積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、および積層体を備えるプリント配線基板
【課題】基板とめっき層との密着性に優れた積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、積層体を備えるプリント配線基板を提供する。
【解決手段】
積層体1では、基板2上にシリカ層3および有機層4を介し、めっき層5が形成されている。シリカ層3はポリシラザンを前駆体として形成されているので、基板2との密着性が良好で、上面に無数の微細な凹凸が存在するシリカ層3が形成される。有機層4は、シリカ層3の上面の凹凸によって発現するアンカー効果により、シリカ層3と強固に結合する。また、有機層4の上面には、シリカ層3の上面の無数の微細な凹凸を反映して凹凸が形成されるので、めっき層5と有機層4とは、化学的もしくは電気的な結合に加え、アンカー効果により強固に結合される。よって、シリカ層3および有機層4を介して基板2上に形成されるめっき層5の基板2に対する密着性を向上できる。
【解決手段】
積層体1では、基板2上にシリカ層3および有機層4を介し、めっき層5が形成されている。シリカ層3はポリシラザンを前駆体として形成されているので、基板2との密着性が良好で、上面に無数の微細な凹凸が存在するシリカ層3が形成される。有機層4は、シリカ層3の上面の凹凸によって発現するアンカー効果により、シリカ層3と強固に結合する。また、有機層4の上面には、シリカ層3の上面の無数の微細な凹凸を反映して凹凸が形成されるので、めっき層5と有機層4とは、化学的もしくは電気的な結合に加え、アンカー効果により強固に結合される。よって、シリカ層3および有機層4を介して基板2上に形成されるめっき層5の基板2に対する密着性を向上できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、および積層体を備えるプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの金属配線の形成手法として、一般的には真空成膜法等の気相法が用いられる。しかしながら、これらの手法ではレジストなどの材料コストや真空成膜装置などの設備コストが大きい。特に、近年はパネルの大型化が進み、従来の真空成膜法で金属配線を形成しようとすると、広い面積にわたって膜厚や膜質が均一な金属膜を成膜することが困難であるうえ、大がかりな真空成膜装置が必要であるという問題点があった。
【0003】
この問題を解決するために、無電解めっき用塗布液を基板上に塗布して無電解めっき用塗布液の塗布膜を基板上に形成する工程と、所定のパターンを有するマスクを介して塗布膜を露光し、現像する工程と、基板を無電解めっき浴に含浸して無電解めっきを施す工程を備えた金属配線パターンの形成方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法では、無電解めっき法を用いて金属配線パターン(本願におけるめっき層)を形成することにより、大がかりが装置を用いることなく低コストで、広い面積にわたって膜厚や膜質が均一な金属配線パターンを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−147762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の金属配線パターンの形成方法では、表面が平滑な基板上に金属配線パターンを形成した場合、基板と金属配線パターンとの密着性が弱いという問題点があった。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、基板とめっき層との密着性に優れた積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、および積層体を備えるプリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の積層体は、基板と、前記基板上面に形成され、ポリシラザンを前駆体とするアモルファスシリカ層と、前記アモルファスシリカ層上面に形成され、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体とする有機層と、前記有機層の上面に形成され、無電解めっきにより析出されためっき層とを備えている。
【0008】
また、請求項2に係る発明の積層体は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明の積層体は、請求項1または2に記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有する。
【0010】
また、請求項4に係る発明の積層体では、請求項1から3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明の積層体は、請求項1から4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明の積層体は、請求項1から5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記めっき層は、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明の積層体は、請求項1から5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記めっき層は、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明の積層体は、請求項1から7のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機層はパターン形成され、前記めっき層は、前記有機層上面に前記有機層と同一パターンで形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る発明の積層体の製造方法は、基板上面に、ポリシラザンを前駆体として、アモルファスシリカ層を形成するシリカ層形成工程と、前記アモルファスシリカ層上面に、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する有機層形成工程と、前記有機層上面に、無電解めっきによりめっき層を形成するめっき層形成工程とを備えている。
【0016】
また、請求項10に係る発明の積層体の製造方法は、請求項9に記載の発明の構成に加えて、前記有機層形成工程では、前記有機層がパターン状に形成されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項11に係る発明の積層体の製造方法は、請求項9または10に記載の発明の構成に加えて、前記有機層形成工程では、前記有機層が前記有機分子の自己組織化により形成されることを特徴とする。
【0018】
また、請求項12に係る発明の薄膜トランジスタは、請求項8に記載の積層体を備えている。
【0019】
また、請求項13に係る発明のプリント配線基板は、請求項8に記載の積層体を備えている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明の積層体では、基板に対して密着性のよいアモルファスシリカ層を、ポリシラザンを前駆体として形成することができる。また、ポリシラザンを前駆体として形成されたアモルファスシリカ層には、上面に無数の微細な凹凸が形成されるため、アモルファスシリカ層の上面に形成される有機層は、アモルファスシリカ層の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、アモルファスシリカ層と結合することができる。よって、アンカー効果により、アモルファスシリカ層および有機層を介して基板上に形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0021】
また、請求項2に係る発明の積層体では、請求項1に記載の発明の効果に加え、有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であるため、有機層を均一かつ薄くすることができる。よって、有機層上面においても、アモルファスシリカ層の上面に形成された無数の微細な凹凸を反映して、同様の凹凸を形成することができる。よって、有機層と、有機層上面に形成されるめっき層との間にアンカー効果が発現し、有機層とめっき層との結合を強固なものとすることができる。よって、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0022】
また、請求項3に係る発明の積層体では、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有するので、触媒は有機層上面の凹凸によるアンカー効果に加え、有機層との化学的もしくは電気的な結合によって、有機層と触媒との結合を一層強固なものにすることができる。よって、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。更に、有機層をパターニングすることで、触媒が付与される領域を選択することができるため、任意のめっきパターンを形成することが可能となる。
【0023】
また、請求項4に係る発明の積層体では、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えている。チオール基は、めっき層を構成する金属と配位結合、もしくは共有結合する。アミノ基、ピリジル基、メチル基は、めっき層形成工程において、無電解めっき触媒と電気的に結合、もしくは錯体を形成するなど化学的に結合し、めっき層の形成を促進する。よって、有機層とめっき層の結合を強固なものにすることができるため、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0024】
また、請求項5に係る発明の積層体では、請求項1から4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであるため、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが備える加水分解基が、アモルファスシリカ層の上面と結合することができる。よって、有機層とアモルファスシリカ層の結合を強固なものにすることができるため、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0025】
また、請求項6に係る発明の積層体では、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むめっき層を、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成することができる。めっき層は銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれか一つからなる単層構造、または銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含む積層構造であってもよい。これにより、導電性や耐腐食性に優れる金属膜が形成できるため、各種電子デバイスの配線や電極として利用することに適している。
【0026】
また、請求項7に係る発明の積層体では、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなるめっき層を、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成することができる。これにより、めっき層を各種半導体デバイスの半導体層として適用することができる。
【0027】
また、請求項8に係る発明の積層体では、請求項1から7のいずれかに記載の発明の効果に加え、パターン状に形成された有機層の上面に有機層と同一パターンのめっき層が形成されているので、予めパターン状に形成した有機層の上面にのみにめっき層を形成することができる。よって、基板の上面を覆うようにめっき層を形成した後に、めっき層のパターニングを行う場合に比べて、めっき層を形成する材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0028】
また、請求項9に係る発明の積層体の製造方法では、シリカ層形成工程において、基板上面にポリシラザンを前駆体としてアモルファスシリカ層を形成する。ポリシラザン前駆体としてアモルファスシリカ層を形成するので、基板に対して密着性のよいアモルファス構造のシリカからなるアモルファスシリカ層を形成することができる。また、有機層形成工程において、アモルファスシリカ層上面に、アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する。アモルファスシリカ層の上面には、無数の微細な凹凸が形成されているので、有機層は、アモルファスシリカ層の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、アモルファスシリカ層と結合することができる。よって、アンカー効果により、アモルファスシリカ層および有機層を介して基板上に形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0029】
請求項10に係る発明の積層体の製造方法では、請求項9に記載の発明の効果に加え、有機層形成工程では、有機層がパターン状に形成されるため、めっき層形成工程においては、通常の無電解めっきプロセスにより、めっき層をパターン状に形成された有機層の上面にのみ選択的に形成することができる。よって、基板上面を覆うようにめっき層を形成した後、めっき層のパターニングを行う場合に比べて、めっき層を形成する材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。また、基板上面を覆うようにめっき層を形成した後、めっき層のパターニングを行う場合に比べて少ない工程でパターン状のめっき層を形成することができる。
【0030】
請求項11に係る発明の積層体の製造方法では、請求項9または10に記載の発明の効果に加え、有機層形成工程では、有機層が有機分子の自己組織化により形成されるため、有機層の厚さを均一かつ薄くすることができる。よって、有機層の上面に、アモルファスシリカ層の上面を反映した微細な凹凸を形成することができる。よって、有機層と、有機層上面に形成されるめっき層との間にアンカー効果が発現し、有機層とめっき層との結合を強固なものとすることができる。また、選択する有機分子に応じて、有機層の上面の化学的性質を制御することができる。
【0031】
また、請求項12に記載の薄膜トランジスタは、請求項8に記載の積層体を備えている。よって、基板に対して密着性の良いめっき層を備える薄膜トランジスタを提供することができる。たとえば、積層体のめっき層を薄膜トランジスタの電極として適用すれば、剥離しにくい電極を備える薄膜トランジスタを提供できる。積層体のめっき層を薄膜トランジスタの半導体層として適用すれば、剥離しにくい半導体層を備える薄膜トランジスタを提供できる。
【0032】
請求項13に記載のプリント配線基板は、請求項8に記載の積層体を備えている。よって、基板に対して密着性の良いめっき層を備えるプリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】積層体1の縦断面図である。
【図2】積層体1の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】構造体71の縦断面図である。
【図4】構造体72の縦断面図である。
【図5】積層体1の密着性試験を行った後の状態を示す写真である。
【図6】積層体1Bの縦断面図である。
【図7】積層体1Bのめっき層5Bの状態を示す写真である。
【図8】積層体11、21の縦断面図である。
【図9】積層体11の製造工程を示すフローチャートである。
【図10】有機層パターン形成工程(S22)を説明する図である。
【図11】構造体73、74の縦断面図である。
【図12】積層体21の製造工程を示すフローチャートである。
【図13】薄膜トランジスタ100の縦断面図である。
【図14】プリント配線基板200の縦断面図である。
【図15】プリント配線基板200の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態である積層体1について、図1から図12を参照して説明する。本実施形態の積層体1は、基板2の上面に、ポリシラザンを前駆体とするシリカ層3及び自己組織化形成膜からなる有機層4を介して、めっき層5が形成される点に特徴を有する。
【0035】
はじめに、積層体1の断面構造について、図1を参照して説明する。以下の説明では、図1の下側(基板2側)を積層体1の下側、図1の上側を積層体1の上側として説明する。積層体1は、板状の基板2を有し、基板2の上面には、ポリシラザンを前駆体とするシリカ層3が形成されている。シリカ層3の上面には、シリカ層3を覆うように有機層4が形成されている。有機層4の上面には、有機層4を覆うように、めっき層5が形成されている。
【0036】
次に、積層体1を構成する各層の材質について説明する。基板2について説明する。基板2は、表面が平坦である板状部材である。基板2の材質としては、絶縁性の材質が用いられ、具体的には、ガラス基板やシリコン基板のほか、プラスチック基板が用いられる。基板2に可撓性を付与したい場合には、特に、基板2の材質としてプラスチックが採用される。プラスチックの材質としては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。基板2の耐水性やガスバリア性を向上させる場合には、基板2の表面にSiO2やSiNxなどからなるバリア膜が形成される。
【0037】
シリカ層3について説明する。シリカ層3は、高純度のシリカガラス(SiO2)から形成されている。シリカ層3の構造は、周期的には配列した結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)構造である。シリカ層3の上面には、無数の微細な凹凸が形成されている。このシリカ層3は、後述するようにパーヒドロポリシラザンを前駆体として形成される。
【0038】
有機層4について説明する。有機層4は、自己組織化単分子膜である。本発明において「自己組織化単分子膜」とは、膜形成面(本実施形態においては、シリカ層3の上面)の構成原子と結合可能な官能基が直鎖分子に結合されている化合物を、気体または液体の状態で膜形成面と共存させることにより、前記官能基が膜形成面に吸着して膜形成面の構成原子と結合し、直鎖分子を外側に向けて形成された緻密な単分子膜であると定義される。なお、有機層4を構成する自己組織化単分子膜は、ほぼ完全な単分子膜となっていることが好ましいが、実質上、3分子膜、5分子膜のように、単分子でない部分を含んでいても良い。
【0039】
有機層4の前駆体としては、後述する無電解めっき中の金属または、無電解めっき触媒と、化学的または電気的に結合可能な部位を有するとともに、シリカ層3の上面の構成原子と結合可能な官能基を有する有機化合物が用いられる。具体的には、有機化合物として、アミノ基、ピリジル基、チオール基、メチル基のいずれかを備える有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが適用可能である。有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが備える加水分解基が、シリカ層3の上面と結合する。チオール基が、後述するめっき層5を構成する金属原子と配位結合、もしくは共有結合する。アミノ基、ピリジル基、メチル基が、後述する無電解めっき触媒と電気的に結合、もしくは錯体を形成するなど化学的に結合し、めっき層5の形成を促進する。
【0040】
めっき層5について説明する。めっき層5は、無電解めっき法により形成され、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含む金属層、もしくは亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物層である。
【0041】
<第一実施例>
以下、上述の実施形態の第一実施例である積層体1について、図1から図5を参照して説明する。本実施例の積層体1は、有機層4がアミノ基を有するシランカップリング剤により形成されている点、めっき層5がNiにより形成されている点に特徴を有する。
【0042】
はじめに、積層体1の構造および材質について、図1を参照して説明する。積層体1は、無アルカリガラスからなる基板2を備える。基板2の上面に、アモルファス構造のシリカ層3が形成されている。シリカ層3の上面には、自己組織化単分子膜である有機層4が形成されている。本実施例の有機層4はアミノ基を有するシランカップリング剤により形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランが用いられる。有機層4の上面には、Niからなるめっき層5が形成されている。めっき層5の厚さは、一例として約150nmである。
【0043】
次に、上記構造の積層体1の製造工程について、図2から図5を参照して説明する。積層体1の製造工程は、図2に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S1)と、有機層4を形成する有機層形成工程(S2)と、めっき層5を形成するめっき層形成工程(S3)とを備えている。めっき層工程(S3)は、触媒付与工程(S4)と、めっき層形成工程(S5)とを備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0044】
はじめに、シリカ層形成工程(S1)について説明する。シリカ層形成工程(S1)では、図3に示すように、基板2の上面を覆うようにシリカ層3を形成する。シリカ層形成工程(S1)では、パーヒドロポリシラザンを含有するシリカ層形成用溶液を、基板2の上面に塗布した後、熱処理を行う。本実施例では、シリカ層形成用溶液として、クリアントジャパン社製のアクアミカ(登録商標)を用いた。シリカ層形成用溶液を基板2の上面に塗布する塗布法としては、スピンコート法を採用した。熱処理は、基板2をホットプレートの上面に乗せて、70℃で10分間、120℃で10分間、150℃で60分間加熱することにより行った。シリカ層3の厚さは一例として50nmである。こうして、図3に示すように、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71が形成される。
【0045】
ここで、パーヒドロポリシラザンについて説明する。パーヒドロポリシラザン(Perhydro−polysilazane)は、−(SiH2NH)−を基本ユニットとするポリシラザンの一種で、側鎖すべてが水素である。パーヒドロポリシラザンは、有機溶剤に可溶な無機ポリマーであるので、有機溶剤と混合させることで液体材料として取り扱うことが可能となる。パーヒドロポリシラザンは、大気中または水蒸気含有雰囲気で焼成されることにより、水や酸素と反応し、SiO2膜へ転化する性質を有している。特に、水分との反応を促進させるアミン系触媒を少量添加することによって、低温焼成でも、結晶性の高いSiO2膜へ転化させることができる。パーヒドロポリシラザンと触媒とを有機溶媒に添加した溶液を用いることにより、塗布法でのSiO2膜の形成が可能となる。また、パーヒドロポリシラザンから形成されるSiO2膜は、周期的に配列した結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)構造である。シリカ層3をパーヒドロポリシラザンを用いて形成することにより、シリカ層3の上面に、無数の微細な凹凸を形成することができる。
【0046】
次に、有機層形成工程(S2)について説明する。有機層形成工程(S2)では、図4に示すように、構造体71におけるシリカ層3の上面に自己組織化単分子膜からなる有機層4を形成する。有機層形成工程(S2)では、まず、前処理として、構造体71(図3参照)におけるシリカ層3上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、構造体71を、エタノールを溶剤とした1mmol/lの3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液に30分含浸させたあと、120度で焼成する。こうして、図4に示すように、基板2の上面にシリカ層3が積層され、シリカ層3の上面に有機層4が積層された構造体72が形成される。構造体72の、有機層4においては、アミノ基を上側に向けて自己組織化単分子膜が形成されている。
【0047】
めっき層形成工程(S3)について説明する。図2に示すように、めっき層工程(S3)は、触媒付与工程(S4)と、めっき層形成工程(S5)とを備えている。
【0048】
触媒付与工程(S4)について説明する。触媒付与工程(S4)では、有機層4のアミノ基とPd−Snコロイドとが電気的に結合することで、構造体72の有機層4の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着する。具体的には、まず、構造体72(図4参照)を、Pd−Snコロイド液(上村工業社製、PED−104およびAT−105)に室温で3分間浸漬させる。次に、構造体72を純水で洗浄する。その後、アクセレータ液(上村工業社製、AL−106)に2分間含浸させる。最後に構造体72を純水で洗浄する。これにより、有機層4の表面に無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着する。
【0049】
次に、めっき工程(S5)について説明する。めっき工程(S5)では、パラジウムが付着された有機層4の上面にめっき層5を形成する。具体的には、温度80℃の無電解ニッケルめっき浴(上村工業社製NPR−4M、NPR−4D、NPR−4A)に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着した構造体72を7分間浸漬させた後、純水で洗浄した。これにより、厚さ1μmのめっき層5が、有機層4を覆うように形成される。こうして、積層体1が形成される。
【0050】
このようにして形成された積層体1のめっき層5の密着性について試験を行った。以下、密着性試験の方法、および結果について、図5を参照して説明する。
【0051】
密着性試験は、JIS H−8504の引きはがし試験方法に従って行った。この試験方法では、形成しためっき層の表面に刃物で2mm間隔程度の碁盤目を入れる。次いで、粘着性のあるテープを気泡ができないように碁盤目上に貼り付け、これを引き剥がす。そして、テープの付着面にNiめっきが付着している場合には、めっき層5の基板2に対する密着性が不良であると判断し、テープの付着面にNiめっきが付着していない場合には、めっき層5の基板2に対する密着性が良好であると判断する。
【0052】
この密着性試験の結果、めっき層からテープを引き剥がした後のテープの付着面には、Niめっきは付着していなかった。また、図5に示す写真のように、積層体1では、テープを引き剥がした後にも碁盤目が残っており、めっき層の剥離が見られなかった。従って、密着性は良好と判断できる。
【0053】
積層体1では、基板2の上面に、ポリシラザンを前駆体としてシリカ層3を形成している。ポリシラザンをシリカ層3の前駆体として用いることにより、基板2と密着性の良いシリカ層3を基板2の上面に形成することができる。また、シリカ層3は上面に無数の微細な凹凸が形成されている。有機層4は、シリカ層3の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、シリカ層3と化学的に結合しているため、シリカ層3と有機層4との結合は強固である。
【0054】
また、自己形成単分子膜から形成されている有機層4の厚さは均一かつ薄いので、有機層4の上面にも、シリカ層3の上面に形成されている微細な凹凸を反映した凹凸が形成される。そのため、有機層4とめっき層5との間に、アンカー効果が発現する。基板2とシリカ層3、シリカ層3と有機層4、有機層4とめっき層5の密着性を向上させることができるので、基板2に対するめっき層5の密着性を向上させることができたものと考えられる。
【0055】
次に、比較のために、シリカ層3を備えない積層体1Bについて製造し、めっき層5Bを製造する過程でめっき層5Bの状態を目視した結果について、図6および図7を参照して説明する。まず、積層体1Bの断面構造について説明する。図6に示すように、積層体1Bは、基板2Bの上面に有機層4Bが形成され、有機層4Bの上面にめっき層5Bが形成されている。すなわち、積層体1Bの構造は、シリカ層3を備えないこと以外は、積層体1(図1参照)と同様である。また、積層体1Bの製造工程は、シリカ層形成工程(S1)(図2参照)を備えないこと以外は積層体1の製造工程に対して、同一である。
【0056】
次に、積層体1Bを製造する過程でめっき層5Bの状態を目視した結果について、説明する。図7に示すように、比較例の積層体1Bでは、めっき工程(S5)において、めっき層5Bの一部が膜厚が100nmにも満たない程度で基板2と密着しないで浮いてしまう、所謂「フクレ」が生じてしまった。これは、シリカ層3を備えない積層体1Bにおいては、基板2Bと有機層4Bとの間や有機層4Bとめっき層5Bとの間に、積層体1のようなアンカー効果が発現せず、めっき層5Bの基板2Bに対する密着性が不良であったためと考えられる。更にめっき浴に浸漬すると、めっき層5Bは膜厚が150nmにも満たない程度でめっき液中で完全に剥離した。一方、上述したように、シリカ層3を備えている場合には、厚さ1μmまで膜厚を増加しても、めっき層5が剥離することなく形成されること確認している。これにより、シリカ層3を形成することにより、フクレの発生及びめっき液中での剥離を抑制でき、めっき層5の密着性を向上させることができることが示唆された。
【0057】
<第二実施例>
次に、上述の実施形態の第二実施例である積層体11について、図8から図11を参照して説明する。積層体11の構造は、有機層14がパターニング形成されている点、めっき層15が有機層14の上面に有機層14と同一パターンで形成されている点で第一実施例の積層体1とは異なる。また、積層体11の製造工程は、シリカ層3の上面にパターン状の有機層14が形成される有機層パターン形成工程(S22)を備える点で、第一実施例の積層体1とは異なる。以下、第一実施例と異なる点についてのみ重点的に説明を行い、第一実施例と同一の箇所については、説明を省略または簡略化する。
【0058】
はじめに、第二実施例の積層体11の構造および材質について、図8を参照して説明する。積層体11は、無アルカリガラスからなる基板2の上面に、アモルファス構造のシリカ層3が形成され、シリカ層3の上面にパターニングされた有機層14が形成される。そして、パターニング形成された有機層14の上面には、Niからなるめっき層15が、有機層14と同一パターンで形成されている。第二実施例における有機層14は、第一実施例と同様に、アミノ基を有するシランカップリング剤を前駆体として形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランが用いられる。
【0059】
次に、第二実施例の積層体11の製造工程について、図9から図11を参照して説明する。積層体11の製造工程は、図9に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S21)と、有機層14をパターン形成する有機層パターン形成工程(S22)と、めっき層15を形成するめっき層形成工程(S23)とを備えている。
【0060】
シリカ層形成工程(S21)は、第一実施形態におけるシリカ層形成工程(S1)と同様であるため、説明を省略する。シリカ層形成工程(S21)によって、第一実施例と同様に、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71(図3参照)が形成される。
【0061】
有機層パターン形成工程(S22)について、図10を参照して説明する。有機層パターン形成工程(S22)では、まず、前処理として、構造体71(図3参照)におけるシリカ層3の上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、図10に示すように、マイクロコンタクトプリント法により、パターン化された有機層14を、シリカ層3の上面に形成する。具体的には、パターン状に凸部が形成されたスタンプ20の凸面75に、エタノールを溶剤とした5mmol/lの、3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液を塗布する。そして、N2を用いてエタノールを揮発させたあと、凸面75をシリカ層3の上面に密着させる。その後、120度で焼成する。こうして、図11に示すように、パターン化された有機層14がシリカ層3の上面に形成された構造体73が形成される。
【0062】
めっき層形成工程(S23)について説明する。図9に示すように、めっき層工程(S23)は、触媒付与工程(S24)と、めっき工程(S25)とを備えている。触媒付与工程(S24)では、構造体73の有機層14の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムを付着させる。具体的には、まず、構造体73(図4参照)を、Pd−Snコロイド液(上村工業社製、PED−104およびAT−105)に室温で3分間浸漬させる。次に、構造体73を純水で洗浄する。その後、アクセレータ液(上村工業社製、AL−106)に2分間含浸させる。最後に構造体73を純水で洗浄する。こうして、構造体73における有機層14の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムを付着させる。
【0063】
次に、めっき工程(S25)について説明する。めっき工程(S25)では、パラジウムが付着された有機層14の上面にめっき層15を形成する。具体的には、温度80℃の無電解ニッケルめっき浴(上村工業社製NPR−4M、NPR−4D、NPR−4A)に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着した構造体73を1分間浸漬させた後、純水で洗浄した。
【0064】
構造体73では、パターン形成された有機層14の表面にアミノ基が存在する。触媒付与工程(S24)では、このアミノ基とPd−Snコロイドとが電気的に結合するので、パターン形成された有機層14の表面のみにパラジウムが付着する。そして、めっき工程(S25)では、このパラジウム付着部分にめっき浴中の金属が付着し、めっき層15が形成される。これにより、パターン形成された、厚さ150nmのめっき層15が形成される。こうして、第二実施例の積層体11(図8参照)が形成される。
【0065】
第二実施例の積層体11についても、第一実施例の積層体1と同様に、めっき層15の基板2に対する密着性を向上させることができる。また、パターン化された有機層14は、マイクロコンタクトプリント法により形成されるので、簡単にパターン状の有機層14を形成することができる。しかも、予めパターン状に形成された有機層14の上面にめっき層15を形成するので、構造体73を覆うように金属薄膜を形成した後にパターニングを行い、めっき層15を形成する場合に比べて、金属材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0066】
<第三実施例>
次に、上述の実施形態の第三実施例である積層体21について、図8、図11、および図12を参照して説明する。図8に示すように、積層体21の構造は、第二実施例の積層体11の構造と同一である。積層体21の材質は、有機層24がチオール基を有するシランカップリング剤により形成されている点、めっき層25がCuにより形成されている点で、第二実施例の積層体11とは異なる。また、図12に示すように、積層体21の製造工程は、有機層パターン形成工程(S32)が、自己組織化単分子膜形成工程(S33)とパターニング工程(S34)とを備える点で、第二実施例とは異なる。以下、第二実施例と異なる点についてのみ重点的に説明を行い、第二実施例と同一の箇所については、説明を省略または簡略化する。
【0067】
積層体21の断面構造については、第二実施例の積層体11(図8参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
積層体21を構成する各層の材質について説明する。基板2およびシリカ層3の材質は、第二実施例の積層体11と同様であるため、説明を省略する。有機層24は、チオール基を有するシランカップリング剤により形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが用いられる。めっき層25は、Cuからなる。
【0069】
次に、上記構造の積層体21の製造工程について、図12を参照して説明する。積層体21の製造工程は、図12に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S31)と、有機層24をパターン状に形成する有機層パターン形成工程(S32)と、めっき層25を形成するめっき層形成工程(S35)とを備えている。有機層パターン形成工程(S32)は、自己組織化単分子膜形成工程(S33)と、パターニング工程(S34)とを備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0070】
シリカ層形成工程(S31)は、第一実施例、第二実施例のシリカ層形成工程(S1、S21)と同様であるため、説明を省略する。シリカ層形成工程(S31)により、第一実施例、第二実施例と同様に、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71(図3参照)が形成される。
【0071】
次に、有機層パターン形成工程(S32)について説明する。有機層パターン形成工程(S32)は、図12に示すように、構造体71におけるシリカ層3の上面に自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程(S33)と、形成された自己組織化単分子膜をパターニングするパターニング工程(S34)とを備える。
【0072】
自己組織化単分子膜形成工程(S33)について説明する。自己組織化単分子膜形成工程(S33)では、まず、前処理として、構造体71におけるシリカ層3の上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、構造体71を、エタノールを溶剤とした1mmol/lの3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン溶液に30分含浸させたあと、120度で焼成する。こうして、シリカ層3を覆うように、自己組織化単分子膜からなる有機層24を形成する。有機層24においては、チオール基を上側に向けて、自己組織化単分子膜が形成されている。
【0073】
パターニング工程(S34)について説明する。パターニング工程(S34)では、自己組織化単分子膜形成工程(S33)で形成された有機層24をパターニングする。本実施例では、真空条件下において、石英ガラスをベースとしたフォトマスクを介して、形成された有機層24に、波長λ=172nmの紫外線を照射することにより、有機層24のパターニングを行った。こうして、基板2、シリカ層3、およびパターニングされた有機層24が積層された構造体74が形成される。
【0074】
めっき層形成工程(S35)について説明する。めっき層形成工程(S35)では、構造体74を、温度50℃、pH7.0の無電解銅めっき浴に3分間浸漬することにより、有機層24の上面にめっき層25を形成する。無電解銅めっき浴の組成は以下のとおりである。
・CuCl2・2H2O : 0.05mol/l、
・EDTA・2Na : 0.05mol/l、
・H3BO4 : 0.1mol/l、
・CuCl2/2H2O : 0.1mol/l
構造体74においては、有機層24の表面にチオール基が存在する。チオール基が、無電解銅めっき浴の銅イオンと結合することにより、有機層24の上面にCuからなるめっき層25を形成することができる。以上のS31からS35の工程を経て、積層体21が形成される。
【0075】
第三実施例の積層体21によれば、有機層24がチオール基を備える自己組織化単分子膜から形成されている。チオール基は、金属と共有結合または配位結合するので、めっき形成工程において有機層24上面のチオール基とめっき液中の銅が結合する。有機層24上面に結合した銅自体が触媒効果を有するため、触媒付与工程を用いることなく有機層24の上面にめっき層25を形成させることができる。よって、製造工程を簡略化することができる。
【0076】
次に、上述した積層体11と同様の積層構造を備えた、本発明の一実施形態である薄膜トランジスタ100について、図13を参照して説明する。以下の説明では、図13の下側(基板102側)を薄膜トランジスタ100の下側、図13の上側を薄膜トランジスタ100の上側として説明する。薄膜トランジスタ100は、ゲート電極110が、ソース電極105やドレイン電極106より上側に位置する、所謂「トップゲート型」の薄膜トランジスタである。
【0077】
薄膜トランジスタ100の断面構造について説明する。薄膜トランジスタ100は、板状の基板102を有し、基板102の上面には、シリカ層103が設けられている。シリカ層103の上面には、パターニングされた有機層104が設けられ、有機層104の上面には、ソース電極105およびドレイン電極106が設けられている。ソース電極105とドレイン電極106との間には、ソース電極105とドレイン電極106とを埋めるように、半導体層107が設けられている。
【0078】
ソース電極105、ドレイン電極106、半導体層107、シリカ層103の上面には、絶縁層111が設けられている。絶縁層111の上面には、シリカ層108が設けられている。シリカ層108の上面には、パターニングされた自己組織化形成膜からなる有機層109が設けられ、有機層109の上面には、ゲート電極110が設けられている。
【0079】
基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105・ドレイン電極106の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105、ドレイン電極106の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11の基板2、シリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。また、シリカ層103、有機層104、ソース電極105、ドレイン電極106の形成方法は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。
【0080】
また、絶縁層111、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。また、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。
【0081】
なお、絶縁層111の材質としては、絶縁物質が採用され、絶縁層111の形成方法としては、周知の各種方法が適用可能である。本実施形態では、絶縁層111の材質として、有機絶縁物質であるポリビニルフェノールが採用され、形成方法としてスピンコート法が採用される。
【0082】
また、半導体層107の材質としては、本実施形態ではInGaZnO4が採用される。半導体層107の形成方法は、スパッタリング法によりInGaZnO4膜の成膜を行った後、フォトリソグラフィ法によりパターニングを行う方法を採用した。
【0083】
薄膜トランジスタ100では、基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105・ドレイン電極106の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造であるため、ソース電極105、ドレイン電極106の基板102に対する密着性を向上させることができる。絶縁層111、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造であるため、ゲート電極110の絶縁層111に対する密着性を向上させることができる。
【0084】
次に、上述した積層体11と同様の方法で形成した、本発明の一実施形態であるプリント配線基板200について、図14および図15を参照して説明する。
【0085】
プリント配線基板200の断面構造について説明する。図14に示すように、プリント配線基板200は、樹脂からなる基板202の上面に、シリカ層203が形成され、シリカ層203の上面にパターン形成された有機層204が形成されている。基板202とシリカ層203と有機層204とによって、基板210が構成される。そして、基板210の上面には、有機層204と同一パターンの金属配線205が形成される。
【0086】
プリント配線基板200のシリカ層203、有機層204、金属配線205の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、シリカ層203、有機層204、金属配線205の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層14、めっき層15、と同様である。また、シリカ層203、有機層204、金属配線205の形成方法は、積層体11のシリカ層3、有機層14、めっき層15の形成方法と同様である。
【0087】
このように形成されたプリント配線基板200を目視すると、図13に示すように、配線のフクレおよび剥がれがみられなかった。プリント配線基板200では、金属配線205を積層体11のめっき層15と同様の方法で形成するので、金属配線205の基板202に対する密着性を向上させることができる。よって、金属配線205が断線しにくく、信頼性の高いプリント配線基板200を提供することができる。
【0088】
また真空成膜装置を用いた方法は、基板の全面に金属膜を成膜した後、その不要部分をエッチングにより除去することで、配線パターンを形成するため、除去された部分の金属が無駄になってしまう。一方、本発明においては、あらかじめ、パターン形成された有機層204の上面に金属配線205を形成するので、金属材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0089】
なお、本発明の積層体1、11、21、薄膜トランジスタ100、およびプリント配線基板200は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0090】
たとえば、上述の実施例では、シリカ層の前駆体として、パーヒドロポリシラザンを用いたが、ポリシラザンであればよく、パーヒドロポリシラザンに限定されない。
【0091】
また、上述の実施例では、形成されためっき層5、15、25は、金属単体からなるが、めっき層5、15、25を置換めっきした金属積層体または、金属酸化物より形成しても良い。例えば、めっき層5、15、25を、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物とした場合、めっき層を各種半導体デバイスの半導体層として適用することができる。有機層4、14、24の上面に金属酸化物からなるめっき層を形成するプロセスには、周知の無電解めっきプロセスが適用される。
【0092】
また、積層体11、21では、パターニングされた有機層14、24の上面にめっき層を形成したが、パターニングされた有機層14、24の上面にめっき層15、25を形成するものに限定しない。たとえば、シリカ層3の上面を覆うように有機層を形成し、さらに、その上面にめっき層を形成し、そのあと、エッチングなどによって、めっき層のパターンを形成しても良い。この場合であっても、パターン形成された密着性のよいめっき層を得ることができる。
【0093】
また、上述した薄膜トランジスタ100は、トップゲート型の薄膜トランジスタであったが、ボトムゲート型の薄膜トランジスタに適用しても良い。また、薄膜トランジスタ100では、ソース電極105、ドレイン電極106、ゲート電極110のすべてが無電解めっきにより形成されていたが、いずれかを無電解めっき以外の方法で形成してもよい。また、薄膜トランジスタ100の上面にさらに層間絶縁層を形成し、層間絶縁層の上面に積層体11、21のめっき層15、25と同様の方法で、画素電極を形成しても良い。すなわち、薄膜トランジスタ100の上面に周知の方法で層間絶縁層を形成し、層間絶縁層の上面にポリシラザンを前駆体としてシリカ層を形成し、シリカ層の上面に自己組織化単分子膜からなる有機層を形成し、有機層の上面に無電解めっきにより画素電極を形成しても良い。
【符号の説明】
【0094】
1、11、21 積層体
2 基板
3 シリカ層
4、14、24 有機層
5、15、25 めっき層
100 薄膜トランジスタ
200 プリント配線基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、および積層体を備えるプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの金属配線の形成手法として、一般的には真空成膜法等の気相法が用いられる。しかしながら、これらの手法ではレジストなどの材料コストや真空成膜装置などの設備コストが大きい。特に、近年はパネルの大型化が進み、従来の真空成膜法で金属配線を形成しようとすると、広い面積にわたって膜厚や膜質が均一な金属膜を成膜することが困難であるうえ、大がかりな真空成膜装置が必要であるという問題点があった。
【0003】
この問題を解決するために、無電解めっき用塗布液を基板上に塗布して無電解めっき用塗布液の塗布膜を基板上に形成する工程と、所定のパターンを有するマスクを介して塗布膜を露光し、現像する工程と、基板を無電解めっき浴に含浸して無電解めっきを施す工程を備えた金属配線パターンの形成方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この方法では、無電解めっき法を用いて金属配線パターン(本願におけるめっき層)を形成することにより、大がかりが装置を用いることなく低コストで、広い面積にわたって膜厚や膜質が均一な金属配線パターンを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−147762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の金属配線パターンの形成方法では、表面が平滑な基板上に金属配線パターンを形成した場合、基板と金属配線パターンとの密着性が弱いという問題点があった。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、基板とめっき層との密着性に優れた積層体、その製造方法、積層体を備える薄膜トランジスタ、および積層体を備えるプリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の積層体は、基板と、前記基板上面に形成され、ポリシラザンを前駆体とするアモルファスシリカ層と、前記アモルファスシリカ層上面に形成され、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体とする有機層と、前記有機層の上面に形成され、無電解めっきにより析出されためっき層とを備えている。
【0008】
また、請求項2に係る発明の積層体は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明の積層体は、請求項1または2に記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有する。
【0010】
また、請求項4に係る発明の積層体では、請求項1から3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明の積層体は、請求項1から4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明の積層体は、請求項1から5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記めっき層は、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明の積層体は、請求項1から5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記めっき層は、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明の積層体は、請求項1から7のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記有機層はパターン形成され、前記めっき層は、前記有機層上面に前記有機層と同一パターンで形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る発明の積層体の製造方法は、基板上面に、ポリシラザンを前駆体として、アモルファスシリカ層を形成するシリカ層形成工程と、前記アモルファスシリカ層上面に、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する有機層形成工程と、前記有機層上面に、無電解めっきによりめっき層を形成するめっき層形成工程とを備えている。
【0016】
また、請求項10に係る発明の積層体の製造方法は、請求項9に記載の発明の構成に加えて、前記有機層形成工程では、前記有機層がパターン状に形成されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項11に係る発明の積層体の製造方法は、請求項9または10に記載の発明の構成に加えて、前記有機層形成工程では、前記有機層が前記有機分子の自己組織化により形成されることを特徴とする。
【0018】
また、請求項12に係る発明の薄膜トランジスタは、請求項8に記載の積層体を備えている。
【0019】
また、請求項13に係る発明のプリント配線基板は、請求項8に記載の積層体を備えている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明の積層体では、基板に対して密着性のよいアモルファスシリカ層を、ポリシラザンを前駆体として形成することができる。また、ポリシラザンを前駆体として形成されたアモルファスシリカ層には、上面に無数の微細な凹凸が形成されるため、アモルファスシリカ層の上面に形成される有機層は、アモルファスシリカ層の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、アモルファスシリカ層と結合することができる。よって、アンカー効果により、アモルファスシリカ層および有機層を介して基板上に形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0021】
また、請求項2に係る発明の積層体では、請求項1に記載の発明の効果に加え、有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であるため、有機層を均一かつ薄くすることができる。よって、有機層上面においても、アモルファスシリカ層の上面に形成された無数の微細な凹凸を反映して、同様の凹凸を形成することができる。よって、有機層と、有機層上面に形成されるめっき層との間にアンカー効果が発現し、有機層とめっき層との結合を強固なものとすることができる。よって、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0022】
また、請求項3に係る発明の積層体では、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有するので、触媒は有機層上面の凹凸によるアンカー効果に加え、有機層との化学的もしくは電気的な結合によって、有機層と触媒との結合を一層強固なものにすることができる。よって、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。更に、有機層をパターニングすることで、触媒が付与される領域を選択することができるため、任意のめっきパターンを形成することが可能となる。
【0023】
また、請求項4に係る発明の積層体では、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えている。チオール基は、めっき層を構成する金属と配位結合、もしくは共有結合する。アミノ基、ピリジル基、メチル基は、めっき層形成工程において、無電解めっき触媒と電気的に結合、もしくは錯体を形成するなど化学的に結合し、めっき層の形成を促進する。よって、有機層とめっき層の結合を強固なものにすることができるため、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0024】
また、請求項5に係る発明の積層体では、請求項1から4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであるため、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが備える加水分解基が、アモルファスシリカ層の上面と結合することができる。よって、有機層とアモルファスシリカ層の結合を強固なものにすることができるため、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0025】
また、請求項6に係る発明の積層体では、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むめっき層を、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成することができる。めっき層は銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれか一つからなる単層構造、または銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含む積層構造であってもよい。これにより、導電性や耐腐食性に優れる金属膜が形成できるため、各種電子デバイスの配線や電極として利用することに適している。
【0026】
また、請求項7に係る発明の積層体では、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなるめっき層を、基板上にアモルファスシリカ層と有機層とを介して形成することができる。これにより、めっき層を各種半導体デバイスの半導体層として適用することができる。
【0027】
また、請求項8に係る発明の積層体では、請求項1から7のいずれかに記載の発明の効果に加え、パターン状に形成された有機層の上面に有機層と同一パターンのめっき層が形成されているので、予めパターン状に形成した有機層の上面にのみにめっき層を形成することができる。よって、基板の上面を覆うようにめっき層を形成した後に、めっき層のパターニングを行う場合に比べて、めっき層を形成する材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0028】
また、請求項9に係る発明の積層体の製造方法では、シリカ層形成工程において、基板上面にポリシラザンを前駆体としてアモルファスシリカ層を形成する。ポリシラザン前駆体としてアモルファスシリカ層を形成するので、基板に対して密着性のよいアモルファス構造のシリカからなるアモルファスシリカ層を形成することができる。また、有機層形成工程において、アモルファスシリカ層上面に、アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する。アモルファスシリカ層の上面には、無数の微細な凹凸が形成されているので、有機層は、アモルファスシリカ層の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、アモルファスシリカ層と結合することができる。よって、アンカー効果により、アモルファスシリカ層および有機層を介して基板上に形成されるめっき層の基板に対する密着性を向上させることができる。
【0029】
請求項10に係る発明の積層体の製造方法では、請求項9に記載の発明の効果に加え、有機層形成工程では、有機層がパターン状に形成されるため、めっき層形成工程においては、通常の無電解めっきプロセスにより、めっき層をパターン状に形成された有機層の上面にのみ選択的に形成することができる。よって、基板上面を覆うようにめっき層を形成した後、めっき層のパターニングを行う場合に比べて、めっき層を形成する材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。また、基板上面を覆うようにめっき層を形成した後、めっき層のパターニングを行う場合に比べて少ない工程でパターン状のめっき層を形成することができる。
【0030】
請求項11に係る発明の積層体の製造方法では、請求項9または10に記載の発明の効果に加え、有機層形成工程では、有機層が有機分子の自己組織化により形成されるため、有機層の厚さを均一かつ薄くすることができる。よって、有機層の上面に、アモルファスシリカ層の上面を反映した微細な凹凸を形成することができる。よって、有機層と、有機層上面に形成されるめっき層との間にアンカー効果が発現し、有機層とめっき層との結合を強固なものとすることができる。また、選択する有機分子に応じて、有機層の上面の化学的性質を制御することができる。
【0031】
また、請求項12に記載の薄膜トランジスタは、請求項8に記載の積層体を備えている。よって、基板に対して密着性の良いめっき層を備える薄膜トランジスタを提供することができる。たとえば、積層体のめっき層を薄膜トランジスタの電極として適用すれば、剥離しにくい電極を備える薄膜トランジスタを提供できる。積層体のめっき層を薄膜トランジスタの半導体層として適用すれば、剥離しにくい半導体層を備える薄膜トランジスタを提供できる。
【0032】
請求項13に記載のプリント配線基板は、請求項8に記載の積層体を備えている。よって、基板に対して密着性の良いめっき層を備えるプリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】積層体1の縦断面図である。
【図2】積層体1の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】構造体71の縦断面図である。
【図4】構造体72の縦断面図である。
【図5】積層体1の密着性試験を行った後の状態を示す写真である。
【図6】積層体1Bの縦断面図である。
【図7】積層体1Bのめっき層5Bの状態を示す写真である。
【図8】積層体11、21の縦断面図である。
【図9】積層体11の製造工程を示すフローチャートである。
【図10】有機層パターン形成工程(S22)を説明する図である。
【図11】構造体73、74の縦断面図である。
【図12】積層体21の製造工程を示すフローチャートである。
【図13】薄膜トランジスタ100の縦断面図である。
【図14】プリント配線基板200の縦断面図である。
【図15】プリント配線基板200の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態である積層体1について、図1から図12を参照して説明する。本実施形態の積層体1は、基板2の上面に、ポリシラザンを前駆体とするシリカ層3及び自己組織化形成膜からなる有機層4を介して、めっき層5が形成される点に特徴を有する。
【0035】
はじめに、積層体1の断面構造について、図1を参照して説明する。以下の説明では、図1の下側(基板2側)を積層体1の下側、図1の上側を積層体1の上側として説明する。積層体1は、板状の基板2を有し、基板2の上面には、ポリシラザンを前駆体とするシリカ層3が形成されている。シリカ層3の上面には、シリカ層3を覆うように有機層4が形成されている。有機層4の上面には、有機層4を覆うように、めっき層5が形成されている。
【0036】
次に、積層体1を構成する各層の材質について説明する。基板2について説明する。基板2は、表面が平坦である板状部材である。基板2の材質としては、絶縁性の材質が用いられ、具体的には、ガラス基板やシリコン基板のほか、プラスチック基板が用いられる。基板2に可撓性を付与したい場合には、特に、基板2の材質としてプラスチックが採用される。プラスチックの材質としては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。基板2の耐水性やガスバリア性を向上させる場合には、基板2の表面にSiO2やSiNxなどからなるバリア膜が形成される。
【0037】
シリカ層3について説明する。シリカ層3は、高純度のシリカガラス(SiO2)から形成されている。シリカ層3の構造は、周期的には配列した結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)構造である。シリカ層3の上面には、無数の微細な凹凸が形成されている。このシリカ層3は、後述するようにパーヒドロポリシラザンを前駆体として形成される。
【0038】
有機層4について説明する。有機層4は、自己組織化単分子膜である。本発明において「自己組織化単分子膜」とは、膜形成面(本実施形態においては、シリカ層3の上面)の構成原子と結合可能な官能基が直鎖分子に結合されている化合物を、気体または液体の状態で膜形成面と共存させることにより、前記官能基が膜形成面に吸着して膜形成面の構成原子と結合し、直鎖分子を外側に向けて形成された緻密な単分子膜であると定義される。なお、有機層4を構成する自己組織化単分子膜は、ほぼ完全な単分子膜となっていることが好ましいが、実質上、3分子膜、5分子膜のように、単分子でない部分を含んでいても良い。
【0039】
有機層4の前駆体としては、後述する無電解めっき中の金属または、無電解めっき触媒と、化学的または電気的に結合可能な部位を有するとともに、シリカ層3の上面の構成原子と結合可能な官能基を有する有機化合物が用いられる。具体的には、有機化合物として、アミノ基、ピリジル基、チオール基、メチル基のいずれかを備える有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが適用可能である。有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルが備える加水分解基が、シリカ層3の上面と結合する。チオール基が、後述するめっき層5を構成する金属原子と配位結合、もしくは共有結合する。アミノ基、ピリジル基、メチル基が、後述する無電解めっき触媒と電気的に結合、もしくは錯体を形成するなど化学的に結合し、めっき層5の形成を促進する。
【0040】
めっき層5について説明する。めっき層5は、無電解めっき法により形成され、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含む金属層、もしくは亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物層である。
【0041】
<第一実施例>
以下、上述の実施形態の第一実施例である積層体1について、図1から図5を参照して説明する。本実施例の積層体1は、有機層4がアミノ基を有するシランカップリング剤により形成されている点、めっき層5がNiにより形成されている点に特徴を有する。
【0042】
はじめに、積層体1の構造および材質について、図1を参照して説明する。積層体1は、無アルカリガラスからなる基板2を備える。基板2の上面に、アモルファス構造のシリカ層3が形成されている。シリカ層3の上面には、自己組織化単分子膜である有機層4が形成されている。本実施例の有機層4はアミノ基を有するシランカップリング剤により形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランが用いられる。有機層4の上面には、Niからなるめっき層5が形成されている。めっき層5の厚さは、一例として約150nmである。
【0043】
次に、上記構造の積層体1の製造工程について、図2から図5を参照して説明する。積層体1の製造工程は、図2に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S1)と、有機層4を形成する有機層形成工程(S2)と、めっき層5を形成するめっき層形成工程(S3)とを備えている。めっき層工程(S3)は、触媒付与工程(S4)と、めっき層形成工程(S5)とを備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0044】
はじめに、シリカ層形成工程(S1)について説明する。シリカ層形成工程(S1)では、図3に示すように、基板2の上面を覆うようにシリカ層3を形成する。シリカ層形成工程(S1)では、パーヒドロポリシラザンを含有するシリカ層形成用溶液を、基板2の上面に塗布した後、熱処理を行う。本実施例では、シリカ層形成用溶液として、クリアントジャパン社製のアクアミカ(登録商標)を用いた。シリカ層形成用溶液を基板2の上面に塗布する塗布法としては、スピンコート法を採用した。熱処理は、基板2をホットプレートの上面に乗せて、70℃で10分間、120℃で10分間、150℃で60分間加熱することにより行った。シリカ層3の厚さは一例として50nmである。こうして、図3に示すように、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71が形成される。
【0045】
ここで、パーヒドロポリシラザンについて説明する。パーヒドロポリシラザン(Perhydro−polysilazane)は、−(SiH2NH)−を基本ユニットとするポリシラザンの一種で、側鎖すべてが水素である。パーヒドロポリシラザンは、有機溶剤に可溶な無機ポリマーであるので、有機溶剤と混合させることで液体材料として取り扱うことが可能となる。パーヒドロポリシラザンは、大気中または水蒸気含有雰囲気で焼成されることにより、水や酸素と反応し、SiO2膜へ転化する性質を有している。特に、水分との反応を促進させるアミン系触媒を少量添加することによって、低温焼成でも、結晶性の高いSiO2膜へ転化させることができる。パーヒドロポリシラザンと触媒とを有機溶媒に添加した溶液を用いることにより、塗布法でのSiO2膜の形成が可能となる。また、パーヒドロポリシラザンから形成されるSiO2膜は、周期的に配列した結晶構造を持たない非晶質(アモルファス)構造である。シリカ層3をパーヒドロポリシラザンを用いて形成することにより、シリカ層3の上面に、無数の微細な凹凸を形成することができる。
【0046】
次に、有機層形成工程(S2)について説明する。有機層形成工程(S2)では、図4に示すように、構造体71におけるシリカ層3の上面に自己組織化単分子膜からなる有機層4を形成する。有機層形成工程(S2)では、まず、前処理として、構造体71(図3参照)におけるシリカ層3上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、構造体71を、エタノールを溶剤とした1mmol/lの3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液に30分含浸させたあと、120度で焼成する。こうして、図4に示すように、基板2の上面にシリカ層3が積層され、シリカ層3の上面に有機層4が積層された構造体72が形成される。構造体72の、有機層4においては、アミノ基を上側に向けて自己組織化単分子膜が形成されている。
【0047】
めっき層形成工程(S3)について説明する。図2に示すように、めっき層工程(S3)は、触媒付与工程(S4)と、めっき層形成工程(S5)とを備えている。
【0048】
触媒付与工程(S4)について説明する。触媒付与工程(S4)では、有機層4のアミノ基とPd−Snコロイドとが電気的に結合することで、構造体72の有機層4の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着する。具体的には、まず、構造体72(図4参照)を、Pd−Snコロイド液(上村工業社製、PED−104およびAT−105)に室温で3分間浸漬させる。次に、構造体72を純水で洗浄する。その後、アクセレータ液(上村工業社製、AL−106)に2分間含浸させる。最後に構造体72を純水で洗浄する。これにより、有機層4の表面に無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着する。
【0049】
次に、めっき工程(S5)について説明する。めっき工程(S5)では、パラジウムが付着された有機層4の上面にめっき層5を形成する。具体的には、温度80℃の無電解ニッケルめっき浴(上村工業社製NPR−4M、NPR−4D、NPR−4A)に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着した構造体72を7分間浸漬させた後、純水で洗浄した。これにより、厚さ1μmのめっき層5が、有機層4を覆うように形成される。こうして、積層体1が形成される。
【0050】
このようにして形成された積層体1のめっき層5の密着性について試験を行った。以下、密着性試験の方法、および結果について、図5を参照して説明する。
【0051】
密着性試験は、JIS H−8504の引きはがし試験方法に従って行った。この試験方法では、形成しためっき層の表面に刃物で2mm間隔程度の碁盤目を入れる。次いで、粘着性のあるテープを気泡ができないように碁盤目上に貼り付け、これを引き剥がす。そして、テープの付着面にNiめっきが付着している場合には、めっき層5の基板2に対する密着性が不良であると判断し、テープの付着面にNiめっきが付着していない場合には、めっき層5の基板2に対する密着性が良好であると判断する。
【0052】
この密着性試験の結果、めっき層からテープを引き剥がした後のテープの付着面には、Niめっきは付着していなかった。また、図5に示す写真のように、積層体1では、テープを引き剥がした後にも碁盤目が残っており、めっき層の剥離が見られなかった。従って、密着性は良好と判断できる。
【0053】
積層体1では、基板2の上面に、ポリシラザンを前駆体としてシリカ層3を形成している。ポリシラザンをシリカ層3の前駆体として用いることにより、基板2と密着性の良いシリカ層3を基板2の上面に形成することができる。また、シリカ層3は上面に無数の微細な凹凸が形成されている。有機層4は、シリカ層3の上面の無数の微細な凹凸に入り込んだ状態で、シリカ層3と化学的に結合しているため、シリカ層3と有機層4との結合は強固である。
【0054】
また、自己形成単分子膜から形成されている有機層4の厚さは均一かつ薄いので、有機層4の上面にも、シリカ層3の上面に形成されている微細な凹凸を反映した凹凸が形成される。そのため、有機層4とめっき層5との間に、アンカー効果が発現する。基板2とシリカ層3、シリカ層3と有機層4、有機層4とめっき層5の密着性を向上させることができるので、基板2に対するめっき層5の密着性を向上させることができたものと考えられる。
【0055】
次に、比較のために、シリカ層3を備えない積層体1Bについて製造し、めっき層5Bを製造する過程でめっき層5Bの状態を目視した結果について、図6および図7を参照して説明する。まず、積層体1Bの断面構造について説明する。図6に示すように、積層体1Bは、基板2Bの上面に有機層4Bが形成され、有機層4Bの上面にめっき層5Bが形成されている。すなわち、積層体1Bの構造は、シリカ層3を備えないこと以外は、積層体1(図1参照)と同様である。また、積層体1Bの製造工程は、シリカ層形成工程(S1)(図2参照)を備えないこと以外は積層体1の製造工程に対して、同一である。
【0056】
次に、積層体1Bを製造する過程でめっき層5Bの状態を目視した結果について、説明する。図7に示すように、比較例の積層体1Bでは、めっき工程(S5)において、めっき層5Bの一部が膜厚が100nmにも満たない程度で基板2と密着しないで浮いてしまう、所謂「フクレ」が生じてしまった。これは、シリカ層3を備えない積層体1Bにおいては、基板2Bと有機層4Bとの間や有機層4Bとめっき層5Bとの間に、積層体1のようなアンカー効果が発現せず、めっき層5Bの基板2Bに対する密着性が不良であったためと考えられる。更にめっき浴に浸漬すると、めっき層5Bは膜厚が150nmにも満たない程度でめっき液中で完全に剥離した。一方、上述したように、シリカ層3を備えている場合には、厚さ1μmまで膜厚を増加しても、めっき層5が剥離することなく形成されること確認している。これにより、シリカ層3を形成することにより、フクレの発生及びめっき液中での剥離を抑制でき、めっき層5の密着性を向上させることができることが示唆された。
【0057】
<第二実施例>
次に、上述の実施形態の第二実施例である積層体11について、図8から図11を参照して説明する。積層体11の構造は、有機層14がパターニング形成されている点、めっき層15が有機層14の上面に有機層14と同一パターンで形成されている点で第一実施例の積層体1とは異なる。また、積層体11の製造工程は、シリカ層3の上面にパターン状の有機層14が形成される有機層パターン形成工程(S22)を備える点で、第一実施例の積層体1とは異なる。以下、第一実施例と異なる点についてのみ重点的に説明を行い、第一実施例と同一の箇所については、説明を省略または簡略化する。
【0058】
はじめに、第二実施例の積層体11の構造および材質について、図8を参照して説明する。積層体11は、無アルカリガラスからなる基板2の上面に、アモルファス構造のシリカ層3が形成され、シリカ層3の上面にパターニングされた有機層14が形成される。そして、パターニング形成された有機層14の上面には、Niからなるめっき層15が、有機層14と同一パターンで形成されている。第二実施例における有機層14は、第一実施例と同様に、アミノ基を有するシランカップリング剤を前駆体として形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシランが用いられる。
【0059】
次に、第二実施例の積層体11の製造工程について、図9から図11を参照して説明する。積層体11の製造工程は、図9に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S21)と、有機層14をパターン形成する有機層パターン形成工程(S22)と、めっき層15を形成するめっき層形成工程(S23)とを備えている。
【0060】
シリカ層形成工程(S21)は、第一実施形態におけるシリカ層形成工程(S1)と同様であるため、説明を省略する。シリカ層形成工程(S21)によって、第一実施例と同様に、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71(図3参照)が形成される。
【0061】
有機層パターン形成工程(S22)について、図10を参照して説明する。有機層パターン形成工程(S22)では、まず、前処理として、構造体71(図3参照)におけるシリカ層3の上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、図10に示すように、マイクロコンタクトプリント法により、パターン化された有機層14を、シリカ層3の上面に形成する。具体的には、パターン状に凸部が形成されたスタンプ20の凸面75に、エタノールを溶剤とした5mmol/lの、3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液を塗布する。そして、N2を用いてエタノールを揮発させたあと、凸面75をシリカ層3の上面に密着させる。その後、120度で焼成する。こうして、図11に示すように、パターン化された有機層14がシリカ層3の上面に形成された構造体73が形成される。
【0062】
めっき層形成工程(S23)について説明する。図9に示すように、めっき層工程(S23)は、触媒付与工程(S24)と、めっき工程(S25)とを備えている。触媒付与工程(S24)では、構造体73の有機層14の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムを付着させる。具体的には、まず、構造体73(図4参照)を、Pd−Snコロイド液(上村工業社製、PED−104およびAT−105)に室温で3分間浸漬させる。次に、構造体73を純水で洗浄する。その後、アクセレータ液(上村工業社製、AL−106)に2分間含浸させる。最後に構造体73を純水で洗浄する。こうして、構造体73における有機層14の上面に、無電解めっき触媒としてのパラジウムを付着させる。
【0063】
次に、めっき工程(S25)について説明する。めっき工程(S25)では、パラジウムが付着された有機層14の上面にめっき層15を形成する。具体的には、温度80℃の無電解ニッケルめっき浴(上村工業社製NPR−4M、NPR−4D、NPR−4A)に、無電解めっき触媒としてのパラジウムが付着した構造体73を1分間浸漬させた後、純水で洗浄した。
【0064】
構造体73では、パターン形成された有機層14の表面にアミノ基が存在する。触媒付与工程(S24)では、このアミノ基とPd−Snコロイドとが電気的に結合するので、パターン形成された有機層14の表面のみにパラジウムが付着する。そして、めっき工程(S25)では、このパラジウム付着部分にめっき浴中の金属が付着し、めっき層15が形成される。これにより、パターン形成された、厚さ150nmのめっき層15が形成される。こうして、第二実施例の積層体11(図8参照)が形成される。
【0065】
第二実施例の積層体11についても、第一実施例の積層体1と同様に、めっき層15の基板2に対する密着性を向上させることができる。また、パターン化された有機層14は、マイクロコンタクトプリント法により形成されるので、簡単にパターン状の有機層14を形成することができる。しかも、予めパターン状に形成された有機層14の上面にめっき層15を形成するので、構造体73を覆うように金属薄膜を形成した後にパターニングを行い、めっき層15を形成する場合に比べて、金属材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0066】
<第三実施例>
次に、上述の実施形態の第三実施例である積層体21について、図8、図11、および図12を参照して説明する。図8に示すように、積層体21の構造は、第二実施例の積層体11の構造と同一である。積層体21の材質は、有機層24がチオール基を有するシランカップリング剤により形成されている点、めっき層25がCuにより形成されている点で、第二実施例の積層体11とは異なる。また、図12に示すように、積層体21の製造工程は、有機層パターン形成工程(S32)が、自己組織化単分子膜形成工程(S33)とパターニング工程(S34)とを備える点で、第二実施例とは異なる。以下、第二実施例と異なる点についてのみ重点的に説明を行い、第二実施例と同一の箇所については、説明を省略または簡略化する。
【0067】
積層体21の断面構造については、第二実施例の積層体11(図8参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
積層体21を構成する各層の材質について説明する。基板2およびシリカ層3の材質は、第二実施例の積層体11と同様であるため、説明を省略する。有機層24は、チオール基を有するシランカップリング剤により形成されている。具体的には、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが用いられる。めっき層25は、Cuからなる。
【0069】
次に、上記構造の積層体21の製造工程について、図12を参照して説明する。積層体21の製造工程は、図12に示すように、シリカ層3を形成するシリカ層形成工程(S31)と、有機層24をパターン状に形成する有機層パターン形成工程(S32)と、めっき層25を形成するめっき層形成工程(S35)とを備えている。有機層パターン形成工程(S32)は、自己組織化単分子膜形成工程(S33)と、パターニング工程(S34)とを備えている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0070】
シリカ層形成工程(S31)は、第一実施例、第二実施例のシリカ層形成工程(S1、S21)と同様であるため、説明を省略する。シリカ層形成工程(S31)により、第一実施例、第二実施例と同様に、基板2の上面にシリカ層3が形成された構造体71(図3参照)が形成される。
【0071】
次に、有機層パターン形成工程(S32)について説明する。有機層パターン形成工程(S32)は、図12に示すように、構造体71におけるシリカ層3の上面に自己組織化単分子膜を形成する自己組織化単分子膜形成工程(S33)と、形成された自己組織化単分子膜をパターニングするパターニング工程(S34)とを備える。
【0072】
自己組織化単分子膜形成工程(S33)について説明する。自己組織化単分子膜形成工程(S33)では、まず、前処理として、構造体71におけるシリカ層3の上面に紫外線を照射するUV処理を行う。そして、構造体71を、エタノールを溶剤とした1mmol/lの3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン溶液に30分含浸させたあと、120度で焼成する。こうして、シリカ層3を覆うように、自己組織化単分子膜からなる有機層24を形成する。有機層24においては、チオール基を上側に向けて、自己組織化単分子膜が形成されている。
【0073】
パターニング工程(S34)について説明する。パターニング工程(S34)では、自己組織化単分子膜形成工程(S33)で形成された有機層24をパターニングする。本実施例では、真空条件下において、石英ガラスをベースとしたフォトマスクを介して、形成された有機層24に、波長λ=172nmの紫外線を照射することにより、有機層24のパターニングを行った。こうして、基板2、シリカ層3、およびパターニングされた有機層24が積層された構造体74が形成される。
【0074】
めっき層形成工程(S35)について説明する。めっき層形成工程(S35)では、構造体74を、温度50℃、pH7.0の無電解銅めっき浴に3分間浸漬することにより、有機層24の上面にめっき層25を形成する。無電解銅めっき浴の組成は以下のとおりである。
・CuCl2・2H2O : 0.05mol/l、
・EDTA・2Na : 0.05mol/l、
・H3BO4 : 0.1mol/l、
・CuCl2/2H2O : 0.1mol/l
構造体74においては、有機層24の表面にチオール基が存在する。チオール基が、無電解銅めっき浴の銅イオンと結合することにより、有機層24の上面にCuからなるめっき層25を形成することができる。以上のS31からS35の工程を経て、積層体21が形成される。
【0075】
第三実施例の積層体21によれば、有機層24がチオール基を備える自己組織化単分子膜から形成されている。チオール基は、金属と共有結合または配位結合するので、めっき形成工程において有機層24上面のチオール基とめっき液中の銅が結合する。有機層24上面に結合した銅自体が触媒効果を有するため、触媒付与工程を用いることなく有機層24の上面にめっき層25を形成させることができる。よって、製造工程を簡略化することができる。
【0076】
次に、上述した積層体11と同様の積層構造を備えた、本発明の一実施形態である薄膜トランジスタ100について、図13を参照して説明する。以下の説明では、図13の下側(基板102側)を薄膜トランジスタ100の下側、図13の上側を薄膜トランジスタ100の上側として説明する。薄膜トランジスタ100は、ゲート電極110が、ソース電極105やドレイン電極106より上側に位置する、所謂「トップゲート型」の薄膜トランジスタである。
【0077】
薄膜トランジスタ100の断面構造について説明する。薄膜トランジスタ100は、板状の基板102を有し、基板102の上面には、シリカ層103が設けられている。シリカ層103の上面には、パターニングされた有機層104が設けられ、有機層104の上面には、ソース電極105およびドレイン電極106が設けられている。ソース電極105とドレイン電極106との間には、ソース電極105とドレイン電極106とを埋めるように、半導体層107が設けられている。
【0078】
ソース電極105、ドレイン電極106、半導体層107、シリカ層103の上面には、絶縁層111が設けられている。絶縁層111の上面には、シリカ層108が設けられている。シリカ層108の上面には、パターニングされた自己組織化形成膜からなる有機層109が設けられ、有機層109の上面には、ゲート電極110が設けられている。
【0079】
基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105・ドレイン電極106の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105、ドレイン電極106の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11の基板2、シリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。また、シリカ層103、有機層104、ソース電極105、ドレイン電極106の形成方法は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。
【0080】
また、絶縁層111、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。また、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層4、めっき層5と同様である。
【0081】
なお、絶縁層111の材質としては、絶縁物質が採用され、絶縁層111の形成方法としては、周知の各種方法が適用可能である。本実施形態では、絶縁層111の材質として、有機絶縁物質であるポリビニルフェノールが採用され、形成方法としてスピンコート法が採用される。
【0082】
また、半導体層107の材質としては、本実施形態ではInGaZnO4が採用される。半導体層107の形成方法は、スパッタリング法によりInGaZnO4膜の成膜を行った後、フォトリソグラフィ法によりパターニングを行う方法を採用した。
【0083】
薄膜トランジスタ100では、基板102、シリカ層103、有機層104、ソース電極105・ドレイン電極106の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造であるため、ソース電極105、ドレイン電極106の基板102に対する密着性を向上させることができる。絶縁層111、シリカ層108、有機層109、ゲート電極110の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造であるため、ゲート電極110の絶縁層111に対する密着性を向上させることができる。
【0084】
次に、上述した積層体11と同様の方法で形成した、本発明の一実施形態であるプリント配線基板200について、図14および図15を参照して説明する。
【0085】
プリント配線基板200の断面構造について説明する。図14に示すように、プリント配線基板200は、樹脂からなる基板202の上面に、シリカ層203が形成され、シリカ層203の上面にパターン形成された有機層204が形成されている。基板202とシリカ層203と有機層204とによって、基板210が構成される。そして、基板210の上面には、有機層204と同一パターンの金属配線205が形成される。
【0086】
プリント配線基板200のシリカ層203、有機層204、金属配線205の積層構造は、上述の積層体11と同一の積層構造である。すなわち、シリカ層203、有機層204、金属配線205の材質として採用可能な材質は、上述した積層体11のシリカ層3、有機層14、めっき層15、と同様である。また、シリカ層203、有機層204、金属配線205の形成方法は、積層体11のシリカ層3、有機層14、めっき層15の形成方法と同様である。
【0087】
このように形成されたプリント配線基板200を目視すると、図13に示すように、配線のフクレおよび剥がれがみられなかった。プリント配線基板200では、金属配線205を積層体11のめっき層15と同様の方法で形成するので、金属配線205の基板202に対する密着性を向上させることができる。よって、金属配線205が断線しにくく、信頼性の高いプリント配線基板200を提供することができる。
【0088】
また真空成膜装置を用いた方法は、基板の全面に金属膜を成膜した後、その不要部分をエッチングにより除去することで、配線パターンを形成するため、除去された部分の金属が無駄になってしまう。一方、本発明においては、あらかじめ、パターン形成された有機層204の上面に金属配線205を形成するので、金属材料やパターニングに必要なレジスト材料などの無駄がない。
【0089】
なお、本発明の積層体1、11、21、薄膜トランジスタ100、およびプリント配線基板200は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0090】
たとえば、上述の実施例では、シリカ層の前駆体として、パーヒドロポリシラザンを用いたが、ポリシラザンであればよく、パーヒドロポリシラザンに限定されない。
【0091】
また、上述の実施例では、形成されためっき層5、15、25は、金属単体からなるが、めっき層5、15、25を置換めっきした金属積層体または、金属酸化物より形成しても良い。例えば、めっき層5、15、25を、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物とした場合、めっき層を各種半導体デバイスの半導体層として適用することができる。有機層4、14、24の上面に金属酸化物からなるめっき層を形成するプロセスには、周知の無電解めっきプロセスが適用される。
【0092】
また、積層体11、21では、パターニングされた有機層14、24の上面にめっき層を形成したが、パターニングされた有機層14、24の上面にめっき層15、25を形成するものに限定しない。たとえば、シリカ層3の上面を覆うように有機層を形成し、さらに、その上面にめっき層を形成し、そのあと、エッチングなどによって、めっき層のパターンを形成しても良い。この場合であっても、パターン形成された密着性のよいめっき層を得ることができる。
【0093】
また、上述した薄膜トランジスタ100は、トップゲート型の薄膜トランジスタであったが、ボトムゲート型の薄膜トランジスタに適用しても良い。また、薄膜トランジスタ100では、ソース電極105、ドレイン電極106、ゲート電極110のすべてが無電解めっきにより形成されていたが、いずれかを無電解めっき以外の方法で形成してもよい。また、薄膜トランジスタ100の上面にさらに層間絶縁層を形成し、層間絶縁層の上面に積層体11、21のめっき層15、25と同様の方法で、画素電極を形成しても良い。すなわち、薄膜トランジスタ100の上面に周知の方法で層間絶縁層を形成し、層間絶縁層の上面にポリシラザンを前駆体としてシリカ層を形成し、シリカ層の上面に自己組織化単分子膜からなる有機層を形成し、有機層の上面に無電解めっきにより画素電極を形成しても良い。
【符号の説明】
【0094】
1、11、21 積層体
2 基板
3 シリカ層
4、14、24 有機層
5、15、25 めっき層
100 薄膜トランジスタ
200 プリント配線基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と
前記基板上面に形成され、ポリシラザンを前駆体とするアモルファスシリカ層と、
前記アモルファスシリカ層上面に形成され、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体とする有機層と、
前記有機層の上面に形成され、無電解めっきにより析出されためっき層と
を備えたことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記めっき層は、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記めっき層は、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記有機層はパターン形成され、
前記めっき層は、前記有機層上面に前記有機層と同一パターンで形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
基板上面に、ポリシラザンを前駆体として、アモルファスシリカ層を形成するシリカ層形成工程と、
前記アモルファスシリカ層上面に、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する有機層形成工程と、
前記有機層上面に、無電解めっきによりめっき層を形成するめっき層形成工程と
を備えたことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項10】
前記有機層形成工程では、前記有機層がパターン状に形成されることを特徴とする請求項9に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記有機層形成工程では、前記有機層が前記有機分子の自己組織化により形成されることを特徴とする請求項9または10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の積層体を備えることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項13】
請求項8に記載の積層体を備えることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項1】
基板と
前記基板上面に形成され、ポリシラザンを前駆体とするアモルファスシリカ層と、
前記アモルファスシリカ層上面に形成され、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体とする有機層と、
前記有機層の上面に形成され、無電解めっきにより析出されためっき層と
を備えたことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記有機層は、前記有機分子の自己組織化により形成される自己組織化単分子膜であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記有機分子は、無電解めっきに用いる触媒と化学的もしくは電気的に結合可能な部位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記有機分子は、アミノ基、ピリジル基、チオール基、またはメチル基を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記有機分子は、有機シラン分子、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記めっき層は、銅、ニッケル、金、銀、白金のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記めっき層は、亜鉛、チタン、インジウム、スズのいずれかを少なくとも含み、かつ半導体特性を示す金属酸化物からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記有機層はパターン形成され、
前記めっき層は、前記有機層上面に前記有機層と同一パターンで形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
基板上面に、ポリシラザンを前駆体として、アモルファスシリカ層を形成するシリカ層形成工程と、
前記アモルファスシリカ層上面に、前記アモルファスシリカ層の上面と化学的に結合可能な有機分子を前駆体として、有機層を形成する有機層形成工程と、
前記有機層上面に、無電解めっきによりめっき層を形成するめっき層形成工程と
を備えたことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項10】
前記有機層形成工程では、前記有機層がパターン状に形成されることを特徴とする請求項9に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記有機層形成工程では、前記有機層が前記有機分子の自己組織化により形成されることを特徴とする請求項9または10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の積層体を備えることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項13】
請求項8に記載の積層体を備えることを特徴とするプリント配線基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−44524(P2011−44524A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190716(P2009−190716)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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