説明

車両のヨーモーメント制御装置

【課題】 車両の運動状態を制御する主操作部材の操作性とヨーモーメント発生装置の作動を制御する副操作部材の操作性とを両立させる。
【解決手段】 車輪を転舵するステアリングホイール7(主操作部材)のステアリングホイール本体8の一部に回転可能なグリップ9(副操作部材)を設ける。グリップ9を回転させると左右の車輪の制動力に差が発生し、それに伴うヨーモーメントで旋回を補助あるいは抑制することができる。グリップ9をステアリングホイール本体8の一部として構成したので、ステアリングホイール7を操作して車両を旋回させながら、グリップ9を回転させて旋回を補助あるいは抑制することができ、このときステアリングホイール本体8およびグリップ9は共に運転者の同じ手で操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による車両の運動状態の制御中に、補助的なヨーモーメントを容易に発生させるための車両のヨーモーメント制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の足で操作されるペダルを中間部において前後揺動可能に枢支し、中立位置から前方に揺動したときにアクセルペダルとして機能させ、中立位置から後方に揺動したときにブレーキペダルとして機能させるものにおいて、ペダルの左右両側に一対のスイッチを配置し、それらのスイッチをシフトアップ/シフトダウンの指令や、左右のウインカーの点灯の指令に用いるものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また左右の後輪のブレーキを左右のブレーキペダルにより独立して作動させる状態と、ハンドルの切れ角が所定値以上になったときに旋回内輪側のブレーキを自動的に作動させる状態とを切り換え可能にしたものが、下記特許文献2により公知である。
【0004】
また走行速度が所定値未満の状態では左右の後輪のブレーキをそれぞれ左右のブレーキペダルにより独立して作動させ、走行速度が所定値以上の状態では左右一方のブレーキペダルで左右両方の後輪のブレーキを同時に作動させるものが、下記特許文献3により公知である。
【特許文献1】特開2004−352228号公報
【特許文献2】特許第3090858号公報
【特許文献3】特開平9−193759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、運転者が手や足で操作部材を操作して指令信号を出力することで左右の車輪の制動力を個別に制御し、旋回を補助するヨーモーメントや旋回を抑制するヨーモーメントを発生させるものでは、運転者が手でステアリングホイールを操作し、足でブレーキペダルやアクセルペダルを操作している状態では、前記操作部材を操作しようとするとステアリングホイール、ブレーキペダルあるいはアクセルペダルの操作が疎かになり、操作性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両の運動状態を制御する主操作部材の操作性とヨーモーメント発生装置の作動を制御する副操作部材の操作性とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材と、前記主操作部材に設けられて運転者により操作される副操作部材と、前記副操作部材の操作に応じて車両のヨーモーメントを変化させるヨーモーメント発生装置とを備えたことを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記主操作部材はステアリングホイールであり、前記副操作部材はステアリングホイール本体の一部を回転可能としたグリップであることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記主操作部材はブレーキペダルであり、前記副操作部材はペダル本体に左右揺動可能に設けた被踏部であることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記主操作部材はアクセルペダルであり、前記副操作部材はペダル本体に左右揺動可能に設けた被踏部であることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記ヨーモーメント発生装置は、制動力左右配分装置、駆動力左右配分装置、操舵装置、四輪操舵装置、サスペンションダンパーの減衰力可変装置の少なくとも一つであることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態のブレーキペダル1、ステアリングホイール7およびアクセルペダル18は本発明の主操作部材に対応し、実施の形態のグリップ9、被踏部15および被踏部23は本発明の副操作部材に対応し、実施の形態の油圧制御装置4(制動力左右配分装置)、四輪操舵装置、駆動力左右配分装置は本発明のヨーモーメント発生装置に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、運転者が主操作部材に設けた副操作部材を操作すると、その副操作部材の操作に応じてヨーモーメント発生装置が車両のヨーモーメントを変化させるので、主操作部材を操作して車両の運動状態を制御するのと同時並行して、車両の旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、副操作部材は主操作部材に設けられているので、それらが別個に設けられている場合に比べて運転者の操作負担が軽減される。
【0014】
また請求項2の構成によれば、主操作部材としてのステアリングホイールのステアリングホイール本体の一部を回転可能としたグリップで副操作部材を構成したので、ステアリングホイールを操作して車両を旋回させながら、グリップを回転させて旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、ステアリングホイール本体およびグリップは共に運転者の同じ手で操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。
【0015】
また請求項3の構成によれば、主操作部材としてのブレーキペダルのペダル本体に左右揺動可能に設けた被踏部で副操作部材を構成したので、ブレーキペダルを操作して車両を制動しながら、被踏部を左右揺動させて旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、ペダル本体および被踏部は共に運転者の同じ足で操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。
【0016】
また請求項4の構成によれば、主操作部材としてのアクセルペダルのペダル本体に左右揺動可能に設けた被踏部で副操作部材を構成したので、アクセルペダルを操作して車両を加減速しながら、被踏部を左右揺動させて旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、ペダル本体および被踏部は共に運転者の同じ足で操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。
【0017】
また請求項5の構成によれば、制動力左右配分装置、駆動力左右配分装置、操舵装置、四輪操舵装置、サスペンションダンパーの減衰力可変装置の少なくとも一つでヨーモーメント発生装置を構成したので、旋回を補助あるいは抑制するヨーモーメントを的確に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜図7は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1はヨーモーメント制御装置を搭載した自動車の全体構成を示す図、図2はヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図、図3はステアリングホイールの斜視図、図4はブレーキペダルの分解斜視図、図5は図4の5A方向および5B方向矢視図、図6はアクセルペダルの分解斜視図、図7は図6の7A方向および7B方向矢視図である。
【0020】
図1および図2に示すように、本実施の形態のヨーモーメント制御装置を搭載した四輪の車両は、エンジンEの駆動力がトランスミッションTを介して伝達される駆動輪たる左右の前輪WFL,WFRと、車両の走行に伴って回転する従動輪たる左右の後輪WRL,WRRとを備える。運転者により操作されるブレーキペダル1は電子制御負圧ブースタ2を介してマスタシリンダ3に接続される。電子制御負圧ブースタ2は、ブレーキペダル1の踏力を機械的に倍力してマスタシリンダ3を作動させるとともに、自動制動時にはブレーキペダル1の操作によらずに電子制御ユニットUからの制動指令信号によりマスタシリンダ3を作動させる。尚、電子制御負圧ブースタ2の入力ロッドはロストモーション機構を介してブレーキペダル1に接続されており、電子制御負圧ブースタ2が電子制御ユニットUからの信号により作動して前記入力ロッドが前方に移動しても、ブレーキペダル1は初期位置に留まるようになっている。
【0021】
マスタシリンダ3の一対の出力ポート3a,3bは、本発明のヨーモーメント発生装置としての油圧制御装置4を介して、前輪WFL,WFRおよび後輪WRL,WRRにそれぞれ設けられたブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに接続される。油圧制御装置4は4個のブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに対応して4個の圧力調整器6…を備えており、それぞれの圧力調整器6…は電子制御ユニットUに接続されて前輪WFL,WFRおよび後輪WRL,WRRに設けられたブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRの作動を個別に制御する。
【0022】
従って、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRのブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに伝達されるブレーキ油圧を圧力調整器6…によって独立に制御すれば、車両のヨーモーメントを任意に制御して旋回を補助あるいは抑制することができ、また制動時における車輪WFL,WFR,WRL,WRRのロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0023】
図1および図3に示すように、ステアリングホイール7は環状のステアリングホイール本体8を備えており、その一部(例えば運転者の右手で握る部分)が別部材のグリップ9で構成される。グリップ9はその接線方向に延びる回転軸10,10まわりに回転可能であり、その回転角がグリップ回転角センサSaにより検出される。グリップ9は、図示せぬリターンスプリングで中立位置に向けて付勢される。
【0024】
図1、図4および図5に示すように、ブレーキペダル1は車体に固定したブラケット11に左右方向に配置したピン12を介して上端を枢支されたペダルアーム13を備えており、ペダルアーム13の下端に設けたペダル本体14の表面(運転者に対向する面)に、運転者の足Fによって踏まれる被踏部15が上下方向に延びるピン16を介して左右揺動可能に枢支される。被踏部15はペダル本体14との間に配置した一対のリターンスプリング17,17によって該ペダル本体14と平行になるように付勢される。ペダル本体14の下端部には被踏部15と一体に揺動するピン16に接続された被踏部揺動角センサSbが設けられており、この被踏部揺動角センサSbにより被踏部15の揺動角が検出される。
【0025】
図1、図6および図7に示すように、アクセルペダル18は車体に固定したブラケット19に左右方向に配置したピン20を介して上端を枢支されたペダルアーム21を備えており、ペダルアーム21の下端に設けたペダル本体22の表面(運転者に対向する面)に、運転者の足Fによって踏まれる被踏部23が上下方向に延びるピン24を介して左右揺動可能に枢支される。被踏部23はペダル本体22との間に配置した一対のリターンスプリング25,25によって該ペダル本体22と平行になるように付勢される。ペダル本体22の下端部には被踏部23と一体に揺動するピン24に接続された被踏部揺動角センサScが設けられており、この被踏部揺動角センサScにより被踏部23の揺動角が検出される。
【0026】
尚、運転者がアクセルペダル18に足を乗せる場合に爪先が右側に傾く場合が多いため、被踏部23の揺動軸となるピン24の上部を右側に傾けて配置することで、被踏部23の操作性を高めることができる。
【0027】
グリップ9の回転角を検出するグリップ回転角センサSaと、ブレーキペダル1の被踏部15の揺動角を検出する被踏部揺動角センサSbと、アクセルペダル18の被踏部23の揺動角を検出する被踏部揺動角センサScと、前輪WFL,WFRおよび後輪WRL,WRRの回転数をそれぞれ検出する車輪速センサSd…とが接続された電子制御ユニットUは、電子制御負圧ブースタ2および油圧制御装置4の作動を制御する。
【0028】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0029】
運転者がステアリングホイール7を左右に回転させると、前輪WFL,WFRが左右に操舵されて車両が旋回する。運転者が通常ステアリングホイール本体8を右手で握る位置に設けられたグリップ9を回転させると、グリップ回転角センサSaにより検出されたグリップ9の回転角が電子制御ユニットUに入力され、電子制御ユニットUは電子制御負圧ブースタ2および油圧制御装置4の圧力調整器6…を作動させて左右の車輪の制動力を自動的かつ個別に制御する。
【0030】
例えば、右旋回中にアンダーステア傾向だと判断した運転者がグリップ9を右に回転させると、旋回内輪である右車輪だけに制動力が作用して車両を右に旋回させるヨーモーメントが発生し、このヨーモーメントによりアンダーステア傾向を解消させることができる。逆に右旋回中にオーバーステア傾向だと判断した運転者がグリップ9を左に回転させると、旋回外輪である左車輪だけに制動力が作用して車両を左に旋回させるヨーモーメントが発生し、このヨーモーメントによりオーバーステア傾向を解消させることができる。
【0031】
左旋回中でも、あるいは直進走行中でも、同様にしてグリップ9の操作によりヨーモーメントの制御を行うことができる。このとき発生するヨーモーメントの大きさは、グリップ9の回転角に応じて調整することができる。
【0032】
以上のように、ステアリングホイール本体8の一部を回転可能としたグリップ9を回転させるだけで任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができるので、ステアリングホイール7を操作して車両を旋回させながら、グリップ9を回転させて旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、ステアリングホイール本体8およびグリップ9は共に運転者の同じ右手で操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。
【0033】
尚、グリップ9は左手で操作する位置に設けても良いし、右手で操作するグリップ9および左手で操作するグリップ9の両方を設けても良い。またグリップ9を柔軟性を有する材料で構成し、それが回転してもステアリングホイール本体8が円形を維持するようにすれば操作性が更に向上する。
【0034】
また車両の走行中にブレーキペダル1を踏み込むと、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧で車輪が制動されるが、その際に運転者の足Fでブレーキペダル1の被踏部15をピン16まわりに左右に揺動させると、被踏揺動角センサSbで検出した被踏部15の揺動角に基づいて、電子制御ユニットUが油圧制御装置4を介して左右の車輪の制動力を別個に制御する。
【0035】
例えば、ブレーキペダル1を踏む際に被踏部15の右側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、右旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。逆に、ブレーキペダル1を踏む際に被踏部15の左側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、左旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。
【0036】
よって、ブレーキペダル1を踏んでの制動中に任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができ、しかも右足だけで制動力の制御およびヨーモーメントの制御を同時に行うことができるので、運転者の操作負担が軽減される。
【0037】
また車両の走行中にアクセルペダル18を操作すると車両が加速あるいは減速するが、その際に運転者の足Fでアクセルペダル18の被踏部23をピン24まわりに左右に揺動させると、被踏部揺動角センサScで検出した被踏部23の揺動角に基づいて、電子制御ユニットUが電子制御負圧ブースタ2および油圧制御装置4を介して左右の車輪の制動力を別個に制御する。
【0038】
例えば、アクセルペダル18を踏む際に被踏部23の右側に踏力を加えると、電子制御負圧ブースタ2の作動によりマスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、右旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。逆に、アクセルペダル18を踏む際に被踏部23の左側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、左旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。
【0039】
よって、アクセルペダル18に足を置いての加速中、定速走行中、減速中の何れの場合にも任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができ、しかも右足だけで加減速およびヨーモーメントの制御を同時に行うことができるので、運転者の操作負担が軽減される。
【0040】
次に、図8および図9に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0041】
第1の実施の形態はヨーモーメント発生装置として左右の車輪に制動力を任意に配分可能な油圧制御装置4(制動力左右配分装置)を採用しているが、第2の実施の形態はヨーモーメント発生装置して前輪WFL,WFRに加えて後輪WRL,WRR用を転舵可能な四輪操舵装置を採用し、グリップ9の操作により後輪WRL,WRRの転舵角を制御するものである。
【0042】
図8に示すように、電子制御ユニットUは、転舵角指令値算出手段M1と、補正係数算出手段M2と、乗算手段M3と、アクチュエータ制御手段M4とを備える。転舵角指令値算出手段M1にはグリップ回転角センサSaが接続され、補正係数算出手段M2には車速を検出する車輪速センサSd…と、ステアリングホイール7の操舵角を検出する操舵角センサSeと、車両の横加速度を検出する横加速度センサSfとが接続され、アクチュエータ制御手段M4には四輪操舵装置の後輪WRL,WRR用のステアリングアクチュエータ26が接続される。
【0043】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0044】
運転者が通常ステアリングホイール本体8を右手で握る位置に設けられたグリップ9を回転させると、グリップ回転角センサSaにより検出されたグリップ9の回転角が電子制御ユニットUの転舵角指令値算出手段M1に入力される。転舵角指令値算出手段M1はグリップ9の回転角に応じた後輪WRL,WRRの転舵角の指令値を算出する。
【0045】
車輪速センサSd…で検出した車速が入力された補正係数算出手段M2は、車速をパラメータとする図9(A)のマップに基づいて第1補正係数K1を算出する。第1補正係数K1は、車速が0のときに最大値の1をとり、車速が0から増加すると前記最大値から次第に減少する。
【0046】
また操舵角センサSeで検出した操舵角が入力された補正係数算出手段M2は、操舵角をパラメータとする図9(B)のマップに基づいて第2補正係数K2を算出する。第2補正係数K2は、操舵角が0のときに1未満の最小値をとり、操舵角が0から左右に増加すると前記最小値から1に向かって増加する。
【0047】
また横加速度センサSfで検出した横加速度が入力された補正係数算出手段M2は、横加速度をパラメータとする図9(C)のマップに基づいて第3補正係数K3を算出する。第3補正係数K3は、横加速度が0のときに1の値をとり、横加速度が0から左右に増加すると1から減少する。
【0048】
転舵角指令値算出手段M1が出力する転舵角の指令値は、乗算手段M3において前記第1、第2、第3補正係数K1,K2,K3が乗算されて補正され、その補正された転舵角の指令値に基づいてアクチュエータ制御手段M4がステアリングアクチュエータ26を作動させることで、前記補正された転舵角の指令値に対応する転舵角を発生させる。
【0049】
しかして、車速が大きい場合には運転者が緊張してステアリングホイール7を強く握るので、グリップ9を操作するときに微妙にふるえてしまい、転舵角の指令値にノイズが乗り易くなる。しかしながら、第1補正係数K1により、高車速時には第1補正係数K1が小さくなって転舵角の指令値が小さくなるので、ノイズの影響による転舵角の変動を低減することができる。逆に、車速が小さい場合には運転者がステアリングホイール7を強く握ることはないので、グリップ9の操作により出力される転舵角の指令値にノイズが乗り難くなる。この低車速時には第1補正係数K1が大きくなって転舵角の指令値が大きくなるので、グリップ9を操作する運転者の意思を充分に反映した転舵角の制御が可能になる。
【0050】
また第2補正係数K2により、操舵角の増加に応じて転舵角の変化量を増加させるので、運転者に旋回の意思がない小操舵角時には、転舵角の変化量を小さくしてグリップ9の誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、運転者が急旋回を望む大操舵角時には、転舵角の変化量を大きくして運転者がステアリングホイール7を操作する操作負担を軽減することができる。
【0051】
また第3補正係数K3により、横加速度の増加に応じて転舵角の変化量を減少させるので、急激な横加速度が発生しているときには、転舵角の変化量を小さくしてグリップ9の誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、ステアリングホイール7の操作だけでは充分な横加速度が発生しないときには、運転者の意思に応じて大きな横加速度を発生させることができる。
【0052】
図10(A)は第2補正係数K2の第3の実施の形態を示すものである。第3の実施の形態では、操舵角の絶対値が閾値未満の領域では第2補正係数K2が一律に0であり、グリップ9により指令された転舵角は発生しない。そして操舵角の絶対値が閾値以上の領域では第2補正係数K2が0から1へと瞬時にあるいは次第に増加し、最終的にグリップ9により指令された転舵角の全量が発生する。
【0053】
図10(B)は第3補正係数K3の第3の実施の形態を示すものである。第3の実施の形態では、横加速度の絶対値が閾値未満の領域では第3補正係数K3が一律に1であり、のグリップ9により指令された転舵角の全量が発生する。そして横加速度の絶対値が閾値以上の領域では第3補正係数K3が1から0へと瞬時にあるいは次第に減少し、それに応じてグリップ9により指令された転舵角が最終的に発生しなくなる。
【0054】
次に、図11に基づいて本発明の第4の実施の形態を説明する。
【0055】
上述した第2の実施の形態では、運転者によるグリップ9の操作に基づいて後輪WRL,WRRを転舵しているが、第4の実施の形態は後輪WRL,WRRを車両状態に応じて自動的に転舵するものにおいて、その転舵量を運転者によるグリップ9の操作に基づいて調整するものである。
【0056】
即ち、電子制御ユニットUは、第2の実施の形態の転舵角指令値算出手段M1、補正係数算出手段M2、乗算手段M3およびアクチュエータ制御手段M4に加えて、基本転舵角指令値算出手段M5および加算手段M6を備える。基本転舵角指令値算出手段M5には車輪速センサSd…および操舵角センサSeが接続され、乗算手段M6は乗算手段M3とアクチュエータ制御手段M4との間に配置される。
【0057】
車輪速センサSd…で検出した車速および操舵角センサSeで検出した操舵角が入力された基本転舵角指令値算出手段M5は、車速および操舵角に応じた基本転舵角の指令値を算出する。運転者がグリップ9を操作しないとき、アクチュエータ制御手段M4は前記基本転舵角の指令値を目標値としてステアリングアクチュエータ26を駆動し、後輪WRL,WRRの転舵角を基本転舵角に一致させる自動操舵制御が行われる。
【0058】
このような後輪WRL,WRRの自動操舵中に運転者がグリップ9を操作すると、乗算手段M3が出力する補正された転舵角の指令値が、加算手段M6において基本転舵角指令値算出手段M5が出力する基本転舵角の指令値に加算され、その加算された最終的な転舵角の指令値に基づいてアクチュエータ制御手段M4がステアリングアクチュエータ26を駆動する。その結果、後輪WRL,WRRの自動操舵中にグリップ9を操作することで、その転舵角を任意に増減することができる。
【0059】
次に、図12に基づいて本発明の第5の実施の形態を説明する。
【0060】
第5の実施の形態は図8に示す第2の実施の形態の変形であって、ヨーモーメント制御装置として、第2の実施の形態の四輪操舵装置に代えて、エンジンEの駆動力を左右の車輪に任意の比率で配分可能な駆動力左右配分装置を備えている。従って、第5の実施の形態は、第2の実施の形態の転舵角指令値算出手段M1およびステアリングステアリングアクチュエータ26に代えて、駆動力配分指令値算出手段M1′および駆動力配分アクチュエータ27を備えている。
【0061】
しかして、この第5の実施の形態によれば、ステアリングアクチュエータ26による後輪WRL,WRRの転舵に代えて、駆動力配分アクチュエータ27で作動する駆動力左右配分装置によりヨーモーメントを発生させることができる。
【0062】
次に、図13に基づいて本発明の第6の実施の形態を説明する。
【0063】
第6の実施の形態は図12に示す第5の実施の形態の変形であって、電子制御ユニットUは、第5の実施の形態の駆動力配分指令値算出手段M1′、補正係数算出手段M2、乗算手段M3およびアクチュエータ制御手段M4に加えて、基本駆動力配分指令値算出手段M5′および加算手段M6を備える。基本駆動力配分指令値算出手段M5′には車輪速センサSd…および操舵角センサSeが接続され、加算手段M6は乗算手段M3とアクチュエータ制御手段M4との間に配置される。
【0064】
しかして、この第6の実施の形態によれば、駆動力の左右配分中に運転者がグリップ9を操作すると、乗算手段M3が出力する補正された駆動力配分指令値が、加算手段M6において基本駆動力配分指令値算出手段M5′が出力する基本駆動力配分指令値に加算され、その加算された最終的な駆動力配分指令値に基づいてアクチュエータ制御手段M4が駆動力配分アクチュエータ27を駆動する。その結果、駆動力の左右配分中にグリップ9を操作することで、その駆動力の左右配分量を任意に増減することができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0066】
例えば、実施の形態では本発明のヨーモーメント発生装置として左右の車輪に制動力を任意に配分可能な油圧制御装置4(制動力左右配分装置)、四輪操舵装置、駆動力左右配分装置を例示したが、その他のヨーモーメント発生装置として、前輪だけを操舵する通常の操舵装置や、左右のサスペンションのダンパーの硬さを個別に制御可能な減衰力可変装置を採用することができる。
【0067】
ヨーモーメント発生装置として通常の操舵装置を採用した場合には、ステアリングホイール7の操作による前輪の操舵と、グリップ9の操作による前輪の操舵とを重畳することで、グリップ9を操作した分だけヨーモーメントを増減することができる。またブレーキペダル1の被踏部15やアクセルペダル18の被踏部23を操作すれば、その分だけ前輪の操舵量を増減して任意のヨーモーメントを発生させることができる。
【0068】
ヨーモーメント発生装置としてダンパーの硬さを個別に制御可能な減衰力可変装置を採用した場合には、旋回外輪側のダンパーを硬くして旋回内輪側のダンパーを柔らかくすることで、遠心力による旋回方向外側への車体の倒れを抑制して旋回を補助するヨーモーメントを発生させることができる。
【0069】
またステアリングホイール7のグリップ9、ブレーキペダル1の被踏部15あるいはアクセルペダル18の被踏部23は無段階(連続的)に回転あるいは揺動するものであっても良いし、段階的に回転あるいは揺動するものであっても良い。
【0070】
また実施の形態ではステアリングホイール7のグリップ9、ブレーキペダル1の被踏部15およびアクセルペダル18の被踏部23の全てを備えているが、本発明のその何れか一つを備えていれば良い。
【0071】
またステアリングホイール7に左右の手でそれぞれ操作される左右のグリップ9,9を設け、左グリップ9の操作で左旋回方向のヨーモーメントを発生させ、右グリップ9の操作で右旋回方向のヨーモーメントを発生させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置を搭載した自動車の全体構成を示す図
【図2】ヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【図3】ステアリングホイールの斜視図
【図4】ブレーキペダルの分解斜視図
【図5】図4の5A方向および5B方向矢視図
【図6】アクセルペダルの分解斜視図
【図7】図6の7A方向および7B方向矢視図
【図8】第2の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【図9】第1〜第3の補正係数を検索するマップを示す図
【図10】第3の実施の形態に係る第2、第3の補正係数を検索するマップを示す図
【図11】第4の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【図12】第5の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【図13】第6の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0073】
1 ブレーキペダル(主操作部材)
4 油圧制御装置(ヨーモーメント発生装置、制動力左右配分装置)
7 ステアリングホイール(主操作部材)
8 ステアリングホイール本体
9 グリップ(副操作部材)
14 ペダル本体
15 被踏部(副操作部材)
18 アクセルペダル(主操作部材)
22 ペダル本体
23 被踏部(副操作部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材(1,7,18)と、
前記主操作部材(1,7,18)に設けられて運転者により操作される副操作部材(9,15,23)と、
前記副操作部材(9,15,23)の操作に応じて車両のヨーモーメントを変化させるヨーモーメント発生装置(4)と、
を備えたことを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項2】
前記主操作部材はステアリングホイール(7)であり、
前記副操作部材はステアリングホイール本体(8)の一部を回転可能としたグリップ(9)であることを特徴とする、請求項1に記載の車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項3】
前記主操作部材はブレーキペダル(1)であり、
前記副操作部材はペダル本体(14)に左右揺動可能に設けた被踏部(15)であることを特徴とする、請求項1に記載の車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項4】
前記主操作部材はアクセルペダル(18)であり、
前記副操作部材はペダル本体(22)に左右揺動可能に設けた被踏部(23)であることを特徴とする、請求項1に記載の車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項5】
前記ヨーモーメント発生装置は、制動力左右配分装置(4)、駆動力左右配分装置、操舵装置、四輪操舵装置、サスペンションダンパーの減衰力可変装置の少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両のヨーモーメント制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−114831(P2008−114831A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11105(P2007−11105)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】