説明

車両の駆動力制御装置

【課題】エンジン2やモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機3で変速して車輪6(FL,FR,RL,RR)に駆動力として伝達する車両1の駆動力制御装置(20)において、車輪6がジャンプしてから着地するときに駆動系にかかる負荷を軽減可能とする。
【解決手段】ジャンプしてから着地するまでの間にブレーキ7(FL,FR,RL,RR)が一時的に作動されたときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させるように制御する。要するに、ジャンプ中のブレーキ作動について、制動する意思がないパニックブレーキが行われたと推定したときに、着地時に車輪6の回転速度を車速に適合させるようにしており、それによって着地時に車輪6に増速方向や減速方向の力が作用しにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両において、前記駆動力を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両走行中に走行路面の凹凸によって車輪がジャンプすることがある。
【0003】
このジャンプ中において、ブレーキペダルやアクセルペダルを操作していない場合には、車輪が無負荷状態で空転するために、エンジンの回転数、駆動系の回転数ならびに駆動輪の回転速度(車輪速度)が変化することになり、着地時に車輪から駆動系に力が作用し、駆動系に負荷がかかることになる。
【0004】
なお、前記駆動系とは、変速機と駆動輪とを連動連結する部分で、例えば変速機のアウトプットシャフト、ドライブシャフト(またはプロペラシャフト)、デファレンシャル、各種の継手部分等を含む。そして、駆動系の回転数とは、変速機のアウトプットシャフトやドライブシャフト(またはプロペラシャフト)の回転数のことである。
【0005】
ここで、まず、ジャンプ中において運転者がアクセルペダルを踏み込んでいた場合には、エンジンの回転数、駆動系の回転数ならびに駆動輪の回転速度(車輪速度)が、前述したようにジャンプ中にブレーキペダルやアクセルペダルを操作していない場合と比較して急上昇するために、着地時に車輪に作用する減速方向の力ならびに駆動系にかかる負荷が増大する。
【0006】
また、ジャンプしたときにブレーキペダルを踏み込んでブレーキを作動させてから着地時までブレーキ作動を継続している場合には、着地時に車輪に増速方向の力が作用するものの、この力が車輪やブレーキで吸収されることになるので、前述したようにジャンプ中にブレーキペダルやアクセルペダルを操作していない場合に比べて、駆動系にかかる負荷が小さくて済む。
【0007】
しかし、ジャンプ中にパニックブレーキが行われた場合、要するにジャンプしたときに運転者が慌ててブレーキペダルを踏み込むことによりブレーキを作動させてから、直ぐにブレーキペダルを離すことによりブレーキを解除した場合には、ジャンプ中の車輪速度がブレーキ作動量に応じて低下するために、着地時に車輪に増速方向の力が作用して、駆動系に過大な負荷がかかってしまう。
【0008】
ところで、従来から、車輪のジャンプを検出したときに、着地時の衝撃を考慮して、車両の油圧式アクティブサスペンションの減衰量を制御するようにしたものがある(例えば特許文献1参照。)。
【0009】
また、自動車ではなく、自動二輪車において前輪または後輪がジャンプしたときに、異常と診断してアンチロックブレーキ制御を禁止させないようにすることが考えられている(例えば特許文献2参照。)。
【0010】
さらに、車輪がジャンプしたときに、ジャンプ直前の無段変速機の変速比を保持するようにすることが考えられている(例えば特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平8−150819号公報
【特許文献2】特開2005−145300号公報
【特許文献3】特開昭63−251658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記いずれの従来例においても、ジャンプ中においてブレーキペダルの操作の有無を考慮して対処するようになっていない。但し、特許文献1に係る従来例では、着地時に車体に作用する衝撃を軽減できるようになると考えられるものの、着地時に車輪に増速方向または減速方向の力が作用して、駆動系に負荷がかかることは避けられないと考えられる。
【0012】
このように、上記従来例には、車輪がジャンプしている過程でパニックブレーキが行われた場合、つまりブレーキを一時的に作動させて直ぐに解除するような場合において、駆動系の回転数を制御しようとする技術思想はない。
【0013】
また、上記従来例には、車輪がジャンプしている過程でパニックブレーキが行われた場合やブレーキをジャンプしてから着地まで継続的に作動させるような場合等、状況に応じて対処形態を変えるようにするといった技術思想もない。
【0014】
本発明は、エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置において、車輪がジャンプしてから着地するときに駆動系にかかる負荷を軽減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、ジャンプしてから着地するまでの間にブレーキが一時的に作動されたときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させるように制御する、ことを特徴としている。
【0016】
この構成によれば、ジャンプ中にブレーキが一時的に作動されても着地までにブレーキが解除されるような、いわゆるパニックブレーキが行われた場合に、ジャンプ中における駆動系の回転数をジャンプ前における駆動系の回転数に近似させるように制御するから、着地時において車輪速度が車速に適合するようになる。
【0017】
これにより、前述したような対処をしない場合に比べて、車輪に増速方向や減速方向の力が作用しにくくなって、駆動系に負荷がかかりにくくなる。
【0018】
また、本発明は、エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、車両の走行中に車輪が走行路面からジャンプしたときにそれを検知するジャンプ検知手段と、ブレーキの作動または非作動を検知するブレーキ検知手段と、前記ジャンプ検知手段およびブレーキ検知手段からの検出出力に基づいて、ジャンプ中にブレーキが作動されたことを認識すると、当該ブレーキ作動が着地まで継続される正常ブレーキであるのか、着地前に解除されるパニックブレーキであるのかを推定する推定手段と、この推定手段でパニックブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させる対処手段とを含む、ことを特徴としている。
【0019】
この構成では、機能を実現するための構成要素を特定している。この場合も、上記同様に、ジャンプ中においてブレーキが一時的に作動されて直ぐに解除されるパニックブレーキが行われたと推定したときに、駆動系の回転数を制御する。
【0020】
さらに、本発明は、エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、車両の走行中に車輪が走行路面からジャンプしたときにそれを検知するジャンプ検知手段と、ブレーキの作動または非作動を検知するブレーキ検知手段と、前記ジャンプ検知手段およびブレーキ検知手段からの検出出力に基づいて、ジャンプ中にブレーキが作動されたことを認識すると、当該ブレーキ作動が着地まで継続される正常ブレーキであるのか、着地前に解除されるパニックブレーキであるのかを推定する推定手段と、この推定手段でパニックブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させる一方で、前記推定手段で正常ブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を制御しない対処手段とを含む、ことを特徴としている。
【0021】
この構成では、機能を実現するための構成要素を特定している。そして、ジャンプ中においてブレーキが一時的に作動されて直ぐに解除されるパニックブレーキが行われると推定した場合には、上記同様に駆動系の回転数を制御する。
【0022】
しかし、運転者が制動しようとする意思を持ってブレーキを作動させた正常ブレーキが行われると推定した場合には、着地時にもブレーキを作動させているものと推測できるから、着地時の減速を優先させることにより、車両の操作性を向上させるようにしている。
【0023】
好ましくは、前記ジャンプ検知手段は、車両のサスペンションの伸び長さが所定時間内で所定値以上であるか否かによって判定するものとされる。
【0024】
この構成では、ジャンプ検知手段を特定しており、ジャンプの検知精度が向上する。
【0025】
好ましくは、前記対処手段は、ジャンプしたことを検知したときに、ジャンプ前における駆動系の回転数を記憶する処理と、ジャンプ中においてパニックブレーキが行われたと推定したときに、前記記憶させた駆動系の回転数を読み出し、この回転数を目標として、ジャンプ中における駆動系の回転数を制御する処理とを実行するものとされる。
【0026】
この構成では、対処手段が実行する処理を特定しており、処理手順や処理内容が明確になる。
【0027】
好ましくは、前記駆動系の回転数制御は、エンジンの出力トルクを調整する形態とされる。
【0028】
好ましくは、前記車両は、エンジンで発生する回転動力を無段変速機で減速して駆動輪へ伝達させる形態のパワートレーンを有する構成とされ、前記駆動系の回転数制御は、無段変速機の変速比を調整する形態とされる。
【0029】
好ましくは、前記車両は、エンジンやモータの少なくともいずれか一方で発生する回転動力を変速機で減速して駆動輪へ伝達させるパワートレーンを有する構成とされ、前記駆動系の回転数制御は、前記モータの出力を調整する形態とされる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、車輪がジャンプしてから着地するまでの間に一時的にブレーキが作動されても、着地時に車輪や駆動系にかかる負荷を軽減することが可能になる。
【0031】
そのため、車輪や駆動系の耐久性を向上するうえで有利となるとともに、車両全体のがたを防止するうえで有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図4に示して詳細に説明する。
【0033】
ここで、本発明の特徴を適用した車両の駆動力制御装置の説明に先立ち、本発明の適用対象となる車両の概略構成について、図1を参照して説明する。
【0034】
図1は、本発明の適用対象となる車両の全体構成を示す図である。図において、1は車両を示している。ここで例示している車両1は、フロントエンジン・リアドライブ(FR)形式の自動車とされている。
【0035】
この車両1は、エンジン2で発生する回転動力が自動変速機3で適宜に変速されてプロペラシャフト4およびデファレンシャル5を介して左右の後輪6RL,6RRに伝達されるようなパワートレーンになっている。
【0036】
左右の前輪6FL,6FRには、フロントブレーキ7FL,7FRが、また、左右の後輪6RL,6RRには、リアブレーキ7RL,7RRがそれぞれ設けられている。
【0037】
フロントブレーキ7FL,7FRおよびリアブレーキ7RL,7RRは、例えばいわゆるディスクブレーキとされており、ディスクロータ8とブレーキキャリパ9とを含んで構成されている。なお、ブレーキキャリパ9にはディスクロータ8の両側面に配置される左右一対のブレーキパッド(図示省略)が保持されている。
【0038】
これらのブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRは、運転者が車両1の室内に設置されるブレーキペダル11を踏み込み操作することにより作動されるようになっている。
【0039】
このブレーキペダル11に対する運転者の踏み込み力(踏力)は、動力伝達ユニット13を介してブレーキキャリパ9を駆動するためのアクチュエータ12に伝達される。
【0040】
アクチュエータ12は、ブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRの作動つまりブレーキキャリパ9に対する作動液圧を増減調節するもので、一般的に公知の構成であるので図示していないが、前後左右のブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRのブレーキ液圧を制御するためのソレノイドバルブ、各ソレノイドバルブに適宜のブレーキ液圧を発生させるためのポンプ、ブレーキ液を貯めておくリザーバ等を備えている。
【0041】
動力伝達ユニット13は、運転者によるブレーキペダル11の踏み込み操作に応じてアクチュエータ12を駆動するためのものであって、負圧ブースタ15と、マスターシリンダ16とを含んで構成されている。
【0042】
負圧ブースタ15は、ブレーキペダル11に対する運転者の踏み込み力(踏力)に応じて、当該踏力にエンジン2の負圧や圧縮空気等の力を加えることにより、ブレーキペダル11の踏み込み力を軽くしながら制動力を強くするものである。
【0043】
マスターシリンダ16は、例えば前後2系統のブレーキ用のタンデム型とされており、運転者によるブレーキペダル11の踏力をアクチュエータ12からブレーキキャリパ9へ供給する作動液圧(ブレーキ液圧)に変換するものである。
【0044】
これらフロントブレーキ7FL,7FR、リアブレーキ7RL,7RR、ブレーキペダル11、アクチュエータ12ならびに動力伝達ユニット13が、ブレーキシステムを構成している。
【0045】
次に、図2を参照して、エンジン2の一例についての基本的な構成を説明する。図2は、エンジン2を模式的に示す概略構成図である。
【0046】
図例のエンジン2は、要するに、シリンダブロック21のシリンダボア(符号省略)とシリンダヘッド(図示省略)とピストン23とで区画する燃焼室24に、吸入系および吸気ポート22aから導入される空気とインジェクタ25から噴射される燃料とからなる所定割合の混合気を供給し、この混合気を、点火プラグ26の火花放電によって着火燃焼させることにより、ピストン23、コネクティングロッド27を介してクランクシャフト28を回転させてエンジン2の駆動力(トルク)を出力するように構成されている。そして、燃焼室24で燃焼された後の排気ガスは、排気ポート22bから排気系へ排出される。
【0047】
なお、前記吸入系は、吸気ポート22aに連動連結される吸気通路(符号省略)の上流に設けられるエアクリーナ(図示省略)や、前記吸気通路の途中に設けられかつアクセルペダル10の踏み込み操作に応じて駆動されるスロットルバルブ29を含む。
【0048】
また、シリンダヘッド22には、それぞれ、吸気ポート22aを開閉する吸気バルブ31と、排気ポート22bを開閉する排気バルブ32とが配置されており、吸気バルブ31は吸気側カムシャフト33で、また、排気バルブ32は排気側カムシャフト34でそれぞれ開閉動作される。吸気側カムシャフト33および排気側カムシャフト34は、クランクシャフト28により図示していないタイミングチェーン(あるいはタイミングベルト)を介して回転駆動される。
【0049】
このようなエンジン2の動作を制御するためのエンジン制御装置20は、自動変速機3の動作を制御するトランスミッション制御装置30と、互いに必要な情報を送受可能となるように接続されている。
【0050】
これら両制御装置20,30は、共に、一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされていて、共に同様のハードウエア構成になっている。この実施形態では、本発明に関連するエンジン制御装置20のみを、図3に例示して説明する。
【0051】
エンジン制御装置20は、各種の情報入力に基づいてエンジン2の動作を制御することによりエンジン回転数やエンジントルクを調節するもので、例えば図3に示すように、中央処理装置(CPU)81と、読出し専用メモリ(ROM)82と、ランダムアクセスメモリ(RAM)83と、バックアップRAM84と、入力インタフェース85と、出力インタフェース86とを双方向性バス87によって相互に接続した構成になっている。
【0052】
CPU81は、ROM82に記憶された適宜の制御プログラムや制御マップに基づいて演算処理を実行する。ROM82には、基本的なエンジン制御に関する制御プログラムが、少なくとも記憶されている。RAM83は、CPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM84は、各種の保存すべきデータを記憶する不揮発性のメモリである。
【0053】
ここで、本発明の特徴を適用した部分について、図3および図4を参照して詳細に説明する。
【0054】
図3は、エンジン制御装置20の概略構成を示すブロック図、図4は、エンジン制御装置20の動作を説明するためのフローチャートである。
【0055】
要するに、車輪6FL,6FR,6RL,6RRが走行路面からジャンプしている過程において、ブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRが一時的に作動されたとき、つまりパニックブレーキが行われたときに、ジャンプ中における自動変速機3のアウトプットシャフト(図示省略)またはプロペラシャフト4の回転数をジャンプ前の回転数に保つように対処して、ブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRが制動目的で継続的に作動されたとき、つまり正常ブレーキが行われたときに、前記対処を省略するように工夫している。
【0056】
具体的に、エンジン制御装置20の入力インタフェース85には、図3に示すように、基本的なエンジン制御に必要な各種センサ(例えば水温センサ61、エアフローメータ62、吸気温センサ63、アクセルポジションセンサ64、スロットルポジションセンサ65、クランクポジションセンサ66、吸気用カムポジションセンサ67、排気用カムポジションセンサ68等)の他に、少なくとも、車輪速センサ91a〜91d、サスペンションストロークセンサ92a〜92d、ブレーキスイッチ93等が接続されている。
【0057】
また、出力インタフェース86には、基本的なエンジン制御に必要な各種の構成要素として、例えばインジェクタ25、点火プラグ26の点火用のイグナイタ35、スロットルバルブ29の駆動用のスロットルモータ36等が接続されている。
【0058】
なお、車輪速センサ91a〜91dは、前輪6FL,6FRおよび後輪6RL,6RRの車輪速度をそれぞれ検出するものである。この車輪速センサ91a〜91dからの検出出力に基づいて、前輪6FL,6FRおよび後輪6RL,6RR毎の車輪速度を認識し、この認識した各車輪速度に基づいて、車体速度(車速)、車輪加速度、車輪減速度等を算出することができる。
【0059】
また、サスペンションストロークセンサ92a〜92dは、前輪6FL,6FRおよび後輪6RL,6RRを支持する各サスペンション(図示省略)の伸び量や縮み量を検出するものである。このサスペンションストロークセンサ92a〜92dからの検出出力に基づいて、前輪6FL,6FRおよび後輪6RL,6RR毎にジャンプの発生の有無を判定することができる。
【0060】
さらに、ブレーキスイッチ93は、ブレーキペダル11の踏み込み操作の有無を検出するものである。このブレーキスイッチ93からの検出出力に基づいて、ブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRの作動の有無を推定することができる。
【0061】
次に、エンジン制御装置20の動作について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0062】
要するに、図4に示すフローチャートは、エンジン制御に関するメインフローチャートの一部であり、一定周期毎に繰り返される。
【0063】
まず、ステップS11にエントリーされると、前輪6FL,6FR、後輪6RL,6RRがジャンプしたか否かを判定する。
【0064】
この判定は、例えばサスペンションストロークセンサ92a〜92dからの検出出力に基づいて、前輪6FL,6FRおよび後輪6RL,6RRを支持する各サスペンション(図示省略)の伸び長さが所定値以上であるか否かを調べることで行える。
【0065】
このステップS11で否定判定した場合には、ジャンプしていないと認識し、このフローチャートを抜ける。しかし、前記ステップS11で肯定判定した場合には、ジャンプしたと認識し、続くステップS12において、ジャンプする前における駆動系の回転数をRAM83に一時的に記憶させてから、ステップS13に移行する。
【0066】
なお、前記駆動系とは、自動変速機3と駆動輪6RL,6RRとを連動連結する部分で、例えば自動変速機のアウトプットシャフト(図示省略)、ドライブシャフト(またはプロペラシャフト4)、デファレンシャル5、各種の継手部分等を含む。そして、駆動系の回転数とは、自動変速機3のアウトプットシャフトやドライブシャフト(またはプロペラシャフト4)の回転数のことであり、走行中に前記回転数を所定時間おきに計測して蓄積するようにしておき、ジャンプしたことを検知したときに、ジャンプ直前における前記回転数を前記蓄積データから読み出して、この読み出したデータをRAM83に書き込むようにすることができる。
【0067】
そして、ステップS13では、ブレーキペダル11が踏み込み操作されているか否かを判定する。この判定は、例えばブレーキスイッチ93からの検出出力に基づいて行える。
【0068】
ここで、ブレーキペダル11が踏み込み操作されていない場合、着地した後も走行しようとする意思が有るものと推定できるから、前記ステップS13で否定判定して、続くステップS14に移行する。
【0069】
このステップS14では、前記ステップS12で記憶したジャンプ直前におけるプロペラシャフト4の回転数を目標として、ジャンプ中におけるプロペラシャフト4の回転数を近似させるように制御する。この制御は、例えばスロットルモータ36でスロットルバルブ29の開度を制御することにより、エンジン2の出力トルクを制御する形態とされる。
【0070】
しかし、ブレーキペダル11が踏み込み操作されている場合には、前記ステップS13で肯定判定して、ステップS15において、ブレーキペダル11が踏み込み操作されたことを検出した時点から所定時間以上が経過したか否かを判定する。
【0071】
このステップS15で否定判定した場合、つまりブレーキペダル11の操作時間が所定時間未満の場合には、前記ブレーキ作動がパニックブレーキ、つまり制動しようとする意思がなく一時的に行われたものと推定し、前記ステップS14に移行する。
【0072】
しかし、前記ステップS15で肯定判定した場合、つまりブレーキペダル11の操作時間が所定時間以上の場合には、前記ブレーキ作動が正常ブレーキ、つまり運転者が制動しようとする意思を持って行われたものと推定し、前記ステップS14を省略して、このフローチャートを抜ける。
【0073】
ところで、上述したサスペンションストロークセンサ92a〜92dとエンジン制御装置20によるステップS11の処理機能とが請求項2に記載のジャンプ検知手段に相当し、また、上述したブレーキスイッチ93とエンジン制御装置20によるステップS13の処理機能とが請求項2に記載のブレーキ検知手段に相当し、さらにエンジン制御装置20によるステップS13とS15とを併せた処理機能が請求項2に記載の推定手段に相当し、エンジン制御装置20によるステップS14の処理機能が請求項2に記載の対処手段等に相当する。したがって、この実施形態では、エンジン制御装置20が、本発明に係る駆動力制御装置に相当している。
【0074】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態によれば、車輪6FL,6FR,6RL,6RRがジャンプしている過程において、パニックブレーキが一時的に行われた場合にジャンプ直前のプロペラシャフト4の回転数を保つように制御している。
【0075】
そのため、前記ジャンプ中における車輪速度の変化が抑制または防止されることになって、ジャンプしていた車輪6FL,6FR,6RL,6RRが着地するときに、車輪6FL,6FR,6RL,6RRの回転速度が車速に適合するようになる。
【0076】
これにより、前述したような回転数制御を介入させない場合に比べて、車輪6FL,6FR,6RL,6RRに増速方向や減速方向の力が作用しにくくなるから、駆動系に負荷がかかりにくくなる。
【0077】
しかも、車輪6FL,6FR,6RL,6RRがジャンプしている過程において、制動しようとする意思を持ってブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRを継続的に作動させるような正常ブレーキを行う場合に、前述したような余計な回転数制御を介入させないようにしている。
【0078】
そのため、着地時にブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRの踏力に応じた減速を優先させることができる等、車両1の操作性を向上するうえで有利となる。しかも、その場合、着地時にブレーキ作動させたままにしているから、車輪6FL,6FR,6RL,6RRに作用する減速方向の力が車輪6FL,6FR,6RL,6RRやブレーキ7FL,7FR,7RL,7RRで吸収されることになって、駆動系に負荷がかかりにくくなる。
【0079】
これらのことから、車輪6FL,6FR,6RL,6RRおよび駆動系にダメージが蓄積されにくくなるので、車輪6FL,6FR,6RL,6RRや駆動系の耐久性を向上することができる。また、車両1の走行性能を向上するうえでも有利となる。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下、本発明の他の実施形態を例に挙げる。
【0081】
(1)上記実施形態では、FR形式の車両1を例に挙げているが、フロントエンジンフロントドライブ(FF)形式等の車両とすることも可能である。
【0082】
(2)上記実施形態では、エンジン2のみを駆動源とするタイプの車両1を例に挙げているが、図示していないが、エンジンとモータジェネレータとを併用するタイプのハイブリッド車両とすることも可能である。
【0083】
特に、ハイブリッド車両の場合、上記ステップS14の処理について、ジャンプ直前におけるプロペラシャフト4の回転数を目標として、ジャンプ中におけるプロペラシャフト4の回転数を制御するようにモータジェネレータの動作を制御させるようにすることができる。
【0084】
この場合、図4のステップS14の処理をエンジン制御装置20でもって行うことが可能であるから、このエンジン制御装置20が本発明に係る駆動力制御装置に相当するものとなる。
【0085】
(3)上記実施形態において、自動変速機3を例えばCVTと呼ばれる無段変速機とする場合には、上記ステップS14の処理について、ジャンプ直前におけるプロペラシャフト4の回転数を目標として、ジャンプ中におけるプロペラシャフト4の回転数を制御するように、無段変速機の変速比を制御させるようにすることができる。
【0086】
この無段変速機の変速比は無段階に細かく調整できるので、前述したような回転数合わせを高精度に行うことが可能となる点で好ましい。
【0087】
この場合、図4のステップS14では、エンジン制御装置20からトランスミッション制御装置30に対し、ジャンプ直前におけるプロペラシャフト4の回転数を目標としてジャンプ中におけるプロペラシャフト4の回転数を調整するうえで必要な無段変速機の変速比の指令信号を送信し、トランスミッション制動装置30側で対処させるようにすることが考えられる。したがって、この例では、エンジン制御装置20とトランスミッション制御装置30とが、本発明に係る駆動力制御装置に相当するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の適用対象となる車両の全体構成を示す図である。
【図2】図1のエンジン制御装置を模式的に示す概略構成図である。
【図3】図1のエンジン制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図1のエンジン制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
2 エンジン
3 自動変速機
4 プロペラシャフト
5 デファレンシャル
6FL,6FR 前輪
6RL,6RR 後輪
7FL,7FR フロントブレーキ
7RL,7RR リアブレーキ
11 ブレーキペダル
20 エンジン制御装置
29 スロットルバルブ
30 トランスミッション制御装置
36 スロットルモータ
91a〜91d 車輪速センサ
92a〜92d サスペンションストロークセンサ
93 ブレーキスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、
ジャンプしてから着地するまでの間にブレーキが一時的に作動されたときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させるように制御する、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、
車両の走行中に車輪が走行路面からジャンプしたときにそれを検知するジャンプ検知手段と、
ブレーキの作動または非作動を検知するブレーキ検知手段と、
前記ジャンプ検知手段およびブレーキ検知手段からの検出出力に基づいて、ジャンプ中にブレーキが作動されたことを認識すると、当該ブレーキ作動が着地まで継続される正常ブレーキであるのか、着地前に解除されるパニックブレーキであるのかを推定する推定手段と、
この推定手段でパニックブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させる対処手段とを含む、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
エンジンやモータ等の少なくともいずれか一方で発生される回転動力を変速機で変速して車輪に駆動力として伝達する車両の駆動力制御装置であって、
車両の走行中に車輪が走行路面からジャンプしたときにそれを検知するジャンプ検知手段と、
ブレーキの作動または非作動を検知するブレーキ検知手段と、
前記ジャンプ検知手段およびブレーキ検知手段からの検出出力に基づいて、ジャンプ中にブレーキが作動されたことを認識すると、当該ブレーキ作動が着地まで継続される正常ブレーキであるのか、着地前に解除されるパニックブレーキであるのかを推定する推定手段と、
この推定手段でパニックブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を、ジャンプ前における駆動系の回転数に近似させる一方で、前記推定手段で正常ブレーキであると推定したときに、ジャンプ中における駆動系の回転数を制御しない対処手段とを含む、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記ジャンプ検知手段は、車両のサスペンションの伸び長さが所定時間内で所定値以上であるか否かによって判定する、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記対処手段は、ジャンプしたことを検知したときに、ジャンプ前における駆動系の回転数を記憶する処理と、
ジャンプ中においてパニックブレーキが行われたと推定したときに、前記記憶させた駆動系の回転数を読み出し、この回転数を目標として、ジャンプ中における駆動系の回転数を制御する処理とを実行する、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置において、
前記駆動系の回転数制御は、エンジンの出力トルクを調整する形態とされる、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置において、
前記車両は、エンジンで発生する回転動力を無段変速機で減速して駆動輪へ伝達させる形態のパワートレーンを有し、
前記駆動系の回転数制御は、無段変速機の変速比を調整する形態とされる、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置において、
前記車両は、エンジンやモータの少なくともいずれか一方で発生する回転動力を変速機で減速して駆動輪へ伝達させるパワートレーンを有し、
前記駆動系の回転数制御は、前記モータの出力を調整する形態とされる、ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−137587(P2008−137587A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328066(P2006−328066)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】