説明

配線構造およびその製造方法、並びに配線構造を備えた表示装置

【課題】基板側から順に、Al合金膜と、当該Al合金膜と直接接続する薄膜トランジスタの酸化物半導体層と、を有し、TiやMoなどの高融点金属を省略してAl合金膜を酸化物半導体層と直接接続しても低コンタクト抵抗を実現できる新規な表示装置用Al合金膜を有する配線構造を提供する。
【解決手段】上記配線構造において、半導体層は酸化物半導体からなり、Al合金膜は、Niおよび/またはCoを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板側から順に、Al合金膜と、当該Al合金膜と直接接続する薄膜トランジスタの半導体層と、を備えた配線構造であって、当該半導体層が酸化物半導体からなる酸化物半導体層で構成されている配線構造、およびその製造方法;並びに当該配線構造を備えた表示装置に関するものである。本発明の配線構造は、例えば液晶ディスプレイ(液晶表示装置)や有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに代表的に用いられる。以下では、液晶表示装置を代表的に取り上げ、説明するがこれに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野に用いられる液晶表示装置は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下「TFT」と呼ぶ。)をスイッチング素子とし、画素電極を構成する透明導電膜(酸化物導電膜)と、ゲート配線およびソース−ドレイン配線等の配線部と、アモルファスシリコン(a−Si)や多結晶シリコン(p−Si)などのSi半導体層を備えたTFT基板と、TFT基板に対して所定の間隔をおいて対向して配置され共通電極を備えた対向基板と、TFT基板と対向基板との間に充填された液晶層と、から構成されている。
【0003】
現在、液晶用TFTの半導体層には、上述したようにa−Siが多く用いられている。しかし、次世代ディスプレイには、大型・高解像度・高速駆動が求められており、従来のa−Siではキャリア移動度が低いため、この要求スペックを満たすことができない。そこで近年、酸化物半導体が注目されている。酸化物半導体は、a−Siと比較して、高いキャリア移動度を有している。更に酸化物半導体は、スパッタリング法によって低温で大面積に形成できるため、耐熱性の低い樹脂基板なども使用でき、その結果、フレキシブルディスプレイの実現が可能である。
【0004】
このような酸化物半導体を半導体デバイスに用いた例として、例えば特許文献1には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カドミウム(CdO)に、IIB元素、IIA元素、もしくはVIB元素を加えた化合物、または混合物のうちのいずれかを用い、3d遷移金属元素;または希土類元素;または透明半導体の透明性を失わせずに高抵抗にする不純物をドープしたものが用いられている。酸化物半導体のなかでも、In、Ga、Zn、Snよりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含む酸化物(IGZO、ZTO、IZO、ITO、ZnO、AZTO、GZTO)は、非常に高いキャリア移動度を有するため、好ましく用いられている。
【0005】
ところで、IGZOなどに代表される酸化物半導体を用いたTFT基板では、ゲート配線やソース−ドレイン配線などの配線材料として、MoやTi単層、あるいは純AlまたはAl−NdなどのAl合金(以下、これらをまとめて「Al系合金」ということがある。)の上および/または下にTiやMoなどの高融点金属(バリアメアタル層)を介在させた積層材料が主に使われている。Al系合金は、電気抵抗が小さく、微細加工が容易であるなどの理由により採用されている。また、配線材料に高融点金属を使用する主な理由は、Alは非常に酸化され易く、Al系合金配線を酸化物半導体層と直接接続すると、液晶ディスプレイの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などによってAl系合金配線と酸化物半導体層との界面に高抵抗なAl酸化物の絶縁層が生成し、酸化物半導体層との接続抵抗(コンタクト抵抗)が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。しかしながら、高融点金属の使用は、コストの上昇や生産性の低下を招くため、液晶ディスプレイの大量生産を考えると、高融点金属の省略が望まれている。すなわち、バリアメタル層を省略し、Al系合金化配線を酸化物半導体層と直接接続させても、コンタクト抵抗の低減化が可能な新規な配線材料の提供が望まれている。
【0006】
一方、酸化物半導体層を備えたTFT基板の配線構造に着目すると、現在、TFTの構造として、図2に示す配線構造(以下、説明の便宜上、従来構造と呼ぶ場合がある。)が汎用されている。図2では、基板側から順に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体膜、ソース−ドレイン電極が形成されている。図2には、ゲート電極が下側にある「ボトムゲート型」の例を示しているが、ゲート電極が上側にある「トップゲート型」も包含される。また、酸化物半導体を用いる場合は、ゲート絶縁膜として、SiN膜ではなくSiO2やSiONが多く用いられる。酸化物半導体は、還元雰囲気下ではその優れた特性が失われるため、酸化性雰囲気下で成膜可能なSiO2(SiON)の使用が推奨されるからである。
【0007】
しかし、IGZOなどの酸化物半導体を用いた従来構造のTFT基板は、以下の問題を抱えている。第1に、IGZOの上層に形成されたソース−ドレイン電極などの金属電極(Al系配線材料)を、酸系のエッチング液などを用いてウェットエッチングして配線パターンを形成する際、IGZOとAl系配線材料とのエッチング選択比がない(換言すると、上層のAl系配線材料のみ選択的にエッチングし、下層のIGZOまではエッチングしないというエッチング選択性が小さい)ため、エッチングにより下のIGZOまでダメージを受けてしまうという問題がある。この対策として、例えば、IGZOのチャネル層上に保護層としてエッチストッパ層を設ける方法が提案されているが、工程が複雑となり、生産コストの上昇をもたらす。第2に、上記の従来構造では、約250℃以上の熱履歴を受けるとソースドレイン電極と酸化物半導体との間のコンタクト抵抗が上昇するという問題がある。これについては、Tiなどの高融点金属を介在させるとコンタクト抵抗の上昇が抑えられるが、前述したように、コストや生産性の観点から、高融点金属(バリアメタル層)の省略が強く切望されている。また、Tiは、プラズマを用いたドライエッチングによって成膜されるが、Cuのようなドライエッチングが難しい配線材料には、適用が困難である。
【0008】
そこで最近、図2の従来構造とは酸化物半導体膜とソース−ドレイン電極の順番が逆転した、図1に示す配線構造(図2の従来構造と区別するため、説明の便宜上、本発明構造と呼ぶ場合がある。)が提案されている。これは、基板側から順に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース−ドレイン電極、酸化物半導体膜が形成された構造を有している。図1に示すように、酸化物半導体と画素電極を構成する透明導電膜(図中、ITO)は、ソース−ドレインを構成する配線材料と略同一平面上にある。図1には、ゲート電極が下側にある「ボトムゲート型」の例を示しているが、前述した図2に示す従来構造と同様、ゲート電極が上側にある「トップゲート型」も包含される。
【0009】
図1に示す本発明構造を採用すれば、前述した図2の従来構造が抱える問題点を解消できると考えられる。しかしながら、本発明構造では、TiやMoなどの高融点金属(バリアメタル層)を純Alなど直接酸化物半導体とのコンタクトができない材料に介在させると、実効チャネル長が決まらないという問題を抱えている。すなわち、TiやMoなどの高融点金属を純Alの上・下に介在させる場合、純AlとIGZOの間は電気的に接続できないので、ソース−ドレイン電極とIGZOとの間に流れる電流(例えば上側と下側)のいずれを実効チャネル長と定めれば良いか容易に決定し難いという問題を抱えている。
【0010】
そこで、図1に示す本発明構造に適用可能な新規なAl合金膜であって、バリアメタル層を省略して当該Al合金膜を酸化物半導体層と直接接続しても、コンタクト抵抗が低く抑えられたAl合金膜を備えた配線構造の提供が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−76356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板側から順に、Al合金膜と、当該Al合金膜と接続する薄膜トランジスタの酸化物半導体層と、を有し、TiやMoなどの高融点金属(バリアメタル層)を省略してAl合金膜を酸化物半導体層と直接接続しても低コンタクト抵抗を実現できる新規な表示装置用Al合金膜を有する配線構造、およびその製造方法、並びに当該配線構造を備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し得た本発明の配線構造は、基板の上に、基板側から順に、Al合金膜と、前記Al合金膜と直接接続する薄膜トランジスタの半導体層と、を有しており、前記半導体層は酸化物半導体からなり、前記Al合金膜は、Niおよび/またはCoを含むものであるところに要旨を有するものである。
【0014】
好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、前記半導体層と直接接続する同一平面で、画素電極を構成する透明導電膜と直接接続している。
【0015】
好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、Niおよび/またはCoを0.10〜2原子%含むものである。
【0016】
好ましい実施形態において、前記Al合金膜と前記酸化物半導体層との界面に、Niおよび/またはCoの一部が析出および/または濃化している。
【0017】
好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、更にCuおよび/またはGeを0.05〜2原子%含むものである。
【0018】
好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、更に希土類元素を0.05〜1原子%含むものである。
【0019】
好ましい実施形態において、前記希土類元素は、Nd、La、およびGdよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0020】
好ましい実施形態において、前記酸化物半導体層と直接接続する前記Al合金膜の表面は、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである。
【0021】
好ましい実施形態において、前記透明導電膜と直接接続する前記Al合金膜の表面は、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである。
【0022】
好ましい実施形態において、前記酸化物半導体は、In、Ga、Zn、Ti、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものである。
【0023】
好ましい実施形態において、前記透明導電膜は、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものである。
【0024】
好ましい実施形態において、前記透明導電膜は、ITOまたはIZOである。
【0025】
好ましい実施形態において、前記薄膜トランジスタがボトムゲート型を有するものであって、前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース電極および/またはドレイン電極に用いられるものである。
【0026】
本発明には、上記のいずれかの配線構造を備えた表示装置も包含される。
【0027】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る配線構造の製造方法は、上記のAl合金膜を成膜し、成膜後に200℃以上の加熱温度で熱処理した後、アルカリ処理を行なってから前記酸化物半導体層を成膜するか;または、前記Al合金膜を200℃以上の基板温度で成膜した後、アルカリ処理を行なってから前記酸化物半導体層を成膜することにより、前記Al合金膜と前記酸化物半導体層との界面に、Niおよび/またはCoの一部を析出および/または濃化させるところに要旨を有するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、基板側から順に、Al合金膜と、当該Al合金膜と接続する薄膜トランジスタの酸化物半導体層と、を備えた配線構造において、Al合金膜を酸化物半導体層と直接接続しても低コンタクト抵抗を実現できる配線構造を提供することができた。本発明によれば、TiやMoなどの高融点金属(バリアメタル層)を省略できるため、図1に示す配線構造が抱える問題点(実効チャネル長が決まらないなど)を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の代表的な配線構造を示す概略断面説明図である。
【図2】図2は、従来の配線構造を示す概略断面説明図である。
【図3】図3は、実施例において、ITO又はIZOとのコンタクト抵抗率の測定に用いた電極パターンを示す図である。
【図4】図4は、実施例において、IGZO又はZTOとのコンタクト抵抗率の測定に用いた電極パターンを示す図である。
【図5】図5は、No.46のTEM画像である。
【図6】図6は、比較のために作製した試料のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、TFTの半導体層としてIGZOなどの酸化物半導体を用いた、図1に示す構造(基板側から順に、Al合金膜と、Al合金膜と接続する薄膜トランジスタの酸化物半導体層と、を備えた配線構造)に適用可能であり、TiやMoなどの高融点金属(バリアメタル層)を省略してAl合金膜を酸化物半導体層と直接接続しても、低コンタクト抵抗を実現できる新規な表示装置用Al合金膜(以下、ダイレクトコンタクト用Al合金膜と呼ぶ場合がある。)を備えた配線構造を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、Niおよび/またはCoを含むAl合金膜を用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0031】
上記のAl合金膜は、好ましくは画素電極を構成する透明導電膜(代表的にはITOやIZOなど)と直接接続されている(図1を参照)。また、コンタクト抵抗の更なる低減化を目指してCuおよび/またはGeを更に含むAl合金膜や、耐熱性の向上を目指して希土類元素(代表的にはNd、La、Gdの少なくとも一種)を更に含むAl合金膜が好適に用いられる。また、低コンタクト抵抗の実現に寄与すると考えられるNiおよび/またはCoの析出物や濃化層を形成するには、酸化物半導体層と直接接続する上記Al合金膜の表面(更には、透明導電膜と直接接続する上記Al合金膜の表面)は、最大高さRzで5nm以上であることが好ましい。このようなNiおよび/またはCoの析出物や濃化層を得るためには、Al合金成膜時の基板温度(以下、成膜温度と呼ぶ場合がある。)の制御(約200℃以上の加熱処理)、および/またはAl成膜後の加熱処理(約200℃以上の加熱処理)と、所定のアルカリ処理を適切に組合わせて行なうことが有効である。例えば、(ア)成膜時の基板温度を約200℃以上に高めて加熱処理し、所定のアルカリ処理を行なってから、酸化物半導体膜を成膜する(この場合、成膜後の加熱処理は必須でなく、行なっても良いし行わなくても良い)方法や、あるいは、(イ)基板温度にかかわらず(基板温度は加熱せずに室温ままでも良いし、例えば200℃以上に加熱しても良い)、Al合金成膜後の加熱処理を約200℃以上の温度で行ない、所定のアルカリ処理を行なってから、酸化物半導体膜を成膜する方法などが挙げられる。
【0032】
以下、前述した図1を参照しながら、本発明の配線構造およびその製造方法の好ましい実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、図1では、ボトムゲート型の例を示しているが、これに限定されず、トップゲート型も含まれる。また、図1では、酸化物半導体層の代表例としてIGZOを用いているが、これに限定されず、液晶表示装置などの表示装置に用いられる酸化物半導体をすべて用いることができる。
【0033】
図1に示すTFT基板は、基板側から順に、ゲート電極(図ではAl合金)、ゲート絶縁膜(図ではSiO2)、ソース電極・ドレイン電極(図ではAl合金、詳細は後述する。)、チャネル層(酸化物半導体層、図ではIGZO)、保護層(図ではSiO2)を順次積層した配線構造(ボトムゲート型)を有している。ここで、図1の保護層はSiONであっても良く、同様に、ゲート絶縁膜はSiONであっても良い。というのも、酸化物半導体は、還元雰囲気下ではその優れた特性が劣化するため、酸化性雰囲気下で成膜を行うシリコン酸化膜(SiO2)やシリコン酸窒化膜(SiON)の使用が推奨されるからである。あるいは、保護層またはゲート絶縁膜のいずれか一方はSiNであっても良い。
【0034】
そして、本発明の特徴部分は、上記Al合金として、Niおよび/またはCoを含有するAl合金を用いたところにある。Niおよび/またはCoの添加により、ソース電極および/またはドレイン電極を構成するAl合金膜と酸化物半導体層との接触電気抵抗(コンタクト抵抗)を低減させることができる。すなわち、上記Al合金は、ダイレクトコンタクト用Al合金として極めて有用である。NiおよびCoは、単独で含んでいても良いし、両方を含んでいても良い。
【0035】
このような効果を十分発揮させるには、上記元素の含有量(Ni、Coを単独で含むときは単独の含有量であり、両方を含む場合は合計量である。)を、おおむね、0.10原子%以上とすることが好ましい。コンタクト抵抗の低減化作用は、上記元素の含有量が一定量あればよく(一定量以上加えれば、コンタクト抵抗は飽和するため)、より好ましくは0.2原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上である。一方、上記元素の含有量が多すぎると、Al合金膜の電気抵抗率が上昇してしまうため、その上限を2原子%とすることが好ましく、より好ましくは1原子%である。
【0036】
本発明に用いられるAl合金膜は、上記のようにNiおよび/またはCoを含み、残部Al及び不可避不純物である。
【0037】
上記Al合金膜には、更にCuおよび/またはGeを0.05〜2原子%含有することができる。これらは、コンタクト抵抗の更なる低減化に寄与する元素であり、単独で添加しても良いし、両方を併用しても良い。このような効果を十分発揮させるには、上記元素の含有量(Cu、Geを単独で含むときは単独の含有量であり、両方を含む場合は合計量である。)を、おおむね、0.05原子%以上とすることが好ましい。コンタクト抵抗の低減化作用は、上記元素の含有量が一定量以上あれば良く、より好ましくは0.1原子%以上、更に好ましくは0.2原子%以上である。一方、上記元素の含有量が多すぎると、Al合金膜の電気抵抗率が上昇してしまうため、その上限を2原子%とすることが好ましく、より好ましくは1原子%である。
【0038】
上記Al合金膜には、更に希土類元素を0.05〜1原子%含有することができる。これらは、耐熱性の向上に有用な元素であり、希土類元素の1種を含有しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記元素のより好ましい含有量(単独で含む場合は単独の含有量であり、2種以上を含むときは合計量である。)は0.1〜0.5原子%、更に好ましくは0.2〜0.35原子%である。ここで、希土類元素とは、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する。これらのなかでも、例えばLa、Nd、Y、Gd、Ce、Dyの使用が好ましく、より好ましくは、La、Nd、Gdであり、更に好ましくはLa、Ndである。
【0039】
上記Al合金膜における各合金元素の含有量は、例えばICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めることができる。
【0040】
本発明では、少なくともソース電極および/またはドレイン電極が上記Al合金膜で構成されていれば良く、その他の配線部(例えばゲート電極)の成分組成については特に限定されない。例えば、図1において、ゲート電極、走査線(図示せず)、信号線におけるドレイン配線部(図示せず)も、上記Al合金膜で構成されていても良く、この場合、TFT基板におけるAl合金配線の全てを同一成分組成とすることができる。
【0041】
後記する実施例で実証したように、本発明によれば、酸化物半導体とAl合金膜とのコンタクト抵抗が低く抑えられるが、これは、その界面に形成される(ア)Niおよび/またはCoを含む析出物;および/または、(イ)Niおよび/またはCoを含む濃化層が、深く関与していると推察される。Al合金膜が、更にCuおよび/またはGeや、希土類元素を含む場合は、これらの元素を更に含む析出物や濃化層が、その界面に形成されていると考えられる。この様な析出物や濃化層は、Al酸化物とは異なって導電性が高く、酸化物半導体とAl合金膜との界面に電気抵抗の低い領域として部分的または全面的に形成されることで、コンタクト抵抗が大幅に低減されるものと思われる。
【0042】
上記Niおよび/またはCoの析出および/または濃化は、所定の加熱処理と所定のアルカリ処理を組合わせて行なうことが好ましい。上記加熱処理によってAl合金に含まれるNiなどが表面に析出し、上記アルカリ処理によって当該析出物を露出させると共に酸化皮膜を除去することができ、このように両方の処理を行なうことによってコンタクト抵抗を著しく低減することができる。アルカリ処理としては、代表的には、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)の約0.4質量%水溶液に約60秒間程度浸漬する方法が挙げられる。その他、酸による処理やArプラズマ照射による物理的な酸化膜除去も適用可能である。本発明に適用可能なアルカリ処理の詳細は、後記するRzの説明部分で説明する。
【0043】
具体的には、上記加熱処理は、スパッタリング法によるAl合金成膜時の基板温度(成膜温度)の制御(約200℃以上の加熱処理)、および/またはAl成膜後の加熱処理(約200℃以上の加熱処理)を適切に組合わせて行なうことが有効である。スパッタリング法の詳細は後述する。詳細には、(ア)成膜温度を約200℃以上に高めて加熱処理し、所定のアルカリ処理を行なってから、酸化物半導体膜を成膜する(この場合、成膜後の加熱処理は必須でなく、行なっても良いし行わなくても良い)方法や、あるいは、(イ)成膜温度にかかわらず(基板は加熱せずに室温ままでも良いし、例えば200℃以上に加熱しても良い)、Al合金成膜後の加熱処理を約200℃以上の温度で行なってから、所定のアルカリ処理を行ない、酸化物半導体膜を成膜する方法が挙げられる。なお、本発明のようにAl合金膜の上に酸化物半導体を有する配線構造では、上記(ア)より、上記(イ)の熱処理方法(詳細には、基板を加熱せずに成膜後に加熱処理した後、アルカリ処理する方法)を採用することが推奨される。これにより、Al合金成膜後にアルミナなどの自然酸化膜が表面に形成されてコンタクト抵抗が上昇するのを有効に防止することができる。
【0044】
上記(ア)および(イ)のいずれにおいても、200℃以上での加熱処理時間は、5分間以上で60分間以下とすることが好ましい。また、上記(ア)の基板温度の上限は、好ましくは250℃とする。一方、上記(イ)の成膜後加熱温度は、好ましくは250℃以上である。基材の耐熱温度や、耐ヒロック性などを考慮すると、上記(イ)の成膜後加熱温度を、約350℃以下とすることが好ましい。
【0045】
なお、上記Al合金膜の成膜後に行う加熱処理は、前記析出・濃化を目的に行うものであってもよいし、前記Al合金膜形成後の熱履歴(例えば、SiN膜を成膜する工程)が、前記温度・時間を満たすものであってもよい。
【0046】
上記Al合金膜は、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することが望ましい。イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。また、スパッタリング法で上記Al合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、前述したAl−(Ni/Co)合金(好ましくは、Cu/Geや、希土類元素を更に含むもの)と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成のAl合金膜を形成することができるのでよい。上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、Al基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0047】
また、酸化物半導体層と直接接続する前記Al合金膜の表面は、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されていることが好ましい。これは、上記のようにして成膜したAl合金膜を、酸化物半導体層と直接接続するのに先立って、アルカリ溶液でAl合金膜の表面をウエットエッチング、またはSF6とArの混合ガスでAl合金膜の表面をドライエッチングすることによって得られる。これにより、Alは溶出し、Alよりも貴な合金元素であるNiやCoは金属間化合物に含まれてAl合金膜表面に析出し、Al合金表面に凹凸状として残存することになる。そして、この凹凸が最大高さRzで5nm以上のとき、コンタクト抵抗が低減される。ここで、最大高さRzとは、JIS B0601(2001年改正後のJIS規格)に基づくものである(評価長さは4mm)。
【0048】
上記のような凹凸がAl合金膜表面に形成されると、その後、酸化物半導体層と直接接触させても、高接触電気抵抗となる酸化物(AlOx)は形成されにくい状態となる。場合によっては、Alよりも貴な金属元素を含む析出物が、透明導電膜と直接接触することになる。こうした状況が実現されることによって、酸化物半導体層とAl合金膜における低接触電気抵抗を実現できることになる。最大高さRzは大きい程、良く、おおむね、8nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。製造効率の向上や、透明導電膜の断線防止などの製品の品質維持などを考慮すると、最大高さRzの上限は、おおむね、100nmとすることが好ましく、50nmとすることがより好ましい。
【0049】
上記のような凹凸をAl合金膜に形成するに当たっては、Al合金膜と酸化物半導体層とを直接接続するのに先だって、アルカリ溶液でAl合金膜表面をウエットエッチングまたはドライエッチングすればよいが、このときのエッチング量(エッチング深さ)は、形成される凹凸の最大高さRzで5nm以上を実現するために、5nm以上とすることが好ましい。また、こうしたエッチング処理を行う時期については、Al合金膜と酸化物半導体層が物理的に直接接続する前であればよく、例えば窒化シリコン(SiNx)等の層間絶縁膜を形成する前であっても、同様の効果が発揮される。
【0050】
上記の様なウエットエッチングをするためのアルカリ溶液としては、おおむね、pH9〜13程度(好ましくはpH10.5〜12.8程度)であり、Alを溶出するがAlよりも貴な金属元素を溶出しないアルカリ溶液が挙げられる。具体的には、例えばpH9〜13程度のレジスト剥離液「TOK106」(商品名:東京応化工業株式会社製)の水溶液、後記する実施例に用いたアルカリ溶液(AZ エレクトロニックマテリアルズ株式会社のAZ 300MIFデベロッパー)、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を含む現像液原液またはpH調整のため当該原液を希釈した溶液(pH約10.5〜13.5)、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。上記の「TOK106」は、モノエタノールアミンとジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶液であり、これらの混合比率によってpHの範囲を調整できる。ウエットエッチングの好ましい温度や時間は、所望の最大高さRzが得られるように、使用するアルカリ溶液やAl合金の組成などに応じて適宜適切に定めれば良いが、おおむね、30〜70℃で5〜180秒間(好ましくは、30〜60℃で10〜120秒間)であることが好ましい。
【0051】
またドライエッチングをするためのガスとしては、SF6とArの混合ガス(例えば、SF6:60%、Ar:40%(いずれも体積%))を用いることができる。窒化シリコン膜を形成した後にこの窒化シリコン膜をドライエッチングするときの混合ガスは、一般的にSF6、ArおよびO2の混合ガスが用いられるのであるが、こうした混合ガスによるドライエッチングでは、本発明の目的を達成することができない。ドライエッチングの好ましい条件は、所望の最大高さRzが得られるように、使用する混合ガスの種類やAl合金の組成などに応じて適宜適切に定めれば良い。
【0052】
上記のようなアルカリ溶液または混合ガスを用いてエッチング処理することによって、上記のような金属元素を含む析出物がAl合金膜表面に濃化された状態となる。
【0053】
なお、本発明に用いられるAl合金膜は、好ましくはITOやIZOなどの透明導電膜と直接接続されていても良いが、この場合、当該透明導電膜と直接接続するAl合金膜の表面は、上記と同様に、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されていることが好ましい。これにより、透明導電膜との低コンタクト抵抗が達成される。Rzの好ましい範囲や、その制御方法は、上記と同様に行なえば良い。
【0054】
以上、本発明を最も特徴付けるAl合金膜について詳しく説明した。
【0055】
本発明は、上記Al合金膜に特徴があり、その他の構成要件は特に限定されない。
【0056】
上記酸化物半導体層としては、液晶表示装置などに用いられる酸化物半導体であれば特に限定されず、例えば、In、Ga、Zn、Ti、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものが用いられる。具体的には上記酸化物として、In酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、In−Sn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Sn酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物、Ti酸化物等の透明酸化物やZn−Sn酸化物にAlやGaをドーピングしたAZTOやGZTOが挙げられる。
【0057】
また、画素電極を構成する透明導電膜としては、液晶表示装置などに通常用いられる酸化物導電膜が挙げられ、例えば、In、Ga、ZnおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものが用いられる。代表的には、アモルファスITOやpoly−ITO、IZO、ZnOなどが例示される。
【0058】
また、ゲート絶縁膜などの絶縁膜や、酸化物半導体の上に形成される保護膜(以下、絶縁膜で代表させる場合がある。)は特に限定されず、通常用いられるもの、例えば、SiN、SiO2、SiONなどが挙げられる。ただし、酸化物半導体の特性を有効に発揮させるという観点からすれば、酸性雰囲気下で成膜が可能なSiO2やSiONの使用が好ましい。詳細には、上記絶縁膜は、SiO2のみから構成されている必要は必ずしもなく、酸化物半導体の特性を有効に発揮させる程度の酸素を少なくとも含む絶縁性の膜であれば、本発明に用いることができる。例えば、SiO2の表面のみが窒化されたものや、Siの表面のみが酸化されたものなどを用いても良い。絶縁膜が酸素を含んでいる場合、当該絶縁膜の厚さは、おおむね、0.17nm以上3nm以下であることが好ましい。また、酸素含絶縁膜中の酸素原子数([O])とSi原子数([Si])との比([O]/[Si])の最大値は、おおむね、0.3以上2.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0059】
基板は、液晶表示装置などに用いられるものであれば特に限定されない。代表的には、ガラス基板などに代表される透明基板が挙げられる。ガラス基板の材料は表示装置に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、無アルカリガラス、高歪点ガラス、ソーダライムガラスなどが挙げられる。また、金属ホイルや、イミド樹脂等の耐熱性樹脂基板なども用いられる。
【0060】
上記配線構造を備えた表示装置を製造するにあたっては、本発明の規定を満たし、かつAl合金膜の熱処理・熱履歴条件を上述した推奨される条件とすること以外は、特に限定されず、表示装置の一般的な工程を採用すればよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されず、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適切に改変して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0062】
実施例1
無アルカリガラス板(板厚:0.7mm)を基板とし、その表面に、表1に示す種々の合金組成のAl合金膜(残部:Alおよび不可避的不純物)を、DCマグネトロン・スパッタ法によって成膜した。成膜条件は以下のとおりである。なお、スパッタリングターゲットとしては、真空溶解法で作製した種々の組成のAl合金ターゲットを用いた。
(Al合金膜の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=2mTorr
・基板温度=25℃(室温)、または200℃で30分加熱
・膜厚=300nm
【0063】
上記Al合金膜における各合金元素の含有量は、ICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めた。
【0064】
上記のようにして成膜したAl合金膜を用い、熱処理後のAl合金膜自体の電気抵抗率、並びにAl合金膜を透明画素電極(ITO、IZO)、酸化物半導体(IGZO、ZTO)に直接接続したときのダイレクト接触抵抗(ITOとのコンタクト抵抗、ZTOとのコンタクト抵抗、IGZOとのコンタクト抵抗、またはIZOとのコンタクト抵抗)を、それぞれ下記に示す方法で測定した。
【0065】
(1)熱処理後のAl合金膜自体の電気抵抗率
上記Al合金膜に対し、不活性ガス雰囲気中、250℃で15分間の熱処理を施してから、4探針法で電気抵抗率を測定した。そして下記基準で、熱処理後のAl合金膜自体の電気抵抗率の良否を判定した。
(判定基準)
○:5.0μΩ・cm未満
×:5.0μΩ・cm以上
【0066】
(2)透明画素電極(ITO)とのコンタクト抵抗
上記のようにして成膜したAl合金膜に対し、フォトリソグラフィ、エッチングを順次施して図3に示す電極パターンを形成した。次いで、CVD装置にて膜厚:300nmの窒化シリコン(SiNx)膜を形成した。このときの成膜温度は、表1に示すように250℃または320℃で行った。また、成膜時間はいずれも、15分である。このときの熱履歴により、合金元素を析出物として析出させた。続いて、フォトリソグラフィとRIE(Reactive Ion Etching)装置でのエッチングを行って、窒化シリコン膜にコンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成後、レジストを除去し、アルカリ溶液(AZ エレクトロニックマテリアルズ株式会社のAZ 300MIFデベロッパー(2.38wt%)を薄めて0.4%にした水溶液)でAl合金薄膜表面を室温でウェット処理することによりエッチングを施した。次に、Al合金薄膜の凸部の高さRz[JIS B0601(2001)に基づく最大高さRz]を測定した。最大高さRzの測定は、ミツトヨ製表面粗さ測定器 SJ−301を使用して測定した。評価長さは4mmとし、下記基準で、最大高さRzの良否を判定した。
(判定基準)
○:5nm以上
×:5nm未満
【0067】
その後、ITO膜(透明導電膜)をスパッタリング法にて下記の条件で成膜し、フォトリソグラフィとパターンニングを行って10μm角のコンタクト部分が50個直列につながったコンタクトチェーンパターン(図3を参照)を形成した。図3において、Al合金およびITOの線幅は80μmである。
(ITO膜の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=0.8mTorr
・基板温度=25℃(室温)
・膜厚=200nm
【0068】
上記コンタクトチェーンの全抵抗(コンタクト抵抗、接続抵抗)を、HEWLETT PACKARD 4156A及びAgilent Technologies 4156CのPrecision Semiconductor Parameter Analyzerを用いて、該コンタクトチェーンパターンの両端のパッド部にプローブを接触させ、2端子測定にてI−V特性を測定することによって求めた。そして、コンタクト1個に換算したコンタクト抵抗値を求め、下記基準で、ITOとのダイレクト接触抵抗(ITOとのコンタクト抵抗)の良否を判定した。本実施例では、○または△を合格とした。
(判定基準)
○:1000Ω未満
△:1000Ω以上3000Ω未満
×:3000Ω以上
【0069】
(3)透明画素電極(IZO)とのコンタクト抵抗
ITOに代えてIZOを用いた以外は、前述した(2)ITOとのコンタクト抵抗の場合と同様にして、Al合金膜に対して種々の熱処理を行い、ウェット処理してエッチングを施してAl合金薄膜の凸部の最大高さRzを測定した。
【0070】
その後、IZO膜(透明導電膜)をスパッタリング法にて下記の条件で成膜し、フォトリソグラフィとパターンニングを行って10μm角のコンタクト部分が50個直列につながったコンタクトチェーンパターン(図3を参照)を形成した。図3において、Al合金およびIZOの線幅は80μmである。
(IZO膜の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=0.8mTorr
・基板温度=25℃(室温)
・膜厚=200nm
【0071】
上記コンタクトチェーンの全抵抗(コンタクト抵抗、接続抵抗)を、前述した(2)と同様にして測定し、コンタクト1個に換算したコンタクト抵抗値を求め、下記基準で、IZOとのダイレクト接触抵抗(IZOとのコンタクト抵抗)の良否を判定した。本実施例では、○または△を合格とした。
(判定基準)
○:1000Ω未満
△:1000Ω以上3000Ω未満
×:3000Ω以上
【0072】
(4)酸化物半導体(IGZO)とのコンタクト抵抗
図4に示す電極パターンを用いたこと以外は前述した(2)ITOとのコンタクト抵抗の場合と同様にして、Al合金膜に対して種々の熱処理を行い、ウェット処理してエッチングを施してAl合金薄膜の凸部の最大高さRzを測定した。
【0073】
その後、IGZO膜をスパッタリングで下記の条件で成膜し、フォトリソグラフィとパターンニングを行って80μm角のコンタクトが100個直列につながったコンタクトチェーンパターンを形成した。図4において、Al合金およびIGZOの線幅は80μmである。なお、本実施例では表に示すように異なる原子比のIGZO膜を作製しており、具体的にはIGZO膜用のスパッタリングターゲットとしてIn:Ga:Zn=1:1:1のターゲットと2:2:1のターゲットを用いた。
(酸化物半導体の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=5mTorr
・基板温度=25℃(室温)
・膜厚=100nm
【0074】
上記コンタクトチェーンの全抵抗(コンタクト抵抗、接続抵抗)を、前述した(2)と同様にして測定し、コンタクト1個に換算したコンタクト抵抗値を求め、下記基準で、IGZOとのダイレクト接触抵抗(IGZOとのコンタクト抵抗)の良否を判定した。本実施例では、○または△を合格とした。
(判定基準)
○:1000Ω未満
△:1000Ω以上3000Ω未満
×:3000Ω以上
【0075】
(5)酸化物半導体(ZTO)とのコンタクト抵抗
図4に示す電極パターンを用いたこと以外は前述した(2)ITOとのコンタクト抵抗の場合と同様にして、Al合金膜に対して種々の熱処理を行い、ウェット処理してエッチングを施してAl合金薄膜の凸部の最大高さRzを測定した。
【0076】
その後、ZTO膜をスパッタリングで下記の条件で成膜し、フォトリソグラフィとパターンニングを行って80μm角のコンタクトが100個直列につながったコンタクトチェーンパターンを形成した。図4において、Al合金およびZTOの線幅は80μmである。ZTOのスパッタリングターゲットに用いた組成はZn:Sn=2:1のものを用いた。
(酸化物半導体の成膜条件)
・雰囲気ガス=アルゴン
・圧力=5mTorr
・基板温度=25℃(室温)
・膜厚=100nm
【0077】
上記コンタクトチェーンの全抵抗(コンタクト抵抗、接続抵抗)を、前述した(2)と同様にして測定し、コンタクト1個に換算したコンタクト抵抗値を求め、下記基準で、ZTOとのダイレクト接触抵抗(ZTOとのコンタクト抵抗)の良否を判定した。本実施例では、○または△を合格とした。
(判定基準)
○:1000Ω未満
△:1000Ω以上3000Ω未満
×:3000Ω以上
【0078】
(6)析出物密度
析出物の密度は走査電子顕微鏡の反射電子像を用いて求めた。具体的には、1視野(100μm)内の析出物の個数を測定し、3視野の平均値を求め、下記基準で、析出物密度の良否を判定した。本実施例では、○または△を合格とした。
(判定基準)
○:40個以上
△:30個以上40個未満
×:30個未満
【0079】
これらの結果を表1、表2にまとめて示す。
【0080】
表1において、「加熱成膜(200℃)」の欄はAl合金成膜時の基板温度を意味し、「○」は基板温度を200℃にした例、「−」は基板温度を室温とした例である。
【0081】
また、表1において、「Al合金膜の最大高さRz」の欄には、ITO、IZO、ZTO及びIGZOと直接接続するAl合金膜のRzの結果をまとめて示しており、「○」は、両方の判定結果が○(Rz5nm以上)を意味し、「×」は、両方の判定結果がいずれも×(Rz5nm未満)を意味する。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1、表2に示す結果より、以下のように考察することができる。
【0085】
まず、本発明で規定するAl合金(Niおよび/またはCo、更にはCuおよび/またはGe、更には希土類元素)を用いると、低い電気抵抗率を維持したまま、純Al(No.1)を用いた場合に比べ、IGZO(酸化物半導体)、ZTO(酸化物半導体)、ITO(透明導電膜)、及びIZO(透明導電膜)とのコンタクト抵抗を低減させることができた(No.3〜5、8〜10、13〜19、22〜25、27、28、31〜34、37〜40、42〜44、46、48〜50を参照)。
【0086】
詳細には、これらAl合金膜とIGZO、ZTO、ITOまたはIZOとの界面には、Niおよび/またはCoの析出物/濃化層が形成されており、当該Al合金膜の最大高さRzは、いずれも5nm以上であった。熱処理条件に関して言えば、No.13のようにAl合金成膜時の基板温度を200℃に加熱し(加熱成膜)、その後の熱処理は行なわない場合;例えばNo.3〜5、8〜10、14、16、24、25、27またはNo.28のように基板は加熱せずに(室温まま)、Al合金成膜後の加熱温度を250℃または320℃に高めた場合;No.15またはNo.17のように基板温度を200℃に加熱し(加熱成膜)、Al合金成膜後の加熱温度を250℃または320℃に高めた場合のいずれにおいても、Al合金膜の最大高さRzは5nm以上となり、コンタクト抵抗が低く抑えられていた。なお、No.13のように加熱成膜を行なった例では、表1に示すようにIGZO、ZTO、ITO、及びIZOとのコンタクト抵抗が若干上昇した(△)が、実用上支障のないものである。またNo.3、8はNiまたはCo添加量が少なく、析出物密度が低く(△)、コンタクト抵抗が若干上昇したが(△)、実用上支障のないものである。
【0087】
図5はNo.46のAl合金(Al−2原子%Ni−0.35原子%La)とIGZO(In:Ga:Zn(原子比)=1:1:1)との界面の状態を示すTEM画像であるが(ウェット処理と熱処理を行った例)、図5に示すようにAl合金とIGZOの界面にはNiを含む析出物が形成されており、IGZOと直接コンタクトしていることが確認できた。なお、図6は比較のためにNo.46と同じ合金組成のAl合金とIGZOとの界面の状態を示すTEM画像であるが、この比較例はウェット処理も熱処理も行っておらず、図6に示すようにAl合金とIGZOの界面にはNiを含む析出物および/またはNiを含む濃化層が形成されていないことが確認できた。
【0088】
これに対し、No.12は、加熱成膜およびAl合金成膜後の加熱処理のいずれの熱処理も行なわなかった例であり、Al合金膜の最大高さRzは5nm未満となり、IGZOZTO、ITO、及びIZOとのコンタクト抵抗が上昇した。
【0089】
また、No.6、20、26およびNo.41はNi量が多い例、No.11、29、35およびNo.51はCo量が多い例であり、いずれも、電気抵抗率が上昇した。
【0090】
一方、No.2、21およびNo.36はNi量が少ない例、No.7、30およびNo.47はCo量が少ない例であり、いずれも、析出物密度が十分でなく、IGZO、ZTO、ITO、及びIZOとのコンタクト抵抗が上昇した。
【0091】
また、No.45は、ウェット処理を行なわなかった例であり、Al合金膜の最大高さRzが5nm未満となり、析出物密度が十分でなくIGZO、ZTO、ITO、及びIZOとのコンタクト抵抗が上昇した。
【0092】
なお、表1の各合金組成において、NdおよびLaは、IGZO、ZTO、ITO、及びIZOとのコンタクト抵抗の低減化に悪影響を及ぼさず、Ndの代わりにLaを、Laの代わりにNdを用いても同様の結果が得られることを実験により確認している。同様に、NdやLaの代わりにGdを用いても、同様の結果が得られることを実験により確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、基板側から順に、Al合金膜と、前記Al合金膜と直接接続する薄膜トランジスタの半導体層と、を有し、
前記半導体層は酸化物半導体からなり、
前記Al合金膜は、Niおよび/またはCoを含むものであることを特徴とする配線構造。
【請求項2】
前記Al合金膜は、前記半導体層と直接接続する同一平面で、画素電極を構成する透明導電膜と直接接続するものである請求項1に記載の配線構造。
【請求項3】
前記Al合金膜は、Niおよび/またはCoを0.10〜2原子%含むものである請求項1または2に記載の配線構造。
【請求項4】
前記Al合金膜と前記酸化物半導体層との界面に、Niおよび/またはCoの一部が析出および/または濃化している請求項1〜3のいずれかに記載の配線構造。
【請求項5】
前記Al合金膜は、更にCuおよび/またはGeを0.05〜2原子%含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の配線構造。
【請求項6】
前記Al合金膜は、更に希土類元素を0.05〜1原子%含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の配線構造。
【請求項7】
前記希土類元素は、Nd、La、およびGdよりなる群から選択される少なくとも一種である請求項6に記載の配線構造。
【請求項8】
前記酸化物半導体層と直接接続する前記Al合金膜の表面は、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである請求項1〜7のいずれかに記載の配線構造。
【請求項9】
前記透明導電膜と直接接続する前記Al合金膜の表面は、最大高さRzで5nm以上の凹凸が形成されたものである請求項2〜8のいずれかに記載の配線構造。
【請求項10】
前記酸化物半導体は、In、Ga、Zn、Ti、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものである請求項1〜9のいずれかに記載の配線構造。
【請求項11】
前記透明導電膜は、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなるものである請求項2〜10のいずれかに記載の配線構造。
【請求項12】
前記透明導電膜は、ITOまたはIZOである請求項2〜11のいずれかに記載の配線構造。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の配線構造を備えた表示装置。
【請求項14】
請求項4〜12のいずれかに記載の配線構造の製造方法であって、
前記Al合金膜を成膜し、成膜後に200℃以上の加熱温度で熱処理した後、アルカリ処理を行なってから前記酸化物半導体層を成膜するか、または
前記Al合金膜を200℃以上の基板温度で成膜した後、アルカリ処理を行なってから前記酸化物半導体層を成膜することにより、前記Al合金膜と前記酸化物半導体層との界面に、Niおよび/またはCoの一部を析出および/または濃化させることを特徴とする配線構造の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−49542(P2011−49542A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168595(P2010−168595)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】