説明

水中燃焼による表面清浄化方法及び装置

【課題】廃液処理の問題がなく設備費などを抑えながら、清浄効率や効果に優れた表面清浄化方法及び装置を提供する。
【解決手段】水中燃焼による表面清浄化方法であり、被洗浄物を保持しかつ被洗浄物表面を冠水ないしは水中に浸すとともに、燃焼炎を被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射し、該燃焼炎及び該燃焼炎にて発生する活性種に被洗浄物表面を曝すことにより該被洗浄物表面の汚染物を除去するようにした。また、前記燃焼炎は、保炎器を介して前記被洗浄物側へ照射されるとともに、前記被洗浄物が所定温度となるよう制御されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ、液晶ガラス、プリント基板などの被洗浄物について、該被洗浄物表面に付着している汚染物(レジストを含む)を効率よく除去するに好適な水中燃焼による表面清浄化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被洗浄物表面に存在する有機物、無機物、酸化膜、パーティクルなどの汚染物を除去する表面清浄化操作は、被洗浄物の大型化等に伴って複数を同時処理する回分式から被洗浄物を一枚ずつ処理する枚葉式が多用される傾向にある。また、表面清掃化技術としては、有機又は無機溶剤を用いる技術、プラズマを利用した技術、水やスチームを用いる技術、冷水素炎を用いる技術などが知られている。
【0003】
例えば、水やスチームを用いる技術は、特許文献1に開示されているごとく回転している被洗浄物表面にスチームおよび径の制御された水ミストを噴射することにより、スチームの作用にて被洗浄物表面からレジストを浮き上がらせ、水ミストの噴射作用にて浮かび上がったレジストを剥離させるものである。また、冷水素炎を用いる技術は、特許文献2に開示されているごとく真空環境において低温の水素表面混合拡散炎を被洗浄物表面に曝すことにより、被洗浄物表面から汚染物を破壊して除去するものである。
【特許文献1】特開2006−114738号公報
【特許文献2】特表2005−509516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の表面清浄化技術のうち、有機又は無機溶剤を用いる技術では廃液処理などの問題があり、プラズマを利用したり特許文献2の冷水素炎を用いる技術では真空設備及びエネルギー発生源の管理が複雑化する。また、特許文献2のように真空ないしは減圧下で水素炎は爆発しやすい不安定な領域での操作になり安全性に問題がある。これに対し、水やスチームを用いる技術は、比較的簡易であり廃液処理の問題もないが、通常のスチーム温度は100℃であり高圧噴射スチームでも精々130℃であるため被洗浄物表面の汚染物に剥離用の損傷を与え難く、清浄効率や効果に欠ける。
【0005】
本発明は、以上のような背景から、廃液処理の問題がなく設備費などを抑えながら、清浄効率や効果に優れた表面清浄化方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、水中燃焼による表面清浄化方法であり、被洗浄物を保持しかつ被洗浄物表面を冠水ないしは水中に浸すとともに、燃焼炎を前記被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射し、該燃焼炎及び該燃焼炎にて発生する活性種に前記被洗浄物表面を曝すことにより該被洗浄物表面の汚染物を除去することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、以上の水中燃焼による表面清浄化方法において、前記燃焼炎は、保炎器を介して前記被洗浄物側へ照射されるとともに、前記被洗浄物が所定温度(例えば、300℃以下)となるよう制御されることを特徴としている。
【0008】
これに対し、請求項3の発明は、被洗浄物表面の汚染物を除去する枚葉式の清浄化装置、特に上記発明方法に好適な水中燃焼による表面清浄化装置であって、前記被洗浄物を保持した状態で動かす移動手段と、水供給手段と、前記移動手段に保持した前記被洗浄物側に向けて燃焼炎を照射する炎発生手段とを、排気部及び排水部を有したチャンバーに内設していることを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、前記移動手段と前記炎発生手段との間に設けられた保炎器を有し、前記炎発生手段から前記燃焼炎が前記保炎器を介して前記移動手段に保持した前記被洗浄物側へ照射されることを特徴としている。
【0010】
(原理説明)次に本発明の特徴を明らかにする。第1の特徴は燃焼炎を用いることにある。燃焼炎はバーナー等の炎発生手段で作られる。燃焼炎の燃料としては、アセチレンガスなどの一般的な燃料ガスが使用可能であり、また、通常は酸素や空気などの助燃剤が用いられる。これらを燃焼した燃焼炎は、断熱炎とも言われ、燃焼反応がきわめて早いので発生した熱量は燃えている間に系外に散逸することなく、殆どが系内の気体の加熱用として使われる。この断熱的条件で燃焼する炎は、熱エネルギー、活性種(ラジカルも含む)エネルギー、運動エネルギーを同時に発生している。
【0011】
このうち、熱エネルギーは高熱で被洗浄物表面の汚染物を分解し破壊する。活性種エネルギーは、一般的に炭化水素(CmHnO)が燃焼するとCO2とH2Oになり原子の組み換えが起こる。この組み換えは例えばメタンの素反応だと約100個にも達するといわれ、燃料が過剰の場合は高いレベルの炭化水素活性種がたくさん存在する。また、その化学反応の最終段階でCOとOHの再結合反応(停止反応)いわゆる発光反応が起こるが、この反応速度が非常に遅いため活性種の寿命が延び、近傍の被反応物、例えば汚染物との反応チャンスが増え、汚染物の分解に大きく寄与する。但し、酸素水素炎の場合は、専らH2Oだけが発生しOH、O、Hの3種類の活性種しか生じなく、汚染物の分解反応には寄与率が少ない。運動エネルギーは、急激な燃焼反応で高温の熱流束が得られ、汚染物の破壊片や分解片を被洗浄物表面から表面外へ拡散除去する。本発明の表面清浄化方法は、以上の燃焼炎による熱エネルギー、活性種エネルギー、運動エネルギーの相乗作用により清浄効率を高めるようにしたものである。
【0012】
また、本発明において、第2の特徴は被洗浄物表面を冠水ないしは水中に浸し、燃焼炎を被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射する、つまり冠水用の水供給を必須としていることである。このような冠水用の水供給には次の作用がある。すなわち、燃焼炎による汚染物の破壊や分解は、燃焼炎と冠水面及び被洗浄物の汚染物表面の3つの交点で行われる。そして、水供給は、燃焼炎による強力な高熱エネルギーが冠水を強制的に蒸発させ、蒸発潜熱による被洗浄物の温度降下及び冠水の潜熱上昇で水の蒸発温度まで被洗浄物の温度を緩和し、冠水の流量で適切な温度制御を可能にして被洗浄物の熱劣化を抑制する。また、被洗浄物表面の汚染物が水の蒸発潜熱による急冷と膨張、更に急激な蒸発力により破壊されやすくなる。また、燃焼炎による冠水の蒸発により分解されるOHやHなどの活性種を多く生成し、それらが汚染物の分解に寄与する。なお、燃焼炎は熱流束が大きいため水の蒸発速度が速く、特に被洗浄物としてシリコン表面でのゲル化物(ウォターマーク)発生の抑制と除去に効果がある。
【0013】
以上の冠水用の水は、純水に限られず、例えば過酸化水素などの洗浄促進剤その他の薬液を混ぜたもの(以下、これを機能溶液という)も含まれる。この機能溶液を使用した場合は、例えば、水の瞬間的な蒸発で洗浄促進剤や薬剤などが濃縮されて、被洗浄物表面の汚染物(特に無機物や金属)との反応を促進して汚染物除去に有利となる。
【0014】
また、本発明において、第3の特徴は特に好ましい形態として保炎器を介して燃焼炎を被洗浄物側へ照射することである。これは、上述した燃焼炎から発生する活性種は一定の距離を離れると消滅し寿命も短くなる関係で、活性種を有効に活用するには燃焼炎を被洗浄物の近傍に設定しなければならないが、そうすると燃焼炎の高温と熱流束によって被洗浄物の熱劣化をまねくため、被洗浄物の近傍に保炎器を設置することでその熱劣化を阻止することにある。また、保炎器を使用することで、該保炎器と被洗浄物との間に気流の循環領域が生じ、燃焼炎から発生した活性種をその循環領域に閉じ込めることができ、そのような閉じ込め作用により活性種の寿命を長くし、汚染物分解能を高めることができる。なお、以上の保炎器は、単純な平板状でもよいが、形態例に挙げたように燃焼炎を集炎する皿状又は碗状にし、かつ、複数の貫通孔を形成しておき、燃焼炎の一部を該貫通孔から被洗浄物表面側へ照射することが好ましい。一例として、形態例に挙げたような保炎器を使用し、アセチレンガスの燃焼炎を保炎器の貫通孔から被洗浄物に照射すると、照射温度を300℃以下に制御しやすくなることが確認されている。なお、温度制御は、例えば、形態例に挙げたような温度センサを移動手段の保持部などに設けておき、炎発生手段と前記保持部上の被洗浄物部との間の距離を炎発生手段の高さ調整等により予め最適値となるよう調節しておく。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、燃焼炎を被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射することにより、燃焼炎で発生している熱エネルギーと活性種エネルギー及び炎の運動エネルギーを利用して被洗浄物表面の汚染物を効率よく除去できるようにする。具体的には次の(ア)〜(ウ)の相乗作用により汚染物を除去するものである。
(ア)マイクロバブルの急速膨張による物理的剥離効果を得る。これは、被洗浄物表面の汚染物には必ず微粒子の空気が付着するか包含されているが、燃焼炎の熱流束で、その気泡が急激に膨張し汚染物を破壊し離脱させる作用である。
(イ)活性種による汚染物分解効果を得る。これは、燃焼炎中に発生している不安定な活性種を被洗浄物に集中して連続的に高密度に照射することで、被洗浄物表面の汚染物を化学的に分解剥離させる作用である。
(ウ)高速な熱流束によるスクラブ効果を得る。これは、燃焼炎の外炎(拡散火炎)の熱流束が分解離脱した汚染物を被洗浄物表面から外部に向かって飛散されて再付着を防ぐ作用である。
【0016】
請求項2の発明では、上記(ア)〜(ウ)に加えて燃焼炎と被洗浄物の間に保炎器を設けることで、燃焼炎の温度を制御しやすくするとともに、保炎器と被洗浄物との間に活性種の循環領域を形成することで活性種の濃度を高くし汚染物分解能、引いては清浄効率を向上できる。
【0017】
請求項3の発明では、排水部及び排気部を有したチャンバー、移動手段、水供給手段、炎発生手段により記述の水中燃焼による表面清浄化方法に好適な装置として設備費を抑えて提供することができる。また、請求項4の発明では、前記チャンバー内に保炎器を追加するだけで請求項2のように被洗浄物の汚染物分解を促進可能にし清浄効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の形態を図1〜図5を参照して説明する。図1〜図3は形態の水中燃焼による表面清浄化装置を示し、図4は保炎器の形態及び変形例を示し、図5は図1の装置要部の変形例を示している。なお、各図では、作図上の制約から一部を省略し簡略化している。また、以下の説明では、同一又は作用的に同じ部材に同じ符号を付して、重複した説明を極力省く。
【0019】
(装置構造)図1〜図3において、形態の表面清浄化装置は、被洗浄物wを保持した状態で動かす移動手段2と、水を供給して移動手段2に保持した被洗浄物wを冠水状態にする水供給手段3と、移動手段2に保持した被洗浄物w側に向けて燃焼炎を照射する炎発生手段4と、移動手段2に保持した被燃焼物wと炎発生手段4との間に設けられた保炎器5と、オーバーフロー用排水筒7とを備え、それらは図1のチャンバー1に内設されている。
【0020】
ここで、チャンバー1は、概略蒲鉾形をなし、対向側部の一方に設けられた扉16で開閉される搬入口11、及び他方に設けられた扉17で開閉される排出口12と、上部に設けられてチャンバー内の気体を外部へ吸引排気する排気部13と、排出口12側に接近した下部に設けられて水供給手段3から供給された水を外部に排水する排水部14とを有している。排気部13は、チャンバー内の雰囲気を変動しないよう安定に保つようにする。排水部14は、水をチャンバー内から設定された流量で排出可能にする構成である。
【0021】
移動手段2は、コンベア機構20からなり、被洗浄物wを移送部材21に保持した状態で搬入口11側から排出口12側へ移動可能にする。コンベア機構20は、移送部材21の内側に配置された不図示の固定フレーム及び移送部材21を回転する駆動部などを有し、該固定フレームが搬入口11側の脚部材25及び排出口12側の脚部材26に支持されている。この場合、各脚部材25,26は、コンベア機構20の幅方向の両側に配設された状態でコンベア機構20側の軸部材を両側で支持している。また、コンベア機構20は、排出口12側の脚部材26が搬入口11側の脚部材25に対し高く設けられることで、排出口12側に向かって高く傾斜した状態に設置されている。
【0022】
水供給手段3は、外部の水供給源からチャンバー1内に水を供給するもので、先端ノズル部が搬入口11側にあって移動手段2よりも上側に設けられている。なお、このような水供給部3は複数設けられることもある。また、供給する水は上記した機能溶液であってもよい。
【0023】
炎発生手段4は、外部の燃料供給部から供給される燃料ガスなどを燃焼して下向きに燃焼炎を照射するもので、ブラケット15を介して取り付けられている。燃料としては、燃料ガスが好ましく、一般的に入手容易なプロパンガス、ブタンガス、メタンガス、アセチレンガス、水素ガスなどが使用可能であり、また、通常は酸素や空気などの助燃剤と共に用いられる。
【0024】
保炎器5は、炎発生手段4のバーナー部41に取り付けられて、炎発生手段側バーナー部41から照射される燃焼炎を調炎した状態で移動手段側の被洗浄物wへ照射可能にする。また、この保炎器5は、図4(a)のごとく断面皿状に形成されているとともに、底壁に設けられた複数の貫通孔5aと、内側に設けられた取付部5cとを有している。各貫通孔5aは、バーナー部41から照射される燃焼炎を通過させる小径の孔である。取付部5cは、リング形をなし、保炎器5の端面側内周にあって等分する箇所から突出している複数のアーム部5bにより支持されている。そして、保炎器5は、炎発生手段側バーナー部41に対し該バーナー部の先端外周を取付部5cの内径に通し、かつ、取付部5cの外周側より不図示の止め具により抜け止めした状態で取り付けられている。
【0025】
また、図4(b)と(c)は以上の保炎器5の形状を変更した2例を示している。同(b)の保炎器5Aは、同(a)の保炎器5に対し断面皿状の外周に概略傘形に多数の縦スリットを形成した櫛−傘状の鍔部6を追加した構成である。同(c)の保炎器5Bは、同(a)の保炎器5に対し断面椀状をなしているとともに、椀状の外周に前記と同様な櫛−傘状の鍔部6を追加した構成である。このような鍔部6は、バーナー部41の燃焼炎が貫通孔5aから移動手段側被洗浄物wに照射されたとき、熱エネルギーや活性種エネルギーが移動手段側被洗浄物wと保炎器5との間にホールドされて清浄効率を高める上で有効である。勿論、以上の各保炎器は、例えば、被洗浄物wの幅や径寸法、炎発生手段4の使用数などに対応した長さに設定されたり、鍔部6に櫛形スリットに代えて貫通孔にしたり、底壁をなくしたり必要に応じて変形可能なものである。
【0026】
排水筒7は、排出口側にあって移動手段2の左右に立設されており、水供給手段3より供給される水がチャンバー1内で所定高さ以上にならないように余分の水を排水部14にオーバーフローにより排水する。ここでは、供給される水が移動手段2に保持される被洗浄物wの表面つまり上面より少しだけ(若干量)高くなると、排水筒7の上開口からオーバーフローにより排水されるよう設定される。
【0027】
また、上記したチャンバー1には、図3に示されるごとく搬入口側の搬入部8及び排出口側の排出部9がそれぞれ対向した状態に連設されている。搬入部8及び排出部9には、上記移動手段2と同様な移動手段2A又は移動手段2Bと、排気部13と同様な排気部13Aと、排水部14と同様な排水部14Aとが設けられている。また、搬入部8には、搬入口11と対向する側に扉16Aで開閉される不図示のゲートが設けられ、該ゲートを介して対象の被洗浄物wがロボットアーム18を介して搬入部内へ移送され、移動手段2の対応部へ移載可能にする。これに対し、排出部9には、搬出口12と対向する側に扉17Aで開閉される不図示のゲートが設けられ、該ゲートを介して清浄後の被洗浄物wがロボットアーム18Aを介して目的の箇所へ移送可能にする。
【0028】
(清浄化方法)以上の表面清浄化装置を使用して、被洗浄物wを本発明の水中燃焼による表面清浄化方法により処理する場合の主な操作手順について説明する。すなわち、この表面清浄化方法では、被洗浄物wを移動手段2に保持する搬入工程、水をチャンバー1に供給する水供給工程と、燃焼炎を被洗浄物側へ照射する炎照射工程と、清浄処理後の被洗浄物wをチャンバー1から取り出す排出工程とを経る。なお、この操作手順は、本発明方法を実施するための一例に過ぎず本発明を制約するものではなく、細部はこれを参考にして更に展開変更可能なものである。
【0029】
(a)搬入工程では、搬入部8の被洗浄物wをチャンバー1内の移動手段2に移送して保持する。具体的には、例えば、扉16の開状態で、移動手段2Aを駆動することによりコンベア式移送部材21を介して該移送部材21に保持されている被洗浄物wを搬入口11から、チャンバー側移動手段2のコンベア式移送部材21に移す。
【0030】
(b)水供給工程では、チャンバー1内に水を供給して移動手段2に保持された被洗浄物wを冠水ないしは水中に浸すようにする。具体的には、図2(a)に示されるごとく被洗浄物wが搬入部8からチャンバー1側に移送された後、扉16が閉じられ、水供給手段3により水がチャンバー1内に供給される。この場合、図3では省略しているが、チャンバー1内には水が予め所定量(例えば、搬入口11や排出口12から流出しない程度)供給されており、移動手段2に保持された被洗浄物wを僅かに冠水ないしは水中に浸すまでに必要な水量は、水供給手段3により短時間で供給されるようになっている。なお、この構造では、水供給手段3からの供給水量と排水部14からの排出水量との設定とともに、排水筒7のオーバーフロー作用により前記冠水した状態が保たれるよう設定されている。
【0031】
(c)炎照射工程では、炎発生手段4で生成される燃焼炎が保炎器5を介して移動手段2に保持された被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射する。具体的には、上述したように移動手段2に保持された被洗浄物wを冠水ないしは水中に浸した状態から、炎発生手段4をONして燃焼炎が保炎器5を介して照射される。その際、この構造では、移動手段2が被洗浄物wを図2(a)の矢印方向へコンベア式に極低速で移動するとともに、排出部9側を高くした傾斜状態になるよう設定されている。これにより、燃焼炎は、保炎器5を介して移動手段2に保持された被洗浄物wの表面(上面の対応部)に対し該被洗浄物表面上の水を排除しながら照射可能となる。これは、上記したように燃焼炎による汚染物の破壊や分解が燃焼炎と冠水面及び被洗浄物の汚染物表面の3つの交点で行われるようにする。勿論、燃焼炎による処理時には、被洗浄物wの温度が移動手段2の保持部下側に設けられた温度センサ29にて検出され、不図示の制御部が該検出信号により被洗浄物wの温度を管理するとともに、所定温度以上になったとき炎発生手段4に制御信号を送って対応可能となっている。なお、被洗浄物の大きさにより炎発生手段4は単一ではなく複数のものが設置される。原理的には、炎発生手段4の燃焼炎が保炎器5を省略して直に移動手段2に保持された被洗浄物側へ照射されるようにしてもよい。
【0032】
(d)排出工程では、清浄処理後の被洗浄物wを移動手段2から排出部9に移送して移動手段2Bに保持する。すなわち、扉17を開状態に切り換え、移動手段2を駆動してコンベア式移送部材21を介して該移送部材21に保持されている被洗浄物wを排出口12から、排出部側の移動手段2Bのコンベア式移送部材21に移すことになる。この場合、清浄処理後の被洗浄物wは、搬出過程で水に浸るとウォータマークなどが発生するため乾燥した状態を維持して搬出することが重要となる。
【0033】
以上の操作において、排気部13や13Aは、チャンバー1や搬入部8及び排出部9内の雰囲気を変動しないよう安定に保つようにする。排水部14は、水をチャンバー1内から設定された流量で排出する。排出部14Aは、チャンバー1内の水が搬入口11や排出口12を介して不用意に搬入部8や排出部9内に流入したときにそれを排水する。
【0034】
このような表面清浄化方法は、上記した原理説明及び発明の効果に記載したようにマイクロバブルの急速膨張による物理的剥離効果、活性種による汚染物分解効果、高速な熱流束によるスクラブ効果の相乗効果により、廃液処理の問題がなく設備費などを抑えながら、清浄効率や効果を向上したものである。また、以上の表面清浄化方法は、例えば、真空下で行われるプラズマによる汚染物をアッシングする方法に対して被洗浄物の温度を低く抑え常圧で容易に操作できる。また、特許文献1の技術に対して清浄効率を向上でき、特許文献2の技術に対して常圧でかつ被洗浄物を任意の温度条件で効率よく清浄化できる。
【0035】
(図5の装置)図5において、変形例の表面清浄化装置は、被洗浄物wを保持した状態で動かす移動手段2Aが回転機構22によって構成した例であり、水を供給し回転機構22に保持した被洗浄物wを冠水状態にする水供給手段3と、回転機構22に保持した被洗浄物w側に向けて燃焼炎を照射する炎発生手段4と、回転機構22に保持した被燃焼物wと炎発生手段4との間に設けられた保炎器5と、オーバーフロー用排水筒7とを備え、それらを同図のチャンバー1に内設している点で上記装置構造と同じ。ここで、この移動手段2Aは、回転機構22の被洗浄物用保持部を軸部材30で支持した状態で、該軸部材30に作動連結された不図示の回転機構22の駆動部により回転可能、かつ不図示の昇降機構により上下動可能にしたものである。また、炎発生手段4は、本体40及び本体40に対し任意の長さに出し入れ可能なバーナー部41とからなり、バーナー部41が不図示の制御部を介して突出量を可変調整可能となっている。なお、このような炎発生手段4を上下に伸び縮みする構成に代えて、例えば、炎発生手段4を図5の紙面前後方向つまり邪魔にならない箇所へ移動するようにしてもよい。
【0036】
(清浄化方法)以上の表面清浄化装置を使用して、被洗浄物wを本発明の水中燃焼による表面清浄化方法により処理する場合は上記した操作手順として次の点が変更される。
(a)搬入工程では、搬入部8側より被洗浄物wをチャンバー1内の回転機構22の保持部に移送して保持する。この操作では、例えば、扉16Aの開状態で、対象の被洗浄物wをロボットアーム18Bを介して搬入口11Aから、回転機構22の保持部に移す。
(b)水供給工程では、上記と同じ操作によってチャンバー1内に水を供給して回転機構22に保持された被洗浄物wを冠水ないしは水中に浸すようにする。
【0037】
(c)炎照射工程では、炎発生手段4で生成される燃焼炎を保炎器5を介して回転機構202に保持された被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射する。この操作では、上述したように回転機構22の保持部に保持された被洗浄物wを冠水ないしは水中に浸した状態から、炎発生手段4をONして燃焼炎を保炎器5を介して照射する。その際、この構造では、回転機構22が被洗浄物wを回転し、かつ前記昇降機構により極微量づつ上昇するよう設定されている。これにより、燃焼炎は、上記操作と同様に保炎器5を介して移動手段2に保持された被洗浄物wの表面(上面の対応部)に対し該被洗浄物表面上の水を排除しながら照射可能となる。
【0038】
(d)排出工程では、清浄処理後の被洗浄物wを回転機構22の保持部から排出部9A側に移送する。この操作では、例えば、燃焼炎による清浄処理の終了と連動して、水供給手段3の水供給と、回転機構22の回転を停止する。また、被洗浄物wを前記昇降機構により所定距離上昇し、扉17Aを開状態に切り換えた後、被洗浄物wをロボットアーム18Bを介して排出口11Aから、所定箇所へ移送することになる。
【0039】
なお、本発明方法及び装置は、以上の形態や変形例をベースにして色々変形したり、展開可能なものである。その一例としては、チャンバー内に設けられたノズルを有し、炎照射工程で被洗浄物を燃焼炎の照射により清浄処理した後、又は清浄処理過程で、清浄化されるとともに活性化した被洗浄物表面を安定化させるため前記ノズルより機能ガスを被洗浄物表面に吹き付けるようにすることである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】発明形態の水中燃焼による表面清浄化装置の主要部を示す模式構成図である。
【図2】(a),(b)は上記装置の使用態様を示す模式構成図である。
【図3】上記装置の全体を示す模式構成図である。
【図4】(a)は保炎器の模式断面図、(b)は保炎器の他の例を示す模式断面図、(c)は保炎器の更に他の例を示す模式断面図である。
【図5】図1の装置を変更した変形例を示す模式構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1…チャンバー(11は搬入口、12は排出口、13は排気部、14は排水部)
2,2A…移動手段(20はコンベア機構、22は回転機構、29は温度センサー)
3…水供給手段
4…炎発生手段(40は本体、41はバーナー部)
5,5A,5B…保炎器(5aは貫通孔、6は鍔部)
7…排水筒
8,8A…搬入部
9,9A…排出部
w…被洗浄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物を保持しかつ被洗浄物表面を冠水ないしは水中に浸すとともに、燃焼炎を前記被洗浄物表面に該表面上の水を排除しながら照射し、該燃焼炎及び該燃焼炎にて発生する活性種に前記被洗浄物表面を曝すことにより該被洗浄物表面の汚染物を除去することを特徴とする水中燃焼による表面清浄化方法。
【請求項2】
前記燃焼炎は、保炎器を介して前記被洗浄物側へ照射されるとともに、前記被洗浄物が所定温度となるよう制御されることを特徴とする請求項1に記載の水中燃焼による表面清浄化方法。
【請求項3】
被洗浄物表面の汚染物を除去する枚葉式の表面清浄化装置において、前記被洗浄物を保持した状態で動かす移動手段と、水供給手段と、前記移動手段に保持した前記被洗浄物側に向けて燃焼炎を照射する炎発生手段とを、排気部及び排水部を有したチャンバーに内設していることを特徴としている水中燃焼による表面清浄化装置。
【請求項4】
前記移動手段と前記炎発生手段との間に設けられた保炎器を有し、前記炎発生手段から前記燃焼炎が前記保炎器を介して前記移動手段に保持した前記被洗浄物側へ照射されることを特徴とする請求項3に記載の水中燃焼による表面清浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154136(P2009−154136A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338408(P2007−338408)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(508003538)株式会社 ハイソン (1)
【Fターム(参考)】