説明

窒化物半導体エピタキシャル基板

【課題】デバイス活性層でのクラック発生が抑制され、かつ、転位密度の低減等の結晶性の向上を図りつつ、窒化物半導体の厚膜化に伴う反りも抑制された、製造効率に優れたバッファ構造を備えた窒化物半導体エピタキシャル基板を提供する。
【解決手段】Si基板1と、厚さ2〜10nmのAlaGa1-aN(0.9≦a≦1.0)単結晶層31および厚さ10〜30nmのAlbGa1-bN(0≦b≦0.1)単結晶層32が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域3と、厚さ2〜10nmのAlcGa1-cN(0.9≦c≦1.0)単結晶層41および厚さ200〜500nmのAldGa1-dN(0≦d≦0.1)単結晶層42が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域4と、GaN単結晶層5と、AlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層6とを備えた構成の窒化物半導体エピタキシャル基板を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、レーザ発光素子、また、高速・高温での動作可能な電子素子等に好適に用いられるHEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)構造を有する窒化物半導体エピタキシャル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウム(AlN)等に代表される窒化物半導体は、広いバンドキャップを有しており、高い電子移動度、高い耐熱性等の優れた特性を備えているため、発光デバイスや、高速・高温での動作が可能な電子デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
前記窒化物半導体は、融点が高く、窒素の平衡蒸気圧が非常に高いため、融液からのバルク結晶成長は容易ではない。このため、実用化レベルにある単結晶は、異種基板上へのヘテロエピタキシャル成長により作製されている。
従来、GaNまたはAlN単結晶層をエピタキシャル成長させるための基板には、サファイア、6H−SiC、Si等が用いられていた。
【0004】
これらの基板の中でも、Si基板は、他の基板と比べて、結晶性に優れ、大面積で、低価格で得られることから、窒化物半導体の製造コストを低減させることができ、好適である。また、成熟したSi単結晶製造技術により、高品質な結晶を安定供給することができる。
さらに、Si基板上への窒化物半導体単結晶層の形成は、その後のデバイス工程が、現在のデバイス工程をそのまま使用することができるため、開発コスト面においても優位であり、実用化が求められている。
【0005】
しかしながら、Si基板上に窒化物半導体結晶を成膜する場合、Siと窒化物半導体との熱膨張係数の相違により、窒化物半導体単結晶膜に反りや割れが生じ、また、Siと窒化物半導体との結晶格子定数の差に起因して、多数の転位や結晶欠陥が生じるという問題が生じていた。
【0006】
これに対しては、Si基板と窒化物半導体層との間にバッファ層を設けて、上記クラックや転位を低減させることが一般的に行われている。
例えば、非特許文献1には、AlN層厚を5nm、GaN層厚を20nm以上のAlN/GaNの多層膜からなる多層構造バッファ領域を設けることにより、膜厚に対する反りが低減され、ひび割れの導入も防ぐことができることが記載されている。
【0007】
また、特許文献1には、前記多層構造バッファ領域として、厚さ5nmのAlxGa1-xN(0.5≦x≦1)からなる第1のバッファ層と、厚さ20nmのAlyGa1-yN(0.01≦y≦0.2)からなる第2のバッファ層を交互に複数層積層させることにより、表面が原子層レベルで平滑で、しかも、クラックのない窒化物半導体を形成することができることが記載されている。
【0008】
ところで、半導体素子の耐圧向上のためには、窒化物半導体の厚さを増大させることが望ましいが、窒化物半導体の厚膜化に伴い、窒化物半導体エピタキシャル基板の反りも増大するという課題も生じていた。
【0009】
これに対しては、例えば、特許文献2に、AlN/GaNの多層構造バッファ領域と、これよりも薄いAlN/GaNのサブ多層構造バッファ領域との間に、単層構造バッファ領域を設け、これらの層の厚さを変化させて積層することにより厚膜化すれば、窒化物半導体エピタキシャル基板の反りを低減させることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−67077号公報
【特許文献2】特開2008−205117号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】大塚康二,「応用物理」,2007年,第76巻,第5号,pp.489−494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1や特許文献1に記載されているようなAlN/GaNの多層膜を形成する場合、AlNの成長速度がGaNの成長速度よりも遅いため、厚膜化するためには、窒化物半導体エピタキシャル基板の製造効率に劣る。
【0013】
また、上記特許文献2に記載されているような複数種類の多層構造バッファ領域および単層構造バッファ領域を様々な膜厚に変化させて形成することは、製造工程が煩雑となり、厚膜化するためには、この場合も、窒化物半導体エピタキシャル基板の製造効率に劣る。
【0014】
したがって、窒化物半導体エピタキシャル基板の製造においては、クラックの発生の抑制や、転位密度の低減化等の結晶性の向上を図ることができ、かつ、反りを抑制しつつ、窒化物半導体のデバイス活性層を厚膜化することができ、しかも、効率的に形成することができるバッファ構造が求められていた。
【0015】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、デバイス活性層でのクラック発生が抑制され、かつ、転位密度の低減等の結晶性の向上を図りつつ、窒化物半導体の厚膜化に伴う反りも抑制された、製造効率に優れたバッファ構造を備えた窒化物半導体エピタキシャル基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る窒化物半導体エピタキシャル基板は、Si基板と、前記Si基板上に、厚さ2nm以上10nm以下のAlaGa1-aN(0.9≦a≦1.0)単結晶層および厚さ10nm以上30nm以下のAlbGa1-bN(0≦b≦0.1)単結晶層が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域と、前記第1の多層バッファ領域上に、厚さ2nm以上10nm以下のAlcGa1-cN(0.9≦c≦1.0)単結晶層および厚さ200nm以上500nm以下のAldGa1-dN(0≦d≦0.1)単結晶層が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域と、前記第2の多層バッファ領域上に形成されたGaN単結晶層と、前記GaN単結晶層上に形成されたAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層とを備えていることを特徴とする。
このような2種の多層バッファ領域を設けることにより、デバイス活性層でのクラック発生を抑制し、かつ、転位密度の低減等の結晶性の向上を図ることができ、また、窒化物半導体の厚膜化に伴う反りも抑制することができる。
【0017】
前記窒化物半導体エピタキシャル基板の中でも、特に、Si基板と、前記Si基板上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ20nmのGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域と、前記第1の多層バッファ領域上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ200nm以上500nm以下のGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域と、前記第2の多層バッファ領域上に形成されたGaN単結晶層と、前記活性層上に形成されたAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層とを備えていることが好ましい。
【0018】
また、前記窒化物半導体エピタキシャル基板においては、前記Si基板と第1の多層バッファ領域との間に、前記Si基板上に、AlN単結晶層およびAlyGa1-yN(0<y<1)単結晶層が積層された初期バッファ領域を備えていることが好ましい。
成長初期バッファとしては、Si、GaNとの親和性が高く、メルトバックエッチング反応を起こさないAlN単結晶が適しており、また、AlN単結晶層表面の段差を平坦化するためには、GaNとAlNの混晶であるAlGaN単結晶層も挿入して、上記のような初期バッファ領域を形成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デバイス活性層でのクラック発生が抑制され、かつ、転位密度の低減等の結晶性の向上を図りつつ、窒化物半導体の厚膜化に伴う反りも抑制された窒化物半導体エピタキシャル基板を提供することができる。
さらに、本発明に係る窒化物半導体エピタキシャル基板は、製造効率に優れているという利点も有しており、また、デバイスプロセスにおける歩留の向上にも寄与し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る窒化物半導体エピタキシャル基板の層構造を示す概略断面図である。
【図2】図1の第1の多層バッファ領域3および第2の多層バッファ領域4部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面を参照して、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る窒化物半導体エピタキシャル基板の層構造の概略を示す。図1に示す窒化物半導体エピタキシャル基板は、Si基板1上に、初期バッファ領域2、第1の多層バッファ領域3、第2の多層バッファ領域4、GaN単結晶層5、AlxGa1-xN単結晶層6が、順次積層された構造を備えているものである。
前記GaN単結晶層5は、デバイス活性層として形成されているものであり、その上にAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層6が積層されることにより、HEMT構造が形成される。
【0022】
図2に、図1の窒化物半導体エピタキシャル基板の第1の多層バッファ領域3および第2の多層バッファ領域4の拡大図を示す。第1の多層バッファ領域3は、厚さ2nm以上10nm以下のAlaGa1-aN(0.9≦a≦1.0)単結晶層31および厚さ10nm以上30nm以下のAlbGa1-bN(0≦b≦0.1)単結晶層32が、Si基板1側から交互に繰り返し積層された多層構造からなる。また、第2の多層バッファ領域4は、厚さ2nm以上10nm以下のAlcGa1-cN(0.9≦c≦1.0)単結晶層41および厚さ200nm以上500nm以下のAldGa1-dN(0≦d≦0.1)単結晶層42が、交互に繰り返し積層された多層構造からなる。
【0023】
前記第1の多層バッファ領域3においては、これを構成するAlaGa1-aN単結晶層31の厚さは、第2の多層バッファ領域4を構成するAlcGa1-cN単結晶層41と同等であるが、AlbGa1-bN単結晶層32の厚さは、第2の多層バッファ領域4を構成するAldGa1-dN単結晶層42の厚さよりも薄い。このため、第1の多層バッファ領域3は、第2の多層バッファ領域4よりも、単位厚さ当たりの積層数が多い、すなわち、異種層の界面の数が多いため、転位密度の低減効果が大きいが、反りの抑制効果においては劣る。
【0024】
前記AlaGa1-aN単結晶層31およびAlcGa1-cN単結晶層41の厚さは、2nm以上10nm以下であることが好ましく、5nm前後であることがより好ましい。
前記厚さが2nm未満の場合は、平坦に成膜するのが困難であり、平坦性が損なわれ、応力制御性の低下を招く。一方、前記厚さが10nmを超える場合は、エピタキシャル成長中にクラックが発生する。
【0025】
一方、前記第2の多層バッファ領域4においては、前記多層バッファ領域3と比べて、転位密度の低減効果は小さいが、AldGa1-dN単結晶層42の厚さが厚いことから、第2の多層バッファ領域4よりも上層であるGaN単結晶層5およびAlxGa1-xN単結晶層6における反りの抑制効果に優れている。
【0026】
前記AlbGa1-bN単結晶層32の厚さは、10nm以上30nm以下であることが好ましく、20nm前後であることがより好ましい。
Ga組成の高い単結晶層32を厚さ10nm未満で平坦に成膜することは困難であり、前記厚さが10nm未満の場合は、平坦性が損なわれ、応力制御性の低下を招く。
一方、前記厚さが30nmを超える場合は、単結晶層32の平坦性、応力制御性の点では問題はない。しかしながら、転位を効率よく屈曲、消滅させるためには、Al組成の高い単結晶層31/Ga組成の高い単結晶層32(AlN/GaN)界面の数(単位厚さ当たり)をより多く形成することが好ましいという点からは、膜厚が大きいことは、不利に働く。
【0027】
また、前記AldGa1-dN単結晶層42の厚さは、200nm以上500nm以下であることが好ましく、250nm前後であることがより好ましい。
GaN単結晶層5は、AlcGa1-cN単結晶層41/AldGa1-dN単結晶層42(AlN/GaN)界面からの距離が近すぎても離れすぎていても応力制御性が低下する。GaN単結晶層5と接するAldGa1-dN単結晶層42の厚さが、AlN/GaN界面からGaN単結晶層5までの距離に相当することから、AldGa1-dN単結晶層42の厚さは上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
したがって、窒化物半導体のエピタキシャル成長の早期において、転位密度を低減させておけば、その上に形成される各層での転位密度の増加を抑制することができるため、転位密度の低減化の観点から、先に、第1バッファ領域を形成し、その上に、第2バッファ領域を形成することが好ましい。
逆に、第2バッファ層を先に形成し、その上に、第1バッファ層を形成した場合は、反りの抑制効果は十分に得られるが、成膜過程において、転位密度を十分に低減化させることができず、結晶性に劣ることとなる。
【0029】
なお、多層バッファ領域においては、異種層の界面が多数存在していればよいため、第1の多層バッファ領域3におけるAlaGa1-aN単結晶層31とAlbGa1-bN単結晶層32は、交互に積層されていれば、Si基板1側に位置する第1の多層バッファ領域3の最初の層がAlbGa1-bN単結晶層32であってもよい。同様に、第2の多層バッファ領域4におけるAlcGa1-cN単結晶層41とAldGa1-dN単結晶層42についても、Si基板1側に位置する第2の多層バッファ領域4の最初の層がAldGa1-dN単結晶層42であってもよい。
【0030】
上記のように、本発明に係る窒化物半導体エピタキシャル基板においては、2種類の多層バッファ領域3,4を設けることにより、デバイス活性層でのクラック発生の抑制、転位密度の低減化が図られ、かつ、窒化物半導体の厚膜化に伴う反りも抑制される。
【0031】
前記AlaGa1-aN単結晶層31およびAlcGa1-cN単結晶層41は、0.9≦a≦1.0、0.9≦c≦1.0であることが好ましく、特に、a=c=1であるAlN単結晶層であることが好ましい。
また、前記AlbGa1-bN単結晶層32およびAldGa1-dN単結晶層42は、0≦b≦0.1、0≦d≦0.1であること好ましく、特に、b=d=0であるGaN単結晶層であることが好ましい。
このように、AlとGaの組成比が大きく異なる2種のAlGaN単結晶層を交互に繰り返し積層させることにより、第1および第2バッファ領域における応力緩和効果をより効果的に発揮させることができる。
【0032】
したがって、前記窒化物半導体エピタキシャル基板の中で、特に好ましい層構成としては、Si基板と、前記Si基板上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ20nmのGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域と、前記第1の多層バッファ領域上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ200nm以上500nm以下のGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域と、前記第2の多層バッファ領域上に形成されたGaN単結晶層と、前記活性層上に形成されたAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層とを備えている構成が挙げられる。
【0033】
AlN単結晶層の方が、GaN単結晶層よりもエピタキシャル成長速度が遅いため、第2の多層バッファ領域4よりも単位厚さ当たりのAlN単結晶層の厚さの割合が多い第1の多層バッファ領域3は、第2の多層バッファ領域4よりも形成に長時間を要するが、上記のような層構成により、第1の多層バッファ領域3のみでなく、第2の多層バッファ領域4も形成することにより、バッファ領域全体の成膜時間の短縮化を図ることができる。
また、このような多層バッファ領域の各層の組成構成および各膜厚は、多様に変化させる必要はないため、制御が容易である。
したがって、転位密度の低減効果により優れた第1のバッファ領域3を形成した後、その上に、成長速度のより速い第2のバッファ領域4を形成することにより、厚膜化した場合においても、窒化物半導体エピタキシャル基板の製造効率の向上を図ることができる。
【0034】
前記第1の多層バッファ領域3は、1層のAlaGa1-aN単結晶層31と1層のAlbGa1-bN単結晶層32が10〜100回繰り返し積層される、すなわち、積層数が10〜100であることが好ましい。
AlaGa1-aN単結晶層31およびAlbGa1-bN単結晶層32の各層が薄すぎたり、積層組数が少なすぎたりすると、膜成長過程において、多層バッファ領域による応力緩和が十分でなく、クラックや反りの抑制効果が十分に得られず、また、結晶性(低転位密度)も低下する。
一方、各層が厚すぎたり、積層組数が多すぎたりする場合、コスト高となり、製造効率の点でも劣り、好ましくない。
第2の多層バッファ領域4を構成するAlcGa1-cN単結晶層41とAldGa1-dN単結晶層42の積層についても、同様である。
【0035】
前記Si基板1には、Si単結晶が用いられ、その製造方法は、特に限定されない。チョクラルスキー(CZ)法により製造されたものであっても、フローティングゾーン(FZ)法により製造されたものであってもよく、また、これらのSi単結晶基板に気相成長法によりSi単結晶層をエピタキシャル成長させたもの(Siエピ基板)であってもよい。
窒化物半導体をSi単結晶基板上にエピタキシャル成長させることにより、従来のSi半導体製造プロセスにおいて用いられている装置および技術を利用することができ、大口径かつ低コストでの製造が可能となる。
【0036】
前記Si基板1上に形成される初期バッファ領域2は、AlN単結晶層21およびAlyGa1-yN(0<y<1)単結晶層22が、この順にSi基板1側から積層されたものであるが、これは、第1の多層バッファ領域3を形成する前のSi基板表面の保護および下地として役割を果たすものである。
SiとGaは非常に反応性が高く、成長初期においてSi基板表面にGaが付着した場合、メルトバックエッチング反応により、Si基板表面に荒れが生じる。
このため、成長初期バッファとして、Si、GaNとの親和性が高く、前記メルトバックエッチング反応を起こさないAlN単結晶層を形成しておくことが好ましい。
しかしながら、前記AlN単結晶の成長は、Siの融点を考慮すると、本来の最適な成長温度よりも低い温度となるため、AlN単結晶層表面は非常に多くの段差を含む形状となる。この上に、GaN、AlN等の窒化物半導体結晶の成長を行った場合であっても、良質な結晶を得ることは困難である。
したがって、AlN単結晶層表面の段差を平坦化するためには、さらに、GaNとAlNの混晶であるAlyGa1-yN(0<y<1)単結晶層を挿入して、初期バッファ領域2を形成することが好ましい。
なお、前記初期バッファ領域を設けない場合には、例えば、特殊な基板洗浄前処理等を行っておくことが好ましい。
【0037】
前記初期バッファ領域2を設ける際、続けて形成される第1の多層バッファ領域3の最初の層をAlbGa1-bN単結晶層32とする場合、初期バッファ領域2のAlyGa1-yN単結晶層22に、組成が同じ、または、比較的近い層が接することになる。
本来は、転位の低減や応力制御の観点からは、組成比が大きく異なる界面とする方が好ましいが、AlyGa1-yN単結晶層22が形成された段階では、まだ十分な結晶性が得られていない。このため、成長初期の結晶性をより早く高める観点からは、上記のような組成比が近い界面を設けることが、その上に形成される層の転位の低減や応力制御に対して有利に働くため好ましい。
【0038】
前記AlN単結晶層21およびAlyGa1-yN単結晶層22の厚さは、製造コスト面からは、できる限り薄いことが好ましいが、AlN単結晶層21は、バッファとして必要な結晶性を得るためには、相応の膜厚が必要となり、厚さ100〜150nm程度であることが好ましい。
また、AlyGa1-yN単結晶層22も、AlN単結晶層21に存在する段差を平滑化するために、相応の膜厚が必要となり、厚さ100〜200nm程度であることが好ましい。
【0039】
また、前記多層バッファ領域上に形成されるGaN単結晶層5は、上述したように、デバイス活性層として形成されているものであり、その上に積層されるAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層6とにより、HEMT構造が形成されるものである。
したがって、GaN単結晶層5は、良好な結晶性および平坦性を確保する観点から、厚さ500〜3000nm程度で形成されることが好ましい。
また、AlxGa1-xN単結晶層6は、クラックの発生を回避するため、厚さ20〜50nm程度で形成されることが好ましい。
【0040】
なお、本発明に係るエピタキシャル成長方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる方法でよく、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)やPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)を始めとしたCVD法、レーザービームを用いた蒸着法、雰囲気ガスを用いたスパッタ法等を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
図1に示すような層構造を備えた窒化物半導体エピタキシャル基板を、以下の工程により作製した。
まず、直径4インチのSi基板1をMOCVD装置にセットし、原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)、およびNH3を用い、1100℃での気相成長により、厚さ100nmのAlN単結晶層21を形成し、さらにその上に、原料としてトリメチルガリウム(TMG)、TMAおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により厚さ200nmのAlyGa1-yN(y=0.1)単結晶層(Al0.1Ga0.9N単結晶層)22を積層させ、初期バッファ領域2を形成した。
【0042】
次に、原料としてTMAおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により、前記初期バッファ領域2上に、厚さ5nmのAlaGa1-aN(a=1)単結晶層(AlN単結晶層)31を積層させた。
前記AlN単結晶層31上に、原料としてTMGおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により、厚さ20nmのAlbGa1-bN(b=0)単結晶層(GaN単結晶層)32を積層させた。
前記AlN単結晶層31およびGaN単結晶層32を、同様の工程にて、交互に繰り返し積層させ、積層数を50として、第1の多層バッファ領域を形成した。
さらに、前記第1の多層バッファ領域3上に、厚さ5nmのAlcGa1-cN(c=1)単結晶層(AlN単結晶層)41および厚さを250nmのAldGa1-dN(d=0)単結晶層(GaN単結晶層)42を交互に繰り返し積層させ、積層数を24として、それ以外は、前記第1の多層バッファ領域3の形成と同様の工程にて、第2の多層バッファ領域4を形成した。
【0043】
前記第2の多層バッファ領域4上に、原料としてTMGおよびNH3を用い、1000℃での気相成長により、厚さ2000nmのGaN単結晶層5を積層させた。
さらに、前記GaN単結晶層5上に、原料としてTMG、TMA、およびNH3を用い、1000℃での気相成長により、厚さ20nmのAlxGa1-xN(x=0.25)単結晶層(Al0.25Ga0.75N単結晶層)6を積層させ、窒化物半導体エピタキシャル基板を得た。
なお、気相成長により形成した各層の厚さの調整は、各原料の流量および供給時間の調整により行った。
【0044】
[実施例2]
初期バッファ領域2を形成せずに、それ以外は、実施例1と同様の工程にて、窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0045】
[比較例1]
第2の多層バッファ領域4を形成せずに、前記第1の多層バッファ領域3のみをAlN単結晶層31およびGaN単結晶層32の繰り返しの積層数を150として形成し、それ以外は、実施例1と同様の工程にて、窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0046】
[比較例2]
第2の多層バッファ領域4を形成せずに、前記第1の多層バッファ領域3のみをAlN単結晶層31およびGaN単結晶層32の繰り返しの積層数を290として形成し、前記第1の多層バッファ領域3上には、厚さ1000nmのGaN単結晶層5を積層させた。それ以外は、実施例1と同様の工程にて、窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0047】
[比較例3]
第1の多層バッファ領域3を形成せずに、前記第2の多層バッファ領域4のみをAlN単結晶層41およびGaN単結晶層42の繰り返しの積層数を28として形成し、前記第2の多層バッファ領域4上には、厚さ1000nmのGaN単結晶層5を積層させた。それ以外は、実施例1と同様の工程にて、窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0048】
[実施例3〜28、比較例4〜27]
第1の多層バッファ領域3のAlaGa1-aN単結晶層31およびAlbGa1-bN単結晶層32の各厚さ、第2の多層バッファ領域4のAlcGa1-cN単結晶層41およびAldGa1-dN単結晶層42の各組成比および積層回数を表1(実施例)または表2(比較例)に示すように変化させた。また、第1の多層バッファ領域3においてはAlbGa1-bN単結晶層32を、第2の多層バッファ領域4においてはAldGa1-dN単結晶層42を最初に積層し、それ以外は、実施例1と同様の工程にて、窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
なお、実施例3〜28および比較例2〜27においては、総膜厚が約5μmになるように各層の厚さおよび積層数を調整した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
上記実施例および比較例で作製した窒化物半導体エピタキシャル基板について、デバイス活性層として用いられるGaN単結晶層の基板面中心部における転位密度を、透過型電子顕微鏡により評価した。また、反りおよびクラックの発生(基板外周を除く)についても、レーザ変位計および光学顕微鏡の暗視野像により評価した。なお、反りは、エピタキシャル成長前の基板裏面が基板厚さ方向に変位した距離の最大値と最小値の差により評価した。
これらの結果をまとめて、表3(実施例)および表4(比較例)に示す。
表3,4において、反りの評価は、○:31μm以下、△:31μm超50μm以下、×:50μm超とした。また、転位密度の評価は、○:5×109/cm2以下、×:5×109/cm2超とした。
なお、膜形成のプロセス時間は、基板特性に特に影響しないが、製造効率やコストの点では短い方が好ましく、参考指標として記載した。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表3,4に示した評価結果から分かるように、各実施例の条件により作製した窒化物半導体エピタキシャル基板は、いずれも、クラックの発生がなく、転位密度が5×109/cm2以下であり、かつ、比較例に比べて、反りが抑制されている傾向にあることが認められた。特に、実施例1,3は、転位密度が最も小さく、また、反りの抑制効果も優れていた。なお、初期バッファ領域を形成しない場合(実施例2)は、プロセス時間の面では実施例1を上回る効率が得られたが、特性は若干下回るものであった。
【0055】
一方、各比較例の条件により作製した窒化物半導体エピタキシャル基板は、全体的に転位密度が大きく、クラックや反りが発生するものが多かった。
なお、第2の多層バッファ領域4を形成しない場合(比較例1,2)は、転位密度の観点からは最も優れていたが、クラックの発生と反りの増大が生じており、さらに、プロセス時間が非常に長いという欠点を有していた。
また、第1の多層バッファ領域を形成しない場合(比較例3)は、クラックの発生もなく、プロセス時間の観点からは最も優れていたが、転位密度の軽減効果は低下した。
【符号の説明】
【0056】
1 Si基板
2 初期バッファ領域
21 AlN単結晶層
22 AlyGa1-yN単結晶層
3 第1の多層バッファ領域
31 AlaGa1-aN単結晶層
32 AlbGa1-bN単結晶層
4 第2の多層バッファ領域
41 AlcGa1-cN単結晶層
42 AldGa1-dN単結晶層
5 GaN単結晶層
6 AlxGa1-xN単結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、前記Si基板上に、厚さ2nm以上10nm以下のAlaGa1-aN(0.9≦a≦1.0)単結晶層および厚さ10nm以上30nm以下のAlbGa1-bN(0≦b≦0.1)単結晶層が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域と、前記第1の多層バッファ領域上に、厚さ2nm以上10nm以下のAlcGa1-cN(0.9≦c≦1.0)単結晶層および厚さ200nm以上500nm以下のAldGa1-dN(0≦d≦0.1)単結晶層が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域と、前記第2の多層バッファ領域上に形成されたGaN単結晶層と、前記GaN単結晶層上に形成されたAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層とを備えていることを特徴とする窒化物半導体エピタキシャル基板。
【請求項2】
Si基板と、前記Si基板上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ20nmのGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第1の多層バッファ領域と、前記第1の多層バッファ領域上に、厚さ5nmのAlN単結晶層および厚さ200nm以上500nm以下のGaN単結晶層が交互に繰り返し積層された第2の多層バッファ領域と、前記第2の多層バッファ領域上に形成されたGaN単結晶層と、前記活性層上に形成されたAlxGa1-xN(0<x<1)単結晶層とを備えていることを特徴とする窒化物半導体エピタキシャル基板。
【請求項3】
前記Si基板と第1の多層バッファ領域との間に、前記Si基板上に、AlN単結晶層、AlyGa1-yN(0<y<1)単結晶層の順に積層された初期バッファ領域を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の窒化物半導体エピタキシャル基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−251738(P2010−251738A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71381(P2010−71381)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】