説明

電子素子基板及びその製造方法

【課題】酸化物の一部領域又は全領域の比抵抗を低下させることにより、簡易な工程で多様な電子素子を作製できる電子素子基板の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の一部領域又は全領域に対し、前記基板の電位よりも高い電位を印加することにより、前記一部領域又は前記全領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程を有する電子素子基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物導電体や酸化物半導体を用いた電子デバイスが注目されている。
例えば、ITO(酸化インジウム錫)は透明な導電膜として実用化されているし、IGZO(インジウム、ガリウム、及び亜鉛を含む酸化物)、ZnO(酸化亜鉛)等は酸化物半導体として、TFTの活性層や各種センサ、発光デバイス等への応用が研究されている。
多くの酸化物はバンドギャップが広く、可視光に対して透明であることから、酸化物導電体/半導体を用いることで、従来の材料では実現できなかった新規な電子デバイスを作製できると期待されている。
【0003】
ところで、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;TFT)やコンデンサ(キャパシタ)等の電子素子は、一般に、成膜、フォトリソグラフィーによるレジストパターン形成、エッチング、及びレジストパターン剥離を含む一連の工程を、複数回繰り返すことにより形成される。
例えば、ボトムゲート構造のTFTの場合、ゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層(半導体層)、ソース・ドレイン電極、及びパッシベーション層等のそれぞれについて、上記一連の工程を行う必要があり、多段階の成膜及びエッチングが必要である。
【0004】
電子素子の簡単な製造方法としては、透明導電性酸化物層を陽極とし、原子間力顕微鏡(AFM)又は走査型トンネル顕微鏡(STM)で代表される、所謂、操作型プローブ顕微鏡(SPM)の探針を陰極として、前記陰極に負のバイアスを印加して電界を加えることにより、透明導電性酸化物層において、導電体領域に隣接して、より高抵抗な半導体領域を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、この技術に関連し、原子間力顕微鏡の探針を、酸化物系薄膜であるLa0.8Ba0.2MnO(LBMO)薄膜表面に近接させる、所謂AFMリソグラフィーの研究事例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、上記以外にも、原子間力顕微鏡の探針を用いた微細加工技術に関し、種々の検討が行われている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−268724号公報
【特許文献2】特開平10−223609号公報
【特許文献3】特開2000−162459号公報
【特許文献4】特開2004−110926号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.App.Phys.95(2004)7091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、透明酸化物層の電気抵抗を高めることにより導電体中に半導体領域を作製できるに過ぎず、作製できる電子素子の種類が限定的である。
また、上記非特許文献1では、LBMO薄膜表面に対して、通常のAFM陽極酸化の極性と同じく、探針に薄膜の電位よりも低い電位(マイナス方向)を印加すると、AFMリソグラフィーの制御性が低くなる一方で、薄膜の電位よりも高い電位(プラス方向)に印加すると制御性が高くなるとの報告がなされているが、プラス方向にした場合の表面層の電気抵抗が高くなったのか、低くなったのかの記載は一切なされていない。
また、その他のSPMを用いた陽極酸化微細加工の技術においても、酸化物を低抵抗化する手法については見出されていない。
このため、酸化物を低抵抗化することにより、より簡易な工程でより多様な電子素子を製造する方法の開発が求められている。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、酸化物の一部領域又は全領域の比抵抗を低下させることにより、簡易な工程で多様な電子素子を作製できる電子素子基板の製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、酸化物の同一層内に様々な比抵抗値を有する領域を隣接して有し、しかも各領域間の界面での不純物による汚染がなく、簡素な構成の多様な酸化物電子デバイスを容易に実現できる電子素子基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、酸化物の一部領域又は全領域に対し、基板や酸化物の他の部分よりも高い電位を印加する処理により、当該一部領域又は全領域の比抵抗を低下させることができるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成した。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
【0010】
<1> 少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の一部領域又は全領域に対し、前記基板の電位よりも高い電位を印加することにより、前記一部領域又は前記全領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程を有する電子素子基板の製造方法。
【0011】
<2> 少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の第1の領域に対し、前記酸化物の前記第1の領域以外の電位よりも高い電位を印加することにより、前記第1の領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程と、
前記酸化物の前記第1の領域以外の第2の領域に対し、前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる高抵抗化処理工程と、
を有し、
前記酸化物の同一領域内に低抵抗領域及び高抵抗領域の少なくとも2種類以上の領域を有する電子素子基板の製造方法。
【0012】
<3> 前記酸化物の同一領域内に、更に、電位印加を行わない領域がある<1>又は<2>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0013】
<4> 前記酸化物が、In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物半導体である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0014】
<5> 前記酸化物が、a(In)・b(Ga)・c(ZnO)からなるものである<1>〜<4>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
(ここでa、b、cは、それぞれa≧0、b≧0、c≧0、かつa+b≠0、b+c≠0、c+a≠0である。)
【0015】
<6> 前記低抵抗化処理工程は、前記酸化物に、導電性材料によって構成された電極を対向又は接触させることにより行う<1>〜<5>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0016】
<7> 前記低抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である<6>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0017】
<8> 前記低抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分に多数のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体が設けられている<6>又は<7>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0018】
<9> 前記高抵抗化処理工程は、前記酸化物に、導電性材料によって構成された電極を対向又は接触させることにより行う<2>〜<8>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0019】
<10> 前記高抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である<9>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0020】
<11> 前記高抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分に多数のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体が設けられている<9>又は<10>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0021】
<12> 前記低抵抗化処理工程において、前記酸化物の一部領域の比抵抗を低下させることにより薄膜トランジスタのソース電極を形成し、かつ、同一酸化物部位内の別の領域の比抵抗を低下させることによりドレイン電極を形成する<1>〜<11>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0022】
<13> 前記低抵抗化処理工程において、前記酸化物の一部領域の比抵抗を低下させることにより薄膜トランジスタの多角形のソース電極を形成し、かつ、同一酸化物部位内の別の領域の比抵抗を低下させることにより、ソース電極の1辺と平行かつ同じ長さで互いに向かい合う辺を有する多角形のドレイン電極を形成する<1>〜<12>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0023】
<14> 前記ソース電極と前記ドレイン電極の間の領域に対し、前記低抵抗化処理工程の処理又は前記高抵抗化処理工程の処理を施すことにより、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域の酸化物部位の比抵抗を調整して電子チャネルとする<12>又は<13>に記載の電子素子基板の製造方法。
【0024】
<15> 前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の2箇所の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の前記2箇所の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、キャパシタを形成する<1>〜<11>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0025】
<16> 前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の、対の櫛型の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の櫛型の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、対の櫛型電極を形成する<1>〜<11>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0026】
<17> 前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の複数の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて前記高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の別の複数の領域の比抵抗を上昇させることにより、ストライプ状の電極を形成する<1>〜<11>のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【0027】
<18> 少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における同一酸化物部位内に、比抵抗の低い低抵抗領域、比抵抗の高い高抵抗領域、及び前記低抵抗領域と前記高抵抗領域との中間の比抵抗をもつ領域の少なくとも3種類以上の領域を有する電子素子基板。
【0028】
<19> 前記酸化物が、In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物半導体である<18>に記載の電子素子基板。
【0029】
<20> 前記酸化物が、a(In)・b(Ga)・c(ZnO)からなるものである<18>又は<19>に記載の電子素子基板。
(ここでa、b、cは、それぞれa≧0、b≧0、c≧0、かつa+b≠0、b+c≠0、c+a≠0である。)
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、酸化物の一部領域又は全領域の比抵抗を低下させることにより、簡易な工程で多様な電子素子を作製できる電子素子基板の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、酸化物の同一層内に様々な比抵抗値を有する領域を隣接して有し、しかも各領域間の界面での不純物による汚染がなく、簡素な構成の多様な酸化物電子デバイスを容易に実現できる電子素子基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態の一例を示す製造工程図である。
【図2】図1(D)のA−A断面を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の一例を示す概略平面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の別の一例を示す概略平面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の別の一例を示す概略平面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の別の一例を示す概略平面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の一例を示す製造工程図である。
【図9】図8(E)のB−B断面を表す概略断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態の一例を示す製造工程図である。
【図11】本発明の第4の実施形態の一例を示す概略平面図である。
【図12】(A)は、本発明の第5の実施形態に用いるパターン電極の一例を示す概略平面図であり、(B)は、(A)のA−A線断面図である。
【図13】本発明の第5の実施形態において、パターン電極を用いて酸化物層に電位を印加する様子の一例を示す概略断面図である。
【図14】本発明の第5の実施形態において、パターン電極を用いて形成された低抵抗パターン領域及び高抵抗パターン領域の一例を示す概略断面図である。
【図15】(A)は、実験例1における薄膜試料の構成を示す概略断面図であり、(B)は、該試料に対する低抵抗化処理の方法を示す概略断面図であり、(C)は、該試料に対する高抵抗化処理の方法を示す概略断面図であり、(D)は、該試料に対する電流マッピングの方法を示す概略断面図である。
【図16】実験例1における電流マッピング像である。
【図17】実験例1における、ニードルプローブへの印加電圧とIGZO膜の抵抗値との関係を示すグラフである。
【図18】(A)は、実験例3における薄膜試料の構成を示す概略断面図であり、(B)は、該試料に対する高抵抗化処理の方法を示す概略断面図であり、(C)は、該試料に対する電流マッピングの方法を示す概略断面図である。
【図19】(A)は、実験例3におけるAFMトポ像であり、(B)は、実験例3におけるAFM鳥瞰図であり、(C)は、実験例3における電流マッピング像である。
【図20】実験例3におけるSEM像である。
【図21】実験例4における構造体のSEM像(倍率3000倍)である。
【図22】実験例4における構造体のSEM像(倍率10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の電子素子基板の製造方法は、少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の一部領域又は全領域に対し、前記基板の電位よりも高い電位を印加することにより、前記一部領域又は前記全領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程を有する。ここで、前記最表層の一部(酸化物)には低抵抗化処理工程を行う領域以外の領域(例えば、後述する高抵抗化処理工程を行う領域や、電位印加を行わない領域)が存在していてもよい。
以下、上記の「前記酸化物の一部領域又は全領域に対し、前記基板の電位よりも高い電位を印加することにより、前記一部領域又は前記全領域の比抵抗を低下させる」という処理を、単に「低抵抗化処理」ということがある。
【0033】
電子素子基板の製造方法を上記本発明の構成とすることにより、前記酸化物の一部領域又は全領域の比抵抗を低下させることができ、最表層の一部に低抵抗領域を形成できるので、簡易な工程で多様な酸化物電子素子を作製できる。
上記低抵抗化処理工程により酸化物の比抵抗が低下する原因は明らかではないが、上記のような電位を印加することにより、酸化物中の酸素欠損量を増大させられるためと推測される。但し、本発明はこの原因によって限定されることはない。
【0034】
従来の電子素子の製造方法では、電極や絶縁層、半導体層等の各要素ごとに、成膜、レジストパターン形成、エッチング、及びレジストパターン剥離を含むフォトリソ工程の処理を行う必要があり、製造工程が複雑であった。また、上記各要素は、別個の層として形成されるため、寄生容量の問題や、レジストパターンの剥離残りによる各層間の界面汚染の問題があった。
本発明の電子素子基板の製造方法によれば、電位(極性制御も含む)の印加のみにより高抵抗領域と低抵抗領域とを形成できるので、製造工程が簡略化される。また、同一層内に高抵抗領域と低抵抗領域とを形成できるので、界面汚染の問題や寄生容量の問題も低減される。さらに、同一金属元素組成の構成で、半導体層/電極層の界面が形成されることから、理想的なオーミック電極の形成に非常に適している製造方法と考えられる。
【0035】
本発明の電子素子基板の製造方法の一例として、例えば、半導体層である酸化物層の一部の比抵抗を低下させることにより、半導体層に隣接する電極層を形成することができる。
このようにして、例えば、薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極間に存在する半導体層(チャネル層)と、を同一層内に形成することができる。
また、薄膜トランジスタに限らず、同一層内に、一対の電極と、該一対の電極間に存在する半導体層と、を有する2端子型の電子素子を作製することができる。更に、この半導体層を例えば後述の高抵抗化処理工程によって絶縁化することにより、同一層内に、一対の電極と、該一対の電極間に存在する絶縁層と、を有するキャパシタを作製することもできる。
【0036】
本発明において「(基板の)最表層」とは、基板の厚み方向について、最表面(深さ0nm)から深さ30nmまでの領域を指す。本発明における「最表層」は前記の領域を指す用語であり、独立した層である形態には限定されない。
【0037】
本発明の電子素子基板の製造方法は、更に、前記最表層における酸化物の前記低抵抗化処理を行う領域(以下、「第1の領域」ともいう)以外の第2の領域に対し、前記基板における前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる高抵抗化処理工程を有することが好ましい。
この好ましい形態は、具体的には、少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の第1の領域に対し、前記酸化物の前記第1の領域以外の電位よりも高い電位を印加することにより、前記第1の領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程と、前記酸化物の前記第1の領域以外の第2の領域に対し、前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる高抵抗化処理工程と、を有し、前記酸化物の同一領域内に低抵抗領域及び高抵抗領域の少なくとも2種類以上の領域を有する電子素子基板を製造する電子素子基板の製造方法である。
以下、上記の「前記酸化物の第1の領域に対し、前記酸化物の前記第1の領域以外の電位よりも高い電位を印加することにより、前記第1の領域の比抵抗を低下させる」という処理を単に「低抵抗化処理」ということがあり、上記の「前記酸化物の前記第1の領域以外の第2の領域に対し、前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる」という処理を単に「高抵抗化処理」ということがある。
これにより、酸化物の同一領域内に低抵抗領域及び高抵抗領域の少なくとも2種類以上の領域を形成できるので、より多様な酸化物電子素子を作製できる。
【0038】
本発明の電子素子基板の製造方法は、更に、前記低抵抗化処理を行う領域及び前記高抵抗化処理を行う領域以外に、電位印加を行わない領域を有することが好ましい。この電位印加を行わない領域は、換言すれば、高抵抗化処理も低抵抗化処理も施されない領域である。
これにより最表層における酸化物を、高抵抗領域と、低抵抗領域と、中間の比抵抗の領域(前記高抵抗領域と前記低抵抗領域との中間の比抵抗を示す領域)と、の少なくとも3種類の比抵抗を有する領域に区画することができるので、任意のデザインで電気抵抗のパターンを形成することができ、より多様な酸化物電子素子を作製できる。
本発明における電子素子基板の具体的形態としては、
(1)最表層における酸化物が、低抵抗化処理を行う領域、高抵抗化処理を行う領域、及び電位印加を行わない領域から構成される形態、
(2)最表層における酸化物が、低抵抗化処理を行う領域及び電位印加を行わない領域から構成される形態、
のいずれであってもよい。
【0039】
以下、本発明の電子素子の製造方法の各工程について説明する。
【0040】
(基板)
本発明における基板は、少なくとも最表層の一部が、比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板である。
基板としては、少なくとも最表層の一部が前記酸化物で構成されていれば特に制限はなく、前記酸化物からなる基板(基板自体が前記酸化物である形態)であってもよいし、表面層として前記酸化物からなる層(以下、「酸化物層」ともいう)を備えた基板(基板上に表面層として前記酸化物層を形成する形態)であってもよい。
【0041】
基板自体が酸化物である形態における基板としては、後述する酸化物から構成される基板を用いることができる。
表面層として酸化物層を備えた形態における基板としては、具体的には、ガラス基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド(PI)基板等の透明フィルム基板、YSZ基板、サファイア基板、Si基板、GaN基板、金属アルミニウムの表面を湿式陽極酸化処理を施してある陽極酸化アルミ基板などを用いることができる。
いずれの形態の場合においても、基板の厚みは、機械的強度の観点等より、0.1〜10mmが好ましく、0.15〜1mmがより好ましい。
【0042】
(酸化物)
比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物(又は酸化物層)の比抵抗としては、電位印加処理時における局所的な帯電防止等の観点より、1×10Ω・cm以下がより好ましい。
【0043】
また、基板上に前記酸化物層を形成する方法としては特に限定はなく、スパッタ、プラズマCVD、PLD、真空蒸着、イオンプレーティング等の公知の方法で形成できる。
酸化物層の層厚は、1〜1000nmが好ましく、5〜200nmがより好ましい。
【0044】
また、酸化物層は、公知のパターニング方法によってパターニングされていてもよい。
公知のパターニング方法としては、フォトエッチング(フォトリソグラフィー及びエッチングによりパターニングする方法)、リフトオフ法(レジストパターン形成、成膜、レジストパターン剥離をこの順に行う方法)、マスク成膜法(マスクを介した成膜方法)等の公知の方法が挙げられる。
【0045】
また、前記比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物(又は酸化物層)の材質としては、低抵抗化の効果をより効果的に得る観点より、In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物が好ましい。
In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ZnO(酸化亜鉛)、IGZO(In、Ga、及びZnを含む酸化物半導体)、IGMO(In、Ga、及びMgを含む酸化物半導体)、TiO(酸化チタン、または微量にNbを含んだ酸化チタン)、NiO(酸化ニッケル)、WO(酸化タングステン)を用いることができる。
また、酸化物(又は酸化物層)の材質としては、低抵抗化の効果をより効果的に得る観点より、酸化物半導体(又は酸化物半導体層)であることが好ましい。
従って、酸化物(又は酸化物層)の材質としては、In、Ga、及びZnの少なくとも1種の元素を含む酸化物半導体(又は酸化物半導体層)が好ましく、具体的には、ZnO又はIGZOがより好ましく、IGZOが特に好ましい。
【0046】
前記IGZOは、一般的には、a(In)・b(Ga)・c(ZnO) (ただしa、b、cは、それぞれa≧0、b≧0、c≧0、かつa+b≠0、b+c≠0、c+a≠0)の組成からなるものである。本発明におけるIGZOとしては、前記a、b、cの範囲の材料系であればよいが、エッチング特性及びデバイス特性の観点からは、aが0.4〜0.9、bが0.1〜0.6、cが0.5〜5.0の範囲が好ましく、aが0.5〜0.9、bが0.1〜0.5、cが0.5〜1.0の範囲がより好ましい。
IGZOの組成比は、RBS(ラザフォード後方散乱)分析法、XRF(蛍光X線分析)等により求めることができる。
【0047】
また、IGZO膜は、IGZOの多結晶焼結体をターゲットとして気相成膜法を用いて成膜することが好ましい。気相成膜法の中でも、スパッタリング法及びパルスレーザー蒸着法(PLD法)がより好ましく、量産性の観点から、スパッタリング法が特に好ましい。
なお、スパッタリング法は、IGZOターゲット、Inターゲット、Gaターゲット、及びZnOターゲットを組み合わせて用いる共スパッタ法であってもよい。
また、形成されたIGZO膜は、既述のパターニング方法によりパターニングされていてもよい。
【0048】
<低抵抗化処理工程>
本発明における低抵抗化処理工程は、前記基板の電位よりも高い電位を前記酸化物の一部領域又は全領域に印加することで、前記領域の比抵抗を低下させる工程である。
ここで、電位の印加は、低抵抗化処理を行う領域の電位が前記前記低抵抗化処理を行う領域以外の電位よりも相対的に高くなるように行われていればよく、前記低抵抗化処理を行う領域に正の電位を印加する形態には限定されない。例えば、前記低抵抗化処理を行う領域にグラウンド電位(0V)を印加し、前記低抵抗化処理を行う領域以外に負の電位を印加する形態も含まれる。
【0049】
前記低抵抗化処理を行う領域の電位と、前記低抵抗化処理を行う領域以外の電位と、の差(電位差)は、比抵抗を低下させる効果をより効果的に得る観点より、100mV以上が好ましく、3000mV以上がより好ましい。
また、電位の印加時間は、1箇所につき0.1〜1000秒が好ましく、5〜100秒がより好ましい。
【0050】
電位の印加方法としては、例えば、導電性材料(例えば、銅やタングステンやSUSなどの金属や、非導電性材料に導電性カーボンなどをコーティングした素材)によって構成された電位印加用電極を、前記低抵抗化処理を行う領域に対向又は接触させることにより行う方法が好適である。
ここで、対向又は接触としては特に限定はないが、電位印加用電極と前記低抵抗化処理を行う領域との最近接距離が0nm以上20nm以下(より好ましくは0nm以上10nm以下)である状態が好ましい。
電位印加用電極としては特に限定はなく、針状の電極であっても、前記低抵抗化処理を行う領域に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である電極(例えば、ブロック状の電極)であってもよい。
前記針状の電極としては、走査プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、等)の探針を用いることができる。針状の電極を用いる場合には、前記低抵抗化処理を行う領域内で、該針状の電極を順次走査させながら電位印加を行う。
【0051】
一方、前記「前記低抵抗化処理を行う領域に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である電極」は、「針状の電極」に対し、より広い面積に対し同時に電位を印加できる点(即ち、電極を走査させることなく(また、走査させたとしてもわずかな走査距離で)電位を印加できる点)で好適である。このような電極を用いることで、効率良い電位印加を行うことができ、電子素子の製造のスループットが向上する。
前記電極の面積は、電位印加の効率の観点からは、1×10−6以上が好ましい。
また、電位印加の効率の観点からは、前記電極の対向又は接触させる部分の面積を、前記低抵抗化処理を行う領域の面積と同じ面積とすることも好ましい。
【0052】
更に、前記電極の対向又は接触させる部分には、多数(例えば、密度10本/mm以上1010本/mm以下)のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体(例えば、直径0.01〜10μm、長さ0.01〜10μmの針状構造体)が設けられていてもよい(例えば、後述する実験例4)。
更に、これらの構造体が設けられている領域は、後述する実験例4のような円形の領域である必然性は無く、作製したいデバイスに適応させるべく多角形の領域であっても良い。
このような形態によれば、より効率よく電位を印加できる。
この形態では、例えば針状構造体の先端と前記低抵抗化処理を行う領域との距離を、0nm以上20nm以下(より好ましくは0nm以上10nm以下)として電圧印加を行う形態が好適である。
【0053】
前記低抵抗化処理工程における電位の印加方法のより好ましい形態としては、一方の電位印加用電極(以下、「一方の電極」ともいう)を前記低抵抗化処理を行う領域に対向又は接触させ、かつ、基板の前記低抵抗化処理を行う領域以外の部分のうち少なくとも1部に、他方の電位印加用電極(以下、「他方の電極」ともいう)を対向又は接触させて、前記一方の電極に対し前記他方の電極よりも高い電位を印加する形態である。
電位の印加方法のより具体的な形態としては、
(1)前記一方の電極に正の電位を印加し、前記他方の電極に、負の電位、グラウンド電位(0V)、又は、前記一方の電極に与えた電位よりも小さい正の電位を印加する形態や、
(2)前記一方の電極にグラウンド電位(0V)を印加し、前記他方の電極に負の電位を印加する形態、
が挙げられる。
【0054】
前記低抵抗化処理工程の処理を行う雰囲気には特に限定は無いが、前記低抵抗化処理を行う領域の比抵抗を低下させる効果をより効果的に得る観点からは、酸素分圧の低い雰囲気(大気の20%よりも低い雰囲気)や還元性ガス及び、必要に応じ水分を含む雰囲気中で行うことがより好ましい。
還元性ガスとしては、例えば、水素ガス、アルゴンガス、窒素ガス、フォーミグガス等が挙げられる。
【0055】
<高抵抗化処理工程>
本発明の電子素子の製造方法は、更に、前記基板の最表層の酸化物における前記低抵抗化処理を行う領域以外の第2の領域に、前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる高抵抗化処理工程を有していてもよい。
ここで、電位の印加は、第2の領域の電位が前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも相対的に低くなるように行われていればよく、第2の領域に負の電位を印加する形態には限定されず、例えば、第2の領域にグラウンド電位(0V)を印加し、前記第2の領域以外に正の電位を印加する形態も含まれる。
【0056】
上記高抵抗化処理工程により第2の領域の比抵抗が上昇する原因は明らかではないが、上記のような電位を印加することにより、酸化物中の酸素欠損量を減少させられるため、と推測される。但し、本発明はこの原因によって限定されることはない。
【0057】
第2の領域の電位と、前記基板の前記第2の領域以外の電位と、の差(電位差)は、比抵抗を上昇させる効果の観点より、100mV以上が好ましく、500mV以上がより好ましい。
また、電位の印加時間は、1箇所につき0.1〜1000秒が好ましく、5〜100秒がより好ましい。
【0058】
電位の印加方法としては、例えば、電位印加用電極を前記第2の領域に対向又は接触させることにより行う方法が好適である。
電位印加用電極としては、第2の領域に対向又は接触させる部分として1×10−15以上の面積を有する電極を用いることが好ましい。
対向及び接触の好ましい形態、電位印加用電極の好ましい形態、並びに電極の面積の好ましい範囲等については、既述の低抵抗化処理工程におけるものと同様である。
【0059】
前記高抵抗化処理工程における電位の印加方法のより好ましい形態としては、一方の電位印加用電極(一方の電極)を前記第2の領域に対向又は接触させ、かつ、基板の第2の領域以外の部分のうち少なくとも1部に、他方の電位印加用電極(他方の電極)を対向又は接触させ、前記一方の電極に対し前記他方の電極よりも低い電位を印加する形態である。
電位の印加方法のより具体的な形態としては、
(1)一方の電極に負の電位を印加し、前記他方の電極に、正の電位、グラウンド電位(0V)、又は、一方の電極に与えた電位よりも大きい(即ち0Vに近い)負の電位とする形態や、
(2)一方の電極をグラウンド電位(0V)とし、前記他方の電極を正の電位とする形態、
が挙げられる。
【0060】
また、前記高抵抗化処理工程の処理を行う雰囲気には特に限定は無いが、第2の領域の比抵抗を上昇させる効果をより効果的に得る観点からは、酸化性ガス及び、必要に応じ水分を含む雰囲気中で行うことがより好ましい。
酸化性ガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガス、亜酸化窒素ガス、水蒸気等が挙げられる。
【0061】
<その他の工程>
本発明の電子素子の製造方法は、必要に応じ、上記以外のその他の工程を有していてもよい。
即ち、本発明の電子素子の製造方法では、目的とする電子素子の製造過程のうちの少なくとも一部に、前記低抵抗化処理工程(及び、必要に応じ前記高抵抗化処理工程)が含まれていればよく、これらの工程に加え、公知の電子素子の製造工程(成膜工程、パターニング工程、洗浄工程、熱処理工程等)が含まれていてもよい。
【0062】
<実施形態>
本発明の電子素子基板の製造方法によれば、薄膜トランジスタ、キャパシタ、高抵抗素子、ストライプ状電極等、種々の電子素子を製造することができる。
以下、本発明の電子素子基板の製造方法の具体的な実施形態について説明する。
【0063】
(薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極の形成)
第1の実施形態として、前記低抵抗化処理工程において前記第1の領域の比抵抗を低下させることにより、薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極を形成する形態が挙げられる。
【0064】
以下、第1の実施形態の一例について、図1(A)〜(D)及び図2を参照しながら説明する。
図1(A)〜(D)は、第1の実施形態の一例である薄膜トランジスタ100の製造方法を概念的に表す製造工程図であり、図2は、製造される薄膜トランジスタ100のA−A断面図である。
【0065】
まず、図1(A)及び図2に示すように、パターニングされたゲート電極12と、ゲート絶縁膜14と、が設けられた基板10を準備する。
基板10としては、前述のとおりであり好ましい範囲も同様である。
なお、図1(A)〜(D)では、基板の図示を省略してある。
【0066】
−ゲート電極−
ゲート電極12は、導電性及び耐熱性(500℃以上)を有するものを用い、例えば、Al、Mo、Cr、Ta、Ti、Au、Ag等の金属、Al−Nd、Ag−Pd−Cu等の合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜等を用いて形成することができる。
ゲート電極12としては、これらの導電膜を単層構造又は2層以上の積層構造として用いることができる。
ゲート電極12の形成においては、まず、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から使用する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って基板10上に成膜する。ゲート電極12の厚みは、10nm〜1000nm(より好ましくは50nm〜200nm)とすることが好ましい。
例えば、スパッタ等の手段により、Mo膜、Al膜、Al−Nd膜、又はこれらの積層膜を形成する。
成膜後、例えば、パターニング工程により所定の形状にパターニングを行う。
【0067】
−ゲート絶縁膜−
基板10上にゲート電極12を形成した後、ゲート絶縁膜14を形成する。
ゲート絶縁膜14は、絶縁性及び耐熱性(望ましくは、500℃以上)を有するものが好ましく、例えば、SiO、SiN、SiON、Al、Y、Ta、HfO等の絶縁膜、又はこれらの化合物を少なくとも二つ以上含む絶縁膜としてもよい。
ゲート絶縁膜14も、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から使用する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って基板10上に成膜する。必要に応じ、前述のパターニング工程により所定の形状にパターニングを行う。
【0068】
ゲート絶縁膜14の厚みは、リーク電流低減、電圧耐性の向上、駆動電圧の低減等の観点より、10nm〜10μmが好ましく、50nm〜1000nmがより好ましく、100nm〜400nmが特に好ましい。
ゲート絶縁膜14の形成の具体例としては、膜厚100〜400nmの酸化シリコン(SiO等)、窒化シリコン(SiN等)等の絶縁膜を、スパッタ、CVD等の手段により形成する形態が好適である。
【0069】
−活性層(半導体層)−
ゲート絶縁膜14を形成した後、図1(B)に示すように、アイランドパターン状にパターニングされた酸化物半導体層16を形成する(図1(B))。
酸化物半導体層16の好ましい態様は前述のとおりであり、好ましい範囲も同様である。酸化物半導体層16としては、例えば、アモルファスIGZO層やZnO層を用いることができる。
酸化物半導体層16の膜厚は、例えば、5〜100nmである。
【0070】
−低抵抗化処理工程−
形成された酸化物半導体層16に対し、一対のブロック状電極30(平坦部を有する電位印加用電極)を用いて前述の低抵抗化処理を行う(図1(C))。
具体的には、図1(C)に示すように、酸化物半導体層16表面の第1の領域(後述のソース電極18S及びドレイン電極18Dとなる領域)にブロック状電極30を接触させ、かつ、酸化物半導体層16表面の第1の領域以外の領域の一点P1に、他の電極を接触させて電位印加の準備を行う。なお、一対のブロック状電極30は、それぞれ、直方体の形状の導電体(例えば、銅などの金属)から構成されており、ある一つの面を対象物に対向又は接触させることにより、対象物に対し電位を印加できるように構成されている。
次に、前記一対のブロック状電極30に前記他の電極よりも高い電位を印加する(低抵抗化処理)。なお、一対のブロック状電極30は、互いに同電位である。
この低抵抗化処理により、酸化物半導体層16表面のうち、ブロック状電極30を接触させた領域(第1の領域)の比抵抗が低下する。
【0071】
以上により、アイランドパターンに形成された酸化物半導体膜中(即ち、同一酸化物半導体部位中)に、低抵抗化処理が施された第1の領域(比抵抗が低下した第1の領域)として、ソース電極18S及びドレイン電極18Dが形成される(図1(D))。酸化物半導体層16中、ブロック状電極30を接触させなかった領域の比抵抗は変化せず、ソース電極18S及びドレイン電極18Dの間の領域が、薄膜トランジスタのチャネル部17を構成する。このようにして、フォトリソ工程を経ることなく簡易な方法で、チャネル部、ソース電極及びドレイン電極が作製される。
以上により、薄膜トランジスタ100が作製される。
【0072】
図2は、図1(D)のA−A線断面図である。
図2に示すように、薄膜トランジスタ100は、基板10上に、ゲート電極12と、ゲート絶縁膜14と、ソース電極18S、ドレイン電極18D及びチャネル部17と、を有して構成されている。
ソース電極18S、ドレイン電極18D及びチャネル部17は、同一層内(同一酸化物半導体部位内)に形成されている。詳しくは、酸化物半導体層が、ソース電極18Sとドレイン電極18Dとチャネル部17とに区画された構成となっている。
このため、チャネル部とソース電極及びドレイン電極とを別個の層として設けた場合における界面汚染の問題や、寄生容量の問題が低減される。
【0073】
以上、第1の実施形態(薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極を形成する形態)の一例を、図1及び図2を参照しながら説明したが、第1の実施形態は図1及び図2で示した例に限定されることはない。
例えば、図2の断面図では、酸化物半導体層の全膜厚分が低抵抗化されてソース電極18S及びドレイン電極18Dが形成された図となっているが、第1の形態では全膜厚分が低抵抗化される形態には限定されず、図3に示す断面図に示すように、酸化物半導体層の膜厚の途中までが低抵抗化される形態であってもよい。
【0074】
また、図1(D)においてソース電極18S及びドレイン電極18Dを形成した後、保護膜(SiO、SiN、SiON、有機絶縁膜、等)を形成してもよい。
また、チャネル部を高抵抗化する必要が有る場合には、図1(D)における低抵抗化処理工程の前又は後に、高抵抗化処理工程を設け、チャネル部の高抵抗化処理を行ってもよい。
また、薄膜トランジスタの製造工程として公知の工程(熱処理工程、各種洗浄工程、コンタクトホール形成工程、等)を含んでいてもよい。
【0075】
また、上記図1では、一対のブロック状電極を用いた低抵抗化処理により、ソース電極及びドレイン電極を同時に形成したが、ソース電極及びドレイン電極は別個独立の低抵抗化処理により、別個独立に(即ち、タイミングをずらして)形成してもよい。
即ち、酸化物の一部領域の比抵抗を低下させることにより薄膜トランジスタのソース電極を形成し、かつ、同一酸化物部位内(例えば、同一アイランドパターン内)の別の領域の比抵抗を低下させることによりドレイン電極を形成する形態となっていれば、図1(C)に示すような具体的形態には限定されない。
【0076】
図4は、図1(D)で形成された薄膜トランジスタのソース電極18S、ドレイン電極18D、酸化物半導体層16を膜面側からみた概略平面図である。
ソース電極及びドレイン電極の形状の好ましい形態は、ソース電極18Sが多角形(但し図4の如き四角形には限定されない)であり、かつ、ドレイン電極18Dが、ソース電極18Sの1辺L1と平行かつ同じ長さで互いに向かい合う辺L2を有する多角形(図4の如き四角形には限定されない)である形態である。
【0077】
また、前記ソース電極と前記ドレイン電極の間の領域に対し、前記低抵抗化処理又は前記高抵抗化処理を施すことにより、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域の酸化物部位の比抵抗を調整して電子チャネルとしてもよい(例えば、図5、6、及び7の概略平面図に示す電子チャネル17A、17B、又は17C)。
この場合、ソース電極とドレイン電極との間の領域の酸化物(例えば、図5〜7に示す電子チャネル17A、17B、又は17C)の比抵抗が、ソース電極及び前記ドレイン電極以外の場所(例えば、図5〜7中の酸化物半導体層16)の比抵抗と異なっている。
【0078】
また、上記第1の実施形態は、薄膜トランジスタの製造以外にも、2端子半導体素子やキャパシタの製造にも応用できる。
即ち、ゲート電極を設けないこと(即ち、ゲート電極を有しない基板を用いること)以外は上記薄膜トランジスタの作製と同様にして、2端子半導体素子を作製できる。
また、一対の(二つの)ブロック状電極に代えて一つのブロック状電極を用いること以外は上記薄膜トランジスタの作製と同様にして、キャパシタを作製できる。この場合、上記薄膜トランジスタにおけるゲート電極がキャパシタの下部電極を構成し、一つのブロック状電極により低抵抗化処理が施される第1の領域がキャパシタの上部電極を構成する。
【0079】
(キャパシタの電極の形成)
本発明の電子素子基板の製造方法の第2の実施形態として、前記低抵抗化処理工程において前記第1の領域の比抵抗を低下させることにより、キャパシタの電極を作製する形態が挙げられる。
【0080】
以下、第2の実施形態の一例について、図8(A)〜(E)及び図9を参照しながら説明する。
図8(A)〜(E)は、第2の実施形態の一例であるキャパシタ200の製造方法を概念的に表す製造工程図であり、図9は、製造されるキャパシタ200のB−B断面図である。
【0081】
まず、図8(A)及び図9に示すように、絶縁膜114が設けられた基板110を準備する。なお、図8(A)〜(E)では、基板の図示を省略してある。
次に、図8(B)に示すように、絶縁膜114上に酸化物半導体層116を形成する。
ここで、基板110、絶縁膜114、及び酸化物半導体層116は、薄膜トランジスタ100における基板10、ゲート絶縁膜14、及び酸化物半導体層16と同様の構成とすることができる。
【0082】
−高抵抗化処理工程−
形成された酸化物半導体層116に対し、一つのブロック状電極120(平坦部を有する電位印加用電極)を用いて前述した高抵抗化処理を行う(図8(C))。
具体的には、図8(C)に示すように、酸化物半導体層16表面の第2の領域(後述の絶縁部117となる領域)に一つのブロック状電極120を接触させ、かつ、酸化物半導体層116表面の第2の領域以外の領域の一点P2に、他の電極を接触させて電位印加の準備を行う。ここで、ブロック状電極120は、酸化物半導体層116を二つの領域に分断するような配置で接触させる。なお、ブロック状電極120としては、薄膜トランジスタ100の作製に用いたブロック状電極30と同様の構成ものを用いることができる。
次に、ブロック状電極120に対し前記他の電極よりも低い電位を印加する(高抵抗化処理)。
この高抵抗化処理により、酸化物半導体層116を二つの領域に分断する第2の領域(ブロック状電極120を接触させた領域)の比抵抗が上昇する。
【0083】
−低抵抗化処理工程−
高抵抗化処理工程後、引き続き、低抵抗化処理工程を行う(図8(D))。
具体的には、図8(D)に示すように、酸化物半導体層116表面の第1の領域(前記第2の領域によって二つの領域に分断された酸化物半導体層116のそれぞれの領域)に一対のブロック状電極130を接触させ、かつ、酸化物半導体層116表面の第1の領域以外の領域(例えば第2の領域)に、他の電極を接触させて電位印加の準備を行う。なお、ブロック状電極130としては、薄膜トランジスタ100の作製に用いたブロック状電極30と同様の構成ものを用いることができる。
次に、前記一対のブロック状電極130に対し前記他の電極よりも高い電位を印加する(低抵抗化処理)。なお、一対のブロック状電極130は、互いに同電位である。
この低抵抗化処理により、酸化物半導体層116表面のうち、ブロック状電極130を接触させた領域(第1の領域)の比抵抗が低下する。
【0084】
以上により、酸化物半導体膜中に、低抵抗化処理が施された第1の領域として、キャパシタ用電極118及びキャパシタ用電極119が形成される(図8(E))。一方、キャパシタ用電極118とキャパシタ用電極119との間には、高抵抗化処理が施された第2の領域として絶縁部117が形成されている。
このようにして、フォトリソ工程を経ることなく簡易な方法で、一対のキャパシタ用電極、及び該キャパシタ用電極間に存在する絶縁部が作製される。
以上により、キャパシタ200が作製される。
【0085】
図9は、図8(E)のB−B断面図である。
図9に示すように、キャパシタ200は、基板110上に、絶縁膜114と、一対のキャパシタ用電極118及び119並びに該電極間に存在する絶縁部117と、を有して構成されている。
一対のキャパシタ用電極118及び119並びに該電極間に存在する絶縁部117は、同一層(酸化物半導体層)中に形成されている。詳しくは、酸化物半導体層が、キャパシタ用電極118とキャパシタ用電極119と絶縁部117とに区画された構成となっている。
このため従来、キャパシタ用電極と絶縁部とが別個の層として設けられていたことによる界面汚染の問題等が低減される。
【0086】
以上、第2の実施形態(キャパシタの電極を形成する形態)の一例を、図8及び図9を参照しながら説明したが、第2の実施形態は図8及び図9で示した例に限定されることはない。
例えば、上記高抵抗化処理工程は省略することができ、酸化物半導体層116に、低抵抗化処理工程によりキャパシタ用電極118及びキャパシタ用電極119を形成することのみによってもキャパシタを形成できる。
即ち、第2の実施形態は、低抵抗化処理工程において酸化物の2箇所の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内(例えば同一のアイランドパターン内)の前記2箇所の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、キャパシタを形成する方法であれば特に限定はない。
また、キャパシタの製造工程として公知の工程(熱処理工程、各種洗浄工程、等)を含んでいてもよい。
【0087】
(ストライプ状電極の形成)
第3の実施形態として、前記低抵抗化処理工程において前記第1の領域の比抵抗を低下させることにより、ストライプ状の電極を形成する形態が挙げられる。
図10は、第3の実施形態の一例を概念的に表す製造工程図である。
【0088】
以下、第3の実施形態の一例について、図10(A)〜(C)を参照しながら説明する。
図10(A)〜(C)は、第3の実施形態の一例であるストライプ状電極付き基板300の製造方法を概念的に表す製造工程図である。
【0089】
まず、図10(A)に示すように基板210を準備する。
次に、図10(B)に示すように、基板210上に酸化物半導体層216を形成する。
ここで、基板210及び酸化物半導体層216は、酸化物半導体層をパターニングしないことを除き、薄膜トランジスタ100における基板10及び酸化物半導体層16と同様の構成とすることができる。
【0090】
−低抵抗化処理工程−
形成された酸化物半導体層216に対し、マルチプローブ電極230を用いて前述の低抵抗化処理を行う(図10(C))。
ここで、マルチプローブ電極230は、図10(C)に示すように、一列に配列された複数の針状電極を備えている。
低抵抗化処理工程は、具体的には、酸化物半導体層216表面に、マルチプローブ電極230の各針状電極先端を接触させ、マルチプローブ電極230全体を矢印Sの方向にスキャンさせながら電位印加を行う。このとき、各針状電極先端には酸化物半導体層216よりも高い電位を印加する。
以上により、酸化物半導体層216上に、ストライプ状の低抵抗領域(ストライプ状電極218)が形成される。このようにしてフォトリソ工程を経ることなく簡易な方法でストライプ状電極が作製される。
【0091】
なお、図10(C)では、全針状電極に正の電位を与える場合の一例を表しているが、第3の実施形態はこの一例には限定されない。例えば、隣り合う針状電極に与える電位の極性を変化させる(即ち、正の電位を印加した針状電極の隣の針状電極には、負の電位を印加する)ことで、低抵抗領域と高抵抗領域とが交互に配列されるストライプ状の電極を形成することもできる。
また、低抵抗化処理工程の前又は後に、マルチプローブ電極を用いた高抵抗化処理工程を行うことでも、低抵抗領域と高抵抗領域とが交互に配列されるストライプ状の電極を形成することができる。
即ち、第3の実施形態は、低抵抗化処理工程において前記酸化物の複数の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の別の複数の領域の比抵抗を上昇させることにより、ストライプ状の電極を形成する形態であれば特に限定はない。
【0092】
以上で形成されたストライプ状電極付き基板は、パッシブマトリクス方式(単純マトリクス方式)の表示装置用の基板として用いることができる。
即ち、ストライプ状電極付き基板を2枚用意し、ストライプ状電極が互いに直交するように(クロスニコル)張り合わせ、間に液晶を介在させることで、パッシブマトリクス方式の液晶表示装置とすることができる。
【0093】
(一対の櫛型電極の形成)
第4の実施形態として、前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の、対の櫛型の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の櫛型の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、対の櫛型電極を形成する形態が挙げられる。
図11は、対の櫛型電極を示す概略平面図である。
図11に示すように、酸化物半導体層316内に(同一酸化物半導体部位に)、低抵抗化処理により形成された、櫛型電極318及び櫛型電極319が相互にかみ合うように配置されている(但し、両者は接触していない)。
必要に応じ、櫛型の領域の間の領域317、及び、酸化物半導体層316のうち電極の周囲の領域の比抵抗を高抵抗化処理により上昇させてもよい。
以上で説明した対の櫛型電極は、例えば、電子素子の電極やキャパシタとして用いることができる。
【0094】
(パターン電極を用いた処理方法)
第5の実施形態として、パターン電極を用いることで酸化物半導体層に、少なくとも低抵抗パターン(及び、必要に応じ高抵抗パターン)を形成する方法が挙げられる。
この第5の実施形態の一例を図12〜図14を参照して説明する。
【0095】
図12(A)は、第5の実施形態に用いるパターン電極の一例を示す概略平面図であり、図12(B)は、図12(A)のA−A線断面図である。
図12に示すパターン電極420では、正方形のパターン状の凸部422が格子状に配列されている。
凸部422は、例えば一辺3μmの正方形とすることができる。また、凸部422同士の間隔S(凸部422同士の最近接距離)は、例えば、6μmとすることができる。凸部422の高さhは、例えば100nmとすることができる。
ただし、上記の具体的寸法については一例に過ぎず、ナノまたはマイクロメータースケールであれば特に限定はない。また、パターンの形状も正方形には限定されず、多角形、円形、楕円形、不定形等のあらゆる形状とすることができる。
【0096】
図13は、パターン電極を用いて酸化物層に電位を印加する様子の一例を示す概略断面図であり、図14は、パターン電極を用いて形成された低抵抗パターン領域及び高抵抗パターン領域の一例を示す概略断面図である。
図13に示すように、酸化物半導体層440が設けられた下部電極430を準備し、パターン電極420の凸部を酸化物半導体層440に押し当て、酸化物半導体層440の一部領域に、下部電極430よりも高い電位を印加することで、酸化物半導体層に図14に示す低抵抗パターン領域442を形成することができる(低抵抗化処理)。
更に、パターン電極420の凸部422を酸化物半導体層440に押し当て、酸化物半導体層440の一部領域に、下部電極430よりも低い電位を印加することで、酸化物半導体層に図14に示す高抵抗パターン領域446を形成することもできる(高抵抗化処理)。
また、図14に示すように、酸化物半導体層440には、電位印加を行わない領域として、低抵抗パターン領域と高抵抗パターン領域との中間の抵抗を有する領域444が存在していてもよい。
上記低抵抗化処理(及び必要に応じ用いられる高抵抗化処理)では、パターン電極420を、該酸化物半導体層に平行な平面内でXY方向に動かしながら、酸化物半導体層に押し当てる操作及び電位を印加する操作を繰り返し行うことで、酸化物半導体層の広い領域に、周期的な低抵抗パターン領域(及び必要に応じ高抵抗パターン領域)を形成することができる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
〔実験例1〕
実験例1として、低抵抗化処理工程及び高抵抗化処理工程に関する実験を行った。
<薄膜試料の作製>
以下のようにして図15(A)に示す構成の薄膜試料を作製した。
即ち、真空蒸着法により、石英ガラス基板上に、厚さ200nmのAu膜を成膜した。なお、形成したAu膜は、下記IGZO膜への電位印加用の膜である。
このAu膜上に、メタルマスクを用いたスパッタにより、厚さ100nmのIGZO(In:Ga:Zn=1.5:0.5:1)膜を、下地のAu膜の一部が露出するようにパターン状に形成し、薄膜試料とした。
IGZO膜の比抵抗を東陽テクニカ製Resitest8300を用いて測定したところ、2.78×10−3Ω・cmであった。
【0099】
<低抵抗化処理>
次に、図15(B)に示すように、薄膜試料のAu膜の部分にニードルプローブを接触させ、IGZO膜に原子間力顕微鏡の探針(導電性ダイヤモンドコート)を接触させた。
次に、前記探針をグラウンド(0V)とし、ニードルプローブでAu部分に負バイアス(−4000mV)をかけながら、探針で表面をライン状に走査した(低抵抗化処理)。
【0100】
<高抵抗化処理>
次に、図15(C)に示すように、薄膜試料のAu膜の部分にニードルプローブを接触させ、IGZO膜の前記低抵抗化処理を行った箇所とは異なる箇所に前記原子間力顕微鏡の探針を接触させた。
次に、前記探針をグラウンド(0V)とし、ニードルプローブでAu部分に正バイアス(+1000mV)をかけながら、探針で表面をライン状に走査した(高抵抗化処理)。
【0101】
<電流マッピング>
次に、図15(D)に示すように、薄膜試料のAu膜の部分にニードルプローブを接触させ、IGZO膜に前記原子間力顕微鏡の探針を接触させた。
前記探針をグラウンド(0V)とし、ニードルプローブでAu部分に正バイアス(+50mV)をかけながら、電流マッピングを行った。
ここで、電流マッピングはPacific Nanotechnology社製 Nano-Rを用いて行った。
【0102】
図16に電流マッピング像を示す。
図16中、左側の明線部(領域(B)内)は、上記低抵抗化処理において探針で表面をライン状に走査した跡であり、右側の暗線部(領域(C)内)は、上記高抵抗化処理において探針で表面をライン状に走査した跡である。
また、図16中、明線は背景に比べて比抵抗が低い領域を示しており、暗線は背景に比べて比抵抗が高い領域を示している。
図16に示すように、IGZO膜表面のうちの第1の領域(図16中の明線部)の電位を前記第1の領域以外の電位よりも高くすることにより、前記第1の領域の比抵抗を低下させることができることが確認された。
更に、IGZO膜表面のうちの第2の領域(図16中の暗線部)の電位を前記第2の領域以外の電位よりも低くすることにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させることができることが確認された。
【0103】
<抵抗値変化の確認>
次に、Pacific Nanotechnology社製 Nano-Rを用い、ニードルプローブへの印加電圧(印加電位)と、IGZO膜の抵抗値と、の関係を調査した。
図17は、ニードルプローブへの印加電圧(印加電位)と、IGZO膜の抵抗値と、の関係を示すグラフである。
図17中、抵抗値[Ω]の数値に関し、記号”E”は、その次に続く数値が10を底とした”べき指数”であることを示し、「”E”及び”べき指数”」で表される数値が、”E”の前の数値に乗算されることを示す。例えば、「1.0E+08」との表記は「1.0×10」であることを示す。
図17に示すように、印加電位を−4000mVとした(即ち、低抵抗化処理を行った)ときは、印加電位0mV(即ち、未処理)のときと比較して、実際にIGZO膜の抵抗値が低下していた。
一方、印加電位を+1000mVとした(即ち、高抵抗化処理を行った)ときは、印加電位0mV(即ち、未処理)のときと比較して、実際にIGZO膜の抵抗値が上昇していた。
【0104】
〔実験例2〕
実験例1のIGZO膜を下記表1に示す各種の膜に変更した以外は実験例1と同様にして、低抵抗化処理及び高抵抗化処理の実験を行った。
実験例1のIGZO膜の評価結果も合わせ、評価結果を下記表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1中、「導体」とは1.0×10−3Ω・cm未満の状態を指し、「半導体」とは比抵抗1.0×10−3Ω・cm以上1×10Ω・cm以下の状態を指し、「絶縁体」とは比抵抗が1.0×10Ω・cmより大きい状態を指す。
【0107】
表1に示すように、比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物では、第1の領域に対し前記第1の領域以外の電位(−4000mV)よりも高い電位(0V)を印加する処理(低抵抗化処理)により、前記第1の領域の比抵抗を低下させることができることが確認された。
更に、比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物では、第2の領域に対し前記第2の領域以外の電位(+1000mV)よりも低い電位(0V)を印加する処理(高抵抗化処理)により、前記第2の領域の比抵抗を上昇させることができることも確認された。
従って、少なくとも低抵抗化処理(更に必要に応じ高抵抗化処理)により、当該酸化膜を、少なくとも2種類以上の比抵抗領域(例えば、高抵抗領域、低抵抗領域、及び中間の抵抗の3種類の比抵抗領域)に区画することができ、任意のデザインで電気抵抗のパターンを形成することができ、多様な電子素子を作製できることが確認された。
【0108】
〔実験例3〕
実験例3(参考実験)として、実験例1よりも広い面積を高抵抗化処理する実験を行った。
まず、図18(A)に示す構成の薄膜試料を作製した。
即ち、石英ガラス基板上に、実験例1と同様の厚さ100nmのIGZO膜を形成し、薄膜試料とした。
【0109】
次に、図18(B)に示すように、IGZO膜の一箇所にニードルプローブを接触させ、別の箇所に原子間力顕微鏡の探針(導電性ダイヤモンドコート)を接触させた。
次に、探針をグラウンド(0V)とし、ニードルプローブに正バイアス(+5000mV)をかけながら、探針で表面の5μm□の領域を走査した(高抵抗化処理)。
【0110】
次に、ニードルプローブのバイアスを+500mVとし、電流値を測定しながら表面の10μm□の領域(高抵抗化処理を行った5μm□の領域を含む領域)を探針で走査した(電流マッピング)。
また、高抵抗化処理が行われたIGZO膜表面を、原子間力顕微鏡(AFM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
【0111】
図19(A)は、AFMトポ像であり、図19(B)はAFM鳥瞰図であり、図19(C)は電流マッピング像である。
図20はSEM像である。
【0112】
図19(C)に示すように、探針によって走査した5μm□の領域では、全域に渡り均一に比抵抗が上昇していた。
この結果より、例えば、5μm□の平坦部を有するブロック状電極の該平坦部を、IGZO等の酸化物表面に対向又は接触させることにより、効率よく(電極を走査することなく)5μm□の領域の比抵抗を上昇させることができると考えられる。
更に、高抵抗化処理の場合と同様に、低抵抗化処理においても、平坦部を有するブロック状電極の該平坦部を、IGZO等の酸化物表面に対向又は接触させることにより、効率よく(電極を走査することなく)比抵抗を低下させることができると考えられる。
【0113】
〔実験例4〕
低抵抗化処理又は高抵抗化処理に用いる電極の一例として、これらの処理を行おうとする酸化物表面に対して対向させる面に多数のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体を有する電極を作製した。
作製した電極の構造は、GaN基板表面(電極表面)にZnOナノロッド(構造体)がパターン状に密集して生えている構造である。このような電極を用いることで、低抵抗化処理又は高抵抗化処理をより効率よく行うことができる。
図21は作製した電極を倍率3000倍で撮影したSEM写真であり、図22は同じ電極を倍率10000倍で撮影したSEM写真である。
図21及び図22に示すように、GaN基板表面における複数の円形パターン(直径6.5μmの円形パターン)内に、直径数十nm程度、長さ約2μmのZnOナノロッドが密集して生えている。
【0114】
上記GaN基板上にZnOナノロッドを有する構成の電極は、以下のようにして作製した。
まず、レジストをコートしたGaN基板上に、フォトリソ法によって直径6.5μmの複数の円形パターン(レジストを除去した部分)を形成した。次に、Auを真空蒸着により3nm成膜し、次いでリフトオフすることで、GaN基板上に直径6.5μm、厚み3nmの複数のAuの円形パターンを形成した。
次に、Auパターンを設けたGaN基板を窒素雰囲気中で10分間、1000℃で焼成した後、化学気相輸送法によりZnOのナノロッドをAuパターン部分に成長させた。化学気相輸の実験手順は次の通りである。
まず、材料となるZnOとCの混合粉末(モル比1:1)をアルミナ製のボートに乗せて両端開放の石英ガラス管の一端に設置し、アルミナボートから約30センチ離れた位置に先述のGaN基板を設置した。次にこの石英ガラス管を横型CVD装置(フラップテクノロジー社製)に挿入し、アルゴンと酸素(1%)を流してロータリーポンプで真空引きしながら(全圧0.3kPa)、材料部分を1050℃で1時間加熱した。その後、自然冷却させてから、GaN基板を取り出した。
取り出したGaN基板のナノロッド形成面側をSEMで観察したところ、図21及び図22に示すZnOのナノロッドが確認できた。
【符号の説明】
【0115】
10、110、210 基板
12 ゲート電極
14 ゲート絶縁膜
16、116、216 酸化物半導体層
17 チャネル部
18S ソース電極
18D ドレイン電極
30、120、130 ブロック状電極
100 薄膜トランジスタ
114 絶縁膜
117 絶縁部
118 キャパシタ用電極
119 キャパシタ用電極
200 キャパシタ
218 ストライプ状電極
230 マルチプローブ電極
300 ストライプ状電極付き基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の一部領域又は全領域に対し、前記基板の電位よりも高い電位を印加することにより、前記一部領域又は前記全領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程を有する電子素子基板の製造方法。
【請求項2】
少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における前記酸化物の第1の領域に対し、前記酸化物の前記第1の領域以外の電位よりも高い電位を印加することにより、前記第1の領域の比抵抗を低下させる低抵抗化処理工程と、
前記酸化物の前記第1の領域以外の第2の領域に対し、前記酸化物の前記第2の領域以外の電位よりも低い電位を印加することにより、前記第2の領域の比抵抗を上昇させる高抵抗化処理工程と、
を有し、
前記酸化物の同一領域内に低抵抗領域及び高抵抗領域の少なくとも2種類の領域を有する電子素子基板の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物の同一領域内に、更に、電位印加を行わない領域がある請求項1又は請求項2に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物が、In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物半導体である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物が、a(In)・b(Ga)・c(ZnO)からなるものである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
(ここでa、b、cは、それぞれa≧0、b≧0、c≧0、かつa+b≠0、b+c≠0、c+a≠0である。)
【請求項6】
前記低抵抗化処理工程における電位の印加は、前記酸化物に、導電性材料によって構成された電極を対向又は接触させることにより行う請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項7】
前記低抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である請求項6に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項8】
前記低抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向させる部分に多数のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体が設けられている請求項6又は請求項7に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項9】
前記高抵抗化処理工程における電位の印加は、前記酸化物に、導電性材料によって構成された電極を対向又は接触させることにより行う請求項2〜請求項8のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項10】
前記高抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分の面積が1×10−15以上である請求項9に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項11】
前記高抵抗化処理工程で用いる電極は、前記酸化物に対向又は接触させる部分に多数のナノスケール又はマイクロメータスケールの構造体が設けられている請求項9又は請求項10に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項12】
前記低抵抗化処理工程において、前記酸化物の一部領域の比抵抗を低下させることにより薄膜トランジスタのソース電極を形成し、かつ、同一酸化物部位内の別の領域の比抵抗を低下させることによりドレイン電極を形成する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項13】
前記低抵抗化処理工程において、前記酸化物の一部領域の比抵抗を低下させることにより薄膜トランジスタの多角形のソース電極を形成し、かつ、同一酸化物部位内の別の領域の比抵抗を低下させることにより、ソース電極の1辺と平行かつ同じ長さで互いに向かい合う辺を有する多角形のドレイン電極を形成する請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項14】
前記ソース電極と前記ドレイン電極の間の領域に対し、前記低抵抗化処理工程の処理又は前記高抵抗化処理工程の処理を施すことにより、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の領域の酸化物部位の比抵抗を調整して電子チャネルとする請求項12又は請求項13に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項15】
前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の2箇所の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて前記高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の前記2箇所の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、キャパシタを形成する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項16】
前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の、対の櫛型の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて前記高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の櫛型の領域の間の領域の比抵抗を上昇させることにより、対の櫛型電極を形成する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項17】
前記低抵抗化処理工程において前記酸化物の複数の領域の比抵抗を低下させ、さらに必要に応じて前記高抵抗化処理工程において同一酸化物部位内の別の複数の領域の比抵抗を上昇させることにより、ストライプ状の電極を形成する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の電子素子基板の製造方法。
【請求項18】
少なくとも最表層の一部が比抵抗1×10Ω・cm以下の酸化物からなる基板における同一酸化物部位内に、比抵抗の低い低抵抗領域、比抵抗の高い高抵抗領域、及び前記低抵抗領域と前記高抵抗領域との中間の比抵抗をもつ領域の少なくとも3種類以上の領域を有する電子素子基板。
【請求項19】
前記酸化物が、In、Ga、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、V、Nb、W、及びNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物半導体である請求項18に記載の電子素子基板。
【請求項20】
前記酸化物が、a(In)・b(Ga)・c(ZnO)からなるものである請求項18又は請求項19に記載の電子素子基板。
(ここでa、b、cは、それぞれa≧0、b≧0、c≧0、かつa+b≠0、b+c≠0、c+a≠0である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−187509(P2011−187509A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48423(P2010−48423)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】