説明

コンパレータ、及びそれを用いた半導体装置

【課題】新たな構成のチョッパ型のコンパレータを提供する。
【解決手段】コンパレータは、インバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、インバータの入力端子と出力端子とは、第1のスイッチを介して電気的に接続され、インバータの入力端子は、容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、容量素子の一対の電極のうちの他方は、第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、入力された信号電位は第3のスイッチを介して容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、インバータの出力端子から出力される電位を出力信号とし、第1のスイッチは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタを用いて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンパレータに関する。特にチョッパ型のコンパレータに関する。更に、チョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置に関する。また、当該半導体装置を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパレータ(比較回路)には、差動増幅器(オペアンプ)を用いたものの他に、チョッパ型のコンパレータ(チョッパーインバータコンパレータ、インバータチョッパ型コンパレータ等ともいう)が広く利用されている。特許文献1(特許文献1中、図1参照)において、図9に示すようなチョッパ型のコンパレータが使用されている。
【0003】
図9において、チョッパ型のコンパレータは、インバータ2621、容量素子2622、スイッチ2624、スイッチ2625、及びスイッチ2626を有する。スイッチ2624はインバータ2621と並列に電気的に接続される。インバータ2621の出力端子は、チョッパ型のコンパレータの出力端子(図中、OUTと表記)と電気的に接続されている。インバータ2621の入力端子は、容量素子2622の一対の電極のうちの一方と電気的に接続されている。ここで、インバータ2621の入力端子、または容量素子2622の一対の電極のうちの一方をノードM(図中、Mと表記)とする。容量素子2622の一対の電極のうちの他方は、スイッチ2626を介して、チョッパ型のコンパレータの入力端子(図中、INと表記)と電気的に接続され、且つスイッチ2625を介して、参照電位が与えられる端子VRと電気的に接続される。
【0004】
図9に示したチョッパ型のコンパレータでは、スイッチ2626をオフ状態とし、スイッチ2625をオン状態とし、且つスイッチ2624をオン状態として、端子VRに参照電位Vrefを入力する。こうして、ノードMの電位をインバータ2621のしきい値電圧(以下、Vthiともいう)に設定する。ここで、インバータ2621のしきい値電圧とは、インバータ2621の入力電位と出力電位が等しくなる際の入力電位(または出力電位)に相当する。ノードMの電位をVthiに設定することを初期化ともいう。なお、初期化の動作は、容量素子2622の一対の電極間に所定の電圧(以下、基準電圧Vcともいう)を保持させる動作ということもできる。ここで、基準電圧Vcは参照電位Vrefからしきい値電圧Vthiを引いた値となる。
【0005】
初期化した後、スイッチ2626をオン状態とし、スイッチ2625をオフ状態とし、且つスイッチ2624をオフ状態として、入力端子INに信号電位(以下、Vinともいう)を入力する。信号電位VinがVthiよりも高い電位(ハイレベルの電位:以下、VinHという)であると、インバータ2621の出力電位はローレベルとなり、出力端子OUTからローレベルの電位(以下、VoutLという)が出力される。信号電位VinがVthiよりも低い電位(ローレベルの電位:以下、VinLという)であると、インバータ2621の出力電位はハイレベルとなり、出力端子OUTからハイレベルの電位(以下、VoutHという)が出力される。このように、入力端子INから入力された信号に応じた信号を出力端子OUTから出力する動作を通常動作と呼ぶ。
【0006】
以上のとおり、チョッパ型のコンパレータは動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−23342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたようなチョッパ型のコンパレータでは、スイッチ2624を構成するトランジスタのオフ電流が問題となる。当該オフ電流(リーク電流)は、オフ状態を選択されたスイッチ2624を介して流れる。当該リーク電流によって、ノードMから電荷が流出またはノードMに電荷が流入する。こうして、初期化を行った後、時間が経過する程に、容量素子2622に保持された基準電圧Vcは変化してしまう。基準電圧Vcが大きく変化すると、入力端子INに入力された信号電位Vinを対応するレベルの電位に変換して出力端子OUTから出力することができなくなる。
【0009】
具体的には、初期化を行った後、基準電圧Vcが変化することによってノードMの電位が低下して、低下分がVinHとしきい値電圧Vthiの差分よりも大きくなると、入力端子INに入力された信号電位VinがVinHであったときに、出力端子OUTからVoutLを出力することができなくなる。また、初期化を行った後、基準電圧Vcが変化することによってノードMの電位が上昇して、上昇分がしきい値電圧VthiとVinLの差分よりも大きくなると、入力端子INに入力された信号電位VinがVinLであったときに、出力端子OUTからVoutHを出力することができなくなる。つまり、初期化を行った後、スイッチ2624を介して流れるリーク電流によって基準電圧Vcが大きく変化すると、コンパレータとして正常に機能しなくなり、誤作動の原因となる。
【0010】
例えば、VinHとVinLの(概略)中間の電位がVthiとなる様にVinHとVinLの値を設定したとき、基準電圧Vcが変化することによるノードMの電位の変動が信号電位Vinの振幅電圧(VinHとVinLの差分)の半分よりも大きくなると、入力端子INに入力された信号電位Vinを所定のレベルの電位に変換して出力端子OUTから出力することができなくなる。つまり、コンパレータとして正常に機能しなくなり、誤作動の原因となる。
【0011】
そのため、上記誤作動を防止するために、所定の期間毎に、頻繁に初期化を行う必要がある。なお、初期化を行っている間は、コンパレータとしての動作(通常動作)を行うことができない。そのため、通常動作を行うタイミングが制限される(駆動方法の自由度が低い等ともいう)。なお、上記コンパレータを少なくとも2つ設け、一方のコンパレータにおいて初期化を行っている間は、他方のコンパレータにおいて通常動作を行う手法があるが、動作が複雑になり、且つ回路面積も増大する。
【0012】
そこで上記に鑑み、より信頼性が高い、新たな構成のチョッパ型のコンパレータを提供することを課題とする。また、このようなコンパレータを用いた、より信頼性の高い半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のコンパレータの一態様は、インバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、入力された信号電位を対応するレベルの電位に変換して出力信号とする。インバータの入力端子と出力端子とは、第1のスイッチを介して電気的に接続される。インバータの入力端子は、容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続される。容量素子の一対の電極のうちの他方は、第2のスイッチを介して参照電位が与えられる。信号電位は第3のスイッチを介して容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられる。インバータの出力端子から出力される電位を出力信号とする。ここで、第1のスイッチは、オフ電流が極めて小さいトランジスタを用いて構成される。
【0014】
本発明のコンパレータの一態様は、クロックドインバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、入力された信号電位を対応するレベルの電位に変換して出力信号とする。クロックドインバータは、クロック信号に同期して、入力端子に入力された信号を反転させて出力端子から出力する。クロックドインバータの入力端子と出力端子とは、第1のスイッチを介して電気的に接続される。クロックドインバータの入力端子は、容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続される。容量素子の一対の電極のうちの他方は、第2のスイッチを介して参照電位が与えられる。信号電位は第3のスイッチを介して容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられる。クロックドインバータの出力端子から出力される電位を出力信号とする。ここで、第1のスイッチは、オフ電流が極めて小さいトランジスタを用いて構成される。
【0015】
ここで、トランジスタのオフ電流とは、nチャネル型トランジスタにおいては、ドレインをソースよりも高い電位とした状態において、ソースの電位を基準としたときのゲートの電位が0V以下であるときに、ソースとドレインの間に流れる電流のことを意味する。或いは、pチャネル型トランジスタにおいては、ドレインをソースよりも低い電位とした状態において、ソースの電位を基準としたときのゲートの電位が0V以上であるときに、ソースとドレインの間に流れる電流のことを意味する。
【0016】
第1のスイッチは、互いに並列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、複数のトランジスタそれぞれをオフ電流が極めて小さいトランジスタとしてもよい。そして、当該複数のトランジスタは、互いに重なる様に配置されていてもよい。当該複数のトランジスタのチャネル幅は(概略)等しい構成とすることができる。当該複数のトランジスタのチャネル長は(概略)等しい構成とすることができる。
【0017】
第1のスイッチは、互いに直列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、複数のトランジスタそれぞれをオフ電流が極めて小さいトランジスタとしてもよい。そして、当該複数のトランジスタは、互いに重なる様に配置されていてもよい。当該複数のトランジスタのチャネル長は(概略)等しい構成とすることができる。当該複数のトランジスタのチャネル幅は(概略)等しい構成とすることができる。なお、互いに直列に電気的に接続された複数のトランジスタは、マルチゲート型のトランジスタということもできる。
【0018】
第1のスイッチは、複数のマルチゲート型のトランジスタが互いに並列に電気的に接続した構成とし、複数のマルチゲート型のトランジスタそれぞれをオフ電流が極めて小さいトランジスタとしてもよい。
【0019】
ここで、オフ電流が極めて小さいトランジスタとしては、シリコンよりも広いバンドギャップを有する半導体でなる層や基板中にチャネルが形成されるトランジスタを用いることができる。シリコンよりも広いバンドギャップを有する半導体として化合物半導体があり、例えば、酸化物半導体、窒化物半導体などがある。例えば、オフ電流が極めて小さいトランジスタとして、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタを用いることができる。
【0020】
また、インバータ、第2のスイッチ、及び第3のスイッチのうち少なくとも1つは、チャネルがシリコン層またはシリコン基板に形成されるトランジスタを用いて構成され、当該トランジスタは、第1のスイッチを構成するトランジスタと重なる様に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
第1のスイッチをオフ電流が極めて小さいトランジスタを用いて構成するため、オフ状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流(リーク電流)を抑制することができる。こうして、初期化を行った後、容量素子に保持された電圧の変動を抑制し、コンパレータの誤作動を低減することができる。また、初期化を行う頻度を低減することができ、駆動方法の自由度が高い。
【0022】
また、オン状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流を大きくする、即ち第1のスイッチを構成するトランジスタをオン電流の大きなトランジスタとすることによって、初期化の動作を高速に行うことができる。ここで、トランジスタのオン電流を増大させるには、トランジスタのチャネル幅を大きくすることによって達成することができる。しかし、チャネル幅が大きくなる程、トランジスタの発熱の問題が顕著となる。そこで、互いに並列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて第1のスイッチを構成する。こうして、オン状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流を大きくしつつ、第1のスイッチを構成する複数のトランジスタの発熱を抑制することができる。そのため、コンパレータの信頼性を損なうことなく、初期化の動作をより高速に行うことができる。また、当該複数のトランジスタを重ねて配置することによって、第1のスイッチが占める面積の増大を抑制しつつ、オン状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流を大きくすることができる。そのため、コンパレータの信頼性を損なうことなく、回路面積の増大を抑制し、且つ、初期化の動作をより高速に行うことができる。
【0023】
なお、互いに直列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて第1のスイッチを構成することによって、オフ状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流(リーク電流)を更に抑制することができる。そのため、初期化の頻度を更に低減することができる。また、当該複数のトランジスタを重ねて配置することによって、第1のスイッチが占める面積の増大を抑制しつつ、オフ状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流(リーク電流)を更に抑制することができる。そのため、回路面積の増大を抑制し、且つ、初期化の頻度を更に低減することができる。
【0024】
なお、互いに並列に電気的に接続した複数のマルチゲート型のトランジスタを用いて第1のスイッチを構成することによって、オン状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流を大きくしつつ、第1のスイッチを構成する複数のトランジスタの発熱を抑制し、且つオフ状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流(リーク電流)を抑制することができる。そのため、コンパレータの信頼性を損なうことなく、初期化の動作をより高速に行い、且つ、初期化の頻度を更に低減することができる。また、当該複数のマルチゲート型のトランジスタを重ねて配置することによって、第1のスイッチが占める面積の増大を抑制しつつ、オン状態を選択された第1のスイッチを介して流れる電流を大きくすることができる。そのため、コンパレータの信頼性を損なうことなく、回路面積の増大を抑制し、初期化の動作をより高速に行い、且つ、初期化の頻度を更に低減することができる。
【0025】
こうして、より信頼性の高いコンパレータが得られる。また当該コンパレータを用いることによって、より信頼性の高い半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】チョッパ型のコンパレータの構成を示す回路図、及び断面図。
【図2】チョッパ型のコンパレータの構成を示す回路図、及び断面図。
【図3】チョッパ型のコンパレータの構成を示す回路図、及び断面図。
【図4】コンパレータの作製工程を示す図。
【図5】コンパレータの作製工程を示す図。
【図6】コンパレータの作製工程を示す図。
【図7】携帯用の電子機器のブロック図。
【図8】電子書籍のブロック図。
【図9】従来のチョッパ型のコンパレータの構成を示す回路図。
【図10】酸化物半導体層の構造を説明する図。
【図11】酸化物半導体層の構造を説明する図。
【図12】酸化物半導体層の構造を説明する図。
【図13】酸化物半導体膜の成膜時基板加熱温度と欠陥密度の関係を示すグラフ。
【図14】理想的な酸化物半導体層をチャネルに用いたトランジスタの移動度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、実施の形態及び実施例について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0028】
なお、「ソース」や「ドレイン」の機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合などには入れかわることがある。このため、本明細書においては、「ソース」や「ドレイン」の用語は、入れかえて用いることができるものとする。
【0029】
「電気的に接続」には、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に制限はない。例えば、「何らかの電気的作用を有するもの」には、電極や配線をはじめ、トランジスタなどのスイッチング素子、抵抗素子、インダクタ、キャパシタ、その他の各種機能を有する素子などが含まれる。
【0030】
回路図上は独立している構成要素どうしが電気的に接続しているように図示されている場合であっても、実際には、例えば配線の一部が電極としても機能する場合など、一の導電膜が、複数の構成要素の機能を併せ持っている場合もある。本明細書において電気的に接続とは、このような、一の導電膜が、複数の構成要素の機能を併せ持っている場合も、その範疇に含める。
【0031】
「上」や「下」の用語は、構成要素の位置関係が「直上」または「直下」であることを限定するものではない。例えば、「ゲート絶縁層上のゲート電極」の表現であれば、ゲート絶縁層とゲート電極との間に他の構成要素を含むものを除外しない。
【0032】
図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0033】
「第1」、「第2」、「第3」などの序数詞は、構成要素の混同を避けるために付すものである。
【0034】
(実施の形態1)
本発明のチョッパ型のコンパレータの一態様について説明する。
【0035】
(コンパレータの構成)
図1(A)は、本発明のチョッパ型のコンパレータの回路図の一態様である。図1(A)において、チョッパ型のコンパレータ1000は、スイッチ1624、スイッチ1625、スイッチ1626と、インバータ1621、容量素子1622を有する。スイッチ1624はインバータ1621と並列に電気的に接続される。インバータ1621の出力端子は、チョッパ型のコンパレータ1000の出力端子(図中、OUTと表記)と電気的に接続されている。インバータ1621の入力端子は、容量素子1622の一対の電極のうちの一方と電気的に接続されている。ここで、インバータ1621の入力端子、または容量素子1622の一対の電極のうちの一方をノードM(図中、Mと表記)とする。容量素子1622の一対の電極のうちの他方は、スイッチ1626を介して、チョッパ型のコンパレータ1000の入力端子(図中、INと表記)と電気的に接続され、且つスイッチ1625を介して、参照電位が与えられる端子VRと電気的に接続される。
【0036】
ここで、スイッチ1624は、オフ電流が極めて小さいトランジスタを用いて構成される。図1(A)では、トランジスタ11を用いて構成されている。トランジスタとしては、例えば、酸化物半導体層にチャネルが形成されるトランジスタを用いることができる。図1(A)では、トランジスタ11はチャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであることを示すため、「OS」の符号を付している。トランジスタ11のゲートは端子OSGと電気的に接続され、制御信号が入力される。当該制御信号によって、トランジスタ11のオン状態またはオフ状態が選択される。即ち、当該制御信号によって、スイッチ1624のオン状態またはオフ状態が選択される。
【0037】
なお、インバータ1621の代わりに、クロック信号に同期して入力された信号を反転して出力する、クロックドインバータを用いてもよい。スイッチ1625、スイッチ1626、インバータ1621は、トランジスタを用いて構成することができる。当該トランジスタは、任意の構成のトランジスタとすることができる。例えば、スイッチ1625、スイッチ1626、インバータ1621は、シリコン層またはシリコン基板にチャネルが形成されるトランジスタとすることができる。
【0038】
(コンパレータの駆動方法)
図1(A)に示したチョッパ型のコンパレータ1000の駆動方法について説明する。スイッチ1626をオフ状態とし、スイッチ1625をオン状態とし、且つスイッチ1624をオン状態として、端子VRに参照電位Vrefを入力する。こうして、ノードMの電位をインバータ1621のしきい値電圧(以下、Vthiともいう)に設定する。ここで、インバータ1621のしきい値電圧とは、インバータ1621の入力電位と出力電位が等しくなる際の入力電位(または出力電位)に相当する。ノードMの電位をVthiに設定することを、初期化ともいう。なお、初期化の動作は、容量素子1622の一対の電極間に所定の電圧(以下、基準電圧Vcともいう)を保持させる動作ということもできる。ここで、基準電圧Vcは参照電位Vrefからしきい値電圧Vthiを引いた値となる。
【0039】
初期化した後、スイッチ1626をオン状態とし、スイッチ1625をオフ状態とし、且つスイッチ1624をオフ状態として、入力端子INに信号電位(以下、Vinともいう)を入力する。信号電位VinがVthiよりも高い電位(ハイレベルの電位:以下、VinHという)であると、インバータ1621の出力電位はローレベルとなり、出力端子OUTからローレベルの電位(以下、VoutLという)が出力される。信号電位VinがVthiよりも低い電位(ローレベルの電位:以下、VinLという)であると、インバータ1621の出力電位はハイレベルとなり、出力端子OUTからハイレベルの電位(以下、VoutHという)が出力される。このように、入力端子INから入力された信号に応じた信号を出力端子OUTから出力する動作を通常動作と呼ぶ。
【0040】
以上のとおり、チョッパ型のコンパレータ1000は動作する。
【0041】
スイッチ1624をオフ電流が極めて小さいトランジスタ11を用いて構成するため、オフ状態を選択されたスイッチ1624を介して流れる電流(リーク電流)を抑制することができる。こうして、初期化を行った後、容量素子1622に保持された基準電圧Vcの変動を抑制し、コンパレータ1000の誤作動を低減することができる。また、コンパレータ1000では初期化を行う頻度を低減することができ、駆動方法の自由度を高くすることができる。
【0042】
(コンパレータの断面構成)
図1(A)に示したコンパレータ1000のより具体的な構成の一例について説明する。図1(B)は、図1(A)に示したコンパレータ1000の構成を示した断面図である。図1(B)では、スイッチ1624を構成するトランジスタ11と、インバータ1621を構成するトランジスタ133を代表で示す。
【0043】
基板700上に絶縁膜701が設けられ、絶縁膜701上にトランジスタ133が形成されている。トランジスタ133は、チャネル形成領域710と、不純物領域709とを有する半導体層と、ゲート絶縁膜として機能する絶縁膜703と、ゲート電極707とを有する。当該半導体層は、例えば、シリコン層とすることができる。なお、トランジスタ133は、チャネルが単結晶半導体基板に形成されるトランジスタであってもよい。単結晶半導体基板としては、例えばシリコン基板を用いることができる。トランジスタ133上に、絶縁膜712及び絶縁膜713が設けられ、その上にトランジスタ11が形成されている。トランジスタ11は、チャネル形成領域を含む領域909と、高濃度領域908とを有する酸化物半導体層と、ゲート絶縁膜として機能する絶縁層718と、ゲート電極722と、サイドウォールとして機能する絶縁物721a及び絶縁物721bと、ソース電極及びドレイン電極として機能する導電層719及び導電層720とを有する。トランジスタ11上には、絶縁膜724が形成され、絶縁膜724上には、配線726が形成され、配線726上には絶縁膜727が形成されている。
【0044】
図1(B)に示す様に、スイッチ1624を構成するトランジスタ11は、コンパレータ1000を構成するその他のトランジスタと重ねて配置することができる。例えば、インバータ1621を構成するトランジスタ133と重ねて配置することができる。こうして、コンパレータ1000は、回路面積の増大を抑制しつつ、初期化を行う頻度を低減することができ、駆動方法の自由度を高くすることができる。
【0045】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0046】
(実施の形態2)
本発明のチョッパ型のコンパレータの別の一態様について説明する。図2(A)は、本発明のチョッパ型のコンパレータの回路図の一態様である。
【0047】
図2(A)に記載のチョッパ型のコンパレータ1000は、図1(A)で示したチョッパ型のコンパレータ1000とは、スイッチ1624として、トランジスタ11aとトランジスタ11bを互いに並列に電気的に接続している点が異なり、その他の構成については図1(A)と同様であるため説明は省略する。なお、スイッチ1624は、2つのトランジスタでなる構成に限定されず、複数のトランジスタを互いに並列に電気的に接続した構成とすることができる。こうして、スイッチ1624を介して流れる電流の電流値を大きくすることが可能となり、初期化の動作を効率良く行うことができる。また、個々のトランジスタの発熱を抑制することができる。
【0048】
図2(A)におけるコンパレータ1000の駆動方法については、図1(A)に示したコンパレータ1000の駆動方法と同様であるため、説明は省略する。
【0049】
(コンパレータの断面構成)
図2(A)に示したコンパレータ1000のより具体的な構成の一例について説明する。図2(B)は、図2(A)に示したコンパレータ1000の構成を示した断面図である。図2(B)では、スイッチ1624を構成するトランジスタ11a及びトランジスタ11bと、インバータ1621を構成するトランジスタ133を代表で示す。トランジスタ11a及びトランジスタ11bはそれぞれ、図1(B)に示したトランジスタ11と同様の構成とすることができる。なお、図1(B)と同じ部分は説明を省略する。トランジスタ11b上には、絶縁膜724bが形成され、絶縁膜724b上には配線726bが形成され、配線726b上には絶縁膜727bが形成されている。
【0050】
図2(B)に示すように、スイッチ1624を構成するトランジスタ11a及びトランジスタ11bは、コンパレータ1000を構成するその他のトランジスタと重ねて配置することができる。例えば、インバータ1621を構成するトランジスタ133と重ねて配置することができる。また、トランジスタ11a及びトランジスタ11bも重ねて配置することができる。こうして、コンパレータ1000は、回路面積の増大を抑制しつつ、初期化の動作を効率良く行い、また初期化を行う頻度を低減することができ、駆動方法の自由度を高くすることができる。
【0051】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0052】
(実施の形態3)
本発明のチョッパ型のコンパレータの別の一態様について説明する。図3(A)は、本発明のチョッパ型のコンパレータの回路図の一態様である。
【0053】
図3(A)に記載のチョッパ型のコンパレータ1000は、図1(A)で示したチョッパ型のコンパレータ1000とは、スイッチ1624として、トランジスタ11aとトランジスタ11cを直列に電気的に接続し、トランジスタ11bとトランジスタ11dを直列に電気的に接続し、更に、トランジスタ11aとトランジスタ11cでなる回路と、トランジスタ11bとトランジスタ11dでなる回路とを並列に接続している点が異なる。その他の構成については図1(A)と同様であるため説明は省略する。なお、スイッチ1624は、4つのトランジスタでなる構成に限定されず、複数のトランジスタを互いに直列且つ並列に電気的に接続した構成とすることができる。この構成は、マルチゲート型のトランジスタが並列に電気的に接続された構成ということもできる。こうして、スイッチ1624を介して流れる電流の電流値を大きくすることが可能となり、初期化の動作を効率良く行うことができる。また、個々のトランジスタの発熱を抑制することができる。更に、スイッチ1624を介して流れる電流(リーク電流)を更に抑制することができるので、初期化の頻度を更に低減することができる。
【0054】
なお、スイッチ1624は、4つのトランジスタでなる構成に限定されず、複数のトランジスタを互いに直列に電気的に接続した構成とすることもできる。この構成は、マルチゲート型のトランジスタを用いた構成と考えることもできる。こうして、スイッチ1624を介して流れる電流(リーク電流)を更に抑制することができるので、初期化の頻度を更に低減することができる。
【0055】
図3(A)におけるコンパレータ1000の駆動方法については、図1(A)に示したコンパレータ1000の駆動方法と同様であるため、説明は省略する。
【0056】
(コンパレータの断面構成)
図3(A)に示したコンパレータ1000のより具体的な構成の一例について説明する。図3(B)は、図3(A)に示したコンパレータ1000の構成を示した断面図である。図3(B)では、スイッチ1624を構成するトランジスタ11a、トランジスタ11b、トランジスタ11c及びトランジスタ11dと、インバータ1621を構成するトランジスタ133を代表で示す。トランジスタ11a、トランジスタ11b、トランジスタ11c及びトランジスタ11dはそれぞれ、図1(B)に示したトランジスタ11と同様の構成とすることができる。なお、図2(B)と同じ部分は説明を省略する。ここで、トランジスタ11aとトランジスタ11cとにおいて、高濃度領域908acを共有している。また、トランジスタ11a及びトランジスタ11cにおいて、導電層720acを共有している。この構成によって、トランジスタ11a及びトランジスタ11cの占める面積をより小さくすることができる。トランジスタ11bとトランジスタ11dとにおいて、高濃度領域908bdを共有している。また、トランジスタ11b及びトランジスタ11dにおいて、導電層720bdを共有している。この構成によって、トランジスタ11b及びトランジスタ11dの占める面積をより小さくすることができる。
【0057】
図3(B)に示す様に、スイッチ1624を構成するトランジスタ11a、トランジスタ11b、トランジスタ11c及びトランジスタ11dは、コンパレータ1000を構成するその他のトランジスタと重ねて配置することができる。例えば、インバータ1621を構成するトランジスタ133と重ねて配置することができる。また、トランジスタ11a及びトランジスタ11cと、トランジスタ11b及びトランジスタ11dとを重ねて配置することができる。こうして、コンパレータ1000は、回路面積の増大を抑制しつつ、初期化の動作を効率良く行い、また初期化を行う頻度を更に低減することができ、駆動方法の自由度を高くすることができる。
【0058】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0059】
(実施の形態4)
コンパレータの作製方法について説明する。本実施の形態では、図1(A)に示したコンパレータ1000のうち、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタ11、容量素子1622、及びインバータ1621を構成するトランジスタ133を例に挙げて、コンパレータ1000の作製方法について説明する。インバータ1621を相補型トランジスタによって構成する場合には、トランジスタ133と極性が異なる別のトランジスタを設けることになる。ここで、トランジスタ133は、チャネルがシリコン層に形成されるトランジスタである場合を例に挙げる。
【0060】
なお、コンパレータ1000の有するその他トランジスタ(例えば、スイッチ1626やスイッチ1625を構成するトランジスタ)は、トランジスタ133と同様に作製することができる。
【0061】
まず、図4(A)に示すように、基板700上に絶縁膜701と、単結晶の半導体基板から分離された半導体膜702とを形成する。
【0062】
基板700として使用することができる素材に大きな制限はないが、少なくとも、後の加熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有していることが必要となる。例えば、基板700には、フュージョン法やフロート法で作製されるガラス基板、石英基板、半導体基板、セラミック基板等を用いることができる。ガラス基板としては、後の加熱処理の温度が高い場合には、歪み点が730℃以上のものを用いると良い。
【0063】
また、本実施の形態では、半導体膜702が単結晶のシリコンである場合を例に挙げて、以下、トランジスタ133の作製方法について説明する。なお、具体的な単結晶の半導体膜702の作製方法の一例について、簡単に説明する。まず、単結晶の半導体基板であるボンド基板に、電界で加速されたイオンでなるイオンビームを注入し、ボンド基板の表面から一定の深さの領域に、結晶構造が乱されることで局所的に脆弱化された脆化層を形成する。脆化層が形成される領域の深さは、イオンビームの加速エネルギーとイオンビームの入射角によって調節することができる。そして、ボンド基板と、絶縁膜701が形成された基板700とを、間に当該絶縁膜701が挟まるように貼り合わせる。貼り合わせは、ボンド基板と基板700とを重ね合わせた後、ボンド基板と基板700の一部に、1N/cm以上500N/cm以下、好ましくは11N/cm以上20N/cm以下程度の圧力を加える。圧力を加えると、その部分からボンド基板と絶縁膜701とが接合を開始し、最終的には密着した面全体に接合がおよぶ。次いで、加熱処理を行うことで、脆化層に存在する微小ボイドどうしが結合して、微小ボイドの体積が増大する。その結果、脆化層においてボンド基板の一部である単結晶半導体膜が、ボンド基板から分離する。上記加熱処理の温度は、基板700の歪み点を越えない温度とする。そして、上記単結晶半導体膜をエッチング等により所望の形状に加工することで、半導体膜702を形成することができる。
【0064】
半導体膜702には、閾値電圧を制御するために、硼素、アルミニウム、ガリウムなどのp型の導電性を付与する不純物元素、若しくはリン、砒素などのn型の導電性を付与する不純物元素を添加しても良い。閾値電圧を制御するための不純物元素の添加は、所定の形状にエッチング加工する前の半導体膜に対して行っても良いし、所定の形状にエッチング加工した後の半導体膜702に対して行っても良い。また、閾値電圧を制御するための不純物元素の添加を、ボンド基板に対して行っても良い。若しくは、不純物元素の添加を、閾値電圧を大まかに調整するためにボンド基板に対して行った上で、閾値電圧を微調整するために、所定の形状にエッチング加工する前の半導体膜に対して、又は所定の形状にエッチング加工した後の半導体膜702に対しても行っても良い。
【0065】
なお、本実施の形態では、単結晶の半導体膜を用いる例について説明しているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、STI(Shallow Trench Isolation)等により素子分離したバルクの半導体基板を用いてもよい。例えば、絶縁膜701上に気相成長法を用いて形成された多結晶、微結晶、非晶質の半導体膜を用いても良いし、上記半導体膜を公知の技術により結晶化しても良い。公知の結晶化方法としては、レーザ光を用いたレーザ結晶化法、触媒元素を用いる結晶化法がある。或いは、触媒元素を用いる結晶化法とレーザ結晶化法とを組み合わせて用いることもできる。また、石英のような耐熱性に優れている基板を用いる場合、電熱炉を使用した熱結晶化方法、赤外光を用いたランプ加熱結晶化法、触媒元素を用いる結晶化法、950℃程度の高温加熱法を組み合わせた結晶化法を用いても良い。
【0066】
次に、図4(B)に示すように、半導体膜702を用いて半導体層704を形成する。そして、半導体層704上にゲート絶縁膜として機能する絶縁膜703を形成する。
【0067】
絶縁膜703は、例えば、プラズマCVD法又はスパッタリング法などを用い、酸化珪素、窒化酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム又は酸化タンタル、酸化イットリウム、ハフニウムシリケート(HfSi(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムシリケート(HfSi(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムアルミネート(HfAl(x>0、y>0))等を含む膜を、単層で、又は積層させることで、形成することができる。
【0068】
なお、本明細書において酸化窒化物とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多い物質であり、また、窒化酸化物とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い物質を意味する。
【0069】
絶縁膜703の厚さは、例えば、1nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下とすることができる。本実施の形態では、プラズマCVD法を用いて、酸化珪素を含む単層の絶縁膜を、絶縁膜703として用いる。
【0070】
次いで、図4(C)に示すように、ゲート電極707を形成する。
【0071】
ゲート電極707は、導電膜を形成した後、該導電膜を所定の形状に加工することで、形成することができる。上記導電膜の形成にはCVD法、スパッタリング法、蒸着法、スピンコート法等を用いることができる。また、導電膜は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)等を用いることができる。上記金属を主成分とする合金を用いても良いし、上記金属を含む化合物を用いても良い。又は、半導体膜に導電性を付与するリン等の不純物元素をドーピングした、多結晶珪素などの半導体を用いて形成しても良い。
【0072】
なお、本実施の形態ではゲート電極707を単層の導電膜で形成しているが、本実施の形態はこの構成に限定されない。ゲート電極707は積層された複数の導電膜で形成されていても良い。
【0073】
2つの導電膜の組み合わせとして、1層目に窒化タンタル又はタンタルを、2層目にタングステンを用いることができる。上記例の他に、2つの導電膜の組み合わせとして、窒化タングステンとタングステン、窒化モリブデンとモリブデン、アルミニウムとタンタル、アルミニウムとチタン等が挙げられる。タングステンや窒化タンタルは、耐熱性が高いため、2層の導電膜を形成した後の工程において、熱活性化を目的とした加熱処理を行うことができる。また、2層の導電膜の組み合わせとして、例えば、n型の導電性を付与する不純物元素がドーピングされた珪素とニッケルシリサイド、n型の導電性を付与する不純物元素がドーピングされた珪素とタングステンシリサイド等も用いることができる。
【0074】
3つの導電膜を積層する3層構造の場合は、モリブデン膜とアルミニウム膜とモリブデン膜の積層構造を採用するとよい。
【0075】
また、ゲート電極707に酸化インジウム、酸化インジウム酸化スズ、酸化インジウム酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化亜鉛アルミニウム、酸窒化亜鉛アルミニウム、又は酸化亜鉛ガリウム等の透光性を有する酸化物導電膜を用いることもできる。
【0076】
なお、マスクを用いずに、液滴吐出法を用いて選択的にゲート電極707を形成しても良い。液滴吐出法とは、所定の組成物を含む液滴を細孔から吐出又は噴出することで所定のパターンを形成する方法を意味し、インクジェット法などがその範疇に含まれる。
【0077】
また、ゲート電極707は、導電膜を形成後、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用い、エッチング条件(コイル型の電極層に印加される電力量、基板側の電極層に印加される電力量、基板側の電極温度等)を適宜調節することにより、所望のテーパー形状を有するようにエッチングすることができる。また、テーパー形状は、マスクの形状によっても角度等を制御することができる。なお、エッチング用ガスとしては、塩素、塩化硼素、塩化珪素もしくは四塩化炭素などの塩素系ガス、四弗化炭素、弗化硫黄もしくは弗化窒素などのフッ素系ガス又は酸素を適宜用いることができる。
【0078】
次に、図4(D)に示すように、ゲート電極707をマスクとして一導電性を付与する不純物元素を半導体層704に添加することで、ゲート電極707と重なるチャネル形成領域710と、チャネル形成領域710を間に挟む一対の不純物領域709とが、半導体層704に形成される。
【0079】
本実施の形態では、半導体層704にp型の導電性を付与する不純物元素(例えば硼素)を添加する場合を例に挙げる。
【0080】
次いで、図5(A)に示すように、絶縁膜703、ゲート電極707を覆うように、絶縁膜712、絶縁膜713を形成する。具体的に、絶縁膜712、絶縁膜713は、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウムなどの無機の絶縁膜を用いることができる。特に、絶縁膜712、絶縁膜713に誘電率の低い(low−k)材料を用いることで、各種電極や配線の重なりに起因する容量を十分に低減することが可能になるため好ましい。なお、絶縁膜712、絶縁膜713に、上記材料を用いた多孔性の絶縁膜を適用しても良い。多孔性の絶縁膜では、密度の高い絶縁膜と比較して誘電率が低下するため、電極や配線の重なりに起因する寄生容量を更に低減することが可能である。
【0081】
本実施の形態では、絶縁膜712として酸化窒化珪素、絶縁膜713として窒化酸化珪素を用いる場合を例に挙げる。また、本実施の形態では、ゲート電極707上に絶縁膜712、絶縁膜713を形成している場合を例示しているが、本発明はゲート電極707上に絶縁膜を1層だけ形成していても良いし、3層以上の複数の絶縁膜を積層するように形成していても良い。
【0082】
次いで、図5(B)に示すように、絶縁膜713にCMP(化学的機械研磨)処理やエッチング処理を行うことにより、絶縁膜713の上面を平坦化する。なお、後に形成されるトランジスタ11の特性を向上させるために、絶縁膜713の表面は可能な限り平坦にしておくことが好ましい。
【0083】
以上の工程により、トランジスタ133を形成することができる。
【0084】
次いで、トランジスタ11の作製方法について説明する。まず、図5(C)に示すように、絶縁膜713上に酸化物半導体層716を形成する。
【0085】
酸化物半導体層716としては、少なくともIn、Ga、Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含有する。例えば、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体や、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、In−Sn−Zn−O系酸化物半導体、In−Al−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Al−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Al−Zn−O系酸化物半導体、Hf−In−Zn−O系酸化物半導体や、二元系金属の酸化物であるIn−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Zn−O系酸化物半導体、Al−Zn−O系酸化物半導体、Zn−Mg−O系酸化物半導体、Sn−Mg−O系酸化物半導体、In−Mg−O系酸化物半導体や、In−Ga−O系酸化物半導体、一元系金属の酸化物であるIn−O系酸化物半導体、Sn−O系酸化物半導体、Zn−O系酸化物半導体などを用いることができる。また、上記酸化物半導体にInとGaとSnとZn以外の元素、例えばSiOを含ませてもよい。
【0086】
例えば、In−Sn−Zn−O系酸化物半導体とは、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)を有する酸化物半導体、という意味であり、その組成比は問わない。また例えば、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体とは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を有する酸化物半導体、という意味であり、その組成比は問わない。In−Ga−Zn−O系酸化物半導体は、IGZOと呼ぶことができる。
【0087】
また、酸化物半導体としてIn−Sn−Zn−O系の材料を用いる場合、原子数比でIn:Sn:Znが、1:2:2、2:1:3、1:1:1、または20:45:35などとなる酸化物ターゲットを用いる。
【0088】
また、酸化物半導体層716は、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される薄膜を用いることができる。ここで、Mは、Zn、Ga、Al、Mn及びCoから選ばれた一または複数の金属元素を示す。例えばMとして、Ga、Ga及びAl、Ga及びMn、またはGa及びCoなどがある。
【0089】
また、酸化物半導体としてIn−Zn−O系の材料を用いる場合、原子数比でIn:Zn=50:1〜1:2(モル数比に換算するとIn:ZnO=25:1〜1:4)、好ましくはIn:Zn=20:1〜1:1(モル数比に換算するとIn:ZnO=10:1〜1:2)、さらに好ましくはIn:Zn=1.5:1〜15:1(モル数比に換算するとIn:ZnO=3:4〜15:2)となる酸化物ターゲットを用いる。例えば、原子数比がIn:Zn:O=X:Y:Zのとき、Z>1.5X+Yとなる酸化物ターゲットを用いる。
【0090】
なお、酸化物半導体層716は、電子供与体(ドナー)となる水分又は水素などの不純物が低減されることが好ましい。具体的には、酸化物半導体層716は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による水素濃度の測定値が、5×1019/cm以下、好ましくは5×1018/cm以下、より好ましくは5×1017/cm以下、更に好ましくは1×1016/cm以下である。
【0091】
ここで、酸化物半導体層716中の、水素濃度の分析について触れておく。酸化物半導体層中の水素濃度測定は、二次イオン質量分析法で行う。SIMS分析は、その原理上、試料表面近傍や、材質が異なる層との積層界面近傍のデータを正確に得ることが困難であることが知られている。そこで、層中における水素濃度の厚さ方向の分布をSIMSで分析する場合、対象となる層が存在する範囲において、値に極端な変動がなく、ほぼ一定の値が得られる領域における平均値を、水素濃度として採用する。また、測定の対象となる層の厚さが小さい場合、隣接する層内の水素濃度の影響を受けて、ほぼ一定の値が得られる領域を見いだせない場合がある。この場合、当該層が存在する領域における、水素濃度の極大値又は極小値を、当該層中の水素濃度として採用する。更に、当該層が存在する領域において、極大値を有する山型のピーク、極小値を有する谷型のピークが存在しない場合、変曲点の値を水素濃度として採用する。
【0092】
酸化物半導体層716は、絶縁膜713上に形成した酸化物半導体膜を所望の形状に加工することで、形成することができる。上記酸化物半導体膜の膜厚は、2nm以上200nm以下、好ましくは3nm以上50nm以下、更に好ましくは3nm以上20nm以下とする。酸化物半導体膜は、酸化物半導体をターゲットとして用い、スパッタリング法により成膜する。また、酸化物半導体膜は、希ガス(例えばアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、又は希ガス(例えばアルゴン)及び酸素混合雰囲気下においてスパッタリング法により形成することができる。
【0093】
スパッタリング法を用いて酸化物半導体層716を作製する場合には、ターゲット中の水素濃度のみならず、チャンバー内に存在する水、水素を極力低減しておくことが重要である。具体的には、当該形成以前にチャンバー内をベークする、チャンバー内に導入されるガス中の水、水素濃度を低減する、及びチャンバーからガスの排気する排気系における逆流を防止するなどを行うことが効果的である。
【0094】
また、酸化物半導体膜をスパッタリング法により成膜する前に、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタリングを行い、絶縁膜713の表面に付着している塵埃を除去してもよい。逆スパッタリングとは、ターゲット側に電圧を印加せずに、アルゴン雰囲気下で基板側にRF電源を用いて電圧を印加して基板近傍にプラズマを形成して表面を改質する方法である。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウムなどを用いてもよい。また、アルゴン雰囲気に酸素、亜酸化窒素などを加えた雰囲気で行ってもよい。また、アルゴン雰囲気に塩素、四フッ化炭素などを加えた雰囲気で行ってもよい。
【0095】
また、酸化物半導体膜に水素、水酸基及び水分がなるべく含まれないようにするために、成膜の前処理として、スパッタリング装置の予備加熱室で絶縁膜712及び絶縁膜713までが形成された基板700を予備加熱し、基板700に吸着した水分又は水素などの不純物を脱離し排気してもよい。なお、予備加熱の温度は、100℃以上400℃以下、好ましくは150℃以上300℃以下である。また、予備加熱室に設ける排気手段はクライオポンプが好ましい。なお、この予備加熱の処理は省略することもできる。また、この予備加熱は、後に行われる絶縁膜717の成膜前に基板700にも同様に行ってもよい。
【0096】
本実施の形態では、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、及びZn(亜鉛)を含むターゲットを用いたスパッタリング法により得られる膜厚30nmのIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体の薄膜を、酸化物半導体膜として用いる。上記ターゲットとして、例えば、各金属の組成比がIn:Ga:Zn=1:1:0.5、In:Ga:Zn=1:1:1、又はIn:Ga:Zn=1:1:2であるターゲットを用いることができる。また、In、Ga、及びZnを含むターゲットの充填率は90%以上100%以下、好ましくは95%以上100%未満である。充填率の高いターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体膜は緻密な膜となる。
【0097】
本実施の形態では、減圧状態に保持された処理室内に基板を保持し、処理室内の残留水分を除去しつつ水素及び水分が除去されたスパッタリングガスを導入し、上記ターゲットを用いて酸化物半導体膜を成膜する。成膜時に、基板温度を100℃以上600℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下としても良い。基板を加熱しながら成膜することにより、成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物濃度を低減することができる。また、スパッタリングによる損傷が軽減される。処理室内の残留水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプを用いることが好ましい。例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また、排気手段としては、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。クライオポンプを用いて処理室を排気すると、例えば、水素原子、水(HO)など水素原子を含む化合物(より好ましくは炭素原子を含む化合物も)等が排気されるため、当該処理室で成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減できる。
【0098】
成膜条件の一例としては、基板とターゲットの間との距離を100mm、圧力0.6Pa、直流(DC)電源0.5kW、酸素(酸素流量比率100%)雰囲気下の条件が適用される。なお、パルス直流(DC)電源を用いると、成膜時に発生する塵埃が軽減でき、膜厚分布も均一となるために好ましい。
【0099】
また、スパッタリング装置の処理室のリークレートを1×10−10Pa・m/秒以下とすることで、スパッタリング法による成膜途中における酸化物半導体膜への、アルカリ金属、水素化物等の不純物の混入を低減することができる。また、排気系として上述した吸着型の真空ポンプを用いることで、排気系からのアルカリ金属、水素原子、水素分子、水、水酸基、または水素化物等の不純物の逆流を低減することができる。
【0100】
また、ターゲットの純度を、99.99%以上とすることで、酸化物半導体膜に混入するアルカリ金属、水素原子、水素分子、水、水酸基、または水素化物等を低減することができる。また、当該ターゲットを用いることで、酸化物半導体膜において、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の濃度を低減することができる。
【0101】
なお、酸化物半導体は不純物に対して鈍感であり、膜中にはかなりの金属不純物が含まれていても問題がなく、ナトリウム(Na)のようなアルカリ金属が多量に含まれる廉価なソーダ石灰ガラスも使えると指摘されている(神谷、野村、細野、「アモルファス酸化物半導体の物性とデバイス開発の現状」、固体物理、2009年9月号、Vol.44、pp.621−633.)。しかし、このような指摘は適切でない。アルカリ金属は酸化物半導体を構成する元素ではないため、不純物である。アルカリ土類金属も、酸化物半導体を構成する元素ではない場合において、不純物となる。特に、アルカリ金属のうちNaは、酸化物半導体層に接する絶縁膜が酸化物である場合、当該絶縁膜中に拡散してNaとなる。また、Naは、酸化物半導体層内において、酸化物半導体を構成する金属と酸素の結合を分断する、或いは、その結合中に割り込む。その結果、例えば、閾値電圧がマイナス方向にシフトすることによるノーマリオン化、移動度の低下等の、トランジスタの特性の劣化が起こり、加えて、特性のばらつきも生じる。この不純物によりもたらされるトランジスタの特性の劣化と、特性のばらつきは、酸化物半導体層中の水素濃度が十分に低い場合において顕著に現れる。従って、酸化物半導体層中の水素濃度が1×1018/cm以下、より好ましくは1×1017/cm以下である場合には、上記不純物の濃度を低減することが望ましい。具体的に、二次イオン質量分析法によるNa濃度の測定値は、5×1016/cm以下、好ましくは1×1016/cm以下、更に好ましくは1×1015/cm以下とするとよい。同様に、Li濃度の測定値は、5×1015/cm以下、好ましくは1×1015/cm以下とするとよい。同様に、K濃度の測定値は、5×1015/cm以下、好ましくは1×1015/cm以下とするとよい。
【0102】
酸化物半導体膜は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)または非晶質などの状態をとる。
【0103】
好ましくは、酸化物半導体膜は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0104】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0105】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0106】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0107】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0108】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動を低減することが可能である。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0109】
なお、酸化物半導体膜を構成する酸素の一部は窒素で置換されてもよい。
【0110】
CAAC−OS膜に含まれる結晶構造の一例について図10乃至図12を用いて詳細に説明する。なお、特に断りがない限り、図10乃至図12は上方向をc軸方向とし、c軸方向と直交する面をab面とする。なお、単に上半分、下半分という場合、ab面を境にした場合の上半分、下半分をいう。また、図10において、丸で囲まれたO原子は4配位のO原子を示し、二重丸で囲まれたO原子は3配位のO原子を示す。
【0111】
図10(A)に、1個の6配位のIn原子と、In原子に近接の6個の4配位の酸素原子(以下4配位のO原子)と、を有する構造を示す。In原子が1個に対して、近接の酸素原子のみ示した構造を、ここではサブユニットと呼ぶ。図10(A)の構造は、八面体構造をとるが、簡単のため平面構造で示している。なお、図10(A)の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のO原子がある。図10(A)に示すサブユニットは電荷が0である。
【0112】
図10(B)に、1個の5配位のGa原子と、Ga原子に近接の3個の3配位の酸素原子(以下3配位のO原子)と、Ga原子に近接の2個の4配位のO原子と、を有する構造を示す。3配位のO原子は、いずれもab面に存在する。図10(B)の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のO原子がある。また、In原子も5配位をとるため、図10(B)に示す構造をとりうる。図10(B)に示すサブユニットは電荷が0である。
【0113】
図10(C)に、1個の4配位のZn原子と、Zn原子に近接の4個の4配位のO原子と、による構造を示す。図10(C)の上半分には1個の4配位のO原子があり、下半分には3個の4配位のO原子がある。または、図10(C)の上半分に3個の4配位のO原子があり、下半分に1個の4配位のO原子があってもよい。図10(C)に示すサブユニットは電荷が0である。
【0114】
図10(D)に、1個の6配位のSn原子と、Sn原子に近接の6個の4配位のO原子と、を有する構造を示す。図10(D)の上半分には3個の4配位のO原子があり、下半分には3個の4配位のO原子がある。図10(D)に示すサブユニットは電荷が+1となる。
【0115】
図10(E)に、2個のZn原子を含むサブユニットを示す。図10(E)の上半分には1個の4配位のO原子があり、下半分には1個の4配位のO原子がある。図10(E)に示すサブユニットは電荷が−1となる。
【0116】
ここでは、サブユニットのいくつかの集合体を1グループと呼び、グループのいくつかの集合体を1ユニットと呼ぶ。
【0117】
ここで、これらのサブユニット同士結合する規則について説明する。図10(A)に示す6配位のIn原子の上半分の3個のO原子は下方向にそれぞれ3個の近接In原子を有し、下半分の3個のO原子は上方向にそれぞれ3個の近接In原子を有する。図10(B)に示す5配位のGa原子の上半分の1個のO原子は下方向に1個の近接Ga原子を有し、下半分の1個のO原子は上方向に1個の近接Ga原子を有する。図10(C)に示す4配位のZn原子の上半分の1個のO原子は下方向に1個の近接Zn原子を有し、下半分の3個のO原子は上方向にそれぞれ3個の近接Zn原子を有する。この様に、金属原子の上方向の4配位のO原子の数と、そのO原子の下方向にある近接金属原子の数は等しく、同様に金属原子の下方向の4配位のO原子の数と、そのO原子の上方向にある近接金属原子の数は等しい。O原子は4配位なので、下方向にある近接金属原子の数と、上方向にある近接金属原子の数の和は4になる。従って、金属原子の上方向にある4配位のO原子の数と、別の金属原子の下方向にある4配位のO原子の数との和が4個のとき、金属原子を有する二種のサブユニット同士は結合することができる。例えば、6配位の金属原子(InまたはSn)が下半分の4配位のO原子を介して結合する場合、4配位のO原子が3個であるため、5配位の金属原子(GaまたはIn)または4配位の金属原子(Zn)のいずれかと結合することになる。
【0118】
これらの配位数を有する金属原子は、c軸方向において、4配位のO原子を介して結合する。また、このほかにも、層構造の合計の電荷が0となるようにサブユニット同士が結合して1グループを構成する。
【0119】
図11(A)に、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成する1グループのモデル図を示す。図11(B)に、3つのグループで構成されるユニットを示す。なお、図11(C)は、図11(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示す。
【0120】
図11(A)においては、簡単のため、3配位のO原子は省略し、4配位のOは個数のみ示し、例えば、Sn原子の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のO原子があることを丸枠の3として示している。同様に、図11(A)において、In原子の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のO原子があり、丸枠の1として示している。また、同様に、図11(A)において、下半分には1個の4配位のO原子があり、上半分には3個の4配位のO原子があるZn原子と、上半分には1個の4配位のO原子があり、下半分には3個の4配位のO原子があるZn原子とを示している。
【0121】
図11(A)において、In−Sn−Zn−O系の層構造を構成するグループは、上から順に4配位のO原子が3個ずつ上半分および下半分にあるSn原子が、4配位のO原子が1個ずつ上半分および下半分にあるIn原子と結合し、そのIn原子が、上半分に3個の4配位のO原子があるZn原子と結合し、そのZn原子の下半分の1個の4配位のO原子を介して4配位のO原子が3個ずつ上半分および下半分にあるIn原子と結合し、そのIn原子が、上半分に1個の4配位のO原子があるZn原子2個からなるサブユニットと結合し、このサブユニットの下半分の1個の4配位のO原子を介して4配位のO原子が3個ずつ上半分および下半分にあるSn原子と結合している構成である。グループのいくつかを結合して1ユニットを構成する。
【0122】
ここで、3配位のO原子および4配位のO原子の場合、結合1本当たりの電荷はそれぞれ−0.667、−0.5と考えることができる。例えば、In(6配位または5配位)原子、Zn(4配位)原子、Sn(5配位または6配位)原子の電荷は、それぞれ+3、+2、+4である。従って、Sn原子を含むサブユニットは電荷が+1となる。そのため、Sn原子を含む層構造を形成するためには、電荷+1を打ち消す電荷−1が必要となる。電荷−1をとる構造として、図10(E)に示すように、2個のZn原子を含むサブユニットが挙げられる。例えば、Sn原子を含むサブユニットが1個に対し、2個のZn原子を含むサブユニットが1個あれば、電荷が打ち消されるため、層構造の合計の電荷を0とすることができる。
【0123】
また、In原子は5配位および6配位のいずれもとることができるものとする。具体的には、図11(B)に示したユニットとすることで、In−Sn−Zn−O系の結晶(InSnZn)を得ることができる。なお、得られるIn−Sn−Zn−O系の層構造は、InSnZn(ZnO)(mは0または自然数。)とする組成式で表すことができる。
【0124】
また、このほかにも、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系酸化物や、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn−O系酸化物(IGZOとも表記する。)、In−Al−Zn−O系酸化物、Sn−Ga−Zn−O系酸化物、Al−Ga−Zn−O系酸化物、Sn−Al−Zn−O系酸化物や、二元系金属の酸化物であるIn−Zn−O系酸化物、Sn−Zn−O系酸化物、Al−Zn−O系酸化物、Zn−Mg−O系酸化物、Sn−Mg−O系酸化物、In−Mg−O系酸化物や、In−Ga−O系酸化物、一元系金属の酸化物であるIn−O系酸化物、Sn−O系酸化物、Zn−O系酸化物などを用いた場合も同様である。
【0125】
例えば、図12(A)に、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成する1グループのモデル図を示す。
【0126】
図12(A)において、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成するグループは、上から順に4配位のO原子が3個ずつ上半分および下半分にあるIn原子が、4配位のO原子が1個上半分にあるZn原子と結合し、そのZn原子の下半分の3個の4配位のO原子を介して、4配位のO原子が1個ずつ上半分および下半分にあるGa原子と結合し、そのGa原子の下半分の1個の4配位のO原子を介して、4配位のO原子が3個ずつ上半分および下半分にあるIn原子と結合している構成である。グループのいくつかを結合して1ユニットを構成する。
【0127】
図12(B)に3つのグループで構成されるユニットを示す。なお、図12(C)は、図12(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示している。
【0128】
ここで、In(6配位または5配位)原子、Zn(4配位)原子、Ga(5配位)原子の電荷は、それぞれ+3、+2、+3であるため、In原子、Zn原子およびGa原子のいずれかを含むサブユニットは、電荷が0となる。そのため、これらのサブユニットの組み合わせであればグループの合計の電荷は常に0となる。
【0129】
また、In−Ga−Zn−O系の層構造を構成するグループは、図12(A)に示したグループに限定されず、In原子、Ga原子、Zn原子の配列が異なるグループを組み合わせたユニットも取りうる。
【0130】
CAAC−OS膜は、スパッタリング法によって作製することができる。ターゲット材料は上述のとおりの材料を用いることができる。スパッタリング法を用いてCAAC−OS膜を成膜する場合には、雰囲気中の酸素ガス比が高い方が好ましい。例えば、アルゴン及び酸素の混合ガス雰囲気中でスパッタリング法を行う場合には、酸素ガス比を30%以上とすることが好ましく、40%以上とすることがより好ましい。雰囲気中からの酸素の補充によって、CAAC−OS膜の結晶化が促進されるからである。
【0131】
また、スパッタリング法を用いてCAAC−OS膜を成膜する場合には、CAAC−OS膜が成膜される基板を150℃以上に加熱しておくことが好ましく、170℃以上に加熱しておくことがより好ましい。基板温度の上昇に伴って、CAAC−OS膜の結晶化が促進されるからである。
【0132】
また、CAAC−OS膜に対して、窒素雰囲気中又は真空中において熱処理を行った後には、酸素雰囲気中又は酸素と他のガスとの混合雰囲気中において熱処理を行うことが好ましい。先の熱処理で生じる酸素欠損を後の熱処理における雰囲気中からの酸素供給によって復元することができるからである。
【0133】
また、CAAC−OS膜が成膜される膜表面(被成膜面)は平坦であることが好ましい。CAAC−OS膜は、当該被成膜面に概略垂直となるc軸を有するため、当該被成膜面に存在する凹凸は、CAAC−OS膜における結晶粒界の発生を誘発することになるからである。よって、CAAC−OS膜が成膜される前に当該被成膜表面に対して化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)などの平坦化処理を行うことが好ましい。また、当該被成膜面の平均ラフネスは、0.5nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることがより好ましい。
【0134】
なお、スパッタリング等で成膜された酸化物半導体膜中には、不純物としての水分又は水素(水酸基を含む)が含まれていることがある。本発明の一態様では、酸化物半導体膜中の水分又は水素などの不純物を低減(脱水化または脱水素化)するために、減圧雰囲気下、窒素や希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、又は超乾燥エア(CRDS(キャビティリングダウンレーザー分光法)方式の露点計を用いて測定した場合の水分量が20ppm(露点換算で−55℃)以下、好ましくは1ppm以下、好ましくは10ppb以下の空気)雰囲気下で、酸化物半導体膜に加熱処理を施す。
【0135】
酸化物半導体膜に加熱処理を施すことで、酸化物半導体膜中の水分又は水素を脱離させることができる。具体的には、250℃以上750℃以下、好ましくは400℃以上基板の歪み点未満の温度で加熱処理を行えば良い。例えば、500℃、3分間以上6分間以下で行えばよい。加熱処理にRTA法を用いれば、短時間に脱水化又は脱水素化が行えるため、ガラス基板の歪点を超える温度でも処理することができる。
【0136】
本実施の形態では、加熱処理装置の一つである電気炉を用いる。
【0137】
なお、加熱処理装置は電気炉に限られず、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導又は熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を備えていてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Annealing)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Annealing)装置等のRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。気体には、アルゴンなどの希ガス、又は窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0138】
加熱処理においては、窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスに、水分又は水素などが含まれないことが好ましい。又は、加熱処理装置に導入する窒素、又はヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0139】
以上の工程により、酸化物半導体膜中の水素の濃度を低減することができる。
【0140】
こうして酸化物半導体膜中の水分又は水素を脱離させた後、酸化物半導体膜(または、これを用いて形成した酸化物半導体層)に酸素を添加(供給)する。こうして、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)中やその界面等における酸素欠陥を低減し、酸化物半導体層をi型化又はi型に限りなく近くすることができる。
【0141】
酸素の添加は、例えば、酸化物半導体膜(または、これを用いて形成した酸化物半導体層)に接して化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜を形成し、その後加熱することによって行うことができる。こうして、絶縁膜中の過剰な酸素を酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に供給することができる。こうして、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)を酸素を過剰に含む状態とすることができる。過剰に含まれる酸素は、例えば、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)を構成する結晶の格子間に存在する。
【0142】
なお、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜は、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に接する絶縁膜のうち、上層に位置する絶縁膜又は下層に位置する絶縁膜のうち、どちらか一方のみに用いても良いが、両方の絶縁膜に用いる方が好ましい。化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜を、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に接する絶縁膜の、上層及び下層に位置する絶縁膜に用い、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)を挟む構成とすることで、上記効果をより高めることができる。
【0143】
ここで、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜は、単層の絶縁膜であっても良いし、積層された複数の絶縁膜で構成されていても良い。なお、当該絶縁膜は、水分や、水素などの不純物を極力含まないことが望ましい。絶縁膜に水素が含まれると、その水素が酸化物半導体膜(酸化物半導体層)へ侵入し、又は水素が酸化物半導体膜(酸化物半導体層)中の酸素を引き抜き、酸化物半導体膜が低抵抗化(n型化)してしまい、寄生チャネルが形成されるおそれがある。よって、絶縁膜はできるだけ水素を含まない膜になるように、成膜方法に水素を用いないことが重要である。また、絶縁膜には、バリア性の高い材料を用いるのが望ましい。例えば、バリア性の高い絶縁膜として、窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、窒化アルミニウム膜、酸化アルミニウム膜、又は窒化酸化アルミニウム膜などを用いることができる。複数の積層された絶縁膜を用いる場合、窒素の含有比率が低い酸化珪素膜、酸化窒化珪素膜などの絶縁膜を、上記バリア性の高い絶縁膜よりも、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に近い側に形成する。そして、窒素の含有比率が低い絶縁膜を間に挟んで、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)と重なるように、バリア性の高い絶縁膜を形成する。バリア性の高い絶縁膜を用いることで、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)内や他の絶縁膜の界面とその近傍に、水分又は水素などの不純物が入り込むのを防ぐことができる。また、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に接するように窒素の比率が低い酸化珪素膜、酸化窒化珪素膜などの絶縁膜を形成することで、バリア性の高い材料を用いた絶縁膜が直接酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に接するのを防ぐことができる。
【0144】
また、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)中の水分又は水素を脱離させた後の酸素添加は、酸素雰囲気下で酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に加熱処理を施すことによっておこなってもよい。上記酸素雰囲気下の加熱処理に用いられる酸素ガスには、水、水素などが含まれないことが好ましい。又は、加熱処理装置に導入する酸素ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち酸素中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0145】
或いは、酸化物半導体膜(酸化物半導体層)中の水分又は水素を脱離させた後の酸素添加は、イオン注入法又はイオンドーピング法などを用い行ってもよい。例えば、2.45GHzのマイクロ波でプラズマ化した酸素を酸化物半導体膜(酸化物半導体層)に添加すれば良い。
【0146】
上述のように形成した酸化物半導体膜をエッチングして酸化物半導体層716を形成する。または、上述のように形成した酸化物半導体層によって酸化物半導体層716を形成する。
【0147】
次いで、図5(D)に示すように、酸化物半導体層716上に絶縁膜717を形成する。なお、上述した化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜として絶縁膜717を用いてもよい。そして、絶縁膜717上において、酸化物半導体層716と重なる位置にゲート電極722を形成する。そして、ゲート電極722上に絶縁膜721を形成する。
【0148】
また、ゲート電極722は、絶縁膜717上に導電膜を形成した後、該導電膜をエッチング加工することで形成することができる。ゲート電極722は、ゲート電極707と同様の材料を用いて形成することが可能である。
【0149】
ゲート電極722の膜厚は、10nm〜400nm、好ましくは100nm〜200nmとする。本実施の形態では、タングステンターゲットを用いたスパッタリング法により150nmのゲート電極用の導電膜を形成した後、該導電膜をエッチングにより所望の形状に加工することで、ゲート電極722を形成する。なお、レジストマスクをインクジェット法で形成してもよい。レジストマスクをインクジェット法で形成するとフォトマスクを使用しないため、製造コストを低減できる。
【0150】
次いで、異方性の高いエッチング方法により基板700の表面に垂直な方向のエッチング処理を行うことによって、図6(A)に示すように、ゲート電極722の側面に設けられサイドウォールとして機能する絶縁物721a及び絶縁物721bと、ゲート電極722、絶縁物721a及び絶縁物721bと重なる部分に残存しゲート絶縁膜として機能する絶縁層718と、が形成される。
【0151】
そして、図6(B)に示すように、ゲート電極722、絶縁物721a及び絶縁物721bをマスクとして酸化物半導体層716にn型の導電性を付与するドーパントを添加し、一対の高濃度領域908と、その間の領域909とを形成する。なお、領域909のうち、絶縁層718を間に挟んでゲート電極722と重なる領域がチャネル形成領域となる。高濃度領域908を形成するためのドーパントの添加は、イオン注入法を用いることができる。ドーパントは、例えばヘリウム、アルゴン、キセノンなどの希ガスや、窒素、リン、ヒ素、アンチモンなどの15族原子などを用いることができる。例えば、窒素をドーパントとして用いた場合、高濃度領域908中の窒素原子の濃度は、5×1019/cm以上1×1022/cm以下であることが望ましい。n型の導電性を付与するドーパントが添加されている高濃度領域908は、酸化物半導体層716中の他の領域に比べて導電性が高くなる。
【0152】
なお、図6(B)では、絶縁物721a及び絶縁物721bと重なる部分の酸化物半導体層716には導電性を付与するドーパントが添加されない構成を示したがこれに限定されない。図5(D)において、ゲート電極722を形成した後、導電性を付与するドーパントを添加することによって、絶縁物721a及び絶縁物721bと重なる部分の酸化物半導体層716に不純物領域を形成してもよい。また、図5(D)において、ゲート電極722を形成した後、導電性を付与するドーパントを添加(第1の添加)し、更に、図6(B)において、絶縁物721a及び絶縁物721bを形成した後、導電性を付与するドーパントを添加(第2の添加)することによって、絶縁物721a及び絶縁物721bと重なる部分に低濃度領域を形成してもよい。当該低濃度領域は、高濃度領域908よりも導電性を付与する不純物元素の濃度が低い。
【0153】
そして、図6(C)に示すように、高濃度領域908と接する導電層719及び導電層720を形成する。導電層719及び導電層720は、ソース電極又はドレイン電極として機能する。
【0154】
具体的に、導電層719及び導電層720は、スパッタリング法や真空蒸着法で導電膜を形成した後、該導電膜を所定の形状に加工することで、形成することができる。
【0155】
導電層719及び導電層720となる導電膜は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素、又は上述した元素を成分とする合金か、上述した元素を組み合わせた合金膜等が挙げられる。また、アルミニウム、銅などの金属膜の下側もしくは上側にクロム、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンなどの高融点金属膜を積層させた構成としても良い。また、アルミニウム又は銅は、耐熱性や腐食性の問題を回避するために、高融点金属材料と組み合わせて用いると良い。高融点金属材料としては、モリブデン、チタン、クロム、タンタル、タングステン、ネオジム、スカンジウム、イットリウム等を用いることができる。
【0156】
また、導電層719及び導電層720となる導電膜は、単層構造でも、2層以上の積層構造としてもよい。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、アルミニウム膜上にチタン膜を積層する2層構造、チタン膜と、そのチタン膜上に重ねてアルミニウム膜を積層し、更にその上にチタン膜を成膜する3層構造などが挙げられる。また、Cu−Mg−Al合金、Mo−Ti合金、Ti、Mo、は、酸化膜との密着性が高い。よって、下層にCu−Mg−Al合金、Mo−Ti合金、Ti、或いはMoで構成される導電膜、上層にCuで構成される導電膜を積層し、上記積層された導電膜を導電層719及び導電層720に用いることで、絶縁膜713、絶縁物721a、及び絶縁物721bと、導電層719及び導電層720との密着性を高めることができる。
【0157】
また、導電層719及び導電層720となる導電膜としては、導電性の金属酸化物で形成しても良い。導電性の金属酸化物としては酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム酸化スズ、酸化インジウム酸化亜鉛又は前記金属酸化物材料にシリコン若しくは酸化シリコンを含ませたものを用いることができる。
【0158】
導電膜形成後に加熱処理を行う場合には、この加熱処理に耐える耐熱性を導電膜に持たせることが好ましい。
【0159】
本実施の形態では、導電膜にチタン膜を用いる。そのため、アンモニアと過酸化水素水を含む溶液(アンモニア過水)を用いて、選択的に導電膜をウェットエッチングすることができる。具体的には、31重量%の過酸化水素水と、28重量%のアンモニア水と水とを、体積比5:2:2で混合したアンモニア過水を用いる。或いは、塩素(Cl)、塩化硼素(BCl)などを含むガスを用いて、導電膜をドライエッチングしても良い。
【0160】
なお、フォトリソグラフィ工程で用いるフォトマスク数及び工程数を削減するため、透過した光に多段階の強度をもたせる多階調マスクによって形成されたレジストマスクを用いてエッチング工程を行ってもよい。多階調マスクを用いて形成したレジストマスクは複数の膜厚を有する形状となり、エッチングを行うことで更に形状を変形することができるため、異なるパターンに加工する複数のエッチング工程に用いることができる。よって、一枚の多階調マスクによって、少なくとも二種類以上の異なるパターンに対応するレジストマスクを形成することができる。よって露光マスク数を削減することができ、対応するフォトリソグラフィ工程も削減できるため、工程の簡略化が可能となる。
【0161】
こうしてトランジスタ11が形成される。トランジスタ11では、高濃度領域908を設けることで、ソース電極とドレイン電極(導電層719と導電層720)の間の抵抗を下げることができる。
【0162】
そして、ソース電極とドレイン電極(導電層719と導電層720)の間の抵抗を下げることで、トランジスタ11の微細化を進めても、高いオン電流と、高速動作を確保することができる。また、トランジスタ11の微細化により、コンパレータ1000を小型化することができる。
【0163】
また、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を酸化物半導体層716に用いた場合、窒素を添加した後、300℃以上600℃以下で1時間程度加熱処理を施すことにより、高濃度領域908中の酸化物半導体はウルツ鉱型の結晶構造を有するようになる。高濃度領域908中の酸化物半導体がウルツ鉱型の結晶構造を有することで、さらに高濃度領域908の導電性を高め、ソース電極とドレイン電極(導電層719と導電層720)の間の抵抗を下げることができる。なお、ウルツ鉱型の結晶構造を有する酸化物半導体を形成して、ソース電極とドレイン電極(導電層719と導電層720)の間の抵抗を効果的に下げるためには、窒素をドーパントとして用いた場合、高濃度領域908中の窒素原子の濃度を、1×1020/cm以上7atoms%以下とすることが望ましい。しかし、窒素原子が上記範囲よりも低い濃度であっても、ウルツ鉱型の結晶構造を有する酸化物半導体が得られる場合もある。
【0164】
また、高濃度領域908と、ソース電極又はドレイン電極として機能する導電層719及び導電層720との間に、ソース領域及びドレイン領域として機能する酸化物導電膜を設けるようにしても良い。酸化物導電膜の材料としては、酸化亜鉛を成分として含むものが好ましく、酸化インジウムを含まないものであることが好ましい。そのような酸化物導電膜として、酸化亜鉛、酸化亜鉛アルミニウム、酸窒化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウムなどを適用することができる。
【0165】
例えば、酸化物導電膜を形成する場合、酸化物導電膜を形成するためのエッチング加工と、導電層719及び導電層720を形成するためのエッチング加工とを一括で行うようにしても良い。
【0166】
ソース領域及びドレイン領域として機能する酸化物導電膜を設けることで、高濃度領域908と導電層719及び導電層720の間の抵抗を下げることができるので、トランジスタの高速動作を実現させることができる。また、ソース領域及びドレイン領域として機能する酸化物導電膜を設けることで、トランジスタの耐圧を高めることができる。
【0167】
トランジスタ11は、ソース電極及びドレイン電極(導電層719及び導電層720)と、ゲート電極722とが重なっていない。すなわち、ソース電極及びドレイン電極(導電層719及び導電層720)とゲート電極722との間には、絶縁層718の膜厚よりも大きい間隔が設けられている。よって、トランジスタ11は、ソース電極及びドレイン電極とゲート電極との間に形成される寄生容量を小さく抑えることができるので、高速動作を実現することができる。
【0168】
なお、トランジスタ11として、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタに限定されず、シリコンよりもバンドギャップが広く、真性キャリア密度がシリコンよりも低い半導体材料を、チャネル形成領域に含むトランジスタを用いることもできる。このような半導体材料としては、酸化物半導体の他に、例えば、炭化シリコン、窒化ガリウムなどが挙げられる。このような半導体材料をチャネル形成領域に含むことで、オフ電流が極めて低いトランジスタを実現することができる。
【0169】
また、トランジスタ11はシングルゲート構造のトランジスタを用いて説明したが、必要に応じて、電気的に接続された複数のゲート電極を有することで、チャネル形成領域を複数有する、マルチゲート構造のトランジスタも形成することができる。
【0170】
なお、酸化物半導体層716に接する絶縁膜(本実施の形態においては、絶縁層718が該当する。)は、第13族元素及び酸素を含む絶縁材料を用いるようにしても良い。酸化物半導体材料には第13族元素を含むものが多く、第13族元素を含む絶縁材料は酸化物半導体との相性が良く、これを酸化物半導体層に接する絶縁膜に用いることで、酸化物半導体層との界面の状態を良好に保つことができる。
【0171】
第13族元素を含む絶縁材料とは、絶縁材料に一又は複数の第13族元素を含むことを意味する。第13族元素を含む絶縁材料としては、例えば、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、酸化アルミニウムガリウム、酸化ガリウムアルミニウムなどがある。ここで、酸化アルミニウムガリウムとは、ガリウムの含有量(原子%)よりアルミニウムの含有量(原子%)が多いものを示し、酸化ガリウムアルミニウムとは、ガリウムの含有量(原子%)がアルミニウムの含有量(原子%)以上のものを示す。
【0172】
例えば、ガリウムを含有する酸化物半導体層に接して絶縁膜を形成する場合に、絶縁膜に酸化ガリウムを含む材料を用いることで酸化物半導体層と絶縁膜の界面特性を良好に保つことができる。例えば、酸化物半導体層と酸化ガリウムを含む絶縁膜とを接して設けることにより、酸化物半導体層と絶縁膜の界面における水素のパイルアップを低減することができる。なお、絶縁膜に酸化物半導体の成分元素と同じ族の元素を用いる場合には、同様の効果を得ることが可能である。例えば、酸化アルミニウムを含む材料を用いて絶縁膜を形成することも有効である。なお、酸化アルミニウムは、水を透過させにくいという特性を有しているため、当該材料を用いることは、酸化物半導体層への水の侵入防止という点においても好ましい。
【0173】
また、酸化物半導体層716に接する絶縁膜は、酸素雰囲気下による熱処理や、酸素ドープなどにより、絶縁材料を化学量論的組成比より酸素が多い状態とすることが好ましい。酸素ドープとは、酸素をバルクに添加することをいう。なお、当該バルクの用語は、酸素を薄膜表面のみでなく薄膜内部に添加することを明確にする趣旨で用いている。また、酸素ドープには、プラズマ化した酸素をバルクに添加する酸素プラズマドープが含まれる。また、酸素ドープは、イオン注入法又はイオンドーピング法を用いて行ってもよい。
【0174】
例えば、酸化物半導体層716に接する絶縁膜として酸化ガリウムを用いた場合、酸素雰囲気下による熱処理や、酸素ドープを行うことにより、酸化ガリウムの組成をGa(X=3+α、0<α<1)とすることができる。
【0175】
また、酸化物半導体層716に接する絶縁膜として酸化アルミニウムを用いた場合、酸素雰囲気下による熱処理や、酸素ドープを行うことにより、酸化アルミニウムの組成をAl(X=3+α、0<α<1)とすることができる。
【0176】
また、酸化物半導体層716に接する絶縁膜として酸化ガリウムアルミニウム(酸化アルミニウムガリウム)を用いた場合、酸素雰囲気下による熱処理や、酸素ドープを行うことにより、酸化ガリウムアルミニウム(酸化アルミニウムガリウム)の組成をGaAl2−X3+α(0<X<2、0<α<1)とすることができる。
【0177】
酸素ドープ処理を行うことにより、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜を形成することができる。このような領域を備える絶縁膜と酸化物半導体層が接することにより、絶縁膜中の過剰な酸素が酸化物半導体層に供給され、酸化物半導体層中、又は酸化物半導体層と絶縁膜の界面における酸素欠陥を低減し、酸化物半導体層をi型化又はi型に限りなく近くすることができる。
【0178】
なお、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜は、酸化物半導体層716に接する絶縁膜のうち、上層に位置する絶縁膜又は下層に位置する絶縁膜のうち、どちらか一方のみに用いても良いが、両方の絶縁膜に用いる方が好ましい。化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜を、酸化物半導体層716に接する絶縁膜の、上層及び下層に位置する絶縁膜に用い、酸化物半導体層716を挟む構成とすることで、上記効果をより高めることができる。
【0179】
また、酸化物半導体層716の上層又は下層に用いる絶縁膜は、上層と下層で同じ構成元素を有する絶縁膜としても良いし、異なる構成元素を有する絶縁膜としても良い。例えば、上層と下層とも、組成がGa(X=3+α、0<α<1)の酸化ガリウムとしても良いし、上層と下層の一方を組成がGa(X=3+α、0<α<1)の酸化ガリウムとし、他方を組成がAl(X=3+α、0<α<1)の酸化アルミニウムとしても良い。
【0180】
また、酸化物半導体層716に接する絶縁膜は、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜の積層としても良い。例えば、酸化物半導体層716の上層に組成がGa(X=3+α、0<α<1)の酸化ガリウムを形成し、その上に組成がGaAl2−X3+α(0<X<2、0<α<1)の酸化ガリウムアルミニウム(酸化アルミニウムガリウム)を形成してもよい。なお、酸化物半導体層716の下層を、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜の積層としても良いし、酸化物半導体層716の上層及び下層の両方を、化学量論的組成比より酸素が多い領域を有する絶縁膜の積層としても良い。
【0181】
次に、図6(D)に示すように、絶縁膜724を形成する。絶縁膜724は、PVD法やCVD法などを用いて形成することができる。また、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化ハフニウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウム等の無機絶縁材料を含む材料を用いて形成することができる。なお、絶縁膜724には、誘電率の低い材料や、誘電率の低い構造(多孔性の構造など)を用いることが望ましい。絶縁膜724の誘電率を低くすることにより、配線や電極などの間に生じる寄生容量を低減し、動作の高速化を図ることができるためである。なお、本実施の形態では、絶縁膜724を単層構造としているが、本発明の一態様はこれに限定されず、2層以上の積層構造としても良い。
【0182】
次に、絶縁膜724に開口部を形成し、導電層720の一部を露出させる。その後、絶縁膜724上に、上記開口部において導電層720と接する配線726を形成する。
【0183】
配線726は、PVD法や、CVD法を用いて導電膜を形成した後、当該導電膜をエッチング加工することによって形成される。また、導電膜の材料としては、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素や、上述した元素を成分とする合金等を用いることができる。マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、ベリリウム、ネオジム、スカンジウムのいずれか、又はこれらを複数組み合わせた材料を用いてもよい。
【0184】
より具体的には、例えば、絶縁膜724の開口を含む領域にPVD法によりチタン膜を薄く形成し、PVD法によりチタン膜を薄く(5nm程度)形成した後に、開口部に埋め込むようにアルミニウム膜を形成する方法を適用することができる。ここで、PVD法により形成されるチタン膜は、被形成面の酸化膜(自然酸化膜など)を還元し、下部電極など(ここでは導電層720)との接触抵抗を低減させる機能を有する。また、アルミニウム膜のヒロックを防止することができる。また、チタンや窒化チタンなどによるバリア膜を形成した後に、メッキ法により銅膜を形成してもよい。
【0185】
次に、配線726を覆うように絶縁膜727を形成する。更に絶縁膜727上に導電膜を形成し、当該導電膜をエッチング加工することによって導電層7301を形成する。その後、導電層7301を覆うように絶縁膜7302を形成し、絶縁膜7302上に導電膜7303を形成する。こうして容量素子1622を形成することができる。容量素子1622の一対の電極のうちの一方が導電層7301に対応し、一対の電極のうちの他方が導電膜7303に対応し、誘電体層が絶縁膜7302に対応する。ここで、絶縁膜727、導電層7301、絶縁膜7302、導電膜7303の材料は、その他絶縁膜や導電層と同様の材料を用いることができる。
【0186】
上述した一連の工程により、コンパレータ1000を作製することができる。
【0187】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0188】
(実施の形態5)
本実施の形態では、酸化物半導体層にチャネルが形成されるトランジスタの電界効果移動度について説明する。
【0189】
酸化物半導体に限らず、実際に測定される絶縁ゲート型トランジスタの電界効果移動度は、さまざまな理由によって本来の移動度よりも低くなる。移動度を低下させる要因としては半導体内部の欠陥や半導体と絶縁膜との界面の欠陥があるが、Levinsonモデルを用いると、半導体内部に欠陥がないと仮定した場合の電界効果移動度を理論的に導き出せる。
【0190】
半導体本来の移動度をμ、測定される電界効果移動度をμとし、半導体中に何らかのポテンシャル障壁(粒界等)が存在すると仮定すると、下記式で表現できる。
【0191】
【数1】

【0192】
ここで、Eはポテンシャル障壁の高さであり、kがボルツマン定数、Tは絶対温度である。また、ポテンシャル障壁が欠陥に由来すると仮定すると、Levinsonモデルでは、下記式で表される。
【0193】
【数2】

【0194】
ここで、eは電気素量、Nはチャネル内の単位面積当たりの平均欠陥密度、εは半導体の誘電率、nはチャネルのキャリア面密度、Coxは単位面積当たりの容量、Vはゲート電圧、tはチャネルの厚さである。なお、厚さ30nm以下の半導体層であれば、チャネルの厚さは半導体層の厚さと同一として差し支えない。
【0195】
線形領域におけるドレイン電流Iは、下記式で表される。
【0196】
【数3】

【0197】
ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅であり、ここでは、L=W=10μmである。また、Vはドレイン電圧である。上式の両辺をVgで割り、更に両辺の対数を取ると、下記式となる。
【0198】
【数4】

【0199】
この右辺はVの関数である。この式からわかるように、縦軸をln(Id/Vg)、横軸を1/Vgとする直線の傾きから欠陥密度Nが求められる。すなわち、トランジスタのI―V特性から、欠陥密度を評価できる。
【0200】
欠陥密度は酸化物半導体の成膜時の基板温度に依存する。図13は基板加熱温度と欠陥密度の関係を示す。酸化物半導体としては、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の比率が、In:Ga:Zn=1:1:1のものを用いた。基板加熱温度が高いものは室温で成膜したものよりも欠陥密度が低下することが示される。
【0201】
このようにして求めた欠陥密度等をもとに、上記(数1)および上記(数2)よりμ=80cm/Vsが導出される。欠陥の多い酸化物半導体(N=1.5×1012/cm程度)では、移動度は10cm/Vs程度である。しかし、半導体内部および半導体と絶縁膜との界面の欠陥が無い理想的な酸化物半導体の移動度は80cm/Vsとなる。
【0202】
ただし、半導体内部に欠陥がなくても、チャネルとゲート絶縁物との界面での散乱によってトランジスタの輸送特性は影響を受ける。すなわち、ゲート絶縁物界面からxだけ離れた場所における移動度μは、下記式で表される。
【0203】
【数5】

【0204】
ここで、Dはゲート方向の電界、B、lは定数である。Bおよびlは、実際の測定結果より求めることができ、上記の測定結果からは、B=2.38×10cm/s、l=10nm(界面散乱が及ぶ深さ)である。Dが増加する(すなわち、ゲート電圧が高くなる)と上記(数5)の第2項が増加するため、移動度μは低下することがわかる。
【0205】
半導体内部の欠陥が無い理想的な酸化物半導体をチャネルに用いたトランジスタの移動度μを計算した結果を図14に示す。なお、計算にはシノプシス社製デバイスシミュレーションソフト、Sentaurus Deviceを使用し、酸化物半導体のバンドギャップ、電子親和力、比誘電率、厚さをそれぞれ、3.15電子ボルト、4.6電子ボルト、15、30nmとした。さらに、ゲート、ソース、ドレインの仕事関数をそれぞれ、5.5電子ボルト、4.6電子ボルト、4.6電子ボルトとした。また、ゲート絶縁物の厚さは30nm、比誘電率は4.1とした。チャネル長およびチャネル幅はともに10μm、ドレイン電圧Vは0.1Vである。
【0206】
図14で示されるように、ゲート電圧1V強で移動度50cm/Vs以上のピークをつけるが、ゲート電圧がさらに高くなると、界面散乱が大きくなり、移動度が低下する。
【0207】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0208】
本発明の一態様に係るチョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置を利用することで、装置を小型化し、信頼性の高い電子機器を提供することが可能である。
【0209】
本発明の一態様に係る半導体装置は、表示装置、パーソナルコンピュータ、記録媒体を備えた画像再生装置(代表的にはDVD:Digital Versatile Disc等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうるディスプレイを有する装置)に用いることができる。その他に、本発明の一態様に係るチョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置を用いることができる電子機器として、携帯電話、携帯型を含むゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラなどのカメラ、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、デジタルオーディオプレイヤー等)、複写機、ファクシミリ、プリンター、プリンター複合機、現金自動預け入れ払い機(ATM)、自動販売機などが挙げられる。
【0210】
本発明の一態様に係るチョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置を、携帯電話、スマートフォン、電子書籍などの携帯用の電子機器に応用した場合について説明する。
【0211】
図7は、携帯用の電子機器のブロック図である。図7に示す携帯用の電子機器はRF回路421、アナログベースバンド回路422、デジタルベースバンド回路423、バッテリー424、電源回路425、アプリケーションプロセッサ426、フラッシュメモリ430、ディスプレイコントローラ431、メモリ回路432、ディスプレイ433、タッチセンサ439、音声回路437、キーボード438などより構成されている。ディスプレイ433は表示部434、ソースドライバ435、ゲートドライバ436によって構成されている。アプリケーションプロセッサ426はCPU427、DSP428、インターフェース429を有している。例えば、RF回路421、アナログベースバンド回路422、デジタルベースバンド回路423、電源回路425、アプリケーションプロセッサ426、フラッシュメモリ430、ディスプレイコントローラ431、メモリ回路432、ディスプレイ433、タッチセンサ439、音声回路437、のいずれかまたは全てに上記実施の形態で示したチョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置を採用することによって、電子機器を小型化し、信頼性を高めることができる。
【0212】
図8は電子書籍のブロック図である。電子書籍はバッテリー451、電源回路452、マイクロプロセッサ453、フラッシュメモリ454、音声回路455、キーボード456、メモリ回路457、タッチパネル458、ディスプレイ459、ディスプレイコントローラ460によって構成される。マイクロプロセッサ453はCPU461、DSP462、インターフェース463を有している。例えば、電源回路452、CPU461、DSP462、インターフェース463、フラッシュメモリ454、音声回路455、メモリ回路457、タッチパネル458、ディスプレイ459、ディスプレイコントローラ460のいずれかまたは全てに上記実施の形態で示したチョッパ型のコンパレータを用いた半導体装置を採用することで、電子書籍を小型化し、信頼性を高めることができる。
【0213】
本実施例は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0214】
11 トランジスタ
11a トランジスタ
11b トランジスタ
11c トランジスタ
11d トランジスタ
133 トランジスタ
421 RF回路
422 アナログベースバンド回路
423 デジタルベースバンド回路
424 バッテリー
425 電源回路
426 アプリケーションプロセッサ
427 CPU
428 DSP
429 インターフェース
430 フラッシュメモリ
431 ディスプレイコントローラ
432 メモリ回路
433 ディスプレイ
434 表示部
435 ソースドライバ
436 ゲートドライバ
437 音声回路
438 キーボード
439 タッチセンサ
451 バッテリー
452 電源回路
453 マイクロプロセッサ
454 フラッシュメモリ
455 音声回路
456 キーボード
457 メモリ回路
458 タッチパネル
459 ディスプレイ
460 ディスプレイコントローラ
461 CPU
462 DSP
463 インターフェース
700 基板
701 絶縁膜
702 半導体膜
703 絶縁膜
704 半導体層
707 ゲート電極
709 不純物領域
710 チャネル形成領域
712 絶縁膜
713 絶縁膜
716 酸化物半導体層
717 絶縁膜
718 絶縁層
719 導電層
720 導電層
721 絶縁膜
722 ゲート電極
724 絶縁膜
726 配線
727 絶縁膜
908 高濃度領域
909 領域
1000 コンパレータ
1621 インバータ
1622 容量素子
1624 スイッチ
1625 スイッチ
1626 スイッチ
2621 インバータ
2622 容量素子
2624 スイッチ
2625 スイッチ
2626 スイッチ
721a 絶縁物
721b 絶縁物
724b 絶縁膜
726b 配線
727b 絶縁膜
7301 導電層
7302 絶縁膜
7303 導電膜
720ac 導電層
720bd 導電層
908ac 高濃度領域
908bd 高濃度領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記インバータの入力端子と出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記インバータの入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記インバータの出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタを用いて構成されることを特徴とするコンパレータ。
【請求項2】
クロックドインバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記クロックドインバータは、クロック信号に同期して、入力端子に入力された信号を反転させて出力端子から出力し、
前記クロックドインバータの前記入力端子と前記出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記クロックドインバータの前記入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記クロックドインバータの前記出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタを用いて構成されることを特徴とするコンパレータ。
【請求項3】
インバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記インバータの入力端子と出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記インバータの入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記インバータの出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、互いに並列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、前記複数のトランジスタそれぞれは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであることを特徴とするコンパレータ。
【請求項4】
インバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記インバータの入力端子と出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記インバータの入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記インバータの出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、互いに直列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、前記複数のトランジスタそれぞれは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであることを特徴とするコンパレータ。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、
前記複数のトランジスタは、互いに重なる様に配置されることを特徴とするコンパレータ。
【請求項6】
クロックドインバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記クロックドインバータは、クロック信号に同期して、入力端子に入力された信号を反転させて出力端子から出力し、
前記クロックドインバータの前記入力端子と前記出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記クロックドインバータの前記入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記クロックドインバータの前記出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、互いに並列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、前記複数のトランジスタそれぞれは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであることを特徴とするコンパレータ。
【請求項7】
クロックドインバータと、容量素子と、第1のスイッチと、第2のスイッチと、第3のスイッチとを有し、
前記クロックドインバータは、クロック信号に同期して、入力端子に入力された信号を反転させて出力端子から出力し、
前記クロックドインバータの前記入力端子と前記出力端子とは、前記第1のスイッチを介して電気的に接続され、
前記クロックドインバータの前記入力端子は、前記容量素子の一対の電極のうちの一方と電気的に接続され、
前記容量素子の一対の電極のうちの他方は、前記第2のスイッチを介して参照電位が与えられ、
入力された信号電位は前記第3のスイッチを介して前記容量素子の一対の電極のうちの他方に与えられ、
前記クロックドインバータの前記出力端子から出力される電位を出力信号とし、
前記第1のスイッチは、互いに直列に電気的に接続された複数のトランジスタを用いて構成され、前記複数のトランジスタそれぞれは、チャネルが酸化物半導体層に形成されるトランジスタであることを特徴とするコンパレータ。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記複数のトランジスタは、互いに重なる様に配置されることを特徴とするコンパレータ。
【請求項9】
請求項1、請求項3、請求項4、及び請求項5のいずれか一において、
前記インバータ、前記第2のスイッチ、及び前記第3のスイッチのうち少なくとも1つは、チャネルがシリコン層またはシリコン基板に形成されるトランジスタを用いて構成され、当該トランジスタは、前記第1のスイッチを構成するトランジスタと重なる様に設けられていることを特徴とするコンパレータ。
【請求項10】
請求項2、請求項6、請求項7、及び請求項8のいずれか一において、
前記クロックドインバータ、前記第2のスイッチ、及び前記第3のスイッチのうち少なくとも1つは、チャネルがシリコン層またはシリコン基板に形成されるトランジスタを用いて構成され、当該トランジスタは、前記第1のスイッチを構成するトランジスタと重なる様に設けられていることを特徴とするコンパレータ。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一において、
前記コンパレータを用いたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−239161(P2012−239161A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97364(P2012−97364)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】