説明

4輪駆動車の制御装置

【課題】電動パーキングブレーキによって減速を行う際に問題となる、最大制動力の低さと、車両の不安定化を有効に防止する。
【解決手段】電動パーキングブレーキ制御部24は、ブレーキ制御部22から車両挙動を修正させる信号が入力されると、電動パーキングブレーキ30が作動している場合には電動パーキングブレーキ30の作動を解除し、また、主ブレーキ系統異常によるブレーキ制御量が入力されたると、そのブレーキ制御量を発生させるべく電動モータ29rl、29rrを駆動させる。更に、ACCシステム25から電動パーキングブレーキ30のブレーキ制御量が入力された場合には、そのブレーキ制御量を発生させるべく電動モータ29rl、29rrを駆動させる。そして、前後駆動力配分制御部18は、電動パーキングブレーキ30が作動している際には前軸と後軸とを直結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後輪を制動させる電動パーキングブレーキを備え、前後輪間で駆動力配分自在な4輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のパーキングブレーキにおいては、電動モータにより作動させる電動パーキングブレーキが開発され、実用化されている。このような、電動パーキングブレーキとしては、例えば、特開平7−89420号公報において、キャリパ内に形成したシリンダと、このシリンダ内に配置された摺動自在なピストンと、このピストンをディスクに向けて往復動するためのスクリュウシャフトと、スクリュウシャフトを作動するモータと、スクリュウシャフトに設けられピストンに生じるブレーキ押圧力によってピストンの移動量を制御する尺取機構と、モータと尺取機構を制御する電子制御装置とを備えた電動ブレーキが提案されている。
【特許文献1】特開平7−89420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述の特許文献1に記載されるような電動パーキングブレーキは、通常の油圧を用いた主ブレーキと比較して停止保持時間が長いという特性があることから、近年実用化されている様々な車両制御装置(例えば、先行車追従制御装置等)に適用することが可能であるが、電動パーキングブレーキは、後輪のみ制動するものであるため、発生可能な最大制動力が低く、また、後輪のみ制動させることにより車両が不安定化してしまう虞がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、電動パーキングブレーキによって減速を行う際に問題となる、最大制動力の低さと、車両の不安定化を有効に防止することができる4輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両の後輪に設けた電動パーキングブレーキを作動自在な電動パーキングブレーキ制御手段と、前軸と後軸との間に設けたクラッチ手段を制御して前輪と後輪との間の駆動力配分を可変制御する前後駆動力配分制御手段とを備えた4輪駆動車の制御装置において、上記前後駆動力配分制御手段は、上記電動パーキングブレーキが作動した際に、前軸と後軸とを直結する方向に上記クラッチ手段を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明による4輪駆動車の制御装置によれば、電動パーキングブレーキによって減速を行う際に問題となる、最大制動力の低さと、車両の不安定化を有効に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2は本発明の実施の一形態を示し、図1は車両の制駆動系及び搭載される各制御部の概略を示す説明図、図2は前後駆動力配分制御部の機能ブロック図である。
【0008】
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0009】
更に、このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0010】
また、後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0011】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したクラッチ手段としての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結力(トランスファクラッチトルク)を可変自在に付与するトランスファピストン16とにより構成されている。従って、本車両は、トランスファピストン16による押圧力を制御し、トランスファクラッチ15のトランスファクラッチトルクを制御することで、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の4輪駆動車となっている。
【0012】
また、トランスファピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するクラッチ駆動部17で与えられる。このクラッチ駆動部17を駆動させる制御信号(ソレノイドバルブに対するトランスファクラッチトルクに応じた出力信号)は、後述の前後駆動力配分制御部18から出力される。
【0013】
また、図1中、符号19は車両のブレーキ駆動部(主ブレーキ)を示し、このブレーキ駆動部19には、ドライバにより操作されるブレーキペダル20の踏力をブレーキ踏力センサ21で検出して、その踏力に応じたブレーキ力を発生させるブレーキ制御部22が接続されている。すなわち、本実施の形態による主ブレーキの機構は、周知の電気油圧式ブレーキであって、ドライバがブレーキペダル20を操作すると、そのブレーキ踏力がブレーキ踏力センサ21で検出され、ブレーキ制御部22により、ブレーキ駆動部19を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ23fl,23fr,23rl,23rrにブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0014】
ブレーキ駆動部19は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、後述するように、ブレーキ制御部22からの入力信号に応じて、各ホイールシリンダ23fl,23fr,23rl,23rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0015】
このブレーキ制御部22における制御は、例えば、各車輪に設けた車輪速度センサからの各車輪速度、ハンドル角センサからのハンドル角、ヨーレートセンサ(以上、ブレーキ制御部22における各センサは図1においては図示せず)からのヨーレートと車両諸元を基に、例えば以下の如く制御するようになっている。目標ヨーレートの微分値、低μ路走行の予測ヨーレートの微分値および両微分値の偏差を算出し、また実ヨーレートと目標ヨーレートとの偏差を算出し、これらの値に基づいて、車両のアンダーステア傾向、或いは、オーバーステア傾向を修正する目標制動力を算出する。そして、車両のアンダーステア傾向を修正するためには旋回方向内側後輪を、オーバーステア傾向を修正するためには旋回方向外側前輪を制動力を加える制動輪として選択し、ブレーキ駆動部19に制御信号を出力して選択車輪に目標制動力を付加して制動力制御する。ここで、ブレーキ制御部22での作動信号、すなわち、アンダーステア傾向を修正すべく動作中か、あるいは、オーバーステア傾向を修正すべく動作中かの作動信号は前後駆動力配分制御部18、及び、後述する電動パーキングブレーキ制御部24に対しても出力される。
【0016】
また、ブレーキ制御部22では、ブレーキ踏力センサ21とブレーキ制御部22との間の通電の異常(断線)等の故障診断を行っており、例えば、ブレーキ踏力センサ21とブレーキ制御部22との間の通電が無く、断線と判断した場合には、図示しない警報ランプを点灯させると共に、主ブレーキ系統が異常であることを示す信号を電動パーキングブレーキ制御部24に対して出力する。そして、以後、ブレーキ制御部22は、電動パーキングブレーキ制御部24に対し、ブレーキ駆動部19に出力していた信号を代替して出力する。尚、ブレーキ制御部22は、主ブレーキ系統が異常である場合に電動パーキングブレーキ制御部24に対して代替信号を出力する場合、上述の車両挙動を修正させる信号と重複する場合には、代替信号を優先出力する。このように、ブレーキ制御部22は、ブレーキ制御手段、及び、車両挙動制御手段としての機能を有して構成されている。
【0017】
一方、本実施の形態の車両においては、前方を走行する先行車を検出し、該先行車の情報を基に少なくとも自車両を減速制御自在な走行制御手段としての先行車追従機能付きクルーズコントロールシステム(ACC(Adaptive Cruise Control)システム)25が搭載されている。
【0018】
このACCシステム25は、ステレオカメラ25a、前方認識部25b、走行制御部25cを有して主要に構成され、このACCシステム25では、基本的に、先行車が存在しない定速走行制御状態のときには運転者が設定した車速を保持した状態で走行し、先行車が存在する場合には、その先行車に自動追従するべく制御される。
【0019】
この自動追従制御は、例えば、先行車が存在する場合には、運転者による追従運転状態と判断した際に、運転者の操作に応じた車両運転情報の取得を重ね、該車両運転情報を基に自動追従制御の制御目標値を学習する。一方、先行車が存在して自動追従制御を実行する際には、学習した制御目標値に基づいて自動ブレーキ制御(追従停止制御も含む)や自動加速制御(追従発進制御も含む)等を行う。
【0020】
ステレオカメラ25aは、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた1組の(左右の)CCDカメラで構成され、これら左右のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、前方認識部25bに出力される。
【0021】
前方認識部25bは、ステレオカメラ25aからの画像、車速センサ26からの自車速Vownが入力され、ステレオカメラ25aからの画像に基づき自車両1前方の立体物データと白線データの前方情報を検出し、自車両の進行路(自車進行路)を推定する。そして、自車両前方の先行車を抽出して、先行車距離(車間距離)D、先行車速度((車間距離Dの変化量)+(自車速Vown))Vfwd、先行車加速度(先行車速度Vfwdの微分値)afwd、先行車以外の静止物位置、白線座標、白線認識距離、自車進行路座標等の各データを走行制御部25cに出力する。
【0022】
ここで、前方認識部25aにおける、ステレオカメラ25aからの画像の処理は、例えば以下のように行われる。まず、ステレオカメラ25aのCCDカメラで撮像した自車両の進行方向の環境の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって画像全体に渡る距離情報を求める処理を行なって、三次元の距離分布を表す距離画像を生成する。そして、このデータを基に、周知のグルーピング処理や、予め記憶しておいた3次元的な道路形状データ、立体物データ等と比較し、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データを抽出する。立体物データでは、立体物までの距離と、この距離の時間的変化(自車両に対する相対速度)が求められ、特に自車進行路上にある最も近い車両で、自車両と略同じ方向に所定の速度で進行するものが先行車として抽出される。尚、先行車の中で、自車両に対する相対速度が自車速Vownと略同じ速度で自車両に接近するものは、停止した先行車として認識される。
【0023】
走行制御部25cは、運転者の操作入力によって設定される走行速度を維持するよう定速走行制御を行なう定速走行制御の機能、及び、自動追従制御の機能を実現するもので、前方認識部25bと、車速センサ26と、ステアリングコラムの側部等に設けられた定速走行操作レバーに連結される複数のスイッチ類で構成された定速走行スイッチ27と、ブレーキスイッチ28等が接続されている。
【0024】
定速走行スイッチ27は、定速走行時の目標車速を設定する車速セットスイッチ、主に目標車速を下降側へ変更設定するコーストスイッチ、主に目標車速を上昇側へ変更設定するリジュームスイッチ等で構成されている。更に、この定速走行操作レバーの近傍には、定速走行制御及び自動追従制御のON/OFFを行うメインスイッチが配設されている。
【0025】
運転者が図示しないメインスイッチをONし、定速走行操作レバーにより、希望する速度をセットすると、定速走行スイッチ27からの信号が走行制御部25cに入力される。そして、車速センサ26で検出した車速が、運転者のセットした設定車速に収束するように、エンジン制御部35に信号出力してスロットル弁(図示せず)の開度をフィードバック制御し、自車両を自動的に定速状態で走行させ、或いは、電動パーキングブレーキ制御部24に減速信号を出力して自動ブレーキを作動させる。
【0026】
又、走行制御部25cは、定速走行制御を行っている際に、前方認識部25bにて先行車を認識した場合には、所定の条件で後述する自動追従制御へ自動的に切換えられる。
【0027】
走行制御部25cにおける自動追従制御では、自車両と先行車との車間距離Dを自車速Vownで除して車間時間Tdを演算し、自動追従制御が解除されている状態(例えば、メインスイッチがOFFの状態)で、先行車が存在し、車間時間Tdが設定範囲内の値である状況が設定時間継続する場合、運転者による追従運転状態として判断する。そして、運転者による追従運転状態と判断した際には、運転者の操作に応じた車両運転情報の取得を重ね、該車両運転情報を基に自動追従制御の制御目標値を学習する。また、メインスイッチがONの状態で自動追従制御を実行する際には、学習した制御目標値に基づいてエンジン制御部35や電動パーキングブレーキ制御部24に対し、作動信号を出力する。尚、定速走行制御の機能、及び、自動追従制御の機能は、運転者がブレーキペダル20を踏んだ場合や、自車速Vownが予め設定しておいた上限値を超える場合には、自動的に解除されるようになっている。
【0028】
ここで、上述の自動追従制御における追従加速の際のスロットル開度の設定は、例えば、先行車の加速度と自車速Vownを基に、上述の学習により更新されながら予め設定されるマップを検索することにより設定される。同様に、上述の自動追従制御における追従減速の際のブレーキ制御量の設定は、例えば、先行車の減速度と自車速Vownを基に、上述の学習により更新されながら予め設定されるマップを検索することにより設定される。
【0029】
また、車両の後輪14rl、14rrには、周知の、例えば、特開平7−89420号公報で開示されるような、電動モータ29rl、29rrにより作動させられる電動パーキングブレーキ30が設けられている。
【0030】
この電動パーキングブレーキ30は、上述の電動パーキングブレーキ制御部24からの信号により駆動されるものであり、電動パーキングブレーキ制御部24には、前述のブレーキ制御部22から車両挙動を修正させる信号、主ブレーキ系統の異常信号及び主ブレーキ系統異常後のブレーキ制御量が入力される。また、電動パーキングブレーキ制御部24には、ACCシステム25の走行制御部25cから電動パーキングブレーキ30のブレーキ制御量が入力される。更に、ドライバが電動パーキングブレーキ30を作動させるための電動パーキングブレーキ作動スイッチ31が接続されている。
【0031】
そして、電動パーキングブレーキ制御部24は、ブレーキ制御部22から車両挙動を修正させる信号が入力されると、ブレーキ制御部22による車両挙動の修正と干渉しないようにするため、電動パーキングブレーキ30が作動している場合には電動パーキングブレーキ30の作動を解除する。
【0032】
また、電動パーキングブレーキ制御部24は、ブレーキ制御部22から主ブレーキ系統異常によるブレーキ制御量が入力された場合には、そのブレーキ制御量を発生させるべく電動モータ29rl、29rrを駆動させる。
【0033】
更に、電動パーキングブレーキ制御部24は、ACCシステム25の走行制御部25cから電動パーキングブレーキ30のブレーキ制御量が入力された場合には、そのブレーキ制御量を発生させるべく電動モータ29rl、29rrを駆動させる。
【0034】
尚、電動パーキングブレーキ制御部24は、電動パーキングブレーキ作動スイッチ31からの信号が入力されている場合には、他の全ての信号に優先して電動パーキングブレーキ30を作動させる。
【0035】
こうして、電動パーキングブレーキ制御部24は、電動パーキングブレーキ30の作動状態を前後駆動力配分制御部18に対しても出力する。すなわち、電動パーキングブレーキ制御部24は、電動パーキングブレーキ制御手段として設けられている。
【0036】
次に、前述の前後駆動力配分制御手段として設けられる前後駆動力配分制御部18の構成の一例について図2により説明する。
【0037】
前後駆動力配分制御部18は、4輪の車輪速センサ41fl,41fr,41rl,41rrから各車輪速ωfl,ωfr,ωrl,ωrr、ハンドル角センサ42からハンドル角θH、ヨーレートセンサ43からヨーレートγ、エンジン制御部35からエンジン回転数Ne、エンジン出力トルクTe、トランスミッション制御部44からタービン回転数Nt、ギヤ比i、路面μ推定装置45から路面μ推定値μe、ブレーキ制御部22からアンダーステア傾向抑止中、オーバーステア傾向抑止中、或いは非作動中の各信号(制動力制御の各信号)、電動パーキングブレーキ制御部24から電動パーキングブレーキ30の作動信号が入力される。また、前後駆動力配分制御部18には、ドライバが電動パーキングブレーキ30が作動中に敢えてトランスファクラッチ15を解放したい場合にONさせるスイッチ手段としてのクラッチ作動強制解除スイッチ46が接続されている。尚、図1においては、図面を判りやすく整理するために前後駆動力配分制御部18における各センサ類41fl,41fr,41rl,41rr、42、43及びトランスミッション制御部44、路面μ推定装置45は省略している。
【0038】
そして、これら各入力信号に基づいて、トルク感応トルクTtと差回転感応トルクTsとヨーレートフィードバックトルクTyを演算し、これら各トルクからトランスファクラッチトルクTtrを演算する。また、電動パーキングブレーキ30が作動している際には、トランスファクラッチトルクTtrを予め設定された最大値に設定してクラッチ駆動部17に出力し、前軸と後軸とを直結させる。
【0039】
すなわち、前後駆動力配分制御部18は、図2に示すように、トランスミッション出力トルク演算部18a、トルク感応トルク設定部18b、差回転感応トルク設定部18c、ヨーレートフィードバックトルク設定部18d、制動力制御時トルク設定部18e、トランスファクラッチトルク設定部18から構成されている。
【0040】
トランスミッション出力トルク演算部18aは、エンジン回転数Ne、エンジン出力トルクTe、タービン回転数Nt、ギヤ比iが入力され、以下(1)式によりトランスミッション出力トルクToを演算し、このトランスミッション出力トルクToをトルク感応トルク設定部18bと差回転感応トルク設定部18cに出力する。
To=Te・t・i …(1)
ここで、tはトルクコンバータのトルク比であり、予め設定されている、トルクコンバータの回転速度比e(=Nt/Ne)とトルクコンバータのトルク比tとのマップを参照することにより求められる。
【0041】
トルク感応トルク設定部18bは、各車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrr、ハンドル角θH、ギヤ比i、路面μ推定値μe、制動力制御のアンダーステア傾向抑止中、オーバーステア傾向抑止中、或いは非作動中の信号及びトランスミッション出力トルクToが入力され、トルク感応トルクTtを演算してトランスファクラッチトルク設定部18gに出力する。
【0042】
具体的には、まず、トルク感応トルク設定部18bでは、ギヤ比i毎、制動力制御の作動時(アンダーステア傾向抑止中、オーバーステア傾向抑止中)のそれぞれの場合毎における、予め設定しておいた後輪の駆動力配分率Aiを選択し、この後輪駆動力配分率Aiとトランスミッション出力トルクToとからトルク感応トルクTtを演算する。
Tt=Ai・To …(2)
【0043】
そして、このトルク感応トルクTtを、操舵による引きづりトルクの影響を少なくするため、操舵角δf(=θH/n:nはステアリングギヤ比)に応じたトルクの減少補正と、車速V(例えば車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrrの平均)に応じた補正を行う。
Tt=f(δf)・g(V)・Tt …(3)
【0044】
更に、(3)式で補正したトルク感応トルクTtを、予め設定しておいた路面μ毎の下限値より下回らないように制限し設定して、トランスファクラッチトルク設定部18gに出力する。
【0045】
差回転感応トルク設定部18cは、各車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrr、ハンドル角θH、及びトランスミッション出力トルクToが入力され、以下(4)式にて差回転感応トルクTsを演算し、トランスファクラッチトルク設定部18gに出力する。
Ts=KT0・(ΔN−ΔN0) …(4)
ここで、ΔNは、前軸の実際の回転速(実回転速)ωf(=(ωfl+ωfr)/2)と後軸の実際の回転速(実回転速)ωr(=(ωrl+ωrr)/2)との差(実差回転)、すなわち、ΔN=ωr−ωfである。
【0046】
また、ΔN0は、ステアリングの操舵角δfと車速Vにより必然的に発生する差回転(基本差回転)で、例えば、車両運動モデルを用いて以下のように演算する。
車両重心点の旋回半径ρcg=(1+A・V)・(L/(θH/n))
…(5)
車両重心点のすべり角βcg=((1−(m/(2・L))
・(Lf/(Lr・Kr))・V
/(1+A・V))・(Lr/L)
・(θH/n) …(6)
ここで、Aはスタビリティファクタ、mは車両質量、Lはホイールベース、Lfは前軸−重心間距離、Lrは後軸−重心間距離である。
(5)、(6)式より、
前軸の旋回半径ρf=ρcg+Lf・(sin (βcg)) …(7)
後軸の旋回半径ρr=ρcg−Lr・(sin (βcg)) …(8)
従って、
前軸の基準回転速ωf0=V・(ρf/ρcg) …(9)
後軸の基準回転速ωr0=V・(ρr/ρcg) …(10)
以上から、基本差回転ΔN0、すなわち、ΔN0=ωr0−ωf0が演算される。このため、(ΔN−ΔN0)は、実際に生じているスリップ量を示している。
【0047】
また、KT0は、トランスミッション出力トルクToによって予め設定した比例係数であり、トランスミッション出力トルクToが大きいほど大きい値に設定され、差回転を減少させるようになっている。
【0048】
ヨーレートフィードバックトルク設定部18dは、各車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrr、ハンドル角θH、ヨーレートγが入力され、車速V及び操舵角δfによって定めた車体の目標ヨーレートγ' と実際のヨーレートを比較し、その値が一致するように増減すべきヨーレートフィードバックトルクTyを演算し、このヨーレートフィードバックトルクTyをトランスファクラッチトルク設定部18gに出力する。
【0049】
具体的には、目標ヨーレートγ' は、以下の(11)式で演算する。
γ' =(1/(1+T・s))・(1/(1+A・V))
・(V/L)・δf …(11)
ここで、Tは時定数、sはラプラス演算子である。
【0050】
そして、この目標ヨーレートγ' と実際のヨーレートγとからヨーレート偏差Δγ(=γ−γ' )を演算し、このヨーレート偏差Δγが0になるようにヨーレートフィードバックトルクTyを設定する。
【0051】
制動力制御時トルク設定部18fは、各車輪速度ωfl,ωfr,ωrl,ωrr、路面μ推定値μe、制動力制御のアンダーステア傾向抑止中、オーバーステア傾向抑止中、或いは非作動中の各信号が入力され、ブレーキ制御部22がアンダーステア傾向抑止中、或いはオーバーステア傾向抑止中における、トランスファクラッチトルクTtrの補正量Ttryhを演算し、この補正量Ttryhをトランスファクラッチトルク設定部18gに出力する。
【0052】
補正量Ttryhは、例えば、次のように演算する。
まず、ブレーキ制御部22がアンダーステア傾向抑止中の場合は、予め定めておいた微少トルクΔTに対して、定数Kusを乗算することで補正量Ttryhを演算する。
Ttryh=Kus・ΔT …(12)
ここで、定数Kusは、車速Vと路面μ推定値μeにより可変に設定するもので、車速Vが高いほど大きく、路面μ推定値μeが小さいほど小さくする。すなわち、車速Vが高いほど大きく補正して速やかに車両挙動を安定させる。また、路面μ推定値μeが小さい場合は、車両特性が急に変化することを防止するため、補正量Ttryhの増減を微少なものとする。そして、アンダーステア傾向が強いほど、前後50:50の4輪駆動の方向に、すなわち、トランスファクラッチトルクTtrを増加する方向に補正する。
【0053】
一方、ブレーキ制御部22がオーバーステア傾向抑止中の場合は、予め定めておいた微少トルクΔTに対して、定数Kosを乗算することで補正量Ttryhを演算する。
Ttryh=Kos・ΔT …(13)
ここで、定数Kosは、定数Kusと同様に、車速Vと路面μ推定値μeにより可変に設定するもので、車速Vが高いほど大きく、路面μ推定値μeが小さいほど小さくする。そして、オーバーステア傾向が強いほど、前後100:0の2輪駆動の方向に、すなわち、トランスファクラッチトルクTtrを減少する方向に補正する。
【0054】
尚、本実施の形態では、FFベースの4輪駆動車であるため、トランスファクラッチトルクTtrの増減は上述のようになるが、フロントエンジン・リヤドライブ車ベース(FRベース)の4輪駆動車の場合は、トランスファクラッチトルクの締結は、上述と逆になることは云うまでもない。
【0055】
トランスファクラッチトルク設定部18gは、制動力制御のアンダーステア傾向抑止中、オーバーステア傾向抑止中、或いは非作動中の各信号、電動パーキングブレーキ制御部24の作動信号、クラッチ作動強制解除スイッチ46からの信号、及び、トルク感応トルクTt、差回転感応トルクTs、ヨーレートフィードバックトルクTyが入力され、必要に応じて補正量Ttryhを読み込む。そして、これらに基づき、トランスファクラッチトルク設定部18gは、トランスファクラッチトルクTtrを以下の各場合のように設定してクラッチ駆動部17に出力する。
【0056】
エンジン制御部35に電動パーキングブレーキ30が非作動であり、制動力制御の非作動の場合は、トランスファクラッチトルクTtrを以下のように設定する。
Ttr=Tt+Ts+Ty …(14)
【0057】
また、トランスファクラッチトルク設定部18gは、電動パーキングブレーキ30が作動中であり、制動力制御の非作動の場合は、トランスファクラッチトルクTtrを以下のように設定する。
Ttr=Tcp …(15)
ここで、Tcpは予め設定しておいた最大値、すなわち、前軸と後軸とを直結するための値である。このため、電動パーキングブレーキ30が作動され、後輪側に作用する制動力は前輪側にも伝達されて、前輪側と後輪側とにバランス良く制動力が作用され、車両の不安定化を有効に防止することができる。更に、前輪側にも制動力が作用されることから、最大制動力も高めることが可能となっているのである。
【0058】
また、制動力制御の作動の場合は、トランスファクラッチトルクTtrは、制動力制御がアンダーステア傾向抑止中、或いはオーバーステア傾向抑止中によって可変して設定される補正量Ttryhを用いて以下のように設定される。
Ttr=Tt+Ttryh …(16)
尚、電動パーキングブレーキ制御部24の前述の判定により電動パーキングブレーキ30の作動と制動力制御の作動とが同時に生じることは無い。すなわち、電動パーキングブレーキ制御部24では、ブレーキ制御部22から車両挙動を修正させる信号が入力されると、ブレーキ制御部22による車両挙動の修正と干渉しないようにするため、電動パーキングブレーキ30が作動している場合には電動パーキングブレーキ30の作動を解除するためである。
【0059】
更に、トランスファクラッチトルク設定部18gは、電動パーキングブレーキ30が作動している際にクラッチ作動強制解除スイッチ46からON信号が入力された場合、トランスファクラッチトルクTtrを0に設定し、トランスファクラッチ15を解放させる。これは、ドライバが敢えて電動パーキングブレーキ30の制動力を利用して、後輪をスライドさせる運転走行を行いたい場合に配慮するものである。
【0060】
このように本発明の実施の形態によれば、電動パーキングブレーキ30が作動している際には、トランスファクラッチトルクTtrを予め設定された最大値に設定してクラッチ駆動部17に出力し、前軸と後軸とを直結させるようにしているので、電動パーキングブレーキ30が作動により後輪側に作用する制動力は前輪側にも伝達されて、前輪側と後輪側とにバランス良く制動力が作用され、車両の不安定化を有効に防止することができる。更に、前輪側にも制動力が作用されることから、最大制動力も高めることが可能となっている。
【0061】
ACCシステム25により減速は、電動パーキングブレーキ30により行われるので、特に、渋滞時等の低速における追従走行制御において、減速、停止が頻繁に行われても、電動パーキングブレーキ30の停止保持時間が長いという特性を生かして、十分な耐久性で満足の得られる減速性能が得られる。尚、ACCシステム25においては、予め設定しておいた速度以下の低速時にのみ電動パーキングブレーキ30を用いるようにし、他の場合は主ブレーキ系統を用いるようにしても良い。
【0062】
また、主ブレーキ系統に異常が発生した場合には、電動パーキングブレーキ30が主ブレーキの代替として作動されるので、ブレーキ異常時における安全性を向上させることができ、ブレーキ性能の信頼性を向上させることができる。
【0063】
尚、本実施の形態の前後駆動力制御は、ほんの一例にすぎず、他の前後駆動力制御においても、本発明が適用できることは云うまでもない。また、本実施の形態では、ACCシステム25、ブレーキ制御部22による車両挙動制御、主ブレーキ系統異常時の電動パーキングブレーキ30の代替の全ての機能を有する車両で説明しているが、これら全ての機能が搭載されない車両、或いは、少なくともいずれかを搭載する車両においても、本発明は適用できる。
【0064】
更には、本発明では電気油圧式ブレーキを用いた車両で説明をしているものの、電気油圧式ブレーキに換えて電気機械式ブレーキとし、ブレーキ駆動部19を各輪のブレーキキャリパ内に電気モータを内蔵させ、電気モータによりブレーキパッドを押し付ける構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】車両の制駆動系及び搭載される各制御部の概略を示す説明図
【図2】前後駆動力配分制御部の機能ブロック図
【符号の説明】
【0066】
3 トランスファ
14fl,14fr,14rl,14rr 車輪
15 トランスファクラッチ(クラッチ手段)
18 前後駆動力配分制御部(前後駆動力配分制御手段)
22 ブレーキ制御部(ブレーキ制御手段、車両挙動制御手段)
24 電動パーキングブレーキ制御部(電動パーキングブレーキ制御手段)
25 ACCシステム(走行制御手段)
30 電動パーキングブレーキ
46 クラッチ作動強制解除スイッチ(スイッチ手段)
代理人 弁理士 伊 藤 進

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後輪に設けた電動パーキングブレーキを作動自在な電動パーキングブレーキ制御手段と、
前軸と後軸との間に設けたクラッチ手段を制御して前輪と後輪との間の駆動力配分を可変制御する前後駆動力配分制御手段とを備えた4輪駆動車の制御装置において、
上記前後駆動力配分制御手段は、上記電動パーキングブレーキが作動した際に、前軸と後軸とを直結する方向に上記クラッチ手段を制御することを特徴とする4輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前方を走行する先行車を検出し、該先行車の情報を基に少なくとも自車両を減速制御自在な走行制御手段を有し、
上記走行制御手段が行う減速制御は、上記電動パーキングブレーキを作動させて実行させることを特徴とする請求項1記載の4輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
上記電動パーキングブレーキ以外の主ブレーキの作動を制御するブレーキ制御手段を有し、
上記ブレーキ制御手段は、上記主ブレーキの異常を検出した際には、上記電動パーキングブレーキを上記主ブレーキの代替として作動させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の4輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
上記電動パーキングブレーキ以外の主ブレーキを独立に制御して車両の挙動を制御する車両挙動制御手段を有し、
上記車両挙動制御手段が作動した際には、上記前後駆動力配分制御手段は上記電動パーキングブレーキの作動時の上記クラッチ手段の前軸と後軸とを直結する方向への制御をキャンセルさせると共に、上記電動パーキングブレーキ制御手段は上記電動パーキングブレーキの作動をキャンセルさせることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の4輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
上記前後駆動力配分制御手段による上記電動パーキングブレーキが作動した際の上記クラッチ手段の前軸と後軸とを直結する方向への作動を選択的に禁止させるスイッチ手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の4輪駆動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−7984(P2006−7984A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188741(P2004−188741)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】