説明

車両接触回避支援装置

【課題】障害物との接触回避の支援制御において、路面摩擦係数を好適に推定することが可能な車両接触回避支援装置を提供する。
【解決手段】車両接触回避支援装置14の車両接触回避支援制御手段20は、左右の後輪24L、24R又は左右の前輪22R、22Lに対する制動力に基づく第1路面摩擦係数μ1と、左右の前輪22R、22L及び左右の後輪24L、24Rに対する制動力に基づく第2路面摩擦係数μ2とが異なる場合、第2路面摩擦係数μ2に基づき接触回避の支援制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両前方の障害物と該車両との位置関係に応じて前記障害物との接触回避の支援を行う車両接触回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両走行中に、路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置が知られている(特許文献1)。特許文献1では、アンチスキッド制御(横滑り防止制御)において、左右の前輪又は左右の後輪の制動力に基づき路面摩擦係数を推定する(例えば、特許文献1の要約、段落[0101]、[0105]参照)。
【0003】
また、自車のフロントバンパに沿って円弧状に配置した複数の超音波センサと、自車の左右側部に配置したカメラとにより、車両前方の障害物のデータと車両側方の障害物のデータとを得、これらのデータから、自車が前記障害物との接触を回避して進行可能なエリア、すなわち接触回避エリアを検出する車両制御装置が提案されている(特許文献2)。
【0004】
さらに、特許文献3には、基準ヨーレート(規範ヨーレートともいう。)と実ヨーレートとの比較により算出されたヨーレート偏差に基づいて、車両の挙動を安定化する車両制御装置(車両姿勢安定化装置)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−160622号公報(要約、段落[0101]、[0105])
【特許文献2】特開2008−049959号公報(段落[0019])
【特許文献3】特開2007−276564号公報(段落[0008])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1では、アンチスキッド制御を前提として、左右の前輪又は左右の後輪の制動力に基づいて路面摩擦係数を推定する。しかし、障害物との接触回避の支援制御においては、4輪全て(左右の前輪及び左右の後輪)の制動力に基づいて路面摩擦係数を推定する方が好ましい場合が存在する。
【0007】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、障害物との接触回避の支援制御において、路面摩擦係数を好適に推定することが可能な車両接触回避支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る車両接触回避支援装置は、車両前方の障害物と該車両との位置関係に応じて前記障害物との接触回避の支援を行うものであって、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による前記車両の減速に先立って、前記左右の前輪又は前記左右の後輪に対して制動力を付与することにより第1路面摩擦係数を推定する第1路面摩擦係数推定手段と、前記車両と前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、前記相対位置検出手段によって検出された車両前方の障害物との相対位置に基づいて前記車両と前記障害物との接触余裕値を算出する接触余裕値算出手段と、前記接触余裕値が所定値以下である場合に、前記第1路面摩擦係数に基づいて前記障害物との接触回避の支援制御を行う車両接触回避支援制御手段と、前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力の付与による前記車両の減速の最中に、前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力に基づいて第2路面摩擦係数を推定する第2路面摩擦係数推定手段とを備え、前記車両接触回避支援制御手段は、前記第1路面摩擦係数と前記第2路面摩擦係数とが異なる場合、前記第2路面摩擦係数に基づき前記接触回避の支援制御を行うことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による車両の減速(車両を減速させるための制動力付与)に先立って、前輪又は後輪に対して制動力を付与することにより路面摩擦係数(第1路面摩擦係数)を推定する。これにより、制動力付与による車両の減速を運転者に意識させ難くしつつ、路面摩擦係数を推定することができる。また、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による車両の減速の最中は、当該減速に伴って路面摩擦係数(第2路面摩擦係数)を推定する。そして、第2路面摩擦係数が、第1路面摩擦係数と異なる場合、第2路面摩擦係数に基づいて当該支援制御を行う。このため、接触回避の支援制御に伴う車両の減速中に路面状態(路面摩擦係数)が変化しても、当該変化に応じた支援制御を行うことができる。さらに、接触回避の支援中は、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力により路面摩擦係数(第2路面摩擦係数)を推定するため、減速度を維持しつつ、より精度よく路面摩擦係数を推定することができる。
【0010】
前記第2路面摩擦係数推定手段は、前記車両接触回避支援制御手段による支援制御中に発生した前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力によって発生する前記車両の減速度に基づいて前記第2路面摩擦係数を推定してもよい。
【0011】
前記車両接触回避支援制御手段は、前記第2路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第1路面摩擦係数よりも小さいとき、低路面摩擦係数用の支援制御を行ってもよい。
【0012】
前記車両接触回避支援制御手段は、前記第2路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第1路面摩擦係数よりも大きいとき、高路面摩擦係数用の支援制御を行ってもよい。
【0013】
前記支援制御が、前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対して自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御である場合、前記低路面摩擦係数用の制動力付与特性では、前記高路面摩擦係数用の制動力付与特性と比較して、前記接触余裕値が大きいときから前記自動的な制動力の付与を開始すると共に前記自動的な制動力の最大値が小さいものであってもよい。これにより、路面摩擦係数が低いとき、早めに小さな自動的な制動力を付与することで車体を安定させながら車両を減速することができる。また、路面摩擦係数が高いとき、自動的な制動力の付与をより遅く付与することで、不要な制動力の付与を回避することが可能となる。
【0014】
前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数よりも小さいとき、前記高路面摩擦係数用の支援制御から前記低路面摩擦係数用の支援制御に切り替え、前記低路面摩擦係数用の支援制御では、前記低路面摩擦係数用の制動力付与特性の最大値を前記第2路面摩擦係数に応じて設定してもよい。これにより、タイヤが発生可能な減速度以上の不要なブレーキをかけずに最適な減速を行うことが可能となる。
【0015】
前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数よりも大きいとき、前記低路面摩擦係数用の支援制御から前記高路面摩擦係数用の支援制御に切り替え、前記高路面摩擦係数用の支援制御では、前記高路面摩擦係数用の制動力付与特性の最大値を減少させてもよい。低路面摩擦係数用の制動力付与特性では、高路面摩擦係数用の制動力付与特性よりも早めに自動的な制動力の付与が開始される。このため、低路面摩擦係数用の支援制御から高路面摩擦係数用の支援制御に切り替わった際、既に早めの制動力の付与が行われている。このため、高路面摩擦係数用の制動力付与特性の最大値を減少させても車両を十分に減速させることが可能であると共に、高路面摩擦係数用の制動力付与特性をそのまま用いた場合に大きな制動力が働くことによる運転者の違和感を低減させることができる。
【0016】
前記支援制御が、ステアリングに対して自動的なトルクを発生させる操舵アシスト制御である場合、前記低路面摩擦係数用の支援制御では、前記高路面摩擦係数用の支援制御と比較して、低いトルクを継続的に付与してもよい。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による車両の減速(車両を減速させるための制動力付与)に先立って、前輪又は後輪に対する制動力を付与することにより路面摩擦係数(第1路面摩擦係数)を推定する。これにより、制動力付与による車両の減速を運転者に意識させ難くしつつ、路面摩擦係数を推定することができる。また、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による車両の減速の最中は、当該減速に伴って路面摩擦係数(第2路面摩擦係数)を推定する。そして、第2路面摩擦係数が、第1路面摩擦係数と異なる場合、第2路面摩擦係数に基づいて当該支援制御を行う。このため、接触回避の支援制御に伴う車両の減速中に路面状態(路面摩擦係数)が変化しても、当該変化に応じた支援制御を行うことができる。さらに、接触回避の支援中は、左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力により路面摩擦係数(第2路面摩擦係数)を推定するため、より精度よく路面摩擦係数を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両接触回避支援装置を搭載した車両の模式的ブロック構成図である。
【図2】レーダにより検出される横距離等の相対位置説明図である。
【図3】低μ用の制動力付与特性と高μ用の制動力付与特性を示す説明図である。
【図4】低μ用の制動力付与特性から高μ用の制動力付与特性に切り替えた場合を示す説明図である。
【図5】高μ用の制動力付与特性から低μ用の制動力付与特性に切り替えた場合を示す説明図である。
【図6】上記実施形態における自動ブレーキ制御のフローチャートである。
【図7】上記実施形態における減速支援制御のフローチャートである。
【図8】車両の減速度と第2路面摩擦係数との関係を示す図である。
【図9】操舵アシスト制御における操舵量及びその単位時間当たりの変化量と低μ用の操舵アシストトルクと高μ用の操舵アシストトルクとの関係を示す図である。
【図10】車両接触回避支援装置が組み込まれた車両の自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.一実施形態
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
1.車両10の構成
図1は、この発明の一実施形態に係る車両接触回避支援装置14(以下「支援装置14」ともいう。)が組み込まれた車両10(自車ともいう。)の模式的ブロック構成図である。
【0021】
支援装置14は、CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで実現される各種機能部(各種機能手段)を有するECU(電子制御ユニット)20を備え、このECU20は、機能部としてVSA制御部94及び接触回避支援制御部100を備える。
【0022】
VSA制御部94は、基準ヨーレート算出部96及びスリップ状態判定部98を有している。
【0023】
接触回避支援制御部100は、操舵アシスト制御部90及び自動ブレーキ制御部92を有している。
【0024】
車両10は、前輪22{右前輪(FRW)22R、左前輪(FLW)22L}、後輪24{右後輪(RRW)24R、左後輪(RLW)24L}を有する(以下、前輪22と後輪24とを合わせて「車輪22、24」とも表記する。)。各車輪22、24には、それぞれ車輪速度センサ61〜64が取り付けられ、この車輪速度センサ61〜64から車輪速度VwがECU20に取り込まれる。ECU20は、これら4つの車輪速度Vwの平均値を車両10の速度である車速Vsとして常に更新する。
【0025】
また、各車輪22、24には、それぞれ制動力を発生するディスクブレーキ等により構成されるブレーキアクチュエータ51〜54が設けられている。ブレーキアクチュエータ51〜54の各制動力(制動油圧)は、油圧制御装置44内の4つの圧力調整器(不図示)によりそれぞれ独立に制御される。
【0026】
油圧制御装置44は、踏込量センサ42により検出されるブレーキペダル40の踏込量θbに応じた制動油圧を発生するとともに、ECU20を構成する自動ブレーキ制御部92から出力されるブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fb(いわゆるブレーキバイワイヤによる制動力指令値)に応じて上記の4つの圧力調整器(不図示)がそれぞれ制動油圧を発生し、ブレーキアクチュエータ51〜54に出力する構成とされている。
【0027】
なお、運転者によるブレーキペダル40の踏込み操作に基づき踏込量センサ42から踏込量θbが入力され、かつ自動ブレーキ制御部92から制動力指令値Fbが入力された場合、油圧制御装置44は、両者のうち何れか大きい方に合わせて制動油圧を発生させる。
【0028】
したがって、制動時に、各ブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を独立に制御すれば、車輪22、24のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0029】
さらに、4輪の車輪22、24中、前輪22(22R、22L)には、エンジン34からトランスミッション(T/M)36を通じて駆動力が伝達される。後輪24(24R、24L)は、車両10の走行によって回転する従動輪として機能する。
【0030】
エンジン34は、該エンジン34に設けられたスロットルバルブ33のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ32を通じて回転数(エンジン回転数)が制御される。
【0031】
スロットルバルブ33のスロットル開度は、操作量センサ28により検出されるアクセルペダル26の操作角度(アクセル角度、操作量)θaに応じてエンジンECU30、及びスロットルアクチュエータ32を通じて調整される。
【0032】
支援装置14を構成する操舵装置88は、基本的には、運転者により回転操作(操舵)される操向ハンドル70(ステアリングホイール)と、操向ハンドル70の操舵角θsを検出する操舵角センサ72と、パワーステアリング装置を構成するステアリングアクチュエータ76と、左右の前輪22を操舵するラックアンドピニオン機構を有する操舵機構74とから構成される。
【0033】
この場合、操舵装置88は、運転者による操向ハンドル70の回転操作が、ステアリングシャフト及び連結軸を通じて操舵機構74を構成するピニオンに伝達され、ピニオンの回転によりラックが往復動し、ラックの往復動がタイロッドを通じて前輪22に伝達されることで、車両10の転舵が実行される通常の構成を有している。
【0034】
車両10の転舵が実行される際に、運転者による前記の操向ハンドル70の回転操作に伴う操舵角θsが、ステアリングアクチュエータ76に入力されることでステアリングアクチュエータ76の駆動力、すなわち操向ハンドル70の操作に依存する操舵アシストカが操舵機構74の前記ラックを通じて前輪22に伝達される。
【0035】
その一方、ECU20を構成する操舵アシスト制御部90から出力される操舵アシスト指令値Fs(ここでは、いわゆるステアバイワイヤによる操舵アシスト指令値で、回避操舵アシスト指令値ともいう。)がステアリングアクチュエータ76に入力されることで、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクTQ(ステアトルク)が操舵機構74に出力される。なお、操舵アシスト指令値Fsの代わりに、ギアレシオ等の変更を指令してもよい。なお、操舵アシストは、ステアバイワイヤによる処理に限らず、操舵機構74のギヤ比を変える処理、電動パワーステアリング装置(EPS装置)のアシスト値を変える処理としてもよい。
【0036】
操舵機構74は、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクTQに対応する操舵アシストカを前輪22に出力することで、前輪22は、その操舵アシスト力に応じた転舵量だけ前輪22を転舵させることができる。
【0037】
操舵アシスト指令値Fsは、基本的には、車両10の前方の障害物との接触を回避しようとする際に運転者の操向ハンドル70の回転操作を契機とし、これをアシストするように発生する。
【0038】
なお、本実施形態では、操舵アシストトルクTQには、操舵方向に対して付加的に発生させるものを用いているが、操舵アシストトルクTQとして、操向ハンドル70に対する反力として作用するものを用いてもよい。この場合、操向すべき方向の操舵アシストトルクTQ(反力)を小さくし、操向すべきでない方向の操舵アシストトルクTQ(反力)を大きくすることで、操向ハンドル70の操作を補助する。
【0039】
支援装置14には、さらに、車両10に発生しているヨーレートYr(車両10を真上から見たときの中心軸回りの回転力)を検出するヨーレートセンサ82と、車両10に発生している横G(横加速度)を検出する横Gセンサ84と、車両10に発生している前後G(前後加速度)を検出する前後Gセンサ85とが設けられている。
【0040】
さらにまた、支援装置14には、警報を発生する警報装置86が設けられ、運転者にブレーキペダル40の踏み込み操作(ブレーキ操作)や操向ハンドル70の回転操作(操舵操作)を促す警報を発生する。運転者に対する警報の発生は、警報装置86のランプ、チャイム、ブザー、スピーカ等の警報手段を利用して発生される。警報装置86により警報を発生してもよいが、警報装置86による警報の発生とともに、あるいは警報装置86から警報を発生しないで、操向ハンドル70への反力付与、アクセルペダル26への反力付与、あるいはブレーキペダル40への反力付与を行うことで警報の発生とすることもできる。
【0041】
また、支援装置14には、フロントグリル部等にレーダ80が設けられている。レーダ80は、車両10の前方に向けてミリ波等の電磁波を送信波として送信し、その反射波に基づいて障害物(例えば、前走車等)の大きさを検出するとともに障害物の車両10(自車)からの方向を検出し、同時に障害物と自車との間の相対距離L(障害物が車両である場合には、車間距離)、障害物と自車との相対速度Vr等を検出する相対位置検出手段等として動作する。なお、障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段として、上記のミリ波レーダに代えて、レーザレーダあるいはステレオカメラ等を採用することができる。
【0042】
レーダ80により検出される相対位置等の内容について、図2を参照して説明する。
【0043】
公知のように、レーダ80及びこれに接続されたECU20は、まず、車両10(自車で、図2中、位置を変えて2箇所に描いている。)から前方の車両12までの相対距離Lを検出することができる。また、レーダ80及びECU20は、前方の車両12の車幅Woを検出することができる。なお、自車10の車幅Wmは、予めECU20及びレーダ80の中のメモリ(記憶部)に記憶されている。次に、レーダ80及びECU20は、車両10の車両12に対する相対速度Vrを検出することができる。さらに、ECU20は、車両10から前方の車両12までの相対距離Lと相対速度Vrとから接触余裕値としての接触余裕時間TTC(Time To Contact)を、TTC=L/Vrとして算出することができる。前記接触余裕値は、自車前方の障害物と自車との接触の可能性を判断するパラメータであり、接触余裕値が大きい程、接触の可能性が低くなり、逆に、接触余裕値が小さい程、接触の可能性が高くなるように設定される。接触余裕値としては、接触余裕時間TTCに加え、車間距離等を用いることができる。
【0044】
この場合、ECU20は、車両10(自車)自身の車幅Wmと、レーダ80により検出した前方の車両12の車幅Woと、所定の余裕幅α(余裕横距離)とから、例えば、車両10(自車)が、前方の車両12との接触を回避して追い越す際に必要な目標横回避距離Dtを、次の(1)式により算出する。
Dt=(Wo/2)十α十(Wm/2) ・・・(1)
【0045】
車両10(自車)が前方の車両12との接触を回避して追い越すために最も横回避距離(横距離又はオフセットという。)Doが大きくなるのは、自車中心軸線10c上に前方の車両12の他車中心軸線12cが重なる場合、つまり車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合である。
【0046】
車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合でも、道路200上、車両10が同一の進路を走行していている他の車両12等に追いついたとき、その車両10がその進路を変えて前方の車両12の側方を通過し、その車両12の前方に出る追越しの際に、車両10が上記の目標横回避距離Dtだけ車幅方向(横方向)に移動すれば、余裕幅αに相当する横距離を残して、前方の車両12の側方をすり抜けることができる。なお、自車中心軸線10cと前方の車両12の他車中心軸線12cとの間の車幅方向の距離(偏差)を上述したように、オフセット(オフセット量)Doともいう。
【0047】
2.各種制御
この発明の一実施形態に係る支援装置14が組み込まれた車両10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、各種制御について説明する。本実施形態では、VSA制御部94による車両姿勢安定化制御と、自動ブレーキ制御部92による接触回避自動ブレーキ制御と、操舵アシスト制御部90による接触回避操舵アシスト制御(操舵アシスト制御)とを行う。
【0048】
(1)車両姿勢安定化制御
VSA制御部94は、車両10のスリップ状態Slcが閾値Slcthより大きく、かつ車両10が旋回状態にあって、基準ヨーレートYsと実ヨーレートYrに一定の差がある場合に作動するように構成されている。
【0049】
ここで、スリップ状態Slcを検出する際、VSA制御部94のスリップ状態判定部98から自動ブレーキ制御部92を通じて後輪24(24R、24L)に対して、路面と車輪22、24との前記スリップ状態Slcを判断するためのスリップ状態判断制動力指令値Fbsをmsオーダーの所定時間出力する。
【0050】
このときの左右の後輪24の前後力、左右の後輪24の支持荷重に基づき、特許文献1に示されるように、左右の後輪24についての路面摩擦係数μを求める。この路面摩擦係数μが所定の摩擦係数閾値μthより大きい場合に、スリップ状態Slcが閾値Slcthより小さいと判断する(路面摩擦係数μが大きい場合には、路面が滑り難いのでスリップし難くスリップ状態Slicが小さいと判断される。)。
【0051】
なお、スリップ状態Slcは、左右の前輪22についての路面摩擦係数μとして求めてもよく、さらには、上記のスリップ状態判断制動力指令値Fbsの出力を開始したときの車速Vsと、同出力を終了したときの車速Vsの差あるいは比を、予め既知の異なる路面摩擦係数μの道路で取得しておいた上記のスリップ状態判断制動力指令値Fbsの出力を開始したときの車速Vsと、出力を終了したときの車速Vsの差あるいは比と比較して判断することもできる。
【0052】
スリップ状態Slcが閾値Slcthより大きい(路面が滑り易い)と判断したときで車両10の旋回時に、VSA制御部94は、操舵角θsと車速Vsとから運転者がどの程度旋回しようとしているのかを示す基準ヨーレートYsを車両の運動モデル等に基づき基準ヨーレート算出部96により算出する。この基準ヨーレートYsを目標値として、ヨーレートセンサ82によりリアルタイムに検出される実ヨーレートYrと比較する。
【0053】
実ヨーレートYrが基準ヨーレートYsより大きい場合(Yr>Ys)、オーバーステアとなっている可能性がある、換言すれば、急ハンドル等により回りすぎてスピンする可能性があると判断し、前輪22中、外側の車輪に自動ブレーキをかけ外向きの力を発生させる。例えば、左旋回している場合には、右前輪22Rに自動ブレーキ制御部92を通じブレーキアクチュエータ51を介してブレーキをかけ、右旋回方向の力を発生させる。
【0054】
その一方、実ヨーレートYrが基準ヨーレートYsより小さい場合(Yr<Ys)、アンダーステアとなっている可能性がある、換言すれば、カーブ路等で曲がりきれず外にふくらむ可能性があると判断し、スロットルアクチュエータ32を通じてスロットルバルブ33のスロットル開度を絞ってエンジン出力を抑えるとともに、必要に応じて後輪24中、内側の車輪にブレーキをかけ車両10をより曲げる内向きの力を発生させる。例えば、左旋回している場合には、左後輪24Lに自動ブレーキ制御部92を通じブレーキアクチュエータ51を介してブレーキをかけ、左旋回方向の力を発生させる。
【0055】
このように、車両10の旋回時にブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧をVSA制御部94による制御下に独立に制御すれば、左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10のヨーモーメントを任意に制御し、旋回時におけるアンダーステアの発生の回避及びオーバーステアやスピンの発生を回避して、車両10の挙動を安定させることができる。
【0056】
(2)自動ブレーキ制御
自動ブレーキ制御は、車両10の前方の障害物に対する接触余裕値が所定値以下になったときに自動ブレーキ(減速支援)を行う制御である。
【0057】
自動ブレーキ制御部92は、車両10の前方の障害物に対する接触余裕値としての接触余裕時間TTC(TTC=L/Vr)に基づき自動ブレーキ(減速支援)の要否を判断する。車両10前方の障害物(前走車も含む。)との相対距離Lに基づき判断してもよい。
【0058】
この場合、接触余裕時間TTCの閾値は、例えば、車速Vsに拘わらず一定の時間(1[s]〜3[s]程度の時間)が閾値とされるが、相対距離Lの閾値は、車速Vsが小さいほど、小さい距離(短い距離であって、70[m]〜30[m]前後)が閾値に設定される。もちろん、接触余裕時間TTCの閾値は、車速Vs、運転者による操向ハンドル70の操舵状況等により変えてもよい。
【0059】
接触余裕時間TTCが小さいほど、障害物との接触可能性が大きくなるので、接触余裕時間TTCが、予め定めた閾値(後述する所定値TH1)より小さいとき、車両10と障害物との接触を回避するために、自動ブレーキ(減速支援制御)を行う。
【0060】
具体的には、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCを緩和するのに必要な減速度Dを発生するために、ブレーキアクチュエータ51〜54に対する適切な制動力を付与する制動力指令値Fbを算出し、油圧制御装置44に出力する。これにより制動力指令値Fbに応じた制動油圧が油圧制御装置44で発生され、発生された制動油圧によりブレーキアクチュエータ51〜54を通じて車輪22、24に対して制動力が加えられる。
【0061】
なお、自動ブレーキ制御部92は、アクセルペダル26の操作量θaからアクセルペダル26が踏まれていると判断した場合には、同時にスロットルアクチュエータ32を制御し、スロットルバルブ33を所定量閉方向に操作(スロットルバイワイヤ)させるようにしてもよい(図1中、ECU20からスロットルアクチュエータ32へ向かう点線の矢線参照)。
【0062】
この実施形態では、自動ブレーキ制御部92が付与する制動力の特性(制動力付与特性)を、低路面摩擦係数(以下「低μ」ともいう。)用と、高路面摩擦係数(以下「高μ」)用とで使い分ける。すなわち、図3に示すように、路面摩擦係数μに応じて、低μ用の制動力付与特性Clow(以下「特性Clow」ともいう。)又は高μ用の制動力付与特性Chigh(以下「特性Chigh」ともいう。)を用いる。
【0063】
図3に示すように、低μ用の特性Clowは、接触余裕時間TTCが相対的に大きいとき(接触余裕時間TTCが所定値TH1以下)から、制動力の目標値としての目標減速度Dtgt[G]を増加させ、ブレーキアクチュエータ51〜54を作動させて各車輪22R、22L、24R、24Lに制動力を付与する。その一方、高μ用の特性Chighは、接触余裕時間TTCが相対的に小さいとき(接触余裕時間TTCが所定値TH2以下)から、目標減速度Dtgtを増加させ、ブレーキアクチュエータ51〜54を作動させて各車輪22R、22L、24R、24Lに制動力を付与する。
【0064】
低μ用の特性Clowでは、接触余裕時間TTCが所定値TH1から短くなっていき(図3中左側に向かって)目標減速度Dtgtが増加を始めると、一旦、その最大値Dlmaxまで上昇する。その後、目標減速度Dtgtを徐々に減少させ、所定値Dllまで下降させる。一方、高μ用の特性Chighでは、接触余裕時間TTCが短くなっていき(図3中左側に向かって)目標減速度Dtgtが所定値TH2から増加を始めると、その最大値Dhmaxまで上昇した後は、最大値Dhmaxを維持する。
【0065】
なお、図3に示すように、低μ用の特性Clowの方が高μ用の特性Chighよりもより長い接触余裕時間TTCで制動力を発生させる。また、高μ用の最大値Dhmaxは、低μ用の最大値Dlmaxよりも高い。さらに、接触余裕時間TTCが所定値TH3になるまで、低μ用の制動力付与特性Clowの方が高μ用の制動力付与特性Chighよりも目標減速度Dtgtが大きいが、接触余裕時間TTCが所定値TH3で両者の目標減速度Dtgtが等しくなる。そして、接触余裕時間TTCが所定値TH3より短くなると、高μ用の制動力付与特性Chighの方が低μ用の制動力付与特性Clowよりも目標減速度Dtgtが大きくなる。これらは、低μの路面よりも高μの路面の方が、より大きな減速度で急激に減速することが可能である(減速し易い)ことを考慮したためである。
【0066】
また、本実施形態では、自動ブレーキ(減速支援制御)の前に、左右の後輪24に制動力を付与して路面摩擦係数μ(第1路面摩擦係数μ1)を推定する。すなわち、接触余裕時間TTCが所定値TH0となったときに第1路面摩擦係数μ1を推定する。ここでの制動力の付与は、第1路面摩擦係数μ1の推定を目的とするものであり、車両10の減速は目的としていない。第1路面摩擦係数μ1としては、低μと高μの2つがあるが、より細かい区分にしてもよい。また、左右の後輪24の代わりに、左右の前輪22に制動力を付与して第1路面摩擦係数μ1を推定してもよい。
【0067】
その後、接触余裕時間TTCが所定値TH1以下(低μの場合)又は所定値TH2以下(高μの場合)になると、自動ブレーキ制御部92は、車両10を減速させるために、4輪全て(左右の前輪22、左右の後輪24)に制動力を付与する。その間、各車輪22、24に対する制動力に基づいて路面摩擦係数μ(第2路面摩擦係数μ2)を継続的に推定する。第1路面摩擦係数μ1と同様、第2路面摩擦係数μ2も低μと高μの2つに分けられるが、より細かい区分にしてもよい。
【0068】
そして、左右の後輪24に関する第1路面摩擦係数μ1と、各車輪22、24に関する第2路面摩擦係数μ2とが異なる場合、自動ブレーキ制御部92は、第2路面摩擦係数μ2に応じて制動力付与特性を切り替える。また、第2路面摩擦係数μ2に応じた制動力付与特性に切り替えた後に、新たな第2路面摩擦係数μ2がそれまでの第2路面摩擦係数μ2と異なる場合、新たな第2路面摩擦係数μ2に応じた制動力付与特性に切り替える。
【0069】
図4には、第1路面摩擦係数μ1が低μであり、その後の第2路面摩擦係数μ2が高μとなった際、低μ用の制動力付与特性Clow(図4中、実線)を高μ用の制動力付与特性Chigh(図4中、一点鎖線)に切り替えた様子の一例が示されている。
【0070】
図4に示すように、低μ用の特性Clowを高μ用の特性Chighに切り替えた場合、高μ用の特性Chighの最大値Dhmax(便宜的に「最大値Dhmax(新)」ともいう。)は、図3における最大値Dhmax(便宜的に「最大値Dhmax(旧)」ともいう。)よりも低く設定される。すなわち、図3と異なり、図4の高μ用の特性Chighでは点線部分を用いずに、接触余裕時間TTCが所定値TH3以下で最大値Dhmax(新)となる。これは、次のような理由による。すなわち、低μ用の特性Clowから高μ用の特性Chighに切り替えた時点の接触余裕時間TTCが、所定値TH3以下である場合、それまでに接触余裕時間TTCが所定値TH1からTH3までであった間、低μ用の特性Clowが用いられていたこととなる。接触余裕時間TTCが所定値TH1からTH3までは、低μ用の特性Clowの方が高μ用の特性Chighよりも目標減速度Dtgtが高く設定される。そうすると、接触余裕時間TTCが所定値TH1からTH3までは、その分、制動力が付与されていたことになる。換言すると、高μ用の特性Chighのみを用いていたのであれば、目標減速度Dtgtを最大値Dhmax(旧)まで増加しなければならなかったところ、最大値Dhmax(新)に維持するのみでも、車両10を十分に減速させることができる。
【0071】
図5には、第1路面摩擦係数μ1が高μであり、その後の第2路面摩擦係数μ2が低μとなった際、高μ用の制動力付与特性Chigh(図5中、一点鎖線)を低μ用の制動力付与特性Clow(図5中、実線)に切り替えた様子の一例が示されている。
【0072】
図5に示すように、高μ用の特性Chighを低μ用の特性Clowに切り替えた場合、低μ用の特性Clowの最大値Dlmax(便宜的に「最大値Dlmax(新)」ともいう。)は、第2路面摩擦係数μ2の値に応じて、図3及び図4における最大値Dlmax(便宜的に「最大値Dlmax(旧)」ともいう。)よりも低く設定することができる。推定した第2路面摩擦係数μ2の路面に対してタイヤが発生可能な減速度D{この場合は最大値Dlmax(新)}に抑えることで、最適な減速が可能となる。また、後述するように、第2路面摩擦係数μ2の判定切替え(高μ⇔低μ)には、ヒステリシス特性を設けているためでもある。
【0073】
図6は、本実施形態の自動ブレーキ制御のフローチャートである。ステップS1において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCを判定する。ステップS2において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCが所定値TH0以下であるかどうかを判定する。接触余裕時間TTCが所定値TH0以下でない場合(S2:NO)、ステップS1に戻る。接触余裕時間TTCが所定値TH0以下である場合(S2:YES)、ステップS3において、自動ブレーキ制御部92は、左右の後輪24に対する制動力に伴う減速度Dに基づいて第1路面摩擦係数μ1を推定する。第1路面摩擦係数μ1は、例えば、スリップ状態判定部98が推定した路面摩擦係数μを用いてもよく、或いは、自動ブレーキ制御部92が独自に路面摩擦係数μを推定してもよい。また、上述の通り、左右の後輪24の代わりに、左右の前輪22に制動力を付与して第1路面摩擦係数μ1を推定してもよい。続くステップS4において、自動ブレーキ制御部92は、車両10の減速を支援する減速支援制御を路面摩擦係数μに応じて行う。
【0074】
図7は、前記減速支援制御の詳細を示すフローチャートである。ステップS11において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCを判定する。なお、図7の処理が最初の場合、図6のステップS1の判定結果を用いることで、ステップS11は省略してもよい。
【0075】
ステップS12において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCが所定値TH1以下であるかどうかを判定する。接触余裕時間TTCが所定値TH1以下でない場合(S12:NO)、車両10を減速させる必要がないと判断して、今回のステップS4を終了する。接触余裕時間TTCが所定値TH1以下である場合(S12:YES)、ステップS13に進む。
【0076】
ステップS13において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCが所定値TH3以下であるかどうかを判定する。接触余裕時間TTCが所定値TH3以下である場合(S13:YES)、ステップS15に進む。接触余裕時間TTCが所定値TH3以下でない場合(S13:NO)、ステップS14において、自動ブレーキ制御部92は、上記のアンチロックブレーキ制御を実行中であるかどうか{ABS(Anti-lock Brake System)機能を作動中であるかどうか}を判定する。ABS機能が作動中である場合(S14:YES)、自動的な制動力を付与する必要がないほどブレーキペダル40が踏み込まれていると判断できる。そこで、この場合、自動的な制動力を付与(S15)をせずにステップS16に進む。ABS機能が作動中でない場合(S14:NO)、ステップS15に進む。
【0077】
ステップS15において、自動ブレーキ制御部92は、4輪全て(左右の前輪22及び左右の後輪24それぞれ)に制動力を付与する。付与する制動力は、第1路面摩擦係数μ1が低μか高μかに応じて高μ用の制動力付与特性Chigh又は低μ用の制動力付与特性Clowを用い、現時点での接触余裕時間TTCに応じた制動力を全ての車輪22、24に付与する。
【0078】
ステップS16において、自動ブレーキ制御部92は、車両10の減速度Dを算出する。減速度Dとしては、前後Gセンサ85が検出した前後G(減速G)を用いることができる。
【0079】
ステップS17において、自動ブレーキ制御部92は、ステップS16で判定した減速度Dに基づいて第2路面摩擦係数μ2を推定する。第2路面摩擦係数μ2の推定は、図8に示す特性を用いて行う。
【0080】
図8には、基準推定特性Crと、第1推定特性Clと、第2推定特性C2と、路面状態判定閾値THμが示されている。基準推定特性Crは、減速度Dに基づいて第2路面摩擦係数μ2を推定するための基準となる判定特性であるが、本実施形態では、実際には用いない。第1推定特性C1は、現時点の判定が高μである場合に減速度Dに基づいて第2路面摩擦係数μ2を推定するための特性である。第2推定特性C2は、現時点の判定が低μである場合に減速度Dに基づいて第2路面摩擦係数μ2を推定するための特性である。路面状態判定閾値THμ(以下「閾値THμ」ともいう。)(例えば、0.4)は、第2路面摩擦係数μ2が高μであるか低μであるかを判定するための閾値であり、図8では、閾値THμ以上のとき高μと判定し、閾値THμ未満のとき低μと判定する。
【0081】
図7のステップS18において、自動ブレーキ制御部92は、第2路面摩擦係数μ2の状態を判定する。図8に示すように、基準推定特性Crによれば、減速度Dが所定値THr(例えば、0.4)以上のとき路面状態が高μであり、減速度Dが所定値THr未満のとき路面状態が低μである。なお、基本的には、第2路面摩擦抵抗μ2と、発生可能な減速度Dは同じとなる。
【0082】
現在の判定が高μであり第1推定特性C1を用いている状態で減速度Dが所定値THa(例えば、0.3)未満のとき、ステップS19において、自動ブレーキ制御部92は、ABS機能が作動中であるかどうかを判定する。ABS機能が作動中である場合(S19:YES)、ステップS20において、自動ブレーキ制御部92は、判定を低μに切り替える。ABS機能が作動中でない場合(S19:NO)、ステップS21において、自動ブレーキ制御部92は、判定を高μのままとし、現在の制動力付与特性を維持する。このように、高μから低μへの変化に際しては、ステップS19において、ABS機能が作動中であるかどうかを判定し、ABS機能が作動中である場合にのみ低μへの切替えを行う。これは、高μでの緩い減速のとき(所定値THa以下)のときに低μと誤判定することを避けるためである。
【0083】
ステップS18において、現在の判定が高μであり第1推定特性C1を用いている状態で減速度Dが所定値THa以上のとき、ステップS21において、自動ブレーキ制御部92は、判定を高μのままとする。
【0084】
また、ステップS18において、現在の判定が低μであり第2推定特性C2を用いている状態で減速度Dが所定値THb(例えば、0.5)以上のとき、ステップS22において、自動ブレーキ制御部92は、判定を高μに切り替え、減速度Dが所定値THb未満のとき、ステップS21において、自動ブレーキ制御部92は、判定を低μのままとする。従って、第1推定特性C1及び第2推定特性C2を用いることで、基準推定特性Crを用いるよりも、判定の切替えが起こり難くなっている。換言すると、本実施形態では、高μと低μとの判定切替えにヒステリシス特性を設けている。
【0085】
図6に戻り、ステップS5において、自動ブレーキ制御部92は、接触余裕時間TTCが所定値TH1以下であるかどうかを判定する。接触余裕時間TTCが所定値TH1以下である場合、減速支援制御を継続するためにステップS4に戻る。接触余裕時間TTCが所定値TH1以下でない場合(S5:NO)、車両10は、障害物(車両12等)から十分に離れたと考えられるため、減速支援制御を終了し、今回の処理を終える。
【0086】
(3)操舵アシスト制御
操舵アシスト制御部90は、接触余裕時間TTCに加えて、操舵角センサ72より得られる中点(車両10が所定時間直線走行しているとみなしたときの操舵角θ)からの操舵角θs、この操舵角θsを時間微分した操舵角速度dθs/dt、横Gセンサ84で検出される横G、及びヨーレートセンサ82で検出されるヨーレート(実ヨーレート)Yrを考慮して判定される。すなわち、操舵角θs、操舵角速度dθs/dt、横G、及びヨーレートYr等を変数として、運転者の回避操作状況SEが、予め定めた関数であるSE=SE(θs,dθs/dt,横G,Yr)として数値化され、この値が、回避アシスト操作が必要な値(閾値Thse)あるいはこれを下回る値になっていると判定した場合、回避操舵アシスト制御が作動する。
【0087】
この場合、操舵角θsと車速Vsに応じて算出される基準ヨーレートYsが、操舵アシスト制御部90によりアシストヨーレートYaに変更される。
【0088】
アシストヨーレートYaを算出する際、上述した目標横回避距離Dtと、横距離D(自車中心軸線10cに対する他車中心軸線12cとの間のずれ量)との差に所定ゲインを乗算してアシスト横加速度を算出する。さらにこのアシスト横加速度を車速Vsで除算してアシストヨーレートYaを算出する。
【0089】
操舵アシスト制御部90は、このようにして算出したアシストヨーレートYaを発生させる回避操舵アシスト指令値Fseをステアリングアクチュエータ76に出力する。
【0090】
これによりステアリングアクチュエータ76から回避操舵アシスト指令値Fseに応じた操舵アシストトルクが操舵機構74に加えられることで、車両10の旋回挙動が前記アシストヨーレートYaにより制御されアシストされる。
【0091】
図9は、操舵角θs及びその単位時間当たりの変化量Δθsと、路面が低μのときの操舵アシストトルクTQ(以下「アシストトルクTQl」ともいう。)と、路面が高μのときの操舵アシストトルク(以下「アシストトルクTQh」ともいう。)との関係を示している。
【0092】
図9に示すように、低μ用のアシストトルクTQlが、相対的に低い値で継続的に発生されるのに対し、高μ用のアシストトルクTQは、相対的に高い値で瞬間的に発生される。より具体的には、アシストトルクTQlは、操舵角θsと変化量Δθsの関数{TQl=F1(θs、Δθs)}であるのに対し、アシストトルクTQhは、変化量Δθsの関数{TQh=F2(Δθs)}である。これは、路面摩擦係数μが低いとき、操舵角θsを過度に大きくすると車両10がスリップすることを防止するためであると共に、路面摩擦係数μが高いとき、操舵角θsを大きくしても、車両10はスリップせずに転舵することができるため、操向ハンドル70を切り始めたときのみのアシストでステアリングアクチュエータ76による初期の切り難さを改善することを考慮したものである。
【0093】
以上により、VSA制御部94による車両姿勢安定化制御の作動条件の例と、自動ブレーキ制御部92による接触回避自動ブレーキ制御の作動条件の例と、操舵アシスト制御部90による接触回避操舵アシスト制御(回避操舵アシスト制御)の作動条件の例について説明したが、操舵アシスト制御部90は、ステアリングアクチュエータ76及び操舵機構74を通じて操舵輪である前輪22の舵角を制御することで操舵を行うのに対し、VSA制御部94は、オーバーステアによるスピン及びアンダーステアによるふくらみを逆方向のヨーモーメントを発生して制御するものであり、結果として操舵及びブレーキを制御するので、実際上、自動ブレーキ制御部92、操舵アシスト制御部90及びVSA制御部94は、同時に作動する場合ある。
【0094】
(4)自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御の適用例
図10は、本実施形態の自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御を適用した場面の一例を示している。時点t1において、車両(自車)10と停止中の車両(他車)12との間の接触余裕時間TTCが所定値TH0になると、自動ブレーキ制御部92は、左右の後輪24に対する制動力に基づいて第1路面摩擦係数μ1を推定する。なお、左右の前輪22に対する制動力に基づいて第1路面摩擦係数μ1を推定してもよい。
【0095】
時点t2において、接触余裕時間TTCが所定値TH1になると、自動ブレーキ制御部92は、自動ブレーキ(減速支援制御)を開始する。そして、全ての車輪(左右の前輪22、左右の後輪24)に対する制動力(前後G)に基づいて第2路面摩擦係数μ2を連続的に推定する。その結果、第2路面摩擦係数μ2の判定が、第1路面摩擦係数μ1の判定と異なると、第2路面摩擦係数μ2の判定に応じた制動力付与特性に切り替えられる。
【0096】
時点t3において、自車10の操向ハンドル70が転舵されると、操舵アシスト制御部90は、時点t3における路面摩擦係数μ(第1路面摩擦係数μ1又は第2路面摩擦係数μ2)に応じた操舵アシスト制御を開始する。その後、時点t4において自車10の操向ハンドル70の転舵が終了するまで自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御を行う。
【0097】
3.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、減速支援制御に先立って、左右の後輪24(又は左右の前輪22)に対して制動力を付与することにより第1路面摩擦係数μ1を推定する。これにより、制動力付与による車両10の減速を運転者に意識させ難くしつつ、第1路面摩擦係数μ1を推定することができる。また、減速支援制御の最中は、車両10の減速に伴って第2路面摩擦係数μ2を推定する。そして、第2路面摩擦係数μ2が、第1路面摩擦係数μ1と異なる場合、第2路面摩擦係数μ2に基づいて減速支援制御を行う。このため、減速支援制御中に路面状態(路面摩擦係数μ)が変化しても、当該変化に応じた減速支援制御を行うことができる。さらに、減速支援制御中は、4つの車輪22R、22L、24R、24Lに対する制動力により第2路面摩擦係数μ2を推定するため、より精度よく第2路面摩擦係数μ2を推定することができる。
【0098】
本実施形態の自動ブレーキ制御では、低μ用の制動力付与特性Clowは、高μ用の制動力付与特性Chighと比較して、接触余裕時間TTCが大きいときから自動的な制動力の付与を開始すると共に自動的な制動力の最大値Dlmaxを小さくする。これにより、路面摩擦係数μが低いとき、早めに小さな自動的な制動力を付与することで車体を安定させながら車両10を減速することができる。また、判定結果として用いる路面摩擦係数μ(第1路面摩擦係数μ1又は第2路面摩擦係数μ2)が高いとき、自動的な制動力の付与をより遅く付与することで、不要な制動力の付与を回避することが可能となる。
【0099】
本実施形態の自動ブレーキ制御では、第2路面摩擦係数μ2が第1路面摩擦係数μ1よりも小さいとき、高μ用の減速支援制御から低μ用の減速支援制御に切り替え、低μ用の減速支援制御では、低μ用の制動力付与特性Clowの最大値Dlmaxを減少させる(図5)。これにより、路面摩擦係数μに応じた最適な減速が可能となる。
【0100】
本実施形態の自動ブレーキ制御では、第2路面摩擦係数μ2が第1路面摩擦係数μ1よりも大きいとき、低μ用の減速支援制御から高μ用の減速支援制御に切り替え、高μ用の減速支援制御では、高μ用の制動力付与特性Chighの最大値Dhmaxを減少させる(図4)。低μ用の制動力付与特性Clowでは、高μ用の制動力付与特性Chighよりも早めに自動的な制動力の付与が開始される。このため、低μ用の減速支援制御から高μ用の減速支援制御に切り替わった際、既に早めの制動力の付与が行われている。このため、高μ用の制動力付与特性Chighの最大値Dhmaxを減少させても車両10を十分に減速させることが可能であると共に、高μ用の制動力付与特性Chighをそのまま用いた場合に大きな制動力が働くことによる運転者の違和感を低減させることができる。
【0101】
B.変形例
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0102】
上記実施形態では、接触余裕値として接触余裕時間TTCを用いたが、これに限られず、例えば、自車10と他車12(障害物)との相対距離Lを接触余裕値として用いてもよい。
【0103】
上記実施形態では、自車10と他車12(障害物)との接触余裕時間TTCの判定をレーダ80の出力に基づいて行ったが、これに限られず、例えば、画像センサからの出力を用いて判定してもよい。
【0104】
上記実施形態では、車両10は四輪車であったが、これに限られず、例えば、二輪車、トラック、バス等であってもよい。
【0105】
上記実施形態では、自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御において、路面摩擦係数μの切替え判定を行ったが、これに限られず、例えば、車両姿勢安定化制御や特許文献2のアンチスキッド制御において、上記のような切替え判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0106】
10…車両(自車) 12…障害物としての車両(他車)
14…車両接触回避支援装置
20…ECU(第1路面摩擦係数推定手段、第2路面摩擦係数推定手段、接触余裕値算出手段、車両接触回避支援制御手段)
22…前輪 24…後輪
80…レーダ(相対位置検出手段) 90…操舵アシスト制御部
92…自動ブレーキ制御部 94…VSA制御部
96…基準ヨーレート算出部 98…スリップ状態判定部
100…接触回避支援制御部 Chigh…高μ用の制動力付与特性
Clow…低μ用の制動力付与特性 D…減速度
Dhmax…高μ用の最大値 Dlmax…低μ用の最大値
TQh…高μ用の操舵アシストトルク TQl…低μ用の操舵アシストトルク
TTC…接触余裕時間 μ1…第1路面摩擦係数
μ2…第2路面摩擦係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の障害物と該車両との位置関係に応じて前記障害物との接触回避の支援を行う車両接触回避支援装置であって、
左右の前輪及び左右の後輪に対する制動力の付与による前記車両の減速に先立って、前記左右の前輪又は前記左右の後輪に対して制動力を付与することにより第1路面摩擦係数を推定する第1路面摩擦係数推定手段と、
前記車両と前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、
前記相対位置検出手段によって検出された車両前方の障害物との相対位置に基づいて前記車両と前記障害物との接触余裕値を算出する接触余裕値算出手段と、
前記接触余裕値が所定値以下である場合に、前記第1路面摩擦係数に基づいて前記障害物との接触回避の支援制御を行う車両接触回避支援制御手段と、
前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力の付与による前記車両の減速の最中に、前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力に基づいて第2路面摩擦係数を推定する第2路面摩擦係数推定手段と
を備え、
前記車両接触回避支援制御手段は、前記第1路面摩擦係数と前記第2路面摩擦係数とが異なる場合、前記第2路面摩擦係数に基づき前記接触回避の支援制御を行う
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両接触回避支援装置において、
前記第2路面摩擦係数推定手段は、前記車両接触回避支援制御手段による支援制御中に発生した前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対する制動力によって発生する前記車両の減速度に基づいて前記第2路面摩擦係数を推定する
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両接触回避支援装置において、
前記車両接触回避支援制御手段は、前記第2路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第1路面摩擦係数よりも小さいとき、低路面摩擦係数用の支援制御を行う
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両接触回避支援装置において、
前記車両接触回避支援制御手段は、前記第2路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数推定手段によって推定された前記第1路面摩擦係数よりも大きいとき、高路面摩擦係数用の支援制御を行う
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項5】
請求項3に従属する請求項4記載の車両接触回避支援装置において、
前記支援制御は、前記左右の前輪及び前記左右の後輪に対して自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御であり、
前記低路面摩擦係数用の制動力付与特性では、前記高路面摩擦係数用の制動力付与特性と比較して、前記接触余裕値が大きいときから前記自動的な制動力の付与を開始すると共に前記自動的な制動力の最大値が小さい
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項6】
請求項5記載の車両接触回避支援装置において、
前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数よりも小さいとき、前記高路面摩擦係数用の支援制御から前記低路面摩擦係数用の支援制御に切り替え、
前記低路面摩擦係数用の支援制御では、前記低路面摩擦係数用の制動力付与特性の最大値を前記第2路面摩擦係数に応じて設定する
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項7】
請求項5又は6記載の車両接触回避支援装置において、
前記第2路面摩擦係数が前記第1路面摩擦係数よりも大きいとき、前記低路面摩擦係数用の支援制御から前記高路面摩擦係数用の支援制御に切り替え、
前記高路面摩擦係数用の支援制御では、前記高路面摩擦係数用の制動力付与特性の最大値を減少させる
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両接触回避支援装置において、
前記支援制御は、ステアリングに対して自動的なトルクを発生させる操舵アシスト制御であり、
前記低路面摩擦係数用の支援制御では、前記高路面摩擦係数用の支援制御と比較して、低いトルクを継続的に付与する
ことを特徴とする車両接触回避支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−25815(P2011−25815A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173264(P2009−173264)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】