説明

化合物半導体装置及びその製造方法

【課題】ゲート絶縁膜における電荷トラップを大幅に低減し、信頼性の高い化合物半導体装置を実現する。
【解決手段】化合物半導体層2と、化合物半導体層2上でゲート絶縁膜6を介して形成されたゲート電極7とを備えており、ゲート絶縁膜6は、Sixyを絶縁材料として含有しており、Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体装置は、高い飽和電子速度及びワイドバンドギャップ等の特徴を利用し、高耐圧及び高出力の半導体デバイスとしての開発が活発に行われている。窒化物半導体デバイスとしては、電界効果トランジスタ、特に高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)についての報告が数多くなされている。特に、GaNを電子走行層として、AlGaNを電子供給層として用いたAlGaN/GaN・HEMTが注目されている。AlGaN/GaN・HEMTでは、GaNとAlGaNとの格子定数差に起因した歪みがAlGaNに生じる。これにより発生したピエゾ分極及びAlGaNの自発分極により、高濃度の2次元電子ガス(2DEG)が得られる。そのため、高耐圧及び高出力が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−76845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高電圧用途で使用される窒化物半導体デバイスは、当該デバイスの絶縁膜・半導体表面・結晶内部等に存在する電荷トラップの影響を受け易く、動作状態によって電気特性(電流−電圧特性、利得特性、出力特性、コラプス等)が変化するという問題がある。
【0005】
上記の問題について詳細に述べる。
半導体デバイスの構造内に存在する電荷トラップは、電界による活性化(帯電)により、又は電子及びホールのトラップにより、トラップ周辺の電位分布に変動を与える。その結果として電気特性が変化し、半導体デバイスの安定動作に影響を及ぼす。実際の半導体デバイスでは、動作中の閾値電圧の変化、これに付随する電流量の変化、及び利得の変化として現われる。電気特性の安定な半導体デバイスとして、これらの電気特性の変化の抑制、即ちトラップ現象等を緩和させる仕組みをデバイス内部に作り込むことが必要である。特に、電界が集中しトラップの影響を受け易いゲート電極の周辺及びゲート絶縁膜における、電荷トラップの低減又は不活性化は重要な課題である。
【0006】
更には、電気特性変動の原因となる電荷トラップ自体を低減するデバイス構造及び製造方法の確立が必要である。電荷トラップの存在は、半導体デバイスにとって欠陥であり、長期信頼性の観点からも半導体デバイスの電荷トラップを低減させることが必須の課題である。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ゲート絶縁膜及びその周辺における電荷トラップを大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高い化合物半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
化合物半導体装置の一態様は、化合物半導体層と、前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極とを含み、前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものである。
【0009】
化合物半導体装置の一態様は、化合物半導体層と、前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極とを含み、前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、前記Sixyzは、x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものである。
【0010】
化合物半導体装置の製造方法の一態様は、化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程とを含み、前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものである。
【0011】
化合物半導体装置の製造方法の一態様は、化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程とを含み、前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、前記Sixyzは、x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものである。
【発明の効果】
【0012】
上記の各態様によれば、ゲート絶縁膜における電荷トラップを大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高い化合物半導体装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図2】図1に引き続き、第1の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図3】図3に引き続き、第1の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図4】第1の実施形態により成膜されたゲート絶縁膜のSiNの結合状態を示す模式図である。
【図5】第1の実施形態のSiNにおける水素終端基濃度の良好な適用範囲を確認するための諸実験結果を示す特性図である。
【図6】第1の実施形態のSiNにおける原子間水素濃度の良好な適用範囲を確認するための諸実験結果を示す特性図である。
【図7】第1の実施形態の変形例1によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図8】第1の実施形態の変形例2によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図9】第1の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図10】図7に引き続き、第1の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図11】第2の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図12】第2の実施形態の変形例1によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図13】第2の実施形態の変形例2によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図14】第2の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図15】図14に引き続き、第2の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【図16】第4の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【図17】第5の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、諸実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の諸実施形態では、化合物半導体装置の構成について、その製造方法と共に説明する。
なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさ及び厚みに示していない構成部材がある。
【0015】
(第1の実施形態)
本実施形態では、化合物半導体装置としてMIS型のAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
図1〜図3は、第1の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【0016】
先ず、図1(a)に示すように、成長用基板として例えば半絶縁性のSiC基板1上に、化合物半導体層2を形成する。化合物半導体層2は、バッファ層2a、電子走行層2b、中間層2c、電子供給層2d、及びキャップ層2eを有して構成される。AlGaN/GaN・HEMTでは、電子走行層2bの電子供給層2d(正確には中間層2c)との界面近傍に2次元電子ガス(2DEG)が生成される。
【0017】
詳細には、SiC基板1上に、例えば有機金属気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により、以下の各化合物半導体を成長する。MOVPE法の代わりに、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法等を用いても良い。
【0018】
SiC基板1上に、AlN、i(インテンショナリ・アンドープ)−GaN、i−AlGaN、n−AlGaN,及びn−GaNを順次堆積し、バッファ層2a、電子走行層2b、中間層2c、電子供給層2d、及びキャップ層2eを積層形成する。AlN、GaN、AlGaN、及びGaNの成長条件としては、原料ガスとしてトリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、及びアンモニアガスの混合ガスを用いる。成長する化合物半導体層に応じて、Al源であるトリメチルアルミニウムガス、Ga源であるトリメチルガリウムガスの供給の有無及び流量を適宜設定する。共通原料であるアンモニアガスの流量は、100ccm〜10LM程度とする。また、成長圧力は50Torr〜300Torr程度、成長温度は1000℃〜1200℃程度とする。
【0019】
GaN、AlGaNをn型として成長する際には、n型不純物として例えばSiを含む例えばSiH4ガスを所定の流量で原料ガスに添加し、GaN及びAlGaNにSiをドーピングする。Siのドーピング濃度は、1×1018/cm3程度〜1×1020/cm3程度、例えば5×1018/cm3程度とする。
ここで、バッファ層2aは膜厚0.1μm程度、電子走行層2bは膜厚3μm程度、中間層2cは膜厚5nm程度、電子供給層2dは膜厚20nm程度で例えばAl比率0.2〜0.3程度、表面層2eは膜厚10nm程度に形成する。
【0020】
続いて、図1(b)に示すように、素子分離構造3を形成する。
詳細には、化合物半導体層2の素子分離領域に例えばアルゴン(Ar)を注入する。これにより、化合物半導体層2及びSiC基板1の表層部分に素子分離構造3が形成される。素子分離構造3により、化合物半導体層2上で活性領域が画定される。
なお、素子分離は、上記の注入法の代わりに、例えばSTI(Shallow Trench Isolation)法を用いて行っても良い。
【0021】
続いて、図1(c)に示すように、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する。
詳細には、先ず、化合物半導体層2の表面におけるソース電極及びドレイン電極の形成予定位置のキャップ層2eに、電極溝2A,2Bを形成する。
化合物半導体層2の表面におけるソース電極及びドレイン電極の形成予定位置を開口するレジストマスクを形成する。このレジストマスクを用いて、キャップ層2eをドライエッチングして除去する。これにより、電極溝2A,2Bが形成される。ドライエッチングには、Ar等の不活性ガス及びCl2等の塩素系ガスをエッチングガスとして用いる。ここで、キャップ層2eを貫通して電子供給層2dの表層部分までドライエッチングして電極溝を形成しても良い。
【0022】
電極材料として例えばTa/Alを用いる。電極形成には、蒸着法及びリフトオフ法に適した例えば庇構造2層レジストを用いる。このレジストを化合物半導体層2上に塗布し、電極溝2A,2Bを開口するレジストマスクを形成する。このレジストマスクを用いて、Ta/Alを堆積する。Taの厚みは20nm程度、Alの厚みは200nm程度とする。リフトオフ法により、庇構造のレジストマスク及びその上に堆積したTa/Alを除去する。その後、SiC基板1を、例えば窒素雰囲気中において550℃程度で熱処理し、残存したTa/Alを電子供給層2dとオーミックコンタクトさせる。以上により、電極溝2A,2BをTa/Alの下部で埋め込むソース電極4及びドレイン電極5が形成される。
【0023】
続いて、図2(a)に示すように、ゲート電極の電極溝を形成するためのレジストマスク10を形成する。
詳細には、化合物半導体層2上にレジストを塗布する。レジストをリソグラフィーにより加工し、ゲート電極の形成予定位置に開口10aを形成する。以上により、開口10aからゲート電極の形成予定位置となるキャップ層2eの表面を露出するレジストマスク10が形成される。
【0024】
続いて、図2(b)に示すように、ゲート電極の形成予定位置に電極溝2Cを形成する。
レジストマスク10を用いて、キャップ層2eを貫通して電子供給層2dの一部を残すようにドライエッチングして除去する。ドライエッチングには、Ar等の不活性ガス及びCl2等の塩素系ガスをエッチングガスとして用いる。このとき、電子供給層2dの残存部分の厚みは、0nm〜20nm程度、例えば1nm程度とする。これにより、電極溝2Cが形成される。なお、ゲート電極の電極溝の形成には、上記のドライエッチングの代わりに、例えばウェットエッチング、イオンミリング等の手法を用いることもできる。
レジストマスク10は、灰化処理等により除去する。
【0025】
続いて、図3(a)に示すように、ゲート絶縁膜6を形成する。
詳細には、例えばプラズマCVD法(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition:PECVD法)により、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含む化合物半導体層2上の全面を覆うように、シリコン窒化物の膜(SiN膜)を膜厚2nm〜200nmの範囲、例えば20nm程度に堆積する。これにより、ゲート絶縁膜6が形成される。
【0026】
PECVDの具体的な成膜条件としては、原料ガス種及びその流量、圧力、RF電力、RF電力周波数がある。
原料ガスとしては、SiH4、NH3、N2、及びHeの混合ガスを用い、各々の流量を、SiH4が3sccm、NH3が1sccm、N2が150sccm、Heが1000sccmとする。
【0027】
本実施形態では、SiNに相当量の水素を供給して十分な水素終端基濃度を確保すべく、PECVDにおけるRF電力をプラズマが生成される限度で比較的低く設定する。原料ガス量が過剰な状態(反応律速状態)において、PECVDにおける圧力とRF電力とは、ほぼ比例関係を示す。上記の各ガス流量であれば、反応律速状態にあるものと考えられる。
【0028】
以上を考慮すると、圧力P及びRF電力PRFは、以下のようになる。
20W≦PRF≦200W、且つPRF/P=α(α:定数)
従って、RF電力PRFを上記の範囲内で所定値に定めれば、定数αを用いて圧力が一意に定まることになる。ここでは、圧力を例えば1500mTorr程度、RF電力を例えば80W程度、RF電力の周波数を13.56MHzとする。
【0029】
本実施形態により成膜されたゲート絶縁膜6のSiNの結合状態を図4に示す。
このSiNでは、その必然的に有するSi及びNの結合欠陥(以下、Si及びNの結合欠陥を単にダングリングボンドと記す。)による未結合手が水素(H)で十分に終端されている。換言すれば、全てのダングリングボンドにおける水素終端されたものの割合が、ゲート絶縁膜6における電荷トラップの低減に十分であると評価できる。更には、終端された水素結合基の熱的変動による崩壊が生じることを見込んで、当該崩壊を補償するに十分な濃度の余剰な原子間水素を有している。この高濃度の原子間水素を配置することにより、加熱により脱水素反応が進行してSiNから外部に水素が放出されてしまった場合でも、水素終端を再度生ぜしめることができる。
【0030】
上記の成膜条件で成膜されたSiN膜は、そのSiNをSixyと表現した場合、Si/Nの組成比x/yが、
(3/4)−15%≦x/y≦(3/4)+15%、即ち、
0.638≦x/y≦0.863
の範囲内の値とされている。更に、水素終端基濃度CH1が、
2×1022/cm3≦CH1≦5×1022/cm3
の範囲内の値とされている。更に、原子間水素濃度CH2が、
2×1021/cm3≦CH2≦6×1021/cm3
の範囲内の値とされている。
【0031】
Si/Nの組成比x/yを(3/4)±15%の範囲内とすることは、SiNをSi34の組成から若干ずれることを許容し、そのダングリングボンドを水素で補償することを指向することを意味する。
【0032】
水素終端基濃度CH1は、2×1022/cm3よりも小さいと、上記のダングリングボンドを水素で十分に終端することが困難となる。5×1022/cm3よりも大きいと、SiNとして現実的でなく、ゲート絶縁膜として十分な絶縁性を担保できなくなる。従って、水素終端基濃度CH1を上記の範囲内の値とすることで、ゲート絶縁膜としての優れた特性を保ちつつ、ダングリングボンドを水素で十分に終端することができる。
【0033】
本実施形態のSiNにおける水素終端基濃度CH1の良好な適用範囲を確認すべく、いくつかの実験をした。
実験1では、水素終端基濃度CH1とリーク電流との関係を調べた。実験1においては、水素終端基濃度CH1の異なるSiNを膜厚50nmに形成し、キャパシタ膜として構成したコンデンサを用いた。
実験2では、水素終端基濃度CH1と不対電子対濃度、即ちSiNのダングリングボンド量との関係を調べた。
実験3では、水素終端基濃度CH1と電流コラプス率との関係を調べた。所定の範囲内のゲート電圧Vgで、SiNにドレイン電圧Vdを大値まで印加した場合において、所定のドレイン電圧Vd(例えば5V)におけるドレイン電圧IdをId1とする。所定の範囲内のゲート電圧Vgで、SiNにドレイン電圧Vdを上記の場合よりも小値まで印加した場合において、所定のドレイン電圧Vd(例えば5V)におけるドレイン電圧IdをId2とする。電流コラプス率を、(Id1/Id2)×100(%)として定義する。
実験1の結果を図5(a)に、実験2の結果を図5(b)に、実験3の結果を図5(c)にそれぞれ示す。
【0034】
図5(a)に示すように、水素終端基濃度CH1の値が5×1022/cm3以下のときには、リーク電流は略一定の低値となる。水素終端基濃度CH1の値が5×1022/cm3を越えると、リーク電流の値が急峻に増加する。この結果から、リーク電流を低値に抑えるためには、本実施形態によるSiNの水素終端基濃度CH1の上限値は5×1022/cm3程度であると評価できる。
【0035】
図5(b)に示すように、水素終端基濃度CH1の値が2×1022/cm3以上のときには、不対電子対濃度は略一定の低値となる。水素終端基濃度CH1の値が2×1022/cm3を下回ると、不対電子対濃度の値が急峻に増加する。この結果から、SiNのダングリングボンドを水素で十分に終端するためには、本実施形態によるSiNの水素終端基濃度CH1の下限値は2×1022/cm3程度であると評価できる。
【0036】
図5(c)に示すように、水素終端基濃度CH1の値が2×1022/cm3以上のときには、95%程度以上の高い電流コラプス率が保たれる。水素終端基濃度CH1の値が2×1022/cm3を下回ると、電流コラプス率は急峻に低下する。この結果から、高い電流コラプス率を保つためには、本実施形態によるSiNの水素終端基濃度CH1の下限値は2×1022/cm3程度であると評価できる。
【0037】
実験1〜3の結果より、本実施形態のSiNにおける水素終端基濃度CH1を2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下に規定することにより、リーク電流量が少なく、ダングリングボンドの少ない優れたゲート絶縁膜となることが確認された。
【0038】
原子間水素濃度CH2は、2×1021/cm3よりも小さいと、終端された水素結合基の崩壊を十分に補償することが困難となる。6×1021/cm3よりも大きいと、ゲート絶縁膜として十分な絶縁性を担保できなくなる。従って、原子間水素濃度CH2を上記の範囲内の値とすることで、ゲート絶縁膜として使用することに遜色なくも、終端された水素結合基の崩壊を十分に補償することができる。
【0039】
本実施形態のSiNにおける原子間水素濃度CH2の良好な適用範囲を確認すべく、いくつかの実験をした。実験4では、原子間水素濃度CH2とリーク電流との関係を調べた。
実験4においては、原子間水素濃度CH2の異なるSiNを膜厚50nmに形成し、キャパシタ膜として構成したコンデンサを用いた。実験5では、原子間水素濃度CH2と水素終端基濃度CH1の変動量との関係を調べた。実験5においては、SiNの水素終端基濃度CH1の初期値を3×1022/cm3とした。SiNを500℃で5分間の条件で熱処理した。実験4の結果を図6(a)に、実験5の結果を図6(b)にそれぞれ示す。
【0040】
図6(a)に示すように、原子間水素濃度CH2の値が6×1021/cm3以下のときには、リーク電流は略一定の低値となる。原子間水素濃度CH2の値が6×1021/cm3を越えると、リーク電流の値が急峻に増加する。この結果から、リーク電流を低値に抑えるためには、本実施形態によるSiNの原子間水素濃度CH2の上限値は6×1021/cm3程度であると評価できる。
【0041】
図6(b)に示すように、原子間水素濃度CH2の値が2×1021/cm3以上のときには、水素終端基濃度CH1の変動量は極めて低値となる。原子間水素濃度CH2の値が2×1021/cm3を下回ると、水素終端基濃度CH1の変動量が急峻に増加する。これは、以下のメカニズムによるものと考えられる。水素終端されたSiNを熱処理すると、脱水素反応によりSiNから水素が放出される。原子間水素濃度CH2の値が2×1021/cm3を下回るSiNでは、原子間水素により、外部に放出された水素を十分に補償することができず、従って水素終端基濃度CH1の変動量が非常に大きい。これに対して、原子間水素濃度CH2の値が2×1021/cm3以上であれば、原子間水素により、外部に放出された水素を十分に補償することができ、従って水素終端基濃度CH1の変動量が小さい。この結果から、本実施形態によるSiNの原子間水素濃度CH2の下限値は2×1021/cm3程度であると評価できる。
【0042】
実験4,5の結果より、本実施形態のSiNにおける原子間水素濃度CH2を2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下に規定することにより、水素結合基の熱的変動による崩壊が生じてもダングリングボンドを少なく保つ優れたゲート絶縁膜となることが確認された。
【0043】
Si/Nの組成比x/yは、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により測定される。水素終端基濃度CH1は、赤外吸収法により測定される。原子間水素濃度CH2は、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward Scattering:HFS)及びラザフォード後方散乱分析法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)により測定される。
【0044】
本実施形態のSiN膜では、Si/Nの組成比x/yを例えば(0.84)程度、水素終端基濃度CH1を例えば2.1×1022/cm3程度、原子間水素濃度CH2を例えば3×1021/cm3程度とする。このとき、残留不対電子対濃度(残留するダングリングボンドの濃度)は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance:ESR)から2.6×1018/cm3程度と測定される。
【0045】
このSiN膜で形成されたゲート絶縁膜6は、組成としてSi34に近く、且つダングリングボンドが水素(H)で十分に終端されており、且つ水素結合基の崩壊を補償するに十分な濃度の原子間水素を含有する膜である。このゲート絶縁膜6は、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減された状態に形成される。
【0046】
続いて、図3(b)に示すように、ゲート電極7を形成する。
詳細には、先ず、下層レジスト(例えば、商品名PMGI:米国マイクロケム社製)及び上層レジスト(例えば、商品名PFI32-A8:住友化学社製)をそれぞれ例えばスピンコート法によりゲート絶縁膜6上に塗布形成する。紫外線露光により例えば1.5μm径程度の開口を上層レジストに形成する。次に、上層レジストをマスクとして、下層レジストをアルカリ現像液でウェットエッチングする。次に、上層レジスト及び下層レジストをマスクとして、開口内を含む全面にゲートメタル(Ni:膜厚10nm程度/Au:膜厚300nm程度)を蒸着する。その後、SiC基板1を80℃に加温したN-メチル-ピロリジノン中に浸潤し、下層レジスト及び上層レジスト及び不要なゲートメタルをリフトオフ法により除去する。以上により、電極溝2C内をゲート絶縁膜6を介してゲートメタルの一部で埋め込むゲート電極7が形成される。
【0047】
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、ゲート絶縁膜6における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜6のゲート電極7との界面及びその近傍部位、又は、ゲート絶縁膜6の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0049】
−変形例−
以下、第1の実施形態の諸変形例について説明する。
以下の諸変形例では、第1の実施形態と同様に、化合物半導体装置としてMIS型のAlGaN/GaN・HEMTを開示するが、ゲート絶縁膜の構成が若干異なる点で第1の実施形態と相違する。
【0050】
(変形例1)
図7は、第1の実施形態の変形例1によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0051】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0052】
続いて、図7(a),(b)に示すように、ゲート絶縁膜11を形成する。
先ず、図7(a)のように、第1の絶縁膜11aを形成する。
詳細には、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含む化合物半導体層2上の全面を覆うように、PECVD法により、第1の実施形態の図3(a)に示したゲート絶縁膜6のSiN膜と同じ成膜条件で、SiN膜を膜厚5nm程度に堆積する。これにより、第1の絶縁膜11aが形成される。第1の絶縁膜11aは、膜厚が相違することを除き、第1の実施形態のゲート絶縁膜6と同一の組成、性質に形成される。
【0053】
次に、図7(b)のように、第2の絶縁膜11bを形成する。
第2の絶縁膜11bの絶縁材料として、第1の絶縁膜11aのSiNよりもバンドギャップの高い材料を用いる。この絶縁材料としては、アルミナ(Al23)、アルミニウム窒化物(AlN)、タンタル酸化物(TaO)等が挙げられる。ここでは、Al23を用いる場合を例示する。
【0054】
第1の絶縁膜11a上に、例えば原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)により膜厚15nm程度にAl23を堆積する。これにより、第2の絶縁膜11bが形成される。なお、Al23の堆積は、ALD法の代わりに、例えばCVD法等で行うようにしても良い。以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜11a及び第2の絶縁膜11bが順次積層されてなるゲート絶縁膜11が形成される。
【0055】
ゲート絶縁膜11は、第1の絶縁膜11aを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。更に、ゲート絶縁膜11は、第2の絶縁膜11bを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜11を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の大幅な低減を図ることができる。
【0056】
続いて、図7(c)に示すように、第1の実施形態と同様に、図3(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0057】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜11における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜11の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位、又は、ゲート絶縁膜11の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0058】
(変形例2)
図8は、第1の実施形態の変形例2によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0059】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0060】
続いて、図8(a),(b)に示すように、ゲート絶縁膜21を形成する。
詳細には、先ず、図8(a)のように、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含む化合物半導体層2上の全面を覆うように、変形例1で説明した図5(b)の第2の絶縁膜11bの形成と同様に、ALD法により膜厚45nm程度にAl23を堆積する。これにより、第1の絶縁膜21aが形成される。
【0061】
ここで、SiC基板1を熱処理するようにしても良い。
具体的には、例えば400℃〜1200℃の範囲で5分間程度、SiC基板1を加熱する。これにより、第1の絶縁膜21aの結合状態が改善される。この熱処理の導入により、ゲート絶縁膜21の水素終端崩壊が抑制され、安定した低不対電子対濃度の状態が維持される。また、熱処理により結合状態の改善したAl23を採用することにより、ゲート耐圧が更に安定化する。
【0062】
次に、図8(b)のように、第1の絶縁膜21a上に、変形例1で説明した図5(a)の第1の絶縁膜11aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiNを堆積する。これにより、第2の絶縁膜21bが形成される。第2の絶縁膜21bは、膜厚が相違することを除き、第1の実施形態のゲート絶縁膜6と同一の組成、性質に形成される。
以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜21a及び第2の絶縁膜21bが順次積層されてなるゲート絶縁膜21が形成される。
【0063】
ゲート絶縁膜21は、第2の絶縁膜21bを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。更に、ゲート絶縁膜21は、第1の絶縁膜21aを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜21を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の大幅な低減を図ることができる。
【0064】
続いて、図8(c)に示すように、第1の実施形態と同様に、図3(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0065】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜21における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜21のゲート電極7との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0066】
(変形例3)
図9及び図10は、第1の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0067】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0068】
続いて、図9(a),(b)及び図10(a)に示すように、ゲート絶縁膜31を形成する。
詳細には、先ず、図9(a)のように、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含むSiC基板1上の全面を覆うように、変形例1で説明した図7(a)の第1の絶縁膜11aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiNを堆積する。これにより、第1の絶縁膜31aが形成される。第1の絶縁膜31aは、膜厚が相違することを除き、第1の実施形態のゲート絶縁膜6と同一の組成、性質に形成される。
【0069】
次に、図9(b)のように、第1の絶縁膜31a上に、変形例1で説明した図7(b)の第2の絶縁膜11bの形成と同様に、ALD法により膜厚10nm程度にAl23を堆積する。これにより、第2の絶縁膜31bが形成される。
次に、図10(a)のように、第2の絶縁膜31b上に、第1の絶縁膜31aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiNを堆積する。これにより、第3の絶縁膜31cが形成される。第3の絶縁膜31cは、膜厚が相違することを除き、第1の実施形態のゲート絶縁膜6と同一の組成、性質に形成される。
以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜31a、第2の絶縁膜31b、及び第3の絶縁膜31c順次積層されてなるゲート絶縁膜31が形成される。
【0070】
ゲート絶縁膜31は、第1及び第3の絶縁膜31a,31cを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。しかもこの場合、第1及び第3の絶縁膜31a,31cで第2の絶縁膜31bを挟持する構造とされているため、ゲート絶縁膜31の表面及び裏面におけるダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減された状態とされている。更に、ゲート絶縁膜31は、第2の絶縁膜31bを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜31を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の更なる大幅な低減を図ることができる。
【0071】
続いて、図10(b)に示すように、第1の実施形態と同様に、図3(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0072】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜31における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜31のゲート電極7との界面及びその近傍部位、又は、ゲート絶縁膜31の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0073】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、化合物半導体装置としてMIS型のAlGaN/GaN・HEMTを開示するが、ゲート絶縁膜の構成が異なる点で第1の実施形態と相違する。
図11は、第2の実施形態によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0074】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0075】
続いて、図11(a)に示すように、ゲート絶縁膜41を形成する。
詳細には、例えばPECVD法により、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含むSiC基板1上の全面を覆うように、シリコン酸窒化物の膜(SiON膜)を膜厚2nm〜200nmの範囲で例えば20nm程度に堆積する。これにより、ゲート絶縁膜41が形成される。
【0076】
PECVDの具体的な成膜条件としては、原料ガス種及びその流量、圧力、RF電力、RF電力周波数がある。
原料ガスとしては、SiH4、NH3、N2O、及びN2の混合ガスを用い、各々の流量を、SiH4が3sccm、NH3が3sccm、N2Oが5sccm、N2が1000sccmとする。
【0077】
本実施形態では、SiONに相当量の水素を供給して十分な水素終端基濃度を確保すべく、PECVDにおけるRF電力をプラズマが生成される限度で比較的低く設定する。原料ガス量が過剰な状態(反応律速状態)において、PECVDにおける圧力とRF電力とは、ほぼ比例関係を示す。上記の各ガス流量であれば、反応律速状態にあるものと考えられる。
【0078】
以上を考慮すると、圧力P及びRF電力PRFは、以下のようになる。
20W≦PRF≦200W、且つPRF/P=α(α:定数)
従って、RF電力PRFを上記の範囲内で所定値に定めれば、定数αを用いて圧力が一意に定まることになる。ここでは、圧力を例えば1500mTorr程度、RF電力を例えば50W程度、RF電力の周波数を13.56MHzとする。
【0079】
SiONは、原子結合生成時において、結合歪の緩和効果が高く、結合欠陥が生じ難いという性質を有する。更に上記のように堆積されたSiONでは、その必然的に有するSi、O及びNの結合欠陥(以下、Si、O及びNの結合欠陥を単にダングリングボンドと記す。)による未結合手が少ない。更に残留の未結合手が水素(H)で終端されている。換言すれば、全てのダングリングボンドにおける水素終端されたものの割合が、ゲート絶縁膜41における電荷トラップの低減に十分であると評価できる。更には、終端された水素結合基の熱的変動による崩壊が生じることを見込んで、当該崩壊を補償するに十分な濃度の余剰な原子間水素を有している。この高濃度の原子間水素を配置することにより、加熱により脱水素反応が進行してSiNから外部に水素が放出されてしまった場合でも、水素終端を再度生ぜしめることができる。
【0080】
上記の成膜条件で成膜されたSiON膜は、そのSiONをSixyzと表現した場合、Si:O:Nの組成比x:y:zが、
x:y:z=0.32±20%:0.30±20%:0.38±20%、即ち、
x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1
の範囲内の値とされている。更に、水素終端基濃度CH1が、
2×1022/cm3≦CH1≦5×1022/cm3
の範囲内の値とされている。更に、原子間水素濃度CH2が、
2×1021/cm3≦CH2≦6×1021/cm3
の範囲内の値とされている。
【0081】
Si:O:Nの組成比x:y:zについて、上記のような適用範囲を持たせることは、ダングリングボンドを水素で補償することを指向することを意味する。
水素終端基濃度CH1は、2×1022/cm3よりも小さいと、上記のダングリングボンドを水素で十分に終端することが困難となる。5×1022/cm3よりも大きいと、SiON絶縁膜として現実的でなく、ゲート絶縁膜として十分な絶縁性を担保できなくなる。従って、水素終端基濃度CH1を上記の範囲内の値とすることで、ゲート絶縁膜としての優れた特性を保ちつつ、ダングリングボンドを水素で十分に終端することができる。
原子間水素濃度CH2は、2×1021/cm3よりも小さいと、終端された水素結合基の崩壊を十分に補償することが困難となる。6×1021/cm3よりも大きいと、ゲート絶縁膜として十分な絶縁性を担保できなくなる。従って、原子間水素濃度CH2を上記の範囲内の値とすることで、ゲート絶縁膜として使用することに遜色なくも、終端された水素結合基の崩壊を十分に補償することができる。
【0082】
なお、本実施形態のSiONについても、第1の実施形態のSiNについて図5及び図6に示した各実験結果と略同等の結果が得られる。
即ち、本実施形態のSiONにおける水素終端基濃度CH1を2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下に規定することにより、リーク電流量が少なく、ダングリングボンドの少ない優れたゲート絶縁膜となる。
また、本実施形態のSiONにおける原子間水素濃度CH2を2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下に規定することにより、水素結合基の熱的変動による崩壊が生じてもダングリングボンドを少なく保つ優れたゲート絶縁膜となる。
【0083】
Si:O:Nの組成比x:y:zは、XPSにより測定される。水素終端基濃度CH1は、赤外吸収法により測定される。原子間水素濃度CH2は、HFS及びRBSにより測定される。
【0084】
本実施形態のSiON膜では、Si:O:Nの組成比x:y:zを例えば0.32:0.3:0.38程度、水素終端基濃度CH1を例えば3×1022/cm3程度、原子間水素濃度CH2を例えば3×1021/cm3程度とする。このとき、残留不対電子対濃度は、ESRにより、1.8×1018/cm3程度と測定される。
【0085】
このSiON膜で形成されたゲート絶縁膜41は、ダングリングボンドが本質的に少なく、残留したダングリングボンドは水素(H)で十分に終端されており、且つ水素結合基の崩壊を補償するに十分な濃度の原子間水素を含有する膜である。このゲート絶縁膜41は、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減された状態に形成される。
【0086】
続いて、図11(b)に示すように、第1の実施形態と同様に、図3(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0087】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜41における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜41のゲート電極7との界面及びその近傍部位、又は、ゲート絶縁膜41の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0088】
−変形例−
以下、第2の実施形態の諸変形例について説明する。
以下の諸変形例では、第2の実施形態と同様に、化合物半導体装置としてMIS型のAlGaN/GaN・HEMTを開示するが、ゲート絶縁膜の構成が若干異なる点で第1の実施形態と相違する。
【0089】
(変形例1)
図12は、第2の実施形態の変形例1によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0090】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0091】
続いて、図12(a),(b)に示すように、ゲート絶縁膜51を形成する。
先ず、図12(a)のように、第1の絶縁膜51aを形成する。
詳細には、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含むSiC基板1上の全面を覆うように、PECVD法により、第2の実施形態の図11(a)に示したゲート絶縁膜41のSiON膜と同じ成膜条件で、SiON膜を膜厚5nm程度に堆積する。これにより、第1の絶縁膜51aが形成される。第1の絶縁膜51aは、膜厚が相違することを除き、第2の実施形態のゲート絶縁膜41と同一の組成、性質に形成される。
【0092】
次に、図12(b)のように、第2の絶縁膜51bを形成する。
第2の絶縁膜51bの絶縁材料として、第1の絶縁膜51aのSiONよりもバンドギャップの高い材料を用いる。この絶縁材料としては、Al23、AlN、TaO等が挙げられる。ここでは、Al23を用いる場合を例示する。
【0093】
第1の絶縁膜51a上に、例えば原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)により膜厚15nm程度にAl23を堆積する。これにより、第2の絶縁膜51bが形成される。なお、Al23の堆積は、ALD法の代わりに、例えばCVD法等で行うようにしても良い。以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜51a及び第2の絶縁膜51bが順次積層されてなるゲート絶縁膜51が形成される。
【0094】
ゲート絶縁膜51は、第1の絶縁膜51aを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。更に、ゲート絶縁膜51は、第2の絶縁膜51bを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜51を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の大幅な低減を図ることができる。
【0095】
続いて、図12(c)に示すように、第2の実施形態と同様に、図11(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0096】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜51における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜51の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0097】
(変形例2)
図13は、第2の実施形態の変形例2によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0098】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0099】
続いて、図13(a),(b)に示すように、ゲート絶縁膜61を形成する。
詳細には、先ず、図13(a)のように、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含む化合物半導体層2上の全面を覆うように、変形例1で説明した図12(b)の第2の絶縁膜51bの形成と同様に、ALD法により膜厚15nm程度にAl23を堆積する。これにより、第1の絶縁膜61aが形成される。
【0100】
ここで、SiC基板1を熱処理するようにしても良い。
具体的には、例えば400℃〜1200℃の範囲で5分間程度、SiC基板1を加熱する。これにより、第1の絶縁膜61aの結合状態が改善される。この事前の熱処理の導入により、ゲート絶縁膜61の水素終端崩壊が抑制され、安定した低不対電子対濃度の状態が維持される。また、熱処理により結合状態の改善したAl23を採用することにより、ゲート耐圧が更に安定化する。
【0101】
次に、図13(b)のように、第1の絶縁膜61a上に、変形例1で説明した図12(a)の第1の絶縁膜51aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiONを堆積する。これにより、第2の絶縁膜61bが形成される。第2の絶縁膜61bは、膜厚が相違することを除き、第2の実施形態のゲート絶縁膜41と同一の組成、性質に形成される。
以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜61a及び第2の絶縁膜61bが順次積層されてなるゲート絶縁膜61が形成される。
【0102】
ゲート絶縁膜61は、第2の絶縁膜61bを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。更に、ゲート絶縁膜61は、第1の絶縁膜61aを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜61を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の大幅な低減を図ることができる。
【0103】
続いて、図13(c)に示すように、第2の実施形態と同様に、図9(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0104】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜61における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜61のゲート電極7との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0105】
(変形例3)
図14及び図15は、第2の実施形態の変形例3によるMIS型のAlGaN/GaN・HEMTの主要工程を示す概略断面図である。
【0106】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(b)の諸工程を経る。化合物半導体層2に、ゲート電極の電極溝2Cが形成される。
【0107】
続いて、図14(a),(b)及び図15(a)に示すように、ゲート絶縁膜71を形成する。
詳細には、先ず、図14(a)のように、ソース電極4上及びドレイン電極5上を含む化合物半導体層2上の全面を覆うように、変形例1で説明した図12(a)の第1の絶縁膜51aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiONを堆積する。これにより、第1の絶縁膜71aが形成される。第1の絶縁膜71aは、膜厚が相違することを除き、第2の実施形態のゲート絶縁膜41と同一の組成、性質に形成される。
【0108】
次に、図14(b)のように、第1の絶縁膜71a上に、変形例1で説明した図12(b)の第2の絶縁膜51bの形成と同様に、ALD法により膜厚10nm程度にAl23を堆積する。これにより、第2の絶縁膜71bが形成される。
次に、図15(a)のように、第2の絶縁膜71b上に、第1の絶縁膜71aの形成と同様に、PECVD法により膜厚5nm程度にSiONを堆積する。これにより、第3の絶縁膜71cが形成される。
以上により、電極溝2Cの内壁面を含む化合物半導体層2上を覆うように、第1の絶縁膜71a、第2の絶縁膜71b、及び第3の絶縁膜71cが順次積層されてなるゲート絶縁膜71が形成される。第3の絶縁膜71cは、膜厚が相違することを除き、第2の実施形態のゲート絶縁膜41と同一の組成、性質に形成される。
【0109】
ゲート絶縁膜71は、第1及び第3の絶縁膜71a,71cを含むため、ダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減されている。しかもこの場合、第1及び第3の絶縁膜71a,71cで第2の絶縁膜71bを挟持する構造とされているため、ゲート絶縁膜71の表面及び裏面におけるダングリングボンドが極めて少なく、電荷トラップが大幅に低減された状態とされている。更に、ゲート絶縁膜71は、第2の絶縁膜71bを含むため、ゲート電極のゲート耐圧が向上する。即ち、ゲート絶縁膜71を適用することにより、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、電荷トラップ密度の更なる大幅な低減を図ることができる。
【0110】
続いて、図15(b)に示すように、第1の実施形態と同様に、図3(b)の工程を経てゲート電極7を形成する。
しかる後、保護膜の形成、ソース電極4及びドレイン電極5、ゲート電極7のコンタクト形成等の諸工程を経て、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0111】
以上説明したように、本例によれば、ゲート電極7の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜71における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜71のゲート電極7との界面及びその近傍部位、又は、ゲート絶縁膜71の化合物半導体層2との界面及びその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0112】
なお、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例では、基板としてSiC基板1を用いているが、これに限定されるものではない。電界効果トランジスタの機能を持つエピタキシャル構造の部分が窒化物半導体を用いていれば、サファイア、Si、GaAs等、他の基板を用いても問題ない。また、基板の導電性は、半絶縁性、導電性を問わない。また、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例におけるソース電極4、ドレイン電極5及びゲート電極7の各電極の層構造は一例であり、単層・多層を問わず他の層構造であっても問題ない。また、各電極の形成方法についても一例であり、他の如何なる形成方法でも問題ない。また、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例では、ソース電極4及びドレイン電極5の形成時に熱処理を行っているが、オーミック特性が得られるならば熱処理を行わなくとも良く、またゲート電極7の形成後に更なる熱処理を施しても良い。また、第1および第2の実施形態並びにこれらの諸変形例では、キャップ2eを単層で示したが、複数の化合物半導体層からなるキャップ層を採用しても良い。さらに、第1および第2の実施形態並びにこれらの変形例ではゲート電極7を形成する電極溝2Cを形成したが、電極溝2Cを用いない構造としても良い。
【0113】
(第4の実施形態)
本実施形態では、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを備えた電源装置を開示する。
図16は、第4の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【0114】
本実施形態による電源装置は、高圧の一次側回路81及び低圧の二次側回路82と、一次側回路81と二次側回路82との間に配設されるトランス83とを備えて構成される。
一次側回路81は、交流電源84と、いわゆるブリッジ整流回路85と、複数(ここでは4つ)のスイッチング素子86a,86b,86c,86dとを備えて構成される。また、ブリッジ整流回路85は、スイッチング素子86eを有している。
二次側回路82は、複数(ここでは3つ)のスイッチング素子87a,87b,87cを備えて構成される。
【0115】
本実施形態では、一次側回路81のスイッチング素子86a,86b,86c,86d,86eが、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTとされている。一方、二次側回路82のスイッチング素子87a,87b,87cは、シリコンを用いた通常のMIS・FETとされている。
【0116】
本実施形態では、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面及びその近傍部位または、ゲート絶縁膜の化合物半導体層2との界面およびその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMTを高圧回路に適用する。これにより、信頼性の高い大電力の電源回路が実現する。
【0117】
(第5の実施形態)
本実施形態では、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを備えた高周波増幅器を開示する。
図17は、第5の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【0118】
本実施形態による高周波増幅器は、ディジタル・プレディストーション回路91と、ミキサー92a,92bと、パワーアンプ93とを備えて構成される。
ディジタル・プレディストーション回路91は、入力信号の非線形歪みを補償するものである。ミキサー92aは、非線形歪みが補償された入力信号と交流信号をミキシングするものである。パワーアンプ93は、交流信号とミキシングされた入力信号を増幅するものであり、第1及び第2の実施形態、並びにこれらの諸変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを有している。なお図17では、例えばスイッチの切り替えにより、出力側の信号をミキサー92bで交流信号とミキシングしてディジタル・プレディストーション回路91に送出できる構成とされている。
【0119】
本実施形態では、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面及びその近傍部位または、ゲート絶縁膜の化合物半導体層2との界面およびその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いAlGaN/GaN・HEMT高周波増幅器に適用する。これにより、信頼性の高い高耐圧の高周波増幅器が実現する。
【0120】
(他の実施形態)
第1〜第5の実施形態及び諸変形例では、化合物半導体装置としてAlGaN/GaN・HEMTを例示した。化合物半導体装置としては、AlGaN/GaN・HEMT以外にも、以下のようなHEMTに適用できる。
【0121】
・その他のHEMT例1
本例では、化合物半導体装置として、InAlN/GaN・HEMTを開示する。
InAlNとGaNは、組成によって格子定数を近くすることが可能な化合物半導体である。この場合、上記した第1〜第5の実施形態及び諸変形例では、電子走行層がi−GaN、中間層がi−InAlN、電子供給層がn−InAlN、キャップ層がn−GaNで形成される。また、この場合のピエゾ分極がほとんど発生しないため、2次元電子ガスは主にInAlNの自発分極により発生する。
【0122】
本例によれば、上述したAlGaN/GaN・HEMTと同様に、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面及びその近傍部位または、ゲート絶縁膜の化合物半導体層2との界面およびその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いInAlN/GaN・HEMTが実現する。
【0123】
・その他のHEMT例2
本例では、化合物半導体装置として、InAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
GaNとInAlGaNは、後者の方が前者よりも格子定数が小さい化合物半導体である。この場合、上記した第1〜第5の実施形態及び諸変形例では、電子走行層がi−GaN、中間層がi−InAlGaN、電子供給層がn−InAlGaN、キャップ層がn+−GaNで形成される。
【0124】
本例によれば、上述したAlGaN/GaN・HEMTと同様に、ゲート電極の高いゲート耐圧を実現しつつも、ゲート絶縁膜における電荷トラップ(特に、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面及びその近傍部位または、ゲート絶縁膜の化合物半導体層2との界面およびその近傍部位の電荷トラップ)を更に大幅に低減し、電気特性変動を抑えた信頼性の高いInAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0125】
以下、化合物半導体装置及びその製造方法の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0126】
(付記1)化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置。
【0127】
(付記2)化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyzは、
x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1
を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置。
【0128】
(付記3)前記ゲート絶縁膜は、前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下のものであることを特徴とする付記1に記載の化合物半導体装置。
【0129】
(付記4)前記ゲート絶縁膜は、
前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と、
前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と
の積層構造を含むことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0130】
(付記5)前記第2の絶縁膜は、前記第1の絶縁膜よりも厚いことを特徴とする付記4に記載の化合物半導体装置。
【0131】
(付記6)前記ゲート絶縁膜は、前記第1の絶縁膜上に前記第2の絶縁膜が積層されてなることを特徴とする付記4又は5に記載の化合物半導体装置。
【0132】
(付記7)前記ゲート絶縁膜は、前記第2の絶縁膜上に前記第1の絶縁膜が積層されてなることを特徴とする付記4又は5に記載の化合物半導体装置。
【0133】
(付記8)前記第2の絶縁膜は、Al23、AlN、及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とする付記4〜7のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0134】
(付記9)前記ゲート絶縁膜は、
前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と、
前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と、
前記絶縁材料により形成された第3の絶縁膜と
の積層構造を含むことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0135】
(付記10)化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0136】
(付記11)化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyzは、
x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1
を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0137】
(付記12)前記絶縁材料を、プラズマCVD法により、RF電力を20W以上200W以下の範囲内の値として堆積することを特徴とする付記10又は11に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0138】
(付記13)前記ゲート絶縁膜は、前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下のものであることを特徴とする付記10〜12のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0139】
(付記14)前記ゲート絶縁膜は、
前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と、
前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と
の積層構造を含むことを特徴とする付記10〜13のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0140】
(付記15)前記第2の絶縁膜は、前記第1の絶縁膜よりも厚いことを特徴とする付記14に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0141】
(付記16)前記ゲート絶縁膜は、前記第1の絶縁膜上に前記第2の絶縁膜が積層されてなることを特徴とする付記14又は15に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0142】
(付記17)前記ゲート絶縁膜は、前記第2の絶縁膜上に前記第1の絶縁膜が積層されてなることを特徴とする付記14又は15に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0143】
(付記18)前記第2の絶縁膜は、Al23、AlN、及びTaOから選ばれた少なくとも一種を含有していることを特徴とする付記14〜17のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0144】
(付記19)変圧器と、前記変圧器を挟んで高圧回路及び低圧回路とを備えた電源回路であって、
前記高圧回路はトランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixy又はSixyzを材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、
又は、前記Sixyzは、x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1であって、
前記Sixy又は前記Sixyzの水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする電源回路。
【0145】
(付記20)入力した高周波電圧を増幅して出力する高周波増幅器であって、
トランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixy又はSixyzを材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、
又は、前記Sixyzは、x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1であって、
前記Sixy又は前記Sixyzの水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする高周波増幅器。
【符号の説明】
【0146】
1 SiC基板
2 化合物半導体層
2a バッファ層
2b 電子走行層
2c 中間層
2d 電子供給層
2e キャップ層
3 素子分離構造
2A,2B,2C 電極溝
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6,11,21,31,41,51,61,71 ゲート絶縁膜
7 ゲート電極
10 レジストマスク
10a 開口
11a,21a,31a,51a,61a,71a 第1の絶縁膜
11b,21b,31b,51b,61b,71b 第2の絶縁膜
31c,71c 第3の絶縁膜
81 一次側回路
82 二次側回路
83 トランス
84 交流電源
85 ブリッジ整流回路
86a,86b,86c,86d,86e,87a,87b,87c スイッチング素子
91 ディジタル・プレディストーション回路
92a,92b ミキサー
93 パワーアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上でゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyzは、
x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1
を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜は、前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜は、
前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と、
前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と
の積層構造を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【請求項5】
前記第2の絶縁膜は、前記第1の絶縁膜よりも厚いことを特徴とする請求項4に記載の化合物半導体装置。
【請求項6】
化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyは、0.638≦x/y≦0.863であり、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
化合物半導体層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記化合物半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、Sixyzを絶縁材料として含有しており、
前記Sixyzは、
x:y:z=0.256〜0.384:0.240〜0.360:0.304〜0.456、且つx+y+z=1
を満たし、水素終端基濃度が2×1022/cm3以上5×1022/cm3以下の範囲内の値とされたものであることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁材料を、プラズマCVD法により、RF電力を20W以上200W以下の範囲内の値として堆積することを特徴とする請求項6又は7に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記ゲート絶縁膜は、前記絶縁材料の原子間水素濃度が2×1021/cm3以上6×1021/cm3以下のものであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記ゲート絶縁膜は、
前記絶縁材料により形成された第1の絶縁膜と、
前記絶縁材料よりも大きなバンドギャップを有する材料からなる第2の絶縁膜と
の積層構造を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−124436(P2012−124436A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276294(P2010−276294)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】