説明

運転支援装置

【課題】少ない操作で安定した走行状態を実現すること。
【解決手段】情報取得部11がナビゲーション装置2、道路情報収集装置31、カメラ32、速度センサ33、加速度センサ33および車両制御系50の出力から情報を収集し、理想モデル算出部12が自車両の走行の理想モデルを算出する支援処理部13は、車内通知系40を用いて運転者に対する助言を行なうと共に車両制御50を用いて自車両の走行状態が理想モデルに近づくように支援する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の運転を支援する運転支援装置に関し、特に少ない操作で安定した走行状態を実現する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行に関する情報を収集し、運転者に情報提供を行なうことで車両の運転を支援する装置が考案されてきた。たとえば、特許文献1が開示するナビゲーション装置では、現在位置から目的地までの予定経路を設定し、交差点などの近傍で進行方向を指示することで運転を支援していた。
【0003】
また、特許文献2,3および4は、信号機の表示状態を検知もしくは予測し、自車両の停止が必要であるか否かを判断して運転者に通知することで運転操作を支援する技術を開示している。
【0004】
さらに、特許文献5が開示するカーブ進入危険防止支援システムは、路面に設置した装置がカーブの形状を記憶するとともに路面状態を監視し、車両が進入した場合にはその車両の速度で安全に通過可能であるか否かを判定して通知することで車両事故を防止していた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−205316号公報
【特許文献2】特開2000−268294号公報
【特許文献3】特開2003−44985号公報
【特許文献4】特開2001−236600号公報
【特許文献5】特開2002−163791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の技術は主に事故の防止を目的としたものであった。しかしながら、事故が起こらない範囲内であっても、未熟な運転者による運転操作では運転操作の過不足が生じ、車両の挙動が不安定となるとともに運転操作が煩雑になる。
【0007】
たとえば、未熟な運転者がカーブを走行する場合、カーブ進入前に十分な減速を行えずカーブ進入後に減速する、過度の減速の後に加速する、ハンドル調整を繰り返す、などの運転操作が発生し得る。
【0008】
一方で、熟練した運転者ならば、必要十分な加減速やハンドル操作を行なって、比較的少ない運転操作で車両を効率的に操作する。
【0009】
そこで、未熟な運転者に対しては、運転操作に対する助言や車両挙動の補正を行うことで、熟練した運転者が運転した場合と同様の安定した車両挙動を、簡易な操作で実現することが望まれていた。
【0010】
すなわち、従来、運転者の運転操作自体を状況に適応して補助する運転支援装置が望まれていたにも関わらず、このような運転支援装置は実現されていなかった。
【0011】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解消し、課題を解決するためになされたものであり、特に少ない操作で安定した走行状態を実現する運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明に係る運転支援装置は、車両に搭載され、自車両の運転を支援する運転支援装置であって、自車両の状態および周辺の状況を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段が取得した車両状態および周辺状況とをもとに、自車両の理想的な走行モデルを算出するモデル算出手段と、前記自車両の走行状態が前記走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう挙動制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この請求項1の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0014】
また、請求項2の発明に係る運転支援装置は、請求項1の発明において、前記情報取得手段は、自車両の走行速度、車体にかかる加速度、自車位置、エンジンの制御状態、ブレーキの制御状態、舵角の制御状態、サスペンションの制御状態、変速機の制御状態のうち、少なくともいずれか一つを前記車両状態として取得することを特徴とする。
【0015】
この請求項2の発明によれば運転支援装置は、自車両の走行速度、車体にかかる加速度、自車位置、エンジンの制御状態、ブレーキの制御状態、舵角の制御状態、サスペンションの制御状態、変速機の制御状態などの自車両の状態と、自車両周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0016】
また、請求項3の発明に係る運転支援装置は、請求項1または2の発明において、前記情報取得手段は、道路形状、路幅、路面状況、傾斜状況、交通状況、天候のうち少なくともいずれか一つを前記周辺状況として取得することを特徴とする。
【0017】
この請求項3の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態と、道路形状、路幅、路面状況、傾斜状況、交通状況、天候などの情報から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0018】
また、請求項4の発明に係る運転支援装置は、請求項1,2または3の発明において、前記モデル算出手段は、傾斜地を走行する場合の走行モデルとして、当該傾斜による車速への影響を相殺した定速走行モデルを出力することを特徴とする。
【0019】
この請求項4の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両が傾斜地を走行する場合には傾斜の車速への影響を相殺する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0020】
また、請求項5の発明に係る運転支援装置は、請求項1〜4のいずれか一つ発明において、前記モデル算出手段は、自車両が停止する場合の走行モデルとして、一定の加速度で停止位置に停止する定加速度減速モデルを出力することを特徴とする。
【0021】
この請求項5の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両の停止が必要な場合には一定の加速度で停止位置に停止する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0022】
また、請求項6の発明に係る運転支援装置は、請求項1〜5のいずれか一つ発明において、前記モデル算出手段は、自車両がカーブを通過する場合の走行モデルとして車体にかかる横方向の加速度を低減する低加速度操舵モデルを出力することを特徴とする。
【0023】
この請求項6の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両がカーブを走行する場合には横方向の加速度を低減する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう。
【0024】
また、請求項7の発明に係る運転支援装置は、請求項1〜6のいずれか一つ発明において、前記挙動制御手段は、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合に前記挙動制御を解除することを特徴とする。
【0025】
この請求項7の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうとともに、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合に挙動制御を解除する。
【0026】
また、請求項8の発明に係る運転支援装置は、請求項7の発明において、前記挙動制御手段は、運転操作の継続時間、操作量、時間当たり操作量のうち少なくともいずれか一つを用いて当該運転操作が所定の範囲を逸脱したか否かを判定することを特徴とする。
【0027】
この請求項8の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうとともに、運転者による運転操作の継続時間、操作量、時間当たり操作量が所定の範囲を逸脱した場合に挙動制御を解除する。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、少ない運転操作で安定した走行状態を実現する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0029】
また、請求項2の発明によれば運転支援装置は、自車両の走行速度、車体にかかる加速度、自車位置、エンジンの制御状態、ブレーキの制御状態、舵角の制御状態、サスペンションの制御状態、変速機の制御状態などの自車両の状態と、自車両周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、自車両の状態を詳細に把握し、少ない操作で安定した走行状態を実現する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0030】
また、請求項3の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態と、道路形状、路幅、路面状況、傾斜状況、交通状況、天候などの情報から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、周辺状況を詳細に把握し、少ない操作で安定した走行状態を実現する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0031】
また、請求項4の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両が傾斜地を走行する場合には傾斜の車速への影響を相殺する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、傾斜地における定速走行を支援する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0032】
また、請求項5の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両の停止が必要な場合には一定の加速度で停止位置に停止する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、自車両の円滑な停止動作を支援する運転支援装置を得ることかできるという効果を奏する。
【0033】
また、請求項6の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況を取得し、自車両がカーブを走行する場合には横方向の加速度を低減する走行モデルを作成し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうので、カーブの円滑な走行を支援する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0034】
また、請求項7の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうとともに、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合に挙動制御を解除するので、運転者による操作を尊重しつつ運転を支援する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【0035】
また、請求項8の発明によれば運転支援装置は、自車両の状態および周辺の状況から自車両の理想的な走行モデルを算出し、自車両の走行状態が走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なうとともに、運転者による運転操作の継続時間、操作量、時間当たり操作量が所定の範囲を逸脱した場合に挙動制御を解除するので、運転者による操作を尊重しつつ運転を効率的に支援する運転支援装置を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る運転支援装置の好適な実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
図1は、本発明の実施の形態である運転支援装置1の概要構成を示す概要構成図である。同図に示すように運転支援装置1は、ナビゲーション装置2、道路情報収集装置31、カメラ32、速度センサ33、加速度センサ34、車内通知系40および車両制御系50に接続する。
【0038】
ナビゲーション装置2は、GPS(Global Positioning System)人工衛星と通信して特定した自車両の位置と地図データ21とを利用して走行経路の設定および誘導を行なう車載装置である。この経路の誘導は具体的には車内通知系40を用いて行なう。また、ナビゲーション装置2は、道路情報収集装置31が取得した道路情報を経路設定や経路誘導に利用する。また、ナビゲーション装置1は運転支援装置1に対して自車両の位置情報や道路形状、路幅、傾斜に関する情報を供給する。
【0039】
道路情報収集装置31は、VICS(Vehicle Information and Communication System)による道路交通情報の受信や路側に設置された路側通信装置との通信によって道路の形状、他車両の走行状況、渋滞の発生状況、工事や事故の有無、天候、路面状況などの情報を収集する。そして、道路情報収集装置31は、収集した情報をナビゲーション装置2および運転支援装置1に提供する。
【0040】
カメラ32は、自車両の周囲を撮影する撮影手段である。また、速度センサ33は自車両の走行速度を測定する測定手段であり、加速度センサ34は自車両にかかる加速度を測定する測定手段である。
【0041】
車内通知系40は、自車両の乗員に対して通知を行なう装置群であり、表示による通知を行なうディスプレイ41や音声による通知を行なうスピーカ42などを含む。この車内通知系40は、運転支援装置1、ナビゲーション装置2の他、車載オーディオ装置など各種車載装置で共用することができる。
【0042】
車両制御系50は、車両の動作制御を行なう装置群であり、アクセル操作に基づいてエンジンの動作を制御するエンジン制御機構51、ブレーキペダルの操作に基づいて車両の制動を行なうブレーキ制御機構52、ハンドル操作に基づいて車両の舵角を制御する舵角制御機構53、車両のサスペンションの状態を制御するサスペンション制御機構54、シフトレバー操作やエンジン回転数に応じてギアチェンジを行なう変速機制御機構55などを含む。
【0043】
運転支援装置1は、その内部に情報取得部11、理想モデル算出部12および支援処理部13を有する。情報取得部11は、ナビゲーション装置2、道路情報取得部31、カメラ32、速度センサ33、加速度センサ34および車両制御系50がそれぞれ出力する情報を取得し、理想モデル算出部12に供給する。
【0044】
理想モデル算出部12は、情報取得部11が取得した情報をもとに、自車両の理想的な走行モデルである理想モデルを算出する。そして、支援処理部13は、車内通知系40および車両制御系50を用いて、車両挙動を理想モデルに近づけるように支援する。具体的には、車内通知系40を用いた支援は、運転操作の実行タイミング(たとえば減速開始タイミングやハンドル操作開始タイミング)や、操作量の過不足を運転者に通知する処理である。車両制御系50を用いた支援では、運転操作による車両挙動を補正することで、車両挙動を理想モデルに近づける支援を行なう。
【0045】
具体的には、理想モデル算出部12は、情報取得部11によって自車両の停止を要求する要因、たとえば一旦停止の標識や停止表示の信号機、優先道路などが取得・検出された場合には、その停止位置に円滑に停止するため、一定の加速度で停止位置に停止する定加速度減速モデルを出力する。そして、支援処理部13の停止支援部13cは、エンジン制御機構51、ブレーキ制御機構52および変速機制御機構55の動作状態を補正して、自車両の挙動を定加速度減速モデルに近づける。
【0046】
また、理想モデル算出部12は、情報取得部11によって自車両の進路におけるカーブの存在を取得・検出した場合には、そのカーブを円滑に走行するため、車体にかかる横方向の加速度を低減した低加速度操舵モデルを出力する。そして、支援処理部13のカーブ走行支援部13bは、エンジン制御機構51、ブレーキ制御機構52、舵角制御機構53、サスペンション制御機構54および変速機制御機構55の動作状態を制御して自車両の挙動を低加速度操舵モデルに近づける。
【0047】
さらに、理想モデル算出部12は、情報取得部11によって車両の走行速度に影響を与える要因、例えば道路の傾斜などが取得・検出された場合には、その要因による速度変化を相殺した定速走行モデルを出力する。そして、支援処理部13の定速走行支援部13aは、エンジン制御機構51、ブレーキ制御機構52および変速制御機構55の動作状態を制御して自車両の挙動を定速走行モデルに近づける。
【0048】
なお、これらの支援はあくまで一例であり、他の支援を併せて実行してもよい。例えば、定速走行支援中に、舵角制御機構53を制御して直進を支援するなどが実行可能である。また、車両状態と周辺状況に合わせてサスペンション制御機構54を制御して、適切な減衰力に変更する支援を実行してもよい。
【0049】
ところで、理想モデルやそれに基づく支援処理は、通常走行における運転操作を支援し、より少ない運転操作で安定した走行状態を実現するものである。そのため、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合には挙動制御による支援を解除し、運転者による運転操作に従う。
【0050】
この運転操作に基づく挙動制御解除について、図2を参照してさらに説明する。同図では、運転者によるアクセル操作と、速度変化との関係を例として示している。まず、運転者が時刻T10においてアクセルの踏み増し(アクセルペダルの踏み込み量を増大する)操作を行なった場合、支援処理部13は、踏み増し操作の継続時間を操作データC10aとして、踏み増し操作量を操作データC10bとして、単位時間当たりの踏み増し操作量をC10cとして取得する。
【0051】
そして、操作データC10a〜C10cのいずれか、もしくは操作データC10a〜C10cの関数によって得られた値が所定の範囲内であるならば、アクセル操作による加速(速度v11破線部)を行なうことなく、速度v11(実線部)に示すように走行速度を一定に保持する。
【0052】
一方、操作データC10a〜C10cのいずれか、もしくは操作データC10a〜C10cの関数によって得られた値が所定の範囲内であるならば、速度v12(実線部)に示すようにアクセル操作による加速を実行する。
【0053】
すなわち、運転者による操作量が小さい場合には、その操作によって生じる車両挙動を抑制、もしくは平滑化し、車両の挙動を安定させる。そのため、運転者は微調整のために煩雑な操作を繰り返すことなく、少ない運転操作で安定した走行状態を実現できる。
【0054】
一方、運転者による操作量が大きい場合には、その操作を車両挙動に反映させることで、危険回避などの際の応答性を確保するとともに、運転者による運転操作を尊重した走行を実現することができる。
【0055】
つぎに、支援処理部13による挙動制御の具体例について、さらに説明する。図3は、登降坂路、すなわち傾斜を有する道路における挙動制御について説明する説明図である。同図に示す傾斜A11では、道路は地点L11まで平坦(傾斜0)であり、地点L11から下り坂(負の傾斜路)となっている。
【0056】
そのため、運転者による操作状態が一定のままである場合には、速度v21aに示すように地点L11通過後に徐々に走行速度が増大する。そこで、運転支援装置1は、負の傾斜を検知した場合には、エンジン制御機構51によるエンジン回転数低下、ブレーキ制御機構52による制動、変速機制御機構55によるギア調節を実行して地点L11までの速度を保持する(速度v21)。
【0057】
ここで、速度の抑制をギア調節によって実現する、いわゆるエンジンブレーキによって実現するか、ブレーキ制御機構52による制動を採用するかは、傾斜の変化量や傾斜路の継続距離、自車両の速度などに応じて決定する。具体的には、必要な制動量が大きい場合や制動を必要とする時間が短い場合にはブレーキ制御機構52による制動を採用し、必要な制動量が小さい場合や制動が必要な時間か長い場合には、エンジンブレーキによる制動を採用することが好適である。
【0058】
また、傾斜A12では、道路は地点L12まで平坦(傾斜0)であり、地点L12から上り坂(正の傾斜路)となっている。そのため、運転者による操作状態が一定のままである場合には、速度v22aに示すように地点L12通過後に徐々に走行速度が減少する。
そこで、運転支援装置1は、正の傾斜を検知した場合には、エンジン制御機構51によるエンジン回転数上昇、変速機制御機構55によるギア調節を実行して地点L11までの速度を保持する(速度v22)。
【0059】
なお、傾斜A11における減速支援や、傾斜A12における加速支援は、地点L11,L12においてそれぞれ自動的に開始してもよいし、地点L11の通過後、運転者が減速操作を行なった場合(地点L12通過後には運転者が加速操作を行なった場合)に開始することとしても良い。
【0060】
傾斜路における加減速支援を自動的に開始する構成では、運転者はより少ない運転操作で、定速走行を実現することができ、運転者による加減速操作を契機として加減速支援を開始する構成ではより運転者による運転操作を尊重した運転支援を実現することができる。
【0061】
つづいて、図4を参照し、支援処理部13による停止支援についてさらに説明する。情報取得部11が停止要因を検知した場合、理想モデル算出部12は、自車両の現在位置と速度、停止要因の位置から、一定の加速度で円滑に停止位置に停止する定加速度減速モデルを算出する。
【0062】
停止要因とは、一旦停止の標識や停止表示の信号機、優先道路などであり、ナビゲーション装置2や道路情報収集装置31からの出力のほか、カメラ32の撮影結果に対する画像処理によっても検知することができる。
【0063】
図4では、自車両の現在位置が地点L20であり、停止位置が地点L22である。そして理想モデル算出部12は、速度v30に示すように、地点L21において減速を開始し、地点L22において速度が0になる円滑な減速を理想モデルとして出力する。
【0064】
そして、停止支援部13cは、エンジン制御機構51によるエンジン回転数低下、ブレーキ制御機構52による制動、変速機制御機構55によるギア調節を実行して車両の挙動を理想モデルに近づける。
【0065】
ところで、既に述べたように支援処理部13による挙動制御は、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合に解除されるのであるが、この所定の範囲は、車両の走行速度や停止位置までに距離に依存して変化させることが好適である。
【0066】
具体的には、上限閾値Th10および下限速度Th11によって定まる範囲が、図4において支援処理部13が挙動制御を実行する範囲であり、この範囲を逸脱する場合には挙動制御を解除する。上限閾値Th10および下限速度Th11によって示されるように、自車両が停止位置である地点L22に近づくほど、また、車両の速度が低下するほど範囲は狭くなるように設定する。
【0067】
なお、挙動制御の解除可否は、図2において説明したように運転者による操作量に基づいて判定してもよいし、車両の速度によって判定してもよい。さらに、車体にかかる加速度によって判定することもできる。
【0068】
つづいて、図5を参照し、支援処理部13によるカーブ走行支援についてさらに説明する。同図では、地点L31がカーブ開始地点、地点L32がカーブ終了地点である。したがって、開始地点L31までは曲率「0」であり、開始地点L31から曲率が上昇して最大値Rmを取り、その後減少して終了地点L32で再度曲率「0」となる。
【0069】
このカーブを走行する場合、理想モデル算出部12は、カーブ開始地点L31までに現時点での走行速度vsから速度vcまで減速してカーブに進入し、カーブ開始地点L31からカーブ終了地点L32の間で曲率変化に対応して舵角を制御するとともに、カーブ終了地点L32までに充分な加速を行なう走行モデルを理想モデルとして算出する。この時、車体にかかる横方向の加速度および前後方向の加速度をなるべく低減するようにカーブの走行速度vcおよび舵角Smを設定する。
【0070】
そしてカーブ走行支援部13bは、エンジン制御機構51によるエンジン回転数調節、ブレーキ制御機構52による制動、舵角制御機構53による舵角調節、変速機制御機構55によるギア調節を実行して自車両の挙動を理想モデルに近づける。
【0071】
ここで、減速の支援については、運転者による減速操作を契機として支援を開始してもよいし、カーブ接近時に自動的に減速を開始してもよい。一方、操舵支援や加速支援については、運転者によるハンドル操作や加速操作を検知した時点で支援を開始する構成とすることが好適である。
【0072】
つぎに、運転支援装置1の処理動作について説明する。図6は、運転支援装置1の処理動作を説明するフローチャートであり、同図に示す処理フローは車両の走行開始時点(車両速度>0となった時点)で開始する。
【0073】
処理が開始されると、運転支援装置1は、まず、定速走行支援部13aによる定速走行支援を実行する(ステップS101)。また、情報取得部11は、ナビゲーション装置2、道路情報収集装置31、カメラ32、速度センサ33、加速度センサ33および車両制御系50の出力を収集し、自車両の進路上にカーブがあるか(カーブに接近中であるか)否かを判定する(ステップS102)。
【0074】
その結果、自車両がカーブに接近中でない場合(ステップS102,No)、運転支援装置1は、停止要因が存在するか否かを判定する(ステップS103)。そして、停止要因が存在しなければ(ステップS103,No)運転支援装置1は定速走行支援を継続し(ステップS101)、停止要因が存在する場合には(ステップS103,Yes)、停止支援部13cによる停止支援を実行し(ステップS104)、車両が停止した時点で処理を終了する。
【0075】
一方、自車両がカーブに接近中である場合(ステップS102,Yes)、運転支援装置1は、カーブ走行支援部13bによるカーブ走行支援に移行する(ステップS111)。
【0076】
そして、停止要因が存在するか否かを判定し(ステップS112)、停止要因が存在する場合には(ステップS112,Yes)、停止支援部13cによる停止支援を実行し(ステップS104)、車両が停止した時点で処理を終了する。
【0077】
一方、停止要因が存在しなければ(ステップS112,No)、情報取得部11が取得した情報からカーブが終了したか否かを判定する(ステップS113)。その結果、カーブが継続しているならば(ステップS113,No)、カーブ走行支援を継続し(ステップS111)、カーブが終了しているならば(ステップS113,Yes)、定速走行支援に移行する(ステップS101)。
【0078】
上述してきたように、本実施例にかかる運転支援装置1は、ナビゲーション装置2、道路情報収集装置31、カメラ32、速度センサ33、加速度センサ33および車両制御系50の出力を収集して自車両の走行の理想モデルを算出し、自車両の走行状態が理想モデルに近づくように支援する。そのため、運転操作を状況に適応して補助し、熟練した運転者が運転した場合と同様の安定した(車体にかかる加速度の少ない)車両挙動を、簡易な操作で実現することができる。
【0079】
なお、本実施例で説明した車両の挙動制御は、あくまで一例であり、実際の制御にあってはさらに各種情報、例えば、凍結などの路面状態や舗装状態、道路の幅や制限速度、天候情報や時刻情報、渋滞情報、工事情報などを参照して制御内容を定めることができるものである。さらに、運転者ごとの運転傾向などを記憶し、運転者に合わせて制御内容を変更する構成としてもよい。
【0080】
また、サービスのシナリオとしては以下の通りとなる。
(1)状態通知としては、進入する登降坂路の静的情報を乗員に通知する。
静的情報とは、進入する登降坂路までの距離や坂路の傾斜情報である。ナビ画面に表示する際は、通常のナビ(地図等)の画面に割り込ませ、この情報を例えば、右半分の画面に分割表示する。表示形態は、坂路の傾斜状態や長さなどを絵で表すようにする。音声で通知する場合、「この先、急な下り坂です」等を実施する。
【0081】
(2)アドバイス通知としては、登降坂路を快適に走行する為の必要な操作を乗員に指示する。また登降坂路の動的情報を進入前に乗員に通知する。
ナビ画面に表示する際は、通常のナビ(地図等)の画面に割り込ませて例えば「更に加速が必要である」、「今は安定している」等、矢印やメッセージを含めたアドバイス表示を行なう。
【0082】
このようにすることで、乗員は通常の地図画面も参照しつつ、アドバイス画面を見ることができるので、乗員は適切な坂道の通過ができる。動的情報とは、「坂道の路面状態」等である。音声で通知する場合、「2速にシフトダウンしてください」等を実行する。
【0083】
(3)サポート処置としては、登降坂路を快適に走行する為の必要な操作を実質的に援助する。
例えば、登坂路走行時に、乗員のアクセル操作をトリガとして、一定速度で登降坂路を走行できるように車両走行を制御する。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明にかかる運転支援装置は、車両の運転の支援に有用であり、特に少ない操作で安定した走行状態を実現する運転支援に適している。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施例にかかる運転支援装置の概要構成を示す概要構成図である。
【図2】運転操作に基づく挙動制御解除について説明する説明図である。
【図3】登降坂路における挙動制御について説明する説明図である。
【図4】停止支援について具体的に説明する説明図である。
【図5】カーブ走行支援について具体的に説明する説明図である。
【図6】図1に示した運転支援装置の処理動作を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0086】
1 運転支援装置
2 ナビゲーション装置
11 情報取得部
12 理想モデル算出部
13 支援処理部
13a 定速走行支援部
13b カーブ走行支援部
13c 停止支援部
21 地図データ
31 道路情報収集装置
32 カメラ
33 速度センサ
34 加速度センサ
40 車内通知系
41 ディスプレイ
42 スピーカ
50 車両制御系
51 エンジン制御機構
52 ブレーキ制御機構
53 舵角制御機構
54 サスペンション制御機構
55 変速機制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、自車両の運転を支援する運転支援装置であって、
自車両の状態および周辺の状況を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段が取得した車両状態および周辺状況とをもとに、自車両の理想的な走行モデルを算出するモデル算出手段と、
前記自車両の走行状態が前記走行モデルに近づくように自車両の挙動制御を行なう挙動制御手段と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記情報取得手段は、自車両の走行速度、車体にかかる加速度、自車位置、エンジンの制御状態、ブレーキの制御状態、舵角の制御状態、サスペンションの制御状態、変速機の制御状態のうち、少なくともいずれか一つを前記車両状態として取得することを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記情報取得手段は、道路形状、路幅、路面状況、傾斜状況、交通状況、天候のうち少なくともいずれか一つを前記周辺状況として取得することを特徴とする請求項1または2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記モデル算出手段は、傾斜地を走行する場合の走行モデルとして、当該傾斜による車速への影響を相殺した定速走行モデルを出力することを特徴とする請求項1,2または3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記モデル算出手段は、自車両が停止する場合の走行モデルとして、一定の加速度で停止位置に停止する定加速度減速モデルを出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記モデル算出手段は、自車両がカーブを通過する場合の走行モデルとして車体にかかる横方向の加速度を低減する低加速度操舵モデルを出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記挙動制御手段は、運転者による運転操作が所定の範囲を逸脱した場合に前記挙動制御を解除することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記挙動制御手段は、運転操作の継続時間、操作量、時間当たり操作量のうち少なくともいずれか一つを用いて当該運転操作が所定の範囲を逸脱したか否かを判定することを特徴とする請求項7に記載の運転支援装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−111183(P2006−111183A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302273(P2004−302273)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】