説明

アイドルストップ車

【課題】アイドルストップ後の発進に際してエンジンを電気モータにより回転させるアイドルストップ車において、未燃分の排出を抑制しつつ、筒内圧力の低減によりエンジンの始動性を確保する。
【解決手段】エンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させるための圧力調整装置を設け、アイドルストップ後の発進に際し、この装置によりエンジンの筒内圧力(有効圧縮比CR)を低減させる。筒内圧力を低減させて行う発進においては、エンジンを始動させる際に供給される燃料の量である始動燃料量として、低減させた筒内圧力に応じた所定の空気過剰率LAMDを与える量を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ後の発進に際してエンジンを電気モータにより回転させるアイドルストップ車に関し、詳細には、発進に際してエンジンの始動のために圧縮時における筒内圧力を低減させるデコンプレッション機能を有するアイドルストップ車に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジン以外に電気モータを備え、アイドルストップ後の発進に際してこの電気モータによりエンジンのクランキングを行って、エンジンを始動させるアイドルストップ型のハイブリッド車は、既によく知られるところである。
【0003】
ハイブリッド車について特別なものではないが、エンジンの始動に関する技術として知られるものに、デコンプレッション(又はデコンプ)と呼ばれる技術がある。このデコンプレッションは、始動に際してエンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させることにより、クランキングに要する力を減少させるというものである。デコンプレッションによる始動制御に関し、吸気弁又は排気弁の閉位置への移動を制限するための機構を設け、エンジンの始動に際してこのデコンプレッション機構によりエンジン回転数が共振回転数域を超えるまでの間、筒内圧力を低減させることとする技術が存在する(特許文献1)。
【特許文献1】特開平08−028313号公報(段落番号0017,0027)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デコンプレッションによれば、アイドルストップ後の発進に際してエンジンを電気モータにより回転させるものにおいて、この電気モータのバッテリの残容量が少なく、電気モータにより充分なトルクが得られない場合に、電気モータに対する圧縮反力を低減させ得ることから、電気モータの出力不足によりエンジンの始動が妨げられることが回避される。しかしながら、デコンプレッションにより筒内圧力を低減させた状態でエンジンを始動させることには、筒内圧力の低減によりエンジンの有効圧縮比が低下することから、燃料の着火性に影響が生じ、未燃分の排出が助長されるという問題がある。
【0005】
本発明は、アイドルストップ後の発進に際してエンジンを電気モータにより回転させるアイドルストップ車において、筒内圧力の低減によりエンジンの始動性を確保するとともに、筒内圧力の低減と関連させた空気過剰率の制御により、未燃分の排出を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアイドルストップ車は、エンジンと、このエンジンに対してトルクを伝達可能に構成された電気モータと、エンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させるための圧力調整装置と、エンジン及び電気モータを制御するためのコントロールユニットとを含んで構成される。ここで、コントロールユニットは、アイドルストップ後の発進に際し、エンジンを回転させるための電気モータに対する指令信号を発生し、この指令信号に基づいてエンジンが回転を開始した後、エンジンに関して所定の始動条件が成立したか否かを判定する。そして、所定の始動条件が成立したことによるエンジンの始動に際し、圧力調整装置により筒内圧力を低減させているか否かを判定し、筒内圧力を低減させている場合は、エンジンを始動させる際に供給される燃料の量である始動燃料量として、圧力低減装置により低減させた筒内圧力に応じた所定の空気過剰率を与える量を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アイドルストップ後の発進に際し、圧力調整装置によりエンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させることで、エンジンを回転させる際の電気モータに対する負荷が低減されるので、バッテリの残容量の不足等により電気モータにより充分なトルクが得られない場合であっても、エンジンを回転させ、確実に始動させることができる。また、圧力調整装置により筒内圧力を低減させて行う始動に際し、エンジンに対する始動燃料量を、低減させた筒内圧力に応じた所定の空気過剰率を与える量に設定することで、筒内圧力の低減に対して着火性の確保に必要な空気過剰率を維持し、未燃分の排出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の駆動系の構成を示している。
【0010】
本実施形態に係る車両は、パラレル型のハイブリッド車であり、駆動源として、内燃機関であるエンジン1と、電気モータ(以下「モータジェネレータ」という。)2とを備えている。
【0011】
エンジン1は、吸気弁の動弁装置11としてバルブタイミングが変更可能に構成された可変型のもの(「圧力調整装置」に相当する。)が採用されており、吸気弁の閉時期をクランク角に関して遅らせることによりエンジン1の実質的な圧縮比(以下「有効圧縮比」という。)を低下させ、圧縮時における筒内圧力を低減させ得るように構成されている。圧縮時における筒内圧力を低減させるための装置としては、このように吸気弁の閉時期を遅らせるものに限らず、圧縮行程中に吸気弁を一時的に開弁させるものや、吸気弁の閉動作を制限して、これが完全には閉じ切らないようにするものを採用してもよい。筒内圧力の低減は、吸気弁に限らず、排気弁のバルブタイミングを変更することによっても可能である。本実施形態において、動弁装置11による筒内圧力の低減は、図示しない油圧アクチュエータにより、エンジン1におけるカム軸のクランク軸に対する位相を遅らせることにより行われる。
【0012】
モータジェネレータ2は、モータ及び発電機のいずれとしても動作させることが可能である。エンジン1とモータジェネレータ2とは、エンジン1のクランク軸とモータジェネレータ2の回転軸とが同軸上で連結された状態にあり、エンジン1又はモータジェネレータ2のいずれかのみにより駆動トルクを生じさせるほか、エンジン1及びモータジェネレータ2の双方により駆動トルクを生じさせることもできる。モータジェネレータ2は、交流モータであり、バッテリ3を電源として供給される交流電流により動作する。モータジェネレータ2をモータとして動作させる場合は、バッテリ3からの直流電流がインバータ4により交流電流に変換されて、モータジェネレータ2に供給される。他方、モータジェネレータ2を発電機として動作させる場合は、モータジェネレータ2により発生された交流電流がインバータ4により直流電流に変換されて、バッテリ3に供給される。このように、バッテリ3は、モータジェネレータ2を発電機として動作させることにより、この車両の走行時及び停車時のいずれにおいても充電することが可能である。なお、図1において、説明の便宜上モータジェネレータ2の本体を二点鎖線により示し、その内部構造として、回転子21及び固定子22と、回転軸23との関係を示している。
【0013】
モータジェネレータ2の出力側には、トルクコンバータ51を備えた自動変速機5が設けられており、エンジン1及びモータジェネレータ2により発生された駆動トルクが、この自動変速機5を介して所定の変速比で駆動軸6に伝達されるように構成されている。
【0014】
自動変速機5による変速後の駆動トルクは、駆動軸6及びディファレンシャル7を介して左右の駆動輪8a,8bに伝達され、車両を推進させる。
【0015】
電子制御ユニット(「コントロールユニット」に相当し、以下「ECM」という。)101は、この車両の駆動制御を行うものであり、本実施形態に係る「発進制御装置」としての機能を兼ね備えている。ECM101は、エンジン1(動弁装置11のアクチュエータを含む。)、モータジェネレータ2(具体的には、インバータ4)及び自動変速機5に対し、これらの指令信号を出力する。ECM101には、車両の運転条件に関する信号として、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するためのアクセルセンサ151からの検出信号、エンジン1に設けられ、単位クランク角又は基準クランク角毎の信号を出力するクランク角センサ152からの信号(ECM101は、これに基づいてエンジン回転数を算出する。)、自動変速機5の出力軸の回転速度を検出するための回転速度センサ153からの検出信号、ブレーキペダルが踏み込まれている間にオン信号を出力するブレーキスイッチ154からの信号、及びバッテリ3の残容量を検出するための電流センサ155からの検出信号等が入力される。バッテリ3の残容量は、電流センサ155によりバッテリ3の充電時及び放電時に検出された電流値を積算することにより算出することが可能である。なお、本実施形態において、回転速度センサ153からの検出信号は、車速に相当する状態量を示すものとして利用される。
【0016】
ECM101は、入力した各種の信号に基づいて所定の演算を実行し、エンジン1等を制御する。ECM101は、特に所定のアイドルストップ条件の成立に基づいてエンジン1を停止させるアイドルストップ制御を行うものであり、アイドルストップ後の発進時において、動弁装置11により圧縮時における筒内圧力を低減させる場合は、未燃分の排出を抑制するための制御として、筒内に形成される混合気の空気過剰率を低下させる。本実施形態では、燃料噴射量の調整により空気過剰率を低下させる。アイドルストップ条件は、アクセル操作量が所定の量以下であり、かつ車速が所定の値以下である状態において、ブレーキペダルが踏み込まれたことをもって成立するものとする。また、アイドルストップ後の停止解除は、アイドルストップの実行後にブレーキペダルが戻され、かつアクセルペダルが踏み込まれたことをもって行われる。
【0017】
以下、本実施形態に係るECM101の動作について、フローチャートにより説明する。
【0018】
図2は、ECM101がアイドルストップ後の発進に際して行う制御(以下「発進制御」という。)の基本ルーチンのフローチャートを示している。
【0019】
S101では、アイドルストップ中であるか否かを判定する。アイドルストップ中であるときは、S102へ進み、アイドルストップ中でないときは、S110へ進む。アイドルストップは、後述するS204(図3)の処理により、アイドルストップ条件が成立したことをもって実行される。
【0020】
S102では、発進要求があったか否かを判定する。発進要求があったときは、S103へ進み、ない場合は、以降の処理を行わずにこのルーチンを終了して、アイドルストップを継続させる。発進要求があったか否かの判定は、アクセル操作量に基づいて行われ、所定の量以上のアクセル操作量が検出されたことをもって発進要求があったものと判定される。
【0021】
S103では、エンジン1の始動のため、モータリング(モータジェネレータ2の力行)によりエンジン1を回転させる。本実施形態では、エンジン1の始動が完了するまでの低速域における車両の駆動トルクをモータジェネレータ2により生じさせることとしており、このモータリングの開始に伴って車両が発進する。
【0022】
S104では、エンジン1が始動可能であるか否かを判定する。始動可能であるか否かの判定は、エンジン回転数NEに基づいて行われ、これが所定の始動回転数NEstrに達していることをもって始動可能であるものと判定される。始動可能であるときは、S105へ進み、始動可能でないときは、S103へ戻ってモータリングを継続させ、エンジン回転数NEを上昇させる。
【0023】
S105では、エンジン1の始動に際し、動弁装置11により圧縮時における筒内圧力を低減させているか否かを判定する。低減させているときは、S106へ進み、低減させていないときは、このルーチンを終了する。圧縮時における筒内圧力を低減させることにより、エンジン1の実質的な圧縮比(以下「有効圧縮比」という。)CRが低下する。筒内圧力を低減させるか否かは、別途設けられる制御ルーチンにおいて、ECM101により判定される。ECM101は、バッテリ3の残容量が少なく、エンジン1の始動に際してモータリングに充分なトルクをモータジェネレータ2により生じさせることができないと判断されるときに、動弁装置11のアクチュエータに対して指令信号を発生し、筒内圧力を低減させる。
【0024】
S106では、エンジン1に対してその始動に際して供給される燃料の量(以下「始動燃料量」という。)を補正し、空気過剰率LAMDを低下させる。この始動時における空気過剰率LAMDは、図4に示すような特性を持たせて設定され、筒内圧力を大きく低減させることにより有効圧縮比CRを大きく低下させているときほど、小さな値にまで低下させる。図4において、有効圧縮比CRに対する空気過剰率の低下代dLAMDを示しており、この低下代dLAMDは、有効圧縮比CRが小さいときほど増大される。本実施形態では、このような空気過剰率LAMDの特性を始動燃料量の調整により達成する。始動燃料量に関してその最低量を定める下限リミッタLMTQを設定し、始動燃料量をこの下限リミッタLMTQ以上の値に制限することで、空気過剰率LAMDの特性を実現する。本実施形態では、始動燃料量の下限リミッタLMTQが図5に示すようなテーブルデータとして予め設定されており、実際の運転に際して動弁装置11の作動角に基づいてこのテーブルデータを検索することにより設定される。下限リミッタLMTQは、有効圧縮比CRが小さいときほど大きな値に設定され、空気過剰率LAMDを大きく低下させる。なお、空気過剰率の補正は、下限リミッタLMTQにより始動燃料量を制限することによるほか、筒内圧力を低減させる場合の始動燃料量を有効圧縮比CRに対応させて予め設定しておくことによっても可能である。この場合の始動燃料量は、有効圧縮比CRに応じた空気過剰率LAMDを与えるものとして、有効圧縮比CRが小さいときほど大きな値に設定される。
【0025】
S107では、モータジェネレータ2の発電トルク(負のトルクであり、絶対値によりその大きさを示す。)を補正する。下限リミッタLMTQによる始動燃料量の制限によりエンジントルクが増大することから、その増大分に相当する負のトルクをモータジェネレータ2により生じさせ、エンジントルクの増大によるショックの発生を抑制するのである。発電トルクの補正をフィードフォワード制御の形態で直接的に算出することにより、回転数制御等の手法による場合のような遅れを伴わずにショックの発生を抑制することができる。本実施形態では、図6に示すような傾向を持たせて予め設定された補正マップを参照して、有効圧縮比CR及びアクセル操作量APOに応じたエンジントルク増大量dTEを算出し、算出したdTEを始動時におけるモータジェネレータ2の発電トルクに加算する。エンジントルク増大量dTEは、有効圧縮比CRが小さく、アクセル操作量APOが小さいときほど大きな値に設定される。
【0026】
S108では、動弁装置11のアクチュエータに対し、筒内圧力低減の解除を指示するための信号を発生する。これに基づいて動弁装置11が作動して、吸気弁の閉時期を早め、有効圧縮比CRを通常の運転時におけるものに復帰させる。
【0027】
S109では、下限リミッタLMTQにより制限した始動燃料量を供給して、エンジン1を始動させる。
【0028】
S110では、エンジン制御ルーチンを実行し、アイドル時及び走行時におけるエンジン1の動作を制御する。
【0029】
図3は、エンジン制御ルーチンのフローチャートである。本実施形態において、このルーチンは、図2に示す基本ルーチンのサブルーチン(S110)として構成される。
【0030】
S201では、アイドル条件が成立しているか否かを判定する。成立しているときは、S202へ進み、成立していないときは、S205へ進む。アイドル条件は、アクセル操作量が所定の量以下であり、かつ車速が所定の値以下であることをもって成立したものと判定される。
【0031】
S202では、モータジェネレータ2の回転数制御により、エンジン1のアイドリングを行わせる。
【0032】
S203では、アイドルストップ条件が成立しているか否かを判定する。成立しているときは、S204へ進み、成立していないときは、このS204の処理を行わずにこのルーチンを終了する。アイドルストップ条件は、アイドル条件(S201)が成立しているときに、ブレーキペダルが踏み込まれたことをもって成立したものと判定される。
【0033】
S204では、エンジン1に対する燃料供給を停止して、エンジン1を停止させる。
【0034】
S205では、エンジントルクを制御する。エンジントルクの制御は、アクセル操作量及びエンジン回転数等の運転条件に基づいてエンジン1の基本トルクを算出するとともに、これに各種の補正を施したものを目標トルクTEtrgに設定し、エンジン1に対してこの基本トルクTEtrgに応じた量の燃料を供給することにより行われる。
【0035】
S206では、動弁装置11による筒内圧力の低減を解除している最中であるか否かを判定する。解除中であるときは、S207へ進み、解除中でなく、既に完了しているときは、S207及び208の処理を行わずにこのルーチンを終了する。
【0036】
S207では、エンジン1の目標トルクTEtrgを所定の下限リミッタLMTT以上の値に制限する。本実施形態において、下限リミッタLMTTは、図7に示すような傾向を持たせたテーブルデータとして予め設定されており、減圧解除の進行に従って有効圧縮比CRが上昇するほど、小さな値に変更される。
【0037】
S208では、下限リミッタLMTTにより制限したエンジントルクの、目標トルクTEtrgに対する余剰分をモータジェネレータ2の発電トルクに加算して、この余剰分を発電トルクに吸収させる。
【0038】
次に、以上の発電制御の内容について、図8に示すタイムチャートにより更に説明する。
【0039】
アクセルペダルが戻されたことの判定等によりアイドル条件が成立すると、エンジン1の動作モードがアイドリングに移行する。アイドリングでは、エンジン1が定出力で制御され、モータジェネレータ2の回転数制御によりエンジン回転数NEが所定のアイドル回転数NEidlに制御される。アイドル条件の成立中にブレーキペダルが踏み込まれると、アイドルストップ条件が成立し、エンジン1に対する燃料供給が停止されて、エンジン1が停止する(時刻t0)。
【0040】
アクセルペダルが踏み込まれると、アイドルストップ条件が解除され、発進要求が発生する(時刻t1)。発進要求の発生によりモータジェネレータ2が作動し、エンジン1を回転させる。本実施形態では、始動時の条件に応じてエンジン1の有効圧縮比CRを低下させるようにしている。ここでは、バッテリ3の残容量が少なく、エンジン1の始動に充分なトルクをモータジェネレータ2により発生させることができない場合に、動弁装置11により吸気弁の閉時期を遅らせて、エンジン1の圧縮時における筒内圧力(すなわち、有効圧縮比CR)を低減させている。
【0041】
モータリングによりエンジン回転数NEが所定の始動回転数NEstrに達すると、エンジン1が始動可能であるとして、エンジン1に対する燃料供給が開始される(時刻t2)。ここでは、エンジン1の始動に際して有効圧縮比CRを低下させていることから、下限リミッタLMTQを設定し、これにより始動燃料量を制限して、空気過剰率LAMDを充分に低下させる(図8において、この際の低下代dLAMDを示している。)。この始動燃料量の設定に応答して、下限リミッタLMTQによる制限に応じたエンジントルク増大量dTEを算出し、算出したdTEをモータジェネレータ2の発電トルクに加算する。
【0042】
エンジン1が始動した後、エンジン1による走行モードに移行する。アクセル操作量等の運転条件に応じたエンジン1の目標トルクTEtrgが設定され、エンジントルクがこの目標トルクTEtrgに制御される。エンジン1の始動後、動弁装置11による筒内圧力の低減が解除されるまでの間(時刻t3)、実際にエンジン1に発生させるトルクが下限リミッタLMTT以上の値に制限される。下限リミッタLMTTにより制限したエンジントルクの目標トルクTEtrgに対する余剰分(=TE−TEtrg)が、モータジェネレータ2の発電トルクに加算され、発電のためのエネルギーとして利用される。
【0043】
筒内圧力の低減が解除された後(時刻t3)、エンジントルクが目標トルクTEtrgに制御され、エンジン1からの駆動トルクにより車両が推進される。
【0044】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0045】
本実施形態では、アイドルストップ後の発進に際し、エンジン1の圧縮時における筒内圧力を低減させることで、始動のためにエンジン1を回転させる際のモータジェネレータ2に対する負荷が低減されるので、バッテリ3の残容量の不足等によりモータリングに充分なトルクがモータジェネレータ2により得られない場合であっても、エンジン1を回転させ、確実に始動させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、筒内圧力(すなわち、有効圧縮比CR)を低減させて行う始動に際してエンジン1に対する始動燃料量を下限リミッタLMTQにより制限し、空気過剰率LAMDを有効圧縮比CR(「低減させた筒内圧力」に相当する。)の低下に応じて充分に低下させることで、着火性の確保に必要な空気過剰率を維持し、未燃分の排出を抑制することができる。
【0047】
なお、以上では、バッテリ3の残容量が充分に確保されている場合にエンジン1の圧縮時における筒内圧力の低減(以下「デコンプレッション」という。)を行わず、通常の発進時における筒内圧力を維持することとした。しかしながら、このような制御に限らず、デコンプレッションは、バッテリ3の残容量が確保されている場合においても行うこととし、確保されている場合において、エンジン1の始動に際し、エンジン回転数NEが上昇して、共振回転数域(図8において、その上限回転数NErsnを示している。)を脱したときに、筒内圧力の低減を解除するようにしてもよい。図8において、この場合の動弁装置11の作動角の変化を二点鎖線Bにより示している。エンジン1が始動可能であるか否かを判断するための始動回転数NEstrは、この上限回転数NErsnよりも大きな値に設定される。
【0048】
また、以上では、始動燃料量に図5に示すような傾向を持たせることで、バッテリ3の残容量が少ない場合に、有効圧縮比CRを値CR1よりも小さな値にまで低減させた場合に限って空気過剰率LAMDを低下させるための補正を実質的に行うこととしたが、有効圧縮比CRの低下代に拘わらず、有効圧縮比CR全体に亘って空気過剰率LAMDを低下させることとしてもよい。
【0049】
以上の説明において、デコンプレッションによるエンジン1の始動に際して下限リミッタLMTQにより制限した始動燃料量が「第1の量」に、デコンプレッションによらず、通常の筒内圧力(有効圧縮比CR)を維持して行う始動に際して設定される始動燃料量が「第2の量」に、デコンプレッションにより低減された筒内圧力が値CR1以上である場合に設定される始動燃料量(=LMTQb)が「第3の量」に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係るアイドルストップ車の駆動系の構成図
【図2】同上実施形態に係る発進制御の基本ルーチンのフローチャート
【図3】エンジン制御ルーチンのフローチャート
【図4】デコンプレッションによる場合の空気過剰率に持たせる特性を示す説明図
【図5】図4に示す特性を実現するための始動燃料量に関する下限リミッタの設定例
【図6】始動燃料量の制限によるエンジントルク増大量の設定例
【図7】エンジン始動後のエンジントルクに関する下限リミッタの設定例
【図8】発進制御の内容を示すタイムチャート
【符号の説明】
【0051】
1…エンジン、11…「圧力低減装置」としての動弁装置、2…「電気モータ」としてのモータジェネレータ、3…バッテリ、4…インバータ、5…自動変速機、51…トルクコンバータ、6…駆動軸、7…ディファレンシャル、8a,8b…駆動輪、101…「コントロールユニット」としての電子制御ユニット、151…アクセルセンサ、152…クランク角センサ、153…車速センサ、154…ブレーキスイッチ、155…バッテリ電流センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに対してトルクを伝達可能に構成された電気モータと、
前記エンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させるための圧力調整装置と、
前記エンジン及び電気モータを制御するためのコントロールユニットと、を含んで構成され、
前記コントロールユニットは、
アイドルストップ後の発進に際し、前記エンジンを回転させるための前記電気モータに対する指令信号を発生し、
前記指令信号に基づいて前記エンジンが回転を開始した後、前記エンジンに関して所定の始動条件が成立したか否かを判定し、
前記所定の始動条件が成立したことによる前記エンジンの始動に際し、前記圧力調整装置により前記筒内圧力を低減させているか否かを判定し、
前記筒内圧力を低減させて行う発進時において、前記エンジンを始動させる際に供給される燃料の量である始動燃料量として、前記圧力調整装置により低減させた筒内圧力に応じた所定の空気過剰率を与える第1の量を設定するアイドルストップ車。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、前記始動燃料量として、前記筒内圧力を低減させて行う発進時においては、前記第1の量を設定し、前記筒内圧力を低減させて行う場合以外の通常の発進時においては、前記所定の空気過剰率よりも大きな空気過剰率を与える第2の量を設定する請求項1に記載のアイドルストップ車。
【請求項3】
前記コントロールユニットは、前記筒内圧力を低減させて行う発進時において、前記筒内圧力を大きく低減させているときほど、前記第1の量としてより小さな空気過剰率を与える燃料供給量を設定する請求項1又は2に記載のアイドルストップ車。
【請求項4】
前記コントロールユニットは、前記筒内圧力を低減させて行う発進時において、前記筒内圧力の低減量が所定の値よりも大きい場合に、前記第1の量を設定する一方、前記筒内圧力の低減量がこの所定の値以下である場合は、前記始動燃料量として、前記所定の空気過剰率よりも大きな空気過剰率を与える第3の量を設定する請求項1〜3のいずれかに記載のアイドルストップ車。
【請求項5】
前記コントロールユニットは、前記エンジンの始動に際し、前記第1の量による始動燃料量の設定に応答して、前記電気モータのトルクを低減させる請求項1〜4のいずれかに記載のアイドルストップ車。
【請求項6】
前記コントロールユニットは、前記第1の量の設定により発生するエンジントルクの大きさに応じて、前記電気モータのトルクを低減させる際のトルク低減量を変更する請求項5に記載のアイドルストップ車。
【請求項7】
前記コントロールユニットは、
エンジン始動後の前記エンジンによる走行時において、運転条件に応じた前記エンジンの目標トルクを設定し、実際のエンジントルクをこの目標トルクに近づけるように制御する一方、
前記第1の量を設定して行う始動の後、前記圧力調整装置による筒内圧力の低減が解除されるまでの間、実際のエンジントルクを、前記筒内圧力の上昇に伴って減少する特性を持たせて予め設定された、前記目標トルクよりも大きな下限トルク以上に制限する請求項1〜6のいずれかに記載のアイドルストップ車。
【請求項8】
前記コントロールユニットは、前記エンジンの始動後、前記筒内圧力の低減が解除されるまでの間、実際のエンジントルクの前記目標トルクに対する余剰分を相殺するように前記電気モータのトルクを制御する請求項7に記載のアイドルストップ車。
【請求項9】
エンジンと、
前記エンジンに対してトルクを伝達可能に構成された電気モータと、
前記エンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させるための圧力調整装置と、を含んで構成され、
アイドルストップ後の発進に際し、前記電気モータにより前記エンジンを回転させ、
前記エンジンが回転を開始した後、前記エンジンに関して所定の始動条件が成立したときに、前記エンジンを始動させ、
前記圧力調整装置により筒内圧力を低減させて行う発進時において、前記エンジンを始動させる際の空気過剰率が、前記筒内圧力を低減させて行う場合以外の通常の発進時におけるよりも小さな所定の空気過剰率以下に制限されるアイドルストップ車。
【請求項10】
エンジンと、
前記エンジンに対してトルクを伝達可能に構成された電気モータと、
前記エンジンの圧縮時における筒内圧力を低減させるための圧力調整装置と、を含んで構成され、所定のアイドルストップ条件の成立に基づいて前記エンジンを停止させるアイドルストップ制御を行うアイドルストップ車の発進動作を制御するための装置であって、
アイドルストップ後の発進に際し、前記エンジンを回転させるための前記電気モータに対する指令信号を発生させる手段と、
前記指令信号に基づいて前記エンジンが回転を開始した後、前記エンジンに関して所定の始動条件が成立したか否かを判定する手段と、
前記所定の始動条件が成立したことによる前記エンジンの始動に際し、前記圧力調整装置により前記筒内圧力を低減させているか否かを判定する手段と、
前記筒内圧力を低減させて行う発進時において、前記エンジンを始動させる際の燃料供給量として、低減させた筒内圧力に応じた所定の空気過剰率を与える燃料供給量を設定する手段と、を含んで構成されるアイドルストップ車の発進制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−36152(P2009−36152A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202638(P2007−202638)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】