説明

半導体装置

【課題】 本発明は、適切な仕事関数を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 第1の発明の半導体装置は、基板と、基板に形成されたN型半導体層とN型半導体層上に形成された第1ゲート絶縁層と第1ゲート絶縁層上に形成され膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第1下層ゲート電極と第1下層ゲート電極上に形成され真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物を有する第1上層ゲート電極とを有するP型MISFETと、基板に形成されたP型半導体層とP型半導体層上に形成された第2ゲート絶縁層と第2ゲート絶縁層上に形成され膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第2下層ゲート電極と第2下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物を有する第2上層ゲート電極とを有するN型MISFETと、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタを備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン超集積回路は、将来の高度情報化社会を支える基盤技術の一つである。集積回路の高機能化には、その構成要素であるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor),CMOSFET(Complementaly MOSFET)等の半導体素子の高性能化が必要である。素子の高性能化は基本的には比例縮小則により行われてきたが、近年、種々の物性的限界により素子の極微細化による高性能化が困難な状況にある。
【0003】
例えば、シリコンを用いたゲート電極について、素子動作速度の増加に伴うゲート寄生抵抗の顕在化、絶縁膜界面におけるキャリア空乏化による実効的絶縁膜容量低下、添加不純物のチャネル領域への突き抜けによるしきい値電圧のばらつきなどの問題が指摘されている。これらの問題を解決するために、メタルゲート材料が提案されている。
【0004】
しかしながら、メタルゲート技術では、従来のシリコンゲート技術のプロセスフローをそのまま踏襲してCMOSFETを形成することが極めて困難であった。
【0005】
従来のシリコンゲート技術では、PチャネルMISトランジスタにp+シリコン、NチャネルMISトランジスタにn+シリコンを用い、両チャネルトランジスタのゲート電極を一括加工していた。これに対し、メタルゲート技術では、PチャネルMISトランジスタとNチャネルMISトランジスタにそれぞれ最適な仕事関数を有する別々の金属を用いねばならない為(デュアルファイメタルゲート技術)、ゲート電極の加工は両チャネルトランジスタで個別に行う必要があり、プロセスが複雑化する。さらに、シリコンゲート技術で通常行われていたゲート加工後の後酸化工程は、メタルゲート技術では実施が困難である。これは、たいていのメタル材料がシリコンよりもはるかに酸化しやすく、後酸化工程で酸化され電極としての用をなさなくなる為である。
【0006】
この問題解決のため、従来のシリコンゲート技術でCMOSFETを形成し、引き続いてシリコンゲートを金属と化学反応させることにより珪化物に変化させることでメタルゲートを得る、いわゆるフルシリサイデーション(FUSI)技術が開発された。この方法であれば、ゲート加工、後酸化などの工程は従来のシリコンゲート技術のままでメタルゲートを実現できる為、非常に実用性の高い技術である。
【0007】
PチャネルMISトランジスタとNチャネルMISトランジスタで各々に最適な仕事関数を有する金属珪化物を配するFUSI技術をデュアルFUSI技術と称する。一方、NiSiなどのミッドギャップ仕事関数を持つ単一のシリサイドをNチャネルトランジスタとPチャネルトランジスタのゲート電極に用いる技術をシングルFUSI技術と称する。
【0008】
ここで、デュアルおよびシングルFUSI技術が実用化される世代では、ゲート絶縁膜は、従来のSiOからHfSiON、HfO、LaAlOなどの高誘電体(High−k)酸化物に変更されている可能性が高い。
【0009】
しかるに、デュアルFUSI技術を高誘電体酸化物と組み合わせてデバイスを試作すると、従来のSiOと組み合わせた場合と異なる仕事関数を示すようになることがわかった(非特許文献1参照。)。これでは、トランジスタのしきい値電圧を低くすることが困難である。
【0010】
また、シングルFUSI技術についても、高誘電体酸化物との組み合わせにより、その仕事関数が従来のSiOと異なってしまうことが知られている(非特許文献2参照。)。具体的には、非特許文献2において、NiSiの仕事関数はSiO上では4.6eVだが、HfSiON上では4.5eVに低下することが報告された。これにより、NiSiを使ったシングルFUSIのしきい値電圧は、Nチャネルトランジスタに対しては低くなり、Pチャネルトランジスタに対しては高くなる。結果としてトランジスタのしきい値電圧が非対称となりCMOSデバイスの設計が困難となってしまう。
【0011】
一方、ゲート電極の上層としてTaSiNなどを用い、下層としてTaNなどを用いる2層メタルゲート技術が知られている(特許文献1参照。)。
【非特許文献1】中島一明他、「HfSiON膜上のFUSI電極のFermi-Level Pinning現象」、2005年(平成17年)秋季 第66回応用物理学会学術講演会 講演予稿集、(社)応用物理学会、2005年9月7日発行、第2分冊、P687
【非特許文献2】K.Takahashi et al., “Dual Workfunction Ni-Silicide/HfSiON Gate Stacks by Phase-Controlled Full-Silicidation (PC-FUSI) Technique for 45nm-node LSTP and LOP Devices”, 2004 IEDM, p.p.91-94
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0164362号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの現象は、ゲート電極がシリコンもしくは金属珪化物であり、ゲート絶縁膜が高誘電体酸化物であるMOSFETで普遍的に観測されるものである。これから、高誘電体酸化物にこれら電極を構成するシリコンが接していることにより、ゲート電極/高誘電体酸化物の界面に欠陥が発生し、この欠陥が電気的に活性な準位をつくるため、界面仕事関数が変調されるものと考えられる。
【0013】
以上のように、従来のシリコンゲート技術の一部改変で容易にメタルゲートを導入できるデュアルFUSI技術およびシングルFUSI技術は、高誘電体酸化物との組み合わせでは利用することが出来なかった。これは、FUSI技術で用いる「金属珪化物/高誘電体酸化物」の界面の欠陥形成に起因していて、プロセス条件の最適化などでは解決できない、構造起因の課題であった。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みて為されたものであり、適切な仕事関数を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明の半導体装置は、基板と、基板に形成されたN型半導体層と、N型半導体層上に形成された第1ゲート絶縁層と、第1ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第1下層ゲート電極と、第1下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物を有する第1上層ゲート電極とを有するPチャネルMISトランジスタと、基板に形成されたP型半導体層と、P型半導体層上に形成された第2ゲート絶縁層と、第2ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第2下層ゲート電極と、第2下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物を有する第2上層ゲート電極とを有するNチャネルMISトランジスタと、を具備することを特徴とする。
【0016】
また、第2の発明の半導体装置は、基板と、基板に形成されたN型半導体層と、N型半導体層上に形成された第1ゲート絶縁層と、第1ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第1下層ゲート電極と、第1下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属珪化物を有する第1上層ゲート電極とを有するPチャネルMISトランジスタと、基板に形成されたP型半導体層と、P型半導体層上に形成された第2ゲート絶縁層と、第2ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第2下層ゲート電極と、第2下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属珪化物を有する第2上層ゲート電極とを有するNチャネルMISトランジスタと、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、適切な仕事関数を有する半導体装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0019】
なお、各実施の形態においては、ゲート絶縁膜に酸化物を用いたCMOSFETについて説明するが、ゲート絶縁膜は酸化物に限られず、窒化物等のその他の絶縁体を用いたMISFETについても、同様に各実施の形態を適用できる。
【0020】
また、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically EPROM)、フラッシュメモリ等のPROMについても、同様に各実施の形態を適用できる。
【0021】
さらに、上述した半導体素子が集積化したメモリ、ロジック回路等、並びにこれらが同一チップ上に混載されるシステムLSI等も本発明の範囲内である。
【0022】
(概要および原理)
まず、本発明の第1および第2の実施形態を説明する前に、本発明の一実施形態の概要及び原理を図1を用いて説明する。
【0023】
後に詳述するように、本発明の一実施形態は、図1に示すようなCMOSFETを備えた半導体装置であって、両チャネルMISトランジスタのゲート絶縁膜9上に、ごく薄いTaの炭化物(例えばTaCx)で形成された下層ゲート電極が形成されていて、さらにその上部に、PチャネルMISトランジスタについては真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物(例えばPtSix)で形成された上層ゲート電極を有し、NチャネルMISトランジスタについては真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物(例えばErSix)からなるゲート電極を有している。
【0024】
Taの炭化物(例えばTaCx)で形成された下層ゲート電極の膜厚が5nm以下のとき、ゲート電極の仕事関数は、上層ゲート電極に支配される。すなわち、P、Nチャネルトランジスタのしきい値電圧は、それぞれ例示したPtSix、ErSixの仕事関数で決定される。
【0025】
上述したように、このような2層メタルゲート技術については特許文献1などに記載されている。
【0026】
これら従来発明と本発明が異なるのは、本発明では、FUSI技術と2層メタルゲート構造を組み合わせ、ゲート空乏化の無いCMOSデバイスを容易な製法によって得るために、2層メタルゲート技術の「上層/下層」に「金属珪化物/金属炭化物」を用いた点にある。
【0027】
従来の2層メタルゲート技術では、下層に、純金属もしくはTaNなどの金属窒化物を用いていた。このような従来型2層メタルゲートは、FUSI技術との組み合わせは不可能である。その理由は、「シリコン/純金属もしくは金属窒化物」積層構造の高温耐熱性に問題があるためである。
【0028】
下層に純金属を用いた場合、FUSIプロセスの一部であるシリコンゲート活性化工程(〜1000℃)で金属とシリコンが化学反応し、これがゲート絶縁膜の還元を促し、MOS構造が破壊されてしまうため、FUSI技術との組み合わせは不可能である。
【0029】
また、下層にTaNなどの金属窒化物を用いた場合、そのシリコンゲートとの化学反応自体は大幅に改善する。しかし、金属窒化物は窒素空孔が発生しやすいことが知られている。空孔の発生により生じた可動状態(格子に束縛されていないの意)の窒素はゲート絶縁膜中を拡散しゲート絶縁膜/チャネル界面に達する。これにより、界面準位が増加し、トランジスタの性能が劣化してしまう。さらに、「シリコン/TaNなどの金属窒化物」積層構造は、高温熱処理時において、界面にSi−Nの強固な結合が形成される。このSi−N結合により、FUSIプロセスにおいてシリサイド化現象を阻害したり、極端な場合には「シリコン/TaNなどの金属窒化物」界面にシリコン窒化物層が形成しゲート電極の抵抗上昇をもたらす、といった弊害が生じる。
【0030】
これに対し、本発明は、下層ゲート電極に化学的に安定なTaの炭化物を用いる。この結果、FUSIプロセス最中のシリコンゲートと金属との大規模な化学反応が抑制される。Taの炭化物の安定性はその融点からも明らかであり、TaNの融点が3090℃に対しTaCの融点は3880℃と、約800℃も高い融点を持つ。このTaの炭化物固有の特性が、FUSIプロセス中の構造安定性をもたらす。さらに、Taの炭化物は、Taの窒化物と異なり、炭素欠損が原理的に発生しにくく、それゆえにゲート電極外部への炭素拡散、それに伴う電気的特性の劣化が起きにくい。さらに、「シリコン/Taの炭化物」積層は、高温熱処理時に界面にSi−C結合ができたとしても、SiCは半導体であり、SiーN結合が生成した場合のようなゲート電極抵抗上昇といった問題がおきにくい。
【0031】
このように、下層ゲート電極にTaの炭化物を用いれば、従来の2層メタルゲート構造をFUSI技術により形成することが可能である。
【0032】
ところで、上述したように、本発明は、FUSI技術と高誘電体酸化物の組み合わせでも、トランジスタのしきい値電圧を制御可能とするための技術である。本発明では、FUSIの金属珪化物と、高誘電体酸化物の間に、Taの炭化物を有する下層ゲート電極が介在している為、「金属珪化物/高誘電体酸化物」界面の本質的な欠陥形成、さらにこれによる仕事関数変調作用を抑制できる。一方、下層ゲート電極の厚さを5nm以下に十分薄くすることで、実効仕事関数は上層ゲート電極の金属珪化物の値が支配的となり、トランジスタのしきい値電圧を金属珪化物の仕事関数で制御可能となる。
【0033】
以上の概要を述べたような構成により、従来のシリコンゲート電極技術のプロセス簡易性がほとんどそのまま引き継がれた形で、容易なプロセスによってゲート空乏化の無い高性能なメタルゲートCMOSデバイスを備えた半導体装置を提供することが可能となる。
【0034】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係わるCMOSFETの一例について、図1を参照して説明する。
【0035】
図1は、第1の実施の形態に係るCMOSFETの一例のゲート長方向の断面模式図である。
【0036】
図1に示すように、半導体基板1内には、N型ウェル領域(N型半導体層)2及びP型ウェル領域(P型半導体層)3が設けられている。N型ウェル領域2とP型ウェル領域3は、STI(Shallow Trench Isolation)構造の素子分離層4により分離される。
【0037】
N型ウェル領域2内には、PチャネルMISトランジスタ19が設けられる。PチャネルMISトランジスタ19は、P型拡散層5と、P型エクステンション層6と、ゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第1上層ゲート電極11とを備えている。ゲート絶縁膜9はN型ウェル領域2上に設けられ、このゲート絶縁膜9上に下層ゲート電極10が形成され、その上部に第1上層ゲート電極11が形成されている。なお、本実施形態においては、ゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第1上層ゲート電極11の積層構造の両側部には、絶縁体からなるサイドウォール13が設けられている。
【0038】
また、P型エクステンション層6はゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第1上層ゲート電極11の積層構造の両側のN型ウェル領域2に設けられ、P型拡散層5はサイドウォール13の両側のN型ウェル領域2に設けられている。そして、P型拡散層5はP型エクステンション層6よりもN型ウェル領域2との接合深さが深くなるように構成されている。そして、P型拡散層5およびP型エクステンション層6がPチャネルMISトランジスタ19のソース・ドレイン領域となる。
【0039】
一方、P型ウェル領域3内には、NチャネルMISトランジスタ20が設けられる。NチャネルMISトランジスタ20は、N型拡散層7と、N型エクステンション層8と、ゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第2上層ゲート電極12とを備えている。ゲート絶縁膜9はP型ウェル領域3上に設けられ、このゲート絶縁膜9上に下層ゲート電極10、その上部に第2上層ゲート電極12が設けられている。なお、本実施形態においては、ゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第2上層ゲート電極12の積層構造の両側部には、絶縁体からなるサイドウォール13が設けられている。
【0040】
また、N型エクステンション層7はゲート絶縁膜9と、下層ゲート電極10と、第2上層ゲート電極12の積層構造の両側のP型ウェル領域3に設けられ、N型拡散層7はサイドウォール13の両側のP型ウェル領域3に設けられている。そして、N型拡散層7はN型エクステンション層8よりもP型ウェル領域3との接合深さが深くなるように構成されている。そして、N型拡散層7およびN型エクステンション層8がNチャネルMISトランジスタ20のソース・ドレイン領域となる。
【0041】
なお、ここでは、ゲート絶縁膜9および下層ゲート電極10は、両チャネルMISトランジスタで同じ材料を用いている。
【0042】
下層ゲート電極10材料としては、Taの炭化物を用いる。Taの炭化物は、高融点であり、さらにシリコンゲートとの反応性が低い。
【0043】
下層ゲート電極10の膜厚は、1nm以上、5nm以下である。1nm未満の膜厚であると、Taの炭化物は、不連続膜となりやすく、「金属珪化物/高誘電体酸化物」の界面が形成してしまうおそれがある。一方、膜厚が5nmを超えると、上層の金属珪化物に比して、下層ゲート電極の仕事関数機能が大となり、トランジスタのしきい値電圧は下層ゲート電極の仕事関数によって支配されるおそれがある。これにより、NチャネルMISトランジスタ、PチャネルMISトランジスタともにしきい値電圧の低いCMOSデバイスを提供することがかなわなくなる。
【0044】
より好ましくは、下層ゲート電極10の膜厚は1.5nm以下が良い。下層ゲート電極が厚すぎると、その膜の持つ応力によって、上部ゲート電極もろとも剥がれ落ちることがまれに起こりうる。膜厚が1.5nm以下であれば、膜の応力は緩和されて、はがれの問題が起こることは無い。
【0045】
Taの炭化物としては、TaCxなどが挙げられる。仕事関数のばらつきを抑制し、製造プロセスを簡便にするために、SiなどのTaと化合物を形成しうる異種元素は入らない方が好ましい。
【0046】
Taの炭化物について、Taに対するCの組成比(C/Ta)、すなわちTaCxにおけるxは1.5≦xであると好ましい。この組成範囲であると、Taの炭化物は、非晶質状態、あるいは相分離構造を採りやすい。Taの炭化物は、結晶質ではなく、これらの状態にある方が、上層ゲート電極11からの金属・Siの拡散を防止しやすい。Taの炭化物が結晶質であると、後工程のFUSIプロセスにおいて、Taの炭化物の粒界を通じて上層ゲート電極11の金属珪化物の構成物質、すなわち金属・Siが熱拡散する恐れがある。これにより、ゲート絶縁膜に金属・Siが拡散して長期信頼性が劣化するおそれがある。
【0047】
相分離構造とは、具体的には、非晶質の母相とナノメートル程度のサイズを持つTaCが析出している相とに相分離している構造のことである。図2(a)、(b)および図3を参照して、相分離構造について説明する。
【0048】
図2(a)は、Taの炭化物の相分離構造を表す断面模式図である。CリッチなTaCx(1.5<x)母相の中に、サイズ(直径)が4.5nm以下のTaC析出相が形成されている。TaC析出相は結晶化していてもよく、非晶質状態であってもよい。TaCx(1.5<x)母相は非晶質状態である。
【0049】
図2(b)は、(C/Ta)〜2.7の場合のTaCx膜の断面TEM像である。TaCx膜は白黒のコントラストを示している。黒い箇所にはTaが集積しており、白い箇所はカーボンがリッチになっている。Taが集積している領域のサイズは、この組成では1nm以下であった。
【0050】
図3は、相分離構造を有するTaの炭化物のミクロスコピック原子結合状態を調べたXPS(X-ray Photoelectron emission Spectroscopy)によるC1sスペクトルである。TaCx膜中には、その組成によらず、炭素から見た第一近接位置にC、あるいはTaが存在することが分かる。Taに対するCの組成比1.5〜では、炭素の第一近接はほとんど炭素であり、わずかなTa−C結合が存在していることが判明した。C−C結合は主にTaCx膜の母相に存在するC−C結合起因であり、C−Ta結合はTaC析出相に起因している。
【0051】
金属・Siの拡散を防止するために、析出相のサイズは小さい方が好ましく、1nm以下であるととくに好ましい。また、金属・Siの拡散を防止するために、析出相のサイズは、下層ゲート電極の膜厚より小であることが好ましい。具体的には、膜厚より0.5nm以上小さいサイズであることが好ましい。
【0052】
なお、Taに対するCの組成比(C/Ta)、すなわちTaCxにおけるxはx≦4であると好ましい。C/Taが4以上になると、TaCx膜の物性は炭素特有の性質を帯びてきて、タンタルカーバイドの性質に起因した耐熱性の高さが得られにくくなる。これにより、本発明に必須なSi/Ta化合物積層の高温耐熱性が維持できなくなる。
【0053】
第1実施形態における第1上層ゲート電極は、真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物で構成される。このような金属珪化物は、PチャネルMISトランジスタのしきい値電圧を低く設計するのに好適な材料である。なお、バルク基板の場合は、真空仕事関数が4.8eV以上5.2eV以下の金属珪化物で構成され、SOI基板の場合は、真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物で構成されることが好ましい。
【0054】
このような金属珪化物として、Pt・Ir・Pd・Ru・Os・Reからなる群から選ばれる金属の金属珪化物であると好ましい。より好ましい金属は、Pt,Irである。なお、しきい値ばらつきを少なくするために、単一元素からなる金属珪化物が好ましい。
【0055】
さらに、その組成に関しては、熱力学的に最も安定な組成に設計されることが望ましい。具体的には、PtSi、IrSi、PdSi、RuSi、OsSi、ReSiである。これは、熱力学的に準安定な組成の金属珪化物でゲート電極を構成すると、あるきっかけで最安定相への相転移が起きる可能性が高いためである。相転移の際の原子移動や膜のモフォロジー変化によってゲート絶縁膜のリーク特性が悪化したり、金属珪化物上層にある配線層などの剥がれが起きる可能性がある。
【0056】
結晶構造については、それぞれの金属珪化物について最も安定な結晶構造である、表1に示す結晶構造を有することが好ましく、これらが主成分(50%以上)であることがさらに好ましい。
【表1】

【0057】
第1上層ゲート電極の膜厚に関しては発明原理に関連した制約はない。しかし、将来のトランジスタのチャネル長は100nm以下であり、加工後のゲート電極の構造安定性を考慮してゲート電極の高さも100nm程度以下の必要がある。これにより、本発明の第1上層ゲート電極の厚さは、下層ゲート電極との積層全体で100nm以下に設定される必要がある。
【0058】
第1実施形態における第2上層ゲート電極は、真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物で構成される。このような金属珪化物は、NチャネルMISトランジスタのしきい値電圧を低く設計するのに好適な材料である。なお、バルク基板の場合は、真空仕事関数が4.0eV以上4.3eV以下の金属珪化物で構成され、SOI基板の場合は、真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物で構成されることが好ましい。
【0059】
このような金属珪化物として、Ti・Zr・Hf・Nb・希土類元素からなる群から選ばれる金属の金属珪化物であると好ましい。なお、希土類元素としては、Er・Y・Laが好ましい。より好ましいのは、希土類元素の金属珪化物である。さらに、その組成に関しては、熱力学的に最も安定な組成に設計されることが望ましい。具体的には、TiSi、TiSi、ZrSi、ZrSi、HfSi、NbSi、ErSi1.7、YSi、LaSiである。その理由は第1上層ゲート電極の場合と同様である。
【0060】
結晶構造については、第1上層ゲート電極の場合と同様に、それぞれの金属珪化物について最も安定な結晶構造である、表2に示す結晶構造を有することが好ましく、これらが主成分(50%以上)であることがさらに好ましい。
【表2】

【0061】
第2上層ゲート電極の膜厚に関しては発明原理に関連した制約はないが、第1上層ゲート電極と同様の理由により、その厚さは下層ゲート電極との積層全体で100nm以下に設定される必要がある。
【0062】
Taの炭化物が、非晶質状態、あるいはナノメートル程度のサイズを持つ相分離構造を採るために、下層ゲート電極に対して20原子%以上30原子%以下の酸素を添加することが有効である。
【0063】
図4は、酸素添加によるTaCx(x=1)薄膜の構造変化を示すXRD実験結果である。約25原子%の酸素添加によりTaCxから析出したTaCの鋭いピークは弱まり、ほぼ非晶質状態の薄膜となる。この構造変化は酸素濃度20原子%以上で観測された。酸素濃度が高いほど非晶質化の効果は高いが、あまりにも多量の酸素はゲート電極の比抵抗を大きくし、寄生抵抗の増加からトランジスタの駆動電流が低下してしまうおそれがある。一方、酸素濃度30原子%以下ならばTaの炭化物の比抵抗は許容できる値に収まる。このため、Taの炭化物に対する酸素濃度が20原子%以上30原子%以下の範囲が好ましい。
【0064】
なお、TaCxへの酸素添加は、後述する製造方法におけるTaCx電極成膜時に行うことができる。たとえば、TaターゲットとCターゲットを用いたArスパッタリング(Ar流量:1〜20sccm)において、0.01〜2sccm程度の酸素を同時添加することで、所望量の酸素をTaCxに取り込むことができる。
【0065】
ゲート絶縁膜9は、高誘電体酸化物を有するものを用いる。高誘電体酸化物としては、Ti・Hf・ZrおよびLa等希土類元素の酸化物あるいは混合酸化物、Ti・Hf・ZrおよびLa等希土類元素のシリケート・アルミネートあるいはこれらに窒素を添加した絶縁膜、Si3N4・Al2O3・Ta2O5・TiO2・La2O3・CeO2・ZrO2・HfO2・SrTiO3・Pr2O3あるいはこれらに窒素を添加した絶縁膜などを用いることができる。なお、半導体層との界面にSiO2などを有していてもかまわない。
【0066】
ゲート絶縁膜9は、Taの炭化物の結晶化を妨げるために、非晶質であると好ましい。ゲート絶縁膜9が結晶質であると、界面が核となりTaの炭化物の結晶化を誘発するおそれがあるためである。非晶質状態である膜としては、HfSiONが特に好ましい。
【0067】
また、ゲート絶縁膜9としては、LaAlOが好ましい。この材料が高温でも非晶質状態を保ち、比誘電率が高く、バンドギャップの大きな絶縁膜である為である。
【0068】
N型ウェル領域2およびP型ウェル領域3としては、SiまたはGeの半導体から構成される。
【0069】
次に、第1実施形態の半導体装置の製造方法を説明する。
【0070】
第1実施形態の半導体装置の製造工程を図5乃至図11に示す。
【0071】
まず、半導体基板1に、STI構造の素子分離層4によって分離されたN型ウェル領域2およびP型ウェル領域3を形成する。引き続き、ウェハ全面にゲート絶縁材料膜9、下層ゲート電極10、シリコンゲート15を堆積し、図5の構造を得る。
【0072】
ゲート絶縁膜としては、高誘電体酸化物を用いる。ここでは一例として、厚さ3nmのHfSiON(Hf/Hf+Si〜0.5、窒素濃度20原子%)をMOCVD(Metal organic chemical vapor deposition)法により堆積した。堆積法としては、ALD(Atomic layer deposition)法、MBE(Molecular beam epitaxy)法、PVD(Physical vapor deposition)法などを用いることができる。 下層ゲート電極としては、Taの炭化物を用いる。ここでは一例としてPVD法により膜厚2nmのTaCx薄膜(x=1)を堆積した。ここで、堆積法はMOCVD、ALD、MBE法などでもかまわない。シリコンゲート15の堆積は通常のCVD法により、本実施例では100nm堆積した。
【0073】
次に、図5の構造に対し通常のリソグラフィー技術とエッチング技術を用いて、Pウェル領域3上の部分についてのみ、ゲート電極パターンを形成する。ここでは、厚さ100nmのSiNハードマスク21を形成した。このSiNハードマスク21をマスクとして、通常用いられるエッチングガスによってシリコンゲートをエッチングする。この際、塩素、フッ素系のエッチングガスを使用することにより、シリコンゲート15と同時に下層ゲート電極10を一括加工することができる。さらに、HFなどのウェットエッチングによりゲート絶縁膜を完全に剥離する。さらに、エクステンション形成の為のAsイオン注入を行い、高温スパイク熱処理によってN型エクステンション層8を形成して、図6の構造を得る。
【0074】
次に、N型ウェル領域2上の部分に関しても対応するプロセスを行い、図7の構造を得た。この際、P型エクステンション6の形成のためにはBイオン注入を利用した。
【0075】
引き続き、サイドウォールの形成、拡散層の形成、層間絶縁膜の形成、平坦化のための研磨などの通常の工程を経て、図8の構造を得た。
【0076】
この一連の工程において、本実施の形態に特徴的なのは、シリコンゲート15と下層ゲート電極10の積層構造がエクステンション及び拡散層の活性化工程を経ても安定に保たれる点であり、それは本実施の形態が下層ゲート電極10としてTaの炭化物を用いているがゆえの特長である。
【0077】
また、従来のシリコンゲート技術では、エクステンションあるいは拡散層形成のイオン注入時にゲート電極に対してもイオン注入を行っていた。しかし本発明では、イオン注入時にシリコンゲート上にマスク層を設けて、イオン注入されることを防いだ。これは、注入された不純物が、後に行うシリコンゲートの金属珪化物化反応を阻害し、きれいな金属珪化物層の形成を妨げる為である。
【0078】
次に、PチャネルMISトランジスタ19領域上部にのみ、真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物を形成する為のPチャネルMISトランジスタ用金属16を堆積し、図9の構造を得た。この選択的な堆積は、ウェハ全面にPチャネルMISトランジスタ用金属16を堆積後、通常のフォトリソグラフィー技術でPチャネルMISトランジスタ19上のみをマスク層で被覆した後に、エッチングによってNチャネルMISトランジスタ20上部のPチャネルMISトランジスタ用金属を除去することで可能になる。ここでは、Ptを150nm、スパッタ法により堆積した。
【0079】
なお、あらかじめNチャネルMISトランジスタ20上部にSiNなどのマスク層を形成しておいて、その上部からPチャネルMISトランジスタ用金属16を堆積、SiNの剥離工程でNチャネルMISトランジスタ20上部の金属のみをリフトオフするという工程も利用できる。
【0080】
引き続いて、図9の構造を熱処理することでシリコンゲートを全て金属珪化物へと変化させ、第1上層ゲート電極11を形成した。ここでは、450℃、1分の熱処理でPtSiを形成する。未反応のPtは王水によってPtSiと選択的に除去することができ、図10の構造が得られた。
【0081】
引き続いて、NチャネルMISトランジスタ上部にのみ、NチャネルMISトランジスタ用金属を、PチャネルMISトランジスタの場合と同様のプロセスによって形成し、図11の構造を得た。ここでは、Erを150nm、スパッタ法によって堆積した。
【0082】
次に、図11の構造を熱処理することにより、第2上層ゲート電極12を形成した。ここでは、350℃、1分の熱処理でErSi1.7を形成する。未反応のErは硫酸過酸化水素水によってErSi1.7と選択的に除去することができ、図1の構造が得られた。
【0083】
図12は、TaCx(x=1)/ゲート絶縁膜の高温下における構造耐熱性を示す断面TEM(Transmission electron microscopy)実験結果である。図中に示すとおり、1000℃20秒の熱処理後でも、SiO2との反応は全く生じていない。
【0084】
図13は、TaCx(x=1)からゲート絶縁膜への炭素の移動を調べたSIMS(Secondary ion mass spectroscopy)実験結果である。図13に示されるとおり、1000℃20秒の熱処理を行っても、炭素のプロファイルは不変であり、本発明の構造において炭素起因のデバイス特性劣化は生じないことがわかった。
【0085】
図示はしないが、SiOの場合と同様に、HfSiONゲート絶縁膜との界面構造も、1000℃20秒の熱処理に対して極めて安定であった。また、上層に堆積したシリコンゲートとの界面構造にも、1000℃20秒の熱処理に対して全く変化は見られなかった。
【0086】
図14は、従来の金属珪化物/HfSiON系の実効仕事関数と、本実施形態の金属珪化物/TaCx(x=1)/HfSiON系の実効仕事関数を、真空仕事関数に対してプロットしたグラフである。従来構造では、金属珪化物/HfSiON界面の欠陥形成に伴い実効仕事関数が変調され、ErSi1.7の仕事関数は増加、PtSiの仕事関数は減少し、トランジスタのしきい値電圧を低く設定するのが困難となっている。これに対し、本実施の形態の金属珪化物/TaC/HfSiON系では、真空仕事関数に近い実効仕事関数が得られ、CMOSトランジスタのしきい値電圧を低く設計することが容易となった。
【0087】
本発明のゲート電極の構造は、ゲート絶縁膜がSiO、SiONのような従来絶縁膜の場合にも効果が期待できることがわかった。これは、特にNチャネルMISトランジスタのゲート電極に希土類金属の珪化物を用いるときに有効である。希土類元素は、その酸化物の生成エネルギーの符号が負でかつ絶対値がSiO、SiONよりも大きい為、原理的に還元反応を起こしやすい。FUSIプロセスは450℃程度と低温だが、この程度の熱処理でもSiONなどが還元され、NチャネルMISトランジスタが破壊されてしまう。これにより、SiO,SiONなどをゲート絶縁膜とするデュアルFUSIのCMOSトランジスタを形成するプロセス条件の設定はきわめて困難だった。しかし、本発明の構造と製法によれば、上記課題は解決され、デュアルFUSIゲート電極をSiO,SiONゲート絶縁膜と組み合わせることが容易となる。
【0088】
以上説明したように、第1実施形態によれば、低抵抗で耐熱性を有し、空乏化や不純物の拡散若しくは突き抜けといった問題もないゲート電極を有するCMOSデバイスを得ることができる。また、このCMOSデバイスを製造する際のステップ数が増加するのを可及的に防止することができるとともに、複雑なプロセスが必要でなくなる。
【0089】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係わるCMOSFETの一例について、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0090】
第2の実施の形態においては、図1に記載の第1、第2上層ゲート電極11、12は、真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の同一の金属珪化物で構成される。
【0091】
これらの金属珪化物は、第1の実施の形態とは異なり、シリコンのミッドギャップ材料である。このような仕事関数であれば、NチャネルMISトランジスタ、PチャネルMISトランジスタのしきい値電圧をある程度低く設計することができ、特にしきい値電圧を高めに設定する低消費電力用CMOSには好適である。
【0092】
このような金属珪化物として、Ni、Co、W、Taからなる群から選ばれる金属の金属珪化物であると好ましい。より好ましい金属は、Ni,Coである。なお、しきい値ばらつきを少なくするために、単一元素からなる金属珪化物が好ましい。
【0093】
さらに、その組成に関しては、熱力学的に最も安定な組成に設計されることが望ましい。具体的には、NiSi、NiSi、CoSi、CoSi、WSi、TaSiである。その選択理由は第1実施例の場合と同様である。
【0094】
結晶構造については、それぞれの金属珪化物について最も安定な結晶構造である、表3に示す結晶構造を有することが好ましく、これらが主成分(50%以上)であることがさらに好ましい。
【表3】

【0095】
次に、第2の実施の形態の半導体装置の製造方法を説明する。
【0096】
本実施形態の半導体装置の製造工程を図15乃至図16に示す。なお、この製造方法は、上層ゲート電極にNiSi(ニッケルシリサイド)を使用した場合を例にとって説明する。
【0097】
第1の実施の形態と同様に、シリコンゲート/TaC/ゲート絶縁膜のゲート積層構造を有するCMOSデバイスを図15のように得る。第2の実施の形態ではPチャネルMISトランジスタとNチャネルMISトランジスタにおなじ金属珪化物を用いるので、図16に示すように、ウェハ全面にミッドギャップ金属珪化物用金属18を堆積する。ここでは、Niを120nmスパッタ堆積した。その後、450℃30秒の熱処理によりNiとシリコンゲートを反応させ、NiSi層を形成した後、未反応Niを塩酸により除去した。このようにして第2の実施の形態のCMOSデバイス構造を得ることができる。
【0098】
従来法のNiSi/HfSiON系では、実効仕事関数が4.5eV(真空仕事関数は4.65eV)に低下してしまい、NチャネルMISトランジスタのしきい値は低く、PチャネルMISトランジスタのしきい値が高くなってしまう傾向が見られた。これに対し第2の実施の形態のNiSi/TaC/HfSiON系では、実効仕事関数は4.65eVを示し、両チャネルトランジスタともしきい値を最適な値に設計することが容易となった。
【0099】
このように、本発明の2層ゲート電極によれば、ゲート絶縁膜がHigh−k材料であっても、ミッドギャップ仕事関数のシリサイドゲート電極の仕事関数が変調されることは無い。これにより、High−k絶縁膜上でのミッドギャップFUSIゲートの実用性が格段に高まった。本実施例のゲート電極はミッドギャップ仕事関数なので、適用デバイスとしては、しきい値電圧をバルク基板を用いたデバイスよりも低く設定できるSOI基板を用いたデバイスがもっとも好ましい。
【0100】
以上、プレーナー型を例に挙げ説明したが、無論、Fin型などにも本実施の形態を適用できる。本実施の形態をFin型に適用した場合について、図17を参照して説明する。
【0101】
図17は、Fin構造ダブルゲートCMOSFETの斜視模式図である。
【0102】
図17に示すように、p型シリコン基板(p-sub)上にシリコン酸化膜(buried oxide)が形成され、このシリコン酸化膜上にPチャネルMISトランジスタ19とNチャネルMISトランジスタ20が形成されている。ここでは、NチャネルMISトランジスタ20を例に挙げ、その構造について説明する。長方体のFin部23が紙面奥方向に形成される。Fin部23は、図示しないp型チャネル領域、及びn型ソース・ドレイン領域より成るSi層とSi層上にある絶縁層24の積層構造からなる。絶縁層24は、SiN等が用いられる。Fin部23において、ゲート絶縁膜9、下層ゲート電極10、第2上層ゲート電極12と直交する真中部分はp型チャネル領域であり、p型チャネル領域を紙面手前奥方向に挟む部位はn型ソース・ドレイン領域である。このFin部23の真中部分に対し覆うように直交し、第2上層ゲート電極12が形成されている。Si層との接触界面にはFin部23に近い処から順に、ゲート絶縁膜9、下層ゲート電極10が形成されている。
【0103】
図17に示したのは、ダブルゲートCMOSFETであり、Fin部23の両側面にチャネル部を有する。しかし、無論他の3次元構造CMOSFETにも適用可能である。例えば、Fin構造トライゲートCMOSFETの場合には、Fin部23にはSi単層を用い、Fin部23の両側面に加え、上面もゲートとなる。その他、平面型ダブルゲートCMOSFET、縦型ダブルゲートCMOSFET等を用いることもできる。ただし、製造プロセスの簡便性から図17に示したようなFin型ダブルゲートCMOSFETが好ましい。このとき、Fin部23は駆動力を向上させるため、紙面縦方向に長い板状であると好ましい。
【0104】
なお、本変形例のような3次元構造のCMOSFETにおいて、ショットキー・ソース・ドレイン構造を採用しても良い。これにより、ソース・ドレインの寄生抵抗が著しく低減するため、より高性能なトランジスタ素子を実現できる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】第1実施形態に係るCMOSFETの一例のゲート長方向の断面模式図
【図2】(a) 相分離構造を有するTaの炭化物の断面模式図 (b) (C/Ta)〜2.7の場合のTaCx膜の断面TEM像
【図3】相分離構造を有するTaの炭化物のミクロスコピック原子結合状態を調べたXPSによるC1sスペクトルの図
【図4】酸素添加によるTaCx薄膜の構造変化を示すXRD結果
【図5】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図6】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図5の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図7】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図6の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図8】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図7の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図9】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図8の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図10】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図9の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図11】第1実施形態に係るCMOSFETの一例の図10の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図12】TaCx/ゲート絶縁膜の高温下における構造耐熱性を示す断面TEM図。
【図13】TaCxからゲート絶縁膜への炭素の移動を調べたSIMS図
【図14】従来の金属珪化物/HfSiON系および第1実施形態の金属珪化物/TaCx/HfSiON系の実効仕事関数を、真空仕事関数に対してプロットしたグラフ
【図15】第2実施形態に係るCMOSFETの一例の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図16】第2実施形態に係るCMOSFETの一例の図15の次の製造工程を示すゲート長方向の断面模式図
【図17】Fin構造ダブルゲートCMOSFETの斜視模式図
【符号の説明】
【0107】
1 半導体基板
2 N型ウェル領域
3 P型ウェル領域
4 素子分離層
5 P型拡散層
6 P型エクステンション層
7 N型拡散層
8 N型エクステンション層
9 ゲート絶縁膜
10 下層ゲート電極
11 第1上層ゲート電極
12 第2上層ゲート電極
13 ゲート側壁
14 層間絶縁層
15 シリコンゲート
16 PチャネルMISトランジスタ用金属
17 NチャネルMISトランジスタ用金属
18 ミッドギャップ金属珪化物用金属
19 PチャネルMISトランジスタ
20 NチャネルMISトランジスタ
21 SiNハードマスク
22 Fin部(PチャネルMISトランジスタ)
23 Fin部(NチャネルMISトランジスタ)
24 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成されたN型半導体層と、前記N型半導体層上に形成された第1ゲート絶縁層と、前記第1ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第1下層ゲート電極と、前記第1下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物を有する第1上層ゲート電極とを有するPチャネルMISトランジスタと、
前記基板に形成されたP型半導体層と、前記P型半導体層上に形成された第2ゲート絶縁層と、前記第2ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第2下層ゲート電極と、前記第2下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物を有する第2上層ゲート電極とを有するNチャネルMISトランジスタと、を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記真空仕事関数が4.6eV以上5.2eV以下の金属珪化物は、Pt・Ir・Pd・Ru・Os・Reからなる群から選ばれる金属の金属珪化物であり、
前記真空仕事関数が4.0eV以上4.5eV以下の金属珪化物は、Ti・Zr・Hf・Nb・希土類元素からなる群から選ばれる金属の金属珪化物であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
基板と、
前記基板に形成されたN型半導体層と、前記N型半導体層上に形成された第1ゲート絶縁層と、前記第1ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第1下層ゲート電極と、前記第1下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属珪化物を有する第1上層ゲート電極とを有するPチャネルMISトランジスタと、
前記基板に形成されたP型半導体層と、前記P型半導体層上に形成された第2ゲート絶縁層と、前記第2ゲート絶縁層上に形成され、膜厚が1nm以上5nm以下でありTaの炭化物を有する第2下層ゲート電極と、前記第2下層ゲート電極上に形成され、真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属珪化物を有する第2上層ゲート電極とを有するNチャネルMISトランジスタと、を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
前記真空仕事関数が4.55eV以上4.75eV以下の金属珪化物は、Ni、Co、W、Taからなる群から選ばれる金属の金属珪化物であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記Taの炭化物は、Taに対するCの組成比(C/Ta)が1.5以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記Taの炭化物は、非晶質、あるいは非晶質の母相とTaCが析出している相とに相分離している構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1および第2下層ゲート電極は、20原子%以上30原子%以下の酸素を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1および第2ゲート絶縁層は、高誘電体酸化物を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−173412(P2007−173412A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367143(P2005−367143)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】