説明

アシストモーター付き車両の制御装置

【課題】 拡散燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り換える際に、過早着火による異常燃焼を防止すると共に煤の発生を抑制することができるアシストモーター付き車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 燃料噴射弁と、排気還流量調節手段と、第1の運転状態では予混合燃焼の割合が大きな第1の燃焼状態になるよう燃料を吸気下死点側で噴射し、第2の運転状態では拡散燃焼の割合が大きな第2の燃焼状態になるよう燃料を圧縮上死点側で噴射する噴射制御手段と、エンジンが第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際には排気還流量を急激に増加させる排気還流量制御手段とを有する車両において、駆動力のアシストを行うアシストモーターを備え、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際に、排気の還流量を減少させるためにエンジンの出力トルクを減少させ、減少させた出力トルクを補償するようにアシストモーターを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクアシストを行うモータが備えられた車両の制御装置に関し、特に、直噴式ディーゼルエンジンが備えられた車両において、運転状態に応じてエンジンの燃焼状態及びモーターの制御を行うアシストモーター付き車両の制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、直噴式ディーゼルエンジンにおいては、燃焼温度が高いときに窒素酸化物(NOx)が発生する一方、燃焼時の酸素不足により煤が発生することが知られており、このNOxと煤との両方の発生を抑制する方法が提案されている。
【0003】
従来、不活性な排気の一部を吸気に還流させて(以下、EGRという)燃焼温度を低下させ、NOxの発生を抑制する方法がある。このとき、還流させるEGRを増大させて混合気のEGR率を増大するに従って、NOxの発生は低減するが、煤の発生が増大するという問題が発生する。
【0004】
特許文献1には、EGR率に応じた煤の発生にはピークがあり、このピーク以上にEGR率を増大させると、煤の発生が抑制できることに着目し、運転状態に応じてピークの大小側にEGR率を設定する技術が開示されている。このとき、高負荷時には、EGR率が煤の発生量がピークとなるEGR率よりも小さくされると共に、圧縮上死点近傍で燃料を噴射していわゆる拡散燃焼を行う。この拡散燃焼においては、混合気のEGR率を下げて煤の発生を抑制するようにしている。一方、低負荷時には、EGR率が煤の発生量がピークとなるEGR率よりも大きくされると共に、圧縮上死点以前に予め燃料を噴射(早期噴射)して燃料の気化霧化を促進すると共に着火を遅らせ、圧縮上死点近傍で自着火させるいわゆる予混合圧縮着火燃焼を行う。このような予混合圧縮着火燃焼においては、EGRにより不活性な排気に燃焼熱を吸収させてNOxを低減することができると共に、十分に空気と混合された燃料は過濃な部分を生じることなく煤の発生を抑制することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−110669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に開示の技術において、図9に示すように燃焼状態が拡散燃焼から予混合圧縮着火燃焼に移行する場合には、要求されるEGR率が急激に増加することになるが、この要求されるEGR率の急激な増加に対して、実際にEGR率が実現されるまでには構造的な応答遅れが生じる。すなわち、一般的にEGR率は、排気を還流させるためのEGR通路途中に設けられたEGR弁を開動作させることによって実現されるが、排気がEGR通路を通って吸気管に至り燃焼室内に供給されるまでには一定の時間が掛かる。
【0007】
ここで、図10に示すように、拡散燃焼から予混合圧縮着火燃焼に移行する過渡期(t−t間)には、上記応答遅れにより、EGR率が十分に増加していない状態で早期噴射が行われ、過早着火による異常燃焼により騒音・振動等の不具合が生じうる。
【0008】
また、前述のEGR率の応答遅れに対して燃料噴射量の切り換えは直ちに実現できるので、過渡期には燃料噴射量に対してEGR率が小さくなって、混合気は予混合できずに煤の発生が増大するという問題もある。これに対処するものとして、燃料の後噴射を行って煤を完全に燃焼させることが考えられるが、燃料を余分に使用することになって燃費が悪化する。
【0009】
そこで、本発明は、拡散燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り換える際の過渡期において、過早着火による異常燃焼を防止すると共に煤の発生を抑制することができるアシストモーター付き車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁と、上記燃焼室への排気の還流量を調節する排気還流量調節手段と、エンジンが第1の運転状態のときには予混合燃焼の割合が拡散燃焼の割合より大きな第1の燃焼状態とするために燃料を少なくとも吸気下死点側で噴射させ、かつ第2の運転状態のときには拡散燃焼の割合が予混合燃焼の割合より大きな第2の燃焼状態とするために燃料を少なくとも圧縮上死点側で噴射させるように上記燃料噴射弁を制御する噴射制御手段と、エンジンが上記第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際には排気の還流量を急激に増加するように上記排気還流量調整手段を制御する排気還流量制御手段とを有する車両において、上記エンジンと車輪との間の駆動力伝達経路に連結されて駆動力のアシストを行うアシストモーターと、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際に、排気の還流量を減少させるためにエンジンの出力トルクを減少させる出力トルク減少補正手段と、減少させた出力トルクを補償するように上記アシストモーターを制御するアシストモーター制御手段とが備えられていることを特徴とする。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置において、アシストモーターに電力を供給するバッテリの容量に関するパラメータを検出するバッテリ容量検出手段が備えられ、出力トルク減少補正手段は、バッテリ容量の低下に応じて、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際の出力トルクの減少度合いを小さくすることを特徴とする。
【0013】
次に、請求項3に記載の発明は、上記請求項2に記載のアシストモーター付き車両の制御装置において、噴射制御手段は、バッテリ容量が所定以下に低下した場合は、膨張行程ないし排気行程にて追加噴射を行うことを特徴とする。
【0014】
次に、請求項4に記載の発明は、上記請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置において、出力トルク減少補正手段は、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際にエンジン回転数が上昇するときには、出力トルクの減少度合いを大きくすることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項5に記載の発明は、上記請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置において、出力トルク減少補正手段は、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際にエンジン回転数が減少するときは、出力トルクの減少度合いを小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際に排気の還流量の増加割合を減少させ、それに伴って生じるエンジンの出力トルクの減少をアシストモーターにより補償するようにしている。通常のエンジン制御においては、要求される排気の還流量を減少させると要求される燃焼噴射量も減少し、出力トルクは減少せざるを得ない。そのため、エンジンのみでは目標トルクを実現できないことになるが、この出力トルクの減少分をアシストモーターで補償することによって目標トルクを実現することができる。その結果、排気の還流量の応答遅れを減少させることができるので、過早着火が防止されて異常燃焼に伴う騒音・振動を防止し、さらに予混合燃焼により煤の発生を抑制することができる。
【0017】
次に、請求項2に記載の発明によれば、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際には、バッテリ容量の低下に応じて出力トルクの減少度合いを小さくすることによって、アシストモーターで負担するトルク分を減少させてバッテリの電力消費を抑制し、バッテリを保護することができる。なお、バッテリ容量の低下に応じて出力トルクの減少を完全に禁止するようにしてもよい。
【0018】
次に、請求項3に記載の発明によれば、バッテリ容量が所定以下に低下した場合には、出力トルクの減少度合い膨張行程ないし排気行程で追加噴射することによって、上記減少度合いを小さくしたことに起因して生じる煤を燃やすことができ、煤の排出を抑制することができる。
【0019】
次に、請求項4に記載の発明によれば、シフトダウン時などエンジン回転数が上昇するとシリンダ壁温が上昇して過早着火が生じやすくなるので、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際にエンジン回転数が高いときには、過早着火を防止するために排気の還流量を一層増大させる。このとき、エンジン回転数の上昇に伴って出力トルクの減少度合いを大きくして過早着火による異常燃焼を防止しつつ予混合燃焼により煤の発生を抑制することができる。
【0020】
そして、請求項5に記載の発明によれば、上記請求項4に記載の発明とは逆に、ブレーキ時などエンジン回転数が低下するとシリンダ壁温が減少して過早着火が起こりにくくなるので、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際の出力トルクの減少度合いを、エンジン回転数の低下に伴って小さくすることによって、過早着火による異常燃焼を防止しつつ予混合燃焼により煤の発生を抑制できると共に、目標トルクに対するアシストモーターの負担分を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1は、駆動源としてディーゼルエンジン10とアシストモーター20とを併用するハイブリッド車両である。車両の走行用の駆動力を発生するエンジン10は、複数の気筒11…11を有し、その各気筒11…11内に図示しないピストンが嵌挿され、このピストンにより各気筒11…11に燃焼室12…12が形成されている。また、燃焼室12…12の天井部には燃料噴射弁13…13が配設され、該燃料噴射弁13…13は高圧の燃料を燃焼室12…12に直接噴射するようにされている。なお、各燃料噴射弁13から噴射する燃料は、該燃料噴射弁13が接続される図示しないコモンレールによって所定の燃圧に保たれている。
【0023】
一方、図中エンジン10の左側には吸気通路30が備えられ、エアクリーナ31で濾過した空気(新気)を各気筒11…11の燃焼室12…12に供給する。吸気通路30の下流側にはサージタンク32が形成されていると共に該サージタンク32を介して吸気通路30と吸気マニホルド33とが接続されている。また、吸気通路30には吸気量を調節する吸気絞り弁34が備えられている。
【0024】
また、図中エンジン10の右側には各気筒11…11の燃焼室12…12からそれぞれ排気を排出するように、排気マニホルド41を介して排気通路40が接続されている。この排気通路40の下流側には排気中のHC、CO、NOx、煤等を浄化する酸化触媒42と、排気中の煤や未燃成分を捕獲するための濾過装置(DPF)43が備えられている。
【0025】
そして、吸気通路30及び排気通路40の配管途中に設けられたそれぞれの開口を接続すると共に、排気を吸気通路30に還流させるためのEGR通路50が設けられている。該EGR通路50の配管途中には、排気を冷却するためのEGRクーラ51が備えられていると共に、EGRクーラ51の吸気通路30側には排気の還流量を調節するEGR弁52が備えられている。なお、EGR弁52は、内蔵されるモータやソレノイド等により駆動される。
【0026】
また、図中エンジン10の下側には、エンジン10の出力トルクを所定のギヤ比で変速する変速機60が備えられ、デファレンシャル装置61等を経て駆動輪に62,62伝達される。また、上記変速機60と駆動輪62との間の動力伝達経路63上に、例えばクラッチ等を用いた断接機構64が配設され、この断接機構64を介して、アシストモーター20が上記動力伝達経路に連結されている。アシストモーター20は、インバータ21による電流制御によりバッテリ22からの電力の供給を受けて回転駆動力を発生し、発生した駆動力は、上記断接機構64を介して動力伝達経路63に導入される。
【0027】
一方、この車両1のコントロールユニット70は、運転者によるアクセルペダル71aの踏込量を検出するアクセル開度センサ71からの信号、吸気温度を検出する吸気温度センサ72からの信号、吸気圧力を検出する吸気圧センサ73からの信号、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ74からの信号、エンジン水温を検出するエンジン水温センサ75からの信号、排気の温度を検出する排気温度センサ76からの信号、及びバッテリ容量を検出するバッテリ容量検出センサ77からの信号等を入力する。そして、それらの入力結果に基いて、燃料噴射弁13…13、インバータ21、EGR弁52等に各種の制御信号を出力する。また、燃料噴射弁13…13は、主噴射として吸気下死点付近で燃料噴射を行う早期噴射及び圧縮上死点付近で燃料噴射を行う通常噴射を行う一方、追加噴射として膨張行程で燃料噴射を行うように制御される。
【0028】
また、コントロールユニット70には、後述する予混合燃焼領域または拡散燃焼領域に燃焼モードを設定する燃焼モード判断部70aと、上記アシストモーター20によるモーターアシスト量を判断するモーターアシスト量判断部70bと、上記変速機60による変速状態を判断する変速判断部70cと、ブレーキの踏み込みによる車両の減速を判断する急減速判断部70dとが備えられている。
【0029】
ここで、目標トルクは、エンジン回転数とアクセル開度とに基いて設定される。そして、設定された目標トルクに応じて、図2に示すように、予混合燃焼領域または拡散燃焼領域に燃焼モードが設定される。予混合燃焼領域は、低負荷時に予混合燃焼主体の燃焼を行う領域であって、ここでは要求されるEGR率が大きくされていると共に、圧縮上死点以前に予め燃料を噴射(早期噴射)して燃料の気化霧化を促進すると共に着火を遅らせ、圧縮上死点近傍で自着火させるようにしている。一方、拡散燃焼領域は、高負荷時に拡散燃焼主体の燃焼を行う領域であって、ここでは要求されるEGR率が比較的小さくされていると共に、圧縮上死点近傍で燃料を噴射して通常のディーゼル燃焼を行う。
【0030】
次に、この車両1の第1の制御例について図3に示すフローチャートに基いて説明する。
【0031】
まず、ステップS1で上記各センサの制御信号を入力する。そして、ステップS2でエンジン回転数及びアクセル開度から目標トルクToを演算し、ステップS3で酸化触媒42の暖気が完了しているか否かを判定する。このとき、エンジン水温又は排気温度が所定以上であれば酸化触媒42の暖気が完了したとみなす。暖気が完了していないと判定されたときは、ステップS4で目標トルクToに応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定し、ステップS5で設定した主噴射量とEGR弁開度にて拡散燃焼を実行し、リターンする。ここでは、酸化触媒42が活性化していない状態では予混合燃焼を行わないようにしている。
【0032】
一方、ステップS3で酸化触媒42の暖気が完了したと判定されたときは、ステップS6で目標トルクToは予混合燃焼領域にあるか否かを判定する。そして、目標トルクToが拡散燃焼領域にあると判定されたときはステップS4に進み、予混合燃焼領域にあると判定されたときはステップS7に進む。
【0033】
ステップS7では現在の燃焼モードが拡散燃焼領域にあるか否かを判定する。そして、現在拡散燃焼領域にないと判定された場合、つまり現在予混合燃焼領域にある場合はステップS8で目標トルクに応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定する。そして、ステップS9で設定した主噴射量及びEGR弁開度にて予混合燃焼を実行してリターンする。
【0034】
一方、ステップS7で現在拡散燃焼領域にあると判定された場合、つまり燃料モードが拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に移行開始する場合は、ステップS10に進んでバッテリ容量に応じてアシストモーター20によるアシストトルク分である目標トルク補正量Tmを設定する。目標トルク補正量Tmは、図4に示すようにバッテリ容量が所定以下においてバッテリ容量低下に応じて小さくなるように設定されるので、バッテリ容量が小さいときにはアシストモーター20を使用せずにバッテリ容量を確保する。次に、ステップS11でエンジン用目標トルクTeを目標トルクToから目標トルク補正量Tmを減算することによって算出し、ステップS12でエンジン用目標トルクTeに応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定する。
【0035】
次に、ステップS13で目標トルク補正量Tmが所定値以下か否かを判定する。目標トルク補正量Tmが所定値以下と判定されたときは、ステップS14に進んで現在のEGR弁開度と設定したEGR弁開度との偏差に応じて膨張行程での燃料の追加噴射量を設定する。このとき、目標トルク補正量Tmがゼロのときも含む。そして、ステップS15で、上記ステップS12及びステップS14で設定した主噴射量、EGR弁開度、追加噴射量にて予混合燃焼を実行する。これは、上記ステップS10でバッテリ容量の確保を優先した結果、要求されるEGRに対する応答遅れが大きくなって、混合気に過濃な部分が生じて煤が発生するおそれがあるので、このように追加噴射を行うことによって、膨張行程で煤を燃やして煤の排出を抑制するようにしている。ステップS16で目標トルク補正量Tmに応じてモーターアシスト力の設定及び実行を行う。また、上記ステップS13で目標トルク補正量Tmが所定値よりも小さくないと判定されたときは、ステップS17に進んで上記ステップS12で設定した主噴射量及びEGR弁開度にて予混合燃焼を実行する。
【0036】
そして、ステップS18でエンジン用目標トルクTeが目標トルクTo以上であるか否かを判定する。エンジン用目標トルクTeが目標トルクTo以上であると判定されたときは、ステップS19で目標トルク補正量Tmをゼロにし、つまり、アシストモーター20によるアシストを終了してリターンする。一方、上記ステップS18でエンジントルクTeが目標トルク補正量以下でないと判定されたときは、ステップS20に進んで目標トルク補正量Tmを所定トルクΔT減少させてステップS11に戻る。このとき、ステップS20で目標トルク補正量Tmの減少補正を繰り返すことによって、目標トルク補正量Tmを徐々に減少させて、目標トルクToをエンジン用目標トルクTeで実現するように制御する。
【0037】
次に、車両の第2の制御例を図5に示すフローチャートに基いて説明する。
【0038】
まず、ステップS31で上記各センサの制御信号を入力する。そして、ステップS32でエンジン回転数及びアクセル開度から目標トルクToを演算し、ステップS33で酸化触媒42の暖気が完了しているか否かを判定する。このとき、エンジン水温又は排気温度が所定以上であれば酸化触媒42の暖気が完了したとみなす。暖気が完了していないと判定されたときは、ステップS34で目標トルクToに応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定し、ステップS35で設定した主噴射量とEGR弁開度にて拡散燃焼を実行し、リターンする。ここでは、酸化触媒42が活性化していない状態では予混合燃焼を行わないようにしている。
【0039】
一方、ステップS33で酸化触媒42の暖気が完了したと判定されたときは、ステップS36で目標トルクToは予混合燃焼領域にあるか否かを判定する。そして、目標トルクToが拡散燃焼領域にあると判定されたときはステップS34に進み、予混合燃焼領域にあると判定されたときはステップS37に進む。
【0040】
ステップS37では現在の燃焼モードが拡散燃焼領域にあるか否かを判定する。そして、現在拡散燃焼領域にないと判定された場合、つまり現在予混合燃焼領域にある場合はステップS38で目標トルクに応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定する。そして、ステップS39で設定した主噴射量及びEGR弁開度にて予混合燃焼を実行してリターンする。
【0041】
一方、ステップS37で現在拡散燃焼領域にあると判定された場合、つまり燃料モードが拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に移行開始する場合は、ステップS40でエンジン回転数の変化速度に応じて目標トルク補正量Tmを設定する。このとき、エンジン回転数の変化速度の上昇率が大きいほど目標トルク補正量Tmは大きくなり、変化速度の減少率が大きいほど目標トルク補正量Tmが小さくなるように設定される。なお、シフトダウン変速指令発生時にエンジン回転数上昇率が大、ブレーキ圧が所定以上のときにエンジン回転数減少率が大と判断するようにしてもよい。
【0042】
そして、ステップS41でエンジン用目標トルクTeを目標トルクToから目標トルク補正量Tmを減算することによって算出し、ステップS42でエンジン用目標トルクTe及びエンジン回転数の変化速度に応じた主噴射量とEGR弁開度とを設定する。次に、ステップS43で上記ステップS42で設定した主噴射量及びEGR弁開度にて予混合燃焼を実行し、ステップS44で目標トルク補正量Tmに応じてアシストモーター力を設定し、このアシストモーター力を実現するようにアシストモーター20を駆動させる。
【0043】
そして、ステップS45でエンジン用目標トルクTeが目標トルクTo以上であるか否かを判定する。エンジン用目標トルクTeが目標トルクTo以上であると判定されたときは、ステップS46で目標トルク補正量Tmをゼロにし、つまり、アシストモーター20によるアシストを終了してリターンする。一方、上記ステップS45でエンジントルクTeが目標トルク補正量以下でないと判定されたときは、ステップS47に進んで目標トルク補正量Tmを所定トルクΔT減少させてステップS41に戻る。このとき、ステップS20で目標トルク補正量Tmの減少補正を繰り返すことによって、目標トルク補正量Tmを徐々に減少させて、目標トルクToをエンジン用目標トルクTeで実現するように制御する。
【0044】
以上のような車両1の制御により得られる作用効果について説明する。
【0045】
まず、図6に示すように、拡散燃焼領域におけるエンジントルクT及び要求EGR率がEGRのA状態から目標トルクT及び目標EGR率がEGRのB状態に移行する場合、まず、要求EGR率がEGRと比較的近い値のEGRに設定された状態Cに移行させる。EGRを実現すると、エンジントルクがTよりも小さなTまで減少する。
【0046】
そして、このプロセスを図7に示すタイムチャートに基いて説明すると、まず、時刻tにおいて運転者がアクセルペダル71aの踏み込みを解除する。このとき、エンジントルクがTになるように燃料噴射量を減少させると共に、要求EGR率はEGRに設定される。そして目標トルクToと状態CでのエンジントルクTとの差分を補償するようにアシストモーター20を駆動させる。次に、燃料噴射量を徐々に増加させると共にアシストモーター20によるトルク分を減少させて、時刻tおいて目標トルクをエンジントルクのみで実現する。
【0047】
このように、拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に移行する際には、EGRに比較的近い値であるEGRに要求EGR率を設定することによって、要求EGR率の急激な増加を回避して、要求EGRと実EGR率との応答遅れ(図7に斜線で示す領域)を減少させることができ、その結果、早期着火を防止されると共に予混合燃焼により煤の発生量が減少する。
【0048】
このように、拡散燃焼領域から予混合燃焼領域に移行する際に排気の還流量の増加割合を減少させ、それに伴って生じるエンジン10の出力トルクの減少をアシストモーター20により補償するようにしている。通常のエンジン制御においては、要求される排気の還流量を減少させると要求される燃焼噴射量も減少し、出力トルクを減少させざるを得ない。そのため、エンジン10のみでは目標トルクを実現できないことになるが、この出力トルクの減少分をアシストモーター20で補償することによって目標トルクを実現することができる。その結果、排気の還流量の応答遅れを減少させることができ、予混合燃焼領域の早期噴射による過早着火を防止することができ、異常燃焼に伴う騒音・振動を防止し、さらに煤の発生を抑制することができる。
【0049】
また、図7に破線で示すように、同様の燃焼状態移行時には、バッテリ容量の低下に応じて出力トルクの減少度合いを小さくすることによって、アシストモーター20で負担するトルク分を減少させてバッテリ22の電力消費を抑制し、バッテリ22を保護することができる。なお、バッテリ容量の低下に応じて出力トルクの減少を禁止するようにしてもよい。
【0050】
さらに、バッテリ容量が所定以下に低下した場合には、膨張行程ないし排気行程で追加噴射することによって、上記減少度合いを小さくしたことに起因して生じる煤を燃やすことができ、煤の排出を抑制することができる。
【0051】
一方、上記第2の制御においては、図8に示すように、エンジン回転数の増加に従って予混合燃焼領域のエンジントルク−要求EGR率の曲線を上方にシフトさせるようにしている。このとき、状態Aから状態C′を経て状態B′に移行させることになる。なお、状態C′及び状態B′におけるエンジントルクは、それぞれ状態C及び状態Bより低トルク側に設定されている。一方、エンジン回転数の低下に従って上記曲線を下方にシフトさせるようにしている。このとき、状態Aから状態C″を経て状態B″に移行させることになる。なお、状態C″及び状態B″におけるエンジントルクは、それぞれ状態C及び状態Bより高トルク側に設定されている。
【0052】
このように、シフトダウン時などエンジン回転数が上昇するとシリンダ壁温が上昇して過早着火が生じやすいときは、過早着火を防止するために排気の還流量を増大させる。このとき、エンジン回転数の上昇に伴って出力トルクの減少度合いを大きく設定して過早着火による異常燃焼を防止しつつ予混合燃焼により煤の発生を抑制することができる。
【0053】
一方、ブレーキ時などエンジン回転数が低下するとシリンダ壁温が減少して過早着火が起こりにくくなるので、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際の出力トルクの減少度合いを、エンジン回転数の低下に伴って小さくすることによって、過早着火による異常燃焼を防止しつつ予混合燃焼により煤の発生を抑制できると共に、目標トルクに対するアシストモーター20の負担分を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、拡散燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り換える際の過渡期において、過早着火による異常燃焼を防止すると共に煤の発生を抑制することができるアシストモーター付き車両の制御装置を提供する。本発明は、トルクアシストを行うモータが備えられた車両の制御装置に関し、特に、直噴式ディーゼルエンジンが備えられた車両において、運転状態に応じてエンジンの燃焼状態及びモータの制御を行うアシストモーター付き車両の制御装置に関する技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態に係る車両の全体構成を示すレイアウト図である。
【図2】同車両の運転領域を示すマップである。
【図3】第1の制御例を示すフローチャートである。
【図4】バッテリ容量に応じた目標トルク補正量のマップである。
【図5】第2の制御例を示すフローチャートである。
【図6】エンジントルクに対する要求EGR率の変化を示すマップである。
【図7】車両の制御に係るタイムチャートである。
【図8】予混合燃焼領域においてエンジン回転数に応じた要求EGR率の変化を示すグラフである。
【図9】従来のエンジントルクに対する要求EGR率を示すマップである。
【図10】従来の車両の制御に係るタイムチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
10 エンジン
12 燃焼室
13 燃料噴射弁
20 アシストモーター
52 EGR弁(排気還流量調節手段)
62 車輪
63 動力伝達経路
70 コントロールユニット(噴射制御手段、排気還流量調整手段、出力トルク減少補正手段、アシストモーター制御手段)
77 バッテリ容量検出センサ(バッテリ容量検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁と、上記燃焼室への排気の還流量を調節する排気還流量調節手段と、エンジンが第1の運転状態のときには予混合燃焼の割合が拡散燃焼の割合より大きな第1の燃焼状態とするために燃料を少なくとも吸気下死点側で噴射させ、かつ第2の運転状態のときには拡散燃焼の割合が予混合燃焼の割合より大きな第2の燃焼状態とするために燃料を少なくとも圧縮上死点側で噴射させるように上記燃料噴射弁を制御する噴射制御手段と、エンジンが上記第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際には排気の還流量を急激に増加するように上記排気還流量調整手段を制御する排気還流量制御手段とを有する車両において、上記エンジンと車輪との間の駆動力伝達経路に連結されて駆動力のアシストを行うアシストモーターと、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際に、排気の還流量を減少させるためにエンジンの出力トルクを減少させる出力トルク減少補正手段と、減少させた出力トルクを補償するように上記アシストモーターを制御するアシストモーター制御手段とが備えられていることを特徴とするアシストモーター付き車両の制御装置。
【請求項2】
アシストモーターに電力を供給するバッテリの容量に関するパラメータを検出するバッテリ容量検出手段が備えられ、出力トルク減少補正手段は、バッテリ容量の低下に応じて、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際の出力トルクの減少度合いを小さくすることを特徴とする請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置。
【請求項3】
噴射制御手段は、バッテリ容量が所定以下に低下した場合は、膨張行程ないし排気行程にて追加噴射を行うことを特徴とする請求項2に記載のアシストモーター付き車両の制御装置。
【請求項4】
出力トルク減少補正手段は、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際にエンジン回転数が上昇するときには、出力トルクの減少度合いを大きくすることを特徴とする請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置。
【請求項5】
出力トルク減少補正手段は、第2の燃焼状態から第1の燃焼状態に移行する際にエンジン回転数が減少するときは、出力トルクの減少度合いを小さくすることを特徴とする請求項1に記載のアシストモーター付き車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−9736(P2006−9736A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190040(P2004−190040)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】