説明

自動車の推進システムの制御方法

【課題】運転者によって要求されるモード移行或いは自動車性能の変化が自動車の変速機或いは他の自動車駆動系システムのラッシュ領域内で生じることにより発生する、運転者に好ましくないクランク異音及び他のNVHを低減する。
【解決手段】内燃機関10の出力シャフト40を自動車の駆動輪18に連結し、且つ、ラッシュ領域を備えた変速機14を含む自動車の推進システムの制御方法が、内燃機関10の少なくとも一つの気筒30が第一の燃焼モードと第二の燃焼モードとの間を移行するように内燃機関10の運転パラメータを調節する工程、及び、変速機14がラッシュ領域内で運転しているかどうかに応じて燃焼モードの移行のタイミングを変更する工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の推進システムの制御方法に関連し、より具体的には、内燃機関の出力シャフトを自動車の駆動輪に連結し且つラッシュ領域を備えた変速機を含む、複数の制御モードを持つ自動車の推進システムの制御方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)が、運転者の能力要求を満たしながらも、幅広い運転状態に亘って許容可能なレベルの乗り心地の快適さを提供するため、様々な方法によって制御される場合がある。ある種のエンジンは、改善された運転性と能力を達成するために二つ又はそれ以上の運転モードを使用する場合がある。例の一つとして、一つ或いはそれ以上の個数のエンジン気筒が、火花点火モードと予混合圧縮着火(homogeneous charge compression ignition)モードとの間を、例えば運転者によって要求されるトルクの量に基づいて切り替えられる場合がある。別の例として、ハイブリッド自動車推進システムを用いる場合のように、効率、運転性(ドライバビリティ)、及び、能力の改善を達成するために、エンジン出力が第二モーターの選択的な使用と協調制御される場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、幾つかの状態の間、エンジン及び/又はモーターによって生成されるトルクが、運転者によって要求されるモード移行或いは自動車性能の変更によって急変する場合がある。例えば、自動車の変速機或いは他の自動車駆動系システムのラッシュ領域内でエンジントルクの急速な増加が生じた場合、騒音及び振動、ハーシュネス(noise and vibration harshness: NVH)或いは「クランク(clunk)」が生じ得る。幾つかの場合、このクランク(異音)は、そこにおいて変速機が正トルク移送と負トルク移送との間で過度に急速に移行されていることを、運転者によって感知される場合がある。例の一つとして、一つ或いはそれ以上のエンジン気筒の複数の燃焼モード間の移行がラッシュ領域の中又はその近傍で行われた場合、その燃焼モード間の移行が、異音発生の可能性を増加させる一時的なトルク変動(過渡トルク)を生じることがある。同様に、第二モーターを介した駆動系のトルクの加減動作が、そこにおいて変速機がラッシュ領域の中又はその近傍にあるときに行われた場合、異音発生の可能性を増加させることがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ここに記述する取り組みの一つにおいて、上述の課題の幾つかが、内燃機関、及び、出力速度と入力速度の間に速度比を持ち、変速機によって自動車の駆動輪に連結されたトルクコンバータに結合された電気モーターを含む自動車の制御方法によって解決され、その制御方法は、少なくとも上記トルクコンバータ入力速度及び出力速度に関する速度比に基づいて変化速度の限界値を選択する工程、及び、内燃機関と電気モーターの出力の組み合わせの変化速度が、上記変化速度の限界値よりも小さくなるように、内燃機関及び電気モーターの少なくとも一つの運転パラメータを調節する工程を有する。このようにして、内燃機関及び/又はモーターの運転を制御することにより、クランク異音が低減され得る。
【0005】
ここに記述される別の取り組みにおいて、上述の課題の幾つかが、自動車の車輪を駆動すべく内燃機関の出力シャフトに結合された変速機を含む自動車の推進システムを制御するための方法によって解決される。ここにおいて、上記変速機はラッシュ領域を持ち、上記方法は、内燃機関の気筒の少なくとも一つが第一の燃焼モードから第二の燃焼モードに移行するように内燃機関の運転パラメータを調節する工程、及び、変速機のラッシュ領域に応じて、上記モード移行のタイミングを変更する工程を有する。このようにして、クランク異音が低減されるように、内燃機関のモード移行が変速機の運転状態、特に、変速機のラッシュ領域に応じてタイミングを調節され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ここで図1及び図2を参照すると、自動車の推進システムが記述される。図2は、一つ又はそれ以上の個数の気筒30を持つ一つ又はそれ以上の個数の内燃機関(エンジン)10、変速機14、駆動輪18、及び、一つ又はそれ以上の個数のモーター12及び/又は16を含むハイブリッド推進システムを示す。実施形態の幾つかにおいて、駆動系(driveline)が、エンジン10と変速機14との間に配設されたトルクコンバータ13を含む。モーター12及び/又は16が、エネルギー貯蔵装置15によって動力供給され得、或いは、エネルギーを貯蔵装置15に伝達し、そこにおいてエネルギーを後の使用のために貯蔵し得る。後により詳しく記述するように、これらの構成要素は、自動車がエンジン又はモーターの少なくとも一つによって推進されるのを可能とすべく制御され得る。図2は二つの独立したモーター12及び16を示すが、後に詳述するような推進システムの実施形態の幾つかにおいて、これらのモーターの一つ以上が含まれない場合もある。
【0007】
トルクコンバータ13は、クランクシャフト40を介してエンジン及び/又はモーターに結合され得、或いは、タービンシャフトを介して変速機14に結合され得る。トルクコンバータ13は、係合され、解放され、或いは部分的に係合され得るバイパス・クラッチを含む場合がある。バイパス・クラッチが、解放されているとき、又は、部分的に係合されているときの何れかにおいて、トルクコンバータはアンロック状態にあると呼ばれる。実施形態の幾つかにおいて、トルクコンバータの入力速度の、出力速度に対する比率が、変速機の状態を識別するために使用され得る。例えば、変速機のラッシュ領域を通るトルク移行を避ける或いは低減するため、トルクコンバータの速度比に応じてエンジン及び/又はモーターが制御される場合がある。タービンシャフトはまた、変速機入力シャフトとして知られる。変速機14は、複数の選択可能なギア比を有する電気制御式変速機を含み得る。変速機14はまた、例えば最終駆動比のような、様々な他のギア比を含む場合がある。
【0008】
フルシリーズ・タイプのハイブリッド推進システムに関しては、エンジンは、一つ又はそれ以上の個数のモーターによる使用に適した形式のエネルギーを生成すべく運転され得る。例えば、フルシリーズ・タイプのハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle: HEV)の場合、エンジンはモーター/ジェネレータを介して電気を発生させ、その電気は自動車を推進するための電気モーターに動力供給するために使用され得る。別の例として、自動車を推進するための油圧モーター或いは流体モーターに動力供給するために使用され得る油圧システム或いは流体圧システムにポンプ仕事を供給するために、エンジンが運転される場合がある。更に別の例として、駆動輪において後付けされるフライホイール又は同様の装置に運動エネルギーを供給するために、エンジンが運転される場合がある。
【0009】
パラレル・タイプのハイブリッド推進システムに関しては、エンジン及び一つ以上のモーターは、互いに独立に運転され得る。例の一つとして、エンジンが駆動輪にトルクを供給するために運転される一方で、モーター(例えば、電気モーター、油圧モーターなど)が、例えばトルクを付与又は持ち去ることによって、駆動系とトルクを交換するために、選択的に運転され得る。別の例として、エンジンがモーターの作動を伴わずに運転される場合があり、また、モーターがエンジンの作動を伴わずに運転される場合がある。
【0010】
更に、シリーズ・タイプ又はパラレル・タイプのハイブリッド推進システムの何れかに関して、或いは、それらの組み合わせに関して、装置15のようなエネルギー貯蔵装置が、エンジン及び/又はモーターによって生成されたエネルギーが、一つ又はそれ以上の個数のモーターによる後の使用のために貯蔵され得るように、設けられる場合がある。例えば、そこにおいて、モーター/ジェネレータが、駆動輪における運動エネルギーを、エネルギー貯蔵装置における貯蔵に適した形式のエネルギーに変換するために使用される、回生制動運転が実行され得る。例えば、HEVに関しては、モーター或いは独立したジェネレータが、駆動輪におけるトルク又はエンジンによって生成されたトルクを、エネルギー貯蔵装置において貯蔵され得る電気エネルギーに変換するために使用され得る。同様の取り組みが、油圧式ハイブリッド、流体圧式ハイブリッド、又は、フライホイールを含むハイブリッドを含む、他の形式のハイブリッド推進システムに適用可能である。
【0011】
例えば図2は、エンジン10と変速機14との間に配設されたモーター12を示す。この例において、モーター12は、トルクをエンジン10に供給するために(例えば、クランキング作動の間)、又は、エンジン10からのトルクを受けるために(例えば、エネルギー変換作動の間)、作動させられ得る。更に、エンジン10によって生成されるトルクの一部又は全てが、モーター12をバイパス又は通過して変速機14に伝わり、そこにおいてトルクの一部又は全てが、駆動輪18に伝えられる。少なくとも幾つかの実施形態(例えば、図示されているモーター16が含まれない実施形態)において、回生制動は、変速機14を介してトルクを駆動輪18からモーター12に伝達することにより、モーター12を用いて実行される。そこにおいてモーター12がジェネレータの機能を実行可能であり、或いは、代替として別個のジェネレータが含まれる場合がある。
【0012】
図2は更に、モーター12の有無に関わらず、モーター16が変速機14と駆動輪18の間に配設される代替ハイブリッド構成も示す。この例において、モーター16はエンジン10に加えて、或いは、エンジン10を使わないで、駆動輪18にトルクを供給すべく運転させられ得る。回生制動は、モーター16又は独立したジェネレータによって供給され得る。トルクは、変速機14を介してエンジン10へ供給される場合もあれば、エンジン10がそのクランキング又は始動を容易にするための独立したスターター/ジェネレータを含む場合もある。
【0013】
図2は更に、モーター12及びモーター16が変速機14或いは変速機要素の両サイドに設けられ得る別の実施形態を示す。この例において、一つ或いはそれ以上の個数のモーター12及び16が、エンジン10から供給されるトルクの有無に関わらず駆動系からのトルクを供給或いは吸収するように運転され得る。更に別の構成も可能である。他の適切なハイブリッド構成或いはそれらの変形例がそれ自体、ここに記述される取り組み及び方法に関して使用され得ることを理解すべきである。
【0014】
幾つかの実施形態において、推進システムが一つ以上のモーターとエネルギー貯蔵装置を含まない場合があることを記しておく。例えば、推進システムは、付加的なモーターを持たず、エンジンを唯一のトルク生成要素として含む場合がある。従って、図2はトルクコンバータ、変速機、及び/又は、エンジン及び/又はモーターによって生成されたトルクを地面に伝達するための駆動輪を含む自動車推進システムの駆動系の例の一つを示したものである。
【0015】
図1は、図2に関して上述されたハイブリッド推進システムに含まれ得る多気筒エンジン10の気筒30の一つを示す概略図である。エンジン10は、オットー・サイクルか、ディーゼル・サイクルの何れかによって運転され得る。エンジン10は、制御器100を含む制御システムと、入力装置130を介した自動車運転者132からの入力とによって、少なくとも部分的に制御され得る。この例において、入力装置130はアクセルペダル、及び、ペダル位置に比例する信号PPを生成するためのペダル位置センサー134を含む。しかしながら、推進システムの運転を制御するための他の適切な入力装置が使用される場合もある。エンジン10の燃焼室(即ち、気筒)30は、その中にピストン36が配置される燃焼室壁32を含み得る。ピストン36は、ピストンの往復運動がクランクシャフト40の回転運動に変換されるように、クランクシャフト40に結合され得る。クランクシャフト40は、伝動装置(例えば、変速機14)を介して自動車の駆動輪18の少なくとも一つに連結され得る。更に、スターター・モーター(例えば、モーター12)が、エンジン10の始動を可能とするために、フライホイールを介してクランクシャフト40に結合され得る。
【0016】
燃焼室又は気筒30は、吸気マニフォールド42を介して吸気通路44からの吸気を受け、そして、排気通路48を介して燃焼ガスを排気し得る。吸気通路44及び排気通路48は夫々、吸気バルブ52及び排気バルブ54を介して燃焼室30と選択的に連通することが出来る。幾つかの実施形態において、燃焼室30は二つ以上の吸気バル及び/又は二つ以上の排気バルブを含み得る。
【0017】
吸気バルブ52は、制御器100によって、電動バルブ・アクチュエータ(electric valve actuator: EVA)51を介して制御され得る。同様に、排気バルブ54は、制御器100によって、EVA 53を介して制御され得る。所定の運転状態において、制御器100は、吸気バルブと排気バルブ夫々の開閉を制御するために、アクチュエータ51及び53に供給される信号を変更し得る。吸気バルブ52及び排気バルブ54の位置は夫々、バルブ位置センサー55及び57によって判定され得る。代替実施形態において、一つ又はそれ以上の個数の吸気バルブ及び排気バルブが、一つ又はそれ以上の個数のカムによって駆動され、そして、バルブ運転特性を変更するため、カム・プロファイル切り替え(cam profile switching: CPS)システム、可変カム・タイミング(variable cam timing: VCT)システム、可変バルブ・タイミング(variable valve timing: VVT)システム、及び/又は、可変バルブ・リフト(variable valve lift: VVL)システムの一つ以上を使用し得る。
【0018】
燃料噴射弁66が、燃焼室30に直接的に結合され、その中に、電気ドライバ68を介して制御器100から受信するパルス幅信号(FPW)に比例した燃料を噴射する。このようにして、燃料噴射弁66は燃焼室30の中に直接噴射として知られる燃料噴射を供給する。燃料噴射弁66は、例えば、燃焼室30の側面に、或いは、燃焼室30の天井に組み込まれ得る。燃料は、燃料タンク、燃料ポンプ、及び、燃料レールを含む燃料系(図示せず)によって燃料噴射弁66に送られ得る。実施形態の幾つかにおいて、燃焼室30の上流の吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射として知られる燃料噴射を供給する構成で吸気通路44に配設された、付加的な、或いは、直接噴射の代わりとなる燃料噴射弁66を燃焼室30が含む場合がある。
【0019】
吸気マニフォールド42はスロットル板64を持つスロットル62を含み得る。この特定の例において、スロットル板64の位置は、制御器100によって、スロットル62に設けられる電気モーター或いはアクチュエータに供給される信号を介して変更され得、この構成は通常、電子スロットル制御(electronic throttle control: ETC)と呼ばれる。このようにして、スロットル62は、他のエンジン気筒の中でもとりわけ、燃焼室30に供給される吸気を変えるために作動され得る。スロットル板64の位置は、スロットル位置信号TPによって制御器100へ供給され得る。吸気マニフォールド42は、質量空気流量センサー120及びマニフォールド空気圧センサー122を含み、夫々が制御器100にMAF信号とMAP信号を供給し得る。
【0020】
点火装置88が、選択された運転モードに従う制御器100からの点火進角信号SAに応じて、点火プラグ92を介して燃焼室30に点火火花を供給することが出来る。火花点火の構成要素が示されるが、実施形態の幾つかにおいて、エンジン10の燃焼室30、又は、他の燃焼室の一つ以上が、火花点火の有無に関わらず、圧縮着火モードで運転される場合もある。
【0021】
排気ガスセンサー126が、排出物制御装置70の上流の排気通路48に結合されるのが示される。センサー126は、リニア酸素センサー、汎用排気ガス酸素(universal or wide-range exhaust gas oxygen: UEGO)センサー、広レンジ排気ガス酸素センサー、二状態酸素センサー、排気ガス酸素(exhaust gas oxygen: EGO)センサー、加熱型排気ガス酸素(heated EGO: HEGO)センサー、NOxセンサー、HCセンサー、或いは、COセンサーのような、排気ガスの空燃比の指標を提供するのに適切なものであれば如何なるセンサーでもよい。排出物制御装置70が、排気通路48に沿って排気ガスセンサー126の下流に配設されるのが示される。排出物制御装置70は、三元触媒(three way catalyst: TWC)、NOxトラップ、種々の他の排出物制御装置、或いは、それらの組み合わせで有り得る。実施形態の幾つかにおいて、エンジン10の運転の間、排出物制御装置70は、エンジン10の気筒の少なくとも一つを特定の空燃比で運転することによって、周期的にリセットされ得る。
【0022】
制御器100は、図1において、マイクロプロセッサ・ユニット102、入出力ポート104、この特定の例において読み取り専用メモリ・チップ106として示される実行可能なプログラムと較正値のための電子記憶媒体、ランダム・アクセス・メモリ108、キープ・アライブ・メモリ110、及び、データ・バスを含む、マイクロ・プロセッサとして示される。制御器100は、前述の信号に加えて、質量空気流量センサー120からの吸気された質量空気流量(mass air flow)測定値MAF、冷却スリーブ114に結合された温度センサー112からのエンジン冷却媒体温度(engine coolant temperature: ECT)、クランクシャフト40に結合されたホール効果センサー118(或いは、他の形式のセンサー)からのプロファイル点火ピックアップ(profile ignition pickup: PIP)信号、スロットル位置センサーからのスロットル位置(throttle position: TP)、センサー122からのマニフォールド絶対圧信号MAPを含む、エンジン10に結合されたセンサーからの信号を入力し得る。エンジン速度信号RPMは、制御器100によって信号PIPから生成され得る。マニフォールド圧センサーからのマニフォールド圧信号MAPは、吸気マニフォールド42内の真空度或いは圧力の指標を提供するために使用され得る。MAPセンサーを使わずにMAFセンサーを使う、或いは、その逆のような、上述したセンサーの種々の組み合わせが使用され得ることを記しておく。ストイキ運転の間、MAPセンサーはエンジントルクに関する値を与えることが出来る。更に、このセンサーは、検出されたエンジン速度と共に、気筒の中に供給される充填量(空気を含む)の推定値を供給することが出来る。例の一つにおいて、エンジン速度センサーとしても使用されるセンサー118が、クランクシャフト40の回転毎に所定の数の等間隔のパルスを生成し得る。更に、制御器100は、ここに記述する種々の制御特徴を可能とすべく、図2に示された構成要素の一つ以上に通信可能に連結される。
【0023】
上述したように、図1は多気筒エンジン10の気筒の一つのみを示すが、各気筒も同様に、自分自身の吸排気バルブ、燃料噴射弁66、点火プラグなど組を含み得る。
【0024】
幾つかの状態の間、エンジンの気筒の少なくとも一部が、火花点火(spark ignition: SI)燃焼モードと呼ばれる燃焼モードで運転され得る。SI(燃焼)モードの間、燃料は例えば直接噴射或いはポート噴射によって気筒に送られ、点火装置(例えば、点火プラグ92)によって実行される火花によって点火され得る。
【0025】
他の状態の間、エンジンの気筒の少なくとも一部が、均質充填圧縮着火(homogeneous charge compression ignition: HCCI)と呼ばれる燃焼モードで運転され得る。HCCI(燃焼)モードの間、燃料は例えば直接噴射或いはポート噴射によって気筒に送られ、点火プラグからの火花点火の要求を必要とすることなく、ピストンによって実行される圧縮によって点火され得る。この形式の燃焼はまた、制御された自着火(controlled auto-ignition: CAI)或いは予混合圧縮着火とも呼ばれる。
【0026】
更に別の状態において、エンジンの気筒の少なくとも一部が、層状給気モードと呼ばれる燃焼モードで運転され得る。層状給気モードの間、燃料は直接噴射弁によって気筒内に噴射され、ストイキよりリッチの空燃比領域を気筒内に形成するが、充填混合気の燃焼の際にストイキよりリーンの空燃比領域が気筒内に残っているように例えば噴射タイミング及び/又は噴射量が制御される。
【0027】
SIモード、HCCIモード、及び、層状給気モードの各々は、オットー・サイクル或いはディーゼル・サイクルを利用する内燃機関の中で実行され得る。更に、これらのモードは、そこにおいてエンジンによって燃焼させられる燃料がガソリン、ディーゼル、或いは、他の適切な燃料を含む内燃機関によって選択的に実行され得る。従って、ここに記述されるクランク異音を低減するための種々の取り組みが、そこにおいてエンジンがオットー・サイクル或いはディーゼル・サイクルの何れかで運転している、HCCI燃焼モード、SI燃焼モード、及び、層状給気燃焼モードの間の移行に対して適用され得ることを理解すべきである。
【0028】
HCCIモード及び層状給気モードは、少なくとも一部の燃焼条件において、SIモードより高い燃料効率及び/又は低減された排出物特性を実現するために使用され得る。例の一つにおいて、HCCIモードによる燃焼は、SIモードの間に必然的に使用されるのより実質的に希薄(リーン)な空気と燃料の混合気(例えば、ストイキより大きな空燃比を持つ混合気)によって実現され得る。しかしながら、エンジンの高負荷、高回転、或いは低負荷、低回転のような幾つかの状態の間、HCCIモードでは確実な燃焼を実現するのが難しくなる場合がある。反対に、SIモードは、燃焼タイミングが点火のタイミングによって制御され得るので、より広いレンジの運転状態に亘って利用可能である。そうであるので、エンジンの一つ或いはそれ以上の個数の気筒が、エンジン運転状態に応じてSIモードとHCCIモードとの間を移行され得る。例えば、エンジン気筒の全てが、SIモードとHCCIモード或いは層状給気モードとの間を移行するとき、全ての気筒が実質的に同時に(例えば、点火順序に応じて)移行する場合もあれば、そこにおいて気筒の一部が移行する一方で、残りのエンジン気筒が一つ或いはそれ以上の個数のサイクルが経過するまでモード移行を待機するように、モード移行が所定の移行期間をかけて行われる場合もある。別の例として、一部の気筒のみがSIモードとHCCIモード或いは層状給気モードとの間を移行させられる一方で、残りの気筒が同じモードに留まる場合もある。
【0029】
図3が、エンジンにとって適切な運転モード、或いは、そのエンジンの気筒の割り当てを判定するために、制御システムによって使用され得るモード・マップの一例を示す。具体的には、図3は、エンジン速度及びエンジン負荷を含むエンジン運転状態に関する運転モード間の比較を示す。更に、スロットル全開(wide open throttle: WOT)の包絡線が示され、それは、エンジンによって実現され得る最大出力を示す。この特定の例において、そこにおいてHCCIモードが使用される領域が、WOT曲線によって規定される空間の中心領域を占めるウインドウとして示される。HCCIモード領域は、SIモード領域によって囲まれている。従って、HCCIモードは、エンジン中回転及び/又は中負荷のような所定の状態の間に使用され、一方、SIモードは、より高いエンジン回転又は負荷、或いは、より低いエンジン回転又は負荷において使用され得る。
【0030】
図3には示されていないが、層状給気モードは、SI領域内の特定の領域で行われる。
【0031】
取り組みの一つとして、運転モードは特定の気筒の運転状態に基づき、気筒毎に選択され得る。又は、運転モードは、気筒グループの運転状態に基づいて気筒グループに関して選択される場合もある。例えば、HCCIモード、層状給気モード、及び、SIモードの一つが、図3のモード・マップに基づいて各々の気筒に対して割り当てられる場合がある。もし気筒又はエンジンの状態がSIモード領域内にあると認定されたならば、エンジン又はその気筒は、SIモードで運転され得る。一方、もし気筒又はエンジンの状態がHCCIモード領域内にあると認定されたならば、エンジン又はその気筒は、HCCIモードで運転され得る。
【0032】
モード間の移行は、そこにおいて運転状態が特定の運転領域の境界線に近づいたときに、或いは、そこにおいて制御システムが将来の運転状態が現在の運転モードの外側の領域に存在することを予測したときに、実行され得る。このようにして、確実な燃焼を維持しつつ、各運転モードの効果が達成され得る。なお、当然のことながら図3は移行モード・マップの単なる一例を提供するものであって、他のマップも利用可能である。
【0033】
HCCIモードの間は点火の使用は必ずしも必要ではないが、幾つかの状態において、燃焼室内で空気と燃料の充填混合気の自己着火の開始をアシストするために点火が使用される場合がある。この形式の運転は、点火アシスト・モード運転と呼ばれる場合がある。幾つかの状態において、点火アシストはHCCIモードにおいて自己着火タイミング制御を容易にするために使用され得るが、当然ながら、点火アシストの適用は、非アシストHCCIモードに比べて、効率の低下及び/又は排出特性の低下をもたらす場合がある。
【0034】
図4は、モード移行を促進するために自動車制御システム(例えば、制御器100)によって実行され得る制御ルーチンの例を示す。ルーチンは、ステップ410において、自動車の運転状態を評価する。そこにおいて運転状態は、バルブ・タイミング、点火時期、燃料噴射量及び/又は噴射タイミング、ターボ過給状態、排気ガス循環状態、エネルギー貯蔵装置の充電状態(state of charge: SOC)、モーター状態(例えば、モーターの温度、出力、又は、入力)、変速機状態、トルクコンバータ状態、エンジン速度、エンジン負荷、気筒のモード状態、自動車の運転者入力(例えば、アクセルペダルの踏み込み状態)、大気状態(気圧など)、及び、これらの(一部)組み合わせの一つ以上を含み得る。
【0035】
ステップ420において、モード移行が要求されているかどうかを判定し得る。図3に関して上述したように、制御システムは、ステップ410において評価された一つ又はそれ以上の個数の運転状態に基づいてエンジン気筒にとって適したモードを選択するために一つ又はそれ以上の個数のモード・マップを使用し得る。ステップ420における答えが「いいえ」の場合、ルーチンはリターンしてもよい。反対に、ステップ420における答えが「はい」ならば、制御システムはステップ430において、要求されている目標モードへの移行を実現するため、エンジンの運転状態の一つ以上を調節し得る。例えば、エンジンは、エンジンの気筒の一つ又はそれ以上をSIモードからHCCIモードに、或いは、HCCIモードからSIモードに移行させることが出来る。或いは、モードの移行は、SIモードと層状給気モードの間、又は、HCCIモードと層状給気モードとの間で実行される場合もある。更に、エンジンの形式に応じて、他の運転モードも実行され得ることを理解すべきである。
【0036】
例の一つとして、一つ或いはそれ以上の個数の気筒が休止/再開される場合がある。その際、運転状態が、エンジンの出力トルクの変動が低減されるように調節される場合がある。最後に、ルーチンはリターンすることが出来る。
【0037】
燃焼モード間の移行が、自動車の運転者の性能要求に対応しながら改善された効率を実現するために使用され得る一方で、幾つかのモード間移行が望ましくないNVH(noise and vibration harshness)を生じる可能性がある。例の一つとして、一つ又はそれ以上の個数の気筒のHCCIモードとSIモードとの間の移行からもたらされるトルク変動が、変速機のラッシュによって生じる可能性のある「クランク(clunk)」と呼ばれる異音を生じ得る。
【0038】
上述したように、例の少なくとも一つにおいて、自動車運転者のトルク要求に対応しながら、低減された変速機NVHを伴う燃焼モード間の移行を可能とするための取り組みが記述される。図5は、駆動系を通るエンジントルクが運転サイクルの一例の間、時間と共にどのように変化し得るかを示すグラフである。そこにおいて駆動系のトルクが零に近づいている、駆動系内のトルクが正のトルク領域と負のトルク領域との間の移行を開始しているような状態の間、駆動系の構成要素の状態は、そのラッシュ領域を通過して移行する(ここにおいて、加速及びその他の影響は無視する)。例えば、図5に示されているように、そこにおいて駆動系トルクが最初に負の値であり、そして運転者がアクセルペダルを介してチップ・イン操作をする(即ち、要求トルクが増加する)とき、一つ又はそれ以上の個数の気筒が、例えば図3に示すようなモード・マップに応じて異なる燃焼モードに移行し得る。例の一つとして、一つ又はそれ以上の個数の気筒が、エンジンが要求トルクの増大に対応するのを可能とするために、HCCIモード或いは層状給気モードからSIモードに移行し得る。
【0039】
図4に関して上述したように、燃焼モード間の移行は、バルブ・タイミング、点火時期、燃料噴射量及び/又はタイミング、その他の状態のような運転状態の一つ又はそれ以上の調節を含み得る。たとえ、そこにおいてエンジン運転状態の適切な調節が、移行に亘るトルク変動或いは過渡トルク(torque transient)を低減すべく調整されるときでも、エンジンによって生成される総トルクの中である程度の一時的な変動(例えば、トルクの増減)が存在し得る。更に、そこにおいてエンジンが一つ又はそれ以上の個数のモーターによってアシストされ得るとき(例えば、HEVの場合)、モーターによるトルクの加減が一時的なトルク変動を生じる場合がある。これらのトルク変動は、変速機の一つ又はそれ以上の個数の構成要素(例えば、トルクコンバータ)によって弱められ得るが、しかしながら、そこにおいて駆動系のトルクが変速機のラッシュ領域を通過するとき(例えば、正トルクと負トルクとの間を移行するとき)は、駆動系の構成要素の衝突速度が速すぎる場合に、好ましくない「クランク(異音)」或いはNVHが生成され得る。例えば、図5に示すように、一つ又はそれ以上の個数のエンジン気筒のモード移行は、駆動系に対応するトルク変動を生じさせ得、その変動が、図5に示されるラッシュ領域の中で生じるならば、クランク異音或いは他のNVHをもたらし得る。
【0040】
自動変速機を備えた自動車において、正トルクは、トルクコンバータによって生成され、そして、エンジン速度又はモーター(例えばモーター12)の速度の少なくとも一方を含む入力速度がタービン速度を上回り、且つ、タービン速度が同期タービン速度にあるとき(即ち、トルクコンバータがアンロック状態にあるとき〜もしトルクコンバータがロック又は部分的にロックされているならば、トルクはロックアップ・クラッチを通って伝達され得る)に、駆動系に伝達され得る(正トルクが伝達されるとき、トルクコンバータの速度比(タービン速度/エンジン速度)は、1.0より小さい)。もしトルクの乱れが、速度比が1より大きい状態から1より小さい状態への移行の間に生じるならば、エンジン及び/又はモーターが、この(正のトルクを生成し始める)領域を過度に早く加速し、駆動系の構成要素を加速する出力シャフトのトルクの増加率を過度に大きくしている可能性がある。駆動系のラッシュ領域の前にトルクレベルが高くなることは、高い衝突速度を生成し、その結果、クランク異音をより生じさせやすくなる。
【0041】
一つ又はそれ以上の個数の気筒のモード移行が使用されるとき、或いは、ハイブリッド推進システムの場合にモーターがエンジンをアシストするために使用されるとき、変速機のクランク異音又は駆動系の他のNVHを低減するために少なくとも二つの取り組みが使用され得る。第一の取り組みとして、図6に示すように、駆動系にトルクを伝達する一つ又はそれ以上の個数のモーターが、エンジンの気筒の少なくとも一つの燃焼モードの移行によって生じるトルク変化(過渡トルク)を滑らかにするために運転させられ得る。第二の取り組みとして、図7に示すように、モーターからのアシストの有無に関わらず、モード移行が変速機のラッシュ領域の外側で生じるように予定され得る。当然のことながら、改善された運転性能を実現するために、この第一の取り組みと第二の取り組みとが一緒に使用される場合もあれば、単独で使用される場合もある。
【0042】
図6に示すように、チップ・イン後の駆動系のトルクは、ラッシュ領域に近づくときに、エンジントルクの変化に従って変化する。そこにおいて、モータートルクが、ラッシュ領域の間のトルク変化率を制御し、駆動系に供給される燃焼トルクの変動をエンジン及びモーターによって低減すべく運転させられ得る。この具体的な例において、モーターはラッシュ領域及び/又はエンジンのモード移行の間、駆動系のトルクの変化速度がクランク異音及び/又は他の駆動系のNVHを低減するように、トルクを供給及び吸収する。この具体的な例において、モーターに吸収されたトルクがエネルギー貯蔵装置の中に蓄積される場合がある一方で、モーターによって、エネルギー貯蔵装置から供給されるエネルギーからトルクが供給される場合もある。
【0043】
図7に示すように、チップ・イン後の駆動系のトルクは、ラッシュ領域に近づくときに、エンジントルクの変化に従って変化する。ラッシュ領域に到達する前に、モーターからのアシストの有無に関わらず、第一のエンジンモード移行が実行され得る。この具体的な例においては、モーターのアシストは使用されず、従って、駆動系のトルク変化はエンジントルクの変化に従う。ラッシュ領域を通過した後、第二のモード移行が、やはりラッシュ領域の外側で実行され得る。一方で、モータートルクが、エンジンの第二のモード移行によって生じた駆動系トルク内の過渡トルクを滑らかにするために利用され得る。この具体的な例において、モーターはトルクを吸収し、そして、吸収したトルクをエネルギー貯蔵装置によって貯蔵可能なエネルギーに転換する。
【0044】
図8は、例えば上述の図6及び7に関して記述したような、変速機のクランク異音或いは他のNVHを低減するための、自動車制御システムによって実行され得る制御ルーチンの一例である。ステップ810において、制御システムは自動車の運転状態、例えば、図4のステップ410に関して前述した運転状態を評価し得る。ステップ812において、移行が必要とされているかどうかを判断し得る。もし答えが「はい」ならば、現在の駆動系トルクがラッシュ領域の近傍内にあるかどうかを判断し得る。ラッシュ領域は、一つ或いはそれ以上の個数の取り組みによって識別され得ることを記しておく。例の一つとして、ラッシュ領域は、図9に記述されるように、トルクコンバータの入力速度と出力速度との速度比を比較することにより識別される。別の例として、ラッシュ領域、或いは、そこにおいてラッシュが生じ得る状態に関連する情報が、変速機及び駆動系の剛性に関する情報と共に、その変速機又は類似の変速機のテストからの統計データに基づく場合がある。もしステップ814における答えが「いいえ」ならば、ステップ816において、モード移行によって生じる過渡トルクを低減すべくエンジンが制御されながら、エンジンの気筒の一つ又はそれ以上が、モード移行され得る。
【0045】
ステップ818において、モーターは、少なくともエンジンのモード移行の間、過渡トルクを更に低減するために、駆動系にトルクを供給或いは吸収することによって、エンジンと協調制御され得る。
【0046】
また、もしステップ814における答えが「はい」ならば、ステップ820において、モード移行がラッシュ領域の中で実行されないようにモード移行のタイミングが再調整されたかどうかが判断される。もしその答えが「はい」ならば、モーターはステップ822において、エンジンのモード移行のタイミングが再調整された(例えば、遅延された)状態で、自動車の運転者によって要求されたトルクに対応すべくエンジンをアシストするために運転され得る。例の一つとして、モーターが、さもなければSIモードに移行され得るエンジン又はその気筒の少なくとも一つが、HCCIモードのような特定の運転モードに留まるのをアシストする場合がある。また、ステップ820における答えが「いいえ」ならば、エンジンはステップ824において、モード移行の間の過渡トルクを低減すべく制御され得、そして、エンジン及び/又はモーターのトルクは、ステップ826において、ラッシュ領域内で運転しながらクランク異音或いは他のNVHを低減すべく調節され得る。例えば、ラッシュ領域内で運転しつつ、トルク変化の速度が、閾値以下になるように制御され、それにより、駆動系のトルクが正の値から負の値に変化するときに生じ得るクランク異音のレベルを低減し得る。別の例として、モーターは、変速機が正のトルク領域と負のトルク領域との間の移行を行う間、駆動系トルクが所定の変化速度になるように、エンジンによって生成されたトルクに基づいて、トルクを供給或いは吸収し得る。
【0047】
ステップ812に戻ると、もし答えが「いいえ」ならば、ステップ828において、駆動系トルクがラッシュ領域の近傍内にあるかどうかを判断し得る。もしその答えが「はい」ならば、エンジン及び/又はモーターのトルクは、ラッシュ領域内で運転しながらクランク異音又は他のNVHを低減すべく調節され得る。エンジン及び/又はモーターのトルクが、変速機の剛性、及び、例えばステップ814において識別されたラッシュ領域に少なくとも部分的に基づく、トルク−速度マップ(或いは関数)、又は、トルク−時間マップ(或いは関数)に応じて調節され得ることを記しておく。最後に、ステップ828、826、又は、818から、ルーチンはリターンし得る。
【0048】
繰り返しになるが、上述のラッシュ領域はそれ自体、一つ或いはそれ以上の個数の取り組みによって識別され得る。上述したものとは別の取り組みの一つにおいて、変速機のラッシュ領域は、類似の形式の変速機のラッシュ領域に関連する統計情報に基づいて識別される場合がある。或いは、また、付加的に、エンジントルク及び/又はモータートルクの推定モデルが、(一つ或いは複数の)ラッシュ領域を識別するために使用され得る。
【0049】
制御器内でエンジントルク推定モデルが使用可能な一方で、幾つかの状態においては、推定誤差が推定精度を減少させ、駆動系トルクが僅かに正或いは僅かに負かどうかを確実に示すことが出来ない場合がある。そのような理由で、外部のノイズ因子が存在する場合であっても、駆動系がラッシュ領域を通過するときを正確に示すための、単独で、或いは、トルク推定に追加して利用可能な、別の取り組みが使用される場合がある。制御方法の一つが図9を参照にして記述される。具体的にいうと、制御システムは、駆動系内のトルクのレベルを推測するためにトルクコンバータの速度比を使用し得る。もし速度比が1より大きいならば、変速機は正のトルクを生成していないと見なされる。上述したように、速度比が1より大きくなるタイミングより前にエンジン及び/又はモーターのトルクを、急速に所定量増加することは、クランク異音のリスクを増大させる可能性がある。しかしながら、エンジン及び/モーターのトルクが要求された出力に対して管理され得るレベルは、例の一つにおいてアクセルペダル位置によって示されるような運転者によって要求される自動車性能に依存する。更に、変速機内のトルク増加及び車速の大きさもまた、駆動系の加速の大きさ、及び、クランク異音が乗員にどれくらい認知されるかに影響を及ぼすので、これらの因子もまた考慮されるべきである。従って、例の一つにおいて、エンジントルクの最大上昇率を決定するために、速度比、アクセルペダル位置、車速、及び、エンジン及び/又はモーターの合成速度と車速との比(図9において、「novs」と表す)を含む、少なくとも4つの入力が使用され得る。比(novs)は、その後、上述したようなチップ・イン操作時のクランク異音を避けるために、運転者の要求トルク(エンジン及びモーターの一つ又はそれ以上を含む)のフィルター処理した値を計算するために使用され得る。しかしながら、必ずしもこれらのパラメータの全てが必要とされるのではなく、種々の組み合わせや予備的組み合わせが使用可能であることを記しておく。
【0050】
ここで図9を参照すると、クランク異音のリスクを低減するために、エンジン出力及び/又はモーターの出力の変化速度(例えば、増加速度)を制限するための、或いは、エンジン気筒の一つ以上に許可されたモード移行の種類を制限するためのルーチンが記述される。ステップ910において、ルーチンは現在のフィルター出力が最新のフィルター出力より大きいかどうかを判定する(tq_dd_unfil>tq_dd_filt)。ステップ910における答えが「はい」のとき、ルーチンはステップ912に進む。ステップ912において、運転者がアクセルペダル130を踏み込んでいるかどうかが、例えば、センサー134を介した信号PPによる測定され、判定される。例の一つにおいて、ルーチンは、ペダル位置が予め設定された値より小さいかどうかを判定することによって、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいるかどうかを判断する。この予め設定された値が、センサーの経年変化、機械的消耗、及び、他の様々な因子によってペダル閉じ位置の変化を探知する適応パラメータで有り得ることを記しておく。ステップ912に対する答えが「はい」のとき、ルーチンはステップ914に進む。
【0051】
ステップ914において、ルーチンはトルクコンバータのクラッチのデューティー・サイクルが低い(low)かどうかを判断する。例の一つにおいて、ルーチンは命令されているデューティー・サイクル(bcsdc)が、較正された閾値(TQE_RATE_MNDC)よりも小さいかどうかを判定する。その後、ルーチンはステップ914において、トルクコンバータがロック状態にあるかアンロック状態にあるかを判定し得る。ステップ914における答えが「はい」で、トルクコンバータがロックされていない、或いは、実質的にロックされていないことを示すとき、ルーチンはステップ916に進む。
【0052】
ステップ916において、ルーチンは種々の因子に基づいて、エンジントルク及び/又はモータートルクの許容可能な増加速度(tqe_tipmx_tmp)を算出する。具体的には、ルーチンは、クランク異音が運転フィーリングに影響し得るかどうか、及び、要求されたエンジン又はモーターのトルクを制限することが自動車の応答性を低減することになるかどうかを示す、エンジン及び推進システムの状態及び条件に関する情報を使用する。具体的には、例の一つにおいて、ルーチンは検知したアクセルペダル位置(PP)、トルクコンバータの速度比(spd_ratio)、車速(vspd)、車速のエンジン速度及び/又はモーターの速度に対する比(novs)、及び、各気筒の具体的な運転モードに関連する情報を使用する。例の一つにおいて、許容可能な増加速度(tqe_tipmx_tmp)は、ペダル位置、速度比、車速、及び、エンジン及びモーターの合成速度の車速に対する比の、4次元関数として決定される。別の例において、図4において記述したように、計算が複数の2次元参照テーブルとともに使用される場合もある。第一の参照テーブルは、エンジン及び/又はモーターの速度の車速に対する比と、トルクコンバータの速度比とを入力として使用し、一方で、第二の参照テーブルは、ペダル位置と車速とを入力として使用し、二つの参照テーブルの結果を共に掛け合わせて、変速機を通って伝達されるエンジン及び/又はモーターの組み合わせトルクの許容可能な増加率(増加速度)を提供する。
【0053】
図9に関して説明を続けると、ステップ918において、ルーチンは許容可能なエンジントルク及び/又はモータートルクの増加(tqe_arb_max)を、フィルター処理された入力値(tq_dd_filt)と、許容可能な最大増加率(tqe_tipmx_tmp)とサンプル時間(delta_time)との積との和として算出する。次に、ルーチンはステップ920において、フィルター処理されていない要求トルク(tq_dd_unfil)が、ステップ916で算出されたルーチンは許容可能なエンジントルク及び/又はモータートルク(tqe_arb_max)より大きいかどうかを確認することにより、フィルター処理が使用されるべきかどうかを判定する。
【0054】
ステップ920における答えが「はい」のとき、エンジン動作を制御するために使用されるフィルター処理された出力トルクを、ステップ918において算出された許容可能な最大トルクに等しくなるように設定することによって、出力がフィルター処理される。一方、ステップ920における答えが「いいえ」のとき、ルーチンはステップ924に進み、そして、エンジン及び/又はモーターの運転を制御するために使用されるトルクとして、フィルター処理されていない出力を使用する。生成される要求トルクの制限された変化率を示す図9のルーチンの出力(tq_dd_filt)が、その後、種々のエンジン及び/又はモーターの運転を実行するために使用され得ることを記しておく。具体的には、この最新の値は、例えば、電気的に制御されるスロットルのスロットル位置の制御、モーターによって駆動系に供給或いは吸収されるトルク量の調節(例えば、変速機のエンジン側又は変速機の駆動輪側において実行される)、気筒の燃焼モード間の移行の制御又はタイミング調整(例えば、移行の前倒し、実行、或いは、遅延)、燃料噴射弁の燃料噴射の制御、エンジンの点火時期の制御、及び、他の種々のパラメータの制御のような、制御動作及びタイミング調節のために利用される。このようにして、エンジン及び/又はモーターは、フィルター処理された要求トルクを提供することが出来、それにより、許容可能な応答性の運転を提供しながらクランク異音を低減する。
【0055】
ここに含まれる制御ルーチン及び推定ルーチンの例が、種々のエンジン及び/又は自動車システム構成とともに使用可能であることを記しておく。ここに記述される具体的なルーチンは、イベント駆動、マルチ・タスキング、マルチ・スレッディング、及び、それらの類する処理方法の一つ或いはそれ以上の適切な数によって表すことが出来る。示された種々の処理、操作、或いは、機能は、それ自体、記述された順番で実行される場合もあれば、並行して実行される場合もあり、一部が省略される場合もある。同様に、ここに記述された処理の順序は、ここに記述された実施形態例の特徴及びメリットを実現するために必ずしも必要とされるものではなく、図示と記述の容易化のために提供されるものである。図示された処理又は機能の一つ以上が、使用される具体的なストラテジーに依存して繰り返して実行される場合がある。更に、記述された処理が、例えばエンジン制御装置内のセンサーに関してコンピューター読み取り可能な記憶媒体の中にプログラムされる図式化コードで有り得る。
【0056】
ここに記述される構成及びルーチンは、本質的に例示であって、多数の変形例が可能であるため、これら具体的な実施形態は、発明を限定する意味で認識されるべきではない。例えば、上述の技術は、V-6エンジン、I-4エンジン、I-6エンジン、V-12エンジン、対向4気筒エンジン、及び、他のエンジン形式において適用可能である。本明細書の主題は、ここに記述された種々の装置及び方法、そして他の特徴、機能及び/又は特性の新規で非自明な全ての組み合わせ及び一部組み合わせ(subcombination)を含む。
【0057】
特許請求の範囲は、新規で非自明と見なされる特定の組み合わせ及び一部組み合わせを具体的に示す。これらの特許請求の範囲は、「一つの」構成要素、又は「一つの第一の」構成要素、又は、それらの同義語に言及し得る。そのような特許請求の範囲は、その構成要素が一つ以上あるものを含み、その構成要素が二つ以上あるものを要求もしなければ、除外もしないと理解されるべきである。ここに開示されている種々の特徴、機能、構成要素及び/又は特性の他の組み合わせ及び一部組み合わせが本件請求の範囲の補正又は本出願又は関連出願の新しい請求の範囲の提供によって、請求され得る。最初の特許請求の範囲の権利範囲より広い特許請求の範囲、狭い特許請求の範囲、同じ特許請求の範囲、又は異なる特許請求の範囲であろうと、そのような特許請求の範囲もまた、本明細書の主題に含まれると見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】エンジンシステム例のエンジンの一部を示す図である。
【図2】自動車の推進システム例を示す図である。
【図3】運転モードを選択するためのモード・マップの例を示す図である。
【図4】移行制御方法の例を示すフローチャートである。
【図5】トルク管理方法の例を示す図である。
【図6】トルク管理方法の例を示す図である。
【図7】トルク管理方法の例を示す図である。
【図8】自動車推進システムのエンジン及び/又はモーターのトルク制御方法の例を示すフローチャートである。
【図9】自動車推進システムのエンジン及び/又はモーターのトルク制御方法の例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
10 エンジン
12 モーター
13 トルクコンバータ
14 変速機
15 エネルギー貯蔵装置
16 モーター
18 駆動輪
30 気筒
100 制御器
130 アクセルペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力シャフトを自動車の駆動輪に連結し、且つ、ラッシュ領域を備えた変速機を含む自動車の推進システムの制御方法であって、
上記内燃機関の少なくとも一つの気筒が第一の燃焼モードと第二の燃焼モードとの間を移行するように上記内燃機関の運転パラメータを調節する工程、及び、
上記変速機が該変速機の上記ラッシュ領域内で運転しているかどうかに応じて上記移行のタイミングを変更する工程、を含む、方法。
【請求項2】
上記変速機が上記ラッシュ領域に近づいているとき、上記内燃機関によって伝達されるトルクの量を調節する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記トルクを調節する工程が、上記変速機が上記ラッシュ領域に近づくときに上記内燃機関によって上記変速機に供給されるトルクの量を低減する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記変速機が上記ラッシュ領域を通過する前に上記移行が実行されるように、上記移行のタイミングが早められる、請求項1乃至3の何れか一つに記載の方法。
【請求項5】
上記変速機が上記ラッシュ領域を通過した後に上記移行が実行されるように、上記移行のタイミングが遅らされる、請求項1乃至4の何れか一つに記載の方法。
【請求項6】
上記推進システムが上記変速機に連結された電気モーターを含み、
上記方法が、上記移行のタイミングに応じて上記モーターによって上記変速機に供給されるトルクの量を調節する工程を更に含む、請求項1乃至5の何れか一つに記載の方法。
【請求項7】
上記推進システムが上記自動車の駆動輪に連結された電気モーターを含み、
上記方法が、上記変速機が上記ラッシュ領域に近づくとき、上記モーターと上記駆動輪との間で交換されるトルクの量を調節する工程を更に含む、請求項1乃至6の何れか一つに記載の方法。
【請求項8】
上記第一の燃焼モードが火花点火モードであり、上記第二のモードが予混合圧縮着火モードである、請求項1乃至7の何れか一つに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも内燃機関と、少なくとも一つのラッシュ領域を含む駆動系によって駆動輪に連結されるモーターとを含む自動車のハイブリッド推進システムの運転方法であって、
上記駆動系に第一のトルクを供給すべく上記内燃機関を運転する工程、
上記駆動系と第二のトルクを交換すべく上記モーターを運転する工程、及び、
少なくとも上記ラッシュ領域を通るトルク移行の間、上記第一のトルクの量に応じて上記第二のトルクの量を変更する工程、を有する方法。
【請求項10】
上記内燃機関が第一の燃焼モードから第二の燃焼モードに移行する際に上記駆動系が上記ラッシュ領域に近づくとき、上記第二のトルクが調節される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記第二のトルクが上記モーターによって上記駆動系に供給される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
上記第二のトルクが上記モーターによって吸収される、請求項9乃至11の何れか一つに記載の方法。
【請求項13】
上記内燃機関の気筒の少なくとも一つが第一の燃焼モードと第二の燃焼モードとの間を移行するように上記内燃機関の運転パラメータを調節する工程を更に含み、
上記第一の燃焼モードが火花点火モードであり、上記第二の燃焼モードが圧縮着火モードである、請求項9乃至12の何れか一つに記載の方法。
【請求項14】
上記駆動系に配設されたトルクコンバータの入力速度と出力速度との比に基づいて上記ラッシュ領域を識別する工程を更に有する、請求項9乃至13の何れか一つに記載の方法。
【請求項15】
内燃機関、及び、トルクコンバータに連結された電気モーターを含む自動車の制御方法であって、
上記トルクコンバータは、トルクコンバータ出力速度とトルクコンバータ入力速度との間に速度比を持ち、且つ、変速機を介して上記自動車の駆動輪に連結されており、
上記方法は、
少なくとも上記トルクコンバータ入出力速度に関する速度比に基づいて変化速度限界を選択する工程、及び、
上記内燃機関と上記電気モーターの組み合わせ出力の変化速度を、上記変化速度限界より小さくなるように制御すべく、上記内燃機関及び上記電気モーターの少なくとも一つの運転パラメータを調節する工程、を有する、方法。
【請求項16】
上記モーターが、上記内燃機関と上記モーターの組み合わせ出力を低減するように、上記内燃機関の出力の少なくとも一部を吸収するように構成された、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記モーターが、上記内燃機関と上記モーターの組み合わせ出力を増加するように、上記内燃機関の出力を補足するように構成された、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
運転状態の少なくとも一つに応じて、上記内燃機関を第一の燃焼モードと第二の燃焼モードとの間で移行させる工程を更に有する、請求項15乃至17の何れか一つに記載の方法。
【請求項19】
上記運転状態が運転者の要求トルクを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
上記運転状態が上記トルクコンバータの入出力速度に関するトルク比を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
上記トルクコンバータの入出力速度に関するトルク比に応じて上記移行のタイミングを調節する工程を更に有し、
上記速度比が上記変速機のラッシュ領域に対応している、請求項18乃至20の何れか一つに記載の方法。
【請求項22】
上記第一の燃焼モードが火花点火モードであり、上記第二の燃焼モードが圧縮着火モードである、請求項18乃至21の何れか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−261337(P2008−261337A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103506(P2008−103506)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】