説明

埋込配線の形成方法、表示装置用基板及び当該基板を有する表示装置

【課題】 埋込配線が形成される絶縁性基板の材料が耐熱性の高いものに限定されず、当該埋込配線の端子部の耐食性を向上でき、パターニングが少ない工程で且つ良好な膜厚精度で確実に行われる埋込配線の形成方法を提供する。
【解決手段】 絶縁性基板1の表面に形成したマスク17を用いて絶縁性基板1の表面を選択的に除去し、配線パターンに対応する平面形状を持つ溝18を形成する。マスク17を除去せずに絶縁性基板1の表面全体に金属ナノ粒子インクを塗布し、加熱により仮硬化させて金属ナノ粒子インク膜20を形成する。マスク17の剥離により膜20の当該マスク上にある部分を選択的に除去して溝18の内部に膜20を残す。加熱により溝18内の膜20を本硬化させ所望のゲート配線2を得る

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋込配線の形成方法、表示装置用基板及び当該基板を有する表示装置に関し、さらに言えば、絶縁性基板の表面の溝中に埋め込まれた配線(埋込配線)を形成する方法と、その方法またはその埋込配線を用いた表示装置用基板、及び当該表示装置用基板を有する表示装置に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、薄膜トランジスタ(Thin-Film Transistor、TFT)を用いた大面積、高精細、高開口率の液晶表示装置に好適である。
【背景技術】
【0003】
近年、高解像度のディスプレイとして液晶表示装置が広く用いられている。この液晶表示装置は、薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成された基板(以下、TFT基板と呼ぶ。)とカラーフィルタ、ブラックマトリクス等が形成された対向基板との間に液晶を狭持し、TFT基板と対向基板の各々に設けた電極間、またはTFT基板内に設けた複数の電極間の電界で画素毎に液晶分子の配向方向を変化させ、光の透過量を各々の画素毎に制御して、所望の文字、画像等を表示するものである。
【0004】
上記TFT基板には、例えば、ゲート配線(走査線)やドレイン配線(信号線)、共通配線が格子状に形成され、これらの配線の端部には、外部の駆動回路素子との接続用のゲート入力端子、ドレイン入力端子、共通電極入力端子がそれぞれ設けられている。駆動回路素子のこれら配線への接続は、TAB(Tape Automated Bonding)などにより行われる。
【0005】
TFTをスイッチング素子として使用するアクティブマトリックス型液晶表示装置は、走査線数が増加してもコントラストや応答速度が低下しない等の利点があるため、より大型で高品質な表示装置を実現することができる。しかし、大型になると上記配線が長くなり、それに伴って配線抵抗が増加するため、上記配線を流れる信号の遅延により表示品位が低下してしまう。
【0006】
また最近は、いっそうの高密度化や開口率の向上が求められているため、配線を細くする必要がある。しかし、配線を細くすると、配線が長くなった場合と同様に抵抗が増加するため、これも信号遅延による表示品位の低下につながる。
【0007】
表示品位の低下につながるこのような配線抵抗の増加を防ぐ方法としては、配線を厚くする方法が知られている。その一例を図4に示す。
【0008】
図4は、従来の液晶表示装置に使用されるゲート配線を厚くしたTFT基板の構成の一例を示しており、(a)はそのTFT基板のTFT部の要部断面図、(b)はゲート入力端子部の要部断面図、(c)はゲート配線とドレイン配線の交差部の要部断面図である。図4は、TFT基板上にマトリックス状に位置された複数の画素のうちの一画素分の構成を示している。
【0009】
絶縁性基板101の表面には、所定パターンに形成されたゲート電極102とゲート配線102aが配置されており、ゲート電極102とゲート配線102aは透明なゲート絶縁膜103で覆われている。ゲート電極102とゲート配線102aは、同一の導電膜をパターン化して一体的に形成されるものであり、相互に接続されている。ゲート配線102aは所定の方向にストライプ状に延在しており(図4(b)参照)、ゲート電極102はそのゲート配線102aに直交する方向に、対応するTFT部まで突出形成されている(図4(a)参照)。以下、ゲート電極102とゲート配線102aに適用されるこのパターンを「ゲート配線パターン」という。ゲート電極102とゲート配線102aの厚さは、通常のものよりも大きく形成されている。
【0010】
図4(a)に示すように、ゲート絶縁膜103の上には、ゲート電極102と重なる位置に、アイランド状にパターン化された半導体膜104が設けられている。この半導体膜104の上には、ゲート電極102の中央部上方に位置する部分を除いて、その両側に、オーミックコンタクト用の一対のパターン化されたn型半導体膜105がそれぞれ設けられている。これらのn型半導体膜105の上には、ソース電極106及びドレイン電極107がそれぞれ設けられている。
【0011】
ドレイン配線107aは、ソース電極106及びドレイン電極107と同一の導電膜をパターン化して形成されるものであり、ドレイン電極107と一体的に形成されている(図4(c)参照)。ドレイン配線107aは、ゲート配線102aの延在する方向に直交する方向にストライプ状に延在しており、ドレイン電極107はそのドレイン配線107aに直交する方向に、対応するTFT部まで突出形成されている。
【0012】
ソース電極106及びドレイン電極107とドレイン配線107aの上には、パッシベーション膜108が設けられている。ソース電極106及びドレイン電極107と、ゲート絶縁膜103の両電極106及び107とドレイン配線107aから露出している部分は、パッシベーション膜108によって覆われている。
【0013】
パッシベーション膜108は、TFT部において、ソース電極106と重なる部分で一部が選択的に除去されていて、ソース電極106に達するコンタクトホール109が形成されている(図4(a)参照)。ソース電極106は、このコンタクトホール109を介して、透明導電膜よりなる画素電極110(これはパッシベーション膜108上に形成されている)に接続されている。
【0014】
パッシベーション膜108は、ゲート入力端子部において、ゲート配線102aと重なる部分で一部が選択的に除去されていて、ゲート配線102aに達するコンタクトホール111が形成されている(図4(b)参照)。ゲート配線102aは、このコンタクトホール111を介して、パッシベーション膜108上に形成されたパターン化された透明導電膜112に接続されている。
【0015】
しかし、上述したようにゲート配線102a(とゲート電極102)の厚さを大きくすると、それらに起因して生じる段差が大きくなるから、ゲート配線102a上に形成される他の配線の断線不良や、液晶配向の乱れによるディスクリネーション不良が発生しやすくなる。そこで、このようなゲート配線102a(とゲート電極102)による段差自体をなくすために、従来より、ゲート配線102a(とゲート電極102)を絶縁性基板101の表面に形成された凹部(溝)中に埋め込む方法が提案されている。
【0016】
例えば、特許文献1(特開平6−163586号公報)には、凹部が形成された絶縁性基板の表面に、めっき法によりゲート電極・ゲート配線用導電膜を形成する方法が開示されている。この方法は、マスクを用いて透明絶縁性基板の表面を選択的にエッチングして凹部を形成し、当該マスク上及び当該凹部内に下地導電膜を堆積する。そして、その下地導電膜上にゲート電極・ゲート配線用導電膜をめっき法により堆積した後に、前記マスク上の下地導電膜及びゲート電極・ゲート配線用導電膜を当該マスクと共に選択的に除去する(リフトオフする)ことにより、前記凹部内に下地導電膜とゲート電極・ゲート配線用導電膜を残し、もってゲート電極とゲート配線(ゲートバスライン)を得るものである。
【0017】
特許文献2(特開平4−324938号公報)には、凹部が形成された絶縁性基板の表面に、真空成膜法の一つであるスパッタ法によりゲート電極・ゲート配線用金属膜を形成する方法が開示されている。この方法は、絶縁性基板の表面に凹部を形成してから、その表面全体にスパッタ法によりゲート電極・ゲート配線(ゲート配線パターン)用金属膜を形成する。その後、フォトリソグラフィー及びエッチングにより前記金属膜を選択的に除去して前記凹部のみに残すことにより、前記凹部内にゲート電極とゲート配線を形成するものである。
【0018】
特許文献3(特開平7−333648号公報)には、溝が形成された絶縁性基板の表面に、スピンコート法などにより液体有機金属を塗布して、ゲート電極・ゲート配線用金属膜を形成する方法が開示されている。この方法では、絶縁性基板の表面に溝を形成した後、その上に液体有機金属をスピンコート法などにより塗布してから焼成し、ゲート電極・ゲート配線用金属膜とする。その後、エッチングにより前記金属膜を選択的に除去して、前記溝内に前記金属膜を残し、ゲート電極およびゲート配線とするものである。
【0019】
特許文献4(特開2003−78171号公報)には、微粒子導電ペーストを用いて金属配線を自己整合的に形成する方法が開示されている。この方法では、樹脂層に配線パターンに応じて溝を形成し、当該樹脂層の前記溝以外の部分に疎水化処理を施した後、あるいは、樹脂層に疎水化処理を施してから当該樹脂層に配線パターンに応じて溝を形成した後、前記樹脂層の全面に微粒子導電ペーストを塗布して焼結することにより、金属配線を自己整合的に形成するものである。樹脂層の疎水化処理が施された箇所にある微粒子導電ペーストは、はじかれるため、焼結により前記微粒子導電ペーストの体積が減少する際に、前記樹脂層上にある前記微粒子導電ペーストは前記溝内に凝集し、所望パターンの金属配線が自己整合的に形成される、とされている。
【特許文献1】特開平6−163586号公報(段落0014〜0019、段落0024〜0025、図1〜2)
【特許文献2】特開平4−324938号公報(段落0019〜0022、図1〜3)
【特許文献3】特開平7−333648号公報(段落0037〜0040、図4)
【特許文献4】特開2003−78171号公報(要約、段落0018〜0025、図1〜2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、特許文献1に開示された、めっき法によりゲート電極・ゲート配線用導電膜を形成する方法では、絶縁性基板の凹部内に下地導電膜を形成する必要があり、また、ゲート電極・ゲート配線用導電膜の形成後に、当該導電膜の膜厚を均一にするために研磨などを行う必要がある。したがって、工程数を減らすことが困難であるだけでなく、大面積の基板に適用する際には、めっき反応で重要なめっき液中の電流密度分布を均一にすることが困難である、という問題がある。また、膨大な量の廃液を処理する必要がある、という問題もある。
【0021】
特許文献2に開示された、スパッタ法等の真空成膜法によりゲート電極・ゲート配線用金属膜を形成する方法では、絶縁性基板の凹部内に当該金属膜を均一に形成するのが困難である。特に、ステップカバレジの悪いスパッタ法では、前記凹部の幅が小さい場合は、金属膜の厚さが当該凹部の上端で大きくなりやすいため、当該凹部の内部まで均一の厚さで形成され難い。したがって、当該凹部中または当該凹部内に埋め込まれたゲート配線中にボイド(空洞)が発生してしまい、耐薬品性や耐食性が劣化してしまう、という問題がある。
【0022】
また、フォトリソグラフィー法を用いて、絶縁性基板の凹部に合わせてゲート電極・ゲート配線用金属膜のパターニングを行う際に、露光機の位置ずれがあると、前記凹部の外側に前記金属膜の一部が残る。その結果、前記凹部の外側に残った前記金属膜の部分の膜厚に相当する高さだけ、ゲート電極・ゲート配線の上に生じる段差が大きくなる恐れがある、という問題もある。
【0023】
特許文献3に開示された、スピンコート法などにより液体有機金属を塗布してから焼成することによりゲート電極・ゲート配線用金属膜を形成する方法では、液体有機金属を使用するために、特許文献1の方法における下地導電膜、廃液等の問題が生じず、また、特許文献2の方法で問題となるボイドを生じることがないと共に、絶縁性基板の溝中にゲート電極・ゲート配線用金属材料を埋め込むことが可能である。しかし、通常の液体有機金属は焼成温度が例えば500℃以上と高いため、使用可能な絶縁性基板が耐熱性に優れた材料よりなるものに限定されてしまう、つまり基板材料が限定されてしまう、という問題がある。
【0024】
また、通常の液体有機金属は、金属原子を有機化合物として含んでいるため、金属含有量が小さく、したがって焼成後の凝集による体積収縮率が大きい。このため、溝中に所望膜厚の金属配線を形成しようとしても、体積収縮率の大きさに起因して前記金属配線の膜厚が大きくばらついてしまう、という問題がある。
【0025】
さらに、通常の液体有機金属は、非金属成分を多く含むため、焼成後に形成されるゲート電極・ゲート配線用金属膜は、アルカリ、硫黄などの不純物を100ppmオーダーで含む。したがって、ゲート配線の端部に形成されるゲート入力端子部もそのような多量の不純物を含むことになる。ゲート入力端子部は、ゲート電極とは異なり、外部環境の水分などに曝されるので、液晶表示装置の使用中に前記不純物をトリガーとしてゲート入力端子部が腐食して表示不良の原因となる恐れがある、という問題もある。
【0026】
特許文献4に開示された、微粒子導電ペーストを用いて金属配線を自己整合的に形成する方法では、マスクを使用せず、焼結による前記微粒子導電ペーストの体積減少を利用して、前記樹脂層上にある前記微粒子導電ペーストを前記溝内に凝集させることにより、所望パターンの金属配線を自己整合的に形成するので、液晶表示装置に使用する配線パターンのように配線パターン間の距離が数十μm〜数百μmと大きい場合には、微粒子導電ペーストが配線パターン間の隙間に残留してしまい、その結果、前記溝内に所望パターンの金属配線が得られない恐れがある。
【0027】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、埋込配線が形成される絶縁性基板の材料が耐熱性の高いものに限定されないと共に、当該埋込配線に設けられる端子部の耐食性を向上させることができる埋込配線の形成方法と、その方法を用いた表示装置用基板の製造方法及び表示装置の製造方法を提供することにある。
【0028】
本発明の他の目的は、配線用材料を絶縁性基板の表面の溝に埋め込む際に、下地導電膜の形成や研磨等の余分な工程が不要であると共にボイド等の不良が生じることがなく、しかも、その配線用材料の膜のパターニングが、少ない工程で且つ良好な膜厚精度で確実に行われる埋込配線の形成方法と、その方法を用いた表示装置用基板の製造方法及び表示装置の製造方法を提供することにある。
【0029】
本発明のさらに他の目的は、表示装置の大型化、高密度化、高開口率化に対応することができる埋込配線の形成方法と、その方法を用いた表示装置用基板の製造方法及び表示装置の製造方法を提供することにある。
【0030】
ここに明記しない本発明の他の目的は、以下の説明及び添付図面から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0031】
(1) 本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法は、
絶縁性基板の表面に、所望の配線パターンに対応する開口部を持つマスクを形成する工程と、
前記マスクを用いて前記絶縁性基板の表面を選択的に除去することにより、前記配線パターンに対応する平面形状を持つ溝を前記絶縁性基板の表面に形成する工程と、
前記マスクを除去することなく前記絶縁性基板の表面全体に金属ナノ粒子インクを載置して、前記溝の内部に前記金属ナノ粒子インクを充填する工程と、
加熱により前記金属ナノ粒子インクを仮硬化させて金属ナノ粒子インク膜を形成する工程と、
前記マスクを剥離することにより前記金属ナノ粒子インク膜の当該マスク上にある部分を選択的に除去し、もって前記溝の内部に当該金属ナノ粒子インク膜を残す工程と、
加熱により前記溝の内部に残った当該金属ナノ粒子インク膜を本硬化させ、もって所望の埋込配線を得る工程と
を備えたことを特徴とするものである。
【0032】
前記金属ナノ粒子インクは、被覆剤で覆われた粒径がナノメータ(nm)オーダーの多数の金属微粒子(例えば、Au、Ag等の微粒子)を含むインクであり、公知のものを任意に使用することが可能である。これら金属微粒子は、通常、適当な分散剤によって水中あるいはキシレン、トルエン、オレフィン系などの有機溶剤中にほぼ均一に分散せしめられていて、全体が液状またはペースト状に調整されている。nmオーダーの金属微粒子は、そのままでは自然に凝集してしまうので、それを防止するために、各金属微粒子の周囲を適当な被覆剤で覆っている。
【0033】
前記金属ナノ粒子インクの具体例を挙げれば、ハリマ化成株式会社の「ナノペースト」と称される微細配線用金属ペースト「NPシリーズ」がある。しかし、被覆剤で覆われた粒径がナノメータ(nm)オーダーの多数の金属微粒子を含むインクであれば、これ以外の金属ナノ粒子インクも使用可能であることは言うまでもない。
【0034】
(2) 本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法では、埋込配線を金属ナノ粒子インクを使用して形成しており、その金属ナノ粒子インクは100〜200℃程度の低温で硬化して十分な低抵抗特性が得られることから、特許文献3の方法で使用される液体有機金属のような焼成温度の高さに起因する絶縁性基板材料の限定がなくなる。つまり、絶縁性基板の材料は耐熱性の高いものに限定されなくなる。
【0035】
また、前記金属ナノ粒子インクは、液体有機金属よりも非金属成分の含有量、すなわち不純物の含有量が少ないことから、前記金属ナノ粒子インクを用いて形成される前記埋込配線の中に存在する不純物も少なくなる。しかも、前記金属ナノ粒子インクは、含まれている金属粒子の粒径がナノメーター(nm)のオーダーであって十分小さいため、それを硬化して得られる前記金属ナノ粒子インクの膜の表面の平坦性が高いと共に、腐食速度が低く抑えられる。したがって、液体有機金属を用いて形成した金属膜の大きな課題であった、残留不純物をトリガーとする当該埋込配線に設けられる端子部の耐食性の劣化を防ぐことができる。つまり、不純物に起因する端子部の耐食性が向上する。
【0036】
また、前記金属ナノ粒子インクは、液体有機金属よりも金属成分の含有量が多く、焼成後の凝集による体積収縮率が小さい。このため、前記金属ナノ粒子インクを焼成して得られる前記金属ナノ粒子インク膜の膜厚のバラツキが抑制される。よって、前記金属ナノ粒子インク膜をパターン化して得られる前記埋込配線の膜厚の精度は、良好なものとなる。
【0037】
また、前記溝を形成するために使用した前記マスクを剥離することにより、前記金属ナノ粒子インク膜の不要部分を除去し、もって前記溝中に前記埋込配線を形成する(つまりリフトオフ法を使用する)ので、前記マスクの剥離と前記金属ナノ粒子インク膜のパターン化が一つの工程で完了する。よって、工程数を少なくすることができる。
【0038】
さらに、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法では、前記溝を形成するために使用した前記マスクを残したままで、スピンコート法などにより前記絶縁性基板の表面の全体に金属ナノ粒子インクを載置して、前記溝の内部に前記金属ナノ粒子インクを充填する。そして、そのインクの仮硬化により前記金属ナノ粒子インク膜を形成してから前記マスクを剥離することによって当該金属ナノ粒子インク膜をパターン化し、もって所望パターンを持つ埋込配線を得る。したがって、前記配線のパターンが微細であっても、配線用材料(すなわち前記金属ナノ粒子インク)を絶縁性基板の溝中に埋め込む際に、ボイド等の不良が生じることがないと共に、下地導電膜の形成や表面研磨等の余分な工程が不要である。しかも、その配線用材料膜(すなわち前記金属ナノ粒子インク膜)のパターニングは、確実に行われる。
【0039】
さらに、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法では、配線材料としての前記金属ナノ粒子インクを絶縁性基板の溝中に埋め込んで埋込配線を形成するので、配線抵抗の上昇と段差の増加を抑制しながら、配線の延長・微細化に対応することができる。このため、段差に伴う断線不良や液晶配向の乱れによるディスクリネーションなどの表示不良が生じない。よって、表示装置の大型化、高密度化、高開口率化に対応することができる。
【0040】
(3) 本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法の好ましい例では、前記溝を前記絶縁性基板の表面に形成する工程と、前記溝の内部に前記金属ナノ粒子インクを充填する工程の間に、前記溝の表面エネルギーを増加させる親インク処理工程を有する。この例では、前記溝の内部が親インク性となるので、前記溝が微細であっても、前記溝の内部への前記金属ナノ粒子インクの充填が、ボイドを生じることなく確実に行われる、という利点がある。
【0041】
また、この例では、前記親インク処理により、前記溝の内面の表面エネルギーが前記金属ナノ粒子インクの表面張力よりも大きくなっているのが好ましい。
【0042】
前記親インク処理工程としては、公知の親インク処理を任意に選択して使用できるが、前記絶縁性基板にプラズマ処理もしくは紫外線(UV)処理を行う、すなわち、前記絶縁性基板を適当なプラズマに曝し、あるいは、前記絶縁性基板に紫外線(UV)を照射するのが好適である。
【0043】
本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法の他の好ましい例では、前記金属ナノ粒子の平均粒径が1nm〜100nmの範囲に設定される。この範囲において前記金属ナノ粒子の低融点性、焼成後の低抵抗性という効果がより多く得られるからである。
【0044】
本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法のさらに他の好ましい例では、前記金属ナノ粒子が、Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ge,Pd,Pt,Ag,In,Sn,Te,Au,B,MnおよびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または合金の微粒子とされる。
【0045】
本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法のさらに他の好ましい例では、前記金属ナノ粒子が、Cr−Ni,Fe−Si,Fe−Ni,Co−Ni,Fe−Co,Cu−Si,Cu−Sn,Pd−Pt,Ag−Pd,Ag−In,Ag−Au,Ag−Cu,Au−Ge,Au−Sn,Au−Pd,Fe−Pd,Co−PdおよびNi−Pdからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金の微粒子とされる。
【0046】
(4) 本発明の第2の観点による表示装置用基板は、
絶縁性基板の表面の溝の内部に形成された埋込配線を有する表示装置用基板において、
前記埋込配線が、硬化した金属ナノ粒子から形成されていることを特徴とするものである。
【0047】
本発明の第2の観点による表示装置用基板では、前記埋込配線が硬化した金属ナノ粒子から形成されており、その金属ナノ粒子は本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法で使用した金属ナノ粒子インクを使用して形成することができる。したがって、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【0048】
本発明の第2の観点による表示装置用基板の好ましい例では、前記金属ナノ粒子が、Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ge,Pd,Pt,Ag,In,Sn,Te,Au,B,MnおよびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または合金の微粒子とされる。
【0049】
本発明の第2の観点による表示装置用基板の他の好ましい例では、前記金属ナノ粒子が、Cr−Ni,Fe−Si,Fe−Ni,Co−Ni,Fe−Co,Cu−Si,Cu−Sn,Pd−Pt,Ag−Pd,Ag−In,Ag−Au,Ag−Cu,Au−Ge,Au−Sn,Au−Pd,Fe−Pd,Co−PdおよびNi−Pdからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金の微粒子とされる。
【0050】
本発明の第2の観点による表示装置用基板のさらに他の好ましい例では、前記埋込配線が液晶表示装置用基板のゲート配線とされる。
【0051】
(5) 本発明の第3の観点による表示装置は、本発明の第2の観点による表示装置用基板を備えていることを特徴とするものである。
【0052】
本発明の第3の観点による表示装置では、本発明の第2の観点による表示装置用基板を備えているので、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【0053】
(6) 本発明の第4の観点による表示装置用基板は、
絶縁性基板の表面の溝の内部に形成された埋込配線を有する表示装置用基板において、
前記埋込配線が、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法を用いて前記絶縁性基板の表面の溝の内部に形成されていることを特徴とするものである。
【0054】
本発明の第4の観点による表示装置基板では、前記埋込配線が、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法を用いて前記絶縁性基板の表面の溝の内部に形成されているので、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【0055】
本発明の第4の観点による表示装置用基板の好ましい例では、前記埋込配線が液晶表示装置用基板のゲート配線とされる。
【0056】
(7) 本発明の第5の観点による表示装置は、
本発明の第4の観点による表示装置用基板を備えていることを特徴とするものである。
【0057】
本発明の第5の観点による表示装置では、本発明の第4の観点による表示装置用基板を備えているので、本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の第1の観点による埋込配線の形成方法、本発明の第2および第4の観点による表示装置用基板および本発明の第3および第5の観点による表示装置によれば、(a)埋込配線が形成される絶縁性基板の材料が耐熱性の高いものに限定されないと共に、当該埋込配線に設けられる端子部の耐食性を向上させることができる、(b)配線用材料を絶縁性基板の表面の溝に埋め込む際に、下地導電膜の形成や研磨等の余分な工程が不要であると共にボイド等の不良が生じることがなく、しかも、その配線用材料の膜のパターニングが少ない工程で且つ良好な膜厚精度で確実に行われる、(c)表示装置の大型化、高密度化、高開口率化に対応することができる、といった効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0060】
図1は、本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法を適用した、液晶表示装置のTFT基板の要部平面図である。図2(a)は当該TFT基板のTFT部の構成を示す、図1のA−A’線に沿った要部断面図であり、図2(b)は当該TFT基板のゲート入力端子部の構成を示す、図1のB−B’線に沿った要部断面図であり、図2(c)は当該TFT基板のゲート配線とドレイン配線の交差部の構成を示す、図1のC−C’線に沿った要部断面図である。なお、図1及び図2は、いずれも、マトリックス状に位置された複数の画素のうちの一画素分の構成を示している。
【0061】
絶縁性基板1としては、ここではガラス基板を用いているが、ガラス以外の絶縁性を持つ基板でもよい。絶縁性基板1の表面には、マトリックスの行方向(図1ではX方向)に沿って延在するストライプ状のゲート配線2と、ゲート配線2に接続されたゲート電極3とが形成されている。ゲート配線2とゲート電極3は、所望の配線パターン(ゲート配線パターン)で絶縁性基板1の表面に形成された溝の内部に埋設されている。ゲート電極3は、ゲート配線2から対応するTFT部までマトリックスの列方向(図1ではY方向)に突出形成されている。ゲート配線2とゲート電極3は、金属ナノ粒子インクを焼成して形成された金属膜により一体的に形成されている。ゲート配線2とゲート電極3の表面は、絶縁性基板1の表面とほぼ一致しており、したがって絶縁性基板1の表面はほぼ平坦に保たれている。
【0062】
絶縁性基板1の表面には、図2に示すように、透明なゲート絶縁膜13が設けられており、ゲート配線2およびゲート電極3とそれらから露出した絶縁性基板1の表面は、ゲート絶縁膜13によって覆われている。TFT部では、ゲート絶縁膜13の上のゲート電極3と重なる位置に、アイランド状にパターン化された半導体膜4が設けられている(図2(a)参照)。この半導体膜4の上には、ゲート電極3の中央部上方に位置する部分を除いて、その両側に、オーミックコンタクト用の一対のパターン化されたn型半導体膜14がそれぞれ設けられている。これら一対のn型半導体膜14の上には、ソース電極5及びドレイン電極8がそれぞれ設けられている。
【0063】
ドレイン配線7は、マトリックスの列方向(図1ではY方向)に沿って延在している。ドレイン配線7は、ソース電極5及びドレイン電極8と同一の導電膜をパターン化して形成されるものであり、ドレイン電極8と一体的に形成されている。ドレイン配線7の延在する方向は、ゲート配線2の延在する方向(図1ではX方向)に対して直交している。
【0064】
ソース電極5及びドレイン電極8とドレイン配線7の上には、パッシベーション膜15が設けられている。ソース電極5、ドレイン電極8およびドレイン配線7と、ゲート絶縁膜13のそれらから露出している部分は、パッシベーション膜15によって覆われている。
【0065】
パッシベーション膜15は、TFT部において、ソース電極5と重なる部分で一部が選択的に除去されていて、ソース電極5に達するコンタクトホール6が形成されている。ソース電極5は、このコンタクトホール6を介して、透明導電膜よりなる画素電極10に接続されている(図2(a)参照)。画素電極10は、略矩形であって、各ゲート配線2及び各ドレイン配線7によって画定された画素領域内に配置されている(図1参照)。
【0066】
パッシベーション膜15は、外部環境の水分に曝されやすいゲート入力端子部において、ゲート配線2と重なる部分で一部が選択的に除去されていて、ゲート配線2に達するコンタクトホール11が形成されている(図2(b)参照)。ゲート配線2は、このコンタクトホール11を介して、パッシベーション膜15上に形成された入力信号導入用の透明導電膜12に接続されている。透明導電膜12は、コンタクトホール11の内壁を覆うと共に、ゲート配線2のコンタクトホール11中に露出した部分に接触している。コンタクトホール11は、図1に示すように、ゲート配線2をはみ出さない程度の幅で形成されている。
【0067】
ドレイン配線7の両側にそれぞれ配置されたストライプ状のゲート遮光膜9は、絶縁性基板1の上方から入射した光を遮断するものである(図1参照)。ゲート遮光膜9は、ドレイン配線7に沿って延在している。
【0068】
ゲート電極3とゲート配線2は、絶縁性基板1の表面の溝内に埋め込まれているため、絶縁性基板1の表面がその全体にわたってほぼ平坦に保たれ、その結果、TFT部とゲート入力端子部に生じる段差が、図4に示す従来の液晶表示装置の場合よりも低くなる(図2(a)及び(b)参照)。また、ゲート配線2とドレイン配線7の交差部には、段差が生じないため、ドレイン配線7は平坦となる(図2(c)参照)。
【0069】
次に、図3(a)〜(f)を参照しながら、本発明の一実施形態の埋込配線の形成方法を用いて図1及び図2に示されたTFT基板のゲート配線2とゲート電極3を形成する工程について説明する。図3(a)〜(f)は、当該TFT基板の絶縁性基板1の要部断面図である。
【0070】
まず、絶縁性基板(ガラス基板)1の表面全体にポジ型フォトレジストを塗布する。そして、フォトリソグラフィー技術により、得られたフォトレジスト膜のゲート電極およびゲート配線のパターン(ゲート配線パターン)となる部分を選択的に露光してから現像し、ゲートパターンとは逆のパターンを持つマスク17を形成する(図3(a))。こうして形成されたマスク17は、所望のゲート配線パターンに対応する開口部、すなわち所望のゲート配線パターンとは逆のパターンの溝が形成されるような開口部を持つ。
【0071】
次に、マスク17を用いて、ウェットエッチング法により絶縁性基板1の表面を選択的にエッチングし、溝18を形成する(図3(b))。この溝18は、所望のゲート配線パターンとは逆のパターンを持つ。溝18の深さ、つまりエッチング深さは、例えば1μmとする。このエッチング工程では、エッチング速度が大きい等方性ウェットエッチング法を使用するので、エッチング時間を短縮することができるが、等方性エッチングであるため、絶縁性基板1は縦方向(図3の上下方向)だけでなく横方向(図3の左右方向)にもほぼ同等にエッチングされ、その結果、溝18の幅はマスク17の開口部の幅よりも少し大きくなる。このため、絶縁性基板1のマスク17の直下の位置にアンダーカット部が形成される。エッチング液としては、例えばバッファードフッ酸を使用することができる。
【0072】
なお、ドライエッチング法を用いて絶縁性基板1の異方性エッチングを行うことによって、溝18を形成することも可能である。この場合、上記のようなアンダーカット部の形成を抑制することができる。
【0073】
溝18の深さを大きくする必要がある場合、換言すれば、ゲート電極3とゲート配線2の厚さを大きくするためにエッチング時間を長くする必要がある場合は、フォトレジスト製のマスク17に代えて、耐久性の大きい、Crなどの金属を用いて形成したメタルマスクを用いればよい。
【0074】
次に、マスク17と溝18を形成した絶縁性基板1を所定のプラズマに曝すことにより、絶縁性基板1の表面全体に「プラズマ処理」を施す。このプラズマ処理は、後に塗布される金属ナノ粒子インクと絶縁性基板1の溝18との密着性を向上させるために、溝18の「表面エネルギー」を大きくするためのものであり、金属ナノ粒子インクを塗布する前処理としての役割を果たす。この「表面エネルギー」とは、任意の表面が有する全エネルギーのうちの自由エネルギー成分である表面自由エネルギーを指しており、金属ナノ粒子インクの表面張力に等しい。このプラズマ処理により、表面エネルギーが増加せしめられた層、すなわち親インク処理層19が形成される(図3(c))。親インク処理層19は、マスク17の表面全体と、マスク17から露出している溝18の内面全体に形成される。このプラズマ処理は、親インク処理層19を形成するので、「親インク処理」とも言うことができる。このプラズマ処理用のプラズマガスとしては、例えばArやHeを使用することができる。
【0075】
別の親インク処理として「紫外線(UV)処理」を用いることもできる。この場合は、マスク17と溝18を形成した絶縁性基板1に所定波長の紫外線を照射する。
【0076】
次に、親インク処理を終えた絶縁性基板1の表面全体に、金属ナノ粒子インクをスピンコート法などで塗布し、金属ナノ粒子インク膜20を形成する(図3(d))。この時、絶縁性基板1の溝18の内面には親インク処理層19が形成されているため、溝18の内面の表面エネルギーは金属ナノ粒子インクの表面張力よりも大きくなっている。よって、金属ナノ粒子インクは絶縁性基板1に形成された溝18の内部にスムーズに入り込み、その結果、溝18とマスク17の開口部は、ボイドを生じることなく、金属ナノ粒子インクによって確実に充填される。
【0077】
金属ナノ粒子インクを塗布する際に、後の焼成時に金属ナノ粒子インク膜20の体積が減少すること(膜減り)を考慮して、溝18の上方における金属ナノ粒子インク膜20の膜厚が溝18の深さより少し大きくなるように設定する。これは、スピンコート法による金属ナノ粒子インクの塗布量および回転数などを調整することにより容易に実現することができる。
【0078】
絶縁性基板1の表面に溝18を形成する工程ではウェットエッチング法を使用しているので、マスク17の下に等方性エッチングによるアンダーカット部が生成されているが、スピンコート法などでマスク17の上から金属ナノ粒子インクを塗布して金属ナノ粒子インク膜20を形成するので、このアンダーカット部にまで金属ナノ粒子インクを確実に埋め込むことができる。
【0079】
金属ナノ粒子インクに含まれる金属ナノ粒子としては、平均粒径1nm〜100nmのものが好ましい。この範囲において金属ナノ粒子の低融点性、焼成後の低抵抗性という効果がより多く得られるからである。ここで、「平均粒径」は、金属ナノ粒子インクに含まれる金属ナノ粒子群の代表的な粒径を指す。また、「粒径」は、個々の金属ナノ粒子の幾何学的な粒径を指す。
【0080】
金属ナノ粒子インクに含まれる金属ナノ粒子の具体例としては、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ge、Pd、Pt、Ag、In、Sn、Te、Au、B、MnおよびRhの中から選ばれる一種類の金属からなるナノ粒子、またはその中から選ばれる二種類以上の金属の合金からなるナノ粒子が好ましい。二種類以上の金属の合金からなるナノ粒子としては、Cr−Ni、Fe−Si、Fe−Ni、Co−Ni、Fe−Co、Cu−Si、Cu−Sn、Pd−Pt、Ag−Pd、Ag−In、Ag−Au、Ag−Cu、Au−Ge、Au−Sn、Au−Pd、Fe−Pd、Co−PdおよびNi−Pdの中から選ばれる少なくとも一種類の合金からなる微粒子が好ましい。
【0081】
金属ナノ粒子インクに含まれる金属ナノ粒子は、水もしくはキシレン、トルエン、オレフィン系などの有機溶剤中に、凝集することなく分散しており、全体がインク状(もしくは液状)となっている。金属ナノ粒子を水または有機溶剤中に分散させるために、適当な分散剤が添加されている。また、金属ナノ粒子の自然凝集を防止するため、金属ナノ粒子の各々は適当な被覆剤で覆われている。
【0082】
次に、金属ナノ粒子インク膜20が形成された絶縁性基板1を100℃の温度で所定時間加熱し、金属ナノ粒子インク膜20の仮焼成を行う。これは、金属ナノ粒子インク膜20に含まれている有機溶剤をある程度除去して、金属ナノ粒子インク膜20を仮硬化させるために行う。金属ナノ粒子インク膜20の「仮硬化(仮焼成)」は、次の工程でマスク17と一緒に金属ナノ粒子インク膜20を選択的に除去する際に、金属ナノ粒子インク膜20のマスク17上にある部分の選択的除去が良好に行われる程度に行えばよい。仮硬化(仮焼成)の温度は、使用する金属ナノ粒子インクの種類等に応じて適宜調整される。
【0083】
金属ナノ粒子インク膜20の仮硬化が完了した後、絶縁性基板1からマスク17を剥離する。その結果、仮硬化した金属ナノ粒子膜20のマスク17の表面に付着した部分はマスク17と一緒に除去されるため、仮硬化した金属ナノ粒子膜20が溝18の内部にのみ残される(図3(e))。この段階では、溝18の内部に残った金属ナノ粒子膜20は、絶縁性基板1の表面から少し突出した状態になる。
【0084】
最後に、溝18の内部に仮硬化した金属ナノ粒子膜20が残された状態の絶縁性基板1を、150〜200℃の温度で所定時間加熱し、残存した金属ナノ粒子インク膜20の本焼成(本硬化)を行う。この本焼成(本硬化)の際に、金属ナノ粒子インク膜20中に残留している有機溶剤および分散剤が除去されると共に、各金属ナノ粒子を被覆している被覆剤が揮発し、金属ナノ粒子同士が接触せしめられて硬化するため、金属ナノ粒子インク膜20は導電性を有する金属膜となる。こうして形成された金属膜は、溝18の内部に埋め込まれた埋込配線、すなわちゲート配線2となる(図3(f))。なお、本焼成の温度は、使用する金属ナノ粒子インクの種類等に応じて適宜調整される。
【0085】
本焼成の際に、被覆剤、有機溶剤および分散剤が除去されるため、金属ナノ粒子インク膜20の体積減少(膜減り)が生じるが、あらかじめ膜減り量を計算して金属ナノ粒子インク膜20の膜厚を大きめに設定してあるため、図3(f)に示すように、絶縁性基板1の表面とゲート配線2の表面は面一(平坦)になる。
【0086】
なお、図示していないが、ゲート配線2と同時に、絶縁性基板1の表面に埋設されたゲート電極3も形成される。
【0087】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法では、埋込配線すなわちゲート配線2(とゲート電極3)を金属ナノ粒子インクを使用して形成しており、その金属ナノ粒子インクは100〜200℃程度の低温で硬化して十分な低抵抗特性が得られることから、液体有機金属のような焼成温度の高さに起因する絶縁性基板材料の限定がなくなる。つまり、絶縁性基板1の材料は耐熱性の高いものに限定されなくなる。
【0088】
また、金属ナノ粒子インク膜20は、液体有機金属よりも非金属成分すなわち不純物の含有量が少ないため、前記金属ナノ粒子インクを用いて形成されるゲート配線2(とゲート電極3)の中に存在する不純物も少なくなる。しかも、前記金属ナノ粒子インクは、含まれている金属粒子の粒径がnmオーダーであって十分小さいため、それを硬化して得られる金属ナノ粒子インク膜20の表面の平坦性が高い。一般的に、金属膜の平坦性が高いほど、また腐食のトリガーとなる不純物濃度が小さいほど、その金属膜の耐食性が向上するため、金属ナノ粒子インク膜20を用いるこの埋込配線の形成方法では、液体有機金属を用いて形成した金属膜の大きな課題であった、残留不純物をトリガーとするゲート配線2に設けられるゲート入力端子部の耐食性の劣化を防ぐことができる。つまり、不純物に起因するゲート入力端子部の耐食性が向上する。
【0089】
また、前記金属ナノ粒子インクは、液体有機金属よりも焼成後の凝集による体積収縮率が小さいため、当該金属ナノ粒子インクを焼成して得られる金属ナノ粒子インク膜20の膜厚のバラツキが抑制される。よって、金属ナノ粒子インク膜20をパターン化して得られる埋込配線すなわちゲート配線2(とゲート電極3)の膜厚の精度は、良好なものとなる。
【0090】
また、溝18を形成するために使用したマスク17を剥離することにより、金属ナノ粒子インク膜20の不要部分を除去し、もって溝18中にゲート配線2を形成する(つまりリフトオフ法を使用する)ので、マスク17の剥離と金属ナノ粒子インク膜20のパターン化が一つの工程で完了する。よって、工程数を少なくすることができる。
【0091】
さらに、溝18を形成するために使用したマスク17を残したままで、スピンコート法などにより絶縁性基板1の表面の全体に金属ナノ粒子インクを載置して、溝18の内部に当該金属ナノ粒子インクを充填する。そして、そのインクの仮硬化により金属ナノ粒子インク膜20を形成してからマスク17を剥離することによって金属ナノ粒子インク膜20をパターン化し、残存した金属ナノ粒子インク膜20を本硬化してから所望パターンを持つゲート配線2(とゲート電極3)を得る。したがって、ゲート配線2のパターンが微細であっても、配線用材料(すなわち前記金属ナノ粒子インク)を絶縁性基板1の溝18中に埋め込む際に、ボイド等の不良が生じることがないと共に、下地導電膜の形成や表面研磨等の余分な工程が不要である。しかも、その配線用材料膜すなわち金属ナノ粒子インク膜20のパターニングは、確実に行われる。
【0092】
さらに、配線材料としての金属ナノ粒子インクを絶縁性基板1の溝18中に埋め込んでゲート配線2(とゲート電極3)を形成するので、配線抵抗の上昇と段差の増加を抑制しながら、配線の延長・微細化に対応することができる。このため、段差に伴う断線不良や液晶配向の乱れによるディスクリネーションなどの表示不良が生じない。よって、表示装置の大型化、高密度化、高開口率化に対応することができる。
【0093】
以上述べた工程を経て、図3(f)のように、ゲート配線2とゲート電極3の絶縁性基板1の表面への埋設が完了すると、続いて、以下のようにしてTFTが完成せしめられる。
【0094】
ゲート配線2とゲート電極3の形成が完了した後、絶縁性基板1の全面に、例えばSiN膜をプラズマCVD法によって300〜500nm程度の厚さで成膜し、ゲート絶縁膜13とする。そして、ゲート絶縁膜13の上に、半導体膜4となる真性アモルファスシリコン(a−Si)膜を200nm程度の厚さで形成し、さらに、その上にリンを含むn型半導体膜14となるn型a−Si膜を50nm程度の厚さで形成する。これら二つのa−Si膜は、いずれもプラズマCVD法により形成する。そして、所定パターンに形成したレジストをマスクとして、上記n型a−Si膜と真性a−Si膜を順次ドライエッチングし、もってゲート電極3の直上にゲート絶縁膜13を介してアイランド状の半導体膜4を形成する。なお、半導体膜4には、ポリシリコン膜を用いてもよい。
【0095】
次に、スパッタリング法により、絶縁性基板1の全面に、Mo膜などの金属膜を300nm程度の厚さで堆積する。この金属膜は、ゲート絶縁膜13上に位置する。そして、所定パターンに形成したレジスト膜(図示せず)をマスクとして、この金属膜を選択的にエッチングし、ソース電極5及びドレイン電極8とドレイン配線7を形成する。
【0096】
次に、ソース電極5およびドレイン電極8をマスクとして上記n型a−Si膜をドライエッチングする。このエッチングにより、アイランド状の半導体膜4のソース電極5およびドレイン電極8の間でn型a−Si膜が選択的に除去され、ギャップが形成される。半導体膜4の内部のこのギャップの直下の位置が、チャネル領域となる。こうして、スイッチング素子であるTFTが、ゲート配線2とドレイン配線7との交点の近傍に形成される(図1参照)。
【0097】
次に、絶縁性基板1の全面に、プラズマCVD法により、例えばSiN膜を150〜200nm程度の厚さで成膜し、パッシベーション膜15とする。その後、所定パターンに形成したレジスト(図示せず)をマスクとして、TFT部のソース電極5と重なる所定位置においてパッシベーション膜15を選択的に除去すると同時に、ゲート入力端子部のゲート配線2と重なる所定位置においてパッシベーション膜15及びゲート絶縁膜13を選択的に除去し、ソース電極5に達するコンタクトホール6と、ゲート配線2に達するコンタクトホール11をそれぞれ形成する(図2(a)、(b)参照)。
【0098】
次に、絶縁性基板1の全面に、スパッタリング法により、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を50nm程度の厚さで成膜する。そして、この透明導電膜を所要パターンに形成したレジスト(図示せず)をマスクとして選択的に除去し、もって画素電極10と透明導電膜12を形成する。画素電極10は、コンタクトホール6を介してソース電極5に接触している。透明導電膜12は、コンタクトホール11を介してゲート配線2に接触している。
【0099】
こうして、図1〜図2に示すようなTFT、画素電極10、ゲート配線2およびドレイン配線7が完成する。
【0100】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る液晶表示装置用TFT基板の製造方法では、上述した本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法を用いて、絶縁性基板1の表面に形成された溝18の内部にゲート配線2(埋込配線)を形成しているので、当該埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【0101】
また、上記のようにして製造したTFT基板に、公知の方法で製造した、カラーフィルタ、ブラックマトリクス等が形成された対向基板を組み合わせ、両基板の間に液晶層を挟んで一体化することにより、液晶表示装置が得られる。
【0102】
この液晶表示装置では、上述した本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法を用いてTFT基板上のゲート配線2とゲート電極3(すなわち埋込配線)を形成しているので、当該埋込配線の形成方法と同一の効果が得られる。
【0103】
(変形例)
なお、上記実施形態は、本発明の好適な例を示すものであり、本発明はこの実施形態に限定されず、種々の変更が可能なことは言うまでもない。
【0104】
例えば、上記実施形態では、絶縁性基板の表面エネルギーを大きくして親インク処理層を形成した後に、金属ナノ粒子インクを塗布しているが、絶縁性基板の表面エネルギーが金属ナノ粒子インクの表面張力よりも大きい場合には、絶縁性基板の表面エネルギーを大きくせずに(親インク処理層を形成せずに)金属ナノ粒子インクを塗布してもよい。
【0105】
金属ナノ粒子インクに用いられる金属ナノ粒子としては、導電性を持つ金属または合金のnmオーダーの粒子であれば、上記実施形態で使用された金属または合金のナノ粒子以外のものも使用可能である。
【0106】
また、上記実施形態では、本発明を液晶表示装置のTFT基板上のゲート配線に適用しているが、本発明はこれには限定されない。絶縁性基板中に形成される埋込配線を持つものであれば、他の任意の形式の表示装置にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法を適用した、液晶表示装置のTFT基板の要部平面図である。
【図2】(a)は図1の液晶表示装置に使用されたTFT基板のTFT部の構成を示す、図1のA−A’線に沿った要部断面図、(b)は当該TFT基板のゲート入力端子部の構成を示す、図1のB−B’線に沿った要部断面図、(c)は当該TFT基板のゲート配線とドレイン配線の交差部の構成を示す、図1のC−C’線に沿った要部断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る埋込配線の形成方法を工程毎に示す、図1の液晶表示装置に使用されたTFT基板の絶縁性基板の要部断面図である。
【図4】(a)は従来の液晶表示装置に使用されたTFT基板のTFT部の構成を示す要部断面図、(b)は当該TFT基板のゲート入力端子部の構成を示す要部断面図、(c)は当該TFT基板のゲート配線とドレイン配線の交差部の構成を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 絶縁性基板
2 ゲート配線
3 ゲート電極
4 アイランド状半導体膜
5 ソース電極
6 コンタクトホール
7 ドレイン配線
8 ドレイン電極8
9 ゲート遮光膜
10 画素電極
11 コンタクトホール
12 透明導電膜
13 ゲート絶縁膜
14 n型半導体膜
15 パッシベーション膜
17 マスク
18 絶縁性基板の溝
19 親インク処理層
20 金属ナノ粒子インク膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の表面に、所望の配線パターンに対応する開口部を持つマスクを形成する工程と、
前記マスクを用いて前記絶縁性基板の表面を選択的に除去することにより、前記配線パターンに対応する平面形状を持つ溝を前記絶縁性基板の表面に形成する工程と、
前記マスクを除去することなく前記絶縁性基板の表面全体に金属ナノ粒子インクを載置して、前記溝の内部に前記金属ナノ粒子インクを充填する工程と、
加熱により前記金属ナノ粒子インクを仮硬化させて金属ナノ粒子インク膜を形成する工程と、
前記マスクを剥離することにより前記金属ナノ粒子インク膜の当該マスク上にある部分を選択的に除去し、もって前記溝の内部に当該金属ナノ粒子インク膜を残す工程と、
加熱により前記溝の内部に残った当該金属ナノ粒子インク膜を本硬化させ、もって所望の埋込配線を得る工程と
を備えたことを特徴とする埋込配線の形成方法。
【請求項2】
前記溝を前記絶縁性基板の表面に形成する工程と、前記溝の内部に前記金属ナノ粒子インクを充填する工程の間に、前記溝の表面エネルギーを増加させる親インク処理工程を有する請求項1に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項3】
前記親インク処理工程として、前記絶縁性基板にプラズマ処理もしくは紫外線処理が行われる請求項2に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項4】
前記親インク処理工程により、前記溝の内面の表面エネルギーが前記金属ナノ粒子インクの表面張力よりも大きくなっている請求項2または3に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の平均粒径が1nm〜100nmの範囲に設定されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子が、Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ge,Pd,Pt,Ag,In,Sn,Te,Au,B,MnおよびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または合金の微粒子である請求項1〜5のいずれか1項に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子が、Cr−Ni,Fe−Si,Fe−Ni,Co−Ni,Fe−Co,Cu−Si,Cu−Sn,Pd−Pt,Ag−Pd,Ag−In,Ag−Au,Ag−Cu,Au−Ge,Au−Sn,Au−Pd,Fe−Pd,Co−PdおよびNi−Pdからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金の微粒子とされる請求項1〜5のいずれか1項に記載の埋込配線の形成方法。
【請求項8】
絶縁性基板の表面の溝の内部に形成された埋込配線を有する表示装置用基板において、
前記埋込配線が、硬化した金属ナノ粒子から形成されていることを特徴とする表示装置用基板。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子が、Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ge,Pd,Pt,Ag,In,Sn,Te,Au,B,MnおよびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または合金の微粒子である請求項8に記載の表示装置用基板。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子が、Cr−Ni,Fe−Si,Fe−Ni,Co−Ni,Fe−Co,Cu−Si,Cu−Sn,Pd−Pt,Ag−Pd,Ag−In,Ag−Au,Ag−Cu,Au−Ge,Au−Sn,Au−Pd,Fe−Pd,Co−PdおよびNi−Pdからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金の微粒子とされる請求項8に記載の表示装置用基板。
【請求項11】
前記埋込配線が液晶表示装置用基板のゲート配線である請求項8〜10のいずれか1項に記載の表示装置用基板。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の表示装置用基板を備えていることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
絶縁性基板の表面の溝の内部に形成された埋込配線を有する表示装置用基板において、
前記埋込配線が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の埋込配線の形成方法を用いて前記絶縁性基板の表面の溝の内部に形成されていることを特徴とする表示装置用基板。
【請求項14】
前記埋込配線が液晶表示装置用基板のゲート配線である請求項13に記載の表示装置用基板。
【請求項15】
請求項13または14に記載の表示装置用基板を備えていることを特徴とする表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−251814(P2008−251814A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90928(P2007−90928)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(303018827)NEC液晶テクノロジー株式会社 (547)
【Fターム(参考)】