説明

自動変速機の制御装置

【課題】車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせることのない自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】回生運転中にエンジン始動要求が生じた場合、第2ブレーキB2を解放すると共に、モータ・ジェネレータMGを正回転側に駆動制御する。これにより、車速を維持したまま第2変速部32における第3サンギヤS3の回転数を低下させていく。また、エンジン1の始動を行い、これにより、第1変速部31における第1リングギヤR1の回転数を上昇させていく。これにより、第1クラッチC1の前後の回転数差を小さくしていき、これらの回転数差が所定値以下にまで低下した時点で第1クラッチC1の係合を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系にエンジン(内燃機関)とモータ(電動機)とを備えたハイブリッド車両等に搭載される自動変速機の制御装置に係る。特に、本発明は、車両走行中にエンジンを始動させる制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護等の観点から、車両に搭載されたエンジンからの排気ガス排出量の低減や燃料消費量の削減が望まれており、これらを満足する車両として、ハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両が実用化されている(例えば下記の特許文献1や特許文献2を参照)。
【0003】
このハイブリッド車両は、ガソリンエンジンなどの駆動源(以下、エンジンという)と、このエンジンの出力により発電したりバッテリの電力により駆動する電動機(例えばモータ・ジェネレータまたはモータ:以下、モータ・ジェネレータという)とを備え、エンジン及びモータ・ジェネレータのいずれか一方または双方を走行駆動源としている。
【0004】
この種のハイブリッド車両では、各種条件に基づいて、エンジン及びモータ・ジェネレータの駆動・停止を制御することにより、エンジンのみを駆動するエンジン駆動モード、モータ・ジェネレータのみを使用しこのモータ・ジェネレータを電動モータとして駆動するモータ駆動モード、エンジン及びモータ・ジェネレータを共に駆動するエンジン・モータ駆動モードでの走行が切り替え可能である。これにより、排気ガス排出量の低減、燃料消費量の削減、騒音の低減等を図ることができる。また、上記モータ・ジェネレータを力行状態あるいは回生状態に制御することにより、正トルクを出力部材に付加したり、あるいは負トルクを出力部材に付加することができる。例えば、車両の惰性走行(コースト走行)時には、負トルクを出力部材に付加することにより、駆動輪の回転力を利用してモータ・ジェネレータにより発電を行わせる回生運転が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162081号公報
【特許文献2】特開2006−118681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようなハイブリッド車両において、上記回生運転時の効率を向上(発電量を増大)させるために、上記モータ・ジェネレータを含む変速機とエンジンとを遮断することが有効である。つまり、特許文献1に開示されているように、変速機(モータ・ジェネレータを含む)とエンジンとの間の動力伝達経路上にクラッチを備えさせ、回生運転時には、このクラッチを解放することで、エンジンのフリクション等の影響で回生効率が低下してしまうことを回避して、高い回生効率を得るようにするものである。
【0007】
ところが、上述した如く変速機とエンジンとを遮断して回生運転を行っている状況で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作によってトルク要求が生じた場合には、エンジン始動と共に上記クラッチを締結することが必要になる。
【0008】
また、車両の発電装置としてオルタネータを備えておらず上記モータ・ジェネレータによって発電するシステムにおいて、例えばモータ駆動モードでの走行中にバッテリ蓄電量が不足した場合にも、同様に、エンジン始動と共に上記クラッチを締結することが必要になる。
【0009】
このような要求に迅速に応えるためには、上記要求(トルク要求等)が生じると直ちにエンジンを始動し且つクラッチを締結することが望ましい。しかし、この場合、上記要求が生じる前段階ではエンジンが停止しているため、エンジン側の回転数と変速機側の回転数との間に回転差が生じていることから、クラッチの締結に伴って車両減速側の振動(引き込みショックとも呼ばれる)が発生してしまってドライバビリティの悪化を招いてしまうことになる。
【0010】
上記引き込みショックを回避するための手法として、上記クラッチを解放状態にしたままエンジンを始動させ、その始動後、エンジン回転数が変速機の入力軸回転数に略一致したタイミング(上記クラッチにおけるエンジン側の回転数と変速機側の回転数とが略一致したタイミング)で上記クラッチを締結することが考えられる。
【0011】
しかし、これでは、エンジン回転数が変速機の入力軸回転数まで上昇するのを待つ(上記クラッチにおけるエンジン側の回転数が変速機側の回転数まで上昇するのを待つ)必要があり、上記要求(トルク要求等)が生じてからエンジンの駆動力が変速機やモータ・ジェネレータに伝達される状態となるまでの間にタイムラグが生じてしまい、上記要求に迅速に応えることができなくなってしまう。また、この場合、エンジン回転数を吸入空気量で制御することになるが、この吸入空気量に対するエンジン回転数のバラツキが大きいため、上記各回転数を一致させることも困難である。
【0012】
また、特許文献1には、モータの駆動力のみを使用した電気走行中に要求駆動力が急増した場合、エンジンクラッチをスリップ締結させてエンジンのクランキングを行い、エンジン回転数が所定回転数まで上昇した時点で上記エンジンクラッチを解放し、その後、エンジン回転数がクラッチの変速機側回転数よりも高くなると、再びエンジンクラッチをスリップ締結状態にすることで、イナーシャトルクがエンジントルクに上乗せされて車輪への駆動力を大きく確保することが開示されている。しかしながら、このようなエンジン始動動作では、クラッチをスリップ締結させる際に要する時間、その後にクラッチを解放させる際に要する時間、更には、再びクラッチをスリップ締結させる際に要する時間が必要になり、エンジントルクが車輪へ伝達される状態となるまでに長い時間を要してしまうことになり、運転者の駆動力要求に迅速に応えることができない。
【0013】
また、特許文献2には、エンジンとモータ・ジェネレータとの間に第1クラッチを、モータ・ジェネレータと車輪側との間に第2クラッチをそれぞれ備えさせ、車両のコースト走行中において、第1クラッチのモータ側回転数が所定回転数よりも高いときには第2クラッチを解放すると共に第1クラッチを係合するエンジン始動待機状態にしておくことが開示されている。これにより、エンジンの始動要求時には即座にクランキングが行えるようにしている。ところが、このエンジン始動待機状態では第2クラッチが解放されていることから、駆動輪の回転力がモータ・ジェネレータに伝達されなくなり、回生運転を行うことができない状況となる。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせることのない自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、変速部に備えられた電動機の回転を伴って車両が走行している状態から、エンジンを始動する際に、上記変速部における一部の回転要素の回転を停止させていたブレーキ手段を解放させ、これによって、エンジンの駆動力を変速部に伝達するべく係合されるクラッチの係合動作と電動機の回転数変化とが連動できるようにし、この電動機の回転数変化により車速の変化を伴うことなしにクラッチが係合できるようにしている。
【0016】
−解決手段−
具体的に、本発明は、エンジンと変速部との間の動力伝達系路上に、この動力伝達系路を遮断可能とするクラッチを配設すると共に、上記変速部を、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素、第4回転要素が備えられた遊星歯車装置で構成する。そして、上記第1回転要素を、上記クラッチが係合状態にある際にエンジンからの駆動力が上記動力伝達系路を経て伝達可能とする。上記第2回転要素を、変速部の出力部材に連結する。上記第3回転要素を、ブレーキ手段によって回転停止が可能にする。上記第4回転要素を、電動機に連結し、この電動機と回転一体に配設する。また、上記第2回転要素の回転速度に基づいて変速段を選定する変速段選定手段と、上記ブレーキ手段によって第3回転要素の回転が停止され、且つ電動機の回転を伴って車両が走行している状態から、エンジンを始動する際、上記ブレーキ手段を解放して第3回転要素の回転を許容するエンジン始動制御手段とを備えさせている。
【0017】
より具体的には、上記ブレーキ手段を解放すると共に、上記第2回転要素の回転数を略一定とした場合に、上記変速段選定手段によって選定される変速段が成立し且つ上記クラッチのエンジン側の回転数と変速部側の回転数とを同期させるよう上記電動機の回転数を制御して第1回転要素の回転数を調整する構成としている。
【0018】
この特定事項により、上記クラッチを解放状態にすると共に、電動機を被駆動状態にして発電させる回生運転時等(電動機の回転を伴って車両が走行している状態)においてエンジンを始動する際には、上記ブレーキ手段を解放して第3回転要素の回転を許容する。これにより、各回転要素のうち第2回転要素の回転数を維持したまま他の回転要素の回転数を変化させることが可能になる(変速段選定手段によって選定される変速段が成立するような回転要素の回転数変化が可能になる)。つまり、第1、第3、第4の回転要素の回転数が変化することで、変速部の出力部材の回転数変動(車速の変動)に起因するショックを発生することなしに、エンジンの駆動力を変速部に伝達するべくクラッチの係合動作が行える。このため、これら回転要素の回転数変化によってクラッチ係合時に大きなショックが発生することがない。その結果、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせることがなくなる。
【0019】
また、上述した如く電動機の回転数を制御して第1回転要素の回転数を調整する構成とすることで、上記クラッチのエンジン側の回転数と変速部側の回転数とを迅速に同期させることが可能になり、上記エンジン始動要求が生じてから、エンジン始動の完了、及び、エンジンの駆動力が上記変速部の出力部材に伝達される動力伝達経路が成立するまでの期間を短縮化できる。また、電動機と駆動輪とを遮断する必要がないため、エンジン始動が完了するまで回生運転を継続することも可能である。
【0020】
また、上記遊星歯車装置は、上記第4回転要素に入力される上記電動機の駆動トルクを増幅させて上記第2回転要素から出力する構成となっている。
【0021】
これにより、電動機の駆動トルクが小さくても変速部の出力部材には十分に高いトルクを与えることが可能になり、電動機の小型化が可能になる。
【0022】
上記遊星歯車装置の具体構成としては以下の2タイプが挙げられる。先ず、第1のタイプとして、上記自動変速機に第1変速部と第2変速部とを備えさせる。第1変速部は、第1サンギヤ、互いに噛み合う一対の第1ピニオン、この第1ピニオンを自転及び公転可能に支持する第1キャリヤ、上記一対の第1ピニオンを介して第1サンギヤと噛み合う第1リングギヤを有するダブルピニオン型の第1遊星歯車装置からなる。第2変速部は、第2サンギヤ、第2ピニオン、この第2ピニオンを自転及び公転可能に支持する第2キャリヤ、上記第2ピニオンを介して第2サンギヤと噛み合う第2リングギヤを有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置、及び、第3サンギヤ、互いに噛み合う一対の第3ピニオン、この第3ピニオンを自転及び公転可能に支持する第3キャリヤ、上記一対の第3ピニオンを介して第3サンギヤと噛み合う第3リングギヤを有するダブルピニオン型の第3遊星歯車装置からなる。そして、上記第2変速部は、上記第2遊星歯車装置の第2キャリヤと上記第3遊星歯車装置の第3キャリヤとが一体化されて共通キャリヤを構成する共に、上記第2遊星歯車装置の第2リングギヤと上記第3遊星歯車装置の第3リングギヤとが一体化されて共通リングギヤを構成し、且つ、上記第2ピニオンと上記一対の第3ピニオンの一方とが共通ピニオンを構成するラビニオ式歯車列として構成されている。また、上記第1サンギヤは静止部材に常時連結され、上記第1キャリヤは上記エンジンに動力伝達可能に連結され、上記第1リングギヤは上記第1キャリヤの回転に対して減速されて出力され、上記第2サンギヤは第4クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結されると共に、第3クラッチを介して上記第1リングギヤに選択的に連結され、且つ、第1ブレーキを介して静止部材に選択的に連結され、上記第3サンギヤは第1クラッチを介して上記第1リングギヤに選択的に連結され、上記共通キャリヤは第2クラッチを介して上記エンジンに動力伝達可能に連結されると共に、第2ブレーキを介して上記静止部材に選択的に連結され、上記共通リングギヤは出力軸に連結された構成とする。更に、上記電動機が上記第2サンギヤに動力伝達可能に連結された構成とする。そして、上記第1回転要素が上記第3サンギヤに対応し、上記第2回転要素が上記共通リングギヤに対応し、上記第3回転要素が上記共通キャリヤに対応し、上記第4回転要素が上記第2サンギヤに対応し、上記第1クラッチ〜第4クラッチのいずれかが上記クラッチに対応し、上記第2ブレーキが上記ブレーキ手段に対応した構成となっている。
【0023】
第2のタイプとして、上記自動変速機に第1変速部と第2変速部とを備えさせる。第1変速部は、第1サンギヤ、第1ピニオン、この第1ピニオンを自転及び公転可能に支持する第1キャリヤ、上記第1ピニオンを介して第1サンギヤと噛み合う第1リングギヤを有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置からなる。第2変速部は、第2サンギヤ、第2ピニオン、この第2ピニオンを自転及び公転可能に支持する第2キャリヤ、上記第2ピニオンを介して第2サンギヤと噛み合う第2リングギヤを有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置、及び、第3サンギヤ、互いに噛み合う一対の第3ピニオン、この第3ピニオンを自転及び公転可能に支持する第3キャリヤ、上記一対の第3ピニオンを介して第3サンギヤと噛み合う第3リングギヤを有するダブルピニオン型の第3遊星歯車装置からなる。そして、上記第2変速部は、上記第2遊星歯車装置の第2キャリヤと上記第3遊星歯車装置の第3キャリヤとが一体化されて共通キャリヤを構成する共に、上記第2遊星歯車装置の第2リングギヤと上記第3遊星歯車装置の第3リングギヤとが一体化されて共通リングギヤを構成し、且つ、上記第2ピニオンと上記一対の第3ピニオンの一方とが共通ピニオンを構成するラビニオ式歯車列として構成されている。また、上記第1サンギヤは静止部材に常時連結され、上記第1リングギヤは上記エンジンに動力伝達可能に連結され、上記第1キャリヤは上記リングギヤの回転に対して減速されて出力され、上記第2サンギヤは第3クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結されると共に、第1ブレーキを介して静止部材に選択的に連結され、上記第3サンギヤは第1クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結され、上記共通キャリヤは第2クラッチを介して上記エンジンに動力伝達可能に連結されると共に、第2ブレーキを介して上記静止部材に選択的に連結され、上記共通リングギヤは出力軸に連結された構成とする。更に、上記電動機が上記第2サンギヤに動力伝達可能に連結された構成とする。そして、上記第1回転要素が上記第3サンギヤに対応し、上記第2回転要素が上記共通リングギヤに対応し、上記第3回転要素が上記共通キャリヤに対応し、上記第4回転要素が上記第2サンギヤに対応し、上記第1クラッチ〜第3クラッチのいずれかが上記クラッチに対応し、上記第2ブレーキが上記ブレーキ手段に対応した構成となっている。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、変速部に備えられた電動機の回転を伴って車両が走行している状態から、エンジンを始動する際に、上記変速部における一部の回転要素の回転を停止させていたブレーキ手段を解放させ、これによって、変速部の出力部材に連結する回転要素以外の回転要素の回転数変化により、車速の変化を伴うことなしにクラッチが係合できるようにしている。このため、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】実施形態に係る自動変速機のギヤレイアウトを示すスケルトン図である。
【図3】変速機構部における各クラッチ及び各ブレーキの変速段毎の係合状態を示す図である。
【図4】トランスミッション制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】シフト装置を示す斜視図である。
【図6】自動変速機の変速制御に用いられる変速マップを示す図である。
【図7】第1変速部及び第2変速部における各回転要素の回転数比を変速段毎に示す共線図である。
【図8】エンジン始動制御の手順を示すフローチャート図である。
【図9】エンジン始動制御時における各回転要素の回転数比を示す共線図である。
【図10】変形例に係る自動変速機のギヤレイアウトを示すスケルトン図である。
【図11】変形例に係る変速機構部における各クラッチ及び各ブレーキの変速段毎の係合状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、ハイブリッドシステムを搭載したFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両に本発明を適用した場合について説明する。
【0027】
本実施形態において特徴とする制御であるエンジン始動時の制御について説明する前に、車両のパワートレーン及び自動変速機の基本動作等について説明する。
【0028】
図1は、本実施形態における車両のパワートレーンを示す概略構成図、図2は、図1の自動変速機2の一例を示すスケルトン図である。尚、この図2では、自動変速機2の回転中心軸に対して上側半分のみを模式的に示している。
【0029】
図1において、1はエンジン、2は自動変速機、3はエンジン制御装置(エンジンECU)、4はトランスミッション制御装置(変速機ECU)である。
【0030】
−エンジン1−
エンジン1は、外部から吸入する空気と燃料噴射弁5から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を燃焼させることにより、回転動力を発生するものである。この燃料噴射弁5は、エンジン制御装置3により制御される。尚、本実施形態ではガソリンエンジンが適用されている。
【0031】
−自動変速機2−
自動変速機2は、主として、トルクコンバータ20、変速機構部30、油圧制御装置40、オイルポンプ60を含んで構成されており、前進8段、後進2段の変速が可能になっている。
【0032】
図2に示すように、トルクコンバータ20は、エンジン1の出力側に連結されるものであって、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26を備えている。
【0033】
ワンウェイクラッチ24は、ステータ23を自動変速機2のケース2aに一方向の回転のみを許容して支承するものである。ステータシャフト25は、ワンウェイクラッチ24のインナレースを自動変速機2のケース2aに固定するものである。
【0034】
ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結可能とするものであり、必要に応じて、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結する係合状態と、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態と、これら係合状態と解放状態との中間の半係合状態とに切り換えられる。
【0035】
このロックアップクラッチ26の係合力制御は、ロックアップコントロールバルブ27でポンプインペラ21とタービンランナ22とに対する作動油圧をコントロールすることによって行われる。
【0036】
変速機構部30は、トルクコンバータ20から入力軸9に入力される回転動力を変速して出力軸10に出力するものであって、図2に示すように、第1変速部(フロントプラネタリ)31と、第2変速部(リアプラネタリ)32と、中間ドラム33と、第1〜第4クラッチC1〜C4と、第1,第2ブレーキB1,B2とを含む構成となっている。
【0037】
上記第1変速部31を構成している第1遊星歯車装置31Aは、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、第1サンギアS1と、互いに噛み合う一対のピニオンギア(インナーピニオンギアP1a及びアウターピニオンギアP1b)で成る第1ピニオンP1と、その第1ピニオンP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1と、第1ピニオンP1を介して第1サンギアS1と噛み合う第1リングギアR1とを備えている。
【0038】
なお、第1サンギアS1は、自動変速機2のケース2aに固定されて回転不能とされ、第1リングギアR1は、中間ドラム33に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持され、この第1リングギアR1の内径側に第1サンギアS1が同心状に挿入されている。第1ピニオンP1は、第1サンギアS1と第1リングギアR1との対向環状空間の周方向の複数箇所に介装されており、第1キャリアCA1は、その中心軸部が入力軸9に一体的に連結され、この第1キャリアCA1において第1ピニオンP1を支持する支持軸部が第4クラッチC4を介して中間ドラム33に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0039】
また、中間ドラム33は、第1リングギアR1の外周側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機2のケース2aに回転不能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0040】
上記第2変速部32を構成している第2遊星歯車装置32A及び第3遊星歯車装置32Bは、それぞれシングルピニオンタイプ及びダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされている。
【0041】
第2遊星歯車装置32Aは、比較的大径の第2サンギアS2と、第2ピニオンP2と、その第2ピニオンP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリアCA2と、第2ピニオンP2を介して第2サンギアS2と噛み合う第2リングギアR2とを備えている。
【0042】
第3遊星歯車装置32Bは、比較的小径の第3サンギアS3と、互いに噛み合う一対のピニオンギア(インナーピニオンギアP3a及びアウターピニオンギアP3b)で成る第3ピニオンP3と、その第3ピニオンP3を自転及び公転可能に支持する第3キャリアCA3と、第3ピニオンP3を介して第3サンギアS3と噛み合う第3リングギアR3とを備えている。
【0043】
上記第2変速部32において、第2キャリアCA2と第3キャリアCA3とが一体化されて共通の部材として機能する共通キャリアCAを構成している。また、第2リングギアR2と第3リングギアR3とが一体化されて共通の部材として機能する共通リングギヤRを構成している。これにより、この第2変速部32はラビニオタイプと呼ばれる歯車式遊星機構(ラビニオ式歯車列)とされている。尚、この第2変速部32では、上記第2ピニオンP2と第3ピニオンP3のアウターピニオンギアP3bとが本発明でいう共通ピニオンとして構成されているが、上記第2ピニオンP2と第3ピニオンP3のインナーピニオンギアP3aとを共通ピニオンとして構成してもよい。
【0044】
なお、上記第2サンギアS2は、中間ドラム33に連結され、第3サンギアS3は、第1クラッチC1を介して第1変速部31の第1リングギアR1に一体回転可能または相対回転可能に連結され、共通リングギアRは、出力軸10に一体的に連結されている。
【0045】
また、共通キャリアCAは、その中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸9に連結され、この共通キャリアCAにおいて各ピニオンP2,P3(P3a,P3b)を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2を介して自動変速機2のケース2aに支持されている。
【0046】
また、本実施形態では、上記第2変速部32にモータ・ジェネレータMGが組み込まれている。具体的には、上記中間ドラム33における上記第2サンギアS2の近傍位置にモータ・ジェネレータMGのロータMG−rが回転一体に連結されている。また、このモータ・ジェネレータMGのステータMG−sは自動変速機2のケース2aに固定されている。このため、このモータ・ジェネレータMGのロータMG−rは、上記中間ドラム33及び第2サンギアS2に回転一体となっている。
【0047】
そして、第1〜第4クラッチC1〜C4及び第1,第2ブレーキB1,B2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置(摩擦係合要素)として構成されている。
【0048】
第1クラッチC1は、第2変速部32の第3サンギアS3を第1変速部31の第1リングギアR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0049】
第2クラッチC2は、第2変速部32の共通キャリヤCAを入力軸9に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0050】
第3クラッチC3は、第1変速部31の第1リングギアR1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0051】
第4クラッチC4は、第1変速部31の第1キャリアCA1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0052】
第1ブレーキB1は、中間ドラム33を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不能な係合状態または回転可能な解放状態とするものである。
【0053】
第2ブレーキB2は、第2変速部32の共通キャリアCAを自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不能な係合状態または回転可能な解放状態とするものである。
【0054】
尚、上記第2ブレーキB2は、ノーマリークローズタイプの摩擦係合要素として構成されている。つまり、上記油圧制御装置40から油圧が供給されていないときには係合状態となって、第2変速部32の共通キャリアCAを自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不能にする。一方、油圧制御装置40から油圧が供給されると解放状態となって第2変速部32の共通キャリアCAを回転自在にする。
【0055】
一方、その他の摩擦係合要素である第1〜第4クラッチC1〜C4及び第1ブレーキB1は、ノーマリーオープンタイプの摩擦係合要素として構成されている。つまり、上記油圧制御装置40から油圧が供給されていないときには解放状態となるのに対し、油圧制御装置40から油圧が供給されると係合状態となるものである。
【0056】
上記油圧制御装置40は、変速機構部30の変速動作を制御するもので、各種リニアソレノイドバルブやコントロールバルブ等を備え、トランスミッション制御装置4からの制御信号(制御電流)に応じて作動して、上記各クラッチC1〜C4及び各ブレーキB1,B2の係合状態と解放状態とを切り換え可能な構成となっている。
【0057】
図3は、第1〜第4クラッチC1〜C4及び第1,第2ブレーキB1,B2における係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合状態」を示し、空白は「解放状態」を示している。
【0058】
具体的には、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2を係合させることで第1速ギヤ段(1st)が成立し、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を係合させることで第2速ギヤ段(2nd)が成立し、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を係合させることで第3速ギヤ段(3rd)が成立し、第1クラッチC1及び第4クラッチC4を係合させることで第4速ギヤ段(4th)が成立し、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係合させることで第5速ギヤ段(5th)が成立し、第2クラッチC2及び第4クラッチC4を係合させることで第6速ギヤ段(6th)が成立し、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を係合させることで第7速ギヤ段(7th)が成立し、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を係合させることで第8速ギヤ段(8th)が成立するようになっている。
【0059】
また、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2を係合させることで第1後進ギヤ段(Rev1)が成立し、第4クラッチC4及び第2ブレーキB2を係合させることで第2後進ギヤ段(Rev2)が成立するようになっている。また、第1クラッチC1〜第4クラッチC4及び第1,第2ブレーキB1,B2の全てを解放させることで、動力伝達が遮断される「N」レンジ及び「P」レンジが成立するようになっている。なお、「P」レンジにおいては、例えば図示しないロック機構によって出力軸10の回転が機械的に固定される。
【0060】
また、本実施形態に係る車両は、上記モータ・ジェネレータMGを駆動源とするモータ走行が可能に構成され、例えば車両発進時や低負荷走行時においては、エンジン1を停止させてモータ・ジェネレータMGによって走行させることができる。このとき、第2ブレーキB2を係合させることで、モータ走行(ECO)が可能となる。第2ブレーキB2を係合させると、上記共通キャリアCAが回転停止され、第2サンギアS2から入力されるモータ・ジェネレータMGの駆動力が第2変速部32によってトルク増幅されて共通リングギアRに出力されるので、モータ・ジェネレータMGによるモータ走行が可能となる。このようにモータ走行時には、第2サンギヤS2に入力されるモータ・ジェネレータMGの駆動トルクがトルク増幅されて共通リングギヤRに出力される。このため、モータ・ジェネレータMGの出力可能トルクが小さいものであっても使用可能となり、モータ・ジェネレータMGの大型化が抑制できる。
【0061】
また、例えばエンジンブレーキ時(コースト走行時)などのように出力軸10側から駆動力が入力されるときには、モータ・ジェネレータMGによる回生制御が実施される。このときも第2ブレーキB2が係合され、共通キャリアCAが回転停止させられる。したがって、出力軸10側から入力される駆動力によってモータ・ジェネレータMGが回転駆動させられ(被駆動状態となり)回生される。このとき、油圧の非供給に伴って、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1は自動的に解放状態となる。これにより、エンジン1と出力軸10との連結が遮断されるため、エンジン1のフリクショントルク(摩擦力)による回生損失の発生が回避される。なお、回生時においてエンジン1が出力軸10(駆動輪)と連結されると、エンジン1のフリクショントルクが出力軸10側から入力される駆動力を相殺する方向に作用するため、モータ・ジェネレータMGの回生量が低下することになる。
【0062】
−エンジン制御装置3、トランスミッション制御装置4−
エンジン制御装置3及びトランスミッション制御装置4は、一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされ、共に略同様のハードウエア構成になっている。図4は、上記トランスミッション制御装置4の具体構成を示している。このトランスミッション制御装置4は、油圧制御装置40を制御することにより変速機構部30における適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるものである。
【0063】
つまり、トランスミッション制御装置4は、図4に示すように、中央処理装置(CPU)51と、読出し専用メモリ(ROM)52と、ランダムアクセスメモリ(RAM)53と、バックアップRAM54と、入力インタフェース55と、出力インタフェース56とを双方向性バス57によって相互に接続した構成になっている。
【0064】
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムや制御マップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、変速機構部30の変速動作を制御するための各種制御プログラムが記憶されている。RAM53は、CPU51での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM54は、各種の保存すべきデータを記憶する不揮発性のメモリである。
【0065】
入力インタフェース55には、少なくとも、エンジン回転速度センサ91、入力軸回転数センサ92、出力軸回転数センサ93、シフトポジションセンサ94、アクセル開度センサ95、Gセンサ96、車速センサ97、ブレーキペダルセンサ98、ブレーキマスタシリンダ圧センサ99等が接続されている。また、出力インタフェース56には、少なくとも、油圧制御装置40の構成要素(各種リニアソレノイドバルブ等)や、ロックアップクラッチ26の油圧制御用のロックアップコントロールバルブ27が接続されている。
【0066】
なお、エンジン回転速度センサ91は、エンジン1の回転が伝達されるトルクコンバータ20のポンプインペラ21の回転速度をエンジン回転速度として検出するものである。入力軸回転数センサ92は、入力軸9の回転数(NT)を検出するものである。出力軸回転数センサ93は、出力軸10の回転数(NO)を検出するものである。シフトポジションセンサ94は、後述するシフトレバーの操作位置を検知するものである。アクセル開度センサ95は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するものである。Gセンサ96は、車両の前後左右の加速度を検出するものである。車速センサ97は車両の走行速度を検出するものである。ブレーキペダルセンサ98はブレーキペダルがON操作(制動操作)された際にブレーキON信号を出力するものである。ブレーキマスタシリンダ圧センサ99は、このブレーキペダルがON操作された際のペダル踏み込み量をブレーキマスタシリンダ圧から求め、これにより、ドライバの制動要求度合いを検出するようになっている。
【0067】
なお、トランスミッション制御装置4は、エンジン制御装置3との間で送受信可能に接続されており、必要に応じてエンジン制御装置3からエンジン制御に関する種々の情報を取得するようになっている。
【0068】
また、本実施形態に係る車両の運転席の近傍には図5に示すシフト装置7が配置されている。このシフト装置7にはシフトレバー71が変位可能に設けられている。また、シフト装置7には、パーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、及び、シーケンシャル(S)位置が設定されており、ドライバが所望の変速位置へシフトレバー71を変位させることが可能となっている。これらパーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置及び「−」位置も含む)の各変速位置は、上記シフトポジションセンサ94によって検出される。
【0069】
以下、シフトレバー71の変速位置が選択される状況と、そのときの自動変速機2の動作態様について各変速位置(「N位置」、「R位置」、「D位置」「S位置」)ごとに説明する。
【0070】
「N位置」は、自動変速機2の入力軸9と出力軸10との連結を切断する際に選択される位置であり、シフトレバー71が「N位置」に操作されると、自動変速機2のクラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2の全てが解放される(図3参照)。
【0071】
「R位置」は、車両を後退させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのR位置に操作されると、自動変速機2は後進ギヤ段に切り換えられる。尚、上述した如く車両の後進時には、車速等に応じて第1後進ギヤ段(Rev1)と第2後進ギヤ段(Rev2)とが切り換え可能となっている。
【0072】
「D位置」は、車両を前進させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのD位置に操作されると、車両の運転状態などに応じて、自動変速機2の複数の前進ギヤ段(前進8速)が自動的に変速制御される。
【0073】
「S位置」は、複数の前進ギヤ段(前進8速)の変速動作をドライバが手動によって行う際に選択される位置(マニュアル変速位置)であって、このS位置の前後に「−」位置及び「+」位置が設けられている。「+」位置は、マニュアルアップシフトのときにシフトレバー71が操作される位置であり、「−」位置は、マニュアルダウンシフトのときにシフトレバー71が操作される位置である。そして、シフトレバー71がS位置にあるときに、シフトレバー71がS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機2の前進ギヤ段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→8th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば8th→5th→・・→1st)される。
【0074】
−変速制御−
次に、上述の如く構成された自動変速機2の変速制御に用いられる変速マップについて図6を参照して説明する。
【0075】
図6に示す変速マップは、車速及びアクセル開度をパラメータとし、それら車速及びアクセル開度に応じて、適正なギヤ段を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、上記トランスミッション制御装置4のROM52内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(ギヤ段の切り換えライン)によって区画されている。
【0076】
なお、図6に示す変速マップにおいて、シフトアップ線(変速線)を実線で示し、シフトダウン線(変速線)を破線で示している。また、シフトアップ及びシフトダウンの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0077】
次に、変速制御の基本動作について説明する。
【0078】
トランスミッション制御装置4は、車速センサ97の出力信号から車速を算出するとともに、アクセル開度センサ95の出力信号からアクセル開度を算出し、それら車速及びアクセル開度に基づいて、図6の変速マップを参照して目標ギヤ段を算出し、その目標ギヤ段と現状ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
【0079】
その判定結果により、変速の必要がない場合(目標ギヤ段と現状ギヤ段とが同じで、ギヤ段が適切に設定されている場合)には、現状ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力する。
【0080】
一方、目標ギヤ段と現状ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機2のギヤ段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Aから点Bに変化した場合、シフトダウン変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギヤ段が「4速」となり、その4速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、5速のギヤ段から4速のギヤ段への変速(5→4ダウン変速)を行う。
【0081】
図7は、上記自動変速機2の第1変速部31及び第2変速部32の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図(速度線図)である。この図7において、横線X1が回転速度「0」で、X2が第1リングギヤR1から出力される減速された回転速度であり、X3が回転速度「1.0」すなわち入力軸9と同じ回転速度である。また、第1変速部31の各縦線は、左側から順番に第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、第1キャリヤCA1を表している。また、第2変速部32の4本の縦線は、左側から順番に第2サンギヤS2、第2キャリヤCA2及び第3キャリヤCA3で構成される共通キャリヤCA、第2リングギヤR2及び第3リングギヤR3で構成される共通リングギヤR、第3サンギヤS3を表している。
【0082】
そして、この第2変速部32における第3サンギヤS3が本発明でいう第1回転要素(RE1)に相当し、共通リングギヤRが本発明でいう第2回転要素(RE2)に相当し、共通キャリヤCAが本発明でいう第3回転要素(RE3)に相当し、第2サンギヤS2が本発明でいう第4回転要素(RE4)に相当する。
【0083】
この共線図から示されるように、第2ブレーキB2が係合されることにより共通キャリヤCAが回転停止させられると共に、第1クラッチC1が係合されることにより、第3サンギヤS3に第1変速部31によって入力軸9に対して減速された第1リングギヤR1の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第1速ギヤ段「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きい変速比(=入力軸9の回転速度/出力軸10の回転速度)が得られる。
【0084】
第1ブレーキB1が係合されることにより第2サンギヤS2が回転停止させられると共に、第1クラッチC1が係合されることにより第3サンギヤS3に第1リングギヤR1の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第2速ギヤ段「2nd」で示す回転速度で回転させられ、上記第1速ギヤ段「1st」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを正転側へ駆動させることにより、第2サンギヤS2を速やかに回転停止させることで、変速応答性が向上する。
【0085】
第1クラッチC1が係合されることにより第3サンギヤS3に第1リングギヤR1の回転が入力されると共に、第3クラッチC3が係合されることにより第2サンギヤS2に第1リングギヤR1の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第3速ギヤ段「3rd」で示す回転速度で回転させられ、上記第2速ギヤ段「2nd」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを正転駆動させることにより、第2サンギヤS2の回転速度を変速後の回転速度である第1リングギヤR1の回転速度まで速やかに引き上げることで、変速応答性が向上する。
【0086】
第1クラッチC1が係合されることにより第3サンギヤS3に第1リングギヤR1の回転が入力されると共に、第4クラッチC4が係合されることにより第2サンギヤS2に入力軸9の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第4速ギヤ段「4th」で示す回転速度で回転させられ、上記第3速ギヤ段「3rd」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第3速ギヤ段から第4速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを正転駆動させることにより、第2サンギヤS2の回転速度を変速後の回転速度である入力軸9の回転速度まで速やかに引き上げることで、変速応答性が向上する。
【0087】
第1クラッチC1が係合されることにより第3サンギヤS3に第1リングギヤR1の回転が入力されると共に、第2クラッチC2が係合されることにより共通キャリヤCAに入力軸9の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第5速ギヤ段「5th」で示す回転速度で回転させられ、上記第4速ギヤ段「4th」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第4速ギヤ段から第5速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを正転駆動させることにより、第2サンギヤS2の回転速度を変速後に設定される所定の回転速度まで速やかに引き上げることで、変速応答性が向上する。
【0088】
第2クラッチC2が係合されることにより共通キャリヤCAに入力軸9の回転が入力されると共に、第4クラッチC4が係合されることにより第2サンギヤS2に入力軸9の回転が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第6速ギヤ段「6th」で示す回転速度で回転させられ、上記第5速ギヤ段「5th」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第5速ギヤ段から第6速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを逆転駆動(または逆転制動・逆転回生)させることにより、第2サンギヤS2の回転速度を変速後の回転速度である入力軸9の回転速度まで速やかに引き下げることで、変速応答性が向上する。
【0089】
第2クラッチC2が係合されることにより共通キャリヤCAに入力軸9の回転が入力されると共に、第3クラッチC3が係合されることにより第2サンギヤS2に第1リングギヤR1の回転速度が入力されると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、第7速ギヤ段「7th」で示す回転速度で回転させられ、上記第6速ギヤ段「6th」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第6速ギヤ段から第7速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを逆転駆動(または逆転制動・逆転回生)させることにより、第2サンギヤS2の回転速度を変速後の回転速度である第1リングギヤR1の回転速度まで速やかに引き下げることで、変速応答性が向上する。
【0090】
第2クラッチC2が係合されることにより共通キャリヤCAに入力軸9の回転が入力されると共に、第1ブレーキB1が係合されることにより第2サンギヤS2が回転停止させられると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは第8速ギヤ段「8th」で示す回転速度で回転させられ、上記第7速ギヤ段「7th」よりも小さい変速比が得られる。ここで、第7速ギヤ段から第8速ギヤ段へアップシフトさせるに際して、モータ・ジェネレータMGを逆転駆動(または逆転制動・逆転回生)させることにより、第2サンギヤS2を変速後に設定される回転速度零まで速やかに引き下げることで、変速応答性が向上する。
【0091】
また、第3クラッチC3が係合されることにより第2サンギヤS2に第1リングギヤR1の回転が入力されると共に、第2ブレーキB2が係合されることにより共通キャリヤCAが回転停止させられると、出力軸10に連結された共通リングギヤR2は後進1速ギヤ段「Rev1」で示される回転速度で回転させられる。
【0092】
第4クラッチC4が係合されることにより第2サンギヤS2に入力軸9の回転が入力されると共に、第2ブレーキB2が係合されることにより共通キャリヤCAが回転停止させられると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは後進第2速ギヤ段「Rev2」で示される回転速度で回転させられる。
【0093】
また、モータ・ジェネレータMGによるモータ走行においては、第2ブレーキB2が係合されることにより共通キャリヤCAが回転停止させられると、出力軸10に連結された共通リングギヤRは、「ECO」(図7の破線)で示されるようにモータ・ジェネレータMGの回転速度に対して減速された回転速度で回転させられる。
【0094】
また、回生運転時においても、モータ・ジェネレータMGによるモータ走行時と同様の共線図で示され、共通リングギヤRから入力される駆動力(駆動輪の回転力)によってモータ・ジェネレータMGが回転させられて回生が実施される。このとき、出力軸10の回転に対して、モータ・ジェネレータMGは増速されて回転させられるので、モータ・ジェネレータMGは低トルク高回転での回生制御が可能となる。
【0095】
また、上述したように、自動変速機2のアップシフトに際してモータ・ジェネレータMGを制御することで、変速応答性を向上させることができるが、ダウンシフトであってもモータ・ジェネレータMGを好適に制御することで、変速応答性を向上させることができる。
【0096】
−エンジン始動制御−
次に、上述の如く構成された自動変速機2において特徴とする動作である車両走行中におけるエンジン始動制御について説明する。尚、以下の説明では、コースト走行時であって、上記回生運転中に運転者のアクセル踏み込み操作が行われるなどしてエンジン始動要求が生じた場合の制御について説明する。また、エンジン始動要求が生じた際の要求ギヤ段(車速及びアクセル開度から求められるギヤ段)の一例として「2速」である場合を代表して説明する。
【0097】
先ず、本実施形態におけるエンジン始動制御の概略について説明する。モータ・ジェネレータMGに発電を行わせる上記回生運転中(第2ブレーキB2が係合されたモータ・ジェネレータMGの被駆動状態)にエンジン始動要求が生じた場合、上記第2ブレーキB2を解放すると共に、モータ・ジェネレータMGを正回転側に駆動制御する。これにより、車速を維持したまま第2変速部32における第3サンギヤS3の回転数を低下させていく。つまり、第1クラッチC1の第2変速部32側の回転数を低下させていく。これと同時並行または、これに僅かに先立って、エンジン1の始動動作(クランキング)を行う。これにより、第1変速部31における第1リングギヤR1の回転数を上昇させていく。つまり、第1クラッチC1の第1変速部31側(エンジン1側)の回転数を上昇させていく。このようにして、第1クラッチC1の両側(第2変速部32側及びエンジン1側)の回転数差を小さくしていき、これらの回転数差が所定値以下にまで低下した時点で第1クラッチC1の係合を行わせる。また、エンジン始動要求が生じた際の目標ギヤ段が「2速」である場合、この第1クラッチC1の係合と共に、第1ブレーキB1も係合されることになる。
【0098】
以下、本実施形態に係るエンジン始動制御の具体的な動作について図8のフローチャート及び図9の共線図を参照して説明する。この図8に示すエンジン始動制御ルーチンは上記トランスミッション制御装置4において実行される。また、この図8に示すルーチンはイグニッションスイッチON後の所定時間毎、例えば、数msec毎に実行される。
【0099】
先ず、ステップST1において、現在、車両が走行中であるか否かを判定する。この判定は、上記車速センサ97からの車速検出信号に基づいて判定される。車両が停車中であればステップST1でNO判定され、本ルーチンを一旦終了する。
【0100】
車両が走行中であってステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、現在、エンジン1は停止中であるか否かを判定する。この判定は、上記エンジン回転速度センサ91からの回転速度信号に基づいて判定される。エンジン1が稼働しておりステップST2でNO判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0101】
エンジン1が停止中であってステップST2でYES判定された場合には、ステップST3に移り、現在、回生運転の実施中、つまり、モータ・ジェネレータMGの被駆動状態であって発電が行われている状態であるか否かを判定する。この判定は、モータ・ジェネレータMGに対する制御状態や図示しないバッテリの蓄電状態を検出することによって行われる。つまり、モータ・ジェネレータMGに対する制御状態が回生制御状態でない場合やバッテリの蓄電状態が十分である場合には回生運転は実施されないため、このステップST3ではNO判定されることになる。この場合、本ルーチンを一旦終了する。
【0102】
図9に示す共線図において、この回生運転中における各摩擦係合要素の回転状態を破線で示している。具体的には、エンジン1は停止中であるため、第1変速部31における第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、第1キャリアCA1は共に停止している。一方、第2変速部32にあっては、第2ブレーキB2が係合されているため共通キャリアCAは停止しており、車両は走行中であるため共通リングギヤRは車速に応じた回転数で回転している。それに従って、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3も回転している。この場合、図9に示す共線図上にあっては、第3サンギヤS3は正回転であるのに対し、第2サンギヤS2は逆回転となっている。その結果、この第2サンギヤS2と回転一体であるモータ・ジェネレータMGも逆回転の被駆動状態となっており、これによりモータ・ジェネレータMGによる発電、つまり回生運転が行われている。
【0103】
このような回生運転の実施中であってステップST3でYES判定された場合には、ステップST4に移り、エンジン始動要求が生じたか否かを判定する。例えば、運転者のアクセル踏み込み操作が行われるなどした場合にはエンジン始動要求が生じたと判定される。これは例えば上記アクセル開度センサ95からのアクセルペダル踏み込み量信号に基づいて判定される。エンジン始動要求が生じておらずステップST4でNO判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0104】
一方、運転者のアクセル踏み込み操作等によってエンジン始動要求が生じた場合にはステップST4でYES判定され、ステップST5に移る。このステップST5では、このエンジン始動要求が生じた時点でのギヤ段(要求ギヤ段)が「2速」以上、つまり、「2速」〜「8速」であるか否かを判定する。この要求ギヤ段は、上述した如く、車速及びアクセル開度(上記踏み込み操作が行われた際のアクセル開度)を検出し、上記変速マップ(図6)に従って判定される(変速段選定手段による変速段の選定動作)。
【0105】
そして、要求ギヤ段が「2速」以上である場合には、このステップST5でYES判定され、ステップST6に移る。このステップST6では、エンジン始動制御を開始すると共に、上記第2ブレーキB2の解放制御を開始する。
【0106】
具体的に、上記エンジン始動制御では、上記エンジン制御装置3からの制御信号により、図示しないスタータモータを起動してエンジン1のクランキングを開始すると共に、燃料噴射弁5からの燃料噴射を行うことでエンジン1を始動させる。尚、エンジンが燃焼運転を開始した(何れかの気筒が完爆状態に至った)ことを、エンジン回転数などから認識し、エンジンの燃焼運転が開始された後にはスタータモータへの通電を解除する。このエンジン始動制御により、図9の共線図において第1変速部31側に実線で示すように、第1キャリアCA1が回転すると共に、それに伴って第1リングギヤR1も同方向に回転することになる。つまり、第1クラッチC1のエンジン側の回転数が上昇していく。
【0107】
一方、上記第2ブレーキB2の解放制御では、上記エンジン始動制御によるエンジン1のクランキングに伴って上記オイルポンプ60が駆動して油圧が発生し、上記第2ブレーキB2の解放動作を可能とするだけの油圧が発生した後に、上記トランスミッション制御装置4からの制御信号により第2ブレーキB2を解放させることになる。
【0108】
以上のようなエンジン始動制御及び第2ブレーキB2の解放制御を開始すると共に、ステップST7においてモータ・ジェネレータMGの回転制御を開始する。このモータ・ジェネレータMGの回転制御では、このモータ・ジェネレータMGを正回転側に駆動するよう、つまり、モータ・ジェネレータMGに対して停止させる側に通電を行い、第2サンギヤS2の回転数を低下させていく。このモータ・ジェネレータMGの回転数の低下に伴い、図9の共線図において第2変速部32側に実線で示すように、第3サンギヤS3の回転数が低下することになる(共通リングギヤRの回転数(車速)は変化しない)。つまり、第1クラッチC1の第2変速部32側の回転数が低下することになる(エンジン始動制御手段によるエンジン始動動作)。
【0109】
上述したエンジン始動制御によって第1リングギヤR1の回転数つまり第1クラッチC1におけるエンジン側の回転数が上昇していくのに対し、モータ・ジェネレータMGの回転制御によって第3サンギヤS3の回転数つまり第1クラッチC1における第2変速部32側の回転数が低下していく(同期回転数が低下していく)。これにより、第1クラッチC1の第1変速部31側(エンジン1側)の回転数と第2変速部32側の回転数との差が急速に小さくなっていく。
【0110】
このようにしてモータ・ジェネレータMGの回転制御を行いながら、ステップST8において、摩擦係合要素の係合動作を開始させる。つまり、要求ギヤ段が「2速」である場合には、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を共に係合させる。この場合、上述した如く第1クラッチC1における第1変速部31側の回転数と第2変速部32側の回転数との間には殆ど差が無くなっているので、第1クラッチC1の係合ショックは殆ど発生することなく、エンジン1の駆動力が第2変速部32を経て出力軸10まで伝達される動力伝達経路が成立することになる。
【0111】
尚、要求ギヤ段が3速〜8速である場合には、その変速段の成立時に係合されるクラッチやブレーキが係合されることになる。この場合のモータ・ジェネレータMGの回転制御としては、その変速段が成立したと仮定した場合における第2サンギヤS2の回転速度が得られるようなモータ・ジェネレータMGの回転制御が行われることになる。例えば、要求ギヤ段が「3速」である場合には、第2サンギヤS2の回転速度が上記第1リングギヤR1の回転速度に一致するようにモータ・ジェネレータMGの回転制御が行われる。つまり、モータ・ジェネレータMGが正回転するように制御される。また、要求ギヤ段が「4速」である場合には、第2サンギヤS2の回転速度が上記第1キャリアCA1の回転速度に一致するようにモータ・ジェネレータMGの回転制御が行われる。つまり、上記要求ギヤ段が「3速」である場合に比べて更に高回転側でモータ・ジェネレータMGが正回転するように制御される。
【0112】
一方、上記エンジン始動要求が生じた時点でのギヤ段(要求ギヤ段)が「1速」であって、上記ステップST5でNO判定された場合には、ステップST9に移り、摩擦係合要素の係合動作や解放動作を行うことなく、上記エンジン始動制御を開始する。つまり、第2ブレーキB2を係合させた状態のまま、エンジン1のクランキングを開始すると共に、燃料噴射弁5からの燃料噴射を行うことでエンジン1を始動させる。この場合も、エンジンが燃焼運転を開始した(何れかの気筒が完爆状態に至った)ことを、エンジン回転数などから認識し、エンジンの燃焼運転が開始された後にはスタータモータへの通電を解除することになる。
【0113】
そして、ステップST10において、第1クラッチC1の係合動作を開始させる。これにより、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に係合することになり、上記要求ギヤ段である「1速」が成立することになる。
【0114】
尚、このようにエンジン始動要求が生じた時点での要求ギヤ段が「1速」である場合には、運転者のアクセル踏み込み操作量が大きく、運転者は急加速を要求している状況であると考えられる。このため、第1クラッチC1における第1変速部31側の回転数と第2変速部32側の回転数との差が大きく第1クラッチC1の係合によるショックが発生したとしても大きな問題にはならない。つまり、運転者は上記ショックを許容して急加速を要求している状況であるため、このような要求ギヤ段が「1速」である場合には、上述したモータ・ジェネレータMGの回転制御等を実施せず、この急加速要求に応えられるようにしている。
【0115】
以上説明したように、本実施形態では、第2サンギヤS2、第3サンギヤS3、共通キャリアCAの回転数が変化することで、車速の変動に起因するショックを発生させることなしに、エンジン1の駆動力を第2変速部32に伝達するべく摩擦係合要素(例えば第1クラッチC1)の係合動作が行える。また、モータ・ジェネレータMGの回転数制御により第3サンギヤS3の回転数を調整することで、摩擦係合要素のエンジン側の回転数と第2変速部32側の回転数とを迅速に同期させることが可能になる。その結果、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせないようにすることができる。また、モータ・ジェネレータMGと駆動輪とを遮断する必要がないため、エンジン始動が完了するまで回生運転を継続することも可能である。
【0116】
(変形例)
次に、本発明の変形例について説明する。本変形例は、自動変速機のギヤレイアウトが上記実施形態のものと異なっている。その他の構成及び制御動作は上述した実施形態のものと同様であるので、ここでは自動変速機のギヤレイアウトにおいて上記実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0117】
図10は、本変形例に係る自動変速機2のギヤレイアウトを示すスケルトン図である。この図10においても、自動変速機2の回転中心軸に対して上側半分のみを模式的に示している。また、本変形例に係る自動変速機2は前進6段、後進1段の変速が可能になっている。
【0118】
本変形例における第1変速部31を構成している第1遊星歯車装置31Aは、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、第1サンギアS1と、第1ピニオンP1と、その第1ピニオンP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1と、第1ピニオンP1を介して第1サンギアS1と噛み合う第1リングギアR1とを備えている。
【0119】
なお、第1サンギアS1は、自動変速機2のケース2aに固定されて回転不能とされている。第1リングギアR1は、入力軸9に連結されて、この入力軸9と一体回転させられる。また、この第1リングギアR1は、第2クラッチC2を介して第2変速部32の共通キャリアCAに一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。第1キャリヤCA1は、中間ドラム33に一体回転可能に支持され、第1クラッチC1を介して第2変速部32の第3サンギヤS3に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に、また、第3クラッチC3を介して第2変速部32の第2サンギヤS2及びモータ・ジェネレータMGに一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。第1ピニオンP1は、第1サンギアS1と第1リングギアR1との対向環状空間の周方向の複数箇所に介装されている。
【0120】
上記第2変速部32は、上記実施形態のものと同様に、シングルピニオンタイプの歯車式遊星機構で成る第2遊星歯車装置32A及びダブルピニオンタイプの歯車式遊星機構で成る第3遊星歯車装置32Bを備えている。これら遊星歯車装置32A,32Bの構成は、上述した実施形態のものと略同様であるのでここでの説明は省略する。
【0121】
図11は、第1〜第3クラッチC1〜C3及び第1,第2ブレーキB1,B2における係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合状態」を示し、空白は「解放状態」を示している。
【0122】
具体的には、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2を係合させることで第1速ギヤ段(1st)が成立し、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1を係合させることで第2速ギヤ段(2nd)が成立し、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を係合させることで第3速ギヤ段(3rd)が成立し、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係合させることで第4速ギヤ段(4th)が成立し、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を係合させることで第5速ギヤ段(5th)が成立し、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1を係合させることで第6速ギヤ段(6th)が成立するようになっている。
【0123】
また、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2を係合させることで後進ギヤ段(Rev)が成立するようになっている。また、第1クラッチC1〜第3クラッチC3及び第1,第2ブレーキB1,B2の全てを解放させることで、動力伝達が遮断される「N」レンジ及び「P」レンジが成立するようになっている。なお、「P」レンジにおいては、例えば図示しないロック機構によって出力軸10の回転が機械的に固定される。
【0124】
また、本実施形態に係る車両においても、第2ブレーキB2を係合させることで、モータ走行(ECO)や回生運転が可能となる。
【0125】
本変形例におけるエンジン始動制御(車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合の制御)としては、上述した実施形態の場合と同様にして行われる。つまり、モータ・ジェネレータMGの回生運転中にエンジン始動要求が生じた場合、上記第2ブレーキB2を解放すると共に、モータ・ジェネレータMGを正回転側に駆動制御する。これにより、車速を維持したまま第2変速部32における第3サンギヤS3の回転数を低下させていく。つまり、第1クラッチC1の第2変速部32側の回転数を低下させていく。これと同時並行して、エンジン1の始動動作(クランキング)を行う。これにより、第1変速部31における第1リングギヤR1の回転数を上昇させていく。つまり、第1クラッチC1の第1変速部31側(エンジン1側)の回転数を上昇させていく。このようにして、第1クラッチC1の両側(第2変速部32側及びエンジン1側)の回転数差を小さくしていき、これらの回転数差が所定値以下にまで低下した時点で第1クラッチC1の係合を行わせる。また、エンジン始動要求が生じた際の目標ギヤ段が「2速」である場合、この第1クラッチC1の係合と共に、第1ブレーキB1も係合されることになる。
【0126】
従って、本変形例においても、上記実施形態の場合と同様に、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合に、その要求に迅速に応えることができ、且つエンジン始動に伴うショックを殆ど生じさせないようにすることができる。
【0127】
−他の実施形態−
上述した実施形態では前進8段、後進2段の変速が可能な自動変速機2に本発明を適用した場合について説明し、上記変形例では前進6段、後進1段の変速が可能な自動変速機2に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の自動変速機に適用可能である。
【0128】
また、上記実施形態及び変形例では、車速とアクセル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行する例を示したが、本発明はこれに限られることなく、車速とスロットル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。
【0129】
また、本発明が適用される車両に搭載されるエンジン1としては、ガソリンエンジンに限らずディーゼルエンジンであってもよい。
【0130】
また、上記実施形態及び変形例では、エンジン始動制御として、回生運転中に運転者のアクセル踏み込み操作が行われるなどしてエンジン始動要求が生じた場合の制御について説明した。本発明はこれに限らず、モータ・ジェネレータMGを電動モータとして駆動するモータ駆動モードでの走行中にバッテリ蓄電量が不足するなどしてエンジン始動要求が生じた場合に、上記と同様のエンジン始動制御を行うようにしてもよい。
【0131】
また、上記実施形態及び変形例では、エンジン始動制御としてモータ・ジェネレータMGの回転制御を実施するようにしたが、上述したエンジン始動制御及び第2ブレーキB2の解放制御(図8のフローチャートにおけるステップST6の動作)のみを実施し、モータ・ジェネレータMGの回転制御(図8のフローチャートにおけるステップST7の動作)を実施しないものも、本発明の技術的思想の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、ハイブリッド車両に搭載された自動変速機において、車両走行中にエンジン始動要求が生じた場合のエンジン始動制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0133】
1 エンジン
2 自動変速機
10 出力軸(出力部材)
31 第1変速部
31A 第1遊星歯車装置
32 第2変速部(変速部)
32A 第2遊星歯車装置
32B 第3遊星歯車装置
S1 第1サンギヤ
S2 第2サンギヤ(第4回転要素)
S3 第3サンギヤ(第1回転要素)
P1 第1ピニオン
P2 第2ピニオン
P3 第3ピニオン
R1 第1リングギヤ
R2 第2リングギヤ
R3 第3リングギヤ
R 共通リングギヤ(第2回転要素)
CA1 第1キャリア
CA2 第2キャリア
CA3 第3キャリア
CA 共通キャリア(第3回転要素)
C1〜C4 クラッチ
B1、B2 ブレーキ(ブレーキ手段)
MG モータ・ジェネレータ(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速部との間の動力伝達系路上に、この動力伝達系路を遮断可能とするクラッチが配設されていると共に、上記変速部は、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素、第4回転要素が備えられた遊星歯車装置で構成されており、
上記第1回転要素は、上記クラッチが係合状態にある際にエンジンからの駆動力が上記動力伝達系路を経て伝達可能とされており、
上記第2回転要素は、変速部の出力部材に連結されており、
上記第3回転要素は、ブレーキ手段によって回転停止が可能とされ、
上記第4回転要素は、電動機に連結され、この電動機と回転一体に配設されている一方、
上記第2回転要素の回転速度に基づいて変速段を選定する変速段選定手段と、
上記ブレーキ手段によって第3回転要素の回転が停止され、且つ電動機の回転を伴って車両が走行している状態から、エンジンを始動する際、上記ブレーキ手段を解放して第3回転要素の回転を許容するエンジン始動制御手段とを備えていることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の自動変速機の制御装置において、
上記エンジン始動制御手段は、上記ブレーキ手段を解放すると共に、上記第2回転要素の回転数を略一定とした場合に、上記変速段選定手段によって選定される変速段が成立し且つ上記クラッチのエンジン側の回転数と変速部側の回転数とを同期させるよう上記電動機の回転数を制御して第1回転要素の回転数を調整するよう構成されていることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
上記請求項1または2記載の自動変速機の制御装置において、
上記遊星歯車装置は、上記第4回転要素に入力される上記電動機の駆動トルクを増幅させて上記第2回転要素から出力するように構成されることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
上記請求項1、2または3記載の自動変速機の制御装置において、
上記自動変速機は、
第1サンギヤ、互いに噛み合う一対の第1ピニオン、この第1ピニオンを自転及び公転可能に支持する第1キャリヤ、上記一対の第1ピニオンを介して第1サンギヤと噛み合う第1リングギヤを有するダブルピニオン型の第1遊星歯車装置からなる第1変速部と、
第2サンギヤ、第2ピニオン、この第2ピニオンを自転及び公転可能に支持する第2キャリヤ、上記第2ピニオンを介して第2サンギヤと噛み合う第2リングギヤを有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置、及び、第3サンギヤ、互いに噛み合う一対の第3ピニオン、この第3ピニオンを自転及び公転可能に支持する第3キャリヤ、上記一対の第3ピニオンを介して第3サンギヤと噛み合う第3リングギヤを有するダブルピニオン型の第3遊星歯車装置からなる第2変速部とを備え、
上記第2変速部は、上記第2遊星歯車装置の第2キャリヤと上記第3遊星歯車装置の第3キャリヤとが一体化されて共通キャリヤを構成する共に、上記第2遊星歯車装置の第2リングギヤと上記第3遊星歯車装置の第3リングギヤとが一体化されて共通リングギヤを構成し、且つ、上記第2ピニオンと上記一対の第3ピニオンの一方とが共通ピニオンを構成するラビニオ式歯車列として構成され、
上記第1サンギヤは静止部材に常時連結され、上記第1キャリヤは上記エンジンに動力伝達可能に連結され、上記第1リングギヤは上記第1キャリヤの回転に対して減速されて出力され、
上記第2サンギヤは第4クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結されると共に、第3クラッチを介して上記第1リングギヤに選択的に連結され、且つ、第1ブレーキを介して静止部材に選択的に連結され、上記第3サンギヤは第1クラッチを介して上記第1リングギヤに選択的に連結され、上記共通キャリヤは第2クラッチを介して上記エンジンに動力伝達可能に連結されると共に、第2ブレーキを介して上記静止部材に選択的に連結され、上記共通リングギヤは出力軸に連結され、
上記電動機が上記第2サンギヤに動力伝達可能に連結されており、
上記第1回転要素が上記第3サンギヤに対応し、上記第2回転要素が上記共通リングギヤに対応し、上記第3回転要素が上記共通キャリヤに対応し、上記第4回転要素が上記第2サンギヤに対応し、上記第1クラッチ〜第4クラッチのいずれかが上記クラッチに対応し、上記第2ブレーキが上記ブレーキ手段に対応していることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項5】
上記請求項1、2または3記載の自動変速機の制御装置において、
上記自動変速機は、
第1サンギヤ、第1ピニオン、この第1ピニオンを自転及び公転可能に支持する第1キャリヤ、上記第1ピニオンを介して第1サンギヤと噛み合う第1リングギヤを有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置からなる第1変速部と、
第2サンギヤ、第2ピニオン、この第2ピニオンを自転及び公転可能に支持する第2キャリヤ、上記第2ピニオンを介して第2サンギヤと噛み合う第2リングギヤを有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置、及び、第3サンギヤ、互いに噛み合う一対の第3ピニオン、この第3ピニオンを自転及び公転可能に支持する第3キャリヤ、上記一対の第3ピニオンを介して第3サンギヤと噛み合う第3リングギヤを有するダブルピニオン型の第3遊星歯車装置からなる第2変速部とを備え、
上記第2変速部は、上記第2遊星歯車装置の第2キャリヤと上記第3遊星歯車装置の第3キャリヤとが一体化されて共通キャリヤを構成する共に、上記第2遊星歯車装置の第2リングギヤと上記第3遊星歯車装置の第3リングギヤとが一体化されて共通リングギヤを構成し、且つ、上記第2ピニオンと上記一対の第3ピニオンの一方とが共通ピニオンを構成するラビニオ式歯車列として構成され、
上記第1サンギヤは静止部材に常時連結され、上記第1リングギヤは上記エンジンに動力伝達可能に連結され、上記第1キャリヤは上記リングギヤの回転に対して減速されて出力され、
上記第2サンギヤは第3クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結されると共に、第1ブレーキを介して静止部材に選択的に連結され、上記第3サンギヤは第1クラッチを介して上記第1キャリヤに選択的に連結され、上記共通キャリヤは第2クラッチを介して上記エンジンに動力伝達可能に連結されると共に、第2ブレーキを介して上記静止部材に選択的に連結され、上記共通リングギヤは出力軸に連結され、
上記電動機が上記第2サンギヤに動力伝達可能に連結されており、
上記第1回転要素が上記第3サンギヤに対応し、上記第2回転要素が上記共通リングギヤに対応し、上記第3回転要素が上記共通キャリヤに対応し、上記第4回転要素が上記第2サンギヤに対応し、上記第1クラッチ〜第3クラッチのいずれかが上記クラッチに対応し、上記第2ブレーキが上記ブレーキ手段に対応していることを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−235036(P2010−235036A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87266(P2009−87266)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】