説明

磁気抵抗効果素子及びその製造方法

【課題】素子抵抗が低く、MR比の高いトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)を提供すること。
【解決手段】基板11の上方に下地層12、反強磁性層13、ピンド層14、非磁性結合層15、リファレンス層16、トンネルバリア層17、フリー強磁性層18、及びキャップ層19が順に形成されたトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子10)において、トンネルバリア層17を、MgO膜等の結晶性酸化物膜を低酸素分圧(例えば10-7Pa程度の高真空下)下で形成し、その後結晶性酸化物膜を酸素ガス又は酸素を含むガスと接触させる。このようにして形成された結晶性酸化物膜を備えたTMR素子10によれば、従来よりも高いMR比が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置及び磁気メモリ装置等の磁気デバイスに使用するトンネル磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の磁気ディスク装置の高記録密度化により、記録媒体からの磁気信号も更に微小になりつつある。このため、磁気ディスク装置の磁気ヘッドに用いられる読み取り素子のS/N比の向上が求められている。また、磁気ディスク装置の高記録密度化に伴って、磁気ヘッド用読み取り素子の転送速度の向上も求められている。
【0003】
磁気抵抗効果素子の一種であるTMR(トンネル磁気抵抗効果:Tunneling Magneto Resistance)素子は、MR比(磁気抵抗比:Magneto Resistive ratio)がGMR(Giant Magneto Resistance)素子と比較して高く、S/N比の点で優れているため、現在生産されている磁気ディスク装置の読み取り素子として主流となりつつある。また、TMR素子は磁気ディスク装置の読み取り素子のみならず、磁気メモリ装置(MRAM:Magnetoresistive random access memory)用の記録素子としても期待されている。
【0004】
このTMR素子は、トンネルバリア膜を強磁性体膜の間に挟んだ強磁性トンネル接合(TMJ:Tunneling Magnetic Junction)を有し、強磁性体膜の磁化の変化により強磁性トンネル接合の抵抗値が変化する。この抵抗値は、トンネルバリア膜を挟んだ強磁性体膜の磁気モーメントが平行の場合には低くなり、反平行の場合には高くなる。この抵抗値の変化率がMR比であり、MR比の高いTMR素子からは、強磁性体膜の変化に伴う信号出力がより大きくなる。
【0005】
TMR素子のMR比等の特性は、トンネルバリア膜によって大きく左右されることが知られている。トンネルバリア膜として、AlO(酸化アルミニウム)膜、MgO(酸化マグネシウム)膜、TiO(酸化チタン)膜を用いたTMR素子が知られているが、結晶性のMgO膜をトンネルバリア膜に用いた場合には高いMR比が得られる(例えば、非特許文献1〜5)ことが報告されている。この結晶性MgO膜の成膜方法として、電子線蒸着法(例えば、特許文献3)や、スパッタ法(例えば、特許文献4)等がある。なかでも、スパッタ法による成膜は量産性が高い。
【0006】
この他、AlO膜の成膜については、例えば特許文献1や特許文献2等の技術がある。
【特許文献1】特開2002−314166号公報
【特許文献2】特開2001−84532号公報
【特許文献3】特開2006−210391号公報
【特許文献4】特開2006−80116号公報
【非特許文献1】W.H. Butler et al., Physical Review B, Vol. 63 (2001), p.054416
【非特許文献2】J. Mathon et al., Physical Review B, Vol. 63 (2001), p.220403
【非特許文献3】S. Yuasa et al., Nature Materials, Vol. 3 (2004), p.868
【非特許文献4】S.S. Parkin et al., Nature Materials, Vol. 3 (2004), p.862
【非特許文献5】D.D. Djayaprawira et al., Applied Physics Letter, Vol. 86 (2004), p.92502
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、TMR素子は、トンネルバリア層として絶縁膜を含むため素子の抵抗が比較的大きい。このため、素子抵抗の大きなTMR素子を各種デバイスに用いると、素子の抵抗及び配線等の浮遊容量による時定数が大きくなり、素子の転送速度を高めることが困難となってしまう。TMR素子の転送速度向上の観点からは、素子抵抗を低くする必要がある。TMR素子の抵抗を低くする方法の一つとして、トンネルバリア膜を薄くしてトンネル電流を流れやすくする方法が考えられる。しかしながら、トンネルバリア膜の膜厚を薄くすると、トンネルバリア膜中の結晶欠陥や、トンネルバリア膜の界面の不均一性等の影響を大きく受けてトンネル電流以外の電流流路が生じ、TMR素子のMR比が低下してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、素子の抵抗が低く、高いMR比を有する磁気抵抗効果素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、基板の上方に形成された第1の強磁性体層と、前記第1の強磁性体層の上に形成された結晶性酸化物からなるトンネルバリア層と、前記トンネルバリア層の上に形成された第2の強磁性体層と、を備えた磁気抵抗効果素子であって、前記トンネルバリア層は、酸素暴露処理された結晶性酸化物膜からなることを特徴とする磁気抵抗効果素子が提供される。
【0010】
上記観点によれば、トンネルバリア層を構成する結晶性酸化物中の酸素欠陥等の結晶欠陥が少ないため、トンネル電子の散乱が起こりにくくなる。このため、トンネルバリア膜を通過するトンネル電子は、従来よりも第1及び第2の強磁性層の磁化方向の差による影響をより大きく受け、MR比をさらに向上することができる。また、結晶性酸化物中の結晶欠陥などに基づくトンネル電流以外の電流流路が減少し、トンネル電流の比率が高まる。このため、薄いトンネルバリア層を有するTMR素子であっても、従来よりも高いMR比が得られる。これにより、素子抵抗が低く、高いMR比を有するTMR素子が得られる。
【0011】
尚、上記観点の磁気抵抗効果素子において、トンネルバリア膜を結晶性MgOによって形成することにより、高いMR比が得られ好適である。
【0012】
本発明の別の観点によれば、基板上方に強磁性体からなる第1の強磁性体層を形成する工程と、前記第1の強磁性体層の上に結晶性酸化物からなるトンネルバリア層を形成する工程と、前記トンネルバリア層を酸素暴露処理する工程と、前記トンネルバリア層の上に強磁性体からなる第2の強磁性層を形成する工程と、を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法が提供される。
【0013】
本観点の磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、トンネルバリア層として結晶性酸化物層を形成した後に結晶性酸化物に酸素暴露処理を行っている。このため、結晶性酸化物膜の下地となる、第1の強磁性層を酸化劣化させずに、結晶性酸化物を酸素と接触させることができる。また、結晶性酸化物の酸素暴露処理によってトンネルバリア層中の酸素欠陥(結晶欠陥)が減少するため、本観点による製造方法によれば、トンネルバリア層において酸素欠陥によるトンネル電子の散乱や、酸素欠陥(結晶欠陥)によるトンネル電流以外の電流流路生成の少ない磁気抵抗効果素子が得られる。このため、本観点によればトンネルバリア膜が薄く素子抵抗が低い場合であっても高いMR比が得られるため、情報伝送速度が高く磁気抵抗効果素子を製造することができる。
【0014】
上記観点の磁気抵抗効果素子の製造方法において、トンネルバリア膜は、MgOをターゲットとして高真空下でスパッタ法により形成すると好適である。MgOをターゲットとしてスパッタ法により成膜することにより結晶性の良いMgO膜を量産性良く形成することができる。また、高真空下で成膜を行うので、下地となる第1の強磁性層が劣化することなく、結晶性MgO膜を成膜できる。さらに、結晶性MgO膜には酸素暴露処理が行われるので、酸素欠陥(結晶欠陥)の少ない結晶性MgO膜が得られ、膜厚が薄くてもMR比が高い磁気抵抗効果素子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
以下図1及び図2を参照しつつ第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係わる磁気抵抗効果素子(TMR素子10)を示す断面図であり、図2は、第1実施形態の実験例及び比較例に係わる磁気抵抗効果素子のRA(抵抗面積積)及びMR比との関係を示すグラフである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のTMR素子10は積層構造物であり、基板11の上方に順に、下地層12、反強磁性層13、ピンド層14、非磁性結合層15、リファレンス層16、トンネルバリア層17、フリー強磁性層18、及びキャップ層19を積層した構造を有する。以下これらの構成について更に詳細に説明する。
【0018】
基板11は、例えば、Al23−TiC等からなるセラミック基板や、Si単結晶基板を用いることができる。また、基板11と下地層12の間に絶縁膜や導電膜を形成しても良い。例えば、磁気メモリ装置に使用するTMR素子10の場合には、基板11と下地層12との間に層間絶縁膜や、Al又はCu等の導電膜を形成してもよく(後述の図6及び9参照)、磁気ヘッド用のTMR素子10であれば、磁気シールド材としてNiFe膜等を形成しても良い(後述の図4参照)。
【0019】
下地層12は、上方に形成される膜の結晶性を向上するために形成される層であり、例えば5nm以上のTa膜又はRu膜またはこれらの積層膜によって構成される。図1は、下地層12を積層膜として構成した例を示し、下地層12を基板側下地層12a及び上側下地層12bで構成している。この場合、基板側下地層12aを、例えば厚さ3nmのTa膜とし、上側下地層12bを、例えば厚さ2nmのRu膜として構成できる。基板側下地層12a及び上側下地層12bは共にスパッタ法等により形成される。
【0020】
反強磁性層13は、下地層12の上に形成された層であり、ピンド層14の磁化方向を固定するために形成される。反強磁性層13は、例えば膜厚5〜30nmのTM−Mn系合金(TM=Pt、Pd、Ni、及びIrのうち少なくとも1種を含む。)、例えばIrMn、PtMn、PdPtMn等で構成され、スパッタ法等によって形成される。反強磁性層13は熱処理することによって、規則合金化して反強磁性が出現する。所定方向に磁場を印加しながら熱処理を行うことにより、ピンド層14と交換相互作用によって交換結合を生じ、ピンド層14の磁化の向きを固定できる。この熱処理は、例えば、キャップ層l9を形成後、真空雰囲気中で250℃〜350℃、加熱時間2時間〜4時間、印加磁界1.5Tの条件で行うことができる。
【0021】
ピンド層14は、反強磁性層13の上に形成された層であり、厚さ1〜30nmのFe、Co、Ni又はこれらの合金(例えば、CoFe合金)等の強磁性体膜から構成される。非磁性結合層15は、ピンド層14の上に形成された層であり、厚さ0.4〜0.9nm程度のRu(若しくはRu系合金)、Rh(若しくはRh系合金)、又はIr(若しくはIr系合金)等の非磁性材料から構成される。ピンド層14及び非磁性結合層15はスパッタ法等によって形成することができる。
【0022】
リファレンス層16は、非磁性結合層15の上に形成された層であり、厚さ1〜30nmのCoFe膜、NiFe膜、又はCoFeB膜等によって構成される。トンネルバリア層17を結晶性MgO膜で構成する場合、リファレンス層16にCoFeBを用いると高いMR比が得られ好適である。リファレンス層16は、スパッタ法等により形成することができる。以上のように構成されたピンド層14、非磁性結合層15、及びリファレンス層16はシンセティクフェリピン層(交換結合膜)を構成する。すなわち、リファレンス層16は、非磁性結合層15を介してピンド層14と反強磁性的に交換結合しており、リファレンス層16の磁化の向きは、ピンド層14の磁化方向と反平行の向きに固定されている。
【0023】
トンネルバリア層17は、リファレンス層16の表面に形成された絶縁膜からなる層であり、酸素暴露処理を行った結晶性酸化物膜によって構成される。この結晶性酸化物膜は、例えば結晶性MgO膜によって構成される。結晶性酸化物膜の厚さは、用途によって各種選択することができるが、磁気ヘッド等の読み取り素子に適した素子特性、特に素子抵抗を低くして高速な情報転送速度を得る観点からはできるだけ薄く形成することが望ましい。例えば、結晶性酸化物膜をMgO膜とした場合には、厚さは1.2nm以下、より好ましくは1nm以下とすることができる。この結晶性MgO膜はMgOをターゲットとしてスパッタ法で成膜できる。
【0024】
結晶性酸化物膜の成膜は、リファレンス層16の酸化劣化を防止すべく、低酸素分圧下(例えば全圧10-7Pa程度の真空雰囲気)で行われるため、成膜直後の結晶性酸化物膜には酸素欠陥が含まれる。本実施形態は、酸素欠陥を含む結晶性酸化物膜の形成後に酸素暴露処理を行い、酸素欠陥などの結晶欠陥の少ない結晶性酸化物膜として、トンネルバリア膜17を構成している。例えば、結晶性MgO膜の場合は結晶性MgO膜を成膜後、MgO膜を室温で酸素分圧が103Pa以下の酸素ガスまたは酸素を含むガスと所定時間接触させる。この酸素暴露処理によって、結晶性MgO膜中の酸素欠陥等の結晶欠陥が減少できる。また、結晶性MgO膜の形成後に酸素暴露処理を行うため、下地側の強磁性体膜(リファレンス層16)の酸化劣化を起こしにくく、トンネルバリア膜17とリファレンス層16との界面付近の劣化を抑制することができる。
【0025】
フリー強磁性層18は、トンネルバリア膜17の上に形成された層であり、膜厚が1nm〜30nmのCo、Ni及びFeの少なくとも1種を含む強磁性材料、例えば、CoFe、CoFeB、NiFe(パーマロイ)等、又はこれらの材料からなる膜の積層体により構成することができる。フリー強磁性層18の材料は用途に応じて適宜選択することができる。例えば、CoFeBを用いた場合には高いMR比が得られるため、磁気メモリ等の記録素子に適するTMR素子10が得られる。また、CoFe/NiFe積層膜やNiFe等の保持力が低い強磁性材料を使用することにより、磁気ヘッドなどに適したTMR素子10が得られる。また、フリー強磁性層18は非磁性層を中間層として用いた積層フリー層としてもよく、例えばCoFeB/Ru/CoFeB等でも構成できる。フリー強磁性層18は、スパッタ法などにより形成される。フリー強磁性層18の磁化は面内方向を向いており、例えば、磁気記録媒体から漏れる磁場や、磁気メモリ装置のワード線を流れる電流によって発生した磁場によって、その磁化の方向が変化する。
【0026】
キャップ層19は、フリー強磁性層18の上に形成された層であり、例えば、厚さ3nm以上のTa膜、Ru膜、又はこれらの積層膜によって構成される。図1に示す例では、キャップ層19を基板側キャップ層19a(例えば厚さ5nmのTa膜)と、上側キャップ層19b(例えば厚さ10nmのRu膜)の積層構造としている。キャップ層19(基板側キャップ層19a及び上側キャップ層19b)はスパッタ法などにより形成される。
【0027】
以下、本実施形態に係わるTMR素子10の製造方法について、図1に示すTMR素子10を例に説明する。
【0028】
基板の上方に、基板側下地層12a、上側下地層12b、反強磁性層13、ピンド層14、非磁性結合層15、及びリファレンス層16を順にスパッタ法によって形成する。尚いずれの工程も、室温で成膜を行うことができる。これらの工程は高真空下(10-7Pa程度)において行い、基板の移送も高真空下で行うことで強磁性層等を構成する金属膜の酸化劣化を防止できる。リファレンス層16の形成後、トンネルバリア層17の形成を行う。トンネルバリア層17の形成工程では、先ず結晶性酸化物膜を形成する。結晶性酸化物膜としてMgO膜を形成する場合には、MgOをターゲットに用いてスパッタ法によってリファレンス層16の上にMgO膜を形成する。この工程により結晶性MgO膜を形成することができる。この工程において、成膜中の酸素分圧が高いと下地のリファレンス層16が酸化されて劣化してしまうため、低酸素分圧下(例えば全圧が10-7Pa程度の真空雰囲気下)で行うことが望ましい。
【0029】
次に、形成された結晶性酸化物膜の酸素暴露処理を行う。この場合、結晶性酸化物膜が形成された基板を、成膜用のチャンバから酸素暴露処理用のチャンバに移送する。これは、成膜用チャンバで酸素暴露処理を行うと、その次の基板の成膜処理を行う前に減圧やパージ等の酸素分圧を下げる処理を行う必要があるため手順が煩雑となるとともに、チャンバ内に残留した酸素によって強磁性体膜(リファレンス層16)が酸化劣化するおそれがあるためである。
【0030】
酸素暴露処理は、酸素暴露処理用のチャンバを真空排気しながら酸素ガスまたは酸素を含むガスを所定時間導入して酸素分圧を103Pa以下となるようにして、結晶性MgO膜等の結晶性酸化物膜をO2と接触させる。尚、酸素暴露処理は、基板温度を室温として行うことができる。結晶性酸化物膜をO2と接触させる時間(チャンバ内に酸素ガスを導入する時間;以下、酸素暴露時間と呼ぶ)は、結晶性酸化物膜の膜厚及び酸素分圧に応じて適宜最適化する必要がある。酸素暴露時間が長すぎると素子のMR比が低下するからである。これは、結晶性酸化物膜中の結晶欠陥やピンホール等を介した酸素の拡散により下地のリファレンス層16が酸化劣化するためである。最適な酸素暴露時間は、一定酸素分圧下において、結晶性酸化物膜の膜厚が薄い場合には短くなり、結晶性酸化物膜の膜厚が厚い場合には長くなる。また、一定膜厚下において、酸素分圧が高い場合に短く、酸素分圧が低い場合に長くなる。酸素暴露処理の制御性の観点から、結晶性酸化物膜にMgO膜を用いる場合には、酸素分圧を103Pa以下として酸素暴露処理を行うことが望ましい。例えば、結晶性酸化物膜が厚さ1nm程度のMgO膜の場合には、室温で、酸素分圧130Paの場合、最適な酸素暴露時間は120秒となる。尚、上述の例では基板温度を室温としたが、本実施形態はこれに限られず、基板を加熱又は冷却して酸素暴露処理を行ってもよく、この場合は最も高いMR比が得られるように酸素分圧及び酸素暴露時間を適宜最適化すればよい。以上の結晶性酸化物膜の成膜及び結晶性酸化物膜の酸素暴露処理によってトンネルバリア膜17の形成工程が完了する。
【0031】
その後、基板11を低酸素分圧下(例えば全圧10-7Pa程度の真空雰囲気)のチャンバに移送して、フリー強磁性層18、基板側キャップ層19a、及び上側キャップ層19をスパッタ法により順次形成する。尚、これら層の形成は室温によって行うことができる。その後、基板11を真空雰囲気下で、温度250℃〜350℃、加熱時間2時間〜4時間、印加磁界1.5T(テスラ)の条件で熱処理することにより、ピンド層14およびリファレンス層16の磁化の方向を固定する。このようにして形成された磁気抵抗効果膜を公知のフォトリソグラフ法、エッチング処理により整形し、公知の成膜方法(スパッタ法、CVD法等)により基板11側及びキャップ層19側に電極を形成することにより、本実施形態のTMR素子10が完成する。
【0032】
(実験例)
本実施形態の一態様である実験例に係わる磁気抵抗効果素子及び比較例に係わる磁気抵抗効果素子を作製し、そのMR比の測定を行った。実験例に係わる磁気抵抗効果素子は、基板側から順に、厚さ3nmのTa膜(基板側下地層12a)、厚さ2nmのRu膜(上側下地層12b)、厚さ7nmのIrMn膜(反強磁性層13)、厚さ1.8nmのCoFe膜(ピンド層14)、厚さ0.8nmのRu膜(非磁性結合層15)、厚さ2.0nmのCoFeB膜(リファレンス層16)、厚さ1.2nm以下の結晶性MgO膜(トンネルバリア層17)、厚さ3.0nmのCoFeB膜(フリー強磁性層18)、厚さ5nmのTa膜(基板側キャップ層19a)、厚さ10nmのRu膜(上側キャップ層19b)からなる。これらの膜は、MgO膜を含め、室温において、高真空下(10-7Pa程度)でスパッタ法により形成した。また、本実験例のトンネルバリア層17は厚さを1.2nm以下の範囲で厚さを変化させた膜をMgO膜からなり、これらのMgO膜に対して室温の下、膜厚に応じてMR比が最善となるように適宜酸素暴露時間および酸素分圧を変化させながら酸素暴露処理を行った。このうち、膜厚1.0nmのMgO膜に対しては、基板温度を室温として酸素分圧130Pa、酸素暴露処理時間120秒で酸素暴露処理を行った。
【0033】
一方、比較例の磁気抵抗効果素子は、トンネルバリア膜以外は実験例と同様の積層膜によって構成され、その製法もトンネルバリア膜17の形成工程を除いて同様である。比較例のトンネルバリア膜は結晶性MgO膜からなり、実験例と同様に真空雰囲気(10-7Pa)においてMgOをターゲットとしたスパッタ法により成膜した。但し、比較例は結晶性MgO膜に対して酸素暴露処理を行わずにトンネルバリア膜形成工程を終了している点で本実験例と相違する。
【0034】
作製されたTMR素子について抵抗値及びMR比を測定し、その結果に基づいて各素子の抵抗面積積RA(Ωμm2)を求めた。ここで、抵抗面積積とは、素子面積(μm2)と抵抗値(Ω)との積である。例えば試料素子の膜面の大きさが0.1μm×0.1μmであって素子の抵抗値が300Ωであった場合には、抵抗面積積は3(Ωμm2)と求められる。尚、本実験例及び比較例のTMR素子の抵抗面積積RAは、MgO膜の膜厚に依存し、RA=10(Ωμm2)を示す試料ではMgO膜の膜厚は1.2nm程度であり、RA=3(Ωμm2)を示す試料のMgO膜の膜厚は1.0nm程度であった。
【0035】
本実験例及び比較例のTMR素子の抵抗面積積RAとMR比との関係は図2に示すように、同一の抵抗面積積RAを有する試料間で比較した場合には本実験例のTMR素子の方が高いMR比が得られた。特に、磁気ヘッドに適した1〜3.5Ωμm2の低い抵抗面積積RAを有するTMR素子では、本実験例の素子は25%〜60%のMR比が得られ、比較例よりも2割程度高いMR比を示した。これは、本実験例及び比較例のトンネルバリア膜共に低酸素分圧下(高真空下)においてスパッタ法で形成されているため、MgO膜中に酸素欠陥が多く含まれるものと考えられる。しかしながら本実験例のトンネルバリア膜の場合には酸素暴露処理によって酸素欠陥(結晶欠陥)が減少し、酸素欠陥に基づくトンネル電子のスピン散乱の減少や、酸素欠陥に基づくトンネル電流以外の電流流路形成が減少するため、酸素欠陥等を多く含む比較例のTMR素子よりもMR比が向上したものと考えられる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係わる磁気抵抗効果素子では、トンネルバリア層17として結晶性酸化物膜を形成した後、結晶性酸化物膜を酸素ガスと接触させる処理を行うことにより酸素欠陥(結晶欠陥)が少ない結晶性酸化物(例えばMgO)膜が得られる。また、トンネルバリア膜中の酸素欠陥を減少させる処理を結晶性酸化物形成後に行っているため、下地側の強磁性膜が劣化する恐れがない。さらに、酸素暴露処理を行った結晶性酸化物膜によれば、酸素欠陥(結晶欠陥)によるトンネル電子のスピン散乱や、酸素欠陥(結晶欠陥)によるトンネル電流以外の電流流路生成が少なくなる。このため、トンネルバリア膜の膜厚が薄く低抵抗(低抵抗面積積RA)の素子であっても高いMR比が得られる。さらに、本実施形態のTMR素子10によれば低い素子抵抗によって情報転送速度を向上することができる。
【0037】
(第2実施形態)
以下、図3〜図5を参照しつつ、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、本発明の磁気抵抗効果素子を備えた磁気ヘッド及び磁気ディスク装置に関するものである。ここに、図3は第2実施形態の磁気ヘッド30の要部を示す断面図であり、図4(a)〜(c)は第2実施形態の磁気ヘッド30の製造途中の様子を示す断面図であり、図5は第2実施形態の磁気ディスク装置50を示す図である。上記各図において、既に説明した構成と同一の構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0038】
(磁気ヘッド)
図3に示すように、磁気ヘッド30は、基板31の上方に形成されたTMR素子10と、その上方に形成された誘導型記録素子35とを備える。
【0039】
基板31は、磁気ヘッド30のヘッドスライダとなり、Al23−TiC等のセラミック基板(アルチック基板)からなる。基板31の上には基板側磁気シールド層32が形成されている。基板側シールド層32は、TMR素子10の磁気シールドと下部電極とを兼ね、軟磁性合金として、例えばNiFe又はCoFe等から構成される。基板側シールド層32の上にはTMR素子10が形成されている。TMR素子10の積層膜の膜面は紙面と垂直な方向に広がり、その法線が図3の紙面上下方向に伸びる線と略同一となるように形成されている。TMR素子10の側方には磁区制御層41が設けられている。磁区制御層41は、TMR素子10を構成するリファレンス層16やフリー強磁性層18の単磁区化を図り、バルクハウゼンノイズの発生を防止する。TMR素子10の上には上側磁気シールド層34が形成されている。上側磁気シールド層34は、TMR素子10の磁気シールドと上部電極とを兼ね、基板側磁気シールド層32と同様な、軟磁性合金材料を用いて形成される。
【0040】
誘導型記録素子35は、主磁極36並びに補助磁極(上側磁気シールド層34を兼ねる)と、磁極間に形成された記録ギャップと、磁極を磁気的に接続するヨークと、ヨークを巻き回す誘導コイル42とを有する。
【0041】
次に図4(a)〜(c)を参照しつつ磁気ヘッド30の製造方法を説明する。尚、図4(a)〜(c)は磁気ヘッドを記録媒体側から見たときの構造を示している。
【0042】
まず、図4(a)に示す構造を形成するまでの工程について説明する。基板31の上にAl23膜を形成し(図示せず)、その上に例えばNiFeなどの軟磁性合金により磁基板側磁気シールド層32を2〜3μmの厚さに形成する。そして、軟磁性磁気シールド層32の上にTMR素子10を構成する下地層12(基板側下地層12a並びに上側下地層12b)、反強磁性層13、ピンド層14、非磁性結合層15、リファレンス層16、トンネルバリア層17、フリー強磁性層18、及びキャップ層19(基板側キャップ層19a並びに上側キャップ層19b)を順に形成することにより磁気抵抗効果膜が形成され、図4(a)に示す構造物が完成する。尚、磁気抵抗効果膜を構成する各層の膜厚、材質、製法は第1実施形態のTMR素子10と同様とすることができる。
【0043】
次に、形成された磁気抵抗効果膜を所定の形状に加工する。磁気抵抗効果膜の上にフォトレジスト法により所定の形状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして基板側磁気シールド層32が露出するまでイオンミーリングを施して、図4(b)に示す構造物(TMR素子10)が完成する。
【0044】
次に、図4(c)に示す構造物を形成するまでの工程について説明する。上述のように磁気抵抗効果膜を所定の寸法に加工した後、レジストパターンを残したまま、スパッタリング法により基板31の上側面全面に厚さ3〜10nmの絶縁膜40を形成する。その後、スパッタリング法により、絶縁膜40の上にCoCrPtを堆積させて、TMR素子10の両側部に磁区制御層41を形成する。次いで、レジストパターンを除去する。
【0045】
次に、磁区制御層41の表面を平坦化した後、TMR素子10及び磁区制御層41の表面の上に例えばNiFeなどからなる上側磁気シールド層34を2〜3μmの厚さに形成する。このようにして、図4(c)に示す構造物が完成する。
【0046】
次いで、公知の方法により、上側磁気シールド層34の上に、誘導型記録素子35(主磁極、補助磁極、ヨーク、コイル等)を形成する(図3参照)。このようにして、本実施形態に係わる磁気ヘッド30が完成する。
【0047】
磁気ヘッド30において、TMR素子10を流れる検出電流は膜面と垂直(法線)方向に流れ、例えば、検出電流は上側磁気シールド層34から基板側磁気シールド32に流れる。TMR素子10のフリー強磁性層18は、磁気記録媒体から漏れる磁場によって、図3において紙面と垂直な面内方向に磁化の方向が変化し、この結果、TMR素子10の抵抗値が変化する。この抵抗値の変化を電気的に検出することにより磁気記録媒体に記録された情報を読み取ることができる。さらに、本実施形態の磁気ヘッド30に使用されるTMR素子10は、その抵抗面積積RAが小さい場合でも、高いMR比を示すため、抵抗面積積RAの小さい素子を用いた場合でもS/N比が低下することがない。このため、抵抗面積積RAの小さい素子を用いることにより、磁気記録媒体の読み取り速度(転送速度)を向上することができる。
【0048】
(磁気ディスク装置)
次に、図5を参照しつつ磁気ディスク装置50について説明する。本実施形態に係わる磁気ディスク装置50は、上述の磁気ヘッド30を備えたことを特徴とする。
【0049】
図5に示すように、磁気ディスク装置50は、筐体54内に磁気記録媒体51と、先端に磁気ヘッド30を備えたヘッドスライダ(基板)31と、ヘッドスライダ31を保持するサスペンションアーム53とを収納している。磁気記録媒体51は図示しないスピンドルモータにより回転され、磁気ヘッド30はサスペンションアーム53を駆動する図示しないヘッド位置決め機構により記録媒体51上の所定のトラックに移動することができる。
【0050】
本実施形態の磁気ディスク装置は、磁気ヘッド30の読み取り素子(TMR素子10)に、酸素暴露処理を行った結晶性酸化物(例えばMgO)膜を備えている。このため、従来の読み取り素子よりも読み取り信号の出力信号が高くなりS/N比が改善し、より信頼性の高い読み取り動作が可能となる。また、従来のTMR素子よりもより低い抵抗面積積RAの素子を読み取り素子に使用することができる。これにより、本実施形態の磁気ディスク装置50は、TMR素子の抵抗値をより低くでき、記録媒体からの読み取り信号の転送速度を上げることができるので、より速い情報読み出し速度を達成することができる。
【0051】
(第3実施形態)
以下、図6〜図8を参照しつつ第3実施形態について説明する。第3実施形態は、本発明の磁気抵抗効果素子を記憶素子として用いた磁気メモリ装置に関する。ここに、図6は第3実施形態に係わるメモリ装置の構成例1を示す図であり、図7は構成例1の磁気メモリ装置の1つのメモリセルの等価回路図である。また、図8は、第3実施形態の構成例2を示す断面図である。尚、上記各図において、既に説明した構成と同一構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。また、図6及び図8において、方向を示すための直交座標軸を示す。このうち、Y1及びY2方向は紙面に垂直な方向であり、Y1方向は紙面の奥に、Y2方向は紙面の手前に向かう方向である。以下の説明において、単にX方向という場合は、X1方向及びX2方向のいずれでもよく、Y方向、Z方向についても同様とする。
【0052】
(電流磁界書き込み型磁気メモリ装置)
図6に示すように、磁気メモリ装置60は、例えばマトリクス状に配置された複数のメモリセル61により構成される。メモリセル61は、TMR素子10及びFET62によって構成される。FET62は、p型又はn型MOSFETを用いることができる。以下の説明ではn型MOSFETを例に説明する。FET62は、半導体基板63中に形成されたpウエル(p型不純物が導入された領域)と、半導体基板63の表面に互いに隔てて設けられた拡散領域65a及び65bを備える。拡散領域65a及び65bは、n型不純物が拡散された領域であり、拡散領域65aがソース(S)側であり、拡散領域65bがドレイン(D)側である。拡散領域65a及び65bの間の部分の上方には、ゲート絶縁膜66を介してゲート(G)が形成されている。FET62のソース側の拡散領域65aは、垂直配線74及び層内配線75を介してTMR素子10の一方(例えば基板側下地層12a)と電気的に接続されている。また、ドレイン側の拡散領域65bは、垂直配線74を介してプレート線と電気的に接続されている。ゲート(G)は読み出し用のワード線69と接続されている。尚、図6の例ではワード線69がFET62のゲート(G)電極を兼ねている。
【0053】
ビット線70は、TMR素子10の他方(例えば上側キャップ層19b)と電気的に接続されている。TMR素子10の下方には、電気的に隔離して書き込み用のワード線71が配置されている。TMR素子10は、先に図1に示したTMR素子10と同様な構成であり、トンネルバリア層には酸素暴露処理が施されている。TMR素子10は、磁化容易軸の方向をY方向に沿って設定する。この磁化容易軸の方向は、熱処理によって形成してもよく、形状異方性により形成しても良い。形状異方性によりX方向に磁化容易軸を形成する場合には、TMR素子10の膜面に平行な断面形状(X−Y平面に平行な断面形状)をY方向の辺よりもX方向の辺が長い矩形とする。
【0054】
尚、磁気メモリ装置60は、半導体基板63の表面やゲート電極Gがシリコン窒化膜やシリコン酸化膜などの層間絶縁膜73に覆われている。また、TMR素子10、プレート線68、読み出し用ワード線69、ビット線70、書き込み用ワード線71、垂直配線74、及び層内配線75は、上記で説明した電気的な接続以外は層間絶縁膜73によって互いに電気的に絶縁されている。
【0055】
磁気メモリ装置60は、TMR素子10に情報を保持する。情報は、リファレンス層16の磁化方向に対して、フリー強磁性層18の磁化の方向が平行か、反並行の状態であるかによって保持される。
【0056】
次に、磁気メモリ装置60の書き込み及び読み出し動作について説明する。
【0057】
磁気メモリ装置60のTMR素子10への情報の書き込み動作は、TMR素子10の上下に配置されたビット線70と書き込み用ワード線71とにより行われる。ビット線70は、TMR素子10の上方をX方向に伸びており、ビット線70に電流を流すことによりTMR素子10に対してY方向の磁界が印加される。また、書き込み用ワード線71はTMR素子10の下方をY方向に伸びており、書き込み用ワード線71に電流を流すことによりTMR素子10にX方向の磁界が印加される。TMR素子10のフリー強磁性層18の磁化は、磁界が印加されていない場合にはX方向を向いており、その磁化方向は安定である。
【0058】
情報をTMR素子10に書き込む際はビット線70と書き込み用ワード線71とに同時に電流を流す。例えば、TMR素子10のフリー強磁性層18の磁化をX1方向に向けるときは、ビット線70にX方向に電流を流すとともに、書き込みワード線71にY1方向の電流を流す。ビット線70に流れる電流によりTMR素子10にY方向の磁界が印加され、フリー強磁性層18が磁化困難軸の障壁を越えるための磁界の一部として機能する。また、書き込みワード線71をY1方向に流れる電流は、TMR素子10にX1方向の磁界を印加し、フリー強磁性層18の磁化の方向をX1方向に向ける。
【0059】
このようにして、TMR素子10のフリー強磁性層18の磁化の向きに応じて情報(“0”又は“1”)が書き込まれる。例えばTMR素子10のリファレンス層16の磁化の方向がX1方向に固定されている場合に、フリー強磁性層18の磁化の向きがX1方向であるときは、トンネルバリア膜17の抵抗値が低くなり、例えば“1”として検出できる。同様にフリー強磁性層18の磁化の向きがX2方向のときは、トンネルバリア膜17の抵抗値が高くなり例えば“0”として検出できる。尚、書き込み動作の際にビット線70及び書き込み用ワード線71に供給される電流値は、ビット線70又は書き込み用ワード線71のいずれか一方にのみ電流が流されてもフリー強磁性層18の磁化の反転が生じない程度に設定される。これにより、電流を供給したビット線70と電流を供給した書き込み用ワード線71の交点に位置するTMR素子10にのみ書き込みを行うことができる。また、書き込み動作の際にビット線70を流れる電流がTMR素子10に流れないように、FET62をオフとして、FET62のソース(S)はハイインピーダンスに設定される。
【0060】
磁気メモリ装置60の読み出し動作は、ビット線70をソースSよりも低い電圧に設定し、読み出し用ワード線69(ゲート電極G)にFET62の閾値電圧よりも高い電圧を印加する。これにより、FET62はオンとなり、電子がビット線70からTMR素子10、ソースS及びドレインDを介してプレート線68に流れる。プレート線68に電流計等の電流検出器78を電気的に接続することで、フリー強磁性層18とリファレンス層16との相対的な磁化の向きを反映した磁気抵抗値を検出することができる。これにより、MTR素子10が保持する“1”又は“0”の情報を読み出すことができる。
【0061】
以上のように構成された第3実施形態の構成例1の磁気メモリ装置10において、TMR素子10のトンネルバリア層17は、結晶性酸化物(例えばMgO)膜を形成後に結晶性酸化物膜を酸素暴露処理を行っているため、酸素欠陥の少ない結晶性酸化物膜からなる。そして、この酸素欠陥の少ない結晶性酸化物(例えばMgO)膜からなるトンネルバリア膜17によれば、抵抗面積積RAが小さな素子でもMR比が大きい。したがって、磁気メモリ装置60では、情報の読み出しの際に、保持された“0”及び“1”に対する磁気抵抗値の変化がより大きいので、TMR素子10の出力変化もより大きくなり、より正確な読み出しができる。さらに、素子抵抗を低くすることができるので、TMR素子10からの読み出し速度をより早くすることができる。
【0062】
(偏極スピン電流注入書き込み型磁気メモリ装置)
図8は、第3実施形態の構成例2に係わる磁気メモリ装置80を示す。尚、図8において図6と同一構成要素には同一符号を付してその説明は省略する。磁気メモリ装置80は、TMR素子10に情報を書き込むための機構及び動作が構成例1の磁気メモリ装置60と異なる。
【0063】
磁気メモリ装置80のメモリセルは、書き込み用ワード線71が設けられていない点を除いて、図6及び図7に示すメモリセルと同様の構成である。以下、図7及び図8を参照しつつ説明する。
【0064】
磁気メモリ装置80は、偏極スピン電流をTMR素子10に注入し、その電流の向きによって、フリー強磁性層18の磁化の向きを制御する。偏極スピン電流は、電子が取りうる2つのスピンの向きのうち、一方の向きの電子からなる電子流である。偏極スピン電流の向きをTMR素子10のZ1方向又はZ2方向に流すことで、フリー強磁性層18の磁化にトルクを発生させ、いわゆるスピン注入磁化反転を起こさせる。偏極スピン電流の電流量は、フリー強磁性層18の膜厚に応じて適宜選択されるが、20mA以下である。偏極スピン電流の電流量は、図6の構成例1の書き込み動作でビット線70及び書き込みワード線71に流れる電流量よりも少なく、消費電力を低減できる。
【0065】
尚、偏極スピン電流は、TMR素子10と略同様の構成を有するCu膜を2つの強磁性体層で挟んだ積層体に垂直に電流を流すことで生成することができる。電子のスピンの向きは2つの強磁性体の磁化の向きを平行又は反平行に設定することで制御できる。磁気メモリ装置80の読み取り動作は、図6の構成例1の磁気メモリ装置60と同様である。
【0066】
構成例2の磁気メモリ装置80は、構成例1の磁気メモリ装置60の持つ効果に加えて低消費電力化が可能であるという効果も有する。
【0067】
(その他の実施形態)
以上のように本発明のTMR素子10は、トンネルバリア層17として結晶性酸化物膜(例えばMgO膜)を2つの強磁性体膜の間に1層形成する構成であったが、本発明はこれ以外にも以下の構成とすることもできる。すなわち、3層の強磁性体膜の間に2層のトンネルバリア層を形成した2重強磁性トンネル接合を有するTMR素子にも適用することができる。ここに、図9は、本発明の別実施形態に係わる2重強磁性トンネル接合を有するTMR素子20の構成を示す断面図である。尚、先に説明した部分と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
TMR素子20は、基板11上に、基板側下地層12a及び上側下地層12bを有する下地層12と、反強磁性層13と、ピンド層14と、非磁性結合層15と、リファレンス層16とトンネルバリア層17と、フリー強磁性層18とを順に備え、さらにその上に上部トンネルバリア層27と、上部リファレンス層26と、上部非磁性中間層25と、上部ピンド層24と、上部反強磁性層23と、基板側キャップ層19a及び上側キャップ層19bで構成されるキャップ層19とを順に備えている。本発明の別実施形態において、トンネルバリア層17及び上部トンネルバリア層27は同一の材料、膜厚であり、例えばMgO膜等の結晶性酸化物膜からなる。この結晶性酸化物膜は、低酸素分圧下(例えば10-7Pa程度の高真空下)で酸化物(例えばMgO)をターゲットとしたスパッタ法により形成される。さらに、本実施形態のトンネルバリア層17及び27は、形成された結晶性酸化物を103Pa以下の酸素分圧を有する酸素ガス又は酸素を含むガスと接触する酸素暴露処理を経て作製される。
【0069】
TMR素子20において、上部リファレンス層26はリファレンス層16と、上部非磁性中間層25は非磁性中間層15と、上部ピンド層24はピンド層14と、上部反強磁性層23は反強磁性層13と、それぞれ同一の材料、膜厚、製法によって形成することができる。尚、本実施形態の基板11、下地層12、反強磁性層13、ピンド層14、非磁性結合層15、リファレンス層16、トンネルバリア層17、フリー強磁性層18、キャップ層19は、図1で既に説明したTMR素子10の対応する符号が付された構成部分と同一として構成することができる。
【0070】
以上のように構成された2重強磁性トンネル接合を有するTMR素子20においても、結晶性酸化物膜の形成後に、結晶性酸化物膜に酸素暴露処理を行っているため、従来の2重強磁性トンネル接合を有するTMR素子よりも高いMR比を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係わる磁気抵抗効果素子を示す断面図である。
【図2】図2は、第1実施形態の実験例及び比較例に係わる磁気抵抗効果素子のRAとMR比との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態に係わる磁気ヘッドの要部の構成を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜(c)は第2実施形態に係わる磁気ヘッドの製造途中の様子を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係わる磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置を示す図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施形態に係わる磁気メモリ装置のメモリセルを示す断面図である。
【図7】図7は、第3実施形態に係わる磁気メモリ装置の一部分についての等価回路を示す図である。
【図8】図8は、第3実施形態に係わる磁気メモリ装置の変形例を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の別実施形態に係わる磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10…TMR素子、11…基板、12…下地層、12a…基板側下地層、12b…上側下地層、13…反強磁性層、14…ピンド層、15…非磁性結合層、16…リファレンス層、17…トンネルバリア層、18…フリー強磁性層、19…キャップ層、19a…基板側キャップ層、19b…上側キャップ層、20…2重トンネル接合型TMR素子、27…上部トンネルバリア層、26…上部リファレンス層、25…上部非磁性結合層、24…上部ピンド層、23…上部反強磁性層、30…磁気ヘッド、31…基板(ヘッドスライダ)、32…基板側磁気シールド層、34…上側磁気シールド層、35…誘導型記録素子、40…絶縁膜、41…磁区制御層、50…磁気ディスク装置、51…磁気記録媒体、52…磁気ヘッド、53…サスペンションアーム、54…筐体、60…磁気メモリ装置(電流磁界書き込み型)、61…メモリセル、62…FET、63…半導体基板、64…pウエル、65a…ソース側拡散領域、65b…ドレイン側拡散領域、66…ゲート絶縁膜、68…プレート線、69…読み出し用ワード線、70…ビット線、71…書き込み用ワード線、73…層間絶縁膜、74…垂直配線、75…層内配線、78…電流検出器、80…磁気メモリ装置(偏極スピン電流注入書き込み型)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に形成された第1の強磁性体層と、
前記第1の強磁性体層の上に形成された結晶性酸化物からなるトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層の上に形成された第2の強磁性体層と、を備えた磁気抵抗効果素子であって、
前記トンネルバリア層は、酸素暴露処理された結晶性酸化物膜からなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記トンネルバリア層がMgO膜からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
基板上方に強磁性体からなる第1の強磁性体層を形成する工程と、
前記第1の強磁性体層の上に結晶性酸化物からなるトンネルバリア層を形成する工程と、
前記トンネルバリア層を酸素暴露処理する工程と、
前記トンネルバリア層の上に強磁性体からなる第2の強磁性層を形成する工程と、
を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記トンネルバリア層は、スパッタ法により形成することを特徴とする請求項3に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記トンネルバリア層は、MgOをターゲットとして、高真空下においてスパッタ法により形成されることを特徴とする請求項3に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−4692(P2009−4692A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166310(P2007−166310)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】