説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ドライバーの加速フィーリングの向上を図ると共に、車両パワーを円滑に推移させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンEngとモータ(モータ/ジェネレータ)MGを有する駆動源と、モータMGと駆動輪LT,RTとの間に配置された無段変速機CVTとを駆動系に備えると共に、無段変速機CVTの変速制御を実行する変速制御手段(図5)を備えたハイブリッド車両の制御装置において、モータMG及びバッテリ9の状態から、モータアシスト可能なアシストパワー量を算出するアシストパワー量算出手段(ステップS4)を備えている。そして、変速制御手段(図5)は、無段変速機CVTの変速比をダウンシフト方向に変速する車両加速中に、この変速比をアップシフト方向に間欠的に変速する。さらに、このアップシフトに伴って生じるエンジンパワー減少量は、アシストパワー量以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータを駆動源に有すると共に、無段変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクセル操作量及び車速に基づいて、理想的な加速度波形である要求加速度波形が得られる目標駆動力を、定常時を対象とする静的目標駆動力と、動的補正値との和から演算すると共に、この動的補正値の分の駆動力をモータにより実現するハイブリッド車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-355477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドライバーは、車両が実際に加速することだけでなく、エンジン回転数が上昇することによっても加速感を感じる傾向がある。しかしながら、従来のハイブリッド車両の制御装置では、特に加速の後半でエンジン回転数が上がりきって回転が停滞している状態等においては加速感を感じることができず、ドライバーに違和感を与えるという問題があった。また、変速機をアップシフトするとエンジンパワーは低下するため、再度ダウンシフトすればエンジン回転数を増加できるが、エンジンパワーの減少分をモータパワーによって補うことができなければ、アップシフトによって車両の駆動パワーが落ち、駆動パワーに落ち込み(段差)が生じる懸念もあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ドライバーの加速フィーリングの向上を図ると共に、車両パワーを円滑に推移させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、エンジンとモータを有する駆動源と、モータと駆動輪との間に配置された無段変速機とを駆動系に備えると共に、無段変速機の変速制御を実行する変速制御手段を備えたハイブリッド車両の制御装置において、モータ及びモータに給電するバッテリの状態から、モータアシスト可能なアシストパワー量を算出するアシストパワー量算出手段を備えている。そして、変速制御手段は、無段変速機の変速比をダウンシフト方向に変速する車両加速中に、この変速比をアップシフト方向に間欠的に変速する。さらに、このアップシフトに伴って生じるエンジンパワー減少量は、アシストパワー量以下にする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明のハイブリッド車両の制御装置にあっては、ダウンシフト方向への変速中にアップシフト方向に間欠的に変速することで、エンジン回転数を間欠的に低下させて加速フィーリングに重要なエンジン回転数の上昇率を確保することができる。また、アップシフト方向への変速時に生じるエンジンパワーの減少量は、モータによるアシストパワー量によって補償することができ、駆動パワーの落ち込みの発生を抑制することができる。この結果、ドライバーの加速フィーリングの向上を図ると共に、車両パワーを円滑に推移させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の電動車両の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両の統合コントローラにて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の統合コントローラでの駆動パワー演算処理を行う際に用いられる目標駆動力マップを示す図である。
【図4】実施例1の統合コントローラでの閾値回転数演算処理を行う際に用いられるエンジンパワー特性を示す図である。
【図5】実施例1の統合コントローラにて実行される変速制御処理(変速機制御手段)の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1のパラレルハイブリッド車両の制御装置における変速制御処理におけるアクセル開度・車速・モータアシストパワー量・目標駆動力・要求駆動パワー・変速信号・エンジン回転数・実駆動パワー・実駆動力の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。以下、図1に基づいて、駆動系及び制御系の構成を説明する。
【0011】
実施例1のパラレルハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、無段変速機CVTと、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、を備えている。
【0012】
実施例1のハイブリッド駆動系は、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、準電気自動車走行モード(以下、「準EVモード」という。)と、駆動トルクコントロール発進モード(以下、「WSCモード」という。)等の走行モードを有する。
【0013】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を解放状態とし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータアシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。前記「準EVモード」は、第1クラッチCL1が締結状態であるがエンジンEngをOFFとし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「WSCモード」は、「HEVモード」からのP,N→Dセレクト発進時、または、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時等において、モータ/ジェネレータMGを回転数制御させることで第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバー操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。なお、「WSC」とは「Wet Start clutch」の略である。
【0014】
前記エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
【0015】
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時締結(ノーマルクローズ)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng〜モータ/ジェネレータMG間の締結/半締結/解放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、解放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/解放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
【0016】
前記モータ/ジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリ9への回収を行なうものである。
【0017】
前記第2クラッチCL2は、ノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキであり、クラッチ油圧(押付力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。この第2クラッチCL2は、無段変速機CVTおよびファイナルギヤFGを介し、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG(第1クラッチCL1が締結されている場合)から出力されたトルクを左右駆動輪LT,RTへと伝達する。
なお、第2クラッチCL2としては、図1に示すように、独立のクラッチをモータ/ジェネレータMGと無段変速機CVTの間の位置に設定する以外に、無段変速機CVTと左右駆動輪LT,RTの間の位置に設定しても良い。
【0018】
前記無段変速機CVTは、変速機入力軸inputに接続したプライマリプーリPrPと、変速機出力軸outputに接続したセカンダリプーリSePと、プライマリプーリPrPとセカンダリプーリSePとの間に架け渡されたプーリベルトBEと、を有するベルト式無段変速機である。
【0019】
プライマリプーリPrPは、変速機入力軸inputに固定された固定シーブと、変速機入力軸inputに摺動自在に支持された可動シーブと、を有している。セカンダリプーリSePは、変速機出力軸outputに固定された固定シーブと、変速機出力軸outputに摺動自在に支持された可動シーブと、を有している。
【0020】
プーリベルトBEは、プライマリプーリPrPとセカンダリプーリSePとの間に巻き掛けられた金属ベルトであり、それぞれの固定シーブと可動シーブとの間に狭持される。ここでは、固定シーブと可動シーブとのそれぞれに接する傾斜面を両側にもった多数のエレメントの両側に、薄板を層状に重ねると共に円環状に形成したリング2組を挟み込ませることで構成された、いわゆるVDT型ベルトを使用している。
【0021】
そして、両プーリPrP,SePのプーリ幅を変更し、プーリベルトBEの挟持面の径を変更して変速比(プーリ比)を自在に制御する。ここで、プライマリプーリPrPのプーリ幅が広くなると共に、セカンダリプーリSePのプーリ幅が狭くなると変速比がダウンシフト方向(Low側)に変化する。また、プライマリプーリPrPのプーリ幅が狭くなると共に、セカンダリプーリSePのプーリ幅が広くなると変速比がアップシフト方向(High側)に変化する。
【0022】
実施例1のパラレルハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)と、第2クラッチ出力回転数センサ(=変速機入力回転数センサ)7と、インバータ8と、バッテリ9と、アクセルポジションセンサ10と、エンジン回転数センサ11と、油温センサ12と、ストローク位置センサ13と、統合コントローラ14と、変速機コントローラ15と、クラッチコントローラ16と、エンジンコントローラ17と、モータコントローラ18と、バッテリコントローラ19と、ブレーキセンサ20等と、を備えている。
【0023】
前記インバータ8は、直流/交流の変換を行い、モータ/ジェネレータMGの駆動電流を生成する。バッテリ9は、モータ/ジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータ8を介して蓄積する。
【0024】
前記統合コントローラ14は、バッテリ状態、アクセル開度、車速(変速機出力回転数に同期した値)、作動油温等から目標駆動トルク(目標駆動力)を演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、無段変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15,16,17,18,19へと送信する。
【0025】
前記変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令を達成するように無段変速機CVTに供給される油圧制御等をして変速制御を行なう。
【0026】
前記クラッチコントローラ16は、第2クラッチ入力回転数センサ6と第2クラッチ出力回転数センサ7からのセンサ情報を入力すると共に、各クラッチ油圧(電流)指令値を実現するように、第1クラッチCL1にストローク量指令値を出力し、第2クラッチCL2にクラッチ油圧指令値を出力してソレノイドバルブの電流を制御する。これにより、第1クラッチCL1のクラッチストローク量が設定されると共に、第2クラッチCL2の押付力が設定される。なお、第1クラッチCL1のクラッチストローク量はストローク位置センサ13により検出される。
【0027】
前記エンジンコントローラ17は、エンジン回転数センサ11からのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。
【0028】
前記モータコントローラ18は、統合コントローラ14からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータ/ジェネレータMGの制御を行なう。
【0029】
前記バッテリコントローラ19は、バッテリ9のバッテリ充電量SOCを管理し、その情報を統合コントローラ14へと送信する。
【0030】
図2は、実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両の統合コントローラにて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。図3は、実施例1の統合コントローラでの駆動パワー演算処理を行う際に用いられる目標駆動力マップを示す図である。図4は、実施例1の統合コントローラでの閾値回転数演算処理を行う際に用いられるエンジンパワー特性を示す図である。
【0031】
前記統合コントローラ14は、図2に示すように、アシストパワー量演算部100と、要求駆動パワー演算部200と、指令値演算部300とを有する。
【0032】
前記アシストパワー量演算部100では、以下の手順によりモータ/ジェネレータMGの出力をエンジンEngの動作中にエンジン出力軸に付与するモータアシスト可能な、モータアシストパワー量を演算する。演算されたモータアシストパワー量は指令値演算部300に入力される。
1)バッテリSOCやバッテリ温度等のバッテリ状態から、バッテリ出力上限値を求める。
2)モータ/ジェネレータ温度等のモータ状態から、モータ出力上限値を求める。
3)上記バッテリ出力上限値と上記モータ出力上限値とのうち、値の小さい方を選択してモータアシストパワー量とする。
【0033】
前記要求駆動パワー演算部200では、以下の手順により駆動輪に伝達される要求駆動パワーを演算する。演算された要求駆動パワーは指令値演算部300に入力される。
1)図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力を探索により求める。
2)上記目標駆動力を実現するのに必要なパワーである要求駆動パワーを求める。なお、この要求駆動パワーを求めるには予め設定したマップ等から探索によって求めても良い。
【0034】
前記指令値演算部300では、モータアシストパワー量と、要求駆動パワーと、エンジン回転数等の入力情報に基づき、以下の手順によりエンジン回転数基準値と、ダウンシフト時上限閾値と、アップシフト時下限閾値とを演算し、変速指令を変速機コントローラ15に出力する。
1)要求駆動パワーを基準として、モータアシストパワー量をk:1−k(k<1)となる任意の比率で配分する。
2)アシスト上限パワーを、要求駆動パワーと、モータアシストパワー量×kとの和により設定する。
3)アシスト下限パワーを、駆動要求パワーと、モータアシストパワー量×(k−1)との和により設定する。
4)上記駆動要求パワーと、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をエンジン回転数基準値とする。
5)上記アシスト上限値と、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をダウンシフト時上限閾値とする。このダウンシフト時上限閾値は、無段変速機CVTをダウンシフト方向に変速した時に、上限になるエンジン回転数である。
6)上記アシスト下限値と、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をアップシフト時下限閾値とする。このアップシフト時上限閾値は、無段変速機CVTをアップシフト方向に変速したときに下限になるエンジン回転数である。
ここで、エンジンパワー特性(図4参照)は、駆動に必要なエンジンパワーと熱効率が最適になるエンジン動作点(エンジン回転数又はトルク)との相関を一義的に示す特性であり、無段変速機CVTの変速比は、エンジンパワーに応じて設定されるエンジン動作点に基づいて決定される。なお、図4に示すエンジンパワー特性マップでは、エンジン動作点としてエンジン回転数が設定されている。また、この図4に示すエンジンパワー特性マップがエンジンパワー特性設定手段に相当するが、エンジンパワー特性は、エンジンEngの大きさや種類、スペック等から決められる。
【0035】
図5は、実施例1の統合コントローラにて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである(変速制御手段)。以下、図5に示すフローチャートの各ステップについて説明する。
【0036】
ステップS1では、加速要求があるか否かを判断し、YES(加速要求あり)の場合はステップS2へ進み、NO(加速要求なし)の場合はステップS1を繰り返す。ここで、加速要求の有無はアクセル開度の大きさから判断し、アクセル開度が大きくなったら(アクセル踏み込み動作があったら)加速要求があると判断する。なお、このときの走行モードはHEVモードである。
【0037】
ステップS2では、ステップS1での加速要求ありとの判断に続き、バッテリSOC及びバッテリ温度から判断するバッテリ状態と、モータ温度から判断するモータ状態を読み込んで、ステップS3へ進む。
【0038】
ステップS3では、ステップS2で読み込んだバッテリ状態及びモータ状態からモータアシスト可能であるか否かを判断し、YES(アシスト可能)の場合はステップS4へ進み、NO(アシスト不可能)の場合はエンドへ進んで本変速制御を終了する。ここで、モータアシストとは、エンジンEngの出力軸にモータ/ジェネレータMGの出力トルク(パワー)を付与することである。アシスト可能の判断は、バッテリ状態及びモータ状態に基づいてモータ/ジェネレータMGからトルク(パワー)を出力できるか否かにより判断する。モータ/ジェネレータMGから出力可能であればモータアシスト可能と判断する。
【0039】
ステップS4では、ステップS3でのモータアシスト可能との判断に続き、モータアシストパワー量を演算し、ステップS5へ進む。ここで、モータアシストパワー量は、バッテリ状態から求めたバッテリ出力上限値と、モータ状態から求めたモータ出力上限値とのうち、値が小さい方を選択することで設定される。すなわち、モータアシストパワー量とは、モータ/ジェネレータMGから出力できる最大パワーである。
【0040】
ステップS5では、アクセルポジションセンサ10,第2クラッチ出力回転数センサ7等からの信号に基づいてアクセル開度APO及び車速VSPを読み込み、ステップS6へ進む。
【0041】
ステップS6では、ステップS5で読み込んだアクセル開度APO及び車速VSPに基づいて要求駆動パワーを演算し、ステップS7へ進む。ここで、要求駆動パワーとは、アクセル開度APO及び車速VSPと図3に示す目標駆動力マップを用いて、探索により求めた目標駆動力を実現するのに必要なパワーである。目標駆動力に対して要求駆動パワーは一義的に決まるため、探索により求めた目標駆動力から要求駆動パワーを演算する。
【0042】
ステップS7では、ダウンシフト時上限閾値及びアップシフト時下限閾値を演算し、ステップS8へ進む。なお、ダウンシフト時上限閾値は、無段変速機CVTをダウンシフト方向に変速した時に上限になるエンジン回転数である。また、アップシフト時下限閾値は、無段変速機CVTをアップシフト方向に変速したときに下限になるエンジン回転数である。
ここで、ダウンシフト時上限閾値及びアップシフト時下限閾値を演算するには、まず、ステップS6で求めた要求駆動パワーを基準(中心)として、ステップS4で求めたモータアシストパワー量をk:1−kとなる任意の比率で配分する。ここで、kは1以下の任意の数値である。
次に、要求駆動パワーとモータアシストパワー量×kとの和によりアシスト上限パワーを設定し、駆動要求パワーとモータアシストパワー量×(k−1)との和によりアシスト下限パワーを設定する。
そして、上記アシスト上限パワーと、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をダウンシフト時上限閾値とし、上記アシスト下限パワーと、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をアップシフト時下限閾値とする。さらに、上記駆動要求パワーと、図4に示すエンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をエンジン回転数基準値とする。
【0043】
ステップS8では、無段変速機CVTの変速比をダウンシフト方向に変速し、ステップS9へ進む。ここで、無段変速機CVTへの入力回転数は、エンジン回転数とモータ回転数とによって設定されるが、エンジン回転数を増加することで無段変速機CVTへの入力回転数を上昇させてダウンシフト方向への変速を実行する。
【0044】
ステップS9では、エンジン回転数がステップS7で求めたダウンシフト時上限閾値以上であるか否かを判断し、YES(閾値以上)の場合はステップS10へ進み、NO(閾値未満)の場合はステップS8へ戻る。
【0045】
ステップS10では、ステップS9でのエンジン回転数閾値以上との判断に続き、無段変速機CVTの変速比をアップシフト方向に変速し、ステップS11へ進む。ここで、アップシフト方向への変速は、エンジン回転数を減少することで無段変速機CVTへの入力回転数を低下させて実行する。また、このアップシフト方向への変速後の変速比it_2は、下記式1により算出される範囲内に抑える。
【0046】
it_2=it_1×(Tm_max_1−Tm_1)/Te ・・・(式1)
ただし、it_1:アップシフト方向への変速直前の変速比
Tm_max_1:アップシフト方向への変速前最大出力トルク
Tm_1:アップシフト方向への変速直前出力トルク
Te:エンジントルク
これは、it_2/it_1=1とすると共に、アップシフト方向への変速後最大出力トルクTm_max_2=Tm_max_1/kと表せることから導かれる。
【0047】
ステップS11では、エンジン回転数がステップS7で求めたアップシフト時下限閾値未満であるか否かを判断し、YES(閾値未満)の場合はステップS12へ進み、NO(閾値以上)の場合はステップS10へ戻る。
【0048】
ステップS12では、ステップS11でのエンジン回転数閾値未満との判断に続き、再度バッテリ状態及びモータ状態を読み込んでからモータアシスト可能であるか否かを判断し、YES(アシスト可能)の場合はステップS8へ戻り、NO(アシスト不可能)の場合はエンドへ進んで本変速制御を終了する。ここで、アシスト可能の判断は、バッテリ状態及びモータ状態に基づいてモータ/ジェネレータMGからトルク(パワー)出力できるか否かにより判断する。モータ/ジェネレータMGから出力可能であればモータアシスト可能と判断する。
【0049】
次に、作用を説明する。
図6は、実施例1のパラレルハイブリッド車両の制御装置における変速制御処理におけるアクセル開度・車速・モータアシストパワー量・目標駆動力・要求駆動パワー・変速信号・エンジン回転数・実駆動パワー・実駆動力の各特性を示すタイムチャートである。
【0050】
時刻t1時点でアクセル踏み込み動作が行われ、アクセル開度が大きく上昇すると、これに伴って加速要求が出力され、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2へと進んでバッテリ状態及びモータ状態を読み込み、モータアシスト可能であればステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6へと進んでモータアシストパワー量が演算されると共に、要求駆動パワーが演算される。さらに、ステップS7へと進んでダウンシフト時上限閾値及びアップシフト時下限閾値が求められる。
【0051】
そして、ステップS8へと進み、変速信号がdown(ダウンシフト方向への変速を指示)になると、エンジン回転数を増加して無段変速機CVTへの入力回転数を上昇させてダウンシフト方向に変速する。
【0052】
時刻t1以降、アクセル開度はほぼ一定に保たれると共に、無段変速機CVTのダウンシフト方向への変速に伴って車速は緩やかに上昇する。また、モータアシストパワー量は、モータアシストにより時間の経過と共に僅かに減少する。一方、目標駆動力は、時刻t2を境に次第に低下していき、要求駆動パワーは、時刻t1〜t2までの間に急激に上昇した後、車速に合わせてごく緩やかに上昇していく。
【0053】
そして、エンジン回転数は、時刻t2時点で増加率が小さくなり、急激な増加から比較的緩やかな増加へと変化して、時刻t2以降緩やかに増加していく。なお、このとき変速信号はdownのままであり、無段変速機CVTはエンジン回転数の増加によってダウンシフト方向への変速が維持される。
【0054】
さらに、このときの実駆動力は、モータアシストを行っているためにエンジン駆動力とモータ駆動力との合計になるが、図6において破線で示すエンジン駆動力だけでは目標駆動力に対して不足する分(図6における着色領域)をモータ駆動力で補うことで目標駆動力を実現している。ここで、エンジン駆動力は、ダウンシフト方向への変速の間ほぼ一定であるので、時間の経過と共に次第に減少する目標駆動力に合うようにモータ駆動力は次第に減少する。
【0055】
一方、実駆動パワーも、エンジン駆動パワーとモータ駆動パワーとの合計になるが、図6において破線で示すエンジン駆動パワーだけでは要求駆動パワーに対して不足する分(図6における着色領域)をモータ駆動パワーで補うことで目標駆動力を実現している。ここで、エンジン駆動パワーは、エンジン回転数の増加に応じて次第に増加するが、要求駆動パワーはほとんど変化しないので、モータ駆動パワーは要求駆動パワーに合わせて次第に減少することとなる。
【0056】
時刻t3時点で、エンジン回転数がダウンシフト時上限閾値に達すると、つまりステップS9においてYESと判断されると、変速信号がUP(アップシフト方向への変速を指示)となり、ステップS10へと進んでエンジン回転数を減少して無段変速機CVTへの入力回転数を低下させてアップシフト方向に変速する。なお、このアップシフト方向への変速後の変速比it_2は、上記式1により算出される範囲内に抑える。
【0057】
このとき、エンジン駆動力は、アップシフト方向への変速と同時に低下する。この駆動力の低下量は変速後の変速比it_2により決まるが、変速後の変速比it_2が式1により算出される範囲内に抑えられるので、モータアシスト可能な範囲内にアップシフト方向への変速時のレシオ変化を抑えることができ、エンジン駆動力の低下もモータアシスト可能な分だけの低下に抑えることができる。そのため、エンジン駆動力にモータ駆動力を合計することで目標駆動力を実現でき、アップシフト方向への変速によるエンジン駆動力の低下が生じても、実駆動力の落ち込みを防止し、目標駆動力に合わせて実駆動力を円滑に推移させることができる。
【0058】
また、エンジン駆動パワーも、エンジン回転数の減少に応じて低下するが、要求駆動パワーに対して不足する分をモータ駆動パワーで補って、要求駆動パワーを実現することができる。
【0059】
時刻t4時点で、エンジン回転数がアップシフト時下限閾値に達すると、つまりステップS11においてYESと判断されると、変速信号がdown(ダウンシフト方向への変速を指示)となり、ステップS12へと進んでモータアシストが可能であればステップS8に戻ってエンジン回転数を再び増加して無段変速機CVTをダウンシフト方向に変速する。このように、アップシフト方向への変速(時刻t3〜時刻t4)によってエンジン回転数を一旦減少させることで、加速フィーリングに重要なエンジン回転数の上昇率を維持することができて、ドライバーの加速フィーリングの向上を図ることができる。
【0060】
また、アップシフト方向への変速時のエンジンパワー変化は、エンジン回転数の減少下限値をアップシフト時下限閾値とすることで、モータアシスト可能な範囲内に抑えることができる。つまり、モータ/ジェネレータMGによるアシストパワー量によって補償することができる。そのため、エンジン駆動パワーにモータ駆動パワーを合計することで要求駆動パワーを実現でき、アップシフト方向の変速によるエンジン駆動パワーの低下が生じても、実駆動パワーの落ち込みを防止し、要求駆動パワーに合わせて円滑に推移させることができる。
【0061】
さらに、アップシフト方向への変速時間(時刻t3〜時刻t4)は、ダウンシフト方向への変速時間(時刻t2〜時刻t3)と比較して非常に短い。つまり、加速要求に伴うダウンシフト方向への変速中に、間欠的にアップシフト方向への変速を実行することとなる。そのため、エンジン回転数の上昇感を持続させることができ、ドライバーに違和感を与えることなく加速フィーリングの向上を図ることができる。
【0062】
そして、時刻t5時点でエンジン回転数がダウンシフト時上限閾値に達すれば、再びエンジン回転数を減少して無段変速機CVTをアップシフト方向へ変速し、時刻t6時点でエンジン回転数がアップシフト時上限閾値に達すれば、さらに再びエンジン回転数を増加して無段変速機CVTをダウンシフト方向へ変速する。その後、これを繰り返し、バッテリSOCが低減してモータアシスト不可能になれば、ステップS12においてNOと判断されて本変速制御を終了する。
【0063】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0064】
(1) エンジンEngとモータ(モータ/ジェネレータ)MGを有する駆動源と、前記モータMGと駆動輪LT,RTとの間に配置された無段変速機CVTとを駆動系に備えると共に、前記無段変速機CVTの変速制御を実行する変速制御手段(図5)を備えたハイブリッド車両の制御装置において、前記モータMG及び該モータMGに給電するバッテリ9の状態から、モータアシスト可能なアシストパワー量を演算するアシストパワー量演算手段(ステップS4)を備え、前記変速制御手段(図5)は、前記無段変速機CVTの変速比をダウンシフト方向に変速する車両加速中に、該変速比をアップシフト方向に間欠的に変速し、且つ、アップシフト方向への変速に伴って生じるエンジンパワー減少量を、前記アシストパワー量以下にする構成とした。このため、ドライバーの加速フィーリングの向上を図ると共に、車両パワーを円滑に推移させることができる。
【0065】
(2) 駆動に必要なエンジンパワーと、熱効率が最適になるエンジン動作点との相関を示すエンジンパワー特性を設定するエンジンパワー設定手段(図4)を有し、前記アシストパワー量算出手段は、車両の要求駆動パワーを基準にして、前記アシストパワー量をk:1−k(1<k)の任意の比率で分配すると共に、前記要求駆動パワーと前記アシストパワー量×kとの和でアシスト上限値を設定し、前記要求駆動パワーと前記アシストパワー量×(k-1)との和でアシスト下限値を設定し、前記変速制御手段(図5)は、前記アシスト上限値と前記エンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をダウンシフト方向への変速時における上限閾値とし、前記アシスト下限値と前記エンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をアップシフト方向への変速時における下限閾値とする構成とした。このため、モータアシスト可能な範囲内に、アップシフト方向への変速時のエンジンパワー変化を抑えることができ、アップシフト方向への変速によって生じるエンジン駆動パワーの落ち込みをモータ駆動パワーで補償して、実駆動パワーを要求駆動パワーに合わせて円滑に推移させることができる。
【0066】
(3) 前記変速制御手段(図5)は、アップシフト方向への変速後の変速比it_2を、アップシフト方向への変速前の変速比it_1、アップシフト方向への変速前最大出力トルクTm_max_1、アップシフト方向への変速前出力トルクTm_1、エンジントルクTeを用いて、次式のように設定するit_2=it_1×(Tm_max_1−Tm_1)/Te構成とした。このため、モータアシスト可能な範囲内に、アップシフト方向への変速時のレシオ変化を抑えることができ、アップシフト方向への変速によって生じるエンジン駆動力の落ち込みをモータ駆動力で補償して、実駆動力を目標駆動力に合わせて円滑に推移させることができる。
【0067】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0068】
実施例1では、本発明のハイブリッド車両の制御装置を、パラレルハイブリッド車両に適用する例を示したが、FRハイブリッド、FFハイブリッド車両に適用することもできるし、エンジンが常時駆動輪と締結すると共に適宜モータからの駆動力を付与するモータアシスト車両であっても適用することができる。要するに、エンジン及びモータを有する駆動源の下流位置に無段変速機を搭載したハイブリッド車両であれば適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
Eng エンジン
MG モータ/ジェネレータ(モータジェネレータ)
CVT 無段変速機
LT 左駆動輪(駆動輪)
RT 右駆動輪(駆動輪)
9 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータを有する駆動源と、前記モータと駆動輪との間に配置された無段変速機とを駆動系に備えると共に、前記無段変速機の変速制御を実行する変速制御手段を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータ及び該モータに給電するバッテリの状態から、モータアシスト可能なアシストパワー量を演算するアシストパワー量演算手段を備え、
前記変速制御手段は、前記無段変速機の変速比をダウンシフト方向に変速する車両加速中に、該変速比をアップシフト方向に間欠的に変速し、且つ、アップシフト方向への変速に伴って生じるエンジンパワー減少量を、前記アシストパワー量以下にすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
駆動に必要なエンジンパワーと、熱効率が最適になるエンジン動作点との相関を示すエンジンパワー特性を設定するエンジンパワー設定手段を有し、
前記アシストパワー量算出手段は、車両の要求駆動パワーを基準にして、前記アシストパワー量をk:1−k(1<k)の任意の比率で分配すると共に、前記要求駆動パワーと前記アシストパワー量×kとの和でアシスト上限値を設定し、前記要求駆動パワーと前記アシストパワー量×(k-1)との和でアシスト下限値を設定し、
前記変速制御手段は、前記アシスト上限値と前記エンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をダウンシフト方向への変速時における上限閾値とし、前記アシスト下限値と前記エンジンパワー特性とに基づいて設定されるエンジン回転数をアップシフト方向への変速時における下限閾値とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記変速制御手段は、アップシフト方向への変速後の変速比it_2を、アップシフト方向への変速前の変速比it_1、アップシフト方向への変速前最大出力トルクTm_max_1、アップシフト方向への変速前出力トルクTm_1、エンジントルクTeを用いて、次式のように設定する
it_2=it_1×(Tm_max_1−Tm_1)/Te
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−202115(P2010−202115A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51937(P2009−51937)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】