説明

半導体装置の製造方法

【課題】高品質なIII族窒化物を結晶成長させ、高品質な半導体装置を得ることが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化サファイア基板をアルカリエッチングし、窒化サファイア基板を清浄化する。その後、III族窒化物を結晶成長させることにより、極めて高品質なN極性結晶を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア基板上にIII族窒化物を結晶成長させて得られる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物を結晶成長させる単結晶基板として、熱的にも化学的にも安定なサファイア(α−Al)が広く用いられている。また、III族窒化物として、AlNは、約6.2eVのバンドギャップエネルギーを有し、サファイア(0001)基板との格子定数が近いことなどから、他のIII族窒化物のヘテロエピタキシャル成長の際のバッファ層として多く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−213586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、サファイア基板の表面を直接窒化することにより、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜を形成することが報告されている。具体的には、熱処理装置の均熱部に、サファイア基板とグラファイトを装入し、N−CO混合ガスの組成を調節することにより、酸素ポテンシャルと窒素ポテンシャルを制御した雰囲気下で、サファイア基板を窒化し、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜を形成する。
【0005】
しかしながら、特許文献1の直接窒化により形成されたAlN薄膜は、完全な単結晶ではなく、c軸が約1度傾いたグレインや、面内に30度回転したグレインが存在することが知られていた。このため、直接窒化により形成されたAlN薄膜上に高品質なIII族窒化物を結晶成長させることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたものであり、高品質なIII族窒化物を結晶成長させ、高品質な半導体装置を得ることが可能な半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、直接窒化されたサファイア基板(以下、窒化サファイア基板ともいう。)をアルカリエッチングすることにより、窒化サファイア基板中の回転ドメインを抑制し、高品質なIII族窒化物の結晶成長が可能となることが分かった。
【0008】
すなわち、本発明に係る半導体装置の製造方法は、窒化サファイア基板をアルカリエッチングし、該窒化サファイア基板を清浄化する清浄化工程と、前記清浄化された窒化サファイア基板上にIII族窒化物を結晶成長させるIII族窒化物成長工程とを有する。
【0009】
また、本発明に係る高電子移動度素子は、上述した半導体装置の製造方法によって得られるN極性AlGaN/GaN構造を有する。
【0010】
また、本発明に係る受光素子は、上述した半導体装置の製造方法によって得られるN極性p−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造を有する。
【0011】
また、本発明に係る発光素子は、上述した半導体装置の製造方法によって得られるAlNバッファ層を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、窒化サファイア基板をアルカリエッチングすることにより、窒化サファイア基板中の回転ドメインを抑制することができる。これは、回転ドメインが存在する領域のエッチングレートが、回転ドメインが存在しない領域のエッチングレートよりも速いことを利用したものである。よって、窒化サファイア基板上に結晶成長させたIII族窒化物は、窒化サファイア基板の結晶性を引き継いで高品質となり、高品質な半導体装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態におけるPLD装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態における半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】窒化サファイア基板上にIII族窒化物を成膜させた積層構造体の断面図である。
【図4】高電子移動度トランジスタの構成例を示す図である。
【図5】受光素子の構成例を示す図である。
【図6】発光素子の構成例を示す図である。
【図7】エッチング処理後のAlN薄膜のSEM像である。
【図8】エッチング処理後のAlN薄膜((a)エッチングレートの遅い領域、(b)エッチングレートの速い領域)のSEM像である。
【図9】エッチング処理後のAlN薄膜のSEM像である。
【図10】エッチングレートの遅い領域における{10−11}EBSD極点図である。
【図11】エッチングレートの速い領域における{10−11}EBSD極点図である。
【図12】エッチングレートの遅い領域及び速い領域におけるEBSDツイスト分布角を示すグラフである。
【図13】エッチングレートの遅い領域におけるSEM像である。
【図14】エッチングレートの速い領域におけるSEM像である。
【図15】窒化サファイア基板のエッチング時間tを0s、15s、60s、90sとしたときのAlN(0002)回折、Sapp.(0006)回折、AlN(0004)回折及びSapp.(00012)回折の2θ/ωカーブを示す図である。
【図16】窒化サファイア基板のエッチング時間tを0sとしたときのAlN(10−12)回折のX線ロッキングカーブを示す図である。
【図17】窒化サファイア基板のエッチング時間tを10sとしたときのAlN(10−12)回折のX線ロッキングカーブを示す図である。
【図18】窒化サファイア基板のエッチング時間tを60sとしたときのAlN(10−12)回折のX線ロッキングカーブを示す図である。
【図19】高電子移動度トランジスタのシミュレーション構成を示す図である。
【図20】N極性の高電子移動度トランジスタにおける垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図21】III族極性の高電子移動度トランジスタにおける垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図22】受光素子のシミュレーション構成を示す図である。
【図23】III族極性及びN極性のp−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造を示す図である。
【図24】In0.5Ga0.5N受光層を有する受光素子における極性に対する変換効率のシミュレーション結果を示す図である。
【図25】N極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図26】無極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図27】III族極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図28】In0.12Ga0.88N受光層を有する受光素子における極性に対する変換効率のシミュレーション結果を示す図である。
【図29】N極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図30】無極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【図31】III族極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の具体例として示す半導体装置の製造方法は、窒化サファイア基板をアルカリエッチングして窒化サファイア基板を清浄化し、窒化サファイア基板上にIII族窒化物を結晶成長させるものである。
【0015】
窒化サファイア基板は、サファイア基板をN−CO混合ガス中で窒素と酸素の化学ポテンシャルを精密に制御しながら穏やかに窒化させたものであり、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜が形成されている。
【0016】
アルカリエッチングには、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH:tetramethyl ammonium hydroxide)((CHNOH)などの水溶液が用いられる。エッチング液濃度、時間、温度などのエッチング条件は、窒化サファイア基板に応じて最適化される。エッチング方法としては、エッチング液の入ったエッチング槽に基板を浸すディップ式、基板を回転させながらエッチング液をスプレーするスピン式などがあるが、簡便なディップ式が好ましく用いられる。
【0017】
本実施の形態におけるIII族窒化物の結晶成長のプロセスとしては、特に限定されるものではなく、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)、パルス励起堆積法(PXD:Pulsed eXcitation Deposition)等を用いることができる。
【0018】
図1は、パルス励起堆積法の一つであるパルスレーザ堆積法(PLD:Pulsed Laser Deposition)に適用される結晶成長装置の構成例を示す図である。
【0019】
PLD装置1は、内部に充填されたガスの圧力及び温度を一定に保ち、密閉空間を形成するチャンバを備え、チャンバ内に基板2とターゲット3とを対向して配置する。また、PLD装置1は、波長が248nmの高出力のパルスレーザを出射するKrFエキシマレーザ4と、チャンバ内へ注入する窒素ガスをラジカル化するラジカル源5と、反射高エネルギー電子線解析装置(RHEED:Reflection High Energy Electron Diffraction)6とを備える。
【0020】
KrFエキシマレーザ4は、KrとFの混合ガス中で放電することによりFが分解・励起され、Krと結合することにより不安定なKrFエキシマが形成される。あるエキシマが分解して基底状態に落ちるときに放出される光(波長248nm)によって他のエキシマで誘導放出が発生し、さらに共振器で増幅されることにより高エネルギーのレーザ光が出力される。
【0021】
ラジカル源5は、窒素ガスを、高周波を用いて一旦励起することにより窒素ラジカル又は窒素イオンを含む気体とし、この気体を基板2の表面に照射可能となっている。このラジカル源5は、中空の放電室と放電室の外側周囲に巻き回された高周波コイル(RFコイル)等を備え、液体窒素ボンベ等の窒素源から放電室に供給された窒素ガスに、高周波コイルによって高周波を印加し、プラズマと呼ばれる窒素原子が電離によって生じた電荷を帯びた粒子(荷電粒子)を含む気体を発生させる。
【0022】
反射高速電子回折装置6は、真空中で電子銃により電子を加速し、加速した電子を基板2表面にごく浅い角度で出射する。電子線は、基板2表面で反射して、蛍光スクリーン7に達し、回折図形として現れる。この反射高速電子回折装置6によれば、基板2表面や薄膜表面のその場(in-situ)観察が可能である。
【0023】
また、PLD装置1は、チャンバ内の圧力を制御するための圧力弁とロータリーポンプとを備える。チャンバ内の圧力は、減圧下で成膜するPLD法のプロセスを考慮しつつ、ロータリーポンプにより窒素雰囲気中において所定の圧力となるように制御される。
【0024】
また、PLD装置1は、パルスレーザが照射されるターゲット3a〜3dを回転させる回転軸と、パルスレーザが照射されるターゲット3a〜3dを切り換えるリボルバーと、基板2を加熱するランプヒータ8とを備え、異種材料による多層膜の成長が可能である。
【0025】
上述した構成を有するPLD装置1において、チャンバ内に窒素ガスを充満させた状態で、ターゲット3を回転駆動させつつパルスレーザ光を断続的に照射すると、ターゲット3表面の温度が急激に上昇し、ターゲット3原子が含まれたアブレーションプラズマを発生させる。このアブレーションプラズマ中に含まれるターゲット3原子は、窒素ガスとの衝突反応等を繰り返しながら状態を徐々に変化させて基板2へ移動する。そして、基板2へ到達したターゲット3原子を含む粒子は、そのまま基板2上に拡散し、格子整合性の最も安定な状態で薄膜化される。
【0026】
次に、図1及び図2を参照して、本発明の一実施の形態における半導体装置の製造方法について説明する。具体例として示す半導体装置の製造方法は、窒化サファイア基板をアルカリエッチングし、窒化サファイア基板を清浄化する清浄化工程(ステップS1)と、清浄化された窒化サファイア基板上にIII族窒化物を結晶成長させるIII族窒化物成長工程(ステップS2)と、III族窒化物に電極などを形成するデバイス加工工程(ステップS3)とを有する。
【0027】
サファイア基板を直接窒化する方法は、特開2006−213586号公報などに記載されているように、サファイア基板を炭素飽和下でN−CO混合ガスを用いて、窒素及び酸素ポテンシャルを精密に制御して穏やかに窒化反応を進行させる。これにより、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜を形成することができる。しかしながら、このAlN薄膜は、完全な単結晶ではなく、c軸が約1度傾いたグレインや、面内に30度回転したグレインが存在する。
【0028】
そこで、ステップS1では、窒化サファイア基板をアルカリエッチングする。具体的には、所定濃度のアルカリエッチング液の入ったエッチング槽に窒化サファイア基板を所定時間浸す。例えば0.1mM KOH水溶液を用いる場合、室温で10〜50秒間、窒化サファイア基板をKOH水溶液中に浸す。これにより、エッチング速度が大きい回転ドメインが存在する領域を選択的にエッチングし、回転ドメインを除去することができる。
【0029】
ステップS2では、作製するデバイスに応じて窒化サファイア基板のAlN薄膜上にIII族窒化物(InAlGaN、但し0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)の多層膜を成長させる。ここで、窒化サファイア基板10(図3)のAlN薄膜上に成長させるInAlGa1−x−yNとしては、AlN(x=0、y=1、z=0)であることが好ましい。
【0030】
具体的には、図1において、ターゲット3として多結晶AlNを設置し、KrFエキシマレーザ4からパルスレーザ光を断続的にターゲット3に照射し、ターゲット3表面からターゲット3原子が含まれたアブレーションプラズマを発生させる。このアブレーションプラズマ中に含まれるAlN原子と、ラジカル源5から照射された窒素ラジカル又は窒素イオンを含む気体とが衝突反応等を繰り返しながら状態を徐々に変化させて窒化サファイア基板へ移動し、格子整合性の最も安定な状態でAlNが薄膜化される。
【0031】
図3は、窒化サファイア基板上にIII族窒化物を成膜させた積層構造体の断面図である。この積層構造体は、サファイア基板10と、サファイア基板10の(0001)面に直接窒化により形成されたAlN薄膜11と、AlN薄膜上に成膜されたAlNバッファ層12と、III族窒化物膜13とを有する。このようにサファイア基板10の直接窒化により形成されたAlN薄膜11上にバッファ層12としてAlNをホモエピタキシャル成長させることにより、バッファ層12の良好な結晶性を引き継いでIII族窒化物薄膜13を成長させることができる。
【0032】
ステップS3では、窒化サファイア基板上に成長させたIII族窒化物薄膜にフォトリソグラフィーによって電極を形成し、後述するようなデバイスに加工する。
【0033】
III族窒化物は、強いピエゾ分極・自発分極を有しており、この分極に応じてAlGaN/GaNヘテロ接合界面に対するc軸の方向、すなわち(0001)及び(000−1)に応じて、AlGaN/GaNヘテロ接合界面へのキャリアの誘起が促進もしくは阻害される。また、III族窒化物は、ウルツ鉱型構造であることから、c軸方向にIII族極性、N極性のいずれかを持つが、上述した製造方法によれば、極めて高品質なN極性III族窒化物を得ることができる。極性の判定は、例えば2keV程度の低エネルギーHeイオンを試料に照射し、試料に衝突して散乱するHe粒子の運動エネルギー及び試料結晶軸に対する散乱強度を測定することにより、試料を構成する原子の種類及び配列に関する情報を得ることができる。この極性を制御したヘテロ接合界面を利用することにより、次に説明するような優れたデバイスを提供することができる。
【0034】
また、ステップS2において、N極性からIII族極性に反転させ、III族極性のIII族窒化物を得てもよい。極性反転プロセスは、N極性のAlNバッファ層12を酸化させ、このAlN酸化層を低温で窒化処理することにより、AlN酸化層上にIII族極性のIII族窒化物を成長させるものである。AlNバッファ層12の酸化処理としては、大気中における熱酸化、オゾン−紫外線照射法による酸化などを用いることができる。また、AlN酸化層の窒化処理としては、プラズマ窒化、ガス窒化などを用いることができる。このような極性反転プロセスを用いることにより、極性反転に伴う結晶性の劣化を防ぐことができる。
【0035】
<高電子移動度素子>
図4は、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)の構成例を示す図である。この高電子移動度トランジスタは、サファイア基板10と、AlN薄膜11と、AlNバッファ層12と、チャネル層21と、障壁層22と、ソース電極23と、ドレイン電極24と、ゲート電極25と、SiO層26とを有する。
【0036】
窒化サファイア基板10、11は、上述したように炭素飽和下でN−CO混合ガスの組成を調節することにより、酸素ポテンシャルと窒素ポテンシャルを制御し、サファイア基板10を窒化し、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜11を形成したものである。
【0037】
AlNバッファ層12は、AlN薄膜11上に形成されるチャネル層21と障壁層22との結晶品質を良好にするために数百nm程度の厚みに形成されるAlN層である。
【0038】
チャネル層21は、N極性のGaNにて数μm程度の厚みに形成されるGaN層である。
【0039】
障壁層22は、AlGaN(但し、0≦y≦1、0≦z≦1、y+z=1)からなるIII族窒化物の薄膜層である。
【0040】
ソース電極23及びドレイン電極24は、障壁層22との間にオーミック性接触を有し、例えば、Ti/Al/Ni/Auからなる多層金属電極である。ゲート電極25は、障壁層22との間にショットキー性接触を有し、例えばPd/Auからなる多層電極である。SiO層26は、ゲート電極25直下に形成され、このSiOによって生じる電荷が電子をトラップしてオフ時のリークを抑制することにより高耐圧を実現する。
【0041】
このような構成を有する高電子移動度素子において、チャネル層21と障壁層22との界面がAlGaN/GaNヘテロ接合となるため、結晶性による自発分極と、AlGaNとGaNのひずみによるピエゾ電気分極とが存在し、この分極によってチャネル層にn型不純物をドープしなくても、AlGaN/GaN界面に二次元電子ガスが誘起され、高電子移動度トランジスタが実現される。
【0042】
本実施の形態における半導体装置の製造方法では、高品質なN極性のIII族窒化物が得られるため、高電子移動度素子は、N極性のAlGaN/GaN接合界面を有する。これにより、後述のようにノーマリーオフ動作が可能な高電子移動度素子を実現することができる。
【0043】
<受光素子>
図5は、受光素子の構成例を示す図である。この受光素子は、サファイア基板10と、AlN薄膜11と、AlNバッファ層12と、n型GaN層31と、受光層32と、p型GaN層33と、透光性電極34と、p電極35と、n電極36と、裏面反射層37を有する。
【0044】
窒化サファイア基板10、11は、上述したように炭素飽和下でN−CO混合ガスの組成を調節することにより、酸素ポテンシャルと窒素ポテンシャルを制御し、サファイア基板10を窒化し、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜11を形成したものである。
【0045】
AlNバッファ層12は、AlN薄膜11上に形成されるn型GaN層31、受光層32、及びp型GaN層33の結晶品質を良好にするために形成されるAlN層である。
【0046】
n型GaN層31は、GaNにSi、Ge、Sn等のドナー不純物をドープしてn型としたものである。
【0047】
受光層32は、ノンドープのInGaN(但し0≦x≦1、0≦z≦1、x+z=1)である。なお、ノンドープのInGaNは、n型となり小数のキャリア電子が存在するので、このキャリア電子濃度を減少させる目的の限度においてアクセプター不純物をドープしてもよい。
【0048】
p型GaN層33は、GaNにZn、Mg、Ca等のアクセプター不純物をドープしてp型としたものである。
【0049】
透光性電極34及びp電極35は、Au、Pt、pd、Co、Ni又はこれらの合金等からなる。n電極36は、Al、V、Au、Rh又はこれらの合金等からなる。裏面反射層37は、発電に寄与せず通過した光をもう一度反射させ受光層32に導入させて発電に寄与させようとするものであり、Ag、Ti、Al等を含む。
【0050】
このような構成を有する受光素子において、光が照射されると、受光層32に電子及びホールが生じ、電子及びホールがそれぞれn型GaN層31及びp型GaN層33に供給され、電流が流れる。
【0051】
本実施の形態における半導体装置の製造方法では、高品質なN極性のIII族窒化物が得られるため、受光素子は、N極性のp−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造を有する。これにより、後述のように高いエネルギー変換効率を有する受光素子を実現することができる。
【0052】
なお、サファイアは透光性であるため、サファイア基板10側から光を入射させることも可能である。この場合、裏面反射層37は不要であり、さらに、変換効率を高めるために透光性電極34の代わりに高反射率の電極材料を使用してもよい。
【0053】
<発光素子>
図6は、発光素子の構成例を示す図である。この発光素子は、サファイア基板10と、AlN薄膜11と、AlNバッファ層12と、下地層41と、n型GaNクラッド層42と、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造層43と、p型AlGaNクラッド層44と、p型GaNコンタクト層45と、p型電極46と、n型電極47とを有する。
【0054】
窒化サファイア基板10、11は、上述したように炭素飽和下でN−CO混合ガスの組成を調節することにより、酸素ポテンシャルと窒素ポテンシャルを制御し、サファイア基板10を窒化し、サファイア基板上に数原子層のAlN薄膜11を形成したものである。
【0055】
AlNバッファ層12は、AlN薄膜11上に形成される下地層41、n型GaNクラッド層42、MQW構造43、p型AlGaNクラッド層44、及びp型GaNコンタクト層45の結晶品質を良好にするために形成されるAlN層である。
【0056】
下地層41は、N極性からIII族極性に反転させるためのものであり、N極性のAlNバッファ層12を酸化させ、このAlN酸化層を低温で窒化処理することにより、AlN酸化層上にIII族極性のIII族窒化物を成長させる。例えば、AlN酸化層によりN極性からAl極性に反転させたAlNを成長させ、このAlN層上にGa極性のアンドープGaNを形成する。
【0057】
n型GaNクラッド層(=コンタクト層)42は、GaNにSi、Ge、Sn等のドナー不純物をドープしてn型としたものである。このコンタクト層42は、部分的に露出しており、露出面にはn型電極47が形成されている。
【0058】
多重量子井戸構造43層は、例えば、GaN障壁層/InGaN井戸層/GaN障壁層/InGaN井戸層/GaN障壁層を有し、紫外線発光可能なInGaNを含み、井戸層の数が2〜20である。
【0059】
p型AlGaNクラッド層44は、AlGaNにZn、Mg、Ca等のアクセプター不純物をドープしてp型としたものである。
【0060】
p型GaNコンタクト層45は、GaNにZn、Mg、Ca等のアクセプター不純物をドープしてp型としたものである。このp型GaNコンタクト層45の上面には、p型電極46が形成されている。
【0061】
このような構成を有する発光素子において、電圧を加えて電流を流すと、p型GaNクラッド層42から正孔が、n型AlGaNクラッド層44から電子がMQW構造層43に供給され、MQW構造層43でキャリア(電子、正孔)が閉じ込められ、効率良く紫外線を発光する。
【0062】
本実施の形態における半導体装置の製造方法では、高品質なN極性のIII族窒化物が成長する。また、極性をIII族極性に反転させた下地層41も極めて高品質なため、高出力な発光素子が実現可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
<AlN薄膜のKOHエッチング処理>
2インチc面窒化サファイア基板上へPXD法によりAlN薄膜を400nm成長させた。ターゲット材料には多結晶AlNを用い、1×10−6Torrの窒素雰囲気下で成長を行った。成長後のサンプルを2M KOH水溶液を用いて30秒間エッチングし、その表面構造を走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)、電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)により評価した。
【0065】
図7〜図9は、それぞれエッチング処理後のAlN薄膜のSEM像である。KOHエッチング処理後の表面SEM像からは角錐状の柱状構造が観察された。また、図8に示すように面内にはエッチングレートの遅い領域(a)と速い領域(b)とが混在することが明らかになった。また、窒化サファイア基板上に成長したAlN薄膜は、N極性であることが分かった。
【0066】
図10及び図11は、それぞれエッチングレートの遅い領域及び速い領域における{10−11}EBSD極点図である。また、図12は、エッチングレートの遅い領域及び速い領域におけるEBSDツイスト分布角を示すグラフである。エッチングレートの遅い領域(a)では明瞭なシングルピークが得られたのに対して、エッチングレートの速い領域(b)ではショルダーピークが観察され、約1°回転したドメインが混入していることが分かった。以上の結果から回転ドメインは特定の領域に局在しており、ドメイン間の結晶粒界から優先的にエッチングが進行することでエッチングレートの差が生じると考えられる。
【0067】
図13及び図14は、それぞれエッチングレートの遅い領域及び速い領域におけるSEM像である。図13に示すエッチングレートの遅い領域では、粒界にピットは見られなかったが、図14に示すエッチングレートの速い領域では、点円に示すように粒界にピットが観察(2×10cm−2)され、結晶欠陥密度が高いことが分かった。ピットが集合している部分には粒界があり、それに伴い、エッチングレートが速くなると考えられる。
【0068】
以上の結果より、AlN膜のエッチングレートが遅い領域では、シングルドメインであるのに対して、AlN膜のエッチングレートが速い領域では、回転ドメインが存在していることが分かった。
【0069】
<窒化サファイア基板のKOHエッチング処理>
2インチc面窒化サファイア基板を0.1M KOH水溶液を用いて0、15、60、90秒間エッチングし、その表面構造をX線回折装置(ブルッカー社製D8system)により評価した。
【0070】
図15は、窒化サファイア基板のエッチング時間tを0s、15s、60s、90sとしたときのAlN(0002)回折、Sapp.(0006)回折、AlN(0004)回折及びSapp.(00012)回折の2θ/ωカーブを示す図である。エッチング時間tが長くなるにつれて、AlN(0002)回折、及びAlN(0004)回折のピークが小さくなった。
【0071】
また、図16〜図18は、それぞれ窒化サファイア基板のエッチング時間tを0s、10s、60sとしたときのAlN(10−12)回折のX線ロッキングカーブを示す図である。図16に示すエッチング時間tが0sのX線ロッキングカーブは、ダブルドメインの混入を示すピーク割れが観測された。また、図17に示すエッチング時間tが10sのX線ロッキングカーブは、ピーク割れが小さくなり、ダブルドメインの混入が抑制されていることが分かった。また、図18に示すエッチング時間tが60sのX線ロッキングカーブは、半値幅が広くなり、サファイアの露出により結晶性が劣化していることが分かった。
【0072】
以上の結果より、窒化サファイア基板をKOHでエッチング処理することにより、窒化サファイア基板上に成長するAlN薄膜中のダブルドメインの混入を抑制できることが分かった。
【0073】
<窒化サファイア基板上に成長したAlN薄膜の極性反転プロセス>
先ず、2インチc面窒化サファイア基板を0.1M KOH水溶液を用いて15秒間エッチングした。このKOHエッチング処理した窒化サファイア基板上へPXD法によりAlN薄膜を80nm成長させた。ターゲット材料には多結晶AlNを用い、1×10−6Torrの窒素雰囲気下で成長を行った。
【0074】
次に、300℃の大気雰囲気下でAlNを酸化させた。
【0075】
次に、超真空チャンバ内で窒化サファイア基板表面に窒素プラズマを照射し、AlN酸化層表面をプラズマ窒化処理した。RFプラズマ・ラジカル源(Veeco社製UNI-Bulb)は、400W、5.0×10−6Torrに設定した。
【0076】
次に、プラズマ窒化処理したAlN酸化層上へPXD法によりAlN薄膜を240nm成長させた。ターゲット材料には多結晶AlNを用い、1×10−6Torrの窒素雰囲気下で成長を行った。
【0077】
このように作製したAlN酸化膜上のAlN膜をKOH水溶液でエッチングしたところ、エッチング処理前後で表面粗さRMS、表面モフォロジーに変化は見られなかった。これは、Al極性がN極性に比してアルカリ溶液に対する耐性が強く、エッチングレートが遅いためである。アルカリ溶液に対する耐性が弱いN極性であれば、エッチング処理前後で表面粗さRMS、表面モフォロジーが変化する。以上より、プラズマ窒化処理したAlN酸化層上にAlNを成長させることにより、N極性からAl極性に極性が反転したものと示唆される。
【0078】
<高電子移動度素子のシミュレーション>
デバイスシミュレータ(商品名:ATLAS、シルバコ・インターナショナル社製)を用いて高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)のシミュレーションを行った。
【0079】
図19は、高電子移動度トランジスタのシミュレーション構成を示す図である。この高電子移動度トランジスタは、チャネル層であるGaN層51と、障壁層であるAl0.3Ga0.7N層52と、ソース電極53と、ドレイン電極54と、ゲート電極55と、SiO層56とを有する。障壁層の厚さは0.02マイクロメートルとし、III族窒化物結晶がN極性である場合とIII族極性である場合とでシミュレーション評価した。
【0080】
図20及び図21は、それぞれN極性及びIII族極性の高電子移動度トランジスタにおける垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。図21に示すIII族極性のエネルギーバンドダイアグラムでは、Al0.3Ga0.7N/GaNヘテロ接合界面に電子のたまりがある。一方、図20に示すN極性のエネルギーバンドダイアグラムでは、Al0.3Ga0.7N/GaNヘテロ接合界面に電子のたまりがない。したがって、ゲート電圧が印加されていないときには電流が流れないノーマリーオフ型の高電子移動度トランジスタを実現することができる。
【0081】
<受光素子のシミュレーション>
デバイスシミュレータ(商品名:ATLAS、シルバコ・インターナショナル社製)を用いて受光素子のシミュレーションを行った。
【0082】
図22は、受光素子のシミュレーション構成を示す図である。この受光素子は、n型GaN層61と、受光層であるInGaN層62と、p型GaN層63とを有する。すなわち、n型GaN層61とp型GaN層63との間にInGaN層62を挟んだダブルヘテロ構造を有する。ここで、ピエゾ分極・自発分極を考慮し、p型GaN層63の厚さを150nm、InGaN層62の厚さを200nmとした。また、AM(エア・マス)1.5と称する0.1W/cmの光源を用いて受光素子をシミュレーションした。
【0083】
図23(a)及び図23(b)は、それぞれIII族極性及びN極性のp−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造を示す図である。図23に示すように、III族極性面及びN極性面は、III族窒化物のピエゾ分極・自発分極により発生する電界の影響を受けるため、III族窒化物結晶がN極性である場合とIII族極性である場合とでシミュレーション評価した。
【0084】
図24は、In0.5Ga0.5N受光層を有する受光素子における極性に対する変換効率のシミュレーション結果を示す図である。また、図25乃至図27は、それぞれN極性、無極性及びIII族極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【0085】
また、図28は、In0.12Ga0.88N受光層を有する受光素子における極性に対する変換効率のシミュレーション結果を示す図である。また、図29乃至図31は、それぞれN極性、無極性及びIII族極性の受光素子における垂直方向のエネルギーバンドダイアグラムのシミュレーション結果を示す図である。
【0086】
これらの結果より、無極性面及びN極性の受光素子で高い変換効率が得られるのに対し、III族極性の受光素子では圧電分極電場によるキャリア閉じ込めにより変換効率が大幅に低下することが分かる。よって、高効率太陽電池を得るためには、p−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造において無極性面からN極性の範囲のInGaNを成長させればよいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化サファイア基板をアルカリエッチングし、該窒化サファイア基板を清浄化する清浄化工程と、
前記清浄化された窒化サファイア基板上にIII族窒化物を結晶成長させるIII族窒化物成長工程と
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記清浄化工程では、水酸化カリウムでエッチングすることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記III族窒化物成長工程では、前記窒化サファイア基板上にN極性のAlNバッファ層を結晶成長させ、該AlNバッファ層を酸化及び窒化処理することを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法によって得られるN極性AlGaN/GaN接合界面を有することを特徴とする高電子移動度素子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法によって得られるN極性p−GaN/i−InGaN/n−GaN/基板構造を有することを特徴とする受光素子。
【請求項6】
請求項3に記載の半導体装置の製造方法によって得られるAlNバッファ層を有することを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−188294(P2012−188294A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50409(P2011−50409)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】