルブ45、EGRクーラ46等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
【0044】
−クラッチ装置6−
図3はクラッチ装置6の概略構成を示している。この図3に示すように、クラッチ装置6は、クラッチ機構部60と、クラッチペダル70と、クラッチマスタシリンダ71と、クラッチレリーズシリンダ61とを備えている。
【0045】
クラッチ機構部60は、上記クランクシャフト13と、手動変速機MT(図1参照)のインプットシャフト(入力軸)ISとの間に介在するように設けられ、クランクシャフト13からインプットシャフトISへの駆動力を伝達・遮断したり、その駆動力の伝達状態を変更する。ここでは、クラッチ機構部60は、乾式単板式の摩擦クラッチとして構成されている。なお、クラッチ機構部60の構成として、それ以外の構成を採用してもよい。
【0046】
具体的に、クラッチ機構部60の入力軸であるクランクシャフト13には、フライホイール62とクラッチカバー63とが一体回転可能に取り付けられている。一方、クラッチ機構部60の出力軸であるインプットシャフトISには、クラッチディスク64がスプライン結合されている。このため、クラッチディスク64は、インプットシャフトISと一体回転しつつ、軸方向(図3の左右方向)に沿ってスライド可能となっている。クラッチディスク64とクラッチカバー63との間には、プレッシャプレート65が配設されている。このプレッシャプレート65は、ダイヤフラムスプリング66の外端部に当接され、このダイヤフラムスプリング66によってフライホイール62側へ付勢されている。
【0047】
また、インプットシャフトISには、レリーズベアリング67が軸方向に沿ってスライド可能に装着されている。このレリーズベアリング67の近傍には、レリーズフォーク68が軸68aにより回動可能に支持されており、その一端部(図3の下端部)がレリーズベアリング67に当接している。そして、レリーズフォーク68の他端部(図3の上端部)には、クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの一端部(図3の右端部)が連結されている。そして、レリーズフォーク68が作動されることによって、クラッチ機構部60の継合・解放(継合・離脱)動作が行われるようになっている。
【0048】
クラッチペダル70は、ペダルレバー72の下端部に踏み込み部であるペダル部72aが一体形成されて構成されている。そして、車室内とエンジンルーム内とを区画するダッシュパネルに取り付けられた図示しないクラッチペダルブラケットによってペダルレバー72の上端近傍位置が水平軸回りに回動自在に支持されている。ペダルレバー72には、図示しないペダルリターンスプリングによって手前側(運転者側)に向かう回動方向への付勢力が付与されている。このペダルリターンスプリングの付勢力に抗して運転者がペダル部72aの踏み込み操作を行うことにより、クラッチ機構部60の解放動作が行われるようになっている。また、運転者がペダル部72aの踏み込み操作を解除することにより、クラッチ機構部60の継合動作が行われるようになっている(これら解放・継合動作については後述する)。
【0049】
クラッチマスタシリンダ71は、シリンダボディ73の内部にピストン74などが組み込まれた構成となっている。そして、ピストン74には、ロッド75の一端部(図3の左端部)が連結されており、このロッド75の他端部(図3の右端部)がペダルレバー72の中間部に接続されている。シリンダボディ73の上部には、このシリンダボディ73内へ動作流体であるクラッチフルード(オイル)を供給するリザーブタンク76が設けられている。
【0050】
クラッチマスタシリンダ71は、運転者によるクラッチペダル70の踏み込み操作による操作力を受けることで、シリンダボディ73内でピストン74が移動することにより油圧を発生するようになっている。このとき、運転者の踏み込み操作力がペダルレバー72の中間部からロッド75に伝達されてシリンダボディ73内で油圧が発生する。クラッチマスタシリンダ71で発生する油圧は、シリンダボディ73内のピストン74のストローク位置に応じて変更されるようになっている。
【0051】
クラッチマスタシリンダ71によって発生する油圧は、油圧配管77内のオイルによってクラッチレリーズシリンダ61へ伝達される。
【0052】
クラッチレリーズシリンダ61は、クラッチマスタシリンダ71と同様に、シリンダボディ61bの内部にピストン61cなどが組み込まれた構成となっている。そして、ピストン61cには、ロッド61aの他端部(図3の左端部)が連結されている。ピストン61cのストローク位置は、このピストン61cが受ける油圧に応じて変更されるようになっている。
【0053】
クラッチ装置6では、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧に応じてレリーズフォーク68が作動されることによって、クラッチ機構部60の継合・解放動作が行われるようになっている。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量に応じてクラッチ機構部60のクラッチ継合力(クラッチ伝達容量)が変更されるようになっている。
【0054】
具体的には、クラッチペダル70の踏み込み操作量が大きくなり、クラッチマスタシリンダ71からクラッチレリーズシリンダ61へオイルが供給されて、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧が高まると、ピストン61c及びロッド61aが図3中右方向へ移動され、ロッド61aと連結されたレリーズフォーク68が回動されて(図3における矢印Iを参照)、レリーズベアリング67がフライホイール62側へ押される。さらに、同方向へのレリーズベアリング67の移動により、ダイヤフラムスプリング66の内端部が同方向へ弾性変形する。これにともない、ダイヤフラムスプリング66におけるプレッシャプレート65への付勢力が弱まる。このため、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が滑りながら継合される半クラッチ状態となる。そして、さらに、付勢力が弱まると、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が離間されて、クラッチ機構部60が解放状態になる。これにより、エンジン1から手動変速機MTへの動力伝達が遮断される。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量が所定量を超えると、クラッチ機構部60が完全に切り離される完全解放状態(クラッチ伝達容量が0%の状態)になる。
【0055】
一方、クラッチペダル70の踏み込み操作量が小さくなり、クラッチレリーズシリンダ61からクラッチマスタシリンダ71へオイルが戻されて、クラッチレリーズシリンダ61内の油圧が低くなると、ピストン61c及びロッド61aは図3中左方向へ移動される。これにより、レリーズフォーク68が回動させられ(図3における矢印IIを参照)、レリーズベアリング67がフライホイール62から離間される側へ移動される。これにともない、ダイヤフラムスプリング66の外端部によるプレッシャプレート65への付勢力が増大していく。このとき、プレッシャプレート65とクラッチディスク64との間、及び、クラッチディスク64とフライホイール62との間でそれぞれ摩擦力、すなわちクラッチ継合力が発生する。このクラッチ継合力が大きくなると、クラッチ機構部60が継合され、プレッシャプレート65、クラッチディスク64、及び、フライホイール62が一体となって回転する。これにより、エンジン1と手動変速機MTとが直結される。この場合、クラッチペダル70の踏み込み操作量が所定量を下回ると、クラッチ機構部60が完全に継合される完全継合状態(クラッチ伝達容量が100%の状態)になる。
【0056】
また、このクラッチ装置6には、クラッチペダル70の操作量(踏み込み量)に応じた出力信号を発信するクラッチストロークセンサ8Bが設けられている。このクラッチストロークセンサ8Bは、例えば、上記クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの位置を検出することで、運転者によるクラッチペダル70の操作量を検出するようになっている。そして、このクラッチストロークセンサ8Bの検知信号がエンジンECU9に出力されることにより、クラッチ機構部60の継合状態を認識することができ、これによって現在のクラッチトルク容量(クラッチ機構部60が伝達可能なトルクの最大値)を検知することが可能となっている。尚、このクラッチストロークセンサ8Bの配設位置としては、クラッチレリーズシリンダ61のロッド61aの近傍には限定されず、上記クラッチペダル70の近傍に配設することでクラッチペダル70の移動量を検出するようにしたり、上記レリーズベアリング67の近傍に配設してレリーズベアリング67の移動量を検出するようにしてもよい。
【0057】
また、上記手動変速機MTのアウトプットシャフト(プロペラシャフトPSに繋がるシャフト)に近接してアウトプット回転数センサ8C(図1を参照)が配設されている。このアウトプット回転数センサ8Cは上記アウトプットシャフトの回転数(出力軸回転数、出力軸回転速度)を検出して回転速度信号をエンジンECU9に出力する。尚、このアウトプット回転数センサ8Cによって検出されたアウトプットシャフトの回転数を上記デファレンシャルギヤDFのギヤ比(最終減速比)で除算することで後輪Tの回転数を求め、これによって車速を算出することが可能となっている。
【0058】
−シフトパターン−
次に、車室内のフロアに配設され、シフトレバーの移動をガイドするシフトゲートのシフトパターン(シフトゲート形状)について説明する。
【0059】
図4は、本実施形態における6速手動変速機MTのシフトパターンの概略を示している。図中2点鎖線で示すシフトレバーLは、図4に矢印Xで示す方向のセレクト操作と、このセレクト操作方向に直交する矢印Yで示す方向のシフト操作とが行い得る構成とされている。
【0060】
セレクト操作方向には、1速−2速セレクト位置P1,3速−4速セレクト位置P2,5速−6速セレクト位置P3及びリバースセレクト位置P4が一列に並んでいる。
【0061】
上記1速−2速セレクト位置P1でのシフト操作(矢印Y方向の操作)により、シフトレバーLを1速位置1stまたは2速位置2ndに動かすことができる。シフトレバーLが1速位置1stに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第1のシンクロメッシュ機構が1速成立側に作動して第1速段が成立される。また、シフトレバーLが2速位置2ndに操作された場合、上記第1のシンクロメッシュ機構が2速成立側に作動して第2速段が成立される。
【0062】
同様に、3速−4速セレクト位置P2でのシフト操作により、シフトレバーLを3速位置3rdまたは4速位置4thに動かすことができる。シフトレバーLが3速位置3rdに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第2のシンクロメッシュ機構が3速成立側に作動して第3速段が成立される。また、シフトレバーLが4速位置4thに操作された場合、上記第2のシンクロメッシュ機構が4速成立側に作動して第4速段が成立される。
【0063】
また、5速−6速セレクト位置P3でのシフト操作により、シフトレバーLを5速位置5thまたは6速位置6thに動かすことができる。シフトレバーLが5速位置5thに操作された場合、上記手動変速機MTの変速機構に備えられた第3のシンクロメッシュ機構が5速成立側に作動して第5速段が成立される。また、シフトレバーLが6速位置6thに操作された場合、上記第3のシンクロメッシュ機構が6速成立側に作動して第6速段が成立される。
【0064】
更に、リバースセレクト位置P4でのシフト操作により、シフトレバーLをリバース位置REVに動かすことができる。このリバース位置REVに操作された場合、上記全てのシンクロメッシュ機構が中立状態となると共に、上記手動変速機MTの変速機構に備えられたリバースアイドラギヤが作動することにより後進段が成立される。
【0065】
−制御系−
上述したエンジン1の運転状態等の各種制御は上記エンジンECU9によって制御される。このエンジンECU9は、図5に示すように、CPU(Central Processing Unit)91、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)93及びバックアップRAM94などを備えている。
【0066】
ROM92は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU91は、ROM92に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM93は、CPU91での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM94は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0067】
これらROM92、CPU91、RAM93及びバックアップRAM94は、バス97を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路95及び外部出力回路96と接続されている。
【0068】
外部入力回路95には、上記吸気圧センサ80、クランクポジションセンサ81、水温センサ82、エアフローメータ83、吸気温センサ84、スロットル開度センサ85、空燃比センサ86、酸素センサ87の他に、運転者によって操作されるアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセル開度センサ88、上記カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ89、クラッチストロークセンサ8B、アウトプット回転数センサ8C等が接続されている。各センサの構成及び機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
一方、外部出力回路96には、上記スロットルバルブ33を駆動するスロットルモータ34、インジェクタ35、イグナイタ21、EGRバルブ45、ウエストゲートバルブ48等が接続されている。
【0070】
上記エンジンECU9は、上記各種センサの検出信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、周知の点火プラグ2の点火タイミング制御、インジェクタ35の燃料噴射制御(空燃比センサ86及び酸素センサ87の各出力に基づいた空燃比フィードバック制御)、スロットルモータ34の駆動制御等が実行される。
【0071】
−車両発進時制御−
次に、本実施形態の特徴である車両発進時制御について説明する。この車両発進時制御は、車両が停車状態から発進する場合において、上記ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にあるか否かを判定し、吸気の過給状態に応じてエンジン1の出力特性を調整するものである。
【0072】
具体的には、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態(過給時)で車両が発進する場合には、吸気が過給されていない状態(非過給時)で車両が発進する場合に比べてエンジン1の出力特性を小さく設定する(例えば同一アクセル開度であってもスロットル開度を小さく設定する;出力特性制御手段による出力特性の制御)。そして、この吸気が過給された状態にあっては、その過給圧が高いほどエンジン1の出力特性を小さく設定するようにしている。
【0073】
このエンジン1の出力特性を小さく設定するための代表的な手段としては、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)に応じて設定されるスロットルバルブ33の開度を小さくする側に補正する(アクセル開度に対するスロットルバルブ開度の制御ゲイン(またはスロットルバルブ開度)を小さくする)ことでエンジン1の出力を抑えるようにしている。
【0074】
尚、エンジン1の出力特性を調整するための手段としては、スロットルバルブ33の開度に限らず、インジェクタ35からの燃料噴射量や、EGRガスの還流量など種々のものが挙げられるが、以下では、スロットルバルブ33の開度を調整してエンジン1の出力特性を調整する場合を代表して説明する。
【0075】
以下、車両発進時制御について図6のフローチャートに沿って具体的に説明する。
【0076】
この図6に示すフローチャートは、エンジン1の始動後、数msec毎に実行される。または、車両の停車後、数msec毎に実行される。
【0077】
先ず、ステップST1において、車両の発進時であるか否かが判定される。この判定として具体的には、例えば以下の各条件(1)〜(3)が共に成立した場合に車両の発進時であると判定する。
【0078】
(1)車速が所定車速(例えば5km/h)以下であること、
(2)手動変速機MTの変速段が第1速段または第2速段であること、
(3)クラッチ装置6が完全解放状態または半クラッチ状態であること、
上記車速が所定車速以下であるか否かの判定は、上記アウトプット回転数センサ8Cの出力に基づいて行われる。また、手動変速機MTの変速段の判定は、例えば上記シフトレバーLの操作位置を検出する図示しないシフト位置センサの出力に基づいて行われる。更に、クラッチ装置6の状態判定は、上記クラッチストロークセンサ8Bの出力に基づいて行われる。
【0079】
尚、車両の発進時を判定するための条件としては、これらに限定されるものではなく、他の条件を付加してもよいし、上記各条件のうちの二つのみ(例えばシフト位置センサを有しないものにあっては上記条件(1)及び(3))を利用してもよい。
【0080】
車両の発進時ではなく、つまり、車両停車中または車両走行中であって、ステップST1でNO判定された場合には、車両発進時制御を実行することなく、そのままリターンされる。
【0081】
一方、車両の発進時であって、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、現在のエンジン1の運転状態がターボチャージャ5により吸気が過給されている状態にあるか否かを判定する。この判定動作として具体的には、エンジン回転数が所定回転数以上である場合、または、吸気通路3内の吸気圧が所定圧力以上である場合に、ターボチャージャ5による吸気の過給状態であると判定する。具体的に、上記エンジン回転数は、上記クランクポジションセンサ81の検出値に基づいて算出され、例えばエンジン回転数が1500rpm以上である場合には、排気ガスの排気圧によって上記タービンホイール52が回転してターボチャージャ5による吸気の過給が行われていると判定する。また、上記吸気圧は、上記吸気圧センサ80の検出値に基づいて算出され、例えば吸気圧が20kPa以上である場合には、ターボチャージャ5による吸気の過給が行われていると判定する。これら判定閾値(吸気が過給された状態にあるか否かの判定閾値)は、上記値に限定されるものではなく、ターボチャージャ5におけるタービンホイール52の慣性やターボチャージャ5内部の各所のフリクションの大きさ等に応じて適宜設定される。
【0082】
ターボチャージャ5による吸気の過給が行われておらず、ステップST2でNO判定された場合には、ステップST3に移り、非過給時目標スロットル開度が決定される。ここで決定される非過給時目標スロットル開度は、アクセル開度が大きいほど大きな値として設定され、且つクラッチ装置6の状態として完全解放状態と半継合(半クラッチ)状態とを比較した場合に、半継合状態の方が大きな値として設定される。具体的には、アクセル開度及びクラッチ装置6の状態に応じて非過給時目標スロットル開度を設定するための目標スロットル開度マップ(以下、「非過給時目標スロットル開度マップ」と呼ぶ)が上記ROM92に記憶されており、ステップST3では、この非過給時目標スロットル開度を参照して目標スロットル開度(吸気が過給されていない状況での目標スロットル開度)が決定される。例えば、同一アクセル開度である場合に、半継合状態で設定される目標スロットル開度に対して完全解放状態で設定される目標スロットル開度は1/3に設定されるような非過給時目標スロットル開度マップが上記ROM92に記憶されている。これにより、クラッチ装置6の完全解放状態でアクセル開度が大きくなった場合におけるエンジン回転数の吹け上がりを防止できるようにしている。上記値はこれに限定されるものではなく適宜設定が可能である。
【0083】
尚、クラッチ装置6の半継合状態で設定される目標スロットル開度及び完全解放状態で設定される目標スロットル開度は、クラッチ装置6の完全継合状態で設定される目標スロットル開度に比べて小さく設定されている。例えば、同一アクセル開度である場合に、完全継合状態で設定される目標スロットル開度に対して半継合状態で設定される目標スロットル開度は1/2に設定される。この値は、これに限定されるものではなく適宜設定される。
【0084】
このようにして目標スロットル開度が決定された後、ステップST6に移り、その目標スロットル開度が得られるようにスロットルバルブ33の開度が制御されることになる。言い換えると、上記ターボチャージャ5による吸気の過給が行われていない状況では、現在のアクセル開度及びクラッチ装置6の状態に応じた制御ゲイン(後述する吸気の過給が行われている状況での制御ゲインよりも大きな制御ゲイン)でスロットルバルブ33の開度が制御されることになる。
【0085】
一方、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にあり、ステップST2でYES判定された場合には、ステップST4に移って過給圧を算出した後、ステップST5に移り、その過給圧に応じて目標スロットル開度(以下、「過給時目標スロットル開度」と呼ぶ)が決定される。
【0086】
上記ステップST4における過給圧の算出手法としては、上記クランクポジションセンサ81の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数や、上記吸気圧センサ80の検出値に基づいて算出される吸気圧から所定の演算式または上記ROM92に記憶されたマップから過給圧が求められることになる。
【0087】
また、上記ステップST5における過給時目標スロットル開度の決定手法として具体的には、以下の過給時目標スロットル開度設定マップに従って過給時目標スロットル開度が決定される。以下、この過給時目標スロットル開度設定マップについて説明する。
【0088】
図7は、この過給時目標スロットル開度設定マップの一例を示す図である。この図7に示すように、過給時目標スロットル開度設定マップは、ターボチャージャ5による過給圧に応じて、アクセルペダルの踏み込み量に対して設定される目標スロットル開度が変更されるようになっている。
【0089】
この過給時目標スロットル開度設定マップでは、アクセル開度が大きいほど目標スロットル開度が大きく設定されるものとなっている。また、ターボチャージャ5による過給圧を比較した場合、同一アクセル開度であっても、過給圧が低い場合の目標スロットル開度に対し、過給圧が高い場合の目標スロットル開度が低く設定されるようになっている。具体的に、アクセル開度が図中のA1であった場合に、ターボチャージャ5による過給圧が低い場合(図7に示した過給圧が低い側の目標スロットル開度ラインαに対応する過給圧の場合)には、目標スロットル開度としては図中のT2に設定されるのに対し、ターボチャージャ5による過給圧が高い場合(図7に示した過給圧が高い側の目標スロットル開度ラインβに対応する過給圧の場合)には、目標スロットル開度としては図中のT1に設定されるようになっている。
【0090】
これは、過給圧が比較的高い状況では、アクセル開度の変化に対するエンジントルクの変化割合が大きくなり、車両に挙動を招く可能性が高くなることを考慮し、ターボチャージャ5による過給圧が高いほど、目標スロットル開度を小さく(アクセル開度に対するスロットルバルブ開度の制御ゲインを小さく)設定するようにしたものである。
【0091】
尚、図7では、過給圧に応じて設定される目標スロットル開度ラインとして2本(α,β)のみを示しているが、実際には、複数の過給圧それぞれに対応して複数の目標スロットル開度ラインが設定されており、アクセル開度及び過給圧に応じて適切な目標スロットル開度が求められるようになっている。
【0092】
更に、この過給時における車両発進時制御では、上記ステップST5において決定される過給時目標スロットル開度が、クラッチ装置6の完全解放状態と半継合(半クラッチ)状態とで異なるものとなっている。以下、具体的に説明する。
【0093】
クラッチ装置6の状態が完全解放状態である場合には、半継合(半クラッチ)状態である場合に比べて目標スロットル開度が小さく設定されるようになっている。このようにターボチャージャ5による過給が行われている状況下でクラッチ装置6の状態に応じて目標スロットル開度を異ならせるための具体的な手法としては、先ず、上記クラッチストロークセンサ8Bの出力に基づいてクラッチ装置6の状態が完全解放状態であるか半継合(半クラッチ)状態であるかを判別する。そして、過給時目標スロットル開度設定マップとして、クラッチ装置6が完全解放状態である場合に参照される過給時目標スロットル開度設定マップ(以下、「完全解放時マップ」と呼ぶ)及びクラッチ装置6が半継合(半クラッチ)状態である場合に参照される過給時目標スロットル開度設定マップ(以下、「半クラッチ時マップ」と呼ぶ)を予め作成しておく。これらマップとしては、同一アクセル開度及び同一過給圧であっても、完全解放時マップで求められる過給時目標スロットル開度の方が、半クラッチ時マップで求められる過給時目標スロットル開度よりも小さな値として求められるように設定されている。例えば図7で示した過給時目標スロットル開度設定マップを半クラッチ時マップとした場合、完全解放時マップは、この図7で示したマップに比べて、同一アクセル開度及び同一過給圧であっても目標スロットル開度が小さな値として求められるように作成されている。より具体的には、同一アクセル開度及び同一過給圧である場合に、半クラッチ時マップで求められる過給時目標スロットル開度に対して、完全解放時マップで求められる過給時目標スロットル開度が1/3に設定されるように各マップが作成されている。
【0094】
尚、この場合にも、クラッチ装置6の半継合状態で設定される目標スロットル開度及び完全解放状態で設定される目標スロットル開度は、クラッチ装置6の完全継合状態で設定される目標スロットル開度に比べて小さく設定されている。例えば、同一アクセル開度及び同一過給圧である場合に、完全継合状態で設定される目標スロットル開度に対して半継合状態で設定される目標スロットル開度は1/2に設定される。この値は、これに限定されるものではなく適宜設定される。
【0095】
このような過給時目標スロットル開度設定マップを上記ROM92に記憶させておき、ターボチャージャ5による過給圧、アクセル開度、及び、クラッチ装置6の状態(完全解放状態であるか半継合状態であるか)に応じて、それに適した過給時目標スロットル開度が求められるようになっている。
【0096】
尚、クラッチ装置6の完全解放状態と半継合(半クラッチ)状態とで過給時目標スロットル開度を異ならせるための手法としては、上述したような2種類の過給時目標スロットル開度設定マップを記憶させておくのに代えて、1種類の過給時目標スロットル開度設定マップ(例えば図7で示した過給時目標スロットル開度設定マップ)から過給時目標スロットル開度を求めておき、クラッチ装置6が半継合(半クラッチ)状態である場合には、その求められた過給時目標スロットル開度をそのまま利用する一方、クラッチ装置6の状態が完全解放状態であった場合には、上記求められた過給時目標スロットル開度を所定の割合だけ減量補正し(例えば30%だけ減量補正し)、その値を過給時目標スロットル開度として使用することが挙げられる。
【0097】
以上のようにして目標スロットル開度(過給時目標スロットル開度)が決定された後、ステップST6に移り、スロットルバルブ33の開度が制御されることになる。言い換えると、上記ターボチャージャ5による吸気の過給が行われている状況では、現在の過給圧、アクセル開度、及び、クラッチ装置6の状態(完全解放状態であるか半継合状態であるか)に応じた制御ゲインでスロットルバルブ33の開度が制御されることになる。
【0098】
以上説明したように、本実施形態では、ターボチャージャ5による吸気の過給が行われていることでエンジン1の出力としては大きく得られる状況であっても、スロットルバルブ33の開度を制御する(アクセル開度に対するスロットルバルブ開度の制御ゲインを変更する)ことによりエンジン1の出力特性としては低く設定することになる。このため、車両発進時におけるエンジン1の出力が大きいことに起因する車両の挙動(例えば急発進など)を抑制し、良好な発進制御性が維持できる。つまり、車両発進時に、ターボチャージャ5の非過給状態から過給状態に遷移した場合の発進制御性の大幅な変化を抑制することで、発進制御性の維持を図ることができる。
【0099】
(変形例)
上述した実施形態では、スロットルバルブ33の開度を制御することによってエンジン1の出力特性を調整するようにしていた。これに限らず以下の手段によってエンジン1の出力特性を調整するようにしてもよい。
【0100】
(1)先ず、インジェクタ35からの燃料噴射量を制御することによってエンジン1の出力特性を調整するものである。この場合、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にある場合には、吸気が過給されていない場合に比べてインジェクタ35からの燃料噴射量を減量補正する(エンジン1の出力特性を低く設定する)ことになる。この場合にも、上述した実施形態における目標スロットル開度マップと同様に作成された燃料噴射量マップを参照し、これに従って燃料噴射量が補正されることになる。その他の構成及び動作は上述した実施形態の場合と同様である。
【0101】
(2)また、EGRガスの還流量を制御することによってエンジン1の出力特性を調整するものも挙げられる。この場合、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にある場合には、吸気が過給されていない場合に比べてEGRバルブ45の開度を大きくし、これによってEGRガスの還流量を増量補正する(エンジン1の出力特性を低く設定する)ことになる。この場合にも、上述した実施形態における目標スロットル開度マップと同様に作成されたEGR率設定マップを参照し、これに従ってEGRガスの還流量が補正されることになる。その他の構成及び動作は上述した実施形態の場合と同様である。
【0102】
(3)また、ターボチャージャ5のタービンホイール52をバイパスして流れる排気ガスの流量を制御することによってエンジン1の出力特性を調整するものも挙げられる。この場合、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にある場合には、吸気が過給されていない場合に比べてウエストゲートバルブ48の開度を大きくし、これによってタービンホイール52をバイパスして流れる排気ガスの流量を増量補正することになる。この場合にも、上述した実施形態における目標スロットル開度マップと同様に作成されたバルブ開度マップを参照し、これにより求められたウエストゲートバルブ48の開度により、タービンホイール52をバイパスして流れる排気ガスの流量が補正されることになる。その他の構成及び動作は上述した実施形態の場合と同様である。
【0103】
(4)また、点火プラグ2の点火タイミングを制御することによってエンジン1の出力特性を調整するものも挙げられる。この場合、ターボチャージャ5により吸気が過給された状態にある場合には、吸気が過給されていない場合に比べて点火プラグ2の点火タイミングを遅角側に補正する(エンジン1の出力特性を低く設定する)ことになる。この場合にも、上述した実施形態における目標スロットル開度マップと同様に作成された点火タイミングマップを参照し、これに従って点火プラグ2の点火タイミングが補正されることになる。その他の構成及び動作は上述した実施形態の場合と同様である。
【0104】
尚、上述した実施形態の制御動作及び上記(1)〜(4)の制御動作は、互いに組み合わせて実行するようにしてもよい。
【0105】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態及び変形例では、走行用駆動源としてガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ディーゼルエンジンを搭載した車両にも適用可能である。また、手動変速機MT及びクラッチ装置6を搭載した車両であれば、走行用駆動源としてエンジン(内燃機関)と電動機(例えば走行用モータまたはジェネレータモータ等)とを備えたハイブリッド車に対しても本発明は適用可能である。
【0106】
また、上述した実施形態及び変形例では、前進6段変速の手動変速機MTを搭載した車両に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段(例えば前進5段変速)の手動変速機を搭載した車両にも適用可能である。
【0107】
また、上記実施形態及び変形例では、クラッチ装置6の完全解放状態と半継合状態とに応じてエンジン1の出力特性を変更するようにしたが、本発明はこれに限らず、クラッチ装置6の完全解放状態及び半継合状態の何れにおいても同一の出力特性に設定するようにしてもよい。つまり、クラッチ装置6の完全継合状態に比べて、完全解放状態及び半継合状態の場合にはエンジン1の出力特性を同様に小さく設定するものである。
【0108】
更に、上述した実施形態及び変形例では、過給装置としてターボチャージャを採用した場合について説明したが、過給装置としてスーパーチャージャを採用したエンジンに対しても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、ターボチャージャを有するエンジン及び手動変速機を搭載した車両において、車両発進時のエンジン制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 エンジン(内燃機関)
33 スロットルバルブ
35 インジェクタ(燃料噴射弁)
45 EGRバルブ
48 ウエストゲートバルブ
5 ターボチャージャ(過給装置)
6 クラッチ装置
80 吸気圧センサ
81 クランクポジションセンサ
9 エンジンECU
MT 手動変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給装置を備えた内燃機関、手動変速機、これら内燃機関と手動変速機との継合及び離脱を行うクラッチ装置を備え、クラッチ装置の状態に応じて内燃機関の出力特性を変更可能とする車両の制御装置であって、
車両発進時、上記過給装置による吸気の過給中は、吸気の非過給時に比べて内燃機関の出力特性を低く設定する出力特性制御手段を備えていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記出力特性制御手段は、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほど内燃機関の出力特性を低く設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記出力特性制御手段は、運転者によるアクセル開度に応じたスロットルバルブの開度を調整するものであって、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどスロットルバルブの開度を小さく設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記出力特性制御手段は、運転者によるアクセル開度に応じた燃料噴射弁からの燃料噴射量を調整するものであって、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほど燃料噴射弁からの燃料噴射量を少なく設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
内燃機関の排気ガスを吸気系に還流する排気還流量を調整するためのEGRバルブを備えており、
上記出力特性制御手段は、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどEGRバルブの開度を大きくして排気還流量を多く設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項6】
請求項2記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記過給装置をバイパスする排気ガスの流量を調整するためのウエストゲートバルブを備えており、
上記出力特性制御手段は、車両発進時、上記過給装置による吸気の過給圧力が高いほどウエストゲートバルブの開度を大きくして上記過給装置をバイパスする排気ガスの流量を多く設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうち何れか一つに記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記クラッチ装置の状態が半継合状態である場合には、完全継合状態である場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうち何れか一つに記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記クラッチ装置の状態が完全解放状態である場合には、半継合状態である場合に比べて内燃機関の出力特性を低く設定するよう構成されていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうち何れか一つに記載の手動変速機を備えた車両の制御装置において、
上記内燃機関の回転数が所定回転数以上または吸気系における過給装置下流側の吸気圧が所定値以上である場合に、過給装置による吸気の過給中であると判定する構成となっていることを特徴とする手動変速機を備えた車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−79604(P2013−79604A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219975(P2011−219975)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】