説明

参照電圧発生回路および受信回路

【課題】 電源電圧依存性および温度依存性の低い参照電圧発生回路を提供し、もって受信感度の良好な受信回路を実現する。
【解決手段】 受信回路は、AMI符号化された一対の信号を増幅する差動増幅回路(11)と、差動増幅回路の出力と所定の参照電圧とを比較して入力信号の論理レベルを判別する受信データ判定回路(12)と、前記参照電圧を発生する参照電圧発生回路(13)とを備え、参照電圧発生回路は電源電圧を基準にした温度依存性の低い参照電圧を発生するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパレータに供給する参照電圧(比較電圧)を発生する参照電圧発生回路さらには電源電圧変動や温度変動の影響を受けにくい参照電圧発生回路およびそれを用いた受信回路に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器間の通信規格としてHBS(Home Bus System)がある。HBSには、伝送路としてツイステッドペア線を使用し、該伝送路上のデジタル信号の伝送にAMI(Alternate Mark Inversion)符号化された信号(以下、AMI信号という)を用いるものがある。AMI信号は、ゼロ、プラス、マイナスの3値で構成され、この信号を用いた通信においては、論理「0」をゼロで表し、論理「1」は極性を交互に変えて表すことでデータを伝送する。これにより、伝送波形が交流信号に近くなり、ノイズに強くなり安定したデータ伝送が可能になるという利点がある。なお、論理「1」の極性は、論理「0」の電位に対して正と負の極性であり、論理「0」の電位は0Vに限定されるものでなく、例えば5Vなどの電位を選択してもよい。
【0003】
従来、HBSを適用したシステムを構成する機器に実装され、機器間の通信機能を担うデバイスとして、HBSドライバ・レシーバIC(半導体集積回路)が提供されている。該ICには、伝送線上へAMI信号を生成して送信する送信ドライブ回路のほか、伝送線上のAMI信号の論理レベルを判別して受信データを再生する受信回路が内蔵されており、受信回路は所定の参照電圧(比較電圧)と受信信号とを比較して論理レベルを判別するコンパレータと、上記参照電圧を発生する参照電圧発生回路とを備えている。
【0004】
参照電圧発生回路は、一定の電流を流す定電流回路と該定電流回路のバイアス電圧を生成するバイアス回路(定電圧回路、基準電圧)と、定電流回路で生成された電流を電圧に変換して参照電圧とする電流−電圧変換回路などにより構成される。このような参照電圧発生回路としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。また、HBSを適用したシステムにおける受信回路に関する発明としては、例えば特許文献2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−207527号公報
【特許文献2】特開2007−318632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HBSが適用されるシステムにおいては、伝送路の長さが非常に長く例えば数10m以上になる場合があり、伝送信号の波形がなまったり振幅が小さくなったりすることがある。また、HBSで接続される機器が空気調和装置のように消費電力の大きなコンプレッサ等の負荷を備え、負荷が起動と停止を繰り返す機器である場合、負荷の起動時や停止時に電流が急激に変化して電源電圧が変動し、受信回路では参照電圧が変化して受信データを誤って判定するおそれがある。
【0007】
そのため、かかる機器間の通信にHBS方式が採用された場合、受信回路に用いられる参照電圧発生回路は、電源電圧が変動しても安定した参照電圧を発生することが望まれる。本発明者らは、そのような受信回路における参照電圧発生回路として、図5に示すような回路を考え、検討した。
【0008】
図5に示す回路は、伝送路からAMI符号化された差動入力信号を受けて増幅する差動増幅部11と、該差動増幅部11で増幅された信号と参照電圧Vrefとを比較して受信データを判定する受信データ判定部12と、参照電圧Vrefを発生する参照電圧発生部13とから構成されている。参照電圧発生部13は、電源電圧端子VDDと接地電位点GNDとの間に直列に接続された抵抗R1および絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(以下、MOSトランジスタと称する)M0と、抵抗R1とMOSトランジスタM0との接続ノードN1にゲート端子が接続されたMOSトランジスタM1および該M1のソース端子と接地電位点GNDとの間に接続された抵抗R3と、M1のドレイン端子と電源電圧端子VDDとに接続されたMOSトランジスタM2と、該M2とカレントミラー接続されたMOSトランジスタM3とを備え、M1とR3との接続ノードN2にMOSトランジスタM0のゲート端子が接続されて、M2の電流I1をM3に転写して、M3から定電流I2を流すように構成された定電流回路を有する。
【0009】
そして、この定電流回路から流される定電流I2をM4,M5からなるカレントミラー回路で折り返して抵抗R7に流して電圧に変換することによって、電源電圧VDDを基準とする参照電圧Vrefを発生するように構成されている。
【0010】
図5の参照電圧発生回路においては、定電流回路のMOSトランジスタM1の電流I1が、抵抗R3の抵抗値とノードN2の電位V2によってI1=V2/R3のように決まる。ここで、ノードN2の電位V2は、接地電位GNDよりもMOSトランジスタのしきい値電圧Vth分だけ高い電位に固定される、つまりV2=一定であるため、抵抗R3およびM1,M2に定電流I1を流すことができる。しかも、電位V2は接地電位GNDを基準にして決まるため、電源電圧が変動しても電位V2はほぼ一定であるので、電流I1はほとんど変化しない。その結果、電流I1に比例した電流I2さらには抵抗R7に流れる電流I3も変動せず、参照電圧Vref(=I3・R7)は電源電圧が変動しても電源電圧に対する相対的な電位はほとんど変化することがない、電源電圧依存性が低いという利点を有する。
【0011】
しかしながら、図5に示す回路は、ノードN2の電位V2が、MOSトランジスタM0のしきい値電圧Vthで決まるようになっており、MOSトランジスタのVthは温度係数が小さいためM0によるノードN2の電位V2への影響は少ないが、M1と直列に接続されている抵抗R3の温度特性によって、周囲温度が変化すると抵抗R3の抵抗値が変化して、図4(a)に破線B1で示すように電流I1も比較的大きく変化し、それによって参照電圧Vrefが変動してしまう。
【0012】
要するに、図5に示す回路にあっては、参照電圧Vrefが周囲温度に依存して変化する。そして、Vrefが変化すると受信回路の受信感度が低下し、受信信号のレベルを正しく判別することができなくなって受信データエラーを起こし易くなるという不具合があることが明らかとなった。なお、差動増幅部11から受信データ判定部12へ供給される信号をVi1、Vi2で表すと、受信感度は、Vi1<VrefかつVi2<VrefのときのVi1とVi2との電位差で定義され、この電位差の変動が小さいほど受信感度が良好とされる。
【0013】
この発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、電源電圧依存性および温度依存性の低い参照電圧発生回路を提供し、もって受信感度の良好な受信回路を実現することにある。
【0014】
この発明の他の目的は、参照電圧発生回路を該回路により生成される参照電圧の温度依存性を調整し易いような回路形式にして、受信感度の良好な受信回路を容易に設計することができる参照電圧発生回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明に係る参照電圧発生回路は、
電源電圧端子と定電位点との間に直列形態に接続された第1抵抗素子およびバイポーラ・トランジスタと、
前記第1抵抗素子と前記バイポーラ・トランジスタとの接続ノードにゲート端子が接続された第1MOSトランジスタと、
前記第1MOSトランジスタのソース端子と定電位点との間に直列形態に接続された第2抵抗素子と、
前記第1MOSトランジスタのドレイン端子と電源電圧端子との間に接続された第2MOSトランジスタと、
前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第3MOSトランジスタと、を有する定電流回路を備え、
該定電流回路で生成された定電流もしくはそれに比例した電流を電圧に変換することによって参照電圧を発生するように構成した。
【0016】
上記した構成によれば、バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧VBEが負の温度特性を有するため、第2抵抗素子の負の温度特性による第1MOSトランジスタと第2抵抗素子との接続ノードの電位を負の温度特性とすることができ、それによって定電流回路で生成される定電流さらには参照電圧の温度変動を抑えることができる。
【0017】
ここで、望ましくは、前記バイポーラ・トランジスタのエミッタ端子と定電位点との間に第3抵抗素子を接続した構成とする。これにより、第3抵抗素子の温度特性で第1MOSトランジスタと第2抵抗素子との接続ノードの電位の変化を第2抵抗素子の負の温度特性と同等にすることができる。すなわち、生成される参照電圧の温度依存性を調整し易い回路形式を有する参照電圧発生回路を実現できる。
【0018】
さらに、望ましくは、前記バイポーラ・トランジスタは、
CMOSプロセスにより形成されるNチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるコレクタ領域およびエミッタ領域と、
CMOSプロセスにより形成されるPチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるベース領域と、
を有し、前記コレクタ領域と前記エミッタ領域との間に前記ベース領域が配置された構造を有するように構成する。これにより、CMOSプロセスよりも複雑なBi−CMOSプロセスを使用することなくバイポーラ・トランジスタを有する参照電圧発生回路やそれを有する受信回路を製造することができ、それによってコストアップを抑えることができる。
【0019】
また、本願の他の発明に係る受信回路は、
AMI符号化された一対の入力信号を増幅する差動増幅回路と、
前記差動増幅回路の出力と所定の参照電圧とを比較して前記入力信号の論理レベルを判別する受信データ判定回路と、
前記電源電圧端子の電源電圧を基準にして前記参照電圧を発生する参照電圧発生回路と、を備え、前記参照電圧発生回路は、
電源電圧端子と定電位点との間に直列形態に接続された第1抵抗素子およびバイポーラ・トランジスタと、
前記第1抵抗素子と前記バイポーラ・トランジスタとの接続ノードにゲート端子が接続された第1MOSトランジスタと、
前記第1MOSトランジスタのソース端子と定電位点との間に直列形態に接続された第2抵抗素子と、
前記第1MOSトランジスタのドレイン端子と電源電圧端子との間に接続された第2MOSトランジスタと、
前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第3MOSトランジスタと、を有する定電流回路を備え、
該定電流回路で生成された定電流もしくはそれに比例した電流を電圧に変換することによって前記参照電圧を発生するように構成した。
【0020】
上記した構成によれば、参照電圧発生回路は電源電圧を基準にした参照電圧を発生するため、受信データ判定回路における相対的な判定レベルを電源電圧の変動に関わらず一定に保持することができ、受信データの誤判定を減らすことができる。また、バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧VBEが負の温度特性を有するため、第2抵抗素子の負の温度特性により、第1MOSトランジスタに流れる電流の温度特性を減殺することができ、それによって定電流回路で生成される定電流さらには参照電圧の温度変動を抑えることができる。
【0021】
また、望ましくは、前記バイポーラ・トランジスタのエミッタ端子と定電位点との間に第3抵抗素子を接続する。これにより、第3抵抗素子の温度特性で第1MOSトランジスタと第2抵抗素子との接続ノードの電位の変化をさらに第2抵抗素子の負の温度変動に近づけることができる。すなわち、生成される参照電圧の温度依存性を調整し易い回路形式を有し、受信感度の良好な受信回路を容易に設計することができる参照電圧発生回路を実現できる。
【0022】
さらに、望ましくは、前記バイポーラ・トランジスタは、
CMOSプロセスにより形成されるNチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるコレクタ領域およびエミッタ領域と、
CMOSプロセスにより形成されるPチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるベース領域と、
を有し、前記コレクタ領域と前記エミッタ領域との間に前記ベース領域が配置された構造を有するように構成する。これにより、CMOSプロセスよりも複雑なBi−CMOSプロセスを使用することなくバイポーラ・トランジスタを有する参照電圧発生回路やそれを有する受信回路を製造することができ、それによってコストアップを抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電源電圧依存性および温度依存性の低い参照電圧発生回路を実現し、これによって受信感度の良好な受信回路を実現することができる。また、参照電圧発生回路を該回路により生成される参照電圧の温度依存性を調整し易いような回路形式にして、受信感度の良好な受信回路を容易に設計することができる参照電圧発生回路を実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明をHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路に適用した場合の第1の実施形態を示す回路図である。
【図2】実施形態の受信回路において受信データ判定部の判定に使用される参照電圧を発生する参照電圧発生回路を構成するバイポーラ・トランジスタのデバイス構造の例を示す断面図である。
【図3】本発明をHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路に適用した場合の第2の実施形態を示す回路図である。
【図4】(a)は参照電圧発生回路内のバイアス回路に流れる電流の温度依存性を示す特性図、(b)は実施形態の参照電圧発生回路を使用した受信回路における受信感度の温度依存性を示す特性図である。
【図5】本発明に先立って検討したHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路に使用する参照電圧発生回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1には、HBS(Home Bus System)を適用したシステムを構成する機器に実装され、機器間の通信機能を担うHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路の第1の実施形態が示されている。
【0026】
本実施形態の受信回路は、伝送路からAMI(Alternate Mark Inversion)符号化された差動入力信号を受けて増幅する差動増幅部11と、該差動増幅部11で増幅された信号と参照電圧Vrefとを比較して受信データを判定する受信データ判定部12と、上記参照電圧Vrefを発生する参照電圧発生部13とを備えている。
【0027】
差動増幅部11は、ベース端子がそれぞれAMI信号の入力端子IN1,IN2に接続された一対のバイポーラ・トランジスタからなる入力差動トランジスタQ1,Q2と、該トランジスタQ1,Q2のコレクタと電源電圧端子VDDとの間に接続された負荷抵抗R4,R5と、入力差動トランジスタQ1,Q2のエミッタと定電位点としての接地電位点GNDとの間に接続された定電流用MOSトランジスタM6,M7と、入力差動トランジスタQ1,Q2のエミッタ端子間に接続された抵抗R6とから構成されている。入力差動トランジスタQ1,Q2は、バイポーラ・トランジスタの代わりにMOSトランジスタ(絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。
【0028】
受信データ判定部12は、差動増幅部11の差動出力が非反転入力端子に入力され、反転入力端子に入力される参照電圧Vrefと比較する一対のコンパレータ21,22と、コンパレータ21,22の出力を入力とするNORゲート23とから構成されている。受信データ判定部12は、差動増幅部11に入力される一対のAMI信号がほぼ同一レベルのときはコンパレータ21,22の出力が共にロウレベルとなり、NORゲート23からハイレベル(論理「1」)の信号を出力する。また、受信データ判定部12は、差動増幅部11に入力される一対のAMI信号が互いに極性の異なる信号であるときにコンパレータ21,22の出力の一方がハイレベルとなり、NORゲート23からロウレベル(論理「0」)の信号を出力する。従って、NORゲート23の出力を反転することで、正規の受信データとすることができる。
【0029】
参照電圧発生部13は、電源電圧端子VDDと接地電位点GNDとの間に直列形態に接続された電流−電圧変換用の抵抗R7および定電流用MOSトランジスタM5と、該定電流用MOSトランジスタM5のゲートバイアス電圧Vbを与えるバイアス回路31とから構成されている。そして、該バイアス回路31から出力されるバイアス電圧Vbが、定電流用MOSトランジスタM5および前記差動増幅部11の定電流用MOSトランジスタM6,M7のゲート端子に共通に印加され、M5,M6,M7に流れる電流がバイアス電圧Vbに応じて決定されるように構成されている。具体的には、バイアス回路31の出力部の電流−電圧変換用のMOSトランジスタM4と上記定電流用MOSトランジスタM5,M6,M7とがカレントミラー接続されており、M4とM5,M6,M7とのサイズ比に応じて、バイアス回路31の出力電流I2に比例した電流がM5,M6,M7に流れるようにされる。なお、差動増幅部11のM6とM7は同一サイズにされる。
【0030】
この実施例(図1)のバイアス回路31は、図5に示す回路におけるNチャネル型MOSトランジスタM0をNPNバイポーラ・トランジスタQ0に置き換えたものに相当しており、電源電圧端子VDDと接地電位点GNDとの間に直列に接続された抵抗R1およびバイポーラ・トランジスタQ0と、R1とQ0との接続ノードN1にゲート端子が接続されたMOSトランジスタM1および該M1のソース端子と接地電位点GNDとの間に接続された抵抗R3と、M1のドレイン端子と電源電圧端子VDDとの間に接続されたPチャネル型MOSトランジスタM2と、M2とカレントミラー接続されたPチャネル型MOSトランジスタM3とを備え、M1とR3との接続ノードN2にバイポーラ・トランジスタQ0のベース端子が接続されて、M1の電流I1をM2,M3のカレントミラーでM3に転写して、M3から定電流I2を流すように構成された定電流回路を有する。
【0031】
そして、この定電流回路から流される定電流I2を、ゲートとドレインが結合されたNチャネル型MOSトランジスタM4で電圧に変換することによってバイアス電圧Vbを生成し、M4とカレントミラー接続されたNチャネル型MOSトランジスタM5によって定電流I2に比例した電流I3を抵抗R7に流して電圧に変換することによって、電源電圧VDDを基準とする参照電圧Vrefを発生するように構成されている。
【0032】
この実施形態においては、図5の回路におけるMOSトランジスタM0の代わりに、バイポーラ・トランジスタQ0を使用している。MOSトランジスタのしきい値電圧Vthは温度係数がMOSトランジスタのW/Lのサイズ比により変動するため、図5の回路ではプロセスばらつきによりノードN2の電位V2の温度変動量がばらつきを持ち、第1MOSトランジスタに流れる電流の温度特性が変化し、参照電圧Vrefが変化するおそれがあった。これに対し、図1の回路においては、バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧VBEの温度係数が一定であるため、抵抗R3の負の温度特性によりMOSトランジスタM1に流れる電流の温度変動を小さくすることができ、参照電圧Vrefの変化を抑えることができる。
【0033】
具体的には、例えば温度が上昇して抵抗R3の抵抗値が減少すると抵抗R3に流れる電流I1が増加しようとするが、このときバイポーラ・トランジスタQ0のVBEが負の温度特性を有するため、温度上昇に応じてVBEが小さくなる。そのため、MOSトランジスタM2,M3に流れる電流をI1は、温度が変化しても図5の回路に比べて変化が小さくなり、ノードN2の電位V2の変化ひいては参照電圧Vrefの変化を抑制することができるようになる。また、この実施形態においては、バイアス回路31で生成された安定したバイアス電圧Vbによって差動増幅部11の定電流用MOSトランジスタM6,M7がバイアスされているため、差動増幅回路の電流すなわち差動増幅回路の増幅率の温度変動を抑制する効果が得られる。
【0034】
しかも、本実施形態では、電源電圧VDDを基準とする参照電圧Vrefを発生するように構成されているため、受信データ判定部12における判定精度すなわち受信感度を向上させることができる。その理由は、電源電圧VDDが変動すると差動増幅部11の出力レベルが変化するが、電源電圧の変化に応じて参照電圧Vrefも変化することで、相対的な判定レベルを電源電圧VDDの変動に関わらず一定に保持できるためである。
【0035】
さらに、一般的なバイポーラICにおけるNPNバイポーラ・トランジスタには、半導体基板内にコレクタ領域となるN型埋込み層を有しその上方にエミッタ領域とベース領域が順次形成された縦型トランジスタが使用されているが、本実施形態においては、バイポーラ・トランジスタQ0として、図2に示すように、CMOSプロセスで半導体チップ上に形成可能な横型のバイポーラ・トランジスタを使用したとしても、図5の回路に比べて参照電圧Vrefの変化を抑制することができることを試作やシミュレーションによって確認した。
【0036】
なお、図2に示すバイポーラ・トランジスタは、CMOS半導体集積回路において、Nチャネル型MOSトランジスタのソース・ドレイン領域が形成されるNウェル領域41上に、ソース・ドレイン領域としてのN型拡散層と同時に形成される矩形リング状のN型領域42によって横型バイポーラ・トランジスタのコレクタ領域が形成されている。また、コレクタとしてのN型領域42の内側には、Pチャネル型MOSトランジスタのソース・ドレイン領域が形成されるPウェル領域43上に、ソース・ドレイン領域としてのP型拡散層と同時に形成される矩形リング状のP型領域44によって横型バイポーラ・トランジスタのベース領域が形成されている。そして、このベースとしてのP型領域44の内側に、Nチャネル型MOSトランジスタのソース・ドレイン領域としてのN型拡散層と同時に形成される矩形状のN型領域45によって横型バイポーラ・トランジスタのエミッタ領域が形成されている。40は単結晶シリコンのような半導体チップであり、本実施例ではP型の基板が用いられているが、N型基板を用いてもよい。
【0037】
前記バイアス回路31を構成する上記トランジスタQ0の他、差動増幅部11を構成する入力差動トランジスタQ1,Q2にも、図2に示すようなCMOSプロセスで半導体チップ上に形成可能な横型のバイポーラ・トランジスタを使用することができる。従って、本実施形態は、CMOSプロセスよりも複雑なBi−CMOSプロセスを使用することなくバイポーラ・トランジスタを有する参照電圧発生回路やそれを有する受信回路を製造することができ、それによってコストアップを抑えることができるという効果もある。
【0038】
次に、図3を用いて本発明を適用したHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路の第2の実施形態について説明する。
本実施形態の受信回路は、第1の実施形態(図1)のバイアス回路31において、バイポーラ・トランジスタQ0のエミッタと接地電位点GNDとの間に、抵抗R2を追加したものである。前記第1実施形態では、バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧VBEが負の温度特性を有するため、抵抗R3の負の温度特性によりMOSトランジスタM1に流れる電流の温度変動を小さくすることができると説明したが、VBEの温度特性は抵抗R3の温度特性よりも小さいため充分に相殺することができない。
【0039】
第2の実施形態では、バイポーラ・トランジスタQ0のエミッタと接地電位点GNDとの間に、抵抗R2を追加することによって、抵抗R2の温度特性で第1の実施形態の回路よりもさらに温度変化に伴うノードN2の電位V2の変化を調整し易くすることができるという利点がある。
【0040】
図3のバイアス回路31においては、バイポーラ・トランジスタQ0に流れるコレクタ電流をIc、抵抗R3に流れる電流をI0、MOSトランジスタM1,M2に流れるドレイン電流をI1、MOSトランジスタM1のゲート・ソース間電圧をVGS、バイポーラ・トランジスタQ0の電流増幅率をhFEとおくと、Ic,I0,I1は、次式(1)〜(3)で表される。なお、ΔVGS、ΔVBE、ΔR2、ΔR3、ΔhFEは、温度の変化に伴うVGS、VBE、R2、R3、hFEの変動分である。
【0041】
【数1】

【0042】
【数2】

【0043】
【数3】

【0044】
式(3)において、hFE=∞とした場合、トランジスタQ0に流れるベース電流IBはIB≒0であり、式(2)と式(3)より、次式(4)が得られる。
【0045】
【数4】

【0046】
【数5】

【0047】
上記式(4)において、VBEはバイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧であり、プロセスに依存する素子特性によって決まる値である。従って、設定電流値を決めてから、式(5)を代入した式(4)を満たすように、抵抗R1,R2,R3の抵抗値を決定してやることで、MOSトランジスタM1,M2に流れる電流I1が温度変化に応じて変化するのを抑えたり、所望の温度特性を与えたりすることがきる。
【0048】
前述したように、図5の回路では温度変化によってノードN2の電位V2が変動し、バイアス回路31から出力される電流I2が図4(a)に破線B1で示すように、温度の変化に応じて大きく変化するおそれがあった。これに対し、第2の実施形態においては、図5の回路におけるMOSトランジスタM0の代わりに、バイポーラ・トランジスタQ0を使用しQ0のエミッタと接地電位点との間に抵抗R2を設けているため、温度変化に伴うノードN2の電位V2の変化を第2抵抗素子の温度変動と同等にすることができ、バイアス回路31から出力される電流I2の変化を、図4(a)に実線A1で示すように、小さくすることができる。そして、その結果、受信回路としての受信感度が、図5の回路では図4(b)に破線B2で示すように、温度の変化に応じて大きく変化するおそれがあったのに対し、図3の回路においては、図4(b)に実線A2で示すように、変化を小さくすることができる。
【0049】
さらに、周囲温度の変化に応じて差動増幅部11の回路や受信データ判定部12を構成するコンパレータ21,22を構成する素子の温度特性によって、コンパレータの特性すなわち受信感度が変化する可能性がある。本実施形態によれば、バイアス回路31の出力に任意の温度特性を持たせることができるため、予め差動増幅部11の回路や受信データ判定部12のコンパレータの温度特性を調べて、その温度特性を打ち消すような温度特性をバイアス回路31の出力に与えておくように設計することによって、さらに受信感度の温度特性を向上させることができる。
【0050】
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではない。例えば前記実施例では、電源電圧VDDを基準にして参照電圧Vrefを発生するため、バイアス回路31のMOSトランジスタM3により出力される定電流をカレントミラー(M4,M5)で折り返して電流−電圧変換用の抵抗R7に流しているが、適用する回路によっては、バイアス回路31のMOSトランジスタM3により出力される定電流を直接抵抗に流して電圧に変換することで、接地電位基準の参照電圧Vrefを発生するように構成してもよい。
【0051】
また、以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野であるHBSドライバ・レシーバICに内蔵される受信回路およびそれに用いられる参照電圧発生回路に適用した場合について説明したが、本発明は定電流回路に与えるバイアス電圧を生成するバイアス回路などにも利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
11 差動増幅部(差動増幅回路)
12 受信データ判定部
13 参照電圧発生部(参照電圧発生回路)
21,22 コンパレータ
31 バイアス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧端子と定電位点との間に直列形態に接続された第1抵抗素子およびバイポーラ・トランジスタと、
前記第1抵抗素子と前記バイポーラ・トランジスタとの接続ノードにゲート端子が接続された第1MOSトランジスタと、
前記第1MOSトランジスタのソース端子と定電位点との間に直列形態に接続された第2抵抗素子と、
前記第1MOSトランジスタのドレイン端子と電源電圧端子との間に接続された第2MOSトランジスタと、
前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第3MOSトランジスタと、
を有する定電流回路を備え、該定電流回路で生成された定電流もしくはそれに比例した電流を電圧に変換することによって参照電圧を発生するように構成されていることを特徴とする参照電圧発生回路。
【請求項2】
前記バイポーラ・トランジスタのエミッタ端子と定電位点との間に第3抵抗素子が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の参照電圧発生回路。
【請求項3】
前記バイポーラ・トランジスタは、
CMOSプロセスにより形成されるNチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるコレクタ領域およびエミッタ領域と、
CMOSプロセスにより形成されるPチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるベース領域と、
を有し、前記コレクタ領域と前記エミッタ領域との間に前記ベース領域が配置された構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の参照電圧発生回路。
【請求項4】
AMI符号化された一対の入力信号を増幅する差動増幅回路と、
前記差動増幅回路の出力と所定の参照電圧とを比較して前記入力信号の論理レベルを判別する受信データ判定回路と、
前記参照電圧を発生する参照電圧発生回路と、
を備え、
前記参照電圧発生回路は、
電源電圧端子と定電位点との間に直列形態に接続された第1抵抗素子およびバイポーラ・トランジスタと、
前記第1抵抗素子と前記バイポーラ・トランジスタとの接続ノードにゲート端子が接続された第1MOSトランジスタと、
前記第1MOSトランジスタのソース端子と定電位点との間に直列形態に接続された第2抵抗素子と、
前記第1MOSトランジスタのドレイン端子と電源電圧端子との間に接続された第2MOSトランジスタと、
前記第2MOSトランジスタとカレントミラー接続された第3MOSトランジスタと、
を有する定電流回路を備え、該定電流回路で生成された定電流もしくはそれに比例した電流を電圧に変換することによって、前記電源電圧端子の電源電圧を基準にした参照電圧を発生するように構成されていることを特徴とする受信回路。
【請求項5】
前記定電流回路は、
前記バイポーラ・トランジスタのエミッタ端子と定電位点との間に接続された第3抵抗素子を備えていることを特徴とする請求項4に記載の受信回路。
【請求項6】
前記バイポーラ・トランジスタは、
CMOSプロセスにより形成されるNチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるコレクタ領域およびエミッタ領域と、
CMOSプロセスにより形成されるPチャネルMOSトランジスタのソース、ドレイン領域と同一工程で形成されるベース領域と、
を有し、前記コレクタ領域と前記エミッタ領域との間に前記ベース領域が配置された構造を有することを特徴とする請求項4または5に記載の受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−107800(P2011−107800A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259470(P2009−259470)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】