説明

高ストレス薄膜の成膜方法及び半導体集積回路装置の製造方法

【課題】プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを薄膜に与えることが可能な高ストレス薄膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】水素を含む成膜原料ガスをチャンバー内に供給し、水素が取り込まれた薄膜を半導体基板上に成膜する工程(ステップ1)と、薄膜から水素を離脱させる物質を含む水素離脱ガスを前記チャンバーにパルス的に供給しながら薄膜から水素を離脱させる工程(ステップ2、ステップ11及び12)と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高ストレス薄膜の成膜方法及びその成膜方法を用いた半導体集積回路装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素膜は、各種半導体装置における絶縁膜や保護膜等として使用されている。このような窒化珪素膜は、例えば、原料ガスとしてシラン(SiH)などのシリコン含有化合物のガスと、窒素やアンモニアのような窒素含有化合物のガスを使用するプラズマCVD法により形成できることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
プラズマCVD法により形成される窒化珪素膜においては、デバイス特性に悪影響を及ぼす膜の応力、すなわち引張り(Tensile)ストレスおよび圧縮(Compressive)ストレスを抑制することが重要な課題であった。例えば窒化珪素膜の圧縮ストレスが大きい場合には、膜直下の金属配線がストレスにより断線を引き起こすストレスマイグレーションが発生することが知られており、これを防止するためには圧縮ストレスを小さく抑える必要がある。窒化珪素膜のストレスの方向(引張りストレスであるか圧縮ストレスであるか)や大きさは、プラズマCVD法の場合、圧力、温度、成膜ガス種などの成膜条件に左右される。このため、窒化珪素膜に強いストレスが生じない条件を選定し、プラズマCVD法によりストレスを有さない窒化珪素膜の成膜が行なわれてきた(例えば、非特許文献1)。
【0004】
しかし、近年ある種のデバイスにおいて、窒化珪素膜のストレスを積極的に利用してデバイス特性を改善しようする試みがなされている(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、窒化珪素膜等の薄膜に与えられるストレスは、非特許文献1にも記載されているように、プロセス条件によるため、ストレス値に限度がある。
【特許文献1】特開2000−260767号公報
【特許文献2】特開2007−49166号公報
【非特許文献1】前田和夫「VLSIとCVD」槇書店,1997年7月31日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを薄膜に与えることが可能な高ストレス薄膜の成膜方法及びその成膜方法を用いた半導体集積回路装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の第1の態様に係る高ストレス薄膜の成膜方法は、水素を含む成膜原料ガスをチャンバー内に供給し、水素が取り込まれた薄膜を半導体基板上に成膜する工程と、前記薄膜から水素を離脱させる物質を含む水素離脱ガスを前記チャンバーにパルス的に供給しながら前記薄膜から水素を離脱させる工程と、を具備する。
【0008】
この発明の第2の態様に係る高ストレス薄膜の成膜方法は、マイクロ波励起プラズマを用いた高ストレス薄膜の成膜方法であって、処理容器内に、珪素含有ガスと、窒素及び水素含有ガスとを導入する工程と、マイクロ波を前記処理容器内に放射し、前記処理容器内に導入された前記珪素含有ガス及び前記窒素及び水素含有ガスをプラズマ化する工程と、前記プラズマ化された前記珪素含有ガス及び前記窒素及び水素含有ガスを、被処理基板の表面上に供給し、この被処理基板の表面上に、成膜条件を、処理温度を300℃以上600℃以下、珪素含有ガスと窒素及び水素含有ガスとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下として窒化珪素膜を成膜する工程と、前記窒化珪素膜から水素を離脱させる物質を含む水素離脱ガスを前記チャンバーにパルス的に供給しながら前記薄膜から水素を離脱させる工程と、を具備する。
【0009】
この発明の第3の態様に係る半導体集積回路装置の製造方法は、絶縁膜上に、この絶縁膜とは異なる物質を含むエッチングストッパを上記第1の態様又は第2の態様に係る成膜方法を用いて形成する工程と、前記エッチングストッパの上方に、このエッチングストッパとは異なる物質を含む層間絶縁膜を形成する工程と、前記層間絶縁膜上に、この層間絶縁膜とは異なる物質を含むハードマスクを上記第1の態様又は第2の態様に係る成膜方法を用いて形成する工程と、前記ハードマスクをエッチングマスクに用いて、前記層間絶縁膜に、溝又は孔を形成する工程と、を具備する。
【0010】
この発明の第4の態様に係る半導体集積回路装置の製造方法は、半導体基板上に、この半導体基板と絶縁され、上部にキャップ層を備えたゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極をマスクに用いて、ソース/ドレイン領域形成用の不純物を前記半導体基板内に導入する工程と、前記ゲート電極の側壁上に、側壁スペーサを上記第1の態様又は第2の態様に係る成膜方法を用いて形成する工程と、を具備する。
【0011】
この発明の第5の態様に係る半導体集積回路装置の製造方法は、半導体基板上に、この半導体基板と絶縁されたゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極をマスクに用いて、ソース/ドレイン領域形成用の不純物を前記半導体基板内に導入する工程と、前記半導体基板上に、前記ゲート電極を被覆し、前記ゲート電極下の前記半導体基板の部分にストレスを与えるストレスライナーを上記第1の態様又は第2の態様に係る成膜方法を用いて形成する工程と、を具備する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを薄膜に与えることが可能な高ストレス薄膜の成膜方法及びその成膜方法を用いた半導体集積回路装置の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、適宜添付図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、薄膜の形成に利用可能なプラズマ成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。このプラズマ成膜装置100aは、複数のスロットを有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にてチャンバー1内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波励起プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ成膜装置として構成されており、1×1010〜5×1012/cmのプラズマ密度で、かつ0.7〜2eVの低電子温度のプラズマによる処理が可能である。従って、各種半導体装置の製造過程においてプラズマCVDによる薄膜の成膜処理、例えば、窒化珪素膜の成膜処理などの目的で好適に利用可能なものである。
【0015】
上記プラズマ成膜装置100aは、気密に構成され、接地された略円筒状の処理チャンバー(処理容器)1を有している。なお、チャンバー1は角筒形状でもよい。処理チャンバー1の中で、被処理基板である半導体ウエハW上に、プラズマCVD窒化珪素膜等の薄膜が成膜される。処理チャンバー1の底壁1aの略中央部には円形の開口部1bが形成されており、底壁1aにはこの開口部1bと連通し、下方に向けて突出する排気室2が設けられている。
【0016】
処理チャンバー1の内部には、ウエハWを水平に支持するためのAlN等のセラミックスからなるサセプタ(基板支持台)3が設けられている。サセプタ3は、排気室2の底部中央から上方に延びる円筒状のAlN等のセラミックスからなる支持部材4により支持されている。サセプタ3の外縁部には、その外縁部をカバーし、ウエハWをガイドするためのカバーリング5が設けられている。カバーリング5は、例えば石英、AlN、Al、SiN等の材質で構成された部材である。サセプタ3には、例えば、抵抗加熱型のヒーター6が埋め込まれており、このヒーター6はヒーター電源6aから給電されることによりサセプタ3を加熱し、サセプタ3の熱でウエハWを加熱する。サセプタ3には熱電対6bが埋設されている。サセプタ3は、熱電対6bが検出した温度信号に基づいて、温度コントローラ(TC)6cにより、例えば、室温から1000℃までの範囲で温度制御される。サセプタ3には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)がサセプタ3の表面に対して突没可能に設けられている。
【0017】
排気室2は排気管2aに接続され、排気管2aには真空ポンプを含む排気装置2bが接続されている。排気装置2bは、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプおよび圧力制御バルブ等を備えており、処理チャンバー1の内部を所定の減圧雰囲気に設定する。
【0018】
処理チャンバー1の側壁部分には、ゲートバルブ9が設けられている。ゲートバルブ9を開閉することにより、処理チャンバー1は外界と連通されたり、外界から気密に遮断されたりする。ウエハWは、ゲートバルブ9を介して処理チャンバー1の内部に搬入出される。
【0019】
処理チャンバー1の上部は開口部となっており、開口部を塞ぐようにマイクロ波導入部10が気密に配置される。マイクロ波導入部10は、サセプタ3の側から順に、マイクロ波透過板11、平面アンテナ部材12、遅波材13を備えている。
【0020】
マイクロ波透過板11は、処理チャンバー1上部の開口部に設けられた環状の支持部14上に、シール部材15を介して気密に配置される。マイクロ波透過板11は、マイクロ波を透過する誘電体、例えば、石英やAl、AlN等のセラミックスから構成される。
【0021】
平面アンテナ部材12は、マイクロ波透過板11の上方に設けられ、処理チャンバー1の開口部の上端に係止されている。平面アンテナ部材12は、例えば、表面が金または銀メッキされた銅板、又はアルミニウム板から構成され、マイクロ波を放射するための多数のスロット孔16が所定のパターンで貫通して形成されている。スロット孔16は、例えば、図2に示すように一対の長溝状をなす。典型的には隣接するスロット孔16どうしが、T字状に配置され、T字状に配置されたスロット孔16が複数個、同心円状に配置される。スロット孔16の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定され、例えば、スロット孔16の間隔は、λg/4からλgとなるように配置される。なお、図2においては、同心円状に形成された隣接するスロット孔16どうしの間隔を、“Δr”で示している。スロット孔16の形状は、例えば、円形状、円弧状等の形状であってもよい。スロット孔16の配置についても、特に同心円状に限定されるものではなく、例えば、螺旋状、放射状に配置することもできる。
【0022】
遅波材13は、平面アンテナ部材12の上に設けられる。遅波材13は、真空よりも大きい誘電率を有する誘電体、例えば、石英、Al等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂から構成され、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。なお、平面アンテナ部材12とマイクロ波透過板11との間、及び平面アンテナ部材12と遅波材13との間は、それぞれ密着させてもよいし、離間させてもよい。
【0023】
処理チャンバー1の上方には、平面アンテナ部材12、及び遅波材13を覆うように、カバー17が設けられている。カバー17は平面アンテナと扁平導波管とを形成し、マイクロ波が外に漏れないように、処理チャンバー1の上面上に、シール部材18を介して配置される。カバー17は、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の金属材から構成され、内部には冷却水流路17aが形成される。冷却水を冷却水流路17aに流すことでカバー17、遅波材13、平面アンテナ12、及びマイクロ波透過板11がそれぞれ冷却され、カバー17、遅波材13、平面アンテナ12、及びマイクロ波透過板11の変形及び破損が防止される。なお、カバー17は、アンテナ、処理チャンバーを介して接地されている。
【0024】
カバー17の上壁の中央には開口部17bが形成されている。開口部17bには導波管18が接続されている。導波管18の端部には、モード変換器21、矩形導波管が接続され、マッチング回路19を介してマイクロ波発生装置20が接続される。マイクロ波発生装置20は、例えば、周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させる。発生されたマイクロ波は、導波管18を介して平面アンテナ部材12へ伝搬される。マイクロ波の周波数としては、2.45GHz、8.35GHz、1.98GHz等も用いることができる。
【0025】
導波管18は、カバー17の開口部17bから上方へ延出する断面円形状の同軸導波管18aと、同軸導波管18aの中心に延在し、平面アンテナ部材12の中心に接続固定される内導体18cと、同軸導波管18aの上端部にモード変換器21を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管18bとを有している。モード変換器21は、矩形導波管18b内をTEモードで伝搬するマイクロ波を、TEMモードに変換して、内導体18cを介して平面アンテナ部材12へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0026】
アンテナの下方には、ガス導入部22aおよび22bが上下に環状に配設されて設けられており、各ガス導入部22aおよび22bには、複数のガス吐出孔がガス導入部22a、22bの側壁の内周に沿って均等に形成されている。ガス導入部22aおよび22bには、成膜原料ガスやプラズマ励起用ガスを供給するガス供給部27が接続されている。なお、ガス導入部22aおよび22bはノズル状またはシャワー状に配置してもよい。
【0027】
ガス供給部27は、本例では、珪素含有ガス供給源27a、窒素含有ガス供給源27b、不活性ガス供給源27c、水素離脱ガス供給源27dを備えている。窒素含有ガス供給源27bは、上部のガス導入部22aに接続され、珪素含有ガス供給源27a、不活性ガス供給源27c、及び水素離脱ガス供給源27dは、下部のガス導入部22bに接続されている。
【0028】
成膜原料ガスである窒素含有ガスとしては、例えば、窒素(N)、アンモニア(NH)、モノメチルヒドラジン(MMH)のようなヒドラジン誘導体などを用いることができる。
【0029】
また、他の成膜原料ガスである珪素含有ガスとしては、例えば、シラン(SiH)、ジシラン(Si)などを用いることができるが、特にジシラン(Si)が好ましい。
【0030】
不活性ガスとしては、例えば、Nガスや希ガスなどを用いることができる。プラズマ励起用ガスである希ガスとしては、例えば、Arガス、Krガス、Xeガス、Heガスなどを用いることができる。コスト的には、Arガスが好ましい。
【0031】
水素離脱ガスは成膜された薄膜から水素を離脱させるガスであり、薄膜から水素を離脱させる物質を含む。薄膜から水素を離脱させる物質としては、例えば、ハロゲン含有ガスを用いることができる。ハロゲンとしては弗素、又は塩素を挙げることができ、好ましいハロゲン含有ガスの一例としては、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物を挙げることができる。また、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物、又はこれら弗化物を含有するガスの例としては、例えば、NFガス、又はNF含有ガスやClFガス、又はClF含有ガス等を挙げることができる。さらに、プラズマを安定に生成する希釈ガスとして、希ガス、例えば、Arガスを用いることが好ましい。また、水素離脱ガスとして、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物、又はこれら弗化物を含有するガスを用いた場合には、チャンバー1内等を洗浄する洗浄ガスと兼用することも可能である。この場合には、水素離脱ガスは、プラズマ成膜装置100aに接続された洗浄ガス供給源から供給されれば良い。
【0032】
窒素含有ガスは、ガスライン21aを介してガス導入部22aに至り、ガス導入部22aからチャンバー1内に導入される。
【0033】
珪素含有ガス、不活性ガス、及び水素離脱ガスは、それぞれガスライン21aを介してガス導入部22bに至り、ガス導入部22bからチャンバー1内に導入される。
【0034】
各ガス供給源に接続する各々のガスライン21aには、マスフローコントローラ21b、及びその前後に開閉バルブ21cが設けられており、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るように構成されている。なお、Arなどのプラズマ励起用の希ガスは任意のガスであり、必ずしも成膜原料ガスと同時に供給しなくてもよいが、プラズマの安定生成を考えると、用いることが好ましい。
【0035】
なお、本例では水素離脱ガスをチャンバー1内に、下部のガス導入部22bから供給するようにしているが、上部のガス導入部22aから供給するようにしても良いし、ガス導入部22aおよび22bとは別に設けた水素離脱ガス導入のガス導入部から供給するようにしても良い。
【0036】
プラズマ成膜装置100aの各構成部は、制御部50によって制御される。制御部50は、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、プロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52及び記憶部53とを備えている。ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマCVD装置100bを管理するためにコマンドの入力操作等を行なうキーボードや、プラズマCVD装置100aの稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を備えている。記憶部53は、プラズマCVD装置100aで実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピを格納する。任意のレシピは、必要に応じ、ユーザーインターフェース52からの指示等にて記憶部53から呼び出され、プロセスコントローラ51において実行される。プロセスコントローラ51がレシピを実行することで、プラズマ成膜装置100aは、プロセスコントローラ51の制御のもと、所望の処理を行う。レシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えば、CD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリなどに格納された状態のものを利用したり、あるいは、他の装置から、例えば、専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
【0037】
このように構成されたプラズマ成膜装置100aは、800℃以下、好ましくは600℃以下の低温で下地膜等へのダメージフリーなプラズマ処理を進めることができるとともに、プラズマ均一性に優れており、プロセスの均一性を実現できる。
【0038】
図3Aは、本実施の形態に係る成膜方法の基本的な流れを示す流れ図である。
【0039】
図3Aに示すように、まず、水素を含む成膜原料ガスをチャンバー1内に供給し、水素が取り込まれた薄膜を半導体基板上に成膜する(ステップ1)。
【0040】
次いで、薄膜から水素を離脱させる水素離脱ガスをチャンバー1内に供給し、成膜された薄膜から水素を離脱させる(ステップ2)。
【0041】
図4は、堆積時のストレスと水素離脱後のストレスとの差(ストレス変化量)を示す図である。図4では、薄膜が水素を取り込んだ窒化珪素膜の場合を示している。
【0042】
図4に示すように、濃度が大きく減少する、即ち、離脱水素量が大きいほど、ストレスが大きく変化する。薄膜が窒化珪素膜である場合には、特に、圧縮ストレスが高まる。
【0043】
図5は、薄膜に生じるストレスと処理圧力との関係を示す図である。
【0044】
図5中の線Iは、下記のプロセス条件で成膜された窒化珪素膜に生ずるストレスを示したものである。
【0045】
<プラズマCVD成膜条件(N/Siガス系)>
ガス流量(ガス導入部15a);1100mL/min(sccm)
Siガス流量;1mL/min(sccm)
ガス流量(ガス導入部15b);100mL/min(sccm)
処理圧力;4.0Pa(30mTorr)、6.7Pa(50mTorr)、13.3Pa(100mTorr)および66.6Pa(500mTorr)
載置台2の温度;500℃
マイクロ波パワー;3000W
図5中の線Iが、成膜された薄膜に対してプロセス条件で与えられるストレスである。成膜原料ガスをN/Siガス系として成膜された窒化珪素膜には圧縮ストレスが生じ、その圧縮ストレスは、処理圧力が小さくなるほど大きくなる傾向がある。
【0046】
成膜された窒化珪素膜から水素を離脱させると、線Iに示す圧縮ストレスに対して図4に示した圧縮ストレスを加えることができる。この結果、窒化珪素膜に生じる圧縮ストレスは、図5中の線IIに示すように、さらに強くなる。
【0047】
このように、成膜された薄膜中から水素を離脱させることで、成膜された薄膜に対して、プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを与えることができる。
【0048】
しかしながら、水素離脱ガスが成膜された薄膜と良く反応する場合には、かえって水素離脱ガスが薄膜を減膜させてしまう可能性がある。特に、水素離脱ガスが弗素、又は塩素、又は弗素及び塩素の双方を含む単化合物ガスの場合には薄膜の減膜傾向が強い。中でも、成膜された薄膜が水素を取り込んだ窒化珪素膜であり、水素離脱ガスがNFガスの場合に、この減膜傾向が顕著である。さらに、希ガスにより希釈することにより、より減膜できる。
【0049】
減膜量が増すと、窒化珪素膜の膜厚が設計された膜厚を満たすことが困難になり、また、成膜したはずの窒化珪素膜が消滅する可能性もある。半導体素子は年々微細化しており、これに伴い半導体集積回路中の薄膜は、より薄くなる傾向にある。このため、減膜が起ると、将来、半導体集積回路の特性に著しい影響を与える可能性がある。しかも、この影響は、今後、加速度的に増大していく可能性がある。成膜された薄膜に対してプロセス条件で与えられる以上のストレスを与えることができた、としても、減膜するのであれば、実際の半導体装置のプロセスに適用することが難しい。これでは、プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを持つ薄膜を形成することが困難になる。
【0050】
そこで、本実施形態では、以下のように薄膜中から希釈ガスによりハロゲン化合物ガスの量を極小量にすることで減膜せず、効率的に水素を離脱するように工夫した。
【0051】
まず、チャンバー1の内部にプラズマ励起用の希ガス、例えば、Arガスを供給し、マイクロ波放射孔33からマイクロ波を放射してチャンバー1の内部をプラズマ雰囲気とする。そして、図3Bに示すように、水素離脱ガスを、所定の時間の間、チャンバー1内に供給する(ステップ11)。所定の時間の例は、水素離脱ガスの供給開始から、成膜された薄膜の減膜量が許容範囲内に収まる時間内、又は成膜された薄膜が減膜しない時間である。図6に、具体的なタイムチャートの一例を示す。図6中の時刻T1からT2の期間に示すように、本例では、希ガス2000sccm、NFガスを20sccmの流量で3秒間、チャンバー1に供給した。これでチャンバー1の雰囲気は、薄膜から水素を離脱させる雰囲気となる。薄膜は、本例では水素を取り込んだ窒化珪素膜である。
【0052】
次いで、図3Bに示すように、水素離脱ガスの供給を止め、チャンバー1内の雰囲気を水素離脱ガスが供給される前の雰囲気に戻す(ステップ12)。水素離脱ガスが供給される前の雰囲気とは、チャンバー1内の雰囲気中に水素離脱ガスが無い、又はほとんど無い状態である。本例では、図6中の時刻T2からT3の期間に示すように、NFガスの供給を止め、NFガスがチャンバー1に残留しないように排気又は自然消滅又は排気と自然消滅を利用し、チャンバー1内のNFガスの濃度を弱めながら、NFガス供給前の雰囲気に戻す(時刻T2から時刻T3)。本例では、所定の排気量でチャンバー1の内部を排気しながら、NFガスの供給を60秒間止めた。
【0053】
さらに、本実施形態では、上記ステップ11、12を、所定回数繰り返す。
【0054】
本例では、図6の時刻T3から時刻T4の期間に示すように、チャンバー1の雰囲気がNFガス供給前の雰囲気に戻ったら、再度、NFガスを20sccmの流量で3秒間、チャンバー1に供給した。その後、時刻T4から時刻T5の期間に示すように、再度、NFガスの供給を止め、チャンバー1の雰囲気をNFガス供給前の雰囲気に戻す。このようにステップ11、12を繰り返すことで、水素離脱ガス、本例ではNFガスがチャンバー1の内部にパルス的に供給される。ステップ11、12が所定回数繰り返されたら、水素を離脱させる工程は終了し、薄膜の成膜工程が終了する。
【0055】
このように、本例では、NFガスをチャンバー1の内部にパルス的に供給することで、チャンバー1の内部の雰囲気を数秒乃至数十秒間の短い期間だけNFガス含有雰囲気とした後、NFガス供給前の雰囲気、即ちNFガスが無い、もしくはほとんど無い雰囲気に戻すことができる。
【0056】
チャンバー1の内部が、NFガスの供給開始から数秒乃至数十秒間だけNFガス含有雰囲気となっても、水素を取り込んだ窒化珪素膜からは水素が離脱する。離脱した水素の量は、図6に示すように、上記ステップ11、12を繰り返す毎に累積されていく。
【0057】
このように、本例によれば、成膜された窒化珪素膜から水素を離脱させることができる。よって、成膜された窒化珪素膜に対してプロセス条件で与えられる以上のストレスを与えることができる。
【0058】
さらに、NFガスの供給開始から数秒乃至数十秒間という短い期間は、NFガスが例えば、チャンバー1の内部に十分な濃度で十分に拡がっていない期間である。このため、窒素珪素膜を減膜させる量が非常に少ない期間、又は全く減膜しない期間となる。NFガスによる窒化珪素膜の減膜量も、図6に示すように、上記ステップを繰り返す毎に累積されるのであるが、減膜量が非常に少ないか、又は全く減膜しないから、減膜量を、NFガスをチャンバー1の内部に供給し続ける比較例(図6中の点線に示す)に比較して減らすことができる、又は減膜量をゼロにすることができる。
【0059】
このように、本例によれば、プロセス条件で与えられるストレス以上に大きなストレスを持つ薄膜を、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で形成することができる。高ストレス薄膜を、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で形成することができることは、今後の半導体素子の微細化にも有利である。
【0060】
なお、第1の実施形態では、NFガスをチャンバー1の内部にパルス的に供給するようにしたが、さらに、プラズマをパルス的にたてるようにしても、窒素珪素膜の減膜量を小さくできる、又は減膜が生じない状態とすることができる。
【0061】
(第2の実施形態)
図7は、この発明の第2の実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜の成膜方法に利用することが可能なプラズマ成膜装置の一例を示す断面図である。
【0062】
図7に示すように、プラズマ成膜装置100bが、図1に示した装置100aとことなるところは、ガス導入部がシャワーヘッド22cとなっていること、及びサセプタ3には下部電極6dが埋め込まれており、マッチャー6eを介してRF電源6fに接続されていることである。
【0063】
処理チャンバー1内の、サセプタ3とマイクロ波導入部10との間には、処理ガスを導入するためのシャワーヘッド22cが水平に設けられている。シャワーヘッド22cは、図8に示すように、格子状のガス流路23と、格子状のガス流路23に形成された多数のガス吐出孔24とを有している。格子状のガス流路23の間は空間部25となっており、ガス吐出孔24はガス流路23のサセプタ3側に形成されている。ガス流路23には処理チャンバー1の外側に延びるガス供給管26が接続される。ガス供給管26は、プラズマ処理のための処理ガスを供給するガス供給部27に接続される。
【0064】
ガス供給部27は、本例では珪素含有ガス供給源27a、窒素及び水素含有ガス供給源27b、プラズマ生成用ガス供給源27c、及び水素離脱ガス供給源27dを備えている。本例では、珪素含有ガス、窒素及び水素含有ガス、及び水素離脱ガスを、ガスライン21aを介してシャワーヘッド22cに供給する。なお、図7においては、マスフローコントローラ、及びバルブ等の図示は省略している。シャワーヘッド22cは、上記ガスを、格子状のガス流路23、及格子状のガス流路23のサセプタ3側に形成されたガス吐出孔24を介して所定の流量で処理チャンバー1の内部のうち、シャワーヘッド22cとサセプタ3との間の空間1cへ供給する。珪素含有ガスの一例はジシランであり、窒素及び水素含有ガスの一例はアンモニアである。水素離脱ガスの例は、第1の実施形態と同様に、例えば、ハロゲン含有ガスである。ハロゲンとしては弗素、又は塩素を挙げることができ、ハロゲン含有ガスの一例としては、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物を挙げることができる。また、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物、又はこれら弗化物を含有するガスの例としては、例えば、NFガス、又はNF含有ガスやClFガス、又はClF含有ガス等を挙げることができる。また、水素離脱ガスとして、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物、又はこれら弗化物を含有するガスを用いた場合には、チャンバー1内等を洗浄する洗浄ガスと兼用することも可能である。この場合には、水素離脱ガスは、プラズマ成膜装置100aに接続された洗浄ガス供給源から供給されれば良い。
【0065】
シャワーヘッド22cとマイクロ波導入部10との間の処理チャンバー1の側壁には、環状のプラズマ生成用ガス導入部22dが設けられている。プラズマ生成用ガス導入部222dは、処理チャンバー1の内部に向かってプラズマ生成用ガスを吐出する吐出孔22eを複数備えている。プラズマ生成用ガスは、ガス導入部22dに供給される。なお、図7においては、マスフローコントローラ、及びバルブ等の図示は省略している。ガス導入部22dは、プラズマ生成用ガスを、吐出孔22eを介して処理チャンバー1の内部のうち、シャワーヘッド22cとマイクロ波導入部10との間の空間1dへ供給する。プラズマ生成用ガスの一例はアルゴンである。
【0066】
空間1dに供給されたプラズマ生成用ガスは、マイクロ波導入部10を介して空間1dに導入されたマイクロ波によりプラズマ化される。プラズマ化されたガスは、シャワーヘッド22cの空間部25を通過して空間1cに供給され、空間1cにおいて、シャワーヘッド22cのガス吐出孔24から吐出された処理ガスをプラズマ化する。
【0067】
このように構成されたプラズマ成膜装置100bは、例えば、以下のような手順でプラズマCVD法によりウエハW表面上に窒化珪素膜を堆積する。
【0068】
まず、ゲートバルブ9を開にしてウエハWを処理チャンバー1の内部に搬入し、サセプタ3上に載置する。
【0069】
次に、ガス供給部27からプラズマ生成用ガスを、吐出孔22eを介して処理チャンバー1のうち、空間1d内に導入しつつ、マイクロ波発生装置20からのマイクロ波を、マッチング回路19を経て、矩形導波管18b、モード変換器21、及び同軸導波管18aを順次通過させ、内導体18cを介して平面アンテナ部材12に供給する。平面アンテナ部材12に供給されたマイクロ波は、平面アンテナ部材12のスロット孔16から透過板11を介して処理チャンバー1のうち、空間1d内に放射される。プラズマ生成ガスは、放射されたマイクロ波により励起されてプラズマ化される。マイクロ波励起プラズマは、マイクロ波が多数のスロット孔16から放射されることにより、例えば、略1×1010〜5×1012/cmの高密度で2eV以下の低電子温度プラズマとなる。プラズマ化されたガスは、シャワーヘッド22cの空間部25を通過して空間1cに供給される。
【0070】
次に、ガス供給部27から珪素含有ガス、窒素及び水素含有ガスを、シャワーヘッド22cのガス吐出孔24を介して処理チャンバー1のうち、空間1c内に供給する。上記ガスは、格子状の空間部25を通過してきたプラズマ化されたガスにより励起されてプラズマ化される。ウエハW近傍では、例えば、略1.5eV以下の低電子温度プラズマとなる。このようにして形成されたプラズマは、下地膜へのイオン等によるプラズマダメージが少ないものである。そして、プラズマ中で処理ガスの解離が進み、例えば、SiH、NHなどの活性種の反応によって、窒化珪素SiN(ここで、xは必ずしも化学量論的に決定されず、処理条件により異なる値をとる)の薄膜が堆積される。
【0071】
次に、第1の実施形態で説明した方法を用いて、堆積された薄膜から水素を離脱させる。
【0072】
図7に示すプラズマ成膜装置100bを用いてプラズマCVD窒化珪素膜を成膜し、成膜されたプラズマCVD窒化珪素膜中の水素量(Si−H結合、N−H結合、及びSi−H結合とN−H結合との合計)の、処理温度依存性、珪素含有ガス流量依存性、マイクロ波パワー依存性、及び処理圧力依存性を、それぞれ測定した。この測定において使用した珪素含有ガスはジシラン、窒素及び水素含有ガスはアンモニアである。プラズマCVD窒化珪素膜の膜質の分析には、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)を用い、N−H結合に由来するスペクトルの強度、及びSi−H結合に由来するスペクトルの強度から、N−H結合の量、及びSi−H結合の量を求めた。また、求められたN−H結合の量とSi−H結合の量とを合計することにより総膜中水素量(total H)を求めた。
【0073】
図9は水素量の処理圧力依存性を示す図で、図9Aは処理条件を、図9Bは水素量と処理圧力との関係を示している。
【0074】
図9Aに示すように、処理圧力をパラメータ(図中“−”で示す)とし、処理温度(サセプタ3の温度)を600℃、ジシラン(Si)の流量とアンモニア(NH)の流量との流量比を5sccm/500sccm=0.01、マイクロ波パワーを1.023W/cm(2kW)とし、処理圧力を250mTorr、1000mTorr、2000mTorr、3000mTorrと変化させた。
【0075】
図9Bに示すように、通常の減圧プラズマCVD法と同じように、チャンバー1内の処理圧力を1000mTorr(133.3Pa)以下とした場合には、N−H結合がSi−H結合よりも優勢であることが判明した。これは供給律速である。具体的には、図7に示したプラズマCVD装置100bを用いると、処理圧力が1000mTorr以下の場合には、N−H結合の量が9×1021atomos/cc以上のオーダーとなるのに対して、Si−H結合の量は1×1021atomos/cc以下のオーダーにとどまる。総膜中水素量は、9×1021atomos/cc以上のオーダーである。
【0076】
対して、処理圧力を、1000mTorr以上に上げてくるとSi−H結合が急激に増加するが、反対にN−H結合も急激に減少しだす傾向があることが判明した。これは反応律速である。しかも、N−H結合の減少分のほうが、Si−H結合の増加分より大きい。このため、両者の量を合計した総膜中水素量が減少に転じだす傾向が見いだされた。
【0077】
さらに、処理圧力を上げていくと、アンモニアガスを使用して成膜したプラズマCVD窒化珪素膜であっても、N−H結合の量とSi−H結合の量とを均衡させることができる。また、処理圧力が、おおよそ1800mTorr(239.9Pa)付近でN−H結合の量とSi−H結合の量とが均衡する。このときの総膜中水素量は、8×1021atomos/ccのオーダー(本例では、おおよそ8.4×1021atomos/ccのオーダー)まで、さらに減少している。
【0078】
さらに、処理圧力を1800mTorr以上に上げると、アンモニアガスを使用して成膜したプラズマCVD窒化珪素膜であっても、N−H結合の量がSi−H結合の量よりも少なくなるプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができた。
【0079】
例えば、本例では、処理圧力を2000mTorr(266.6Pa)とすると、N−H結合の量が3×1021atomos/ccのオーダーで、Si−H結合の量が5×1021atomos/ccのオーダーのプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができた。このときの総膜中水素量は、8×1021atomos/ccのオーダーまで、さらに減少している。
【0080】
処理圧力を2000mTorr以上に上げると、N−H結合の減少傾向が続くが、Si−H結合の増加分が鈍化することが判明した。つまり、増加していたSi−H結合が飽和しだす。N−H結合の減少傾向が続きつつ、Si−H結合が飽和する、ということは、つまり、総膜中水素量を、さらに減少させることができる、ということである。本例では、処理圧力を3000mTorr(400Pa)とすると、N−H結合の量が1×1021atomos/ccのオーダーまで減少するが、Si−H結合の量が5×1021atomos/ccのオーダーでほとんど変化しなかった。このときの総膜中水素量は、6×1021atomos/ccのオーダーまで引き続き減少する。
【0081】
さらに、総膜中水素量は、例えば、ジシラン(Si)の流量とアンモニア(NH)の流量との流量比をSi−H結合の量が少なくなるように変える(流量比増大)、及び/又はマイクロ波パワーを上げると、6×1021atomos/cc以下に、減少させることができる。プラズマCVD窒化珪素膜は、膜中のSi−H結合がより少ない方がなお良い。
【0082】
このようなプラズマCVD窒化珪素膜の成膜方法によれば、窒化珪素膜を成膜する処理ガスである窒素含有ガスとして、窒素と水素とを含むガス、例えば、アンモニアガスを使用した、としても、処理圧力を1000mTorr(133.3Pa)以上とすることで、窒化珪素膜の膜中Si−H結合の量と膜中N−H結合の量とを合計した総膜中水素量が8.4×1021atoms/cc以下にできる低水素量のプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。
【0083】
ちなみに、処理圧力を1000mTorr以上とすることで、N−H結合の減少傾向を継続させつつ、Si−H結合については飽和させることができる傾向がある限り、処理圧力の上限は、例えば、100Torr(13333Pa)以下で良い。好ましくは10Torr(1333Pa)以下である。
【0084】
さらに、珪素含有ガスと窒素及び水素含有ガスとの流量比を0.01以上0.015以下とする、及び/又はマイクロ波パワーをW/cm以上2.045W/cm以下とすると、膜中のSi−H結合がより少ないプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。
【0085】
しかも、本例の成膜方法に従って成膜されたプラズマCVD窒化珪素膜は、窒素と水素とを含むガスを使用して成膜するので、例えば、窒素ガスのみを用いてプラズマCVD窒化珪素膜を成膜する場合に比較して反応が起りやすく、制御性も良い。そのうえ、窒素と水素とを含むガスを使用して成膜されるプラズマCVD窒化珪素膜でありながらも、N−H結合の量を減らすことができる。さらにはN−H結合の量をSi−H結合の量以下とすることもできる。このことから、窒素と水素とを含むガスを使用して成膜されるプラズマCVD窒化珪素膜において懸念点であった、N−H結合が多量に含有されやすい、という事情も解消することもできた。このようなプラズマCVD窒化珪素膜の総膜中水素量の範囲を述べるならば、N−H結合の量とSi−H結合の量との合計値以下Si−H結合の量以上の範囲である。総膜中水素量が上記範囲にあれば、総膜中水素量が少ないプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。
【0086】
さらに、本例では、総膜中水素量が少ないプラズマCVD窒化珪素膜を得たのち、このプラズマCVD窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて、水素を、さらに離脱させる。このため、総膜中水素量が2×1021atomos/cc以下のプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。
【0087】
さらに、本例では、プラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる水素離脱ガスを、チャンバー1にパルス的に供給しながら、あるいはプラズマをパルス的にたてながら、あるいは水素離脱ガスをパルス的に供給するとともにプラズマをパルス的にたてながらプラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる。このため、総膜中水素量が1021atomos/cc以下のプラズマCVD窒化珪素膜を、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で得ることができる。
【0088】
このように、総膜中水素量が少ないプラズマCVD窒化珪素膜では、膜中から水素が抜け出すことで発生する空孔が発生する確率が低くなる。よって、電子トラップが発生する確率が減り、膜質が劣化し難く、長い期間にわたって良い膜質を保つことができる、信頼性の高いプラズマCVD窒化珪素膜となる。このようなプラズマCVD窒化珪素膜は、半導体集積回路装置への適用に有利である。
【0089】
このように、第2の実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜によれば、N−H結合の量とSi−H結合の量とを合計した総膜中水素量を減らすことが可能なプラズマCVD窒化珪素膜の成膜方法を提供できる。
【0090】
(第3の実施形態)
図10に、ハロゲン化合物ガスと希ガスとの流量比(ハロゲン化合物ガス/希ガス)と、減膜率との関係を示す。
【0091】
図10に示すように、ハロゲン化合物ガスと希ガスとの流量比を低くすることで、減膜率が小さくなる。実用的には、減膜率は5%以下とされることが好ましく、減膜率を5%以下とするには、ハロゲン化合物ガスと希ガスとの流量比を0.006以下とすることが好ましい。
【0092】
このように、水素が少なく、かつ、減膜し難い膜は、例えば、次に説明するような半導体集積回路装置の内部構造体への適用に有利である。
【0093】
(適用例1)
適用例1は、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を、エッチングストッパ及びハードマスクに利用した例である。
【0094】
図11A乃至図11Cは適用例1に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図である。
【0095】
まず、図11Aに示すように、半導体ウエハ(図示せず)上に、例えば、層間絶縁膜のような絶縁膜201を形成する。次いで、絶縁膜201上に、エッチングストッパ202を形成する。エッチングストッパ202にはプラズマ窒化珪素膜が利用され、このプラズマ窒化珪素膜の成膜条件は、上述したように処理温度を300℃以上600℃以下、好ましくは500℃以下の低温で、珪素含有ガス、例えばジシランと窒素及び水素含有ガス、例えばアンモニアとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下とする。好ましくは、1333Pa以下とする。さらに、成膜されたプラズマ窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて水素を離脱させる。このように水素を離脱させることで、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を用いたエッチングストッパ202を形成することができる。次いで、エッチングストッパ202上に、層間絶縁膜203を形成する。層間絶縁膜203には、例えば、酸化珪素膜よりも誘電率が低い周知の低誘電率絶縁膜が用いられて良い。次いで、層間絶縁膜203上に、ハードマスク204を形成する。ハードマスク204には、エッチングストッパ202と同様に、プラズマ窒化珪素膜が利用される。また、ハードマスク204となるプラズマ窒化珪素膜の成膜条件は、エッチングストッパ202と同様に、処理温度を300℃以上600℃以下、好ましくは500℃以下の低温で、珪素含有ガス、例えばジシランと窒素及び水素含有ガス、例えばアンモニアとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下とする。好ましくは、1333Pa以下とする。さらに、成膜されたプラズマ窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて水素を離脱させる。このように水素を離脱させることで、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を用いたハードマスク202を形成することができる。次いで、ハードマスク204上に、ホトレジストからなるマスクパターン、例えば、配線材料を埋め込むための溝や、配線どうしを接続するための孔に対応した開孔を持つマスクパターン205を形成する。
【0096】
次いで、図11Bに示すように、マスクパターン205をマスクに用いて、ハードマスク204をエッチングする。
【0097】
次いで、図11Cに示すように、マスクパターン205を除去した後、ハードマスク204をエッチングのマスクに用いて層間絶縁膜203をエッチングし、層間絶縁膜203に、配線材料を埋め込むための溝、又は配線どうしを接続するための孔206を形成する。層間絶縁膜203のエッチングは、エッチングストッパ202が露出するまで続けられ、エッチングストッパ202が露出したところでエッチング速度が低下し、事実上、エッチングは停止する。
【0098】
本発明の方法ではプラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる水素離脱ガスを、チャンバー1にパルス的に供給しながら、あるいはプラズマをパルス的にたてながら、あるいは水素離脱ガスをパルス的に供給するとともにプラズマをパルス的にたてながらプラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる。このため、たとえ、プラズマCVD窒化珪素膜を薄く形成した、としても、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で、総膜中水素量が1021atomos/cc以下のプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。
【0099】
このように、本発明の方法で形成したプラズマCVD窒化珪素膜は減膜し難いので、エッチングを停止させるためのエッチングストッパ202や、層間絶縁膜203等の半導体集積回路の内部構造体を加工する際にエッチングのマスクとして用いられるハードマスク204等に好適である。
【0100】
なお、適用例1においては、エッチングストッパ202及びハードマスク204の双方に実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜を用いたが、双方に用いる必要は必ずしもなく、いずれか一方に用いるようにしても良い。
【0101】
(適用例2)
適用例2は、本発明の方法で形成したプラズマCVD窒化珪素膜を、セルフアラインコンタクト構造におけるキャップ層及び側壁スペーサに利用した例である。
【0102】
図12A乃至図12Dは適用例2に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図である。
【0103】
図12Aに示すように、半導体ウエハW(本例ではシリコンウエハ)を熱酸化し、ゲート絶縁膜301となる熱酸化珪素膜を形成し、ゲート絶縁膜301となる熱酸化珪素膜上に、ゲート電極302となる、例えば、導電性のポリシリコン膜を形成する。次いで、ゲート電極302となるポリシリコン膜上に、キャップ層303を形成する。キャップ層303には、実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜が用いられ、成膜条件は、処理温度を300℃以上600℃以下、好ましくは500℃以下の低温で、珪素含有ガス、例えばジシランと窒素及び水素含有ガス、例えばアンモニアとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下とする。好ましくは、1333Pa以下とする。さらに、成膜されたプラズマ窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて水素を離脱させる。このように水素を離脱させることで、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を用いたキャップ層303を形成することができる。次いで、キャップ層303上に、ホトレジストからなる図示せぬゲートパターンを形成し、ゲートパターンをマスクに用いて、キャップ層303、ポリシリコン膜、熱酸化膜を順次エッチングして、上部にキャップ層303を備えたゲート電極302を形成する。次いで、ゲート電極302をマスクに用いて、ウエハW内に、ウエハWとは異なる導電型のソース/ドレイン領域304形成用の不純物を導入する。
【0104】
次に、図12Bに示すように、ソース/ドレイン領域304及びゲート電極302上に、側壁スペーサ305となる絶縁膜を形成する。側壁スペーサ305となる絶縁膜には、実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜が用いられ、成膜条件は、処理温度を300℃以上600℃以下、好ましくは500℃以下の低温で、珪素含有ガス、例えばジシランと窒素及び水素含有ガス、例えばアンモニアとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下とする。好ましくは、1333Pa以下とする。さらに、成膜されたプラズマ窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて水素を離脱させる。次いで、側壁スペーサ305となる絶縁膜を異方性エッチングし、キャップ層303及びゲート電極302の側壁上に側壁スペーサ305を形成する。このように水素を離脱させることで、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を用いた側壁スペーサ305を形成することができる。
【0105】
次に、図12Cに示すように、キャップ層303、ソース/ドレイン領域304、側壁スペーサ305上に、層間絶縁膜306を形成する。層間絶縁膜306には、例えば、酸化珪素膜よりも誘電率が低い周知の低誘電率絶縁膜が用いられて良い。次いで、層間絶縁膜306上に、ホトレジストからなるソース/ドレイン領域304に達するコンタクト孔パターン(図示せず)を形成し、コンタクト孔パターンをマスクに用いて、層間絶縁膜306をエッチングし、コンタクト孔307を形成する。本例のコンタクト孔307は、キャップ層303及び側壁スペーサ305上にかかっており、コンタクト孔307は、ゲート電極302を被覆するキャップ層303及び側壁スペーサ305、即ち、ゲート電極302間の空間に対して自己整合的に形成される、いわゆる、セルフアラインコンタクト構造である。
【0106】
次に、図12Dに示すように、コンタクト孔307を導電物308で埋め込むことで、適用例2に係る構造体が形成される。
【0107】
本発明の方法ではプラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる水素離脱ガスを、チャンバー1にパルス的に供給しながら、あるいはプラズマをパルス的にたてながら、あるいは水素離脱ガスをパルス的に供給するとともにプラズマをパルス的にたてながらプラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる。このため、たとえ、プラズマCVD窒化珪素膜を薄く形成した、としても、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で、総膜中水素量が1021atomos/cc以下のプラズマCVD窒化珪素膜を得ることができる。このため、本発明の方法で形成したプラズマCVD窒化珪素膜はエッチング耐性が良いので、コンタクト孔307を、ゲート電極302間の空間に対して自己整合的に形成する際の、ゲート電極302上を被覆するキャップ層303や、側壁スペーサ305にも好適である。
【0108】
(第4の実施形態)
さらに、N−H結合の量とプラズマCVD窒化珪素膜のストレスとの関係を調べてみた。ストレスの測定には、KLA−Tencor社製FLX−2320を用いた。
【0109】
図13は、プラズマCVD窒化珪素膜のストレスとN−H結合の量との関係を示す図である。
【0110】
図13に示すように、N−H結合の量が1022atoms/ccオーダーのプラズマCVD窒化珪素膜、本例では、1.32×1022atoms/ccのプラズマCVD窒化珪素膜のストレスは、1496MPaの引張ストレスを持つ。
【0111】
反対に、N−H結合の量が1021atoms/ccオーダーのプラズマCVD窒化珪素膜、本例では、3.43×1021atoms/ccのプラズマCVD窒化珪素膜のストレスは、−1099MPaの圧縮ストレスを持つ。
【0112】
このように、プラズマCVD窒化珪素膜からN−H結合の量、特に、総膜中水素量が減るにつれて、膜のストレスは、引張ストレスから圧縮ストレスの方向にシフトする傾向が確認された。
【0113】
本実施形態では、第2の実施形態で説明した成膜方法で、総膜中水素量が、例えば、1021atoms/ccオーダーのプラズマCVD窒化珪素膜を成膜した後、このプラズマCVD窒化珪素膜から水素をさらに離脱させる。このため、総膜中水素量が1020atoms/ccオーダー、1019atoms/ccオーダー、1018atoms/ccオーダー、…、というように、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜が得られる。このため、例えば、−1500Paを超える圧縮応力を持つプラズマCVD窒化珪素膜を得ることが可能となる。
【0114】
さらに、プラズマCVD窒化珪素膜を、窒化用の処理ガスとして窒素及び水素含有ガス(例えば、アンモニアガス)を用いて成膜した場合と、窒化用の処理ガスとして水素を含まない窒素ガスを用いて成膜した場合とで、成膜された膜の段差被覆性を調べてみた。
【0115】
図14はアンモニアガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜の段差被覆性を示す断面図、図15は窒素ガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜の段差被覆性を示す断面図である。なお、図15は参考例である。
【0116】
図14に示すように、窒素及び水素含有ガス、本例ではアンモニアガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜400NH3は、段差側面上の膜厚(Side)と段差上面上の膜厚(Top)との比“Side/Top”が約91%であり、段差底面上の膜厚(Btm)と段差上面上の膜厚(Top)との比“Btm/Top”が約97%であり、おおよそ90%以上の段差被覆率を得ることができた。なお、本例における成膜条件は、処理温度400℃、ジシランとアンモニアとの流量比5sccm/500sccm、マイクロ波パワー1.023W/cm(2kW)、処理圧力1000mTorrである。
【0117】
対して、図15に示すように、窒素ガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜400N2は、比“Side/Top”が約30%であり、比“Btm/Top”が約38%であり、段差被覆率は、おおむね30〜40%であった。なお、本例における成膜条件は、処理温度500℃、ジシランと窒素との流量比1sccm/1200sccm、マイクロ波パワー1.023W/cm(2kW)、処理圧力20mTorrである。
【0118】
このように、例えば、第2の実施形態で説明した成膜方法を用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜は、窒化用の処理ガスとして窒素及び水素含有ガスを用いることで、窒化用の処理ガスとして窒素ガスを用いる場合に比較して、段差被覆性を良好にできることが確認された。このような段差被覆性の測定結果から、第1の実施形態においても述べたが、プラズマCVD窒化珪素膜を、窒素及び水素含有ガスを使用して成膜することで、例えば、窒素ガスのみを用いてプラズマCVD窒化珪素膜を成膜する場合に比較して反応が起りやすく、制御性も良くなるということを、改めて確認することができた。
【0119】
このように、プラズマCVD窒化珪素膜を、窒素及び水素含有ガスを使用して成膜すると、段差被覆性が良く、また、N−H結合の量を1022atoms/ccオーダー以上から1021atoms/ccオーダー以下へ減らしていくことで、膜のストレスに、引張ストレス及び圧縮ストレスのいずれかを選択して与えることができる。さらに、N−H結合の量が1021atoms/ccオーダー以下であるプラズマCVD窒化珪素膜は、膜のストレスとして引張ストレス、又は圧縮ストレスのいずれかを選択することができる。
【0120】
さらに、本実施形態では、第2の実施形態で説明した成膜方法で、総膜中水素量が、例えば、1021atoms/ccオーダーのプラズマCVD窒化珪素膜を成膜した後、このプラズマCVD窒化珪素膜から水素をさらに離脱させる。このため、例えば、−1500Paを超える圧縮応力を持つプラズマCVD窒化珪素膜を、段差被覆性良く得ることができる。膜は、例えば、次に説明するような半導体集積回路装置の内部構造体への適用に有利である。
【0121】
(適用例3)
適用例3は、この発明の実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜を、トランジスタのチャネルにストレスを与え、電荷の移動度を改善するストレスライナーに利用した例である。
【0122】
図16A及び図16Bは適用例3に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図である。
【0123】
図16Aに示すように、半導体ウエハW(本例ではシリコンウエハ)の表面を熱酸化し、ゲート絶縁膜401となる熱酸化珪素膜を形成し、ゲート絶縁膜401となる熱酸化珪素膜上に、ゲート電極402となる、例えば、導電性のポリシリコン膜を形成する。次いで、ゲート電極402となるポリシリコン膜上に、ホトレジストからなる図示せぬゲートパターンを形成し、ゲートパターンをマスクに用いて、ポリシリコン膜、熱酸化膜を順次エッチングしてゲート電極402を形成する。次いで、ゲート電極402をマスクに用いて、ウエハW内に、ウエハWとは異なる導電型のソース/ドレイン領域403形成用の不純物を導入する。
【0124】
次に、図16Bに示すように、ソース/ドレイン領域403及びゲート電極402上に、ストレスライナー404を形成する。ストレスライナー404となる絶縁膜には、実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜が用いられ、成膜条件は、処理温度を300℃以上600℃以下、好ましくは、500℃以下の低温で珪素含有ガス、例えばジシランと窒素及び水素含有ガス、例えばアンモニアとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下とする。好ましくは、1333Pa以下とする。さらに、成膜されたプラズマ窒化珪素膜から、第1の実施形態で説明した方法を用いて水素を離脱させる。このように水素を離脱させることで、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜を用いたストレスライナー404を形成することができる。
【0125】
総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下のプラズマCVD窒化珪素膜は、図13に示したように、例えば、−1500Pa以下の圧縮ストレスを持たせることができる。
【0126】
このように、総膜中水素量が1021atoms/ccオーダー以下に制御したプラズマCVD窒化珪素膜を、ストレスライナー404に用いることで、チャネルに強い圧縮ストレスを与えることができる。チャネルに圧縮ストレスを与えると、反対に正孔の移動度が向上するので、Pチャネル型のMOSFET又はMISFETに有効に適用することができる。
【0127】
また、プラズマCVD窒化珪素膜を、窒化用の処理ガスとして窒素及び水素含有ガス、例えば、アンモニアを使用すると段差被覆性が良い。例えば、図17を参照して説明したように、おおよそ90%以上の段差被覆率を得ることができる。このような膜は、ストレスライナーへの適用に好適である。例えば、ストレスライナーの段差被覆性が悪いと、ストレスライナーのうち、ゲート電極上の部分が特に厚くなってしまい、ゲート電極の高さが増して半導体ウエハ表面上の凹凸が大きくなりやすい。これは、例えば、ゲート電極間を層間絶縁膜で埋め込み難くなる、という事情を招く。しかしながら、ストレスライナーを、段差被覆率が良い、例えば、90%以上の段差被覆率を持つ膜で形成すると、ストレスライナーのうち、ゲート電極上の部分が特に厚くなってしまうような事情が解消される。よって、半導体ウエハ表面上の凹凸が大きくなることを抑制でき、例えば、ゲート電極間を層間絶縁膜で埋め込み易くなる、という利点も得ることができる。
【0128】
しかも、本例では、プラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる水素離脱ガスを、チャンバー1にパルス的に供給しながら、プラズマCVD窒化珪素膜から水素を離脱させる。このため、段差被覆性が良く、総膜中水素量が1021atoms/cc以下のプラズマCVD窒化珪素膜を、差し支えのない範囲の減膜量、又は減膜が生じない状態で得ることができる。
【0129】
以上、この発明を、いくつかの実施形態を参照して述べたが、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、種々の変形が可能である。
【0130】
例えば、珪素含有ガスとしてジシランを使用したが、ジシランの他、シランやTSA等も使用することができる。また、窒素及び水素含有ガスとしてはアンモニアを使用したが、窒素と水素とを含有し、かつ、珪素含有ガスとともに供給することで窒化珪素膜を成膜できるものでれば使用することが可能である。
【0131】
また、上記実施形態では、成膜装置として、マイクロ波プラズマ成膜装置を例示したが、マイクロ波プラズマ成膜装置に限られることもなく、他のプラズマ成膜装置を使用することもできる。
【0132】
さらに、上記実施形態では、水素を離脱させることによって成膜された窒化珪素膜に、プロセス条件によって与えられるストレスに加えて、別の新たなストレスを生じさせたが、別の新たなストレスを生じさせる薄膜は窒化珪素膜に限られるものではない。水素を離脱させることによって、別の新たなストレスが生じる薄膜であれば、如何なる薄膜においても、この発明を適用することができる。
【0133】
また、薄膜の成膜にはマイクロ波プラズマ成膜装置を用いたが、マイクロ波プラズマ成膜装置を用いて成膜された薄膜に限られるものではない。平行平板型プラズマ成膜装置を用いて成膜された薄膜であっても良いし、プラズマに限らず熱成膜装置を用いて成膜された薄膜であっても良い。また、成膜手法もCVD法に限られるものではなく、スパッタ法を用いて成膜された薄膜でも良い。また、気相成長ばかりでなく、液層成長、例えば、LPD法やメッキ法を用いて成膜された薄膜にも、この発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】プラズマ成膜装置の一例を模式的に示す断面図
【図2】平面アンテナの一例を示す平面図
【図3】実施の形態に係る成膜方法の基本的な流れを示す流れ図
【図4】離脱水素量とストレスとの関係を示す図
【図5】ストレスと処理圧力との関係を示す図
【図6】水素離脱工程の一例を示す図
【図7】この発明の第2の実施形態に係るプラズマCVD窒化珪素膜の成膜方法に使用されるプラズマCVD装置の一例を示す概略断面図
【図8】シャワーヘッドの一例を示す平面図
【図9】水素量の処理圧力依存性を示す図
【図10】ハロゲン化合物ガスと希ガスとの流量比と減膜率との関係を示す図
【図11】適用例1に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図
【図12】適用例2に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図
【図13】プラズマCVD窒化珪素膜のストレスとN−H結合の量との関係を示す図
【図14】アンモニアガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜の段差被覆性を示す断面図
【図15】窒素ガスを用いて成膜したプラズマCVD窒化珪素膜の段差被覆性を示す断面図
【図16】適用例3に係る半導体集積回路装置の製造方法を主要な製造工程順に示す断面図
【符号の説明】
【0135】
1…処理チャンバー(処理容器)、2…排気室、3…サセプタ(基板支持台)、4…支持部、5…ガイドリング、6…ヒーター、7a…ライナー、7b…バッフルプレート、8…支柱、9…ゲートバルブ、10…マイクロ波導入部、11…マイクロ波透過板、12…平面アンテナ部材、13…遅波材、14…環状の支持部、15…シール部材、16…スロット孔、17…シールドカバー、18…導波管、19…マッチング回路、20…マイクロ波発生装置、21…モード変換器、22a、22b、22d…ガス導入部、22c…シャワーヘッド、27…ガス供給部、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、100a、100b…プラズマ成膜装置、201…絶縁膜、202…エッチングストッパ、203…層間絶縁膜、204…ハードマスク、205…ホトレジスト、206…溝又は孔、301…ゲート絶縁膜、302…ゲート電極、303…キャップ層、304…ソース/ドレイン領域、305…側壁スペーサ、306…層間絶縁膜、307…コンタクト孔、308…導電物、401…ゲート絶縁膜、402…ゲート電極、403…ソース/ドレイン領域、404…ストレスライナー。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む成膜原料ガスをチャンバー内に供給し、水素が取り込まれた薄膜を半導体基板上に成膜する工程と、
前記薄膜から水素を離脱させる物質を含む水素離脱ガスを前記チャンバーにパルス的に供給しながら前記薄膜から水素を離脱させる工程と、を具備することを特徴とする高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項2】
マイクロ波励起プラズマを用いた高ストレス薄膜の成膜方法であって、
処理容器内に、珪素含有ガスと、窒素及び水素含有ガスとを導入する工程と、
マイクロ波を前記処理容器内に放射し、前記処理容器内に導入された前記珪素含有ガス及び前記窒素及び水素含有ガスをプラズマ化する工程と、
前記プラズマ化された前記珪素含有ガス及び前記窒素及び水素含有ガスを、被処理基板の表面上に供給し、この被処理基板の表面上に、成膜条件を、処理温度を300℃以上600℃以下、珪素含有ガスと窒素及び水素含有ガスとの流量比を0.005以上0.015以下、マイクロ波パワーを0.5W/cm以上2.045W/cm以下、処理圧力を133.3Pa以上13333Pa以下として窒化珪素膜を成膜する工程と、
前記窒化珪素膜から水素を離脱させる物質を含む水素離脱ガスを前記チャンバーにパルス的に供給しながら前記薄膜から水素を離脱させる工程と、
を具備することを特徴とする高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜から水素を離脱させる物質が、ハロゲン含有ガスであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項4】
前記ハロゲンが、弗素、又は塩素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項5】
前記水素を含む成膜原料ガスが、珪素の水素化物を含むガスと、窒素を含むガスとを含み、
前記薄膜が、窒化珪素膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項6】
前記窒化珪素膜から前記水素を離脱させる物質が、窒素の弗化物、又は塩素の弗化物であることを特徴とする請求項5に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項7】
前記窒素の弗化物、又は前記塩素の弗化物を含むガスが、前記チャンバーの内部を洗浄する洗浄ガスであることを特徴とする請求項6に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項8】
前記薄膜から水素を離脱させる工程が、
前記水素離脱ガスを、この水素離脱ガスの供給開始から前記成膜された薄膜の減膜量が許容範囲内に収まる時間内又は前記成膜された薄膜が減膜しない時間内で前記チャンバー内に供給する第1の工程と、
前記水素離脱ガスの供給を止め、前記チャンバー内の雰囲気を、前記水素離脱ガスが供給される前の雰囲気に戻す第2の工程と、を含み、
前記第1の工程及び第2の工程を所定の回数繰り返すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項9】
前記薄膜から水素を離脱させる工程が、プラズマ雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高ストレス薄膜の成膜方法。
【請求項10】
絶縁膜上に、この絶縁膜とは異なる物質を含むエッチングストッパを請求項1乃至請求項9いずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成する工程と、
前記エッチングストッパの上方に、このエッチングストッパとは異なる物質を含む層間絶縁膜を形成する工程と、
前記層間絶縁膜上に、この層間絶縁膜とは異なる物質を含むハードマスクを請求項1乃至請求項9いずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成する工程と、
前記ハードマスクをエッチングマスクに用いて、前記層間絶縁膜に、溝又は孔を形成する工程と、
を具備することを特徴とする半導体集積回路装置の製造方法。
【請求項11】
半導体基板上に、この半導体基板と絶縁され、上部にキャップ層を備えたゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極をマスクに用いて、ソース/ドレイン領域形成用の不純物を前記半導体基板内に導入する工程と、
前記ゲート電極の側壁上に、側壁スペーサを請求項1乃至請求項9いずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成する工程と、
を具備することを特徴とする半導体集積回路装置の製造方法。
【請求項12】
半導体基板上に、この半導体基板と絶縁されたゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極をマスクに用いて、ソース/ドレイン領域形成用の不純物を前記半導体基板内に導入する工程と、
前記半導体基板上に、前記ゲート電極を被覆し、前記ゲート電極下の前記半導体基板の部分にストレスを与えるストレスライナーを請求項1乃至請求項9いずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成する工程と、
を具備することを特徴とする半導体集積回路装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−246131(P2009−246131A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90716(P2008−90716)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】