説明

SOI基板の作製方法

【課題】表面のP−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板の作製方法を提供する。
【解決手段】半導体薄膜層の結晶性を高く保つため、水素イオン添加処理中の半導体基板の温度を200℃以下に抑制した。加えて、水素イオン添加処理後の半導体基板を100℃以上400℃以下に保持した状態で半導体基板に対してプラズマ処理を行うことにより、水素イオン添加処理により生じる、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を残存させたまま、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を低減した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSOI基板の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンのインゴットを薄くスライスして作製されるシリコンウェハに代わり、絶縁層表面に薄い半導体層を設けた基板(以下、SOI基板ともいう。通常SOI基板という単語は、「Sillicon on Insulator」の略語として用いられるが、本明細書では、絶縁表面上に形成される半導体膜はシリコン膜に限定する必要はないため、「Semiconductor on Insulator)」の略語として用いる。)が製造され、半導体集積回路素子の製造などに用いられている。
【0003】
SOI基板を作製する方法の1つとして、半導体基板中に水素イオンを添加する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。当該方法は、まず、半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板など)の表面に絶縁層(例えば、熱酸化膜など)を形成し、絶縁層が形成された面側から半導体基板に対して水素イオンを添加し、添加された水素イオンによりダングリングボンドが終端化され、微小気泡領域(本明細書中では、脆化領域とも表現する)を表面近傍の所定の深さに形成する。次に、半導体基板の微小気泡領域を形成した面側に別の基板(例えば、ガラス基板やシリコンウェハなど)を接合して加熱処理を行う。これにより、半導体基板中に分布する水素イオンが微小気泡領域に集中して微小気泡領域において劈開現象が生じ、半導体基板から分離した半導体薄膜層および半導体薄膜層に接して形成された絶縁層を、別の基板に転載することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−124092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の方法により作製したSOI基板は、例えば、半導体薄膜層を加工してトランジスタ等の半導体素子を形成するため、半導体薄膜層表面(つまり、絶縁層と接する面と反対側の面)には、凹凸(以下、最大高低差やP−V値とも記載する。)が少なく、また、高い結晶性が求められる。
【0006】
半導体基板から分離した半導体薄膜層の表面状態は、水素イオン添加中の半導体基板の温度に大きく関係している。例えば、水素イオン添加処理中において温度が260℃程度まで上昇した半導体基板(以下、条件Aと略記する)および、水素イオン添加処理中において温度が120℃程度で保たれた半導体基板(以下、条件Bと略記する)に対して、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて、各条件の半導体基板の脆化領域近傍に含まれるSi−H結合の評価を行った結果を図9に示す。
【0007】
FT−IRスペクトルでは、水素イオン添加処理により形成された空格子点に起因した、空格子点周辺におけるSiのダングリングボンドと水素原子のSi−H結合や、格子間Siと水素原子のSi−H結合などの欠陥種類の分布を知ることが出来る。
【0008】
なお、条件Aおよび条件Bは、加速電圧や水素イオンのドーズ量は同一条件であり、使用した半導体基板の表面には熱酸化膜が形成されている。また、図9の横軸は照射した赤外線の波数(単位:cm−1)であり、縦軸は吸光度(任意単位)である。
【0009】
図9より、条件Aの半導体基板は、2110cm−1および2155cm−1付近にピークが確認できる。このうち、2110cm−1のピークはSi(100)面の脆化領域(「プレートレット欠陥」とも表現できる)のSiのダングリングボンドと水素原子の結合(図9では「Si(100):H」と表現している)に起因しており、半導体基板から半導体薄膜層が分離するために必要な欠陥であるといえる。また、2155cm−1のピークは水素イオン添加処理より形成された空格子点に起因して生じる、空格子点周辺におけるSiが有する3つのダングリングボンドそれぞれに水素原子が結合したSi−H結合(図9では「VH3」と表現している)に起因したピークであり、加熱処理によりプレートレット欠陥に水素分子を供給する供給源となるため、こちらも半導体基板から半導体薄膜層が分離するために必要な欠陥であるといえる。
【0010】
一方、条件Bの半導体基板は、条件Aで確認されたピーク以外にも様々なSi−H結合を示すピークが確認される。例えば、1980cm−1のピークは格子間(Interstitial)に移動したSiとHが2個結合したSi−H結合(図9では「IH2」と表現している)に起因したピーク、2065cm−1のピークは、空格子点周辺におけるSiのダングリングボンドに水素原子が1つ結合したSi−H結合(図9では「VH」と表現している)に起因したピーク、1930cm−1のピークは2つの空格子点周辺におけるSiのダングリングボンドに複数の水素原子が結合したSi−H結合(図9では「V2Hx」と表現している)に起因したピークであり、上述の2110cm−1や2155cm−1にピークを持つSi−H結合と比較して、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合である。
【0011】
条件Bのように、水素イオン添加処理中の半導体基板の温度が低い場合、半導体基板の温度が高い場合には消滅する様々な欠陥が半導体基板中に残留してしまう。このため、半導体基板から半導体薄膜層を分離する際にSi(100)面のプレートレット欠陥だけでなく、半導体基板中に散在する上述の欠陥部分が分離界面となり得る場合があるため、分離した半導体薄膜層の表面には比較的大きな凹凸が形成されやすい。
【0012】
つまり、半導体薄膜層表面のP−V値を小さくするためには、水素イオン添加処理中の半導体基板の温度を高くすることが有効であるといえる。
【0013】
しかしながら、水素イオン添加処理中の半導体基板の温度を高くする程、半導体基板中には結晶欠陥や結晶構造転位が発生しやすくなり、半導体薄膜層中の結晶性を悪化させる要因となり得る。
【0014】
したがって、半導体基板中に水素イオンを添加することによりSOI基板を作製する方法において、表面のP−V値を小さくすることと、高い結晶性を有することを両立させた半導体薄膜層を得ることは困難であるといえる。
【0015】
上述の問題点を鑑み、本明細書では、表面のP−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
半導体薄膜層の結晶性を高く保つため、水素イオン添加処理中の半導体基板の温度を200℃以下に抑制する。加えて、水素イオン添加処理後の半導体基板を100℃以上400℃以下に保持した状態で半導体基板に対してプラズマ処理を行うことにより、水素イオン添加処理により生じる、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を残存させたまま、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を低減する。
【0017】
すなわち、本発明の一態様は、半導体基板の表面に絶縁層を形成し、半導体基板に対して加速されたイオンを添加することで単結晶半導体基板中に脆化領域を形成し、半導体基板に対してプラズマ処理を行い、絶縁層を介して半導体基板にベース基板を貼り合わせ、半導体基板に対して加熱処理を行い、脆化領域を界面として半導体基板からベース基板を分離することにより、ベース基板上に絶縁層を介して半導体薄膜層を形成する工程を有し、イオン添加中の半導体基板の温度を200℃以下に保持し、プラズマ処理中の半導体基板の温度を100℃以上400℃以下に保持することを特徴とするSOI基板の作製方法である。
【0018】
上述のSOI基板の作成方法を適用することにより、表面のP−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【0019】
また、本発明の一態様は、半導体基板の表面に絶縁層を形成し、半導体基板に対して加速されたイオンを添加することで半導体基板の内部に脆化領域を形成し、半導体基板に対してプラズマ処理を行い、絶縁層を介して半導体基板にベース基板を貼り合わせ、半導体基板に対して加熱処理を行い、脆化領域を界面として半導体基板からベース基板を分離することにより、ベース基板上に絶縁層を介して半導体薄膜層を形成する工程を有し、イオン添加中の半導体基板の温度を200℃以下に保持し、プラズマ処理を行った半導体基板中のSi−H結合の存在分布をフーリエ変換型赤外分光法を用いて測定した際に、1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲に存在する吸光度ピークがプラズマ処理を行う前の半導体基板より減少し、かつ、2110cm−1および2155cm−1における吸光度ピークがプラズマ処理を行う前の半導体基板の80%以上となるように、プラズマ処理を行うことを特徴とするSOI基板の作製方法である。
【0020】
上述のSOI基板の作成方法を適用することにより、高い結晶性およびP−V値の小さい半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【0021】
また、上述のSOI基板の作製方法において、半導体基板へのイオン添加を複数回に分けて行うことにより、イオン添加処理中における半導体基板の温度上昇を効果的に低減できるため、より高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【0022】
また、上述のSOI基板の作製方法において、プラズマ処理の処理時間を10min以上とすることにより、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を効果的に低減できるため、よりP−V値が小さい半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【0023】
また、上述のSOI基板の作製方法において、ベース基板としてアルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラスのいずれかを用いることにより、SOI基板を用いて作製する半導体装置のコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
水素イオン添加処理中の半導体基板の温度を200℃以下に抑制することにより、当該半導体基板を用いて作製される、SOI基板の半導体薄膜層の結晶性を高く保つことができる。加えて、水素イオン添加処理後の半導体基板に対して、半導体基板の温度を100℃以上400℃以下に保持した状態でプラズマ処理を行うことで、水素イオン添加処理の際に半導体基板中に発生するSi−H結合のうち、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を大幅に低減できる。これにより、半導体基板から分離される半導体薄膜層は高い結晶性を有し、かつ、P−V値が小さいため、高性能な半導体集積回路の形成に耐えうる、P−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】SOI基板の作製方法を説明する図。
【図2】SOI基板の作製方法を説明する図。
【図3】半導体装置を説明する図。
【図4】半導体装置を説明する図。
【図5】半導体装置を説明する図。
【図6】半導体装置を説明する図。
【図7】半導体装置を説明する図。
【図8】SOI基板を用いた電子機器の一例を説明する図。
【図9】半導体基板中のSi−H結合状態を説明する図。
【図10】半導体薄膜層の結晶性を説明する図。
【図11】半導体基板中のSi−H結合状態を説明する図。
【図12】半導体薄膜層の表面状態を説明する図。
【図13】半導体薄膜層の結晶性を説明する図。
【図14】半導体薄膜層の表面状態を説明する図。
【図15】半導体薄膜層の表面状態を説明する図。
【図16】半導体薄膜層の表面状態を説明する図。
【図17】メモリセルの回路構成を説明する図。
【図18】メモリセルの構造を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一態様に係る実施の形態及び実施例について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0027】
(実施の形態1)
本実施の形態では、高い結晶性および平坦性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板の作製方法について説明する。
【0028】
まず、半導体基板100を準備し、表面に絶縁層102を形成する(図1(A)参照。)。半導体基板100としては、例えば、単結晶シリコン基板、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板など、第14族元素でなる単結晶半導体基板を用いることができる。また、炭化シリコン、ガリウムヒ素、インジウムリン等の化合物半導体基板を用いることもできる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(100mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、半導体基板100の形状は円形に限らず、例えば、矩形等に加工したものであっても良い。また、半導体基板100は、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法を用いて作製することができる。
【0029】
絶縁層102は、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜等を単層で、または積層させて形成することができる。上記絶縁層102の作製方法としては、熱酸化法、CVD法、スパッタリング法などがある。なお、上述の酸化窒化とは、その組成において、窒素よりも酸素の含有量が多いものを示しており、窒化酸化とは酸素よりも窒素の含有量が多い物を示している。
【0030】
なお、CVD法を用いて絶縁層102を形成する場合、良好な貼り合わせを実現するためには、テトラエトキシシラン(略称;TEOS:化学式Si(OC)等の有機シランを用いて酸化シリコン膜を形成することが好ましい。
【0031】
また、熱酸化法により絶縁層102を形成する場合、酸化性雰囲気中にハロゲンを添加して行うことが好ましい。
【0032】
例えば、塩素(Cl)が添加された酸化性雰囲気中で半導体基板100に熱酸化処理を行うことにより、塩素酸化された絶縁層102を形成することができる。この場合、絶縁層102は、塩素原子を含有する膜となる。このような塩素酸化により、外因性の不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)を捕集して金属の塩化物を形成し、これを外方に除去して半導体基板100の汚染を低減させることができる。また、ベース基板200と貼り合わせた後に、ベース基板からのNa等の不純物を固定して、半導体基板100の汚染を防止できる。なお、熱酸化膜中に添加されるハロゲンの濃度に特段の限定は無いが、例えば、ハロゲン原子の濃度が1×1016[atoms/cm]から1×1022[atoms/cm]となればよい。
【0033】
熱酸化処理の一例としては、酸素に対し塩化水素(HCl)を0.5〜10体積%(代表的には3体積%)の割合で含む酸化性雰囲気中で、900℃〜1150℃の温度(代表的には1000℃)で行うことができる。処理時間は0.1〜6時間、好ましくは0.5〜1時間とすればよい。熱酸化処理により形成される酸化膜の膜厚に特段の限定は無いが、例えば10nm〜1000nmの厚さとすればよい。
【0034】
なお、絶縁層102に含有させるハロゲン原子は塩素原子に限られない。絶縁層102にはフッ素原子を含有させてもよい。半導体基板100表面をフッ素酸化する方法としては、HF溶液に浸漬させた後に酸化性雰囲気中で熱酸化処理を行う方法や、NFを酸化性雰囲気に添加して熱酸化処理を行う方法などがある。
【0035】
また、絶縁層102の形成前に、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いて半導体基板100の表面を洗浄しておくことが好ましい。
【0036】
次に、半導体基板100の一面からイオン添加処理104を行うことにより、半導体基板100中の所定の深さに、脆化領域106を形成する(図1(B)参照。)。
【0037】
なお、本実施の形態では、イオン添加処理104中において、半導体基板100の基板温度を200℃以下に保持する。半導体基板100の基板温度を200℃以下に保持する方法としては、例えば、イオン添加処理104を複数回に分けて行い、各々のイオン添加処理終了直後における基板温度が200℃以下となるようにすればよい。なお、イオン添加処理104の分割回数については、半導体基板100の材質やイオン添加処理104の条件により変化するため、例えば、半導体基板100に温度変化をモニタリングできる部材(例えばサーモラベルなど)を設置しイオン添加処理104による基板温度変化を測定し、当該測定結果を元にイオン添加処理104の回数を決定すればよい。
【0038】
イオン添加処理104中における半導体基板100の基板温度を200℃以下に保持することにより、半導体基板100の結晶性の低下を抑制することができるため、後の工程で熱処理を行うことで半導体基板100から分離された半導体薄膜層110の結晶性を半導体基板100に近い状態まで回復することができる。なお、半導体基板100の基板温度を200℃以下に保持することによる結晶性低下抑制効果については、実施例1にて具体的な実験結果と共に詳細な説明を行う。
【0039】
また、イオン添加処理104による半導体基板100の温度上昇を抑制するため、半導体基板100を設置する基板設置台の内部に冷却媒体を流す構成や、放熱構造(例えば、半導体基板100を設置する面と反対の面に凹凸を有する構造)を備えた構成としてもよい。勿論、当該構成と上述の複数回に分けたイオン添加処理104を併用してもよく、これにより、より短時間でイオン添加処理104を行うことができる。
【0040】
イオン添加処理104は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。特にイオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種のみを半導体基板中に添加することができるため望ましい。
【0041】
なお、イオンドーピング装置を用いてイオン添加処理を行う場合、イオンドーピング装置はプラズマ中のイオン種の質量分離が行われないため、添加する必要のない元素、例えば重金属なども同時に添加されるおそれがあるが、ハロゲン原子を含有する絶縁層102を介してイオン添加処理を行うことにより、絶縁層102中に重金属をトラップすることができるため、半導体基板100の重金属による汚染を抑制することができる。
【0042】
半導体基板100中に添加する水素イオンは、Hの比率を高くすると良い。具体的には、H、H、Hの総量に対してHの割合が50%以上(より好ましくは80%以上)となるようにする。Hの割合を高めることにより、イオンビームに含まれるH、Hの割合を相対的に小さくなり、イオン種の違いに起因した平均侵入深さのばらつきを小さくすることができるため、イオン添加効率を向上させてイオン添加に要する時間を短縮することができる。
【0043】
脆化領域106が形成される領域の深さは、添加する水素イオンの運動エネルギー、質量と電荷、入射角などによって調節することができる。また、脆化領域106は、イオンの平均侵入深さとほぼ同じ深さの領域に形成される。このため、水素イオンの添加条件を調整することにより、半導体基板100から分離される半導体薄膜層110の厚さを調節することができる。
【0044】
脆化領域106が形成される深さが浅すぎると、半導体基板100から半導体薄膜層110がうまく分離されず、半導体薄膜層110に孔が空いてしまう場合がある。また、脆化領域106が形成される深さを深くしようとすると、イオンビームの加速エネルギーを大きくする必要があるため、半導体基板100から分離される半導体薄膜層110の結晶性を低下させてしまう。このため、脆化領域106が形成される深さが50nm以上1000nm以下、好ましくは50nm以上300nm以下となるように添加するイオンの平均侵入深さを調節すればよい。
【0045】
例えば、水素ガスを用いてイオンドーピング法でイオン添加を行う場合、イオンビームに含まれるイオン種及びその割合、絶縁層102の膜厚にもよるが、加速電圧を10kV以上200kV以下(好ましくは30kV以上100kV以下)、ドーズ量(複数回に分けてイオン添加を行う際は、トータルのドーズ量)を1×1016ions/cm以上6×1016ions/cm以下とすればよい。
【0046】
そして、イオン添加処理104の後に結晶欠陥を回復させるための熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、脆化領域106において水素集中により分離が生じない温度とする。一例として、200℃以上400℃未満で加熱を行えばよい。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、半導体基板100として用いる材質により適宜調整すればよく、上記範囲に限定して解釈されるものではない。
【0047】
次に、半導体基板100を100℃以上400℃以下に保持した状態で、半導体基板100に対してプラズマ処理108を行う(図1(C)参照。)。
【0048】
半導体基板100を100℃以上400℃以下に保持する方法としては、例えば、半導体基板100を設置する基板設置台を加熱することにより、基板設置台の熱を半導体基板100に伝えればよい。また、前述のイオン添加処理104の際に記載した、半導体基板100の温度上昇抑制方法を用いてもよい。
【0049】
プラズマ処理108としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式、容量結合プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)方式、マイクロ波(例えば周波数2.45GHz)の高密度プラズマを用いた方式等を用い、10min以上、好ましくは30min以上の処理を行えばよい。なお、プラズマ処理としては、アルゴン、クリプトン、キセノンなど質量数の大きい希ガス、水素ガスおよび前述の希ガスと水素ガスの混合ガスを用いることが好ましい。
【0050】
また、プラズマ処理108として、例えば、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタリングを行うことができる。逆スパッタリングとは、前述の希ガス雰囲気下、水素ガス雰囲気下および前述の希ガスと水素ガスの混合雰囲気下で基板側にRF電源を用いて電圧を印加して基板近傍にプラズマを形成する方法である。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウム、酸素などを用いてもよい。
【0051】
なお、一般的なSOI基板の作製工程においても、半導体基板にベース基板を貼り合わせる前にプラズマ処理を行うが、これは半導体基板の表面残留物除去や表面状態改質により半導体基板とベース基板の密着性を向上させるための処理である。これに対し、本実施の形態におけるプラズマ処理108は、以下に示す効果を主目的としたものである。
【0052】
本実施の形態では、半導体薄膜層110の結晶性の低下を抑制するため、イオン添加処理104中の半導体基板100の温度を200℃以下に保持している。このため、半導体基板100中には半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の低いSi−H結合が必然的に生じてしまう。そこで、上述のように半導体基板100を100℃以上400℃以下の温度に保持し、さらに半導体基板100に対してプラズマ処理108を行うことにより、半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を残存させたまま、半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を低減する。
【0053】
なお、上述の効果に加え、半導体基板とベース基板の密着性を向上させる効果を備えていてもよい。
【0054】
なお、上述の「半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を残存させ」とは、プラズマ処理を行う前の半導体基板100における2110cm−1および2155cm−1の吸光度ピークを100%とした場合に、プラズマ処理を行った半導体基板100における2110cm−1および2155cm−1の吸光度ピークが80%以上である場合を指す。
【0055】
また、上述の「半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の低いSi−H結合」とは、フーリエ変換型赤外分光法を用いて半導体基板100中のSi−H結合測定した際に、1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲に吸光度ピークを有する結合の事を指す。
【0056】
次に、ベース基板200を準備し、半導体基板100の脆化領域106が形成された側の面に対してベース基板200を貼り合わせる(図1(D)参照。)。ベース基板200としては、液晶表示装置などに使用されている透光性を有するガラス基板を用いることができ、歪み点が600℃以上であるものを用いることが好ましい。上述のガラス基板としては、例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板が挙げられる。ベース基板200として、特に上述の各種ガラス基板を用いる場合、ベース基板200の大面積化が可能であり、且つ価格も安価であるため、SOI基板を用いて作製する半導体装置のコスト低減を図ることができる。
【0057】
また、ベース基板200として、セラミック基板、サファイア基板などの絶縁体でなる基板、金属やステンレスなどの導電体でなる基板なども用いることができる。なお、半導体基板100で挙げた基板なども用いることができる。
【0058】
なお、ベース基板200上に絶縁膜を形成してもよい。その場合、ベース基板200上に形成される絶縁膜は、絶縁層102と同様の方法及び材料を用いて形成することができる。
【0059】
また、ベース基板200は、その表面をあらかじめ洗浄しておくことが好ましい。具体的には、ベース基板200に対して、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いて超音波洗浄を行う。このような洗浄処理を行うことによって、ベース基板200表面の平坦性向上や、ベース基板200表面に残存する研磨粒子の除去などが実現される。
【0060】
そして、半導体基板100とベース基板200を貼り合わせる前には、貼り合わせに係る表面に対して表面処理を行ってもよい。表面処理としては、ウェット処理、ドライ処理、またはウェット処理とドライ処理の組み合わせ、を用いることができる。また、異なるウェット処理どうしを組み合わせて用いても良いし、異なるドライ処理どうしを組み合わせて用いても良い。これにより、半導体基板100とベース基板200との界面での接合強度を向上させることができる。
【0061】
上述のウェット処理としては、オゾン水を用いたオゾン処理(オゾン水処理)、アルカリ系洗浄剤を用いたメガソニック洗浄、ブラシ洗浄、又は2流体洗浄(純水や水素添加水等の機能水を窒素等のキャリアガスとともに噴きつける方法)などが挙げられる。また、上述のドライ処理としては、XeエキシマUVランプの照射、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理、又はラジカル処理などが挙げられる。
【0062】
貼り合わせの際には、ベース基板200または半導体基板100の一箇所に、0.001N/cm以上100N/cm以下、例えば、1N/cm以上20N/cm以下の圧力を加えることが望ましい。これにより、絶縁層102とベース基板200の一箇所を密着させると、当該部分を始点として、基板のほぼ全面において絶縁層102とベース基板200に自発的な接合が生じる。この接合には、ファンデルワールス力や水素結合が作用しており、常温で行うことができる。
【0063】
なお、半導体基板100とベース基板200の接合強度を増加させるため、貼り合わせの後に熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、脆化領域106において分離が生じない温度(例えば、200℃以上400℃未満)とする。また、この温度範囲で加熱しながら、半導体基板100とベース基板200を貼り合わせてもよい。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、開示する発明の一態様がこれに限定して解釈されるものではない。
【0064】
次に、半導体基板100に対して加熱処理を行う。当該加熱処理を行うことで、イオン添加処理104により半導体基板100中に添加された水素イオン(または、添加された水素イオンを含む気体)が脆化領域106に集中し、当該部分を中心として半導体基板100内部の圧力が上昇する。これにより、脆化領域106に亀裂が生じるため、脆化領域106に生じた亀裂を境界面として半導体基板100から半導体薄膜層110が分離される。その後、ベース基板200を半導体基板100から分離することにより、半導体基板100より分離された半導体薄膜層110が、絶縁層102を介してベース基板200上に転載される(図2参照。)。
【0065】
なお、当該加熱処理は、抵抗加熱炉等の加熱炉、RTA(瞬間熱アニール、Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置等を用いることができる。例えば、加熱炉を用いる場合、550℃以上かつベース基板200の歪み点未満の温度で0.5時間以上6時間以内の時間で加熱処理を行えばよい。
【0066】
また、当該加熱処理は必ずしも1回の加熱処理で行う必要はなく、複数回の加熱処理をもって当該加熱処理としてもよい。例えば、加熱炉にて200℃の状態で2時間加熱処理を行った後に加熱炉の温度を600℃まで上昇させ、600℃の状態で更に2時間加熱処理を行うといったように、温度を変化させながら複数回の加熱処理を行ってもよい。このように、脆化領域106で分離現象(劈開現象)が生じる温度よりも低い温度で、半導体基板100を予め加熱することにより、半導体基板100とベース基板200の接合強度を更に高めることができる。
【0067】
また、半導体薄膜層110を半導体基板100から分離した後に、半導体薄膜層110に対して100℃以上の温度で熱処理を行い、半導体薄膜層110中に残存する水素の濃度を低減させてもよい。
【0068】
以上の工程により作製されたSOI基板210は、半導体薄膜層110が高い結晶性を有しており、且つ、CMP装置を用いた研磨処理といった平坦化処理を行うことなく、半導体薄膜層110のP−V値を小さくすることができる。したがって、本実施の形態に記載の方法を用いることにより、高性能な半導体集積回路の形成に耐えうる、P−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【0069】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置の構成の一例について、図3および図4を用いて説明する。
【0070】
図3は、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いて作製した、nチャネル型のトランジスタおよび、pチャネル型のトランジスタを有する半導体装置の構成例であり、図4は当該半導体装置の作製方法の一例である。
【0071】
図3(A)は、ベース基板200上に絶縁層102を介して半導体薄膜層110が設けられたSOI基板の断面図であり、実施の形態1に記載されている図2の構造と一致する。
【0072】
まず、半導体薄膜層110を複数の島状の半導体層に分離する(図3(B)参照。)。半導体薄膜層110の分離は、例えばフォトリソグラフィ法などを用いて行えばよい。なお、本実施の形態では1つのnチャネル型トランジスタおよび1つのpチャネル型トランジスタの構造および作製方法についての説明を行うため、半導体薄膜層110を半導体層302(後にnチャネル型トランジスタの一部を構成する)および半導体層304(後にpチャネル型トランジスタの一部を構成する)の2つに分離している。
【0073】
次に、半導体層302および半導体層304上に絶縁層306を形成した後、半導体層302と重なる絶縁層306上にゲート電極308を形成し、半導体層304と重なる絶縁層306上にゲート電極310を形成する(図3(C)参照。)。なお、絶縁層306はゲート絶縁層として機能する。
【0074】
なお、半導体薄膜層110のエッチングを行う前に、形成するトランジスタのしきい値電圧を制御するために、ホウ素、アルミニウム、ガリウム等のp型を付与する不純物元素、またはリン、ヒ素等のn型を付与する不純物元素を半導体薄膜層110に添加することが好ましい。例えば、nチャネル型トランジスタが形成される領域にp型を付与する不純物元素を添加し、pチャネル型トランジスタが形成される領域にn型を付与する不純物元素を添加する。
【0075】
次に、半導体層302にn型の不純物領域312を形成し、半導体層304にp型の不純物領域314を形成する(図3(D)参照。)。
【0076】
n型の不純物領域312を形成する方法としては、例えば、pチャネル型トランジスタとなる半導体層304上にレジストでマスクを形成した後、イオンドーピング法またはイオン注入法によりn型を付与する不純物元素を半導体層302に添加する。これにより、半導体層302のうちゲート電極308と重畳しない領域には不純物元素が添加されてn型の不純物領域312が形成されるとともに、ゲート電極308と重畳する領域は自己整合的にチャネル形成領域322となる。
【0077】
そして、半導体層304を覆うレジストを除去した後に、半導体層304においても上記と同様の方法でp型を付与する不純物元素を半導体層304に添加することにより、p型の不純物領域314およびチャネル形成領域324が形成される。
【0078】
次に、ゲート電極308の側面を覆うサイドウォール絶縁膜332および、ゲート電極310の側面を覆うサイドウォール絶縁膜334を形成する(図3(E)参照。)。
【0079】
サイドウォール絶縁膜332の形成方法としては、プラズマCVD法などのCVD法、スパッタリング法などのPVD法を用いて絶縁層306、ゲート電極308およびゲート電極310上に酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化アルミニウム等の絶縁膜を単層または積層に成膜し、当該膜をSOI基板の表面に対して垂直方向となる異方性エッチングすることで形成すればよい。サイドウォール絶縁膜334についても同様の形成方法を用いることができる。なお、図3(E)では、この異方性エッチングにより絶縁層306もエッチングしているが、必ずしもこのような構造とする必要はない。また、図3(E)ではサイドウォール絶縁膜332およびサイドウォール絶縁膜334はゲート電極308および310の側面を覆う状態に形成されているが、ゲート電極308および310の側面および上面を覆う状態に形成されていてもよい。
【0080】
次に、n型の不純物領域312中にn型の低濃度不純物領域342およびn型の高濃度不純物領域352を、p型の不純物領域314中にp型の低濃度不純物領域344およびp型の高濃度不純物領域354を形成する(図4(A)参照。)。
【0081】
n型の不純物領域312中にn型の低濃度不純物領域342およびn型の高濃度不純物領域352を形成する方法としては、p型の不純物領域314およびチャネル形成領域324上にレジストマスクを形成した後、ゲート電極308及びサイドウォール絶縁膜332をマスクとして、イオンドーピング法またはイオン注入法によりn型を付与する不純物元素をn型の不純物領域312に添加する。n型の不純物領域312上の一部にはサイドウォール絶縁膜332が形成されているため、n型の不純物領域312には不純物元素の添加により自己整合的にn型の低濃度不純物領域342およびn型の高濃度不純物領域352が形成される。なお、n型の高濃度不純物領域352やn型の低濃度不純物領域342はソース領域またはドレイン領域として機能する。
【0082】
そして、p型の不純物領域314およびチャネル形成領域324上のレジストマスクを除去した後に、p型の不純物領域314においても、p型を付与する不純物元素を、上記と同様の方法でp型の不純物領域314に添加することにより、p型の低濃度不純物領域344およびp型の高濃度不純物領域354が形成される。なお、p型の高濃度不純物領域354やp型の低濃度不純物領域344はソース領域またはドレイン領域として機能する。
【0083】
以上の工程により、nチャネル型トランジスタ362とpチャネル型トランジスタ364を有する半導体装置を作製することができる(図4(A)参照。)。なお、n型の低濃度不純物領域342、n型の高濃度不純物領域352、p型の低濃度不純物領域344およびp型の高濃度不純物領域354を形成した後に、不純物元素の活性化のために加熱処理を行ってもよい。
【0084】
次に、nチャネル型トランジスタ362およびpチャネル型トランジスタ364上に絶縁層370を形成する(図4(C)参照。)。
【0085】
絶縁層370の形成方法としては、プラズマCVD法などのCVD法、スパッタリング法などのPVDを用いてnチャネル型トランジスタ362およびpチャネル型トランジスタ364上に酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化アルミニウム等の絶縁膜を単層または積層に成膜すればよい。なお、絶縁層370は膜中に水素を含んでいることが望ましい。これにより、絶縁層370を形成後に350℃以上450℃以下の温度による加熱処理を行うことで、絶縁層370中に含まれる水素をチャネル形成領域322および324に拡散させることができる。チャネル形成領域322および324に水素を供給することで、チャネル形成領域322および324の内部や絶縁層306との界面において、捕獲中心となるような欠陥を効果的に補償することができる。
【0086】
次に、絶縁層370を覆うように層間絶縁層372を形成する(図4(C)参照)。層間絶縁層372を構成する材料の一例としては、酸化シリコン膜などの無機材料でなる絶縁膜や、ポリイミドなどの有機樹脂膜を用いることができる。また、層間絶縁層372は単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
【0087】
次に、絶縁層370および層間絶縁層372にコンタクトホールを形成した後、配線層374を形成する(図4(D)参照。)。この配線層374は、ソース領域またはドレイン領域に電気的に接続されている。また、配線層374の形成方法の一例として、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)やプラズマCVD法などの化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)を用いて、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ネオジム(Nd)から選ばれた元素、又は前記元素を主成分とする合金材料もしくは化合物材料を含む膜で形成すればよい。また、導電膜としてリン等の不純物元素をドーピングした多結晶シリコン膜に代表される半導体膜や、AgPdCu合金膜を用いてもよい。
【0088】
本実施の形態では半導体装置の一例としてnチャネル型トランジスタおよびpチャネル型トランジスタの作製方法を説明したが、これらに加えて、容量、抵抗等の半導体素子を一体として形成することで、高付加価値の半導体装置を作製することができる。
【0089】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置の構成の一例について、図5を用いて説明する。
【0090】
図5では、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いて作製された、メモリセルの構成例を示す。
【0091】
図5(A)はメモリセルの一部を表す回路図の一例であり、図5(B)は図5(A)の回路図を構成するメモリセルの断面図の一例を、図5(C)は図5(A)の回路図を構成するメモリセルの平面図の一例を示す。なお、図5(B)は、図5(C)のA1−A2およびB1−B2における断面図に相当する。また、図5(C)は半導体装置の構造を理解しやすくするため、一部の層などを省略して記載している。
【0092】
本実施の形態にて説明するメモリセルは、図5(B)に示すように下部に第1の半導体材料を用いたトランジスタ560を有し、上部に第2の半導体材料を用いたトランジスタ562を有する。ここで、第1の半導体材料と第2の半導体材料とは異なる材料とすることが望ましい。例えば、第2の半導体材料として酸化物半導体を用い、第1の半導体材料として酸化物半導体以外の半導体材料を用いればよい。
【0093】
酸化物半導体以外の半導体材料としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、ガリウムヒ素またはインジウムリン等を用いることができ、特に、単結晶構造の半導体を用いることが好ましい。このような半導体材料を用いたトランジスタは、高速動作が容易である。
【0094】
一方、半導体材料として酸化物半導体を用いたトランジスタは、オフ電流が極めて小さく、これにより、図5(A)に示す、トランジスタ560、トランジスタ562および容量素子564と接続された領域(ノード580)において、長時間の電荷保持が可能となるため、メモリセルの低消費電力化が可能となる。なお、半導体材料として酸化物半導体を用いたトランジスタについての説明や、半導体層として酸化物半導体以外の材料を用いたトランジスタと、半導体層として酸化物半導体材料を用いたトランジスタを積層構造とすることについての特徴を、実施の形態6にて詳細に説明する。
【0095】
図5(B)の2つのトランジスタのうち、下部に位置するトランジスタ560の作製に、実施の形態1に示したSOI基板210を用いることができる。つまり、実施の形態1のベース基板200および絶縁層102が、本実施の形態のベース基板500および絶縁層502に相当する。また、実施の形態1の半導体薄膜層110を用いて、本実施の形態のチャネル形成領域504および不純物領域510を形成することができる。
【0096】
図5におけるトランジスタ560は、ベース基板500上の半導体層中に設けられたチャネル形成領域504と、チャネル形成領域504を挟むように設けられた不純物領域510(ソース領域およびドレイン領域とも記す)と、チャネル形成領域504上に設けられたゲート絶縁層506と、ゲート絶縁層506上にチャネル形成領域504と重畳するように設けられたゲート電極508を有する。
【0097】
ベース基板500上の半導体層中に設けられた不純物領域510には、導電層512が接続されている。ここで、導電層512は、トランジスタ560のソース電極やドレイン電極としても機能する。また、トランジスタ560を覆うように絶縁層514が設けられている。なお、図5(B)では絶縁層514は単層であるが、複数の膜を積層させた構造であってもよい。
【0098】
高集積化を実現するためには、図5(B)に示すようにトランジスタ560がサイドウォール絶縁膜を有しない構成とすることが望ましい。一方で、トランジスタ560の特性を重視する場合には、ゲート電極508の側面にサイドウォール絶縁膜を設け、不純物濃度が異なる領域を含む不純物領域510を設けても良い。
【0099】
図5におけるトランジスタ562は、絶縁層514などの上に設けられた酸化物半導体層516と、酸化物半導体層516と電気的に接続され、ソース電極またはドレイン電極として機能する導電層518および導電層530と、酸化物半導体層516、導電層518、導電層530を覆うゲート絶縁層520と、ゲート絶縁層520上に酸化物半導体層516と重畳するように設けられたゲート電極522を有する。なお、図5(B)では、導電層518および導電層530は酸化物半導体層516の上面(および側面)と電気的に接続(いわゆる、トップコンタクト構造)されているが、導電層518および導電層530を形成した後に酸化物半導体層516を形成することで、酸化物半導体層516の下面(および側面)と電気的に接続(いわゆる、ボトムコンタクト構造)されている状態としてもよい。
【0100】
図5における容量素子564は、導電層518、ゲート絶縁層520、およびゲート電極522により構成される。すなわち、導電層518は、容量素子564の一方の電極として機能し、ゲート電極522は、容量素子564の他方の電極として機能することになる。このような構成とすることにより、十分な容量を確保することができる。また、トランジスタ562をボトムコンタクト構造とした場合、酸化物半導体層516とゲート絶縁層520とを積層させることにより、導電層518とゲート電極522との絶縁性を十分に確保することができる。なお、容量が不要の場合は、容量素子564を設けない構成とすることもできる。
【0101】
本実施の形態では、トランジスタ562および容量素子564が、トランジスタ560と少なくとも一部が重畳するように設けられている。このような平面レイアウトを採用することにより、高集積化を図ることができる。例えば、最小加工寸法をFとして、メモリセルの占める面積を15F〜25Fとすることが可能である。
【0102】
トランジスタ562および容量素子564の上には絶縁層524が設けられており、絶縁層524上には、ゲート絶縁層520および絶縁層524に形成された開口を介してトランジスタ562のソース電極またはドレイン電極として機能する導電層530および、トランジスタ560のソース電極またはドレイン電極として機能する導電層512に電気的に接続された配線層526が形成されている。これにより、それぞれを異なる配線に接続する場合と比較して、配線の数を削減することができるため、半導体装置の集積度を向上させることができる。また、配線層526上には絶縁層528が形成されている。
【0103】
また、図5のように、導電層512、導電層530および配線層526の電気的接続を1箇所で行うレイアウトを採用することにより、コンタクト領域に起因する素子面積の増大を抑制することができるため、半導体装置の集積度を高めることができる。
【0104】
図5に示すメモリセルを複数用い、直列に接続することで、NAND型のメモリセルアレイを形成することができる。また、並列に接続することで、NOR型のメモリセルアレイを形成することができる。
【0105】
このように、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いることにより、トランジスタ560は高速動作が可能となり、また、安定した電気特性を得ることができる。したがって、高性能なメモリセルを備えた半導体装置を、高い歩留まりで作製することが可能であり、また生産コストを削減することができる。
【0106】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置の構成の一例について、図6および図7を用いて説明する。
【0107】
図6では、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いて作製された、液晶表示装置の一部(画素部分)の構成例を示す。また、図7では、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いて作製された、エレクトロルミネセンス表示装置(以下、EL表示装置と略記する。)の一部(画素部分)の構成例を示す。
【0108】
図6(A)は液晶表示装置の画素部分における上面図の一例であり、図6(B)は、図6(A)のC1−C2における断面図に相当する。なお、図6(A)は半導体装置の構造を理解しやすくするため、一部の層などを省略して記載している。
【0109】
図6に示すように、液晶表示装置の画素部分は、信号線608、信号線608と交差する走査線611および容量線613、画素電極618、信号線608からの信号を画素電極618に入力するか否かを決定するトランジスタ680、容量素子690、画素電極618とトランジスタ680を電気的に接続する配線層609を有する。なお、信号線608の一部および配線層609の一部はトランジスタ680のソース電極またはドレイン電極として機能する。また、走査線611の一部はトランジスタ680のゲート電極として機能するため、走査線611にはゲート電極612が含まれている。
【0110】
なお、図6において、配線層609は信号線608と同一の材料および工程により形成されたものであり、構造を理解しやすくするために異なる名称を用いたが、同一のものである。同様に、走査線611と容量線613も同一のものである。
【0111】
図6(B)のトランジスタ680の作製に、実施の形態1に示したSOI基板210を用いることができる。つまり、実施の形態1のベース基板200および絶縁層102が、本実施の形態のベース基板600および絶縁層602に相当する。また、実施の形態1の半導体薄膜層110を用いて、本実施の形態のチャネル形成領域604および不純物領域606を形成することができる。
【0112】
図6におけるトランジスタ680は、ベース基板600上の半導体層中に設けられたチャネル形成領域604と、チャネル形成領域604を挟むように設けられた、n型またはp型の不純物元素が添加された不純物領域606(ソース領域およびドレイン領域とも記す)と、不純物領域606と電気的に接続された信号線608および配線層609と、チャネル形成領域604上に設けられたゲート絶縁層610と、ゲート絶縁層610上にチャネル形成領域604と重畳するように設けられたゲート電極612を有する。なお、チャネル形成領域604および不純物領域606は、SOI基板の半導体層をエッチング処理等により素子分離して形成された島状の半導体層を用いて形成されている。そして、トランジスタ680を覆うように絶縁層614が設けられている。
【0113】
なお、図6(B)では絶縁層614は単層であるが、複数の膜を積層させた構造であってもよい。
【0114】
図6における容量素子690は、配線層609、ゲート絶縁層610、および容量線613により構成される。すなわち、配線層609は、容量素子690の一方の電極として機能し、容量線613は、容量素子690の他方の電極として機能することになる。このような構成とすることにより、十分な容量を確保することができる。
【0115】
絶縁層614上には画素電極618が設けられており、画素電極618はゲート絶縁層610および絶縁層614に形成された開口部を介して配線層609と電気的に接続されている。また、絶縁層614上には、スペーサ620が配置されている。そして、絶縁層614およびスペーサ620を覆う配向膜622が形成されている。なおスペーサ620は、ベース基板600と対向基板650の間に隙間を形成する役割を担う。
【0116】
対向基板650には、対向電極652、対向電極を覆う配向膜654が形成されている。そして、スペーサ620によって形成される配向膜622と配向膜654の隙間に液晶層660が形成されている。
【0117】
なお、配線層609と画素電極618の接続部分は、ゲート絶縁層610および絶縁層614に開口部が形成されており段差が生じるので、当該部分では液晶層660の液晶の配向が乱れやすい。そのため、当該部分上にスペーサ620を形成することで、液晶層660の液晶の配向の乱れを防ぐことができる。
【0118】
このように、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いることにより、トランジスタ680は高速動作が可能となり、また、安定した電気特性を得ることができる。したがって、高性能な液晶表示装置を、高い歩留まりで作製することが可能であり、また生産コストを削減することができる。
【0119】
次に、EL表示装置の構成例について、図7を参照して説明する。
【0120】
図7(A)はEL表示装置の画素部分における上面図の一例であり、図7(B)は、図7(A)のD1−D2における断面図に相当する。なお、図7(B)は半導体装置の構造を理解しやすくするため、一部の層などを省略して記載している。
【0121】
図7に示すように、EL表示装置の画素部分は、電源供給線707、信号線708、電源供給線707および信号線708と交差する走査線711、容量線713、画素電極718、信号線708からの信号が入力される画素を決定する選択用トランジスタ770、選択用トランジスタを介して入力される信号を画素電極に入力するか否かを決定する表示制御用トランジスタ780、容量素子790を有する。
【0122】
なお、信号線708の一部および配線層709は選択用トランジスタ770のソース電極またはドレイン電極として機能し、電源供給線707の一部および配線層715は表示制御用トランジスタ780のソース電極またはドレイン電極として機能する。また、走査線711および容量線713の一部は選択用トランジスタ770および表示制御用トランジスタ780のゲート電極として機能するため、走査線711および容量線713にはゲート電極712が含まれている。
【0123】
また、図7において、電源供給線707、信号線708、配線層709および配線層715は同一の材料および工程により形成されたものであり、構造を理解しやすくするために異なる名称を用いたが、同一のものである。同様に、走査線711と容量線713も同一のものである。
【0124】
図7(B)の表示制御用トランジスタ780の作製に、実施の形態1に示したSOI基板210を用いることができる。つまり、実施の形態1のベース基板200および絶縁層102が、本実施の形態のベース基板700および絶縁層702に相当する。また、実施の形態1の半導体薄膜層110を用いて、本実施の形態のチャネル形成領域704および不純物領域706を形成することができる。
【0125】
図7における表示制御用トランジスタ780は、ベース基板700上の半導体層中に設けられたチャネル形成領域704と、チャネル形成領域704を挟むように設けられた、n型またはp型の不純物元素が添加された不純物領域706(ソース領域およびドレイン領域とも記す)と、不純物領域706と電気的に接続された電源供給線707および配線層715と、チャネル形成領域704上に設けられたゲート絶縁層710と、ゲート絶縁層710上にチャネル形成領域704と重畳するように設けられたゲート電極712を有する。なお、チャネル形成領域704および不純物領域706は、SOI基板の半導体層をエッチング処理等により素子分離して形成された島状の半導体層を用いて形成されている。そして、表示制御用トランジスタ780および選択用トランジスタ770を覆うように絶縁層714が設けられている。なお、図7(B)では選択用トランジスタ770の構造については記載されていないが、不純物領域706に電源供給線707および配線層709が電気的に接続されていること以外は、表示制御用トランジスタ780と同様の構造とすればよい。
【0126】
なお、図7(B)では絶縁層714は単層であるが、複数の膜を積層させた構造であってもよい。
【0127】
図7における容量素子790は、電源供給線707、ゲート絶縁層710、および容量線713により構成される。すなわち、電源供給線707は、容量素子790の一方の電極として機能し、容量線713は、容量素子790の他方の電極として機能することになる。このような構成とすることにより、十分な容量を確保することができる。
【0128】
絶縁層714上には画素電極718が設けられており、ゲート絶縁層710および絶縁層714に形成された開口部を介して、表示制御用トランジスタ780から引き回された配線層715と電気的に接続されている。そして、画素電極718の周辺部には、画素電極718の端部を覆う絶縁性の隔壁層720が形成されている。
【0129】
画素電極718上には、電界を加えることにより発光する材料を含む層(以下、EL層と呼称する。)が形成され、EL層722上には対向電極724が形成されている。また、外部(大気中)の酸素や水蒸気などによるEL層の劣化を抑制するため、ベース基板700上には接着材料(図示しない)を用いて対向基板750が固定されている。
【0130】
EL表示装置の階調の制御は、EL層の発光輝度を電流で制御する電流駆動方式と、電圧で制御する電圧駆動方式とがあるが、電流駆動方式は、画素ごとでトランジスタの特性値の差が大きい場合、採用することは困難であり、そのためには特性のばらつきを補正する補正回路が必要になる。しかしながら、本実施の形態におけるEL表示装置は、先の実施の形態に示したSOI基板を用いて選択用トランジスタ770および表示制御用トランジスタ780を形成しているため、各画素に設けられた選択用トランジスタ770および表示制御用トランジスタ780の特性のばらつきが抑制され、電流駆動方式を積極的に採用することができる。
【0131】
このように、実施の形態1に記載する方法で作製したSOI基板を用いることにより、表示制御用トランジスタ780は高速動作が可能となり、また、安定した電気特性を得ることができる。したがって、高性能なEL表示装置を、高い歩留まりで作製することが可能であり、また生産コストを削減することができる。
【0132】
(実施の形態5)
本実施の形態では、上述の実施の形態で説明した半導体装置を電子機器に適用する場合の一例について説明する。
【0133】
電子機器としては、ビデオカメラ、デジタルカメラなどのカメラ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話機、携帯型ゲーム機、電子書籍等)、記録媒体中のデータを再生する機能を有する画像再生装置(具体的には、DVD(digital versatile disc)、ブルーレイディスク(Blu―ray Disk)等の記録媒体に記憶された音声データを再生し、かつ記憶された画像データを表示可能な表示装置)等が含まれる。それらの一例を図8に示す。
【0134】
図8(A)は、携帯型の情報端末であり、本体801、筐体802、第1の表示部803a、第2の表示部803bなどによって構成されている。
【0135】
第1の表示部803aおよび第2の表示部803bの少なくとも一方はタッチ入力機能を有するパネルとなっており、例えば図8(A)の左図のように、第1の表示部803aに表示される選択ボタン804aおよび選択ボタン804bにより「タッチ入力」を行うか、「キーボード入力」を行うかを選択できる。選択ボタンは様々な大きさで表示できるため、幅広い世代の人が使いやすさを実感できる。ここで、例えば「キーボード入力」を選択した場合、図8(A)の右図のように第1の表示部803aにはキーボード805が表示される。これにより、従来の情報端末と同様に、キー入力による素早い文字入力などが可能となる。
【0136】
また、図8(A)に示す携帯型の情報端末は、図8(A)の右図のように、本体801と筐体802を分離することができる。これにより、筐体802を壁に掛けて大人数で画面情報を共有しながら、本体801で画面情報をコントロールするといった操作が可能となり、非常に便利である。なお、当該装置を使用しない場合は、第1の表示部803a及び第2の表示部803bが向かい合うように、本体801および筐体802を重ねた状態とすることが好ましい。これにより、外部より加わる衝撃などから第1の表示部803a及び第2の表示部803bを保護することができる。
【0137】
図8(A)は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報を操作又は編集する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。
【0138】
また、図8(A)に示す携帯型の情報端末は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0139】
さらに、図8(A)に示す筐体802にアンテナやマイク機能や無線機能を持たせ、携帯電話として用いてもよい。
【0140】
実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置を、筐体802内に設置されたCPUやメモリなどの各種半導体デバイス、第1の表示部803aおよび第2の表示部803b内に設置された各種半導体デバイスに用いることにより、高速動作が可能、低消費電力が低い等の付加価値の高い機能を有する携帯型の情報端末を提供できる。
【0141】
図8(B)は、テレビジョン装置であり、筐体811、表示部812、スタンド813などで構成されている。テレビジョン装置の操作は、筐体811が備えるスイッチや、リモコン操作機814により行うことができる。このようなテレビジョン装置において、筐体811内に設置されたCPUやメモリなどの各種半導体デバイス、表示部812などに、実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置を用いることにより、高い表示能力や低消費電力といった特徴を有する、付加価値の高いテレビジョン装置を提供できる。
【0142】
図8(C)は、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)の一形態を示している。図8(C)に示す画像表示装置は、筐体821に左目用パネル822a、右目用パネル822b及び画像表示ボタン823が設けられている。このようなゴーグル型ディスプレイにおいて、筐体821内に設置されたCPUやメモリなどの各種半導体デバイス、左目用パネル822a、右目用パネル822bなどに、実施の形態1に記載の方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置を用いることにより、高い表示能力や低消費電力といった特徴を有する、付加価値の高いゴーグル型ディスプレイを提供できる。
【0143】
また、本明細書に開示する半導体装置の作製方法において、ベース基板(EL表示装置では、対向基板も含む)として透光性を有する基板(例えばガラス基板など)を用い、また、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、画素電極などの各種電極部分に透光性を有する層(例えば、酸化珪素を含む酸化インジウムスズ(ITSO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム亜鉛、ガリウムを添加した酸化亜鉛(GZO)などの透光性を有する導電材料)を用いることにより、透光性を有する画像表示装置(例えば、50%以上の可視光透過率)を形成することが可能となる。これにより、左目用パネル822a及び右目用パネル822bは、外部の光景が目視可能であるため、通常時は図8(C)の左下図のように、使用者は通常の眼鏡と同様に周囲の風景を見ることができ、使用者が必要な情報を得たい場合に画像表示ボタン823を押すことにより、図8(C)の右下図のように、左目用パネル822a、右目用パネル822bの一方又は両方に必要な情報(画像)を表示するといった使用方法においても好適であるといえる。
【0144】
(実施の形態6)
本実施の形態では、半導体材料として酸化物半導体を用いたトランジスタについての説明および、半導体層として酸化物半導体以外の材料を用いたトランジスタと、半導体層として酸化物半導体材料を用いたトランジスタを積層構造とすることについての特徴を記載する。
【0145】
図17は、実施の形態3とは異なるメモリセルの一例であり、本実施の形態の説明は、当該メモリセルを用いて行う。
【0146】
本実施の形態の説明にて用いるメモリセルは、図17に示すように、第1のトランジスタ910、第2のトランジスタ912および容量素子914を有し、第1のトランジスタ910のソースおよびドレインの一方が第1の配線921(1st Line)と、ゲートが第2の配線922(2nd_Line)接続され、第2のトランジスタ912のソースおよびドレインの一方が第3の配線923(3rd_Line)と、他方が第4の配線924(4th_Line)と接続されている。また、容量素子914を構成する電極の一方が第1のトランジスタ910のソースおよびドレインの他方ならびに第2のトランジスタ912のゲートと接続されており、電極の他方は第5の配線925(5th_Line)に接続されている。
【0147】
図17のように、第1のトランジスタ910は半導体層として酸化物半導体材料を用いたトランジスタ(以下、OSトランジスタとも記載する。)であるため、第2の配線922からの信号によりトランジスタ910をオン状態とし、第1の配線921からの信号を第2のトランジスタ912のゲートおよび容量素子914を構成する電極の一方に与えた状態で、第2の配線922からの信号によりトランジスタ910をオフ状態とする。これにより、メモリセルに電源の供給が行われない状況でもトランジスタ910のソースおよびドレインの他方、トランジスタ912のゲートおよび容量素子914を構成する電極の一方の間の領域(図中のノード918に相当。)に、第1の配線921を通して入力された信号を長期間保持できる(書き込み。)。
【0148】
データの読み出しについては、まず第3の配線923に所定の電位(定電位)を与えた状態で、第5の配線925に適切な電位(読み出し電位)を与えると、ノード918に保持された電荷量に応じて、第4の配線924は異なる電位をとる。一般に、トランジスタ912をnチャネル型とすると、トランジスタ912のゲート電極にHighレベル電荷が与えられている場合の見かけのしきい値電圧Vth_Hは、トランジスタ912のゲート電極にLowレベル電荷が与えられている場合の見かけのしきい値電圧Vth_Lより低くなるためである。ここで、見かけのしきい値電圧とは、トランジスタ912を「オン状態」とするために必要な第5の配線925の電位をいうものとする。したがって、第5の配線925の電位をVth_HとVth_Lの間の電位Vとすることにより、トランジスタ912のゲートに与えられた電荷を判別できる。例えば、書き込みにおいて、Highレベルの電荷が与えられていた場合には、第5の配線925の電位がV(>Vth_H)となれば、トランジスタ912は「オン状態」となる。Lowレベルの電荷が与えられていた場合には、第5の配線925の電位がV(<Vth_L)となっても、トランジスタ912は「オフ状態」のままである。このため、第4の配線924の電位を見ることで、保持されている情報を読み出すことができる。
【0149】
なお、メモリセルをアレイ状に配置して用いる場合、所望のメモリセルの情報のみを読み出せることが必要になる。このように情報を読み出さない場合には、トランジスタ912のゲートの状態にかかわらずトランジスタ912が「オフ状態」となるような電位、つまり、Vth_Hより小さい電位を第5の配線925に与えればよい。または、トランジスタ912のゲートの状態にかかわらずトランジスタ912が「オン状態」となるような電位、つまり、Vth_Lより大きい電位を第5の配線925に与えればよい。
【0150】
OSトランジスタであるトランジスタ910は、シリコンなどの薄膜トランジスタと同様の装置や方法を用いることが可能であり、新たな設備投資や作製方法検討の負担が少ないという長所もある。また、OSトランジスタは、半導体層として酸化物半導体材料以外を用いたトランジスタ(例えば、実施の形態1のように、半導体層として単結晶シリコンを用いたトランジスタなど。)と積層させた構造とすることができる。
【0151】
ここで、図17に記載の回路構成において、第1のトランジスタ910として半導体層に酸化物半導体材料を用いたトランジスタ(以下、OSトランジスタとも記載する。)を、第2のトランジスタ912として半導体層に単結晶シリコンを用いたトランジスタを積層させた構造のメモリセル断面の一例を図18(A)に示す。
【0152】
図18(A)は、基板1000上に半導体層として単結晶シリコンを用いた第2のトランジスタ912および、当該トランジスタ上に設けられた、半導体層として酸化物半導体材料を用いた第1のトランジスタ910が設けられた、メモリセルの一部についての断面図一例である。
【0153】
第2のトランジスタ912は、実施の形態3のnチャネル型トランジスタ362と同様の構造を用いることができる。
【0154】
なお、第2のトランジスタ912のソースまたはドレインとして機能するn型の高濃度不純物領域352は、第2のトランジスタ912を覆う層間膜1010上に設けられた導電膜1012と電気的に接続されている。
【0155】
第1のトランジスタ910は、絶縁膜1019上に設けられた酸化物半導体膜1020と、酸化物半導体膜1020と電気的に接続され、第1のトランジスタ910のソースやドレインとして機能する導電膜1022と、酸化物半導体膜1020上に設けられたゲート絶縁膜1024と、ゲート絶縁膜1024を挟んで酸化物半導体膜1020上に設けられたゲート電極1026を含んで構成されている。
【0156】
絶縁膜1019としては、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)やプラズマCVD法などの化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)を用いて、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウムなどの無機絶縁膜を成膜して用いることができる。
【0157】
なお、絶縁膜1019は加熱処理により酸素を放出する膜が形成されていることが好ましい。第1のトランジスタ910において、チャネル形成領域に酸素欠損が存在すると、酸素欠損に起因して電荷が生じる場合がある。一般に酸化物半導体膜の酸素欠損は一部がドナーとなりキャリアである電子を放出する。この結果、トランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまうためである。
【0158】
絶縁膜1019を加熱処理により酸素を放出する膜とすることで、加熱処理によって酸素供給膜中の酸素の一部を放出できるので、酸化物半導体膜に酸素を供給し、酸化物半導体膜中の酸素欠損を補填することができるため、トランジスタのしきい値電圧のマイナス方向へのシフトを抑制できる。特に、酸素供給膜中に少なくとも化学量論的組成を超える量の酸素が存在することが好ましい。例えば、酸素供給膜として酸化シリコンを用いる場合、SiO2+α(ただし、α>0)で表される酸化シリコン膜を用いることが好ましい。なお、このような化学量論的組成よりも酸素を過剰に含む領域(以下、酸素過剰領域と記載する場合もある。)は、酸素供給膜の少なくとも一部に存在していればよい。
【0159】
なお、上述の「加熱処理により酸素を放出する膜」とは、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離ガス分光法)分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1019atoms/cm以上、好ましくは3.0×1019atoms/cm以上、さらに好ましくは1.0×1020atoms/cm以上、さらに好ましくは3.0×1020atoms/cm以上であることをいう。
【0160】
ここで、TDS分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量の測定方法について、以下に説明する。
【0161】
TDS分析による気体の放出量は、スペクトルの積分値に比例する。このため、測定したスペクトルの積分値と標準試料の基準値との比により、気体の放出量を計算することができる。標準試料の基準値は、所定の原子密度を有する試料において、スペクトルの積分値に対する原子密度の割合である。
【0162】
例えば、標準試料である所定の密度の水素を含むシリコンウェハのTDS分析結果、および絶縁膜のTDS分析結果から、絶縁膜の酸素分子の放出量(NO2)は、式(1)で求めることができる。ここで、TDS分析で得られる質量電荷比(M/z)が32で検出されるスペクトルの全てが酸素分子由来と仮定する。M/zが32のものとしてほかにCHOHがあるが、存在する可能性が低いものとしてここでは考慮しない。また、酸素原子の同位体であるM/zが17の酸素原子およびM/zが18の酸素原子を含む酸素分子についても、自然界における存在比率が極微量であるため考慮しない。
【0163】
【数1】

(1)
【0164】
H2は、標準試料から脱離した水素分子を密度で換算した値である。SH2は、標準試料をTDS分析によるスペクトルの積分値である。ここで、標準試料の基準値を、NH2/SH2とする。SO2は、絶縁膜をTDS分析によるスペクトルの積分値である。αは、TDSにおけるスペクトル強度に影響する係数である。式(1)の詳細に関しては、特開平6−275697公報を参照する。なお、上記絶縁膜の酸素の放出量は、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置EMD−WA1000S/Wを用い、標準試料として1×1016atoms/cmの水素原子を含むシリコンウェハを用いて測定する。
【0165】
また、TDS分析において、酸素の一部は酸素原子として検出される。酸素分子と酸素原子の比率は、酸素分子のイオン化率から算出することができる。なお、上述のαは酸素分子のイオン化率を含むため、酸素分子の放出量を評価することで、酸素原子の放出量についても見積もることができる。
【0166】
なお、NO2は酸素分子の放出量である。酸素原子に換算したときの放出量は、酸素分子の放出量の2倍となる。
【0167】
膜中への酸素の導入は、酸素雰囲気下による熱処理や、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオンインプランテーション法、酸素を含む雰囲気下で行うプラズマ処理などを用いることができる。
【0168】
また、過剰酸素を含む絶縁膜の水素濃度が、7.2×1020atoms/cm以上である場合には、トランジスタの初期特性のバラツキの増大、トランジスタの電気特性に関するL長依存性の増大、さらにBTストレス試験において、大きく劣化するため、過剰酸素を含む絶縁膜の水素濃度は、7.2×1020atoms/cm未満とすることが好ましい。即ち、酸化物半導体膜の水素濃度は5×1019atoms/cm以下、かつ、過剰酸素を含む絶縁膜の水素濃度は、7.2×1020atoms/cm未満とすることが好ましい。水素濃度の低い膜を形成する方法については、後述にて詳細を記載する。
【0169】
なお、加熱処理により酸素供給膜から酸化物半導体膜に酸素を供給する場合、酸素供給膜から放出される酸素が酸化物半導体膜に効率的に供給されるように、酸素供給膜の下層(つまり、酸素供給膜の酸化物半導体膜と接する面とは逆の面。)に酸素透過性や水蒸気透過性(水分透過性とも表現できる。)の低い膜(以下、バリア膜と記載する場合もある。)を形成することが好ましい。例えば、酸素供給膜の下層にバリア膜として、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜などを形成すればよい。なお、酸化アルミニウム膜を用いる場合、膜を高密度(膜密度3.2g/cm以上、好ましくは3.6g/cm以上)とすることが好ましい。
【0170】
酸化物半導体膜1020に用いる酸化物半導体材料としては、少なくともインジウム(In)を含む。特にInと亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。また、該酸化物を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてジルコニウム(Zr)を有することが好ましい。
【0171】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0172】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、In−Zn系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、In−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、In−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0173】
なお、ここで、例えば、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0174】
また、酸化物半導体として、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素又は複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0175】
また、酸化物半導体膜1020の材料として、酸化物半導体を用いることもできる。酸化物半導体材料を用いた酸化物半導体膜1020は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)または非晶質などの状態をとる。
【0176】
好ましくは、酸化物半導体膜1020はCAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0177】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部および非晶質部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0178】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0179】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0180】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0181】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動が小さい。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0182】
酸化物半導体膜1020としてCAAC−OS膜を成膜する場合、以下の三つの方法で成膜すればよい。第1の方法は、200℃以上450℃以下の成膜温度で酸化物半導体膜をスパッタリング法などのPVD法を用いて成膜してCAAC−OS膜とする方法である。第2の方法は、酸化物半導体膜をスパッタリング法などのPVD法を用いて成膜した後、当該膜に対して200℃以上700℃以下の熱処理を行うことでCAAC−OS膜とする方法である。第3の方法は、酸化物半導体膜をスパッタリング法などのPVD法を用いて2層に分けて成膜し、1層目の酸化物半導体膜を薄く成膜した後、200℃以上700℃以下の熱処理を行い1層目の膜をCAAC−OS膜とし、当該膜上に2層目の成膜を行うことで、1層目の結晶を種結晶として2層目の酸化物半導体膜をCAAC−OS膜とする方法である。
【0183】
なお、酸化物半導体膜1020中の酸素欠損をできるだけ少なくすることが好ましいため、成膜雰囲気中のガス種に占める酸素ガスの割合が高い状態で成膜することが好ましく、装置内に酸素を導入することが可能で、かつ、ガス流量の調整ができるスパッタリング装置を用いることが好ましいといえる。そして、スパッタリング装置の成膜チャンバー内への導入ガスは、全体の90%以上を酸素ガスとして、酸素ガスに加えて他のガスを用いる場合は、当該ガスは希ガスを用いることが望ましい。また、より好ましくは成膜チャンバー内への導入ガスを酸素ガスのみとし、成膜雰囲気中のガス種に占める酸素ガスの割合を極力100%に近づけることが望ましい。
【0184】
また、酸化物半導体膜1020に水素が多量に含まれると、酸化物半導体と結合することによって、水素の一部がドナーとなり、キャリアである電子を生じてしまう。これにより、トランジスタのしきい値電圧がマイナス方向にシフトしてしまう。そのため、酸化物半導体膜1020において、水素濃度は、5×1018atoms/cm未満、好ましくは1×1018atoms/cm以下、より好ましくは5×1017atoms/cm以下、更に好ましくは1×1016atoms/cm以下とすることが望ましい。なお、上述の酸化物半導体膜1020中の水素濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定されるものである。
【0185】
上述の理由により、酸化物半導体膜1020を成膜する際に用いるガスとしては、水、水素、水酸基又は水素化物などの不純物が含まれないことが好ましい。または、純度が6N以上好ましくは7N以上(即ち、ガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)のガスを用いることが好ましい。
【0186】
また、酸化物半導体膜1020を成膜するにあたり、成膜室内の水分(水、水蒸気、水素、水酸基または水酸化物を含む)を除去するために、吸着型の真空ポンプ、例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また、排気手段は、ターボ分子ポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。クライオポンプを用いて排気した成膜室は、例えば、水素原子、水(HO)など水素原子を含む化合物(より好ましくは炭素原子を含む化合物も)等が排気されるため、当該成膜室で成膜した酸化物半導体膜1020に含まれる水素、水分などの不純物の濃度を低減できる。
【0187】
なお、酸化物半導体膜1020は、複数の酸化物半導体膜が積層された構造でもよい。例えば、酸化物半導体膜1020を、第1の酸化物半導体膜、第2の酸化物半導体膜および第3の酸化物半導体膜の積層として、各々を異なる組成としてもよい。
【0188】
また、第1の酸化物半導体膜、第2の酸化物半導体膜および第3の酸化物半導体膜の構成元素を同一とし、組成を異ならせてもよい。例えば、第1の酸化物半導体膜および第3の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=1:1:1とし、第2の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=3:1:2としてもよい。また、第1の酸化物半導体膜および第3の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=1:3:2とし、第2の酸化物半導体膜の原子数比をIn:Ga:Zn=3:1:2としてもよい。
【0189】
この時、第2の酸化物半導体膜はInとGaの含有率をIn>Gaとするとよい。また第1の酸化物半導体膜および第3の酸化物半導体膜のInとGaの含有率をIn≦Gaとするとよい。
【0190】
酸化物半導体では主として重金属のs軌道がキャリア伝導に寄与しており、Inの含有率を多くすることによりs軌道のオーバーラップが多くなる傾向があるため、In>Gaの組成となる酸化物はIn≦Gaの組成となる酸化物と比較して高い移動度を備える。また、GaはInと比較して酸素欠損の形成エネルギーが大きく酸素欠損が生じにくいため、In≦Gaの組成となる酸化物はIn>Gaの組成となる酸化物と比較して安定した特性を備える。
【0191】
絶縁膜1019やゲート絶縁膜1024と接しない第2の酸化物半導体膜にIn>Gaの組成となる酸化物半導体を適用し、絶縁膜1019やゲート絶縁膜1024と接する第1の酸化物半導体膜や第3の酸化物半導体膜にIn≦Gaの組成となる酸化物半導体を適用することで、トランジスタの移動度および信頼性を高めることが可能となる。
【0192】
なお、酸化物半導体膜に接して酸化物半導体膜とは異なる膜(図中では、絶縁膜1019やゲート絶縁膜1024など。)を形成する際に、酸化物半導体膜に接して形成される膜から酸化物半導体膜中に不純物が拡散する恐れがある。たとえば、絶縁膜1019やゲート絶縁膜1024中に含まれるシリコンやカーボンなどが酸化物半導体膜中に拡散すると、トランジスタの電気特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0193】
しかしながら、上述のように高い移動度を備える酸化物半導体膜(つまり、酸化物半導体膜のうち、キャリアパスとして主に機能する部分。)を酸化物半導体膜に接する膜(図中では、絶縁膜1019やゲート絶縁膜1024など。)から離すことにより、不純物拡散に起因したトランジスタの電気特性の悪影響を抑制することができる。
【0194】
なお、酸化物半導体膜1020を形成するための膜を成膜した後、または、酸化物半導体膜1020を形成した後に、酸化物半導体膜に対して、以下に記載する「脱水化処理(脱水素化処理)」および「過酸化処理」を行ってもよい。勿論、当該処理を行わなくても酸化物半導体膜1020を半導体層として用いたトランジスタの電気特性が良好であるなら、当該処理は必ずしも行う必要はない。
【0195】
<脱水化処理(脱水素化処理)についての説明>
脱水化処理(脱水素化処理)としては、300℃以上700℃以下、または基板の歪み点未満の温度で基板を加熱すればよい。当該熱処理を行うことで、過剰な水素(水や水酸基を含む)を除去することが可能である。
【0196】
熱処理装置は電気炉、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導、または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いることができる。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて熱処理を行う装置である。ガスとしては、アルゴンなどの希ガス、または窒素のような、熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0197】
例えば、当該熱処理として、熱せられた不活性ガス雰囲気中に被処理物を投入し、数分間熱した後、当該不活性ガス雰囲気から被処理物を取り出すGRTA処理を行ってもよい。GRTA処理を用いると短時間での高温熱処理が可能となる。また、被処理物の耐熱温度を超える温度条件であっても適用が可能となる。なお、処理中に、不活性ガスを、酸素を含むガスに切り替えても良い。
【0198】
なお、不活性ガス雰囲気としては、窒素、または希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン等)を主成分とする雰囲気であって、水、水素などが含まれない雰囲気を適用するのが望ましい。例えば、熱処理装置に導入する窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(すなわち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。
【0199】
<過酸化処理についての説明>
上述の脱水化又は脱水素化処理を行うと、酸化物半導体膜を構成する主成分材料である酸素が同時に脱離して減少してしまうおそれがある。よって、脱水化又は脱水素化処理を行った場合、酸化物半導体膜中に、酸素を供給することが好ましい。
【0200】
酸化物半導体膜中の酸素欠損を補填する方法としては、例えば、酸化物半導体膜に対して脱水化処理(脱水素化処理)を行った後、同じ炉に高純度の酸素ガス、一酸化二窒素ガス、高純度の亜酸化窒素ガス、又は超乾燥エア(CRDS(キャビティリングダウンレーザー分光法)方式の露点計を用いて測定した場合の水分量が20ppm(露点換算で−55℃)以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは10ppb以下の空気)を導入すればよい。酸素ガスまたは一酸化二窒素ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、熱処理装置に導入する酸素ガスまたは一酸化二窒素ガスの純度を、6N以上好ましくは7N以上(即ち、酸素ガスまたは一酸化二窒素ガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。なお、上述の加熱処理の際に装置内の圧力を高圧状態とすることにより、酸化物半導体膜中に酸素を効率的に添加することができる。
【0201】
また、酸化物半導体膜中の酸素欠損を補填する他の方法としては、例えば、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオンインプランテーション法、プラズマ処理などを用いて、酸化物半導体膜に酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオン、のいずれかを含む)を添加する方法を用いることもできる。
【0202】
上述のように、成膜後の酸化物半導体膜には、脱水化処理(脱水素化処理)を行い水素もしくは水分を酸化物半導体から除去して不純物が極力含まれないように高純度化し、脱水化処理(脱水素化処理)によって同時に減少してしまった酸化物半導体を構成する主成分材料である酸素を供給(過酸素化とも表現できる。)して酸素欠損を補填することができる。
【0203】
導電膜1022としては、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)やプラズマCVD法などの化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)を用いて、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ネオジム(Nd)から選ばれた元素、又は前記元素を主成分とする合金材料もしくは化合物材料を含む膜で形成すればよい。また、導電膜としてリン等の不純物元素をドーピングした多結晶シリコン膜に代表される半導体膜や、AgPdCu合金膜を用いてもよい。
【0204】
ただし、酸化物半導体膜1020と接する金属膜(つまり、導電膜1022)として酸素親和性の高い金属を用いると、酸化物半導体膜1020から酸素を引き抜きやすく、酸化物半導体膜1020が変質してしまう恐れがある。
【0205】
そのため、酸化物半導体膜1020に接する導電膜1022には、酸素親和性の低い金属を用いることが好ましい。例えば、タングステン膜、チタン膜またはモリブデン膜を用いることができる。導電膜1022が積層構造である場合、少なくとも導電膜1022の酸化物半導体膜1020と接する層に酸素親和性の低い金属を用い、その他の層については上述の材料、例えばアルミニウムや銅などの低抵抗な導電性材料を用いることが好ましい。
【0206】
ゲート絶縁膜1024は、絶縁膜1019の説明にて記載した方法および材料を用いて形成すればよく、絶縁膜1019と同様に加熱処理により酸素を放出する膜であることが好ましい。
【0207】
ゲート電極1026は、導電膜1022の説明にて記載した方法および材料を用いて形成すればよい。
【0208】
なお、ゲート電極1026は、少なくともゲート絶縁膜1024と接する面に、酸化物半導体膜1020として用いる膜よりも仕事関数の大きな膜を用いることが好ましい。当該膜としては、窒素を含むIn−Ga−Zn−O膜、窒素を含むIn−Sn−O膜、窒素を含むIn−Ga−O膜、窒素を含むIn−Zn−O膜、窒素を含むSn−O膜、窒素を含むIn−O膜、金属窒化膜(InN、SnNなど)などの、窒素を含む金属酸化物膜などを用いることができる。これらの膜は5eV(電子ボルト)、好ましくは5.5eV(電子ボルト)以上の仕事関数を有し、当該膜をゲート電極として用いた場合、トランジスタの電気特性のしきい値電圧をプラスにすることができ、所謂ノーマリーオフのスイッチング素子(本実施の形態等では、第1のトランジスタ910が、ノーマリーオフのスイッチング素子に相当)を実現できる。
【0209】
なお、図18(A)のように、第2のトランジスタ912が形成された層と、第1のトランジスタ910が形成された層の間に、複数の層間膜(図中では、層間膜1010、層間膜1014および層間膜1018)や導電膜(図中では、導電膜1012および導電膜1016)を形成してもよい。第2のトランジスタ912のゲート電極308と、第1のトランジスタ910のソースまたはドレインの一方は、導電膜1012、導電膜1016を用いて電気的に接続されている。
【0210】
層間膜1014、層間膜1018および導電膜1016については、層間膜や導電膜として一般的に用いられる、公知の方法および材料を用いて形成すればよい。なお、層間膜1018上には第1のトランジスタ910を形成するため、層間膜1018形成後に平坦化処理(例えばCMP処理など)を行い、層間膜1018表面の平坦性を高めることが好ましい。
【0211】
OSトランジスタは、他のトランジスタとの間に複数の層や導電膜を挟んで形成することができ、回路構成の自由度を高めることができる。
【0212】
また、図18(A)のように、第1のトランジスタ910上に、複数の層間膜(図中では、層間膜1028、層間膜1032、層間膜1036および層間膜1040)や導電膜(図中では、導電膜1030、導電膜1034および導電膜1038)を形成してもよい。
【0213】
層間膜1028、層間膜1032、層間膜1036および層間膜1040、ならびに、導電膜1030、導電膜1034および導電膜1038については、層間膜や導電膜として一般的に用いられる、公知の方法および材料を用いて形成すればよい。
【0214】
OSトランジスタは上述のように上層に複数の層や導電膜を形成することができるため、OSトランジスタと他のトランジスタとの接続に用いる貫通配線の膜厚方向の長さを短くすることができ、このような点からも回路構成の自由度を高めることができると言える。また、貫通配線の形成自体も行いやすいと言える。
【0215】
なお、上述では第1のトランジスタ910の構造として、酸化物半導体膜1020上にソースやドレインとして機能する導電膜1022およびゲート電極1026が形成された、いわゆるTGTC(トップゲートトップコンタクト)構造を記載したが、当該構造に限定されることはない。
【0216】
例えば、ソースやドレインとして機能する導電膜1022が酸化物半導体膜1020の下に形成されたTGBC(トップゲートボトムコンタクト)構造でもよい。
【0217】
また、図18(B)のように、ゲート絶縁膜1024を挟んで酸化物半導体膜1020の下にゲート電極1026が形成されたBGTC(ボトムゲートトップコンタクト)構造でもよいし、図18(B)においてソースやドレインとして機能する導電膜1022が酸化物半導体膜1020の下に形成されたBGBC(ボトムゲートボトムコンタクト)構造でもよい。
【0218】
また、図18(C)のように、絶縁膜1027を挟んで酸化物半導体膜1020の上にバックゲート電極1029が形成された構造でもよい。バックゲート電極1029を有する構造とすることにより、仮に第1のトランジスタ910がノーマリーオン状態(ここでは、電源電圧の供給が無い時にトランジスタがオン状態であることを示している。)であったとしても、バックゲート電極1029に適宜電源電圧供給を行うことにより、第1のトランジスタ910のしきい値をシフトさせてノーマリーオフ状態(ここでは、電源電圧の供給が無い時にトランジスタがオフ状態であることを示している。)に保つことができる。
【実施例1】
【0219】
本実施例では、実施の形態1にて記載したSOI基板の具体的な作製例を示すと共に、イオン添加処理104後に行うプラズマ処理108の条件や、プラズマ処理108を行うことによる効果(半導体薄膜層110の分離に対して寄与度の低いSi−H結合の低減効果やSOI基板表面のP−V値の低減効果など)について具体的に記載する。
【0220】
(試料の作製方法)
まず、5インチ角の単結晶シリコン基板に対して熱酸化処理を行うことにより、単結晶シリコン基板の表面に塩素を含む酸化膜を形成した。なお、熱酸化処理は、塩素を含む酸化膜の膜厚が100nmとなるように行った。具体的には、酸素に対して塩化水素(HCl)を3体積%の割合で含む酸化性雰囲気中、950℃で210分間の熱酸化処理を行った。
【0221】
次に、イオンドーピング装置を用いて単結晶シリコン基板中に酸化膜を介して水素イオンを照射し、単結晶シリコン基板中に脆化領域を形成した。なお、ソースガスとしては100%水素ガスを用い、水素ガスを励起してプラズマを生成した。生成されたプラズマ中には、3種類のイオン種(H、H、H)が含まれている。このイオン種を質量分離せずに電界で加速し、単結晶シリコン基板に照射した。なお、水素ガスから生成されたイオン種のうち、70%程度をHとした。また、水素ガスの流量は50sccmとした。
【0222】
イオンの照射条件は、加速電圧を50kV、電流密度を6.35μA/cm、イオンの総照射数(ドーズ量)を1.75×1016ions/cmとした。なお、実施の形態1にて記載したように、1回のイオン添加処理で全ドーズ量を添加すると単結晶シリコン基板の温度上昇により結晶性が大きく低下し、その後に熱処理を行っても結晶性が十分に回復しない。そこで、本実施例では1回のイオン添加処理におけるドーズ量を2.5×1015ions/cmと少なくし、イオン添加処理を7回行った。なお、本実施例ではイオン添加処理を7回に分けて行ったが、イオン添加処理時の基板温度が200℃以下に保たれていれば、分割処理の回数に特段の制限はない。
【0223】
ここで、1回のイオン添加処理で脆化領域を形成した単結晶シリコン基板と、複数回(ここでは7回)のイオン添加処理を行って脆化領域を形成した単結晶シリコン基板を用いてSOI基板を作製し、両基板の半導体薄膜層に対してラマン分光測定を行い、ラマンピークの半値全幅(FWHM:Full Width at half maximum、以下、単に半値幅とも記載する。)より結晶性の比較を行った。各基板の面内5ポイントにおける測定結果を図10に示す。図10の縦軸は、ラマンピークの半値幅である。なお、両基板共にプラズマ処理は行っていない。
【0224】
図10より、複数回のイオン添加処理で脆化領域を形成した単結晶シリコン基板を用いた場合(図10右側のプロット群)、当該基板を用いて作製されるSOI基板のシリコン層は、貼り合わせ時の熱処理などにより単結晶シリコン(図10中において、c−Si:2.8cm−1と表記。)に近い状態にまで結晶性が回復しており、1回のイオン添加処理で脆化領域を形成した単結晶シリコン基板を用いた場合(図10左側のプロット群)と比較して良好な結晶性を有していることが確認された。
【0225】
次に、プラズマ処理装置を用いて、単結晶シリコン基板の脆化領域が形成された側の面に対してプラズマ処理を行った。なお、プラズマ処理時における共通設定条件としては、単結晶シリコン基板が設置されたステージの温度を300℃、処理雰囲気の圧力を500Paに設定した。
【0226】
そして、水素とアルゴンの混合ガス雰囲気で基板温度を300℃に設定し、印加電力を500W、処理時間を30minの条件でプラズマ処理を行った単結晶シリコン基板を試料1とした。また、プラズマ処理時におけるステージ温度(300℃設定)の影響を分離するため、プラズマ処理を行わずに300℃の窒素雰囲気中で30min加熱した単結晶シリコン基板を試料2とした。また、これら2つの試料に加え、プラズマ処理および加熱処理を行わない単結晶シリコン基板を試料3とした。
【0227】
次に、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて、試料1から試料3の脆化領域近傍に含まれるSi−H結合の評価を行った。評価結果を図11に示す。なお、図11において、縦軸は吸光度(任意単位)を表し、横軸は波数(cm−1)を表す。
【0228】
図11に示すとおり、試料3(プラズマ処理および加熱処理を行わない基板)においては、図9の条件Bと同様に、シリコン薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を示す2110cm−1および2155cm−1のピーク以外に、1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲に、様々なSi−H結合を示すピークが確認される。このことより、当該基板を用いて作製されるSOI基板のシリコン薄膜層表面には比較的大きな凹凸が形成されることが予想される。
【0229】
また、試料2(プラズマ処理を行わず300℃の窒素雰囲気中で30min加熱した単結晶シリコン基板)においては、シリコン薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を示す1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲のピークが減少しているものの、シリコン薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を示す2110cm−1および2155cm−1のピークも大きく減少していることが確認される。このことより、当該基板を用いて作製されるSOI基板のシリコン薄膜層表面においても、比較的大きな凹凸が形成されることが予想される。
【0230】
これに対し、試料1(プラズマ処理を行った単結晶シリコン基板)においては、シリコン薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を示す2110cm−1および2155cm−1のピークは試料3と同程度に維持されたまま、シリコン薄膜層の分離に対して寄与度の低い1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲のピークが減少していることが確認される。このことより、当該基板を用いることにより、SOI基板のシリコン薄膜層表面の凹凸を低減できる可能性が示唆される。
【0231】
次に、各試料の脆化領域が形成された側の面に対してベース基板を貼り合わせ、縦型の加熱炉を用いて200℃まで昇温して2時間加熱した後に、600℃まで昇温して2時間加熱した。その後、再度降温して、ベース基板から単結晶シリコン基板を分離して作製した3種類のSOI基板(以下、試料1を用いて作製したSOI基板を試料1S、試料2を用いて作製したSOI基板を試料2S、試料3を用いて作製したSOI基板を試料3Sと呼称する。)を作製した。なお、ベース基板には旭硝子社製のガラス基板であるAN100を用いた。
【0232】
ここで、プラズマ処理がSOI基板の半導体薄膜層の結晶性に与える影響を確認するため、ラマン分光法を用いて試料1Sのシリコン薄膜層の結晶性を測定し、図10のラマン分光測定結果と比較した。結果を図12に示す。
【0233】
図12の中央プロット群(プラズマ処理なし)と右側プロット群(プラズマ処理あり、試料1S)を比較する限り半値幅に特段の差は見られないため、プラズマ処理を30min行っても半導体薄膜層の結晶性に悪影響を与えないことが確認された。
【0234】
次に、試料1Sから試料3Sのシリコン薄膜層の表面を光学顕微鏡により暗視野観察した。観察結果を図13に示す。なお、観察倍率は500倍とした。また、各試料の観察領域は、基板の右上部分、中央部分および左下部分の3箇所とした。
【0235】
図13に示すとおり、試料2S(プラズマ処理なし、窒素雰囲気、300℃で30min加熱)および試料3S(プラズマ処理なし、加熱処理なし)のシリコン薄膜層表面は同様の凹凸形状となっているが、試料1S(プラズマ処理あり)のシリコン薄膜層表面は、試料2Sおよび試料3Sのシリコン薄膜層表面と比較して凹凸形状が非常に細かいことが分かる。
【0236】
次に、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、試料1S(プラズマ処理あり)と試料3S(プラズマ処理なし、加熱処理なし)の平均面粗さ(Ra)、および最大高低差(P−V:Peak to Valley)を測定した。各試料の平均面粗さ(Ra)測定結果を図14に、最大高低差(P−V)測定結果を図15に示す。なお、各試料の測定箇所は光学顕微鏡観察の際と同様に、基板の右上部分、中央部分および左下部分の3箇所を測定し、各箇所につき3回測定を行った。また、平均面粗さ(Ra)は、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている算術平均粗さRaを、曲面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値で表現されるものである。また、最大高低差(P−V)は、指定面において、最も高い山頂の標高と最も低い谷底の標高の差で表現されるものである。山頂と谷底は、JISB0601:2001(ISO4287:1997)で定義されている「山頂」「谷底」を三次元に拡張したものであり、山頂とは指定面の山において最も標高の高い点を指し、谷底とは指定面において最も標高の低い点を指す。
【0237】
図14に示すように、平均面粗さ(Ra)については、試料1S(プラズマ処理あり)と試料3S(プラズマ処理なし、加熱処理なし)の平均面粗さ(Ra)の差は、右上部分、中央部分、左下部分のどの箇所においても、平均値で1nm以下であり、特段の違いは確認されなかった。
【0238】
しかし、図15に示すように、最大高低差(P−V)については、試料1Sのシリコン薄膜表面は、試料3Sのシリコン薄膜層表面と比較して、平均値で20nmから40nm程度小さくなっていることが確認された。
【0239】
なお、試料1S(プラズマ処理あり)と試料3S(プラズマ処理なし、加熱処理なし)のシリコン薄膜層表面状態をより詳細に確認するため、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて表面観察を行った。結果を図16に示す。図16より、試料3S(図16の右側写真2枚)では、半導体基板から分離した半導体薄膜層の一部に大きな凹部分が見られる。これは、1930cm−1以上2065cm−1以下にピークを有する、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合が起因して、半導体基板から半導体薄膜層がうまく分離されず、ベース基板上に半導体薄膜層が転載されなかったことにより発生する穴である。このような大きな凹部分の発生が、試料3Sの最大高低差(P−V)が大きくなった原因である。
【0240】
以上の結果より、イオン添加処理中の半導体基板の温度を低く(具体的には200℃以下)保持し、イオン添加処理後の半導体基板を100℃以上400℃以下に保持した状態で半導体基板に対してプラズマ処理を行うことにより、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の高いSi−H結合を残存させたまま、半導体薄膜層の分離に対して寄与度の低いSi−H結合を低減することができる。そして、P−V値が小さく、かつ、高い結晶性を有する半導体薄膜層を備えたSOI基板を作製することができる。
【符号の説明】
【0241】
100 半導体基板
102 絶縁層
104 イオン添加処理
106 脆化領域
108 プラズマ処理
110 半導体薄膜層
200 ベース基板
210 SOI基板
302 半導体層
304 半導体層
306 絶縁層
308 ゲート電極
310 ゲート電極
312 不純物領域
314 不純物領域
322 チャネル形成領域
324 チャネル形成領域
332 サイドウォール絶縁膜
334 サイドウォール絶縁膜
342 n型の低濃度不純物領域
344 p型の低濃度不純物領域
352 n型の高濃度不純物領域
354 p型の高濃度不純物領域
362 nチャネル型トランジスタ
364 pチャネル型トランジスタ
370 絶縁層
372 層間絶縁層
374 配線層
500 ベース基板
502 絶縁層
504 チャネル形成領域
506 ゲート絶縁層
508 ゲート電極
510 不純物領域
512 導電層
514 絶縁層
516 酸化物半導体層
518 導電層
520 ゲート絶縁層
522 ゲート電極
524 絶縁層
526 配線層
528 絶縁層
530 導電層
560 トランジスタ
562 トランジスタ
580 ノード
564 容量素子
600 ベース基板
602 絶縁層
604 チャネル形成領域
606 不純物領域
608 信号線
609 配線層
610 ゲート絶縁層
611 走査線
612 ゲート電極
613 容量線
614 絶縁層
618 画素電極
620 スペーサ
622 配向膜
650 対向基板
652 対向電極
654 配向膜
660 液晶層
680 トランジスタ
690 容量素子
700 ベース基板
702 絶縁層
704 チャネル形成領域
706 不純物領域
707 電源供給線
708 信号線
709 配線層
710 ゲート絶縁層
711 走査線
712 ゲート電極
713 容量線
714 絶縁層
715 配線層
718 画素電極
720 隔壁層
722 EL層
724 対向電極
750 対向基板
770 選択用トランジスタ
780 表示制御用トランジスタ
790 容量素子
801 本体
802 筐体
803a 第1の表示部
803b 第2の表示部
804a 選択ボタン
804b 選択ボタン
805 キーボード
811 筐体
812 表示部
813 スタンド
814 リモコン操作機
821 筐体
822a 左目用パネル
822b 右目用パネル
823 画像表示ボタン
910 トランジスタ
912 トランジスタ
914 容量素子
918 ノード
921 第1の配線
922 第2の配線
923 第3の配線
924 第4の配線
925 第5の配線
1000 基板
1010 層間膜
1012 導電膜
1014 層間膜
1016 導電膜
1018 層間膜
1019 絶縁膜
1020 酸化物半導体膜
1022 導電膜
1024 ゲート絶縁膜
1026 ゲート電極
1027 絶縁膜
1028 層間膜
1029 バックゲート電極
1030 導電膜
1032 層間膜
1034 導電膜
1036 層間膜
1038 導電膜
1040 層間膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に絶縁層を形成し、
前記半導体基板に対して加速されたイオンを添加することで前記半導体基板の内部に脆化領域を形成し、
前記半導体基板に対してプラズマ処理を行い、
前記絶縁層を介して前記半導体基板にベース基板を貼り合わせ、
前記半導体基板に対して加熱処理を行い、
前記脆化領域を界面として前記半導体基板から前記ベース基板を分離することにより、前記ベース基板上に前記絶縁層を介して半導体薄膜層を形成する工程を有し、
前記イオン添加の際の前記半導体基板の温度を200℃以下に保持し、
前記プラズマ処理中の前記半導体基板の温度を100℃以上400℃以下に保持することを特徴とするSOI基板の作製方法。
【請求項2】
半導体基板の表面に絶縁層を形成し、
前記半導体基板に対して加速されたイオンを添加することで前記半導体基板の内部に脆化領域を形成し、
前記半導体基板に対してプラズマ処理を行い、
前記絶縁層を介して前記半導体基板にベース基板を貼り合わせ、
前記半導体基板に対して加熱処理を行い、
前記脆化領域を界面として前記半導体基板から前記ベース基板を分離することにより、前記ベース基板上に前記絶縁層を介して半導体薄膜層を形成する工程を有し、
前記イオン添加の際の前記半導体基板の温度を200℃以下に保持し、
前記プラズマ処理を行った前記半導体基板中のSi−H結合の存在分布をフーリエ変換型赤外分光法を用いて測定した際に、1930cm−1以上2065cm−1以下の範囲に存在する吸光度ピークが前記プラズマ処理を行う前の前記半導体基板より減少し、かつ、2110cm−1および2155cm−1における吸光度ピークが前記プラズマ処理を行う前の前記半導体基板の80%以上となるように、前記プラズマ処理を行うことを特徴とするSOI基板の作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記半導体基板へのイオン添加を複数回に分けて行うSOI基板の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記プラズマ処理を10min以上行うSOI基板の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記ベース基板としてアルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英ガラスのいずれかを用いるSOI基板の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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【図18】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−62499(P2013−62499A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183762(P2012−183762)
【出願日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Blu−ray
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】