説明

化合物半導体装置及びその製造方法

【課題】ゲートリセス構造を採用してノーマリーオフ動作を可能とするも、バラツキの小さい安定した閾値を有し、十分な高耐圧を実現する信頼性の高い化合物半導体装置を実現する。
【解決手段】電子走行層3と電子供給層4との間にi−AlNからなる中間層5を形成し、キャップ構造7上のゲート電極の形成予定部位に中間層5をエッチングストッパとして用いて開口11aを形成した後、中間層5の開口11aに位置整合する部位に熱リン酸を用いたウェットエッチングにより開口11bを形成して、開口11a,11bからなる開口11をゲート絶縁膜12を介して下部が埋め込み、上部がキャップ構造7上方に突出するゲート電極13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体等の化合物半導体からなる電子走行層及び電子供給層を備えた化合物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物系の化合物半導体であるAlGaN/GaNのヘテロ接合を利用し、GaN層を電子走行層とする化合物半導体装置であるAlGaN/GaN・FET(電界効果トランジスタ)の開発が活発である。GaNは、ワイドバンドギャップ、高い破壊電界強度、及び大きい飽和電子速度を有する材料であることから、高電圧動作且つ高出力を得る半導体装置の材料として極めて有望である。そのため、次世代の高効率スイッチング素子への適用を目指してAlGaN/GaN・FETの開発が活発に行われている現況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−329483号公報
【特許文献2】特開2008−270521号公報
【特許文献3】特開2008−270794号公報
【特許文献4】特開2008−506071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源等に用いられるスイッチング素子では、電圧のオフ時には電流が流れない、所謂ノーマリーオフ動作が望まれる。
一般的に、AlGaN/GaN・FETはそのピエゾ効果のため、チャネルにおける電子量が増加する傾向がある。AlGaN/GaN・FETにおいてノーマリーオフ動作を実現するには、チャネルの電子量を低減する必要がある。
【0005】
AlGaN/GaN・FETにおいてノーマリーオフ動作を実現するために検討されている手法としては、電子供給層の薄膜化、ゲートリセス構造が挙げられる。ゲートリセス構造は、電子供給層のゲート形成部位に開口を形成し、開口を埋め込み当該開口上に突出するようにゲート電極が形成される構造である。
電子供給層の薄膜化では、そもそもAlGaN/GaN・FETの利点である大電流動作の実現及びオン抵抗の低減が困難となる。そのため、この対策案を採用することは妥当ではない。
【0006】
ゲートリセス構造を採用する場合、図1に示すように、電子走行層上の電子供給層のゲート形成部位にドライエッチングにより開口を形成する。電子走行層はGaN層、電子供給層はAlGaN層であるため、ドライエッチング時に開口深さを正確に制御することは困難である。更にこの場合、図中の円C内に示す開口の底面はエッチングダメージを受け、表面モフォロジの劣化(表面凹凸の発生)が顕著となる。開口の底面には、いわゆる原子層ステップ(結晶表面上に存在する原子層の段差)が見えなくなる。このように、底面に表面凹凸が発生した状態で開口内壁を覆うゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成すると、ゲート電極の突起部分への電界集中が大きくなり、耐圧の著しい低下をもたらすことになる。
このように、AlGaN/GaN・FETのゲートリセス構造では、ノーマリーオフ動作が得られる反面、電子供給層に形成する凹部の深さの制御、及び凹部形成時のエッチングダメージによる耐圧低下等の悪影響が懸念される。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ゲートリセス構造を採用してノーマリーオフ動作を可能とするも、バラツキの小さい安定した閾値を有し、十分な高耐圧を実現する信頼性の高い化合物半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
化合物半導体装置の一態様は、III−V族窒化物半導体を含む電子走行層と、前記電子走行層上方に形成され、前記電子走行層を露出する第1の開口を有するAlN層と、前記AlN層上方に形成され、前記第1の開口を介して前記電子走行層を露出する第2の開口を有する、III−V族窒化物半導体を含む電子供給層と、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込み、前記電子走行層上方に形成されたゲート電極とを含む。
【0009】
化合物半導体装置の製造方法の一態様は、III−V族窒化物半導体を含む電子走行層を形成し、前記電子走行層上方にAlN層を形成し、前記AlN層上方にIII−V族窒化物半導体を含む電子供給層を形成し、前記電子供給層に前記AlN層を露出する第1の開口を形成し、前記第1の開口を介して、前記AlN層に前記電子走行層を露出する第2の開口を形成し、前記電子走行層上方に、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込むゲート電極を形成する。
【発明の効果】
【0010】
上記の諸態様によれば、ゲートリセス構造を採用してノーマリーオフ動作を可能とするも、バラツキの小さい安定した閾値を有し、十分な高耐圧動作を可能とする信頼性の高い化合物半導体装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ゲートリセス構造の問題を説明するための概略断面図である。
【図2】第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図3】図2に引き続き、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図4】図3に引き続き、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図5】ゲート電極形成部位にエッチングで形成された開口の深さと、閾値との関係について調べた結果を示す図である。
【図6】AlGaN/GaN・FETにおいて、印加電圧と電流との関係について調べた結果を示す特性図である。
【図7】第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図8】図7に引き続き、第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図9】図8に引き続き、第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の各実施形態では、化合物半導体装置としてAlGaN/GaN・FETを例示し、その構成を製造方法と共に説明する。化合物半導体装置としては、III−V族窒化物半導体装置として、AlGaN/GaN・FET以外にも、InAlN、InGaAlN等の窒化物半導体装置に適用可能である。
【0013】
(第1の実施形態)
図2〜図4は、第1の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【0014】
先ず、図2(a)に示すように、例えばSiC基板1上に、核形成層2、電子走行層3、中間層5、電子供給層4、及びキャップ構造7を順次形成する。
本実施形態では、核形成層2がインテンショナリーアンドープAlN(i−AlN)層、電子走行層3がインテンショナリーアンドープGaN(i−GaN)層、中間層5がAlN層(ここではi−AlN層)、電子供給層4がインテンショナリーアンドープAlGaN(i−AlGaN)層である。なお、電子供給層4をn−AlGaN層としても良い。
【0015】
キャップ構造7は、第1のAlGaN層、第2のAlGaN層、及び第3のAlGaN層が順次積層されており、第2のAlGaN層は、第1のAlGaN層及び第3のAlGaN層よりもAl含有量が多いものとされる。
本実施形態では、第1のAlGaN層及び第3のAlGaN層がAlを含有せず、第2のAlGaN層がGaを含有しない形態を採る。具体的に、キャップ構造7は、第1の層7a、第2の層7b、第3の層7cが積層されてなり、第1の層7aがn型不純物ドープのGaN(n−GaN)層、第2の層7bがi−AlN層、第3の層7cがn−GaN層である。
【0016】
AlGaN/GaN・FETでは、電子走行層3の電子供給層4(直接的には中間層5)との界面近傍に2次元電子ガス(2DEG)が生成される。図2(a)以降の各図において、2DEGを破線で示す。
キャップ構造7を設けることにより、電子走行層3の電子供給層4との間で歪みが増大し、ピエゾ効果が惹起されて2DEGが増加する。これにより、AlGaN/GaN・FETのオン電流が低減し、大電流動作が可能となる。
【0017】
図2(a)において、詳細には、基板、例えばSiC基板1上に、例えば有機金属気相成長法、ここではMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により、結晶成長装置を用いて、以下の各化合物半導体層を成長する。
ここでは、SiC基板1上に、i−AlN、i−GaN、i−AlN、i−AlGaN、n−GaN/i−AlN/n−GaNを順次堆積し、核形成層2、電子走行層3、中間層5、電子供給層4、及びキャップ構造7を積層形成する。ここで、核形成層2は膜厚0.1μm程度、電子走行層3は膜厚3μm程度、中間層5は膜厚2nm程度、電子供給層4はAlXGa1-XN(0<x<1)で例えばAl0.25Ga0.75Nとして膜厚20nm程度に形成する。キャップ構造7は、第1の層7aを膜厚2nm程度、第2の層7bを膜厚2nm程度、第3の層7cを膜厚2nm程度に形成する。
【0018】
上記のi−AlN、i−GaN、i−AlGaN、及びn−GaNの成長条件としては、原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、及びアンモニアガスの混合ガスを用い、成長する化合物半導体層に応じて、Al源であるトリメチルアルミニウムガス、Ga源であるトリメチルガリウムガスの供給の有無及び流量を適宜設定する。共通原料であるアンモニアガスの流量は、100ccm〜10LM程度とする。また、成長圧力は50Torr〜300Torr程度、成長温度は1000℃〜1200℃程度とする。n−GaNを成長する際には、n型不純物として例えばSiを含む例えばSiH4ガスを所定の流量で原料ガスに添加し、GaNにSiをドーピングする。
【0019】
続いて、図2(b)に示すように、STI(Shallow Trench Isolation)法により素子分離構造6を形成する。
詳細には、先ず、リソグラフィー及び塩素系ガス等を用いたドライエッチングにより、キャップ構造7上における素子分離領域に、キャップ構造7、中間層5及び電子供給層4を貫通して電子走行層3の一部を掘り込む深さの分離溝6aを形成する。
ドライエッチングで用いたレジストマスクは、灰化処理等により除去する。
【0020】
次に、分離溝6a内を埋め込むように絶縁物、ここではCVD法等により絶縁膜5上にシリコン酸化物を堆積する。そして、例えばCMP(Chemical-Mechanical Polishing)法により、キャップ構造7の第3の層7cのn−GaNとシリコン酸化物との研磨レートの差異を利用して、第3の層7c上のシリコン酸化物を研磨して除去する。このとき、分離溝6a内を充填する素子分離構造6が形成される。素子分離構造6の形成により、キャップ構造7上で活性領域が画定される。
ここで、分離溝6aを形成して分離溝6aに絶縁物を充填する代わりに、素子分離領域に不純物をイオン注入し、素子分離領域におけるキャップ構造7、電子供給層4及び電子走行層3の一部を絶縁状態にする手法を用いても良い。
【0021】
続いて、図2(c)に示すように、ソース電極8及びドレイン電極9を形成する。
先ず、ソース電極及びドレイン電極の形成予定部位に凹部8a,9aを形成する。
詳細には、キャップ構造7上のソース電極及びドレイン電極の形成予定部位をリソグラフィー及び塩素系ガス等を用いたドライエッチングし、キャップ構造7、電子供給層4、及び中間層5を貫通して電子走行層3の所定深さ(2DEGよりは浅い深さ)に達する凹部8a,9aを形成する。
ドライエッチングのエッチング条件としては、エッチングガスとして例えば塩素を用いて流量30sccmとし、圧力を2Pa、RF投入電力を20Wとする。このとき、エッチング深さには特に制限は無く、電子走行層3の所定深さに達する凹部8a,9aが形成される程度であれば良い。
ドライエッチングで用いたレジストマスクは、灰化処理等により除去する。
【0022】
次に、電極材料として例えばTi/Alを用い、蒸着法及びリフトオフ法により、凹部8a,9aを埋め込み上部が凹部8a,9aから突出する形状に、電極材料を堆積する。その後、例えば550℃程度の温度でSiC基板1にアニール処理を施す。以上により、一対のオーミック電極であるソース電極8及びドレイン電極9が形成される。
【0023】
続いて、図3(a)に示すように、中間層5をエッチングストッパとして用いて、ゲート電極の形成予定部位にドライエッチングにより第1の開口11aを形成する。
詳細には、中間層5をエッチングストッパとして用い、キャップ構造7上のゲート電極の形成予定部位をリソグラフィー及び塩素系ガス等を用いたドライエッチングする。これにより、キャップ構造7及び電子供給層4を貫通して中間層5の表面の一部を露出させる開口11aが形成される。このドライエッチングは比較的低速で行うことが好ましい。
ドライエッチングで用いたレジストマスクは、灰化処理等により除去する。
【0024】
開口11aは、中間層5をエッチングストッパとして用いることにより、キャップ構造7及び電子供給層4の合計膜厚である26nm程度の深さに正確に形成される。これにより、AlGaN/GaN・FETにおける確実な閾値制御及び電流制御が可能となる。
【0025】
続いて、図3(b)に示すように、中間層5の開口11aに位置整合する部位にウェットエッチングにより開口11bを形成する。
詳細には、中間層5の開口11aの底面に露出する部分を、熱リン酸を用いてウェットエッチングする。これにより、中間層5に開口11aを介して電子走行層3の表面の一部を露出する開口11bが形成される。開口11aと開口11bとが連結形成されて開口11となる。
【0026】
熱リン酸を用いたウェットエッチングでは、中間層5の材料であるAlNは、電子走行層3の材料であるGaNとの間で大きなエッチング選択比が得られる。そのため、電子走行層3をエッチングすることなく中間層5の開口11aの底面に露出する部分のみがエッチング除去され、中間層5に開口11bが形成される。開口11bから露出する電子走行層3の表面は、エッチングダメージのない優れた表面モフォロジを示し、原子層ステップが確認される平坦性に優れた面となる。
【0027】
中間層5は、上記のように開口11の形成時のエッチングストッパとして用いられるのみならず、チャネル近傍の合金散乱を抑止する作用も有している。
電子走行層3と電子供給層4との間に中間層5を配さない場合(従来のノーマリーオフ型のAlGaN/GaN・FET)、チャネル近傍には電子供給層4のAlGaNが存することになる。AlGaNは3元系構造であり、そのため結晶性は優れているとは言えない。従って、チャネル近傍で合金散乱が発生し、AlGaN/GaN・FETにおける移動度が低下するという問題がある。
【0028】
中間層5を電子走行層3と電子供給層4との間に配することにより、チャネル近傍には中間層5のAlNが存することになる。中間層5はAlNからなり、AlNは2元系構造である。そのため3元系構造のものよりも優れた結晶性を有している。従って、チャネル近傍における合金散乱が抑止され、移動度が大幅に向上する。
【0029】
以上から、開口11の形成時のエッチングストッパとして用いて、露出する電子走行層3の優れた表面平坦性を得ると共に、合金散乱を抑止して高い移動度を得るには、AlN(i−AlN)を材料として、電子走行層3と電子供給層4との間に中間層5を形成することが最適であると結論付けることができる。
中間層5は、合金散乱を抑止して移動度を改善する目的では、その膜厚を1nm〜2nm程度に形成することが好ましい。一方、エッチングストッパとして用いる目的では、その膜厚を2nm程度とすることが好ましい。双方の目的を勘案すれば、1nm〜2nm程度の膜厚(上記のように、本実施形態では2nm程度)に中間層5を形成すれば良い。
【0030】
続いて、図3(c)に示すように、ゲート絶縁膜12を形成する。
詳細には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、或いはALD(Atomic Layer Deposition)法により、開口11の内壁面を覆うようにキャップ構造7上に、例えばTa25を膜厚5nm〜100nm程度、ここでは20nm程度に堆積し、ゲート絶縁膜12を形成する。ゲート絶縁膜の材料としては、Ta25以外にも、例えばAl23,HfO2等を用いることができる。
【0031】
本実施形態では、原料ガスにおいて、金属元素源と酸素元素源とを相互に供給しながら絶縁物を堆積する。例えばTa25を堆積する場合には、金属元素源としてはTa(NtBu)(NEt2)3(TBTDET)、酸素元素源としてはH2O若しくはO2とする。これにより、開口11の内壁面において、その底面から側面にかけて均一な膜厚(例えば、底面の最厚部位における側面の最薄部位との膜厚差が5%以内)に、ゲート絶縁膜12が形成される。
【0032】
ゲート絶縁膜12は、上記したように表面平坦性に優れた開口11の底面を直接覆うため、当該表面平坦性を反映して自身もまた優れた平坦性を有する。なお、開口11の底面である電子走行層3の表面は、ゲート絶縁膜12が被覆された状態でも、原子層ステップが確認され、被覆前の平坦性が保たれている。
このように、ゲート絶縁膜12は、均一膜厚に形成されることによって優れた破壊耐圧が得られ、開口11の底面(ゲート長を規定する部位となる)で高度な平坦に形成されることによってバラツキのないトランジスタ特性が得られる。
【0033】
続いて、図4(a),(b)に示すように、ゲート電極13を形成する。
詳細には、先ず、図4(a)に示すように、下層レジスト14(例えば、商品名PMGI:米国マイクロケム社製)及び上層レジスト15(例えば、商品名PFI32−A8:住友化学社製)をそれぞれ例えばスピンコート法により塗布形成する。紫外線露光により例えば0.8μm径程度の開口15aを上層レジスト15に形成する。
【0034】
次に、上層レジスト15をマスクとして、下層レジスト14をアルカリ現像液でウェットエッチングする。このエッチングにより、下層レジスト14に開口15aよりも大きな開口14aが形成され、図示のような庇構造が形成させる。
次に、上層レジスト15及び下層レジスト14をマスクとして、開口15a,14a内を含む全面にゲートメタル(Ni:膜厚10nm程度/Au:膜厚300nm程度)を蒸着する。ここで図示の便宜上、上層レジスト15上に堆積されるゲートメタルの図示を省略する。
【0035】
その後、図4(b)に示すように、加温した有機溶剤を用いてリフトオフを行って下層レジスト14及び上層レジスト15と、上層レジスト15上のゲートメタルを除去する。以上により、開口11内を絶縁膜12を介して充填する、Ni/Auからなるゲート電極13が形成される。
【0036】
しかる後、層間絶縁膜及び配線の形成等を経て、AlGaN/GaN・FETを形成する。
【0037】
以下、本実施形態のAlGaN/GaN・FETの奏する諸効果について、従来のゲートリセス構造のAlGaN/GaN・FETとの比較に基づいて調べた結果について説明する。本実施形態との比較対象である従来のゲートリセス構造のAlGaN/GaN・FETは、上記した中間層を有さず、AlGaNからなる電子供給層に形成された開口をゲート絶縁膜を介して電極材料で埋め込みゲート電極が形成されてなるものである。この従来のAlGaN/GaN・FETをサンプル1、本実施形態のAlGaN/GaN・FETをサンプル2とする。
【0038】
図5に、ゲート電極形成部位にエッチングで形成された開口の深さと、閾値との関係について調べた結果を示す。(a)が特性図、(b)が(a)の結果をまとめた表である。
サンプル1では、中間層を有しないため、形成された開口では深さに大きなバラツキが見られる。この場合、深さバラツキ(最も深く形成された開口と最も浅く形成された開口との深さ差分)は3nmとなった。そのため、閾値にも同様にバラツキが生じた。この場合、閾値バラツキ(最も深く形成された開口を有するAlGaN/GaN・FETと、最も浅く形成された開口を有するAlGaN/GaN・FETとの閾値差分)は1Vとなった。
【0039】
これに対してサンプル2では、中間層5がエッチングストッパ層として機能して、開口(ここでは開口11a)が略一定の深さにバラツキなく形成された。この場合、深さバラツキは0.2nmとなった。そのため、閾値も同様にバラツキが殆ど見られなかった。この場合、閾値バラツキは0.06Vとなった。
【0040】
図6に、AlGaN/GaN・FETにおいて、印加電圧と電流との関係について調べた結果を示す。
サンプル1では、70V程度の印加電圧から電流値の急激な上昇が見られるため、破壊耐圧は70V程度であることが判る。
これに対してサンプル2では、300V程度の印加電圧まではほぼ一定の電流値となり、320V程度の印加電圧から電流値に若干の上昇が見られる。このことから、破壊耐圧は300V以上(少なくとも300V)であることが判る。
【0041】
このように、本実施形態のAlGaN/GaN・FETでは、従来のAlGaN/GaN・FETに較べて、一定の閾値が安定して得られ、高い耐圧が確保されることが確認された。また、本実施形態のAlGaN/GaN・FETでは、従来のAlGaN/GaN・FETに較べて、破壊耐圧が極めて高く、安定した駆動が可能であることが確認された。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、ゲートリセス構造を採用してノーマリーオフ動作を可能とするも、バラツキの小さい安定した閾値を有し、十分な高耐圧動作を可能とする信頼性の高いAlGaN/GaN・FETが実現する。
【0043】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に化合物半導体装置を開示するが、ゲート電極の形状が第1の実施形態と異なる点等で相違する。
【0044】
図7〜図9は、第2の実施形態による化合物半導体装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。なお、第1の実施形態と同様の構成部材等については、同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
本実施形態では先ず、第1の実施形態の図2(a),(b)と同様の諸工程を行い、図7(a)に示すように、図2(b)と同様の状態を得る。
【0045】
続いて、図7(b)に示すように、第1の実施形態の図3(a)と同様に、中間層5をエッチングストッパとして用いて、ゲート電極の形成予定部位にドライエッチングにより第1の開口11aを形成する。
開口11aは、中間層5をエッチングストッパに用いることにより、キャップ構造7及び電子供給層4の合計膜厚である26nm程度の深さに正確に形成される。これにより、AlGaN/GaN・FETにおける確実な閾値制御及び電流制御が可能となる。
【0046】
続いて、図7(c)に示すように、第1の実施形態の図3(b)と同様に、中間層5の開口11aに位置整合する部位にウェットエッチングにより開口11bを形成する。開口11aと開口11bとが連結形成されて開口11となる。
【0047】
熱リン酸を用いたウェットエッチングでは、中間層5の材料であるAlNは、電子走行層3の材料であるGaNとの間で大きなエッチング選択比が得られる。そのため、中間層5をエッチングすることなく中間層5の開口11aの底面に露出する中間層5のみがエッチング除去され、開口11bが形成される。開口11から露出する電子走行層3の表面は、エッチングダメージのない優れた表面モフォロジを示し、原子層ステップが確認される平坦性に優れた面となる。
開口11の形成時のエッチングストッパとして用いて、露出する電子走行層3の優れた表面平坦性を得ると共に、合金散乱を抑止して高い移動度を得るには、AlN(i−AlN)を材料として、電子走行層3と電子供給層4との間に中間層5を形成することが最適である。
【0048】
続いて、図8(a)に示すように、図3(c)と同様に、ゲート絶縁膜12を形成する。
ゲート絶縁膜12は、開口11の内壁面において、その底面から側面にかけて均一な膜厚(例えば、底面の最厚部位における側面の最薄部位との膜厚差が5%以内)に形成される。
【0049】
ゲート絶縁膜12は、上記したように表面平坦性に優れた開口11の底面を直接覆うため、当該表面平坦性を反映して自身もまた優れた平坦性を有する。なお、開口11の底面である電子走行層3の表面は、ゲート絶縁膜12が被覆された状態でも、原子層ステップが確認され、被覆前の平坦性が保たれている。
このように、ゲート絶縁膜12は、均一膜厚に形成されることによって優れた破壊耐圧が得られ、開口11の底面(ゲート長を規定する部位となる)で高度な平坦に形成されることによってバラツキのないトランジスタ特性が得られる。
【0050】
続いて、図8(b),(c)に示すように、ゲート電極21を形成する。
詳細には、先ず、図8(b)に示すように、ポジ型電子線レジスト(商品名ZEP520−Al7:日本ゼオン社製)であるファインゲート用レジスト22を300nm程度の厚みにスピンコート法により塗布形成し、180℃で5分間熱処理する。
次に、アルカリ可溶性樹脂(商品名PMGI:米国マイクロケム社製)である下層レジスト23を500nm程度の厚みにスピンコート法により塗布形成し、180℃で3分間熱処理する。
次に、下層レジスト23上に、ポジ型電子線レジスト(商品名ZEP520−Al7:日本ゼオン社製)である上層レジスト24を200nm程度の厚みにスピンコート法により塗布形成し、例えば180℃で2分間熱処理する。
【0051】
次に、電子線描画により、上層レジスト24、下層レジスト23、及びファインゲート用レジスト22を加工する。これにより、ファインゲート用レジスト22にはゲート電極の柄部分を形成するための幅狭の開口22aが、下層レジスト23及び上層レジスト24にはゲート電極の傘部分を形成するための開口23a,24aがそれぞれ形成される。
次に、上層レジスト24、下層レジスト23、及びファインゲート用レジスト22をマスクとして、開口24a,23a,22a内を含む全面にゲートメタル(Ni:膜厚10nm程度/Au: 膜厚300nm程度)を蒸着する。ここで図示の便宜上、上層レジスト24上に堆積されるゲートメタルの図示を省略する。
【0052】
次に、図8(c)に示すように、加温した有機溶剤を用いてリフトオフを行って、上層レジスト24、下層レジスト23、及びファインゲート用レジスト22と、上層レジスト24上のゲートメタルを除去する。以上により、開口11内を絶縁膜12を介して充填し、開口11から上方に開口11の部分よりも幅広のハンマー形状に突出する、マッシュルーム形状のNi/Auからなるゲート電極21が形成される。
このように、ゲート電極21を、その上部(傘部分)に比して下部(柄部分)が幅狭のマッシュルーム形状に形成することにより、電気的特性等に優れたAlGaN/GaN・FETが実現する。
【0053】
続いて、図9(a)に示すように、ソース電極及びドレイン電極の形成予定部位に凹部25a,26aを形成する。
詳細には、キャップ構造7上のソース電極及びドレイン電極の形成予定部位をリソグラフィー及び塩素系ガス等を用いたドライエッチングし、キャップ構造7、電子供給層4、及び中間層5を貫通して電子走行層3の所定深さ(2DEGよりは浅い深さ)に達する凹部25a,26aを形成する。本実施形態では、凹部25a,26aの片側(ゲート電極21側)については、レジストマスクを形成せず、ゲート電極21に対して自己整合的にドライエッチングする。
【0054】
ドライエッチングのエッチング条件としては、エッチングガスとして例えば塩素を用いて流量30sccmとし、圧力を2Pa、RF投入電力を20Wとする。このとき、エッチング深さには特に制限は無く、電子走行層3の所定深さに達する凹部25a,26aが形成される程度であれば良い。
ドライエッチングで用いたレジストマスクは、灰化処理等により除去する。
【0055】
続いて、図9(b)に示すように、ソース電極25及びドレイン電極26を形成する。
詳細には、電極材料として例えばTi/Alを用い、蒸着法及びリフトオフ法により、凹部25a,26aを埋め込み上部が凹部25a,26aから突出する形状に、電極材料を堆積する。その後、例えば550℃程度の温度でSiC基板1にアニール処理を施す。以上により、一対のオーミック電極であるソース電極25及びドレイン電極26が形成される。
【0056】
本実施形態では、ソース電極25及びドレイン電極26が埋め込み形成される凹部25a,26aの一部を、ゲート電極21に対して自己整合的に形成する。この場合、ソース電極25とドレイン電極26との距離が、ゲート電極21の上部(傘部分)の幅で規定される。この距離は比較的短いものとなるため、高速動作が可能なAlGaN/GaN・FETが実現する。その反面、自己整合的にソース電極25及びドレイン電極26を形成する場合、耐圧の低下が見られることがある。しかしながら本実施形態では、電子走行層3と電子供給層4との間にi−GaN層である中間層5が配されており、またゲート絶縁膜12が均一且つ表面平坦に形成されている。この構成により、耐圧の大幅な向上が得られる。そのため、ソース電極25及びドレイン電極26を自己整合的に形成することに起因する耐圧の低下は当該大幅な向上に較べると無視し得る程度のものであって、問題とはならない。
【0057】
しかる後、層間絶縁膜及び配線の形成等を経て、AlGaN/GaN・FETを形成する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、ゲートリセス構造を採用してノーマリーオフ動作を可能とするも、バラツキの小さい安定した閾値を有し、十分な高耐圧動作を可能とする信頼性の高い高速動作が可能なAlGaN/GaN・FETが実現する。
【0059】
以下、本件の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0060】
(付記1)III−V族窒化物半導体を含む電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成され、前記電子走行層を露出する第1の開口を有するAlN層と、
前記AlN層上方に形成され、前記第1の開口を介して前記電子走行層を露出する第2の開口を有する、III−V族窒化物半導体を含む電子供給層と、
前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込み、前記電子走行層上方に形成されたゲート電極と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【0061】
(付記2)前記ゲート電極は、少なくとも前記第1の開口及び前記第2の開口の内壁面を覆うゲート絶縁膜を介して、前記第2の開口を埋め込むことを特徴とする付記1に記載の化合物半導体装置。
【0062】
(付記3)前記電子走行層上方に、第1のAlGaN層、第2のAlGaN層、及び第3のAlGaN層が積層されており、
前記第2のAlGaN層は、前記第1のAlGaN層及び前記第3のAlGaN層よりもAl含有量が多いことを特徴とする付記1又は2に記載の化合物半導体装置。
【0063】
(付記4)前記AlN層は、1nm以上2nm以下の厚みに形成されていることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0064】
(付記5)前記ゲート電極は、前記電子走行層上方に突出する部分が、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込む部分よりも幅広のハンマー形状に形成されていることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0065】
(付記6)III−V族窒化物半導体を含む電子走行層を形成し、
前記電子走行層上方にAlN層を形成し、
前記AlN層上方にIII−V族窒化物半導体を含む電子供給層を形成し、
前記電子供給層に前記AlN層を露出する第1の開口を形成し、
前記第1の開口を介して、前記AlN層に前記電子走行層を露出する第2の開口を形成し、
前記電子走行層上方に、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込むゲート電極を形成することを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0066】
(付記7)ドライエッチングにより、前記電子供給層に前記第1の開口を形成し、
ウェットエッチングにより、前記AlN層に前記第2の開口を形成することを特徴とする付記6に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0067】
(付記8)リン酸を用いたウェットエッチングにより、前記第2の開口を形成することを特徴とする付記7に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0068】
(付記9)少なくとも前記第1の開口及び前記第2の開口の内壁面を覆うようにゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込むように、前記ゲート電極を形成することを特徴とする付記6〜8のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0069】
(付記10)前記ゲート絶縁膜を、PE−CVD法又はALD法を用いて形成することを特徴とする付記9に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0070】
(付記11)前記電子走行層上方に、第1のAlGaN層、第2のAlGaN層、及び第3のAlGaN層を積層し、
前記第2のAlGaN層は、前記第1のAlGaN層及び前記第3のAlGaN層よりもAl含有量が多いことを特徴とする付記6〜10のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0071】
(付記12)前記AlN層を、1nm以上2nm以下の厚みに形成することを特徴とする付記6〜11のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0072】
(付記13)前記ゲート電極は、前記電子走行層上方に突出する部分が、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込む部分よりも幅広のハンマー形状に形成されることを特徴とする付記6〜12のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0073】
1 SiC基板
2 核形成層
3 電子走行層
4 電子供給層
5 中間層
6素子分離構造
6a 分離溝
7 キャップ構造
7a 第1の層
7b 第2の層
7c 第3の層
8,25 ソース電極
9,26 ドレイン電極
8a,9a,25a,26a 凹部
11,11a,11b,14a,15a,22a,23a,24a 開口
12 ゲート絶縁膜
13,21 ゲート電極
14,23 下層レジスト
15,24 上層レジスト
22 ファインゲート用レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族窒化物半導体を含む電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成され、前記電子走行層を露出する第1の開口を有するAlN層と、
前記AlN層上方に形成され、前記第1の開口を介して前記電子走行層を露出する第2の開口を有する、III−V族窒化物半導体を含む電子供給層と、
前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込み、前記電子走行層上方に形成されたゲート電極と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート電極は、少なくとも前記第1の開口及び前記第2の開口の内壁面を覆うゲート絶縁膜を介して、前記第2の開口を埋め込むことを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体装置。
【請求項3】
前記電子走行層上方に、第1のAlGaN層、第2のAlGaN層、及び第3のAlGaN層が積層されており、
前記第2のAlGaN層は、前記第1のAlGaN層及び前記第3のAlGaN層よりもAl含有量が多いことを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
前記AlN層は、1nm以上2nm以下の厚みに形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【請求項5】
III−V族窒化物半導体を含む電子走行層を形成し、
前記電子走行層上方にAlN層を形成し、
前記AlN層上方にIII−V族窒化物半導体を含む電子供給層を形成し、
前記電子供給層に前記AlN層を露出する第1の開口を形成し、
前記第1の開口を介して、前記AlN層に前記電子走行層を露出する第2の開口を形成し、
前記電子走行層上方に、前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込むゲート電極を形成することを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
ドライエッチングにより、前記電子供給層に前記第1の開口を形成し、
ウェットエッチングにより、前記AlN層に前記第2の開口を形成することを特徴とする請求項5に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
リン酸を用いたウェットエッチングにより、前記第2の開口を形成することを特徴とする請求項6に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
少なくとも前記第1の開口及び前記第2の開口の内壁面を覆うようにゲート絶縁膜を形成し、
前記ゲート絶縁膜を介して前記第1の開口及び前記第2の開口を埋め込むように、前記ゲート電極を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記電子走行層上方に、第1のAlGaN層、第2のAlGaN層、及び第3のAlGaN層を積層し、
前記第2のAlGaN層は、前記第1のAlGaN層及び前記第3のAlGaN層よりもAl含有量が多いことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記AlN層を、1nm以上2nm以下の厚みに形成することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−82216(P2011−82216A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230877(P2009−230877)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】