説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】エンジンの始動停止をドライバの意図に拘わらず行うことのできるエンジン自動始動停止装置付き車両において、エンジン冷機始動時のHC排出量を低減する。
【解決手段】システム起動後、エンジンを始動させる前に蓄圧室もしくはインジェクタに具備されたヒータ400、500により、HC排出量が低減される燃料温度まで燃料もしくはインジェクタを加熱してからエンジンを始動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御装置に関し、特に、動力源の一つに内燃機関を用いたアイドルストップ車両における内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エミッション低減や燃費向上の観点から、アイドルストップ車両や、ハイブリッド車両が知られている。例えば、ハイブリッド車両は、内燃機関の効率が低下する領域(例えば、車両停止時や低速走行時)では、内燃機関を自動的に停止させ、電動機のみの駆動力により走行することが可能である。
【0003】
一方、燃費向上を主目的として、燃焼室内に直接燃料を噴射する筒内噴射式内燃機関(筒内噴射式エンジン)が実用化されている。この筒内噴射式エンジンは、充填効率や圧縮比向上ができるため、ポート噴射に比べて高効率な燃焼が期待できる。また、筒内噴射式エンジンをアイドリングストップ車に適用することにより、燃焼室に直接燃料を噴射できることを利点とした、迅速な再始動性能や、ハイブリッド車両制御に不可欠である内燃機関の始動時のトルク制御精度を向上することができる。
【0004】
ところで、筒内噴射エンジンのエンジン始動では、燃料を燃料タンクから低圧ポンプを介して高圧ポンプに供給し、その後、燃料は、高圧ポンプによって蓄圧室に蓄えられ、インジェクタによって燃焼室内に噴射される。このようなシステムにおける冷機時の始動では、ポート噴射式のシステムと異なり、直接燃焼室に燃料を噴射するため、燃料の低沸点成分が燃焼室に供給されること、機関(燃焼室壁面、ピストン、バルブ等)が冷間状態であること、等によりハイドロカーボン(以下HC)が多く排出されることが知られている。
【0005】
そこで、エンジン始動性向上技術として、蓄圧室にヒータを設けておき、運転者が車両に乗り込むことを検知し、その検知に基づきエンジン始動前に燃料を加熱することにより、蓄圧室内の圧力を事前に高めておく技術が提案されている(たとえば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、運転者が車両に乗り込んでも、エンジンを始動させるか否かは完全には検知、把握できないため、エンジンを始動させる意思がなくても蓄圧室のヒータを作動させてしまい、バッテリの劣化や燃費の悪化をもたらすことになると考えられる。
【0008】
また、仮に、運転者がエンジンを始動させる意思があったとしても、実際にエンジンを始動させる時間(タイムラグ)が運転者によって、まちまちであり、車両に乗り込んだ直後にエンジンを始動させると、蓄圧室内が望ましい燃料圧力、燃料温度になる前に、エンジンを始動させざるを得ない状況が存在してしまう。このため、エンジンの冷機始動時の排気性能(HC)が悪化する可能性がある。
【0009】
本発明は、前記点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、機関始動を最適に制御し、内燃機関の冷機始動時における排気性能を改善することのできる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するべく、本発明による内燃機関の始動制御装置は、燃料を蓄える蓄圧室と、前記蓄圧室に燃料を圧送する燃料ポンプと、前記蓄圧室の燃料を加熱する燃料加熱手段と、前記蓄圧室に蓄えられた燃料を噴射する燃料噴射装置と、内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置とを備え、所定の自動始動条件が成立すると内燃機関を自動始動させる自動始動装置を有する内燃機関の始動制御装置において、前記蓄圧室内の燃料温度を検出または推定する燃料温度検出手段と、前記触媒装置の温度を検出または推定する触媒装置温度検出手段の少なくとも一つを備え、いずれかあるいは両方の温度検出手段によって検知される燃料温度と触媒装置温度の少なくとも一つに基づいて前記自動始動装置を制御する。
【0011】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、内燃機関の停止時に、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が、所定値より低いときは、前記燃料ポンプを駆動して蓄圧室に燃料を圧送する。
【0012】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が所定値より低い時には、前記燃料加熱手段により、前記蓄圧室内の燃料を加熱する。
【0013】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、前記燃料温度検出手段によって検知される燃料温度が所定値より高いときに、内燃機関の始動を許可する。
【0014】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、ヒータを具備したヒータ付き燃料噴射装置と、前記内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置と、内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置とを備え、所定の自動始動条件が成立すると内燃機関を自動始動させる自動始動装置を有する内燃機関の始動制御装置において、前記触媒装置の温度を検出または推定する触媒装置温度検出手段を備え、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度に基づいて前記自動始動装置を制御する。
【0015】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、内燃機関が停止時に、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が所定値より低い時には、前記ヒータ付き燃料噴射装置のヒータを駆動させる。
【0016】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、前記ヒータ付き燃料噴射装置のヒータを所定時間駆動させた後に、内燃機関の始動を許可する。
【0017】
本発明による内燃機関の始動制御装置は、好ましくは、前記触媒装置温度検出手段は、前記内燃機関停止時の前記内燃機関の水温または吸気温度または加熱継続時間のうち少なくとも一つのパラメータを用いて判定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の内燃機関の始動制御装置によれば、機関冷機時のエンジン始動前に、蓄圧室ヒータまたはインジェクタヒータによって事前に燃料を加熱し、排気性能が最も良くなる燃料温度でエンジンの始動を行うから、冷機始動時の排気性能(HC)が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
本実施形態は、制御装置が適用される内燃機関が自動車等の車両用のものである。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態にかかる内燃機関の制御装置が搭載される車両について説明する。この車両は、筒内噴射エンジン(以下エンジン)2と、駆動用モータ200の2つの動力源を有する、いわゆるハイブリッド車両である。ハイブリッド車両は、エンジン2とモータ200とを動力源とし、クラッチ3、変速機4を介して車輪5に各々の動力を適宜伝達する。
【0022】
ハイブリッド車両はハイブリッド制御装置(以下、HCU)9を有する。HCU9には、エンジン制御装置(以下、ECU)11と、モータ制御装置(以下、MCU)12と、バッテリ制御装置(以下、BCU)13と、クラッチ制御装置(以下、CLCU)14とが、双方向に通信可能に接続されていている。
【0023】
HCU9は、イグニッションキースイッチ77(図5参照)の信号により、ハイブリッド車両システムの起動および停止を行い、運転者によるアクセル(図示せず)、ブレーキ(図示せず)の操作信号に応じて必要なトルクを車輪5に与えるべく、ECU11、MCU12、CLCU14に所定の指令を各々出力する。
【0024】
MCU12はモータジェネレータ1と駆動用モータ200の制御を行う。CLCU14はクラッチ3の制御を行う。
【0025】
強電バッテリ7に蓄えられている電気エネルギは、インバータ10によって交流に変換されてモータジェネレータ1に与えられ、発生した駆動力によってエンジン2のクランク軸101d(図2参照)を回転させることにより、エンジン始動(クランキング)を行う。
【0026】
強電バッテリ7に蓄えられている電気エネルギは、インバータ10によって交流に変換されて駆動用モータ200にも与えられ、駆動用モータ200は、エンジン2の出力軸8の駆動や車輪5の駆動を行う。
【0027】
なお、強電バッテリ7は、HCU9等の電源である12Vバッテリ(図示せず)とは別のもので、本実施形態では200Vのものである。車輪5の運動エネルギ或いはエンジン2の駆動力によってモータジェネレータ1を回転させて発電し、インバータ10で直流に変換後に、強電バッテリ7を充電することもできる。
【0028】
エンジン2の詳細を、図2を参照して説明する。
【0029】
エンジン2は、4気筒(図示せず)からなり、ピストン101a、シリンダブロック101b等によって形成された燃焼室101cを有する。
【0030】
各気筒の燃焼室101cに導入れる空気は、エアクリーナ102の入口部102aから取り入れられ、吸入空気量センサ(エアフローセンサ)25を通り、吸気流量を制御する電制スロットル弁140aを収容されたスロットルボディ140を通ってコレクタ106に入る。コレクタ106に吸入された空気は、エンジン2の各燃焼室101cに接続された各吸気管107に分配された後、燃焼室101cに導かれる。
【0031】
吸入空気量センサ25は吸気流量を表す信号をECU11に出力する。スロットルボディ140には、電制スロットル弁140aの開度を検出するスロットルセンサ27が取り付けられている。スロットルセンサ27は、スロットル開度を表す信号をECU11に出力する。
【0032】
排気管209には、排気ガス浄化用の触媒装置210と、排気ガス中の、例えば、酸素濃度をリニアに検出する空燃比センサ208が設けられている。空燃比センサ208は、酸素濃度をリニアに表す信号をECU11に出力する。
【0033】
ガソリン等の燃料は、燃料タンク50から燃料ポンプ51により一次加圧され、燃圧レギュレータ52により一定の圧力(例えば3kg/cm )に調圧され、さらに、高圧燃料ポンプ300でより高い圧力(例えば50kg/cm )に2次加圧され、蓄圧室53に送られる。燃料噴射弁54は、各燃焼室101c毎に設けられており、蓄圧室53に蓄えられた高圧燃料を燃焼室101cに直接噴射する。
【0034】
エンジン2の始動は、HCU9のエンジン始動要求に基づいてモータジェネレータ1がエンジン2のクランク軸101dを回転させることにより行われる。
【0035】
HCU9は、ドライバの意思とは別に、所定の自動始動条件が成立すると、エンジン始動要求をECU11、MCU12に出力し、モータジェネレータ1によってエンジン2によって自動始動させる。これらにより自動始動装置が構成される。
【0036】
エンジン2の燃料噴射制御、点火時期制御等はECU11によって行われる。ECU11は、エンジン2の回転数と、HCU9のトルク指令によって求められるスロットル弁140(図2参照)の目標開度の指令値を演算する。スロットル弁140の目標開度指令は、スロットル駆動装置140aに入力され、スロットル駆動装置140aがスロットル弁140の開度を制御する。これにより、吸入空気流量が制御される。吸入空気は、吸気弁121からシリンダ燃焼室10cに吸込まれる。
【0037】
ECU11は、水温センサ28によって検出されるエンジン冷却水温、排気側に配設された空燃比センサ208の検出信号等により、燃料噴射弁54による燃料噴射量を制御する。燃料噴射弁54は燃焼室101cに燃料を直接噴射する。これにより、燃焼室101c内に吸入空気と燃料との混合気が生成される。燃焼室101c内の混合気は、点火コイル108によって高電圧化された点火信号により点火プラグ109によって点火される。
【0038】
エンジン2は、燃料燃焼による爆発エネルギによってピストン101aを動かし、出力軸8を介して車輪5やモータジェネレータ1を駆動する。
【0039】
次に、図3を参照して、HCU9に係る本実施形態のハイブリッド車両システムの動作について説明する。
【0040】
HCU9は、アクセル開度(ドライバによるアクセルペダル踏込量)、バッテリ7の充電状態を示すSOC等を入力して車両の運転モードを判定する運転モード判定手段301と、エンジン始動/停止制御手段302と、目標駆動トルク制御手段303とを有する。運転モード判定手段301は、アクセル開度からドライバ要求トルクを算出する走行制御手段3012と、バッテリの充電状態に応じて発電可否を判定する発電制御手段3013とを含む。
【0041】
ECU11は、入力処理部311と、燃料噴射制御手段312と、点火時期制御手段313と、空気量制御手段314と、触媒装置暖機制御手段315とを有する。
【0042】
まず、エンジンの始動方法について説明する。ドライバがキー・オンすると、システム起動し、HCU9が起動する。ここでは、まだ、エンジン始動は行わない。
【0043】
HCU9内の運転モード判定手段301により、エンジン始動が必要(例えば、ドライバ要求、SOC低下、エンジン冷機時等)と判定されたときは、エンジン始動/停止制御手段302にて、モータ制御ユニットであるMCU12にエンジン始動要求を指令する。MCU12は、指令値をもとに、モータジェネレータ1を駆動し、エンジン2をクランキングさせることにより、エンジン2を始動させる。これらにより、エンジン2の自動始動装置が構成される。
【0044】
目標駆動トルク制御手段303は、走行制御手段3012によって算出されたドライバ要求トルクと、発電制御手段3013で算出された発電トルクをもとに、エンジン2と駆動用モータ200に対するトルク分配を決定し、これをECU11とMCU12に、目標回転数指令値や目標トルク指令値として指令する。ECU11、MCU12は、その指令値に従い、トルク制御を行う。つまり、車両のエネルギマネジメントや、エンジン始動停止のタイミングはHCU9が管理していることになる。
【0045】
ECU11においても、触媒装置温度が低いときなど、エンジン始動させたい(停止させたくない)要求が存在する。そこで、ECU11は、触媒装置温度を入力とし、触媒装置210の温度が低い場合には触媒装置210の活性化を促すために、エンジン停止を不許可とし、HCU9にエンジン始動要求を送信する触媒装置暖機制御手段315を具備している。ここで、触媒装置温度は、触媒装置温度センサ72(図2参照)によって触媒装置そのものの温度をサンプリングする方法を一例としているが、その限りではなく、エンジン回転と吸入空気量積算値等から推定する方法等でもよい。
【0046】
HCU9は、ECU11からのエンジン始動要求に基づき、MCU12に目標トルク指令値を指令し、ECU11に対してエンジン始動要求を指令する。
【0047】
次に、エンジン2の停止方法について説明する。運転モード判定手段301により、触媒装置210が活性化されていて、バッテリ7のSOCが高く、ドライバからの要求トルクも小さいと判定されたときは、エンジン始動/停止制御手段302にて、ECU11にエンジン停止予告を指令し、その後、エンジン停止要求を指令する。ECU11は、エンジン停止要求をもとに、燃料噴射を禁止(燃料カット)することにより、エンジン2を停止させる。
【0048】
このように、ハイブリッド車両やアイドルストップ車両では、エンジン2を停止させるタイミングをドライバの意思ではなく、制御ユニットが任意に決めることができることがアイドルストップ車両の大きな特徴の一つである。
【0049】
次に、本実施形態における高圧ポンプ300およびヒータ付き蓄圧室53について、図4を参照して説明する。
【0050】
エンジン2のクランク軸101dに取り付けられたクランク角センサ24(図2参照)は、クランク軸101dの回転位置を表す信号をECU11に出力する。排気弁120のカム軸(図示省略)に取り付けられたカム角センサ117は、排気弁120のカム軸の回転位置を表す角度信号をECU11に出力すると共に、高圧燃料ポンプ300のポンプ駆動カム100の回転位置を表す角度信号をECU11に出力する。
【0051】
ECU11は、それ以外に、水温センサ28より水温センサ信号を、触媒装置温度センサ72より触媒装置温度センサ信号を、吸気温度センサ73より吸気温度センサ信号を、燃料温度センサ74より燃料温度センサ信号を入力する。燃料温度センサ74は蓄圧室53内の燃料温度を検出する。
【0052】
なお、これらのセンサは全て具備している必要はなく、エンジン回転数、吸入空気量等から推定される推定値を使っても全く問題ない。
【0053】
触媒装置温度検出は、エンジン停止時のエンジン2の水温または吸気温度または後述する蓄圧室ヒータ400あるいはインジェクタヒータ500の加熱継続時間のうち少なくとも一つのパラメータを用いて判定することができる。本実施形態では、この中で、特に、水温センサ28を用いた形態について説明する。
【0054】
高圧燃料ポンプ300は,燃料ポンプ51により一次加圧された燃料を更に加圧してコモンレール53に高圧の燃料を圧送するものであり、ポンプ駆動カム100により駆動されるプランジャ300aと、吸入弁300cと、吐出弁300bと、吸入弁305を開閉するソレノイド300dとを有する。
【0055】
本実施形態では、より一般的なシステムとして、カム駆動の高圧燃料ポンプ300を例としているが、本発明はこれに限定するものではない。特に、高電圧のバッテリを具備しているハイブリッド車両であれば、電動ポンプを用いてもよい。特に、電動ポンプを用いることで、蓄圧室53内の圧力(燃料圧力)が、エンジン回転数の変化(カム軸の運動変化)に影響を受けないことや、エンジン2を回転させるエネルギより少なくて済む効果を得られる。
【0056】
蓄圧室(コモンレール)53には蓄圧室53の燃料を加熱する燃料加熱手段として蓄圧室ヒータ400が取り付けられている。燃料噴射装置である燃料噴射弁54はインジェクタヒータ500を有するヒータ付き燃料噴射装置をなしている。なお、実際には、蓄圧室ヒータ400とインジェクタヒータ500の何れか一方だけが設けられていてよい。
【0057】
蓄圧室ヒータ400は、本実施形態では、蓄圧室53内に設けられているが、これに限定するものではなく、蓄圧室ヒータ400は、蓄圧室53の周囲や燃料ライン等に設けられていてもよい。また、インジェクタヒータ500も同様に、燃料噴射弁54に内蔵されていても、燃料噴射弁54の周囲に配置されていてもよい。
【0058】
蓄圧室ヒータ400、インジェクタヒータ500は、ECU11によって制御される。ECU11は、水温センサ信号、触媒装置温度センサ信号、吸気温度センサ信号、燃料温度センサ信号を基に、蓄圧室ヒータ駆動信号、インジェクタヒータ駆動信号を生成し、蓄圧室ヒータ400、インジェクタヒータ500の発熱動作を制御する。
【0059】
次に、ECU11の構成とエンジン始動方法について、図5を用いて説明する。
【0060】
ECU11は、マイクロコンピュータ式のものであり、MPU203、EP−ROM202、RAM204及びA/D変換器を含むI/OLSI201等で構成され、コンピュータプログラムを実行することにより、前述の燃料噴射制御手段312、点火時期制御手段313、空気量制御手段314、触媒装置暖機制御手段315を具現化する。
【0061】
エンジン始動時には、HCU9からの指令であるエンジン始動停止要求と目標トルク指令値に基づき、クランク軸101dに直結されているモータジェネレータ1が回転することで、エンジン2が回転する。
【0062】
ECU11は、クランク角センサ24、カム角センサ117、水温センサ28、吸気管内の圧力を測定する吸気管内圧センサ29並びに燃圧センサ56を含む各種のセンサ等からの信号を入力として取り込み、所定の演算処理を実行し、この演算結果として算定された各種の制御信号を、アクチュエータである高圧ポンプソレノイド306、燃料噴射弁54、点火コイル108、電制スロットル弁140a、可変バルブタイミング/リフト機構212、タンブルコントロールバルブ231等に出力し、燃料吐出量制御、燃料噴射量制御、吸入空気量制御及び点火時期制御等を実行するものである。
【0063】
尚、タンブルコントロールバルブ231は、燃焼室100c内にタンブル流と呼ばれる空気流をつくり、点火プラグ109近傍に可燃混合気を集めるものであるが、点火プラグ近傍に可燃混合気を集める方法は、他にもスワール流を利用したスワール流方式、ピストンヘッドの凹部を利用したウォールガイド方式、インジェクタから直接点火プラグ近傍に噴射する直上噴き方式等があるが、本発明においては方式に限定するものではない。
【0064】
HCU9、ECU11は、システム起動後、蓄圧室53内の燃料温度あるいはその推定値、あるいは触媒装置210の温度あるいはその推定値の少なくとも一つに基づいてエンジン2を始動させる前に、蓄圧室53もしくはインジェクタ54に具備されたヒータ400、500を駆動し、ヒータ400、500により、HC排出量が低減される燃料温度まで、蓄圧室53の燃料もしくはインジェクタ54を加熱してからエンジン2を始動させる制御を行う。
【0065】
エンジン停止時は、HCU9からの指令である、エンジン始動停止要求に基づき燃料噴射制御により、燃料噴射を禁止することで実現する。
【0066】
以上を踏まえ、始動制御の一実施形態について説明する。
(蓄圧室ヒータ400を使用する実施形態)
図6は蓄圧室ヒータ400を使用した一実施形態のタイミングチャートである。本実施形態によれば、時点T1においてドライバがキーオンすると、システムが起動する(システム起動ON)。ここで、もし、エンジン水温Twが予め定められた所定値(始動時ヒータ制御許可しきい値Twt1)より低い場合には、高圧ポンプ駆動指令をONとし、蓄圧室53に燃料を圧送し、更に、蓄圧室53に具備された蓄圧室ヒータ400を駆動(ON)し、蓄圧室53内に圧送された燃料を加熱する。
【0067】
この際、本実施の形態では、エンジンのカム軸駆動高圧ポンプとしているため、HCU9は、一旦エンジン2を回転させるため、MCU12に回転指令を出力する。この間、エンジンは、モータジェネレータ1によって回転駆動され、燃料噴射や点火制御等は行わず、高圧ポンプを作動するためだけに、所定期間(T→T2)だけ、回転することになる。前述したように、電動高圧ポンプを採用すれば、制御性、静粛性、燃費と言った面で更に効果がある。
【0068】
その後、時点T3において蓄熱室53内の燃料温度Tfが予め定められた所定値(エンジン始動許可しきい値Tft)以上となると、ECU11はエンジン始動許可と判定し、HCU9に送信する。HCU9ではECU11からのエンジン始動許可を受信後、MCU12、ECU11にエンジン始動指令を送信し、エンジンを始動させる。
【0069】
その後、時点T4wでエンジン水温Twが予め定められた所定値(ヒータ制御しきい値Twt2)以上になれば、蓄圧室ヒータ400の駆動を停止(OFF)する。
【0070】
ここで、ヒータ加熱時間は本実施形態では水温をパラメータとしているが、本来触媒装置温度で決定することがすべきであるため、蓄圧室ヒータタ加熱時間は、触媒装置温度、触媒装置温度推定値、吸気温度、燃料温度等で決定してもよい。
【0071】
また、加熱中止しきい値は、始動時HCが一番削減できる値に設定することが望ましい。但し、燃料加熱時間は、ベーパの発生やエネルギの消費等も考えられるので、それらを鑑みた最適な値に設定することが望ましく、また、所定時間で必ず停止できるよう、加熱継続時間で加熱を中止できるようにしてもよい。
【0072】
このようにハイブリッド自動車を利用すると、ドライバの意思とは関係なくエンジン2を自由に始動、停止ができるので、最適に燃料温度をコントロールすることができ、燃料加熱中であっても、駆動用モータ200が具備されているため、車両始動が可能で、ドライバに違和感を与えることなく、本実施形態を実現することができる。
【0073】
図7は、蓄圧室ヒータ400を使用した始動制御の処理フローを示している。
【0074】
まず、ドライバからのキーオン状態を把握するために、システム起動中か否かを判定する(ステップ1101)。システム起動していないと判定された場合はこのルーチンを終了する。
【0075】
システム起動中と判定された場合には、水温Twが始動時ヒータ制御開始温度(Twt1)より低いか否かを判定する(ステップ1102)。水温が始動時ヒータ制御開始温度より高いと判定された場合は、このルーチンを終了する。
【0076】
これに対し、水温が始動時ヒータ制御開始温度より低いと判定された場合には、高圧ポンプをON(エンジン回転)、蓄圧室ヒータ400をONする(ステップ1103、1104)。
【0077】
つぎに、燃料温度Tfが所定値(エンジン始動許可しきい値Tft)より、高いか否かを判定する(ステップ1105)。燃料温度Tfがエンジン始動許可しきい値Tftより高い場合には、エンジン始動許可をHCU9に送信する(ステップ1106)。燃料温度Tfがエンジン始動許可しきい値Tftより低い場合には、ステップ1105を継続する。
【0078】
つぎに、水温Twが所定値(ヒータ制御停止温度Twt2)より高いか否かを判定する(ステップ1107)する。水温Twがヒータ制御停止温度Twt2より低い場合には、ステップ1107を継続し、水温Twがヒータ制御停止温度Twt2より高い場合には、蓄圧室ヒータ400をOFFし(ステップ1108)、本ルーチンを終了する。
【0079】
本実施形態の効果を、図8を参照して説明する。
【0080】
本実施形態の制御がない場合には、システム起動と同時に、エンジン水温に拘わらず、エンジン2が始動してしまうため、始動直後にHCが大幅に排出されてしまう。
【0081】
これに対し、本実施形態の制御が行われると、システム起動直後には蓄圧室53の燃料を蓄圧室ヒータ400によって暖めているため、エンジン2は始動しない。その後、蓄圧室ヒータ400による燃料加熱によって燃料温度が高くなってからエンジン2が始動するため、HC(燃料)の霧化が促進され、HCの排出量が減少する。
【0082】
(インジェクタヒータ500を使用する実施形態)
図9はインジェクタヒータ500を使用した一実施形態のタイミングチャートである。本実施形態によれば、時点T11においてドライバがキーオンすると、システムが起動する(システム起動ON)。ここで、もし、エンジン水温Twが所定値(始動時ヒータ制御許可しきい値Twt1)より低い場合には、インジェクタヒータ500を駆動(ON)し、インジェクタ54を加熱する。インジェクタヒータ500のON時点(時点T11)で、インジェクタヒータ通電時間Thのカウントを開始する。
【0083】
その後、インジェクタヒータ通電時間Thが予め定められたエンジン始動許可しきい値Tht以上経過するまでは、ECU11はエンジン始動不許可判定をHCU9に送信し、エンジンを始動させない。インジェクタヒータ通電時間Thがエンジン始動許可しきい値Tht以上経過したら(時点T12)、ECU11はエンジン始動許可と判定し、HCU9に送信する。HCU9ではECU11からのエンジン始動許可を受信後、MCU12、ECU11にエンジン始動指令を送信し、エンジン2を始動させる。
【0084】
その後、時点T13でエンジン水温Twが所定値(ヒータ制御しきい値Twt2)以上となったら、インジェクタヒータ500の駆動を停止(OFF)する。
【0085】
この実施形態でも、インジェクタ加熱時間は水温をパラメータとしているが、本来触媒装置温度で決定することがすべきであるため、インジェクタ加熱時間は、触媒装置温度、触媒装置温度推定値、吸気温度、燃料温度等で決定してもよい。
【0086】
また、加熱中止しきい値は、始動時HCが一番削減できる値に設定することが望ましい。但し、インジェクタ加熱時間は、ベーパの発生やエネルギの消費等も考えられるので、それらを鑑みた最適な値に設定することが望ましく、また、所定時間で必ず停止できるよう、加熱継続時間で加熱を中止できるようにしてもよい。
【0087】
このように、ハイブリッド自動車を利用すると、ドライバの意思とは関係なくエンジン2を自由に始動停止ができるので、最適に燃料温度をコントロールすることができ、また、インンジェクタ加熱中でエンジン2を始動できない場合であっても、駆動用モータ200が具備されているため車両始動が可能で、ドライバに違和感を与えることなく、本実施形態を実現することができる。
【0088】
図10は、インジェクタヒータ500を使用した始動制御の処理フローを示している。
【0089】
まず、ドライバからのキーオン状態を把握するために、システム起動中か否かを判定する(ステップ1201)。システム起動していないと判定された場合はこのルーチンを終了する。
【0090】
システム起動中と判定された場合には、水温Twが始動時ヒータ制御開始温度(Twt1)より低いか否かを判定する(ステップ1202)。水温が始動時ヒータ制御開始温度より高いと判定された場合は、このルーチンを終了する。
【0091】
これに対し、水温が始動時ヒータ制御開始温度より低いと判定された場合には、インジェクタヒータ500を駆動(ON)する(ステップ1203)。これと同時に、ヒータ500のON駆動時間の計測を開始する。
【0092】
つぎに、インジェクタヒータ500のON駆動時間Thが予め定められたエンジン始動許可しきい値Tht以上か否かを判定する(ステップ1204)。インジェクタヒータ500のON駆動時間Thがエンジン始動許可しきい値Tht以上であれば、エンジン始動許可をHCU9に送信する(ステップS1205)。これに対し、インジェクタヒータ500のON駆動時間Thがエンジン始動許可しきい値Thtに達していない場合にはステップ1204を継続する。
【0093】
つぎに、水温Twが所定値(ヒータ制御停止温度Twt2)より高いか否かを判定する(ステップ1206)。水温Twがヒータ制御停止温度Twt2より低い場合には、ステップ1206を継続し、水温Twがヒータ制御停止温度Twt2より高い場合には、インジェクタヒータ500をOFFし(ステップ1207)、本ルーチンを終了する。
【0094】
本実施形態の制御が行われると、システム起動直後にはインジェクタヒータ500によってインジェクタ54を暖めているため、エンジン2は始動しない。その後、インジェクタヒータ500によるインジェクタ加熱によって燃料温度が高くなってからエンジン2が始動するため、HC(燃料)の霧化が促進され、HCの排出量が減少する。
【0095】
尚、上述の実施形態では、何れも筒内噴射エンジンを例にしているが、事前にインジェクタを暖めらられ、かつ他に動力源があるシステム(例えばポート噴射システム、圧縮着火システム等)であれば、本発明は採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明による内燃機関の始動制御装置が適用されるハイブリッド車両のシステム構成図。
【図2】本発明による内燃機関の始動制御装置が適用される筒内噴射式エンジンの制御システムを示すシステム構成図。
【図3】本発明による内燃機関の始動制御装置が適用されるハイブリッド車両制御システムのブロック図。
【図4】本発明による内燃機関の始動制御装置が適用される筒内噴射式エンジンの燃料系の構成図。
【図5】本発明による内燃機関の始動制御装置を含むエンジン制御装置の一つの実施形態を示した制御ブロック図。
【図6】本発明による内燃機関の始動制御装置の一つの実施形態として蓄圧室ヒータを利用した場合の始動制御のタイムチャート。
【図7】本発明による内燃機関の始動制御装置の一つの実施形態として蓄圧室ヒータを利用した場合の始動制御のフローチャート。
【図8】本発明による内燃機関の始動制御装置のHC低減効果を示すタイムチャート。
【図9】本発明による内燃機関の始動制御装置の一つの実施形態としてインジェクタヒータを利用した場合の始動制御のタイムチャート。
【図10】本発明による内燃機関の始動制御装置の一つの実施形態としてインジェクタヒータを利用した場合の始動制御のフローチャート。
【符号の説明】
【0097】
1 モータジェネレータ
2 筒内噴射式エンジン
3 クラッチ
4 変速機
5 車輪
6 ベルト
7 強電バッテリ
8 出力軸
9 ハイブリッド車両制御装置(HCU)
10 インバータ
11 エンジン制御装置(ECU)
12 モータ制御装置(MCU)
13 バッテリ制御装置(BCU)
14 クラッチ制御装置(CLCU)
24 クランク角センサ
25 吸入空気流量センサ(エアフローセンサ)
27 スロットルセンサ
28 水温センサ
50 燃料タンク
51 燃料ポンプ
52 燃圧レギュレータ
53 蓄圧室
54 燃料噴射弁
56 燃圧センサ
72 触媒装置温度センサ
73 吸気温度センサ
74 燃料温度センサ
100 コントロールユニット
101a ピストン
101b シリンダブロック
101c 燃焼室
101d クランク軸
102 エアクリーナ
106 コレクタ
107 各吸気管
108 点火コイル
109 点火プラグ
117 カム角センサ
120 排気弁
121 吸気弁
140 スロットルボディ
140a 電制スロットル弁
200 駆動用モータ
202 EP−ROM
203 MPU
204 RAM
208 空燃比センサ
209 排気管
210 触媒装置
300 高圧燃料ポンプ
301 運転モード判定手段
3012 走行制御手段z
3013 発電制御手段
302 エンジン始動/停止制御手段
303 目標駆動トルク制御手段
311 入力処理部
312 燃料噴射制御手段
313 点火時期制御手段
314 空気量制御手段
315 触媒装置暖機制御手段
400 蓄圧室ヒータ
500 インジェクタヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を蓄える蓄圧室と、前記蓄圧室に燃料を圧送する燃料ポンプと、前記蓄圧室の燃料を加熱する燃料加熱手段と、前記蓄圧室に蓄えられた燃料を噴射する燃料噴射装置と、内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置とを備え、所定の自動始動条件が成立すると内燃機関を自動始動させる自動始動装置を有する内燃機関の始動制御装置であって、
前記蓄圧室内の燃料温度を検出または推定する燃料温度検出手段と、前記触媒装置の温度を検出または推定する触媒装置温度検出手段の少なくとも一つを備え、
いずれかあるいは両方の温度検出手段によって検知される燃料温度と触媒装置温度の少なくとも一つに基づいて前記自動始動装置を制御することを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
内燃機関の停止時に、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が、所定値より低いときは、前記燃料ポンプを駆動して蓄圧室に燃料を圧送することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が所定値より低い時には、前記燃料加熱手段により、前記蓄圧室内の燃料を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記燃料温度検出手段によって検知される燃料温度が所定値より高いときに、内燃機関の始動を許可することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項5】
ヒータを具備したヒータ付き燃料噴射装置と、前記内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置と、内燃機関が排出する排出ガスを浄化する触媒装置とを備え、所定の自動始動条件が成立すると内燃機関を自動始動させる自動始動装置を有する内燃機関の始動制御装置であって、
前記触媒装置の温度を検出または推定する触媒装置温度検出手段を備え、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度に基づいて前記自動始動装置を制御することを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項6】
内燃機関が停止時に、前記触媒装置温度検出手段によって検知される触媒装置温度が所定値より低い時には、前記ヒータ付き燃料噴射装置のヒータを駆動させることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項7】
前記ヒータ付き燃料噴射装置のヒータを所定時間駆動させた後に、内燃機関の始動を許可することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項8】
前記触媒装置温度検出手段は、前記内燃機関停止時の前記内燃機関の水温または吸気温度または加熱継続時間のうち少なくとも一つのパラメータを用いて判定することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−51548(P2007−51548A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235125(P2005−235125)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】